説明

酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法、酸化物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心および磁性素子

【課題】表面を絶縁性の高い酸化物で被覆してなり、例えば、長期にわたって渦電流損失が小さく、高透磁率の圧粉磁心を製造可能な酸化物被覆軟磁性粉末を安価に製造することができる酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法、かかる製造方法により製造された酸化物被覆軟磁性粉末、およびこの粉末を用いて製造され、高透磁率で耐久性に優れた安価な圧粉磁心、およびこの圧粉磁心を備えた高性能の磁性素子を提供すること。
【解決手段】チョークコイル10は、圧粉磁心11と導線12とを有する。圧粉磁心11は、酸化物被覆軟磁性粉末と結合材とを混合し、加圧・成形して得られたものである。この酸化物被覆軟磁性粉末は、Feを主成分とする軟磁性材料の溶湯を、軟磁性材料の融点より200℃以上高温に設定し、10g/m以上の水蒸気を含む雰囲気下でアトマイズ法に供することにより、粉末化された溶湯の表面を酸化させて酸化物を生成することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法、酸化物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心および磁性素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パソコンのようなモバイル機器の小型化・軽量化が顕著である。また、例えば、ノート型パソコンの性能は、デスクトップ型パソコンの性能と遜色ない程度まで向上が図られつつある。
このように、モバイル機器の小型化および高性能化を図るためには、スイッチング電源の高周波数化が必要となる。このため、スイッチング電源の駆動周波数は、数100kHz程度まで高周波数化が進んでいる。また、それに伴い、モバイル機器に内蔵されたチョークコイルやインダクタ等の磁性素子の駆動周波数も高周波数化への対応が必要となる。
【0003】
しかしながら、これらの磁性素子の駆動周波数が高周波数化した場合、各磁性素子が備える磁心において、渦電流によるジュール損失(渦電流損失)が著しく増大するという問題が発生する。
かかる問題を解決するため、前述のような磁性素子が備える磁心として、軟磁性粉末と結合材(バインダ)との混合物を加圧・成形した圧粉磁心が使用されている。このような圧粉磁心では、軟磁性粉末の粒子間が絶縁性の結合材によって絶縁されるため、磁心に発生する渦電流がこの粒子間で分断されることとなる。このため、たとえ高い周波数で使用されたとしても、渦電流によるジュール損失、すなわち渦電流損失を減少させることができる。
【0004】
ところが、このような圧粉磁心においては、混合物を高い圧力で加圧・成形した際に、軟磁性粉末の粒子同士間に存在する結合材が断ち切れてしまい、この粒子間の絶縁性が低下する。このため、圧粉磁心の密度を高めることが困難となり、圧粉磁心の透磁率が低いという問題がある。
かかる問題を解決するため、軟磁性粉末の粒子の表面に、無機材料の表面層を形成する方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、粒径20〜100μmの磁性粉と、シリカ系ゾルを主体とする無機結合剤とを混合したのち、加熱して、前記磁性粉の表面を前記シリカ系ゾルの膜で被覆し、次いで、得られた磁性粉を成形したのち、得られた成形体を焼結することを特徴とする圧粉磁心の製造方法が提案されている。
ところが、このような方法で製造された圧粉磁心では、シリカ系ゾルの膜と磁性粉との密着強度が小さいため、これらの密着界面が剥離し易い。このため、高温・高湿等の過酷な環境下では、磁性粉の粒子同士の絶縁性を長期にわたって維持することができず、渦電流損失が徐々に増大してしまうという問題がある。
また、磁性粉の粒子表面にシリカ系ゾルの膜を形成するためのコストを多く必要とし、圧粉磁心の製造コストの上昇を招いている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−196217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、表面を絶縁性の高い酸化物で被覆してなり、例えば、長期にわたって渦電流損失が小さく、高透磁率の圧粉磁心を製造可能な酸化物被覆軟磁性粉末を安価に製造することができる酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法、かかる製造方法により製造された酸化物被覆軟磁性粉末、およびこの粉末を用いて製造され、高透磁率で耐食性に優れた安価な圧粉磁心、およびこの圧粉磁心を備えた高性能の磁性素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法は、Feを主成分とする軟磁性材料を溶融してなる溶湯を用い、アトマイズ法により前記軟磁性材料の粒子を製造する際に、
前記アトマイズ法の条件が、以下の(a)および(b)の条件を満たすことにより、前記粒子の表面に、前記軟磁性材料が酸化してなる酸化物で構成された被覆層を形成することを特徴とする。
(a)前記溶湯の温度は、前記軟磁性材料の融点をTm[℃]としたとき、Tm+200℃以上である
(b)水蒸気量10g/m以上の水蒸気含有雰囲気下で行う
これにより、表面を絶縁性の高い酸化物で被覆してなり、例えば、長期にわたって渦電流損失が小さく、高透磁率の圧粉磁心を低コストで製造可能な酸化物被覆軟磁性粉末が得られる。
【0009】
本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法では、前記水蒸気含有雰囲気は、噴霧された霧状の水を含んでいることが好ましい。
これにより、水蒸気含有雰囲気の酸化作用がより増強され、前記粒子の表面がさらに急速に酸化される。その結果、前記粒子の表面に、より多量の酸化物が生成される。
本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法は、Feを主成分とする軟磁性材料を溶融してなる溶湯を、前記軟磁性材料の融点より200℃以上高い温度に保持した状態で、アトマイズ装置の溶湯流路に投入し、該溶湯流路内で、前記溶湯を流体ジェットに衝突させることにより、前記軟磁性材料の粒子を製造する際に、
前記溶湯流路の投入口付近に霧状の水を噴霧して、該霧状の水を前記溶湯流路内に引き込ませることにより、前記粒子の表面に、前記軟磁性材料が酸化してなる酸化物で構成された被覆層を形成することを特徴とする。
これにより、表面を絶縁性の高い酸化物で被覆してなり、例えば、長期にわたって渦電流損失が小さく、高透磁率の圧粉磁心を低コストで製造可能な酸化物被覆軟磁性粉末が得られる。
【0010】
本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法では、前記霧状の水の温度は、30℃以上であることが好ましい。
これにより、霧状の水による酸化作用がより増強され、生成される酸化物の量がさらに増加する。
本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法では、前記霧状の水の平均粒径は、2〜50μmであることが好ましい。
これにより、霧状の水が沈降することなく、空気中に浮遊することができる。このため、霧状の水が空気の流れに乗り易くなり、霧状の水が前記粒子と均一に接触することができる。その結果、前記粒子が均一に酸化される。
【0011】
本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法では、前記軟磁性材料は、Si、AlおよびCrのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。
これらの元素は、Feよりも活性が高いため、これらの元素を含む軟磁性粒子が水蒸気含有雰囲気と接触すると、これらの元素が容易に酸化して、軟磁性粒子の表面に酸化物で構成された被覆層が形成される。これらの元素が酸化してなる酸化物は、酸化鉄よりも絶縁性が高く、かつ化学的に安定である。したがって、このような酸化物で構成された絶縁層を備えた酸化物被覆軟磁性粉末は、より渦電流損失が小さく、より耐食性の高い圧粉磁心を製造可能なものとなる。
【0012】
本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法では、前記軟磁性材料におけるSiの含有率は、2〜10wt%であることが好ましい。
これにより、透磁率を特に高めることができる。また、軟磁性材料の比抵抗がやや高くなるため、例えば、圧粉磁心に発生する誘導電流を低減し、渦電流損失を低減することができる。
【0013】
本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法では、前記軟磁性材料におけるAlの含有率は、2〜8wt%であることが好ましい。
これにより、透磁率を高めることができる。また、軟磁性材料の比抵抗がやや高くなるため、例えば、圧粉磁心に発生する誘導電流を低減し、渦電流損失を低減することができる。
【0014】
本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法では、前記軟磁性材料におけるCrの含有率は、3〜9wt%であることが好ましい。
これにより、軟磁性材料の比抵抗がやや高くなるため、圧粉磁心に発生する誘導電流を低減し、渦電流損失を低減することができる。
本発明の酸化物被覆軟磁性粉末は、本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法により製造されたことを特徴とする。
これにより、表面を絶縁性の高い酸化物で被覆してなり、例えば、長期にわたって渦電流損失が小さく、高透磁率の圧粉磁心を製造可能な酸化物被覆軟磁性粉末が得られる。
【0015】
本発明の酸化物被覆軟磁性粉末は、Feを主成分とする軟磁性材料で構成されたコア部と、
該コア部を覆うように設けられ、前記軟磁性材料を酸化してなる酸化物で構成された被覆層とを有し、
前記酸化物は、Feを含み、
酸素含有率が、4000ppm以上であることを特徴とする。
これにより、表面を絶縁性の高い酸化物で被覆してなり、例えば、長期にわたって渦電流損失が小さく、高透磁率の圧粉磁心を製造可能な酸化物被覆軟磁性粉末が得られる。
【0016】
本発明の圧粉磁心は、本発明の酸化物被覆軟磁性粉末と結合材との混合物を、加圧・成形して成形体を得た後、該成形体中の前記結合材を硬化させてなることを特徴とする。
これにより、高透磁率で耐食性に優れた安価な圧粉磁心が得られる。
本発明の圧粉磁心では、前記酸化物被覆軟磁性粉末に対する前記結合材の含有率は、0.5〜5wt%であることが好ましい。
これにより、酸化物被覆軟磁性粉末の各粒子同士をより確実に絶縁しつつ、圧粉磁心の密度をある程度確保して、圧粉磁心の透磁率が著しく低下するのを防止することができる。その結果、透磁率が高く、かつ低損失の圧粉磁心が得られる。
【0017】
本発明の圧粉磁心は、本発明の酸化物被覆軟磁性粉末を、加圧・成形して成形体を得た後、該成形体を焼成してなることを特徴とする。
これにより、特に高密度で高透磁率の圧粉磁心が得られる。また、圧粉磁心の内部に隙間が生じ難くなる。このため、圧粉磁心の機械的特性が向上するとともに、圧粉磁心内の隙間に大気中の水分等を取り込むおそれがなくなるので、圧粉磁心の耐食性がより向上する。
本発明の磁性素子は、本発明の圧粉磁心を備えたことを特徴とする。
これにより、高性能の磁性素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法、酸化物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心および磁性素子について、添付図面に示す好適な実施形態に基づいて説明する。
本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法は、Feを主成分とする軟磁性材料を溶融してなる溶湯(溶融物)を、以下の(a)および(b)の条件を全て満たすアトマイズ法により粉末化することにより、粉末化された溶湯の表面を酸化させて酸化物を生成し、この酸化物で構成された被覆層を表面に備えた粒子を製造する方法である。
【0019】
(a)溶湯の温度は、軟磁性材料の融点をTm[℃]としたとき、Tm+200℃以上である
(b)水蒸気量10g/m以上の水蒸気含有雰囲気下で、前記粉末化を行う
このような酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法により製造された粒子は、表面を絶縁性の高い酸化物で被覆されているため、粒子間の絶縁性が確保されている。このため、このような酸化物被覆軟磁性粉末を加圧して、所定の形状に成形することにより、例えば、長期にわたって渦電流損失が小さく、高透磁率の圧粉磁心を製造することができる。
【0020】
また、本発明によれば、単に、前記(a)および(b)の各条件を満足するようにアトマイズ法による粉末化を行うことにより、上記のような磁気特性および耐候性に優れた圧粉磁心を製造可能な軟磁性粉末を製造することができる。すなわち、表面を被覆する絶縁性材料を添加する等の多大な手間やコストを必要とする工程を追加することなく、簡単な製造装置を用いて、前述のような軟磁性粉末を容易に製造することができる。このため、軟磁性粉末の製造工程の短縮および低コスト化を図ることができる。
以下、この酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法について説明する前に、この製造方法に用いることのできる金属粉末製造装置(アトマイズ装置)について説明する。なお、以下では、一例として、水アトマイズ法を用いる金属粉末製造装置について説明する。
【0021】
図1は、金属粉末製造装置の構成を示す模式図(縦断面図)、図2は、図1中の一点鎖線で囲まれた領域[A]の拡大詳細図(模式図)である。なお、以下の説明では、図1および図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図1に示す金属粉末製造装置1は、溶湯Qを水アトマイズ法により粉末化して、金属粉末Rを得るために用いられるものである。このような金属粉末製造装置1は、溶湯Qを貯留し、供給する供給部(タンディシュ)2と、供給部2の下方に設けられたノズル3とを有している。
【0022】
以下、各部の構成について説明する。
供給部2は、図1に示すように、有底筒状をなす部分を有している。この部分の内部空間22には、製造すべき軟磁性粉末の原材料(軟磁性材料)を溶融した溶湯Qが一時的に収納される。
また、前記部分の底部21の中央部には、吐出口23が設けられている。この吐出口23からは、内部空間22内の溶湯Qが下方に向かって自然落下により吐出される。
【0023】
供給部2の下方には、ノズル3が設けられている。
このノズル3には、供給部2から供給された(吐出された)溶湯Qが通過する第1の流路(溶湯流路)31と、水を供給する給水源(図示せず)からの水Sが通過する第2の流路32とが形成されている。
このうち、第1の流路31は、横断面形状が円形をなしており、ノズル3の中央部に、鉛直方向に沿って形成されている。
【0024】
この第1の流路31は、図1に示すように、内径が上端面41から下方に向かって漸減する、すなわち、収斂形状をなす内径漸減部33を有している。この内径漸減部33では、ノズル3の上方の空気(気体)Gが、後述するオリフィス34から噴射した水Sの流れに引き込まれる。内径漸減部33に引き込まれた空気Gは、内径漸減部33の内径が最小となる部分331(本実施形態では、オリフィス34が開口する部分)付近で、その流速が最大となる。このような空気Gの流れが生じることにより、第1の流路31の圧力(気圧)は、上方からこの部分331に向かって徐々に低下する。
【0025】
したがって、吐出口23から吐出された溶湯Qが、第1の流路31の上端の投入口から投入され、第1の流路31を通過する際に、上記のような減圧された領域を通過する。この通過の際、溶湯Qが密集しようとする力よりも周囲の減圧の程度が大きくなると、溶湯Qが飛散(一次分裂)する。そして、溶湯Qは、多数の液滴Q1となる。
なお、第1の流路31において、このように溶湯Qが飛散(一次分裂)する位置を、「一次分裂位置」と言う。
【0026】
また、本実施形態では、内径漸減部33の内径が最小となる部分331付近で、溶湯Qが一次分裂するとしたが、この位置(一次分裂位置)は、内径漸減部33やオリフィス34の形状等に応じて変化するため、前述の位置に限定されない。
第2の流路32は、図2に示すように、第1の流路31の下端部に開口するオリフィス34と、水Sを一時的に貯留する貯留部35と、貯留部35からオリフィス34に水Sを導入する導入路36とにより構成されている。
【0027】
貯留部35は、前記給水源に接続され、当該給水源から水Sが供給される部位である。この貯留部35は、導入路36を介して、オリフィス34と連通している。
導入路36は、その縦断面形状がくさび状をなす部位である。導入路36がこのような形状をなしていることにより、貯留部35から流入した水Sの流速を徐々に高めることができる。これにより、この流速が高まった状態の水Sを、オリフィス34から安定して噴射することができる。
【0028】
オリフィス34は、貯留部35、導入路36を順に通過した水Sを、第1の流路31に噴射(噴出)する部位である。
このオリフィス34は、第1の流路31の内周面の全周にわたってスリット状に開口している。また、オリフィス34は、第1の流路31の中心軸Oに対して傾斜する方向に開口している。
【0029】
このように形成されたオリフィス34により、水Sは、頂部S2が下方に位置し、ほぼ円錐形状をなす水ジェットS1として噴射される(図1参照)。この水ジェットS1に液滴Q1が接触して飛散(二次分裂)され、さらに微細化される。
また、この際、液滴Q1は、冷却・固化される。これにより、金属粉末Rが製造される。
【0030】
このようにして製造された金属粉末Rは、金属粉末製造装置1の下部に設けられた容器(図示せず)に回収される。
このような第1の流路31および第2の流路32を有するノズル3は、図1に示すように、円盤状(リング状)の第1の部材4と、第1の部材4と同心的に設けられた円盤状(リング状)の第2の部材5とで構成されている。第2の部材5は、第1の部材4の下方に間隙37を介して設けられている。
【0031】
すなわち、このように配置された第1の部材4と第2の部材5とにより、第2の流路32、すなわち、オリフィス34、導入路36および貯留部35が画成される。
第1の部材4および第2の部材5の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、各種金属材料を用いることができ、特に、ステンレス鋼を用いるのが好ましい。
また、第2の部材5の下端面51には、図1に示すように、筒体で構成されたカバー7が設けられている。このカバー7は、第1の流路31と同心的に設けられている。
【0032】
このカバー7により、下方に落下する金属粉末Rの飛散を防止することができ、よって、金属粉末Rを前記容器に確実に回収することができる。
なお、カバー7は、第2の部材5の下端面51に気密的に接続されているのが好ましい。これにより、カバー7内に外気が流入するのを防止することができる。その結果、液滴Q1が二次分裂する際に、液滴Q1に外気が接触して、液滴Q1が酸化・変質してしまうのを確実に防止することができる。
【0033】
さらに、金属粉末製造装置1は、気密容器9を有している。そして、上述した供給部2、ノズル3およびカバー7は、それぞれ、この気密容器9の内部空間に配置されている。
ここで、この気密容器9内の雰囲気は、水蒸気量10g/m以上の水蒸気含有雰囲気とされる。すなわち、第1の流路31に引き込まれる空気Gが、この水蒸気含有雰囲気となっている。なお、水蒸気含有雰囲気中の水蒸気量は、10g/m以上とされるが、15g/m以上であるのが好ましい。このような多量の水蒸気を含んだ雰囲気に液滴Q1が接触すると、水蒸気の酸化作用によって、液滴Q1の表面が急速に酸化される。その結果、酸化物で構成された被覆層を表面に備えた粒子、すなわち、本発明の酸化物被覆軟磁性粉末を製造することができる。さらに、相対湿度が80%以上であるのが好ましく、95%以上であるのがより好ましい。これにより、水蒸気の酸化作用がさらに増大する。
【0034】
また、気密容器9内のノズル3上には、さらに、噴霧装置8が設けられている。噴霧装置8は、水を微小なミストMとして噴霧する装置(手段)である。この噴霧装置8により、前述の水蒸気含有雰囲気に、水のミストMが供給されることとなる。これにより、第1の流路31に引き込まれる空気Gは、水のミストMを含んだ水蒸気含有雰囲気となっている。
【0035】
なお、第1の流路31に引き込まれる空気Gが、水のミストMを含んでいる場合には、前記アトマイズ法の条件(b)は、必ずしも満足しなくてもよい。このような場合でも、前述したような作用・効果を有する酸化物被覆軟磁性粉末が得られる。
また、本実施形態では、液滴Q1に水ジェットS1を衝突させる場合について説明したが、水ジェットS1は、他の流体(液体または気体)のジェットに置き換えられてもよい。
【0036】
次に、上記のような金属粉末製造装置1を用いて、酸化物被覆軟磁性粉末を製造する方法(本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法)について詳細に説明する。
[1]まず、軟磁性材料を溶融して、溶湯Qを得る。
[2]次に、この溶湯Qを金属粉末製造装置1の供給部2に投入し、第1の流路31の内径漸減部33に向けて吐出口23から溶湯Qを吐出する。
【0037】
このとき、オリフィス34から水ジェットS1をあらかじめ噴射した状態にしておく。吐出口23から吐出された溶湯Qは、内径漸減部33を通過しつつ、内径漸減部33の内径が最小となる部分331付近で一次分裂する。これにより、液滴Q1が生成される。
ここで、水ジェットS1により内径漸減部33に空気Gが引き込まれるが、この空気Gは、前述したように多量の水蒸気を含んでいる。このような多量の水蒸気を含んだ雰囲気に液滴Q1が曝されると、水蒸気の酸化作用により、液滴Q1の表面が急速に酸化される。これにより、液滴Q1の表面付近に、軟磁性材料の酸化物が生成される。
また、図1に示す金属粉末製造装置1では、空気Gに水のミストMを含んでいるため、水蒸気含有雰囲気の酸化作用がより増強され、液滴Q1の表面がさらに急速に酸化される。これにより、液滴Q1の表面に、より多量の酸化物が生成される。
【0038】
[3]このような液滴Q1は、水ジェットS1と衝突して、さらに微細化されるとともに、急激に冷却されて固化に至る(アトマイズ法)。
ここで、液滴Q1が水ジェットS1と衝突した際に、液滴Q1はさらに微細化されるが、このとき、表面に現れた溶融部分は、水蒸気含有雰囲気に曝されて急速に酸化する。
【0039】
一方、液滴Q1の内部(コア部)は、水蒸気含有雰囲気に触れないので、酸化されることなく、固化に至る。このため、内部の磁気特性は、原材料である軟磁性材料の磁気特性が維持される。
その結果、表面に、軟磁性材料の酸化物で構成された被覆層を備えた軟磁性粒子、すなわち本発明の酸化物被覆軟磁性粉末(図1に示す金属粉末R)が得られる。
【0040】
このようにして形成された被覆層は、優れた絶縁性と高い硬度を有する。
また、この被覆層は、軟磁性粒子の表面の一部が酸化して形成されたものであるため、被覆層とその内側の部分(コア部)とは、強固に結合している。このため、被覆層とコア部との間に剥離が生じ難くなり、軟磁性粒子同士の絶縁性を長期にわたって維持することができる。
【0041】
このようなことから、上記のような被覆層を備えた酸化物被覆軟磁性粉末は、加圧・成形された圧粉磁心となったときに、酸化物被覆軟磁性粉末の各粒子の内部に位置するコア部が、被覆層を介して確実に絶縁される。したがって、この圧粉磁心では、発生する渦電流がこの粒子間で分断されることとなり、たとえ高い周波数で長期にわたって使用された場合でも、渦電流によるジュール損失、すなわち渦電流損失を確実に減少させることができる。すなわち、本発明の酸化物被覆軟磁性粉末は、渦電流損失を長期にわたって確実に減少させることのできる耐食性の高い圧粉磁心を製造可能なものである。
【0042】
また、酸化物被覆軟磁性粉末が備える被覆層の硬度が高いことから、酸化物被覆軟磁性粉末を加圧・成形する際に、より高い圧力で加圧しても、被覆層が断ち切れることが防止される。このため、酸化物被覆軟磁性粉末を、より高い圧力で成形することが可能となり、渦電流損失を増加させることなく、高密度の圧粉磁心が得られる。このような高密度の圧粉磁心は、透磁率の高い高性能なものとなる。
【0043】
また、前述したように、本発明によれば、上記のような酸化物被覆軟磁性粉末を、一般的なアトマイズ法に、多大な手間やコストを必要とする工程を追加することなく容易に製造することができる。したがって、このような酸化物被覆軟磁性粉末を用いることにより、安価な圧粉磁心を製造することができる。
ところで、本発明に用いる軟磁性材料は、Feを主成分とする軟磁性材料であるので、上記の被覆層は、酸化鉄を含んだものとなる。
【0044】
この酸化鉄には、Feの価数によって、FeO(一酸化一鉄)、Fe(三酸化二鉄)、Fe(四酸化三鉄)等の組成の異なる酸化鉄がある。これらの酸化鉄は、金属軟磁性材料に比べて絶縁性が高いため、粒子の表面が酸化鉄で被覆されると、粒子の絶縁性が確保されることとなる。これにより、複数の粒子間にわたって渦電流が発生し、渦電流損失が増大するのを防止することができる。
【0045】
このうち、酸化鉄は、Feを主成分とするものが好ましい。Feは、他の組成の酸化鉄と比べ、硬度が高く、耐食性に富んでいる。このため、Feを主成分とする酸化鉄で構成された被覆層を備えた酸化物被覆軟磁性粉末は、より高い圧力で成形することが可能となり、より高密度・高透磁率の圧粉磁心を製造することができる。また、この圧粉磁心は、長期にわたって高い耐食性を示すものとなる。
【0046】
さらに、Feは、強磁性を示す磁性材料である。このため、被覆層中にFeが含まれていると、酸化物被覆軟磁性粉末の透磁率や磁束密度等の磁気特性をより高めることができる。その結果、磁気特性に優れた圧粉磁心が得られる。
なお、本発明によれば、このようなFeを容易に効率よく生成することができる。
【0047】
また、特に、水アトマイズ法を用いる金属粉末製造装置1では、製造された粉末が、水ジェットS1として噴射された水に懸濁した状態で回収される。このとき、粉末の表面に被覆層がない場合、軟磁性材料が水の作用によって酸化してしまうおそれがある。このように、水との接触で比較的ゆっくりと酸化した場合、粉末の表面に、Feを主成分とする「赤さび」が発生する。この「赤さび」は、硬度が低いため、赤さびの付着した粉末を高い圧力で成形すると、粒子間の絶縁性が損なわれるおそれがある。
【0048】
これに対し、被覆層中にFeが含まれていると、酸化物被覆軟磁性粉末が水に懸濁した状態で保持されても、軟磁性材料で構成されたコア部と水とが接触しないので、上記のような赤さびの発生を防止することができる。
ここで、溶湯Qの温度は、軟磁性材料の融点をTm[℃]としたとき、Tm+200℃以上とされるが、Tm+300℃以上であるのが好ましい。このように、溶湯Qの温度を非常に高く設定することにより、液滴Q1の温度も高くなるので、液滴Q1が固化に至るまでの時間をより長く確保することができる。これにより、液滴Q1が水ジェットS1に衝突するまでの時間をより長くすることができ、液滴Q1の酸化を、より内部にまで進行させることができる。その結果、液滴Q1には、より多量の酸化物が生成され、より厚さの厚い被覆層を備えた金属粉末Rが得られる。
【0049】
また、前記工程[2]で空気Gが含む水のミストMは、その温度が30℃以上であるのが好ましく、40℃以上であるのがより好ましい。空気Gがこのように高温のミストMを含んでいることにより、ミストMによる酸化作用がより増強され、生成される酸化物の量がさらに増加する。
また、ミストMの平均粒径は、2〜50μm程度であるのが好ましく、2〜30μm程度であるのがより好ましい。ミストMの平均粒径を前記範囲内に設定することにより、ミストMが沈降することなく空気G中に浮遊することができる。このため、ミストMが空気Gの流れに乗り易くなり、ミストMが液滴Q1と均一に接触することができる。その結果、液滴Q1が均一に酸化される。
【0050】
また、ミストMは、水以外に、液滴Q1の酸化を促進する酸化促進剤を含んでいるのが好ましい。これにより、ミストMによる酸化作用がさらに増強され、生成される酸化物の量がさらに増加する。
かかる酸化促進剤としては、例えば、硝酸、過酸化水素のような酸化剤や、塩化ナトリウム、塩化カルシウムのような塩化物等が挙げられる。
【0051】
また、ミストMの水は、その水素イオン濃度(pH)が、6以下であるのが好ましく、5以下であるのがより好ましい。これにより、ミストMによる酸化作用がさらに増強される。
なお、液滴Q1と衝突させる水ジェットS1の圧力は、特に限定されないが、好ましくは75〜120MPa(750〜1200kgf/cm)程度とされ、より好ましくは、90〜120MPa(900〜1200kgf/cm)程度とされる。
【0052】
また、水ジェットS1の水温も、特に限定されないが、好ましくは1〜20℃程度とされる。
また、図1に示す水ジェットS1が形成する円錐の頂角θは、10〜40°程度であるのが好ましく、15〜35°程度であるのがより好ましい。これにより、液滴Q1に水ジェットS1を均一に衝突させることができる。その結果、液滴Q1の各粒子に生成される酸化物の量のバラツキを抑制することができ、渦電流損失を確実に低減し得る圧粉磁心が得られる。
【0053】
なお、前述のアトマイズ法では、溶湯Qを自然落下させつつ、水ジェットS1に衝突させるが、落下させる溶湯Qの流量(供給量)は、2〜10kg/分程度であるのが好ましく、5〜8kg/分程度であるのがより好ましい。
ところで、本発明に用いる軟磁性材料は、Feを主成分とし、軟磁性を示す磁性材料であるが、この軟磁性材料は、Feの他に、B、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Ta等のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0054】
このうち、Si、AlおよびCrのうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。これらの元素はFeよりも酸化性が高いため、これらの元素を含む軟磁性粒子が水蒸気含有雰囲気と接触すると、これらの元素が容易に酸化して、軟磁性粒子の表面に酸化物で構成された被覆層が形成される。これらの元素が酸化してなる酸化物は、酸化鉄よりも絶縁性が高く、かつ化学的に安定である。したがって、このような酸化物で構成された被覆層を備えた酸化物被覆軟磁性粉末は、より渦電流損失が小さく、より耐食性の高い圧粉磁心を製造可能なものとなる。
【0055】
また、軟磁性材料がSiを含む場合、軟磁性材料におけるSiの含有率は、2〜10wt%程度であるのが好ましく、3〜9wt%程度であるのがより好ましい。Siの含有率を前記範囲内に設定することにより、透磁率を特に高めることができる。また、軟磁性材料の比抵抗がやや高くなるため、圧粉磁心に発生する誘導電流を低減し、渦電流損失を低減することができる。
【0056】
なお、Siの含有率が前記上限値を上回った場合、軟磁性粒子の硬度が高くなり過ぎるおそれがある。軟磁性粒子の硬度が高くなり過ぎると、酸化物被覆軟磁性粉末を成形する際に、軟磁性粒子の塑性変形が期待できなくなるので、成形体すなわち圧粉磁心の密度が十分に高くならないおそれがある。
また、軟磁性材料がAlを含む場合、軟磁性材料におけるAlの含有率は、2〜8wt%程度であるのが好ましく、3〜7wt%程度であるのがより好ましい。Alの含有率を前記範囲内に設定することにより、透磁率を特に高めることができる。また、軟磁性材料の比抵抗がやや高くなるため、圧粉磁心に発生する誘導電流を低減し、渦電流損失を低減することができる。
【0057】
また、軟磁性材料がCrを含む場合、軟磁性材料におけるCrの含有率は、3〜9wt%程度であるのが好ましく、4〜8wt%程度であるのがより好ましい。Crの含有率を前記範囲内に設定することにより、軟磁性材料の比抵抗がやや高くなるため、圧粉磁心に発生する誘導電流を低減し、渦電流損失を低減することができる。
なお、このような酸化物被覆軟磁性粉末は、その他の成分、例えば、製造過程で不可避的に混入するC(炭素)、P(リン)、S(硫黄)等の成分を含んでいてもよい。その場合、その他の成分の含有率の総和は、1wt%以下とするのが好ましい。
【0058】
このようにして製造された酸化物被覆軟磁性粉末の平均粒径は、5〜30μm程度であるのが好ましく、7〜25μm程度であるのがより好ましく、8〜20μm程度であるのがさらに好ましい。このように平均粒径が小さい軟磁性粉末を用いて圧粉磁心を製造した場合、渦電流が流れる経路が特に短くなるため、圧粉磁心の渦電流損失のさらなる低減を図ることができる。
【0059】
なお、酸化物被覆軟磁性粉末の平均粒径が前記下限値を下回った場合、軟磁性粉末の成形性が低下するため、得られる圧粉磁心の密度が低下し、これにより、圧粉磁心の透磁率が低下するおそれがある。一方、酸化物被覆軟磁性粉末の平均粒径が前記上限値を上回った場合、圧粉磁心中で渦電流が流れる経路が著しく長くなるため、渦電流損失が急激に増大するおそれがある。
【0060】
また、酸化物被覆軟磁性粉末の各粒子における酸素含有率は、4000ppm以上であるのが好ましく、5000ppm以上であるのがより好ましい。このような酸素含有率の高い酸化物被覆軟磁性粉末を用いることにより、渦電流損失を確実に低減し得る圧粉磁心が得られる。
なお、酸化物被覆軟磁性粉末の各粒子において、酸化物で被覆された被覆層の平均厚さは、特に限定されないが、5〜50nm程度であるのが好ましく、20〜50nm程度であるのがより好ましい。これにより、各粒子間の絶縁が十分に確保される。
【0061】
[圧粉磁心および磁性素子]
本発明の磁性素子は、チョークコイル、インダクタ、ノイズフィルタ、リアクトル、モータ、発電機のように、磁心を備えた各種磁性素子(電磁気部品)に適用可能である。すなわち、本発明の圧粉磁心は、これらの磁性素子が備える圧粉磁心に適用可能である。
以下、磁性素子の一例として、2種類のチョークコイルを代表に説明する。
【0062】
<第1実施形態>
まず、チョークコイル(本発明の磁性素子)の第1実施形態について説明する。
図3は、チョークコイルの第1実施形態を示す模式図(平面図)である。
図3に示すチョークコイル10は、リング状(トロイダル形状)の圧粉磁心11と、この圧粉磁心11に巻き回された導線12とを有する。このようなチョークコイル10は、一般に、トロイダルコイルと称される。
【0063】
圧粉磁心11は、本発明の酸化物被覆軟磁性粉末と結合材(バインダ)と有機溶媒とを混合し、得られた混合物を成形型に供給するとともに、加圧・成形して得られたものである。
圧粉磁心11の作製に用いられる結合材の構成材料としては、例えば、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等の有機バインダ、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カドミウムのようなリン酸塩、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩(水ガラス)等の無機バインダ等が挙げられるが、特に、熱硬化性ポリイミドまたはエポキシ系樹脂が好ましい。これらの樹脂材料は、加熱されることによって容易に硬化するとともに、耐熱性に優れたものである。したがって、圧粉磁心11の製造容易性および耐熱性を高めることができる。
【0064】
また、酸化物被覆軟磁性粉末に対する結合材の割合は、作製する圧粉磁心11の目的とする磁束密度や、許容される渦電流損失等に応じて若干異なるが、0.5〜5wt%程度であるのが好ましく、1〜3wt%程度であるのがより好ましい。これにより、酸化物被覆軟磁性粉末の各粒子同士をより確実に絶縁しつつ、圧粉磁心11の密度をある程度確保して、圧粉磁心11の透磁率が著しく低下するのを防止することができる。その結果、透磁率が高く、かつ低損失の圧粉磁心11が得られる。
また、有機溶媒としては、結合材を溶解し得るものであれば特に限定されないが、例えば、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル等の各種溶媒が挙げられる。
なお、前記混合物中には、必要に応じて、任意の目的で各種添加剤を添加するようにしてもよい。
【0065】
以上のような結合材により、軟磁性粉末の表面が被覆されている。これにより、軟磁性粉末の各粒子は、それぞれ絶縁性の結合材によって絶縁されているため、圧粉磁心11に高周波数で変化する磁場を付与しても、この磁場変化に対する電磁誘導で発生する起電力に伴う誘導電流は、各粒子の比較的狭い領域にしか及ばない。このため、この誘導電流によるジュール損失を小さく抑えることができる。
また、このジュール損失は、圧粉磁心11の発熱を招くこととなるため、ジュール損失を抑えることにより、チョークコイル10の発熱量を減らすこともできる。
【0066】
一方、導線12の構成材料としては、導電性の高い材料が挙げられ、例えば、Cu、Al、Ag、Au、Ni等の金属材料、またはかかる金属材料を含む合金等が挙げられる。
なお、導線12の表面に、絶縁性を有する表面層を備えているのが好ましい。これにより、圧粉磁心11と導線12との短絡をより確実に防止することができる。
かかる表面層の構成材料としては、例えば、各種樹脂材料等が挙げられる。
【0067】
次に、チョークコイル10の製造方法について説明する。
まず、本発明の酸化物被覆軟磁性粉末と、結合材と、各種添加剤と、有機溶媒とを混合し、混合物を得る。
次いで、得られた混合物を乾燥させて塊状の乾燥体を得た後、この乾燥体を粉砕することにより、造粒粉を形成する。
【0068】
次に、この混合物または造粒粉を、作製すべき圧粉磁心の形状に成形し、成形体を得る。
この場合の成形方法としては、特に限定されないが、例えば、プレス成形、押出成形、射出成形等の方法が挙げられる。
なお、この成形体の形状寸法は、以後の成形体を加熱した際の収縮分を見込んで決定される。
【0069】
次に、得られた成形体を加熱することにより、成形体中の結合材を硬化させ、圧粉磁心11を得る。
このときの加熱温度は、結合材の組成等に応じて若干異なるものの、結合材が有機バインダで構成されている場合、好ましくは100〜250℃程度とされ、より好ましくは120〜200℃程度とされる。
【0070】
また、加熱時間は、加熱温度に応じて異なるものの、0.5〜5時間程度とされる。
なお、上述したチョークコイル10では、酸化物被覆軟磁性粉末の粒子同士を結合材で結着することにより圧粉磁心11を得ているが、酸化物被覆軟磁性粉末の各粒子同士を焼結させることにより圧粉磁心11を得るようにしてもよい。
以下、酸化物被覆軟磁性粉末の各粒子同士を焼結させることにより圧粉磁心11を得る方法について説明する。
【0071】
まず、本発明の酸化物被覆軟磁性粉末と、結合材と、各種添加剤と、有機溶媒とを混合し、混合物を得る。
ここで用いる結合材としては、熱分解するものであればよく、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、エチレンビスステアロアミド、エチレンビニル共重合体、パラフィン、ワックス、アルギン酸ソーダ、寒天、アラビアゴム、レジン、しょ糖等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0072】
次いで、得られた混合物を乾燥させて塊状の乾燥体を得た後、この乾燥体を粉砕することにより、造粒粉を形成する。
次に、この混合物または造粒粉を、作製すべき圧粉磁心の形状に成形し、成形体を得る。
この場合の成形方法としては、特に限定されないが、例えば、プレス成形、押出成形、射出成形等の方法が挙げられる。
なお、この成形体の形状寸法は、以後の成形体を加熱した際の収縮分を見込んで決定される。
【0073】
次に、得られた成形体を加熱することにより、成形体中の結合材を分解・除去(脱脂)し、脱脂体を得る。
このときの加熱温度は、結合材の組成等に応じて若干異なるものの、300〜900℃程度であるのが好ましく、400〜700℃程度であるのがより好ましい。
また、加熱時間は、特に限定されず、例えば0.5〜10時間程度とされる。
【0074】
次に、得られた脱脂体を加熱することにより、成形体中の酸化物被覆軟磁性粉末の各粒子に含まれた被覆層同士が焼結し、固着する。その結果、結合材をほとんど含まない、特に高密度の圧粉磁心が得られる。このような圧粉磁心は、透磁率が特に高いものとなる。
また、酸化物被覆軟磁性粉末の各粒子同士の間に結合材を介していないので、圧粉磁心の内部に隙間が生じ難くなる。このため、圧粉磁心の機械的特性が向上するとともに、圧粉磁心内の隙間に大気中の水分等を取り込むおそれがなくなるので、圧粉磁心の耐食性がより向上する。
このときの加熱温度は、被覆層を構成する酸化物の焼結温度以上であればよく、例えば、800〜1200℃程度であるのが好ましく、900〜1100℃程度であるのがより好ましい。
また、加熱時間は、特に限定されず、例えば0.5〜10時間程度とされる。
【0075】
以上により、本発明の酸化物被覆軟磁性粉末を加圧・成形してなる圧粉磁心(本発明の圧粉磁心)11は、高透磁率かつ低損失で、耐食性の高いものとなる。このため、かかる圧粉磁心11の外周面に沿って導線12を巻き回してなるチョークコイル(本発明の磁性素子)10は、長期にわたって高周波数化に対応することができる。また、小型化や定格電流の増大を図ることができ、発熱量の低減を容易に実現することができる。
【0076】
<第2実施形態>
次に、チョークコイル(磁性素子)の第2実施形態について説明する。
図4は、チョークコイルの第2実施形態を示す模式図(斜視図)である。
以下、第2実施形態にかかるチョークコイルについて説明するが、それぞれ、前記第1実施形態にかかるチョークコイルとの相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0077】
本実施形態にかかるチョークコイル100は、図4に示すように、コイル状に成形された導線120を、圧粉磁心110の内部に埋設してなるものである。すなわち、チョークコイル100は、導線120を圧粉磁心110でモールドしてなる。
このような形態のチョークコイル100は、比較的小型のものが容易に得られる。そして、このような小型のチョークコイル100を製造する場合、透磁率および磁束密度が高く、かつ、損失の小さい圧粉磁心110が、その作用・効果をより有効に発揮する。すなわち、より小型であるにもかかわらず、大電流に対応可能な低損失・低発熱のチョークコイル100が得られる。
【0078】
また、導線120が圧粉磁心110の内部に埋設されているため、導線120と圧粉磁心110との間に隙間が生じ難い。このため、圧粉磁心110の磁歪による振動を抑制し、この振動に伴う騒音の発生を抑制することもできる。
以上のような本実施形態にかかるチョークコイル100を製造する場合、まず、成形型のキャビティ内に導線120を配置するとともに、キャビティ内を本発明の酸化物被覆軟磁性粉末で充填する。すなわち、導線120を包含するように、軟磁性粉末を充填する。
【0079】
次に、導線120とともに、軟磁性粉末を加圧して成形体を得る。
次いで、前記第1実施形態と同様に、この成形体に熱処理を施す。これにより、チョークコイル100が得られる。
以上、本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法、酸化物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心および磁性素子について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、前記実施形態では、本発明の磁性素子としてチョークコイルを例に説明したが、圧粉磁心を備える他の磁性素子においても、上記と同様の作用・効果が得られる。
また、酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法では、必要に応じて、任意の工程を追加することもできる。
【実施例】
【0080】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.圧粉磁心および磁性素子の製造
(実施例1)
[1]まず、表1に示す組成で原材料を調製した。そして、得られた原材料を高周波誘導炉で溶融するとともに、水アトマイズ法により粉末化して、平均粒径10μmの酸化物被覆軟磁性粉末を得た。なお、水アトマイズ法の条件は、以下の通りである。
【0081】
<水アトマイズ法の条件>
・水ジェットの圧力 :100MPa(1000kgf/cm
・水ジェットの温度 :15℃
・水ジェットの頂角 :30°
・溶湯の温度 :1800℃
・溶湯の流量 :3kg/分
・雰囲気 :水蒸気含有雰囲気(水蒸気量:16g/m、温度:20℃)
・水のミストの供給 :あり
・水のミストの温度 :40℃
・水のミストの平均粒径:10μm
【0082】
[2]次に、得られた酸化物被覆軟磁性粉末について、粒度分布および平均粒径測定を行った。なお、この測定は、レーザー回折方式の粒度分布測定装置(マイクロトラック、日機装株式会社製、HRA9320−X100)により行った。そして、粒度分布から軟磁性粉末の平均粒径を求めた。
また、得られた酸化物被覆軟磁性粉末について、X線光電子分光装置により定性分析を行ったところ、酸化物としてFeが多く含まれていることがわかった。
【0083】
[3]次に、得られた軟磁性粉末と、エポキシ樹脂(結合材)、トルエン(有機溶媒)とを混合して、混合物を得た。なお、エポキシ樹脂の添加量は、軟磁性粉末に対して2wt%とした。
[4]次に、得られた混合物を撹拌したのち、温度60℃で1時間加熱して乾燥させ、塊状の乾燥体を得た。次いで、この乾燥体を、目開き500μmのふるいにかけ、乾燥体を粉砕して、造粒粉末を得た。
【0084】
[5]次に、得られた造粒粉末を、成形型に充填し、下記の成形条件に基づいて成形体を得た。
<成形条件>
・成形方法 :プレス成形
・成形体の形状:リング状
・成形体の寸法:外径28mm、内径14mm、厚さ5mm
・成形圧力 :5t/cm(490MPa)
【0085】
[6]次に、成形体を、大気雰囲気中において、温度150℃で1時間加熱して、結合材を硬化させた。これにより、圧粉磁心を得た。
[7]次に、得られた圧粉磁心を用い、以下の作製条件に基づいて、図3に示すチョークコイル(磁性素子)を作製した。
<コイル作製条件>
・導線の構成材料:Cu
・巻き線数 :10ターン
【0086】
(実施例2〜11)
酸化物被覆軟磁性粉末として、表1に示す製造条件で製造された粉末をそれぞれ用いた以外は、前記実施例1と同様にして圧粉磁心を得、この圧粉磁心を用いてチョークコイルを得た。
また、X線光電子分光装置による定性分析の結果に基づき、酸化物として主に含まれていた成分を、それぞれ表1に示す。
【0087】
(比較例1〜3)
酸化物被覆軟磁性粉末として、表1に示す製造条件で製造された粉末をそれぞれ用いた以外は、前記実施例1と同様にして圧粉磁心を得、この圧粉磁心を用いてチョークコイルを得た。
また、X線光電子分光装置による定性分析の結果に基づき、酸化物として主に含まれていた成分を、それぞれ表1に示す。
【0088】
2.評価
2.1 酸素含有率の測定
各実施例および各比較例で得られた酸化物被覆軟磁性粉末の酸素含有率を、酸素窒素同時分析装置(LECO社製、TC−300型)により測定した。
【0089】
2.2 透磁率の測定・評価
各実施例および各比較例で得られたチョークコイルについて、それぞれの透磁率を以下の測定条件に基づいて測定した。
<測定条件>
・測定周波数 :300kHz
・測定装置 :インピーダンスアナライザー(ヒューレットパッカード社製 4194A)
そして、得られた透磁率を、以下の評価基準にしたがって評価した。
【0090】
<評価基準>
◎:透磁率が特に高い(35以上)
○:透磁率がやや高い(30以上35未満)
△:透磁率がやや低い(25以上30未満)
×:透磁率が特に低い(25未満)
【0091】
2.3 比抵抗の測定・評価
各実施例および各比較例で得られた圧粉磁心について、それぞれの電圧100V印加時の比抵抗を、絶縁耐圧測定機(KIKUSUI ELECTRONICS製、TOS9000)を使用して測定した。そして、測定した比抵抗を、以下の評価基準にしたがって評価した。なお、測定機の端子間距離は5mmとした。
【0092】
<評価基準>
◎:比抵抗が特に高い(1GΩ以上)
○:比抵抗がやや高い(500MΩ以上1GΩ未満)
△:比抵抗がやや低い(100MΩ以上500MΩ未満)
×:比抵抗が特に低い(100MΩ未満)
【0093】
2.4 絶縁の長期耐久性の測定・評価
各実施例および各比較例で得られたチョークコイルを、温度90℃、相対湿度90%の環境下で長期間放置する劣化試験を行った際の比抵抗を絶縁耐圧測定機により測定した。そして、駆動開始直後の初期の比抵抗Rと、100日(2400時間)経過後の比抵抗R100とを、それぞれ測定した。
次いで、それぞれのチョークコイルにおいて、初期の比抵抗Rを100としたとき、比抵抗R100の相対値を求めた。そして、この相対値を、以下の評価基準にしたがって評価した。
【0094】
<評価基準>
◎:R100が90以上100以下である
○:R100が70以上90未満である
△:R100が50以上70未満である
×:R100が50未満である
以上、2.1〜2.4の測定結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
表1から明らかなように、各実施例では、いずれも、酸素含有率の高い軟磁性粉末が得られた。一方、各比較例で得られた軟磁性粉末では、いずれも、酸素含有率が低かった。
また、各実施例では、透磁率が高く、かつ比抵抗も高い圧粉磁心が得られた。また、この圧粉磁心は、長期にわたる劣化を経ても、十分な比抵抗を維持していた。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】金属粉末製造装置の構成を示す模式図(縦断面図)である。
【図2】図1中の一点鎖線で囲まれた領域[A]の拡大詳細図(模式図)である。
【図3】チョークコイルの第1実施形態を示す模式図(平面図)である。
【図4】チョークコイルの第2実施形態を示す模式図(斜視図)である。
【符号の説明】
【0098】
1……金属粉末製造装置(アトマイザ) 2……供給部 21……底部 22……内部空間(内腔部) 23……吐出口 3……ノズル 31……第1の流路 32……第2の流路 33……内径漸減部 331……部分 34……オリフィス 35……貯留部 36……導入路 37……間隙 4……第1の部材 41……上端面 5……第2の部材 51……下端面 7……カバー 8……噴霧装置 9……気密容器 10、100……チョークコイル 11、110……圧粉磁心 12、120……導線 G……空気(気体) O……中心軸 Q……溶湯 Q1……液滴 R……金属粉末 S……水(液体) S1……水ジェット S2……頂部 M……ミスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを主成分とする軟磁性材料を溶融してなる溶湯を用い、アトマイズ法により前記軟磁性材料の粒子を製造する際に、
前記アトマイズ法の条件が、以下の(a)および(b)の条件を満たすことにより、前記粒子の表面に、前記軟磁性材料が酸化してなる酸化物で構成された被覆層を形成することを特徴とする酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法。
(a)前記溶湯の温度は、前記軟磁性材料の融点をTm[℃]としたとき、Tm+200℃以上である
(b)水蒸気量10g/m以上の水蒸気含有雰囲気下で行う
【請求項2】
前記水蒸気含有雰囲気は、噴霧された霧状の水を含んでいる請求項1に記載の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
Feを主成分とする軟磁性材料を溶融してなる溶湯を、前記軟磁性材料の融点より200℃以上高い温度に保持した状態で、アトマイズ装置の溶湯流路に投入し、該溶湯流路内で、前記溶湯を流体ジェットに衝突させることにより、前記軟磁性材料の粒子を製造する際に、
前記溶湯流路の投入口付近に霧状の水を噴霧して、該霧状の水を前記溶湯流路内に引き込ませることにより、前記粒子の表面に、前記軟磁性材料が酸化してなる酸化物で構成された被覆層を形成することを特徴とする酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記霧状の水の温度は、30℃以上である請求項2または3に記載の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
前記霧状の水の平均粒径は、2〜50μmである請求項2ないし4のいずれかに記載の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
前記軟磁性材料は、Si、AlおよびCrのうちの少なくとも1種を含む請求項1ないし5のいずれかに記載の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法。
【請求項7】
前記軟磁性材料におけるSiの含有率は、2〜10wt%である請求項6に記載の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法。
【請求項8】
前記軟磁性材料におけるAlの含有率は、2〜8wt%である請求項6または7に記載の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法。
【請求項9】
前記軟磁性材料におけるCrの含有率は、3〜9wt%である請求項6ないし8のいずれかに記載の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法により製造されたことを特徴とする酸化物被覆軟磁性粉末。
【請求項11】
Feを主成分とする軟磁性材料で構成されたコア部と、
該コア部を覆うように設けられ、前記軟磁性材料を酸化してなる酸化物で構成された被覆層とを有し、
前記酸化物は、Feを含み、
酸素含有率が、4000ppm以上であることを特徴とする酸化物被覆軟磁性粉末。
【請求項12】
請求項10または11に記載の酸化物被覆軟磁性粉末と結合材との混合物を、加圧・成形して成形体を得た後、該成形体中の前記結合材を硬化させてなることを特徴とする圧粉磁心。
【請求項13】
前記酸化物被覆軟磁性粉末に対する前記結合材の含有率は、0.5〜5wt%である請求項12に記載の圧粉磁心。
【請求項14】
請求項10または11に記載の酸化物被覆軟磁性粉末を、加圧・成形して成形体を得た後、該成形体を焼成してなることを特徴とする圧粉磁心。
【請求項15】
請求項12ないし14のいずれかに記載の圧粉磁心を備えたことを特徴とする磁性素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−88496(P2009−88496A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232356(P2008−232356)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】