説明

金型、及びこれを用いた燃料電池セパレータの製造方法、燃料電池セパレータ

【課題】複雑な形状の燃料電池セパレータを製造するにあたって、その製造コストを低下させる。
【解決手段】図5(c)に示されるように、上型40を加圧することにより、セパレータ原料50の成形を行う。この際、加圧した状態においても、上型40の上型端部下面42と外枠上面33とは当接しない構成とされる。その後、図5(e)に示されるように、外枠30に対して上側から力を加えると、バネ60が縮み、枠部31と下型端部上面22とが当接する。この際、外枠上面35は、下型上面21の上面と同じ高さ、あるいはこれよりも低くなる構成とする。また、ピン34の上面も、下型上面21の上面と同じ高さ、あるいはこれよりも低くなる構成とする。これにより、成形後のセパレータ原料50を図5(e)中の黒矢印の方向に押し出し、取り出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の成形に用いる3ピース型の金型、この金型を成形に用いて製造する燃料電池セパレータの製造方法、及びこの燃料電池セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池においては、燃料ガスと酸化ガスを分離するためのセパレータ(燃料電池セパレータ:以下セパレータと略)が用いられる。このセパレータには、高い導電性、高い機械的強度が要求されるため、黒鉛を主成分としたものが多く用いられている。また、こうしたセパレータは単なる平板形状ではなく、平板の表面にガス流路となる溝や貫通孔が設けられた複雑な形状をなす。また、その厚さの均一性が悪いと接触面積が減少するため、その厚さの制御性、均一性も重要である。従って、こうした特性、形状のセパレータを安価に製造することのできる技術が要求されている。
【0003】
このため、例えば、黒鉛粉末と樹脂材料とを混合したセパレータ原料を金型に入れて成形・熱処理を行って樹脂材料を硬化させることによって所望の形状のセパレータを得る技術が知られている。例えば、特許文献1には、上・中・下の3つの金型中の空所にこれらのセパレータ原料を充填して成形する技術が記載されている。セパレータ表面に形成されるパターンに対応するパターンが上下の金型に形成されており、加圧によってこのパターンがセパレータ原料に転写され、硬化する。ここでは、空所を充填する際に余剰となった混合材料によって成形後にバリが発生することを抑制するために、バリの原因となる余剰の混合材料を溜めるバリ溜め用の空所を金型の間に形成する。これによって、バリを発生させずにこの混合材料の成形を行うことができ、良好な特性及び所望の形状のセパレータを得ることができる。
【0004】
また、特許文献2には、この成形において、直交する2方向における加圧圧縮を2回にわたって行うことによって黒鉛を厚さ方向に配向させる技術が記載されている。これにより、所望の形状を得ると共に、厚さ方向の電気伝導度を安定して高く保つことのできるセパレータが得られる。
【0005】
また、特に製造コストを低下させることのできる技術として、特許文献3には、上記のセパレータ原料における樹脂の硬化をさせないで成形のみを行う加圧・成形工程を行った後で、改めて樹脂を硬化させる熱処理(硬化工程)を行う技術が記載されている。この技術においては、プレス機を用いて加圧を行う加圧・成形工程の際には非加熱とすることができ、硬化工程においては同時に多数の製品に対して処理を行うことができる。これによって、多数の製品を製造する際に、製造コストの大幅な低下を図ることができる。
【0006】
こうした技術を用いて、良好な特性、かつ所望の形状のセパレータを低コストで製造することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−198921号公報
【特許文献2】特開2005−332659号公報
【特許文献3】特開2005−174882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の通り、セパレータの表面形状は非常に複雑であり、様々なパターンの溝や、貫通孔(マニホールド)等が設けられている場合が多い。上記の製造方法においては、このパターンを形成するための金型を組み合わせ、その中にセパレータ原料を充填して加圧成形が行われる。しかしながら、例えば貫通孔を形成する場合、この方法では不充分な場合が多く、貫通孔となるべき箇所がセパレータの厚さ方向において貫通していないという状況も多く発生した。
【0009】
従って、上記の成形工程を行った場合でも、実際には成形体の硬化後に研削等の機械加工を施して、所望の形状に仕上げるという作業が不可欠であった。例えば特許文献3の記載の技術においても、この作業を硬化後の各セパレータに対して行うことが必要であるため、多大な時間を要し、その製造コストを上昇させる要因となった。
【0010】
従って、複雑な形状のセパレータを製造するにあたっては、その製造コストを低下させることは困難であった。
【0011】
本発明は斯かる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上記の問題点を解決するセパレータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の金型は、下型、外枠、及び上型を具備し、前記下型における下型上面と、前記上型における上型下面と、前記外枠における外枠内面とに囲まれた領域に材料が充填され、前記上型が加圧されることによって材料を加圧成形する金型であって、前記下型の上側の面には、前記下型上面と、前記下型上面の周囲に設けられ前記下型上面よりも低い位置に形成された下型端部上面とが含まれ、前記外枠と、前記下型端部上面とはバネを介して接合され、前記外枠の上面は、前記バネが伸びた状態では前記下型上面よりも高い位置に設定され、前記バネが縮んだ状態では前記下型上面と等しい高さあるいはこれよりも低い位置に設定されることを特徴とする。
本発明の金型において、前記外枠には、成形時に前記下型及び前記材料を貫通するピンが、前記下型よりも下側に位置するブリッジ部を介して設けられ、前記下型には、前記ピンが貫通する開口部が設けられ、前記ピンの上面は、前記バネが伸びた状態では前記成形後の前記材料を貫通する位置に設定され、前記バネが縮んだ状態では前記下型上面と等しい高さあるいはこれよりも低く設定されることを特徴とする。
本発明の燃料電池セパレータの製造方法は、前記金型を用いて、燃料電池セパレータ原料の成形を行うことを特徴とする。
本発明の燃料電池セパレータの製造方法において、前記燃料電池セパレータ原料は黒鉛と熱硬化性樹脂の混合物からなることを特徴とする。
本発明の燃料電池セパレータの製造方法は、前記下型と前記外枠とを組み合わせた形態における前記下型上面上に前記燃料電池セパレータ原料を充填した後に、前記上型下面を前記燃料電池セパレータ原料に当接させて加圧することによって前記燃料電池セパレータ原料を成形し、前記上型を除去した後に、前記バネを縮んだ状態にして、前記燃料電池セパレータ原料を前記下型上面上で移動させることによって、前記成形後の燃料電池セパレータ原料を取り出すことを特徴とする。
本発明の燃料電池セパレータの製造方法は、前記金型を用いて複数の成形後の燃料電池セパレータ原料を製造し、該複数の成形後の燃料電池セパレータ原料に対して、同時に熱処理を行い、前記熱硬化性樹脂を硬化させることを特徴とする。
本発明の燃料電池セパレータは、前記燃料電池セパレータの製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上のように構成されているので、複雑な形状の燃料電池セパレータを製造するにあたっても、その製造コストを低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る金型全体の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る金型において、セパレータ原料を充填する際の形態を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る金型において、成形されたセパレータ原料を取り出す際の形態を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る製造方法におけるピンが存在しない箇所の状態を示す工程断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る製造方法におけるピンが存在する箇所の状態を示す工程断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
この実施の形態に係る製造方法においては、燃料電池セパレータ(以下、セパレータと略)の成形が、3ピースの金型を用いて一軸加圧成形で行われる。この金型10の全体構成を示す斜視図が図1である。この金型10は、下型20、外枠30、上型40の3つの部品から構成される。この金型10を用いて、特に貫通孔が形成された形態のセパレータの成形を容易に行うことができる。
【0017】
下型20の上側には、下型上面21と、その周囲に下型端部上面22が形成されている。下型上面21には、4つの開口部23が設けられ、図示していない下型20の下面側に貫通している。
【0018】
外枠30は、外側にある枠部31と、枠部31の内側の面(外枠内面32)同士を接続する2つのブリッジ部33で構成される。後述するように、ブリッジ部33は、下型20と外枠30を組み合わせた際には下型20の下側に設置されるように構成される。このブリッジ部33の各2箇所にはピン34が図1中の上方に向かって設けられている。このピン34は、セパレータにおける貫通孔(マニホールド)に対応し、下型上面21における開口部23に対応する。また、枠部31の上面(枠部上面35)が上型40の側に設けられる。なお、図1においては、便宜上枠部31は手前側で開いたU字形状に記載しているが、実際には、外枠内面32がセパレータの輪郭に対応するように閉じた形態となっている。
【0019】
上型40の下側には、上型下面41と上型端部下面42が形成されている。上型下面41には、外枠30におけるピン34に対応して4箇所に上型凹部43が設けられている。
【0020】
この金型10においては、セパレータ原料は、下型上面21、外枠内面32、上型下面41の間で加圧され、これらの面の形状で規定される形状に成形される。この際、貫通孔はピン34に対応して形成される。
【0021】
この際、セパレータ原料を投入する際の金型10の状態を図2に示す。この状態においては、下型20と外枠30とは、枠部31が下型端部上面22よりも上に、かつブリッジ部33は下型上面21よりも下側になるように組み合わされる。従って、図示していない下型20の下側の形態は、この形態が実現できるような形状とされる。また、外枠30における枠部31とブリッジ部33は一体で成形されている必要はなく、図2の形態が実現できるように、適宜分解・組立ができる構成とすることができる。下型20についても同様であり、図示していないが、図2の形態が実現できるように、ブリッジ部33が貫通できるような開口が適宜設けられる。ただし、この状態では、同図中の白矢印で示されるように、外枠30における枠部31の下面と下型20の下型端部上面22とが所定の間隔をおいて直接接さない状態とされる。この状態は、後述するように、枠部31の下面と下型20の下型端部上面22との間にバネを設けることによって実現される。この状態で下型上面21と外枠内面32で規定される空洞部に、硬化前のセパレータ原料が投入され、その後、下型上面21上に上型下面41が来るように上型40を上側から加圧する。
【0022】
その後、上型40を除去し、成形後のセパレータ原料50を取り出す際の状況を示したのが図3である。この状態においては、外枠30における枠部31の下面と下型20の下型端部上面22とが接する状態になるまで外枠30が押し下げられる。この状態で、図3の下側に示されるように成形されたセパレータ原料50が取り出される。このセパレータ原料50においては、ピン34によって貫通孔51が形成されている。
【0023】
ここで、セパレータ原料は、例えば特許文献3に記載のものと同様である。すなわち、黒鉛粉末と熱硬化性樹脂との混合物である。熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、あるいはこれらの混合物等が用いられる。これらが混合された状態では、この原料は流動性はないが可塑性の状態となっており、例えばこれらを混合後に、熱硬化性樹脂の硬化温度よりも低い40〜80℃の温度で予熱することによって熱硬化性樹脂を黒鉛粉末間に充分浸みわたらせることができる。以降の成形を行う対象となるのは、この予熱後のセパレータ原料である。成形後に熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高い温度の熱処理を行うことによって、熱硬化性樹脂が硬化し、充分な硬度をもった状態のセパレータ(製品)となる。
【0024】
下型20、外枠30、上型40は、通常の金型と同様に、金型鋼、例えばSKD等で構成される。
【0025】
この金型10においてセパレータ原料を加圧成形する際の詳細な状態を、図2、3におけるA−A方向の断面(ピン34のない箇所の断面)とB−B方向(ピン34がある箇所の断面)とに分けて説明する。また、以下では、単純化するために、セパレータにおいて形成されるパターンは上記のマニホールドだけであるとするが、実際には、表面の溝から構成される多数のパターンも形成される。従って、実際には、下型20(下型上面21)と上型40(上型下面41)には、マニホールド以外に対応するパターン形状に対応する凹凸が形成されているが、以下ではその記載を省略している。
【0026】
図4は、図2、3におけるA−A方向の断面において、この金型10にセパレータ原料50を投入してから成形後までの状態を示す工程断面図である。
【0027】
図4(a)は、セパレータ原料50を投入する際の金型10の状態を示しており、その全体図は図2に対応する。ここで、下型20と外枠30とは図に示されるように組み合わされており、上型40はこれらと別体となっている。
【0028】
下型20の上側には、下型上面21と下型端部上面22が形成されており、下型端部上面22は、下型上面21の周囲に形成され、下型上面21よりも低く設定されている。
【0029】
外枠30における枠部31は下型端部上面22に対応して設けられ、枠部31は下型端部上面22にバネ60で連結される。バネ60は、外部から力が加わらない状態では伸びた状態となっている。バネ60が伸びた状態では、枠部31と下型端部上面22とは直接接さず、このバネ60を圧縮した際には、枠部31と下型端部上面22とが密着するように形成されている。また、枠部31の上側の面である外枠上面35は、バネ60が伸びた状態では、下型上面21よりも高い位置に設定され、下型上面21上にセパレータ原料50を充填することができる。また、セパレータ原料50は、外枠内面32と直接接することによって成形され、外枠内面32のパターンがセパレータ原料50に転写される。
【0030】
また、上型40における上型下面41は、セパレータ原料50が直接接する面であり、この面のパターンもセパレータ原料50に転写される。上型端部下面42は、上型下面41の周囲に形成され、上型下面41よりも図中において高く設定されている。上型端部下面42は、外枠上面35に相対するように設けられる。
【0031】
次に、図4(b)に示されるように、熱硬化性樹脂が硬化していない状態のセパレータ原料50を、枠部31の中の空洞部(下型上面21上)に投入し、充填する。この際、A−A方向の断面においては外枠30には上側から力が加わらず、かつ、後述するようにB−B方向の断面においても力が加わらないため、外枠上面35は、下型上面21よりも高くなっている。従って、この充填を確実に行うことができる。
【0032】
次に、図4(c)に示されるように、上型40の上型下面41を枠部31の空洞部に嵌合させ、上側から加圧することにより、セパレータ原料50の成形を行う。この際、加圧した状態においても上型端部下面42と外枠上面35とは当接しない構成とされる。従って、この加圧の際にも、外枠30(枠部31)には上側からの力は加わらないため、バネ60が伸びた状態が保たれ、枠部31と下型端部上面22とが当接しない状態も保たれる。なお、この際の圧力は、特許文献3に記載されるように、例えば15MPa〜100MPaの範囲とする。
【0033】
その後、一定の時間経過後に上型40を除去すると、図4(d)の形態となる。すなわち、成形されたセパレータ原料50が下型上面21上に残る。
【0034】
その後、図4(e)に示されるように、下型20を固定したまま、外枠30(枠部31)に対して上側から力を加えると、バネ60が縮み、枠部31と下型端部上面22とが当接する。この際、外枠上面35は、下型上面21と同じ高さ、あるいはこれよりも低くなる構成とする。これにより、成形後のセパレータ原料50を図4(e)中の黒矢印の方向に押し出し、取り出すことができ、図4(f)に示されるように、成形されたセパレータ原料50が得られる。図3は、この状態における金型10(下型20、外枠30)とセパレータ原料50の全体の形態である。
【0035】
一方、図5は、図2、3におけるB−B方向の断面において、この金型10にセパレータ原料50を投入してから成形後までの状態を示す工程断面図である。
【0036】
図5(a)は、セパレータ原料50を投入する前の金型10のこの断面における構成を示しており、その全体図は図2に対応する。外枠30には、左右の枠部31を連結する形態でブリッジ部33が形成され、ブリッジ部33にピン34が設けられている。ピン34は、セパレータのマニホールドに対応し、この例ではこの断面において2個設けられている。
【0037】
A−A方向の断面(図4)にも示されたように、下型20の上側には、下型上面21と下型端部上面22が形成されているが、下型上面21は一様な平面形状ではなく、ピン34に対応した開口部23が設けられており、この開口部23をピン34が図中下側から貫通している。また、ブリッジ部33を収容するために、この箇所においては、下型20の下側の面は、図4に示した箇所よりも高くなっている。この開口部23が設けられた箇所以外の下型上面21の高さは図4に示された箇所と同一である。従って、このブリッジ部33が存在する箇所において下型20は薄くなっている。
【0038】
また、上型40において、上型下面41のピン32に対応する箇所には、上型40を下側に加圧した際にピン31が嵌合する上型凹部43が形成されている。
【0039】
次に、図5(b)に示されるように、図4(b)と同様に、セパレータ原料50を充填する。セパレータ原料50を充填した直後には、ピン34にはセパレータ原料50によって上側から力が加わるが、ピン34に対応した貫通孔(マニホールドに対応)がセパレータ原料50に形成された後は、この力は緩和されるため、図4(b)と同様に、圧力が加わらない状態となるため、結局バネ60は伸びた状態となる。
【0040】
次に、図5(c)に示されるように、上型40における上型凹部43をピン34の位置に合わせて上側から加圧することにより、セパレータ原料50の成形を行う。この際、A−A方向の断面(図4(c))と同様に、加圧した状態においても、上型40の上型端部下面42と外枠上面35とは当接しない構成とされる。従って、この加圧の際にも、外枠30(枠部31)には上側からの力は加わらない。また、ピン34(外枠30)には、バネ60によって下側から押し上げる力が働くため、この成形時においては、ピン34は確実にセパレータ原料50を貫通する。従って、成形後にはバネ60が伸びた状態が保たれ、枠部31と下型端部上面22とが直接接さない状態となる。すなわち、ピン34を設けた場合でも、図4(c)の場合と同様に、成形後にはバネ60は伸びた状態となる。
【0041】
その後、一定の時間経過後に上型40を除去すると、図5(d)の形態となる。すなわち、成形されたセパレータ原料50が下型上面21上に残る。
【0042】
その後、図5(e)に示されるように、下型20を固定したまま、枠部31に対して上側から力を加えると、バネ60が縮み、枠部31と下型端部上面22とが当接する。この際、外枠上面35は、下型上面21の上面と同じ高さ、あるいはこれよりも低くなる構成とする。また、ピン34の上面も、下型上面21の上面と同じ高さ、あるいはこれよりも低くなる構成とする。これにより、成形後のセパレータ原料50を図5(e)中の黒矢印の方向に押し出し、取り出すことができ、図5(f)に示されるように、成形されたセパレータ原料50が得られる。このセパレータ原料50においては、貫通孔51が形成されている。図3は、この状態における金型10(下型20、外枠30)とセパレータ原料50の全体の形態である。
【0043】
なお、記載を省略しているが、セパレータ表面の溝からなるパターンを形成するためのパターンは、下型上面21におけるピン34に対応した開口部23が設けられた箇所以外の部分、又は上型下面41における上型凹部43が形成された箇所以外の部分に形成されている。従って、これらの溝からなるパターンは従来より知られる金型を用いた場合と同様に形成される。また、貫通孔51はピン34によって形成されるため、確実に上下方向に貫通する形状のものを形成することができる。また、セパレータ原料50の全体形状は、上型下面41、外枠内面32、及び下型上面21によって決まるため、上記の工程によって全体形状も規定される。すなわち、このセパレータ原料50は、所望の形状に成形される。
【0044】
その後、特許文献3に記載されたように、成形後のセパレータ原料50に対して熱処理を行い、熱硬化性樹脂を硬化させること(硬化工程)によって、セパレータを得ることができる。この温度は、特許文献3に記載されるように、例えば100〜200℃程度とすることができる。
【0045】
図4、5は、セパレータ原料50を金型に投入してから成形後までの工程を説明する図であった。以下では、実際にセパレータを製造する際のこの工程を含む流れ全体について説明する。図6は、この流れを示すフローチャートである。
【0046】
ここで、まず、金型10を、図4(a)、図5(a)の形態にして待機する(S1)。すなわち、下型20と外枠30とを図1のように組み合わせ、上型40はこれらとは別にして待機する。
【0047】
次に、図4(b)、図5(b)に示されたように、セパレータ原料50を、この下型20と外枠30とが組み合わされた形態(空洞部)において、下型上面21上に充填する(S2)。
【0048】
次に、別体となっていた上型40を、図4(c)、図5(c)に示されるように、この構造に組み付ける(S3)。
【0049】
この状態で、加圧前の予熱を行う(S4)。予熱においては、例えば40〜80℃の温度にこの状態の金型10及びセパレータ原料50が保たれる。ただし、この温度は熱硬化性樹脂の硬化温度よりは低い温度とする。これにより、熱硬化性樹脂がゲル化し、黒鉛粉末の間により浸透する。
【0050】
その後、図4(c)、図5(c)に示されるように、上型40に対して一軸加圧を行うことによって、セパレータ原料50を成形する(S5)。この加圧時間は、充分に成形が行われるまでの時間とする。この加圧は、一軸加圧装置(プレス装置)によって行う。
【0051】
次に、図4(d)、図5(d)に示されるように、上型40を分離し、図4(e)、図5(e)に示されるように、外枠30(枠部31)を押し下げ、セパレータ原料50を横方向に移動させることによって、成形後のセパレータ原料50(製品)を取り出す(S6)。
【0052】
その後、成形されたセパレータ原料を取り出した後の金型10を分解し(S7)、再び図4(a)、図5(a)の形態にして待機する(S1)。その後、S2以降の作業を繰り返す。
【0053】
以上の流れによって、成形されたセパレータ原料50を多数得ることができる。その後、この多数の成形されたセパレータ原料50に対して、同時に硬化工程を行うことができる。硬化工程においては、単一の電気炉内で多数の製品(成形されたセパレータ原料50)を扱うことができる。この作業においては、金型10を複数セット準備しておけば、例えばセパレータ原料50の充填(S2)、予熱(S4)、一軸加圧(S5)等の工程を別々の製品に対して同時に行うことができる。従って、多数の製品を製造する際に、高い量産性でセパレータ原料50を成形することができる。この際、高価でかつ同時に多数の製品を扱うことが困難である一軸加圧装置の数を最低限である1台とした流れ作業を行うことができ、かつ、この加圧を行なう際には特に加熱を行う必要がないため、単純な構成の一軸加圧装置を用いることができる。一方、同時に多数の製品を扱うことが容易である電気炉において、多数の製品に対して硬化工程を同時に行うことができ、かつ、この加熱を行なう際には加圧は必要ないため、単純な構成の電気炉を用いることができる。従って、単純な構成の製造装置を用い、高い量産性でセパレータを製造することができるため、低コストでセパレータを製造することができる。
【0054】
従って、貫通孔を有する複雑な形状のセパレータを製造するにあたっても、その製造コストを低下させることができる。
【0055】
なお、マニホールド(貫通孔)を設けず、表面の溝からなるパターンのみを有する構成のセパレータを製造するに際しては、外枠30におけるブリッジ部33、ピン34を設ける必要はない。ピン34の形状も、マニホールドの形態によって適宜設定できる。表面の溝からなるパターンに対応するパターンは、下型上面21、上型下面41に形成することにより、セパレータ原料50に転写することができる。この手法は特許文献1等に記載の方法と同様である。
【0056】
更に、上記の例では、上記の金型を用いて黒鉛粉末と熱硬化性樹脂の混合物からなる燃料電池セパレータ原料を成形する場合につき記載したが、他の原料を用いた場合においても、成形後の原料が定形性を有している限りにおいて、上記の製造方法が適用できることは明らかである。
【0057】
更に、燃料電池セパレータ以外についても、成形後の原料が定形性を有している限りにおいて、上記の製造方法、金型が有効に用いられることは明らかである。
【符号の説明】
【0058】
10 金型
20 下型
21 下型上面
22 下型端部上面
30 外枠
31 枠部
32 外枠内面
33 ブリッジ部
34 ピン
35 外枠上面
40 上型
41 上型下面
42 上型端部下面
43 上型凹部
50 セパレータ原料
51 貫通孔
60 バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下型、外枠、及び上型を具備し、前記下型における下型上面と、前記上型における上型下面と、前記外枠における外枠内面とに囲まれた領域に材料が充填され、前記上型が加圧されることによって材料を加圧成形する金型であって、
前記下型の上側の面には、前記下型上面と、前記下型上面の周囲に設けられ前記下型上面よりも低い位置に形成された下型端部上面とが含まれ、
前記外枠と、前記下型端部上面とはバネを介して接合され、前記外枠の上面は、前記バネが伸びた状態では前記下型上面よりも高い位置に設定され、前記バネが縮んだ状態では前記下型上面と等しい高さあるいはこれよりも低い位置に設定されることを特徴とする金型。
【請求項2】
前記外枠には、成形時に前記下型及び前記材料を貫通するピンが、前記下型よりも下側に位置するブリッジ部を介して設けられ、
前記下型には、前記ピンが貫通する開口部が設けられ、
前記ピンの上面は、前記バネが伸びた状態では前記成形後の前記材料を貫通する位置に設定され、前記バネが縮んだ状態では前記下型上面と等しい高さあるいはこれよりも低く設定されることを特徴とする請求項1に記載の金型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金型を用いて、燃料電池セパレータ原料の成形を行うことを特徴とする、燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項4】
前記燃料電池セパレータ原料は黒鉛と熱硬化性樹脂の混合物からなることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記下型と前記外枠とを組み合わせた形態における前記下型上面上に前記燃料電池セパレータ原料を充填した後に、前記上型下面を前記燃料電池セパレータ原料に当接させて加圧することによって前記燃料電池セパレータ原料を成形し、
前記上型を除去した後に、前記バネを縮んだ状態にして、前記燃料電池セパレータ原料を前記下型上面上で移動させることによって、前記成形後の燃料電池セパレータ原料を取り出すことを特徴とする請求項3又は4に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項6】
前記金型を用いて複数の成形後の燃料電池セパレータ原料を製造し、該複数の成形後の燃料電池セパレータ原料に対して、同時に熱処理を行い、前記熱硬化性樹脂を硬化させることを特徴とする請求項3から5までのいずれか1項に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項7】
請求項3から請求項6までのいずれか1項に記載の燃料電池セパレータの製造方法によって製造されたことを特徴とする燃料電池セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−221450(P2010−221450A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69379(P2009−69379)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(502130098)株式会社FJコンポジット (13)
【Fターム(参考)】