説明

酸化防止性能に優れた潤滑油組成物

【課題】本発明の目的は、近年の環境問題等に起因する潤滑油組成物の高性能化要求を満たすため、酸化防止性能に優れた潤滑油組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明の潤滑油組成物は、リン含量が50〜1500質量ppmの潤滑油(A)に、下記の一般式(1)
【化1】


(式中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基又は−OR11で表わされる基のいずれかを表わし、R〜R10は、水素原子、水酸基、炭素数1〜18の炭化水素基又は−OR11で表わされる基のいずれかを表わし、R11は炭素数1〜12の炭素水素基を表わす。なお、R〜R10から選択される隣合う2つの基はそれぞれ結合して、炭素数5〜12のシクロアルキル環、シクロアルケニル環又は芳香族環を形成してもよい)で表わされる化合物(B)を0.01〜5質量%含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化防止性能に優れた潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン油、駆動系油、金属加工油等の潤滑油を長時間使用していると、大気中の酸素や熱、酸性ガスの混入等によって酸化劣化してくる。酸化劣化が進むと、これらの潤滑油は酸化劣化前の能力を発揮できなくなるため、なるべく長時間使用できるように酸化劣化を遅らせる試みがなされてきた。その中で最も一般的に行われているのが、これらの潤滑油に酸化防止剤を含有させることである。
【0003】
潤滑油の酸化防止剤には様々なものが使用されているが、現在はフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤及び亜鉛ジチオホスフェートを併用しているのが一般的である。これらの酸化防止剤の入った潤滑油は一定の効果を持っているが、近年の環境問題や自動車エンジンの性能向上等により、高温での酸化防止性能の向上や長期間使用できる潤滑油の要求が高まっている。更に、潤滑油に含有されるリン成分は排ガス触媒を被毒するため、潤滑油に含まれるリン成分を削減する要求も同時に高まっているのが現状である。
【0004】
ここで、潤滑油中のリン成分を削減すると、酸化防止性能が低下すると同時に金属に対する摩耗が増大してしまうという問題があり、潤滑油において一定量のリン成分は必要不可欠な成分となっている。そのため、上記の様々な要求を満たすためには、一定量のリン成分を含有する潤滑油にリンを含有しない酸化防止剤を添加して、潤滑油組成物の酸化防止性能をいかにして向上させるかが課題であった。
【0005】
こうした中、リン成分を含有した現行の潤滑油の酸化防止性能を向上させるためには、リン成分を含有しない酸化防止剤を増量するしか方法がなかった。しかしながら、フェノール系酸化防止剤は、活性が高く、初期の酸化防止に効果はあるが、比較的早く壊れるため増量しても長期間の使用には耐えられず、一方、アミン系酸化防止剤は、活性が低く、比較的壊れにくいため長期間の使用に向いているが、アミン系酸化防止剤を増量するとスラッジが発生してしまう等の問題があった。
【0006】
そこで、新規な酸化防止剤として、例えば特許文献1には、
【化1】

で示される化合物を、合計で60重量%(質量%)以上含むスチレン化ジフェニル系化合物からなる潤滑剤酸化防止剤(請求項1)が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、下記の一般式(1)
【化2】

(式中、R及びRはアルキレン基を表わし、Rは水素原子又は炭化水素基を表わし、mは1以上の数を表わし、nは1以上の数を表わす。)で表わされるポリアミン化合物からなる酸化防止性潤滑油添加剤(請求項1)が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平9−53087号公報 特許請求の範囲
【特許文献2】特開平11−302678号公報 特許請求の範囲
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されているような比較的分子量の大きいアミン系酸化防止剤は、現行の酸化防止剤と比較して劣化のしやすさは同等であるものの、酸化防止性能を大幅に向上させることはできなかった。また、特許文献2に開示されているような非芳香族系のアミン系酸化防止剤は、リン含量が50〜1500質量ppmの範囲内にある潤滑油と併用しても、充分な酸化防止効果が得られないことがあるという問題があった。
【0010】
従って、本発明の目的は、近年の環境問題等に起因する潤滑油組成物の高性能化要求を満たすため、酸化防止性能に優れた潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸化防止性能に優れた潤滑油組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、リン含量が50〜1500質量ppmの潤滑油(A)に、下記の一般式(1)
【化3】

(式中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基又は−OR11で表わされる基のいずれかを表わし、R〜R10は、水素原子、水酸基、炭素数1〜18の炭化水素基又は−OR11で表わされる基のいずれかを表わし、R11は炭素数1〜12の炭素水素基を表わす。なお、R〜R10から選択される隣合う2つの基はそれぞれ結合して、炭素数5〜12のシクロアルキル環、シクロアルケニル環又は芳香族環を形成してもよい)で表わされる化合物(B)を0.01〜5質量%含有することを特徴とする潤滑油組成物にある。
【0012】
また、本発明の潤滑油組成物は、潤滑油(A)が、鉱物油及び/又は合成油からなる基油に、リン化合物を含有させた潤滑油であることを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の潤滑油組成物は、リン化合物が、亜鉛ジチオホスフェート、モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンホスフェートからなる群から選択される1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の潤滑油組成物は、潤滑油(A)のリン含量が200〜800質量ppmであることを特徴とする。
【0015】
更に、本発明の潤滑油組成物は、化合物(B)のR〜R10が、アルキル基又はアリール基であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の潤滑油組成物は、化合物(B)を0.5〜1.5質量%含有することを特徴とする。
【0017】
更に、本発明の潤滑油組成物は、フェノール系酸化防止剤、摩擦低減剤、極圧剤、油性向上剤、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤及び消泡剤からなる群から選択される1種又は2種以上の潤滑油添加剤を含有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上記潤滑油組成物を含有するエンジン油にある。
【発明の効果】
【0019】
本発明の効果は、一定量のリン成分を含有した酸化防止性能に優れた潤滑油組成物を提供したことにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に使用する潤滑油(A)は、リン含量が50〜1500質量ppmの潤滑油である。こうした潤滑油は、通常、基油にリン化合物を添加したものであり、基油としては、例えば、鉱物油、植物油、動物油等の天然油;ポリ−α−オレフィン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、アルキル置換ジフェニルエーテル、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、炭酸エステル、シリコーン油、フッ素化油、GTL(Gas to Liquids)等の合成油が挙げられる。これらの中でも、鉱物油や合成油が好ましく、エンジンオイルとして好適な鉱物油、ポリ−α−オレフィン、エチレン−α−オレフィン共重合体、GTLがより好ましい。
【0021】
リン化合物としては、基油に溶解するリン化合物であればいずれも使用することができるが、酸化防止性能を持つリン化合物が好ましい。こうしたリン化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、4,4−ブチリデンビス(3−メチル−6−ターシャリブチルジイソトリデシル)ホスファイト(以下、「ターシャリブチル」をt−ブチルと略記する)、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、1,1,3−ブチリジントリス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジイソトリデシル)ホスファイト、2,2−プロピリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジイソトリデシル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシルオキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン、亜鉛ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、モリブデンホスフェート等が挙げられる。これらのリン化合物の中でも、潤滑油の酸化防止剤として良好な性能を示すことから、亜鉛ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、モリブデンホスフェートが好ましい。
【0022】
また、上述の亜鉛ジチオホスフェートは、下記の一般式(2)で表わされる:
【化4】

(式中、R12及びR13は炭化水素基を表わし、aは0〜1/3の数を表わす)
【0023】
一般式(2)において、R12及びR13は、炭化水素基を表わすが、こうした炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。
【0024】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2級ペンチル基、ネオペンチル基、ターシャリペンチル基、ヘキシル基、2級ヘキシル基、ヘプチル基、2級ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、2級オクチル基、ノニル基、2級ノニル基、デシル基、2級デシル基、ウンデシル基、2級ウンデシル基、ドデシル基、2級ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、2級トリデシル基、テトラデシル基、2級テトラデシル、ヘキサデシル基、2級ヘキサデシル基、ステアリル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、トリアコンチル基、2−ブチルオクチル基、2−ヘキシルオクチル基、2−ヘキシルデシル基、2−オクチルデシル基、2−ヘキシルドデシル基、2−オクチルドデシル基、2−デシルテトラデシル基、2−ドデシルヘキサデシル基、2−ヘキサデシルオクタデシル基、2−テトラデシルオクタデシル基、モノメチル分枝−イソステアリル基等が挙げられる。
【0025】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、オレイル基等が挙げられる。
【0026】
アリール基としては、例えば、フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、シンナミル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基、スチレン化フェニル基、p−クミルフェニル基、フェニルフェニル基、ベンジルフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基等が挙げられる。
【0027】
シクロアルキル基、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、メチルシクロペンテニル基、メチルシクロヘキセニル基、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0028】
これらの炭化水素基の中で、R12及びR13としては、アルキル基が好ましく、2級アルキル基が更に好ましい。炭素数は、3〜14であることが好ましく、3〜10であることが更に好ましく、3〜8であることが最も好ましい。又、R12及びR13は、同一の炭化水素基でも異なる炭化水素基でもよい。
【0029】
更に、一般式(2)において、a=0の場合、中性亜鉛(ジチオ)ホスフェート(中性塩)と呼ばれ、aが1/3の場合は、塩基性亜鉛(ジチオ)ホスフェート(塩基性塩)と呼ばれている。亜鉛(ジチオ)ホスフェートは、これら中性塩と塩基性塩の混合物であるため、aは0〜1/3の数で表される。aの数は亜鉛ジチオホスフェートの製法によって異なるが、0.08〜0.3が好ましく、0.15〜0.3が更に好ましく、0.18〜0.3が最も好ましい。aの値が大きくなると加水分解安定性が悪くなる傾向にあり、aの値が小さくなると配合した潤滑油の耐磨耗性が悪くなる傾向にある。
【0030】
また、上述の硫化オキシモリブデンジチオホスフェートは、一般式(3)で表わされる:
【化5】

(式中、R14〜R17は炭化水素基を表わし、X〜Xは酸素原子または硫黄原子を表わす。)
【0031】
一般式(3)において、R14〜R17は炭化水素基を表わすが、こうした炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。
【0032】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2級ペンチル基、ネオペンチル基、ターシャリペンチル基、ヘキシル基、2級ヘキシル基、ヘプチル基、2級ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、2級オクチル基、ノニル基、2級ノニル基、デシル基、2級デシル基、ウンデシル基、2級ウンデシル基、ドデシル基、2級ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、2級トリデシル基、テトラデシル基、2級テトラデシル基、ヘキサデシル基、2級ヘキサデシル基、ステアリル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、トリアコンチル基、2−ブチルオクチル基、2−ブチルデシル基、2−ヘキシルオクチル基、2−ヘキシルデシル基、2−オクチルデシル基、2−ヘキシルドデシル基、2−オクチルドデシル基、2−デシルテトラデシル基、2−ドデシルヘキサデシル基、2−ヘキサデシルオクタデシル基、2−テトラデシルオクタデシル基、モノメチル分枝−イソステアリル基等が挙げられる。
【0033】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、オレイル基等が挙げられる。
【0034】
アリール基としては、例えば、フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、シンナミル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基、スチレン化フェニル基、p−クミルフェニル基、フェニルフェニル基、ベンジルフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基等が挙げられる。
【0035】
シクロアルキル基、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、メチルシクロペンテニル基、メチルシクロヘキセニル基、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0036】
これらの炭化水素基の中で、R14〜R17としては、アルキル基が好ましく、分岐のアルキル基が更に好ましい。炭素数は、6〜18であることが好ましく、6〜15であることが更に好ましく、8〜13であることが最も好ましい。又、R14〜R17は、同一の炭化水素基でも異なる炭化水素基でもよい。
【0037】
一般式(3)のX〜Xは酸素原子または硫黄原子を表わすが、X〜Xの全てが酸素原子になることはない。少なくとも1つ以上の原子が硫黄原子でなければならず、好ましくは2つの原子が硫黄原子で残りの2つの原子が酸素原子である。
【0038】
更に、上述のモリブデンホスフェートは、無機のモリブデン化合物と酸性リン酸エステルとを反応させた化合物であればよい。無機のモリブデン化合物としては、例えば、三酸化モリブデン又はその水和物(MoO・nHO)、モリブデン酸(HMoO)、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム等のモリブデン酸金属塩(MMoO;Mは金属原子)、モリブデン酸アンモニウム[(NHMoO又は(NH)(Mo24)・4HO]、MoOCl、MoOCl、MoOBr、MoCl等が挙げられる。また、これらの無機モリブデン化合物を、スルホキシル酸、亜二チオン酸(ハイドロサルファイト)、亜硫酸、亜硫酸水素、ピロ亜硫酸、チオ硫酸、二チオン酸、スルフィン酸、二酸化チオ尿素、又はそれらのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩等の還元剤で還元したものでもよい。これらの無機モリブデン化合物の中でも、入手しやすい三酸化モリブデン又はその水和物、モリブデン酸金属塩、モリブデン酸アンモニウム、又はそれらの還元物を使用することが好ましい。
【0039】
なお、酸性リン酸エステルは下記の一般式(4)で表わされる:
【化6】

(R18は炭化水素基を表し、m及びnは1又は2の数を表し、且つ、m+n=3である。)
【0040】
一般式(4)において、R18は炭化水素基を表わすが、こうした炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。
【0041】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2級ペンチル基、ネオペンチル基、ターシャリペンチル基、ヘキシル基、2級ヘキシル基、ヘプチル基、2級ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、2級オクチル基、ノニル基、2級ノニル基、デシル基、2級デシル基、ウンデシル基、2級ウンデシル基、ドデシル基、2級ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、2級トリデシル基、テトラデシル基、2級テトラデシル基、ヘキサデシル基、2級ヘキサデシル基、ステアリル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、トリアコンチル基、2−ブチルオクチル基、2−ブチルデシル基、2−ヘキシルオクチル基、2−ヘキシルデシル基、2−オクチルデシル基、2−ヘキシルドデシル基、2−オクチルドデシル基、2−デシルテトラデシル基、2−ドデシルヘキサデシル基、2−ヘキサデシルオクタデシル基、2−テトラデシルオクタデシル基、モノメチル分枝−イソステアリル基等が挙げられる。
【0042】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、オレイル基等が挙げられる。
【0043】
アリール基としては、例えば、フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、シンナミル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基、スチレン化フェニル基、p−クミルフェニル基、フェニルフェニル基、ベンジルフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基等が挙げられる。
【0044】
シクロアルキル基、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、メチルシクロペンテニル基、メチルシクロヘキセニル基、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0045】
これらの炭化水素基の中でも、潤滑油に入れたときの安定性がよく、スラッジ等が生成しないことから、R18はアルキル基とアリール基であることが好ましく、油への溶解性と性能のバランスから、炭素数6〜18のアルキル基及びアリール基がより好ましく、炭素数6〜12のアルキル基及びアリール基が更に好ましい。
【0046】
一般式(4)のmの値が1のとき、一般式(4)は酸性モノリン酸エステルとなり、mの値が2のときは酸性ジリン酸エステルとなる。使用できるリン酸エステルは、酸性モノリン酸エステルでも酸性ジリン酸エステルのどちらでもよく、これらの混合物であってもよい。
【0047】
また、上述のモリブデンホスフェートは、無機のモリブデン化合物と酸性リン酸エステルとを混合撹拌しながら加温することにより合成することができる。更に詳しくは、モリブデン1原子に対して酸性リン酸エステルを0.5〜2.5モル、好ましくは0.6〜2モル、より好ましくは0.7〜1.5モル混合し、40〜100℃の温度で1〜30時間反応させればよい。無機モリブデン化合物は、反応前に塩酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等の鉱酸で中和してもよく、反応後にこれらの鉱酸で中和してもよい。モリブデンホスフェートの好ましい構造としては、特願2006−294455号及び特願2007−101757号に記載された下記の一般式(5)及び一般式(6)の化合物が挙げられる:
【化7】

(R19〜R24はそれぞれ水素原子または炭化水素基を表し、qは1〜5の数を表す。ただしR18〜R23の全てが同時に水素原子になることはない。)
【化8】

(R25、R26及びR27はそれぞれ独立した炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
【0048】
次に、本発明で使用する化合物(B)は、下記の一般式(1)で表わされる:
【化9】

(R〜Rは、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基又は−OR11で表わされる基のいずれかを表わし、R〜R10は、水素原子、水酸基、炭素数1〜18の炭化水素基又は−OR11で表わされる基のいずれかを表わし、R11は炭素数1〜12の炭化水素基を表わす。なお、R〜R10から選択される隣り合う2つの基はそれぞれ結合して、炭素数5〜12のシクロアルキル環、シクロアルケニル環又は芳香族環を形成してもよい。)
【0049】
上記一般式(1)のR〜Rは、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基又は−OR11で表わされる基のいずれかを表わし、R〜R10は、水素原子、水酸基、炭素数1〜18の炭化水素基又は−OR11で表わされる基のいずれかを表わすが、R〜R10の炭素数1〜18の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。
【0050】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2級ペンチル基、ネオペンチル基、ターシャリペンチル基、ヘキシル基、2級ヘキシル基、ヘプチル基、2級ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、2級オクチル基、ノニル基、2級ノニル基、デシル基、2級デシル基、ウンデシル基、2級ウンデシル基、ドデシル基、2級ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、2級トリデシル基、テトラデシル基、2級テトラデシル基、ヘキサデシル基、2級ヘキサデシル基、ステアリル基、2−ブチルオクチル基、2−ブチルデシル基、2−ヘキシルオクチル基、2−ヘキシルデシル基、2−オクチルデシル基、2−ヘキシルドデシル基、モノメチル分枝−イソステアリル基等が挙げられる。
【0051】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、オレイル基等が挙げられる。
【0052】
アリール基としては、例えば、フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、シンナミル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基、スチレン化フェニル基、p−クミルフェニル基、フェニルフェニル基、ベンジルフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基等が挙げられる。
【0053】
シクロアルキル基、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、メチルシクロペンテニル基、メチルシクロヘキセニル基、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0054】
化合物(B)は潤滑油への溶解性が高く、低揮発性の化合物であることが好ましい。そのためには、R〜R10はできるだけ分子量の大きな炭化水素基である方が有利であるが、分子量の小さい化合物は、単位質量あたりの分子数が多くなるため酸化防止性能が優れることになる。また、不飽和結合やエーテル結合が分子内に存在すると耐熱性が悪化する。これらを総合的に判断すると、R〜R10は、いずれか1つ以上が炭素数1〜18の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基であることがより好ましく、R〜R10のいずれか2つ以上が炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基であることが更に好ましい。また、R〜R10の炭化水素基の合計炭素数は、2〜20であることが好ましく、3〜15であることがより好ましい。
【0055】
基油に、リン化合物をリン含量として50〜1500質量ppm含有させたものが潤滑油(A)であり、この潤滑油(A)に、化合物(B)を0.01〜5質量%含有させたものが本発明の潤滑油組成物である。本発明の潤滑油組成物は、潤滑油(A)と化合物(B)との相乗効果により従来の潤滑油組成物と比較して良好な酸化防止性能を持つが、その効果が顕著に表れることから、潤滑油(A)のリン含量は、100〜1000質量ppmが好ましく、200〜800質量ppmがより好ましい。リン含量が50質量ppm未満あるいは1500質量ppmを超えると、化合物(B)を添加することによる相乗効果が期待できない。また、化合物(B)の添加量は、0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%、よりが好ましくは0.5〜1.5質量%である。化合物(B)の添加量が0.01質量%未満の場合は酸化防止効果が期待できず、5質量%を超えるとスラッジの原因となる場合があるので好ましくない。
【0056】
リン成分は潤滑油の用途によって様々な含量に設定されるが、50〜1500質量ppmの範囲であれば、上記の範囲で化合物(B)を添加することにより、従来品より高い酸化防止性能を持つ潤滑油組成物を得ることができる。
【0057】
更に、本発明の潤滑油組成物は、公知の潤滑油添加剤の添加を拒むものではなく、使用目的に応じて、フェノール系酸化防止剤、摩擦低減剤、極圧剤、油性向上剤、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤、消泡剤などを本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。但し、これらの中でリン系の添加剤を使用する場合は、エンジン油中の総リン含量が増えるので、本発明で規定した範囲を超えないようにする必要がある。
【0058】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸オクチル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸ステアリル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸オレイル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸ドデシル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸デシル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸オクチル、テトラキス{3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオニルオキシメチル}メタン、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸グリセリンモノエステル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸とグリセリンモノオレイルエーテルとのエステル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸ブチレングリコールジエステル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸チオジグリコールジエステル、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)サルファイド、トリス{(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル―オキシエチル}イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、ビス{2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル}サルファイド、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、テトラフタロイル−ジ(2,6−ジメチル−4−t−ブチル−3−ヒドロキシベンジルサルファイド)、6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−{ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)}プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ―ヒドロシナミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジル−リン酸ジエステル、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)サルファイド、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t―ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス{3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド}グリコールエステル等が挙げられる。
【0059】
フェノール系酸化防止剤の含量は、本発明の潤滑油組成物全量に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.05〜4質量%がより好ましく、0.1〜3質量%が更に好ましい。0.01質量%以下になると、フェノール系酸化防止剤の効果が現れない場合があり、5質量%を超えると、添加量に見合った効果が得られない場合やスラッジを発生させる場合がある。
【0060】
摩擦低減剤としては、例えば、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート等の有機モリブデン化合物が挙げられる。これら摩擦低減剤の好ましい配合量は、基油に対してモリブデン含量で30〜2000質量ppm、より好ましくは50〜1000質量ppmである。
【0061】
極圧剤としては、例えば、硫化油脂、オレフィンポリスルフィド、ジベンジルスルフィド等の硫黄系添加剤;モノオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスファイト、トリブチルホスファイト、チオリン酸エステル等のリン系化合物;チオリン酸金属塩、チオカルバミン酸金属塩、亜鉛ホスフェート等の酸性リン酸エステル金属塩等の有機金属化合物などが挙げられる。これら極圧剤の好ましい配合量は、基油に対して0.01〜2質量%、より好ましくは0.05〜1質量%である。なお、これらの極圧剤の中には、耐磨耗剤としての性能を持つものもある。
【0062】
油性向上剤としては、例えば、オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸類;オレイルグリセリンエステル、ステアリルグリセリンエステル、ラウリルグリセリンエステル等のエステル類;ラウリルアミド、オレイルアミド、ステアリルアミド等のアミド類;ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン等のアミン類;ラウリルグリセリンエーテル、オレイルグリセリンエーテル等のエーテル類が挙げられる。これら油性向上剤の好ましい配合量は、基油に対して0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜3質量%である。
【0063】
清浄剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどのスルフォネート、フェネート、サリシレート、フォスフェート及びこれらの過塩基性塩が挙げられる。これらの中でも過塩基性塩が好ましく、過塩基性塩の中でもTBN(トータルベーシックナンバー)が30〜500mgKOH/gのものがより好ましい。更に、リン及び硫黄原子のないサリシレート系の清浄剤が好ましい。これらの清浄剤の好ましい配合量は、基油に対して0.5〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%である。
【0064】
分散剤としては、例えば、重量平均分子量約500〜3000のアルキル基またはアルケニル基が付加されたコハク酸イミド、コハク酸エステル、ベンジルアミン又はこれらのホウ素変性物等が挙げられる。これらの分散剤の好ましい配合量は、基油に対して0.5〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%である。
【0065】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリ(C1〜18)アルキルメタクリレート、(C1〜18)アルキルアクリレート/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、ジエチルアミノエチルメタクリレート/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、エチレン/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体、スチレン/イソプレン水素化共重合体等が挙げられる。あるいは、分散性能を付与した分散型もしくは多機能型粘度指数向上剤を用いてもよい。重量平均分子量は10,000〜1,500,000程度である。これらの粘度指数向上剤の好ましい配合量は、基油に対して0.1〜20質量%。より好ましくは0.3〜15質量%である。
【0066】
流動点降下剤としては、例えば、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート等が挙げられ、重量平均分子量は1000〜100,000である。これらの流動点降下剤の好ましい配合量は、基油に対して0.005〜3質量%、より好ましくは0.01〜2質量%である。
【0067】
防錆剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、酸化パラフィンワックスカルシウム塩、酸化パラフィンワックスマグネシウム塩、牛脂脂肪酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアミン塩、アルケニルコハク酸又はアルケニルコハク酸ハーフエステル(アルケニル基の分子量は100〜300程度)、ソルビタンモノエステル、ノニルフェノールエトキシレート、ラノリン脂肪酸カルシウム塩等が挙げられる。これらの防錆剤の好ましい配合量は、基油に対して0.01〜3質量%、より好ましくは0.02〜2質量%である。
【0068】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール ベンゾイミダゾール ベンゾチアゾール テトラアルキルチウラムジサルファイド等が挙げられる。これら腐食防止剤の好ましい配合量は、基油に対して0.01〜3質量%、より好ましくは0.02〜2質量%である。
【0069】
消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、トリフルオロプロピルメチルシリコーン、コロイダルシリカ、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、アルコールエトキシ/プロポキシレート、脂肪酸エトキシ/プロポキシレート、ソルビタン部分脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの消泡剤の好ましい配合量は、基油に対して0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.001〜0.01質量%である。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。尚、以下の実施例等において、「%」及び「ppm」は特に記載がない限り質量基準である。
以下に試験に用いた化合物を記載する:
(A−1):亜鉛ジブチルジチオホスフェート
【化10】

【0071】
(A−2):モリブデンホスフェート
【化11】

【0072】
(B−1):1,2,3,4−テトラヒドロキノリン
【化12】

【0073】
(B−2):2,2,4−トリメチル−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン
【化13】

【0074】
(B−3):2,4−ジフェニル−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン
【化14】

【0075】
(C−1:比較化合物):ジ2−エチルヘキシルフェニルアミン
【化15】

【0076】
(C−2:比較化合物):フェニル−α−ナフチルアミン
【化16】

【0077】
(C−3:比較化合物):N,N’−ジイソブチル−p−フェニレンアミン
【化17】

【0078】
(C−4:比較化合物)
ジ2−エチルヘキシルフェニルアミン
【化18】

ベンゼンプロパン酸3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシC分岐アルキルエステル
【化19】

(R:C7−9分岐アルキル基)
C−4は、上記アミンとフェノールを1:1(質量比)で配合
【0079】
(基油)
動粘度4.24mm/秒(100℃)、19.65mm/秒(40℃)、粘度指数=126の鉱物油系高粘度VI油
【0080】
<酸化劣化試験>
上記(A−1)及び(A−2)で表わされるリン化合物を表1及び表2に示した割合で基油に溶解させ、リン濃度の異なる試験油A(試験油1〜11)及び試験油A(試験油12〜22)を作製した。この試験油A及びAに化合物(B−1)〜(B−3)及び(C−1)〜(C−4)をそれぞれ1質量%になるように添加し、試験用の潤滑油組成物を得た。
酸化劣化試験は、この試験用の潤滑油組成物3mg測りとり、アルミ製セルに装填し、セルを下記に示した装置にセットした後密封し、空気により690kPaまで加圧した。その後、昇温を開始し、160℃に到達した時点を測定開始時刻とし、温度を160℃に保ったまま、サンプルの急激な発熱が確認できた時点を測定終了時刻とした。酸化誘導期間として、測定開始時刻から測定終了時刻までの時間を試験結果とした。この時間が長いほど酸化防止性能が良好である。なお、試験油Aでの結果を表3に、試験油Aの結果を表4に記した。
測定機器:DSC2920 Differential Scanning Calorimeter(示差走査熱量計)
[ティー・エー・インスツルメンツ社(TA Instruments社)製]
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

なお、リン化合物を含有しない基油そのものを「試験油0」として試験に使用した。
【0084】
【表4】

なお、リン化合物を含有しない基油そのものを「試験油0」として試験に使用した。
【0085】
上記結果より、(B−1)〜(B−3)の化合物を添加した潤滑油組成物は、従来の潤滑油組成物に使用されてきた(C−1)〜(C−4)の比較化合物を添加した潤滑油組成物と比較して、50〜1500ppmという広範囲なリン含量において、明らかに高い酸化防止性能を示している。潤滑油組成物のリン含量は、潤滑油組成物の用途や他に添加される添加剤の種類等によって様々に変化させるものであるが、50〜1500ppmの領域であれば、本発明の潤滑油組成物は、従来の潤滑油組成物より高い酸化防止性能を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の潤滑油組成物は潤滑の用途であればいずれにも使用することができ、例えば、ガソリンエンジン油、ディーゼルエンジン油等のエンジン油、ギヤー油、タービン油、作動油、難燃性作動液、冷凍機油、コンプレッサー油、真空ポンプ油、軸受油、絶縁油、しゅう動面油、ロックドリル油、金属加工油、塑性加工油、熱処理油、グリース等の潤滑油に使用することができる。これらの中でも、使用環境が厳しく、高い酸化防止性能が要求されるエンジン油やタービン油で使用することが好ましく、エンジン油で使用することがより好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含量が50〜1500質量ppmの潤滑油(A)に、下記の一般式(1)
【化1】

(式中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基又は−OR11で表わされる基のいずれかを表わし、R〜R10は、水素原子、水酸基、炭素数1〜18の炭化水素基又は−OR11で表わされる基のいずれかを表わし、R11は炭素数1〜12の炭素水素基を表わす。なお、R〜R10から選択される隣合う2つの基はそれぞれ結合して、炭素数5〜12のシクロアルキル環、シクロアルケニル環又は芳香族環を形成してもよい)で表わされる化合物(B)を0.01〜5質量%含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
潤滑油(A)が、鉱物油及び/又は合成油からなる基油に、リン化合物を含有させた潤滑油である、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
リン化合物が、亜鉛ジチオホスフェート、モリブデンジチオホスフェート及びモリブデンホスフェートからなる群から選択される1種又は2種以上の化合物である、請求項2記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
潤滑油(A)のリン含量が200〜800質量ppmである、請求項1ないし3のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
化合物(B)のR〜R10が、アルキル基又はアリール基である、請求項1ないし4のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
化合物(B)を0.5〜1.5質量%含有する、請求項1ないし5のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
更に、フェノール系酸化防止剤、摩擦低減剤、極圧剤、油性向上剤、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤及び消泡剤からなる群から選択される1種または2種以上の潤滑油添加剤を含有する、請求項1ないし6のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項記載の潤滑油組成物を含有することを特徴とするエンジン油。

【公開番号】特開2011−57718(P2011−57718A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318240(P2007−318240)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【出願人】(000232623)日本農薬株式会社 (97)
【Fターム(参考)】