説明

配線部材及び配線部材の製造方法

【課題】 小型で、かつ、伸縮性の高い配線部材及びこの配線部材の製造方法を提供する。
【解決手段】 配線部材は、柱状の基体10と、該基体の表面に形成された配線部及び該配線部に接続する電極部からなる配線層20とを有する。配線部材の製造方法は、柱状の基体を、中空状のマスク内に挿入設置し、マスクに設けられた開口を介して基体の表面に配線層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配線部材及び配線部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、折り畳み式の携帯電話のヒンジ部には、フレキシブル配線基板が用いられている。このようなフレキシブル配線基板としては、例えば、フレキシブルフィルムによるベース部に、ベース部を貫通して菱形形状の孔部を長手方向に2個並べて形成し、その孔部の周囲を囲むベース部自体で、引張力により伸張方向に湾曲して変形可能な変形可能部を形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-259929号公報(例えば、図1、図9、段落0013参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなフレキシブル配線基板を、操作キーが設けられた第一筐体と画面が設けられた第二筐体とのヒンジ部に設けた場合、第一筐体と第二筐体とを折り畳んだ状態において、フレキシブルプリント基板が伸張状態となる。そして、第一筐体と第二筐体とをヒンジ部により回転させて開くと、フレキシブルプリント基板が縮んだ状態となる。
【0005】
従って、フレキシブル配線基板では、伸縮性が高いこと、また、近年の携帯電話の小型化に伴って小さいことが求められているが、現在十分に達成できているとはいえない。
【0006】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、小型で、かつ、伸縮性の高い配線部材及びこの配線部材の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の配線部材は、柱状の基体と、該基体の表面に形成された配線部及び該配線部に接続する電極部からなる配線層とを有することを特徴とする。本発明では、柱状の基体に対して配線層が形成されていることで、フレキシブル配線基板に比べて小型で、かつ、伸縮性の高い配線部材とすることができる。
【0008】
前記基体の断面において、断面の中心を通り、かつ、該断面の縁部での該断面の中心から最も遠い二つの点を通る直線の長さが、1mm以下であることが好ましい。この範囲であれば、伸縮性が高く、かつ、小型化を実現しやすいからである。
【0009】
前記基体が円柱状であることが好ましい。このように構成されていることで、配線層を形成しやすいからである。
【0010】
前記配線層が複数設けられていることが挙げられる。表面に複数の配線層を形成できれば、より高密度な配線部材として利用することが可能である。
【0011】
前記複数設けられた配線層が、それぞれ同一の形状であることが好ましい。このように構成されていることで、配線層を形成しやすいからである。
【0012】
前記基材がポリイミドであることが好ましい。伸縮性に富んでいると共に、高周波電圧を印加した場合に高い安定性を有するからである。
【0013】
本発明の配線部材の製造方法は、柱状の基体を、中空状のマスク内に挿入設置し、該マスクに設けられた開口を介して前記基体の表面に配線層を形成することを特徴とする。このように構成することで、柱状の基体の表面に配線層を形成することができる。
【0014】
前記基体に配線層を形成した後に、前記基体とマスクとを相対的に回転させ、前記基体の表面の前記配線層が未だ形成されていない領域を前記マスクの開口から露出させ、該領域に前記開口を介して配線層を形成することが好ましい。このように構成することで、柱状の基体の表面に複数の同一形状の配線層を簡易に形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態にかかる配線部材の構成を示す(1)概略斜視図(2)A−A線における断面図である。
【図2】図1のB−B線における展開図である。
【図3】蒸着装置の構成を示す概略正面図である。
【図4】成膜対象の構成を示す概略斜視図である。
【図5】成膜方法を説明するための説明図である。
【図6】蒸着装置の構成を示す概略上面図である。
【図7】蒸着手段について説明するための図であり、(1)が拡大概略図、(2)が装置使用中の蒸着原料の上面図及び断面図である。
【図8】イオンソースの構成を示す概略断面図及び概略平面図である。
【図9】別の実施形態にかかる配線部材の構成を説明するための展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の配線部材及び配線部材の製造方法について、図1〜9を用いて説明する。
【0017】
配線部材1は、基材10と、基材10の表面11に設けられた配線層20とからなる。基材10は、断面視において円柱状であり(図1(2)参照)、その直径が1mm以下のものである。この基材10の表面11には、配線層20が設けられている。なお、基材10の直径は小さいほど伸縮性及び小型化の観点から好ましいが、例えば0.1mm以下であると扱い難く、さらに配線層20を形成しにくい。
【0018】
本実施形態では、図2に示すように、配線層20は、二つの第1配線層21と、二つの第2配線層22とを有する。即ち、本実施形態では、一つの基材10に対して配線層20が4つ設けられている。第1配線層21は、第1配線部21aと、第1配線部21aの両端部に設けられた第1電極部21bとからなる。第2配線層22は、第2配線部22aと、第2配線部22aの両端部に設けられた第2電極部22bとからなる。第1配線部21a及び第2配線部22a(以下、まとめて配線部ともいう)に対して、第1電極部21b及び第2電極部22b(以下、まとめて電極部ともいう)は垂直となるように設けられている。電極部は、それぞれ例えば携帯電話のヒンジ部にこの配線部材が設置された場合に各部材とのコンタクト部となる。各配線層20は、所定の距離離間して基材10の表面11上に設けられている。
【0019】
この第1配線層21と第2配線層22とは、同一の形状である。即ち、これらの各電極部及び配線部は、それぞれ同一の大きさとなっている。例えば、配線部は、それぞれ幅が10〜80μm、基体の長手方向の長さが50〜100μmであり、電極部は、それぞれ基体の長手方向における長さが50〜500μmであり、配線部の幅方向における長さが20〜200μmである。本実施形態では配線部の長手方向の長さは電極部の幅方向の長さよりも長く形成しているが、例えば、配線部の幅が50μm程度、長手方向の長さが50μmであり、電極部は、それぞれ基体の長手方向における長さが100μmであり、基体の幅方向における長さが100μmとなるように形成してもよい。
【0020】
そして、これらの第1配線層21と第2配線層22とは、周方向に交互に形成されている。即ち、基材10において二つの第1配線層21同士は互いに対向し、また、二つの第2配線層22同士も互いに対向するように構成されている。そして、第1配線層21の第1電極部21bと第2配線層22の第2電極部22bとは互いに周方向において端部が重なるように、第1配線層21と第2配線層とは基材10の長手方向においてずらした状態で形成されている。即ち、二つの第1配線層21は基材10の長手方向において同一位置に設けられており、二つの第2配線層22は基材10の長手方向において第1配線層21よりも図1中下側にずらした同一位置に設けられている。
【0021】
基材10は、ヒンジ部に用いることができるように伸縮可能なもの、例えば樹脂からなる。このような樹脂としては、通常フレキシブル配線基板に用いられるもの、例えばポリイミドやポリプロピレンが挙げられる。これらの樹脂に配線膜を形成する場合には変形を防止するために成膜時に高温にならないようにする必要があるが、本実施形態では後述するイオンビームアシスト蒸着装置により成膜を行うため、60℃未満で成膜を行うことができる。
【0022】
配線層20は、配線として通常用いられる金属、合金等からなる。好ましくは、導電率が高い銅や、アルミニウム、ニッケルを用いることができ、本実施形態では後述するようにイオンビームアシスト蒸着法で形成するものであるので、イオンビームアシスト蒸着法として用いやすいもの、例えば、銅が挙げられる。
【0023】
このように、本実施形態では、伸縮しやすい樹脂からなる細い柱状の基材10を用いている。このような細い柱状の基材10は板状のプリント配線基板等よりも伸縮しやすく、さらに、携帯電話の小型化に対応しやすい。この場合に、第1配線層21と第2配線層22とは基材10の長手方向において電極部が円周方向において重なるように設けることで、高密度に配線層を形成することができる。
【0024】
配線部材1の製造方法について、以下説明する。配線部材の製造方法に用いられる成膜装置としては、図3に示すイオンビームアシスト蒸着装置100が挙げられる。
【0025】
蒸着装置100は、真空チャンバ110を有する。真空チャンバ110の排気口111には真空排気装置112が設けられている。真空排気装置112により真空チャンバ110内を真空排気して真空チャンバ110内部を真空状態にすることが可能である。このような真空排気装置112としては、ターボ分子ポンプやクライオポンプ等の公知の真空ポンプがあげられ、本実施形態では、ターボ分子ポンプ及びクライオポンプを併用して用いている。
【0026】
真空チャンバ110内には、成膜対象Sが支持部材114により真空チャンバ110の天井面に支持されている。成膜対象Sについて、図4を用いて説明する。成膜対象Sは、成膜対象である基材10(図1参照)が基材10の長さ方向に複数接続されてなる成膜基材10Aを有する。言い換えれば、図1に示す基材10は、成膜基材10Aを長さ方向に複数切断することで得られるものである。本実施形態では、各基材に成膜を行うのではなく、これらの基材を複数直接に接続してなる成膜基材10Aに対して一度に成膜を行うことで、タクトタイムを向上させている。
【0027】
このような成膜対象Sでは、円筒状のマスク200の内側に成膜基材10Aを挿入設置している。マスク200の中空部分は、本実施形態では、成膜基材10Aよりも若干大きくなるように構成されており、成膜基材10Aを容易にマスク200に挿入設置することができると共に後述するように成膜基材10Aを回転等させることが可能である。即ち、成膜基材10Aはマスク200と同軸となるように支持部材114によって支持されていると共に、マスク200内で回転及び移動自在となるように支持部材114によって支持される。そして、円筒状のマスク200に設けられた貫通開口201を介して成膜を行うことで、成膜基材10Aの所定の位置に配線層20を形成することができる。
【0028】
貫通開口201は、配線部を形成するための第1開口部202と、電極部を形成するための第2開口部203とからなる。このような貫通開口201は、マスク200の長さ方向に複数形成されている。即ち、複数の基材10(図1参照)に対して成膜することができるように、複数直列に形成されている。
【0029】
そして、本実施形態では、一つの基材に4つの配線層20を設けているので、このような4つの配線層20を設けるために以下のように成膜基材10Aを回転させる。なお、本実施形態では成膜基材10Aを成膜対象Sを支持する支持部材114によって支持すると共に成膜基材10Aを回転させると共にマスク200における長さ方向での移動をすることができるように、支持部材114を構成している。
【0030】
初めに、図5(1)に示すように、成膜基材10Aに対して貫通開口201を介して成膜を行う。これにより、図2に示す第1配線部のうちの一つを成膜することができる。
【0031】
次いで、図5(2)に示すように、成膜基材10Aを一方向に90°回転させると共に、成膜基材を一端側に押し出す。そして、この状態で成膜基材10Aに対して貫通開口201を介して成膜を行う。これにより、図2に示す第2配線部のうちの一つを成膜することができる。即ち、図5(2)においては、成膜基材10Aを回転させると共に長さ方向にずらすことで成膜位置を変更し、これにより第2配線部を成膜している。
【0032】
次いで、図5(3)に示すように、成膜基材10Aを一方向に90°回転させると共に、成膜基材を一端側に引き戻す。これにより、図2に示す第1配線部のうちのもう一つを成膜することができる。
【0033】
最後に、図5(4)に示すように、成膜基材10Aを一方向に90°回転させると共に、成膜基材を一端側に押し出す。そして、この状態で成膜基材10Aに対して貫通開口201を介して成膜を行う。これにより、図2に示す第2配線部のもう一つを成膜することができる。
【0034】
このように、一つのマスク200に一つの成膜基材10Aを挿入し、この成膜基材10Aを回転等させることにより成膜位置を変更することで、本実施形態の基材10(図1参照)に配線層20を4つずつ形成することができる。なお、本実施形態では、第1配線層と第2配線層とを交互に形成したがこれに限定されない。第1配線層を二つ形成した後に第2配線層を二つ形成してもよい。
【0035】
このように一方向に長い成膜対象に対して成膜するために、本実施形態では、一方向に長い蒸着手段が設けられている。図3に戻り、真空チャンバ110の底面には、成膜対象Sのマスクの貫通開口に対向する位置に、蒸着手段121が設けられている。この蒸着手段121により、円柱状の成膜基材に成膜を行う。この蒸着手段121は、図6に示すように、成膜対象Sの長さ方向に沿うように、ライン状となって複数並設されている。
【0036】
各蒸着手段121は、図7(1)に示すように、各蒸着原料122aが収納された坩堝122と、坩堝122の蒸着原料122aを溶融するための電子ビーム装置123と、磁場発生手段124とを有する。各坩堝122は、等間隔で離間している。蒸着原料122aは、本実施形態では、上面視において円形状のペレットである。かかる蒸着原料122aとしては、銅が配線材料として好ましい。
【0037】
電子ビーム装置123は、坩堝122の近傍に設けられている。電子ビーム装置123は、放出する電子ビームが各蒸着原料122aに照射できるように設置されている。電子ビームが蒸着原料122aに照射されることで、蒸着原料122aが溶融して、蒸着粒子が成膜対象Sの処理面に付着し堆積する。
【0038】
本実施形態においては、この電子ビーム装置123からの電子ビームは、蒸着原料122aの照射時のビーム形状(照射するビームの断面形状)が、蒸着手段121の並設方向とは直交する方向においてのみ焦点があうように(フォーカスされるように)、磁場発生手段124が坩堝122の電子ビーム装置123とは逆側に設置されている。即ち、蒸着手段121では、磁場発生手段124により、蒸着原料122aに照射された電子ビームが並設方向に平行な線状(アスペクト比が3の楕円形状)となるように構成されている。
【0039】
磁場発生手段124は、磁石を芯としてその外周にコイルを設けたものであり、該磁場発生手段124への電流を制御することで、発生する磁場の強度を調整して電子ビームのフォーカスを調整する。本実施形態では、蒸着手段121は、磁場発生手段としてはこの磁場発生手段124のみを有しており、坩堝122と電子ビーム装置123とに対して直交する位置に、別の磁場発生手段124aを有していない。従来の蒸着手段では別の磁場発生手段124aをさらに有することで、蒸着手段121の並設方向にも焦点があうように(フォーカスされるように)構成されているが、本実施形態では、蒸着手段121が、この別の磁場発生手段124aを有さず磁場発生手段124のみを有していることで、電子ビームは蒸着手段121の並設方向に対して直交する方向のみにフォーカスされるので、蒸着原料122aの照射時のビーム形状は、非円形形状となる。
【0040】
また、本実施形態では、この電子ビーム装置123は、電子ビームを蒸着手段121の並設方向(ライン状に設けられた蒸着原料の長手方向)に掃引することができるように構成されている。ビーム形状が並設方向に沿った線状である電子ビームを蒸着手段121の並設方向に掃引できることで、蒸着原料122aを溶融し放出された蒸着粒子を、成膜対象Sの蒸着原料122aに対向する領域だけでなく、蒸着原料122aに対向しない領域にも付着させることができる。
【0041】
このような線状の電子ビームを蒸着手段121の並設方向に掃引することで、蒸着原料122aは、図7(2)に示すように、上面視において蒸着手段121の並設方向に沿った中心線部から徐々に溶融されていく。そして、溶融されることで、蒸着原料122aは、断面視において凹部がV字状となるように形状を変化させる。
【0042】
このように各蒸着原料122aは、蒸着手段121の並設方向に沿った中心線部から溶融され、かつ、電子ビームが掃引されることで、成膜対象Sの幅方向全域に亘って線状に各蒸着原料122aからの蒸着粒子が付着する。即ち、本実施形態では、蒸着原料122aに照射された時の電子ビームのビーム形状が線状であることで、成膜対象Sの幅方向に亘って蒸着粒子が付着するので、得られた膜の膜厚、膜質が均一となるように成膜を行うことが可能である。ちなみに、電子ビーム装置がその並設方向に直交する方向に対して焦点があうと共に並設方向においても焦点があっているとすれば、本実施形態のように並設方向に沿って蒸着原料122aが溶解されないので、成膜対象Sの幅方向に亘って均一に成膜することはできない。
【0043】
また、このように蒸着原料122aに対向しない領域においても蒸着粒子を付着させることができるので、蒸着原料122aをライン状に隙間なく並べる必要もなく、その結果、蒸着原料122aを隙間なく並べた場合よりも製造コストを抑制することができる。そして、このように蒸着原料122aを離間して設けることができ、電子ビーム装置123もこの蒸着原料122aの数に合わせて設置すればよいので、蒸着原料122aを隙間なく並べた場合よりも電力消費量を抑制することが可能である。
【0044】
図3及び図6に戻り、真空チャンバ110内には、第1イオンソース131が、成膜対象Sの進行方向の上流側(逆側)に、蒸着手段121の並設方向に沿って複数並設されている。即ち、第1イオンソース131が並設されてなる列は、蒸着手段121が並設されてなる列に対して平行である。
【0045】
真空チャンバ110には、さらに複数の電圧印加手段132が設けられている。電圧印加手段132は、例えばDC電源であり、正電圧側が各第1イオンソース131に接続されると共に、負電圧側が支持部材114に接続されている。
【0046】
蒸着手段121の成膜アシスト手段である第1イオンソース131は、詳しくは後述するように、図示しないガス供給ラインからガスが供給されると、その内部でイオンを生成し、この生成したイオンからなるイオンビームを成膜対象Sに向けて放出する。そして、放出されたイオンビームは、電圧印加手段132により第1イオンソース131と成膜対象Sとの間に形成された電界により、成膜対象Sに到達し、貫通開口を介して成膜基材表面に堆積した蒸着粒子と反応し、又は蒸着粒子に付着して、所望の膜が形成される。
【0047】
ここで、第1イオンソース131について図8を用いて詳細に説明する。
【0048】
第1イオンソース131は、筐体141と、筐体141に収納されたアノード電極として機能するアノード部142とを備える。アノード部142は、その中央部にすり鉢状の凹部143を有している。この凹部143により形成される空間が、イオン形成空間144となる。アノード部142の凹部143の表面は、TiN膜に覆われている。これにより、プラズマが形成時に凹部143の表面が荒れることがなく、かつ、プラズマを安定して形成することができる。
【0049】
この凹部143に対向する位置に、カソードとしても機能する第1フィラメント145が設けられている。この第1フィラメント145には、図示しない電圧印加手段が設けられていて、第1フィラメント145に電圧を印加することが可能である。
【0050】
凹部143は、その底部に突起部146が設けられている。突起部146は、イオン形成空間144側に突出しており、断面視において円弧状となっている。このような突起部146が設けられていることで、カソードから放出された電子を効率よくイオン形成空間144に閉じ込めることが可能である。
【0051】
筐体141には、第1貫通孔151が設けられている。第1貫通孔151は、筐体141の壁面を貫通している。また、筐体141とアノード部142との間には、間隙152が設けられている。間隙152に第1貫通孔151が臨んでいる。また、アノード部142には、アノード部142を貫通する第2貫通孔153が設けられている。第2貫通孔153は、一端側で間隙152に臨み、他端側で、イオン形成空間144に臨む。即ち、第2貫通孔153を介して、間隙152とイオン形成空間144とが連通している。なお、図4(b)に示すように、第2貫通孔153は、複数設けられている。
【0052】
この第1貫通孔151、間隙152及び第2貫通孔153により、イオン形成空間144にガスを導入するためのガス導入路が構成されている。即ち、図示しないガス供給ラインが第1貫通孔151に連通し、ガス導入路により、イオン形成空間144にガスが導入される。配線層を成膜するためのガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの希ガスが挙げられ、本実施形態では、アルゴンガスを用いることができる。
【0053】
また、アノード部142の凹部143とは逆側には、磁石147が設けられている。この磁石147により、カソードである第1フィラメント145と、アノード部142との間に形成される電場に対して直交する磁場が形成され、ガス導入時にイオン形成空間144にプラズマが形成される。
【0054】
なお、この場合に非常に第1イオンソース131が高温になるのを抑制すべく、アノード部142の突起部146の後方(イオン形成空間144とは逆側)には、冷却手段148が設けられている。冷却手段148は、本実施形態では、水冷手段であり、冷却手段148の内部を冷却液が通過することで、アノード部142を冷却できるように構成されている。
【0055】
また、この第1イオンソース131では、電圧印加手段132(図3参照)からアノード部142に電圧が印加されるように構成されており、この電圧印加手段132により印加される電圧は、200V以下である。本実施形態では、エンドホール型のイオンソースであり、かつ、直流放電可能であるので、低電圧を印加しても大電流を流すことができ、安定してイオン化することが可能である。
【0056】
図3及び図6に示すように、この各第1イオンソース131の蒸着手段121側には、第1イオンソース131から離間して各第1イオンソース131に対向する位置にそれぞれ第2フィラメント106が設けられている。即ち、第2フィラメント106は、蒸着手段121の並設方向に沿ってライン状に複数並設されている。この第2フィラメント106にはフィラメント電圧印加手段161が設けられている(図6中図示せず)。本実施形態では、フィラメント電圧印加手段161から、所定電圧、即ち―5kVの直流電圧が第2フィラメント106に印加されている。このような所定電圧としては、例えば―4〜―10kVの範囲にあれば良い。
【0057】
このように第2フィラメント106に所定電圧が印加されることにより、第1イオンソース131がこの第2フィラメント106から発生する電子を受け取って形成されるプラズマが大きくなり、その結果、安定したイオンビームを形成することが可能である。
【0058】
また、蒸着手段121の第1イオンソース131とは逆側、即ち成膜対象Sの進行方向の上流側には、さらに第2イオンソース163が、蒸着手段121の並設方向に沿って複数並設されている。第2イオンソース163は、成膜対象Sに成膜された膜の表面のアニールを行うことができるように、アルゴンのイオン電流を放出して、成膜された膜のアニールを行うように構成されている。このような第2イオンソース163としては、上述した第1イオンソース131と同様の構成からなるものを用いてもよく、また、アニールを行うためのアルゴン等のイオン電流を放出することができれば異なる構成のものを用いてもよい。
【0059】
かかるイオンビームアシスト蒸着装置100による成膜方法について説明する。
【0060】
初めに、真空チャンバ110内を真空排気装置112により真空排気して、約10-5Torr(1.33×10-4Pa)程度の真空状態とする。
【0061】
所定の真空状態となった後、電子ビーム装置123から出射される線状の電子ビームを蒸着原料122aに照射しながら溶融し蒸着原料122aを線状に溶融する。これにより蒸着原料122aが蒸発し、成膜対象Sのマスクの貫通開口を介して成膜基材の表面に均一に堆積される。膜の堆積速度は、ほぼ一定の蒸着速度になるように電子ビーム装置123の出力を制御することができる。その堆積速度は、好ましくは0.5〜10nm/sである。この範囲より堆積速度が早いと、膜の密度が荒くなり膜質が低下してしまい、また、この範囲より堆積速度が遅いと成膜時間がかかり過ぎて実用的ではないため、この範囲が好ましい。より好ましい膜質の膜を得ると同時に実用的な好ましい堆積速度としては、1〜5nm/sである。
【0062】
このように蒸着原料122aを蒸発させて蒸着させると同時に、第1イオンソース131からイオンビームを成膜対象Sに照射する。本実施形態では第1イオンソース131で、ガスをガス導入路からイオン形成空間144内に導入しながら、第1フィラメント145に電圧を印加して熱電子を放出させる。放出された熱電子は、磁石147により形成された磁場によりスパイラル運動しながら、カソードとして機能する第1フィラメント145とアノード部142との間に形成された電場により、アノード部142側へ加速され移動する。そして、導入されたガスがイオン形成空間144でプラズマ化、即ちイオン化される。これにより形成されたイオンビームが、アースである基板に向けて照射される。即ち、第1イオンソース131に導入したアルゴンガスのプラズマから、正に帯電したイオンが引き出され、電圧印加手段132の加速電圧により加速されて成膜対象Sに向けて放出する。
【0063】
そして、成膜基材の表面に均一に堆積された膜にイオンが接触することで、所望の配線層を形成する。
【0064】
次いで、図5(2)〜(3)に示すように、順次マスク200と成膜基材10Aとの位置を相対的に変更させることにより、成膜基材10Aに対して4回成膜を行い、図1に示すような配線層20が4つ設けられた基材10からなる配線部材1を形成する。
【0065】
このように、本実施形態では、順次マスク200と成膜基材10Aとの位置を相対的に変更させることにより、簡易に複数の配線膜を精度よく成膜することができる。
【0066】
また、本実施形態ではイオンビームアシスト蒸着装置100により成膜することで、成膜温度が低いため、樹脂からなる成膜基材10Aを損なうことを抑制できる。さらに、イオンビームアシスト蒸着装置100により成膜すると、高密度に膜を形成することができるので、基材10の表面に対して密着性よく配線層を形成することができる。
【0067】
この場合に、本実施形態のイオンビームアシスト蒸着装置100では、ライン状となるように複数の蒸着手段121を配すると共に、複数の第1イオンソース131を配することで、一方向に長い成膜対象Sに対して成膜することが可能である。この場合に蒸着手段121が有する電子ビーム装置123からの電子ビームのビーム形状が非円形であることから、成膜対象Sの長さ方向に亘って均一に蒸着粒子が付着して均一な膜厚、均一な膜質で成膜することが可能である。
【0068】
本実施形態では、図2に示すように配線層20は4つ設けたが、これに限定されない。基材10の大きさとの関係で4以上設けてもいいし、1〜3個設けても良い。また、配線層20は、本実施形態では、長さ方向において同一位置となる二組の配線層を設けたが、これに限定されない。例えば、図9に示すように周方向においてそれぞれ所定の距離離間して設けられていると共に長さ方向に各配線層を図9中下方にずらすようにして形成してもよい。即ち、図9では、配線層23は、基材の表面11において周方向に電極部が互いに重複するように設けると共に、長さ方向においてずらして設けることで、図1に示す実施形態と同様に伸縮性を保持しながら高密度に配線層を形成している。
【0069】
また、本実施形態では図5に示すように一つのマスク200に対して成膜基材10Aを回転等させることで4つの配線層20を形成したが、これに限定されない。複数のマスクを用意して、成膜する配線層毎に異なるマスクを設けてもよい。このように構成することで、異なる形状の配線層であっても形成することが可能である。
【0070】
また、本実施形態では基材10としては円柱状のものを示したがこれに限定されない。例えば、基材10として角柱状や楕円状のものを用いてもよい。この場合には、配線層の成膜時において円筒状のマスクに成膜基材を挿入設置して成膜基材のみを回転させることができないので、必要に応じてマスクを設けて成膜を行う。また、マスクの形状も基材10の断面形状に応じて設定すればよい。なお、このように円柱状ではない形状の基材10を用いる場合であっても、基材10の断面において、断面の中心を通り、かつ、断面のこの中心から最も遠い二つの点を通る直線の長さが、1mm以下であることが好ましい。即ち、基材の断面形状が矩形状であれば、対角線の長さが1mm以下であり、また、断面形状が楕円状であれば、長辺の長さが1mm以下である。この範囲であれば、伸縮性が高く、かつ、小型化を実現しやすいからである。
【0071】
また、基材10としては円柱状のものを示したが、円筒状のものを用いてもよい。この場合には、円柱状のものよりもさらに伸縮性を向上させることができる。さらに、円筒状の内部の中空部分に電極膜を形成することで、アースを形成することができ、好ましい。
【0072】
本実施形態では成膜装置としてイオンビームアシスト蒸着装置100により成膜したが、これに限定されない。基材を損なうことなく精度よく成膜することができればよい。
【0073】
本実施形態では電子ビームのビーム形状が線状となるように構成しているが、これに限定されない。ビーム形状は、非円形形状(アスペクト比が2〜10)であって、蒸着手段121の並設方向とビーム形状の長手方向とが一致すればよい。このように構成することで、成膜対象Sの幅方向(成膜対象Sの走行方向とは直交する方向)に亘って成膜することができる。なお、本実施形態のように楕円形状ではなく線状となるように構成することで、膜厚及び膜質をより均一とすることが可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 配線部材
10 基材
10A 成膜基材
11 表面
14 支持部材
20 配線層
21 第1配線層
21a 第1配線部
21b 第1電極部
22 第2配線層
22a 第2配線部
22b 第2電極部
23 配線層
100 イオンビームアシスト蒸着装置
106 フィラメント
110 真空チャンバ
111 排気口
112 真空排気装置
114 支持部材
121 蒸着手段
122a 蒸着原料
122 坩堝
123 電子ビーム装置
124 磁場発生手段
131 第1イオンソース
132 電圧印加手段
141 筐体
142 アノード部
143 凹部
144 イオン形成空間
145 フィラメント
146 突起部
147 磁石
148 冷却手段
151 貫通孔
152 間隙
153 貫通孔
161 フィラメント電圧印加手段
163 第2イオンソース
200 マスク
201 貫通開口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の基体と、該基体の表面に形成された配線部及び該配線部に接続する電極部からなる配線層とを有することを特徴とする配線部材。
【請求項2】
前記基体の断面において、断面の中心を通り、かつ、該断面の縁部での該断面の中心から最も遠い二つの点を通る直線の長さが、1mm以下であることを特徴とする配線部材。
【請求項3】
前記基体が円柱状であることを特徴とする請求項1記載の配線部材。
【請求項4】
前記配線層が複数設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の配線部材。
【請求項5】
前記複数設けられた配線層が、それぞれ同一の形状であることを特徴とする請求項4記載の配線部材。
【請求項6】
前記基材がポリイミドであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の配線部材。
【請求項7】
柱状の基体を、中空状のマスク内に挿入設置し、
該マスクに設けられた開口を介して前記基体の表面に配線層を形成することを特徴とする配線部材の製造方法。
【請求項8】
前記基体に配線層を形成した後に、
前記基体とマスクとを相対的に回転させ、前記基体の表面の前記配線層が未だ形成されていない領域を前記マスクの開口から露出させ、該領域に前記開口を介して配線層を形成することを特徴とする請求項7記載の配線部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−253160(P2012−253160A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123834(P2011−123834)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(500357552)株式会社エス・エフ・シー (20)
【Fターム(参考)】