説明

金型及びこの金型を用いた成形方法

【課題】欠陥の無い製品を成形可能な金型及びこの金型を用いた成形方法を提供する。
【解決手段】パンチ2及びダイ3の各加圧面21,31によって素材4を加圧することにより、素材4に塑性流動を生じさせて突部を有する製品を成形する金型1であって、パンチ2及びダイ3の少なくともいずれか一方の加圧面31(21)は、素材4の塑性流動を抑制する流動抑制領域31bと、前記突部が形成される突部形成領域31aとを備えており、流動抑制領域31bは、その表面摩擦係数が突部形成領域31aの表面摩擦係数よりも高くなるように形成されている金型1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型及びこの金型を用いた成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、素材を鍛造加工により成形して突部を有する製品を製造する場合、金型が使用されている。この金型は、鍛造加工される素材が載置されるダイと、ダイに向けて下方移動し素材を圧下するパンチとを備えている。ダイの表面には、立体形状製品の突部を形成するための凹部が設けられている。
【0003】
このような金型を用いて素材から製品を成形する場合、ダイ上に素材を配置し、この素材をパンチによって上方から圧下することにより、素材を塑性流動させて凹部内に流入させることで成形している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の金型を用いて製品を鍛造成形する場合、製品の突部に対応するダイの凹部に十分な素材が流れ込みにくく、製品の一部に素材の流れ込み不良等の欠陥が発生するという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、欠陥の無い製品を成形可能な金型及びこの金型を用いた成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、パンチ及びダイの各加圧面によって素材を加圧することにより、前記素材に塑性流動を生じさせて突部を有する製品を成形する金型であって、前記パンチ及び前記ダイの少なくともいずれか一方の加圧面は、前記素材の塑性流動を抑制する流動抑制領域と、前記突部が形成される突部形成領域とを備えており、前記流動抑制領域は、その表面摩擦係数が前記突部形成領域の表面摩擦係数よりも高くなるように形成されている金型により達成される。
【0007】
また、この金型において、前記流動抑制領域は、前記突部形成領域の周囲に配置されていることが好ましい。
【0008】
また、前記流動抑制領域には、複数の凹凸部が形成されていることが好ましい。
【0009】
また、前記突部形成領域は、前記加圧面の略中央部に形成されていることが好ましい。
【0010】
また、前記突部形成領域の表面摩擦係数は、0.01〜0.5であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の上記目的は、上述の金型を用いて突部を有する製品を成形する成形方法であって、前記ダイの加圧面に載置される前記素材を前記パンチの加圧面により加圧することにより前記素材を塑性流動させる流動ステップと、前記突部形成領域よりも高い表面摩擦係数を有する前記流動抑制領域によって、前記素材の塑性流動を抑制する流動抑制ステップとを備える形成方法により達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、欠陥の無い製品を成形可能な金型及びこの金型を用いた成形方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る金型について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る金型1の概略構成断面図であり、図2は、金型1を構成するダイ3の概略構成断面図である。図3は、図2に示すダイ3の平面図である。図4は、図1に示す金型1により成形した成形体(製品)5を示す斜視図である。
【0014】
本実施形態に係る金型1は、素材4を加圧することにより塑性流動させて図4に示すような突部(ボスやリブ等)51を有する製品5を成形するプレス又は鍛造用の金型であり、図1に示すように、パンチ2及び当該パンチ2の下方に配置されるダイ3を備えている。パンチ2は、図示しないプレス機械などの昇降装置により上下動可能となるように構成されており、素材4を圧下するパンチ加圧面21を備えている。このパンチ加圧面21は、フラットな形状となるように形成されている。
【0015】
ダイ3は、図示しないダイホルダーにより固定されており、パンチ2のパンチ加圧面21と対向配置されるダイ加圧面31を備えている。このダイ加圧面31は、図2及び図3に示すように、製品5における突部51(立体形状部分)が形成される突部形成領域31aと、流動抑制領域31bとを備えている。なお、図3中における一点鎖線Sは、突部形成領域31aと流動抑制領域31bとの境界を示す仮想線である。
【0016】
突部形成領域31aは、ダイ加圧面31の略中央部に形成されており、その領域内に、製品5の突部51に対応する凹部32が複数形成されている。流動抑制領域31bは、突部形成領域31aの周囲に配置されている。この流動抑制領域31bは、ダイ3上に載置された素材4をパンチ2が圧下した場合に生じる素材4の塑性流動を抑制する機能を有しており、その表面摩擦係数が、突部形成領域31aの表面摩擦係数よりも高くなるように形成されている。流動抑制領域31bおよび突部形成領域31aにおける各表面摩擦係数に高低差を設ける方法としては、例えば、ダイ加圧面31の突部形成領域31aに表面摩擦係数を低減するコーティングを施す方法や、研磨による鏡面仕上げなどを挙げることができる。このようなコーティングとしては、CrN(窒化クロム)コーティング、TiC(炭化チタン)コーティング、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング等を例示することができる。なお、突部形成領域31aにおける表面摩擦係数の値は、例えば0.01〜0.5の範囲が好ましい。ダイ加圧面31の流動抑制領域31bにおける表面摩擦係数の値は、突部形成領域31aにおける表面摩擦係数の値よりも高ければ特に限定されない。例えば、突部形成領域31aにおける表面摩擦係数の値が0.01〜0.1というような範囲であれば、流動抑制領域31bにおける表面摩擦係数の値を0.2以上とすることもできる。
【0017】
また、パンチ2及びダイ3の内部には、シーズヒータ等の発熱体(図示せず)が設けられており、パンチ2及びダイ3が、所定の温度に加熱されるように構成されている。
【0018】
次に本実施形態に係る金型1を用いてマグネシウム又はマグネシウム合金からなる素材4に鍛造加工を施す方法を、図5を参照して説明する。
【0019】
まず、図5(a)に示すようにダイ3におけるダイ加圧面31の略中央部に素材4を載置する。ここで、マグネシウム又はマグネシウム合金からなる素材4は、例えば250℃〜400℃の範囲で展延性が向上し鍛造加工を行いやすくなるため、プレス前に、図示しないプレス機械を駆動して加熱されたパンチ2及びダイ3によって素材4を挟み込み、素材4を上記温度範囲となるよう昇温させる。
【0020】
素材4が所定温度に昇温した後、図示しないプレス機械を駆動して、図5(b)に示すように、パンチ加圧面21により素材4を圧下する。この圧下により、素材4は塑性流動して変形しつつダイ3の加圧面31に形成される凹部32に流れ込む。パンチ加圧面21による圧下が終了した後、パンチ2をダイ3から離れる方向に移動させて、鍛造加工終了後の製品5を取り出す。
【0021】
本実施形態に係る金型1は、ダイ3の加圧面31が、素材4の塑性流動を抑制する流動抑制領域31bと、製品5の突部51が形成される突部形成領域31aとを備えており、流動抑制領域31bにおける表面摩擦係数が、突部形成領域31aにおける表面摩擦係数よりも高くなるように設定している。このような構成により、パンチ2によって圧下されて変形していく素材4における流動抑制領域31bとの接触部分は高い摩擦抵抗力を受けるため、その流動が抑制されることになる。一方、素材4における突部形成領域31aとの接触部分は、流動抑制領域31bとの接触部分に比べて低い摩擦抵抗力を受けるため、その流動性は高いものとなる。この結果、突部形成領域31aにおける凹部32に十分な量の素材4が流れ込むことになり、製品5の突部51に素材4の流れ込み不良が発生することを確実に防止して、高精度で欠陥の無い立体形状製品5を製造することができる。
【0022】
発明者らは、上記効果を確認するために、図1〜図3に示す金型1を用いて鍛造加工の実験を行ったので、この実験結果について以下説明する。なお、金型1のダイ3における突部形成領域31aには、DLCコーティングを施し、その表面摩擦係数が0.1となるようにした。流動抑制領域31bには、DLCコーティングを施さずに梨地面とした。また、鍛造加工される素材4としては、高さ36mm、幅46mm、厚み0.5mmの平面視矩形状のマグネシウム合金製プレート状素材を用いた。実験結果を図6(a)に示す。図6(a)は、図5に示す成形体における円柱状の突部51の断面の写真画像である。
【0023】
また、比較のため、図1〜図3に示す金型と同形状の金型であって、ダイの加圧面における表面摩擦係数が加圧面全域にわたって同一の金型を用いて、上記マグネシウム合金製プレート状素材に対して鍛造加工を行った結果を図6(b)に示す。図6(b)も、図6(a)と同様に図5に示す成形体における円柱状の突部51の断面の写真画像である。
【0024】
図6(a)の写真に示すように、本実施形態に係る金型1により鍛造加工を行った成形体5の突部51には、素材4の流れ込み不良が発生しておらず、その外形形状はきれいな状態となっていることが分かる。一方、図6(b)に示す比較例の写真においては、素材4の流れ込み不良が発生し、突部51の外形形状がいびつな形状となっていることが分かる。
【0025】
また、本実施形態に係る金型1は、製品5の突部51を形成する突部形成領域31aと素材4との接触面において、素材4が流動しやすい状態となっているため、突部形成領域31aにおける凹部32が形成されていない面と、パンチ2のパンチ加圧面21とで挟まれる領域により成形される製品部分の厚みを、例えば、ダイカストで製造が困難な0.5mm以下の極めて薄い形状に成形することが可能になる。
【0026】
このように、本実施形態に係る金型1によれば、欠陥の無いボスやリブ等の突部を薄板材に備えた製品を高精度で一体成形することが可能になる。
【0027】
また、本実施形態においては、製品5の突部51を形成する突部形成領域31aの周囲に当該突部形成領域31aよりも表面摩擦係数の高い流動抑制領域31bを配置しているため、パンチ2の圧下によって塑性流動する素材4の動きを、突部形成領域31aの周囲全域で抑制することができる。この結果、突部形成領域31aに形成される凹部32内に素材4がより一層確実に流れ込むことになり、高精度で欠陥の無い製品5を鍛造加工によって成形することが可能になる。
【0028】
また、上記実施形態においては、突部形成領域31aをダイ加圧面31の略中央部に形成しているため、素材4が、パンチ2の圧下によって突部形成領域31aからその周囲に形成される流動抑制領域31bに向けて流動することになる。流動抑制領域31bにおいては、素材4の塑性流動が抑制されることになるため、突部形成領域31aにおける凹部32に素材4を確実に流し込むことが可能になる。
【0029】
以上、本発明に係る金型1の一実施形態について説明したが、本発明の具体的な構成は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態においては、ダイ3の加圧面31が、流動抑制領域31bと突部形成領域31aとを備えるような構成を採用しているが、例えば、パンチ2の加圧面21が、流動抑制領域31bと突部形成領域31aとを備えるような構成を採用することもできる。また、ダイ3の加圧面31及びパンチ2の加圧面21が、それぞれ流動抑制領域31bと突部形成領域31aとを備えるような構成を採用し、両面に突部51を有する成形体を成形するように構成してもよい。
【0030】
また、図7に示すように、ダイ3の加圧面31の流動抑制領域31bに複数の凹凸部33を形成することにより、突部形成領域31aと流動抑制領域31bとの間の摩擦係数の高低差を拡大することもできる。流動抑制領域31bに凹凸部33を形成する方法としては、ダイ加圧面31の流動抑制領域31bに対して、例えば、放電加工、化学研磨、ショットブラスト、機械加工等を施すことを挙げることができる。このように、流動抑制領域31bの表面粗さを大きくすることにより、流動抑制領域31bが、パンチ2の圧下によって流動する素材4の流れをより強力に抑制することが可能になるため、突部形成領域31aにおける凹部32に十分な量の素材4を確実に流し込むことができ、製品5の突部51に素材4の流れ込み不良等の欠陥が発生することを確実に防止することができる。
【0031】
また、上記実施形態においては、図3に示すように、ダイ3の加圧面の略中央部に突部形成領域31aを形成し、その周囲に流動抑制領域31bを配置するような構成を採用しているが、このような構成に特に限定されず、例えば、図8(a)や図8(b)に示すように、突部形成領域31a内に表面摩擦係数が高い流動抑制領域31bを形成するように構成してもよい。また、図3に示すように、突部形成領域31aと流動抑制領域31bとの境界Sは、矩形状に形成されているが、この境界Sの形状は、例えば図8(c)や図8(d)に示すように、種々の形状を採用することができる。なお、図8(a)〜(d)においては、構成の理解を容易にするために、流動抑制領域31bに対して色を付して示している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る金型の概略構成断面図である。
【図2】図1に示す金型を構成するダイを示す概略構成断面図である。
【図3】図2に示すダイの平面図である。
【図4】図1に示す金型によって鍛造加工された製品を示す斜視図である。
【図5】図1に示す金型を用いて素材に鍛造加工を施す方法を説明する説明図である。
【図6】図1に示す金型の効果を確認するために発明者が行った実験結果を示す写真である。
【図7】図2に示すダイの変形例を示す概略構成断面図である。
【図8】(a)〜(d)は、図3に示すダイの各種変形例をそれぞれ示す平面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 金型
2 パンチ
21 パンチ加圧面
3 ダイ
31 ダイ加圧面
31a 突部形成領域
31b 流動抑制領域
32 凹部
33 凹凸部
4 素材
5 製品
51 突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンチ及びダイの各加圧面によって素材を加圧することにより、前記素材に塑性流動を生じさせて突部を有する製品を成形する金型であって、
前記パンチ及び前記ダイの少なくともいずれか一方の加圧面は、前記素材の塑性流動を抑制する流動抑制領域と、前記突部が形成される突部形成領域とを備えており、
前記流動抑制領域は、その表面摩擦係数が前記突部形成領域の表面摩擦係数よりも高くなるように形成されている金型。
【請求項2】
前記流動抑制領域は、前記突部形成領域の周囲に配置されている請求項1に記載の金型。
【請求項3】
前記流動抑制領域には、複数の凹凸部が形成されている請求項1又は2に記載の金型。
【請求項4】
前記突部形成領域は、前記加圧面の略中央部に形成されている請求項1から3のいずれかに記載の金型。
【請求項5】
前記突部形成領域の表面摩擦係数は、0.01〜0.5である請求項1から4のいずれかに記載の金型。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の金型を用いて突部を有する製品を成形する成形方法であって、
前記ダイの加圧面に載置される前記素材を前記パンチの加圧面により加圧することにより前記素材を塑性流動させる流動ステップと、
前記突部形成領域よりも高い表面摩擦係数を有する前記流動抑制領域によって、前記素材の塑性流動を抑制する流動抑制ステップとを備える形成方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−226441(P2009−226441A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74912(P2008−74912)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(300019445)株式会社カサタニ (19)
【Fターム(参考)】