酸化物超電導体およびその製造方法
【課題】残留フッ素量が低く、膜厚が厚く、しかも高い超電導特性を示す酸化物超電導体を提供する。
【解決手段】基板上に、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属Mと、バリウムと、銅とを含む酸化物の膜として形成され、平均膜厚が350nm以上、平均残留炭素量が3×1019atoms/cc以上、残留フッ素量が5×1017〜1×1019atoms/ccであり、前記膜を膜表面または基板との界面から厚さ10nm毎に複数の領域に区分して分析したとき、互いに隣接する2つの領域における銅、フッ素、酸素または炭素の原子比が1/5倍から5倍の範囲内である酸化物超電導体。
【解決手段】基板上に、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属Mと、バリウムと、銅とを含む酸化物の膜として形成され、平均膜厚が350nm以上、平均残留炭素量が3×1019atoms/cc以上、残留フッ素量が5×1017〜1×1019atoms/ccであり、前記膜を膜表面または基板との界面から厚さ10nm毎に複数の領域に区分して分析したとき、互いに隣接する2つの領域における銅、フッ素、酸素または炭素の原子比が1/5倍から5倍の範囲内である酸化物超電導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年実用化が進められている高臨界電流酸化物超電導材料は、核融合炉、磁気浮上列車、加速器、磁気診断装置(MRI)、マイクロ波フィルターなどへの有用な応用が期待され、一部は既に実用化がなされている。
【0003】
酸化物超電導体には主にビスマス系、イットリウム系、タリウム系超電導体などがある。このうち、液体窒素温度の磁場中で最も高い超電導特性を発揮し、液体窒素冷却でリニアモーターカーに利用できるイットリウム系超電導体が実用化に近い材料として大いに注目を集めている。
【0004】
イットリウム系超電導体はYBa2Cu3O7-xの組成で表され、ペロブスカイト構造を持つ。イットリウムがランタノイド族の希土類元素で置換された化合物や、これらの混合物も超電導特性を示すことが知られている。その製造方法としてはこれまで、パルスレーザー堆積(PLD)法、液相成長堆積(LPE)法、電子ビーム(EB)法、金属有機物堆積(MOD)法などが用いられてきた。
【0005】
超電導体の製造方法はin situ(イン・サイチュ)プロセスとex situ(エクス・サイチュ)プロセスに大別される。in situプロセスは、超電導体製造時に超電導体に必須な金属の堆積と、酸化による超電導体形成とを一度に行う。ex situプロセスは、超電導体に必須な金属の堆積と、超電導体を形成するための熱処理とを別に行う。そのためex situプロセスでは前駆体(または仮焼膜)が存在する。
【0006】
超電導体の製造方法として初期に注目されたのはin situプロセスであった。これは、in situプロセスでは工数が少なく低コストになるのではないかと期待されたためである。しかし、このプロセスは一度にすべての成膜条件をそろえなければならないことから条件制御が難しく、良好な超電導体が得られにくいということがわかった。一方、ex situプロセスは製造コスト増加が危惧されていたものの、後述する非真空プロセスであるMOD法やTFA−MOD法の開発により、かなりの製造コスト低減が可能となった。また、ex situプロセスは、熱処理を2度に分けたことにより、in situプロセスよりも熱処理制御が容易であるという利点がある。
【0007】
ex situプロセスにはEB法(非特許文献1)、MOD法、TFA−MOD法(非特許文献2)などが含まれる。
EB法は、電子ビームで超電導体に必須の金属を含む前駆体を堆積し、その後の熱処理(本焼)によりY系超電導体を形成する。本焼時にはフッ素の存在により擬似液相ネットワークを経て超電導層が成長すると予想される。この方法は、炭素を用いないため、得られる超電導体に残留炭素が全く存在せず、超電導特性を大きく劣化させることがない。しかし、EB法は製造コストが高いという問題がある。
【0008】
MOD法は他の分野において研究されてきた方法を超電導体の製造に転用したものである。MOD法によるY系超電導体の製造に関しては有害な残留炭素をいかに低減するかに大きな努力が払われてきたが、有効な残留炭素低減が実現していない。この方法では仮焼熱処理によって前駆体中の有機物の分解を行うため、得られる膜は仮焼膜とも呼ばれる。仮焼膜は金属酸化物と残留炭素を含みフッ素を全く含まない。また、本焼膜も金属酸化物と残留炭素を含む。
【0009】
最後にMOD法から派生したTFA−MOD法を説明する。この方法はフッ素化合物であるトリフルオロ酢酸塩(TFA)を用いることにより仮焼時に炭素追い出し機構が働き、超電導体に有害な炭素の大部分を追い出した仮焼膜が得られやすい。また、本焼時にはフッ素の働きにより擬似液相ネットワークの形成と化学平衡反応により、原子レベルで高配向の組織が再現性よく形成されることもわかっている。更に成膜から仮焼および本焼まで真空を一切使わずコストを低減できるため、世界中で研究が普及した。現在では100mで70Aもの電流が得られる線材が再現性よく製造されるようになっている。この結果、TFA−MOD法はイットリウム系超電導体製造の主力プロセスとなっている。
【0010】
しかし、TFA−MOD法は、低コストで高い超電導特性を示す超電導体を製造できるという大きなメリットをもつ反面、厚膜化が難しいという欠点がある。これは、このプロセスではゲル膜から最終的な超電導膜までに体積が87%も減少し、その体積減少時に加わる基板面に平行な方向への応力(乾燥応力)によって、一定膜厚(臨界膜厚)以上では緩やかな熱処理を行ってもクラックが生じるためである。高い超電導特性を示す超電導体を得るには、通常、不純物を可能な限り低減した高純度溶液を用いるが、その場合の臨界膜厚は300nm程度である。たとえば、直径2インチ基板上で膜厚350nmの超電導体を形成すると、目視で容易に認識可能な0.1mm幅以上、長さ1mm以上の大きさのクラックが確認されている。
【0011】
ここで、超電導体の厚膜化について説明する。通常のMOD法では、コーティングによりゲル膜を形成して仮焼し、再びコーティングによりゲル膜を形成して仮焼することを繰り返して厚膜化するが、これは仮焼自体がごく短時間で完了するためである。ただし、MOD法において繰り返しコーティングにより超電導体の厚膜化を行うと残留炭素量増加により致命的な超電導特性の低下がもたらされることがわかっている。一方、TFA−MOD法では仮焼時に燃焼を防止しながら有機物を分解するため、仮焼は有機物の共有結合を切るだけの保持時間を必要とし、全プロセス中もっとも長い時間が費やされる。このため、TFA−MOD法で繰り返しコーティングを採用して超電導体の厚膜化を試みると、非常に長時間の熱処理が必要となる。また、何度も熱履歴を受けた超電導膜は局所的な結晶化により均質性が失われ、徐々に質が悪くなる。加えて、繰り返しコーティング時の下部層と上部層との境界に酸化物層などが形成され、超電導特性が低下することもわかっている。特に、繰り返しコーティングによる厚膜化は、マイクロ波フィルター応用において致命的な結果をもたらす。マイクロ波フィルターでは膜厚400nm以上の超電導体が必要とされ、特に送信側では高い超電導特性を維持した厚い超電導体が必要である。しかし、上記のとおり繰り返しコーティングでは層間に酸化物が形成されるため、この酸化物が損失の原因となって、フィルター特性の調整が極めて困難になり、シャープカットなフィルターの作製が困難になる。したがって、長時間熱処理と酸化物層形成による超電導特性の低下を回避するためには、TFA−MOD法で1回のコーティングによって高い超電導特性を示し厚膜化した超電導体を得ることが重要になる。
【0012】
次に、1回コーティングにより超電導体を厚膜化する方法について説明する。従来のMOD法では、超電導体に必須な金属を含む金属有機物に、それよりも長鎖の有機物を添加し、低温で必須金属を含む金属有機物が分解するが添加有機物は分解しないことを利用してクラックを防止し、その後、より高い温度で添加有機物を分解する方法を用いることにより厚膜化を実現できる。しかし、MOD法では、添加有機物に由来する残留炭素が問題となる。一方、TFA−MOD法において同様の方法を用いた場合、炭素追い出し機構が働くため、残留炭素よりもむしろ残留フッ素が問題になることが近年わかってきた。TFA−MOD法では本焼時における擬似液相ネットワークの形成のために、ある程度のフッ素量が必要となるが、MOD法で用いられていたのと同様な添加有機物を混入した場合の残留フッ素量はそうでない場合の10〜20倍程度にも達する。また、擬似液相ネットワーク形成時にフッ素が除去されることから、本焼条件で長時間保持するとフッ素を除去できると予想されていた。しかし、本焼条件下で長時間保持すると、フッ素化合物が混在するY系超電導体の組織がわずかに形成されることがわかってきた。このフッ素化合物は冷却時にフッ化バリウムとして再結晶化して結晶配向を乱す原因になる。実際、超電導体のXRD測定によりわずかでもBaF2が検出された場合には、超電導特性が1/10以下に劣化していた。しかも、有機物を添加したときの残留フッ素量は、1回コーティングで膜厚を厚くするほど増大する。これはコーティング膜の下部に存在するフッ素が除去されないためであると考えられる。
【0013】
Rupichらは、フッ素を含んだ有機物を添加することなく、Cuトリフルオロ酢酸塩の代わりによりフッ素の少ないCuカルボン酸塩を用いて、酸化物超電導体のフッ素量を増大させないようにする方法を提案している(特許文献1)。この方法で使用されているCuカルボン酸塩は、フッ素の代わりにたとえば塩素、臭素、水素などを含むものである。しかし、Rupichらが用いている溶液はSolvent−Into−Gel法による高純度溶液でないため、あらかじめ一定量の酢酸塩などが残留していると推定され、それが残留フッ素量を増大させている可能性がある。
【0014】
また、J.A.Smithらは1998年に1000nm厚の超電導体を報告しているが、超電導特性はそれほど高くなく、その製造方法の詳細も不明である。
【非特許文献1】P.M. Mankiewich, et al. Appl. Phys. Lett. 51, 1987, 1753-1755
【非特許文献2】T. Araki and I. Hirabayashi, Supercond. Sci. Technol. 16, 2003, R71-R94
【特許文献1】特表2004−512252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、残留フッ素量が低く、膜厚が厚く、しかも高い超電導特性を示す酸化物超電導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様に係る酸化物超電導体は、基板上に、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属Mと、バリウムと、銅とを含む酸化物の膜として形成され、平均膜厚が350nm以上、平均残留炭素量が3×1019atoms/cc以上、残留フッ素量が5×1017〜1×1019atoms/ccであり、前記膜を膜表面または基板との界面から厚さ10nm毎に複数の領域に区分して分析したとき、互いに隣接する2つの領域における銅、フッ素、酸素および炭素の原子比が1/5倍から5倍の範囲内であることを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様に係る酸化物超電導体の製造方法は、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)を含む金属Mと、バリウムと、銅とを原子比で約1:2:3となるよう混合したフルオロカルボン酸塩のメタノール溶液に、フッ素/(フッ素+水素)が75〜96mol%である有機物を添加してコーティング溶液を調製し、前記コーティング溶液を基板上にコーティングしてゲル膜を形成し、前記ゲル膜を仮焼、本焼および酸素アニールして酸化物超電導体の膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、残留フッ素量が低く、膜厚が厚く、しかも高い超電導特性を示す酸化物超電導体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法では、金属M、バリウム、および銅を含むフルオロカルボン酸塩のメタノール溶液に、フッ素/(フッ素+水素)が75〜96mol%である有機物を添加したコーティング溶液を用いる。これまで、多量のフッ素を含む有機物をコーティング溶液に添加するという試みはなされなかった。これは、このような方法では残留フッ素量が増加すると推測されるためである。
【0020】
本発明者らは、TFA−MOD法における多くの現象を、仮焼時の炭素追い出し機構と、本焼時の擬似液相ネットワークモデルによる組織形成によって説明できることを解明した。これらの2つの機構を利用すると、溶液合成時のエステル化反応を防止しながら超電導体中の残留フッ素量の増加を抑制できる物質として、長鎖のフルオロカルボン酸が示唆された。
【0021】
長鎖のフルオロカルボン酸を用いることが有利であることの概略的な理由は以下のとおりである。水素などフッ素以外の原子を多く含む有機物を用いた場合、分解したフッ素化合物はその有機物と水素結合を形成するため高い温度まで膜内部に残留する。炭素追い出し機構によればフッ素は酸素などを置換するので、多量のフッ素化合物がより長時間滞在すれば残留フッ素量は増大する。したがって、残留フッ素量の増大を防止するには、仮焼時に生成したフッ素化合物が水素結合を起こさないことが重要になる。
【0022】
フッ素と電気陰性度の近い原子はフッ素と相互作用と起こさないことが期待できるが、全原子中で最強のフッ素に近い電気陰性度を持つ原子は他に存在しない。ところがフッ素そのものを含む添加剤を用いれば、仮焼時に生成したフッ素化合物との相互作用をなくすことができると考えられる。添加剤として長鎖のフルオロカルボン酸を添加した場合には、仮焼時の保持温度である200−250℃で添加剤が分解するが、周囲のトリフルオロ酢酸由来のフッ素化合物と水素結合などの強い相互作用を起こすことはない。仮焼時に添加剤が分解して分子量が小さくなると、ガス化して気流中に散逸する。このように、最終的に得られる超電導体中の残留フッ素量を低減するためには、添加剤として多数のフッ素を含み水素を全くまたは少ししか含まない有機物を加えることが有効である。ただし、有機鎖に結合している原子は全てフッ素である必要はなく、一部に水素が結合していたとしても問題がないことがわかっている。少数の水素の周囲に多数のフッ素が存在していると、水素はフッ化水素を生成して散逸するため問題にならない。添加剤中の水素原子数がフッ素原子数の1/3以下であれば、したがってフッ素/(フッ素+水素)が75mol%以上であれば、残留フッ素量の低減に効果があることがわかっている。高純度のコーティング溶液に添加剤としてフッ素化合物を添加することにより、残留フッ素量が少なく高い超電導特性を示す厚膜の超電導膜を得ることができる。
【0023】
添加剤として添加された長鎖フルオロカルボン酸はトリフルオロ酢酸と異なる温度で分解するので、仮焼膜でのクラック発生を防止できる。有機鎖が切れて生成するフッ素化合物は他の物質と相互作用を起こすことなくガスとなって気流中に散逸する。この結果、超電導体の構成金属に結合した酸素がフッ素によって置換されないので、超電導膜中の残留フッ素量の低減を実現でき、高い超電導特性を示す超電導膜が得られる。
【0024】
コーティング溶液に添加される添加剤の量は、コーティング溶液の金属イオンのモル濃度が1.5mol/lである標準溶液について、2.5〜20wt%の範囲で厚膜化に効果があることがわかっている。種々の添加剤について詳細に調べたところ、添加剤の量はモル比ではなくて重量比に関係することがわかっている。コーティング溶液の金属イオン濃度が異なる場合には、金属イオン濃度に比例して添加剤の添加量を加えればいいこともわかっている。たとえば、標準溶液に対して金属イオンモル濃度で40%濃厚な2.1mol/lの溶液を用いる場合、添加剤の添加量も上記範囲の40%増の量を添加すればいいことがわかっている。これはコーティング後のゲル膜において、ゲル膜を構成する溶質と添加剤とが特定比率の範囲に収まっていればいいことを示している。なお、ここでは溶質重量ではなくて、近似的に溶液重量を用いている。これはメタノールと溶質であるトリフルオロ酢酸塩とを混合したときに体積減少が生じ、正確な溶質重量が求まらないためである。
【0025】
上記のメタノール重量を考慮しないことによる影響は、以下の理由から、それほど大きくないことが理解できる。混合トリフルオロ酢酸塩の金属イオン濃度の上限値は2.9〜3.0mol/l程度である。しかし、濃厚溶液を用いた場合にはゲル膜のストレスを増大させやすく、現実に用いることができる金属イオン濃度の上限値は2.7〜2.8mol/l程度である。これは、金属イオン濃度が1.5mol/lである標準溶液と比較すると2倍に満たない濃度である。一方、混合トリフルオロ酢酸塩の金属イオン濃度の下限値については、0.75mol/lを下回るとコーティング条件を最適化しても厚いゲル膜を得ることが困難になる。このように金属イオン濃度の下限値も標準溶液の1.5mol/lと比較して0.5倍程度である。このため、添加剤の添加量を溶液重量に対する比率で扱っても、有効な添加量をおおよそ知ることができる。なお、イットリウム塩を含む混合トリフルオロ酢酸塩の比重は約2.4g/ml、メタノールの比重は0.79g/mlであり、その溶液においては軽いメタノールの影響は小さくなる。このこともメタノール重量を考慮しないことによる影響を軽微にしている理由になっていると考えられる。
【0026】
コーティング溶液(標準濃度)に対する添加剤の添加量が2.5wt%で臨界膜厚が350nm程度になるので、それ未満の添加量では超電導膜の厚膜化を達成できなくなる。多くの添加剤は10wt%程度の添加量で3,000nm程度の厚い超電導膜の前駆体(仮焼膜)を形成できる。添加剤の添加量が20wt%を超えると、膜中の添加剤の割合が大きくなる結果、超電導特性が得られなくなる。
【0027】
本発明の実施形態に係る方法を用いれば、1回コーティングにより内部に酸化物層などを含まずに、膜厚700nm以上の仮焼膜および膜厚350nm以上の本焼膜(超電導膜)を得ることができる。特に、膜厚1300nmの仮焼膜から得られた膜厚650nmの本焼膜(超電導膜)で高い超電導特性が得られている。また、膜厚2900nmの仮焼膜(本焼後は1450nmに相当)で、組成分布に不連続面のないものも得られている。現時点ではLaAlO3上に成膜しているためa/b軸配向粒子が多量に出現して厚膜では超電導特性が得られていないが、本焼時にa/b軸配向粒子が形成しにくい中間層上などでは高い超電導特性を示す超電導膜が期待できる。
【0028】
本発明の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法についてより具体的に説明する。
まず、図1を参照して、金属酢酸塩をフルオロカルボン酸と反応させて高純度溶液を調製する方法を説明する。図1における金属酢酸塩(a1)とは、金属Mの酢酸塩、酢酸バリウム、および酢酸銅の総称である。各々の金属酢酸塩(a1)を水(b)に溶解し、フルオロカルボン酸(a2)を混合する。これらの溶液を、金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して反応させ(c)、減圧下で不純物を揮散させて精製し(d)、不純物入り粉末またはゲル(e)を得る。
【0029】
フルオロカルボン酸(a2)としては、典型的には炭素数2のフルオロカルボン酸たとえばトリフルオロ酢酸(TFA)が用いられるが、金属酢酸塩の種類に応じて他の適切なフルオロカルボン酸を用いてもよい。たとえば、金属Mを含む金属酢酸塩および酢酸銅は、炭素数2のフルオロカルボン酸に限らず、炭素数3以上のフルオロカルボン酸たとえばペンタフルオロプロピオン酸(PFP)と反応させてもよい。特に、ランタン、ネオジウムおよびサマリウムからなる群より選択される金属Mを含む金属酢酸塩は、炭素数3以上のフルオロカルボン酸と反応させることが好ましい。ただし、酢酸バリウムは、炭素数3以上のフルオロカルボン酸と反応させると沈殿物を生成するため、炭素数2のフルオロカルボン酸たとえばTFAと反応させる。
【0030】
炭素数2のフルオロカルボン酸は、トリフルオロ酢酸(TFA)、モノフルオロ酢酸(MFA)、ジフルオロ酢酸(DFA)を含む。炭素数3以上のフルオロカルボン酸は、ペンタフルオロプロピオン酸(PFP)、ヘプタフルオロブタン酸(HFB)、ノナフルオロペンタン酸(NFP)などを含む。
【0031】
その後、Solvent−Into−Gel(SIG)法による精製を行う。具体的には、不純物入り粉末またはゲル(e)に対してメタノール(f)を加えて不純物(たとえば水)と置換し、この不純物入り溶液(g)からメタノールおよび不純物を揮散させることにより精製し(h)、溶媒入り粉末またはゲルを得る(i)。この溶媒入り粉末またはゲル(i)に再びメタノール(j)を加え、高純度溶液を得る(k)。
【0032】
次に、図2を参照して、酸化物超電導体を得る方法を説明する。金属M、バリウムおよび銅のモル比が1:2:3となるように、それぞれの高純度溶液を混合して溶液Aを調製し、添加剤としてフッ素/(フッ素+水素)が75〜96mol%である有機物を添加して(a)、コーティング溶液Bを調製する(b)。このコーティング溶液Bを基板上に成膜(c)してゲル膜(d)を形成し、一次熱処理として仮焼(e)を行って金属酸化フッ化物からなる仮焼膜(f)を形成し、二次熱処理である本焼(g)および純酸素アニール(h)を行い、酸化物超電導体(i)を得る。
【0033】
図3に仮焼時の温度プロファイル(および雰囲気)の一例を示す。
【0034】
(1)時刻0からta1(熱処理開始から7分程度)の間に熱処理炉内の温度を室温から100℃まで急激に上昇する。このとき熱処理炉内は常圧の乾燥した酸素雰囲気中に置かれる。なお、この後の熱処理工程は全て常圧下で行うことができる。
【0035】
(2)時刻ta1になったとき熱処理炉内の雰囲気を加湿した常圧の純酸素雰囲気に変更する。時刻ta1からta2(熱処理開始から42分程度)の間に熱処理炉内の温度を100℃から170〜230℃の範囲に上昇する。このとき加湿した純酸素雰囲気の湿度を、たとえば1.2〜12.1%の範囲に設定する。上記の湿度は露点10℃および50℃に相当する。湿度は、所定の温度の水に雰囲気ガス(酸素ガス)の気泡を通し、気泡内の飽和水蒸気圧によって調整する。飽和水蒸気圧は温度によって決定される。湿度の露点相当温度を室温よりも低く設定するには、雰囲気ガスを分流して一部の雰囲気ガスの気泡のみを水に通した後に合流させる。この加湿の目的は、主に、最も昇華しやすいフルオロ酢酸銅を部分加水分解によりオリゴマーに変換して見掛けの分子量を上げ、フルオロ酢酸銅の昇華を防止することにある。フルオロ酢酸がトリフルオロ酢酸である場合には、下記のように加水分解が行われ、銅塩の両端のF原子とH原子との間で水素結合を作り、4〜5分子がつながることによりみかけの分子量が増大するため昇華が抑制される。
CF3COO-Cu-OCOCF3 + H2O → CF3COO-Cu-OH + CF3COOH。
【0036】
(3)時刻ta2からta3(4時間10分から16時間40分程度)の間に炉内の温度を220〜280℃の範囲に緩やかに上昇する。緩やかに昇温するのは、部分加水分解した塩が急激な反応により燃焼して炭素成分が残ることを防止するためである。長時間の分解反応により塩の共有結合部分が開き、一時的に金属酸化物(Y2O3、BaO、CuO)が形成され、Y2O3およびBaOでは酸素の一部がフッ素に置換され、YまたはBaと酸素とフッ素との不定比化合物が生成する。この状態で徐々に反応が進み温度が保持されるため、単一物質であるCuOのみが粒成長して数十nmのナノ微結晶となり、フッ素と酸素が不定比のYおよびBa成分は粒成長できずにアモルファスとなる。
【0037】
(4)時刻ta3からta4およびta4からta5(この間2時間程度)の間に熱処理炉内の温度を220〜280℃から400℃まで上昇する。時刻ta2からta3の間に分解した不要な有機物が水素結合などで膜中に残存しているが、この工程で除去される。
【0038】
(5)時刻ta5以降はガスを流しながら炉冷する工程である。こうして仮焼膜が得られる。
【0039】
得られた仮焼膜に電気炉中で本焼および純酸素アニールを行い、酸化物超電導体を製造する。図4に本焼時の温度プロファイル(および雰囲気)の一例を示す。
【0040】
(6)時刻0からtb1(熱処理開始から7分程度)の間に熱処理炉内の温度を室温から100℃まで急激に上昇する。このとき熱処理炉内を常圧のAr/O2ガス雰囲気に置く。酸素濃度については焼成を行う超電導体の金属種や焼成温度に応じて最適値が設定される。たとえば、Y系(YBa2Cu3O7-x)で800℃焼成の場合、酸素分圧を1000ppmに設定し、温度が25℃低下するたびに酸素濃度をほぼ半減させるという熱処理条件が最適とされている。La系、Nd系、Sm系でも温度が25℃低下するたびに酸素濃度をほぼ半減させるが、800℃焼成における酸素分圧をそれぞれ1ppm、5ppm、20ppmとすることが好ましい。なお、この後の熱処理工程は全て常圧下で行うことができる。
【0041】
(7)時刻tb1からtb2(33分間から37分間程度、最高到達温度まで20℃毎分程度で加熱)およびtb2からtb3(5分程度)で熱処理炉内温度を750℃〜825℃の最高温度まで上昇する。時刻tb1において、仮焼と同様の方法で、乾燥ガスを加湿する。このときの加湿量は1.2%(露点10℃)から30.7%(露点70℃)までの広い範囲で選択できる。加湿量を増大させると反応速度が増大する。その増加量は0.5乗と見積もられている。tb2からtb3で昇温速度を小さくするのはtb3において電気炉の過熱を小さくするためである。温度650℃程度で、水蒸気の作用によって膜内部で疑似液相形成が始まり、膜内部にそのネットワークが形成される。
【0042】
(8)時刻tb3からtb4(45分から3時間40分程度、この時間は最高温度と最終膜厚に依存し温度が低く膜厚が厚いときに最長となる)の間に、疑似液相ネットワークからMBa2Cu3O6が基板上に順次形成され、同時にHFガスなどが放出される。このときの化学反応を簡略化すると以下のように記述できる。
【0043】
(M-O-F:アモルファス) + H2O → M2O3 + HF↑
(Ba-O-F:アモルファス) + H2O → BaO + HF↑
(1/2)M2O3 + 2BaO + 3CuO → MBa2Cu3O6
(9)時刻tb4から雰囲気を乾燥Ar/O2ガスに切り替える。乾燥ガスに切り替える理由は、tb4までに形成された酸化物MBa2Cu3O6は800℃付近の高温では水蒸気に安定であるが、600℃付近では水蒸気により分解するためである。
【0044】
(10)時刻tb4からtb5(10分間程度)に引き続き、時刻tb5からtb6(2時間から3時間30分程度)に至るまで熱処理炉内の温度を下げ続ける。この間、形成された酸化物に変化はない。
【0045】
(11)時刻tb6で雰囲気を乾燥Ar/O2ガスから乾燥純酸素ガスへ切り替える。この純酸素アニールにより、MBa2Cu3O6がMBa2Cu3O7-x(x〜0.07)となり、酸化物超電導体が得られる。この純酸素切り替え温度は金属Mに応じて異なる。Yの場合には525℃、Smの場合には425〜525℃、Ndの場合には375℃〜475℃、Laの場合には325℃〜425℃で良好な酸化物超電導体が得られることがわかっている。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0047】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0048】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液Aを得た。
【0049】
コーティング溶液Aに添加剤としてH(CF2)8COOHを10wt%加えてコーティング溶液Bを得た。
【0050】
コーティング溶液Aおよびコーティング溶液Bを、それぞれ100ccビーカーに深さ約30mmとなるよう満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度5mm/secおよび20mm/secで基板を引き上げた。こうして、4種類のゲル膜(gel)を得た。コーティング溶液Aから得られたゲル膜は名称にaを、コーティング溶液Bから得られたゲル膜は名称にbを付す。引き上げ速度(withdrawal speed)5mm/secで引き上げたゲル膜は名称にw05を、20mm/secで引き上げたゲル膜は名称にw20を付す。こうして、得られた4種類のゲル膜をG1aw05、G1aw20、G1bw05、およびG1bw20と呼ぶ。
【0051】
ゲル膜G1aw05、G1aw20、G1bw05、およびG1bw20を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜(calcined film)を得た。これらの仮焼膜をC1aw05、C1aw20、C1bw05、およびC1bw20と呼ぶ。これらの仮焼膜の厚みは、それぞれ約400nm、約800nm、約400nm、および約800nmであった。
【0052】
コーティング溶液Aから得られた仮焼膜C1aw05にはクラックが生じなかった。しかし、コーティング溶液Aから得られた仮焼膜C1aw20には、幅0.1mm以上、長さ1mm以上の目視可能なクラックが生じていた。仮焼膜の臨界膜厚は、本焼膜の臨界膜厚(約300nm)の2倍程度の約600nmであることが知られている。C1aw20の結果も、仮焼膜の臨界膜厚600nmを超えた800nm厚の膜ではクラックが生じ易いことを裏付けている。
【0053】
これに対して、コーティング溶液Bから得られた仮焼膜C1bw05およびC1bw20には、いずれもクラックが生じなかった。このことは添加した有機物によりクラック発生が防止されたことを示している。これらの仮焼膜では基板端部より2mm以内の領域を除いた領域で幅0.1mm以上、長さ1mm以上の目視可能なクラックは全く生じなかった。この面積でクラックが生じなければどんなに大きな面積で成膜を行ってもクラックは生じないといえる。これは、膜厚800nmに対して幅6mmは、十分な長さと比率を有し、基板面方向への収縮による応力は全ての領域において緩和されるからである。このように本発明を用いれば高い超電導特性が期待される。すなわち、フッ素含有率が高い有機物を添加することにより、高純度溶液を用いて臨界膜厚以上の成膜を基板の両面に行ったとしても、クラックのない良好な仮焼膜が両面で得られる。
【0054】
得られた仮焼膜のうちクラックが生じたC1aw20を除くC1aw05、C1bw05、およびC1bw20を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして超電導膜を得た。
【0055】
TFA−MOD法において膜にクラックが生じるのはほとんどの場合に仮焼時であり、本焼時には仮焼膜の形態を維持したまま熱処理が進行する。本実施例でも本焼時にクラックが生じた膜はなかった。これらの超電導膜(fired film)をF1aw05、F1bw05、およびF1bw20と呼ぶ。
【0056】
得られた超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。また、誘導法測定後にICP(誘導励起プラズマ発光分光法)による破壊分析を行い、膜厚を同定した。
【0057】
コーティング溶液Aから得られた超電導膜F1aw05は200nmの膜厚を有し、Jc値が7.34MA/cm2(77K,0T)という良好な結果を示した。
【0058】
コーティング溶液Bから得られた超電導膜F1bw05は230nmの膜厚を有し、Jc値が6.58MA/cm2(77K,0T)であり、添加剤を加えてもF1aw05からの超電導特性の低下は軽微であった。
【0059】
コーティング溶液Bから得られた超電導膜F1bw20は500nmの膜厚を有し、Jc値が5.26MA/cm2(77K,0T)であった。このように1回コーティングによって形成された厚膜で、幅1cm当たり263Aもの電流が示す超電導体が得られることがわかった。
【0060】
(実施例2)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0061】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0062】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液2Aを得た。
【0063】
コーティング溶液2Aに添加剤としてH(CF2)8COOHを10wt%加えてコーティング溶液2Bを得た。コーティング溶液2Bを100ccビーカーに深さ約30mmとなるよう満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度50mm/secで基板を引き上げた。同じ条件で2枚の両面コートのゲル膜G2b1w50、G2b2w50を得た。
【0064】
ゲル膜G2b1w50およびG2b2w50の各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。これらの仮焼膜をC2b1w50およびC2b2w50と呼ぶ。
【0065】
図5および図6に、C2b1w50の表面および裏面をSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した結果をそれぞれ示す。別途、フッ素および炭素をイオン注入した参照用の膜を作製し、参照用の膜との比較により、C2b1w50のフッ素および炭素を定量分析している。図5および図6から明らかなように、表面、裏面ともに同様な傾向を示している。
【0066】
図5および図6において、横軸ゼロの位置は膜の表面を示している。炭素は膜表面では膜内部に比べて高い値を示している。膜の表面には大気中の二酸化炭素などが吸着されるため、炭素量が高くなる。TFA−MOD法で形成された超電導膜は表面にある程度の凹凸が存在し、表面から200nm程度までは大気中からの吸着CO2の影響を受ける。また、仮焼膜と単結晶基板との界面と思われる深さ約1.38μmより深い部分では炭素量が1.5桁程度低下していることが認められる。これは、TFA−MOD法の原料であるトリフルオロ酢酸塩に由来する炭素成分が膜中に微量に残留していることによるものであり、EB法の前駆体にはない特徴である。
【0067】
図5および図6において、酸素、フッ素、銅の分布をみると、表面近傍200nmから界面から膜の厚みの10%に相当する部分を除いた1240nmまでの分析値は非常に安定していることが確認できる。これらの図では、繰り返しコーティングにより形成された膜に特徴的な、中間の酸化物層での5倍以上の濃度を超える組成の急な変化は認められない。このことは1回コーティングによって、均一な膜を形成できたことを示している。
【0068】
仮焼膜C2b2w50を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして超電導体F2b2w50を得た。
【0069】
得られた超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。F2b2w50のJc値は、表面の超電導膜で5.11MA/cm2(77K,0T)、裏面の超電導膜で5.64MA/cm2(77K,0T)であった。
【0070】
図7および図8に、F2b2w50の表面および裏面をSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した結果をそれぞれ示す。図5および図6の場合と異なり、フッ素および炭素をイオン注入した参照用の膜に基づく比較を行っていないので、図7および図8には強度のみを表示している。なお、SIMS分析においては強度が物質の量に比例するわけではない。
【0071】
図7から表面の超電導膜の膜厚は約660nmであり、酸素、フッ素、銅に着目すると、仮焼膜と同様に不連続面を持たないことがわかる。つまりこの超電導膜では、繰り返しコーティングにより得られた超電導膜のような成分量の不連続な変化は認められない。
【0072】
図8から裏面の超電導膜の膜厚は約600nmであり表面より薄い。これはディップコートによって形成される膜の膜厚には±5%程度の範囲で差が生じることによる。裏面の超電導膜でも、表面の超電導膜と同様に、成分量の不連続な変化は認められない。
【0073】
以上のように、高純度溶液でしか得られないといわれている5MA/cm2(77K,0T)以上の超電導特性を維持しながら、超電導フィルターに使用可能な膜厚400nmを超える不連続面を持たない超電導体が得られた。
【0074】
(実施例3)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0075】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0076】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で2.31Mのコーティング溶液3Aを得た。我々の過去の報告によれば、この濃度のコーティング溶液を用いた場合、粘度の増大によりディップコートにより形成される膜の膜厚が1.52Mのコーティング溶液を用いた場合に比べてほぼ倍になることがわかっている。
【0077】
コーティング溶液3Aに添加剤としてH(CF2)8COOHを10wt%加えてコーティング溶液3Bを得た。コーティング溶液3Bを100ccビーカーに深さ約30mmとなるよう満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度50mm/secで基板を引き上げることにより、両面コートのゲル膜G3bw50を得た。
【0078】
ゲル膜G3bw50を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜C3bw50を得た。
【0079】
図9に、C3bw50をSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した結果を示す。別途、フッ素および炭素をイオン注入した参照用の膜を作製し、参照用の膜との比較により、C3bw50のフッ素および炭素を定量分析している。
【0080】
図9において、横軸ゼロの位置は膜の表面を示している。炭素は膜表面では膜内部に比べて高い値を示している。膜の表面には大気中の二酸化炭素などが吸着されるため、炭素量が高くなる。また、仮焼膜と単結晶基板との界面と思われる深さ約2.9μmより深い部分では炭素量が徐々に低下している。図9においては、図5および図6に比べて、炭素量の低下の度合いは緩やかである。これは、C3bw50は膜厚が厚く、表面ラフネスが大きいために、2.9μmの位置でも基板に達している部分と達していない部分があることによる。基板に達している部分と達していない部分とでは組成の差が広がるため、基板との界面から膜厚の10%程度の厚さの部分ではデータの信頼性が低下する。この膜では、SIMS分析による掘り出し面が基板面に到達する領域が時間とともに増加するため、残留炭素量は基板内部に相当する部分で徐々に減少し、残留フッ素量も徐々に減少する。
【0081】
この図において膜表面から200nmまでの部分、基板界面から膜厚の10%の厚さに相当する部分(290nm)を除く、深さ200〜2610nmの部分において、酸素、フッ素、および銅の量が急激に変化しないことがわかる。このように、極めて膜厚が厚く、かつ不連続面をもたない仮焼膜が得られることがわかる。このような仮焼膜は従来のTFA−MOD法は実現できないと考えられていた。
【0082】
(実施例4)
Sm(OCOCH3)3水和物をイオン交換水に溶解し、反応等モル量のCF3CF2COOHと混合して攪拌した。この溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、黄色粉末を得た。この粉末をメタノールに溶解して溶液4PSSm(presolution Sm)を得た。
【0083】
同様に、Nd(OCOCH3)3水和物から薄紫色の粉末を得た後、この粉末をメタノールに溶解して溶液4PSNdを得た。
【0084】
La(OCOCH3)3、Nd(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3を1:2:7の割合で混合し、これらをイオン交換水に溶解し、反応等モル量のCF3CF2COOHと混合して攪拌した。この溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、黄色粉末を得た。この粉末をメタノールに溶解して4PSMixを得た。
【0085】
4PSSm、4PSNd、4PSMixに、それぞれ約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、再び黄色、薄紫、黄色の粉末をそれぞれ得た。これらの粉末をメタノールに溶解して溶液4SSm、4SNd、4SMixを得た。
【0086】
一方、Ba(OCOCH3)2およびCu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0087】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、溶液4BaCuを得た。
【0088】
溶液4SSm、4SNd、4SMixの各々に溶液4BaCuを混合し、ランタノイド族金属M(合計モル数):Ba:Cuの比が1:2:3となるようにコーティング溶液4Sm、4Nd、4Mixをそれぞれ調製した。
【0089】
コーティング溶液4Sm、4Nd、4Mixの各々に添加剤としてH(CF2)8COOHを10wt%加えてコーティング溶液4SmT、4NdT、4MixTをそれぞれ得た。コーティング溶液4SmT、4NdT、4MixTの各々を100ccビーカーに深さ約30mmとなるよう満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度50mm/secで基板を引き上げた。同じ条件で、それぞれ2枚の両面コートのゲル膜G4Smw50、G4Ndw50、G4Mixw50を得た。
【0090】
ゲル膜G4Smw50、G4Ndw50、G4Mixw50の各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。これらの仮焼膜をC4Smw50、C4Ndw50、C4Mixw50と呼ぶ。
【0091】
C4Smw50、C4Ndw50、C4Mixw50の各々についてSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した。その結果、膜表面から厚さ20nm毎に複数の領域に区分して分析したとき、互いに隣接する2つの領域における銅、フッ素、酸素または炭素の原子比が1/5倍から5倍の範囲内であった。
【0092】
C4Smw50、C4Ndw50、C4Mixw50の各々を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして超電導体F4Smw50、F4Ndw50、F4Mixw50を得た。なお、各々の仮焼膜に対する本焼時の酸素分圧はそれぞれ20ppm、5ppm、10ppmであった。酸素アニール開始温度は全ての場合に350℃とし、4時間保持した。
【0093】
得られた超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性JcおよびTcを測定した。また、誘導法測定後にICP(誘導励起プラズマ発光分光法)により膜厚を同定した。その結果を表1に示す。表1から、イットリウム系超電導体と同様に、高Tcの超電導体でも高いJcを維持しながら膜厚を厚くできることが確認できた。
【0094】
【表1】
【0095】
Jc値はそれぞれ4.2MA/cm2(77K,0T)、3.1MA/cm2(77K,0T)、2.7MA/cm2(77K,0T)であり、Tc値はそれぞれ94.0K、93.6K、93.7Kであった。膜厚は520nm、530nm、510nmであった。
【0096】
(実施例5)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0097】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0098】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液5Aを得た。
【0099】
コーティング溶液5Aに添加剤として下記の化合物01〜37のいずれかを10wt%加えて溶液5B01〜5B37を調製した。
【0100】
[01]F(CF2)3OCF(CF3)CH2OH,
[02]F(CF2)8CH2CH2OH,
[03]F(CF2)10CH2CH2OH,
[04]C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CH2OH,
[05](CF3)2CF(CF2)4CH2CH2OH,
[06](CF3)2CF(CF2)6CH2CH2OH,
[07]H(CF2)6CH2OH,
[08]H(CF2)8CH2OH,
[09]F(CF2)4COOH,
[10]F(CF2)5COOH,
[11]F(CF2)6COOH,
[12]F(CF2)7COOH,
[13]F(CF2)8COOH,
[14]F(CF2)9COOH,
[15]F(CF2)10COOH,
[16]F(CF2)3O[CF(CF3)CF2O]2CF(CF3)COF,
[17]F(CF2)3O[CF(CF3)CF2O]3CF(CF3)COF,
[18]H(CF2)4COOH,
[19]H(CF2)6COOH,
[20]H(CF2)8COOH,
[21]HOOC(CF2)3COOH,
[22]HOOC(CF2)4COOH,
[23]HOOC(CF2)6COOH,
[24]HOOC(CF2)7COOH,
[25](CF3)2C(CH3)COOH,
[26](CF3)2C(CH3)COF,
[27]ヘキサフルオロエポキシプロパン,
[28]3−パーフルオロヘキシル−1,2−エポキシプロパン,
[29]3−パーフルオロオクチル−1,2−エポキシプロパン,
[30]3−パーフルオロデシル−1,2−エポキシプロパン,
[31]3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−1,2−エポキシプロパン,
[32]3−(パーフルオロ−7−メチルヘキシル)−1,2−エポキシプロパン,
[33]CF3CH=CF2,
[34]F(CF2)4CH=CH2,
[35]F(CF2)6CH=CH2,
[36]F(CF2)8CH=CH2,
[37]F(CF2)10CH=CH2。
【0101】
コーティング溶液5B01〜5B37の各々を100ccビーカーに深さ約30mmとなるように満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度50mm/secで基板を引き上げ、ゲル膜5G01w50〜5G37w50を得た。
【0102】
ゲル膜5G01w50〜5G37w50の各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。
【0103】
熱処理温度は添加物により異なり、添加物[09]〜[11]、[18,19]、[33]〜[37]を用いた場合は170〜220℃保持、[01]〜[08]、[21]〜[24]を用いた場合は230〜280℃保持、その他は200〜250℃保持とした。各々の仮焼膜を5C01w50〜5C37w50と呼ぶ。
【0104】
仮焼膜5C01w50〜5C37w50の各々を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして超電導体5F01w50〜5F37w50を得た。
【0105】
得られた各々の超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。また、誘導法測定後にICP(誘導励起プラズマ発光分光法)による破壊分析を行い、膜厚を同定した。超電導膜5F01w50〜5F37w50は、膜厚が400〜650nm、Jc値が0.0〜5.6MA/cm2(77K,0T)であった。
【0106】
この場合、Jc値は添加剤分子中の(フッ素)/(フッ素+水素)の原子数の比率(mol%)の値に関係がある。この値をRFという。表2に、添加剤のRF値と、得られる超電導膜のJc値との関係を示す。また、表2のデータを図10にまとめる。
【0107】
【表2】
【0108】
表2および図10から以下のことがわかる。RFが75%未満ではJc値が急減する。これは先に述べたように、多量の水素を含む添加剤は有機鎖が切れた後も膜内にとどまるため、他の酸化物の酸素とフッ素が置換し、残留フッ素量を増大させて超電導特性を低下させる傾向がある。これに対して、少量の水素を含む添加剤はフッ化物とフッ化水素などの化合物を形成して大気中に散逸するために影響が比較的小さいものと考えられる。十分な超電導特性を示す超電導体を得るには、RFが75%以上であることが好ましい。特に、RFが90%以上である添加剤は、Jcが5.0MA/cm2(77K,0T)以上である超電導膜が得られるので望ましい。ただし、RFが96%を超えると、超電導膜にクラックが生じやすい。これは、フッ素が多すぎる添加剤は、膜の内部で十分な水素結合を形成しないため、トリフルオロ酢酸塩の分解時に乾燥応力に抵抗する力が弱くなり、クラックが生じやすくなるためと推測される。
【0109】
5F01w50〜5F37w50の各々についてSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した。その結果、膜表面から100nm以内の部分および基板界面から膜厚の10%の部分を除き、膜表面から厚さ10nm毎に複数の領域に区分したとき、互いに隣接する2つの領域における酸素、フッ素、銅の原子比(平均値)が1/5倍から5倍の範囲内であり、連続的に変化していることがわかった。
【0110】
(実施例6)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0111】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0112】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液6Aを得た。
【0113】
一方、添加剤として以下の有機物を用意した。
【0114】
[07]H(CF2)6CH2OH,
[08]H(CF2)8CH2OH,
[09]F(CF2)4COOH,
[10]F(CF2)5COOH,
[11]F(CF2)6COOH,
[13]F(CF2)8COOH,
[15]F(CF2)10COOH,
[18]H(CF2)4COOH,
[19]H(CF2)6COOH,
[20]H(CF2)8COOH。
【0115】
コーティング溶液6Aに、2種類の添加剤を5wt%ずつ混合してコーティング溶液を得た。たとえば[07]と[09]を5wt%ずつ混合したコーティング溶液をS0709と呼ぶ。このように2種類の添加剤を混合すると分解温度が幅広くなり、熱処理時の安定性が増す傾向にある。
【0116】
本実施例で調製したコーティング溶液は、S0709、S0809、S0910、S0911、S0913、S0915、S1118、S1119、S1120、S0918、S1318の11種類である。
【0117】
各々のコーティング溶液を100ccビーカーに深さ約30mmとなるように満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度50mm/secで基板の引き上げを行い、ゲル膜G0709、G0809、G0910、G0911、G0913、G0915、G1118、G1119、G1120、G0918、G1318を得た。
【0118】
ゲル膜G0709、G0809、G0910、G0911、G0913、G0915、G1118、G1119、G1120、G0918、G1318の各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。熱処理温度は添加剤に応じて170〜240℃間の50℃を選んで長時間保持を行った。G0709、G0809、G0910、G0911、G0913、G0915は180〜230℃で保持し、G1119、G1120は190〜240℃で保持し、それ以外は170〜220℃で保持を行った。これらの仮焼膜をC0709、C0809、C0910、C0911、C0913、C0915、C1118、C1119、C1120、C0918、C1318と呼ぶ。
【0119】
これらの仮焼膜の各々を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして、超電導膜F0709、F0809、F0910、F0911、F0913、F0915、F1118、F1119、F1120、F0918、F1318を得た。
【0120】
得られた超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。また、誘導法測定後にICP(誘導励起プラズマ発光分光法)による破壊分析を行い、膜厚を同定した。その結果を表3に示す。
【0121】
【表3】
【0122】
F0709、F0809、F0910、F0911、F0913、F0915、F1118、F1119、F1120、F0918、F1318の各々についてSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した。その結果、膜表面から100nm以内の部分および基板界面から膜厚の10%の部分を除き、膜表面から厚さ10nm毎に複数の領域に区分したとき、互いに隣接する2つの領域における酸素、フッ素、銅の原子比(平均値)が1/5倍から5倍の範囲内であり、連続的に変化していることがわかった。2種類の添加剤を混合して添加した場合には、分解温度がやや低下し分解温度が広がる傾向が見られ、厚い超電導膜で高い超電導特性が実現できることもわかった。
【0123】
(実施例7)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0124】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0125】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液7Aを得た。
【0126】
一方、添加剤として以下の有機物を用意した。
【0127】
[01]F(CF2)4COOH,
[02]F(CF2)5COOH,
[03]F(CF2)6COOH,
[04]F(CF2)7COOH,
[05]F(CF2)8COOH,
[06]F(CF2)9COOH,
[07]F(CF2)10COOH,
[08]HOOC(CF2)4COOH,
[09]HOOC(CF2)6COOH,
[10]HOOC(CF2)7COOH,
[11](CF3)2C(CH3)COOH,
[12](CF3)2C(CH3)COF。
【0128】
コーティング溶液7Aに、上記の添加剤のうち10種類の添加剤を1wt%ずつ混合して合計で10wt%加えてコーティング溶液を得た。混合添加剤は、[01]〜[10]を混合したもの、[01]〜[09]、[11]を混合したもの、[01]〜[09]、[12]を混合したものの3種類を用意した。得られたコーティング溶液7X、7Y、7Zと呼ぶ。
【0129】
各々のコーティング溶液を100ccビーカーに深さ約30mmとなるように満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度50mm/secで基板の引き上げを行い、ゲル膜G7X、G7Y、G7Zを得た。
【0130】
ゲル膜G7X、G7Y、G7Zの各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。熱処理温度を180〜230℃として長時間保持した。これらの仮焼膜をC7X、C7Y、C7Zと呼ぶ。多数の添加剤を混合した場合、膜の周縁部まで安定して成膜できる傾向が確認された。最適分解温度は20℃低下していた。
【0131】
仮焼膜C7X、C7Y、C7Zの各々を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして、超電導膜F7X、F7Y、F7Zを得た。
【0132】
得られた超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。また、誘導法測定後にICP(誘導励起プラズマ発光分光法)による破壊分析を行い、膜厚を同定した。その結果を表4に示す。
【0133】
【表4】
【0134】
F7X、F7Y、F7Zの各々についてSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した。その結果、膜表面から100nm以内の部分および基板界面から膜厚の10%の部分を除き、膜表面から厚さ10nm毎に複数の領域に区分したとき、互いに隣接する2つの領域における酸素、フッ素、銅の原子比(平均値)が1/5倍から5倍の範囲内であり、連続的に変化していることがわかった。
【0135】
(実施例8)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0136】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0137】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液8Aを得た。
【0138】
コーティング溶液8Aに、添加剤としてF(CF2)4COOHまたはH(CH2)4COOHを10wt%添加し、コーティング溶液8Fおよび8Hを得た。
【0139】
各々のコーティング溶液を100ccビーカーに深さ約30mmとなるように満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度5mm/secで単結晶の引き上げを行いゲル膜G8F、G8Hを得た。引き上げ速度を遅くした理由は、膜厚を厚くしようとして引き上げ速度を大きくすると、G8H試料では良好な膜を形成できないためである。こうした事情なので、2種類の添加剤の効果を比較するために、遅い引き上げ速度を選択した。
【0140】
ゲル膜G8F、G8Hの各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。これらの仮焼膜をC8F、C8Hと呼ぶ。
【0141】
仮焼膜C8F、C8の各々を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして、超電導膜F8F、F8Hを得た。
【0142】
得られた超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。また、誘導法測定後にICP(誘導励起プラズマ発光分光法)による破壊分析を行い、膜厚を同定した。超電導膜F8F、F8Hは、Jc値(77K,0T)がそれぞれ6.2および0.0MA/cm2であり、膜厚がそれぞれ170および170nmであった。このようにF8Hは超電導体ではなかった。
【0143】
F8F、F8Hの各々についてSIMS分析により表面から基板の方向へフッ素の分布を測定した結果を図11に示す。この図には、物理蒸着膜(deposited)およびフッ素をイオン注入した物理蒸着膜(implanted)の測定結果をともに示す。
【0144】
F8Fでは、フッ素量は膜表面から徐々に減少し、膜内部ではバックグラウンドの10倍程度になる傾向が見られた。添加剤としてF(CF2)4COOHを用いた場合、引き上げ速度を増加させて膜厚を増大させても図11と同程度の残留フッ素量になることがわかっている。このことは、添加剤としてF(CF2)4COOHを用いれば超電導体からフッ素を有効に低減できることを示している。
【0145】
F8Hでは、F8Fの10倍程度のフッ素が残留していることがわかる。添加剤としてH(CH2)4COOHを用いた場合、本焼時に擬似液相ネットワークを形成しても、フッ素の脱離量はわずかであり、多量のフッ素を含んだ超電導膜が形成される。フッ素を含む超電導膜では、本焼後に温度を低下すると再結晶化によりBaF2が生成して超電導体のベロブスカイト構造を分断するため、超電導特性は1/10以下に激減する。
【0146】
F8Hの膜厚を臨界膜厚に近い300nmとすると残留フッ素量は図11の2〜3倍になった。このことは先に説明した、膜厚の増大に伴う水素原子によるフッ素化合物の散逸妨害によるものである。この場合、表面から遠い部分のフッ素が特に残りやすく、残留フッ素量が増大して超電導特性が低下することをよく説明している。
【0147】
このように、フッ素を残留させないで超電導体を厚膜化するには、多数の水素をもつ酢酸塩などを含まない高純度溶液が必要であることが合理的に理解できる。これは、多数のもつ酢酸塩などが存在すると残留フッ素量が増大するためである。また、この傾向は膜厚が増大するほど顕著となる。初期の溶液中に多数の水素をもつ有機物が残留する系では、膜厚の増加とともに超電導膜中の残留フッ素量が増加し超電導特性が低下する。
【0148】
(実施例9)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0149】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0150】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52M、2.31M、および2.78Mのコーティング溶液9A、9B、および9Cを得た。
【0151】
コーティング溶液9A、9B、および9Cの各々に、添加剤としてH(CF2)4COOHを1.0wt%、1.5wt%、2.0wt%、2.5wt%、3.0wt%、4.0wt%、5.0wt%、6.0wt%、8.0wt%、10wt%、15wt%、20wt%、25wt%、または30wt%加え、コーティング溶液を得た。コーティング溶液の名称は、たとえば9C溶液に添加剤1.5wt%加えた場合には9C1.5と記述する。
【0152】
各々のコーティング溶液を100ccビーカーに深さ約30mmとなるように満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度5〜50mm/secで基板を引き上げてゲル膜を得た。ゲル膜の名称は、たとえば溶液9C1.5から引き上げ速度20mm/secで引き上げた場合には、G9C1.5w20と記述する。
【0153】
ゲル膜G8F、G8Hの各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。仮焼膜の名称は、たとえばゲル膜がG9C1.5w20である場合にはC9C1.5w20と記述する。
【0154】
各々の仮焼膜を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして、超電導膜を得た。超電導膜の名称は、例えば仮焼膜がC9C1.5w20の場合にはF9C1.5w20と記述する。
【0155】
各々の仮焼膜について、クラックの発生状況を調査した。添加剤の量が2.0wt%以下では、引き上げ速度を15mm/secとして製造された膜厚約350nmの超電導膜(たとえばC9A2.0w15、C9B2.0w15、C9C2.0w15)でクラックが発生していることが確認された。添加剤の量が2.0wt%以下では、溶液の濃度によらずほぼ同様の傾向を示した。一方、添加剤の量が2.5wt%以上であれば厚膜化の効果があると推測された。
【0156】
添加剤の量が20wt%を超える条件で製造された超電導膜(たとえばC9A25w20)は、クラックを生じないけれども、超電導特性が低くなっていた。これは、トリフルオロ酢酸塩に比べて多量の添加剤が混合したため、超電導体の量が相対的に少なくなり超電導特性が低下したものと考えられる。添加剤の量が20wt%を超えた範囲では、溶液の濃度によらずほぼ同様の傾向を示した。
【0157】
これらの結果は、ゲル膜におけるトリフルオロ酢酸塩と添加剤との比率が超電導膜の厚膜化に重要であることを示唆していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】実施形態における高純度溶液調製のためのフローチャート。
【図2】実施形態における超電導体製造のためのフローチャート。
【図3】実施形態における仮焼時の温度プロファイルを示す図。
【図4】実施形態における本焼時の温度プロファイルを示す図。
【図5】実施例2において基板の表面に形成された仮焼膜のSIMSプロファイルを示す図。
【図6】実施例2において基板の裏面に形成された仮焼膜のSIMSプロファイルを示す図。
【図7】実施例2において基板の表面に形成された超電導膜のSIMSプロファイルを示す図。
【図8】実施例2において基板の裏面に形成された超電導膜のSIMSプロファイルを示す図。
【図9】実施例3において形成された仮焼膜のSIMSプロファイルを示す図。
【図10】実施例5において得られた超電導膜について、RFとJcとの関係を示す図。
【図11】実施例8において得られた超電導膜について、添加剤の違いによるフッ素濃度の変化を示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年実用化が進められている高臨界電流酸化物超電導材料は、核融合炉、磁気浮上列車、加速器、磁気診断装置(MRI)、マイクロ波フィルターなどへの有用な応用が期待され、一部は既に実用化がなされている。
【0003】
酸化物超電導体には主にビスマス系、イットリウム系、タリウム系超電導体などがある。このうち、液体窒素温度の磁場中で最も高い超電導特性を発揮し、液体窒素冷却でリニアモーターカーに利用できるイットリウム系超電導体が実用化に近い材料として大いに注目を集めている。
【0004】
イットリウム系超電導体はYBa2Cu3O7-xの組成で表され、ペロブスカイト構造を持つ。イットリウムがランタノイド族の希土類元素で置換された化合物や、これらの混合物も超電導特性を示すことが知られている。その製造方法としてはこれまで、パルスレーザー堆積(PLD)法、液相成長堆積(LPE)法、電子ビーム(EB)法、金属有機物堆積(MOD)法などが用いられてきた。
【0005】
超電導体の製造方法はin situ(イン・サイチュ)プロセスとex situ(エクス・サイチュ)プロセスに大別される。in situプロセスは、超電導体製造時に超電導体に必須な金属の堆積と、酸化による超電導体形成とを一度に行う。ex situプロセスは、超電導体に必須な金属の堆積と、超電導体を形成するための熱処理とを別に行う。そのためex situプロセスでは前駆体(または仮焼膜)が存在する。
【0006】
超電導体の製造方法として初期に注目されたのはin situプロセスであった。これは、in situプロセスでは工数が少なく低コストになるのではないかと期待されたためである。しかし、このプロセスは一度にすべての成膜条件をそろえなければならないことから条件制御が難しく、良好な超電導体が得られにくいということがわかった。一方、ex situプロセスは製造コスト増加が危惧されていたものの、後述する非真空プロセスであるMOD法やTFA−MOD法の開発により、かなりの製造コスト低減が可能となった。また、ex situプロセスは、熱処理を2度に分けたことにより、in situプロセスよりも熱処理制御が容易であるという利点がある。
【0007】
ex situプロセスにはEB法(非特許文献1)、MOD法、TFA−MOD法(非特許文献2)などが含まれる。
EB法は、電子ビームで超電導体に必須の金属を含む前駆体を堆積し、その後の熱処理(本焼)によりY系超電導体を形成する。本焼時にはフッ素の存在により擬似液相ネットワークを経て超電導層が成長すると予想される。この方法は、炭素を用いないため、得られる超電導体に残留炭素が全く存在せず、超電導特性を大きく劣化させることがない。しかし、EB法は製造コストが高いという問題がある。
【0008】
MOD法は他の分野において研究されてきた方法を超電導体の製造に転用したものである。MOD法によるY系超電導体の製造に関しては有害な残留炭素をいかに低減するかに大きな努力が払われてきたが、有効な残留炭素低減が実現していない。この方法では仮焼熱処理によって前駆体中の有機物の分解を行うため、得られる膜は仮焼膜とも呼ばれる。仮焼膜は金属酸化物と残留炭素を含みフッ素を全く含まない。また、本焼膜も金属酸化物と残留炭素を含む。
【0009】
最後にMOD法から派生したTFA−MOD法を説明する。この方法はフッ素化合物であるトリフルオロ酢酸塩(TFA)を用いることにより仮焼時に炭素追い出し機構が働き、超電導体に有害な炭素の大部分を追い出した仮焼膜が得られやすい。また、本焼時にはフッ素の働きにより擬似液相ネットワークの形成と化学平衡反応により、原子レベルで高配向の組織が再現性よく形成されることもわかっている。更に成膜から仮焼および本焼まで真空を一切使わずコストを低減できるため、世界中で研究が普及した。現在では100mで70Aもの電流が得られる線材が再現性よく製造されるようになっている。この結果、TFA−MOD法はイットリウム系超電導体製造の主力プロセスとなっている。
【0010】
しかし、TFA−MOD法は、低コストで高い超電導特性を示す超電導体を製造できるという大きなメリットをもつ反面、厚膜化が難しいという欠点がある。これは、このプロセスではゲル膜から最終的な超電導膜までに体積が87%も減少し、その体積減少時に加わる基板面に平行な方向への応力(乾燥応力)によって、一定膜厚(臨界膜厚)以上では緩やかな熱処理を行ってもクラックが生じるためである。高い超電導特性を示す超電導体を得るには、通常、不純物を可能な限り低減した高純度溶液を用いるが、その場合の臨界膜厚は300nm程度である。たとえば、直径2インチ基板上で膜厚350nmの超電導体を形成すると、目視で容易に認識可能な0.1mm幅以上、長さ1mm以上の大きさのクラックが確認されている。
【0011】
ここで、超電導体の厚膜化について説明する。通常のMOD法では、コーティングによりゲル膜を形成して仮焼し、再びコーティングによりゲル膜を形成して仮焼することを繰り返して厚膜化するが、これは仮焼自体がごく短時間で完了するためである。ただし、MOD法において繰り返しコーティングにより超電導体の厚膜化を行うと残留炭素量増加により致命的な超電導特性の低下がもたらされることがわかっている。一方、TFA−MOD法では仮焼時に燃焼を防止しながら有機物を分解するため、仮焼は有機物の共有結合を切るだけの保持時間を必要とし、全プロセス中もっとも長い時間が費やされる。このため、TFA−MOD法で繰り返しコーティングを採用して超電導体の厚膜化を試みると、非常に長時間の熱処理が必要となる。また、何度も熱履歴を受けた超電導膜は局所的な結晶化により均質性が失われ、徐々に質が悪くなる。加えて、繰り返しコーティング時の下部層と上部層との境界に酸化物層などが形成され、超電導特性が低下することもわかっている。特に、繰り返しコーティングによる厚膜化は、マイクロ波フィルター応用において致命的な結果をもたらす。マイクロ波フィルターでは膜厚400nm以上の超電導体が必要とされ、特に送信側では高い超電導特性を維持した厚い超電導体が必要である。しかし、上記のとおり繰り返しコーティングでは層間に酸化物が形成されるため、この酸化物が損失の原因となって、フィルター特性の調整が極めて困難になり、シャープカットなフィルターの作製が困難になる。したがって、長時間熱処理と酸化物層形成による超電導特性の低下を回避するためには、TFA−MOD法で1回のコーティングによって高い超電導特性を示し厚膜化した超電導体を得ることが重要になる。
【0012】
次に、1回コーティングにより超電導体を厚膜化する方法について説明する。従来のMOD法では、超電導体に必須な金属を含む金属有機物に、それよりも長鎖の有機物を添加し、低温で必須金属を含む金属有機物が分解するが添加有機物は分解しないことを利用してクラックを防止し、その後、より高い温度で添加有機物を分解する方法を用いることにより厚膜化を実現できる。しかし、MOD法では、添加有機物に由来する残留炭素が問題となる。一方、TFA−MOD法において同様の方法を用いた場合、炭素追い出し機構が働くため、残留炭素よりもむしろ残留フッ素が問題になることが近年わかってきた。TFA−MOD法では本焼時における擬似液相ネットワークの形成のために、ある程度のフッ素量が必要となるが、MOD法で用いられていたのと同様な添加有機物を混入した場合の残留フッ素量はそうでない場合の10〜20倍程度にも達する。また、擬似液相ネットワーク形成時にフッ素が除去されることから、本焼条件で長時間保持するとフッ素を除去できると予想されていた。しかし、本焼条件下で長時間保持すると、フッ素化合物が混在するY系超電導体の組織がわずかに形成されることがわかってきた。このフッ素化合物は冷却時にフッ化バリウムとして再結晶化して結晶配向を乱す原因になる。実際、超電導体のXRD測定によりわずかでもBaF2が検出された場合には、超電導特性が1/10以下に劣化していた。しかも、有機物を添加したときの残留フッ素量は、1回コーティングで膜厚を厚くするほど増大する。これはコーティング膜の下部に存在するフッ素が除去されないためであると考えられる。
【0013】
Rupichらは、フッ素を含んだ有機物を添加することなく、Cuトリフルオロ酢酸塩の代わりによりフッ素の少ないCuカルボン酸塩を用いて、酸化物超電導体のフッ素量を増大させないようにする方法を提案している(特許文献1)。この方法で使用されているCuカルボン酸塩は、フッ素の代わりにたとえば塩素、臭素、水素などを含むものである。しかし、Rupichらが用いている溶液はSolvent−Into−Gel法による高純度溶液でないため、あらかじめ一定量の酢酸塩などが残留していると推定され、それが残留フッ素量を増大させている可能性がある。
【0014】
また、J.A.Smithらは1998年に1000nm厚の超電導体を報告しているが、超電導特性はそれほど高くなく、その製造方法の詳細も不明である。
【非特許文献1】P.M. Mankiewich, et al. Appl. Phys. Lett. 51, 1987, 1753-1755
【非特許文献2】T. Araki and I. Hirabayashi, Supercond. Sci. Technol. 16, 2003, R71-R94
【特許文献1】特表2004−512252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、残留フッ素量が低く、膜厚が厚く、しかも高い超電導特性を示す酸化物超電導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様に係る酸化物超電導体は、基板上に、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属Mと、バリウムと、銅とを含む酸化物の膜として形成され、平均膜厚が350nm以上、平均残留炭素量が3×1019atoms/cc以上、残留フッ素量が5×1017〜1×1019atoms/ccであり、前記膜を膜表面または基板との界面から厚さ10nm毎に複数の領域に区分して分析したとき、互いに隣接する2つの領域における銅、フッ素、酸素および炭素の原子比が1/5倍から5倍の範囲内であることを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様に係る酸化物超電導体の製造方法は、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)を含む金属Mと、バリウムと、銅とを原子比で約1:2:3となるよう混合したフルオロカルボン酸塩のメタノール溶液に、フッ素/(フッ素+水素)が75〜96mol%である有機物を添加してコーティング溶液を調製し、前記コーティング溶液を基板上にコーティングしてゲル膜を形成し、前記ゲル膜を仮焼、本焼および酸素アニールして酸化物超電導体の膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、残留フッ素量が低く、膜厚が厚く、しかも高い超電導特性を示す酸化物超電導体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法では、金属M、バリウム、および銅を含むフルオロカルボン酸塩のメタノール溶液に、フッ素/(フッ素+水素)が75〜96mol%である有機物を添加したコーティング溶液を用いる。これまで、多量のフッ素を含む有機物をコーティング溶液に添加するという試みはなされなかった。これは、このような方法では残留フッ素量が増加すると推測されるためである。
【0020】
本発明者らは、TFA−MOD法における多くの現象を、仮焼時の炭素追い出し機構と、本焼時の擬似液相ネットワークモデルによる組織形成によって説明できることを解明した。これらの2つの機構を利用すると、溶液合成時のエステル化反応を防止しながら超電導体中の残留フッ素量の増加を抑制できる物質として、長鎖のフルオロカルボン酸が示唆された。
【0021】
長鎖のフルオロカルボン酸を用いることが有利であることの概略的な理由は以下のとおりである。水素などフッ素以外の原子を多く含む有機物を用いた場合、分解したフッ素化合物はその有機物と水素結合を形成するため高い温度まで膜内部に残留する。炭素追い出し機構によればフッ素は酸素などを置換するので、多量のフッ素化合物がより長時間滞在すれば残留フッ素量は増大する。したがって、残留フッ素量の増大を防止するには、仮焼時に生成したフッ素化合物が水素結合を起こさないことが重要になる。
【0022】
フッ素と電気陰性度の近い原子はフッ素と相互作用と起こさないことが期待できるが、全原子中で最強のフッ素に近い電気陰性度を持つ原子は他に存在しない。ところがフッ素そのものを含む添加剤を用いれば、仮焼時に生成したフッ素化合物との相互作用をなくすことができると考えられる。添加剤として長鎖のフルオロカルボン酸を添加した場合には、仮焼時の保持温度である200−250℃で添加剤が分解するが、周囲のトリフルオロ酢酸由来のフッ素化合物と水素結合などの強い相互作用を起こすことはない。仮焼時に添加剤が分解して分子量が小さくなると、ガス化して気流中に散逸する。このように、最終的に得られる超電導体中の残留フッ素量を低減するためには、添加剤として多数のフッ素を含み水素を全くまたは少ししか含まない有機物を加えることが有効である。ただし、有機鎖に結合している原子は全てフッ素である必要はなく、一部に水素が結合していたとしても問題がないことがわかっている。少数の水素の周囲に多数のフッ素が存在していると、水素はフッ化水素を生成して散逸するため問題にならない。添加剤中の水素原子数がフッ素原子数の1/3以下であれば、したがってフッ素/(フッ素+水素)が75mol%以上であれば、残留フッ素量の低減に効果があることがわかっている。高純度のコーティング溶液に添加剤としてフッ素化合物を添加することにより、残留フッ素量が少なく高い超電導特性を示す厚膜の超電導膜を得ることができる。
【0023】
添加剤として添加された長鎖フルオロカルボン酸はトリフルオロ酢酸と異なる温度で分解するので、仮焼膜でのクラック発生を防止できる。有機鎖が切れて生成するフッ素化合物は他の物質と相互作用を起こすことなくガスとなって気流中に散逸する。この結果、超電導体の構成金属に結合した酸素がフッ素によって置換されないので、超電導膜中の残留フッ素量の低減を実現でき、高い超電導特性を示す超電導膜が得られる。
【0024】
コーティング溶液に添加される添加剤の量は、コーティング溶液の金属イオンのモル濃度が1.5mol/lである標準溶液について、2.5〜20wt%の範囲で厚膜化に効果があることがわかっている。種々の添加剤について詳細に調べたところ、添加剤の量はモル比ではなくて重量比に関係することがわかっている。コーティング溶液の金属イオン濃度が異なる場合には、金属イオン濃度に比例して添加剤の添加量を加えればいいこともわかっている。たとえば、標準溶液に対して金属イオンモル濃度で40%濃厚な2.1mol/lの溶液を用いる場合、添加剤の添加量も上記範囲の40%増の量を添加すればいいことがわかっている。これはコーティング後のゲル膜において、ゲル膜を構成する溶質と添加剤とが特定比率の範囲に収まっていればいいことを示している。なお、ここでは溶質重量ではなくて、近似的に溶液重量を用いている。これはメタノールと溶質であるトリフルオロ酢酸塩とを混合したときに体積減少が生じ、正確な溶質重量が求まらないためである。
【0025】
上記のメタノール重量を考慮しないことによる影響は、以下の理由から、それほど大きくないことが理解できる。混合トリフルオロ酢酸塩の金属イオン濃度の上限値は2.9〜3.0mol/l程度である。しかし、濃厚溶液を用いた場合にはゲル膜のストレスを増大させやすく、現実に用いることができる金属イオン濃度の上限値は2.7〜2.8mol/l程度である。これは、金属イオン濃度が1.5mol/lである標準溶液と比較すると2倍に満たない濃度である。一方、混合トリフルオロ酢酸塩の金属イオン濃度の下限値については、0.75mol/lを下回るとコーティング条件を最適化しても厚いゲル膜を得ることが困難になる。このように金属イオン濃度の下限値も標準溶液の1.5mol/lと比較して0.5倍程度である。このため、添加剤の添加量を溶液重量に対する比率で扱っても、有効な添加量をおおよそ知ることができる。なお、イットリウム塩を含む混合トリフルオロ酢酸塩の比重は約2.4g/ml、メタノールの比重は0.79g/mlであり、その溶液においては軽いメタノールの影響は小さくなる。このこともメタノール重量を考慮しないことによる影響を軽微にしている理由になっていると考えられる。
【0026】
コーティング溶液(標準濃度)に対する添加剤の添加量が2.5wt%で臨界膜厚が350nm程度になるので、それ未満の添加量では超電導膜の厚膜化を達成できなくなる。多くの添加剤は10wt%程度の添加量で3,000nm程度の厚い超電導膜の前駆体(仮焼膜)を形成できる。添加剤の添加量が20wt%を超えると、膜中の添加剤の割合が大きくなる結果、超電導特性が得られなくなる。
【0027】
本発明の実施形態に係る方法を用いれば、1回コーティングにより内部に酸化物層などを含まずに、膜厚700nm以上の仮焼膜および膜厚350nm以上の本焼膜(超電導膜)を得ることができる。特に、膜厚1300nmの仮焼膜から得られた膜厚650nmの本焼膜(超電導膜)で高い超電導特性が得られている。また、膜厚2900nmの仮焼膜(本焼後は1450nmに相当)で、組成分布に不連続面のないものも得られている。現時点ではLaAlO3上に成膜しているためa/b軸配向粒子が多量に出現して厚膜では超電導特性が得られていないが、本焼時にa/b軸配向粒子が形成しにくい中間層上などでは高い超電導特性を示す超電導膜が期待できる。
【0028】
本発明の実施形態に係る酸化物超電導体の製造方法についてより具体的に説明する。
まず、図1を参照して、金属酢酸塩をフルオロカルボン酸と反応させて高純度溶液を調製する方法を説明する。図1における金属酢酸塩(a1)とは、金属Mの酢酸塩、酢酸バリウム、および酢酸銅の総称である。各々の金属酢酸塩(a1)を水(b)に溶解し、フルオロカルボン酸(a2)を混合する。これらの溶液を、金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して反応させ(c)、減圧下で不純物を揮散させて精製し(d)、不純物入り粉末またはゲル(e)を得る。
【0029】
フルオロカルボン酸(a2)としては、典型的には炭素数2のフルオロカルボン酸たとえばトリフルオロ酢酸(TFA)が用いられるが、金属酢酸塩の種類に応じて他の適切なフルオロカルボン酸を用いてもよい。たとえば、金属Mを含む金属酢酸塩および酢酸銅は、炭素数2のフルオロカルボン酸に限らず、炭素数3以上のフルオロカルボン酸たとえばペンタフルオロプロピオン酸(PFP)と反応させてもよい。特に、ランタン、ネオジウムおよびサマリウムからなる群より選択される金属Mを含む金属酢酸塩は、炭素数3以上のフルオロカルボン酸と反応させることが好ましい。ただし、酢酸バリウムは、炭素数3以上のフルオロカルボン酸と反応させると沈殿物を生成するため、炭素数2のフルオロカルボン酸たとえばTFAと反応させる。
【0030】
炭素数2のフルオロカルボン酸は、トリフルオロ酢酸(TFA)、モノフルオロ酢酸(MFA)、ジフルオロ酢酸(DFA)を含む。炭素数3以上のフルオロカルボン酸は、ペンタフルオロプロピオン酸(PFP)、ヘプタフルオロブタン酸(HFB)、ノナフルオロペンタン酸(NFP)などを含む。
【0031】
その後、Solvent−Into−Gel(SIG)法による精製を行う。具体的には、不純物入り粉末またはゲル(e)に対してメタノール(f)を加えて不純物(たとえば水)と置換し、この不純物入り溶液(g)からメタノールおよび不純物を揮散させることにより精製し(h)、溶媒入り粉末またはゲルを得る(i)。この溶媒入り粉末またはゲル(i)に再びメタノール(j)を加え、高純度溶液を得る(k)。
【0032】
次に、図2を参照して、酸化物超電導体を得る方法を説明する。金属M、バリウムおよび銅のモル比が1:2:3となるように、それぞれの高純度溶液を混合して溶液Aを調製し、添加剤としてフッ素/(フッ素+水素)が75〜96mol%である有機物を添加して(a)、コーティング溶液Bを調製する(b)。このコーティング溶液Bを基板上に成膜(c)してゲル膜(d)を形成し、一次熱処理として仮焼(e)を行って金属酸化フッ化物からなる仮焼膜(f)を形成し、二次熱処理である本焼(g)および純酸素アニール(h)を行い、酸化物超電導体(i)を得る。
【0033】
図3に仮焼時の温度プロファイル(および雰囲気)の一例を示す。
【0034】
(1)時刻0からta1(熱処理開始から7分程度)の間に熱処理炉内の温度を室温から100℃まで急激に上昇する。このとき熱処理炉内は常圧の乾燥した酸素雰囲気中に置かれる。なお、この後の熱処理工程は全て常圧下で行うことができる。
【0035】
(2)時刻ta1になったとき熱処理炉内の雰囲気を加湿した常圧の純酸素雰囲気に変更する。時刻ta1からta2(熱処理開始から42分程度)の間に熱処理炉内の温度を100℃から170〜230℃の範囲に上昇する。このとき加湿した純酸素雰囲気の湿度を、たとえば1.2〜12.1%の範囲に設定する。上記の湿度は露点10℃および50℃に相当する。湿度は、所定の温度の水に雰囲気ガス(酸素ガス)の気泡を通し、気泡内の飽和水蒸気圧によって調整する。飽和水蒸気圧は温度によって決定される。湿度の露点相当温度を室温よりも低く設定するには、雰囲気ガスを分流して一部の雰囲気ガスの気泡のみを水に通した後に合流させる。この加湿の目的は、主に、最も昇華しやすいフルオロ酢酸銅を部分加水分解によりオリゴマーに変換して見掛けの分子量を上げ、フルオロ酢酸銅の昇華を防止することにある。フルオロ酢酸がトリフルオロ酢酸である場合には、下記のように加水分解が行われ、銅塩の両端のF原子とH原子との間で水素結合を作り、4〜5分子がつながることによりみかけの分子量が増大するため昇華が抑制される。
CF3COO-Cu-OCOCF3 + H2O → CF3COO-Cu-OH + CF3COOH。
【0036】
(3)時刻ta2からta3(4時間10分から16時間40分程度)の間に炉内の温度を220〜280℃の範囲に緩やかに上昇する。緩やかに昇温するのは、部分加水分解した塩が急激な反応により燃焼して炭素成分が残ることを防止するためである。長時間の分解反応により塩の共有結合部分が開き、一時的に金属酸化物(Y2O3、BaO、CuO)が形成され、Y2O3およびBaOでは酸素の一部がフッ素に置換され、YまたはBaと酸素とフッ素との不定比化合物が生成する。この状態で徐々に反応が進み温度が保持されるため、単一物質であるCuOのみが粒成長して数十nmのナノ微結晶となり、フッ素と酸素が不定比のYおよびBa成分は粒成長できずにアモルファスとなる。
【0037】
(4)時刻ta3からta4およびta4からta5(この間2時間程度)の間に熱処理炉内の温度を220〜280℃から400℃まで上昇する。時刻ta2からta3の間に分解した不要な有機物が水素結合などで膜中に残存しているが、この工程で除去される。
【0038】
(5)時刻ta5以降はガスを流しながら炉冷する工程である。こうして仮焼膜が得られる。
【0039】
得られた仮焼膜に電気炉中で本焼および純酸素アニールを行い、酸化物超電導体を製造する。図4に本焼時の温度プロファイル(および雰囲気)の一例を示す。
【0040】
(6)時刻0からtb1(熱処理開始から7分程度)の間に熱処理炉内の温度を室温から100℃まで急激に上昇する。このとき熱処理炉内を常圧のAr/O2ガス雰囲気に置く。酸素濃度については焼成を行う超電導体の金属種や焼成温度に応じて最適値が設定される。たとえば、Y系(YBa2Cu3O7-x)で800℃焼成の場合、酸素分圧を1000ppmに設定し、温度が25℃低下するたびに酸素濃度をほぼ半減させるという熱処理条件が最適とされている。La系、Nd系、Sm系でも温度が25℃低下するたびに酸素濃度をほぼ半減させるが、800℃焼成における酸素分圧をそれぞれ1ppm、5ppm、20ppmとすることが好ましい。なお、この後の熱処理工程は全て常圧下で行うことができる。
【0041】
(7)時刻tb1からtb2(33分間から37分間程度、最高到達温度まで20℃毎分程度で加熱)およびtb2からtb3(5分程度)で熱処理炉内温度を750℃〜825℃の最高温度まで上昇する。時刻tb1において、仮焼と同様の方法で、乾燥ガスを加湿する。このときの加湿量は1.2%(露点10℃)から30.7%(露点70℃)までの広い範囲で選択できる。加湿量を増大させると反応速度が増大する。その増加量は0.5乗と見積もられている。tb2からtb3で昇温速度を小さくするのはtb3において電気炉の過熱を小さくするためである。温度650℃程度で、水蒸気の作用によって膜内部で疑似液相形成が始まり、膜内部にそのネットワークが形成される。
【0042】
(8)時刻tb3からtb4(45分から3時間40分程度、この時間は最高温度と最終膜厚に依存し温度が低く膜厚が厚いときに最長となる)の間に、疑似液相ネットワークからMBa2Cu3O6が基板上に順次形成され、同時にHFガスなどが放出される。このときの化学反応を簡略化すると以下のように記述できる。
【0043】
(M-O-F:アモルファス) + H2O → M2O3 + HF↑
(Ba-O-F:アモルファス) + H2O → BaO + HF↑
(1/2)M2O3 + 2BaO + 3CuO → MBa2Cu3O6
(9)時刻tb4から雰囲気を乾燥Ar/O2ガスに切り替える。乾燥ガスに切り替える理由は、tb4までに形成された酸化物MBa2Cu3O6は800℃付近の高温では水蒸気に安定であるが、600℃付近では水蒸気により分解するためである。
【0044】
(10)時刻tb4からtb5(10分間程度)に引き続き、時刻tb5からtb6(2時間から3時間30分程度)に至るまで熱処理炉内の温度を下げ続ける。この間、形成された酸化物に変化はない。
【0045】
(11)時刻tb6で雰囲気を乾燥Ar/O2ガスから乾燥純酸素ガスへ切り替える。この純酸素アニールにより、MBa2Cu3O6がMBa2Cu3O7-x(x〜0.07)となり、酸化物超電導体が得られる。この純酸素切り替え温度は金属Mに応じて異なる。Yの場合には525℃、Smの場合には425〜525℃、Ndの場合には375℃〜475℃、Laの場合には325℃〜425℃で良好な酸化物超電導体が得られることがわかっている。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0047】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0048】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液Aを得た。
【0049】
コーティング溶液Aに添加剤としてH(CF2)8COOHを10wt%加えてコーティング溶液Bを得た。
【0050】
コーティング溶液Aおよびコーティング溶液Bを、それぞれ100ccビーカーに深さ約30mmとなるよう満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度5mm/secおよび20mm/secで基板を引き上げた。こうして、4種類のゲル膜(gel)を得た。コーティング溶液Aから得られたゲル膜は名称にaを、コーティング溶液Bから得られたゲル膜は名称にbを付す。引き上げ速度(withdrawal speed)5mm/secで引き上げたゲル膜は名称にw05を、20mm/secで引き上げたゲル膜は名称にw20を付す。こうして、得られた4種類のゲル膜をG1aw05、G1aw20、G1bw05、およびG1bw20と呼ぶ。
【0051】
ゲル膜G1aw05、G1aw20、G1bw05、およびG1bw20を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜(calcined film)を得た。これらの仮焼膜をC1aw05、C1aw20、C1bw05、およびC1bw20と呼ぶ。これらの仮焼膜の厚みは、それぞれ約400nm、約800nm、約400nm、および約800nmであった。
【0052】
コーティング溶液Aから得られた仮焼膜C1aw05にはクラックが生じなかった。しかし、コーティング溶液Aから得られた仮焼膜C1aw20には、幅0.1mm以上、長さ1mm以上の目視可能なクラックが生じていた。仮焼膜の臨界膜厚は、本焼膜の臨界膜厚(約300nm)の2倍程度の約600nmであることが知られている。C1aw20の結果も、仮焼膜の臨界膜厚600nmを超えた800nm厚の膜ではクラックが生じ易いことを裏付けている。
【0053】
これに対して、コーティング溶液Bから得られた仮焼膜C1bw05およびC1bw20には、いずれもクラックが生じなかった。このことは添加した有機物によりクラック発生が防止されたことを示している。これらの仮焼膜では基板端部より2mm以内の領域を除いた領域で幅0.1mm以上、長さ1mm以上の目視可能なクラックは全く生じなかった。この面積でクラックが生じなければどんなに大きな面積で成膜を行ってもクラックは生じないといえる。これは、膜厚800nmに対して幅6mmは、十分な長さと比率を有し、基板面方向への収縮による応力は全ての領域において緩和されるからである。このように本発明を用いれば高い超電導特性が期待される。すなわち、フッ素含有率が高い有機物を添加することにより、高純度溶液を用いて臨界膜厚以上の成膜を基板の両面に行ったとしても、クラックのない良好な仮焼膜が両面で得られる。
【0054】
得られた仮焼膜のうちクラックが生じたC1aw20を除くC1aw05、C1bw05、およびC1bw20を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして超電導膜を得た。
【0055】
TFA−MOD法において膜にクラックが生じるのはほとんどの場合に仮焼時であり、本焼時には仮焼膜の形態を維持したまま熱処理が進行する。本実施例でも本焼時にクラックが生じた膜はなかった。これらの超電導膜(fired film)をF1aw05、F1bw05、およびF1bw20と呼ぶ。
【0056】
得られた超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。また、誘導法測定後にICP(誘導励起プラズマ発光分光法)による破壊分析を行い、膜厚を同定した。
【0057】
コーティング溶液Aから得られた超電導膜F1aw05は200nmの膜厚を有し、Jc値が7.34MA/cm2(77K,0T)という良好な結果を示した。
【0058】
コーティング溶液Bから得られた超電導膜F1bw05は230nmの膜厚を有し、Jc値が6.58MA/cm2(77K,0T)であり、添加剤を加えてもF1aw05からの超電導特性の低下は軽微であった。
【0059】
コーティング溶液Bから得られた超電導膜F1bw20は500nmの膜厚を有し、Jc値が5.26MA/cm2(77K,0T)であった。このように1回コーティングによって形成された厚膜で、幅1cm当たり263Aもの電流が示す超電導体が得られることがわかった。
【0060】
(実施例2)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0061】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0062】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液2Aを得た。
【0063】
コーティング溶液2Aに添加剤としてH(CF2)8COOHを10wt%加えてコーティング溶液2Bを得た。コーティング溶液2Bを100ccビーカーに深さ約30mmとなるよう満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度50mm/secで基板を引き上げた。同じ条件で2枚の両面コートのゲル膜G2b1w50、G2b2w50を得た。
【0064】
ゲル膜G2b1w50およびG2b2w50の各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。これらの仮焼膜をC2b1w50およびC2b2w50と呼ぶ。
【0065】
図5および図6に、C2b1w50の表面および裏面をSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した結果をそれぞれ示す。別途、フッ素および炭素をイオン注入した参照用の膜を作製し、参照用の膜との比較により、C2b1w50のフッ素および炭素を定量分析している。図5および図6から明らかなように、表面、裏面ともに同様な傾向を示している。
【0066】
図5および図6において、横軸ゼロの位置は膜の表面を示している。炭素は膜表面では膜内部に比べて高い値を示している。膜の表面には大気中の二酸化炭素などが吸着されるため、炭素量が高くなる。TFA−MOD法で形成された超電導膜は表面にある程度の凹凸が存在し、表面から200nm程度までは大気中からの吸着CO2の影響を受ける。また、仮焼膜と単結晶基板との界面と思われる深さ約1.38μmより深い部分では炭素量が1.5桁程度低下していることが認められる。これは、TFA−MOD法の原料であるトリフルオロ酢酸塩に由来する炭素成分が膜中に微量に残留していることによるものであり、EB法の前駆体にはない特徴である。
【0067】
図5および図6において、酸素、フッ素、銅の分布をみると、表面近傍200nmから界面から膜の厚みの10%に相当する部分を除いた1240nmまでの分析値は非常に安定していることが確認できる。これらの図では、繰り返しコーティングにより形成された膜に特徴的な、中間の酸化物層での5倍以上の濃度を超える組成の急な変化は認められない。このことは1回コーティングによって、均一な膜を形成できたことを示している。
【0068】
仮焼膜C2b2w50を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして超電導体F2b2w50を得た。
【0069】
得られた超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。F2b2w50のJc値は、表面の超電導膜で5.11MA/cm2(77K,0T)、裏面の超電導膜で5.64MA/cm2(77K,0T)であった。
【0070】
図7および図8に、F2b2w50の表面および裏面をSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した結果をそれぞれ示す。図5および図6の場合と異なり、フッ素および炭素をイオン注入した参照用の膜に基づく比較を行っていないので、図7および図8には強度のみを表示している。なお、SIMS分析においては強度が物質の量に比例するわけではない。
【0071】
図7から表面の超電導膜の膜厚は約660nmであり、酸素、フッ素、銅に着目すると、仮焼膜と同様に不連続面を持たないことがわかる。つまりこの超電導膜では、繰り返しコーティングにより得られた超電導膜のような成分量の不連続な変化は認められない。
【0072】
図8から裏面の超電導膜の膜厚は約600nmであり表面より薄い。これはディップコートによって形成される膜の膜厚には±5%程度の範囲で差が生じることによる。裏面の超電導膜でも、表面の超電導膜と同様に、成分量の不連続な変化は認められない。
【0073】
以上のように、高純度溶液でしか得られないといわれている5MA/cm2(77K,0T)以上の超電導特性を維持しながら、超電導フィルターに使用可能な膜厚400nmを超える不連続面を持たない超電導体が得られた。
【0074】
(実施例3)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0075】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0076】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で2.31Mのコーティング溶液3Aを得た。我々の過去の報告によれば、この濃度のコーティング溶液を用いた場合、粘度の増大によりディップコートにより形成される膜の膜厚が1.52Mのコーティング溶液を用いた場合に比べてほぼ倍になることがわかっている。
【0077】
コーティング溶液3Aに添加剤としてH(CF2)8COOHを10wt%加えてコーティング溶液3Bを得た。コーティング溶液3Bを100ccビーカーに深さ約30mmとなるよう満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度50mm/secで基板を引き上げることにより、両面コートのゲル膜G3bw50を得た。
【0078】
ゲル膜G3bw50を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜C3bw50を得た。
【0079】
図9に、C3bw50をSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した結果を示す。別途、フッ素および炭素をイオン注入した参照用の膜を作製し、参照用の膜との比較により、C3bw50のフッ素および炭素を定量分析している。
【0080】
図9において、横軸ゼロの位置は膜の表面を示している。炭素は膜表面では膜内部に比べて高い値を示している。膜の表面には大気中の二酸化炭素などが吸着されるため、炭素量が高くなる。また、仮焼膜と単結晶基板との界面と思われる深さ約2.9μmより深い部分では炭素量が徐々に低下している。図9においては、図5および図6に比べて、炭素量の低下の度合いは緩やかである。これは、C3bw50は膜厚が厚く、表面ラフネスが大きいために、2.9μmの位置でも基板に達している部分と達していない部分があることによる。基板に達している部分と達していない部分とでは組成の差が広がるため、基板との界面から膜厚の10%程度の厚さの部分ではデータの信頼性が低下する。この膜では、SIMS分析による掘り出し面が基板面に到達する領域が時間とともに増加するため、残留炭素量は基板内部に相当する部分で徐々に減少し、残留フッ素量も徐々に減少する。
【0081】
この図において膜表面から200nmまでの部分、基板界面から膜厚の10%の厚さに相当する部分(290nm)を除く、深さ200〜2610nmの部分において、酸素、フッ素、および銅の量が急激に変化しないことがわかる。このように、極めて膜厚が厚く、かつ不連続面をもたない仮焼膜が得られることがわかる。このような仮焼膜は従来のTFA−MOD法は実現できないと考えられていた。
【0082】
(実施例4)
Sm(OCOCH3)3水和物をイオン交換水に溶解し、反応等モル量のCF3CF2COOHと混合して攪拌した。この溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、黄色粉末を得た。この粉末をメタノールに溶解して溶液4PSSm(presolution Sm)を得た。
【0083】
同様に、Nd(OCOCH3)3水和物から薄紫色の粉末を得た後、この粉末をメタノールに溶解して溶液4PSNdを得た。
【0084】
La(OCOCH3)3、Nd(OCOCH3)3、Sm(OCOCH3)3を1:2:7の割合で混合し、これらをイオン交換水に溶解し、反応等モル量のCF3CF2COOHと混合して攪拌した。この溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、黄色粉末を得た。この粉末をメタノールに溶解して4PSMixを得た。
【0085】
4PSSm、4PSNd、4PSMixに、それぞれ約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、再び黄色、薄紫、黄色の粉末をそれぞれ得た。これらの粉末をメタノールに溶解して溶液4SSm、4SNd、4SMixを得た。
【0086】
一方、Ba(OCOCH3)2およびCu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0087】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、溶液4BaCuを得た。
【0088】
溶液4SSm、4SNd、4SMixの各々に溶液4BaCuを混合し、ランタノイド族金属M(合計モル数):Ba:Cuの比が1:2:3となるようにコーティング溶液4Sm、4Nd、4Mixをそれぞれ調製した。
【0089】
コーティング溶液4Sm、4Nd、4Mixの各々に添加剤としてH(CF2)8COOHを10wt%加えてコーティング溶液4SmT、4NdT、4MixTをそれぞれ得た。コーティング溶液4SmT、4NdT、4MixTの各々を100ccビーカーに深さ約30mmとなるよう満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度50mm/secで基板を引き上げた。同じ条件で、それぞれ2枚の両面コートのゲル膜G4Smw50、G4Ndw50、G4Mixw50を得た。
【0090】
ゲル膜G4Smw50、G4Ndw50、G4Mixw50の各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。これらの仮焼膜をC4Smw50、C4Ndw50、C4Mixw50と呼ぶ。
【0091】
C4Smw50、C4Ndw50、C4Mixw50の各々についてSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した。その結果、膜表面から厚さ20nm毎に複数の領域に区分して分析したとき、互いに隣接する2つの領域における銅、フッ素、酸素または炭素の原子比が1/5倍から5倍の範囲内であった。
【0092】
C4Smw50、C4Ndw50、C4Mixw50の各々を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして超電導体F4Smw50、F4Ndw50、F4Mixw50を得た。なお、各々の仮焼膜に対する本焼時の酸素分圧はそれぞれ20ppm、5ppm、10ppmであった。酸素アニール開始温度は全ての場合に350℃とし、4時間保持した。
【0093】
得られた超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性JcおよびTcを測定した。また、誘導法測定後にICP(誘導励起プラズマ発光分光法)により膜厚を同定した。その結果を表1に示す。表1から、イットリウム系超電導体と同様に、高Tcの超電導体でも高いJcを維持しながら膜厚を厚くできることが確認できた。
【0094】
【表1】
【0095】
Jc値はそれぞれ4.2MA/cm2(77K,0T)、3.1MA/cm2(77K,0T)、2.7MA/cm2(77K,0T)であり、Tc値はそれぞれ94.0K、93.6K、93.7Kであった。膜厚は520nm、530nm、510nmであった。
【0096】
(実施例5)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0097】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0098】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液5Aを得た。
【0099】
コーティング溶液5Aに添加剤として下記の化合物01〜37のいずれかを10wt%加えて溶液5B01〜5B37を調製した。
【0100】
[01]F(CF2)3OCF(CF3)CH2OH,
[02]F(CF2)8CH2CH2OH,
[03]F(CF2)10CH2CH2OH,
[04]C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CH2OH,
[05](CF3)2CF(CF2)4CH2CH2OH,
[06](CF3)2CF(CF2)6CH2CH2OH,
[07]H(CF2)6CH2OH,
[08]H(CF2)8CH2OH,
[09]F(CF2)4COOH,
[10]F(CF2)5COOH,
[11]F(CF2)6COOH,
[12]F(CF2)7COOH,
[13]F(CF2)8COOH,
[14]F(CF2)9COOH,
[15]F(CF2)10COOH,
[16]F(CF2)3O[CF(CF3)CF2O]2CF(CF3)COF,
[17]F(CF2)3O[CF(CF3)CF2O]3CF(CF3)COF,
[18]H(CF2)4COOH,
[19]H(CF2)6COOH,
[20]H(CF2)8COOH,
[21]HOOC(CF2)3COOH,
[22]HOOC(CF2)4COOH,
[23]HOOC(CF2)6COOH,
[24]HOOC(CF2)7COOH,
[25](CF3)2C(CH3)COOH,
[26](CF3)2C(CH3)COF,
[27]ヘキサフルオロエポキシプロパン,
[28]3−パーフルオロヘキシル−1,2−エポキシプロパン,
[29]3−パーフルオロオクチル−1,2−エポキシプロパン,
[30]3−パーフルオロデシル−1,2−エポキシプロパン,
[31]3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−1,2−エポキシプロパン,
[32]3−(パーフルオロ−7−メチルヘキシル)−1,2−エポキシプロパン,
[33]CF3CH=CF2,
[34]F(CF2)4CH=CH2,
[35]F(CF2)6CH=CH2,
[36]F(CF2)8CH=CH2,
[37]F(CF2)10CH=CH2。
【0101】
コーティング溶液5B01〜5B37の各々を100ccビーカーに深さ約30mmとなるように満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度50mm/secで基板を引き上げ、ゲル膜5G01w50〜5G37w50を得た。
【0102】
ゲル膜5G01w50〜5G37w50の各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。
【0103】
熱処理温度は添加物により異なり、添加物[09]〜[11]、[18,19]、[33]〜[37]を用いた場合は170〜220℃保持、[01]〜[08]、[21]〜[24]を用いた場合は230〜280℃保持、その他は200〜250℃保持とした。各々の仮焼膜を5C01w50〜5C37w50と呼ぶ。
【0104】
仮焼膜5C01w50〜5C37w50の各々を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして超電導体5F01w50〜5F37w50を得た。
【0105】
得られた各々の超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。また、誘導法測定後にICP(誘導励起プラズマ発光分光法)による破壊分析を行い、膜厚を同定した。超電導膜5F01w50〜5F37w50は、膜厚が400〜650nm、Jc値が0.0〜5.6MA/cm2(77K,0T)であった。
【0106】
この場合、Jc値は添加剤分子中の(フッ素)/(フッ素+水素)の原子数の比率(mol%)の値に関係がある。この値をRFという。表2に、添加剤のRF値と、得られる超電導膜のJc値との関係を示す。また、表2のデータを図10にまとめる。
【0107】
【表2】
【0108】
表2および図10から以下のことがわかる。RFが75%未満ではJc値が急減する。これは先に述べたように、多量の水素を含む添加剤は有機鎖が切れた後も膜内にとどまるため、他の酸化物の酸素とフッ素が置換し、残留フッ素量を増大させて超電導特性を低下させる傾向がある。これに対して、少量の水素を含む添加剤はフッ化物とフッ化水素などの化合物を形成して大気中に散逸するために影響が比較的小さいものと考えられる。十分な超電導特性を示す超電導体を得るには、RFが75%以上であることが好ましい。特に、RFが90%以上である添加剤は、Jcが5.0MA/cm2(77K,0T)以上である超電導膜が得られるので望ましい。ただし、RFが96%を超えると、超電導膜にクラックが生じやすい。これは、フッ素が多すぎる添加剤は、膜の内部で十分な水素結合を形成しないため、トリフルオロ酢酸塩の分解時に乾燥応力に抵抗する力が弱くなり、クラックが生じやすくなるためと推測される。
【0109】
5F01w50〜5F37w50の各々についてSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した。その結果、膜表面から100nm以内の部分および基板界面から膜厚の10%の部分を除き、膜表面から厚さ10nm毎に複数の領域に区分したとき、互いに隣接する2つの領域における酸素、フッ素、銅の原子比(平均値)が1/5倍から5倍の範囲内であり、連続的に変化していることがわかった。
【0110】
(実施例6)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0111】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0112】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液6Aを得た。
【0113】
一方、添加剤として以下の有機物を用意した。
【0114】
[07]H(CF2)6CH2OH,
[08]H(CF2)8CH2OH,
[09]F(CF2)4COOH,
[10]F(CF2)5COOH,
[11]F(CF2)6COOH,
[13]F(CF2)8COOH,
[15]F(CF2)10COOH,
[18]H(CF2)4COOH,
[19]H(CF2)6COOH,
[20]H(CF2)8COOH。
【0115】
コーティング溶液6Aに、2種類の添加剤を5wt%ずつ混合してコーティング溶液を得た。たとえば[07]と[09]を5wt%ずつ混合したコーティング溶液をS0709と呼ぶ。このように2種類の添加剤を混合すると分解温度が幅広くなり、熱処理時の安定性が増す傾向にある。
【0116】
本実施例で調製したコーティング溶液は、S0709、S0809、S0910、S0911、S0913、S0915、S1118、S1119、S1120、S0918、S1318の11種類である。
【0117】
各々のコーティング溶液を100ccビーカーに深さ約30mmとなるように満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度50mm/secで基板の引き上げを行い、ゲル膜G0709、G0809、G0910、G0911、G0913、G0915、G1118、G1119、G1120、G0918、G1318を得た。
【0118】
ゲル膜G0709、G0809、G0910、G0911、G0913、G0915、G1118、G1119、G1120、G0918、G1318の各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。熱処理温度は添加剤に応じて170〜240℃間の50℃を選んで長時間保持を行った。G0709、G0809、G0910、G0911、G0913、G0915は180〜230℃で保持し、G1119、G1120は190〜240℃で保持し、それ以外は170〜220℃で保持を行った。これらの仮焼膜をC0709、C0809、C0910、C0911、C0913、C0915、C1118、C1119、C1120、C0918、C1318と呼ぶ。
【0119】
これらの仮焼膜の各々を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして、超電導膜F0709、F0809、F0910、F0911、F0913、F0915、F1118、F1119、F1120、F0918、F1318を得た。
【0120】
得られた超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。また、誘導法測定後にICP(誘導励起プラズマ発光分光法)による破壊分析を行い、膜厚を同定した。その結果を表3に示す。
【0121】
【表3】
【0122】
F0709、F0809、F0910、F0911、F0913、F0915、F1118、F1119、F1120、F0918、F1318の各々についてSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した。その結果、膜表面から100nm以内の部分および基板界面から膜厚の10%の部分を除き、膜表面から厚さ10nm毎に複数の領域に区分したとき、互いに隣接する2つの領域における酸素、フッ素、銅の原子比(平均値)が1/5倍から5倍の範囲内であり、連続的に変化していることがわかった。2種類の添加剤を混合して添加した場合には、分解温度がやや低下し分解温度が広がる傾向が見られ、厚い超電導膜で高い超電導特性が実現できることもわかった。
【0123】
(実施例7)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0124】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0125】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液7Aを得た。
【0126】
一方、添加剤として以下の有機物を用意した。
【0127】
[01]F(CF2)4COOH,
[02]F(CF2)5COOH,
[03]F(CF2)6COOH,
[04]F(CF2)7COOH,
[05]F(CF2)8COOH,
[06]F(CF2)9COOH,
[07]F(CF2)10COOH,
[08]HOOC(CF2)4COOH,
[09]HOOC(CF2)6COOH,
[10]HOOC(CF2)7COOH,
[11](CF3)2C(CH3)COOH,
[12](CF3)2C(CH3)COF。
【0128】
コーティング溶液7Aに、上記の添加剤のうち10種類の添加剤を1wt%ずつ混合して合計で10wt%加えてコーティング溶液を得た。混合添加剤は、[01]〜[10]を混合したもの、[01]〜[09]、[11]を混合したもの、[01]〜[09]、[12]を混合したものの3種類を用意した。得られたコーティング溶液7X、7Y、7Zと呼ぶ。
【0129】
各々のコーティング溶液を100ccビーカーに深さ約30mmとなるように満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度50mm/secで基板の引き上げを行い、ゲル膜G7X、G7Y、G7Zを得た。
【0130】
ゲル膜G7X、G7Y、G7Zの各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。熱処理温度を180〜230℃として長時間保持した。これらの仮焼膜をC7X、C7Y、C7Zと呼ぶ。多数の添加剤を混合した場合、膜の周縁部まで安定して成膜できる傾向が確認された。最適分解温度は20℃低下していた。
【0131】
仮焼膜C7X、C7Y、C7Zの各々を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして、超電導膜F7X、F7Y、F7Zを得た。
【0132】
得られた超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。また、誘導法測定後にICP(誘導励起プラズマ発光分光法)による破壊分析を行い、膜厚を同定した。その結果を表4に示す。
【0133】
【表4】
【0134】
F7X、F7Y、F7Zの各々についてSIMS分析により表面から基板の方向へ組成分布を測定した。その結果、膜表面から100nm以内の部分および基板界面から膜厚の10%の部分を除き、膜表面から厚さ10nm毎に複数の領域に区分したとき、互いに隣接する2つの領域における酸素、フッ素、銅の原子比(平均値)が1/5倍から5倍の範囲内であり、連続的に変化していることがわかった。
【0135】
(実施例8)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0136】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0137】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液8Aを得た。
【0138】
コーティング溶液8Aに、添加剤としてF(CF2)4COOHまたはH(CH2)4COOHを10wt%添加し、コーティング溶液8Fおよび8Hを得た。
【0139】
各々のコーティング溶液を100ccビーカーに深さ約30mmとなるように満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度5mm/secで単結晶の引き上げを行いゲル膜G8F、G8Hを得た。引き上げ速度を遅くした理由は、膜厚を厚くしようとして引き上げ速度を大きくすると、G8H試料では良好な膜を形成できないためである。こうした事情なので、2種類の添加剤の効果を比較するために、遅い引き上げ速度を選択した。
【0140】
ゲル膜G8F、G8Hの各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。これらの仮焼膜をC8F、C8Hと呼ぶ。
【0141】
仮焼膜C8F、C8の各々を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして、超電導膜F8F、F8Hを得た。
【0142】
得られた超電導膜について、THEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。また、誘導法測定後にICP(誘導励起プラズマ発光分光法)による破壊分析を行い、膜厚を同定した。超電導膜F8F、F8Hは、Jc値(77K,0T)がそれぞれ6.2および0.0MA/cm2であり、膜厚がそれぞれ170および170nmであった。このようにF8Hは超電導体ではなかった。
【0143】
F8F、F8Hの各々についてSIMS分析により表面から基板の方向へフッ素の分布を測定した結果を図11に示す。この図には、物理蒸着膜(deposited)およびフッ素をイオン注入した物理蒸着膜(implanted)の測定結果をともに示す。
【0144】
F8Fでは、フッ素量は膜表面から徐々に減少し、膜内部ではバックグラウンドの10倍程度になる傾向が見られた。添加剤としてF(CF2)4COOHを用いた場合、引き上げ速度を増加させて膜厚を増大させても図11と同程度の残留フッ素量になることがわかっている。このことは、添加剤としてF(CF2)4COOHを用いれば超電導体からフッ素を有効に低減できることを示している。
【0145】
F8Hでは、F8Fの10倍程度のフッ素が残留していることがわかる。添加剤としてH(CH2)4COOHを用いた場合、本焼時に擬似液相ネットワークを形成しても、フッ素の脱離量はわずかであり、多量のフッ素を含んだ超電導膜が形成される。フッ素を含む超電導膜では、本焼後に温度を低下すると再結晶化によりBaF2が生成して超電導体のベロブスカイト構造を分断するため、超電導特性は1/10以下に激減する。
【0146】
F8Hの膜厚を臨界膜厚に近い300nmとすると残留フッ素量は図11の2〜3倍になった。このことは先に説明した、膜厚の増大に伴う水素原子によるフッ素化合物の散逸妨害によるものである。この場合、表面から遠い部分のフッ素が特に残りやすく、残留フッ素量が増大して超電導特性が低下することをよく説明している。
【0147】
このように、フッ素を残留させないで超電導体を厚膜化するには、多数の水素をもつ酢酸塩などを含まない高純度溶液が必要であることが合理的に理解できる。これは、多数のもつ酢酸塩などが存在すると残留フッ素量が増大するためである。また、この傾向は膜厚が増大するほど顕著となる。初期の溶液中に多数の水素をもつ有機物が残留する系では、膜厚の増加とともに超電導膜中の残留フッ素量が増加し超電導特性が低下する。
【0148】
(実施例9)
Y(OCOCH3)3、Ba(OCOCH3)2、Cu(OCOCH3)2の各水和物の粉末を、それぞれイオン交換水に溶解し、それぞれ反応等モル量のCF3COOHと混合して攪拌した。これらの溶液を金属イオンがモル比で1:2:3となるように混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって反応および精製を行い、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0149】
得られたゲルまたはゾルに、その約100倍の重量に相当するメタノール(図1f)を加えて完全に溶解した溶液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で12時間にわたって精製し、半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0150】
得られたゲルまたはゾルをメタノール(図1j)に溶解し、メスフラスコを用いて希釈し、金属イオン換算で1.52M、2.31M、および2.78Mのコーティング溶液9A、9B、および9Cを得た。
【0151】
コーティング溶液9A、9B、および9Cの各々に、添加剤としてH(CF2)4COOHを1.0wt%、1.5wt%、2.0wt%、2.5wt%、3.0wt%、4.0wt%、5.0wt%、6.0wt%、8.0wt%、10wt%、15wt%、20wt%、25wt%、または30wt%加え、コーティング溶液を得た。コーティング溶液の名称は、たとえば9C溶液に添加剤1.5wt%加えた場合には9C1.5と記述する。
【0152】
各々のコーティング溶液を100ccビーカーに深さ約30mmとなるように満たし、両面研磨した配向LaAlO3単結晶基板を浸し、1分後に引き上げ速度5〜50mm/secで基板を引き上げてゲル膜を得た。ゲル膜の名称は、たとえば溶液9C1.5から引き上げ速度20mm/secで引き上げた場合には、G9C1.5w20と記述する。
【0153】
ゲル膜G8F、G8Hの各々を仮焼炉に入れ、図3に示す温度プロファイルに従って加湿酸素雰囲気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜を得た。仮焼膜の名称は、たとえばゲル膜がG9C1.5w20である場合にはC9C1.5w20と記述する。
【0154】
各々の仮焼膜を本焼炉に入れ、図4に示す温度プロファイルに従って本焼および酸素アニールして、超電導膜を得た。超電導膜の名称は、例えば仮焼膜がC9C1.5w20の場合にはF9C1.5w20と記述する。
【0155】
各々の仮焼膜について、クラックの発生状況を調査した。添加剤の量が2.0wt%以下では、引き上げ速度を15mm/secとして製造された膜厚約350nmの超電導膜(たとえばC9A2.0w15、C9B2.0w15、C9C2.0w15)でクラックが発生していることが確認された。添加剤の量が2.0wt%以下では、溶液の濃度によらずほぼ同様の傾向を示した。一方、添加剤の量が2.5wt%以上であれば厚膜化の効果があると推測された。
【0156】
添加剤の量が20wt%を超える条件で製造された超電導膜(たとえばC9A25w20)は、クラックを生じないけれども、超電導特性が低くなっていた。これは、トリフルオロ酢酸塩に比べて多量の添加剤が混合したため、超電導体の量が相対的に少なくなり超電導特性が低下したものと考えられる。添加剤の量が20wt%を超えた範囲では、溶液の濃度によらずほぼ同様の傾向を示した。
【0157】
これらの結果は、ゲル膜におけるトリフルオロ酢酸塩と添加剤との比率が超電導膜の厚膜化に重要であることを示唆していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】実施形態における高純度溶液調製のためのフローチャート。
【図2】実施形態における超電導体製造のためのフローチャート。
【図3】実施形態における仮焼時の温度プロファイルを示す図。
【図4】実施形態における本焼時の温度プロファイルを示す図。
【図5】実施例2において基板の表面に形成された仮焼膜のSIMSプロファイルを示す図。
【図6】実施例2において基板の裏面に形成された仮焼膜のSIMSプロファイルを示す図。
【図7】実施例2において基板の表面に形成された超電導膜のSIMSプロファイルを示す図。
【図8】実施例2において基板の裏面に形成された超電導膜のSIMSプロファイルを示す図。
【図9】実施例3において形成された仮焼膜のSIMSプロファイルを示す図。
【図10】実施例5において得られた超電導膜について、RFとJcとの関係を示す図。
【図11】実施例8において得られた超電導膜について、添加剤の違いによるフッ素濃度の変化を示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属Mと、バリウムと、銅とを含む酸化物の膜として形成され、平均膜厚が350nm以上、平均残留炭素量が3×1019atoms/cc以上、残留フッ素量が5×1017〜1×1019atoms/ccであり、前記膜を膜表面または基板との界面から厚さ10nm毎に複数の領域に区分して分析したとき、互いに隣接する2つの領域における銅、フッ素、酸素および炭素の原子比が1/5倍から5倍の範囲内であることを特徴とする酸化物超電導体。
【請求項2】
基板の端部から2mm以内の領域を除いた領域に、幅0.1mm以上長さ1mm以上のクラックがないことを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体。
【請求項3】
前記金属Mと、バリウムと、銅との原子比が、約1:2:3であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体。
【請求項4】
平均膜厚が600nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体。
【請求項5】
平均膜厚が1250nm以上であることを特徴とする請求項4に記載の酸化物超電導体。
【請求項6】
前記膜を膜表面または基板との界面から厚さ10nm毎に複数の領域に複数の領域に区分して分析したとき、互いに隣接する2つの領域における銅、フッ素、酸素および炭素の原子比が1/3倍から3倍の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体。
【請求項7】
基板上に、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属Mと、バリウムと、銅とを含む酸化物の膜として形成され、平均膜厚が700nm以上、残留フッ素量が5×1020〜1×1022atoms/ccであり、前記膜を膜表面または基板との界面から厚さ20nm毎に複数の領域に区分して分析したとき、互いに隣接する2つの領域における銅、フッ素、酸素および炭素の原子比が1/5倍から5倍の範囲内であることを特徴とする金属酸化フッ化物仮焼膜。
【請求項8】
基板の端部から2mm以内の領域を除いた領域に、幅0.1mm以上長さ1mm以上のクラックがないことを特徴とする請求項7に記載の金属酸化フッ化物仮焼膜。
【請求項9】
イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)を含む金属Mと、バリウムと、銅とを原子比で約1:2:3となるよう混合したフルオロカルボン酸塩のメタノール溶液に、フッ素/(フッ素+水素)が75〜96mol%である有機物を添加してコーティング溶液を調製し、
前記コーティング溶液を基板上にコーティングしてゲル膜を形成し、
前記ゲル膜を仮焼、本焼および酸素アニールして酸化物超電導体の膜を形成する
ことを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
【請求項10】
前記フルオロカルボン酸塩がトリフルオロ酢酸塩を含むことを特徴とする請求項9に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項11】
前記トリフルオロ酢酸塩のモル数が、フルオロカルボン酸塩全体の50mol%を超えることを特徴とする請求項10に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項12】
前記有機物がフルオロカルボン酸基を含むことを特徴とする請求項9に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項13】
前記有機物が、F(CF2)3OCF(CF3)CH2OH,F(CF2)8CH2CH2OH,F(CF2)10CH2CH2OH,C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CH2OH,(CF3)2CF(CF2)4CH2CH2OH,(CF3)2CF(CF2)6CH2CH2OH,H(CF2)6CH2OH,H(CF2)8CH2OH,F(CF2)4COOH,F(CF2)5COOH,F(CF2)6COOH,F(CF2)7COOH,F(CF2)8COOH,F(CF2)9COOH,F(CF2)10COOH,F(CF2)3O[CF(CF3)CF2O]2CF(CF3)COF,F(CF2)3O[CF(CF3)CF2O]3CF(CF3)COF,H(CF2)4COOH,H(CF2)6COOH,H(CF2)8COOH,HOOC(CF2)3COOH,HOOC(CF2)4COOH,HOOC(CF2)6COOH,HOOC(CF2)7COOH,(CF3)2C(CH3)COOH,(CF3)2C(CH3)COF,ヘキサフルオロエポキシプロパン,3−パーフルオロヘキシル−1,2−エポキシプロパン,3−パーフルオロオクチル−1,2−エポキシプロパン,3−パーフルオロデシル−1,2−エポキシプロパン,3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−1,2−エポキシプロパン,3−(パーフルオロ−7−メチルヘキシル)−1,2−エポキシプロパン,CF3CH=CF2,F(CF2)4CH=CH2,F(CF2)6CH=CH2,F(CF2)8CH=CH2,およびF(CF2)10CH=CH2からなる群より選択されることを特徴とする請求項9に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項14】
前記有機物を、2種類以上混合して用いることを特徴とする請求項13に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項15】
コーティング溶液中のトリフルオロ酢酸基を他のフルオロカルボン酸基で置換することを特徴とする請求項9に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項16】
コーティング溶液に添加される有機物に含まれる前記フルオロカルボン酸基に、少なくとも1つの水素が結合していることを特徴とする請求項9に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項17】
金属イオン濃度が1.5mol/lであるコーティング溶液に対して有機物の添加量を2.5〜20wt%とし、金属イオン濃度に比例して有機物の添加量を調整することを特徴とする請求項9ないし16のいずれか1項に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項18】
イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)を含む金属Mと、バリウムと、銅とを原子比で約1:2:3となるよう混合したフルオロカルボン酸塩のメタノール溶液に、フッ素/(フッ素+水素)が75〜96mol%である有機物を添加してコーティング溶液を調製し、
前記コーティング溶液を基板上にコーティングしてゲル膜を形成し、
前記ゲル膜を仮焼する
ことを特徴とする金属酸化フッ化物仮焼膜の製造方法。
【請求項1】
基板上に、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属Mと、バリウムと、銅とを含む酸化物の膜として形成され、平均膜厚が350nm以上、平均残留炭素量が3×1019atoms/cc以上、残留フッ素量が5×1017〜1×1019atoms/ccであり、前記膜を膜表面または基板との界面から厚さ10nm毎に複数の領域に区分して分析したとき、互いに隣接する2つの領域における銅、フッ素、酸素および炭素の原子比が1/5倍から5倍の範囲内であることを特徴とする酸化物超電導体。
【請求項2】
基板の端部から2mm以内の領域を除いた領域に、幅0.1mm以上長さ1mm以上のクラックがないことを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体。
【請求項3】
前記金属Mと、バリウムと、銅との原子比が、約1:2:3であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体。
【請求項4】
平均膜厚が600nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体。
【請求項5】
平均膜厚が1250nm以上であることを特徴とする請求項4に記載の酸化物超電導体。
【請求項6】
前記膜を膜表面または基板との界面から厚さ10nm毎に複数の領域に複数の領域に区分して分析したとき、互いに隣接する2つの領域における銅、フッ素、酸素および炭素の原子比が1/3倍から3倍の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体。
【請求項7】
基板上に、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属Mと、バリウムと、銅とを含む酸化物の膜として形成され、平均膜厚が700nm以上、残留フッ素量が5×1020〜1×1022atoms/ccであり、前記膜を膜表面または基板との界面から厚さ20nm毎に複数の領域に区分して分析したとき、互いに隣接する2つの領域における銅、フッ素、酸素および炭素の原子比が1/5倍から5倍の範囲内であることを特徴とする金属酸化フッ化物仮焼膜。
【請求項8】
基板の端部から2mm以内の領域を除いた領域に、幅0.1mm以上長さ1mm以上のクラックがないことを特徴とする請求項7に記載の金属酸化フッ化物仮焼膜。
【請求項9】
イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)を含む金属Mと、バリウムと、銅とを原子比で約1:2:3となるよう混合したフルオロカルボン酸塩のメタノール溶液に、フッ素/(フッ素+水素)が75〜96mol%である有機物を添加してコーティング溶液を調製し、
前記コーティング溶液を基板上にコーティングしてゲル膜を形成し、
前記ゲル膜を仮焼、本焼および酸素アニールして酸化物超電導体の膜を形成する
ことを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
【請求項10】
前記フルオロカルボン酸塩がトリフルオロ酢酸塩を含むことを特徴とする請求項9に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項11】
前記トリフルオロ酢酸塩のモル数が、フルオロカルボン酸塩全体の50mol%を超えることを特徴とする請求項10に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項12】
前記有機物がフルオロカルボン酸基を含むことを特徴とする請求項9に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項13】
前記有機物が、F(CF2)3OCF(CF3)CH2OH,F(CF2)8CH2CH2OH,F(CF2)10CH2CH2OH,C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CH2OH,(CF3)2CF(CF2)4CH2CH2OH,(CF3)2CF(CF2)6CH2CH2OH,H(CF2)6CH2OH,H(CF2)8CH2OH,F(CF2)4COOH,F(CF2)5COOH,F(CF2)6COOH,F(CF2)7COOH,F(CF2)8COOH,F(CF2)9COOH,F(CF2)10COOH,F(CF2)3O[CF(CF3)CF2O]2CF(CF3)COF,F(CF2)3O[CF(CF3)CF2O]3CF(CF3)COF,H(CF2)4COOH,H(CF2)6COOH,H(CF2)8COOH,HOOC(CF2)3COOH,HOOC(CF2)4COOH,HOOC(CF2)6COOH,HOOC(CF2)7COOH,(CF3)2C(CH3)COOH,(CF3)2C(CH3)COF,ヘキサフルオロエポキシプロパン,3−パーフルオロヘキシル−1,2−エポキシプロパン,3−パーフルオロオクチル−1,2−エポキシプロパン,3−パーフルオロデシル−1,2−エポキシプロパン,3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−1,2−エポキシプロパン,3−(パーフルオロ−7−メチルヘキシル)−1,2−エポキシプロパン,CF3CH=CF2,F(CF2)4CH=CH2,F(CF2)6CH=CH2,F(CF2)8CH=CH2,およびF(CF2)10CH=CH2からなる群より選択されることを特徴とする請求項9に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項14】
前記有機物を、2種類以上混合して用いることを特徴とする請求項13に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項15】
コーティング溶液中のトリフルオロ酢酸基を他のフルオロカルボン酸基で置換することを特徴とする請求項9に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項16】
コーティング溶液に添加される有機物に含まれる前記フルオロカルボン酸基に、少なくとも1つの水素が結合していることを特徴とする請求項9に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項17】
金属イオン濃度が1.5mol/lであるコーティング溶液に対して有機物の添加量を2.5〜20wt%とし、金属イオン濃度に比例して有機物の添加量を調整することを特徴とする請求項9ないし16のいずれか1項に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項18】
イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテニウムを除く)を含む金属Mと、バリウムと、銅とを原子比で約1:2:3となるよう混合したフルオロカルボン酸塩のメタノール溶液に、フッ素/(フッ素+水素)が75〜96mol%である有機物を添加してコーティング溶液を調製し、
前記コーティング溶液を基板上にコーティングしてゲル膜を形成し、
前記ゲル膜を仮焼する
ことを特徴とする金属酸化フッ化物仮焼膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−137833(P2008−137833A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324620(P2006−324620)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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