説明

重合体の製造方法

【課題】制御ラジカル重合で得られる重合体の耐熱分解性を向上させること。
【解決手段】遷移金属錯体を重合触媒とし、有機ハロゲン化物を重合開始剤として用いる制御ラジカル重合で得られた末端ハロゲン及び末端二重結合を有する重合体を、水素化ホウ素化合物で処理することにより該末端ハロゲン及び該末端二重結合を低減する、重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属錯体を重合触媒とし、有機ハロゲン化物を重合開始剤として用いる制御ラジカル重合で得られた重合体を、水素化ホウ素化合物と反応させ、重合体の末端ハロゲン及び末端二重結合を低減させた重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
制御ラジカル重合は、ラジカル重合性単量体と重合開始剤の仕込み比によって分子量を自由にコントロールできる。制御ラジカル重合の中でも遷移金属錯体を重合触媒とし、有機ハロゲン化物を重合開始剤とする方法は、上記の制御ラジカル重合法の特徴に加えて、重合触媒や重合開始剤の設計の自由度が大きく、重合制御が容易であることから、好ましく用いられる。
【0003】
しかしながら、遷移金属錯体を重合触媒とし、有機ハロゲン化物を重合開始剤とする制御ラジカル重合では、得られた重合体の末端に重合開始剤である有機ハロゲン化物由来のハロゲン基が残存し、耐熱分解性が低下するという問題がある。また一般にラジカル重合では重合が進むにつれ停止反応が起こり、不均化停止反応により重合体の末端に二重結合が生成し、耐熱分解性を低下させる要因となっている。重合体の熱分解温度が成形温度よりも低い場合、熱成形加工時の分解や劣化が顕著となり、成形品の外観悪化や性能低下等の問題が生じる。
【0004】
遷移金属錯体を重合触媒とし、有機ハロゲン化物を重合開始剤とする制御ラジカル重合で得られた重合体の末端ハロゲンを低減する方法としては、水素化トリブチルスズと反応させる方法が知られている(非特許文献1)。しかしながら、水素化トリブチルスズは、環境毒性や高価であることに加え、空気中の水分により失活しやすい等取扱い上の問題があり、実用的観点からは適さない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Macromolecular Rapid Communications、1999年、20巻、66頁〜70頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、遷移金属錯体を重合触媒とし、有機ハロゲン化物を重合開始剤とする制御ラジカル重合で得られた重合体の末端ハロゲン及び末端二重結合を低減させることにより、耐熱分解性を向上させ、熱成形加工時の分解や劣化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を行なった結果、末端にハロゲン及び二重結合を有する重合体を、還元剤である水素化ホウ素化合物と反応させることにより、末端ハロゲン及び末端二重結合が低減し、耐熱分解性が向上することを見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は、遷移金属錯体を重合触媒とし、有機ハロゲン化物を重合開始剤として用いる制御ラジカル重合で得られた末端ハロゲン及び末端二重結合を有する重合体を、水素化ホウ素化合物で処理することにより該末端ハロゲン及び該末端二重結合を低減する、重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、遷移金属錯体を重合触媒とし、有機ハロゲン化物を重合開始剤とする制御ラジカル重合で得られた末端にハロゲン及び二重結合を有する重合体を、還元剤である水素化ホウ素化合物と反応させることにより、末端ハロゲン及び末端二重結合を共に低減させることができる。これにより重合体の耐熱分解性を向上させ、熱成形加工時の分解や劣化を抑制して、成形品の外観悪化や性能低下を防ぐことができる。適切な水素化ホウ素化合物を選択することで、重合体に含まれる他の官能基を反応させることなく、末端ハロゲン及び末端二重結合のみを特異的に低減させることも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法によると、制御ラジカル重合により得られた重合体を水素化ホウ素化合物と反応させる。
本発明に用いられる重合体に使用されるラジカル重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸(トリフルオロメチル)メチル、(メタ)アクリル酸(2−トリフルオロメチル)エチル、(メタ)アクリル酸(2−パーフルオロエチル)エチル、(メタ)アクリル酸(2−パーフルオロエチル)(2−パーフルオロブチル)エチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸(ジパーフルオロメチル)メチル、(メタ)アクリル酸(パーフルオロメチル)(パーフルオロエチル)メチル、(メタ)アクリル酸(2−パーフルオロヘキシル)エチル、(メタ)アクリル酸(2−パーフルオロデシル)エチル、(メタ)アクリル酸(2−パーフルオロヘキサデシル)エチル等の(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等の芳香族ビニル単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有単量体;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ヘキシルマレイミド、N−オクチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−ステアリルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化アリル、アリルアルコール等のアリル系単量体が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、また2種以上を併用してもよい。
これらの中では、得られる重合体の物性等から、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。
尚、本発明において「(メタ)アクリル」は、「メタクリル」又は「アクリル」を表す。
【0011】
本発明に用いる重合触媒である遷移金属錯体を構成する遷移金属又は遷移金属化合物は、下記一般式で表すことができる。
MX
上記式中、MはCu、Fe、Ru、Cr、Mo、W、Rh、Re、Co、V、Zn、Au、Agからなる群から選ばれる遷移金属であり、Xはハロゲン原子であり、nは遷移金属の形式電荷(0≦n≦7)である。
本発明においては、制御ラジカル重合触媒としての制御能の観点から、MはCuが好ましく、Xは塩素、臭素、沃素が好ましく、nは0〜2が好ましい。本発明において特に好ましい遷移金属又は遷移金属化合物は、銅、塩化第一銅、臭化第一銅である。これらは単独で使用してもよいし、また2種以上を併用してもよい。
【0012】
本発明に用いる、遷移金属又は遷移金属化合物と錯体を形成し得るポリアミン化合物としては、アミン系配位子が好ましい。
アミン系配位子としては、例えば、2,2’−ビピリジル又はその誘導体等のビピリジル化合物;1,10−フェナントロリン又はその誘導体;ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン、ビスピコリルアミン、トリアルキルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミンが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、また2種以上を併用してもよい。
これらの中では、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミンが好ましい。
また、遷移金属化合物として銅化合物を用いる場合には、アミン系配位子は、アミノ基を3つ以上有する化合物であることが好ましい。
【0013】
尚、本発明におけるアミノ基とは、窒素原子−炭素原子結合を有する基を表すが、この中でも、窒素原子が炭素原子及び/又は水素原子とのみ結合する基であることが好ましい。
【0014】
本発明に用いる重合開始剤である有機ハロゲン化物としては、1官能性、2官能性、又は多官能性の化合物が使用できる。これらは目的に応じて使い分けることができるが、A−Bジブロック共重合体を製造する場合には、重合開始剤の入手が容易であることから1官能性化合物が好ましい。A−B−A型のトリブロック共重合体、B−A−B型のトリブロック共重合体を製造する場合は、重合工程数、重合時間の短縮の点から2官能性化合物を使用することが好ましい。分岐状ブロック共重合体を製造する場合は、重合工程数、重合時間の短縮の点から多官能性化合物を使用することが好ましい。
【0015】
1官能性化合物としては、例えば、
−C(H)(X)−COOR
−C(CH)(X)−COOR
−C(H)(X)−CO−R
−C(CH)(X)−CO−R
−C(H)(X)−CN、
−C(CH)(X)−CN、
で示される化合物が挙げられる。
(式中、Rは、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数7〜20のアラルキル基を表す。Xは、塩素、臭素又は沃素を表す。Rは炭素数1〜20の1価の有機基を表す)。
として、炭素数1〜20のアルキル基(脂環式炭化水素基を含む)の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−へプチル基、ドデシル基、イソボルニル基が挙げられる。
炭素数6〜20のアリール基の具体例としては、フェニル基、トリイル基、ナフチル基が挙げられる。
炭素数7〜20のアラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基が挙げられる。
1官能性化合物の具体例としては、2−臭化プロピオン酸メチル、2−臭化プロピオン酸エチル、2−臭化プロピオン酸ブチル、2−臭化イソ酪酸メチル、2−臭化イソ酪酸エチル、2−臭化イソ酪酸ブチル、2−臭化プロピオノニトリル、2−臭化イソブチロニトリルが挙げられる。これらの中では、2−臭化プロピオン酸エチル、2−臭化プロピオン酸ブチル、2−臭化プロピオノニトリル、2−臭化イソブチロニトリルが、ハロゲン基の脱離速度が速い点から好ましい。
【0016】
2官能性化合物としては、例えば、
XCH(COOR)−(CH)n−CH(COOR)−X、
XC(CH)(COOR)−(CH)n−C(CH)(COOR)−X、
XCH−COO−(CH)n−OCO−CH−X、
XCH(CH)−COO−(CH)n−OCO−CH(CH)−X、
XC(CH−COO−(CH)n−OCO−C(CH−X、
XCH−COO−C−OCO−CH−X、
XCH(CH)−COO−C−OCO−CH(CH)−X、
XC(CH−COO−C−OCO−C(CH−X、
で示される化合物が挙げられる。
(式中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数7〜20のアラルキル基を表す。nは0〜20の整数を表す。Cは2価のフェニル基を表す。Xは、塩素、臭素又は沃素を表す)。
の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基の具体例は、前述のRの具体例と同じである。
2官能性化合物の具体例としては、2,3−ジブロモコハク酸ジメチル、2,3−ジブロモコハク酸ジエチル、2,4−ジブロモグルタル酸ジメチル、2,4−ジブロモグルタル酸ジエチル、2,4−ジブロモグルタル酸ジブチル、2,5−ジブロモアジピン酸ジメチル、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、2,6−ジブロモピメリン酸ジメチル(ジメチル−2,6−ジブロモヘプタンジオエート)、2,6−ジブロモピメリン酸ジエチル、2,7−ジブロモスベリン酸ジメチル、2,7−ジブロモスベリン酸ジエチルが挙げられる。これらの中では、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、2,6−ジブロモピメリン酸ジメチル、2,6−ジブロモピメリン酸ジエチルが、原料の入手が容易であることから好ましい。
【0017】
多官能性化合物としては、例えば、
−(CH−X)
−(CH(CH)−X)
−(C(CH−X)
で示される化合物が挙げられる。
(式中、Cは3価のフェニル基(3つの結合手の位置は1位〜6位のいずれの組合せでもよい)、Xは、塩素、臭素又は沃素を表す)。
多官能性化合物の具体例としては、トリス(1−ブロモエチル)ベンゼン、トリス(1−ブロモイソプロピル)ベンゼン、トリス(ブロモメチル)ベンゼンが挙げられる。これらの中では、トリス(ブロモメチル)ベンゼンが、原料の入手が容易であることから好ましい。
【0018】
尚、重合を開始する基以外にも官能基を有する有機ハロゲン化物を用いると、容易に末端又は分子内に重合を開始する基以外の官能基が導入された重合体が得られる。このような重合を開始する基以外の官能基としては、アルケニル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、シリル基等が挙げられる。
前記重合開始剤として用いることができる有機ハロゲン化物は、ハロゲン基(ハロゲン原子)が結合している炭素がカルボニル基又はフェニル基等と結合しており、炭素−ハロゲン結合が活性化されて重合が開始する。
使用する重合開始剤の量は、製造目的とする重合体の分子量に合わせて、単量体との比から決定すればよい。すなわち、重合開始剤1分子あたり、何分子の単量体を使用するかによって、重合体の分子量を制御することができる。
【0019】
重合の雰囲気は、酸素不存在雰囲気が好ましい。酸素はラジカルと容易に反応し、重合を阻害するし、また、酸素存在下では、重合触媒が酸化され活性を失う可能性がある。
重合温度は、特に限定されないが、0〜200℃の範囲で行なうことができ、好ましくは、室温〜150℃の範囲である。
重合混合物はよく攪拌されることが好ましい。特に、遷移金属化合物を添加する際には、速やかに均一に拡散させるためにも、十分な攪拌が好ましい。
重合の方法としては、バッチ重合、単量体を追加していくセミバッチ重合、連続重合等を適用できる。
【0020】
本発明では、必要に応じて、重合溶媒を用いることができる。重合溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、また2種以上を併用してもよい。
また、エマルション系又は超臨界流体COを媒体とする系においても重合を行なうことができる。
【0021】
本発明の製造方法は、制御ラジカル重合により得られた重合体を水素化ホウ素化合物と反応させることにある。
本発明に用いる、水素化ホウ素化合物としては、例えば、ボラン錯体(ボラン・ジメチルスルフィド錯体、ボラン・テトラヒドロフラン錯体等)、ジボラン、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素カルシウム、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリ(sec−ブチル)水素化ホウ素リチウム、トリ(sec−ブチル)水素化ホウ素カリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ホウ素亜鉛、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム、水素化ホウ素テトラエチルアンモニウム、水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム、水素化ホウ素トリメチルオクチルアンモニウム、水素化ホウ素トリメチルベンジルアンモニウムが挙げられる。これらの中では、安全面や経済面、取扱い性等から、水素化ホウ素ナトリウムが好ましい。
【0022】
反応は重合後の重合溶液について行なっても、重合溶液から重合触媒等を除去し、精製した重合体を適当な溶媒に溶解させて行なってもよいが、工程短縮の観点から、重合後の重合溶液に水素化ホウ素化合物を添加し、反応させた後、精製を行なう方が好ましい。精製した重合体を溶解させる溶媒としては、例えば前述の重合溶媒が挙げられるが、重合体及び水素化ホウ素化合物の溶解度が高く、副反応を起こさないものが好ましい。
【0023】
反応溶液の重合体濃度は5〜50質量%が好ましい。5質量%以上であれば、水素化ホウ素化合物との接触頻度が高くなり、反応速度が向上し、50質量%以下であれば、溶液の粘度上昇が抑えられ、水素化ホウ素化合物が均一に分散しやすくなり、効果的に反応が進行する。
【0024】
反応の雰囲気は、水素化ホウ素化合物が空気中の水分で徐々に失活するため、空気が混入しにくい雰囲気下で行なうのが好ましい。
反応温度は、0〜200℃の範囲で行なうことができ、好ましくは、室温〜100℃の範囲である。
【0025】
使用する水素化ホウ素化合物の量は、重合体のmol数に対して1〜100倍量であるのが好ましい。1倍量以上であれば、反応速度が向上し、短時間でも顕著な効果が得られ、100倍量以下であれば、過剰な水素化ホウ素化合物による副反応が抑制できる。
尚、重合体のmol数は、重合溶液であれば重合開始剤量、または重合転化率から求めた重合体濃度と数平均分子量を用いて算出することができ、重合体であれば数平均分子量を用いて算出することができる。
本発明の製造方法により得られた重合体は、各種用途に使用することができる。得られた重合体の用途としては、例えば、分子量分布が狭いことを利用した塗料用組成物、ブロック重合体であることを利用した熱可塑性組成物、熱又は光による硬化性組成物、粘着剤用組成物、接着剤用組成物、更には、フィルムやシート等の成形材料が挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0027】
<試験方法>
(1)重合転化率
H−NMR(日本電子(株)製、「JNM−EX270」(商品名))を用いた。
重合溶液を重水素化クロロホルムに溶解させ、単量体の二重結合に由来するピークと、重合体のエステル基に結合した炭化水素基の水素に由来するピークの積分強度比から、単量体の重合転化率を測定した。測定温度は25℃、積算回数は16回である。
【0028】
(2)数平均分子量(Mn)及び分子量分布(PDI)
GPC(東ソー(株)製、「HLC−8220」(商品名)、カラム:TSK GUARD COLUMN SUPER HZ−L(4.6×35mm)、TSK−GEL SUPER HZM−N(6.0×150mm)×2直列接続、溶離液:クロロホルム、測定温度:40℃、流速:0.6mL/分)を用い、ポリメタクリル酸メチルをスタンダードとして測定した。
【0029】
(3)末端ハロゲン
イオンクロマトグラフ(DIONEX製、「DX−500」(商品名))を用いた。
0.3%過酸化水素水を加え、酸素で置換した燃焼フラスコ内で重合体を燃焼後、ハロゲンイオンを過酸化水素水中に回収し、イオンクロマトグラフにて測定、定量した。重合体中のハロゲン量と、GPCで測定した数平均分子量(Mn)から、重合体の全末端中に存在する末端ハロゲンの割合(%)を求めた。
【0030】
(4)末端二重結合
H−NMR(Varian製、「UNITY INOVA 500」(商品名))を用いた。
重合体を重水素化ジメチルスルホキシドに溶解させ、重合体の末端二重結合に由来するピークと、重合体のエステル基に結合した炭化水素基の水素に由来するピークの積分強度比、及びGPCで測定した数平均分子量(Mn)から、重合体の全末端中に存在する末端二重結合の割合(%)を求めた。測定温度は120℃、積算回数は7000回である。
【0031】
(5)熱重量分析
TG/DTA(セイコーインスツルメンツ(株)製、「TG/DTA6300」(商品名)、測定温度:100〜500℃(10℃/分)、流速:窒素50mL/分)を用い、150℃の時点を100%として、1%及び5%重量減少温度を測定した。
【0032】
<実施例1>
(PMMA−b−PnBA−b−PMMAの合成)
2L丸底フラスコに、アクリル酸ブチル(以下、「nBA」という。) 120g(0.936mol)、臭化第一銅 1.35g(9.41mmol)、トルエン 12g及びジメチルホルムアミド(DMF) 108gを仕込み、窒素バブリングにより窒素置換した。よく撹拌し、ペンタメチルジエチレントリアミン(以下、「PMDETA」という。) 2mL(9.58mmol)を加えた後、内温が70℃になるまで昇温させ、同温度で10分間攪拌し、臭化第一銅とPMDETAの錯体を溶解させた。
10分後、重合開始剤としてジメチル−2,6−ジブロモヘプタンジオエート 2mL(9.19mmol)を添加し、重合を開始した。重合開始から2時間経過後(nBAの重合転化率89%)に、メタクリル酸メチル 500g(4.99mol)、トルエン 50g及びDMF 450gを添加した。
更に重合開始から4時間経過後と6時間経過後に、それぞれ臭化第一銅 0.675g(4.70mmol)及びPMDETA 1mL(4.79mmol)を添加した。重合開始から9時間経過後に丸底フラスコを冷却して重合を終了させ、重合溶液を得た。重合終了時点のメタクリル酸メチルの重合転化率は73%で、GPCによるMnは57800、PDIは1.41であった。
【0033】
(水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)との反応)
50mL丸底フラスコに、重合溶液 12g(0.088mmol;重合開始剤量より算出)、DMF 16gを加え、よく混合した。撹拌中にNaBH 0.134g(3.54mmol;重合体のmol数に対して40倍量)を少しずつ添加し、窒素雰囲気下、室温で6時間反応させた。
反応溶液をアセトンで希釈し、2mol/L塩酸を加えて中性にした。シリカゲルカラムに通し、その溶出液を、2mol/L塩酸を2質量%含有するメタノール中に加えて沈殿させた。沈殿物を回収後、メタノールで洗浄し、60℃で一晩真空乾燥して重合体を得た。重合体のMnは54800、PDIは1.36であった。
【0034】
<比較例1>
実施例1と同様に重合を行なった後、重合溶液をアセトンで希釈してシリカゲルカラムに通し、その溶出液を、2mol/L塩酸を2質量%含有するメタノール中に加えて沈殿させた。沈殿物を回収後、メタノールで洗浄し、60℃で一晩真空乾燥して重合体を得た。重合体のMnは55400、PDIは1.33であった。
【0035】
<実施例2>
50mL丸底フラスコに、比較例1で得た重合体 2.0g(0.036mmol;数平均分子量より算出)、DMF 11.3gを加え、70℃に加温して撹拌し、重合体を溶解させた。丸底フラスコを室温まで冷却し、撹拌中にNaBH 0.054g(1.44mmol;重合体のmol数に対して40倍量)を少しずつ添加し、窒素雰囲気下、室温で6時間反応させた。反応溶液をアセトンで希釈し、メタノール中に加えて沈殿させた。沈殿物を回収後、メタノールで洗浄し、60℃で一晩真空乾燥して重合体を得た。重合体のMnは56500、PDIは1.32であった。
【0036】
<比較例2>
NaBHを添加しないこと以外は、実施例2と同様に操作を行ない、重合体を得た。重合体のMnは55900、PDIは1.33であった。
【0037】
<比較例3>
NaBHの代わりに、水素化トリブチルスズ 1.03g(3.54mmol)を添加すること以外は、実施例1と同様に操作を行ない、重合体を得た。重合体のMnは55200、PDIは1.35であった。
【0038】
<比較例4>
NaBHの代わりに、水素化トリブチルスズ 0.419g(1.44mmol)を添加すること以外は、実施例2と同様に操作を行ない、重合体を得た。重合体のMnは56300、PDIは1.33であった。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例1、2及び比較例1〜4の、重合体の全末端に対する末端ハロゲン及び末端二重結合の割合(%)、熱重量分析による1%及び5%重量減少温度を表1に示す。
【0041】
表1に示すように、NaBHと反応させ、重合体の末端を処理した場合(実施例1及び2)では、未処理(比較例1及び2)と比べて、重合体の全末端に対する末端ハロゲン及び末端二重結合の割合が低減した。また、1%及び5%重量減少温度が上昇し、耐熱分解性の顕著な向上が見られた。
重合後の重合溶液で反応を行なった場合(実施例1)と、精製した重合体の溶液で反応を行なった場合(実施例2)の、いずれにおいても効果が見られた。
【0042】
水素化トリブチルスズ(比較例3及び4)を用いて同様の反応を行なったところ、未処理(比較例1及び2)と比べて、重合体の全末端に対する末端ハロゲン及び末端二重結合の割合が低減したが、NaBHを用いた場合と比べ、トータルの末端残存割合は多く、重量減少温度もNaBHほどには上昇しなかった。
【0043】
このように、遷移金属錯体を重合触媒とし、有機ハロゲン化物を重合開始剤する制御ラジカル重合において得られた、末端にハロゲン及び二重結合を有する重合体を、水素化ホウ素化合物と反応させることにより、末端ハロゲン及び末端二重結合が共に低減し、耐熱分解性が向上することが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属錯体を重合触媒とし、有機ハロゲン化物を重合開始剤として用いる制御ラジカル重合で得られた末端ハロゲン及び末端二重結合を有する重合体を、水素化ホウ素化合物で処理することにより該末端ハロゲン及び該末端二重結合を低減する、重合体の製造方法。
【請求項2】
前記水素化ホウ素化合物が水素化ホウ素ナトリウムである請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−208047(P2011−208047A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78120(P2010−78120)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】