説明

酸化マグネシウム膜の成膜方法、およびプラズマ生成電極の製造方法

【課題】高価な装置を用いずに透明性に優れた酸化マグネシウム膜を効率良く簡便に形成すること。
【解決手段】原料水溶液として、酢酸マグネシウム四水和物10gを水190gに溶解し、さらにエチレングリコールを2g添加したものを用意する。原料水溶液を原料霧化装置2の霧化容器21内に入れると共に、反応空間61の底部にセットした基板8をヒータ7によって400℃まで昇温させる。超音波振動子22を作動させて原料水溶液を霧化し、空気に原料水溶液のミストをキャリアさせた原料ガスを反応空間61に供給する。基板8の表面に沿って原料ガスが流れると、基板8の表面に酸化マグネシウム膜が形成される。形成された膜は、膜厚が厚くなっても透過率が低下しないことが確認された。また、エチレングリコールの代わりにジエチレングリコールを用いても同じ結果が得られることが確認された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム膜の成膜方法、および、電極保護膜として酸化マグネシウム膜を用いたプラズマ生成電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウム膜などの金属酸化物膜は、プラズマディスプレイパネル(PDP)用保護膜、絶縁膜、触媒膜、表面保護膜などに広く用いられている。例えば、AC型PDPにおいては、前面ガラス基板上に維持電極および走査電極が形成されており、これらの電極は、誘電体層および酸化マグネシウム膜からなる電極保護層によって覆われている。
【0003】
これらの酸化マグネシウムをはじめとする金属酸化物膜を形成する手法としては、スパッタ法、真空蒸着法などの物理的成膜法が用いられている。物理的成膜法は、均一で緻密な結晶性の高い薄膜が得られる反面、真空系で成膜を行うため、大型かつ複雑で高価な装置が必要である。更に、バッチ式での生産であるため生産効率が悪く、製造コストが高くなってしまう。
【0004】
このような物理的成膜法に対して、高価で複雑な装置の必要がなく、より低コストで簡便に金属酸化物膜を形成できる成膜方法が知られている。例えば、金属化合物を水あるいは有機溶媒に溶解した原料溶液を霧化してキャリアガスによって加熱した基板上に導き、金属酸化物膜を成膜するミスト成膜法が知られている。
【0005】
特許文献1には、トルエン、エタノール、ブタノールの混合溶液にマグネシウムエトキシエトキサイド(Mg(OC−OC)を溶解させた溶液を霧化して常圧の反応室内に送り、加熱状態で保持されている被処理体の表面に酸化マグネシウム膜を形成することが記載されている。また、特許文献2には、霧化した酢酸亜鉛水溶液を常圧の成膜室に供給し、ヒータで加熱した基板の表面に酸化亜鉛の薄膜を形成することが記載されている。
【0006】
特許文献1、2に示すように、ミスト成膜法では、その処理を常圧の反応室内で行うことができる。したがって、被処理体が大型になっても、それに合わせて常圧の反応室を大きくするだけで足り、大型の真空容器を用いる必要がない。このため、金属酸化物膜を形成する際の簡便化、高生産性化、低コスト化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−212917号公報
【特許文献2】特開2005−307238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法では、原料溶液の溶媒としてトルエン、エタノール、ブタノールの混合溶液を用いており、有機溶媒の使用による環境への負荷が懸念される。これに対し、特許文献2の方法では、溶媒として水を用いているため、環境への負荷の点では特許文献1の方法よりも望ましい。そこで、本発明者らは、特許文献2と同様の方法により、酸化マグネシウム膜の形成を試みた。その結果、形成された酸化マグネシウムは、膜厚が増大するに伴って膜の透明度が低下してしまうという問題点があった。
【0009】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、高価で複雑な装置を用いることなく、効率良く簡便に酸化マグネシウム膜を形成できると共に、膜厚に関係なく透明性に優れた酸化マグネシウム膜を形成することが可能な酸化マグネシウム膜の成膜方法、および、このような成膜方法を用いたプラズマ生成電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究/検討/実験を重ねた結果、ミスト成膜法による透明性に優れた酸化マグネシウム膜の形成に成功し、この成膜方法に関する新たな知見を得た。
【0011】
本発明の酸化マグネシウム膜の成膜方法は、かかる新たな知見に基づいて完成されたものであり、
水溶性のマグネシウム原料および多価アルコールを含有する原料水溶液を霧化し、
ミスト状になった前記原料水溶液を、加熱された基材の表面に供給することにより、当該基材の表面に酸化マグネシウム膜を形成することを特徴とする。
【0012】
本発明の成膜方法は、このように、ミスト成膜法を行うための原料水溶液として、多価アルコールを添加したものを用いている。本発明者らは、本発明の成膜方法によって形成した酸化マグネシウム膜の膜厚および透過率を測定した結果、膜厚が増大しても透過率がほとんど低下せず、全てのサンプルで透過率が85%以上であることを確認している。このような効果については、多価アルコールの添加によって成膜速度が遅くなり、酸化マグネシウム膜の表面における結晶の成長が抑制されるためと推測される。すなわち、結晶の成長が抑制された結果、膜の表面粗さが小さくなるため、膜表面での光の散乱が抑制され、透過率の低下が抑制されると推測される。本発明者らは、本発明の成膜方法によって形成した酸化マグネシウム膜の表面粗さについても測定し、その結果、本発明の成膜方法によるサンプルの表面粗さが、多価アルコールを添加しない原料水溶液を用いて成膜した比較例のサンプルと比較して大幅に小さいことを確認している。
【0013】
更に、本発明の成膜方法は、常圧の反応室内で行うことができるため、真空容器を用いる必要がなく、低コストで簡便に基材の表面に酸化マグネシウム膜を形成できる。また、水を溶媒とした原料溶液(原料水溶液)を用いるため、環境への負荷が少ないという利点もある。
【0014】
本発明において、前記多価アルコールとして、エチレングリコールもしくはジエチレングリコールを用いることが望ましい。例えば、前記原料水溶液として、溶媒である水および前記マグネシウム原料の合計重量の少なくとも0.5重量%の前記多価アルコールを含有するものを用いることが望ましい。また、前記多価アルコールの添加量を水および前記マグネシウム原料の合計重量の少なくとも1重量%とすることがより望ましい。本発明者らは、実験において、このような構成の原料水溶液を用いた場合に、優れた透明性の酸化マグネシウム膜を形成できることを確認している。
【0015】
また、本発明において、前記マグネシウム原料は、酢酸マグネシウムであることが望ましい。例えば、前記原料水溶液として、溶媒である水を95重量部、酢酸マグネシウム四水和物を5重量部含有し、更に、前記多価アルコールを少なくとも0.5重量部含有するものを用いることが望ましい。本発明者らは、実験において、このような構成の原料水溶液を用いた場合に、優れた透明性の酸化マグネシウム膜を形成できることを確認している。なお、水に対する酢酸マグネシウムの含有量は、水95重量部に対して酢酸マグネシウム四水和物を5重量部よりも多い値、例えば、水93重量部に対して酢酸マグネシウム四水和物を7重量部とすることも可能である。
【0016】
そして、本発明のプラズマ生成電極の製造方法は、上記各構成の酸化マグネシウム膜の成膜方法により、電極の表面に酸化マグネシウム膜からなる電極保護膜を形成することを特徴としている。これにより、透明性に優れたプラズマ生成電極を、真空容器内での成膜工程を行うことなく、従来よりも低コストで簡便に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ミスト成膜法を行うための原料水溶液として、多価アルコールを添加したものを用いることにより、膜厚が増大しても透過率がほとんど低下しない透明性に優れた酸化マグネシウム膜を形成できる。本発明者らは、本発明の成膜方法によって形成した酸化マグネシウム膜の膜厚および透過率を測定した結果、全てのサンプルで透過率が85%以上であり、膜厚が増大しても透過率がほとんど低下しないことを確認している。そして、本発明の成膜方法は、常圧の反応室内で行うことができるため、真空容器を用いる必要がなく、低コストで簡便に基材の表面に酸化マグネシウム膜を形成できる。また、水を溶媒とした原料溶液(原料水溶液)を用いるため、環境への負荷が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の成膜方法に用いる成膜装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】膜厚と透過率の相関関係を示すグラフである。
【図3】膜厚と表面粗さの相関関係を示すグラフである。
【図4】表面粗さと透過率の相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1〜図4を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
(酸化マグネシウム膜の成膜方法)
本実施形態の成膜方法に用いる原料水溶液は、水溶性のマグネシウム原料を水に溶解させてマグネシウム水溶液とし、これに多価アルコールを添加したものである。ここで、本実施形態の原料水溶液は、水溶性のマグネシウム原料および多価アルコールを含有したものであればよく、溶媒である水に多価アルコールを添加した後にマグネシウム原料を溶解させてもよい。また、他の添加物を含有していてもよい。
【0021】
水溶性のマグネシウム原料としては、酢酸マグネシウムのほか、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム等を挙げることができる。また、他の水溶性マグネシウム化合物や、これらの中から複数のマグネシウム原料を適宜選択し、混合したものを挙げることができる。原料水溶液を作成する際には、これらのマグネシウム原料を直接水に溶解させるほか、酸化マグネシウムを酢酸などの酸に溶解させた溶液を使用することもできる。
【0022】
また、多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどを用いることができ、これらの多価アルコールのうち、後述するミスト化の容易性などの観点からすると、エチレングリコールもしくはジエチレングリコールが好ましい。
【0023】
図1は本実施形態の成膜方法に用いる成膜装置の概略構成を示す説明図である。図1に示すように、成膜装置1は、原料霧化装置2、キャリアガス供給配管3、原料ガス供給配管4、希釈ガス供給配管5などを備える原料供給部1Aと、成膜室6、ヒータ7などを備える反応部1Bを有している。
【0024】
原料霧化装置2は、霧化容器21およびその底部に配置された超音波振動子22を備えている。霧化容器21に原料水溶液23を入れると、超音波振動子22が原料水溶液23に浸漬される。この状態で超音波振動子22が作動すると、原料水溶液23は超音波によって霧化され、原料水溶液23のミストが生成される。
【0025】
霧化容器21の側面には、原料水溶液23の液面よりも高い位置にキャリアガス供給配管3が接続されている。キャリアガス供給配管3には、図示しないキャリアガス供給源から空気などのキャリアガスが供給される。また、霧化容器21の上面には原料ガス供給配管4が接続されている。原料ガス供給配管4には希釈ガス供給配管5が接続されており、必要に応じて、原料ガス供給配管4を流れる原料ガスに希釈ガスを添加することができる。
【0026】
超音波振動子22によるミストの生成タイミングと同期させてキャリアガス供給配管3の流量調整弁を開弁し、キャリアガスを霧化容器21内へ流入させると、生成したミストがキャリアガスによって原料ガス供給配管4への流入口に向かって運ばれる。すなわち、原料水溶液23をキャリアガスによってキャリアさせた原料ガスが原料ガス供給配管4に流入する。なお、キャリアガス供給配管3の流量調整弁の流量を制御することにより、原料ガスの流速を制御することができる。
【0027】
成膜室6は、直方体状の反応空間61と、反応空間61の一端に接続された整流空間62を備えている。反応空間61は、前後左右の寸法に比べて高さ寸法が小さく設定されている。また、整流空間62は反応空間61よりも高さ寸法が大きく形成されており、整流空間62の上部に原料ガス供給配管4が接続されている。
【0028】
整流空間62および反応空間61は断熱素材に囲まれており、反応空間61の下側には、断熱素材に埋め込まれたヒータ7が配置されている。ヒータ7は、反応空間61の底部全体に沿って配置されている。反応空間61の底部には、酸化マグネシウム膜の形成面を上に向けた状態で基板8が配置される。本実施形態では、反応空間61にセットした基板8の上の空間が1mm程度の高さとなるように構成されている。ヒータ7は、この基板8を加熱して所定の温度に昇温させる。なお、整流空間62にヒータを設ければ、原料ガスを予熱して供給することもできる。
【0029】
原料ガス供給配管4を通って運ばれた原料ガスは、整流空間62を経由して反応空間61へ供給され、基板8の表面(酸化マグネシウム膜の形成面)に沿って流れる。このとき、基板8の表面に原料ガス中の酸化マグネシウムが析出して酸化マグネシウム膜が形成される。そして、反応空間61を通過した原料ガスは、反応空間61のもう一端に設けられたガス排出口63から外部に排出される。
【0030】
(実施例1)
原料水溶液として、酢酸マグネシウム四水和物10gを水190gに溶解し、さらにエチレングリコールを2g(1重量%)添加したものを用意した。また、石英ガラス製の透明な基板8を用意した。原料水溶液を成膜装置1の原料霧化装置2の霧化容器21内に入れると共に、反応空間61の底部に基板8をセットし、ヒータ7の加熱により、基板8を400℃まで昇温させる。続いて、超音波振動子22を作動させて原料水溶液を霧化し、キャリアガスとして空気を用いて、このキャリアガスに原料水溶液のミストをキャリアさせた原料ガスを所定の供給速度で反応部1Bに供給する。これにより、基板8の表面に原料ガスを流し、酸化マグネシウム膜を形成した。
【0031】
(実施例2)
原料水溶液として、酢酸マグネシウム四水和物10gを水190gに溶解し、エチレングリコールに代えてジエチレングリコールを2g(1重量%)添加したものを用意した。そして、実施例1と同様に、成膜装置1を用いて、石英ガラス製の透明な基板8の表面に酸化マグネシウム膜を形成した。なお、実施例1、2において、原料水溶液におけるマグネシウム原料の含有量は上記のような値(水を95重量部に対して、酢酸マグネシウム四水和物を5重量部の比率で溶解させた値)に限定されるものではない。例えば、水を93重量部に対して、酢酸マグネシウム四水和物を7重量部の比率で溶解させても良く、実施例1、2よりもマグネシウム原料の含有量が多い原料水溶液の組成とすることも可能である。
【0032】
(比較例1)
比較例1として、酢酸マグネシウム四水和物10gを水190gに溶解したのみで、エチレングリコールやジエチレングリコールなどの多価アルコールを添加していない原料水溶液を用意した。そして、実施例1、2と同様に成膜装置1を用いて、石英ガラス製の透明な基板8の表面に酸化マグネシウム膜を形成した。
【0033】
実施例1、2および比較例1のそれぞれについて、成膜時間などを調整して、膜厚の異なる4種類の酸化マグネシウム膜を形成した。形成した全ての酸化マグネシウム膜について、膜厚、透過率(波長550nmでの値/基板8も含めての値)、および表面粗さを測定した。その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1によれば、実施例1および実施例2のいずれにおいても、膜厚が変化しても透過率は変化せず、どの膜厚でも、おおむね90%程度の透過率が実現されている。これに対し、比較例1では、膜厚が最も小さい場合(272nm)には、実施例1、2と同程度の透過率(88%)が実現されているものの、膜厚が厚くなるのに伴って透過率は減少している。比較例1では、最も膜厚が大きい場合(587nm)には透過率が76%まで低下し、80%を下回る値となっている。
【0036】
図2は膜厚と透過率の相関関係を示すグラフであり、図3は膜厚と表面粗さの相関関係を示すグラフである。また、図4は表面粗さと透過率の相関関係を示すグラフである。図2〜4において、実施例1(原料水溶液にエチレングリコールを添加した場合)のデータを▲、実施例2(原料水溶液にジエチレングリコールを添加した場合)のデータを■、比較例1(原料水溶液に多価アルコールを添加していない場合)のデータを●で示す。
【0037】
図2、図3に示すように、実施例1、2の成膜方法で形成した酸化マグネシウム膜は、透過率や表面粗さに膜厚との相関関係がみられない。これに対して、比較例1では、膜厚が厚くなるにつれて、透過率がほぼ直線的に減少している。また、比較例1では、表面粗さは透過率とは逆の相関関係を示しており、膜厚が厚くなるにつれて、表面粗さはほぼ直線的に増加している。また、図4に示すように、多価アルコールを添加した実施例1、2は、いずれも表面粗さが小さい(概ね5〜20nmの範囲内)のに対して、多価アルコールを全く添加していない比較例1では、実施例1、2と比べて表面粗さが格段に大きい値(概ね30nm以上)となっている。
【0038】
このデータによれば、ミスト成膜法に用いる原料水溶液への多価アルコールの添加の有無により、形成された酸化マグネシウム膜の透過率および表面粗さが異なっていることがわかる。本発明者らは、上記のデータに基づき、透過率および表面粗さの違いは、成膜速度の違いによるものと推測している。すなわち、多価アルコールを添加しない場合(比較例1の場合)には成膜速度が速く、酸化マグネシウム結晶が異常に成長するため、同じ膜厚でも、多価アルコールを添加した場合(実施例1、2)と比べて表面粗さが格段に大きい。また、膜厚が厚くなるにつれて表面粗さが大きくなる。そして、表面粗さが大きいと、膜の表面で光の散乱が起こるため、透過率が低くなると推測する。
【0039】
一方、多価アルコールを添加した場合には成膜速度が遅くなり、酸化マグネシウム結晶の成長が抑制される。このため、表面粗さが小さく、膜厚が厚くなっても表面粗さが変化しない。その結果、膜の表面での光の散乱が抑制されるため、透過率の高い酸化マグネシウム膜になると推測する。
【0040】
以上のように、本発明者らは、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの多価アルコールをマグネシウム水溶液に1重量%添加した原料水溶液を用いた本実施形態の成膜方法によれば、膜厚が厚くなっても透過率がほとんど低下しない透明性に優れた酸化マグネシウム膜を形成できることを確認している。また、この成膜方法は、常圧の反応空間61内で酸化マグネシウム膜を形成するミスト成膜法であるため、真空容器を用いる必要がない。よって、低コストで簡便に酸化マグネシウム膜を形成できる。また、水を溶媒とした原料水溶液を用いるため、環境への負荷が少ないという利点もある。
【0041】
なお、原料水溶液への多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコールなど)の添加量は、上記実施例1、2に示したように、溶媒である水とこれに溶解させるマグネシウム原料(酢酸マグネシウム四水和物)の合計重量の1重量%とするのが望ましいが、添加量をこれよりも多くした場合でも、透過率の低下を抑制でき、透明性に優れた酸化マグネシウム膜を形成できる。また、添加量がこれよりも少ない場合、例えば、0.5重量%程度の場合においても、1重量%添加の場合よりも効果は少ないものの、透過率の低下の抑制効果が得られる。
【0042】
(酸化マグネシウム膜を表面に形成した電極の放電開始電圧)
次に、本発明者らは、実施例1、2の酸化マグネシウム膜を表面に形成した電極と、比較例1の酸化マグネシウム膜を表面に形成した電極を作成した。また、比較例2として、真空蒸着法により成膜した酸化マグネシウム膜を表面に形成した電極を作成した。そして、各電極における放電開始電圧を測定した。その結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2によれば、チャンバー内圧力が大きいほど放電開始電圧が低下している。特に、原料水溶液にエチレングリコールを添加して成膜した実施例1の酸化マグネシウム膜からなる電極保護膜を備える電極は、どのチャンバー内圧力の条件においても、他の電極よりも放電開始電圧が大幅に低い。例えば、最も放電開始電圧が低下している1800Paの状態では、放電開始電圧が63.3Vまで低下している。これに対し、他の電極は、いずれも同程度の放電開始電圧であり、最も放電開始電圧が低下している1800Paの状態でも100V程度の放電開始電圧であった。
【0045】
このように、実施例1の成膜方法により形成した酸化マグネシウム膜を電極保護膜として用いた場合には、従来の成膜方法により電極保護膜を形成した場合と比較して、大幅な放電開始電圧の低減効果が得られる。従って、この電極保護膜を備える電極(プラズマ生成電極)は、AC型PDPのプラズマ生成電極として用いれば、放電開始電圧を低減化することができ、消費電力の低減などを図ることができる。なお、電極の用途はAC型PDPに限定されず、プラズマ発生を利用する各種の装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 成膜装置
1A 原料供給部
1B 反応部
2 原料霧化装置
3 キャリアガス供給配管
4 原料ガス供給配管
5 希釈ガス供給配管
6 成膜室
7 ヒータ
8 基板
21 霧化容器
22 超音波振動子
23 原料水溶液
61 反応空間
62 整流空間
63 ガス排出口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性のマグネシウム原料および多価アルコールを含有する原料水溶液を霧化し、
ミスト状になった前記原料水溶液を、加熱された基材の表面に供給することにより、当該基材の表面に酸化マグネシウム膜を形成することを特徴とする酸化マグネシウム膜の成膜方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記多価アルコールは、エチレングリコールもしくはジエチレングリコールであることを特徴とする酸化マグネシウム膜の成膜方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記原料水溶液は、溶媒である水および前記マグネシウム原料の合計重量の少なくとも0.5重量%の前記多価アルコールを含有することを特徴とする酸化マグネシウム膜の成膜方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかの項において、
前記マグネシウム原料として、酢酸マグネシウムを用いることを特徴とする酸化マグネシウム膜の成膜方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記原料水溶液は、溶媒である水を95重量部、酢酸マグネシウム四水和物を5重量部含有し、更に、前記多価アルコールを少なくとも0.5重量部含有することを特徴とする酸化マグネシウム膜の成膜方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの項に記載の酸化マグネシウム膜の成膜方法により、電極の表面に酸化マグネシウム膜からなる電極保護膜を形成することを特徴とするプラズマ生成電極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−246736(P2011−246736A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118045(P2010−118045)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】