説明

量子現金システム及び装置

【課題】 量子検証情報を逆変換データにより変換する偽造をも阻止でき、安全性を向上させる。
【解決手段】 量子現金保持装置3が、量子現金を正当に使用するためにいずれかの逆変換データを出力した後、検証リスト内の他の逆変換データの出力を阻止する構成なので、量子現金の偽造に必要な他の逆変換データが外部に流出しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子複製禁止定理を根拠に偽造に対して安全性を有する量子現金を流通させる量子現金システム及び装置に係り、特に、量子検証情報を逆変換データにより変換する偽造をも阻止し、安全性を向上し得る量子現金システム及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1969年にウイズナー(Wiesner)により考案された量子現金が知られている。ここでいう量子現金とは、シリアル番号と額面の情報に、検証用データを量子状態として記録し付与したものである。
【0003】
量子状態は、元データが無い限り複製が不可能であり、複製に対する安全性が保証されている。このことは、一般に量子複製禁止定理と呼ばれている。
【0004】
一方、量子状態は、同じ量子状態と比較し、両者が一致した場合に正しい旨が検証される。なお、異なる量子状態同士を比較すると一定の確率で不一致となる。よって、多数の量子状態を検証に用いることにより、両者の量子状態が異なる旨の検証結果を保証できる。また、検証用データから量子状態を生成できるため、検証用データを持っていても量子現金を検証できる(特許文献1に、量子状態の検証の一例が記載されている)。また、量子状態の一例としては、単一光子の偏光状態を基底に利用するものが良く知られている。
【特許文献1】特開2001−7798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
量子現金の利用形態を考えた時、例えば銀行のように、量子現金を発行した店舗と異なる何れの店舗でも検証できる形態が望ましい。つまり、発行元とは異なる代理先で検証し、代理先から発行元へ清算を行える形態が望ましい。
【0006】
しかしながら、検証には、検証用データ、又は検証用データから生成された量子状態が必要であり、これら何れかを代理先に配布すると、配布先で量子現金を複製できることから、様々な不正行為が可能となってしまう。例えば複製した1つをユーザから提示された量子現金であると偽る不正や、複製機能が無いとしても、他の店舗と結託して、一方の検証用の量子状態をユーザから提示された量子現金であると偽る不正が可能となる。発行側には、これらの不正を暴くことはできない。実際に、検証機能が全て十分な信頼性を持って運用されるとは限らないので、現状では、検証を代理する有効な仕組みがなかった。
【0007】
一方、この有効な仕組みを作る観点から、本願出願時に未公開である先行出願として、量子現金の発行機能と検証機能とを分離しつつ、安全性を確保した量子現金システムが提案されている(特願2003−432227号(以下、先行出願という))。
【0008】
しかしながら、この先行出願の発明者らの更なる検討によれば、この先行出願においては、ほとんどありえない場合ではあるが、量子検証装置と量子現金支払済の量子現金保持装置とが結託した場合に、量子検証装置内の量子検証情報を量子現金保持装置に残った逆変換データにより変換して量子現金を偽造し得る可能性が論理的には残っている。この場合、偽造に用いる量子検証情報及び逆変換データ自体は何れも本物である。よって、正当に支払われた量子現金が量子現金発行装置に精算される前に、偽造された量子現金が他の量子現金検証装置に支払われると、他の量子現金検証装置では、量子現金の偽造を見破れず、不正な支払いを受け付けてしまう。
【0009】
本発明は上記実情を考慮してなされたものであり、量子検証情報を逆変換データにより変換する偽造をも阻止でき、安全性を向上し得る量子現金システム及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、少なくとも金額を表す元データに対応する第1量子状態を含む量子現金と、前記第1量子状態が複数の変換データの各々に基づいて個別に変換されてなる第2量子状態を含み夫々前記第1量子状態の検証に用いられる複数の量子検証情報と、前記各変換データに個別に対応して夫々量子検証情報を逆変換するための複数の逆変換データ及び前記各逆変換データを特定可能な識別子からなる検証リストとを発行する量子現金発行装置と、前記量子現金及び前記検証リストを保持し、当該量子現金と前記検証リスト内のいずれかの逆変換データとを出力可能な量子現金保持装置と、前記識別子が割当てられており、前記量子現金保持装置から量子現金、逆変換データ及び識別子を受けたとき、前記量子検証情報の第2量子情報を当該逆変換データにより変換して得られた第1量子情報に基づいて、前記量子現金の第1量子状態を検証可能な量子現金検証装置とを備えた量子現金システムであって、前記量子現金保持装置としては、前記いずれかの逆変換データを出力した後、前記検証リスト内の他の逆変換データの出力を阻止するための出力阻止手段を備えた量子現金システムである。
【0011】
第2の発明は、少なくとも金額を表す元データに対応する第1量子状態を含む量子現金と、前記第1量子状態が複数の変換データの各々に基づいて個別に変換されてなる第2量子状態を含み夫々前記第1量子状態の検証に用いられる複数の量子検証情報と、前記各変換データに個別に対応して夫々量子検証情報を逆変換するための複数の逆変換データ及び前記各逆変換データを特定可能な識別子からなる検証リストとを発行する量子現金発行装置と、前記量子現金及び前記検証リストを保持し、当該量子現金と前記検証リスト内のいずれかの逆変換データとを出力可能であり、前記いずれかの逆変換データを出力した後、前記検証リスト内の他の逆変換データの出力を阻止する量子現金保持装置と、前記識別子が割当てられており、前記量子現金保持装置から量子現金、逆変換データ及び識別子を受けたとき、前記量子検証情報の第2量子情報を当該逆変換データにより変換して得られた第1量子情報に基づいて、前記量子現金の第1量子状態を検証可能な量子現金検証装置とを備えた量子現金システムに用いられる前記量子現金発行装置であって、前記量子現金の検証又はこの検証の予約に応じて量子現金検証装置から識別子と量子検証情報要求とを受けると、この識別子で特定される逆変換データに対応する変換データで変換された量子検証情報を、当該量子現金検証装置に配布する検証情報配布手段を備えた量子現金発行装置である。
【0012】
(作用)
従って、第1の発明では、量子現金保持装置が、量子現金を正当に使用するためにいずれかの逆変換データを出力した後、検証リスト内の他の逆変換データの出力を阻止するので、量子現金の偽造に必要な他の逆変換データが外部に流出しない。このため、量子検証情報を逆変換データにより変換する偽造をも阻止でき、安全性を向上させることができる。
【0013】
第2の発明では、第1の発明の作用に加え、実際に量子現金を検証する量子現金検証装置のみに量子検証情報を配布し、他の量子現金検証装置には配布しない構成により、さらに安全性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、量子検証情報を逆変換データにより変換する偽造をも阻止でき、安全性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
量子状態とは、電子や光子など素粒子の波動的な性質も考慮した状態のことで、複数の基本的状態の重ね合わせであり、測定によって状態の一部の情報しか得られず、測定によって状態が変化し、かつ、測定値も一意的には決まらないという性質を持つ。これらの性質により、量子状態は、量子状態の設計情報が無い未知の量子状態の複製を、元の状態を保ったまま作ることは不可能である特徴をもつ。
【0016】
量子現金とは、小切手、証券、紙幣などのような、それ自身が価値を備えたものであり、且つ、この量子現金が正しいものである旨を示す量子状態を情報として備えている。なお、価値は、必ずしも金銭である必要はない。
【0017】
量子検証情報とは、量子現金の真偽を確かめるための量子状態を検証用の情報として備えている。
【0018】
量子状態の正当性の検証は、検証すべき量子状態が、検証用の量子状態と完全に一致するか否かを調べることによってのみ可能である。つまり、同じ量子状態が二つ存在することにより、正当である旨の判断ができる。
【0019】
図1と図2は、本実施の形態の量子現金流通システムの全体を示している。係る量子現金システムは、量子現金の発行機能と、量子現金の立替機能と、量子現金の清算機能とに大別できる。図1は、量子現金の発行機能を示しており、図2は、量子現金の立替機能及び量子現金の清算機能を示している。なお、立替とは、量子現金の発行元に代わり、量子現金を受けて、その対価として価値を供給することを言う。清算とは、量子現金の発行元が、価値を供給し、量子現金を回収することを言う。
【0020】
このシステムは、量子現金発行装置1と、n個の量子現金検証装置2−1〜2−n(nは2以上の整数)と、量子現金保持装置3とを備える。
【0021】
量子現金発行装置1は、ユーザへの量子現金の発行とそのための検証に係る各種情報(検証リスト、量子検証情報(1)〜(n))の発行、及び、発行した量子現金の清算(量子検証情報(i)、量子現金)を行うものである。
【0022】
一方、量子現金検証装置2−1〜2−nは、量子現金発行装置1に代わって立替を行うためのものである。量子現金検証装置2−1・・・2−nには、予め一意に識別可能な識別子(例えば、装置固有番号、装置名、等)が割り当てられている。
【0023】
量子現金保持装置3は、量子現金発行装置1により発行された量子現金及び検証リストを保持し、当該量子現金と検証リスト内のいずれかの逆変換データとを量子現金検証装置2−i(但し、1≦i≦n)に向けて出力可能なものであって、いずれかの逆変換データを出力した後、検証リスト内の他の逆変換データの出力を阻止する機能をもっている。
【0024】
図3は、量子現金発行装置1の内部の機能ブロックを示す図である。
【0025】
量子現金発行装置1は、量子状態を生成するためのものであって、秘密に管理される元データと、量子現金検証装置2−1・・・2−nにそれぞれ割り当てられた各識別子と、これら各識別子に対応付けた各変換データと、これら各変換データに対応する各逆変換データとを記憶する記憶部11を備える。
【0026】
なお、記憶部11に代え、これらのデータを量子現金発行装置1の管理者から都度入力するようにしても良いが、特に元データは、量子現金の発行時のみならず、回収時にも利用するため、不明となることなく何らかの方法で秘密に保管することが重要である。
【0027】
ここで、変換データ及び逆変換データは、所定の可逆性の変換方式(可逆性の変換方式を、一般にユニタリー変換と呼ぶ)に与えるパラメータであり、変換データに基づいて元データに所定のユニタリー変換を施すと変換情報が得られ、逆変換データに基づいて変換情報に上記ユニタリー変換を施すと元データが得られる関係にある。つまり、所定のユニタリー変換に対し、逆変換データは、変換データの作用を打ち消すように作用する。
【0028】
量子現金生成部12は、元データから量子状態を生成し、この量子状態を保持する量子現金を生成する。
【0029】
量子検証情報生成部13は、元データから量子状態を生成し、所定のユニタリー変換に各変換データをそれぞれ作用させて、得られた各量子状態をそれぞれ個別に保持する量子検証情報を生成する。なお、ここでは、便宜的に量子現金生成部12と検証情報生成部13とを別々の構成としたが、同一の装置で構成しても良い。この場合、量子現金を生成するには、ユニタリー変換へ変換データ“0”を与える、つまり変換しなければ良い。
【0030】
検証リスト生成部14は、各識別子と、各逆変換データとをそれぞれ対応づけた検証リストを生成する。
【0031】
量子現金発行装置1は、量子現金と検証リストとの組を保持した量子現金保持装置3をユーザへ発行する。この発行は、一つの量子現金に対して一度だけ行われる。また、量子現金発行装置1は、各量子現金検証装置2−1・・・2−nへ、各識別子に対応する量子検証情報を供給する。つまり、各量子現金検証装置2−1・・・2−nは、この量子現金に対し、互いに異なる、各量子現金検証装置2−1・・・2−nそれぞれに固有の量子検証情報を備えることとなる。
【0032】
量子現金の発行、量子検証情報の供給、量子現金の検証、及び、量子現金の清算の各処理において、情報の受け渡しを行なう二者間で暗号技術を利用して互いに相手を認証し合うことによって安全性を検証することができる。具体的にはRSA暗号のような公開鍵暗号を利用した方法があり、被認証者が公開鍵と秘密鍵の対を生成し、公開鍵を公開しておく。認証者は認証する際、乱数を生成して公開鍵で暗号化して被認証者に送付する。被認証者はそれを秘密鍵によって復号したものを返送する。認証者は返送された値が元の乱数と一致した場合、被認証者の正当性を確認する。暗号技術の詳細については、文献[岡本龍明・山本博資,「現代暗号」,産業図書,1997.]に記載されている。
【0033】
量子現金清算部15は、発行した量子現金がユーザに利用された後、量子現金が利用された量子現金検証装置2−i(iは、1〜nの何れか1つ)から、ユーザへ代行して支払われた価値を清算するために、量子現金検証装置2−iが正当にユーザへの代行を果たしたかを検証し、清算するものである。
【0034】
このような構成の量子現金発行装置1から、量子現金保持装置3を受けたユーザは、量子現金保持装置3内の量子現金を換金する際に、n個の量子現金検証装置2−1〜2−nの1つを選択し、検証リストの中から、その選択した量子現金検証装置2−iに対応する一つの逆変換データを選択する。量子現金保持装置3は、選択された逆変換データを量子現金とともに量子現金検証装置2−1へ供給出力する。その後、量子現金保持装置3では、他の逆変換データの出力が阻止される。
【0035】
図4は、量子現金検証装置2−1・・・2−nのうちの、一つの内部の機能ブロックを示す図である。以後、説明を簡単にするために、量子現金検証装置2−iに着目して説明する。
【0036】
検証用情報供給部21は、量子現金発行装置1から量子現金検証装置2−i用に供給された量子検証情報を、所定のユニタリー変換にユーザから供給された量子現金検証装置2−i用の逆変換データを作用させて、得られた量子状態を量子状態検証部22へ供給する。
【0037】
量子状態検証部22は、ユーザから供給された量子現金の量子状態と、検証用情報供給部21からの量子状態との一致/不一致を検証するものである。量子状態検証部22は、量子現金を所有するユーザ(正当な量子現金を持っているか否かは不明)から、量子現金と、検証リストからこの量子現金検証部21の識別子に対応する逆変換データとを与えられると、検証用情報供給部21が所有する量子検証情報に、ユーザーから与えられた逆変換データを作用させた量子状態を得、また、ユーザから与えられた量子現金から量子状態を得、これら与えられた量子状態が一致するか否かを確認する。一致すればこの量子現金は正当なものであると判断でき、一致しなければこの量子現金は不当なものであると判断できる。なお、量子状態の検証を行うと、検証結果が一致した場合には、それぞれ元の量子状態が得られる(同じ2つの量子状態)が、不一致の場合には、元の量子状態を得ることはできないことが、知られている。
【0038】
量子現金検証装置2−iで、ユーザの量子現金が正当なものであると検証できた場合に、ユーザから提供された量子現金と引き換えに量子現金に設定されている対価がユーザへ提供される。この対価は量子現金に具体的な金額を印刷しておいても良いし、量子現金発行装置1から、ユーザと各量子現金検証装置2−1・・・2−nへ量子現金の価値を伝えておき、それら共通に認識される価値に基づくようにしても良い。
【0039】
ユーザと量子現金検証装置2−iとの間での立替の処理が終了後、適切なタイミングで、量子現金検証装置2−iと量子現金発行装置1との間で清算の処理を行う。清算の処理とは、本来量子現金に対する対価を支払うべき量子現金発行装置1に代わって、量子現金検証装置2−iが代行して価値を支払っているため、量子現金発行装置1がその価値を量子現金検証装置2−iへ支払うこと、及び、その際に量子現金検証装置2−iが不正を行っていないかを検証することを指す。
【0040】
量子現金検証装置2−iは、検証の結果得られた2つの量子状態の組に基づいて、量子現金発行装置1へ清算の処理を依頼する。
【0041】
量子現金発行装置1は、先に説明した量子現金清算部15にて正当性の検証を行った上、正当と判断した場合に、ユーザへ量子現金に設定されている対価が提供されたと見なし、代替してもらっていた価値を提供する。
【0042】
以上説明したことは、例えば、銀行を例に取ると、量子現金は預金の証書、量子現金発行装置は、当該証書の発行元の銀行、量子現金検証装置は前記証書の発行元の銀行を除く各支店、ユーザは預金者とすると理解しやすい。このような実施形態にすれば、変換データを量子現金検証装置へ隠蔽しつつ、ユーザが預金した銀行以外の銀行でも量子現金を換金することができる。
【0043】
なお、上記実施の形態では、量子現金の発行の処理と清算の処理を同じ装置内で行っていたが、別々の装置で行うようにしても良いことは勿論である。重要な点は、発行の処理及び清算の処理は1箇所であるが、立替の処理が複数備えられることにある。
【0044】
また、上記実施の形態では、量子現金の検証情報を全部の量子現金検証装置2−1〜nに対して予め配布しておいたが、ユーザが量子現金の検証を受ける際、検証を行なう検証装置(例えば、2−1)に対してオンデマンドで検証情報の送付を要求する方式も考えられ、通信の総量を減らし、安全性を高めるのに効果的な場合がある。
【0045】
また、オンデマンドによる検証情報送付の処理を検証に先立ち、インターネットを介するなどして予約することで検証の際に掛かる時間を短縮することも考えられ、その際、先に述べた公開鍵暗号を利用した相互認証方式が利用できる。
【0046】
さらには、検証の予約の取り消しを可能とすることで利便性を増すことも考えられる。その場合、量子現金検証装置が量子現金発行装置に量子状態を返送し、量子現金発行装置はその真正性を確認することで安全に取り消し処理を完了できる。なお、これらオンデマンドの要求やその予約に関しては、第4乃至第5の実施形態で詳述する。
【0047】
以上の様な本実施の形態によれば、量子現金発行装置1からみて、安全性を保ちつつ、且つ、ユーザからの量子現金の検証を、複数の量子現金検証装置2−1・・・2−nで行うことができる。そのため、量子現金の所有者であるユーザにとっても、利用しやすいシステムを提供できる。
【0048】
また、量子現金保持装置3が、量子現金を正当に使用するためにいずれかの逆変換データを出力した後、検証リスト内の他の逆変換データの出力を阻止するので、量子現金の偽造に必要な他の逆変換データが外部に流出しない。このため、量子検証情報を逆変換データにより変換する偽造をも阻止でき、安全性を向上させることができる。
【0049】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態の一具体例として、量子状態として単一光子の偏光方向を利用する場合についての、各部の実現例を説明する。
【0050】
単一光子は、レーザー光を減衰機によって十分強度を弱めることで生成でき、また、この単一光子の偏光方向は、電気光学効果素子を用いた偏光子に通す際に、印加電圧の程度によって任意に切り替え制御可能なことが知られている。
【0051】
本具体例では、偏光方向が水平(0°)及び垂直(90°)である直線偏光の組と、偏光方向が45°及び−45°である直線偏光の組との2つの基底を利用する。ここで、前者をプラス基底、後者をクロス基底と呼ぶこととする。そして、プラス基底において偏光方向が0°を論理値0、90°を論理値1と割り当てる。クロス基底において偏光方向が−45°を論理値0、45°を論理値1と割り当てる。プラス基底とクロス基底とは共役の関係とし、それぞれ論理値0及び論理値1を取り得るから、単一光子に対し4つの量子状態を示し得る。この関係を図5に表として示しておく。
【0052】
また、このように光子の偏光方向で生成した量子状態の保持には、例えば酸化物結晶(YSiO)中に分散させた希土類イオン(Pr3+)に上記単一光子を入射することで、固体中に光子の偏光方向を記録するEIT(Electromagnetically Induced Transparency)と呼ばれる技術が知られている。本具体例においてもEITを利用する。なお、EITについては、文献[市村厚一、“周波数空間を利用した固体素子量子コンピュータ”、東芝レビュー、vol.57、No.9, (2002)]に記載されている。EITによって量子状態を保持した固体を以下ではEIT固体と呼ぶこととする。
【0053】
元データは、十分な長さのランダムなビット列と、前記ビット列の各ビットに対応してランダムな基底列との組で構成される。図6に、元データの生成についての一例を示す。
【0054】
2つの乱数生成装置16、17は、乱数生成に関し互いに相関の無いものである。乱数生成装置16は、所定長の0/1の乱数を生成し、これを元データのビット列とする。一方、乱数生成装置17は、前記と同じ長さの0/1の乱数を生成する。この生成された0/1の乱数を、基底割り当て装置18によって、0を+(基底)、1を×(基底)と割り当てる。割り当てられた結果の、所定長の+及び×を基底列とする。以上のようにして生成されたビット列及び基底列の組を元データとする。
【0055】
この元データは、他の元データと区別するためにシリアル番号と、この元データに与える額面とを対応付けて、記憶装置11に記憶され、秘密に管理される。なお、シリアル番号及び額面は、ユーザへ量子現金を発行するときに対応づけて記憶させても良い。
【0056】
次に、本具体例の量子現金生成部12を図7に示す。量子現金生成部12は、量子状態生成部12aとEIT部12eとを備える。量子状態生成部12aは、量子現金の量子状態を生成するものであり、その内部構成を図8に示す。量子状態生成部12aは、レーザー光を発光するレーザー光部12bと、レーザー光を減衰させる減衰機12cと、減衰機12cからの光子を、入力される元データのビット列及び基底列によって制御され、上記で説明した4状態の何れかの量子状態を持った光子を出力する偏光子12dとを備える。偏向子12dから出力された光子の量子状態は、EIT部12eによってEIT固体に保持する。
【0057】
変換データのそれぞれは、所定のユニタリー変換に対して与える変換パラメータであり、量子現金検証部2−1・・・2−nのそれぞれに一つずつ、それぞれ異なった値として割り当てられる。一方、逆変換データのそれぞれは、所定のユニタリー変換に与える変換パラメータとして、先に説明した変換データによる変換を打ち消すためのパラメータである。本具体例でのユニタリー変換は、角度変換を想定する。各変換パラメータと、各逆変換パラメータとは、一意に識別可能な識別子と対応付けて記憶される。これら識別子は、量子現金検証装置2−1・・・2−nのそれぞれを識別する識別子である(識別子、変換データ、逆変換データの関係の一例を図9に示す)。
【0058】
次に、量子検証情報生成部13の構成について図10を用いて説明する。量子検証情報生成部13は、量子現金検証装置2−1・・・2−nへ、検証を行うためのそれぞれ異なる量子検証情報を生成するためのものであり、量子状態生成部13aとユニタリー変換部13bとEIT部13cとを備える。量子状態生成部13aは、量子状態生成部12aと同一の構成であり、及び、EIT部13cは、EIT部12eと同一構成である。ユニタリー変換部13bは、量子状態生成部12aから出力される光子状態を、順次与えられた変換データに基づき、順次作用(ここでは、角度変換)させて、順次得られた光子状態をEIT部13cによって、それぞれ別個のEIT固体に保持する。
【0059】
光子状態へのユニタリー変換の実現方法としては、例えば、ハーフビームスプリッタを用いることにより実現できる。ハーフビームスプリッタについては、文献[M. A. Nielsen and I. Chuang, "Quantum Computation and Quantum Information", Cambridge Univ., 2000, Chap. 7.4.2 (pp290-296).]に詳しく記載されている。以上のようにして、量子検証情報生成部13は、量子現金検証装置2−1・・・2−nごとに異なる検証用の量子状態を保持したそれぞれのEIT固体を生成できる。
【0060】
検証リスト生成部14は、対応付けて記憶される各逆変換データと各識別子との一覧リストを生成する。
【0061】
記憶部11に記憶された元データに対応するシリアル番号と額面、該元データに基づいて量子現金生成部12によって生成されたEIT固体と、検証リスト生成部14によって、生成された検証リストとは、特に図示しない量子現金発行部によって、例えば図11のような形態の量子現金保持装置3への入力によって発行する。
【0062】
量子現金保持装置3は、例えば、ICカードのようなカード形状としてもよく、シリアル番号と額面とが表面に印刷された印刷領域31と、額面に相当する量子状態が記憶されたEIT固体32と、この量子状態の検証リストが記憶された例えばEEPROMのような記憶部33とを備えている。EIT固体32は、例えば埋め込まれるように付着されるものを想定するが、これに限定されない。量子現金保持装置3の発行は、一つの量子状態(EIT固体)に対して1度のみ発行する。なお、このように発行された量子現金保持装置3は量子現金カードと呼んでもよい。
【0063】
量子現金保持装置3は、検証リスト中の量子現金検証装置2−iの識別子に対応する逆変換データを出力した際に、他の量子現金検証装置2−1〜2−(i-1),2−(i+1)〜2−nに対応する逆変換データを復元できない形で消去する機能を持たせることで、複数の量子現金検証装置2−1〜2−nが保持している量子状態を利用して量子現金を偽造する不正を防止することが出来る。
【0064】
一方、量子検証情報生成部13で生成されたそれぞれのEIT固体は、それぞれの識別子に対応する量子現金検証装置2−1・・・2−nへ配布する。この配布は、物の配布であり、例えば郵便などで配布すればよい。
【0065】
次に、量子現金検証装置2−1・・・2−nについて説明する。いずれの量子現金検証装置2−1・・・2−nも同じ構成であるので、ここでは、量子現金検証装置2−1で説明する。
【0066】
量子現金の検証は、量子状態を検証することによって行う。具体的には、偏光方向の基底列とそれによって埋め込まれたランダムなビット列とを用意し、量子現金のEIT固体を復元した光子を偏光基底で測定し、埋め込まれたビット列と一致するか確認する。正当な量子状態の場合は必ず一致するが、量子状態が異なる場合、一定の確率で不一致となる。例えば、単一光子に着目すると、量子現金発行検証装置2−1が保持するビットが0°の偏光である場合、測定値が一致する確率は、量子現金の偏光が0°では100%、−45°と45°では50%、90°では0%になる。つまり、単一光子に着目し、量子現金の量子情報の1ビットを値と基底をランダムに選んだ場合には、量子情報(偏光方向)が異なるにもかかわらず、「正しい」と誤って判定する確率は1/4となる。
【0067】
量子現金検証装置2−i側では、量子現金発行装置1から量子現金の発行ごとに、配布された検証用のEIT固体を発行時のシリアル番号と対応付けて多数所有しており、ユーザから量子現金保持装置3を提示されたとき、その表面に印刷されるシリアル番号で、EIT固体の一つを特定する。
【0068】
量子現金検証装置2−iは、量子状態復元部21a,22a、ユニタリ変換部21b、検証用量子ゲート22bを備える。
【0069】
量子状態復元部21aは、シリアル番号から特定したEIT固体から光子状態を復元するものである。一方、量子状態復元部22aは、量子現金カードに付着されるEIT固体から光子状態を復元するものである。量子状態復元部21aで復元された光子状態は、ユニタリー変換部21bへ入力され、量子現金保持装置3に記憶されるこの量子現金検証装置2−iの識別子に対応する逆変換データに基づいて、ユニタリー変換を施して光子状態を生成する。
【0070】
ユニタリー変換部21bからの光子状態と、量子状態復元部22aからの光子状態は、検証用量子ゲート22bに入射され、偏光方向が一致するか否かを判定し、両者が一致するか否かを検証する。
【0071】
検証用量子ゲート22bは、アダマールゲートとスワップゲートの組み合わせで実現できることが、文献[H. Buhrman, R. Cleve, J. Watrous, and R. de Wolf, Phys. Rev. Lett., 87, 167902(2003)]によって知られている。アダマールゲートとスワップゲートは、単一光子源と単一光子検出器があれば、線形光学素子のみによって構成できることが文献[E. Knill, L. Laflamme, and G.J. Milburn, Nature 409, 46 (2001)]によって知られている。よって、ここでは説明を省略する。
【0072】
検証用量子ゲート22bからのそれぞれの量子状態は、ユニタリー変換部21bからの光子状態と量子状態復元部22aからの光子状態そのものであり、EIT部23,24によってEIT固体に保持し、先のシリアル番号及び額面と対応付けて、組として保管する。検証用量子ゲート22bによって、両者が完全に一致すると、量子現金検証装置2−i側は、量子現金カードの正当性が保証され、量子現金カードに印刷される価値をユーザへ支払う。なお、量子現金検証装置2−iは、2つの量子状態の一致・不一致を知ることはできるが、量子状態そのものについては知ることができない。この性質によって、量子現金の偽造の不可能性が保証される。
【0073】
量子現金検証装置2−iは、支払後に、量子現金発行装置1へ量子現金の精算の処理を行なう。この精算の処理は、主に次の2通りの何れかで実現すればよい。
【0074】
まず、一つ目の方法は、保管しているシリアル番号、額面と2つのEIT固体の組を、量子現金発行装置1側へ持って行き、検証する方法である。
【0075】
この際の量子現金発行装置1の精算部15の機能ブロックを図13に示す。
【0076】
シリアル番号から、量子現金発行装置1の記憶部11に記憶する、基底列及びビット列からなる元データを特定し、基底列及び元データを量子状態生成部15aへ供給し、量子状態を生成する。これにより、量子現金の発行の際に生成された量子状態と完全に同一のものが生成される。
【0077】
一方、2つのEIT固体を一方を量子状態復元部15bで復元し、量子状態を生成する。これらの量子状態を検証用量子ゲート22bと同一構成の検証用量子ゲート15cで検証することにより一致の有無を調べる。同様に、2つのEIT固体のもう一方についても検証を行う。
【0078】
それぞれが、同一であると判定されたとき、量子現金検証装置2−iは適切に量子現金の立替の処理が行われたと判断し、量子現金発行装置1は、量子現金検証装置2−iへ立て替えられた価値を支払う。これによって精算の処理が完了する。
【0079】
次に精算の処理の2つ目の方法について説明する。2つ目の方法は、保管しているシリアル番号、額面と2つのEIT固体の組を、量子現金検証装置2−i側で電子的な情報に変換してから、量子現金発行装置1で検証する方法である。
【0080】
この際の量子現金検証装置2−i側に備える電子的情報変換する機能を図14に示す。
【0081】
量子現金検証装置2−iは、精算したいEIT固体の組を取り出して、量子状態復元部25,26で2つの光子状態を取り出し、一方には+基底で光子状態を測定する+基底測定器27で偏光の測定を行い、他方には×基底で光子状態を測定する×基底測定器28で偏光の測定を行い、全測定結果を図示しない送信部により量子現金発行装置1へ送信する。
【0082】
量子現金発行装置1は、受信した全測定結果と、記憶装置1に保持していた元データの基底列及びビット列とを、検証部19に入力し、この測定結果の正当性を判定する。具体的には、図15のように、1ビットずつ基底列で、+基底で測定された測定結果又は×基底で測定された測定結果の何れかを選択し、その選択した測定結果の値をビット列の対応するビット値で一致するか否かを比較する。なお、選択されない基底の測定ビット値については判定に利用しない。これを全ての測定結果に対して行って、全部一致する場合は正当と判断し、1ビットでも一致しないものがある場合は正当でないと判断する。なお、偏光方向が異なる不正な光子が誤って正しいと検証される確率は単一光子1個あたり1/4であり、光子数を十分多くすることで誤って判定する確率を所与の値に抑えることが可能である。また、量子複製禁止定理により、量子現金の偽造が不可能であることが保証できる。
【0083】
なお、上記の検証方法では、量子状態を一旦EIT固体に保持したものを利用したが、
検証用量子ゲート22bからのそれぞれの量子状態をそのまま量子テレポテーションという技術を用いて、量子状態を量子現金発行装置1へ転送することも可能である。この量子テレポテーションでの転送は、安全性を有している利点がある。なお、量子テレポテーションについては、文献[M. A. Nielsen and I. Chuang, "Quantum Computation and Quantum Information", Cambridge Univ., 2000, Chap. 1.3.7 (pp26-28).]に詳しく記載されている。
【0084】
このようにして、正当と判断した場合は、額面の実現金を量子現金検証支払機能に対して支払う。
【0085】
以上のような具体例によれば、第1の実施形態の効果において特に、量子現金発行装置1と分離した複数の量子現金検証装置2−1・・・2−nを備えても、複製・偽造、等の危険を回避しつつ、それら量子現金検証装置に検証を行わせることができる。このため、ユーザにとっても、利便性の高い量子現金のシステムが提供できる。
【0086】
また、量子現金保持装置3は、検証リスト中の量子現金検証装置2−iの識別子に対応する逆変換データを出力した際に、他の量子現金検証装置2−1〜2−(i-1),2−(i+1)〜2−nに対応する逆変換データを復元できない形で消去する機能を備えるので、複数の量子現金検証装置2−1〜2−nが保持している量子状態を利用して量子現金を偽造する不正を防止できる。なお、この消去機能については、次の第3の実施形態にて詳細に説明する。
【0087】
(第3の実施形態)
図16は本発明の第3の実施形態に係る量子現金システムに適用される量子現金保持装置の構成を示す模式図であり、図11と同一部分には同一符号を付してその詳しい説明を省略し、ここでは異なる部分について主に述べる。なお、以下の各実施形態も同様にして重複した説明を省略する。
【0088】
すなわち、本実施形態は、第1又は第2の実施形態の具体例であり、量子現金保持装置3を用いた不正を阻止するものであって、具体的には前述した記憶部33の出力制御機能の一部として、消去機能(出力阻止手段)33aを有する記憶部33’を備えている。
【0089】
ここで、消去機能33aは、記憶部33’の内部メモリに記憶された検証リストから量子現金検証装置2−iの識別子iに対応する逆変換データを出力した後に、検証リストから他の量子現金検証装置2−1〜2−(i-1),2−(i+1)〜2−nの識別子1〜(i-1),(i+1)〜nに対応する逆変換データを消去する機能である。
【0090】
なお、消去機能33aは、逆変換データの消去に限らず、逆変換データを零などの無効な値に書換える機能に変形してもよく、あるいは識別子を消去又は無効な値に書換える機能に変形しても良い。すなわち、消去機能33aは、ある識別子iで特定される逆変換データが出力された検証リストに関し、他の識別子で特定される逆変換データの出力を阻止する機能の一例である。補足すると、消去機能33aは、検証リストのデータの消去及び/又は書換機能に限らず、逆変換データの読出命令を無視する機能などに変形してもよい。
【0091】
以上のような構成によれば、量子現金保持装置3が、量子現金を正当に使用するためにいずれかの逆変換データを出力した後、検証リスト内の他の逆変換データの出力を阻止するので、量子現金の偽造に必要な他の逆変換データが外部に流出しない。このため、量子検証情報を逆変換データにより変換する偽造をも阻止でき、安全性を向上させることができる。
【0092】
すなわち、複数の量子現金検証装置が保持している量子状態を利用して量子現金を偽造する不正を防止することが出来る。防止できる不正としては、例えば量子現金を使用した後に、他の量子現金検証装置2−jが保持している量子検証情報を逆変換データに基づいてユニタリー変換し、得られた元データを量子現金の一部として、更に他の量子現金検証装置2−kに再使用するといった不正が考えられる。
【0093】
(第4の実施形態)
図17は本発明の第4の実施形態に係る量子現金システムに適用される量子現金発行装置の構成を示す模式図である。
【0094】
すなわち、本実施形態は、第1〜第3の各実施形態の変形例であり、複数の量子現金検証装置が結託することによる不正を阻止するものであって、具体的には第1〜第3の各実施形態における量子現金検証情報を全ての量子現金検証装置2−1〜2−nに予め配布する構成に代えて、量子現金検証装置2−iが検証を実行又は予約する際に、オンデマンド(需要、請求)により、その量子現金検証装置2−iのみに量子現金検証情報を配布するための検証予約処理部41を量子現金発行装置1が備えた構成となっている。
【0095】
ここで、検証予約処理部41は、量子現金の検証又はそれに先立つ検証の予約に応じて量子現金検証装置2−iから識別子と量子検証情報要求とを受けると、この識別子で特定される逆変換データに対応する変換データで変換された量子検証情報(i)を、当該量子現金検証装置2−iに配布する機能をもっている。
【0096】
なお、配布する機能としては、具体的には、配布時に量子検証情報生成部13を制御し、量子検証情報生成部13に量子検証情報を生成及び配布させる方法を用いている。
【0097】
次に、以上のように構成された量子現金システムの動作を図18のシーケンス図を用いて説明する。なお、ここでは、検証直前に要求した場合の動作を述べ、以下の第5の実施形態にて予約をして要求した場合の動作を述べる。
【0098】
量子現金保持装置3は、ユーザによる量子現金の支払の際に、量子現金及び逆変換データ(i)を例えば量子現金検証装置2−iに出力する(ST1)。
【0099】
量子現金検証装置2−iは、量子現金及び逆変換データ(i)を受けると、量子現金を検証するため、自己の識別子iと共に、量子検証情報(i)の要求を量子現金発行装置1に送信する(ST2)。
【0100】
量子現金発行装置1は、識別子と、量子検証情報(i)の要求とを受けると、検証予約処理部41が量子検証情報生成部13を制御し、量子検証情報生成部13が、この識別子で特定される逆変換データに対応する変換データで元データを変換し、得られた量子検証情報(i)を当該量子現金検証装置2−iに配布する(ST3)。
【0101】
量子現金検証装置2−iは、この量子検証情報(i)に基づいて量子現金を検証し(ST4)、検証結果を出力する。この検証結果から量子現金が正当である旨を判定できたとき、量子現金に設定されている価値がユーザへ提供される(ST5)。
【0102】
以下、前述同様に、量子現金検証装置2−iは、検証の結果得られた2つの量子状態の組に基づいて、量子現金発行装置1へ清算の処理を依頼する(ST6)。
【0103】
量子現金発行装置1は、先に説明した量子現金清算部15にて正当性の検証を行った上、正当と判断した場合に、ユーザへ量子現金に設定されている対価が提供されたと見なし、代替してもらっていた価値を提供する(ST7)。
【0104】
上述したように本実施形態によれば、第1乃至第3の各実施形態の作用効果に加え、実際に量子現金を検証する量子現金検証装置2−iのみに量子検証情報を配布し、他の量子現金検証装置2−1,…,2−(i-1),2−(i+1),…,2−nには配布しない構成により、さらに安全性を向上させることができる。また、通信の総量を減らし、盗聴の可能性を低減できる。
【0105】
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態に係る量子現金システムについて説明する。
【0106】
本実施形態は、第4の実施形態の変形例であり、検証予約処理部41が検証直前に量子検証情報を要求した場合に代えて、検証予約処理部41が量子検証情報を予約により要求する場合を述べる。ここで、予約は、例えばインターネットを介する等の任意の通信形態が利用可能であり、この種の通信形態においては、適宜、前述した公開鍵暗号による相互認証方式が利用可能となっている。
【0107】
また、検証予約処理部41は、予約の取り消しに対応した機能を備えている。予約取り消しに対応した機能は、例えば検証の予約を取り消すように、量子現金検証装置2−iから識別子と量子検証情報(i)とを受けると、電子現金精算部15の検証機能により、この識別子で特定される逆変換データに基づいて量子検証情報(i)の真正性を確認する機能と、この確認の後、予約の取り消しを承認する機能とからなるものである。
【0108】
次に、以上のように構成された量子現金システムの動作を図19及び図20のシーケンス図を用いて説明する。
【0109】
(検証予約の処理)
ユーザは、図示しない端末の操作などにより、図19に示すように、量子現金保持装置3に記載のシリアル番号及び額面を含む検証予約を量子現金検証装置2−iに送信する(ST11)。
【0110】
量子現金検証装置2−iは、この検証予約を受けると、自己の識別子と共に、量子検証情報(i)の要求の予約を量子現金発行装置1に送信する(ST12)。
【0111】
量子現金発行装置1は、この識別子及び予約を受けると、予約された日時まで待機する。予約された日時になると、量子現金発行装置1においては、前述したステップST3と同様に、検証予約処理部41が量子検証情報生成部13を制御し、量子検証情報生成部13が、この識別子で特定される逆変換データに対応する変換データで元データを変換し、得られた量子検証情報(i)を当該量子現金検証装置2−iに配布する(ST13)。
【0112】
これと並行し、量子現金保持装置3は、量子現金及び逆変換データ(i)を例えば量子現金検証装置2−iに出力する(ST14)。
【0113】
以下、前述したステップST4及びST5と同様に、量子現金検証装置2−iによる量子現金の検証及び正当な場合の価値の提供が実行される(ST15,ST16)。
【0114】
また、前述したST6及びST7と同様に、量子現金検証装置2−iによる精算の依頼(ST17)や、量子現金発行装置1による正当性の検証及び価値の提供が実行される(ST18)。
【0115】
(検証予約の取消処理)
いま、図20に示すように、前述した図19と同様にステップST11〜ST13の処理が実行されたとする。
【0116】
しかしながら、前述とは異なり、図20に示すように、量子現金検証装置2−iにおいては、ユーザから予約の取り消しが通知されたとする(ST21)。
【0117】
この場合、量子現金検証装置2−iは、検証の予約を取り消すように、自己の識別子と、量子検証情報(i)とを量子現金発行装置1に返送する(ST22)。
【0118】
量子現金発行装置1は、識別子と量子検証情報(i)とを受けると、検証予約処理部41が電子現金精算部15を制御し、電子現金精算部15により、この識別子で特定される逆変換データに基づいて、当該量子検証情報(i)の真正性を確認する(ST23)。
【0119】
この確認の後、量子現金発行装置1においては、検証予約処理部41が予約の取り消しを承認する。
【0120】
上述したように本実施形態によれば、量子検証情報を予約により要求する構成により、第4の実施形態の効果に加え、検証の際に掛かる時間を短縮することができる。また、検証の予約を取消しできるので、利便性を向上させることができる。
【0121】
さらに、予約取り消しの際に、量子現金検証情報(i)の真正性を確認する構成により、安全に取消し処理を完了することができる。
【0122】
なお、上記各実施形態に記載した手法の一部は、コンピュータに実行させることのできるプログラムとして、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、光磁気ディスク(MO)、半導体メモリなどの記憶媒体に格納して頒布することもできる。
【0123】
また、この記憶媒体としては、プログラムを記憶でき、かつコンピュータが読み取り可能な記憶媒体であれば、その記憶形式は何れの形態であっても良い。
【0124】
また、記憶媒体からコンピュータにインストールされたプログラムの指示に基づきコンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)や、データベース管理ソフト、ネットワークソフト等のMW(ミドルウェア)等が本実施形態を実現するための各処理の一部を実行しても良い。
【0125】
さらに、本発明における記憶媒体は、コンピュータと独立した媒体に限らず、LANやインターネット等により伝送されたプログラムをダウンロードして記憶又は一時記憶した記憶媒体も含まれる。
【0126】
また、記憶媒体は1つに限らず、複数の媒体から本実施形態における処理が実行される場合も本発明における記憶媒体に含まれ、媒体構成は何れの構成であっても良い。
【0127】
尚、本発明におけるコンピュータは、記憶媒体に記憶されたプログラムに基づき、本実施形態における各処理を実行するものであって、パソコン等の1つからなる装置、複数の装置がネットワーク接続されたシステム等の何れの構成であっても良い。
【0128】
また、本発明におけるコンピュータとは、パソコンに限らず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコン等も含み、プログラムによって本発明の機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0129】
なお、本願発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る量子現金流通システムの全体を示す図(その1)。
【図2】同実施形態における量子現金流通システムの全体を示す図(その2)。
【図3】量子現金発行装置1の機能ブロックを示す図。
【図4】量子現金検証装置の機能ブロックを示す図。
【図5】量子状態の検出確率を表形式で示す図。
【図6】元データの生成についての一例を示す図。
【図7】本具体例の量子現金生成部12を示す図。
【図8】量子状態生成部41の内部構成を示す図。
【図9】識別子、変換データ、逆変換データの関係の一例を示す図。
【図10】量子検証情報生成部13の構成を示す図。
【図11】量子現金保持装置の一例を示す図。
【図12】量子現金検証装置2−1を示す図。
【図13】量子現金発行装置1の精算部15の機能ブロックを示す図。
【図14】量子現金検証装置2−1側に備える電子的情報変換する機能を示す図。
【図15】+基底測定結果及びx基底測定結果を用いた検証を示す図。
【図16】本発明の第3の実施形態に係る量子現金システムに適用される量子現金保持装置の構成を示す模式図。
【図17】本発明の第4の実施形態に係る量子現金システムに適用される量子現金発行装置の構成を示す模式図。
【図18】同実施形態における動作を説明するためのシーケンス図。
【図19】本発明の第5の実施形態に係る量子現金システムの動作を説明するためのシーケンス図。
【図20】同実施形態における動作を説明するためのシーケンス図。
【符号の説明】
【0131】
1・・・量子現金発行装置、2−1〜2−n,2−i・・・量子現金検証装置、11・・・記憶部、12・・・量子現金生成部、13・・・量子検証情報生成部、14・・・検証リスト生成部、15・・・量子現金清算部、21・・・検証用情報供給部、22・・・量子状態検証部、16,17・・・乱数生成装置、18・・・基底割り当て装置、12a,13a,15a・・・量子状態生成部、12e,13c・・・EIT部、12b・・・レーザ光部、12c・・・減衰機、12d・・・偏光子、13b,21b・・・ユニタリー変換部、21a,22a,15b,25,26・・・量子状態復元部、22b,15c・・・検証用量子ゲート、27・・・+基底測定器、28・・・x基底測定器、19・・・検証部、31・・・印刷領域、32・・・EIT固体部、33・・・記憶部、33a・・・消去機能、41・・・検証予約処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金額を表す元データに対応する第1量子状態を含む量子現金と、前記第1量子状態が複数の変換データの各々に基づいて個別に変換されてなる第2量子状態を含み夫々前記第1量子状態の検証に用いられる複数の量子検証情報と、前記各変換データに個別に対応して夫々量子検証情報を逆変換するための複数の逆変換データ及び前記各逆変換データを特定可能な識別子からなる検証リストとを発行する量子現金発行装置と、
前記量子現金及び前記検証リストを保持し、当該量子現金と前記検証リスト内のいずれかの逆変換データとを出力可能な量子現金保持装置と、
前記識別子が割当てられており、前記量子現金保持装置から量子現金、逆変換データ及び識別子を受けたとき、前記量子検証情報の第2量子情報を当該逆変換データにより変換して得られた第1量子情報に基づいて、前記量子現金の第1量子状態を検証可能な量子現金検証装置とを備えた量子現金システムであって、
前記量子現金保持装置は、
前記いずれかの逆変換データを出力した後、前記検証リスト内の他の逆変換データの出力を阻止するための出力阻止手段を備えたことを特徴とする量子現金システム。
【請求項2】
請求項1に記載の量子現金システムにおいて、
前記出力阻止手段は、
前記出力を阻止するように、当該他の逆変換データを消去する消去機能部を備えたことを特徴とする量子現金システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の量子現金システムにおいて、
前記量子現金発行装置は、
前記量子現金の検証又はこの検証の予約に応じて量子現金検証装置から識別子と量子検証情報要求とを受けると、この識別子で特定される逆変換データに対応する変換データで変換された量子検証情報を、当該量子現金検証装置に配布する検証情報配布手段を備えたことを特徴とする量子現金システム。
【請求項4】
請求項3に記載の量子現金システムにおいて、
前記量子現金発行装置は、
前記検証の予約を取り消すように前記量子現金検証装置から識別子と量子検証情報とを受けると、この識別子で特定される逆変換データに基づいて、当該量子検証情報の真正性を確認する真正性確認手段と、
前記確認の後、前記予約の取り消しを承認する承認手段と
を備えたことを特徴とする量子現金システム。
【請求項5】
少なくとも金額を表す元データに対応する第1量子状態を含む量子現金と、前記第1量子状態が複数の変換データの各々に基づいて個別に変換されてなる第2量子状態を含み夫々前記第1量子状態の検証に用いられる複数の量子検証情報と、前記各変換データに個別に対応して夫々量子検証情報を逆変換するための複数の逆変換データ及び前記各逆変換データを特定可能な識別子からなる検証リストとを発行する量子現金発行装置と、
前記量子現金及び前記検証リストを保持し、当該量子現金と前記検証リスト内のいずれかの逆変換データとを出力可能な量子現金保持装置と、
前記識別子が割当てられており、前記量子現金保持装置から量子現金、逆変換データ及び識別子を受けたとき、前記量子検証情報の第2量子情報を当該逆変換データにより変換して得られた第1量子情報に基づいて、前記量子現金の第1量子状態を検証可能な量子現金検証装置とを備えた量子現金システムに用いられる前記量子現金保持装置であって、
前記いずれかの逆変換データを出力した後、前記検証リスト内の他の逆変換データの出力を阻止するための出力阻止手段を備えたことを特徴とする量子現金保持装置。
【請求項6】
請求項5に記載の量子現金保持装置において、
前記出力阻止手段は、
前記出力を阻止するように、当該他の逆変換データを消去する消去機能部を備えたことを特徴とする量子現金保持装置。
【請求項7】
少なくとも金額を表す元データに対応する第1量子状態を含む量子現金と、前記第1量子状態が複数の変換データの各々に基づいて個別に変換されてなる第2量子状態を含み夫々前記第1量子状態の検証に用いられる複数の量子検証情報と、前記各変換データに個別に対応して夫々量子検証情報を逆変換するための複数の逆変換データ及び前記各逆変換データを特定可能な識別子からなる検証リストとを発行する量子現金発行装置と、
前記量子現金及び前記検証リストを保持し、当該量子現金と前記検証リスト内のいずれかの逆変換データとを出力可能であり、前記いずれかの逆変換データを出力した後、前記検証リスト内の他の逆変換データの出力を阻止する量子現金保持装置と、
前記識別子が割当てられており、前記量子現金保持装置から量子現金、逆変換データ及び識別子を受けたとき、前記量子検証情報の第2量子情報を当該逆変換データにより変換して得られた第1量子情報に基づいて、前記量子現金の第1量子状態を検証可能な量子現金検証装置とを備えた量子現金システムに用いられる前記量子現金発行装置であって、
前記量子現金の検証又はこの検証の予約に応じて量子現金検証装置から識別子と量子検証情報要求とを受けると、この識別子で特定される逆変換データに対応する変換データで変換された量子検証情報を、当該量子現金検証装置に配布する検証情報配布手段を備えたことを特徴とする量子現金発行装置。
【請求項8】
請求項7に記載の量子現金発行装置において、
前記検証の予約を取り消すように前記量子現金検証装置から識別子と量子検証情報とを受けると、この識別子で特定される逆変換データに基づいて、当該量子検証情報の真正性を確認する真正性確認手段と、
前記確認の後、前記予約の取り消しを承認する承認手段と
を備えたことを特徴とする量子現金発行装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−48153(P2006−48153A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224447(P2004−224447)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(301063496)東芝ソリューション株式会社 (1,478)
【Fターム(参考)】