説明

重合性組成物及び架橋性樹脂並びにそれの製造方法

【課題】電気回路基板に使用する電気材料等として好適な架橋性樹脂を得ることができる重合性組成物及びそれを用いて得られる架橋性樹脂、これらの製造方法、並びに電気絶縁性、密着性、機械的強度、耐熱性、誘電特性などの特性に優れた架橋体、複合体、積層体などの用途を提供する。
【解決手段】ベンジリデン(1,3−ジメチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどを含むメタセシス重合触媒と、2−ノルボルネン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのシクロオレフィンモノマーと、アリルメタクリレートなどの連鎖移動剤と、多孔質シリカなどの多孔質体とを混合し重合性組成物を得た。該重合性組成物を支持体に塗布または含浸し、塊状重合して架橋性樹脂複合体を得、該複合体を架橋することによって、架橋樹脂複合体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物及び架橋性樹脂並びにそれの製造方法に関する。より詳細には、電気回路基板に使用する電気材料等として好適な架橋性樹脂を得ることができる重合性組成物、及びそれを用いて得られる架橋性樹脂、架橋性樹脂等の製造方法、並びに電気絶縁性、耐熱性、誘電特性などに優れた架橋体、複合体、積層体などの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を有機過酸化物などの架橋剤で架橋させることによって架橋成形品が得られる。この架橋成形品を得るための架橋可能な熱可塑性樹脂が種々検討されている。
例えば、特許文献1には、ノルボルネン系モノマー、メタセシス重合触媒、連鎖移動剤及び架橋剤を含む重合性組成物が開示されている。特許文献1によれば、この重合性組成物は、流動性を有しているので、支持体である不織布などにしみ込ませたり、フィルム状に成形したりすることができる。そして、この重合性組成物を塊状重合することによって架橋可能な熱可塑性樹脂が得られる。また、この架橋可能な熱可塑性樹脂を金属箔等の基材と積層し、架橋することによって様々な架橋樹脂複合体が得られることが特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2004−244609号公報
【0003】
特許文献2には、平均粒径が1〜50μm、空隙率が0.2以上、且つ、平均空孔径が10〜100nmである多孔質無機微粒子、及び、絶縁性樹脂を含有する絶縁性樹脂組成
物が開示されている。この絶縁性樹脂組成物に硬化剤や架橋剤を配合し、硬化または固化させることが開示されている。かかる絶縁性樹脂組成物は、多孔質無機微粒子と絶縁性樹脂に、必要に応じて他の成分を加え、溶剤と均一に混合するか、または溶融混練することにより製造される。
【特許文献2】特開2006−77172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者の検討によると、上記特許文献に開示されている樹脂等で得られる架橋体は、高周波数の電気伝導特性に影響する比誘電率が十分に低くなく、低誘電率と低線膨張率との両立が困難であった。また、はんだ耐熱性(はんだによって膨れが生じ難い性質)に乏しかった。
【0005】
本発明の目的は、電気回路基板に使用する電気材料等として好適な架橋性樹脂を得ることができる重合性組成物、及びそれを用いて得られる架橋性樹脂、架橋性樹脂等の製造方法、並びに電気絶縁性、耐熱性、誘電特性などに優れた架橋体、複合体、積層体などの用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、シクロオレフィンモノマー、およびメタセシス重合触媒を含む重合性組成物において、連鎖移動剤、および多孔質体を含有させてなる重合性組成物を塊状重合して得られる架橋性樹脂を用いることによって、電気絶縁性、耐熱性、誘電特性などに優れた架橋体が得られることを見出した。本発明は、この知見に基づき、さらに検討し、完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を含むものである。
(1) シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、連鎖移動剤、および多孔質体を含む重合性組成物。
(2) 多孔質体の一次粒子のメディアン径が50μm以下である前記の重合性組成物。
(3) 多孔質体の平均細孔径が0.1〜100nmである前記重合性組成物。
(4) 多孔質体の空隙率が10体積%以上である前記の重合性組成物。
(5) メタセシス重合触媒がルテニウムカルベン錯体である前記の重合性組成物。
(6) さらに架橋剤を含む前記の重合性組成物。
【0008】
(7) 前記の重合性組成物を塊状重合して得られる、架橋性樹脂。
(8) 前記の重合性組成物を塊状重合する工程を含む、架橋性樹脂の製造方法。
(9) 前記の重合性組成物を支持体に塗布または含浸し、塊状重合する工程を含む、架橋性樹脂複合体の製造方法。
(10) 前記の架橋性樹脂を架橋する工程を含む、架橋体の製造方法。
(11) 前記の架橋性樹脂の成形体を支持体上で架橋する工程を含む、架橋樹脂複合体の製造方法。
(12) 前記の架橋性樹脂複合体の製造方法で得られる架橋性樹脂複合体を架橋する工程を含む、架橋樹脂複合体の製造方法。
(13) 前記架橋を別の支持体上で行う、前記の架橋樹脂複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の重合性組成物を塊状重合し次いで架橋させると、電気絶縁性、耐熱性、誘電特性などの特性に優れ、低誘電率と低線膨張率との両立がなされた架橋体が得られる。
この架橋体を、フィルム状の基材に積層することによって、又は繊維材と複合することによって、上記特性を備えた複合体を得ることができる。
本発明の重合性組成物を用いて得られた架橋体、及び複合体は、電気回路基板に使用する電気材料等として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[重合性組成物]
本発明の重合性組成物は、シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、連鎖移動剤、および多孔質体を含むものである。
【0011】
(1)シクロオレフィンモノマー
重合性組成物を構成するシクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、該環中に炭素−炭素二重結合を有する化合物である。その例として、ノルボルネン系モノマーが挙げられる。ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環を含むモノマーである。具体的には、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類などが挙げられる。これらは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭化水素基や、カルボキシル基又は酸無水物基などの極性基が置換基として含まれていてもよい。また、ノルボルネン環の二重結合以外に、さらに二重結合を有していてもよい。これらの中でも、極性基を含まない、すなわち炭素原子と水素原子のみで構成されるノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0012】
極性基を含まないノルボルネン系モノマーとしては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エンとも言う。)などのジシクロペンタジエン類;
【0013】
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロヘキシルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロペンチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチレンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−ビニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−プロペニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロヘキセニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロペンテニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのテトラシクロドデセン類;
【0014】
2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−デシル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシル−2−ノルボルネン、5−シクロペンチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキセニル−2−ノルボルネン、5−シクロペンテニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンとも言う。)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンとも言う。)などのノルボルネン類;
【0015】
ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ−4,10−ジエン、ペンタシクロ[9.2.1.14,7.02,10.03,8]ペンタデカ−5,12−ジエン、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]ヘプタデカ−4−エンなどの五環体以上の環状オレフィン類;などが挙げられる。
【0016】
極性基を含むノルボルネン系モノマーとしては、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−メタノール、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸無水物、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、酢酸5−ノルボルネン−2−イル、5−ノルボルネン−2−メタノール、5−ノルボルネン−2−オール、5−ノルボルネン−2−カルボニトリル、2−アセチル−5−ノルボルネン、7−オキサ−2−ノルボルネンなどが挙げられる。
【0017】
また、本発明においては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィン及び置換基を有するそれらの誘導体を上記ノルボルネン系モノマーに添加して重合に供することができる。これらのシクロオレフィンモノマーは1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上のモノマーを併用し、そのブレンド比を変化させることで、得られる架橋性樹脂成形体のガラス転移温度や溶融温度を自由に制御することが可能である。単環シクロオレフィン類及びそれらの誘導体の添加量は、シクロオレフィンモノマーの全量に対して、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。添加量が40質量%を超えると、塊状重合により得られる重合体の耐熱性が不十分となる場合がある。
【0018】
(2)メタセシス重合触媒
重合性組成物を構成するメタセシス重合触媒は、シクロオレフィンモノマーを、メタセシス開環重合させるものであれば特に限定されない。
メタセシス重合触媒としては、遷移金属原子を中心にして、イオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が複数結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表、以下同じ)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、好ましい5族の原子としてはタンタルが挙げられ、好ましい6族の原子としては、モリブデン、タングステンが挙げられ、好ましい8族の原子としては、ルテニウム、オスミウムが挙げられる。
【0019】
これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体をメタセシス重合触媒として用いることが好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性が優れるため、後架橋可能な架橋性樹脂の生産性に優れ、残留未反応モノマーに由来する臭気が少ない架橋性樹脂を得ることができる。また、8族のルテニウムやオスミウムの錯体は、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも架橋性樹脂の生産が可能である。
【0020】
ルテニウムカルベン錯体は、下記の式(1)又は式(2)で表されるものである。
【0021】
【化1】

【0022】
式(1)及び(2)において、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい炭素数1〜20の炭化水素基を表す。X1及びX2は、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示す。L1及びL2はそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物又は中性電子供与性化合物を表す。また、RとRは互いに結合して環を形成してもよい。さらに、R、R、X1、X2、L1及びL2は、任意の組合せで互いに結合して多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0023】
ヘテロ原子とは、周期律表第15族及び第16族の原子を意味し、具体的には、N、O、P、S、As、Se原子などを挙げることができる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、N、O、P、S原子などが好ましく、N原子が特に好ましい。
【0024】
ヘテロ原子含有カルベン化合物は、カルベン炭素の両側にヘテロ原子が隣接して結合していることが好ましく、さらにカルベン炭素原子とその両側のヘテロ原子とを含むヘテロ環が構成されているものがより好ましい。また、カルベン炭素に隣接するヘテロ原子には嵩高い置換基を有していることが好ましい。
【0025】
ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、下記の式(3)又は式(4)で示される化合物が挙げられる。
【0026】
【化2】

【0027】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい炭素数1〜20個の炭化水素基を表す。また、R〜Rは任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0028】
前記式(3)または式(4)で表される化合物としては、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1−シクロヘキシル−3−メシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0029】
また、前記式(3)または式(4)で示される化合物のほかに、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、1,3,4−トリフェニル−4,5−ジヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、3−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−2,3−ジヒドロチアゾール−2−イリデンなどのヘテロ原子含有カルベン化合物も用い得る。
【0030】
前記式(1)及び式(2)において、アニオン(陰イオン)性配位子X1、X2は、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、F、Cl、Br、Iなどのハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0031】
また、中性の電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子であればいかなるものでもよい。その具体例としては、カルボニル、アミン類、ピリジン類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、チオエーテル類、芳香族化合物、オレフィン類、イソシアニド類、チオシアネート類などが挙げられる。これらの中でも、ホスフィン類、エーテル類及びピリジン類が好ましく、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
【0032】
前記式(1)で表される錯体化合物としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)[(フェニルチオ)メチレン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−ピロリドン−1−イルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、LおよびLの一方がへテロ原子含有カルベン化合物であり、他方が中性の電子供与性化合物であるルテニウム錯体化合物;
【0033】
ベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)ビス(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、LおよびLの両方が中性の電子供与性化合物であるルテニウム化合物;
【0034】
ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドなどの、LおよびLの両方がヘテロ原子含有カルベン化合物であるルテニウム錯体化合物;などが挙げられる。
【0035】
前記式(2)で表される錯体化合物としては、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(フェニルビニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(t−ブチルビニリデン)(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリン−2−イリデン)フェニルビニリデンルテニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0036】
これらの錯体化合物の中でも、前記式(1)で表され、かつ配位子として前記式(4)で表される化合物を1つ有するものが最も好ましい。
【0037】
これらのルテニウム錯体触媒は、Org. Lett., 1999年, 第1巻, 953頁; Tetrahedron. Lett., 1999年, 第40巻, 2247頁などに記載された方法によって製造することができる。
【0038】
メタセシス重合触媒の使用量は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0039】
メタセシス重合触媒は必要に応じて、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では、工業的に汎用な芳香族炭化水素や脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素の使用が好ましい。また、メタセシス重合触媒としての活性を低下させないものであれば、液状の老化防止剤、液状の可塑剤、液状のエラストマーを溶剤として用いてもよい。
【0040】
メタセシス重合触媒は、活性剤(共触媒)と併用することもできる。活性剤は、重合活性を制御し、重合反応率を向上させる目的で添加されるものである。活性剤としては、アルミニウム、スカンジウム、スズのアルキル化物、ハロゲン化物、アルコキシ化物及びアリールオキシ化物などを例示することができる。
【0041】
活性剤としては、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。
活性剤の使用量は、(メタセシス重合触媒中の金属原子:活性剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0042】
また、メタセシス重合触媒として、5族及び6族の遷移金属原子の錯体を用いる場合には、メタセシス重合触媒及び活性剤は、いずれもモノマーに溶解して用いる方が好ましいが、生成物の性質を本質的に損なわない範囲であれば少量の溶剤に懸濁又は溶解させて用いることができる。
【0043】
(3)連鎖移動剤
本発明の重合性組成物は、さらに重合反応の連鎖移動剤を含有する。
連鎖移動剤としては、通常、置換基を有していてもよい鎖状のオレフィン類を用いることができる。
具体的には、1−ヘキセン、2−ヘキセンなどの脂肪族オレフィン類;スチレン、ジビニルベンゼン、スチルベンなどの芳香族基を有するオレフィン類;ビニルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素基を有するオレフィン類;エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;メチルビニルケトン、1,5−ヘキサジエン−3−オン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン−3−オンなどのビニルケトン類;アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレート;アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシラン、アリルジメチルビニルシラン;アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル;アリルアミン、2−(ジエチルアミノ)エタノールビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリン;などが挙げられる。
【0044】
これらの連鎖移動剤の中でも、上記置換基として、架橋に寄与する基を有するものが好ましい。架橋に寄与する基とは、具体的には、炭素−炭素二重結合を有する基であり、ビニル基、アクリロイル基およびメタクリロイル基等が挙げられる。特に、式(A):CH2=CH−Y−OCO−CR=CH2で表される化合物が好ましい。式(A)中のYはアルキレン基、Rは水素原子又はメチル基である。
アルキレン基の炭素数は特に制限されないが、通常1〜20、好ましくは4〜12である。この構造の連鎖移動剤を用いることで、より強度の高い架橋樹脂成形体または架橋樹脂複合体を得ることが可能になる。
式(A)で表される化合物としては、メタクリル酸アリル、メタクリル酸3−ブテン−1−イル、アクリル酸アリル、アクリル酸3−ブテン−1−イル、メタクリル酸ウンデセニル、メタクリル酸ヘキセニルなどが挙げられる。中でも、メタクリル酸ウンデセニルおよびメタクリル酸ヘキセニルが特に好ましい。
【0045】
連鎖移動剤の添加量は、前記シクロオレフィンモノマーの全量に対して、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。連鎖移動剤の添加量がこの範囲であるときに、重合反応率が高く、しかも後架橋可能な熱可塑性樹脂を効率よく得ることができる。
【0046】
(4)多孔質体
本発明に用いられる多孔質体は、小さい気孔を多数有し、該気孔の一部が粒子表面で開口しているものである。多孔質体の形状は特に限定されないが、球状、板状、不定形、棒状、繊維状などが挙げられ、好ましくは球状または不定形の粒子である。これらを用いると充填性に優れ、かつ得られる架橋体等の、場所による誘電率のバラつきを小さくできる。
【0047】
多孔質体は一次粒子の数基準粒度分布におけるメディアン径が、通常50μm以下、好ましくは0.01〜50μm、より好ましいものは0.05〜25μm、さらに好ましくは0.05〜10μm、特に好ましくは0.1〜5μmである。
メディアン径が小さすぎる多孔質体は製造が困難であり、充分な空隙率を得られない場合がある。また重合性組成物や後述するモノマー液の粘度が高くなり成形性が低下する場合がある。メディアン径が大きすぎると、得られる架橋体等の、場所による誘電率のバラつきが大きくなる傾向がある。また厚さの薄い架橋体等を製造することが困難で、かつドリル加工性やめっき性も低下するおそれがある。
【0048】
また多孔質体は空隙率が好ましくは10体積%以上、より好ましくは30体積%以上、さらに好ましくは40〜90体積%、特に好ましくは50〜80体積%である。空隙率が小さすぎると比誘電率を下げる効果が小さくなりやすい。空隙率が大きすぎると、多孔質体の強度が不足し破壊しやすくなる。ここで空隙率は、衝撃法で求められる全粒子体積(ml/g)と、BET法により求められる細孔体積(ml/g)とから、空隙率(%)=〔細孔体積(ml/g)/全粒子体積(ml/g)〕×100で求められる値である。
【0049】
多孔質体のDollimore−Heal法(DH法)による平均細孔径は、好ましくは0.1〜100nm、より好ましくは0.1〜50nm、さらに好ましくは1〜10nmである。ここでDH法とは、細孔を円筒形と仮定して吸着ガスの相対圧と吸着量の増分から細孔直径の体積頻度分布を求める解析法である。平均細孔径が小さすぎると、線膨張率の低減効果が小さくなりやすい。一方平均細孔径が大きすぎると、気孔が樹脂等で埋まり、比誘電率の低下効果が小さくなりやすい。
【0050】
また細孔体積は、好ましくは0.1〜5ml/g、より好ましくは0.3〜3ml/g、特に好ましくは0.5〜2ml/gである。
細孔体積が小さすぎると比誘電率を下げる効果が小さくなりやすい。大きすぎると多孔質体の製造が困難になる。
多孔質体のBET比表面積は、好ましくは1〜3,000m/g、より好ましくは100〜1,000m/gである。
【0051】
多孔質体は重合性組成物中において、多孔質体の凝集体として分散していてもよいが、多孔質体が一次粒子となって分散している方が好ましい。
【0052】
多孔質体としては、無機多孔質体と有機多孔質体が挙げられる。
無機多孔質体としては、無機フィラーとして従来公知の材質からなるものを用いることができる。例えば、酸化物、窒化物、ホウ化物、水酸化物およびこれらの水和物などが挙げられる。中でも、好ましくは酸化物、窒化物、ホウ化物であり、多孔質体の製造が容易であり、また線膨張率が小さいので、より好ましくは酸化物である。
また無機中空粒子の構成元素としては、Si、Al、B、Zr、Ti、Fe、Ca、Sn、Ce、P、Mo、Zn、W、Ni、Cu、NbおよびMgからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素が挙げられる。
【0053】
具体的には、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、ゼオライト、酸化チタン(TiO)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)、チタン酸バリウム(BaTiO)、シラス、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、シラス、ほう酸アルミニウム、ボロンナイト、炭酸カルシウム、酸化鉛、酸化すず、酸化セリウム、酸化カルシウム、四酸化三マンガン、酸化マグネシウム、セリウムジルコネイト、カルシウムシリケート、ジルコニウムシリケート、ITO、チタンシリケート等の多孔体を挙げることができる。
さらに、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機材料粉末を焼結した多孔質体を挙げることができる。
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、Siを含むものが好ましく、SiO、SiC、Si、シラス、およびガラスを主成分とするものがより好ましく、SiO、シラス、およびガラスが特に好ましい。
【0054】
また無機多孔質体として、走査電子顕微鏡で観測して求められる数平均粒径が100nm以下の無機微粒子からなる凝集体も利用できる。無機微粒子の凝集体としてのメディアン径は、通常50μm以下、より好ましくは0.01〜50μmである。また、界面活性剤のミセルをテンプレートとして利用しゾルゲル法によって合成した粒子も用いることができる。
【0055】
有機多孔質体としては、特に限定されず、エラストマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などからなるものが使用できる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリジビニルベンゼン、ポリシクロオレフィン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルフォン、アクリル樹脂、シリコーン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルニトニル、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、テフロン(登録商標)などフッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アラミド樹脂、トリアジン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾシクロブテン、ポリエポキシアクリレート等からなる多孔質体が挙げられる。これらの中でも耐熱性の面で架橋構造を有する有機材料からなるものがよい。
これらは一種単独または二種以上を含んで用いても良い。
またこれら有機材料の分子量は特に規定されない。有機材料としては極性基の少ない樹脂が好ましい。特にシクロオレフィンモノマーに完全に溶解しないものが好ましい。また、誘電率の低い樹脂が好ましい。さらに、線膨張率が低下するため熱硬化性樹脂が好ましい。
【0056】
これらの有機多孔質体の製造法は特に限定されない。例えば乳化重合、懸濁重合など公知の方法で製造すればよい。
【0057】
多孔質体の表面吸着水の量は、150℃で1時間、熱風乾燥機中で乾燥することによる加熱減量として測定される。表面吸着水の含有量は、通常5質量%以下であり、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下である。多過ぎれば乾燥工程を要するなど生産効率が低下し、シクロオレフィンモノマーの重合が充分進行しないなどの問題が生じやすい。
【0058】
多孔質体は、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤、シラザン類、オルガノシロキサン等の反応性化合物や、樹脂等により表面処理されたものあってもよい。このような表面処理を行った多孔質体を用いることにより、当該多孔質体とシクロオレフィンモノマーを重合して得られる樹脂との界面密着性をコントロールすることができ、それによって機械的強度の向上が期待できる。
【0059】
カップリング剤としては、公知のものが使用できる。具体的にはアリルトリメトキシシラン、3−ブテニルトリメトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、N−β−(N−(ビニルベンジル)アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、スチリルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、β−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、δ−メタクリロキシブチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0060】
アルミネートカップリング剤としては、例えば、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロポキシモノエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0061】
チタネートカップリング剤としては、例えば、トリイソステアロイルイソプロピルチタネート、ジ(ジオクチルホスフェート)ジイソプロピルチタネート、ジドデシルベンゼンスルフォニルジイソプロピルチタネート、ジイソステアリルジイソプロピルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート等が挙げられる。
【0062】
シラザン類としては、ヘキサメチルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジブチルテトラメチルジシラザン、ジフェニルテトラメチルジシラザンなどが挙げられる。
この中でも、密着性の点で、二重結合など反応性基を持つシランカップリング剤やシラザンなどが好ましい。
【0063】
樹脂で表面被覆を行う場合は、その被覆方法などは公知の方法で行えばよい。具体的には、樹脂溶液中に多孔質体を加え、分散させた後に溶剤を除去する方法や、モノマーが存在する溶液中に多孔質体を加え、分散させた状態で重合を行い、被覆に用いる樹脂を形成する方法などが挙げられる。
これらの方法に用いる溶剤は特に限定されない。
【0064】
重合性組成物中での多孔質体の含有率は、通常0.1〜80体積%、好ましくは0.5〜60体積%、より好ましくは1〜50体積%、特に好ましくは5〜40体積%である。
また通常0.01〜95質量%、好ましくは0.1〜75質量%、より好ましくは1〜60質量%、特に好ましくは5〜50質量%、最も好ましくは5〜40質量%である。
【0065】
(5)架橋剤
重合性組成物は、塊状重合後に架橋性を有する樹脂とするために、架橋剤を含有することが好ましい。
架橋剤としては、例えば、ラジカル発生剤、エポキシ化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、酸無水物基含有化合物、アミノ基含有化合物、ルイス酸などが挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ラジカル発生剤、エポキシ化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、酸無水物基含有化合物の使用が好ましく、ラジカル発生剤、エポキシ化合物、イソシアネート基含有化合物の使用がより好ましく、ラジカル発生剤の使用が特に好ましい。
【0066】
ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物、非極性ラジカル発生剤などが挙げられる。
有機過酸化物は特に限定されないが、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナートt−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキサシド類およびペルオキシケタール類;などが挙げられる。中でも、メタセシス重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシドおよびペルオキシケタール類が好ましい。
【0067】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルホン、4,4’−ジアジドジフェニルメタン、2,2’−ジアジドスチルベンなどが挙げられる。
【0068】
本発明に用いられる非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジフェニルブタン、1,4−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2,2−テトラフェニルエタン、2,2,3,3−テトラフェニルブタン、3,3,4,4−テトラフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルプロパン、1,1,2−トリフェニルエタン、トリフェニルメタン、1,1,1−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニルプロパン、1,1,1−トリフェニルブタン、1,1,1−トリフェニルペンタン、1,1,1−トリフェニル−2−プロペン、1,1,1−トリフェニル−4−ペンテン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0069】
これらの架橋剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の架橋剤を併用し、そのブレンド比を変化させることで、得られる架橋性樹脂のガラス転移温度や溶融状態を自由に制御することが可能である。
【0070】
架橋剤の使用量は、シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、通常0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部である。架橋剤の量があまりに少ないと架橋が不十分となり、高い架橋密度の架橋樹脂が得られなくなるおそれがある。架橋剤の量が多すぎる場合には、架橋効果が飽和する一方で、所望の物性を有する熱可塑性樹脂及び架橋樹脂が得られなくなるおそれがある。
【0071】
また本発明においては、架橋反応を促進させるために、架橋助剤を使用することができる。架橋助剤としては、p−キノンジオキシムなどのジオキシム化合物;ラウリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクレートなどのメタクリレート化合物;ジアリルフマレートなどのフマル酸化合物:ジアリルフタレートなどのフタル酸化合物、トリアリルシアヌレートなどのシアヌル酸化合物;マレイミドなどのイミド化合物;などが挙げられる。架橋助剤の使用量は特に制限されないが、シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、通常0〜100質量部、好ましくは0〜50質量部である。
【0072】
(6)その他の添加剤
前記重合性組成物には、各種の添加剤、例えば、重合反応遅延剤、ラジカル架橋遅延剤、強化材、改質剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤、光安定剤などを含有させることができる。また、上記多孔質体以外の充填材を添加してもよい。その形状は特に限定されないが、球状、不定形、棒状、板状、中空状などが挙げられる。充填材の材質は特に限定されず、上記多孔質体と同様のものを用いることができる。これらは、後述するモノマー液又は触媒液にあらかじめ溶解又は分散させて用いることができる。
【0073】
重合反応遅延剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィンなどのホスフィン類;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;が挙げられる。中でも、本発明の重合性組成物の可使時間を効率よく制御でき、重合反応の阻害が少ないので、ホスフィン類が好ましい。
また、ノルボルネン系モノマーと共重合可能な環状オレフィン系モノマーのうち、分子内に1,5−ジエン構造や1,3,5−トリエン構造を有する環状オレフィンは重合反応遅延剤としても機能する。このような化合物としては、1,5−シクロオクタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。
【0074】
ラジカル架橋遅延剤としては、アルコキシフェノール類、カテコール類、ベンゾキノン類が挙げられ、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソールなどのアルコキシフェノール類が好ましい。
【0075】
強化材としては、ガラス繊維などの無機強化材、および紙基材やアラミド繊維などの有機強化材などが挙げられる。
【0076】
改質剤としては、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及びこれらの水素化物などのエラストマーなどが挙げられる。
【0077】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系、リン系、アミン系などの各種のプラスチック・ゴム用酸化防止剤などが挙げられる。これらの酸化防止剤は単独で用いてもよいが、二種以上を組合せて用いることが好ましい。
【0078】
難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物系難燃剤、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、などが挙げられる。難燃剤は単独で用いてもよいが、二種以上を組合せて用いることが好ましい。
【0079】
着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。
【0080】
重合性組成物は、その調製する方法によって特に制約されない。重合性組成物は、例えば、メタセシス重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(以下、「触媒液」ということがある。)を調製し、別にシクロオレフィンモノマーに多孔質体、難燃剤などの添加剤を必要に応じて配合した液(以下、「モノマー液」ということがある。)を調製し、該モノマー液に触媒液を添加し、攪拌することによって調製できる。触媒液の添加は次に述べる塊状重合を行う直前に行うことが好ましい。また、連鎖移動剤、架橋剤、ラジカル架橋遅延剤などは、モノマー液と触媒液を混合する前にモノマー液及び/又は触媒液に添加してもよいし、モノマー液と触媒液とを混合した後に添加してもよい。
【0081】
多孔質体をモノマー液に分散させて用いる場合は、モノマー液中の多孔質体の数基準粒度分布において、d90の粒子径が100μm以下の微粒子となっていることが好ましい。なお、d90は、数基準粒度分布において小さい方から累積して90%の粒子を含む粒子径である。d50はメディアン径である。
【0082】
多孔質体をモノマー液に分散させるための分散装置は公知のものを用いることができる。具体的には、ニーダー、ビーズミル、ボールミル、三本ロール、ホモミキサー、超音波分散機、ナノマイザー、アルティマイザー、フィルミックスせん断型湿式ジェットミル、衝突型湿式ジェットミル、高速せん断攪拌機などを適宜使用できる。
これらは一種単独または二種以上を組み合わせても良い。
さらに多孔質体をモノマー液中で微粒化するために多段階で分散処理をすることがより好ましい。例えば、一段目の分散処理でd90粒子径を100μm以下に下げ、次に別な分散機器でさらに分散処理するのが好ましい。
二段目以降の分散処理に好ましく用いられる機器は、高エネルギーをモノマー液に与える機器であり、ホモミキサー、ビーズミル、超音波分散機、ナノマイザーなどのせん断型湿式ジェットミル、アルティマイザーなどの衝突型湿式ジェットミル、およびフィルミックスなどの高速せん断攪拌機などが好ましい。
【0083】
[架橋性樹脂及び架橋性樹脂複合体]
本発明の架橋性樹脂は、前記重合性組成物を塊状重合することによって得られる。
重合性組成物を塊状重合する方法としては、(a)重合性組成物を支持体に注ぐか又は塗布し、塊状重合する方法、(b)重合性組成物を型内に注ぎこみ、塊状重合する方法、(c)重合性組成物を支持体に含浸し塊状重合する方法などが挙げられる。なお、(a)又は(c)の方法によって前記重合性組成物を塊状重合すると、支持体と架橋性樹脂とを含む架橋性樹脂複合体が得られる。
【0084】
(a)の方法によれば、架橋性樹脂と支持体とから形成される架橋性樹脂複合体が得られる。ここで用いる支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ナイロンなどの樹脂;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、銀などの金属材料;などからなるものが挙げられる。その形状は特に限定されないが、金属箔又は樹脂フィルムの使用が好ましい。例えば、支持体に銅箔を用いた場合、樹脂付き銅箔(Resin Coated Copper (RCC))を得ることができる。これら金属箔又は樹脂フィルムの厚さは、作業性などの観点から、通常1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜75μmである。これらの支持体の表面は平滑であることが好ましい。また、これらの支持体表面は、プラズマなどによる酸化処理;黒化処理などの化学処理;シランカップリング剤などによるカップリング剤処理;などの表面処理をしてあることが好ましい。
【0085】
重合性組成物を支持体へ塗布する方法は特に制限されず、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法などの公知の塗布方法が挙げられる。
【0086】
塊状重合はメタセシス重合触媒が機能する温度まで重合性組成物を加熱することによって開始される。
重合性組成物を所定温度に加熱する方法としては特に制約されず、加熱プレート上に載せて加熱する方法、プレス機を用いて加圧しながら加熱(熱プレス)する方法、加熱したローラーで押圧する方法、加熱炉を用いる方法などが挙げられる。
以上のようにして得られる架橋性樹脂フィルムは、厚さが通常15mm以下、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である。
【0087】
(b)の方法によれば、任意の形状の架橋性樹脂の成形体を得ることができる。その形状としては、シート状、フィルム状、柱状、円柱状、多角柱状等が挙げられる。
【0088】
ここで用いる型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造すなわちコア型とキャビティー型を有する成形型を用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型は、目的とする成形品の形状にあった空隙部を形成するように作製される。また、成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。また、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入することにより、シート状又はフィルム状の架橋性樹脂成形体を得ることができる。
【0089】
重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力(注入圧)は、通常0.01〜10MPa、好ましくは0.02〜5MPaである。充填圧力が低すぎると、キャビティー内周面に形成された転写面の転写が良好に行われない傾向にあり、充填圧が高すぎると、成形型の剛性を高くしなければならず経済的ではない。型締圧力は通常0.01〜10MPaの範囲内である。
【0090】
(c)の方法で用いられる支持体は、繊維材である。この方法によれば、架橋性樹脂が繊維材に含浸された架橋性樹脂複合体であるプリプレグを得ることができる。ここで用いる繊維材の材質は、有機及び/又は無機の繊維であり、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、アミド繊維、金属繊維、セラミック繊維、ポリアリレート繊維、フッ素樹脂繊維などの公知のものが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。繊維材の形状としては、マット、クロス、不織布などが挙げられる。また、これらの繊維材はその表面がプラズマなどによる酸化処理;黒化処理などの化学処理;シランカップリング剤などによるカップリング剤処理;などの表面処理をしてあることが好ましい。
【0091】
重合性組成物の繊維材への含浸は、例えば、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法により繊維材に塗布し、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。重合性組成物を繊維材に含浸させた後、含浸物を所定温度に加熱することにより、重合性組成物を塊状重合させることができ、それによって架橋性樹脂が含浸されたプリプレグが得られる。
【0092】
含浸物の加熱方法は特に限定されず、前記(a)の方法と同様の方法が採用でき、含浸物を基材上に設置して加熱してもよい。また、繊維材を設置した型内に重合性組成物を注入し、重合性組成物を含浸させてから前記(b)の方法に従い塊状重合してもよい。
【0093】
重合性組成物は従来の樹脂ワニスと比較して低粘度であり、繊維材に対する含浸性に優れるので、繊維材に架橋性樹脂を均一に含浸させることができる。
また、重合性組成物は反応に関与しない溶媒等の含有量が少ないので、繊維材に含浸させた後に溶媒を除去するなどの工程が不要であり、生産性に優れ、残存溶媒による臭気やフクレ等も生じない。さらに、本発明の架橋性樹脂は保存安定性に優れるので、得られるプリプレグは保存安定性に優れる。
【0094】
上記(a)、(b)及び(c)のいずれの方法においても、重合性組成物を重合させるための加熱温度は、通常50〜250℃、好ましくは100〜200℃である。重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒間から20分間、好ましくは5分間以内である。
【0095】
重合性組成物を所定温度に加熱することにより重合反応が開始する。この重合反応は発熱反応であり、一旦塊状重合が開始すると、反応液の温度が急激に上昇し、短時間(例えば、10秒間から5分間程度)でピーク温度に到達する。重合反応時の最高温度があまりに高くなると、架橋反応が起きて架橋体になってしまい、後架橋可能な架橋性樹脂が得られないおそれがある。したがって、重合反応のみを完全に進行させ、架橋反応が進行しないようにするためには、塊状重合のピーク温度を、前記過酸化物の1分間半減期温度以下、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃未満に制御することが好ましい。
【0096】
本発明の架橋性樹脂は、架橋可能な樹脂である。ここで「架橋可能な」は、樹脂を加熱することによって、架橋反応が進行して架橋体になり得るということである。
また、本発明の架橋性樹脂複合体は、該架橋性樹脂と前記支持体とが一体化されてなる複合材料である。
【0097】
本発明の架橋性樹脂は、前述した重合性組成物の塊状重合反応がほぼ完全に進行するので、残留モノマーが少なくなっており、モノマーに由来する臭気等で作業環境が悪化することがない。また、前記の過酸化物として分解温度の高いものを用いると、架橋時において、架橋性樹脂が適度に流動し、金属箔などの支持体との密着性、配線板への埋め込み性が良好になる。また、上記過酸化物によって得られる架橋体は、誘電損失(tanδ)が著しく小さくなっており、電気特性に優れている。
【0098】
本発明の架橋性樹脂は、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素等の溶媒に可溶であることが好ましい。また、熱可塑性を示すので、架橋反応が起きない程度の温度で溶融成形を行うことによって様々な形状を形成できる。
【0099】
本発明の架橋性樹脂の成形体は、一部分が架橋体になっているものであってもよい。例えば、型内で重合性組成物を塊状重合したときには、型の中心部分は重合反応熱が発散しにくいので、型内の一部の温度が高くなりすぎる場合がある。高温部では架橋反応が起き、架橋体になってしまうことがある。しかし、熱を発散しやすい表面部が後架橋可能な架橋性樹脂で形成されていれば、本発明の架橋性樹脂の成形体としての効果を十分に享受できる。架橋性樹脂の複合体においても、同様に架橋性樹脂の一部が架橋体になっていてもよい。
【0100】
本発明の架橋性樹脂は、塊状重合がほぼ完全に進行して得られるものであるので、保管中にさらに重合反応が進行するという恐れがない。本発明の架橋性樹脂は式(A)で表される構造を有する過酸化物を含有しているが、架橋反応を起す温度以上に加熱しない限り、表面硬度が変化するなどの不具合が生じず、保存安定性に優れている。
【0101】
[架橋体]
本発明の架橋体は前記架橋性樹脂を架橋してなるものである。
架橋性樹脂の架橋は、例えば、本発明の架橋性樹脂を加熱溶融するなどして、架橋性樹脂が架橋反応を起す温度以上に維持することによって行うことができる。架橋性樹脂を架橋させるときの温度は、前記塊状重合時のピーク温度より20℃以上高いことが好ましく、通常170〜250℃、好ましくは180〜220℃である。また、架橋する時間は特に制約されないが、通常数分間から数時間である。
【0102】
架橋性樹脂がシート状又はフィルム状の成形体である場合には、該成形体を基材に必要に応じて積層し、熱プレスする方法が好ましい。熱プレスするときの圧力は、通常0.5〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。熱プレスは、真空または減圧雰囲気下で行ってもよい。熱プレスは、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて行なうことができる。
【0103】
[架橋樹脂複合体]
本発明の架橋樹脂複合体は、前記架橋体と支持体とを含んでなるものである。
本発明の架橋樹脂複合体は、前述の架橋性樹脂複合体を架橋することによって得られる。また、架橋性樹脂成形体を支持体上で加熱して架橋することによって、または、架橋性樹脂複合体を別の支持体上で加熱して架橋することによっても得られる。
【0104】
架橋性樹脂成形体又は架橋性樹脂複合体を支持体上で加熱して架橋する方法としては、板状、フィルム状に成形された架橋性樹脂を、熱プレスによって、支持体に積層させ、さらに加熱を続けることによって架橋性樹脂を架橋することができる。熱プレスの条件は、前記架橋性樹脂を架橋する場合と同様である。
ここで用いられる新たな支持体としては、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔、クロム箔、金箔、銀箔などの金属箔;プリント配線板;導電性ポリマーフィルム、他の樹脂フィルムなどのフィルム類;などが挙げられる。また、該支持体としてプリント配線板を用いると、多層プリント配線板を製造することができる。
【0105】
銅箔などの金属箔やプリント配線板上の導電層は、その表面が、シランカップリング剤、チオール系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、各種接着剤などで処理されているものが好ましい。これらのうちシランカップリング剤で処理されているものが特に好ましい。また、黒化処理などの化学処理を施されているものも好ましい。
【0106】
本発明の架橋性樹脂は流動性及び密着性に優れているので、平坦性に優れ、かつ、支持体との密着性に優れた複合体を得ることができる。本発明の複合体は、例えば、支持体として超平滑(SLP)銅箔を用いた場合には、JIS C6481に基づいて測定した剥離強度が、好ましくは0.4kN/m以上、より好ましくは0.6kN/m以上である。
【0107】
本発明の架橋体及び複合体は、電気絶縁性、機械的強度、耐熱性、誘電特性などに優れている。また複合体は、支持体との密着性が良好であり、電気材料として好適である。
【実施例】
【0108】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り質量基準である。
【0109】
実施例および比較例における各特性は、下記の方法に従い測定、評価した。
(1)混合性
重合性組成物をガラスクロスに含浸して30秒間経過後、重合性組成物中の充填剤(多孔質体)が重合性組成物表面に浮き出て分離しているか否かを目視観察した。
分離無し: ○
分離有り: ×
【0110】
(2)比誘電率
インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー社製、型番号E4991A)を用いて周波数1GHzにおける比誘電率(ε)を容量法にて測定した。
εが3.5未満をA、 3.5以上3.6未満をB、 3.6以上をCと判定した。εが小さいほど、電気特性に優れることを表す。
【0111】
(3)はんだ耐熱性
260℃のはんだ浴に、20秒間、積層板を浮かべ、積層板のフクレ、ゆがみの有無を観察した。
フクレ、ゆがみ;0〜1個 :A
フクレ、ゆがみ;2〜3個 :B
フクレ、ゆがみ;4個以上 :C
【0112】
(4)流動性
積層板をエッチングし、目視観察で白化した部分(流動性不良によるカスレ)の個数を数えた。
A:ゼロ個、B:1〜3個、C:4個以上
【0113】
(5)線膨張率
セイコーインスツル社製の熱分析装置TMASS6100を用いて測定した。エッチングで銅箔を除去した積層板(厚さ1mm)を用い、50℃〜100℃までの線膨張率を測定した。線膨張率が70ppm未満ならA、70以上80ppm未満ならB、80ppm以上ならCとした。
【0114】
実施例1
ガラス製フラスコ中で、ベンジリデン(1,3−ジメチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド51部と、トリフェニルホスフィン79部とを、トルエン952部に溶解させて触媒液を調製した。
ポリエチレン製の瓶にシクロオレフィンモノマーとして2−ノルボルネン(NB)40部およびテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン(TCD)60部を入れ、ここに連鎖移動剤としてアリルメタクリレート0.74部、架橋剤としてジ−t−ブチルペルオキシド(1分間半減期温度186℃)1.2部、分散剤としてトリステアリルイソプロポキシチタネート(プレンアクトTTS、味の素ファインテクノ社製)1部、および多孔質シリカ(E−6C、鈴木油脂社製、メディアン径2μm、細孔体積1.3ml/g、空隙率52体積%、平均細孔径1.06nm)27.7部を加え混合した。次いで上記触媒液をシクロオレフィンモノマー100gあたり0.12mlの割合で加えて撹拌し、重合性組成物を調製した。
【0115】
次いで、この重合性組成物100部をポリエチレンナフタレートフィルム(タイプQ51、厚み75μm、帝人デュポンフィルム社製)の上に流延し、その上にガラスクロス(品番2112、厚み69μm)を敷き、その上に上記重合性組成物80部を流延した。その上からさらにポリエチレンナフタレートフィルムを被せ、ローラーを用いて重合性組成物をガラスクロス全体に浸み込ませた。次いで、これを150℃に熱した加熱炉中に1分間放置して重合性組成物を塊状重合させ、厚さ0.13mmのプリプレグを得た。
【0116】
このプリプレグを100mm角の大きさに切り出し、ポリエチレンナフタレートフィルムを剥離した。それを6枚重ね、熱プレスにて、3MPa、200℃で15分間加熱圧着し、積層板を作製した。この積層板について評価した結果を表1に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
実施例2
多孔質シリカE−6Cに代えて、多孔質シリカ(D−25C、鈴木油脂社製、メディアン径10μm、細孔体積0.5ml/g、空隙率30体積%、平均細孔径1.06nm)19.1部を使用した他は、実施例1と同様にして重合性組成物、プリプレグおよび積層板を得た。各特性を評価した結果を表1に示す。
【0119】
実施例3
NB40部およびTCD60部に代えて、ジシクロペンタジエン(DCP)100部(約10%のシクロペンタジエン3量体を含む)を使用した他は、実施例2と同様にして重合性組成物、プリプレグおよび積層板を得た。各特性を評価した結果を表1に示す。
【0120】
比較例1
多孔質シリカE−6Cに代えて、球状シリカ(FB−105、電気化学工業社製、メディアン径12μm、空隙率0%)100部を使用した他は、実施例1と同様にして重合性組成物、プリプレグおよび積層板を得た。各特性を評価した結果を表1に示す。
【0121】
比較例2
球状シリカFB−105の使用量を50部とした他は、比較例1と同様にして重合性組成物、プリプレグおよび積層板を得た。各特性を評価した結果を表1に示す。
【0122】
比較例3
NB40部およびTCD60部に代えて、ジシクロペンタジエン(DCP)100部(約10%のシクロペンタジエン3量体を含む)を使用し、連鎖移動剤および架橋剤を使用しなかった他は、実施例1と同様にして重合性組成物、プリプレグおよび積層板を得た。各特性を評価した結果を表1に示す。
【0123】
表1に示すように、本発明の実施例は、重合性組成物中から充填剤が浮き出したりということがなく、はんだ耐熱性が高く、線膨張率が低い。特に、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどの極性基を含まないシクロオレフィンモノマー、すなわち炭素原子と水素原子のみで構成されるノルボルネン系モノマーを用いた実施例1及び2は、流動性に優れ、特性バランスが良い。
これに対して非多孔質体を用いた比較例1及び比較例2は、比誘電率、線膨張率などの特性バランスを採る事が難しく、比誘電率を低くしようとすると線膨張率が高くなり、線膨張率を低くしようとすると比誘電率が高くなってしまう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、連鎖移動剤、および多孔質体を含む重合性組成物。
【請求項2】
多孔質体の一次粒子のメディアン径が50μm以下である請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
多孔質体の平均細孔径が0.1〜100nmである請求項1または2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
多孔質体の空隙率が10体積%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項5】
メタセシス重合触媒がルテニウムカルベン錯体である請求項1〜4のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項6】
さらに架橋剤を含む請求項1〜5のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の重合性組成物を塊状重合して得られる、架橋性樹脂。
【請求項8】
請求項6に記載の重合性組成物を塊状重合する工程を含む、架橋性樹脂の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の重合性組成物を支持体に塗布または含浸し、塊状重合する工程を含む、架橋性樹脂複合体の製造方法。
【請求項10】
請求項7に記載の架橋性樹脂を架橋する工程を含む、架橋体の製造方法。
【請求項11】
請求項7に記載の架橋性樹脂の成形体を支持体上で架橋する工程を含む、架橋樹脂複合体の製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載の架橋性樹脂複合体の製造方法で得られる架橋性樹脂複合体を架橋する工程を含む、架橋樹脂複合体の製造方法。
【請求項13】
前記架橋を別の支持体上で行う、請求項12に記載の架橋樹脂複合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−163249(P2008−163249A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355921(P2006−355921)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】