説明

酒精を用いた塩蔵発酵食品の脱塩方法

本発明は、酒精を用いた塩蔵発酵食品の脱塩方法であり、より詳しくは、塩蔵発酵食品に一定量の酒精を加えることによって、塩の溶解度を低下させて塩を析出した後、物理的な方法で塩を除去し、減圧低温蒸発器を用いて酒精を除去する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒精を用いた塩蔵発酵食品の脱塩方法であり、より詳しくは、塩蔵発酵食品に一定量の酒精を添加することによって、塩分の溶解度を低下させて塩を析出した後、物理的な方法で塩を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近頃、健康に対する関心が増加していくにつれて、ナトリウムの過剰摂取に対する心配が高まっている傾向にある。ヒトがナトリウムを過剰摂取すると、細胞外部の浸透圧が増加し、液の増加をもたらして、心臓と腎臓に過度な負担を与えて高血圧を引き起こし、骨中のカルシウム排出を促進して骨粗鬆症を誘発することがある。塩の主元素であるナトリウムは、他の栄養成分とは違って、人体の平衡を保持するための要求量が極めて少なく、欠乏の心配はほとんどないが、大部分の食品に多量に含有されていることから、その摂取量を制限している実状である。世界各国の成人基準1日当たりのナトリウム摂取制限量は、米国2,400mg、英国1,600mg、日本3,930mgであり、韓国は、未だに政府が定めた基準はないが、韓国栄養学会が3,450mgと定めている。特に、韓国は塩辛、醤油類など塩分の含量が高い食品が多く、成人基準1日当たりのナトリウム摂取量が6,000〜8,000mgにも達していることが知られている。
【0003】
以上のような問題点を解決するための方案の一つとして、脱塩過程を介して塩蔵食品の塩含量を低くしようとする研究が活発に進んでいる。既に公知の技術としては、電気分解による塩蔵食品の脱塩方法(特許文献1)、電解処理による有害金属と塩分が多量含有された水産物、畜産加工物、生鮮野菜及び果実の脱金属脱塩加工(特許文献2)、電気透析法による醤油の低塩化方法(特許文献3)、浸漬及び遠心分離脱塩方法を用いたキュウリの塩漬けの製造方法(特許文献4)などがあるが、高価な電気透析装置が必要とされ、電気透析時に塩蔵発酵食品の低分子呈味成分も一緒に除去される短所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】韓国特許第10−0918955号公報
【特許文献2】特開平9−47237号公報
【特許文献3】韓国特許第10−0561103号公報
【特許文献4】韓国公開特許第10−2009−0067343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塩蔵発酵食品(salted & fermented food)は、塩を加えて貯蔵性を高めた状態で、乳酸菌、好塩微生物及び酵母などによって、徐々に発酵及び熟成させた食品である。その原料には、農産物、水産物、畜産物、林産物などが使用され、その特有の成分が微生物の作用により分解され低分子化されるか、新しい成分が合成され、栄養価が向上し、嗜好性と貯蔵性に優れるようになる。代表的な塩蔵発酵食品は、塩辛、キムチ、醤油、みそ、唐辛子みそなどであり、韓国の人々が昔から楽しんで食べる伝統食品である。しかし、最近、塩の過剰摂取を心配し、塩蔵発酵食品を避ける傾向にあり、これに対する改善策として、塩分の使用量を減らす代わりに、低温で熟成させたり塩の代りに塩化カリウム(KCl)、エタノールなどを用いたりする事例が増加しているが、塩蔵発酵食品の固有の風味保持には物足りなく、貯蔵性も落ちる短所がある。さらに別の方法としては、電気透析器により塩蔵発酵食品の塩を除去する方法もあるが、電気透析器の設置及び保持に多くの費用が必要とされ、脱塩過程で塩蔵発酵食品の低分子呈味成分が消失される短所がある。
【0006】
本発明が解決する技術的課題は、食品加工工場で一般に使用されている食品添加物、食品貯蔵用タンク、蒸発濃縮装置などだけを用いて、低コストで脱塩し、呈味成分の損失も最小化できる方法を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、塩蔵発酵食品の脱塩のために、韓国食品規格集で食品添加物としてその使用が可能な酒精(spirit)を用いる。酒精はエタノールを95%含有しており、食品工業において、酒類、調味料、醤類、酢などの添加物として使用され、醤類、生麺類、菓子類、魚肉練製品など各種加工食品の品質保存料や健康機能食品の原料を抽出する溶媒としても活用されている。
【0008】
一方、溶液の溶解度は、溶媒と溶質の極性度(polarity)に応じて変わり、極性溶質は極性溶媒に、非極性溶質は非極性溶媒によく溶解する。従って、極性溶質である塩は、極性溶媒の水によく溶解し、温度に伴う溶解度の差はあまり大きくないことが知られている。また、塩は極性度が5.2のエタノールより極性度が9.0の水によく溶解する。従って、塩の水溶液に水より極性度の低いエタノールを添加すれば、塩の溶解度が低下して塩が析出する。
【0009】
本発明は、前記提示された科学的原理を応用して、エタノールを95%含有している酒精を塩蔵発酵食品に加えることで、塩の溶解度を低下させて塩を析出した後、物理的な方法で塩を除去する。
【0010】
本発明の構成は、大きく、塩蔵発酵食品に酒精を加え、1)塩の析出を誘導する工程、2)析出した塩を物理的に除去する工程、3)塩蔵発酵食品から酒精を除去する工程に分けられる。
【0011】
もう少し詳しく説明すると、一定量の塩蔵発酵食品に、その0.5〜10倍容量の酒精を加え、よく混合した後、15〜25℃で1〜36時間放置すると、塩が析出して塩蔵発酵食品の下段部に沈澱する。この時、沈澱した塩が、混ざって出ないように注意しながら、液体だけを分離した後、真空濃縮器上で酒精を回収する。
【0012】
前記工程1)で酒精添加後、放置する温度は15〜25℃であり、15〜20℃が好ましく、放置時間は1〜36時間であり、好ましくは12〜24時間である。
【0013】
温度は塩の沈澱に大きな影響を与えないが、品質の標準化のためには、一定の温度の保持が必須であり、温度保持に大きなエネルギーを必要としない室温(15〜20℃)範囲で実施することが好ましい。
【0014】
放置時間が1時間以下のとき、塩が完全に沈殿せず、塩濃度の低下に効率的でなく、36時間以上放置すると、脱塩した塩蔵発酵食品の品質が損傷される恐れがあるので、好ましくない。
【0015】
加える酒精の量は、塩蔵発酵食品容量の0.5〜10倍であり、好ましくは1〜5倍容量の酒精を加えるのが好ましい。
【0016】
酒精の量が0.5倍以下のとき、塩濃度の減少幅が小さく、本願発明の目的を達成することが難しく、酒精の量が10倍以上のとき、塩濃度減少の効率性が落ちる。
【0017】
前記工程2)で析出した塩を物理的に除去する方法は、自然沈澱法、遠心分離法、ろ過法などがあるが、経済的側面を考慮すると、自然沈澱法が最も好ましい。
【0018】
工程3)の酒精除去方法は、常圧高温蒸発法、減圧低温蒸発法などがあるが、塩蔵発酵食品の品質保持のためには減圧低温蒸発法が好ましい。減圧低温蒸発時は、100〜500mHgの圧力下、10〜50℃の温度条件で行うことが好ましい。
【0019】
また、本発明では、小エビの塩辛、みそのような水分の少ない固体状の食品の場合には、酒精だけでは食品内に存在する塩を効果的に除去できないので、一定量の水を添加して、食品内の塩を水に溶出させた後、水に溶出した塩を前記方法で除去することができる。即ち、工程1)の前に、塩蔵発酵食品に塩蔵発酵食品容量の5〜15倍容量の水を加え、5℃の冷蔵状態で12〜36時間放置し、塩を溶出した後、遠心分離して液体を分離し、分離した液体に上記のように酒精を加えて、塩を析出させることも可能である。遠心分離し、液体と分離して得た固体と、酒精を加えて塩を析出した溶液を合わせ、減圧低温蒸発器で酒精と水を蒸発させれば、脱塩された塩蔵発酵食品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】酒精の濃度別塩水溶液の塩濃度を示す図である。
【図2】酒精の濃度別カタクチイワシの塩辛の塩濃度を示す図である。
【図3】酒精の濃度別醤油の塩濃度を示す図である。
【図4】酒精の濃度別小エビの塩辛の塩濃度を示す図である。
【図5】酒精の濃度別みその塩濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明するが、本内容が発明の請求範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0022】
実施例1:酒精を用いた塩濃度が23%の塩水溶液の脱塩
(1)塩濃度が23%の塩水溶液100mLを容器に取り、酒精(エタノール95%)1〜2,000v/v%を濃度別に加えた後、20℃で、24時間放置して塩を析出した。
【0023】
(2)容器の下段部に析出、沈澱した塩が、混ざって出ないように容器を注意しながら、斜めにして、溶液を別の容器に移した。
【0024】
(3)塩を除去した溶液を、減圧低温蒸発器に入れ、温度35℃、圧力200mmHgの条件で、酒精を完全に蒸発した後、溶液の体積を100mLに定量して塩濃度を測定した。
【0025】
前記方法で実験した結果、酒精の濃度別塩水溶液の塩濃度は図1のとおりであった。塩水溶液の塩濃度は酒精の濃度が増加するほど減少したが、酒精濃度が500v/v%以上では塩濃度が大きく減少しなかった。即ち、塩濃度が23%の水溶液に酒精を、それぞれ、1、5、10、20、50、100、300、500、1,000、2,000v/v%を加えると、塩濃度は22.5、17.7、15.6、15.1、14.9、14.0、9.7、7.2、6.8、6.3%と減少した。以上のような結果からわかるように、塩濃度が23%の水溶液に300v/v%の酒精を加えると、塩濃度が約10%の水溶液の製造が可能と期待される。
【0026】
実施例2:酒精を用いた塩濃度が23%のカタクチイワシの塩辛の脱塩
(1)塩濃度が23%のカタクチイワシの塩辛100Lを容器に入れ、酒精(エタノール95%)50〜500v/v%を濃度別に加え、20℃で、24時間放置して塩を析出した。
【0027】
(2)容器の下段部に析出、沈澱した塩が、混ざって出ないように、容器を注意しながら、斜めにして、溶液を別の容器に移した。
【0028】
(3)塩を除去した溶液を、減圧低温蒸発器に入れ、温度35℃、圧力200mmHgの条件で、酒精を完全に蒸発した後、溶液の体積を100mLに定量して塩濃度を測定した。
【0029】
前記方法で実験した結果、酒精の濃度別カタクチイワシの塩辛の塩濃度は図2のとおりであった。カタクチイワシの塩辛の塩濃度は酒精の濃度が増加するほど減少した。即ち、塩濃度が23%のカタクチイワシの塩辛に酒精を、それぞれ、50、100、300、500v/v%を加えると、塩濃度は15.0、14.3、10.0、7.5%と減少した。
【0030】
実施例3:酒精を用いた塩濃度が20%の醤油の脱塩
(1)塩濃度が20%の醤油100Lを容器に入れ、酒精(エタノール95%)50〜500v/v%を濃度別に加え、20℃で24時間放置して塩を析出した。
【0031】
(2)容器の下段部に析出、沈澱した塩が、混ざって出ないように、容器を注意しながら、斜めにして、溶液を別の容器に移した。
【0032】
(3)塩を除去した溶液を、減圧低温蒸発器に入れ、温度35℃、圧力200mmHgの条件で酒精を完全に蒸発した後、溶液の体積を100mLに定量して塩濃度を測定した。
【0033】
前記方法で実験した結果、酒精の濃度別醤油の塩濃度は図3のとおりであった。醤油の塩濃度は酒精の濃度が増加するほど減少した。即ち、塩濃度が20%のカタクチイワシの塩辛に酒精を、それぞれ、50、100、300、500v/v%を添加すると、塩濃度は14.8、14.1、9.8、7.3%と減少した。
【0034】
実施例4:酒精を用いた塩濃度が30%の小エビの塩辛の脱塩
(1)塩濃度が30%の小エビの塩辛1kgに10Lの水を加え、5℃の冷蔵庫で24時間放置して塩を溶出した後、遠心分離し、液体を分離して容器に入れ、固体は別保管した。
【0035】
(2)分離した液体に酒精(エタノール95%)50〜500v/v%を濃度別に加え、20℃で、24時間放置して塩を析出した。
【0036】
(3)容器の下段部に析出、沈澱した塩が混ざって出ないように容器を注意しながら、斜めにして溶液を別の容器に移した。
【0037】
(4)塩を除去した溶液に、前記(1)で分離した固体を合せて、減圧低温蒸発器に入れ、温度35℃、圧力200mmHgの条件で酒精を完全に蒸発した後、塩濃度を測定した。
【0038】
前記方法で実験した結果、酒精の濃度別小エビの塩辛の塩濃度は図4のとおりであった。小エビの塩辛の塩濃度は酒精の濃度が増加するほど減少した。即ち、塩濃度が30%の小エビの塩辛に酒精を、それぞれ、50、100、300、500v/v%を添加すると、塩濃度は18.7、16.5、12.0、10.0%と減少した。
【0039】
実施例5:酒精を用いた塩濃度が15%のみその脱塩
(1)塩濃度が15%のみそ1kgに10Lの水を加え、5℃の冷蔵庫で24時間放置して塩を溶出した後、遠心分離し、液体を分離して容器に入れ、固体は別保管した。
【0040】
(2)分離した液体に酒精(エタノール95%)50〜500v/v%を濃度別に加えた後、20℃で、24時間放置して塩を析出した。
【0041】
(3)容器の下段部に析出、沈澱した塩が、混ざって出ないように容器を注意しながら、斜めにして、溶液を別の容器に移した。
【0042】
(4)塩を除去した溶液に、前記(1)で分離した固体を合せて、減圧低温蒸発器に入れ、温度35℃、圧力200mmHgの条件で酒精を完全に蒸発した後、塩濃度を測定した。
【0043】
前記方法で実験した結果、酒精の濃度別みその塩濃度は図5のとおりであった。みその塩濃度は酒精の濃度が増加するほど減少した。即ち、塩濃度が15%のみそに酒精を、それぞれ、50、100、300、500v/v%を添加すると、塩濃度は13.1、12.0、10.0、7.4%と減少した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、塩蔵発酵食品に含有されている塩を、所望の濃度になるだけ、特別な装置を用いることなく、効果的に除去でき、人類の保健向上に大きく寄与することが期待される。特に、韓国伝統塩蔵発酵食品の国内消費促進及び世界化を通して高付加価値食品産業の創出にも注目に値する効果が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)塩蔵発酵食品に、その0.5〜10倍容量に該当する酒精又は95%エタノールを加え、15〜25℃で、1〜36時間放置して、塩の析出を誘導する工程;
2)工程1)で析出した塩を物理的な方法で除去する工程;及び
3)工程2)で塩を除去した塩蔵発酵食品から酒精を除去する工程;
を含む塩蔵発酵食品の脱塩方法。
【請求項2】
工程1)で、加える酒精又は95%エタノールの量が、塩蔵発酵食品容量の1〜5倍容量であることを特徴とする、請求項1に記載の塩蔵発酵食品の脱塩方法。
【請求項3】
工程1)における、温度が15〜20℃であり、放置時間が12〜24時間であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塩蔵発酵食品の脱塩方法。
【請求項4】
工程2)における、物理的な方法が自然沈澱法であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塩蔵発酵食品の脱塩方法。
【請求項5】
工程3)における、酒精を除去する方法が、減圧低温蒸発法であり、減圧低温蒸発を100〜500mmHGの圧力下、温度10〜50℃で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の塩蔵発酵食品の脱塩方法。
【請求項6】
工程1)の前に、更に、塩蔵発酵食品に塩蔵発酵食品容量の5〜15倍容量の水を加え、12〜36時間冷蔵処理して塩を析出する工程を含む、請求項1又は2に記載の塩蔵発酵食品の脱塩方法。
【請求項7】
工程1)の前に、冷蔵処理して塩を析出した後、遠心分離して液体を分離し、分離した液体に酒精又は95%エタノールを加えて、塩の析出を誘導することを特徴とする、請求項6に記載の塩蔵発酵食品の脱塩方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法で脱塩処理された塩蔵発酵食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−507982(P2013−507982A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536646(P2012−536646)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【国際出願番号】PCT/KR2010/006605
【国際公開番号】WO2011/052894
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(511030426)リパブリック オブ コリア (マネージメント: ナショナル フィッシャーズ リサーチ アンド デベロップメント インスティチュート) (2)
【Fターム(参考)】