説明

酸素直接酸化及び二酸化炭素固定化によるオレフィンからカーボネートへのOne−pot合成法

【課題】超臨界二酸化炭素とイオン性液体を反応場とする新しいオレフィンの酸化方法を提供する。
【解決手段】超臨界、亜臨界ないし常圧以上の二酸化炭素とイオン性液体を反応場として、無機酸化物の触媒存在下で、酸素を酸化剤とするオレフィン系炭化水素の酸化反応により、カルボニル化合物、エポキシド化合物、カーボネート化合物、カルボン酸化合物等を合成することからなるオレフィン系炭化水素の酸化方法。
【効果】酸素直接酸化、及び二酸化炭素固定化によりオレフィンからカーボネートをOne−potで合成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界二酸化炭素ないし亜臨界二酸化炭素とイオン性液体を反応場として、オレフィン類から、該オレフィン類に対応する酸化反応物及び二酸化炭素固定化物であるカルボニル化合物、エポキシド化合物、カーボネート化合物等を合成する方法に関するものであり、更に詳しくは、超臨界ないし亜臨界二酸化炭素とイオン性液体を反応媒体とした酸化反応により、オレフィン系炭化水素から、化学製品、エンジニアリングプラスチックス等の原料として、また、医薬中間体等として有用なエポキシド化合物、カーボネート化合物、カルボン酸、ケトン化合物等を効率的に製造する方法に関するものである。本発明は、特に、従来、2段階で製造されていたカーボネートを、One−potで製造することを可能とするカーボネートの新規One−pot製造技術を実現するものとして、また、二酸化炭素を反応媒体とすることにより、有害な廃棄物を極力押さえた環境調和型の工業的生産技術を提供するものとして高い技術的意義を有するものである。
【背景技術】
【0002】
酸素酸化反応は、一般に非常に良く知られた反応であり、その中でも、エチレンからエチレンオキシドの合成反応は、1931年に、T.E.Lefortにより発見され、UCC社が1931年に工業化に成功した反応として最も良く知られている。1992年において、酸素酸化によるエチレンからエチレンオキシドの生産は、年間980万トン/年であり、そのうち、米国UCC社が100万トン、西ヨーロッパが200万トン、日本が82万トン、ドイツが80万トン、CISが46万トンであり、これらの生産規模からみても、エチレンオキシドの生産は非常に重要であることが分かる。そのため、日夜、多くの研究者が、より効率の良い酸素酸化法によるエチレンオキシドの製法を開発すべく検討を行なっている。その開発例として、近年では、例えば、金属酸化物と、三級アミン類、及びリン酸類の存在下に、オレフィン類を酸化反応させることによりエポキシド類を製造する方法(特許文献1参照)や、水素及び酸素の存在下で炭化水素を部分酸化することにより、オレフィン系炭化水素からエポキシドを製造する方法(特許文献2参照)、等が挙げられる。
【0003】
また、例えば、環状カーボネート化合物は、エンジニアリングプラスチックスの一種であり、世界生産量が約220万トン/年に達するポリカーボネート樹脂の原料の一つとして、また、燃料電池の電解液、樹脂添加剤、ディーゼル燃料用の添加剤等として、近年、その需要は着実に増加している。従来、カーボネート化合物の代表的な製造方法としては、例えば、その合成能が優れているホスゲンを使用する方法が実用化されているが、この方法は、猛毒のホスゲンを原料とすることから、二酸化炭素等の毒性の低い原料を使用して、環境に優しい環状カーボネート化合物の合成方法を開発しようとする試みがなされている。
【0004】
ホスゲンを原料としない環状又は非環状カーボネート化合物の合成方法としては、例えば、芳香族ヒドロキシ化合物を、一酸化炭素、酸素、及び触媒の存在下に、酸化カルボニル化してジアリールカーボネートを合成する方法(特許文献3参照)が提案されており、また、クロムサレン錯体を触媒として、二酸化炭素とアルキレンオキシド化合物から対応するアルキレンカーボネートを合成する方法(特許文献4参照)が提案されている。また、超臨界又は亜臨界の二酸化炭素中において、カーボネート化合物と水酸基含有化合物とのエステル交換反応により非環状カーボネート化合物を製造する方法(特許文献5参照)が提案されている。
【0005】
更に、カルボン酸の製造方法としては、例えば、パラジウム触媒の存在下に、有機ハロゲン化物、水、一酸化炭素を、第4級アンモニウム塩からなるイオン性流体の存在下に反応させてカルボン酸塩を製造する方法(特許文献6参照)が提案されている。しかしながら、従来のエポキシド化合物、カーボネート化合物、及びカルボン酸の製造方法においては、いずれも、特定の化合物を原料とする必要があること、反応が効率的ではなく、多段の反応工程を必要とすること等の問題点があった。また、二酸化炭素を原料とすると、二酸化炭素が化学的に安定な分子であるために、高温度で長時間の反応が必要となり、実用化には程遠いのが現状である。更に、これまでに、オレフィン系炭化水素を原料として、1段階の反応で、カーボネート化合物を合成する方法は知られていない。
【0006】
【特許文献1】特開2003−300971号公報
【特許文献2】特開平10−244156号公報
【特許文献3】特開2002−338525号公報
【特許文献4】特開2003−64075号公報
【特許文献5】特開2001−247520号公報
【特許文献6】特開2003−146933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術の諸問題を解決し得るとともに、オレフィン類から、ケトン、エポキシド、カーボネート、カルボン酸等の化合物を効率的に合成することを可能とする新規合成技術を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、超臨界二酸化炭素ないし亜臨界二酸化炭素とイオン性液体を反応場とする酸化反応を採用することにより、所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、オレフィン類の酸化反応により、原料のオレフィン類に対応するケトン化合物、エポキシド化合物、カーボネート化合物、カルボン酸化合物等の酸化反応物及び二酸化炭素固定化物を効率的に合成することを可能とするこれらの新規製造技術を提供することを目的とするものである。また、本発明は、従来、2段階の反応工程が必要であった、カーボネート化合物の合成反応を、One−potで実施することを可能とするオレフィン系炭化水素の新規合成技術を提供することを目的とするものである。また、本発明は、猛毒のホスゲンや一酸化炭素を原料とすることなく、二酸化炭素を反応媒体としたオレフィン系炭化水素の酸化反応により、従来よりも低い反応温度で酸化反応を遂行し、選択的に、効率良く、カルボニル化合物、エポキシド化合物、カーボネート化合物、カルボン酸化合物等を合成することを可能とするこれらの化合物の新規合成技術を提供することを目的とするものである。
【0009】
また、本発明は、超臨界又は亜臨界二酸化炭素を反応媒体とすることにより、反応媒体の回収、再利用が容易であること、有機廃棄物の生成がなく、高沸点の生成化合物の分離、精製が容易であること、及び環境に優しいプロセスでカルボニル化合物、エポキシド化合物、カーボネート化合物、カルボン酸化合物等を効率良く合成できること、を可能とするこれらの化合物の新規合成技術を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、有用なエンジイニアリングプラスチックであるポリカーボネートの原料として、また、燃料電池用電解液、樹脂添加剤、ディーゼル燃料の添加剤等として有用な環状カーボネートを合成することを可能とするオレフィン系炭化水素の新規酸化プロセス技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)超臨界二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素、又は二酸化炭素とイオン性液体を反応場として、原料のオレフィン類の酸化反応を行うことにより、上記原料のオレフィン類に対応する酸化反応物及び/又は二酸化炭素固定化物を合成することを特徴とするオレフィン類の酸化反応物及び/又は二酸化炭素固定化物の製造方法。
(2)オレフィン類に対応する酸化反応物が、カルボニル化合物、エポキシド化合物、又はカルボン酸化合物であり、二酸化炭素固定化物が、アルキレンカーボネート化合物である上記(1)に記載の方法。
(3)原料のオレフィン類の酸化反応を行うことにより、1段階の酸素直接酸化反応工程で対応するアルキレンカーボネート化合物を合成する上記(1)に記載の方法。
(4)オレフィン類が、炭素数が2〜20のアルケン、シクロアルケン、及びビニル系芳香族化合物の中から選ばれた少なくとも1種以上のオレフィン系炭化水素である上記(1)に記載の方法。
(5)オレフィン系炭化水素が、プロピレン、ヘキセン、シクロヘキセン、スチレン、及びアルキル置換スチレンの中から選ばれた少なくとも1種以上である上記(4)に記載の方法。
(6)イオン性液体が、イミダゾリウム塩系イオン性液体、アンモニウム塩系イオン性液体、ホスホニウム塩系イオン性液体、及びピリジニウム塩系イオン性液体の中から選ばれた1種である上記(1)に記載の方法。
(7)イオン性液体のアニオン種が、フッ素アニオン、クロライドアニオン、ブロモアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、及びN−トリフルオロメタンスルホニル−N−トリフルオロメタンアセチルイミドアニオンの中から選ばれた少なくとも1種以上である上記(6)に記載の方法。
(8)二酸化炭素が、常圧以上の二酸化炭素である上記(1)に記載の方法。
(9)原料のオレフィン類を、酸素、空気又は酸素を含むガスで酸化する上記(1)に記載の方法。
(10)触媒の存在下に、原料のオレフィン類の酸化反応を行う上記(1)に記載の方法。
(11)触媒が、無機酸化物である上記(10)に記載の方法。
(12)無機酸化物が、酸化セリウム、あるいは遷移金属、ケイ素、アルミニウム、及びマグネシウムの中から選ばれた少なくとも1種以上の金属元素を有する酸化物である上記(11)に記載の方法。
(13)酸化反応を、0〜300℃の温度範囲、及び常圧〜100MPaの二酸化炭素の圧力範囲で行う上記(1)に記載の方法。
(14)温度範囲が40〜200℃、及び圧力範囲が5〜35MPaである上記(13)に記載の方法。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、超臨界二酸化炭素とイオン性液体を反応場とし、無機酸化物の触媒存在下で、酸素を酸化剤とするオレフィン類の酸化反応により、ケトン化合物、エポキシド化合物、カーボネート化合物、カルボン酸化合物等を効果的に、1段階で合成することを特徴とするものである。本発明では、超臨界ないし亜臨界二酸化炭素、及びイオン性液体を反応媒体とした酸化反応により、オレフィン系炭化水素から、化学製品、エンジニアリングプラスチックス等の原料として、また、医薬中間体等として有用なエポキシド化合物、カーボネート化合物、カルボン酸、ケトン化合物等を効率的に合成することが可能である。
【0012】
本発明の方法において、原料として用いられるオレフィン系炭化水素としては、オレフィン二重結合を有する炭化水素であればその種類に制限されることなく使用することが可能であり、例えば、次の一般式(化1)で表される化合物が挙げられる。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、R、R、R、Rはいずれも水素であるか、又はそれらの少なくとも一部が置換又は非置換の炭化水素基であるか、あるいはR、R、R、Rは相互に結合して環又は縮合環系を形成しても良い。)
【0015】
オレフィン系炭化水素の具体例としては、好ましくは、例えば、炭素数2〜20のアルケン、シクロアルケン、及びビニル系芳香族化合物類の中から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。更に具体的には、アルケンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン(1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン等)、ペンテン(1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン等)、ヘキセン(1−ヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン等)、ヘプテン(1−ヘプテン、2−ヘプテン、3−ヘプテン等)、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ヘキサデセン、オクタデセン、エイコセン等が挙げられる。
【0016】
また、シクロアルケンとしては、例えば、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロデセン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン、シクロオクタジエン、及びシクロデカジエン、1−メチル−1−シクロペンテン、3−メチル−1−シクロペンテン等が挙げられる。更に、ビニル系芳香族化合物類としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、メチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられる。これらの化合物を1種用いても良いし、また、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの中で、特に好ましいオレフィン系炭化水素としては、プロピレン、ヘキセン、シクロヘキセン、スチレン、及びアルキル置換スチレンの中から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0017】
また、オレフィン系炭化水素には、本発明の課題解決に支障をきたさない範囲で、適宜置換基を有するものが包含される。これらの置換基の具体例としては、例えば、ハロゲン、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボアルコキシ基、アシル基、ホルミル基(−CHO)、オキソ基(=O)、水酸基、チオ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、置換又は非置換のシリル基、複素環基等が挙げられる。更に具体的には、チオ基としては、例えば、アルキルチオ基、フェニルチオ基、トリルチオ基、ピリジルチオ基等が挙げられる。また、アミノ基としては、例えば、非置換アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、フェニルアミノ基等が挙げられる。
【0018】
また、シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、メチルジフェニルシリル基等が挙げられる。また、複素環基としては、例えば、ピロリル基、ピリジル基、フリル基、インドリル基、キノリル基、ベンゾフラニル基等が挙げられる。これらの中で、好ましい置換基としては、例えば、ハロゲン、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボアルコキシ基、アシル基、ホルミル基(−CHO)、オキソ基(=O)、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、置換又は非置換のシリル基が挙げられる。
【0019】
本発明の方法では、上記原料のオレフィン系炭化水素に対応する酸化反応物、及び二酸化炭素固定化物を製造することができる。酸化反応物としては、カルボニル化合物(ケトン、アルデヒド等)、エポキシド化合物、及びカルボン酸化合物を製造することができる。また、二酸化炭素固定化物としては、アルキレンカーボネートを製造することができる。本発明では、上記原料の各種オレフィン系炭化水素を任意に選択することにより、原料のオレフィン系炭化水素に対応するこれらの化合物を任意に合成することができる。例えば、スチレンを原料とした場合には、スチレンカーボネートを製造できるが、その他に、スチレンオキシド、アセトフェノン、安息香酸を製造することができる。
【0020】
本発明の方法では、反応は、例えば、反応場として、超臨界二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素又は二酸化炭素、及びイオン性液体からなる複合反応場を用い、触媒として、無機酸化物を用い、オレフィン系炭化水素を、酸素、空気、又は酸素を含むガスで酸化することにより行われる。以上の反応については、概括的に、次の反応スキーム(化2)で示される。
【0021】
【化2】

【0022】
使用するイオン性液体は、有機カチオンとアニオンからなる塩であり、100℃で液体の塩である。本発明では、イオン性液体として、好適には、例えば、イミダゾリウム塩系イオン性液体、アンモニウム塩系イオン性液体、ホスホニウム塩系イオン性液体、及びピリジニウム塩系イオン性液体が使用される。通常使われる有機カチオンとしては、イミダゾリウムカチオン、アンモニウムカチオンが用いられるが、ホスホニウムカチオン、ピリジニウムカチオン等も有効であり、これらのカチオンも用いることが可能である。イオン性液体は、オレフィン系炭化水素に対して、モル比で0.01以上が好ましく、より好適には、0.1以上で用いられる。
【0023】
アニオン種としては、例えば、フッ素アニオン、クロライドアニオン、ブロモアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、N−トリフルオロメタンスルホニル−N−トリフルオロメタンアセチルイミドアニオン等が用いられる。
【0024】
イミダゾリウム塩系イオン性液体としては、下記の一般式(化3)で表される化合物が挙げられる。
【0025】
【化3】

【0026】
(式中、R、R、R、R、Rはいずれも水素であるか、又はそれらの少なくとも一部が置換又は非置換の炭化水素基であるか、あるいはR、R、R、R、Rは相互に結合して環又は縮環系を形成しても良い。Xは、ハロゲンであるか、炭酸、カルボン酸類、NO、PF、BF、CFSO、(CFCO)N(SOCF、(CFSO等で表されるアニオン種である。これらのカチオンとアニオンの少なくとも1種類以上からなる塩が形成される。)
【0027】
アンモニウム塩系イオン性液体としては、下記の一般式(化4)で表される化合物が挙げられる。
【0028】
【化4】

【0029】
(式中、R、R、R、Rはいずれも水素であるか、又はそれらの少なくとも一部が置換又は非置換の炭化水素基であるか、あるいはR、R、R、Rは相互に結合して環又は縮環系を形成しても良い。Xは、ハロゲンであるか、炭酸、カルボン酸類、NO、PF、BF、CFSO、(CFCO)N(SOCF、(CFSO等で表されるアニオン種である。これらのカチオンとアニオンの少なくとも1種類以上からなる塩が形成される。)
【0030】
触媒として用いられる好適な無機酸化物を構成する金属元素としては,セリウムが最も好適であるが、遷移金属元素としては、バナジウム、鉄、ニッケル、クロム、ニオブ、及びジルコニウムの中から選ばれた1種を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。更に、上記以外の無機酸化物でも触媒として適応可能であり、例えば、それを構成する元素が、ケイ素、長周期律表の2族に属するアルカリ土類金属(例えば、Ca、Mg、Sr、Ba等)、長周期律表の3〜12族に属する遷移金属元素(例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Ir、Pt、Au、Hg等)、長周期律表の13族に属する金属元素(例えば、Al、Ga、Tl等)が用いられるが、中でも、遷移金属元素、ケイ素、アルミニウム及びマグネシウムの中から選ばれた少なくとも1種の金属元素を有する酸化物が好ましい。これらは、1種で用いることができ、また、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0031】
酸化反応の温度は、原料のオレフィン系炭化水素の種類、触媒の種類、反応生成物の種類等に応じて任意に設定することが可能であり、特に限定されないが、通常0〜500℃、好ましくは0〜300℃、より好ましくは二酸化炭素の臨界温度31℃以上、300℃以下であり、中でも、二酸化炭素の臨界温度である31℃以上、200℃以下の範囲で選ばれる。
【0032】
反応圧力は、原料のオレフィン系炭化水素の種類、触媒の種類、反応温度等の反応条件、反応生成物の種類等に応じて任意に設定することが可能であり、特に限定されないが、通常、常圧以上、好ましくは2〜100MPa、中でも2〜50MPaの範囲で選ばれる。また、反応時間は、原料のオレフィン系炭化水素の種類、触媒の種類、反応温度や反応圧力等の反応条件、反応生成物の種類等に応じて任意に設定することが可能であり、特に限定されるものではない。
【0033】
酸化反応の原料のオレフィン系炭化水素の使用量としては、反応系全体量に対し、体積(容量)基準で、通常1〜80%、好ましくは1〜50%の範囲から選ばれ、中でもバッチ式の場合は、反応器の内部空間の体積(容量)に対し、1〜40%の範囲とすることが好ましい。
【0034】
酸化反応に用いられる酸素は、分子状酸素が好ましく、例えば、空気又は酸素を含むガス等の分子状酸素含有気体が好適に用いられる。酸素は反応系内において、その分圧が0.01〜10MPaの範囲になるように用いられる。また、反応系において、酸素は、原料のオレフィン系炭化水素に対し、モル比で、大過剰、好ましくは0.1〜100倍の量で用いられる。バッチ式の反応では、原料のオレフィン系炭化水素に対し、モル比で0.1〜10倍の量の範囲の使用割合とすることが好ましい。
【0035】
反応時の二酸化炭素は、反応系内において、その分圧が、0.1〜100MPaの範囲になるように用いられるが、中でも1〜50MPaが好ましく、更に、5〜35MPaであることが最も好ましい。また、反応系において、二酸化炭素は、オレフィン系炭化水素に対し、モル比で、1〜300倍の範囲で使用することが好ましい。
【0036】
従来法では、エポキシドと二酸化炭素の反応生成物であるカーボネート化合物を、One−potで合成することは困難であった。これに対して、本発明では、超臨界二酸化炭素とイオン性液体を反応場とし、無機酸化物の触媒存在下で、酸素を酸化剤とするオレフィン類の酸化反応により、カーボネート化合物を1段階で製造することが可能であり、しかも、従来の有機溶媒を使用する方法に比べて、有害な廃棄物の発生を抑制した環境負荷の少ない製造プロセスを構築できることから、本発明の方法は、特に、カーボネート化合物、具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、スチレンカーボネート、ハロゲノエチレンカーボネート(ハロゲンは、塩素、臭素、ヨウ素を表す)、ヘキサヒドロベンゾ[1,3]ジオキソ−2−オン等のアルキレンカーボネートの新しい工業的生産技術として高い有用性を有する。
【発明の効果】
【0037】
本発明により、(1)オレフィン系炭化水素から、原料のオレフィン系炭化水素に対応する酸化反応物及び二酸化炭素固定化物である、エポキシド化合物、カーボネート化合物、カルボニル化合物、カルボン酸化合物等を簡便に製造することができる、(2)オレフィン系炭化水素の酸化、及び二酸化炭素固定化を同時に行ない、アルキレンカーボネート化合物等を1段階で合成することができる、(3)猛毒のホスゲンや一酸化炭素を原料としないで、カーボネート化合物を合成することができる、(4)超臨界状態の二酸化炭素等を反応媒体とすることにより、有機溶媒等の有害な廃棄物を極力押さえた環境調和型製造プロセスを提供することができ、また、反応媒体から高沸点の生成化合物を容易に分離することができる、(6)従来の反応系よりも低温で、選択的に、高収率で酸化反応物を合成することができる、更に、(7)工業製品、医薬中間体等として有用であるエポキシド化合物、カーボネート化合物、カルボン酸、ケトン化合物等の新しい工業的生産技術を提供することが可能となる、という格別の効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
本実施例では、下記(化5)に示すように、超臨界二酸化炭素とイオン性液体を反応場とし、無機酸化物の触媒存在下で、酸素を酸化剤とするスチレンの酸化反応によりカーボネートを製造した。スチレン(化合物1、0.2mL)を原料として使用し、超臨界二酸化炭素、イオン性液体(1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムクロライド:OMI−Cl、0.5mL)、触媒(セリア、50mg)、酸素(1MPa)、及び二酸化炭素(1MPa)を、ステンレス製オートクレーブの反応容器(25ml)に入れ、十分溶解させた後、150℃に加熱し、更に二酸化炭素を所定の圧力まで導入して、45分間反応させた。反応終了後、反応容器を冷却し、放圧後、ガスクロマトグラフによって生成物の分析を行った。得られた化合物は、スチレンオキシド(化合物2)、アセトフェノン(化合物3)、スチレンカーボネート(化合物4)、及び安息香酸(化合物5)であった。各化合物の収率を表1に示す。その結果、スチレンカーボネートの収率は、圧力が22MPaの際に最も良く、15.5%であることが分かった。二酸化炭素の密度が0.36g/mLの時に、すなわち臨界密度付近(0.47g/mL)より0.1g/mL低い密度で、最も収率が良くなることが分かった。
【0040】
【化5】

【0041】
【化6】

【0042】
【表1】

【実施例2】
【0043】
実施例1と同様の反応条件で、反応温度の検討を行なった。圧力は20MPa、反応時間は45分とした。その結果を表2にまとめて示す。その結果、スチレンカーボネート(化合物4)の収率が150℃の時に最も良くなることが分かった。
【0044】
【表2】

【実施例3】
【0045】
実施例1と同様の反応条件で、各種イオン性液体の検討を行なった。イオン性液体として、OMI−Cl、OMI−BF(1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート)、TEDA−TSAC(テトラドデシルアンモニウム−N−トリフルオロメタンスルホニル−N−トリフルオロメタンアセチルイミド)、TEDA−TFSI(テトラドデシルアンモニウム−トリフルオロメタンスルホニルイミド)、及びTOA−TFSI(テトラオクチルアンモニウム−トリフルオロメタンスルホニルイミド)を用いた。その結果を表3にまとめて示す。その結果、OMI−Clを用いた場合、スチレンカーボネート(化合物4)の収率が最も良いことが分かった。
【0046】
【表3】

【0047】
【化7】

【0048】
【化8】

【0049】
【化9】

【実施例4】
【0050】
実施例1と同様の反応条件で、イオン性液体としてOMI−Clを用いて、反応時間の検討を行なった。その結果を表4に示す。その結果、45分間の反応時間で、スチレンカーボネート(化合物4)の収率が最高になった。それ以降は、酸化反応が進み安息香酸(化合物5)が生成するため、化合物4の収率は減少することが分かった。
【0051】
【表4】

【実施例5】
【0052】
実施例1と同様の反応条件で、下記(化10)に示すように、反応基質としてシクロヘキセン(化合物6)を用いて生成物の検討を行なった。シクロヘキセンの場合、化合物7〜化合物10等の生成物が得られた。なお、化合物の同定には、GC−MS/MSを用いた。
【0053】
【化10】

【0054】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0055】
以上詳述したように、本発明は、酸素直接酸化及び二酸化炭素固定化によりオレフィンからカルボン酸、ケトン、エポキシ、そしてカーボネート化合物をOne−potで合成する方法に係るものであり、従来、エポキシドと二酸化炭素の反応生成物であるカーボネート化合物を、One−potで得ることは困難であったが、本発明は、アルキレンカーボネート化合物等を1段階で合成することを可能とするものである。
【0056】
本発明では、猛毒のホスゲンや一酸化炭素を原料としないカーボネート化合物の合成が可能であり、従来の反応系よりも低温で、選択的に、高収率で酸化反応を行なうことが可能である。また、本発明では、超臨界二酸化炭素等を反応媒体とすることで、有害な廃棄物を極力押さえた環境調和型製造方法を提供すること、及び反応媒体から高沸点の生成化合物を容易に分離することを実現することができる。更に、本発明は、工業製品、医薬中間体等として有用であるエポキシド化合物、カーボネート化合物、カルボン酸、ケトン化合物等を効率良く合成することを可能とするものであり、これらの新規工業的生産技術を提供するものとして高い技術的意義を有するものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素、又は二酸化炭素とイオン性液体を反応場として、原料のオレフィン類の酸化反応を行うことにより、上記原料のオレフィン類に対応する酸化反応物及び/又は二酸化炭素固定化物を合成することを特徴とするオレフィン類の酸化反応物及び/又は二酸化炭素固定化物の製造方法。
【請求項2】
オレフィン類に対応する酸化反応物が、カルボニル化合物、エポキシド化合物、又はカルボン酸化合物であり、二酸化炭素固定化物が、アルキレンカーボネート化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
原料のオレフィン類の酸化反応を行うことにより、1段階の酸素直接酸化反応工程で対応するアルキレンカーボネート化合物を合成する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
オレフィン類が、炭素数が2〜20のアルケン、シクロアルケン、及びビニル系芳香族化合物の中から選ばれた少なくとも1種以上のオレフィン系炭化水素である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
オレフィン系炭化水素が、プロピレン、ヘキセン、シクロヘキセン、スチレン、及びアルキル置換スチレンの中から選ばれた少なくとも1種以上である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
イオン性液体が、イミダゾリウム塩系イオン性液体、アンモニウム塩系イオン性液体、ホスホニウム塩系イオン性液体、及びピリジニウム塩系イオン性液体の中から選ばれた1種である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
イオン性液体のアニオン種が、フッ素アニオン、クロライドアニオン、ブロモアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、及びN−トリフルオロメタンスルホニル−N−トリフルオロメタンアセチルイミドアニオンの中から選ばれた少なくとも1種以上である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
二酸化炭素が、常圧以上の二酸化炭素である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
原料のオレフィン類を、酸素、空気又は酸素を含むガスで酸化する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
触媒の存在下に、原料のオレフィン類の酸化反応を行う請求項1に記載の方法。
【請求項11】
触媒が、無機酸化物である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
無機酸化物が、酸化セリウム、あるいは遷移金属、ケイ素、アルミニウム、及びマグネシウムの中から選ばれた少なくとも1種以上の金属元素を有する酸化物である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
酸化反応を、0〜300℃の温度範囲、及び常圧〜100MPaの二酸化炭素の圧力範囲で行う請求項1に記載の方法。
【請求項14】
温度範囲が40〜200℃、及び圧力範囲が5〜35MPaである請求項13に記載の方法。

【公開番号】特開2007−51067(P2007−51067A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235086(P2005−235086)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】