説明

金属の分離回収装置および金属の分離回収方法

【課題】 金属含有物から金属を容易に素早く、しかも安全に抽出し、さらに各成分を高選択的、高収率、連続的に相互分離して回収可能な金属の分離回収装置および金属の分離回収方法を提供すること。
【解決手段】 金属含有物に超臨界流体または液体(特に好ましくは、超臨界二酸化炭素)を接触させて、目的とする金属を抽出する第1工程、その金属含有抽出物を疑似移動床式分離手段により相互に分離する第2工程を経る金属の分離回収装置、及び分離回収方法によって達成される。なお、第1工程においては、超臨界流体または液体に、錯化剤及び酸化剤を接触させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の分離回収装置および金属の分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属鉱石をはじめ不均一系触媒、プリント基板などは貴金属をはじめとする金属を含有し、そこから金属の分離回収は重要である。しかし現在のところ、含有金属の溶解には強酸や青酸化合物等の毒物を使用するため、取り扱いに大変な注意と特殊な設備を要する。また金属を溶解させた溶液と、粉砕した岩石やセラミック担体のスラリーはヘドロ状となり、固液分離が容易ではないという問題がある。高温で金属溶融をする方法もあるが、特殊な炉が必要であり、岩石や担体から金属の安全で簡単な分離方法の確立が求められている。
また精錬やメッキ産業においては金属含有廃液が多量に発生するが、その金属含有廃液が河川・湖沼・海域等の環境に流れ出てしまった場合には重金属汚染を引き起こすおそれがある。そのため、金属含有廃液から金属を分離回収することが求められるが、通常、それらは複数の金属を含有するため、それぞれを単体として分離回収してリサイクルすることが資源の有効利用という点から望まれる。金、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属の採掘量は極めて少なく、採掘地も限定されているために高価で貴重である。それら貴金属は使用済核燃料の高レベル放射性硝酸廃液中にも含まれており、溶融ガラスでの固化処理の前に高レベル放射性硝酸廃液から回収する技術が求められている。さらに均一系金属触媒反応液では触媒と有機生成物との優れた分離法が無く、蒸留により分離できるもの以外は工業化できなかったため、この反応液から金属触媒と有機生成物の分離方法の確立が求められている。
【0003】
従来の金属溶解・抽出方法としては金属含有物に強酸、貴金属の場合にはさらに酸化剤を加えて溶解した後、不溶物を濾過する方法や、金属を溶解した水溶液に錯化剤を添加した溶剤で二相分離し、金属錯体を有機相に抽出する方法、金属含有物を高温炉で溶融して金属分を回収する方法が一般的であった。しかし近年、抽出残渣との分離、抽出溶剤と金属錯体との分離が容易な超臨界流体で金属を錯体として抽出する研究がなされ、超臨界水酸化法により貴金属酸化物を得る方法(例えば非特許文献1参照)や超臨界二酸化炭素とキレート剤により貴金属錯体を抽出する方法(例えば非特許文献2参照)、超臨界二酸化炭素とキレート剤、酸化剤により金属酸化物から金属錯体を抽出する方法(例えば特許文献1参照)が提案された。しかし複数金属含有物から複数金属を抽出することはできても、各金属に相互分離することが必要である。
金属の相互分離方法としては、錯体形成による沈殿と溶解を繰り返す古典的沈殿法、電析法などが挙げられる。近年では、高選択性の金属抽出剤が開発され、その金属抽出剤を用いた溶媒抽出法による特許が多数出願されている。また、金属を陰イオン交換樹脂に吸着後、溶離方法の工夫で選択的溶離を行う方法、キレート樹脂であるキトサン誘導体に吸着後、選択的溶離を行う方法などが提案されている。さらに、クロマト法により金属錯体を分離する方法などがある。しかし、これらはいずれも精製を多数回繰り返す必要があり、分離に要する時間が長い上に、低収率、高コスト、また非連続的であるという問題があった。
そこで、高収率、低コスト、連続的なサイズ排除クロマトグラフィーによる擬似移動床方式を適用する方法、具体的には、溶離液としてハロゲン溶液を用い、充填剤としてポリサッカライドやポリアクリルアミド等の親水性ゲルを用いて、貴金属を含む金属ハロゲノ錯体や卑金属ハロゲン化物から金属を分離回収する方法(例えば特許文献2〜4参照)が提案されている。
【特許文献1】特許第2813551号公報
【特許文献2】米国特許第4885143号明細書
【特許文献3】特許第3291203号公報
【特許文献4】特表平2001−516808号公報
【非特許文献1】ピアズ グルメット(Piers Grumett),プラチナ メタル レビュー(Platinum Metals Rev.),47,(4),163−166(2003)
【非特許文献2】後藤元信,児玉昭雄,廣瀬勉,第3回廃棄物処理科学研究発表会成果発表抄録集,53−54,(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載の超臨界水酸化法では374℃以上、221bar以上の高温高圧状態が必要であり、また腐食性が高いために装置材料の防食対策が必要になるという問題がある。また抽出した金属酸化物が複数金属の場合はそれらの相互分離はできないし、金属触媒反応において生成した有機化合物の場合は生成物が分解してしまう問題がある。
非特許文献2、特許文献1に記載の超臨界二酸化炭素抽出法では比較的低温、低圧で実施でき、抽出残渣との分離が容易であるという利点を有するが、これも抽出した金属錯体が複数金属の場合はそれらの相互分離はできないという欠点を有している。
また、特許文献2〜4に記載されているような方法は、ハロゲン溶液でのゲル透過クロマト法であり、装置材質を耐酸性、耐腐食性にしなければならず、装置コストが高くなるという欠点があり、工業的でなかった。またクロロ錯体による貴金属回収ではロジウムを塩酸水溶液に溶解させることが難しく、またテトラクロロ金(III)酸は分配係数が大きく、溶離しにくいため、前処理で除去しなければならないという問題があった。
【0005】
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、金属含有物から金属を容易に素早く、しかも安全に抽出し、さらに各成分を高選択的、高収率、連続的に相互分離して回収できる、金属の分離回収装置および金属の分離回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属の分離回収方法は、金属含有物に超臨界流体を接触させて抽出する第1工程、該金属含有抽出物を擬似移動床式分離手段により相互分離する第2工程を含むことを特徴とする。
本発明の金属の分離回収方法は、第1工程で超臨界流体に加えて錯化剤を接触させることを特徴とする。
本発明の金属の分離回収方法は、第1工程で超臨界流体と錯化剤に加えて酸化剤を接触させることを特徴とする。
本発明の金属の分離回収方法は、第2工程の擬似移動床式分離手段で使用する溶離液が超臨界流体であることを特徴とする。
本発明の金属の分離回収方法は、第1工程と第2工程が接続されて連続運転できることを特徴とする。
本発明の金属の分離回収方法は、金属含有物が金属触媒含有物であることを特徴とする。
本発明の金属の分離回収方法は、金属触媒含有物が不均一系固体触媒であり、焼成前または焼成後のものであることを特徴とする。
本発明の金属の分離回収方法は、前処理工程として金属含有物を洗浄および/または粉砕することを特徴とする。
本発明の金属の分離回収方法は、超臨界流体または液体が二酸化炭素であることを特徴とする。
本発明の金属の分離回収装置は、金属含有物に超臨界流体を接触させて抽出する第1工程、該金属含有抽出物を擬似移動床式分離手段により相互分離する第2工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の金属の分離回収装置および金属の分離回収方法によれば、金属含有物から金属を容易に素早く、しかも安全に抽出することができ、さらに各成分を高選択的、高収率、連続的に相互分離して金属を回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の第1工程の実施形態例について説明する。
第1工程の実施形態例は、金属含有物から金属を超臨界抽出する工程である。
【0009】
(金属含有物)
金属含有物は、固体でも液体でもスラリーでも構わない。また含有する金属種は複数であっても構わない。ここで金属とは、水素を除く周期表1〜7族A、8族、1〜7族Bの内、B(ホウ素)、Si(珪素)、As(砒素)、Te(テルル)、At(アスタチン)以左にある元素のうち、錯体形成し得る元素であり、金属化合物や金属塩、金属錯体などであっても構わない。
金属含有物の具体例として、遷移金属含有物や貴金属含有物などが挙げられるが、遷移金属含有物とは、周期表3〜7族A、8族、1〜2族Bの元素(遷移金属)のうちの少なくとも1種以上を含む物のことであり、貴金属含有物とは、周期表8族の白金族Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)と1族BのAu(金)、Ag(銀)(以上、貴金属)のうちの少なくとも1種以上を含む物のことである。
上記金属含有物は、例えば固体では、金属鉱石あるいは担体に担持された不均一系金属触媒、電子工業用基板、宝飾品、歯科用材料、使用済み核燃料などである。超臨界抽出の前にこれらは粉砕すると抽出しやすい。また液状物やスラリーでは金属触媒製造廃液、金属精錬廃液、メッキ廃液、現像廃液、軽水炉や高速炉における使用済核燃料の再処理工場から発生する硝酸溶解液、放射性プロセス廃液、または金属触媒反応液などである。
自動車排ガス処理用触媒を代表とする不均一系貴金属触媒は粒状またはモノリス(ハニカム状)に分けられるが、粒状触媒はアルミナ等の粒状担体表面に白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属が担持されている。モノリス触媒はコージェライト等のハニカム状担体に、アルミナを主成分とするウォッシュコート層およびここに担持される白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属から成る。これら触媒を含浸法で製造するには、例えばモノリス触媒の場合の1例は、ウォッシュコート層となるアルミナ等をコーティング後、貴金属溶液に担体を含浸、濾別、乾燥、焼成、活性化処理をして得る。
このような不均一系金属触媒からの貴金属回収では、通常は王水等による酸溶解法や青化法を行うが、溶液の取り扱いに大変な注意を要するし、装置材質を耐腐食性にしたり、特殊な安全装置がなければならず、装置コストが高くなるという欠点があり、工業的でなかった。また粉砕した担体とのスラリーはヘドロ状となり、固液分離が容易ではないという問題がある。しかし超臨界抽出法では担体との分離は非常に安全で容易である。
また酸溶解法ではウォッシュコート層やアルミナ担体も溶解して貴金属との分離が困難になる問題があるが、超臨界抽出法ではアルミニウムは抽出されず、問題を回避できる。
さらにこれらの触媒はロジウムを含むことが多いが、ロジウムのみは王水にも溶解しにくいため、酸溶解法では回収困難であるが、超臨界抽出法ではロジウムも抽出できるなど、非常に多くの利点があることを見い出した。
また不均一系金属触媒を製造するに当たっては貴金属溶液である含浸液とウォッシュコート層が混合した廃スラリーや、含浸が不均一となった不良品などが発生し、これらのものからも貴金属を回収したいという要望があるが、焼成前のものなら貴金属は錯体として表面に存在するため酸化剤が無くとも超臨界流体または液体のみ、または超臨界流体または液体と錯化剤のみで抽出可能であることを見い出した。
使用済み自動車排ガス処理用触媒などはカーボンや油分が付着しているため、前処理として洗浄するのが良い。洗浄方法は高温スチームまたは超臨界二酸化炭素、超臨界水、またはそれにエタノールなどの溶剤を混合したもので洗浄すると良い。さらに鉄やニッケルなどの重金属が付着している場合は塩酸、硫酸などの酸で洗浄除去すれば触媒の貴金属のみが残って都合が良い。
さらにジェットミルなどで粉砕することにより抽出しやすくすることができるが、粉砕する粒径は任意である。
さらに第1工程で抽出されたあとの抽出残渣であるセラミック担体は焼物増量剤や建材として再利用することができる。
金属含有物が液状物やスラリーの場合も、金属錯体と有機物のみを抽出することができ、水や固形物との分離が非常に容易であることが分かった。特に均一系金属触媒反応液からの触媒と有機生成物との分離法が無く、これまで蒸留により分離できるもの以外は工業化できなかったが、本方法により容易に分離できることを見い出した。
【0010】
(超臨界流体または液体)
超臨界流体とは、臨界点を超えた状態の流体であり、気体の拡散性と液体の溶解性を併せ持ち、超臨界抽出後、常圧に戻した際の溶解物質の分離が容易であるという利点をもつ。水、二酸化炭素、アンモニア、エタン、プロパン、一酸化二窒素、クロロトリフルオロメタンなどがあるが、二酸化炭素が無害で安価、また腐食性がなく、比較的低温、低圧で使用できるため好ましい。
液体とは、金属含有物中の金属または金属錯体を溶解することができる溶媒で、アルコールやアセトニトリル、アセトン、n−ヘキサン、液体二酸化炭素等の有機溶剤、もしくはそれらの混合液を好適に用いることができるが、液体二酸化炭素が好ましい。
超臨界流体または液体の中では、超臨界二酸化炭素が溶解力、溶解速度、腐食性、コストの点からより好ましい。
【0011】
(錯化剤)
金属含有物から金属を超臨界抽出するには、金属を錯体化する必要がある。錯化剤を混合して錯体化するが、錯化剤としてはトリブチル燐酸(TBP)、トリフェニル燐酸(TPP)、アセチルアセトン(AA)、ジアルキルスルフィド(DAS)、CYANEX272、CYANEX301、CYANEX302、各種クラウンエーテルなどがあるが、TBP、AAが好ましい。
【0012】
(酸化剤)
金属を超臨界抽出する際に、金属酸化物などは錯化剤だけでは錯体化しないため、酸化剤を添加する。酸化剤としては硝酸、過酸化水素、塩素などが挙げられるが、抽出容器にステンレス鋼を使用でき、低コスト化を図れるということからも硝酸が好ましい。
【0013】
(超臨界抽出装置)
図1に超臨界抽出装置の一例を示す。本装置は送液装置P、恒温槽O、抽出容器E、背圧装置V、捕集装置Sからなる。ボンベから導入された液状の抽出溶剤Gは冷却管Cにより冷却されたあと、送液装置Pにより圧送され、途中錯化剤や酸化剤Mが混合されて恒温槽Oに設置された抽出容器Eに送液される。ここで錯化剤や酸化剤Mは予めEに充填しておいても良い。またOへ導入される前に予熱管Hがあればなお良いが、HまたはOで抽出溶剤は超臨界流体となり、Eへ導入される。Eへの導入方法は下降流でも上昇流でも構わないし、または側面からEのヘッドスペースへ導入して抜き出しても良い。Eには金属含有物が投入されているが、固体状、粉末状、液状、スラリー状のいずれでも構わない。Eには偏流防止装置や攪拌装置が設置されていればなお良い。金属含有物のうち錯体となった金属や有機物は超臨界流体に溶解する。抽出済みの超臨界流体は背圧装置Vで圧力が常圧にされ、抽出溶剤Gはガス状となり、金属錯体は固体、有機物は液体または固体となって捕集装置Sに捕集される。抽出溶剤Gはリサイクル使用するのが好ましい。またVの前には抽出を監視する紫外線(UV)分光光度計Dがあっても良い。
Eの抽出時間は任意であるが回分操作では0.01〜10時間、連続操作では抽出溶剤の平均滞留時間が0.01〜2時間とするのが好ましい。Eは複数槽設けて並列抽出操作を行っても良い。その際、全槽を同操作にした回分操作や、抽出操作と抜き出し操作、再充填操作の例えば3グループに分けて全体として連続抽出操作となるようにしても良い。またEでは抽出操作後、常圧となったE内を減圧したあと再抽出すると抽出率を上げることができる。
Vのあとは金属錯体や有機物は粉末として得られるが、これを溶解して第2工程で分離精製する。溶解する溶媒は後述する溶離液として挙げられるものが良い。またVやSを設けず、超臨界流体に溶解したまま超臨界流体を溶離液とした第2工程へ接続すれば連続運転できるのでより好ましい。
【0014】
本発明の第2工程の実施形態例について説明する。
第2工程の実施形態例は、金属含有物から各成分を擬似移動床式分離手段により相互分離する工程である。
(金属の分離回収装置)
金属の分離回収装置は、擬似移動床式分離手段を有するものである。
擬似移動床式分離手段とは、充填剤が充填された複数のカラムが直列無端状に接続され、各カラムに液を導入できつつ各カラムから液を排出できるもののことである。
図2に、擬似移動床式分離手段の一例を示す。この擬似移動床式分離手段1は、充填剤が充填され、直列無端状に接続された8個のカラム(充填床)11a〜11hと、金属含有溶液を移送する金属含有溶液移送管21と、溶離液を移送する溶離液移送管22と、各カラムから排出したエクストラクトを移送するエクストラクト移送管23と、各カラムから排出したラフィネートを移送するラフィネート移送管24と、カラム11aとカラム11hとを接続し、カラム11hから排出された液をカラム11aに導くリサイクル管25と、隣接するカラム同士を接続する接続管40a〜40gと、リサイクル管25に設けられたポンプ50とを具備して構成される。なお、カラム11a〜11hとリサイクル管25と接続管40a〜40gとから形成される流路のことを循環流路70という。
ここで、溶離液とは、ポンプ50により循環流路70を移動して、循環流路70内に導入した金属含有溶液を流動させる移動相のことであり、エクストラクトとは、充填剤に吸着しやすい成分を含有する溶液のことであり、ラフィネートとは、充填剤に吸着しにくい成分を含有する溶液のことである。
【0015】
また、金属含有溶液移送管21とカラム11a〜11hとは、それぞれ金属含有溶液導入管31a〜31hで接続され、溶離液移送管22とカラム11a〜11hとは、それぞれ溶離液導入管32a〜32hで接続され、エクストラクト移送管23とカラム11a〜11hとは、それぞれエクストラクト排出管33a〜33hで接続され、ラフィネート移送管24とカラム11a〜11hとは、それぞれラフィネート排出管34a〜34hで接続されている。さらに、金属含有溶液導入管31a〜31h、溶離液導入管32a〜32h、エクストラクト排出管33a〜33h、ラフィネート排出管34a〜34hのそれぞれには、シークエンス制御等によって適宜開閉するように設定された電磁弁35a〜35h(金属含有溶液導入用電磁弁),36a〜36h(溶離液導入用電磁弁),37a〜37h(エクストラクト排出用電磁弁),38a〜38h(ラフィネート排出用電磁弁)が設けられている。リサイクル管25には、その内部を流れる溶液の紫外線(UV)吸収などを測定する測定器60が設置されていると良い。
【0016】
[カラム]
各カラム11a〜11hの内部に充填される充填剤は、金属溶液の通液により、金属錯体が充填剤に分配しうるものであれば良い。例えば無機充填剤の場合は、シリカ、アルミナ、マグネシア、酸化チタン、ケイ酸塩、珪藻土、アルミノシリケート、層状化合物、ゼオライト、活性炭、グラファイト等が使用可能である。また種々のカップリング剤、例えばオクタデシルシラン(ODS)等のシランカップリング剤により表面を修飾したものでも良いが、市販のODS充填剤が好ましい。
有機充填剤の場合は、機能性モノマーの重合体を架橋性モノマーで架橋したものであり、機能性モノマーとしては、不飽和カルボン酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド誘導体、スチレン誘導体、ビニルエステル、アリルアルコール誘導体、その他ビニル化合物、キトサン誘導体等、イオン交換能、キレート能、水素結合能、疎水結合能のある官能基を導入したものが挙げられる。ポリサッカライドやポリアクリルアミド等の親水性ゲルのサイズ排除能を利用してもよい。また架橋性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジメチルアクリレート、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等の脂肪族または芳香族ビニルモノマー等が挙げられる。また、機能性モノマーがキトサン誘導体の場合には、エピクロロヒドリン等で架橋したもの、これにさらに官能基を導入したものを使用できる。
【0017】
市販のイオン交換樹脂、キレート樹脂としては、ダイヤイオンWA20、ダイヤイオンSA10A、ダイヤイオンCR20(三菱化学株式会社製)、スミキレートCR−2(住友化学工業株式会社製)、アンバーライトIRA400、アンバーライトXAD4、アンバーリストA26(米国ローム&ハース社製)、ダウエックス マラソンA、ダウエックス マラソンC(米国ダウ・ケミカル社製)、キレートキトパールCS−03(富士紡績株式会社製)等が挙げられる。
【0018】
充填剤の形状としては粒状、モノリス状が挙げられるが、粒状が好ましく、さらに粒状のうち球状が好ましい。その場合、粒径は1〜2000μmであることが好ましく、より分離度を上げるためには5〜100μmであることがより好ましい。
充填剤がイオン交換樹脂の場合の交換容量はクロマト充填剤としての用途上、大きい必要はなく、むしろ小さい方が良く、好ましくは0.001〜10meq./gであり、より好ましくは0.01〜1meq./gである。また陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を混合、またはそれぞれのカラムを連結して同時に使用すれば、陽イオン、陰イオンともに相互分離することができる。
【0019】
[溶離液]
溶離液としては、第1工程で抽出された錯体・有機物を溶解し、かつ充填剤に吸着したものを溶離できる流体であって、充填剤を溶解または膨潤させて圧損を大きくさせる流体でなければ特に制限はなく、超臨界流体でも構わない。例えば、水や王水、塩酸、硝酸、硫酸等の酸性水溶液、アンモニア水等の各種アルカリ水溶液、塩化カリウム、シアン化ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム等の各種塩水溶液、アルコールやアセトニトリル、アセトン、n−ヘキサン等の有機溶剤、もしくはそれらの混合液を好適に用いることができる。ハロゲン系溶離液はハロゲノ錯体の分離などに使用できるが、装置腐食の問題が生じるので好ましくない。超臨界流体には臨界点を超えた水、二酸化炭素、アンモニア、エタン、プロパン、一酸化二窒素、クロロトリフルオロメタンなどがあるが、二酸化炭素が無害で安価、また比較的低温、低圧で使用できるため好ましい。溶離液に錯化剤を添加して配位子交換させても良い。
【0020】
溶離液が液体の場合の温度、圧力は充填剤の使用可能範囲、温度0〜100℃、より好ましくは20〜60℃、圧力は常圧〜300気圧より好ましくは50〜200気圧である。溶離液中には、クエン酸等の錯形成剤や還元剤を添加してもよい。溶離液が超臨界流体の場合は、臨界点以上であればよく、二酸化炭素の場合は温度31〜300℃、より好ましくは40〜100℃、圧力73〜400気圧、より好ましくは75〜300気圧である。また溶離液の流動方向は、任意である。
【0021】
(金属の分離回収方法)
次に、上述した擬似移動床式分離手段を用いて、2種類の金属を含む複数金属含有溶液から金属を分離回収する方法の一例について説明する。
まず、ポンプ50を作動させて循環流路70内に溶離液を流動させる。このように循環している流体の流れ方向に沿って、(1)溶離液導入口、(2)充填剤に吸着しやすい金属を含有する液(エクストラクト)を抜き出すエクストラクト抜き出し口、(3)複数金属含有溶液導入口および(4)充填剤に吸着しにくい金属を含有する液(ラフィネート)を抜き出すラフィネート抜き出し口をこの順に配置するよう電磁弁を開閉する。また電磁弁は、これらの各導入口ないし抜き出し口が、カラム11a〜11h内の流体の流通方向にそれらの位置を間欠的に逐次移動するように開閉する。例えば、電磁弁36a,37a,35b,38bを開放し、複数金属含有溶液移送管21から複数金属含有溶液導入管31bを介して、カラム11bに複数金属含有溶液を導入する。導入した複数金属含有溶液はカラム11bに導入され、カラム11b内を流動する。その際、11b内の充填剤への吸着性が2種類の金属で異なるため、吸着しにくい金属を含む溶液(ラフィネート)はカラム11b内を速く流動し、吸着しやすい金属を含む液(エクストラクト)は遅く流動する。このような吸着性の違いを利用して、ラフィネートとエクストラクトに分離することができる。
【0022】
次に電磁弁36a,37a,35b,38bを閉止し、接続管40bにおける電磁弁35c出口付近を、ラフィネートのピークが通過してからエクストラクトのピークが到達するまで、電磁弁36b,37b,35c,38cを開放する。そして、ラフィネートをカラム11cからエクストラクトより先に排出し、その後、ラフィネート排出管34cを介してラフィネート移送管24に抜き出す。それと同時に、カラム11bに溶離液を通し、エクストラクトを排出管33bを介してエクストラクト移送管23に抜き出す。このような一連の工程により、2種類の金属を分離回収することができる。
【0023】
この金属の分離回収方法では、上述した工程が終了した後、金属の分離回収を行うカラムを順番に変える。すなわち、カラム11bで金属を分離回収した後、カラム11c、カラム11d、・・・、カラム11hの順で金属を分離回収する。なお、カラム11a〜11hは直列無端状に接続されているので、カラム11hで金属を分離回収した後は、カラム11aで金属を分離回収することになる。なお、ラフィネートおよびエクストラクトの排出状況はUV吸収の測定などにより確認できるので、その結果に基づいてカラムを変えるタイミングを決定することができる。
【0024】
上述のようにしてエクストラクトとラフィネートとを分離回収した後には、それらのそれぞれから金属を回収する。エクストラクト、ラフィネートから金属を回収する方法としては、例えば、電解槽での電析法、還元剤を添加して金属ブラックとして沈殿させる方法、燃焼法、これらを組み合わせた方法などを適用できる。これらのうち、還元剤を添加して沈殿させる方法では、還元剤として、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、水素化ホウ素ナトリウム、カリウム等の金属、水素などを使用できる。また燃焼法では、300℃以上、好ましくは350〜700℃で焼成し、水素気流中で行ってもよい。
金属触媒反応液から金属触媒と有機生成物を回収した場合は、有機生成物は蒸留により精製すれば良い。
【0025】
以上説明した第2工程の実施形態例では、擬似移動床式分離手段を用いて、複数金属含有溶液から複数の金属を分離するので、選択性、収率が高い。その結果、精製の処理を省くことができる。また、擬似移動床式分離手段では、連続的に金属を分離回収するので効率的である上に、金属含有溶液としてハロゲン溶液を使用しなくてもよいから耐食性装置等の制限がなく、コストを低くできる。
【0026】
なお、本発明は、上述した例に限定されない。上述した例では、擬似移動床式分離手段のカラムが8個であったがこれに限定されず、好ましくは4個以上で適宜選択する。擬似移動床としては、例えば、2成分分離を行う米国特許第2985589号明細書、特公昭42−15681号公報、特許第890042号公報、特開2002−82106号公報、多成分分離を行う特許第2740780号公報、特許第2965747号公報、特許第1954744号公報、特許第2002942号公報、カラム数を4個とする特許第2008230号公報、超臨界流体を溶離液とする特許第2964348号公報、特表平07-500771号公報、その他米国特許第5422007号明細書、米国特許第6712973号明細書に記載されたものなどを使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態における超臨界抽出装置の概要図である。
【図2】本実施形態における疑似移動床式分離手段の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0028】
1…疑似移動床式分離手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有物に超臨界流体または液体を接触させて抽出する第1工程、該金属含有抽出物を擬似移動床式分離手段により相互分離する第2工程を含むことを特徴とする金属の分離回収方法。
【請求項2】
第1工程で超臨界流体または液体に加えて錯化剤を接触させることを特徴とする請求項1に記載の金属の分離回収方法。
【請求項3】
第1工程で超臨界流体または液体と錯化剤に加えて酸化剤を接触させることを特徴とする請求項2に記載の金属の分離回収方法。
【請求項4】
第2工程の擬似移動床式分離手段で使用する溶離液が超臨界流体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属の分離回収方法。
【請求項5】
第1工程と第2工程が接続されて連続運転できることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属の分離回収方法。
【請求項6】
金属含有物が金属触媒含有物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属の分離回収方法。
【請求項7】
金属触媒含有物が不均一系固体触媒であり、焼成前のものや不良品を含むことを特徴とする請求項6に記載の金属の分離回収方法。
【請求項8】
前処理工程として金属含有物を洗浄および/または粉砕することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の金属の分離回収方法。
【請求項9】
超臨界流体または液体が二酸化炭素であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の金属の分離回収方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法により金属を分離回収する装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−183106(P2006−183106A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379416(P2004−379416)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(000176741)三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社 (90)
【Fターム(参考)】