説明

金具付き防振ゴムの製造方法及び金具付き防振ゴム

【課題】作業性が良好で、且つゴム表面に電着塗膜が形成されない防錆性に優れた金具付き防振ゴムの製造方法を提供すること、並びに、ゴム表面に電着塗膜が形成されることなく、優れた防錆性を有する金具付き防振ゴムを提供すること。
【解決手段】未加硫ゴムを金具に一体的に加硫接着せしめて、表面抵抗値が1×106 Ω以上であるゴム弾性体と該金具との一体加硫品を形成した後、かかる一体加硫品にカチオン電着塗装を施すことにより、該一体加硫品の金具表面に、電着塗膜を形成して、金具付き防振ゴムの製造した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗装が施された金具付き防振ゴムの製造方法及び金具付き防振ゴムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等の車両や機械設備等においては、振動或いは衝撃伝達系の部材間に介装されて、防振性乃至は緩衝性を発揮する連結部材として、弾性特性を有するゴムが所定形状の金具に一体的に加硫接着された金具付き防振ゴムが、広く用いられている。
【0003】
そして、そのような金具付き防振ゴムにおいては、一般に、それを構成する金具の防錆性能乃至は防食性能を高めるべく、ゴムを金具に加硫接着せしめた後、樹脂系塗料を用いた吹き付け(スプレー)塗装処理や浸漬(ディップ)塗装処理を行うことにより、金具表面に樹脂系塗膜が形成されているのである。この塗装処理によって、ゴム表面に塗料が付着すると、自動車等への組付け時に、ゴムが弾性変形せしめられることによって、ゴム表面に付着した塗膜が割れてボロボロと剥がれ落ち、この剥がれ落ちた塗膜が組付け現場を汚したり、また、剥がれた塗膜が作業者の眼や口に入る等して作業環境を悪化せしめたり、更には、剥がれた塗膜が自動車パネルや電装部品等に付着して、製品に悪影響を及ぼす等といった問題を惹起する。
【0004】
このため、通常は、塗装処理に先立ち、ゴム表面にマスキングテープを貼着する等して、ゴム表面にマスキング処理を施し、その後、塗装処理を実施していたのである。このマスキング処理により、ゴム表面への塗料の付着が、極めて効果的に防止され得るのであるが、マスキングテープを貼着する工程、更には塗装後におけるマスキングテープの剥離工程が別途必要となって、作業工数が増え、作業性が良好であるとは言い難いものであった。また、上述せる如き吹き付け塗装や浸漬塗装においては、塗膜の膜厚を制御することが難しく、特に、金具として、2つ以上の金属部材を接合乃至は締結した接合材を用いる場合には、接合部乃至は締結部における膜厚管理が非常に難しく、均一に塗膜が形成され得ない等といった問題を内在している。従って、これらの点から、作業性が良く、しかも膜厚制御を容易に行うことができる手法が、強く求められているのである。
【0005】
ところで、そのような金具表面に樹脂系塗料を用いた塗装が施されてなる金具付き防振ゴムを得る方法としては、従来より、各種の手法が提案されてきており、そのうちの一つとして、特許文献1には、エポキシ系カチオン電着塗料を用いて電着塗装を施した金具に対して、ゴムを加硫接着せしめて、耐蝕防振素子を形成する技術が、また、特許文献2には、樹脂系カチオン電着塗装を施した金具に対して、ゴムを加硫接着して、金具付き防振ゴムを得る技術が、それぞれ、明らかにされている。かかるカチオン電着塗装によれば、金具の形状が複雑であっても、膜厚を均一に制御することが可能となり、金具に優れた防錆性が付与され得るのであるが、これらの文献に記載の手法にあっては、ゴムを加硫接着する前に、カチオン電着塗装が行われているところから、製品形状や生産性等の観点から、ゴムバリを出さない金型構造が求められる場合には、ゴムの加硫接着時に、金具がゴムの成形金型に接触した状態で加熱されることになり、このため、成形金型との接触部分において、電着塗膜が剥離する等、塗膜に損傷が惹起され易いといった問題があった。
【0006】
一方、特許文献3には、ゴムを金具に加硫接着せしめた後、カチオン電着塗装を施して、150℃以下の低温で塗膜を硬化させる耐蝕性防振ゴムの製造方法、並びに、金属がゴムを介して複数部分からなる防振ゴムにおいて、電着塗装に先立って金属部分間に導電処理を行って耐蝕性防振ゴムを製造する方法が明らかにされている。しかしながら、かかる文献では、ゴム表面へのカチオン電着塗料の付着、及びそれに起因する問題については何等の検討もなされておらず、更には、金属部分間に導電処理を行うために、ゴムに導電性カーボンブラックとグラファイトを配合することが明らかにされているのである。
【0007】
そして、かかる状況下、本発明者等が、加硫接着後の一体加硫品に対してカチオン電着塗装を行ったところ、導電性の高い金具の表面だけでなく、金具に比して導電性が極めて低いゴム表面にも電着塗膜が形成されてしまうことが明らかとなったのである。それ故、カチオン電着塗装を行う場合にも、上述せる如き吹き付け塗装や浸漬塗装を実施する場合と同様に、マスキング処理が必要となり、量産を図る上において、作業性が良好ではないことが判明したのである。
【0008】
【特許文献1】特公昭59−51905号公報
【特許文献2】特開昭62−24042号公報
【特許文献3】特公平4−55589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、作業性が良好で、且つゴム表面に電着塗膜が形成されない防錆性に優れた金具付き防振ゴムの製造方法を提供すること、並びに、ゴム表面に電着塗膜が形成されることなく、優れた防錆性を有する金具付き防振ゴムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明者等が、ゴム表面へのカチオン電着塗料の付着について鋭意検討を重ねた結果、金具付き防振ゴムを構成するゴムによって、塗料の付着が有るものと無いものが存在することを見出し、更に詳細に検討を重ねた結果、表面抵抗値が1×106 Ω以上であるゴム弾性体と金具との一体加硫品においては、カチオン電着塗料がゴム表面に付着せず、上述の如き課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0011】
すなわち、本発明は、未加硫ゴムを金具に一体的に加硫接着せしめて、表面抵抗値が1×106 Ω以上であるゴム弾性体と該金具との一体加硫品を形成した後、かかる一体加硫品にカチオン電着塗装を施すことにより、該一体加硫品の金具表面に、電着塗膜を形成することを特徴とする金具付き防振ゴムの製造方法を、その要旨とするものである。
【0012】
また、本発明は、ゴム弾性体と金具との一体加硫品にカチオン電着塗装を施してなる金具付き防振ゴムであって、前記ゴム弾性体が、1×106 Ω以上の表面抵抗値を有していると共に、前記金具の表面に前記カチオン電着塗装による電着塗膜が形成されていることを特徴とする金具付き防振ゴムをも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明に従う金具付き防振ゴムの製造方法においては、表面抵抗値が1×106 Ω以上であるゴム弾性体を形成するところから、そのようなゴム弾性体と金具とからなる一体加硫品にカチオン電着塗装を施しても、ゴム表面に塗膜が形成されるようなことが有利に防止され、以て、一体加硫品の金具表面のみが塗装されるのである。それ故、自動車等への組付け時に、ゴムが弾性変形しても、塗膜が割れて剥がれ落ちるようなことがなく、以て、剥がれ落ちた塗膜が組付け現場を汚す等といった問題を惹起することが皆無ならしめられているのである。従って、本発明手法によれば、カチオン電着塗装に先立って、ゴム表面にマスキング処理を施す必要が無くなるのであり、これにより、塗装処理の作業性が大幅に向上せしめられる。
【0014】
また、本発明手法によれば、加硫接着後の一体加硫品に対してカチオン電着塗装を施しているところから、加硫接着を行う前に金具に対してカチオン電着塗装を施す場合とは異なり、成形金型との接触部分において電着塗膜の剥離が発生することもなく、優れた防錆性(防食性)が付与されるといった利点も享受され得るのである。
【0015】
また、本発明に従う金具付き防振ゴムにあっては、ゴム弾性体の表面抵抗値が1×106 Ω以上とされているところから、ゴム表面に電着塗膜が形成されるようなことが有利に防止されているのであり、それ故、自動車等への組み付け時に、ゴムが弾性変形しても、塗膜がボロボロと剥がれ落ちるようなことがないのである。また、金具の表面には、カチオン電着塗装による電着塗膜が形成されているところから、吹き付け塗装や浸漬塗装による塗膜に比べて、塗膜の膜厚が均一とされ、優れた防錆性が付与されているのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ところで、上述せる如き本発明手法は、例えば、図1及び図2に示されるような、金具付き防振ゴム10の製造に、有利に適用されることとなるのである。ここにおいて、かかる図1及び図2には、金具付き防振ゴム10としてのマウントストッパが、平面図及び縦断面図において、概略的に示されているのであるが、この金具付き防振ゴム10は、略円環板状の金具12の片側の面に、所定の間隔をあけて周方向に延びる4つの凸部14が設けられた略円環状のゴム弾性体16が、一体的に加硫接着されて、構成されている。そして、かかるゴム弾性体16にあっては、その表面抵抗値が1×106 Ωとされている一方、金具12におけるゴム弾性体16との接着部位以外の表面13には、図2に拡大して示されているように、樹脂系塗膜からなる電着塗膜18が略均一な厚さにおいて、形成されているのである。なお、図2には、金具表面13に形成された電着塗膜18の理解を容易とするために、電着塗膜18が、誇張されて、極端に厚い厚さをもって示されていることが、理解されるべきである。
【0017】
そして、本発明に従って、このような金具付き防振ゴム10を製造するに際しては、先ず、未加硫ゴムである防振ゴム組成物を、金具12に一体的に加硫接着せしめることにより、ゴム弾性体16と金具12との一体加硫品を形成するのである。
【0018】
この際、本発明においては、ゴム弾性体16を形成する防振ゴム組成物(未加硫ゴム)として、加硫後、表面抵抗値が1×106 Ω以上となる導電性の極めて低い防振ゴム組成物が、用いられるのであり、これによって、ゴム弾性体16へのカチオン電着塗料の付着が有利に防止され得るのである。
【0019】
より具体的に、そのような防振ゴム組成物は、未加硫のゴム材料を主成分とするものであって、そのゴム材料としては、例えば、天然ゴム(NR)や、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、シリコーンゴム(Q)、アクリルゴム(ACM)等の従来から防振ゴムに用いられるゴム材料を挙げることができ、これらのうちの一種を単独で、或いは、2種以上をブレンドして使用することができる。これらの中でも、NR、NRとBRとのブレンド物、若しくはNRとSBRとのブレンド物等の、NRを必須の成分として含むゴム材料が、より好適に採用され、それによって、より一層優れた防振特性が発揮されることとなる。なお、これらのゴム材料には、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、他のゴム材料等がブレンドされていても、何等差支えない。
【0020】
そして、上述せる如きゴム材料に対して、補強剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、軟化剤、老化防止剤等の公知の各種のゴム用配合剤が、必要に応じて適宜に配合せしめられることにより、所望とする防振特性を実現し得る防振ゴム組成物が調製されるのである。
【0021】
ここにおいて、硬度や強度を付与するために配合される上記補強剤としては、通常、カーボンブラックが用いられるのであるが、かかるカーボンブラックは、よく知られているように、導電性を有している。このため、その配合量が多くなるほど、ゴム弾性体16の表面抵抗値を低下せしめて、目的とする表面抵抗値(1×106 Ω以上)を実現し得なくなる。また同様に、カーボンブラックには、FT、GPF、SRF、FEF、HAF等の各種のグレードがものが市販されているのであるが、一般に、比表面積が大きい(粒子径が小さい)ものほど、ゴム弾性体16の表面抵抗値を低下させる傾向がある。
【0022】
それ故、本発明においては、JIS K 6217−2に準拠して測定される窒素吸着比表面積が70m2 /g以下、より好ましくは10〜60m2 /gとなるカーボンブラックが、ゴム材料100重量部に対して、40〜70重量部となる配合割合で、用いられることが望ましく、これらの範囲を満たすように、各種カーボンブラックのうちの少なくとも1種が単独で、或いは2種以上が組み合わされて用いられるのである。なぜなら、カーボンブラックの比表面積が上記範囲を超える場合には、カーボンブラックの配合量を上記配合範囲の下限値よりも少なくしないと、ゴム弾性体16の表面抵抗値を1×106 Ω以上にすることが困難となるからであり、カーボンブラックの配合量が上記範囲よりも少ない場合には、カーボンブラックの配合による効果を享受し得なくなって、例えば、硬度や強度等の製品物性の低下や、防振ゴム組成物の加工性の悪化等を惹起するおそれがあるからである。また、カーボンブラックの配合量が上記範囲を超える場合には、ゴム弾性体16の表面抵抗値が1×106 Ωを下回り、後述するカチオン塗装時にゴム弾性体16の表面17に塗膜が形成されるおそれがあるからである。
【0023】
なお、本発明においては、特に、上述せる如き各種グレードのカーボンブラックのうち、グレードの異なる2種以上を組み合わせて用いてもよく、こうすることによって、各カーボンブラックに応じた各種の特性が付与されて、より一層優れた防振特性と高い電気抵抗とを両立して実現することが可能となる。なお、異なるグレードのカーボンブラックを2種以上組み合わせて用いる場合は、そのブレンド物における比表面積(JIS K 6217−2)と各カーボンブラックの配合量を合わせた総配合量が、それぞれ、上記範囲とされることが望ましく、こうすることで、ゴム弾性体16の表面抵抗値を、有利に1×106 Ω以上とすることができるのである。
【0024】
また一方、上記防振ゴム組成物には、加硫剤として、ゴム材料に応じた従来より公知のものが、ゴム材料の使用量に見合った適量において用いられる。特に、上述せる如き天然ゴム等のジエン系ゴム材料を用いるには、一般に、硫黄等の硫黄系加硫剤が好適に用いられる。
【0025】
さらに、上記防振ゴム組成物には、各種の加硫促進剤や加硫助剤が適宜に配合されてもよく、加硫促進剤としては、例えば、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(OBS)等のスルフェンアミド系;ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnMDC)等のジチオカルバミン酸塩類;テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)等のチウラム系等を挙げることが出来、また、加硫促進助剤としては、例えば、酸化亜鉛やステアリン酸等を例示することが出来るが、これらに何等限定されるものではない。
【0026】
加えて、上記防振ゴム組成物には、耐熱性等の物性を向上せしめるべく、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの多量体、N−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン等の如き老化防止剤等を適量において配合せしめることが望ましく、これにて、電着塗膜の焼付処理を実施しても、ゴムに劣化が生じるようなことが有利に防止され得るのである。また、防振ゴム組成物には、加工性を高めるべく、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、アロマ系オイル等の軟化剤を適量において配合せしめることもできる。
【0027】
かくして、上述せる如き各種成分を含有する防振ゴム組成物は、従来から公知の手法によって調製され得るのであり、例えば、公知の混練装置を用いて、かかる装置内に、未加硫のゴム材料と、カーボンブラック等の各種配合剤とを同時に或いは任意の順序で導入して、均一に混練することによって、調製され得る。
【0028】
一方、このようにして調製されたゴム組成物が加硫接着される金具12としては、例えば、鉄、鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等の材質からなる圧延材、鍛造材等の塑性加工材を挙げることができる。また、かかる金具12表面13には、化成皮膜処理やメッキ処理が施されていても良い。
【0029】
そして、かかる金具12に、上述せる如き防振ゴム組成物を一体的に加硫接着せしめることにより、表面抵抗値が1×106 Ω以上であるゴム弾性体16と金具12との一体加硫品を得ることができるのである。より具体的には、従来と同様に、金具12におけるゴム弾性体16との接着部位の一部又は全部に、塩化ゴム系接着剤等の適当な加硫接着剤やプライマーを塗布せしめた後、かかる金具12にゴムを加硫接着せしめることにより、一体加硫品を作製するのである。この加硫接着操作においては、従来から公知の各種の手法が適宜に採用され得るのであり、例えば、先ず、金具12における接着面に加硫接着剤を塗布せしめ、次いで、成形金型を用いて、その成形キャビティ内の所定位置に、金具12を配置せしめ後、かかる成形金型のキャビティ内に防振ゴム組成物を注入し、その後、所定温度で加熱せしめて、未加硫ゴムを加硫成形せしめてゴム弾性体16を形成すると同時に、金具12とゴム弾性体16との接着を行なう方法等が、採用されることとなる。
【0030】
このようにして作製された一体加硫品にあっては、それを構成するゴム弾性体16が、1×106 Ω以上の表面抵抗値を有しているのである。そして、その後、このようなゴム弾性体16と金具12との一体加硫品に対して、カチオン電着塗料を用いたカチオン電着塗装操作を実施することにより、図2に拡大して示されるように、金具12におけるゴム弾性体16との接着部位以外の表面13上に、錆乃至は腐食の発生の防止性能を有する電着塗膜18が形成されて、金具付き防振ゴム10が製造されるのである。
【0031】
具体的には、カチオン電着塗装は、従来と同様な電着装置を用いて、所定のカチオン電着塗料からなる処理浴に、加硫接着後の一体加硫品を浸漬し、かかる一体加硫品を陰極として、直流電流を通電せしめる一般的な手順に従って、実施される。この際、採用される印加電圧や通電時間、浴温等は、極比(陽極と陰極の面積比)やカチオン電着塗料の種類等に応じて、適宜に設定され、例えば、印加電圧としては50〜500V程度、好ましくは150〜300V程度、通電時間としては2〜5分程度、浴温としては10〜45℃程度、好ましくは30〜40℃程度が採用される。
【0032】
その後、金具12の表面13にカチオン電着塗料が付着した一体加硫品を処理浴から取り出して、水洗処理を施し、その後、所定の焼付処理を実施することによって、金具12表面13のみに電着塗膜が形成された金具付き防振ゴム10が製造されるのである。この際、焼付処理温度としては、ゴムの劣化防止の点から、180℃以下の温度、好ましくは120〜160℃が採用され、処理時間としては、10〜30分程度が採用される。
【0033】
なお、上記カチオン電着塗装操作において用いられるカチオン電着塗料としては、その種類が特に限定されるものではなく、一般に、金具付き防振ゴム10に要求される防錆性能乃至は防食性能を有利に実現し得るものが、適宜に選択されて用いられるのである。そして、そのようなカチオン電着塗料としては、一般に、水を主体とする溶媒に、カチオン性のバインダー成分、顔料成分(例えば、着色顔料、体質顔料、防錆顔料等)、及び添加剤(例えば、防錆剤、硬化触媒、中和酸等)を溶解乃至は分散せしめてなるものが用いられるのであり、本発明においては、それらの中でも、バインダー成分として、変性エポキシ樹脂を主剤とし、これに、硬化剤(架橋剤)としてブロックイソシアネートを用いたものが、優れた防錆性を発揮するところから、好適に採用され得るのである。
【0034】
そして、このようなカチオン電着塗料を用いた塗装操作によって、金具12の表面13のみに電着塗膜18が形成されることとなるのであるが、その厚さとしては、一般に、15〜30μm程度の厚さとされる。
【0035】
このように、本発明に従う金具付き防振ゴム10の製造方法にあっては、未加硫ゴムを金具12に対して加硫接着する操作を行って、表面抵抗値が1×106 Ωであるゴム弾性体16と金具12との一体加硫品を形成した後に、かかる一体加硫品に対してカチオン電着塗装を実施するものであることから、ゴム弾性体16の表面17には電着塗膜が形成されることなく、金具12の表面13のみに、略均一な厚さの電着塗膜18が形成されて、防錆性が付与されるのである。このため、カチオン電着塗装に先立って、ゴム表面17にマスキング処理を施す手間が不要となり、作業性が大幅に改善されるのである。また、加硫接着後にカチオン電着塗装を行っているところから、加硫接着操作に先立って金具にカチオン電着塗装を施す場合とは異なり、電着塗膜18が剥離するようなことも有利に防止され得て、優れた防錆性が長期に亘って確保され得るのである。
【0036】
また、上述のようにして製造された金具付き防振ゴム10にあっては、ゴム弾性体16の表面抵抗値が1×106 Ω以上とされて、ゴム表面17に電着塗膜が形成されるようなことが有利に防止されているところから、自動車等への組み付け時に、ゴムが弾性変形しても、塗膜が剥離するようなことがないのである。また、金具表面13には、カチオン電着塗装による電着塗膜18が形成されているところから、吹き付け塗装や浸漬塗装に比べて、塗膜が均一な厚さで形成されているのである。
【0037】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0038】
例えば、上例では、金具付き防振ゴム10として、略円環板状の金具12と略円環状のゴム弾性体16とから構成されるマウントストッパの製造方法が例示されていたが、本発明手法は、金具にゴム弾性体を一体的に加硫接着せしめてなる金具付き防振ゴムであれば、何れのものにも適用可能であり、その適用対象が、例示したような形状の金具付き防振ゴムに何等限定されるものではないことは、言うまでもないところであり、例えば、互いに対向配置された2つの金具間において、それらを連結するようにゴム弾性体が介装されてなる形状の金具付き防振ゴムの製造にも、有利に適用され得る。
【0039】
また、上例では、ゴム弾性体16と金具12との一体加硫品を形成した後、かかる一体加硫品に対してカチオン電着塗装を施していたが、かかるカチオン電着塗装に先立って、一体加硫品に対して、従来から公知の手法にて、クロメート処理やリン酸処理等の化成皮膜処理を実施することも可能であり、この化成皮膜処理を行うことによって、より一層優れた防錆性を金具2に付与することが可能となる。
【0040】
その他、一々列挙はしないが、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでない。
【0042】
−防振ゴム組成物(未加硫ゴム)の調製−
先ず、ゴム材料として、天然ゴムを準備する一方、補強剤として、下記表1に示される各種グレードの5種類のカーボンブラックA〜Eを準備した。また、老化防止剤として、老化防止剤6C(精工化学株式会社製:オゾノン6C)及び老化防止剤RD(精工化学株式会社製:ノンフレックスRD)を、加硫促進助剤として、ステアリン酸(花王株式会社製:ルーナックS30)及び酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製:酸化亜鉛1種)、軟化剤として、ナフテンオイル(出光興産株式会社製:ダイアナプロセスNM280)を、加硫剤として、硫黄(鶴見化学工業株式会社製:サルファックス200S)を、加硫促進剤として、加硫促進剤MSA(大内新興化学株式会社製:ノクセラーMSA)及び加硫促進剤TBT(大内新興化学株式会社製:ノクセラーTBT)を、それぞれ、準備した。
【0043】
【表1】

【0044】
そして、下記表2に示される各種配合組成に従って、バンバリーミキサー内に、天然ゴムと補強剤、老化防止剤、加硫促進助剤、軟化剤を仕込んで、混練せしめた後、更に、加硫剤と加硫促進剤とを添加し、ロール機にて混練りして、均一に配合せしめることにより、実施例1〜6及び比較例1,2に係る防振ゴム組成物を調製した。
【0045】
−カチオン電着塗料の非付着性の評価−
そして、上記で得られた防振ゴム組成物を用いて、実施例1〜6及び比較例1,2に係る電着塗装用のテストピースを作製した。具体的には、先ず、金具として、図3(a)に示される如き矩形板状の圧延鋼材(SS400材、60mm×25mm×2.3mm)を用い、この金具の片側の面(ゴム接着面)の長手方向中央部(25mm×25mm)に、塩化ゴム系接着剤(ロード社製:ケムロック205)をプライマーとして下塗りして、熱風乾燥せしめた後、更にその上に、別の塩化ゴム系接着剤(ロード社製:ケムロック6108)を上塗りして、熱風乾燥せしめた。次いで、かかる金具を、金型の成形キャビティ内に、ゴム接着面が上になるように配置した後、その上に、短冊状に成形した上記防振ゴム組成物(未加硫ゴム)を投入して、150℃で20分間、プレス加硫することにより、未加硫ゴムを加硫成形せしめてゴム弾性体を形成すると共に、金具とゴム弾性体を接着せしめて、図3(b)に示される如き矩形板状のテストピース(125mm×25mm×7.5mm)を作製した。その後、後述するカチオン電着塗装に先立って、得られたテストピースに化成処理を施して、テストピースの金具の表面に、化成皮膜(リン酸亜鉛皮膜)を形成させた。
【0046】
その後、上記で得られた各テストピースに対して、カチオン電着塗装を施した。具体的には、カチオン電着塗料として、変性エポキシ樹脂を主剤とし、ブロックイソシアネートを硬化剤とする変性エポキシ樹脂系塗料(日本ペイント株式会社製:パワーニクス110ブラック)を用い、これを、陽極となる口径:20cm×深さ:30cmのステンレスバット(容器)に投入して、処理浴を準備した。そして、この処理浴中の電着液をマグネットスターラーで撹拌しつつ、上記テストピースを陰極として電着液に浸漬し、処理温度:35℃、処理時間:3分の条件で、カチオン電着塗装を行った。この際、金具の一端部に設けられた穴を利用して、テストピースを電源装置の−極側に接続して陰極とする一方、容器を電源装置の+極側に接続して陽極とした。また、印加電圧としては、陽極(容器)の面積に比して、陰極(テストピース)の面積が小さいために、実際の量産工程で一般的に採用されている印加電圧よりも低い印加電圧:160V(直流)を採用した。
【0047】
その後、処理浴からテストピースを取り出して、十分に水洗いした後、更に、150℃で20分間、焼付処理を施して、テストピースの金具表面に、厚さ:20〜25μm程度のカチオン塗膜を形成した。そして、この得られたテストピースについて、そのゴム弾性体の表面を目視にて観察し、塗料が全く付着していないものを、○とする一方、塗料が僅かにでも付着しているものを、×として、得られた結果を下記表2に示した。
【0048】
−表面抵抗値の測定−
上記で得られた実施例1〜6及び比較例1,2に係る防振ゴム組成物を加硫成形することにより、長さ:10cm×幅:10cm×厚さ:0.2cmの矩形板状の表面抵抗値測定用テストピースを、それぞれ、作製した。そして、得られたテストピースの一方の表面に、銀ペーストを用いて、図4に示される如き、10mm角の電極と、外形寸法:18mm角×幅:2mmの電極を設けた以外は、JIS K 6911の「5.13 抵抗率」の方法に従って表面抵抗値を測定し、その得られた結果を下記表2に示した。
【0049】
【表2】

【0050】
かかる表2からも明らかなように、表面抵抗値が1×106 Ω以上である実施例1〜6にあっては、マスキング処理を施すことなく、カチオン電着塗装を行っても、ゴム弾性体の表面に塗料が付着していないことが、認められる。一方、表面抵抗値が、それぞれ、2.84×103 Ω及び2.75×103 Ωである比較例1及び2は、カチオン電着塗料が、ゴム表面に付着した。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の適用される金具付き防振ゴムの一例を示す平面説明図である。
【図2】図1におけるII−II断面説明図である。
【図3】実施例において作製された電着塗装用のテストピースを示す斜視説明図であって、(a)は、ゴムを加硫接着する前の金具を、(b)は、加硫接着後のゴムと金具の一体加硫品を、それぞれ、示している。
【図4】実施例において、ゴム弾性体の表面抵抗値を測定するために形成された電極の形状を示す説明図であって、(a)は、(b)におけるa−a断面図、(b)は、(a)におけるb−b断面図を、それぞれ、示している。
【符号の説明】
【0052】
10 金具付き防振ゴム 12 金具
13 金具表面 14 凸部
16 ゴム弾性体 17 ゴム表面
18 電着塗膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫ゴムを金具に一体的に加硫接着せしめて、表面抵抗値が1×106 Ω以上であるゴム弾性体と該金具との一体加硫品を形成した後、かかる一体加硫品にカチオン電着塗装を施すことにより、該一体加硫品の金具表面に、電着塗膜を形成することを特徴とする金具付き防振ゴムの製造方法。
【請求項2】
ゴム弾性体と金具との一体加硫品にカチオン電着塗装を施してなる金具付き防振ゴムであって、
前記ゴム弾性体が、1×106 Ω以上の表面抵抗値を有していると共に、前記金具の表面に前記カチオン電着塗装による電着塗膜が形成されていることを特徴とする金具付き防振ゴム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−221667(P2008−221667A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64405(P2007−64405)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】