説明

重心位置推定装置、車両、および重心位置推定方法、並びにプログラム

【課題】被牽引車の前後の重心の偏りに影響されることなく被牽引車の左右の重心の偏りを正しく推定することを自動的に実行する。
【解決手段】車両の偏り荷重値を所定のサンプリング周期毎に記憶する偏り荷重値記憶部28と、エアベローズ内の空気圧の変化に応じ、荷台への貨物の積載開始を判定すると共に、荷台への貨物の積載開始を判定したときからの空気圧の変化に応じ、荷台への貨物の積載完了を判定する偏り荷重値取得部29とを有し、偏り荷重値取得部29は、積載完了と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間に偏り荷重値記憶部28に記憶された偏り荷重値のサンプリング値の平均値から積載開始と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間に偏り荷重値記憶部28に記憶された偏り荷重値のサンプリング値の平均値を減算する左右重心位置推定装置20を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重心位置推定装置、車両、および重心位置推定方法、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
運転操作に伴う車両の挙動を推定し、車両が安定して走行できるような運転操作を励行することは安全運転の上で重要である。ここで運転操作に伴う車両の挙動を推定するために、車両の重心位置を特定することが有用である。このとき乗用車では、運転者が一人で乗車しているときと、乗車定員の上限人数で乗車しているときとで重心位置は多少の変化はするものの運転操作に伴う車両の挙動に変化を生じさせるほどではない。一方、トラックなどの貨物車両では、積載貨物の状態に応じて車両の重心位置が大きく変化する。
【0003】
特に、貨物がコンテナである場合、一般的に、コンテナは荷主が所有するものであり、通常、コンテナへの貨物の積載は、運送業者の監視下では行われない。さらに、コンテナは荷主によって封印が施される。このため運送業者が荷主の許可を得ずコンテナを開封することはできない。したがって、運送業者側では、目視によってコンテナ内の貨物の積載状況を確認することは困難である。
【0004】
しかしながら、コンテナ内の積荷の偏りが運転に大きく影響する。たとえばコンテナ内の積荷がこのコンテナを積載した車両の進行方向に対して左右のいずれか一方に大きく偏っているような場合(以下では、単に「左右」といえば進行方向に対して「左右」であることとする。)、コンテナを積載した車両の重心位置も左右のいずれか一方に大きく偏ることになる。この場合、車両の運転者は、重心位置が偏っている側の反対側への旋回については左右方向の傾斜角度が大きくならないように注意深く配慮しながら運転を行う必要がある。
【0005】
このような問題を解決するために、たとえば特許文献1では、車両が牽引車と被牽引車とからなる連結車である場合、牽引車の左右に設けた車高センサによって、被牽引車を牽引車に連結する際の牽引車の姿勢変化(左右の傾き)が検出され、この姿勢変化の大きさに応じて被牽引車の重心位置の左右への偏りの大きさが判定される。そして、被牽引車の積荷に左右の偏りが生じている場合、これを判定して運転者に警告を行ったり、牽引車の減速を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−166745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、被牽引車を牽引車に連結する際の牽引車の姿勢変化(左右の傾き)の大きさに応じて被牽引車の重心位置の左右への偏りの大きさを判定することはできるが、被牽引車における進行方向に対して前後(以下では、単に「前後」といえば進行方向に対して「前後」であることとする。)の積荷の偏りは判定できない。これにより以下のような問題が生ずる。
【0008】
たとえば被牽引車の前方に積荷が偏り、これにより重心が大きく被牽引車の前方に偏っている場合には、牽引車の車輪が荷重の多くを支えるため、牽引車にかかる荷重は大きくなる。このような状態では、被牽引車を牽引車に連結した際の牽引車の姿勢変化は大きく、実際の被牽引車の左右の重心の偏りをほぼ正しく推定することが可能である。
【0009】
これに対し、たとえば被牽引車の後方に積荷が偏り、これにより重心が大きく被牽引車の後方に偏っている場合には、被牽引車自体の車輪が荷重の多くを支えるため、牽引車にかかる荷重は小さくなる。このような状態では、被牽引車を牽引車に連結した際の牽引車の姿勢変化は小さく、実際の被牽引車の左右の重心の偏りを正しく推定することはできない。
【0010】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、車両の前後の重心の偏りに影響されることなく車両の左右の重心の偏りを正しく推定することができる重心位置推定装置、車両、および重心位置推定方法、並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一つの観点は、重心位置推定装置としての観点である。本発明の重心位置推定装置は、荷台とエアベローズとを有し、貨物が荷台に積載されることにより車高が所定の高さよりも沈むときにはエアベローズ内の空気圧を制御して車高を所定の高さに保つように調整される車両の重心位置を推定する重心位置推定装置において、車両の偏り荷重値を所定のサンプリング周期毎に記憶する偏り荷重値記憶手段と、エアベローズ内の空気圧の変化に応じ、荷台への貨物の積載開始を判定する第一の判定手段と、第一の判定手段が荷台への貨物の積載開始を判定したときからの空気圧の変化に応じ、荷台への貨物の積載完了を判定する第二の判定手段と、第二の判定手段が積載完了と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間に偏り荷重値記憶手段に記憶された偏り荷重値のサンプリング値の平均値から第一の判定手段が積載開始と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間に偏り荷重値記憶手段に記憶された偏り荷重値のサンプリング値の平均値を減算する偏り荷重値取得手段と、を有するものである。
【0012】
さらに、第一の判定手段が荷台への貨物の積載開始を判定したときから所定の時間以内に第二の判定手段が荷台への貨物の積載完了を判定しないときには、第一の判定手段の判定結果を無効とすることができる。
【0013】
さらに、偏り荷重値取得手段の減算結果が所定の閾値以上、または超えているときには、警報を発出する警報手段を有することができる。
【0014】
本発明の他の観点は、車両としての観点である。本発明の車両は、本発明の重心位置推定装置を有するものである。
【0015】
本発明のさらに他の観点は、重心位置推定方法としての観点である。本発明の重心位置推定方法は、荷台とエアベローズとを有し、貨物が荷台に積載されることにより車高が所定の高さよりも沈むときにはエアベローズ内の空気圧を制御して車高を所定の高さに保つように調整される車両の重心位置を推定する重心位置推定装置の重心位置推定方法において、車両の偏り荷重値を所定のサンプリング周期毎に記憶する偏り荷重値記憶ステップと、エアベローズ内の空気圧の変化に応じ、荷台への貨物の積載開始を判定する第一の判定ステップと、第一の判定ステップにより荷台への貨物の積載開始が判定されたときからの空気圧の変化に応じ、荷台への貨物の積載完了を判定する第二の判定ステップと、第二の判定ステップにより積載完了と判定された時刻とその所定期間前の時刻との間に偏り荷重値記憶ステップにより記憶された偏り荷重値のサンプリング値の平均値から第一の判定ステップにより積載開始と判定された時刻とその所定期間前の時刻との間に偏り荷重値記憶ステップにより記憶された偏り荷重値のサンプリング値の平均値を減算する偏り荷重値取得ステップと、を有するものである。
【0016】
本発明のさらに他の観点は、プログラムとしての観点である。本発明のプログラムは、情報処理装置に、本発明の重心位置推定装置の機能を実現させるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、車両の前後の重心の偏りに影響されることなく車両の左右の重心の偏りを正しく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の連結車の全体構成図である。
【図2】図1の牽引車に搭載される左右重心位置推定装置のブロック構成図である。
【図3】図1の牽引車および被牽引車の要部構成を示す図である。
【図4】図2の左右重心位置推定部および前後重心位置推定部で用いるエアベローズ圧力と第5輪荷重との対応関係を示す図である。
【図5】図2の左右重心位置推定部が出力する推定結果であり前荷、均等積、後荷の場合の推定結果を示す図である。
【図6】被牽引車の重心位置、車両連結総重量、第5輪荷重、被牽引車軸荷重、第5輪荷重点から重心点まで距離(L2)、および係数の対応関係を実測した結果を示す図である。
【図7】図6の実測結果の横軸に第5輪荷重をとり縦軸に係数をとったグラフで示す図である。
【図8】左右重心位置推定装置の左右重心位置推定処理を示すフローチャートである。
【図9】図2の表示部の表示例(テキスト表示)を示す図である。
【図10】図2の表示部の表示例(図形表示)を示す図である。
【図11】図2の表示部の表示例(テキスト表示+図形表示)を示す図である。
【図12】図8のステップS2までの処理を自動化するためのトリガ1,2を示す図である。
【図13】図8のステップS2までの処理を自動化するための処理を示すフローチャートである。
【図14】比較例として図8のステップS2までの処理を運転者が手動で行う場合を説明するためのフローチャートである。
【図15】その他の実施の形態における警報表示の例(その1)を示す図である。
【図16】その他の実施の形態における警報表示の例(その2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(概要)
本発明の重心位置推定装置は、運送業者側で、貨物の重心位置が目視確認できない場合に有効である。よって、以下の説明では、運送業者が荷主の許可無しに積荷の状態を目視確認できないコンテナなどを積載することを主な業務とする連結車1を例示して説明する。しかしながら本発明の重心位置推定装置は、連結車1以外の貨物車両においても適用することができ、本発明の適用範囲を連結車1に限定するものではない。
【0020】
連結車1は、図1に示すように、牽引車2と被牽引車3とがカプラ4を介して連結された車両である。被牽引車3に積み込まれた荷物(コンテナなど)の状態を外部から目視確認することはできない。このため、連結車1は、カプラ4にかかる荷重である第5輪荷重と牽引車前輪5および牽引車後輪6の左右にかかる荷重の偏りを検出することにより被牽引車3の左右の重心位置の偏りを推定する。さらに、連結車1は、第5輪荷重と車体総重量を用いて被牽引車3の前後の重心位置の偏りを推定することにより、左右の重心位置の偏りの推定結果を補正する。この補正結果は、連結車1のユーザ(運転者など)が認識できるように運転席の計器パネルなどに表示される。
【0021】
(構成)
連結車1は、牽引車2、被牽引車3から構成される。牽引車2は、説明を分り易くするために、カプラ4、牽引車前輪5、牽引車後輪6、および牽引車シャーシ7を図示する。また、被牽引車3は、説明を分り易くするために、被牽引車輪8,9および被牽引車シャーシ10を図示する。請求項でいう「荷台」は、被牽引車シャーシ10に相当する。
【0022】
牽引車2は、不図示のエンジンを搭載し、カプラ4を介して被牽引車3に連結され、牽引車後輪6を駆動輪として走行する。また、牽引車2は、左右重心位置推定装置20を搭載する。
【0023】
被牽引車3は、荷物を搭載するスペースを有し、カプラ4を介して牽引車2に連結される。また、被牽引車3は、被牽引車輪8,9を有する。図1に示した被牽引車3は、2軸(2組の被牽引車輪8,9を有する。)であるが3軸のものもある。なお、被牽引車3は、牽引車2に連結されていないときには、不図示のランディングギヤによって水平を保ち自立することができる。また、カプラ4の中心(第5輪荷重点)から被牽引車輪8,9の中心(2軸の中心)までが被牽引車3のホイールベースである。
【0024】
左右重心位置推定装置20は、図2に示すように、変位センサ21R,21L、圧力センサ22R,22L、左右重心位置推定部23、前後重心位置推定部24、補正演算部25、表示部26、および質量推定部27により構成される。さらに、左右重心位置推定部23は、偏り荷重値記憶部28および偏り荷重値取得部29を有する。
【0025】
変位センサ21R,21Lは、牽引車後輪6のスタビライザ30(図3で後述)の変位を検出する。
【0026】
圧力センサ22R,22Lは、牽引車2のエアベローズ31R,31L(図3で後述)の空気圧を検出する。なお、エアベローズ31R,31Lは、いわゆるエアサスペンションを構成し、不図示のエアタンクから空気が供給される。
【0027】
左右重心位置推定部23は、変位センサ21R,21Lおよび圧力センサ22R,22Lの検出結果を入力として被牽引車3の左右の重心位置を推定する。
【0028】
前後重心位置推定部24は、圧力センサ22R,22Lの検出結果および質量推定部27の推定結果を入力として被牽引車3の前後の重心位置を推定する。
【0029】
補正演算部25は、左右重心位置推定部23の推定結果および前後重心位置推定部24の推定結果をそれぞれ入力し、左右重心位置推定部23の推定結果を前後重心位置推定部24の推定結果に応じて補正する。
【0030】
表示部26は、詳細には、表示制御部と表示画面とを有する。以下の説明では、表示制御部と表示画面とをまとめて表示部26ということにする。表示部26は、補正演算部25によって補正された左右重心位置の推定結果を表示画面上に表示する。なお、表示部26の表示画面は、牽引車2の運転席の計器パネルなどに配設される。
【0031】
質量推定部27は、特開2000−74727号公報などに記載されている方法を用いて連結車1の総重量(これを車両連結総重量という)を計算する。これによれば連結車1の質量を当該連結車1の加速度を計測することによって推定するので、牽引車2に連結される被牽引車3の如何にかかわらず牽引車2側で被牽引車3も含めた連結車1の質量を推定することができる。
【0032】
偏り荷重値記憶部28は、変位センサ21R,21Lの検出結果に基づいて計算される偏り荷重値を所定のサンプリング周期毎に記憶する。
【0033】
偏り荷重値取得部29は、後述する図13のフローチャートのステップS24,S27,S28の処理を行うことにより重心位置推定部23が重心位置の推定計算に利用するための偏り荷重値を演算して取得する。
【0034】
図3は、牽引車2および被牽引車3の要部構成を示す図である。牽引車2は、図3に示すように、スタビライザ30、エアベローズ31R,31L、シャーシ支持部32R,32L、および車高センサ33R,33Lを有している。また、被牽引車は、キングピン34を有している。被牽引車3のキングピン34が牽引車2のカプラ4の中心部にある孔に挿入されることによって、牽引車2と被牽引車3とが連結される。また、符号40は重心位置を示すマークである。なお、このマークは説明のために図示したもので、車両そのものに付されているものではない。また、符号50は、被牽引車3が積載する荷物である。また、牽引車後輪6の進行方向に対して右側を牽引車後輪6Rとし、左側を牽引車後輪6Lとする。
【0035】
また、エアベローズ31R,31Lは、牽引車2のエアサスペンションを構成し、被牽引車3に貨物が積載され、牽引車2のエアベローズ31R,31Lが貨物の重さによって沈み込み、牽引車2の車高が下がったことを車高センサ33R,33Lが検出したときには、不図示のエアサスペンション制御機能によって、エアベローズ31R,31L内の空気圧が調整され、所定の車高を保つように制御される。
【0036】
なお、エアベローズ31R,31Lは互いに連通しており、個々のエアベローズ31R,31Lの空気圧が個別に制御されるようにはなっていない。すなわちいずれか一方のエアベローズ31Rまたは31Lに荷重が偏って沈み込むと他方のエアベローズ31Lまたは31Rに空気が移動して浮き上がる。これにより荷重の偏りの状態が牽引車2の車体の傾きに反映される。
【0037】
(動作)
次に、左右重心位置推定装置20の動作について説明する。左右重心位置推定部23は、以下の方法により偏りの推定値を下記の式に従って算出する。式中、Xは、左右方向の重心位置の偏りを示し、Fbは、第5輪荷重を示し、FS1は、牽引車後輪6の偏り荷重を示し、FS2は、牽引車前輪5の偏り荷重を示し、L1は、牽引車後輪6Rと牽引車後輪6Lとの間隔(リアトレッド)を示している。このときに左右方向の重心位置の偏りXは、
X=[(FS1+FS2)/Fb]・L1/2
で求められる。
【0038】
左右重心位置推定部23は、第5輪荷重Fbを圧力センサ22R,22Lの検出結果から取得する。たとえば図4に示すように、エアベローズ圧力と第5輪荷重との対応関係は、予め求めることができる。したがって、左右重心位置推定部23は、たとえば、図4のエアベローズ圧力と第5輪荷重との対応関係を不図示のメモリに予め記憶しておき、圧力センサ22R,22Lの各検出結果を加算して得られるエアベローズ圧力から第5輪荷重Fbを取得することができる。エアベローズ圧力から第5輪荷重Fbを取得することについては後述する前後重心位置推定部24においても同様である。すなわち、後述する前後重心位置推定部24においても図4のエアベローズ圧力と第5輪荷重との対応関係を不図示のメモリに予め記憶している。
【0039】
また、左右重心位置推定部23は、牽引車後輪6の偏り荷重FS1をスタビライザ30に取付けられている変位センサ21Rと変位センサ21Lの検出結果の差分に基づき取得する。さらに、左右重心位置推定部23は、牽引車前輪5の偏り荷重FS2を牽引車後輪6の偏り荷重FS1と等しいとする、あるいは牽引車前輪5の偏り荷重FS2を牽引車後輪6の偏り荷重FS1に所定の係数を乗じた値とする、などとすることができる。また、リアトレッドL1は、固定値であるので左右重心位置推定部23のメモリに予め記憶しておき、左右重心位置推定部23は、それをメモリから読み出して取得する。
【0040】
図5は、左右重心位置推定部23における被牽引車3内の荷物の積載状態が前荷、均等積、後荷である場合の偏りの推定値(縦軸)と偏りの真値(横軸)との関係を示している。前荷および均等積の場合には、一点鎖線で示すように、偏りの推定値と偏りの真値とはほぼ等しい。一方、後荷の場合には、二点鎖線で示すように、偏りの推定値は、偏りの真値と比較して著しく小さくなっている。したがって、後荷の場合は、これをそのまま左右重心位置推定結果として採用することは問題がある。そこで、左右重心位置推定装置20は、前後重心位置推定部24により被牽引車3の前後重心位置を推定し、その推定結果に基づいて、左右の重心位置の偏りの推定結果を補正する。
【0041】
前後重心位置推定部24は、以下に説明するようにして被牽引車3に積載されている荷物が後荷であるか否かを判定する。
【0042】
連結車1の総重量(車両連結総重量という)をA(t)とし、牽引車2の重量をB(t)とし、第5輪荷重をC(t)とすると、被牽引車輪8,9にかかる荷重(被牽引車軸荷重という)は、(A−B−C)となる。ここで、仮に、被牽引車3の荷物が均等積されている場合、被牽引車輪8,9は2軸であることから
第5輪荷重:被牽引車輪8,9にかかる荷重=1:2
となる。これを一般化すれば、
第5輪荷重:被牽引車軸荷重=1:N(Nは軸数)
となる。たとえば3軸では、第5輪荷重:被牽引車軸荷重=1:3になる。
【0043】
したがって、2軸の場合には、第5輪荷重を2倍した値で、被牽引車輪8,9にかかる荷重を除算し、その除算結果が所定値を超えていれば、被牽引車3の荷物は後荷であると判定することができる。
【0044】
図6は、前後方向の重心位置、第5輪荷重、被牽引車輪8,9にかかる荷重を第5輪荷重で除算した結果得られた値(以下、係数と称する)の関係を示している。L2は、図1に示すように、第5輪荷重点と重心点との間の距離である。この例では、車両連結総重量が22.2tであり、牽引車2の重量が6.5tであり、被牽引車3のホイールベースは9mであるとする。図7は、図6の関係をグラフで示しており、横軸に第5輪荷重をとり、縦軸に係数をとったものである。
【0045】
図6の例では、重心位置が「均等積」であるとき(L2=6m)に比べ、重心位置が1.5m後ろにずれている位置(L2=7.5m)では、係数の値は“2.4”(=被牽引車軸荷重(13.0t)/[第5輪荷重(2.7t)×2])である。よって、前後重心位置推定部24は、係数の値が“2.4”よりも大きいか否かによって、被牽引車3が後荷(すなわち重心位置が後方にある状態)であるか否かを判断する。
【0046】
なお、牽引車2の重量については、燃料残量によって多少の変動は生じるもののほぼ一定であり、図6の例では、6.5tに固定して考えることができる。一方、被牽引車3の重量については荷物の積載状況に応じて様々に変化する。よって、質量推定部27は、車両連結総重量を得るため特開2000−74727号公報などに記載されている方法によりその都度、被牽引車3の重量を含む車両連結総重量を測定する。この方法を簡単に説明すると以下のとおりである。
【0047】
牽引車2の駆動力をF、連結車1の車両質量(すなわち車両連結総重量)をW、路面勾配をθ、連結車1の車両加速度をα、重力加速度をg、連結車1の車両走行抵抗をμr W,連結車1の風圧抵抗をμc SV2、連結車1の回転部分相当質量をWrとすると、
α=g〔F−(μr W+μc SV2 +Wsinθ)〕/(W+Wr )
であり、さらに、ギヤ比A,B二段についてそれぞれ駆動力をFA 、FB とし、加速度をそれぞれαA 、αB とし、回転部分相当質量をそれぞれWrA、WrBとするとき、車両質量Wは、
W=〔g(FA −FB )−αA WrA+αB WRb 〕/(αA −αB )
である。このとき、牽引車2の駆動力F、路面勾配θ、連結車1の車両加速度α、連結車1の車両走行抵抗μr W,連結車1の風圧抵抗μc SV2については牽引車2側のみで測定可能である。また、連結車1の回転部分相当質量Wrについては、被牽引車輪8,9のタイヤの型式などから容易に取得できる。
【0048】
このようにして、質量推定部27は、被牽引車3に関わるパラメータを直接的に被牽引車3から取得する必要がなく車両連結総重量を推定することができる。
【0049】
このように前後重心位置推定部24により、後荷であるか否かが判定され、後荷である判定された場合、補正演算部25は、左右重心位置推定部23により推定された推定結果を補正する。具体的には、被牽引車軸荷重を牽引車2の第5輪荷重のN(Nは被牽引車3の車輪の軸数)倍で除算した結果を補正係数とし、補正演算部25は、補正前の左右方向の重心位置の推定結果に対して補正係数を乗算することにより補正された左右方向の重心位置の推定結果を出力する。
【0050】
次に、左右重心位置推定装置20の左右重心位置推定処理について図8のフローチャートを参照して説明する。
【0051】
START:運転者のキー操作などにより、左右重心位置推定装置20が起動されると、左右重心位置推定装置20は、ステップS1の手続きに進む。
【0052】
ステップS1:左右重心位置推定部23は、変位センサ21R,21Lを0点補正してステップS2の手続きに進む。このとき、被牽引車3には、貨物が積載されていない状態である。すなわち、被牽引車3に貨物の積載が開始される以前に運転者は、不図示の変位センサリセットボタンを操作して変位センサ21R,21Lを0点補正し、被牽引車3の貨物の積載が完了すると運転者は、不図示の積載完了ボタンを操作する。運転者による積載完了ボタンの操作が行われると手続きはステップS2に進む。
【0053】
なお、運転者が被牽引車3に貨物の積載が開始される時刻よりもかなり以前に変位センサリセットボタンを操作した場合、0点補正をした後に、たとえば周囲の温度条件が変化するなどしてスタビライザ30が膨張または収縮することにより、0点補正に誤差が生じることも考えられる。よって、運転者が変位センサリセットボタンを操作するタイミングとしては、被牽引車3に貨物の積載が開始される直前が好ましい。
【0054】
ステップS2:左右重心位置推定部23は、変位センサ21R,21Lの変位値に基づいて偏り荷重値を取得し、圧力センサ22R,22Lの圧力値に基づいてエアベローズ31R,31L内の空気圧値を取得してステップS3の手続きに進む。すなわち、変位センサ21Rの変位値と変位センサ21Lの変位値との差分に応じて偏り荷重値が取得できる。また、圧力センサ22Rの空気圧値と圧力センサ22Lの空気圧値との和によりエアベローズ31R,31L内の空気圧値が取得できる。
【0055】
ステップS3:左右重心位置推定部23は、牽引車2の左右の牽引車前輪5および牽引車後輪6それぞれの分担荷重を算出してステップS4の手続きに進む。
【0056】
ステップS4:左右重心位置推定部23は、ステップS2,S3で取得した各種の値に基づいて補正前の左右重心位置推定(X=[(FS1+FS2)/Fb]・L1/2)を実施し、この推定結果を補正演算部25に出力してステップS5の手続きに進む。
【0057】
ステップS5:前後重心位置推定部24は、質量推定部27から車両連結総重量を取得し、圧力センサ22R,22Lの検出結果から第5輪荷重を取得したか否かを判断する。ステップS5において、車両連結総重量および第5輪荷重が取得されたと判断された場合(ステップS5でYes)、手続きはステップS6に進む。一方、ステップS5において、車両連結総重量および第5輪荷重が未だ取得されていないと判断された場合(ステップS5でNo)、ステップS5の手続きが繰り返される。
【0058】
なお、ステップS5において、車両連結総重量および第5輪荷重が取得された場合、前後重心位置推定部24は、これらの値から被牽引車軸荷重(=車両連結総重量−被牽引車重量−第5輪荷重)を計算する。
【0059】
ステップS6:前後重心位置推定部24は、被牽引車軸荷重を、第5輪荷重の2倍で割った値が後荷判定係数である“2.4”未満であるか否かを判断する。ステップS6において、被牽引車軸荷重を、第5輪荷重の2倍で割った値が後荷判定係数である“2.4”未満であると判断された場合(ステップS6でYes)、ステップS7の手続きに進む。一方、ステップS6において、被牽引車軸荷重を、第5輪荷重の2倍で割った値が後荷判定係数である“2.4”以上であると判断された場合(ステップS6でNo)、ステップS8の手続きに進む。
【0060】
ステップS7:前後重心位置推定部24は、補正無しとして「補正係数=1」を補正演算部25に出力してステップS9の手続きに進む。
【0061】
ステップS8:前後重心位置推定部24は、被牽引車軸荷重を、第5輪荷重を2倍した値で割った値を補正係数として補正演算部25に出力し、ステップS9の手続きに進む。
【0062】
ステップS9:補正演算部25は、左右重心位置推定部23から出力された補正前の左右重心位置推定値に対して前後重心位置推定部24から出力された補正係数を乗算し、その乗算結果を表示部26に出力してステップS10の手続きに進む。
【0063】
ステップS10:表示部26は、補正演算部25から出力された補正後の左右重心位置推定結果を表示画面上に表示して処理を終了する(END)。
【0064】
表示部26,26A,26Bの表示例を図9,図10,図11に示す。図9の表示部26は、表示部26の表示画面上に左右重心位置の偏りを数値として表示(L+400mm)している。すなわち図9の表示部26は、重心位置が中心から左側に40cmズレていることを表している。また、図10の表示部26A例では、表示部26Aの表示画面上に左右重心位置の偏りを図形として表示している。すなわち図10の表示部26Aでは、重心位置が中心から左側に少しズレていることを視覚的に表している。また、図11の表示部26Bでは、表示部26Bの表示画面上に左右重心位置の偏りを数値および図形の双方で表示している。
【0065】
以上説明したように、被牽引車3の前後方向の重心位置を推定し、この推定結果に基づいて左右方向の重心位置の推定結果を補正するので、被牽引車3の前後の重心の偏りに影響されることなく被牽引車3の左右の重心の偏りを正しく推定することができる。
【0066】
また、連結車1の車両連結総重量を質量推定部27により、被牽引車3の重量を直接測定することなく測定可能であるため、被牽引車3がどのようなものであっても車両連結総重量を計算することができる。
【0067】
また、被牽引車軸荷重を牽引車の第5輪荷重のN(Nは被牽引車3の軸数)倍で除算した結果を補正係数とし、補正前の左右方向の重心位置の推定結果に対して補正係数を乗算することにより補正された左右方向の重心位置の推定結果を出力するので、被牽引車3の軸数がどのようであっても対応することができる。
【0068】
(図8のステップS2までの処理の自動化について)
次に、図8のフローチャートで説明した処理において、ステップS1の「変位センサを0点補正」という処理は、被牽引車3に貨物を積載する以前に行う必要があり、ステップS2の「偏り荷重値取得、空気圧値取得」という処理は、被牽引車3に貨物を積載した後に行う必要がある。また、既に説明したように、「変位センサを0点補正」の処理は、被牽引車3に貨物の積載が開始される直前が好ましい。
【0069】
このような処理を行うために、運転者は、被牽引車3に貨物が積載される直前に忘れることなく、変位センサ21R,21Lを0点補正する必要がある。このような作業は、運転者にとって、きわめて煩わしい作業である。また、運転者が変位センサ21R,21Lを0点補正することを忘れてしまったままの状態、あるいは、運転者が被牽引車3に貨物が積載され始めてから慌てて0点補正をするというように変位センサ21R,21Lを正しく0点補正していない状態で、図8のステップS2以降の処理が実行されると、正しい推定結果が得られなくなる可能性が生じる。
【0070】
そこで、図8のステップS2までの手続きについては、自動化されることが好ましい。以下では、図8のステップS2までの手続きの自動化について図12〜図14を参照して説明する。
【0071】
図12の上段の図は、圧力センサ22R,22Lの検出結果(圧力センサ22Rの検出結果+圧力センサ22Lの検出結果)から得られたエアベローズ31R,31L内の空気圧を縦軸にとり、横軸に時間の経過をとったものである。一方、図12の下段の図は、変位センサ21R,21Lの検出結果に基づき計算された偏り荷重値の偏り度合いを縦軸にとり、横軸に時間の経過をとったものである。ここで偏り荷重値の偏り度合いとは、牽引車2の実際の重心位置が設計上の牽引車2の重心位置からどれくらい離れているかを示す度合いである。偏り度合いが小さければ、牽引車2の実際の重心位置が設計上の牽引車2の重心位置に近く、偏り度合いが大きければ、牽引車2の実際の重心位置が設計上の牽引車2の重心位置から遠いことを示している。なお、被牽引車3が空積時には、牽引車2の実際の重心位置が設計上の牽引車2の重心位置の許容誤差の範囲内に入ることが好ましい。
【0072】
図12の上段に示すエアベローズ31R,31L内の空気圧は、時刻t0から時刻t1の間では、ほぼ一定の低い値である。この状態は、被牽引車3が牽引車2に連結されているが被牽引車3は空積状態であり、エアベローズ31R,31Lは、牽引車2および空積状態の被牽引車3のみを支えているため空気圧は低い状態である。続いて、エアベローズ31R,31L内の空気圧は、時刻t1で急激に増加を始めている。この状態は、被牽引車3に貨物の積載が開始された瞬間の状態であり、貨物自体の重さに加え、車体が大きく揺れ動くことにより、エアベローズ31R,31L内の空気圧は大きく増加している。続いて、エアベローズ31R,31L内の空気圧は、時刻t1から時刻t2の間では、ほぼ一定のレートで上昇を続けている。この状態は、被牽引車3に貨物が積載されたことにより車高センサ33R,33Lが車高の沈み込みを検出したので、不図示のエアサスペンション制御機能が不図示のエアタンクからエアベローズ31R,31Lに空気を送り込んでおり、エアベローズ31R,31L内の空気圧が上昇を続けている状態である。続いて、時刻t2を過ぎるとエアベローズ31R,31L内の空気圧は所定の値で安定する。この状態は、被牽引車3への貨物の積載が完了し、車体の揺れも収まり、車高も所定の高さを回復し、エアベローズ31R,31L内の空気圧が安定した状態である。
【0073】
一方、図12の下段に示す偏り度合いは、時刻t0から時刻t1の間では、一定の小さい値である。この状態は、被牽引車3が牽引車2に連結されているが貨物が積載されていない状態であり、牽引車2の実際の重心位置が設計上の牽引車2の重心位置の許容誤差の範囲内にある状態である。続いて、偏り度合いは、時刻t1で急激に増加を始めている。この状態は、被牽引車3に貨物の積載が開始された瞬間の状態であり、車体が大きく揺れ動くことにより、牽引車2の実際の重心位置が設計上の牽引車2の重心位置から大きく離れる状態となり、偏り度合いが大きく増加している。その後も車体が揺れ動いている状態は、時刻t1から時刻t2まで継続している。続いて、時刻t2を過ぎると偏り度合いは安定する。この状態は、被牽引車3への貨物の積み込みが完了し、車体の揺れも収まり、牽引車2の重心位置も安定した状態である。
【0074】
このように図12の上段に示す空気圧の変化と図12の下段に示す荷重の偏り度合いとは、密接に関係していることがわかる。そこで、時刻t1直後のタイミングを「トリガ1」とし、トリガ1から所定の時間以内(たとえば10秒以内)に空気圧が安定したらそのタイミングを「トリガ2」として設定する。これにより、「トリガ1」は、被牽引車3に貨物の積み込みが開始されたタイミングであり、「トリガ2」は、被牽引車3への貨物の積み込みが完了したタイミングであるとすることができる。なお、ここで所定の時間(たとえば10秒)は、車高センサ33R,33Lが車高の沈み込みを検出してからエアベローズ31R,31Lに不図示のエアタンクから空気が送り込まれ、車高が所定の高さを回復し、エアベローズ31R,31L内の空気圧が安定するまでに要する時間である。よって、この所定の時間は、車種によって様々に設定される。これによれば、運転者が手動で貨物の積み込み開始および貨物の積み込み完了を入力する必要は無くなる。
【0075】
以上の処理の詳細を図13のフローチャートを参照して説明する。図13のフローチャートは、図8のステップS1,S2の手続きと置き換えることができるものである。
【0076】
START:運転者のキー操作などにより、左右重心位置推定装置20が起動されると、左右重心位置推定装置20は、ステップS20の手続きに進む。
【0077】
ステップS20:左右重心位置推定部23は、変位センサ21R,21Lから偏り荷重生値(raw_biasload)を取り込み、圧力センサ22R,22Lから空気圧生値(raw_air_press)を取り込み、手続きは、ステップS21に進む。
【0078】
ステップS21:左右重心位置推定部23は、変位センサ21R,21Lから取り込んだ偏り荷重生値(raw_biasload)、および圧力センサ22R,22Lから取り込んだ空気圧生値(raw_air_press)を、ローパスフィルタ処理して手続きはステップS22に進む。なお、このローパスフィルタ処理により変位センサ21R,21Lから取り込んだ偏り荷重生値(raw_biasload)、および圧力センサ22R,22Lから取り込んだ空気圧生値(raw_air_press)のノイズ成分(微小変動など)が除去されて、フィルタ後偏り荷重値(fil_biasload)およびフィルタ後圧力値(fil_air_press)が生成されて、フィルタ後偏り荷重値(fil_biasload)およびフィルタ後圧力値(fil_air_press)が生成される。
【0079】
ステップS22:左右重心位置推定部23は、圧力センサ22R,22Lの検出結果に基づいて、たとえば3秒以内にαkg/cm2以上の圧力変化の有無を判定する。ステップS22において、3秒以内にαkg/cm2以上の圧力変化が有ると判定された場合、手続きはステップS23に進む。一方、ステップS22において、3秒以内にαkg/cm2以上の圧力変化が無いと判定された場合、手続きはステップS20に戻る。なお、ここで3秒は一例であり、短時間に急激な圧力変化が有るか否かを判定するために設定された観測時間である。したがって、たとえば1秒〜5秒程度の範囲内でどのような時間を設定してもよい。また、αは、被牽引車3に貨物の積載が開始されたことが確実に判定可能となる適切な値を設定する。たとえば被牽引車3に試験的に貨物を積載してみたときの圧力センサ22R,22Lの検出結果を考察してαの値を決定すればよい。
【0080】
ステップS23:左右重心位置推定部23は、トリガ1を設定してステップS24の手続きに進む。
【0081】
ステップS24:左右重心位置推定部23の偏り荷重値取得部29は、ステップS23で設定したトリガ1の時刻とその所定期間(期間T1)前の時刻との間にサンプリングされているフィルタ後偏り荷重値(fil_biasload)を、偏り荷重値記憶部28から読み出し、その平均値(fil_biasload_trg1_ave)を計算する。この計算が終了すると手続きはステップS25に進む。
【0082】
ステップS25:左右重心位置推定部23は、圧力センサ22R,22Lの検出結果に基づいて、トリガ1設定後のたとえば10秒以内に圧力変化がΔkg/cm2以内に収まったか否かを判定する。ステップS25において、トリガ1設定後のたとえば10秒以内に圧力変化がΔkg/cm2以内に収まったと判定された場合、手続きはステップS26に進む。一方、ステップS25において、トリガ1設定後のたとえば10秒以内に圧力変化がΔkg/cm2以内に収まっていないと判定された場合、手続きはステップS29に進む。なお、ここで10秒は、車高センサ33R,33Lが車高の沈み込みを検出してからエアベローズ31R,31Lに不図示のエアタンクから空気が送り込まれ、車高が所定の高さを回復し、エアベローズ31R,31L内の空気圧が安定するまでに要する時間である。よって、この所定の時間は、車種によって様々に設定される。また、この所定の時間は、必ずしも車高の高さが回復するのに要する時間以内とする必要は無く、さらに長い時間としてもよい。あるいは、この所定の時間は、特に定めなくてもよい。ただし、この所定の時間を定めておけば、この所定の時間を大幅に超過する事態が発生したときには、トリガ1が誤って設定されたものであると判定し、トリガ1を解除(ステップS29)することができる。また、この所定の時間を定める際には、この所定の時間を長くすることにより、図13のステップS25の処理に要する時間が長くなるので、必要最短の時間とすることが好ましい。
【0083】
ステップS26:左右重心位置推定部23は、トリガ2を設定してステップS27の手続きに進む。
【0084】
ステップS27:左右重心位置推定部23の偏り荷重値取得部29は、ステップS26で設定したトリガ2の時刻とその所定期間(期間T2)前の時刻との間にサンプリングされているフィルタ後偏り荷重値(fil_biasload)を、偏り荷重値記憶部28から読み出し、その平均値(fil_biasload_trg2_ave)を計算する。この計算が終了すると手続きはステップS28に進む。
【0085】
ステップS28:左右重心位置推定部23の偏り荷重値取得部29は、ステップS27で取得した偏り荷重値平均値(fil_biasload_trg2_ave)からステップS24で取得した偏り荷重値平均値(fil_biasload_trg1_ave)を減算することにより偏り荷重値を取得する(図8のステップS2の偏り荷重値取得に相当)。また、このときに、前後重心位置推定部24は、圧力センサ22R,22Lが検出している空気圧値を取得する(図8のステップS2の空気圧値取得に相当)。
【0086】
ステップS29:左右重心位置推定部23は、ステップS25で「No」と判定されたのでトリガ1の設定を解除してステップS20の手続きに戻る。なお、ステップS25で「No」と判定される原因は、トリガ1を設定するか否かを判定するステップS22における圧力の急激な変化が貨物の積載開始以外の要因(たとえば牽引車2の移動による揺れなど)であった場合などである。
【0087】
比較例として、図13のフローチャートの処理を運転者が手動で行った場合の例を図14に示す。図14の処理では、ステップS20,S21,S28の処理が図13と共通し、ステップS31,S33の処理はそれぞれステップS24,S27の処理と実質的に同じである。図14に示すように、ステップS30およびステップS32において、運転者による操作を必要とする。
【0088】
(効果について)
このようにして、左右重心位置推定部23は、運転者の手動入力に頼ることなく、トリガ1を設定することにより、被牽引車3への貨物の積載開始のタイミングを認識し、トリガ2を設定することにより、被牽引車3への貨物の積載完了のタイミングを認識する。これにより、図8のフローチャートにおけるステップS1の「変位センサを0点補正」、およびステップS2の「偏り荷重値取得、空気圧値取得」の各処理を自動化することができる。
【0089】
これによれば、運転者が変位センサ21R,21Lを0点補正することを忘れてしまったり、あるいは、運転者が被牽引車3に貨物が積載され始めてから慌てて0点補正をし、変位センサ21R,21Lを正しく0点補正していない状態で、図8のステップS2以降の処理が実行されるといったことがなくなり、常に、正しい推定結果を得ることができる。また、運転者にとっても煩わしい作業を無くすことができるため運転者の利便性を向上させることができる。すなわち運転者は、牽引車2のキースイッチ(不図示)をON状態にするだけでよい。
【0090】
(プログラムを用いた実施の形態について)
また、左右重心位置推定装置20の各部(左右重心位置推定部23、前後重心位置推定部24、補正演算部25、質量推定部27など)は、所定のプログラムにより動作する汎用の情報処理装置によって構成されてもよい。例えば、汎用の情報処理装置は、メモリ、CPU(Central Processing Unit)、入出力ポートなどを有する。汎用の情報処理装置のCPUは、メモリなどから所定のプログラムとして制御プログラムを読み込んで実行する。これにより、汎用の情報処理装置には、左右重心位置推定装置20の各部の機能が実現される。また、その他の機能についてもソフトウェアにより実現可能な機能については汎用の情報処理装置とプログラムとによって実現することができる。なお、上述したCPUの代わりにASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSP(Digital Signal Processor)などを用いてもよい。
【0091】
なお、汎用の情報処理装置が実行する制御プログラムは、左右重心位置推定装置20の出荷前に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであっても、左右重心位置推定装置20の出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。また、制御プログラムの一部が、左右重心位置推定装置20の出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。左右重心位置推定装置20の出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶される制御プログラムは、例えば、CD−ROMなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に記憶されているものをインストールしたものであっても、インターネットなどの伝送媒体を介してダウンロードしたものをインストールしたものであってもよい。
【0092】
また、制御プログラムは、汎用の情報処理装置によって直接実行可能なものだけでなく、ハードディスクなどにインストールすることによって実行可能となるものも含む。また、圧縮されたり、暗号化されたりしたものも含む。
【0093】
このように、汎用の情報処理装置とプログラムによって左右重心位置推定装置20の機能を実現することにより、大量生産や仕様変更(または設計変更)に対して柔軟に対応可能となる。
【0094】
(その他の実施の形態)
本発明の実施の形態は、その要旨を逸脱しない限り様々に変更が可能である。たとえば左右重心位置推定部23が補正前の左右重心位置を推定する方法については、上述したようにX=[(FS1+FS2)/Fb]・L1/2によって推定する方法以外にも、たとえば特許文献1に記載されている方法などの様々な方法が適用できる。
【0095】
また、質量推定部27の質量推定方法は、特開2000−74727号公報に記載されている方法以外にも様々な方法が適用できる。あるいは、質量推定部27を省き、被牽引車輪8,9の下に簡便な重量測定装置を置き、前後重心位置推定部22が直接的に被牽引車軸荷重を測定してもよい。
【0096】
また、牽引車前輪5および牽引車後輪6の左右の分担荷重の測定については、変位センサ21R,21Lに代えて車高センサ33R,33Lを用いてもよい。あるいは、変位センサ21R,21Lを省き、圧力センサ22R,22Lの圧力差によって牽引車前輪5および牽引車後輪6の左右の分担荷重の測定を行うこともできる。あるいは、圧力センサ22R,22Lがエアベローズ31R,31Lの圧力を測定するのではなく、牽引車前輪5および/または牽引車後輪6の空気圧を測定することによって、第5輪荷重および牽引車前輪5および/または牽引車後輪6の左右の分担荷重の測定を行ってもよい。
【0097】
また、図8のフローチャートのステップS6において[被牽引車軸荷重/(第5輪荷重×2)]が“2.4”未満のときステップS7の処理へ移行し、被牽引車軸荷重/(第5輪荷重×2)]が“2.4”以上のときステップS8の処理へ移行すると説明したが、これを[被牽引車軸荷重/(第5輪荷重×2)]が“2.4”以下のときステップS7の処理へ移行し、被牽引車軸荷重/(第5輪荷重×2)]が“2.4”を超えるときステップS8の処理へ移行するとしてもよい。
【0098】
また、図8のフローチャートのステップS5で質量推定部27が車両連結総重量を算出する際、特開2000−74727号公報に記載されている方法を適用したとすれば、加速度などの測定が必要である。このため質量推定部27は、連結車1がある程度走行した後でなければ車両連結総重量を算出できない。この場合、表示部26は、とりあえずステップS4で補正前の左右重心位置推定結果を表示画面上に表示し、連結車1が走行を開始する以前に、運転者におおまかな警告を行うようにしてもよい。そして、その後、連結車1がある程度走行し、質量推定部27が車両連結総重量を算出し、図8のフローチャートがステップS10に達したときに、表示部26は、改めて補正された左右重心位置推定結果を表示画面上に表示するようにしてもよい。
【0099】
エンジン10は、内燃機関であると説明したが、外燃機関を含む熱機関であってもよい。
【0100】
なお、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであってもよいし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであってもよい。
【0101】
また、図13のステップS28で取得した偏り荷重値が所定の閾値以上、または超えている場合、以降の処理(図8のステップS3以降)において計算される重心位置推定結果を待つことなく、重心位置の偏りが大きいことは明らかである。したがって、このような場合、図9、図10、図11で説明した重心位置の表示に先立って、あるいは、これらの表示に加え、重心位置の偏りが大きいことを運転者に報知するための警報手段を有するようにしてもよい。この警報手段としては、たとえばランプの点滅、ブザーの鳴動、合成音声による報知など、様々な形態とすることができる。あるいは、図9、図10、図11の表示例の中に、警報ランプや警報表示部を設けてもよい。
【0102】
図15に、警報表示部60を表示部26Bに併設した例を示す。図15の例では、警報表示部60に「重心偏り大」とテキスト情報が表示されると共に、そのテキスト情報の背景の照明が点滅するようになっている。さらに、スピーカを設け、合成音声によって「重心偏りが大きいです。ご注意ください。」などとアナウンスを行う構成としてもよい。なお、表示部26Bに代えて表示部26または表示部26Aと警報表示部60とを併設してもよい。
【0103】
また、図16に、警報表示部60を有する表示部26Cの例を示す。図16の例では、警報表示部60に「重心偏り大」とテキスト情報が表示されると共に、そのテキスト情報の背景の照明が点滅するようになっている。さらに、スピーカを設け、合成音声によって「重心偏りが大きいです。ご注意ください。」などとアナウンスを行う構成としてもよい。なお、表示部26Cは、表示部26Aに警報表示部60を追加した構成であるが、表示部26Aに代えて、表示部26または表示部26Bに警報表示部60を追加した構成としてもよい。
【0104】
また、本発明の実施の形態は、連結車1ではない貨物車両においても適用できる。その場合には、前後および左右方向の重心位置の推定のために、第5輪荷重以外を用いることになる。たとえば、貨物を積載する前後で、各輪のエアサスペンションを構成するエアベローズ内の空気圧の差分を解析したり、車両の複数の箇所に設けられた車高センサの検出結果を解析することによって、前後および左右方向の重心位置を推定してもよい。
【0105】
また、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0106】
1…連結車、2…牽引車、3…被牽引車、10…被牽引車シャーシ(荷台)、20…左右重心位置推定装置(重心位置計算装置)、23…左右重心位置推定部(第一の判定手段、第二の判定手段)、24…前後重心位置推定部、25…補正演算部、26…表示部、27…質量推定部、28…偏り荷重値記憶部(偏り荷重値記憶手段)、29…偏り荷重値取得部(偏り荷重値取得手段)、31R,31L…エアベローズ、60…警報表示部(警報手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷台とエアベローズとを有し、貨物が前記荷台に積載されることにより車高が所定の高さよりも沈むときには前記エアベローズ内の空気圧を制御して車高を所定の高さに保つように調整される車両の重心位置を推定する重心位置推定装置において、
前記車両の偏り荷重値を所定のサンプリング周期毎に記憶する偏り荷重値記憶手段と、
前記エアベローズ内の空気圧の変化に応じ、前記荷台への貨物の積載開始を判定する第一の判定手段と、
前記第一の判定手段が前記荷台への貨物の積載開始を判定したときからの前記空気圧の変化に応じ、前記荷台への貨物の積載完了を判定する第二の判定手段と、
前記第二の判定手段が積載完了と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間に前記偏り荷重値記憶手段に記憶された偏り荷重値のサンプリング値の平均値から前記第一の判定手段が積載開始と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間に前記偏り荷重値記憶手段に記憶された偏り荷重値のサンプリング値の平均値を減算する偏り荷重値取得手段と、
を有する、
ことを特徴とする重心位置推定装置。
【請求項2】
請求項1記載の重心位置推定装置であって、
前記第一の判定手段が前記荷台への貨物の積載開始を判定したときから所定の時間以内に前記第二の判定手段が前記荷台への貨物の積載完了を判定しないときには、前記第一の判定手段の判定結果を無効とする、
ことを特徴とする重心位置推定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の重心位置推定装置であって、
前記偏り荷重値取得手段の減算結果が所定の閾値以上、または超えているときには、警報を発出する警報手段を有する、
ことを特徴とする重心位置推定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の重心位置推定装置を有することを特徴とする車両。
【請求項5】
荷台とエアベローズとを有し、貨物が前記荷台に積載されることにより車高が所定の高さよりも沈むときには前記エアベローズ内の空気圧を制御して車高を所定の高さに保つように調整される車両の重心位置を推定する重心位置推定装置の重心位置推定方法において、
前記車両の偏り荷重値を所定のサンプリング周期毎に記憶する偏り荷重値記憶ステップと、
前記エアベローズ内の空気圧の変化に応じ、前記荷台への貨物の積載開始を判定する第一の判定ステップと、
前記第一の判定ステップにより前記荷台への貨物の積載開始が判定されたときからの前記空気圧の変化に応じ、前記荷台への貨物の積載完了を判定する第二の判定ステップと、
前記第二の判定ステップにより積載完了と判定された時刻とその所定期間前の時刻との間に前記偏り荷重値記憶ステップにより記憶された偏り荷重値のサンプリング値の平均値から前記第一の判定ステップにより積載開始と判定された時刻とその所定期間前の時刻との間に前記偏り荷重値記憶ステップにより記憶された偏り荷重値のサンプリング値の平均値を減算する偏り荷重値取得ステップと、
を有する、
ことを特徴とする重心位置推定方法。
【請求項6】
情報処理装置に、請求項1から3のいずれか1項記載の重心位置推定装置の機能を実現させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−136182(P2012−136182A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290767(P2010−290767)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】