説明

酸素供給方法及び装置

【課題】特別な設備や操作、管理を必要とすることなく長期に亘り好気性環境を形成・維持する。
【解決手段】酸素供給対象である被処理領域と過酸化水素溶液3との間に過酸化水素3aを透過し得る非多孔性膜2を介在させると共に、非多孔性膜2の被処理領域側の表面に過酸化水素3aを分解する触媒物質5を配置し、非多孔性膜2から徐放される過酸化水素3aを触媒物質5で分解して酸素を発生させ、この酸素を被処理領域に供給するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素供給方法及び装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、生物学的処理を行う際の微生物の活性制御に好適な酸素供給方法及び装置並びにそれを利用した環境浄化方法とバイオリアクターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土壌汚染や地下水汚染の浄化には、土壌中の汚染物質の拡散を防ぐために物理的な封じ込めを行ったり、汚染土壌を掘削除去して清浄な土壌と入れ替え当該掘削した汚染土壌を水洗したり、熱処理することにより無害化していた。また、地下水をくみ上げて無害化処理をおこなっていた。しかしながら、このような物理化学的な浄化方法を用いた場合、浄化の過程で二次廃棄物が発生したり、浄化費用が高くなる。そこで、近年、微生物の化学物質分解能力を活用したバイオリメディエーション技術が注目されている。この技術は、微生物の増殖に必要な栄養源や酸素(空気)などを土壌や地下水、排水などに添加して、汚染現場に棲息している在来の微生物群を活性化することにより汚染物質の分解を促進するものである。
【0003】
土壌や地下水に酸素を導入する方法としては、パイプ等を地中に埋設して当該パイプから空気を直設供給する方法が知られている。また、微細な気泡を含む液体を地中に注入又は浸透させ、地中への酸素供給量を向上させて地中の微生物の活動を活性化させ、微生物による浄化作用を高めて、汚染土壌や汚染地下水を微生物を利用して効率良く浄化する技術が特許文献1に開示されている。具体的には、空気を供給する空気供給パイプと、液体を供給する液体供給パイプとを地中に埋設し、液体供給パイプの先端部に空気供給パイプの先端を接続し、液体供給パイプを流れる液体に空気供給パイプを流れる空気を混合し、微細な気泡を含む液体を地中に注入するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−347255
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の酸素供給方法では、地盤中に空気を供給し続けるための設備が必要であり、その操作が煩雑であると共にランニングコストが高くなるという問題を有している。また、地中に埋設したパイプ等に土などの異物が詰まると、酸素を均一に供給できなくなるため、定期的にメンテナンスを行う必要があり、手間がかかる。
【0006】
そこで、本発明は、特別な設備や操作、管理を必要とすることなく長期に亘り好気性環境を形成・維持することのできる酸素供給方法及び装置を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、土壌等に存在する環境汚染物資を効率よく除去する方法を提供することを目的とする。
【0008】
さらに、本発明は、土壌等に存在する環境汚染物質を効率よく除去することのできる、管理の必要のないコンパクトなバイオリアクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するための本発明の酸素供給方法は、酸素供給対象である被処理領域と過酸化水素溶液との間に過酸化水素を透過し得る非多孔性膜を介在させると共に、非多孔性膜の被処理領域側の表面に過酸化水素を分解する触媒物質を配置し、非多孔性膜から徐放される過酸化水素を触媒物質で分解して酸素を発生させ、この酸素を被処理領域に供給するようにしている。
【0010】
また、かかる課題を解決するための本発明の酸素供給装置は、過酸化水素溶液と、過酸化水素を透過し得る非多孔性膜が少なくとも一部に備えられている容器と、過酸化水素を分解する触媒物質とを少なくとも含み、容器内には過酸化水素溶液が充填され、容器の外側の非多孔性膜部分には触媒物質が配置され、容器の非多孔性膜部分から徐放される過酸化水素を触媒物質で分解して、容器周辺に酸素を供給するものである。
【0011】
したがって、この酸素供給方法及び装置によれば、非多孔性膜から徐放される過酸化水素(H)が触媒物質と接触して反応し、化学反応式1に示されるように水と酸素とに分解され、この酸素が容器周辺に供給される。
(化学反応式1) 2H → 2HO + O
【0012】
過酸化水素の非多孔性膜透過速度は、非多孔性膜の分子透過性能を決定する要素である膜材料や膜厚、膜密度等により適宜調整される。
【0013】
ここで、本発明の酸素供給装置において、触媒物質は、非多孔性膜部分と非多孔性膜部分に備えられる通気性部材との間に収容されていることが好ましい。この場合には、触媒物質が非多孔性膜部分の外側表面に安定に保持されて、非多孔性膜部分から徐放される過酸化水素が効率よく分解される。また、触媒物質は、通気性部材に担持されて非多孔性膜部分に備えられていることがより好ましい。この場合には、触媒物質が非多孔性膜部分の外側表面にさらに安定に保持されて、非多孔性膜部分から徐放される過酸化水素が効率よく分解される。
【0014】
また、本発明にかかる酸素供給装置において、容器の形状は、フレームに非多孔性膜を張り付けたようなものでも良いが、非多孔性膜だけで袋状あるいはチューブ状に形成するものであることが好ましい。容器をこのような形状とすることで、利便性が向上すると共に、過酸化水素溶液の過酸化水素濃度が0%となるまで自律的且つ緩やかに一定速度で容器全体から過酸化水素が徐放されて触媒物質と接触し、効率よく酸素が供給される。
【0015】
また、容器は過酸化水素溶液を補給可能な構造とすることが好ましい。例えば、容器に過酸化水素溶液を補充する供給部を備えるようにする。また、供給部に過酸化水素溶液を一時的に貯留するタンク部を備えて容器と一体に形成するようにしたり、もしくは容器を過酸化水素溶液を貯留するタンクと連通し、必要に応じて過酸化水素溶液を補充可能とする供給ノズルを備えることが好ましい。この場合、容器からタンクの間を過酸化水素溶液で満たしておけば、袋内の過酸化水素溶液の濃度が減ってきたときに、容器からタンクの間に満たされている過酸化水素溶液中の過酸化水素が濃度勾配により容器内に拡散して、容器内の過酸化水素溶液の濃度が所望の濃度範囲に保たれる。
【0016】
また、本発明にかかる酸素供給装置において、微生物を固定し得る担体が容器の非多孔性膜部分の外側に触媒物質を介して備えられていることが好ましい。この場合には、人工的にあるいは自然に微生物を酸素供給装置の表面に定着させて、その活性を効率よく制御することができる。
【0017】
次に、本発明の環境浄化方法は、上記の酸素供給装置を除染対象領域に配置して、酸素供給装置の近傍に好気性環境を形成し、酸素供給装置の近傍に存在する微生物の活性を制御することにより環境汚染物質を除去するようにしている。
【0018】
本発明の酸素供給装置は、酸素を微生物に供給する必要があるあらゆる施設並びにバイオリアクター全般に対して利用可能である。例えば、目的とする成分の除去に有効な微生物を固定した担体が、酸素供給装置の容器の非多孔性膜部分の外側に触媒物質を介して配置されているバイオリアクターを構成することができる。例えば、担体が酸素供給装置の容器の非多孔性膜部分の外側に触媒物質を介して貼着されたバイオリアクターを構成することができる。また、担体を袋形状とし、その内側の空間に酸素供給装置を収容したバイオリアクターを構成することもできる。
【0019】
さらに、本発明のバイオリアクターにおいて担体は吸水性ポリマーであることが好ましい。吸水性ポリマーは保水力、吸水力に優れているので、固定されている微生物にとって好適な湿潤環境が維持され易い。
【発明の効果】
【0020】
本発明の酸素供給方法並びに酸素供給装置によれば、酸素供給量を一定量に維持するための設備を備える必要がなくなり、従来のようにポンプや制御装置で供給量を制御した場合と比較して設備コストやランニングコストを大幅に低下させることが可能である。しかも、装置全体が非多孔性膜で構成される場合には、過酸化水素を非多孔性膜の全面から広い範囲で緩やかに放出させて、触媒物質と反応させることができるので、広範囲に好気性環境を形成することができる。
【0021】
また、過酸化水素を微生物と接触する前に触媒と反応させて酸素を発生させるようにしているので、直接微生物に接触させると微生物を死滅させる虞のある殺菌性の過酸化水素溶液を用いても、微生物はほとんど死滅することがない。
【0022】
また、本発明の酸素供給装置によれば、触媒物質が容器の非多孔性膜部分と非多孔性膜部分に備えられる通気性部材との間に収容されているので、触媒物質が安定に保持されると共に、非多孔性膜から徐放される過酸化水素の拡散が通気性部材により防がれる。したがって、過酸化水素と触媒物質とを効率よく接触させて過酸化水素を分解させることができると共に、容器周辺の微生物に過酸化水素を与えて死に至らしめることがほとんど無い。
【0023】
さらに、本発明の酸素供給装置によれば、触媒物質が通気性部材に担持されて容器の非多孔性膜部分に備えられているので、触媒物質がさらに安定に保持されると共に、非多孔性膜から徐放される過酸化水素の拡散が通気性部材により防がれる。したがって、この場合にも、過酸化水素と触媒物質とを効率よく接触させて過酸化水素を分解させることができると共に、容器周辺の微生物に過酸化水素を与えて死に至らしめることがほとんど無い。
【0024】
また、本発明の酸素供給装置によれば、その全面が前記非多孔性膜により構成された袋状あるいはチューブ状の容器に過酸化水素溶液を密封しているので、過酸化水素溶液の濃度が0%になるまでは自律的且つ緩やかに過酸化水素が供給される。したがって、メンテナンスを必要とせず、装置構成を簡素化することが可能である。また、密封した過酸化水素溶液の濃度が0%になったときには、過酸化水素溶液が密封された新しい袋状あるいはチューブ状の容器と交換するだけで良い。使用済みの袋状あるいはチューブ状の容器は、リサイクルに供することで、再資源化が可能である。
【0025】
さらに、本発明の酸素供給装置を除染対象領域に配置することで、酸素供給装置の近傍に好気性環境を長期に亘って形成・維持することができる。したがって、酸素供給装置の近傍に存在する好気性微生物群に酸素を供給して活性化させることにより、有害物質を分解・除去することができる。したがって、従来は好気性環境を形成することが難しかった土壌の深層部などを活性化することが可能である。また、酸素供給に際し、新たな設備や特別な操作を必要としないので、非常に低コスト且つ簡易に有害物質の分解・除去を行うことができる。
【0026】
また、本発明の酸素供給装置を利用したバイオリアクターによれば、酸素供給装置を微生物の近くに配置するだけで、自律的に均一かつ緩やかな徐放性をもって酸素を供給することが可能となる。したがって、バイオリアクターを大型化しても、酸素供給装置の容器の全体が非多孔性膜で構成される場合には、容器内の過酸化水素溶液が非多孔性膜の全面から透過して触媒物質と接触し、酸素が揮散する。したがって、微生物が固定された担体の隅々まで拡散して供給される。しかも、酸素供給装置をそのまま微生物の近くに配置して自律的に均一かつ緩やかな徐放性をもって酸素を供給するようにしているので、バイオリアクター毎に独立して取り扱うことができ、使用に便利である。また、これらのバイオリアクターは被処理液以外にも、土壌や地下水、汚泥中でも特別な設備を必要とすることなく、非常に簡易に扱うことが可能である。
【0027】
さらに、本発明のバイオリアクターにおいて担体を吸水性ポリマーとすることで、大気中にバイオリアクターを置いて大気中から目的とする成分を除去しようとするときに、大気中に存在する目的の化合物が、ゲルに含まれる水に溶け込むことで除去されるようになる。また、固定化した微生物は、乾燥してしまうと死滅してしまうおそれがあるため、大気中で用いる場合には、定期的に給水することが必要である。しかし、吸水性ポリマーを用いることで給水の手間を非常に軽くでき、もしくは大気中の水分のみで供給が足りる場合には給水は必要としなくなる。また、高分子ゲルを使用した場合と比べ担体の保水力、吸水力が高まるため、土壌で用いた場合にも、土壌の水分を効率良く吸収し、保水することによって、微生物を良好な状態で担持させつつ有害物質を長期間除去し続けることが可能となる。また、降雨量が減って地中の水分が少なくなった場合にも、吸水性ポリマーの保水力により乾燥しにくくなって、微生物の死滅を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0029】
図1に本発明にかかる酸素供給装置の一実施形態を示す。この酸素供給装置1は、過酸化水素溶液3と、過酸化水素3aを透過し得る非多孔性膜2が少なくとも一部に備えられている容器4と、過酸化水素を分解する触媒物質5とを少なくとも含み、容器4内には過酸化水素溶液3が充填され、容器4の外側の非多孔性膜2の部分には触媒物質5が配置され、容器4の非多孔性膜2の部分から徐放される過酸化水素3aを触媒物質5で分解して、容器周辺に酸素を供給するものである。本実施形態では、容器4は全体が非多孔性膜2で構成される袋状を成し、周縁をヒートシールで溶着したり、接着剤により接着したりするようにして過酸化水素溶液3を密封するようにしているが、形体や構造は特に限定されない。例えば、容器4をチューブ状やシート状としてもよいし、チューブの先端を硬質部材で尖らせて形成し、土壌に差し込んで使用するようにしてもよい。また、袋状の容器(単に袋と呼ぶこともある)4は、全体を非多孔性膜で構成するものには特に限られず、片面だけを非多孔性膜2で構成したり、1つの面のさらに一部分を非多孔性膜2のみで構成するようにしても良い。部分的に非多孔性膜2を用いる場合には、その他の部分は過酸化水素溶液3により浸食されない部材、例えば、プラスチック製の剛体フレームを用いてもよい。また、過酸化水素を透過しないポリエチレン膜等の疎水性膜を用いても良い。
【0030】
本発明の酸素供給装置1に用いられる非多孔性膜2は、過酸化水素3aの分子を少しずつ透過させることによって徐放するものである。この非多孔性膜2は、膜材料、膜厚、封入する過酸化水素溶液3の温度や過酸化水素濃度により、単位面積当たりを透過する過酸化水素3aの分子の量を制御することが可能である。例えば、同じ容器を用いた場合でも、過酸化水素溶液3の過酸化水素濃度を高めれば、過酸化水素の透過速度を高めることができる。また、非多孔性膜2の表面積を増減させることで、過酸化水素3aの徐放面を増減することができる。したがって、被処理領域の一部に非多孔性膜2を接触させて、酸素供給対象領域と非多孔性膜2との接触面の表面積に応じて、徐放面を増減できる。したがって、これらのパラメータを適宜選択することにより、必要な速度で必要な量の過酸化水素3aを徐放することができる。
【0031】
非多孔性膜2としては、過酸化水素を透過する機能と共に、過酸化水素溶液3に浸食されない膜材料を用いることができる。例えば、エチレンビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと呼ぶこともある。)を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0032】
ここで、非多孔性膜2は、膜構成分子の密度や構造によっても分子透過量が変化する。例えば、疎水性のエチレン分子と親水性のビニルアルコール分子の共重合体であるEVOH膜を用いる場合には、疎水性のエチレン分子と親水基のポリビニルアルコール分子の含有比率を変えることにより、疎水性を強めたり、親水性を強めたりして、過酸化水素3aの透過速度を制御することができる。即ち、過酸化水素3aは親水性分子であることから、EVOH膜のビニルアルコール分子の含有比率を高めることで、過酸化水素3aの透過速度を高めることができる。ただし、ビニルアルコール分子の含有比率を高めすぎると、EVOH膜が過酸化水素溶液に浸食される虞がある。本発明者等の実験によれば、30体積%の過酸化水素水に対して、エチレン分子とビニルアルコール分子の含有比が32:68の場合には、十分に使用に耐えうることが確認されている。つまり、ビニルアルコール分子の含有比率が68%以下のEVOH膜であれば、30体積%の過酸化水素水に対して十分使用に耐えうる。勿論、過酸化水素溶液による浸食が起こらなければ、ビニルアルコール分子の含有比率がこの値よりも大きいEVOH膜を用いることも可能である。
【0033】
また、非多孔性膜内部の分子構造は、例えば延伸処理により変化させることができるので、当該処理により膜材料の膜密度や分子構造を変化させて、過酸化水素3aの透過速度を変化させることも可能である。
【0034】
過酸化水素溶液3としては、濃度30体積%の過酸化水素水や、濃度3体積%の過酸化水素水が市販されていることから、これらの濃度の過酸化水素水が入手し易く、使用しやすい。しかしながら、これらの濃度に限定されるものではない。例えば、非多孔性膜2を浸食しない範囲でさらに高濃度のものを用いることも可能である。
【0035】
ここで、非多孔性膜2は、過酸化水素3aの分子を膜に溶け込ませることにより透過させており、多孔質膜のように孔の大きさや数で過酸化水素の供給量を制御するものではない。したがって、長期間の使用による孔の閉塞の問題も生じることが無く、定期的な逆洗浄の必要もない。したがって長期間メンテナンスを行うことなく使用でき、ランニングコストを低減できる。
【0036】
容器4の外側の非多孔性膜2の部分に配置される触媒物質5は、非多孔性膜2の部分から徐放される過酸化水素3を分解して酸素と水を発生させることにより、容器4の周辺に酸素を供給するものである。
【0037】
触媒物質5としては、過酸化水素の分解を促進することが知られている一般的な物質を用いることができる。例えば、白金、鉛などの金属コロイド、酸化マンガン(MnO)や酸化コバルト(Co)等の金属酸化物を用いることができる。また、過酸化水素を分解する酵素であるカタラーゼや、カタラーゼを含む物質、カタラーゼを有する微生物を触媒物質5として用いることもできるが、触媒物質5はこれらに限定されるものではない。
【0038】
触媒物質5の容器4の外側の非多孔性膜2の部分への配置は、非多孔性膜の表面に直接貼着してそのまま用いるようにしても良いが、図1に示すように非多孔性膜2の部分と非多孔性膜2の部分に備えられる通気性部材6との間に触媒物質5が収容されていることが好ましい。また、図2に示すように、通気性部材に触媒物質5が担持されて非多孔性膜部分に備えられていることがより好ましい。この場合には、触媒物質が非多孔性膜部分の外側表面に安定に保持されて、非多孔性膜部分から徐放される過酸化水素が効率よく分解される。
【0039】
通気性部材6は、非多孔性膜2から徐放される過酸化水素3aの酸素供給装置1の周辺への拡散を防ぐと共に、発生した酸素を通過させて酸素供給装置1の周辺へ供給し、さらには、非多孔性膜2を保護する保護材として機能する部材である。また、容器4の補強材としても機能し、容器4に充填された過酸化水素溶液3の重みにより容器4がちぎれたり、破れたりするのを防止できる。通気性部材6の材料としては、過酸化水素3aにより浸食されにくく、且つ過酸化水素3aと触媒物質5との反応により発生する酸素を十分に透過することができるものを用いることができる。例えば、不織布や多孔性のポリエチレン膜、微細孔を複数設けた樹脂や金属などを用いることができるが、これらに限定されない。
【0040】
図1に示す酸素供給装置1においては、触媒物質5が非多孔性膜2と通気性部材6との間に掛かる押圧力により安定に保持されるようにしている。尚、触媒物質5は押圧力のみで保持することも可能ではあるが、非多孔性膜2側に貼着してから押圧力を掛けることが好ましい。この場合には、触媒物質5がより安定に保持される。
【0041】
図2に示す酸素供給装置1においては、触媒物質5が通気性部材6に担持されて安定に保持されている。触媒物質5は、通気性部材6の非多孔性膜2側や被処理領域側に担持してもよいが、通気性部材6そのものの全体に分散させることが好ましい。例えば、不織布に酸化マンガン粉末を分散担持させて使用することで、触媒物質5を非常に安定に保持し続けることができる。
【0042】
このようにして触媒物質5を備えることにより、通気性部材6内で、または通気性部材6と非多孔性膜2との間で、非多孔性膜2から徐放される過酸化水素3aがほとんど消費されて酸素と水に分解される。したがって、通気性部材6の外側近傍にいる微生物に過酸化水素3aが接触することがほとんど無い。したがって、殺菌作用のある過酸化水素3aにより酸素供給装置1の周辺に存在する微生物が死滅することが無い。
【0043】
また、通気性部材6を剛性の高い部材により筒状、鞘状に形成して鞘体とすれば、内側の袋状の容器4が過酸化水素溶液3によって膨らむことを防止できるので、酸素供給装置1のコンパクト化を図る上で好ましい。この場合には、袋状の容器が膨らむことなく、その厚さを制限して袋の厚さが薄くなり、処理槽などの閉鎖空間に収めるときの充填密度を高められると共に、外部衝撃からも保護することが可能となる。例えば、図3に示すように触媒物質5が担持された不織布を鞘体とすることが可能である。また、酸化マンガンや酸化コバルト等の金属酸化物そのものを筒状、鞘状として通気孔を適度に設けたものを使用することも可能である。尚、通気性部材6そのものを鞘体とせずに、非多孔性膜2の外側あるいは通気性部材6の外側に別途鞘体を設けるようにすることも可能である。
【0044】
次に、図4〜図6に他の実施形態を示す。この実施形態の酸素供給装置1は、非多孔性膜2からなる容器4を完全密封された独立したものとはせずに、過酸化水素溶液3を導入する手段を有する密封構造の袋状とした容器とし、過酸化水素溶液3を外部から補充可能としたものである。
【0045】
過酸化水素溶液3の補給するための機構は、図4に示すように、容器4の縁の一部に過酸化水素溶液3を注入する供給部8を設けてノズルないしパイプ9を装着する構造でも良いし、予め容器4と一体となったノズルないしパイプ9のようなものでも良い。容器4内に充填されている過酸化水素溶液3の濃度は、過酸化水素3aの徐放に伴って徐々に減少し、最終的には過酸化水素濃度が0%になる。この場合には、供給部8から容器4内に残留した水を排出した後、新たな過酸化水素溶液を充填すればよい。
【0046】
また、図5に示す酸素供給装置1のように、容器4の縁に設けられた供給部8に着脱可能に装着された供給ノズル9あるいは容器4と一体となった供給ノズル9と、過酸化水素溶液3’を貯留するタンク11とをチューブ10などで連結して、容器4からタンク11までを過酸化水素溶液3で満たすようにしてもよい。この場合、タンク11と容器4とはチューブ10を介して連通されているので、タンク11内に過酸化水素溶液3’を貯留しておけば、容器4内の過酸化水素濃度が減少してきたときに、濃度勾配によりチューブ10内あるいはタンク11内を満たしている過酸化水素溶液3’に含まれる過酸化水素3aが容器4内に拡散する。したがって、定期的にタンク11内の過酸化水素溶液3’を新たな過酸化水素溶液に入れ替えるだけで、容器4内の過酸化水素濃度を所望の濃度範囲に維持することができる。
【0047】
また、図6に示すように、容器4の上部に、過酸化水素溶液3を余分に貯めておくためのタンク状の貯留部4aを容器4と一体に形成し、さらに、貯留部4aに過酸化水素溶液3を補充するための供給部8を備えるようにしてもよい。この場合、貯留部4aには、過酸化水素3aの徐放を防ぐためのバリア層を形成する膜をコーティングすることが好ましい。
【0048】
ここで、図7に示すように、容器4の非多孔性膜2の部分の外側には微生物を固定し得る担体13を触媒物質5を介して備えることが好ましい。微生物を固定する担体13を備えることで、人工的に微生物を固定したり、水中や土壌中、大気中などあらゆる環境下に存在している微生物を担体に接触させて増殖し、定着させることができる。担体13としては、微生物を固定し得るものであればよく、例示すると、コラーゲン、フィブリン、アルブミン、カゼイン、セルロースファイバー、セルローストリアセタート、寒天、アルギン酸カルシウム、カラギーナン、アガロース等の天然高分子、ポリアクリルアミド、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリル酸、ポリビニルクロリド、γ−メチルポリグルタミン酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリウレタン、光硬化性樹脂(ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体、ポリブタジエン誘導体等)等の合成高分子、またはこれらの複合体、さらには吸水性ポリマーを用いることも可能である。吸水性ポリマーとしては、公知のものを使用することができるが、具体的には、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸やそれらの改変物、ポリエチレングリコール改変物等が挙げられる。尚、ここで言う改変物とは、イオン性基をもつ高分子を前記高分子の一部に架橋させた物である。担体13を容器4の非多孔性膜2の部分の外側に触媒物質5を介して備えることで、水田等の水分の多い土地や多雨多湿な気候の土地のように地下水の流速が定常的に速い場所や、梅雨の時期などにおける頻繁な降雨等により地下水の流速が一時的に速くなるような場合にも、担体に固定した微生物は流され難くなる。また、水環境中においても、微生物が拡散することなく、担体に固定することができる。したがって、あらゆる環境下において、特定の微生物の活性を長期に亘って持続できると共に制御し易くなる。また、吸水性ポリマーを用いた場合には、上記の高分子ゲルを使用した場合と比べ担体の保水力、吸水力が高まるため、環境中の水分を効率良く吸収し、保水することによって微生物が生存し続けるための好ましい環境を維持し続けることが可能となる。
【0049】
担体13は、容器4の非多孔性膜2の部分の外側に触媒物質5を介して接着等により備えてもよいし、図7に示すように通気性部材6が備えられている場合には、その外側表面に接着等により備えるようにしてもよい。また、袋の周縁をヒートシールする際に担体ごとヒートシールして一体化することも可能である。尚、担体13は非多孔性膜2の部分の外側全体に備えるようにしても良いし、一部に備えるようにしてもよい。
【0050】
尚、担体13は上記したものに限られるものではなく、通気性部材6として使用される不織布や多孔性のポリエチレン膜などを起毛処理してそこに微生物を直接担持させるようにしてもよい。
【0051】
ここで、過酸化水素の非多孔性膜透過性について、親水基であるヒドロキシル基を有する膜を例に挙げて説明する。ヒドロキシル基を有する膜は乾燥状態において膜内部で水素結合が形成されている。したがって、分子鎖の熱振動によるゆらぎが起こりにくい構造になっており、分子鎖の隙間が少ないため、分子が透過しにくい。しかし、分子鎖の間に水分子が侵入すると水素結合が切れ、分子鎖の熱振動によるゆらぎが起こりやすい構造となって、水分子がさらに膜内部に侵入する。その結果、水分子の通路が形成される。水に易溶の過酸化水素はこの水分子の通路を通って拡散する。したがって、EVOH膜を用いた場合、親水性の性質を有するビニルアルコール分子が重合した部分で、過酸化水素が水分子の通路を通って拡散する。
【0052】
よって、吸水性ポリマー等の含水性材料を担体13を非多孔性膜2の表面に備えることで、担体13に含ませることができる水により、非多孔性膜2の構造が水分子が膜内部に侵入しやすい構造となって、水分子の通路が形成され、過酸化水素を透過させやすくなる。したがって、乾燥しやすい環境や、気相環境下においても、過酸化水素の透過性能が阻害されることなく、酸素供給装置周辺を長期に亘って好気性環境に維持することができる。つまり、気相環境で用いる場合には、非多孔性膜2の表面に含水性材料を備え、含水性材料の表面に触媒物質5を備えるようにして、非多孔性膜2の過酸化水素透過性を高めつつ、透過した過酸化水素を一旦含水性材料に浸透させた後、含水性材料の表面に備えられた触媒物質5と反応させて酸素を発生させるようにしてもよい。
【0053】
また、上述した保護材としての機能を有する部材を担体13の表面に別途設けるようにしても良い。さらに、光硬化性樹脂のようにそれ自体強度の高い高分子を筒状、鞘状として鞘体としつつ、微生物をも固定し得る担体として、保護材となる鞘体と担体双方の機能を持たせても良い。
【0054】
以上のように構成された酸素供給装置1は、容器4の周囲に酸素を供給できるので、水中、土壌中、大気中を問わず、微生物の活性の制御を必要とする環境に配置すれば、自然界に存在する様々な好気性微生物あるいは担体等を利用して予め固定された好気性微生物の活性を制御して、微生物を活用できる。したがって、例えば、廃水処理槽に酸素供給装置1の容器をを投入するだけで、酸素を必要とする微生物に酸素を供給して活性化させ、廃水処理を行うことができる。よって、微生物による廃水処理を非常に低コスト且つ簡易に効率よく行うことが可能になる。大気中や土壌中、河川や海水中に酸素供給装置1を配置した場合にも、除去対象となる環境汚染物質を分解する好気性微生物を選択的に活性化させるための好気性環境を形成して、環境汚染物質を効率よく分解することが可能である。
【0055】
例えば、環境中に存在するアンモニア酸化菌を活性化させて有害物質であるアンモニアを亜硝酸イオンに酸化して除去することができる。また、亜硝酸酸化菌を活性化させて亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化することもできる。さらに、好気性のフェノール分解菌やトルエン分解菌、ベンゼン分解菌などを活性化して、フェノールやトルエン、ベンゼンなども除去することができる。また、重油やガソリンなどの石油系炭化水素により汚染された土壌の好気性微生物群を活性化してこれらの汚染を除去することも可能である。さらに、環境中に存在するフェノールやトルエン、メタンを電子供与体として取り込んで分解するフェノール分解菌、トルエン分解菌、メタン分解菌などの好気性微生物群を活性化して、これらの菌が生成する酸化酵素による共代謝により、トリクロロエチレンを脱塩素化してジクロロエチレン、ビニルクロライドとし、最終的にはエチレンに変換して無害化することもできる。
【0056】
また、上述の酸素供給装置1は、酸素量を制御する必要があるあらゆる施設並びにバイオリアクター全般に対して利用可能である。例えば、図8並びに図9に示すバイオリアクターに適用することが可能である。図8並びに図9(A)に示す実施形態のバイオリアクター15は、好気性フェノール分解菌を担持させた担体16と、該担体16の構造的補強を図る不織布から成る袋17と、該不織布の袋17によって補強されている袋状の担体16の内側に形成される内部空間18に収納されて担体16に固定されたフェノール分解菌に酸素を自律的に一定速度で緩やかに供給する酸素供給装置1とを備えるものである。担体16は、不織布の袋17の内側の面あるいは表側の面に塗布され、不織布の袋17を補強構造物として一定の形態を保つように設けられている。尚、担体の補強のための素材としては、不織布に限られず、ナイロンネットなどを用いても良い。
【0057】
担体16としては、微生物や酵素の固定化に用いられている高分子ゲルを使用することができる。具体的には、コラーゲン、フィブリン、アルブミン、カゼイン、セルロースファイバー、セルローストリアセタート、寒天、アルギン酸カルシウム、カラギーナン、アガロース等の天然高分子、ポリアクリルアミド、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリル酸、ポリビニルクロリド、γ−メチルポリグルタミン酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリウレタン、光硬化性樹脂(ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体、ポリブタジエン誘導体等)等の合成高分子、またはこれらの複合体が挙げられる。
【0058】
好気性フェノール分解菌としては、従来この種の分野で知られているものが使用できるが、より具体的には、
Pseudomonas sp.
Pseudomonas ptida
Acinetobacter sp.
Ralstonia sp.
Ralstonia eutropha
Azoarcus sp.
Bacillus sp.
Alcaligenes sp.
Alcaligenes faecalis
などを挙げることができる。これらの微生物は、好気環境下でフェノールのみならず、ベンゼンやトルエンを分解することができる。
【0059】
上記した菌株は単独で担体に固定してもよいし、複数を併用して固定してもよい。また、汚泥中などの微生物をそのまま担体に固定してフェノールやベンゼン、トルエン等を分解するようにしてもよい。
【0060】
また、好気性フェノール分解菌の代わりに、アンモニア酸化菌や亜硝酸酸化菌を固定して、アンモニアや亜硝酸を除去するようにしてもよい。具体的には、例えば、アンモニア酸化菌としては、従来この種の分野で知られているものが使用できるが、より具体的には、例えば以下の菌を挙げることができる。
Nitrosomonas europaea IFO-14298、
Nitrosomonas europaea、
N.marina
Nitrosococcus oceanus
N.mobilis、
Nitrosospira briensis、
Nitroso lobus multiformis、
Nitrosovibrio tenuis
【0061】
亜硝酸酸化菌としては、従来この種の分野で知られているものが使用できるが、より具体的には、例えば以下の菌を挙げることができる。
Nitrobacter winogradskyi、
N. hamburgensis、
Nitrospina gracilis
Nitrococcus mobilis
Nitrospira marina
【0062】
尚、上記において*を付した菌株は海水の処理にのみ適用できる菌株であり、それ以外は淡水の処理にのみ適用できる菌株である。N.europaeaとN.winogradskyiは淡水で用いることのできるものと海水で用いることができるものが存在する。
【0063】
アンモニア酸化菌はアンモニア(アンモニウムイオン)を亜硝酸イオンに変換(酸化)する好気性微生物である。したがって、アンモニア酸化菌が担持されたバイオリアクターを好気性環境下で使用すれば、アンモニアを亜硝酸イオンに変換して悪臭を抑えることができる。また、亜硝酸酸化菌は亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化する微生物である。したがって、亜硝酸酸化菌が担持されたバイオリアクターを好気性環境下で使用すれば、環境中の亜硝酸イオン濃度を低減させることができる。
【0064】
尚、気相中で用いるバイオリアクターの場合には、担体16としては吸水性ポリマーを用いることが好ましい。この場合には、担体の保水力がより高まるため、大気中にバイオリアクターを置いて大気中から目的とする成分を除去しようとするときに、大気中に存在する目的の化合物が、担体に含まれる水に溶け込むことで除去されるようになる。また、固定化した微生物は、乾燥してしまうと死滅してしまうおそれがあるため、大気中で用いる場合には、定期的に給水することが必要である。しかし、吸水性ポリマーを用いることで給水の手間を非常に軽くでき、もしくは大気中の水分のみで供給が足りる場合には給水は必要としなくなる。また、地中などで用いた場合にも、環境中の水分を効率良く吸収、保水して有害物質を長期間除去し続けることが可能となる。ここで、吸水性ポリマーとしては、一般的に用いられているものを使用することができるが、具体的には、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸やそれらの改変物、ポリエチレングリコール改変物等が挙げられる。尚、ここで言う改変物とは、イオン性基をもつ高分子を前記高分子の一部に架橋させた物である。
【0065】
尚、担体16は上記したものに限られるものではなく、不織布を起毛処理してそこに微生物を直接担持させるようにしてもよい。
【0066】
以上のように構成されたバイオリアクターによれば、内部空間18に収容された酸素供給装置1から酸素が供給され、担体16の袋内で拡散しながら酸素を必要とする微生物即ちフェノール分解菌が固定された面に均一に供給する。即ち、酸素供給装置1を微生物の近くに配置するだけで、自律的に均一かつ緩やかな徐放性をもって酸素を供給することが可能となる。このバイオリアクターは、担体16の袋17内に酸素供給装置1を内部空間18に装入するだけで構成されているので、酸素供給装置1の袋4に充填された過酸化水素溶液3の過酸化水素濃度が低下したときには、新しい袋と交換することで持続的に環境中のフェノールやベンゼン、トルエンなどを分解し続ける。
【0067】
また、図9(B)に示すように、図8に示す実施形態のバイオリアクター15の酸素供給装置1としての容器4の代わりに、図5に示す過酸化水素溶液3を導入する手段を有する密封状の袋状とした容器とし、図6に示す過酸化水素溶液3を外部から補充可能とした酸素供給装置を用いることも可能である。この場合、タンク11と容器4とはチューブ8を介して連通されているので、タンク11内に過酸化水素溶液3’を貯留しておけば、容器4内の過酸化水素濃度が減少してきたときに、濃度勾配によりチューブ10内あるいはタンク11内を満たしている過酸化水素溶液3’に含まれる過酸化水素3aが容器4側に拡散する。したがって、定期的にタンク11内の過酸化水素溶液3’を新たな過酸化水素溶液に入れ替えるだけで、容器4内の過酸化水素濃度を所望の濃度範囲に保つことができる。したがって、容器・袋4の大きさにかかわらず長時間・長期間にわたって環境中の目的とする化合物の除去を実施できる。しかも、この場合には、タンク11内の過酸化水素溶液3’の濃度を監視して適宜入れ替えるようにすれば、該タンク11に接続される多数の酸素供給装置を個々に制御・監視する必要がない。
【0068】
また、図示省略しているが、上述の酸素供給装置1の非多孔性膜2の部分の外側に目的とする成分の除去に有効な微生物を固定した担体16を触媒物質5を介して貼着し、担体16と容器4とを一体化したバイオリアクターを構成することも可能である。この場合には、酸素が透過する面に微生物が固定されているので、供給される酸素の全量が微生物に直接供給される。
【0069】
本発明の酸素供給装置及びバイオリアクターは、除染対象領域が土壌である場合には、に所望の深さの穴あるいは溝を掘り、この中に当該袋を敷き詰めて、その上に土をかけて使用することで、当該袋が埋設された場所を流れるあるいは浸透する地下水からアンモニア(アンモニウムイオン)を除去することができる。したがって、家畜糞尿の廃棄場等や、汚泥中に埋設するだけで、好気性微生物を活性化させることにより有害物質の除去を促すことができる。さらには、ドライクリーニング工場などから発生する有機塩素化合物の除去にも有用である。また、排水処理施設に本発明の酸素供給装置やバイオリアクターを浸漬して用いることも可能であるし、大気中に存在するアンモニアの除去や、揮発性の有機塩素化合物の除去にも適用することができる。
【0070】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、図10に示すように、処理槽20を非多孔性膜2により2領域に区画し、一方の領域20aに被処理液21を収容すると共に、被処理液21中に含まれる環境汚染物質22を分解・除去する微生物23を添加し、他方の領域20bには過酸化水素溶液3を収容して、領域20b中の過酸化水素3aを非多孔性膜2から徐放して触媒物質5に接触させて被処理液21中に酸素を供給し、被処理液21を好気性環境として微生物23を活性化するようにすることも可能である。
【0071】
また、触媒物質5を備えずに非多孔性膜2から過酸化水素を徐放して、環境中に存在する難分解性有機物、例えば、フミン酸や色素に過酸化水素を直接接触させて分解するようにしてもよい。この場合には、難分解性有機物であるフミン酸や色素が分解されて、微生物が摂食しやすい形態となる。しかも、過酸化水素は、難分解性有機物を酸化する際に酸素と水に分解されるので、この酸素を微生物に供給して、好気性微生物の活性化の促進を図ることが可能である。つまり、この場合には、難分解性有機物が触媒物質5として作用することにより過酸化水素を分解して酸素を発生させると共に、難分解性有機物が分解されて微生物が摂食しやすい形態となり、酸素を供給しつつ、難分解性有機物を処理できるという効率的なシステムを環境中に形成することができる。
【実施例1】
【0072】
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
EVOH膜((株)クラレエバールカンパニー製、EF−F、厚さ0.03mm)を用いて50mm×50mmの大きさの袋を形成し、この袋内に30体積%の過酸化水素水を5ml密封した。この袋の外側を不織布で覆い、袋と不織布との隙間に酸化マンガンを収容して酸素供給装置を作製した。この酸素供給装置を、窒素ガスを用いて曝気することにより酸素濃度を0.2mg/Lまで低下させた300mLの蒸留水で満たしたビーカー内に浸漬し、蒸留水中の酸素濃度の測定を行った。尚、実験中の蒸留水の温度は25℃とし、実験中はマグネチックスターラーにより撹拌し続けた。蒸留水の酸素濃度の測定は溶存酸素メーター(YSI Incorporated製、Model 5000)で行った。
【0074】
その結果、実験開始時の蒸留水の酸素濃度は、0.2mg/Lであったが、酸素供給装置浸漬後、酸素供給装置からは気泡が発生し続け、10分後には15.2mg/Lとなり、25℃の蒸留水の飽和酸素濃度である8.11mg/L以上の値となった。そして、12時間後には蒸留水の酸素濃度が31.5mg/Lの過飽和状態にまで上昇することが確認された。一方、酸素供給装置を浸漬しないスターラー撹拌のみの実験区についても同様に酸素濃度測定を行ったところ、60分後においてようやく7.2mg/Lまで上昇し、それ以降一定となった。したがって、本発明の酸素供給装置を用いることで、被処理領域の酸素濃度を所望の高濃度に維持することが可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の酸素供給装置の一実施形態を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
【図2】本発明の酸素供給装置の他の実施形態を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
【図3】本発明の酸素供給装置のさらに他の実施形態を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
【図4】本発明の酸素供給装置の過酸化水素溶液補充タイプの実施形態を示す図で、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
【図5】図4の実施形態の酸素供給装置の全体構成を示す概略説明図である。
【図6】貯留タンクを一体成形した酸素供給装置を示す図である。
【図7】担体を備えた酸素供給装置を示す縦断面図である。
【図8】本発明の酸素供給装置を利用したバイオリアクターの構成の一例を示す斜視図である。
【図9】本発明のバイオリアクターの構成の一例を示す縦断面図であり、(A)は密封タイプの例を、(B)は補充タイプの例をそれぞれ示す。
【図10】本発明の環境浄化方法の一実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1 酸素供給装置
2 非多孔性膜
3、3’ 過酸化水素溶液
3a 過酸化水素
4 容器
5 触媒物質
6 通気性部材
8 供給部
9 ノズル
10 チューブ
11 貯留タンク
13 担体
15 バイオリアクター
16 担体
17 袋
18 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素供給対象である被処理領域と過酸化水素溶液との間に前記過酸化水素を透過し得る非多孔性膜を介在させると共に、前記非多孔性膜の前記被処理領域側の表面に前記過酸化水素を分解する触媒物質を配置し、前記非多孔性膜から徐放される前記過酸化水素を前記触媒物質で分解して酸素を発生させ、前記酸素を前記被処理領域に供給することを特徴とする酸素供給方法。
【請求項2】
過酸化水素溶液と、前記過酸化水素を透過し得る非多孔性膜が少なくとも一部に備えられている容器と、前記過酸化水素を分解する触媒物質とを少なくとも含み、前記容器内には前記過酸化水素溶液が充填され、前記容器の外側の前記非多孔性膜部分には前記触媒物質が配置され、前記非多孔性膜部分から徐放される前記過酸化水素を前記触媒物質で分解して、前記容器周辺に酸素を供給することを特徴とする酸素供給装置。
【請求項3】
前記触媒物質は、前記非多孔性膜部分と前記非多孔性膜部分に備えられる通気性部材との間に収容されている請求項2に記載の酸素供給装置。
【請求項4】
前記触媒物質は、通気性部材に担持されて前記非多孔性膜部分に備えられている請求項2に記載の酸素供給装置。
【請求項5】
前記容器は、袋状あるいはチューブ状である請求項2に記載の酸素供給装置。
【請求項6】
前記容器は前記過酸化水素溶液を補充する供給部を備えるものである請求項2に記載の酸素供給装置。
【請求項7】
前記供給部は、前記過酸化水素溶液を一時的に貯留するタンク部を備え、前記容器と一体に形成されている請求項6に記載の酸素供給装置。
【請求項8】
前記容器は前記過酸化水素溶液を貯留する前記容器とは別体のタンクと連通し、必要に応じて前記過酸化水素溶液を補充可能とする供給ノズルを備えるものである請求項6に記載の酸素供給装置。
【請求項9】
微生物を固定し得る担体が前記非多孔性膜部分の表面に前記触媒物質を介して備えられている請求項2に記載の酸素供給装置。
【請求項10】
請求項2〜9のいずれかに記載の酸素供給装置を除染対象領域に配置して、前記酸素供給装置の近傍に好気性環境を形成し、前記酸素供給装置の近傍に存在する微生物の活性を制御することにより環境汚染物質を除去することを特徴とする環境浄化方法。
【請求項11】
目的とする成分の除去に有効な微生物を固定した担体が、請求項2〜8のいずれかに記載の酸素供給装置の非多孔性膜部分の表面に触媒物質を介して配置されているバイオリアクター。
【請求項12】
前記担体は、前記非多孔性膜部分の表面に前記触媒物質を介して貼着されている請求項11に記載のバイオリアクター。
【請求項13】
前記担体を袋形状とし、その内側の空間に請求項2〜8のいずれかに記載の酸素供給装置を収容している請求項11に記載のバイオリアクター。
【請求項14】
前記担体は吸水性ポリマーである請求項11に記載のバイオリアクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−150234(P2008−150234A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338204(P2006−338204)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】