説明

酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法、酸化亜鉛系透明導電膜および透明導電性基板

【課題】 優れた導電性と化学的耐久性とを兼ね備えた酸化亜鉛系透明導電膜の形成方
法を提供する。
【解決手段】 本発明の酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法は、スパッタリング法により酸化亜鉛系透明導電膜を形成する方法であって、実質的に亜鉛、チタンおよび酸素からなり、亜鉛とチタンとの合計に対するチタンの原子数比Ti/(Zn+Ti)が0.02を超え0.1以下である酸化物焼結体または酸化物混合体を加工して得られるターゲットを用いる方法である。この形成方法により成膜された透明導電膜は、該透明導電膜中に含まれる亜鉛とチタンとの合計に対するチタンの原子数比Ti/(Zn+Ti)が0.02を超え0.1以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な導電性を有する酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法と、該方法により形成される酸化亜鉛系透明導電膜と、該膜を備えた透明導電性基板とに関する。
【背景技術】
【0002】
導電性と光透過性とを兼ね備えた透明導電膜は、これまでから、太陽電池、液晶表示素子、その他各種受光素子における電極などとして利用されているほか、自動車窓や建築用の熱線反射膜、帯電防止膜、冷凍ショーケース等における防曇用透明発熱体など、幅広い用途に利用されている。特に、低抵抗で導電性に優れた透明導電膜は、太陽電池や、液晶、有機エレクトロルミネッセンス、無機エレクトロルミネッセンスなどの液晶表示素子や、タッチパネルなどに好適であることが知られている。
【0003】
従来、透明導電膜としては、例えば、酸化スズ(SnO2)系の薄膜、酸化亜鉛(ZnO)系の薄膜、そして酸化インジウム(In23)系の薄膜が知られている。具体的には、酸化スズ系の透明導電膜としては、アンチモンをドーパントとして含むもの(ATO)やフッ素をドーパントとして含むもの(FTO)が知られており、酸化亜鉛系の透明導電膜としては、アルミニウムをドーパントとして含むもの(AZO)やガリウムをドーパントとして含むもの(GZO)が知られており、酸化インジウム系の透明導電膜としては、スズをドーパントとして含むもの(ITO;Indium Tin Oxide)が知られている。中でも、最も工業的に利用されているのは酸化インジウム系の透明導電膜であり、とりわけITO膜は、低抵抗で導電性に優れることから、幅広く実用化されている。
【0004】
このような透明導電膜を形成する方法としては、従来から、スパッタリング法が知られている。スパッタリング法は、蒸気圧の低い材料を成膜する際や、精密な膜厚制御を必要とする際に有効な手法であり、操作が非常に簡便であるため、工業的にも汎用されている。
一般に、スパッタリング法では、その内部に基板とターゲットを配置できるようにした真空チャンバーを有する装置を用い、基板およびターゲットを配置した後、真空チャンバーを高真空にし、その後アルゴン等の希ガスを導入し、真空チャンバー内を約10Pa以下のガス圧とする。そして、基板を陽極とし、ターゲットを陰極とし、両者の間にグロー放電を起こしてアルゴンプラズマを発生させ、プラズマ中のアルゴン陽イオンを陰極のターゲットに衝突させ、これによってはじき飛ばされるターゲットの構成粒子を基板上に堆積させ、膜を形成する。ここで、用いられるターゲットは、成膜しようとする膜を構成する金属元素を含む固体であればよく、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物などの焼結体や、場合によっては単結晶で形成されるが、金属酸化物の焼結体からなるターゲットが好ましく使用されている。
【0005】
スパッタリング法は、アルゴンプラズマの発生方法で分類され、高周波プラズマを用いるものを高周波スパッタリング法といい、直流プラズマを用いるものを直流スパッタリング法という。
一般に、直流スパッタリング法は、高周波スパッタリング法に比べ、成膜速度が速く、電源設備が安価であり、成膜操作が簡単であるなどの理由から、工業的に広範に利用されている。反面、直流スパッタリング法は、導電性のターゲットを用いる必要があるのに対し、高周波スパッタリング法は、絶縁性のターゲットを用いて成膜することができる。
スパッタリング法による成膜の速度は、ターゲットを構成する物質の化学結合と密接な関係がある。スパッタリングは、運動エネルギーをもったアルゴン陽イオンがターゲット表面に衝突し、ターゲット表面の物質がエネルギーを受け取って弾き出される現象であり、ターゲットを構成する物質のイオン間結合もしくは原子間結合が弱いほど、スパッタリングによって飛び出す確率が増し、成膜速度の点で有利となる。
【0006】
例えば、ITOのような酸化物の膜をスパッタリング法で形成する際には、ターゲットとしては、一般に、膜を構成する金属元素からなる合金ターゲット(ITO膜の場合にはIn−Sn合金)か、もしくは膜を構成する金属元素を含む酸化物を焼結してなる酸化物ターゲット(ITO膜の場合にはIn−Sn−O焼結体)が用いられる。ただし、合金ターゲットを用いると、形成される膜中の酸素は全て雰囲気中の酸素ガスから供給されることになるので、雰囲気中の酸素ガス量が変動しやすくなり、その結果、雰囲気中の酸素ガス量に依存する成膜速度や得られる膜の特性(比抵抗、透過率)を一定に保つことが困難になる場合がある。
他方、酸化物ターゲットを用いた場合には、膜に供給される酸素の一部はターゲット自体から供給され、不足分のみが雰囲気中の酸素ガスから供給されることになるので、雰囲気中の酸素ガス量の変動は、合金ターゲットを用いる場合に比べ抑えることができ、その結果、一定の膜厚を有し一定の膜特性を有する透明導電膜を容易に製造することが可能となる。
したがって、これまで、工業的に用いるターゲットとしては、酸化物ターゲット(すなわち酸化物焼結体)が汎用されてきた。
【0007】
ところで、ITO膜の如き酸化インジウム系の透明導電膜は、その必須原料であるIn(インジウム)が、希少金属であるため高価で且つ資源枯渇のおそれがあり、しかも毒性を有し環境や人体に対して悪影響を及ぼす可能性があるため、近年、ITO膜に代替し得る工業的に汎用可能な透明導電膜が要望されている。そのような中、工業的製造も可能である酸化亜鉛系透明導電膜が注目されており、その導電性能を高めるべく研究が進められている。具体的には、導電性を高めるべくZnOに種々のドーパントをドープさせる試みがなされており、種々のドーパントごとに最適ドープ量と最低抵抗率が報告されている(非特許文献1)。
この報告によれば、例えば、TiO2をドープさせる場合には、ドープ量は2質量%が最適であり、その時の最低抵抗率は5.6×10-4Ω・cmであることが示されている。このように、酸化亜鉛系透明導電膜は、実験室レベルではITO膜に遜色のない程度の低抵抗が得られるよう改善されてきている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】月刊ディスプレイ、1999年9月号、p10〜「ZnO系透明導電膜の動向」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これまでの酸化亜鉛系透明導電膜は、導電性の点では優れるものの、耐熱性、耐湿性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)などの化学的耐久性に劣るといった欠点があった。
そこで、本発明の課題は、優れた導電性と化学的耐久性とを兼ね備えた酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法と、該方法により形成される酸化亜鉛系透明導電膜と、該膜を備えた透明導電性基板とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、酸化亜鉛にチタンをドープさせたチタンドープ酸化亜鉛からなる膜において、チタンのドープ量(含有量)を、これまで低抵抗を実現するうえで最適とされていたドープ量よりも増量し、亜鉛に比べ化学的耐久性に優れるチタンをより多く含有させるようにすれば、化学的耐久性を向上させることができるのではないかと考えるとともに、その際、チタンのドープ量が従来報告されている最適値から外れることで膜の抵抗率は高くなってしまうであろうことも予測した。
ところが、検討を重ねたところ、この予測に反し、チタンのドープ量が従来の最適値よりも多くなるように、スパッタリング法により酸化亜鉛系透明導電膜を形成する際の膜形成材料中に含まれるチタンと亜鉛との原子数比を特定範囲に設定すると、得られる膜の導電性(低抵抗)と化学的耐久性を両立させることが可能になることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)スパッタリング法により酸化亜鉛系透明導電膜を形成する方法であって、実質的に亜鉛、チタンおよび酸素からなり、亜鉛とチタンとの合計に対するチタンの原子数比Ti/(Zn+Ti)が0.02を超え0.1以下である酸化物焼結体または酸化物混合体を加工して得られるターゲットを用いることを特徴とする方法。
(2)前記チタンは、式TiO2-X(X=0.1〜1)で表される低原子価酸化チタン由来のチタンである、前記(1)記載の方法。
(3)前記(1)または(2)に記載の方法により形成されることを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜。
(4)透明基材上に、前記(3)に記載の酸化亜鉛系透明導電膜を備えることを特徴とする透明導電性基板。
(5)前記透明基材が、ガラス板、樹脂フィルム又は樹脂シートである、前記(4)に記載の透明導電性基板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スパッタリング法によって、優れた導電性と化学的耐久性とを兼ね備えた酸化亜鉛系透明導電膜を形成することができる。しかも、このようにして形成された透明導電膜は、希少金属であり毒性を有するインジウムを必須としないという利点も有するので、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法)
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法は、特定の酸化物焼結体または酸化物混合体を加工してなるターゲットを膜形成材料として、スパッタリング法により成膜する方法である。詳しくは、前記膜形成材料は、亜鉛およびチタンを両方含む酸化物焼結体または酸化物混合体を加工してなる1種のターゲットである。
【0014】
まず、膜形成材料とするターゲットを構成する特定の酸化物混合体について説明する。
前記特定の酸化物混合体は、実質的に亜鉛、チタンおよび酸素からなり、酸化亜鉛、酸化チタンが特定の原子数比で混合し、成形(プレス成形等)された成形体である。ここで、「実質的」とは、酸化物混合体を構成する全原子の99%以上が亜鉛、チタンまたは酸素からなることを意味する。
【0015】
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法において用いる膜形成材料中に含まれるチタンと亜鉛との原子数比、すなわち亜鉛とチタンとの合計に対するチタンの原子数比Ti/(Zn+Ti)は、0.02を超え0.1以下である。このTi/(Zn+Ti)の値が0.02以下であると、チタンのドープ効果が不充分となり、形成される透明導電膜の導電性が低下するとともに、化学的耐久性の改善効果が不充分となり、一方、Ti/(Zn+Ti)の値が0.1を超えると、成膜時の不純物散乱要因が増し、移動度が低下し、導電性が低下する。好ましくは、膜形成材料中もしくは酸化物混合体中のチタンと亜鉛との原子数比Ti/(Zn+Ti)は0.025〜0.09であり、より好ましくはTi/(Zn+Ti)は0.03〜0.08である。
【0016】
前記特定の酸化物混合体は、酸化亜鉛相と酸化チタン相とから構成されることが好ましい。酸化チタン相におけるチタンは、4価未満の低原子価である、例えば、チタン(III)、チタン(II)の状態であることが重要である。また、前記特定の酸化物混合体は焼結してもよいが、酸化物混合体にはチタン酸亜鉛化合物相との複合酸化物が生成しないことが重要である。
ここで、チタン酸亜鉛化合物相とは、具体的には、ZnTiO3、Zn2TiO4のほか、これらの亜鉛サイトにチタン元素が固溶されたものや、酸素欠損が導入されているものや、Zn/Ti比がこれらの化合物から僅かにずれた非化学量論組成のものも含むものとする。
また、酸化亜鉛相とは、具体的には、ZnOのほか、これにチタン元素が固溶されたものや、酸素欠損が導入されているものや、亜鉛欠損により非化学量論組成となったものも含むものとする。
なお、酸化亜鉛相は、通常、ウルツ鉱型構造をとる。
また、酸化チタン相とは、具体的には、Ti23、TiOのほか、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含むものとする。
【0017】
前記特定の酸化物混合体は、実質的に酸化亜鉛と酸化チタンの結晶相の混合物であることが好ましい。
【0018】
前記特定の酸化物混合体は、ガリウム、アルミニウム、錫、シリコン、ゲルマニウム、ジルコニウム、ハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(以下、これらを「添加元素」と称することもある)をも含有することが好ましい。このような添加元素を含有することによって、形成される透明導電膜の比抵抗が低下し、導電性を向上させることができる。添加元素を含有する場合、その全含有量は、原子数比で、酸化物混合体を構成する全金属元素の総量に対して0.05%以下であることが好ましい。添加元素の含有量が前記範囲よりも多いと、酸化物混合体をターゲットとして形成される膜の比抵抗が増大するおそれがある。
前記添加元素は、酸化物の形態で酸化物混合体中に存在していてもよいし、前記酸化亜鉛相の亜鉛サイトに置換した(固溶した)形態で存在していてもよいし、前記酸化チタン相のチタンサイトに置換した(固溶した)形態で存在していてもよい。
【0019】
前記特定の酸化物混合体は、必須元素である亜鉛およびチタンや前記添加元素のほかに、例えば、インジウム、イリジウム、ルテニウム、レニウムなどの他の元素を、不純物として含有していてもよい。不純物として含有される元素の合計含有量は、原子数比で、酸化物混合体を構成する全金属元素の総量に対して0.5%以下であることが好ましい。
【0020】
酸化物混合体を製造するための原料粉末としては、チタン源として、酸化チタン粉、チタン金属粉等から選ばれる1種以上と、亜鉛源として、酸化亜鉛粉、水酸化亜鉛粉、亜鉛金属粉等から選ばれる1種以上とを、それぞれ組み合わせたものを用いることができる。特に、原料粉末としては、酸化チタン粉と酸化亜鉛粉もしくは水酸化亜鉛粉との混合粉を含むものが好ましい。例えば、チタン金属と酸化亜鉛とを組み合わせたものや、酸化チタンと亜鉛金属とを組み合わせたものを原料粉末とした場合、酸化物混合体中にチタンや亜鉛の金属粒が存在しやすくなり、これをターゲットとして成膜すると、成膜中にターゲット表面の金属粒が溶融してしまいターゲットから放出されず、得られる膜の組成とターゲットの組成とが大きく異なる傾向がある。
【0021】
前記酸化チタン粉としては、3価のチタンからなる酸化チタン(Ti23)、2価のチタンからなる酸化チタン(TiO)等の粉末を用いることができるが、前記膜形成材料は、2価のチタンからなる酸化チタン(TiO)、3価のチタンからなる酸化チタン(Ti23)をチタン源として得られたものであることが好ましく、その点で、前記酸化チタン粉としてはTiOまたはTi23の粉末を用いるのが好ましい。ここで、Ti23をチタン源とすることが好ましい理由は、Ti23の結晶構造は三方晶であり、これと混合する酸化亜鉛は六方晶のウルツ鉱であるため、結晶構造の対称性が一致し、固相焼結する際に置換固溶しやすいからである。なお、酸化チタン粉としては、純度が99重量%以上であるものを用いるのがよい。
本発明では、低原子価酸化チタンとは、TiO(II)、Ti23(III)という整数の原子価を有するものばかりでなく、Ti35、Ti47、Ti611、Ti59、Ti815等も含む、式TiO2-X(X=0.1〜1)で表される範囲のものである式TiO2-Xで示される低原子価酸化チタンは、低原子価酸化チタンの混合物であってもよい。通常、酸化チタン(TiO2)を水素雰囲気等の還元雰囲気にて、還元剤としてカーボン等を用いて、加熱することにより作製することができる。水素濃度、還元剤としてカーボン量、加熱温度を調製することにより、低原子価酸化チタンの混合物の割合を制御することができる。
この低原子価酸化チタンの構造は、X線回折装置(X−Ray Diffraction、 XRD)、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectroscopy、 XPS)などの機器分析の結果によって確認することができる。
また、酸化物焼結体のチタン源および亜鉛源として、前記チタン酸亜鉛化合物を用いることができる。チタン酸亜鉛化合物としては、ZnTiO3、Zn2TiO4等の粉末を用いることができ、特に、Zn2TiO4の粉末を用いるのが好ましい。
【0022】
前記式TiO2-X(X=0.1〜1)で表される低原子価酸化チタンは単成分を作製するのは難しく、混合物として得られる。通常、酸化チタン(TiO2)を水素雰囲気等の還元雰囲気にて、還元剤としてカーボン等を用いて、加熱することにより作製することができる。水素濃度、還元剤としてカーボン量、加熱温度を調製することにより、低原子価酸化チタンの混合物の割合を制御することができる。
【0023】
前記酸化亜鉛粉としては、通常、ウルツ鉱構造のZnO等の粉末が用いられ、さらにこのZnOを予め還元雰囲気で焼成して酸素欠損を含有させたものを用いてもよい。なお、酸化亜鉛粉としては、純度が99重量%以上であるものを用いるのがよい。
前記水酸化亜鉛としては、アモルファスもしくは結晶構造のいずれであってもよい。
前記原料粉末として各々用いる化合物(粉)の平均粒径は、それぞれ1μm以下であることが好ましい。また、そのBET比表面積は、特に限定されない。
【0024】
原料粉末として酸化チタン粉と酸化亜鉛粉もしくは水酸化亜鉛粉との混合粉を用いる場合の各粉の混合割合は、各々用いる化合物(粉)の種類に応じて、得られる酸化物成形体に含まれるチタンと亜鉛との原子数比が、Ti/(Zn+Ti)の値が上述した範囲である比率となるように適宜設定すればよい。なお、原料粉末として各々用いる化合物(粉)は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0025】
前記原料粉末を成形する際の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、原料粉末を混合し、得られた混合物を成形すればよい。
混合は、例えば、ボールミル、振動ミル、アトライター、ダイノミル、ダイナミックミル等の公知の混合方法を用いて行うことができ、乾式で行なってもよいし、湿式で行ってもよい。また、混合を湿式で行う際には、成形に供する前に得られるスラリー状の混合物を乾燥してもよく、その場合、乾燥は、例えば、加熱乾燥機、真空乾燥機、凍結乾燥機等を用いて行えばよい。
得られた混合物の成形は、例えば、一軸プレス、冷間静水圧プレス(CIP)などを用いて、通常1ton/cm2以上の圧力をかけて行なうことができる。成形に際しては、後述するスパッタ法に適した形状にすればよく、例えば、円板、四角板等の形状とすればよい。また、成形後、切断や研削等を適宜組み合わせて行うことにより、寸法を調整することもできる。なお、混合物を成形するにあたり、混合物の機械的強度を高めるため熱アニールを施すようにしてもよい。
【0026】
混合物の成形体は、この成形体の強度を向上させるために加熱(アニール)しても構わない。成形体のアニールは、大気雰囲気、還元雰囲気(二酸化炭素、水素、アンモニア等)、もしくは不活性雰囲気(窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等)または酸化雰囲気(大気よりも酸素濃度が高い雰囲気)のいずれかの雰囲気中、50℃以上600℃以下で行なう。より好ましくは300℃〜550℃が好ましい。600℃以下であれば、酸化亜鉛と酸化チタンは相図から、加熱しても焼結せずに酸化亜鉛と酸化チタンが反応することなく、それぞれ変化なく、単相にて存在する。
但し、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)は400℃以上で酸素が存在する雰囲気にて加熱すると、酸化チタン(IV)に酸化されてしまうので、酸化物混合体を製造するための原料粉末に酸化チタン(III)、酸化チタン(II)を用いる場合には、酸素が存在しない雰囲気にて400℃以上600℃未満にて加熱する必要がある。400℃以下でアニールする場合は、酸化雰囲気で加熱しても構わない。
このようにアニールすることにより、混合物の成形体の機械的強度を高めることができる。
いずれの雰囲気中でアニールする際も、アニール時間(すなわち、アニール温度での保持時間)は、1時間〜15時間とすることが好ましい。アニール時間が1時間未満であると、機械的強度の向上が十分ではない。
【0027】
アニールを行なう際の方法は、特に制限されるものではなく、例えば、常圧アニール法、ホットプレス法、熱間等圧プレス(HIP)、放電プラズマ焼結(SPS)、冷間等圧プレス(CIP)、マイクロ波焼結、ミリ波焼結など公知の方法を採用することができる。
前記アニール処理を施す際の雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素および水素からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる雰囲気ならびに真空が挙げられる。
前記アニール処理の方法としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、水素などの非酸化性ガスを導入しながら常圧で加熱する方法や、真空(好ましくは、2Pa以下)下で加熱する方法等により行うことができるが、製造コストの観点からは、前者の常圧で行う方法が有利である。なお、アニール処理後、切断や研削等を適宜組み合わせて行うことにより、寸法を調整することもできる。
【0028】
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法に用いられるターゲットは、前記特定の酸化物混合体を加工することにより得られる。
加工方法は、特に制限されず、適宜公知の方法を採用すればよい。例えば、酸化物混合体に平面研削等を施した後、所定の寸法に切断してから、支持台に貼着することにより、ターゲットを得ることができる。また、必要に応じて、複数枚の酸化物混合体を分割形状にならべて、大面積のターゲット(複合ターゲット)としてもよい。
【0029】
また、本発明では、前記特定の酸化物混合体に代えて、前記成形体を焼結することにより得られる酸化物焼結体を使用することができる。
膜形成材料中である酸化物焼結体中のチタンと亜鉛との原子数比Ti/(Zn+Ti)は0.02を超え0.1以下であり、好ましくはTi/(Zn+Ti)は0.025〜0.09であり、より好ましくはTi/(Zn+Ti)は0.03〜0.08である。
【0030】
前記特定の酸化物焼結体は、酸化亜鉛相とチタン酸亜鉛化合物相とから構成されるか、または、チタン酸亜鉛化合物相から構成されることが好ましい。このように酸化物焼結体中にチタン酸亜鉛化合物相が含まれていると、焼結体自体の強度が増すので、過酷な条件(高電力など)で成膜条件においてもターゲットにクラックが生じたりすることがない。
なお、ここで、チタン酸亜鉛化合物相とは、具体的には、ZnTiO3、Zn2TiO4のほか、これらの亜鉛サイトにチタン元素が固溶されたものや、酸素欠損が導入されているものや、Zn/Ti比がこれらの化合物から僅かにずれた非化学量論組成のものも含むものとする。
前記特定の酸化物焼結体は、実質的に酸化チタンの結晶相を含有しないことが好ましい。
【0031】
前記特定の酸化物焼結体は、例えば、酸化物混合体におけるチタン源と亜鉛源とを含む原料粉末を前記と同様にして混合し、成形した後、得られた成形体を焼結することにより、得ることができる。
得られた成形体の焼結は、例えば、成形体を非酸化性雰囲気(真空雰囲気、不活性雰囲気、還元雰囲気)にて静置し、焼結温度(最高到達温度)を600〜1700℃とし、この焼結温度での保持時間を0.5〜48時間とする条件で行えばよい。通常、酸化物焼結体を不活性雰囲気、真空雰囲気あるいは還元雰囲気にて焼結した場合は、酸素欠損を生じさせるため、酸化物焼結体の比抵抗は低くなり、酸化雰囲気にて焼結した場合は、比抵抗は高くなる。
焼結温度は、好ましくは600〜1500℃、より好ましくは1000〜1300℃とし、保持時間は、好ましくは15時間以上、より好ましくは20時間以上とするのがよい。
焼結は、例えば、電気炉、ガス炉、還元炉等を用いて行うことができる。
また、焼結は、ホットプレス、熱間等圧プレス(HIP)、冷間等圧プレス(CIP)、放電プラズマ焼結(SPS)、マイクロ波焼結、ミリ波焼結等を用いて、上述した成形と同時に行ってもよい。なお、焼結後、切断や研削等を適宜組み合わせて行うことにより、寸法を調整することもできる。
【0032】
なお、焼結を行うに際しては、例えば、成形体をZnO粉体内に埋めた状態で分解を防止しつつ行なうことにより、得られる酸化物焼結体の密度を、好ましくは80%以上、より好ましくは90%の高密度とすることが好ましい。高密度の酸化物焼結体からなるターゲットは、膜品質の低下、すなわち、特にfs−PLD法の場合の結晶性および表面モホロジーの低下を招く可能性のあるアブレーションプルーム内の微粒子を低減するうえで好ましい。
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法に用いられるターゲットは、前記特定の酸化物焼結体を加工することにより得られる。
【0033】
(スパッタリング法)
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法は、スパッタリング法により成膜を行うものであるが、その際の具体的手法や条件などについては、上述した膜形成材料を用いること以外、特に制限はなく、公知のスパッタリング法の手法や条件を適宜採用すればよい。
【0034】
スパッタリング法による成膜は、例えば、ターゲットをスパッタリング装置内に設置し、この装置内にスパッタリングガスを導入し、直流(dc)または高周波(rf)あるいは双方の電界を印可してスパッタリングを行うことにより、基板上に薄膜を形成することができる。
スパッタリングガスとしては、通常、不活性ガス(例えば、Arなど)が濃度99.995%以上で用いられる。必要に応じて、酸化性ガスや還元性ガスを併用することもできるが、好ましくは、実質的に酸素を含まない方がよく、酸素濃度は例えば0.05%未満であるのがよい。
スパッタリング法による成膜条件は、特に制限されないが、例えば、圧力は通常0.1〜10Pa、基板温度は通常25〜300℃で行うことができる。
【0035】
スパッタリングの方式は、特に制限されるものではなく、例えば、DCスパッタリング法(直流スパッタリング法)、RFスパッタリング法(高周波スパッタリング法)、ACスパッタリング法(交流スパッタリング法)またはこれらを組み合わせた方法の中から、使用するターゲットの比抵抗等に応じて適宜採用することができる。例えば、DCスパッタリング法は、他の方式に比べて成膜速度が速く、スパッタリング効率に優れ、しかもDCスパッタリング装置は、安価で、制御が容易であり、電力消費量も少ないという利点があるが、ターゲットが絶縁体であると採用できないという欠点がある。これに対して、RFスパッタリング法では、ターゲットがたとえ絶縁体であっても採用することができる。
【0036】
(酸化亜鉛系透明導電膜)
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜は、上述した酸化亜鉛系透明導電膜の形成方法により成膜されたチタンドープ酸化亜鉛からなる透明導電膜である。かかる酸化亜鉛系透明導電膜中に含まれるチタンと亜鉛の原子数比Ti/(Zn+Ti)は0.02を超え0.1以下、好ましくはTi/(Zn+Ti)は0.025〜0.09、より好ましくはTi/(Zn+Ti)は0.03〜0.08であるのが好ましい。チタンと亜鉛の原子数比が上記範囲内であれば、チタンのドープ効果により優れた導電性を発現しうるとともに、化学的耐久性にも優れた膜となる。この酸化亜鉛系透明導電膜は、チタンが酸化亜鉛のウルツ鉱の結晶構造の亜鉛サイトに置換固溶したものある。
【0037】
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜は、良好な透明性を有し、かつ、上述したように優れた導電性と化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)など)を兼ね備えたものである。詳しくは、本発明の酸化亜鉛系透明導電膜は、従来の酸化亜鉛系透明導電膜(すなわち、本発明の如く特定量のチタンを含有しない酸化亜鉛系透明導電膜)における最大の欠点であった化学的耐久性を、透明性および導電性を損なうことなく改善したものである。具体的には、従来の酸化亜鉛系透明導電膜は、膜厚に依存するが、耐熱性については、200℃の大気雰囲気で30分間加熱すると比抵抗は急激に増大し、耐湿性については、恒温恒湿雰囲気(温度60℃、相対湿度90%)に保持すると急激に増大してしまうものであった。
また、従来の酸化亜鉛系透明導電膜の耐薬品性は、例えば40℃の3%塩酸水溶液や40℃の3%水酸化ナトリウム溶液に浸漬すると10分後には完全に消失してしまうものであった。
【0038】
本発明の酸化亜鉛系透明導電膜の膜厚は、用途に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、好ましくは50〜600nm、より好ましくは100〜500nmである。膜厚が50nm未満であると、充分な比抵抗が確保できないおそれがあり、一方、膜厚が600nmを超えると膜に着色が生じてしまうおそれがある。
【0039】
(透明導電性基板)
本発明の透明導電性基板は、透明基材上に、上述した透明導電膜の形成方法により成膜された酸化亜鉛系透明導電膜を備えるものである。
前記透明基材は、スパッタリング法による成膜条件において形状を維持しうるものであれば、特に限定されない。例えば、各種ガラス等の無機材料、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリイミドなどのプラスチック類)等の樹脂などで形成された板状物、シート状物、フィルム状物等を用いることができるが、特に、ガラス板、樹脂フィルム又は樹脂シートのいずれかを用いるのが好ましい。透明基材の可視光透過率は、通常、90%以上、好ましくは95%以上であるのがよい。
【0040】
なお、前記透明基材として樹脂フィルムや樹脂シートを用いる場合、スパッタリング法による成膜で受けるダメージを分散均一化するために、工業的に行われているロールツーロールの成膜方法で、巻き出し速度と巻取り速度をコントロールしながら引張応力をかけた状態で成膜することが好ましい。さらに、あらかじめ樹脂フィルムまたは樹脂シートを加熱した状態で成膜してもよいし、成膜最中に樹脂フィルムまたは樹脂シートを冷却するようにしてもよい。また、スパッタリング法による成膜でダメージ受ける時間を短縮するため、樹脂フィルムまたは樹脂シートの搬送速度の高速化(例えば1.0m/分以上)を図ることも効果的であり、この場合は、例えば成膜する樹脂フィルムまたは樹脂シートとターゲットとの距離が短くても成膜が可能となり、工業的プロセスとしては有利である。
【0041】
前記透明基材には、必要に応じて、単層または多層からなる絶縁層、半導体層、ガスバリア層または保護層のいずれかが形成されていてもよい。
絶縁層としては、例えば、酸化珪素膜や窒化酸化珪素膜などが挙げられる。
半導体層としては、例えば、薄膜トランジスター(TFT)などが挙げられ、主にガラス基板に形成される。
ガスバリア層としては、例えば、酸化珪素膜、窒化酸化珪素膜、アルミニウム酸マグネシウム膜などが挙げられ、水蒸気バリア膜などとして樹脂板もしくは樹脂フィルムに形成される。
保護層は、基材の表面を傷や衝撃から守るためのものであり、Si系、Ti系、アクリル樹脂系など各種コーティング層が挙げられる。
【0042】
本発明の酸化亜鉛系透明導電性基板の比抵抗は、通常2×10-3Ω・cm以下、好ま
しくは8×10-4Ω・cm以下である。また、その表面抵抗(シート抵抗)は、用途によって異なるが、通常5〜10000Ω/□、好ましくは5〜300Ω/□であるのが好ましい。なお、比抵抗および表面抵抗は、例えば実施例で後述する方法によって測定することができる。
本発明の酸化亜鉛系透明導電性基板の透過率は、可視光領域で、通常85%以上、好ましくは90%以上である。また、その全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上であり、そのヘイズ値は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下であるのがよい。なお、透過率は、例えば実施例で後述する方法によって測定することができる。
【0043】
本発明の透明導電性基板における酸化亜鉛系透明導電膜の膜厚は、50〜600nmであることが好ましい。この膜厚の範囲では、用途によって異なるが、可撓性が保たれた連続的な膜を得る事ができる。さらに、本発明の透明導電膜の膜厚は用途に応じて100〜500nmとすることが望ましい。
本発明の透明導電性基板には、必要に応じて、最外層として、保護膜、反射防止膜、フィルター等の役割や、液晶の視野角の調整、曇り止め等の機能を発揮する任意の樹脂または無機化合物の層を、1層または2層以上積層することができる。
【0044】
本発明の透明導電性基板は、上述したように、良好な透明性を有し、かつ、上述したように優れた導電性と化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)など)を兼ね備えたものであるので、例えば、液晶ディスプレイ・プラズマディスプレイ・無機EL(エレクトロルミネセンス)ディスプレイ・有機ELディスプレイ・電子ペーパーなどの透明電極、太陽電池の光電変換素子の窓電極、透明タッチパネル等の入力装置の電極、電磁シールドの電磁遮蔽膜、透明電波吸収体、紫外線吸収体、さらには透明半導体デバイスとして他の金属膜/金属酸化膜と組み合わせて活用することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
なお、得られた透明導電性基板の評価は以下の方法で行なった。
【0046】
<比抵抗>
比抵抗は、抵抗率計(三菱化学(株)製「LORESTA−GP、MCP−T610」)を用いて、四端子四探針法により測定した。詳しくは、サンプルに4本の針状の電極を直線上に置き、外側の二探針間に一定の電流を流し、内側の二探針間に一定電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定し、抵抗を求めた。
<表面抵抗>
表面抵抗(Ω/□)は、比抵抗(Ω・cm)を膜厚(cm)で除することにより算出した。
<透過率>
透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製「V−670」)を用いて測定した。
<耐湿性>
透明導電性基板を、温度60℃、相対湿度90%の雰囲気中に1000時間保持する耐湿試験に付した後、表面抵抗を測定した。耐湿試験後の表面抵抗が、耐湿試験前の表面抵抗の2倍以下であると、耐湿性に優れると言える。
<耐熱性>
透明導電性基板を、温度200℃の大気中に5時間保持する耐熱試験に付した後、表面抵抗を測定した。耐熱試験後の表面抵抗が、耐熱試験前の表面抵抗の1.5倍以下であると、耐熱性に優れると言える。
<耐アルカリ性>
透明導電性基板を、3%のNaOH水溶液(40℃)中に10分間浸漬し、浸漬前後の基板上の膜質の変化の有無を目視にて確認した。
<耐酸性>
透明導電性基板を、3%のHCl水溶液(40℃)中に10分間浸漬し、浸漬前後の基板上の膜質の変化の有無を目視にて確認した。
【0047】
(実施例1)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および酸化チタン粉末(Ti23;(株)高純度化学研究所製、純度99.99%)を原料粉末とし、これらをZn:Tiの原子数比が96:4となる割合で混合し、原料粉末の混合物を得た。次いで、得られた混合物を金型に入れ、一軸プレスにより成形圧500kg/cm2にて成形し、直径80mm、厚さ5mmの円盤状の成形体を得た。この成形体を常圧(101.325kPa)のアルゴン雰囲気下、400℃で3時間アニールして、酸化物混合体(1)を得た。
得られた酸化物混合体(1)をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=96:4(Ti/(Zn+Ti)=0.04)であった。この酸化物混合体(1)の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)と酸化チタン(Ti23)の結晶相の混合物であった。
【0048】
次に、得られた酸化物混合体(1)を50mmφの円盤状に加工することにより、ターゲットを作製し、これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(石英ガラス基板)とをそれぞれ設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
【0049】
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=96:4(Ti/(Zn+Ti)=0.04)であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0050】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は5.1×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は10.2Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均60%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
【0051】
(実施例2)
実施例1で得た酸化物混合体(1)を50mmφの円盤状に加工することにより、ターゲットを作製し、これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(アクリル系透明樹脂シート)とをそれぞれ設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力100W、基板温度130℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
【0052】
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=96:4(Ti/(Zn+Ti)=0.04)であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0053】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は7.2×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は14.4Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均88%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均60%であった。なお、成膜前のアクリル系透明樹脂シートの可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均93%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均93%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.6倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.4倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
【0054】
(実施例3)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および酸化チタン粉末(Ti23;(株)高純度化学研究所製、純度99.99%)を原料粉末とし、これらをZn:Tiの原子数比が96:4となる割合で混合し、原料粉末の混合物を得た。次いで、得られた混合物を金型に入れ、一軸プレスにより成形圧500kg/cm2にて成形し、直径80mm、厚さ5mmの円盤状の成形体を得た。この成形体を、まず常圧(101.325kPa)の大気雰囲気下、500℃で3時間アニールして、酸化物混合体(3)を得た。
【0055】
得られた酸化物混合体(3)をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=96:4(Ti/(Zn+Ti)=0.04)であった。この酸化物混合体(3)の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)と酸化チタンの結晶相の混合物であった。
次に、得られた酸化物混合体(3)を50mmφの円盤状に加工することにより、ターゲットを作製し、これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(石英ガラス基板)とをそれぞれ設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力100W、基板温度130℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
【0056】
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=96:4(Ti/(Zn+Ti)=0.04)であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0057】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は8.0×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は16Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均62%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.6倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.4倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
【0058】
(実施例4)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および酸化チタン粉末(Ti23;(株)高純度化学研究所製、純度99.99%)を原料粉末とし、これらをZn:Tiの原子数比が97:3となる割合で混合し、原料粉末の混合物を得た。次いで、得られた混合物を金型に入れ、一軸プレスにより成形圧500kg/cm2にて成形し、直径80mm、厚さ5mmの円盤状の成形体を得た。この成形体を常圧(1.01325・102kPa)のアルゴン雰囲気下、800℃で4時間焼結して、酸化物焼結体(4)を得た。
得られた酸化物焼結体(4)をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)であった。この酸化物焼結体(4)の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とチタン酸亜鉛(Zn2TiO4)の結晶相の混合物であり、酸化チタンは全く存在していなかった。
【0059】
次に、得られた酸化物焼結体(4)を50mmφの円盤状に加工することにより、ターゲットを作製し、これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(石英ガラス基板)とをそれぞれ設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
【0060】
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0061】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は4.4×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は8.8Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均60%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
【0062】
(比較例1)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および酸化チタン粉末(Ti23;(株)高純度化学研究所製、純度99.99%)を原料粉末とし、これらをZn:Tiの原子数比が99:1となる割合で混合し、原料粉末の混合物を得た。次いで、得られた混合物を金型に入れ、一軸プレスにより成形圧500kg/cm2にて成形し、直径80mm、厚さ5mmの円盤状の成形体を得た。この成形体を常圧(101.325kPa)のアルゴン雰囲気下、400℃で3時間アニールして、酸化物混合体(C1)を得た。
得られた酸化物混合体(C1)をエネルギー分散型蛍光X線装置(島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=99:1(Ti/(Zn+Ti)=0.01)であった。
【0063】
次に、得られた酸化物混合体(C1)を50mmφの円盤状に加工することにより、ターゲットを作製し、これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(石英ガラス基板)とをそれぞれ設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力100W、基板温度130℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚200nmの透明導電膜を形成した。
【0064】
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置(島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=99:1(Ti/(Zn+Ti)=0.01)であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0065】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は2.5×10-3Ω・cmであり、表面抵抗は125Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均90%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均70%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の2.6倍であり、耐湿性に劣ることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の2.0倍であり、耐熱性に劣ることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬後には膜は完全に溶解し、消失していた。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、膜は完全に溶解し、消失していた。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明ではあるが、高抵抗であり、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)には劣る透明導電膜であることが明らかである。
【0066】
(比較例2)
平均粒径が1μmの酸化亜鉛粉末97.7重量部と、平均粒径が0.2μmの酸化アルミニウム粉末2.3重量部とを、ポリエチレン製ポットに入れ、乾式ボールミルを用いて72時間混合し、原料粉末の混合物を得た。得られた混合物を金型に入れ、成形圧300kg/cm2の圧力でプレスを行い、成形体を得た。この成形体に3ton/cm2の圧力でCIPによる緻密化処理を施した後、以下の条件で焼結して、アルミニウムドープ酸化亜鉛の酸化物焼結体(C2)を得た。
焼結温度:1500℃
昇温速度:50℃/時間
保持時間:5時間
焼結雰囲気:大気中
得られた酸化物焼結体(C2)は、X線回折で分析したところ、ZnOとZnAl24との2相の混合組織であった。
【0067】
次に、得られた酸化物焼結体(C2)を4インチφ、6mmtの形状に加工し、インジウム半田を用いて無酸素銅製バッキングプレートにボンディングすることにより、ターゲットを作製した。そして、このターゲットを用いて、以下の条件でスパッタリング法による成膜を行い、透明基材(石英ガラス基板)上に膜厚300nmの透明導電膜を形成し、透明導電性基板を得た。形成した膜中のAl含有量は2.3重量%であった。
装置 :dcマグネトロンスパッタ装置
磁界強度 :1000Gauss(ターゲット直上、水平成分)
基板温度 :200℃
到達真空度 :5×10-5Pa
スパッタリングガス :Ar
スパッタリングガス圧:0.5Pa
DCパワー :300W
【0068】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は7.6×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は25.3Ω/□であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均88%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均55%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の3.2倍であり、耐湿性に劣ることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の7.0倍であり、耐熱性に劣ることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬後には膜は完全に溶解し、消失していた。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、膜は完全に溶解し、消失していた。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗ではあるが、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)には劣る透明導電膜であることが明らかである。
【0069】
(実施例5)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および酸化チタン粉末(TiO(II);(株)高純度化学研究所製、純度99.99%)を原料粉末とし、これらをZn:Tiの原子数比が97:3となる割合で混合し、原料粉末の混合物を得た。次いで、得られた混合物を金型に入れ、一軸プレスにより成形圧500kg/cm2にて成形し、直径80mm、厚さ5mmの円盤状の成形体を得た。この成形体を常圧(1.01325・102kPa)のアルゴン雰囲気下、1000℃で4時間焼結して、酸化物焼結体(5)を得た。
得られた酸化物焼結体(5)をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)であった。この酸化物混合体(5)の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とチタン酸亜鉛(Zn2TiO4)の結晶相の混合物であり、酸化チタンは全く存在していなかった。
【0070】
次に、得られた酸化物焼結体(5)を50mmφの円盤状に加工することにより、ターゲットを作製し、これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(石英ガラス基板)とをそれぞれ設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
【0071】
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0072】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は4.2×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は8.4Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均60%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
【0073】
(実施例6)
実施例5と同様にして、原料粉末の混合物を得た。混合操作後、ボールとエタノールを除去して得られた混合粉末を黒鉛からなる金型(ダイス)に入れ、黒鉛からなるパンチにて40MPaの圧力で真空加圧し、1000℃、4時間、加熱処理を行い円盤型の酸化物焼結体(6)を得た(ホットプレス法)。
得られた酸化物焼結体(6)をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)であった。この酸化物焼結体(6)の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とチタン酸亜鉛(Zn2TiO4)の結晶相の混合物であり、酸化チタンは全く存在していなかった。
【0074】
次に、得られた酸化物焼結体(6)を50mmφの円盤状に加工することにより、ターゲットを作製し、これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(石英ガラス基板)とをそれぞれ設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
【0075】
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0076】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は4.2×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は8.4Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均60%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
【0077】
(実施例7)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および酸化チタン粉末(Ti23(III);(株)高純度化学研究所製、純度99.99%)を原料粉末とし、これらをZn:Tiの原子数比が97:3となる割合で混合し、原料粉末の混合物を得た。混合操作後、ボールとエタノールを除去して得られた混合粉末を黒鉛からなる金型(ダイス)に入れ、黒鉛からなるパンチにて40MPaの圧力で真空加圧し、1000℃、4時間、加熱処理を行い円盤型の酸化物焼結体(7)を得た(ホットプレス法)。
得られた酸化物焼結体(7)をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)であった。この酸化物焼結体(7)の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とチタン酸亜鉛(Zn2TiO4)の結晶相の混合物であり、酸化チタンは全く存在していなかった。
【0078】
次に、得られた酸化物焼結体(7)を50mmφの円盤状に加工することにより、ターゲットを作製し、これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(石英ガラス基板)とをそれぞれ設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
【0079】
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=97:3(Ti/(Zn+Ti)=0.03)であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0080】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は4.4×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は8.8Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均60%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
【0081】
(比較例3)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および酸化チタン粉末(Ti23(III);(株)高純度化学研究所製、純度99.99%)を原料粉末とし、これらをZn:Tiの原子数比が88:12となる割合で混合し、原料粉末の混合物を得た。混合操作後、ボールとエタノールを除去して得られた混合粉末を黒鉛からなる金型(ダイス)に入れ、黒鉛からなるパンチにて40MPaの圧力で真空加圧し、1000℃、4時間、加熱処理を行い円盤型の酸化物焼結体(C3)を得た。
得られた酸化物焼結体(C3)をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=88:12(Ti/(Zn+Ti)=0.12)であった。この酸化物焼結体(C3)の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とチタン酸亜鉛(Zn2TiO4)の結晶相の混合物であり、酸化チタンは全く存在していなかった。
【0082】
次に、得られた酸化物焼結体(C3)を50mmφの円盤状に加工することにより、ターゲットを作製し、これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(石英ガラス基板)とをそれぞれ設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
【0083】
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=88:12(Ti/(Zn+Ti)=0.12)であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかったが、結晶性は低下していた。
【0084】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は2.2×10-2Ω・cmであり、表面抵抗は440Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均66%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.1倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.1倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であるが高抵抗であることが明らかである。
【0085】
(比較例4)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および酸化チタン粉末(TiO(II);(株)高純度化学研究所製、純度99.99%)を原料粉末とし、これらをZn:Tiの原子数比が88:12となる割合で混合し、原料粉末の混合物を得た。混合操作後、ボールとエタノールを除去して得られた混合粉末を黒鉛からなる金型(ダイス)に入れ、黒鉛からなるパンチにて40MPaの圧力で真空加圧し、1000℃、4時間、加熱処理を行い円盤型の酸化物焼結体(C4)を得た。
得られた酸化物焼結体(C4)をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=88:12(Ti/(Zn+Ti)=0.12)であった。この酸化物焼結体(C4)の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とチタン酸亜鉛(Zn2TiO4)の結晶相の混合物であり、酸化チタンは全く存在していなかった。
【0086】
次に、得られた酸化物焼結体(C4)を50mmφの円盤状に加工することにより、ターゲットを作製し、これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(石英ガラス基板)とをそれぞれ設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
【0087】
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=88:12(Ti/(Zn+Ti)=0.12)であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかったが、結晶性は低下していた。
【0088】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は2.1×10-2Ω・cmであり、表面抵抗は420Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均66%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.1倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.1倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であるが高抵抗であることが明らかである。
【0089】
(実施例8)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および酸化チタン粉末(Ti23(III);(株)高純度化学研究所製、純度99.99%)を原料粉末とし、これらをZn:Tiの原子数比が93:7となる割合で混合し、原料粉末の混合物を得た。混合操作後、ボールとエタノールを除去して得られた混合粉末を黒鉛からなる金型(ダイス)に入れ、黒鉛からなるパンチにて40MPaの圧力で真空加圧し、1000℃、4時間、加熱処理を行い円盤型の酸化物焼結体(8)を得た(ホットプレス法)。
得られた酸化物焼結体(8)をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=93:7(Ti/(Zn+Ti)=0.07)であった。この酸化物焼結体(8)の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とチタン酸亜鉛(Zn2TiO4)の結晶相の混合物であり、酸化チタンは全く存在していなかった。
【0090】
次に、得られた酸化物焼結体(8)を50mmφの円盤状に加工することにより、ターゲットを作製し、これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(石英ガラス基板)とをそれぞれ設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
【0091】
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置(島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=93:7(Ti/(Zn+Ti)=0.07)であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0092】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は6.2×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は12.4Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均60%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.1倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
【0093】
(実施例9)
酸化亜鉛粉末(ZnO;和光純薬工業(株)製、特級)および酸化チタン粉末(TiO(II);(株)高純度化学研究所製、純度99.99%)を原料粉末とし、これらをZn:Tiの原子数比が93:7となる割合で混合し、原料粉末の混合物を得た。混合操作後、ボールとエタノールを除去して得られた混合粉末を黒鉛からなる金型(ダイス)に入れ、黒鉛からなるパンチにて40MPaの圧力で真空加圧し、1000℃、4時間、加熱処理を行い円盤型の酸化物焼結体(9)を得た(ホットプレス法)。
得られた酸化物焼結体(9)をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=93:7(Ti/(Zn+Ti)=0.07)であった。この酸化物焼結体(9)の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とチタン酸亜鉛(Zn2TiO4)の結晶相の混合物であり、酸化チタンは全く存在していなかった。
【0094】
次に、得られた酸化物焼結体(9)を50mmφの円盤状に加工することにより、ターゲットを作製し、これを用いてスパッタリング法により透明導電膜を成膜し、透明導電基板を得た。すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記ターゲットと透明基材(石英ガラス基板)とをそれぞれ設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度250℃の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。
【0095】
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=93:7(Ti/(Zn+Ti)=0.07)であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
【0096】
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は5.9×10-4Ω・cmであり、表面抵抗は11.8Ω/□であった。なお、透明基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の透過率は、可視領域(380nm〜780nm)で平均89%、赤外領域(780nm〜2700nm)で平均60%であった。なお、成膜前の石英ガラス基板の可視領域(380nm〜780nm)における透過率は平均94%であり、赤外領域(780nm〜2700nm)における透過率は平均94%であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.2倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.1倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法により酸化亜鉛系透明導電膜を形成する方法であって、実質的に亜鉛、チタンおよび酸素からなり、亜鉛とチタンとの合計に対するチタンの原子数比Ti/(Zn+Ti)が0.02を超え0.1以下である酸化物焼結体または酸化物混合体を加工して得られるターゲットを用いることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記チタンは、式TiO2-X(X=0.1〜1)で表される低原子価酸化チタン由来のチタンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法により形成されることを特徴とする酸化亜鉛系透明導電膜。
【請求項4】
透明基材上に、請求項3に記載の酸化亜鉛系透明導電膜を備えることを特徴とする透明導電性基板。
【請求項5】
前記透明基材が、ガラス板、樹脂フィルム又は樹脂シートである、請求項4に記載の透明導電性基板。

【公開番号】特開2012−132089(P2012−132089A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33805(P2011−33805)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(591141784)学校法人大阪産業大学 (49)
【Fターム(参考)】