説明

酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物を少なくとも1種含む処方物、これらを製造する方法、更に、水性処方物を使用して製造された処方物、及び更なる処方物を燃料電池に使用する方法

酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物を少なくとも1種含む水性処方物(A)を製造する方法、及び本発明の方法に従い製造された水性処方物(A)。更に、水性処方物Aから水を除去することにより、乾燥した処方物Bを製造する方法、及び乾燥した処方物(B)自体。更に、本発明の乾燥した処方物(B)及び水又は水性処方物(A)を含む処方物(C)、及び本発明の水性処方物(A)又は本発明の処方物(C)及び追加的に少なくとも2質量%の有機溶媒を含んだ、水を含む処方物(D)。更に、本発明の水を含む処方物(D)から水を除去することにより得られる乾燥した処方物(E)。更に、本発明の水を含む処方物(D)、及び乾燥した処方物(E)を、ポリマー電解質膜を製造するために使用する方法、及びポリマー電解質膜自体、及び膜−電解質アセンブリ(MEA)、及び本発明のポリマー電解質膜を含む燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物、特にスルホン酸化した多環芳香族化合物を少なくとも1種含む水性処方物(A)を製造する方法、及び本発明の方法に従い製造された水性処方物(A)に関する。本発明は、更に、水性処方物Aから水を除去することにより、乾燥した処方物Bを製造する方法、及び乾燥した処方物(B)自体にも関する。更に、本発明は、本発明の乾燥した処方物(B)及び水又は水性処方物(A)を含む処方物(C)に関し、及び本発明の水性処方物(A)又は本発明の処方物(C)及び追加的に少なくとも2質量%の有機溶媒を含んだ、水を含む処方物(D)に関する。本発明は、更に、本発明の水を含む処方物(D)から水を除去することにより得られる乾燥した処方物(E)に関する。本発明は、更に、本発明の水を含む処方物(D)、及びこれらから得られる乾燥した処方物(E)を、ポリマー電解質膜を製造するために使用する方法を提供し、及びポリマー電解質膜自体、及び膜−電解質アセンブリ(MEA)をも提供し、及び本発明のポリマー電解質膜を含む燃料電池をも提供する。
【背景技術】
【0002】
官能化、特にスルホン酸化した多環芳香族化合物、及びその使用方法は、従来から公知である。例えば、官能化多環芳香族化合物は、燃料電池技術のポリマー電解質膜として、又はその中に使用される。更に、スルホン酸化した多環芳香族化合物は、電解槽、例えば、クロロアルカリ槽に使用することができ、及び種々の化学反応のための触媒中に、又は触媒として、及び逆浸透又は限外ろ過等の工程に使用することができる。
【0003】
酸性基を有する多環芳香族化合物、特にスルホン酸化した多環芳香族化合物から製造されるポリマー電解質膜は、通常、酸性基を有する多環芳香族化合物を、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミン)、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、又はNMP(N−メチルポロリドン)等の有機溶媒に溶解させ、そして次に沈殿又は溶媒を除去することにより製造される。
【0004】
不利な点は、上述した溶媒は高価であり、そして沸点が高く、その除去が困難なことである。コストを低減し、環境を保護するため、及び職業の衛生上の理由のために、酸性基を有する多環芳香族化合物の加工(処理)を、可能な水性溶液中で行うことが望ましい。更なる理由は、特に貴金属触媒材料の製造において、ヘテロ原子含有、特に塩素−、硫黄−、及び窒素−含有溶媒を避けるか又は最小限にする必要があることで、この理由は、これらは触媒の毒として作用し得るからである。この理由のために、例えば酸性基を有する多環芳香族化合物の水性処方物が、燃料電池又は電気分解装置のガス拡散電極を製造するために、又は燃料電池の膜−電極アセンブリ(MEA)を製造するために、興味を集めている。
【0005】
酸性基を有する多環芳香族化合物の水性処方物の製造における問題は、その溶解性、特に酸性基の数が少ないか又は中程度の、酸性基を有する多環芳香族化合物が使用された場合の溶解性である。この理由は、酸性基を有するこのような多環芳香族化合物は、水又は水含有溶媒に特に僅かにしか溶解しないからである。
【0006】
特許文献1(WO2005/068542)は、100℃以下では水に直接的に溶解しない、スルホン酸化したポリアリールエーテルケトン又はポリアリールエーテルスルホンを含むポリマー溶液に関する文献である。これらの溶液中の溶媒は、少なくとも90%が水である。ポリマー溶液は、燃料電池に使用するための電解触媒インキ及び電解触媒層を製造するために使用することができる。特許文献1(WO2005/068542)によれば、沸点が水よりも低い第1の溶媒に、スルホン酸化したポリマーを溶解し、水を加え、そして次に第1の溶媒を除去することによってポリマー溶液が製造されている。この文献では、驚くべきことにポリマーの沈殿を発生させず、しかし動力学的に安定な水溶液を形成している。特許文献1(WO2005/068542)の記載に従えば、溶液は、>1〜<10質量%の固体含有量を有している。
【0007】
特許文献2(WO98/55534)には、酸性基で官能化されたポリマーの、水性、水含有、及び非水性の溶液を製造する方法が開示されており、この文献では、溶液を製造するのに必要な熱がマイクロ波照射によって導入されている。溶液は、ガス拡散電極、燃料電池、及びポリマー電解質−安定化された白金ナノ粒子を製造するための出発材料として作用する。酸性基で官能化されたポリマーは、例えば、スルホン酸化ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)である。特許文献2(WO98/55534)の比較例3に従えば、165℃の温度、及び3.5バールの内圧で、マイクロ波照射を行うことなく、スルホン酸化PEEKKを水に溶解させる試みがされている。このことは、茶色がかったゲルを与える。上澄液は、約5質量%のsPEEKKを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2005/068542
【特許文献2】WO98/55534
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マイクロ波での照射は複雑であり、そしてこの照射のための適切な装置が入手できないので、必要とされるマイクロ波照射を使用することなく、酸性基を有する多環芳香族化合物の、水性又は水含有処方物を得ることが望ましい。水性又は水含有処方物が、非常に高い固体含有量(酸性基を有する多環芳香族化合物の含有量)を有することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、以下の工程(i):
(i)酸性基及び/又は酸性基の塩を有する、少なくとも1種の多環芳香族化合物と水の混合物を>170℃、好ましくは171〜350℃、極めて好ましくは180〜250℃で、閉じた反応器内で処理し、水性処方物Aを得る工程、
を含む、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物を少なくとも1種含む処方物を製造する方法によって達成される。
【0011】
本発明の方法は、固体含有量の高い、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物の水性処方物Aを得ることを可能にする。水性処方物Aは、通常、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する、少なくとも1種の多環芳香族化合物の水溶液又は分散液(dispersion)である。
【0012】
本願の目的のために、「水」という用語は、水、好ましくは水道水(水道水にとっては通常のものである不純物を含む)を意味する。例えば、部分的又は完全にイオン除去した水を使用することも同様に可能である。塩、及び乳化剤等の更なる成分を加えることも可能であるが、本発明の方法の好ましい実施の形態では行われない。
【0013】
本願の目的のために、「酸性基」という用語は、好ましくは、スルホン酸−、リン酸−、カルボキシル−、及び/又はホウ酸基を意味し、スルホン酸基を意味することが特に好ましい。「酸性基の塩」は、上述した酸性基の塩であることが好ましい。適切な塩は、一価又は多価のカチオンである。適切な多価のカチオンの例は、Al3+、Mg2+、及びCa2+である。一価のカチオンを有する塩が特に好ましく、特に好ましい一価のカチオンは、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、NH4+及びこれらの混合物から選ばれる。
【0014】
多環芳香族化合物中の酸性基及び/又は酸性基の塩の割合は、多環芳香族化合物1gに対して、通常、0.5〜2mmolの酸性基及び/又は酸性基の塩(イオン交換機能、IEC、元素分析から逆算)、好ましくは、環芳香族化合物1gに対して、1〜1.8mmolの酸性基及び/又は酸性基の塩である。IECは、ポリマー1gに対して有効な酸性基(及び/又はその塩)のmmolの数を示す。
【0015】
本発明の方法に従って製造される処方物A中に含まれる、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物、及び処方物Aを製造するために使用される、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物は、もっぱら酸性基を有する多環芳香族化合物、又はもっぱら酸性基の塩を有する多環芳香族化合物のいずれもが可能である。酸性基及び酸性基の塩の両方を有する多環芳香族化合物も同様に、「酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物」という用語に含まれる。多環芳香族化合物中の酸性基の酸性基の塩に対する割合は、通常は、100:1〜1:100、好ましくは50:1〜1:50である。
【0016】
更に、もっぱら酸性基を有する多環芳香族化合物及び/又はもっぱら酸性基の塩を有する多環芳香族化合物及び/又は酸性基及び酸性基の塩の両方を有する多環芳香族化合物の混合物も本発明の方法に使用することができる。
【0017】
本願の目的のために、「多環芳香族化合物」という用語は、ポリマー鎖中に複数のアリレン基(arylene group)、好ましくは複数のフェニレン基を有するポリマーを意味する。適切な「多環芳香族化合物」は、例えば、US2002/0091225、WO2005/049696、WO2005/050671、JP2004−345997、US2004/0149965、EP−A−1479714及びEP−A1465277に開示されている。
【0018】
「多環芳香族化合物」という用語は、ポリエーテル、ポリケトン、ポリアリールエーテルケトン、ポリチオエーテルケトン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリチオエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホンから成る群から選ばれる化合物を意味することが好ましい。「多環芳香族化合物」は、ポリアリールエーテルケトン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、及びポリスルホンから選ばれることが特に好ましい。ポリアリールエーテルケトンであることが極めて好ましい。本発明の方法に、1種又は2種以上の異なる多環芳香族化合物を使用することが可能である。ここで、多環芳香族化合物は、その基本構造、分子量及び/又は酸性基の塩の割合又は他のパラメーターが異なっていることが可能である。
【0019】
特に好ましい実施の形態では、処方物A中に存在する、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物、及び工程(i)で使用されるものは、スルホン酸−、リン酸−、カルボキシル−、ホウ酸基及び/又はこれらの塩を有する、ポリアリールエーテルケトン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド及びポリスルホンから選ばれる。
【0020】
多環芳香族化合物は、その芳香族環、又は側鎖に酸性基を有することができる。側鎖は、例えば、酸性基及び/又は酸性基の塩によって置換されるアリール、アルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アルケニルアリール、アリールアルケニル、又はアルケニル基である。側鎖は、主ポリマー鎖の何れの原子にも結合可能である。これらは、多環芳香族化合物の芳香族環に結合することが好ましい。適切な例は、
【0021】
【化1】

【0022】
但し、
X=酸性基及び/又は酸性基の塩、
A=CR2、NR、S、O、
B=CR、N、
R=置換又は無置換のアルキル又は置換又は無置換のアリール、
n=0〜10
である。
【0023】
この例は、もっぱら説明の目的で記載されている。この技術分野の当業者は、酸性基及び/又は酸性基の塩を多環芳香族化合物に結合させるための種々の更なる方法が可能であることを知るであろうし、そしてこれらのものは、本願の開示により本願に含まれる。
【0024】
酸性基を有する多環芳香族化合物は、この技術分野の当業者にとって公知の方法で製造される。例えば、US2002/0091225、WO2005/049696、WO2005/050671、JP2004−345997A、US2004/0149965、EP−A1465277に適切な方法が開示されている。多環芳香族化合物中に存在する酸性基を、対応する塩に部分的又は完全に変換することが、この技術分野の当業者にとって公知の方法、例えば、酸性基を有する多環芳香族化合物を、適切な、好ましくは水性の所望の塩の溶液で処理することによって行われる。ここで、所望の塩の如何なる水溶液も適切である。適切な溶液の例は、所望の塩のヒドロキシド溶液、カーボネート溶液、及びハロゲン化物溶液である。好ましい塩のカチオンは、上述したものである。
【0025】
酸性基を有する多環芳香族化合物は、スルホン酸化ポリアリールエーテルケトンが特に好ましい。
【0026】
公知の全てのスルホン酸化したポリアリールエーテルケトンが、スルホン酸化したポリアリールエーテルケトンとして適切である。これらは、通常、対応するポリアリールエーテルケトンをスルホン酸化することによって得られる。適切なスルホン化法は、この技術分野の当業者にとって公知であり、そして特に、EP−A0008895、WO03/03198、DE−A3402471、DE−A3321860、EP−A0574791、EP−A815159及びWO2004/076530に開示されている。ポリアリールエーテルケトンは、市販されているか、又はこの技術分野の当業者にとって公知の方法で製造することができる。酸性基の対応する塩への、部分的又は完全な変換は、上述のように、この技術分野の当業者にとって公知の方法で行うことができる。
【0027】
スルホン酸化したポリアリールエーテルケトンは、スルホン酸化したポリエーテルケトン(sPEK)、スルホン酸化したポリエーテルエーテルケトン(sPEEK)、スルホン酸化したポリエーテルケトンケトン(sPEKK)、及びスルホン酸化したポリエーテルエーテルケトンケトン(sPEEKK)から成る群から選ばれることが好ましい。
【0028】
本願の目的のために、「スルホン酸化した(sulfonated)」という用語は、遊離スルホン酸基を有するポリアリールエーテルケトン及びスルホン酸基の塩を有するポリアリールエーテルケトンの両方、及び塩と遊離スルホン酸基の両方を有するポリアリールエーテルケトンを含む。
【0029】
本発明に従い使用されるスルホン酸化したポリアリールエーテルケトンのスルホン化の程度は、通常、10〜90%、好ましくは20〜80%、特に好ましくは30〜60%、極めて好ましくは35〜55%である。上述したスルホン化の割合(程度)を有するスリホン酸化したポリアリールエーテルケトンを製造するための適切な方法は、上述した文献に記載されている。スルホン化の程度は、ポリマーの繰り返し単位に対する酸度関数(acid function)(及び/又は対応する塩)の数を示す。
【0030】
本発明の方法では、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物を1〜5種含む処方物、好ましくは酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物を1又は2種含む処方物、特に好ましくは酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物を1種含む処方物を製造することが好ましい。
【0031】
酸性基及び/又は酸性基の塩を有する、少なくとも1種の多環芳香族化合物とは別に、本願の処方物は、更なるポリマー性化合物、特に、芳香族化合物ではない、酸性基を有するポリマー性化合物、例えば、スルホン酸化したフルオロポリマー、例えば、Nafion(登録商標)、Aciplex(登録商標)、Flemion(登録商標)及び/又はHyflon Ion(登録商標)を含むことができる。例えば、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する、少なくとも1種の多環芳香族化合物と更なるポリマー性化合物の共通の溶液により、工程i)で処方物Aを製造することができる。
【0032】
工程i) 酸性基及び/又は酸性基の塩を有する、少なくとも1種の多環芳香族化合物と水とを接触させる工程。
【0033】
酸性基及び/又は酸性基の塩を有する、少なくとも1種の多環芳香族化合物を含む水性処方物Aを製造するために、本発明に従う少なくとも1種の多環芳香族化合物が、水と接触される。
【0034】
工程i)は、>170℃の温度、好ましくは171℃〜350℃の温度、特に好ましくは180〜250℃の温度で行われる。上述した温度よりも高い温度が使用された場合、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物の分解が発生する。上述した温度よりも低い温度では、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物は、溶解せず、又は僅かにしか溶解しない。正確な分解温度は、使用される、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物に依存する。
【0035】
好ましい実施の形態では、工程i)での温度は一定に維持される。ここで、「一定」という用語は、+/−2℃の温度偏差を意味する。このことにより、得られる個体含有量と後の流し込み溶液の良好な再現性が得られる。
【0036】
工程i)は、耐圧性の閉鎖した反応器内で行われる。適切な反応器は、この技術分野の当業者にとって公知である。例えば、工程(i)は、オートクレーブ内で行われる。従って、工程(i)は、通常、上述した温度で、少なくとも固有圧力(autogenous pressure)で行われる。しかしながら、工程(i)での処理の間、圧力を制御し、そして固有圧力未満の圧力で処理を行うことも可能である。
【0037】
処方物Aの非常に高い固体含有量を得るために、本発明の方法は、通常、工程(i)で使用される酸性基及び/又はその塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物と、水とを混合し、そしてこの混合物を、閉鎖した反応器内で、上述した温度で処理することにより行われる。これにより、通常、酸性基及び/又はその塩を有する(溶液中に溶解しない)多環芳香族化合物を含むゲル状固体を有する水性処方物Aが得られる。水性処方物Aを得るために、この技術分野の当業者には公知の方法、例えば、遠心分離、デカンテーション、ろ過等によりゲル状固体が分離される。
【0038】
本発明の方法により、水性処方物A(該水性処方物A中には、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する、少なくとも1種の多環芳香族化合物が、溶解又は分散した状態で存在する)が得られる。ゲル浸透クロマトグラフィー(溶離剤:DMAc(+LiBr)、検出器:示差屈折計ERC7515A)を使用した分析に従えば、酸性基及び/又はその塩を有する多環芳香族化合物は、変化しない状態で存在し、すなわち、酸性基及び/又はその塩を有する多環芳香族化合物の分子量は変化しない。
【0039】
酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物の水溶性(水に対する溶解度)が改良されたことは、従来技術に従う、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物の水溶性の観点からら驚くべきことであった。この改良は、(酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物の)本発明に従う処理によってもたらされたことであるが、酸性基及び/又はその塩を有する多環芳香族化合物の、粒子の形態(morphology)が変化したことによるものである。本発明に従い処理された、酸性基及び/又はその塩を有する多環芳香族化合物は、従来技術に従う、(酸性基の含有量が同一の)酸性基を有する多環芳香族化合物と比較して、異なる物理的特性(粒子形態、水溶性)を有する。本発明の工程で行われる、酸性基及び/又はその塩を有する多環芳香族化合物の粒子形態の変化(変更)は、特定の温度と特定の圧力を超えた場合のみ発生する。粒子形態の変化は、「水溶性(水に対する溶解度)」の改良をもたらす。この温度未満では、酸性基及び/又はその塩を有する多環芳香族化合物の水溶性の改良は、達成されない。例えば、WO98/55534に開示された比較例3では、このことが明確になっている。この比較例で設定された温度(165℃)は、粒子形態を変化させるのに不十分であり、従って、使用する酸性基を有する多環芳香族化合物の水溶性を改良するのに不十分である。
【0040】
本発明の好ましい実施の形態では、酸性基の塩を有する多環芳香族化合物が、本発明の方法に使用される。ここで、対応する多環芳香族化合物の全ての酸性基は、その塩の状態で存在することができ、又は酸性基の一部だけが塩の状態で存在すること(これにより、多環芳香族化合物が、酸性基と酸性基の塩の両方を有すことになる)も可能である。酸性基の、酸性基の塩に対する好ましい割合、及び好ましい塩については、既に上述した。
【0041】
酸性基の塩を有する多環芳香族化合物を使用する場合、もっぱら遊離酸性基だけを有する多環芳香族化合物を使用する場合に対して、種々の有利な点が得られることがわかった:
a)通常、工程(i)で形成されるゲル状固体(残渣)が低減し、及び従って、溶解又は分散した状態の、酸性基の塩を有する多環芳香族化合物の収率が上昇し、そして、ゲルの量が低減するので、反応器をクリーニングするための費用が低減する;
b)溶解又は分散がより完全に行われ、ポリマー溶液の後処理が容易になる。この理由は、ろ過するだけで良く、及び事前に行うことが好ましい遠心分離が不必要になるからである;
c)酸性基の塩を有する多環芳香族化合物は、Hフォーム(=遊離酸性基を有する多環芳香族化合物)よりも工程(i)で、高い固体含有量で処理することができ、すなわち、工程(i)での処理量を増すことができる;
d)水性処方物Aの固体含有量が高いので、次の乾燥の間に蒸発させる水の量が少なくなり(工程ii)、処方物B、参照)、すなわち工程のエネルギー効率が良くなる;
e)本発明の方法の工程(i)に従い処理された、酸性基の塩を有する多環芳香族化合物は、同一の粘度で、仕上られた流し込み溶液(casting solution)中の固体含有量が高く(処方物D、参照)、これにより膜製造がかなり効率的になる;
f)酸性基の塩を有し、及び遊離水素原子を有しない多環芳香族化合物を使用することにより、腐食性が大きく低減される。遊離酸、特にスルホン酸を使用する場合に通常では必要とされるエナメル反応器の代わりに、酸性基の塩、特にスルホン酸の塩を有する多環芳香族化合物を使用する場合には、本発明の方法を行うために金属反応器を使用することが可能である。
【0042】
従って、本発明の方法のある実施の形態は、酸性基の塩を有する多環芳香族化合物を金属反応器内で使用する方法に関するものである。酸性基の塩を有する、適切な多環芳香族化合物については上述した。適切な金属反応器、例えば金属オートクレーブは、この技術分野の当業者にとって公知である。金属反応器の金属は、通常、高合金鋼である。
【0043】
本発明の更なる実施の形態では、本発明の方法は、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物と水だけではなく、混合物の合計量に対して0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.5〜1質量%の少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒を含む混合物を使用して行われる。上記極性非プロトン性溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルラクトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチレンクロリド、クロロホルム、EtOAc及びこれらの混合物から成る群から選ばれることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。本発明に使用される混合物に、1種以上の少量の極性非プロトン性溶媒を加えた場合、固体含有量、すなわち、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物の、流し込み溶液(下記処方物D参照)中の含有量を更に増加させることができる。極性非プロトン性溶媒の量は少なく、本発明に従って処理されない、酸性基及び/又はその塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物を溶解させるために、その溶解能力は十分ではない。極性非プロトン性溶媒を必要以上に加えた場合、「水溶性」が悪化する。
【0044】
従って、少量の極性非プロトン性溶媒を、本発明に従い加えることによって、最終的な流し込み溶液(処方物D)の固体含有量を増加させることができる。多環芳香族化合物の酸性基の塩の使用に関し、上述した長所(e)もこれによって同様に達成される。酸性基の塩を有する多環芳香族化合物を、極性非プロトン性溶媒の添加と組み合わせることにより、流し込み溶液(処方物D)の特に高い固体含有量も同様に得ることができる。
【0045】
本発明の更なる実施の形態では、本発明の方法の工程(i)で使用される、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物は、残留水分含有量が、≧30質量%、好ましくは≧50質量%、特に好ましくは≧70質量%である。工程(i)で使用される、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物は、その製造の間の任意の時点で、残留水分含有量が30質量%未満でないことが特に好ましく、50質量未満でないことが好ましく、70質量%未満でないことが特に好ましい。酸性基及び/又は酸性基の塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物であって、残留水分が上記範囲であるものの本発明に従う使用は、処方物A及び最終的な流し込み溶液中の固体含有量を増加させることができる。更に、処方物Aの製造で形成されたゲル状の固体の割合は、通常、低減される。多環芳香族化合物の酸性基の塩の使用及び追加的な極性非プロトン性溶媒の添加に関し、上述した(a)〜(d)の有利な点は、同様に、このようにして達成される。特に高い固体含有量を達成するために、上述した実施の形態を組み合わせることも可能である。
【0046】
酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物であって、残留水分が上述した範囲のものを使用した場合、本発明の方法の工程(i)で使用する前の乾燥工程は不必要となり、この結果、全体的な工程は、エネルギー効率が良くなる。
【0047】
「残留水分含有量が、≧30質量%、好ましくは≧50質量%、特に好ましくは≧70質量%である、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物」という記載は、少なくとも1種の多環芳香族化合物と水とを含む組成物を表し、そして、固体の含有量が≦70質量%であり、水の含有量が≧30質量%、好ましくは固体の含有量が≦50質量%であり、水の含有量が≧50質量%、特に好ましくは固体の含有量が≦30質量%、水の含有量が≧70質量%であり、固体含有量と水の含有量の合計が100%であることを表す。特に好ましくは、固体含有量は、10〜70質量%であり、15〜50質量%が特に好ましく、20〜30質量%が極めて好ましく、そして水の含有量が30〜90質量%、特に好ましくは、50〜85質量%、極めて好ましくは70〜80質量%で、固体含有量と水の含有量の合計が100%である。
【0048】
上述した水分含有量を有する、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する1種の多環芳香族化合物は、(製造された多環芳香族化合物の乾燥が行われない)この技術分野の当業者にとって公知の方法で得られる。上述のように、多環芳香族化合物は、任意の時点において、上述した値を下回らないことが好ましい。
【0049】
特に本発明の方法の実施の形態(工程(i))により達成される高い固体含有量は、残渣として形成されたゲル状固体の量を低減するのみならず、ポリマー膜を製造するために使用される流し込み溶液の粘度にも影響を与える。工程(i)で得られた処方物(A)の固体含有量が高いと、(流し込み溶液の固体与えられた固体含有量で、)流し込み溶液の粘度が高くなる。
【0050】
(工程(i)として)本発明に従い処理された、酸性基及び/又はその塩を有する多環芳香族化合物から得られる流し込み溶液は、優れた安定性を有している。通常、<35℃の温度で、数週間にわたり安定である。
【0051】
本発明の方法の工程(i)で得られた水性処方物Aは、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物の含有量が高い。これは通常、1〜30質量%、好ましくは5〜25質量%、特に好ましくは10〜20質量%、極めて好ましくは15〜20質量%であって、酸性基及び/又はその塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物と水との合計が100質量%である。酸性基及び/又はその塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物は、水性処方物A中に、溶解又は分散した状態で存在する。本発明の方法は、従来技術に従う方法により従来可能であった固体含有量と比較して、より高い固体含有量を達成することができる。
【0052】
更に、本発明の一実施の形態では、本発明の方法の工程(i)で得られた水性処方物は、0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.5〜1質量%の、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルラクトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチレンクロリド、クロロホルム、EtOAc及びこれらの混合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒(好ましくはN−メチル−2−ピロリドン)を含むことが可能であり、そして酸性基及び/又はその塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物、水及び少なくとも1種の多環芳香族化合物の合計が100質量%である。
【0053】
従って本発明は更に、本発明の方法によって製造される水性処方物Aを提供し、該水性処方物Aは以下の成分を含むことが好ましい。すなわち、
(Aa)1〜30質量%、好ましくは5〜25質量%、特に好ましくは10〜20質量%、極めて好ましくは15〜20質量%の、酸性基を有する、少なくとも1種の多環芳香族化合物、
(Ab)70〜99質量%、好ましくは75〜95質量%、特に好ましくは80〜90質量%、極めて好ましくは80〜85質量%の水、及び
(Ac)適宜、追加的に、0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.5〜1質量%の、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチレンクロリド、クロロホルム、EtOAc及びこれらの混合物から成る群から選ばれ、好ましくは、N−メチル−2−ピロリドンである、少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒、
の成分を含むことが好ましく、そして、酸性基を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物、水及び適宜含まれる少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒の合計が、100質量%である。
【0054】
酸性基及び/又はその塩を有する多環芳香族化合物の含有量が通常、1〜30質量%である水性処方物Aは、(DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)、DMF(ジメチルホルムアミド)又はNMP(N−メチルピロリドン)等の有機溶媒中のポリアリールエーテルケトンの量が同一である)スルホン酸塩化されたポリアリールエーテルケトンの処方物と比較して、粘度が相当に低い。更に、本発明の水性処方物Aは、有機処方物と比較した場合、水の沸点が上述した有機溶媒の沸点よりも低く、そして毒性がないという有利な点を有している。更に、水性処方物Aから適切な流し込み溶液を製造することができる。
【0055】
工程i)で得られた水性処方物Aは、次に更に工程(ii)で処理することができる。
【0056】
工程ii) 水の除去。
【0057】
更なる工程である工程ii)では、工程i)で得られた処方物Aから水を除去することができる。これにより、乾燥処方物Bが得られる。
【0058】
水性処方物からの水の除去は、この技術分野の当業者にとって公知の方法で行うことができる。例えば、真空状態、適宜熱を施すことにより、又はスプレー乾燥により水を除去することができる。
【0059】
本発明の方法の工程(ii)では、適宜、本発明の処方物A中に追加的に存在して良い、少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒は、
(a)水の除去で完全に除去可能、
(b)水の除去で、部分的に除去可能、
(c)全く除去不可能、
なものである。
【0060】
このことは、本発明の方法の工程(ii)で得られた乾燥した処方物Bが、
(a)極性非プロトン性溶媒を含まない、
(b)極性非プロトン性溶媒を含み、該極性非プロトン性溶媒の割合が、対応する水性処方物A中の割合よりも低い(固体含有量をベース)、
(c)極性非プロトン性溶媒を含み、該極性非プロトン性溶媒の割合が、対応する水性処方物Aとおよそ同一である(固体含有量をベース)、
ことを意味する。
【0061】
同様に水は、本発明の方法の工程(ii)で完全に又は部分的に除去可能である。通常、工程(ii)での水の除去は、乾燥した処方物Bの固体含有量>90質量%、好ましくは>99質量%まで行われる。
【0062】
工程ii)で得られる乾燥した処方物B(処方物Bは,酸性基及び/又は酸性基の塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物)は、室温であっても、水中に非常に容易に溶解する。工程i)で使用される酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物は、通常、水に溶解しないので、このことは驚くべきことであった。ゲル浸透クロマトグラフによる分析に従えば、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物の分子量は変化しなかった。上述のように、乾燥した処方物Bが水に対する良好な溶解性を有する理由としては、工程i)で行われた方法から得られた酸性基を有する多環芳香族化合物の形態(morphology)が変化したと考えられる。このことは、本発明の方法の工程i)で製造された、酸性基を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物を含む処方物A、及び工程i)とii)で製造された、酸性基を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物を含む乾燥した処方物Bは、従来技術から公知の、酸性基を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物を含む水性処方物又は乾燥処方物とは異なることを意味する。
【0063】
従って本発明は更に、工程i)とii)を含む本発明の方法によって製造された、乾燥した処方物Bを提供する。適切な工程条件と好ましい成分については上述した。
【0064】
本発明の乾燥した処方物Bは、更に種々の方法で処理することができる。
【0065】
第1に、本発明の乾燥した処方物Bを、水性処方物C(水性処方物Cは、水性処方物Aよりも、酸性基及び/又はその塩を有する多環芳香族化合物の固体含有量が高くて良い)を製造するために使用することができる。この製造は、本発明の乾燥した処方物Bに、水又は水性処方物Aを加えることにより行われる。本発明の乾燥した処方物Bを水又は水性処方物Aに溶解させることにより、酸性基及び/又はその塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物の含有量が50質量%までの水性処方物を得ることができる(酸性基及び/又はその塩を有する多環芳香族化合物、水及び存在する極性非プロトン性溶媒の合計をベース)。
【0066】
本発明は、従って、
a)本発明に従う乾燥した処方物B及び
b)水又は本発明に従う水性処方物A、
を含む処方物Cを提供する。
【0067】
上述した、本発明の処方物Cは、好ましくは1〜50質量%、特に好ましくは5〜40質量%、極めて好ましくは10〜35質量%、及び特に25〜35質量%の、酸性基及び/又はその塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物を含む(酸性基及び/又はその塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物、水及び存在する極性非プロトン性溶媒の合計をベース)。
【0068】
酸性基及び/又はその塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物は、乾燥した処方物Bから由来することができ、又は乾燥した処方物Bと水性処方物Aから由来することができる。
(Ca)1〜50質量%、好ましくは5〜40質量%、特に好ましくは10〜35質量%、極めて好ましくは25〜35質量%の、酸性基を有する、少なくとも1種の多環芳香族化合物、
(Cb)50〜99質量%、好ましくは60〜95質量%、特に好ましくは65〜90質量%、極めて好ましくは65〜75質量%の水、及び
(Cc)適宜、追加的に、0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.5〜1質量%の、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチレンクロリド、クロロホルム、EtOAc及びこれらの混合物から成る群から選ばれ、好ましくは、N−メチル−2−ピロリドンである、少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒、
を含み、乾燥した処方物B、水及び適宜含まれる少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒の合計が、100質量%である記載の処方物Cが特に好ましい。
【0069】
酸性基を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物及び水及び、適宜少量の極性非プロトン性溶媒を含む水性処方物(処方物A及びC)とは別に、水を含む処方物Dが興味深いものであり、処方物Dは、既に存在していても良い極性非プロトン性溶媒に加え、少なくとも1種の更なる極性非プロトン性溶媒又はアルコールを含んでいる。適切な極性非プロトン性溶媒は、例えば、NMP(N−メチルピロリドン)、DNAc(N,N−ジメチルアセトアミド)、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジチルスルホキシド)、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチレンクロリド、フロロホルム、EtOAc及びアルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ジアルコール(dialcohol)、例えば、エチレングリコール、トリアルコール、例えば。グリセロール又はこれらの混合物である。更なる極性非プロトン性溶媒と、水性処方物A中に存在して良い極性非プロトン性溶媒は、同一であって良く、又は異なるものであって良い。水を含む処方物D中における、水の、極性非プロトン性溶媒及び/又はアルコールに対する割合は、50:1〜1:5、好ましくは6:1〜3:1である。
【0070】
本発明は更に、
(Da)本発明の工程i)を使用して得られた水性処方物A、又は乾燥した処方物Bに水又は本発明の処方物Aを添加することによって得られた処方物C、更に、適宜、水性処方物A又は処方物C中に予め存在して良い極性非プロトン性溶媒、
(Db)処方物の合計量に対して、少なくとも2質量%、好ましくは2〜30質量%、特に好ましくは5〜25質量%、極めて好ましくは10〜20質量%の、少なくとも1種の更なる極性非プロトン性溶媒及び/又は少なくとも1種のアルコール(処方物の合計量が100質量%である)、
を含むことを特徴とする、水を含む処方物Dを提供する。
【0071】
適切な極性非プロトン性溶媒及びアルコールについては上述した。極性非プロトン性溶媒及び/又はアルコールの、水を含む処方物中の割合は、水を含む処方物の合計量に対して、通常少なくとも2質量%、好ましくは2〜30質量%、特に好ましくは5〜25質量%、極めて好ましくは10〜20質量%である。
【0072】
本発明の水を含む処方物Dは、処方物の合計量に対して少なくとも2質量%の、少なくとも1種の更なる極性非プロトン性溶媒及び/又は少なくとも1種のアルコールを、本発明の工程i)で得られた本発明に従う水性処方物Aに加えるか、又は本発明の乾燥した処方物B及び水又は本発明の水性処方物Aを含む、本発明の処方物Cに加えることにより得られる。適切な極性非プロトン性溶媒、適切なアルコール、及びこれら溶媒の適切な量については上述した。
【0073】
本発明の水を含む処方物Dは、酸性基及び/又はその塩を有する多環芳香族化合物を、水と溶媒の混合物中に溶解させることによっては製造することができない。この理由は、酸性基及び/又はその塩を有する多環芳香族化合物が水に対して不溶性(insolubility)であるからである。
【0074】
極性非プロトン性溶媒及び/又はアルコールを≧2質量%含んだ、本発明に従う、水を含む処方物Dを乾燥することにより、水に不溶性の残渣が得られることがわかったことは驚くべきことであった。このような水に不溶性の残渣の有利な点は、本発明の水を含む処方物Dを基に、酸性基及び/又はその塩を有する多環芳香族化合物を含む、水に不溶性の膜が製造可能なことである。このような膜は、例えば、燃料電池及び電解セルへの適用に適切である。
【0075】
従って水を含む処方物Dは、水に不溶性の膜を製造するための、卓越した流し込み溶液(casting solution)である。
【0076】
本発明の水を含む処方物Dから出発する膜の製造において、低い温度でより迅速な乾燥が可能である。この理由は、水の沸点は有機溶媒(該有機溶媒は、従来技術に従い、酸性基を有する多環芳香族化合物から出発して、膜を製造するのに使用される)の沸点よりもかなり低いからである。更に、本発明の水を含む処方物は、粘度(粘性)が低く、このことは、膜の製造でのろ過を促進する。更に、本発明の水を含む処方物Dを使用した場合、固体の含有量をより高くすることも可能である。
【0077】
従って本発明は、本発明の水を含む処方物Dを乾燥させることにより、酸性基及び/又はその塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物を含む、乾燥した処方物Eを製造するための方法を提供する。
【0078】
適切な乾燥方法は、この技術分野の当業者にとって公知であり、例えば乾燥は、温度を上昇させて行うことができる。
【0079】
乾燥の後、処方物E(処方物Eの固体含有量は、通常≧70質量%、好ましくは70〜90質量%である)が得られる。
【0080】
本発明は更に、本発明の上述した方法により製造された、乾燥した処方物Eを提供する。
【0081】
上述のように、水を含む処方物D(処方物Dは、極性非プロトン性溶媒及び/又はアルコールの含有量が少なくとも2質量%である)から製造される乾燥した処方物Eは、次の有利な点を有する。すなわち、処方物Eは、水に不溶性であり、そして従って、燃料電池及び電解セル用の膜の製造用に使用可能であるという有利な点を有する。膜の製造における、水を含む処方物Dから得られる有利な点については上述した。
【0082】
従って、水を含む処方物Dから出発して、水に不溶性の膜を製造することが可能であり、すなわち、好ましい実施の形態では、水を含む処方物Dは、膜を製造するための流し込み溶液として使用される。
【0083】
乾燥した処方物Eは、追加的に少なくとも1種の更なるポリマー及び/又は更なる無機及び/又は有機化合物(これらは固体又は得嫌いが可能である)を含むことができ、そしてこれらは、水を含む処方物Dの乾燥の前又は後に加えることができる。このことは、水を含む処方物Dが、同様に、少なくとも1種の更なるポリマー及び/又は更なる無機及び/又は有機化合物(これらは固体又は得嫌いが可能である)を追加的に含むことができることを意味する。水を含む処方物D中に、少なくとも1種の更なるポリマーが追加的に存在することは、ブレンド膜の製造にとって特に興味深いものである。更に、乾燥した処方物Eを、更なるポリマー及び/又は更なる無機及び/又は有機化合物と混合することも考えられる。更なるポリマーを、水を含む処方物Dから製造した膜の上に堆積(deposit)させることも考えられる。
【0084】
適切な、更なるポリマーは、例えば、水に溶解性の又は水に分散性のポリマー、例えばポリビニルピロリドン及びポリビニルカプロラクタムである。
【0085】
従って本発明は更に、乾燥した処方物Eを提供するものであり、乾燥した処方物Eは、追加的に少なくとも1種の更なるポリマー、好ましくは少なくとも1種の水に溶解性の又は水に分散性のポリマー、例えばポリビニルピロリドン及び/又はポリビニルカプロラクタム、及び適宜、更なる無機及び/又は有機化合物を含む。
【0086】
乾燥した処方物の少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンの、少なくとも1種の更なるポリマーに対する割合は、通常、1:99〜99:1、好ましくは2:1〜20:1である。
【0087】
更なる成分として適切な無機及び/又は有機化合物は、通常、低分子量又はポリマー性の固体で、これらは例えば、プロトンを受け入れ又は放出することができるものである。
【0088】
プロトンを受け入れ又は放出することができる、このような化合物の例は:
−シートシリケート、例えば、ベントナイト、モントモリロナイト、蛇紋岩、カリナイト、タルク、葉ろう石、マイカ。更なる詳細は、Hollemann−Wiberg,Lehrbuch der Anorganischen Chemie,91st−100th edition,p.771ff(2001)。
−アルミノシリケート、例えばゼオライト。
−水に溶解性の有機カルボン酸、例えば、5〜30個、好ましくは8〜22個、特に好ましくは12〜18個の炭素原子を有するもの、及び直鎖状又は分岐したアルキル基(該アルキル基は、適宜1種以上の更なる官能基、例えば、都国、ヒドロキシル基、C−C二重結合又はカルボニル基を有していても良い)。以下のカルボン酸を例示して良い:バレリアン酸、イソバレリアン酸、2−メチル酪酸、ピバル酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、チューバーコロステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エルカ酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキドン酸、クルパノドン酸、及びドコサヘキサン酸又はこれらの2種以上の混合物。
−例えば、Hollemann−Wiberg,loc.cit.,p.659ffに記載されているようなポリリン酸。
−上述した固体の2種以上の混合物。
【0089】
更なる、好ましくは非官能化したポリマーを加えることも同様に可能である。本発明の目的のために、「非官能化したポリマー」という用語は、ペルフルオロ化及びスルホン酸塩化した(イオノマー性)ポリマー、例えば、Nafion(登録商標)又はFleminon(登録商標)でもなく、充分なプロトン伝導性を得るために適切な基、例えば−SO3H基又は−COOH基で官能化されたポリマーでもないポリマーを意味する。本発明の目的のために使用可能な、非官能化した基は、本発明に従うポリマー系が使用される適用用途(application)で、安定である限り、特に制限されるものではない。これらが、好ましい使用として、燃料電池に使用された場合、100℃まで、好ましくは200℃まで、又はそれ以上に高い温度で熱的に安定であり、そして化学的に非常に安定なポリマーが使用されるべきである。以下のものを使用することが好ましい:
−芳香族骨格を有するポリマー、例えば、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、例えば、Ultrason(登録商標)、ポリベンズイミダゾール。
−フッソ化骨格を有するポリマー、例えばTeflon(登録商標)又はPVDF。
−熱可塑性ポリマー又はコポリマー、例えばポリカーボネート、例えば、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリブタジエンカーボネート、又はポリビニリデンカーボネート、又は特にWO98/44576に記載されたポリウレタン。
−架橋したポリビニルアルコール。
−ビニルポリマー、例えば、
−スチレン又はメチルスチレン、ビニルクロリド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、N−メチルピロリドン、N−ビニルイミダゾール、ビニルアセテート、ビニリデンフルオリドのポリマー又はコポリマー。
【0090】
−ビニルクロリド及びビニリデンクロリド、ビニルクロリド及びアクリロニトリル、ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレンのコポリマー。
【0091】
−ビニリデンフルオリド及びヘキサフルオロプロピレンのターポリマー、及びビニルフルオリド、テトラフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンから成る群からの化合物のターポリマー。
【0092】
このようなポリマーは、例えば、US5,540,741に開示されており、この文献の関連する記載は、本明細書に全て導入される。
−フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリトリフルオフォスチレン、ポリ−2,6−ジフェニル−1,4−フェニレンオキシド、ポリアリールエーテルスルホン、ポリアリレンエーテルスルホン、ホスホン酸塩化ポリ−2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキシド。
−以下のものから製造されるホモポリマー、ブロックコポリマー及びランダムコポリマー:
−オレフィン炭化水素、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブテン、プロペン、ヘキセン又は高級同族体、ブタジエン、シクロペンタン、シクロヘキセン、ノルボルネン、ビニルシクロヘキサン。
【0093】
−アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル、ベンジル、トリフルオロメチル、又はヘキサフルオロプロピルエステル又はテトラフルオロプロピルアクリレート又はテトラフルオロプロピルメタクリレート。
【0094】
−ビニルエーテル、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル、ベンジル、トリフルオロメチル、又はヘキサフルオロプロピル又はテトラフルオロプロピルビニルエーテル。
【0095】
これら全ての非官脳化したポリマーは、原則として、架橋した状態又は架橋していない状態で使用することができる。
【0096】
本発明の処方物は、この技術分野の当業者にとって公知の、種々の用途(適用)に適切である。重要な局面は、本発明の方法は、例えば、燃料電池内のイオン交換ポリマー系として、例えばイオノマーとして、又は例えば、膜−電極アセンブリー(MEAs)内のポリマー電解質膜として使用できる処方物を得ることができるということである。
【0097】
従って本発明は更に、本発明に従う乾燥した処方物Eを、イオノマー又はポリマー電解質膜として使用する方法、及び本発明の乾燥した処方物E又は本発明の水を含む処方物Dから製造されたイオノマー又はポリマー電解質膜を提供する。本発明の処方物A、B、C及びDを、(適宜処方物を更に処理した後)イオノマー処方物又は電解質膜を製造するために使用することも同様に可能である。
【0098】
本発明のポリマー電解質膜は、主として、この技術分野の当業者に公知の全ての適切な方法で製造することができる。本発明のポリマー電解質膜の製造は、酸性基及び/又はその塩を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物を含む、流し込み溶液(casting solution)又は流し込み分散物を製造することによって行われることが好ましい。流し込み溶液又は流し込み分散物は、本発明の水を含む処方物Dであることが可能であり、又は少なくとも1種の上述した極性非プロトン性溶媒及び/又はアルコール中に溶解した、本発明の乾燥した処方物Eであることが可能である。流し込み溶液又は流し込み分散物は、例えば、流し込み溶液又は分散物を、ドクターブレードを使用してスプレッドする(広げる)ことにより、適切な担体に施される。適切な担体は、例えば、ガラスプレート又はPETフィルムである。例えば、流し込み溶液又は流し込み分散物を、(必要である場合には、)浸漬、スピンコーティング、ローラーコーティング、スプレーコーティング、印刷及びレタープレス、グラビア印刷、平台印刷、又はスクリーン印刷法により、又は他に押し出しにより、担体に施すことも可能である。通常の方法で、例えば、室温又は昇温状態で、適宜減圧して乾燥し、溶媒又は水と適切な溶媒の混合物を除去することにより、更なる加工(処理)を行うこともできる。溶媒又は溶媒と水の混合物を、固体の濃度が50〜99質量%になるまで、この技術分野の当業者にとって公知の方法で蒸発させ、そして次に、この技術分野の当業者にとって公知の方法で、膜に付着している溶媒と水に対して混和性の沈澱剤を使用して、膜を沈澱(precipitate)させることにより、ポリマー電解質膜を製造することも可能である。膜は次に、この技術の当業者にとって公知の方法で、溶媒又は溶媒と水の混合物が除去される。電解質膜を造するための方法は、この技術分野の当業者にとって公知であり、そして例えば、EP−A0574791、DE−A4211266及びDE−A3402471に開示されている。
【0099】
使用の前に、本発明のポリマー電解質膜は、(通号では)この技術分野の当業者にとって公知の方法を使用して、無機及び/又は有機酸で洗浄される(活性化)。ここで、膜内に存在するスルホン酸の如何なる塩も遊離スルホン酸に変換され、そして存在する残留溶媒が洗浄除去される。
【0100】
厚さが5〜500μm、好ましくは10〜500μm、及び特に好ましくは10〜200μm(乾燥したポリマー電解質膜の厚さ)を有するポリマー電解質膜を製造することが好ましい。
【0101】
更に本発明は、所定の複合体を提供する。ここで該複合体は、酸性基及を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物を、本発明に従う乾燥した処方物Eの状態で含む少なくとも1種の第1の層を含み、そして本発明に従う処方物中に存在する、スルホン酸の塩は、複合体の製造の前又は後に、(通常、無機及び/又は有機酸で洗浄することにより、)遊離スルホン酸に変換される。また、本発明は、酸性基及を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物を、本発明に従う乾燥した処方物の状態で含む少なくとも1種の第1の層、及び追加的に、少なくとも1種の電気的の導電性の触媒層を含む複合体(触媒被覆膜CCM)を提供する。適切なCCMは、触媒層、例えばポリマー、好ましくは乾燥した処方物E、カーボンブラック、及び触媒、好ましくは貴金属触媒、又は膜に触媒インキを施すことによって製造された触媒層を含む。適切な触媒インキは、例えば、触媒的に活性な貴金属のアグロマレイト(塊)(例えば、触媒の白金又はルテニウムアグロマレイト)及び少なくとも1種の溶媒を含む。適切な溶媒は、水、アルコール(一価、多価アルコール、例えば1、2又は3個のOH基を有するアルコール)、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)又はNMP(N−メチルピロリドン)を含む。好ましい触媒インキは、以下に記載する水性触媒処方物である。触媒インキは、例えば、スプレー、ドクターブレード被覆又は印刷及びこの技術分野の当業者に公知の更なる方法によって、膜に施すことができる。
【0102】
複合体(composite)は、膜及び1層以上の触媒層に加え、更に1種以上のガス拡散層(GDLs)、例えばカーボン不織布を含むことができる。(1層以上の)触媒層は、ガス拡散層の上に配置され、膜−電極アセンブリー(MEA)が得られる。
【0103】
適切な膜−電極アセンブリー及び触媒被覆された膜及びその製造方法は、この技術分野の当業者にとって公知である。
【0104】
適切なMEAは、例えば、触媒インキをGDLに施して被覆されたGDLを得ることによって製造される。次に、2個のGDLが、GDLの間に配置されたポリマー電解質膜と、例えば、熱プレス処理によって一緒に処理されてMEAが製造される。好ましい触媒インキ及びポリマー電解質膜は、本発明の触媒インキ及びポリマー電解質膜である。MEAを製造するための適切な方法は、この技術分野の当業者にとって公知のものである。
【0105】
本複合体は、更に1個以上の双極電極を含んでいる。
【0106】
本発明は、更に少なくとも1個の、本発明に従うポリマー電解質膜又は本発明に従う複合体を含む燃料電池を提供する。
【0107】
酸性基を有する好ましい多環芳香族化合物については上述した。
【0108】
更に、触媒処方物(ポリマー電解質+カーボンブラック+貴金属触媒、水及び適宜溶媒、好ましくは水混和性溶媒)を製造するために、及び酸性基を有する多環芳香族化合物を膜及びガス拡散電極に施すために、本発明の水性及び水を含む処方物を、本発明に従い使用することができる。本発明の処方物の有利な点は、その変化したポリマー形態のために、これらは、貴金属触媒の有用性の程度を高くするこことができるということである。この結果、従来技術と比較して、貴金属の触媒への積載量(loading)が低くなり、従って、貴金属触媒の製造が安価になる。更に、本発明の水を含む処方物を使用する場合、膜と触媒層の間の接触を良好にするための膜の部分的な溶解を、所定の方法で制御することができる。更に、上述した水性又は水を含む触媒処方物(触媒インキ)は燃えにくく、自然発火性の触媒の取り扱いを容易にする。
【0109】
従来技術(例えば、EP−A1503439)に従う触媒インキの製造では、触媒インキ中の粒子を均一に分散させるために、高沸点溶媒及び/又は分散剤を使用する必要があった。本発明に従う触媒インキの製造では、分散剤を使用する必要がない。更に、本発明に従う触媒インクでは、高沸点溶媒の存在を避けることができ、又は少なくとも、高沸点溶媒を大きく低減することができる。
【実施例】
【0110】
以下に実施例を使用して本発明を説明する。
【0111】
実施例
実施例1
酸性基(H形態)を有する多環芳香族化合物の180℃での処理
20gの乾燥したsPEEK(酸性基(AG)の含有量:42%)を180gの水と混合し、そしてオートクレーブ中で、180℃で30分処理した。形成されたゲル状固体を遠心分離により溶液から分離し、そして次に乾燥させた。ゲル収率:2.6g(13%)。
【0112】
実施例2
残留水分の含有量が77質量%の酸性基(H形態)を有する多環芳香族化合物の180℃での処理
100gの湿ったsPEEK(AG:42%、水分含有量:77%)を120gの水と混合し、そしてオートクレーブ中で、180℃で30分処理した。形成されたゲル状固体を遠心分離により溶液から分離し、そして次に乾燥させた。ゲル収率:0.92g(4%)。
【0113】
実施例3
残留水分の含有量が77質量%の酸性基の塩を有する多環芳香族化合物の180℃での処理
3.1 残留水分の含有量が77質量%のsPEEK−Naの製造
500gの湿ったsPEEK(AG:42%、水分含有量:77%)を過剰のNaOH水溶液と、ガラスのビーカー中で混合し、そして室温で30分処理した。次に固体をろ過により溶液から分離し、そして洗浄が5〜6のpHになるまで蒸留水で洗浄した。
【0114】
3.2 実施例3.1で得られたsPEEK−Naの処理
100gの湿ったsPEEK(AG:42%、水分含有量:77%)を120gの水と混合し、そして180℃で30分処理した。形成されたゲル状固体を遠心分離により溶液から分離し、そして次に乾燥させた。ゲル収率:0.21g(0.9%)。
【0115】
実施例4
残留水分が75質量%の、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物の、極性非プロトン性溶媒の不存在下及び存在下での、180℃での処理
全ての実施例を10%の固体含有量(SC)で、オートクレーブ処理した;仕上げられた流し込み溶液のSCは、H−sPEEKの場合には25%ら、Na−sPEEKの場合には30%の間で変化した。
4.1 湿った(含水)sPEEKの処理
4.1.1 極性非プロトン性溶媒の不存在下での処理
100gの湿ったsPEEK(AG=43.0%、SC=25%)を、150gの水と一緒にオートクレーブ内で、180℃で30分処理した。この溶液をろ過して乾燥させた。
【0116】
形成された25gの粉末を次に15gのNMPと60gの水に溶解させ、そして粘度を室温で測定した。粘度は100mPasであった。
【0117】
4.1.2 極性非プロトン性溶媒の存在下での処理
100gの湿ったsPEEK(AG=43.0%、SC=25%)を、147.5gの水及び2.5gのNMP(1質量%)と一緒にオートクレーブ内で、180℃で30分処理した。この溶液をろ過して乾燥させた。
【0118】
形成された25gの粉末を次に15gのNMPと60gの水に溶解させ、そして粘度を室温で測定した。粘度は65mPasであった。
【0119】
4.2 湿った(含水)sPEEK−Naの処理
4.2.1 極性非プロトン性溶媒の不存在下での処理
100gの湿ったsPEEK−Na(AG=43.0%、SC=25%)を、150gの水と一緒にオートクレーブ内で、180℃で30分処理した。この溶液をろ過して乾燥させた。
【0120】
形成された30gの粉末を次に15gのNMPと55gの水に溶解させ、そして粘度を室温(RT)で測定した。粘度は290Pasであった。
【0121】
4.2.2 極性非プロトン性溶媒の存在下での処理
100gの湿ったsPEEK−Na(AG=43.0%、SC=25%)を、147.5gの水及び2.5gのNMP(1質量%)と一緒にオートクレーブ内で、180℃で30分処理した。この溶液をろ過して乾燥させた。
【0122】
形成された30gの粉末を次に15gのNMPと55gの水に溶解させ、そして粘度を室温で測定した。粘度は105mPasであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(i):
(i)酸性基及び/又は酸性基の塩を有する、少なくとも1種の多環芳香族化合物と水の混合物を>170℃、好ましくは171〜350℃、極めて好ましくは180〜250℃で、閉じた反応器内で処理し、水性処方物Aを得る工程、
を含む、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物を少なくとも1種含む処方物を製造する方法。
【請求項2】
処方物Aに含まれ、及び工程(i)で使用される、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する多環芳香族化合物が、スルホン酸−、リン酸−、カルボキシル−、ホウ酸基及び/又はこれらの塩を有する、ポリアリールエーテルケトン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、及びポリスルホンから選ばれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
処方物Aに含まれ及び工程(i)で使用される、酸性基の塩を有する多環芳香族化合物が、一価のカチオンを有する塩であり、該塩は、好ましくはLi+、Na+、K+、Rb+、Cs+、NH4+及びこれらの混合物から選ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
処方物Aに含まれ、及び工程(i)で使用される酸性基及び/又は酸性基の塩を有する、多環芳香族化合物の酸性基と酸性基の塩の合計が、多環芳香族化合物1gに対して、0.5〜2mmolであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記混合物が、該混合物の合計量に対して、0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.5〜1質量%の、少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒を追加的に含み、該極性非プロトン性溶媒は、好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチレンクロリド、クロロホルム、EtOAc及びこれらの混合物から成る群から選ばれ、特に好ましくはN−メチル−2−ピロリドンであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(i)で使用される、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する、少なくとも1種の多環芳香族化合物が、残留水分含有量を≧30質量%、好ましくは≧50質量%、特に好ましくは≧70質量%有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(i)で使用される、酸性基及び/又は酸性基の塩を有する、少なくとも1種の多環芳香族化合物が、その製造の間の何れの時点でも、残留水分含有量が、30質量%、好ましくは50質量%、特に好ましくは70質量%を下回ることがないことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の方法によって製造される水性処方物A。
【請求項9】
(Aa)1〜30質量%、好ましくは5〜25質量%、特に好ましくは10〜20質量%、極めて好ましくは15〜20質量%の、酸性基を有する、少なくとも1種の多環芳香族化合物、
(Ab)70〜99質量%、好ましくは75〜95質量%、特に好ましくは80〜90質量%、極めて好ましくは80〜85質量%の水、及び
(Ac)適宜、追加的に、0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.5〜1質量%の、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチレンクロリド、クロロホルム、EtOAc及びこれらの混合物から成る群から選ばれ、好ましくは、N−メチル−2−ピロリドンである、少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒、
を含み、酸性基を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物、水及び適宜含まれる少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒の合計が、100質量%であることを特徴とする請求項8に記載の水性処方物A。
【請求項10】
以下の工程(ii)、
(ii)工程(i)で得られた水性処方物Aから水を除去して乾燥した処方物Bを得る工程、
を含むことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法によって製造された乾燥した処方物B。
【請求項12】
a)請求項11に記載の乾燥した処方物B、及び
b)水又は請求項8又は9に記載の水性処方物A、
を含むことを特徴とする処方物C。
【請求項13】
(Ca)1〜50質量%、好ましくは5〜40質量%、特に好ましくは10〜35質量%、極めて好ましくは25〜35質量%の、酸性基を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物、
(Cb)50〜99質量%、好ましくは60〜95質量%、特に好ましくは65〜90質量%、極めて好ましくは65〜75質量%の水、及び
(Cc)適宜、追加的に、0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.5〜1質量%の、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチレンクロリド、クロロホルム、EtOAc及びこれらの混合物から成る群から選ばれ、好ましくは、N−メチル−2−ピロリドンである、少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒、
を含み、乾燥した処方物B、水及び適宜含まれる少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒の合計が、100質量%であることを特徴とする請求項12に記載の処方物C。
【請求項14】
(Da)請求項8又は9に記載の水性処方物A、又は請求項12又は13に記載の処方物C、更に、適宜、水性処方物A又は処方物C中に予め存在して良い極性非プロトン性溶媒、
(Db)処方物の合計量に対して、少なくとも2質量%、好ましくは2〜30質量%、特に好ましくは5〜25質量%、極めて好ましくは10〜20質量%の、少なくとも1種の更なる極性非プロトン性溶媒及び/又は少なくとも1種のアルコール、
を含むことを特徴とする、水を含む処方物D。
【請求項15】
前記更なる極性非プロトン性溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチレンクロリド、クロロホルム、EtOAc、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセロール及びこれらの混合物から成る群れから選ばれ、前記更なる極性非プロトン性溶媒及び水性処方物A又は処方物C中に存在して良い前記極性非プロトン性溶媒が、同一又は異なるものであることを特徴とする請求項14に記載の水を含む処方物D。
【請求項16】
処方物の合計量に対して、少なくとも2質量%、好ましくは2〜30質量%、特に好ましくは5〜25質量%、極めて好ましくは10〜20質量%の、少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒及び/又は少なくとも1種のアルコールを、請求項8又は9に記載の水生処方物Aに加えるか、又は処方物Dの合計量に対して少なくとも2質量%の少なくとも1種の極性非プロトン性溶媒及び/又は少なくとも1種のアルコールを、請求項12又は13に記載の処方物Cに加えることにより、請求項14又は15に記載の水を含む処方物Dを製造する方法。
【請求項17】
請求項14又は15に記載の水を含む処方物Dを乾燥することにより、酸性基を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物を含む乾燥した処方物Eを製造する方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法によって製造される乾燥した処方物E。
【請求項19】
更に、少なくとも1種の更なるポリマー、好ましくは少なくとも1種のポリエーテルスルホン及び/又は少なくとも1種のポリスルホンを含むことを特徴とする請求項18に記載の乾燥した処方物E。
【請求項20】
ポリマー電解質膜を製造するために請求項14又は請求項15に記載の水を含む処方物Dを使用する方法。
【請求項21】
請求項14又は請求項15に記載の水を含む処方物から製造されたポリマー電解質膜。
【請求項22】
酸性基を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物を、請求項18又は19に記載の乾燥した処方物Eの状態で含む、膜状態の、少なくとも1層の第1の層、及び追加的に、少なくとも1層の、電気的に導電性の触媒層を含む複合体。
【請求項23】
酸性基を有する少なくとも1種の多環芳香族化合物を、請求項18又は19に記載の乾燥した処方物Eの状態で含む、膜状態の、少なくとも1層の第1の層、及び追加的に、少なくとも1層の、電気的に導電性の触媒層、及び1層以上のガス拡散層を含み、触媒層がガス拡散層上に配置されている複合体。
【請求項24】
請求項21に記載のポリマー電解質膜を少なくとも一つ含むか、又は請求項22又は23に記載の複合体を少なくとも一つ含む燃料電池。

【公表番号】特表2010−514869(P2010−514869A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543425(P2009−543425)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063406
【国際公開番号】WO2008/080752
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】