説明

野生動物捕獲装置

【課題】防護区画に近づく野生動物の動物種を識別し、保護対象種の野生動物を錯誤捕獲することなく非保護対象種のみを捕獲して捕獲効率の向上を図ることのできる野生動物捕獲装置を提供することである。
【解決手段】檻の中の赤外線カメラ5による撮像データと、設定入力されたテンプレート画像との比較判定が行われる。保護種動物が檻に入ったのを確認したときは、威嚇を実行して檻からの退去を促す。非保護種動物と判断したときには、威嚇を実行せずに捕獲を実行する。このとき、幼獣と成獣の判別を行って、幼獣の場合には、威嚇を実行し、檻からの退去を促す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農耕地、牧場、集落等に出没する野生動物を捕獲する野生動物捕獲装置に関する。
【背景技術】
【0002】
野生動物による農作物被害は全国的に蔓延し、その被害の規模も深刻化なものとなっている。野生動物による農作物被害の軽減は、農山村地域社会の活力低下の阻止や機能回復に貢献するだけでなく、都道府県や市町村の農業被害対策に要する経済的負担を軽減するという意味においても極めて重要である。
【0003】
野生動物による農作物被害に対してはさまざまな対策が実施されているが、代表的なものとしては檻などの捕獲装置による捕獲や威嚇刺激等による追い払い、防護柵などがある。威嚇手段としては、光や音によるものの外に、例えば、特開2005−21138号公報(特許文献1)に開示されているように、サル等の害獣に向けて忌避剤を散布する害獣駆除装置などもある。捕獲や追い払いを効果的に実施するには、対象とする動物種が捕獲装置に入ったときや追い払い装置に接近したときに、適切なタイミングで捕獲動作を起こしたり威嚇刺激を呈示したりすることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−21138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来使用されている各種の捕獲装置や威嚇装置は、動物種や頭数、あるいは接近状況を特定する機能を持っていないため、対象外の動物種を捕獲してしまう錯誤捕獲を生じたりして十分な被害軽減効果を発揮していない状況にある。例えば、西日本においては、絶滅危惧種であるツキノワグマを誤って捕獲すると、処罰される場合もあり、錯誤捕獲自体が絶滅原因のひとつになる可能性もあるため、錯誤捕獲の回避は科学的な観点からの問題だけでなく、社会的問題としても重要となっている。
【0006】
更に、各種の威嚇装置を使用しても、一時的な撃退効果はあるものの、害獣が自己への無危害性を学習してしまった段階では効果が減退する傾向にある。
【0007】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、防護区画に近づく野生動物の動物種を識別し、保護対象種の野生動物を錯誤捕獲することなく非保護対象種のみを捕獲して捕獲効率の向上を図ることのできる野生動物捕獲装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の形態は、防護区画に近づいた野生動物を選別して捕獲する捕獲装置であって、前記防護区画付近に設置され、野生動物を捕獲する捕獲設備と、前記捕獲設備の捕獲可能域に侵入した野生動物を撮像する撮像装置と、前記撮像装置の撮像データに基づき保護種の動物データと比較して保護種動物又は非保護種動物を識別する識別手段と、前記識別手段による識別結果に基づき、前記捕獲設備による捕獲実行の有無を決定する捕獲決定手段とからなる野生動物捕獲装置である。
【0009】
本発明の第2の形態は、第1形態において、前記捕獲決定手段は、前記識別手段による識別結果が非保護種動物であるときに前記捕獲設備を作動させて侵入動物を捕獲する捕獲設備作動手段を含む野生動物捕獲装置である。
【0010】
本発明の第3の形態は、第1又は第2形態において、野生動物を威嚇する威嚇設備を設置し、前記識別手段による識別結果が保護種動物であるときに前記威嚇設備を作動して、前記保護種動物を逃避させる逃避威嚇手段を有する野生動物捕獲装置である。
【0011】
本発明の第4の形態は、第3形態において、前記威嚇設備は、撃退音を発生する発音装置、撃退発光を発生する発光発生装置、威嚇物を機械的に動作させる機械的可動装置、又は忌避剤を噴射する噴射装置のいずれか又は組合せからなる野生動物捕獲装置である。
【0012】
本発明の第5の形態は、第1〜第4形態のいずれかにおいて、前記捕獲設備作動手段は、前記捕獲可能域内の非保護種動物が所定頭数に達することを条件に前記捕獲設備を作動する頭数判別手段を含む野生動物捕獲装置である。
【0013】
本発明の第6の形態は、第1〜第4形態のいずれかにおいて、前記捕獲設備作動手段は、前記捕獲可能域内の非保護種動物が所定の大きさを超えることを条件に前記捕獲設備を作動する大きさ判別手段を含む野生動物捕獲装置である。
【0014】
本発明の第7の形態は、第3〜第6形態のいずれかにおいて、前記防護区画に接近した野生動物を撮像する接近動物撮像装置を設置し、前記接近動物撮像装置の撮像データに基づいて保護種動物を識別したときに、前記威嚇設備を作動させて前記保護種動物を追い払う追い払い手段を有する野生動物捕獲装置である。
【0015】
本発明の第8の形態は、第1〜第7形態のいずれかにおいて、前記捕獲設備は、入口自動閉鎖式檻又は箱体、あるいは、投網式又は落下式捕獲網のいずれかからなる野生動物捕獲装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の形態によれば、前記防護区画に近づいた野生動物を撮像装置により撮像し、前記撮像装置の撮像データに基づき保護種動物か否かを識別して、その識別結果をトリガーにして捕獲実行の有無を決定するので、撮像データの画像解析により高精度に保護種動物又は非保護種動物を識別して前記防護区画への接近を自動監視することができる。この自動監視により、保護種動物又は非保護種動物を識別して、ツキノワグマ等の保護種動物を無暗に捕獲することを回避して、捕獲効率の向上を図ることができる。しかも、前記防護区画への接近を自動監視し、非保護種動物のみを捕獲するので、防護柵がなくてもイノシシ等の加害動物の侵入を防止でき、防護柵の破壊による補修・点検費用や労力を大幅に低減することができる。
本発明における撮像装置には、スマートセンサーである赤外線カメラ等の撮像カメラを使用することができる。
【0017】
現在、例えば、兵庫県北部の絶滅危惧種であるツキノワグマの生息地域においては、くくりわなや箱わな等による錯誤捕獲が発生しており、加害動物の捕獲推進の障害となっている。そこで、本発明の第2の形態によれば、前記捕獲設備作動手段により、前記識別結果が非保護種動物であるときに前記捕獲設備を作動させて非保護種動物を捕獲するので、保護種動物の錯誤捕獲を行うことなく、捕獲効率の向上を図ることができ、錯誤捕獲を生じさせずに加害動物(非保護種動物)の効率的捕獲の推進に寄与し、また地域住民の安心・安全を確保することに大きく貢献することができる。
【0018】
本発明の第3の形態によれば、前記避威嚇手段により、前記識別手段による識別結果が保護種動物であるときに前記威嚇設備を作動して、前記保護種動物を逃避させるので、錯誤捕獲を未然に防いで非保護種動物の捕獲効率を向上させることができる。しかも、この逃避処理により、前記保護種動物に前記捕獲設備に再び入ることへの警戒心や恐怖心を植え付けて、保護種動物の錯誤捕獲の防止と警戒心の植え付けを確実に行うことができる。
【0019】
本発明の第4の形態によれば、撃退音を発生する発音装置、撃退発光を発生する発光発生装置、威嚇物を機械的に動作させる機械的威嚇物装置又は忌避剤を噴射する噴射装置のいずれか又は組合せを用いて威嚇を行うことにより、保護種動物の習性に応じた威嚇を行って、追い払い効果をより実効的なものにすることができる。発音装置には例えば、大音響スピーカを、発光発生装置には例えば、フラッシュライト等の閃光装置や投光機を、機械的威嚇物装置には可動式擬似人間ロボット等を、忌避剤噴射装置には例えば、カプサイシン等の噴霧装置を夫々使用することができる。
【0020】
本発明の第5の形態によれば、前記頭数判別手段により、前記捕獲可能域内の前記非保護種動物が所定頭数に達することを条件に前記捕獲設備を作動するので、前記非保護種動物の効率的捕獲を行うことができる。
【0021】
本発明の第6の形態によれば、前記大きさ判別手段により、前記捕獲可能域内の前記非保護種動物が所定の大きさを超えることを条件に前記捕獲設備を作動するので、たとえ非保護種動物であっても幼獣を捕獲することなく退避を促したりして、成獣のみを捕獲対象とすることができ、捕獲による実効性と捕獲効率を向上させることができる。
【0022】
本発明の第7の形態によれば、前記追い払い手段により、前記接近動物撮像装置の撮像データに基づいて前記防護区画に接近した保護種動物を識別したときに、前記威嚇設備を作動させて追い払うので、保護種動物が前記捕獲可能域に入ってしまう前に追い払うことができ、非保護種動物のみを捕獲対象として捕獲効率を向上させることができる。前記接近動物撮像装置は前記撮像装置と別に設置されてもよいが、単一の撮像装置により、前記接近動物の撮像及び前記捕獲可能域への侵入動物の撮像を行うようにしてもよい。
【0023】
本発明の第8の形態によれば、入口自動閉鎖式檻又は箱体、あるいは、投網式又は落下式捕獲網のいずれかの前記捕獲設備を使用することにより、防護区画の設置状況に応じて前記捕獲設備を選択して効率的捕獲を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る野生動物捕獲装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【図2】前記野生動物捕獲装置の配置構成図である。
【図3】前記野生動物捕獲装置の野生動物捕獲制御の全体フローチャートである。
【図4】前記野生動物捕獲装置の設定処理のフローチャートである。
【図5】前記野生動物捕獲装置の監視処理前半のフローチャートである。
【図6】前記監視処理の後半部分のフローチャートである。
【図7】前記野生動物捕獲装置の画像処理を説明するための画像内容を示す図である。
【図8】前記野生動物捕獲装置に用いる離散コサイン変換手法の概要を示す図である。
【図9】網わなの捕獲設備を用いた野生動物捕獲装置に用いた場合の配置構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る野生動物捕獲装置を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の実施形態に係る野生動物捕獲装置の概略構成ブロック図である。図2は野生動物捕獲装置に用いる各種設備の配置構成を示す。本実施形態においては、赤外線カメラを用いて防護区画1に近づく野生動物を監視し、その監視対象動物はクマ及びイノシシなどの野生動物である。
本実施形態に係る野生動物捕獲装置の防護区画1は農作物を栽培するエリアであって、防護区画1の一辺側(図1の上側)に対向して野生動物の生息地域が存する。防護区画1近傍における野生動物の接近エリアに非保護種動物を捕獲する捕獲設備4が設置されている。捕獲設備4の前方には、防護区画1内に撮像装置である赤外線カメラ5が設置されている。赤外線カメラ5の横には撮影用赤外線投光装置8が設置されている。捕獲設備4は遠隔閉操作型檻ワナからなる。前記接近エリアには威嚇装置の発音装置6、発光発生装置7が夫々2組配置されている。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係る野生動物捕獲装置の制御部は、マイクロプロセッサで構成されたCPU10からなり、CPU10には制御プログラムを格納したROM11及びワークエリアを構成するRAM12が接続されている。更に、CPU10には外部接続入出力装置として、インターフェースI/O15〜18を介して、入力装置14、発音装置6、発光発生装置7、赤外線投光装置8が接続されている。赤外線カメラ5の撮像制御装置9の制御部がCPU10に接続されている。赤外線カメラ5の監視範囲は、被写体の水平角度θ(約90°)内で行われ、防護区画1前方の捕獲設備4を含む接近エリアをカバーしている。撮像制御装置9には撮像データ保存用メモリ13が内蔵されている。入力装置14には、画像解析用データ等のデータ入力手段び各種指示キーボードが含まれる。制御装置の主要部は防護区画1から離れた場所に設置され遠隔監視可能になっている。CPU10には、管理者がカメラ画像を確認するためのディスプレイ21がインターフェースI/O22を介して接続され、また、ブザーランプの警報アラーム装置23がインターフェースI/O24を介して接続されている。
【0028】
捕獲装置4の遠隔閉操作型檻ワナは、仕掛け時に開放された入口に設けた落下型扉2を遠隔操作で落下させて捕獲する捕獲装置からなる。扉2の落下制御機構19はインターフェースI/O19を介してCPU10からの制御信号を受けて作動する。発音装置6は大音響スピーカからなり、発光発生装置7はフラッシュライトからなる。
【0029】
図3は本野生動物捕獲装置におけるCPU10の制御に基づく野生動物捕獲制御全体の詳細を示す。図4は、野生動物捕獲制御における設定処理を示す。図5は、野生動物捕獲制御における監視処理の前半部分を、図6は監視処理の後半部分を示す。以下に、図3〜図6のフローチャートに基づき、CPU10の制御に基づく野生動物捕獲制御手順を説明する。
【0030】
本実施形態においては、防護区画1に接近する動物を赤外線カメラ5により撮像して監視し、捕獲設備4の檻内(捕獲可能域)に入った野生動物の撮像データと各種動物画像データと比較する画像解析を行って識別し、その識別結果が捕獲対象の非保護種動物(イノシシ)であるときには、落下制御機構19を作動して捕獲設備4により捕獲し、識別結果がツキノワグマ等の保護種動物であるときには、大音響出力とフラッシュ閃光による威嚇を行って檻から退去させ、生息地域側に逃避させる野生動物捕獲制御が行われる。
【0031】
野生動物の監視処理に先立ち、準備段階として、野生動物を画像解析して識別するための判定データの入力を入力装置14により行う(ステップST1、ST5)。判定データが設定入力されていると、監視処理の開始入力により開始し(ステップST2、ST3)、監視終了の指示入力により終了する(ステップST4)。
【0032】
本実施形態における画像解析は以下の手順により行われる。
(1)動物画像の収集:赤外線カメラ5の撮像により監視対象動物の画像データを収集する。
(2)動物画像からの種特徴データの抽出:テンプレートマッチングの元となるデータを抽出する。
(3)種判定処理:離散コサイン変換手法に基づき種判定を行う。
【0033】
図8は離散コサイン変換手法の概要を示す。図8の(8A)は予め設定記憶した各種動物のテンプレート画像(い、ろ、は、に、ほ、へ)を示す。同図(8B)は撮像した評価画像例を示す。離散コサイン変換手法によれば、同図(8C)のDCT係数による評価式の計算を行ってユークリッド距離Dを求めて、距離Dが最も小さいテープレート画像値を選別する。図8の場合には、距離Dが最も近い「い」のイノシシと判定する。判定に際しては、評価画像を複数取り込んで実行することにより判定精度を高め得る。なお、テンプレートデータは画像から抽出された行列式の値であり、少ない容量に格納することができる利点がある。本実施形態では離散コサイン変換手法による特徴ベクトルの解析方法を用いているが、離散フーリエ変換、KL変換、ウェーブレット変換等を用いることができる。更に、特徴分類、Harr−Like法などの判定手法を用いることができる。動物種の判別は誤判を回避する必要から95%以上の正答率が最も好ましく、頭数判別する場合にもその精度が±30%にするのが最も好ましい。
【0034】
図7は画像画像処理を説明するための画像内容を示す。
判定データの設定処理(ステップST5)を図4及び図7により説明する。
まず、監視対象動物の判定データ(例:図8の(8A)のテンプレート画像)を設定入力する(ステップST11、ST12)。設定入力はRAM12への画像データ取り込みにより行われる。ついで、背景画像の設定を動物の出没していない時期の撮像データにより行う(ステップST13、ST14)。図7の(7A)は背景画像例を示す。背景画像は時間帯に応じて予め用意してもよいし、随時、対象動物の発見していないときに取得するようにしてもよい。更に、監視パラメータの設定を行う(ステップST15、ST16)。図8の(8A)のテンプレート画像の動物種のうち、檻(捕獲エリア)内に保護するのは「い」の成獣イノシシであり、その他の動物種は「ろ」の幼獣イノシシを含めて威嚇退散対象のみとしている。背景画像データには、捕獲設備4(檻)の監視データも、予め背景画像の一部として記憶され、檻内に動物が移動したか否かの判定情報に使用される。また、動物種の判定だけでなく、頭数も画像識別するようにしてもよい。
【0035】
監視処理(ステップST5)を図5、図6及び図7により説明する。
赤外線カメラ5の監視カメラをONして監視処理を開始する(ステップST20)。赤外線カメラ5の撮像データは一定間隔(例えば、3秒)でRAM12に取り込まれる(ステップST21)。ついで、撮像データと、設定入力されたテンプレート画像との比較判定が行われる(ステップST22)。ステップST22は本発明の識別手段に対応する。画像データ処理は、檻を含む背景画像と原画像の差分データを求め、動物画像データだけを抽出して行われる。図7の(7C)は背景画像を除いた差分データの例を示す。差分データは図7の(7D)に示す二値化、平板化処理された後、「かたまり検出」及び面積計算が行われる。
【0036】
画像データ処理により接近動物が発見されたとき(ステップST23)、檻内に入っているか否か判定される(ステップST24)。檻の外の接近エリアに徘徊している場合には、当該野生動物が捕獲対象の非保護種か否か判別される。当該野生動物につき上記離散コサイン変換手法により動物種を判定する。ツキノワグマ等の保護種動物のときは、発音装置6及び発光発生装置7を作動させて、威嚇作動を行い、檻に入る前に退散させ、誤って檻に入らないように事前の追い払いを行う(ステップST26、ST27)。威嚇作動は一定時間(例えば、1分)行われる。威嚇作動を一定時間、実行した後、再び、撮像データの解析を行い、接近動物が退散したか否か判定する(ステップST28)。撮像データの解析の結果、画像データが背景画像以外のものを識別されていないときには接近した保護種動物が退散したと判断して、通常監視状態に戻る(ステップST28、ST21)。撮像データの解析の結果、依然として保護種動物が徘徊し続けているときには、異常事態の発生と判断して警報アラーム装置23を作動し、アラーム報知(異常E1)を行って管理者への対処を促す(ステップST29)。ステップST26、ST27は本発明の事前の追い払い手段に対応する。威嚇の作動態様としては、単発的に実施するだけでなく、防護区画1への接近度合いを考慮して、音響レベルやフラッシュ閃に強弱を付けたり、威嚇時間を可変にしたりしてよい。例えば、画像解析によって野生動物の行動状況を監視し、徘徊の動きが鈍く居座る傾向にあるか単に移動中の状態かを判定して、威嚇レベルの強弱を変化させるようにしてもよい。
【0037】
野生動物が檻に入った場合には、当該野生動物につき上記離散コサイン変換手法により動物種を判定する(ステップST24、ST25)。画像判別の結果、図8の(8A)のテンプレート画像の「ほ」のツキノワグマ(保護種)と判断したときには、上記威嚇作動を実行する(ステップST30、ST31)。保護種のツキノワグマは捕獲対象ではないので、檻から退去させ、且つ、恐怖心ないし警戒心を植え付けるために、大きな音響とフラッシュ閃光とにより威嚇を実行する。ステップST30とステップST31は本発明の逃避威嚇手段に対応する。
【0038】
威嚇の作動を一定時間(例えば、2分)実行した後、再び、撮像データの解析を行い、檻のクマが退散したか否か判定する(ステップST32)。撮像データの解析の結果、クマの画像データが檻画像以外のものを識別されていないときにはクマが威嚇により退去したと判断して、通常監視状態に戻る(ステップST32、ST21)。
【0039】
威嚇作動を行っても、クマが檻から退去せずに居残り続けている場合には、異常事態の発生と判断して警報アラーム装置23を作動し、アラーム報知(異常E2)を行って管理者への対処を促す(ステップST33、ST33)。保護種への威嚇の作動態様としては、上記の事前追い払い手段による威嚇と同様にして行ってよいし、錯誤捕獲を回避するうえで、より大きい威嚇作動を行うのが好ましい。また、保護種動物の種別に応じて、音響レベルやフラッシュ閃に強弱を付けたり、威嚇時間を可変にしたりしてよい。
【0040】
保護種以外の捕獲対象動物が檻に移動した場合の処理をステップST34〜ST37に示す。画像判別の結果、図8の(8A)のテンプレート画像の「い」のイニシシと判断したときには、威嚇を実行せずに捕獲を実行する(ステップST34、ST36)。ステップST34とステップST36は本発明の捕獲決定手段に対応する。捕獲の場合には、落下制御機構19を作動して檻を閉鎖する(ステップST36)。檻の閉鎖により捕獲報知をディスプレイ21にメッセージ表示して行う(ステップST36)。監視処理の段階で複数の頭数のイノシシが発見されているときには、捕獲に際して複数のイノシシが檻に移動したか否かを所定時間、確認してから捕獲作動するようにすれば、捕獲効率の向上を図ることができる。
このとき、動物種がイノシシであっても幼獣のイノシシとの識別を行って、幼獣の場合には、上記威嚇を実行し、檻からの退去を促す(ステップST35、ST31〜ST33)。ステップST35では、画像解析により動物の大きさを判別し、検出した大きさのデータから、「い」の成獣イノシシか「ろ」の幼獣イノシシかを識別する。ステップST35は本発明の大きさ判別手段に対応する。
【0041】
クマ、成獣イノシシ及び幼獣イノシシ以外の動物が檻に入った場合には、対象外の動物の移動と判断し、異常事態の発生と判断して警報アラーム装置23を作動し、アラーム報知(異常E3)を行って管理者への対処を促す(ステップST35、ST37)。
【0042】
図9は網わな捕獲設備を使用した実施例である捕獲装置の配置構成を示す。網わな捕獲設備は防護区画30に隣接した野生動物の接近エリア31に設置される。接近エリア31の四隅に支柱33が立設され、支柱33の頭部には紐ロック・解除機構34が設置されている。捕獲準備状態において、矩形状捕獲網32の四隅に取り付けた支持紐35が紐ロック・解除機構34に引っ張り状態で保持されて、矩形状捕獲網32は接近エリア31上方に広げられた状態で吊設される。防護区画30には赤外線カメラの撮像装置38が設置されている。撮像装置38にも赤外線投光装置(図示せず)が内蔵され、その撮像範囲は接近エリア31の全域である。撮像装置38は、地上近くに設置すると近辺の通行車両のヘッドライト光がノイズとして入射して撮像不良になるおそれがあるため、できるだけ地上より高い位置に設置して、上方から接近エリアを撮像するようにするのが好ましい。各支柱33には赤外線投光装置36が付設され、四方向から照射してエリア全域を撮像可能にしている。また、防護区画30に近接した2本の支柱33には、威嚇装置の大音響スピーカ37が付設されている。紐ロック・解除機構34は、制御部(図示せず)からの遠隔指示信号を受けて、支持紐35のロック支持を解除して、捕獲網32を接近エリア31面に向けて落下させる。
【0043】
図9の捕獲装置は、捕獲設備と威嚇装置の配置を除き、図1の捕獲装置と同様の構成であり、また、CPUを含む制御部による野生動物の捕獲制御も同様にして行われる。接近エリア31の端側では逃げられるおそれがあるので、網中央領域を捕獲網32を落下させて捕獲可能な捕獲可能域に設定している。撮像装置38による撮像、監視処理により、野生動物39のうち非保護種動物が該捕獲可能域に入ったことを識別したとき、制御部からの遠隔指示信号により、支持紐35のロック支持を解除して、捕獲網32を接近エリア31面に向けて落下させ、捕獲処理する。無論、たとえ、非保護種動物39であっても成獣・幼獣の判別も行って、幼獣に対しては逃避させるための威嚇を行う。撮像装置38による撮像、監視処理により、保護種動物が徘徊していることを識別したときは、接近エリア31内の徘徊位置にかかわらず、接近エリア31から退去させるべく上記威嚇装置を直ちに作動させて威嚇作動を実行し、防護区画30と反対側の野生動物生息区域に退散、逃避させる。
【0044】
本発明は、上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、保護種・非保護種動物の識別による捕獲を自動化できるので、比較的簡易な設備だけで、錯誤捕獲を確実に回避して害獣対策の省力化、低コスト化を実現することができる。また、保護種・非保護の識別により威嚇と捕獲を選択的に実行できるので、現在の狩猟捕獲の効率(1人あたり0.2〜0.5頭数)を大幅に改善でき、捕獲対策費用の軽減や効率化を図ることができる。しかも、威嚇と捕獲の併用により防護柵を不要もしくは軽微なものにすることができ、野生動物による防護柵の破壊による補修費用や労力の軽減を実現することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 防護区画
2 扉
3 野生動物
4 捕獲設備
5 赤外線カメラ
6 発音装置
7 発光発生装置
8 赤外線投光装置
9 撮像制御装置
10 CPU
11 ROM
12 RAM
13 撮像データ保存用メモリ
14 入力装置
15 インターフェースI/O
16 インターフェースI/O
17 インターフェースI/O
18 インターフェースI/O
19 落下制御機構
20 インターフェースI/O
21 ディスプレイ
22 インターフェースI/O
23 警報アラーム装置
24 インターフェースI/O
30 防護区画
31 接近エリア
32 捕獲網
33 支柱
34 紐ロック・解除機構
35 支持紐
36 赤外線投光装置
37 大音響スピーカ
38 撮像装置
39 野生動物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防護区画に近づいた野生動物を選別して捕獲する捕獲装置であって、前記防護区画付近に設置され、野生動物を捕獲する捕獲設備と、前記捕獲設備の捕獲可能域に侵入した野生動物を撮像する撮像装置と、前記撮像装置の撮像データに基づき保護種の動物データと比較して保護種動物又は非保護種動物を識別する識別手段と、前記識別手段による識別結果に基づき、前記捕獲設備による捕獲実行の有無を決定する捕獲決定手段とからなることを特徴とする野生動物捕獲装置。
【請求項2】
前記捕獲決定手段は、前記識別手段による識別結果が非保護種動物であるときに前記捕獲設備を作動させて侵入動物を捕獲する捕獲設備作動手段を含む請求項1に記載の野生動物捕獲装置。
【請求項3】
野生動物を威嚇する威嚇設備を設置し、前記識別手段による識別結果が保護種動物であるときに前記威嚇設備を作動して、前記保護種動物を逃避させる逃避威嚇手段を有する請求項1又は2に記載の野生動物捕獲装置。
【請求項4】
前記威嚇設備は、撃退音を発生する発音装置、撃退発光を発生する発光発生装置、威嚇物を機械的に動作させる機械的可動装置、又は忌避剤を噴射する噴射装置のいずれか又は組合せからなる請求項3に記載の野生動物捕獲装置。
【請求項5】
前記捕獲設備作動手段は、前記捕獲可能域内の非保護種動物が所定頭数に達することを条件に前記捕獲設備を作動する頭数判別手段を含む請求項1〜4のいずれかに記載の野生動物捕獲装置。
【請求項6】
前記捕獲設備作動手段は、前記捕獲可能域内の非保護種動物が所定の大きさを超えることを条件に前記捕獲設備を作動する大きさ判別手段を含む請求項1〜4のいずれかに記載の野生動物捕獲装置。
【請求項7】
前記防護区画に接近した野生動物を撮像する接近動物撮像装置を設置し、前記接近動物撮像装置の撮像データに基づいて保護動物を識別したときに、前記威嚇設備を作動させて前記保護種動物を追い払う追い払い手段を有する請求項3〜6のいずれかに記載の野生動物捕獲装置。
【請求項8】
前記捕獲設備は、入口自動閉鎖式檻又は箱体、あるいは、投網式又は落下式捕獲網のいずれかからなる請求項1〜7のいずれかに記載の野生動物捕獲装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−160706(P2011−160706A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25831(P2010−25831)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月8日発行の「日本農業新聞 平成21年9月8日付朝刊」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、農林水産省、新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(391015616)株式会社アサヒ電子研究所 (14)
【出願人】(510035875)特定非営利活動法人 情報セキュリティ研究所 (2)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】