説明

金属の溶融のための誘導炉、誘導炉用ライニング及びそのようなライニングの製造方法

【課題】金属の溶融のための誘導炉、誘導炉用ライニング及びそのようなライニングの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、固体状態で誘導的に結合しない金属の溶融のための誘導炉に関する。誘導炉は、グラファイトとシリコンカーバイドとの混合物を含有し、且つ溶融される金属が固体状態にあるときは該金属の導電率よりも高い導電率を有するが、溶融される金属が溶融状態にあるときは該金属の導電率よりも低い導電率を有するライニングを有する。本発明はさらに、誘導炉用のライニングに関し、及びそのようなライニングの製造方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、特にシリコンの溶融のための誘導炉に、そしてさらに特に、そのような炉用のライニングに関する。
【背景技術】
【0002】
誘導炉内で金属を溶融することにより、大部分の金属は固体状態で誘導発熱する(connect inductively)ような高い導電率を有している。誘導炉内でのそのような金属の溶融については、誘導炉内のライニングの電気的特性は重要ではなく、そのためライニングは電気絶縁材から作られ得る。しかしながら、シリコン及びゲルマニウムのような、固体状態で低い導電率を有する金属は、固体状態で誘導発熱しない。溶融プロセスを開始するためには、固形シリコンの溶融プロセスの開始時に炉に挿入されるサスセプタが使用されなければならないか、或いは、ライニングはグラファイトのような誘導発熱する導電材から作られていなければならない。ライニングとしてグラファイトを使用する場合には、グラファイトライニングが誘導加熱され、そして、そこで金属がグラファイトライニングからの熱放射により加熱されるので、溶融が間接的に生じる。グラファイトはまた、溶融シリコンよりも高い導電率を有しているため、シリコンの一部が溶融状態にあるときの全溶融段階中における熱移動もまた、グラファイトライニングの誘導加熱に基づいている。このことは、全溶融段階中のグラファイトライニングが誘導炉の最も熱い部分となるために、不利である。このことは、高い熱損失を引き起こすグラファイトライニングの非常に全体的な冷却を必要とする。さらに、グラファイトライニング、ライニングのための誘導コイル及び冷却システムが高い熱ストレスを受ける。
【発明の概要】
【0003】
本発明により、固体金属の溶融の開始においてライニングが誘導加熱される一方で、該金属の少なくとも一部が溶融したときの主要な加熱部分は溶融した金属を誘導発熱(inductive connection)させるが、ライニングを誘導発熱させない、低導電率を有する金属、特にシリコン用の誘導炉が提供される。ライニングの導電率が誘導炉内で溶融されるべき金属に従い調節されるような仕方でライニングの導電率がその製造中に適合される、誘導炉用のライニングがさらに提供される。
【0004】
本発明の記載
このように本発明は、固体状態で誘導発熱しない金属の溶融用の誘導炉であって、前記誘導炉は、グラファイトとシリコンカーバイドとの混合物を含有し、且つ、溶融される金属が固体状態にあるときは該金属の導電率よりも高い導電率を有するが、溶融される金属が溶融状態にあるときは該金属の導電率よりも低い導電率を有するライニングを有している、誘導炉に関する。
【0005】
ライニングは、好ましくは80ないし20質量%のグラファイト及び20ないし80質量%のシリコンカーバイドを含有し、より好ましくは、ライニングは、70ないし30質量%のグラファイト及び30ないし70質量%のシリコンカーバイドを含有する。
【0006】
シリコンカーバイド含量の増加とともにライニングの導電率が低下するため、ライニングの導電率は、ライニング中のシリコンカーバイド含量を調整することによって、溶融される金属用の導電率に係る導電率に適合され得る。
【0007】
本発明はさらに、固体状態で誘導発熱しない金属の溶融のための誘導炉用ライニングにも関し、該ライニングは、溶融される金属が固体状態にあるときは該金属よりも高い導電率を有するが、溶融される金属が溶融状態にあるときは該金属の導電率よりも低い導電率を有する。
【0008】
ライニングは、好ましくは、80ないし20質量%のグラファイト及び20ないし80質量%のシリコンカーバイドを含有し、より好ましくは、ライニングは、30ないし70質量%のグラファイト及び70ないし30質量%のシリコンカーバイドを含有する。
【0009】
ライニングは、非常に容易に交換し得る自立型ルツボの形態であり得る。
【0010】
シリコンのように固体状態で誘導発熱しない低い導電率を有する金属の溶融用に本発明の誘導炉を用いた場合、溶融サイクルの開始において、炉が固体金属で満たされているときのその開始における誘導炉内のライニングは誘導発熱しており、そしてそのために加熱される。炉内の固体金属はそのため、ライニングからの放射により加熱される。金属の一部が溶融すると、固体金属よりもずっと高い導電率を有する溶融金属は誘導発熱し、そして熱エネルギーが溶融金属に対して直接に供給される。このように、ライニングは、各々の溶融サイクルの開始において非常に高温を受けるのみである。熱エネルギーが炉内の溶融金属に直接に移動されるために、より良好なエネルギー利用が達成され、なお且つ、結果としてライニング上の熱ストレスが実質的に低減される。このため、ライニング及び炉の他の部分の冷却のための必要性がまた低下する。このことは、ライニングの耐用年数を実質的に向上させる結果となる。
【0011】
本発明に従うライニングはさらに、非常に清浄な材料から作られ得るという利点をも有している。
【0012】
本発明はさらに、ライニングの導電率が炉内で溶融される金属に適合するように調節され得る、誘導炉用のライニングの製造方法であって、前記方法は、グラファイト粒子、シリコンカーバイド粒子及びカーボンをベースとしたバインダーの混合物をライニングへと形成し、その後形成したライニングを1100℃よりも高い温度で硬化及び焼結し、ここで、前記ライニングの導電率はグラファイト粒子とシリコンカーバイド粒子との比率を調節することによって調節されることを特徴とする、ライニング製造方法に関する。
【0013】
好ましくは、混合物は、20ないし80質量%のグラファイト粒子、及び80ないし20質量%のシリコンカーバイド粒子、及び前記グラファイト粒子とシリコンカーバイド粒子との混合物の質量に基づき10ないし25%の量でカーボンをベースとしたバインダーを含有する。
【0014】
より好ましくは、混合物は、30ないし70質量%のグラファイト粒子、及び70ないし30質量%のシリコンカーバイド粒子、及び前記グラファイト粒子とシリコンカーバイド粒子との混合物の質量に基づき11ないし18%の量でカーボンをベースとしたバインダーを含有する。
【0015】
カーボンをベースとしたバインダーは、天然樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂のような合成樹脂、フルフリルアルコール、又は石油コークスピッチ又はタールピッチのようなタールをベースとしたバインダーの中から選択される。
【0016】
合成又は天然樹脂がバインダーとして用いられる場合、ヘキサミン及び有機酸又は無機酸の中から選択された硬化剤が、好ましくはバインダーに添加される。
【0017】
カーボンをベースとしたバインダーがグラファイト粒子とシリコンカーバイド粒子との混合物に添加されると、低温において良好な強度を与える。加熱及び焼結の間にバインダーは炭化されて、固体カーボンを形成する。さらには、カーボンをベースとしたバインダーは、ライニングへの溶融金属の浸透を防止するより高密度のライニングを生ずる。
【0018】
グラファイト粒子、シリコンカーバイド粒子、及びバインダーの混合物に対し、バインダーの炭化中に形成するカーボンが反応してSiCとなるのに十分な量のシリコン粒子を添加することがさらに好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図面の簡単な説明
【図1】図1は、本発明に従う誘導炉の垂直断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な記載
図1においては、耐熱材3中に埋め込まれた誘導コイル2を外側に有する絶縁ライニング1を有する、本発明に従う誘導炉の一態様が示される。絶縁ライニング1は、カーボンと反応しない絶縁材、例えばAlから構成され得る。絶縁ライニング1の内側においては、グラファイト、シリコンカーバイド、カーボンをベースとしたバインダー及び所望によりシリコン粒子の混合物を含有する本発明に従うライニング4が配置される。ライニング4を充填する場合には内部スチール構造部5が用いられる。ライニングは150ないし600℃の温度で硬化され、1100℃より高い温度で焼結される。硬化温度は、用いられるカーボンをベースとしたバインダーの種類に依存する。
【0021】
シリコンカーバイド量は、ライニングに要求される導電率を得るように調節される。通常、シリコンカーバイド量は、焼結したライニング4の導電率が、誘導炉内で溶融される金属が固体状態にあるときは該金属の導電率よりも高いが、溶融される金属が溶融状態にあるときは該金属の導電率よりも低くなるように、調節される。焼結したライニング4中のシリコンカーバイド量は、20ないし80質量%であり、より好ましくは30ないし70質量%である。
【0022】
溶融サイクルの開始前に、誘導炉は固体金属で充填される。コイル2に対して電気エネルギーを供給すると、ライニング4が誘導発熱する一方で、溶融される金属は誘導発熱していない。溶融サイクルのこの第一段階において、ライニング4はそれ故、誘導加熱され、そして該ライニングからの熱放射によって熱が固体金属へと移動する。金属が溶融し始めると、溶融した金属の導電率がライニング4の導電率よりも高くなる。溶融金属はそのため誘導発熱し、供給されたエネルギーの一部がそれによって溶融金属へと直接に移動される。さらなる量の金属が溶融すると、供給される電気エネルギーのさらに大部分が溶融金属へと直接に移動される。溶融プロセスの残りの段階の間のライニング4の熱ストレスは、こうして実質的に低減される。
【0023】
溶融が終了すると、溶融金属は炉から注ぎ出されるが、溶融金属の貯留の例えば25%が誘導炉内に残存するように、注がれる。こうして、次の溶融サイクルの開始において、この溶融金属の貯留が誘導発熱する。
【0024】
実施例
ライニングの製造
3000Hzの周波数で操作する75kW誘導炉用のライニングを、下記のとおり製造した。埋め込まれたコイル2を有する耐熱層3の内側に(図1)、絶縁耐熱層1を鋳造した。絶縁耐熱層1は、96質量%のAl、及びその他は、SiO、CaO及びFeOのような不純物から構成されていた。絶縁耐熱層1の厚さは25mmであった。絶縁耐熱層1の内側には、40質量%のグラファイト粉末、49質量%のシリコンカーバイド及び11質量%のシリコン粒子の粉末混合物から構成されるライニング4を充填した。この混合物に対し、前記グラファイト粒子、シリコンカーバイド粒子及びシリコン粒子の混合物の質量に基づき14.3%のフェノール−ホルムアルデヒド樹脂バインダーを添加した。バインダーに対して、硬化剤としてヘキサミンを添加した。その後、グラファイトシリンダの形態にあるサスセプタを熱電対とともに炉の中心に置くことによって、ライニングを硬化及び焼結させた。ライニング4の硬化及び焼結は、1時間当り最高100℃の加熱速度で1500℃の温度まで行った。
【0025】
ライニング4は、択一的に、内側と外側の金型部分の間にライニング4を充填することによって、誘導炉の外側に別個に製造され得る。充填後、ライニングが硬化した後に内側の金型部分を除去する。外側の金型部分はその後除去され、そして硬化したライニングは、1100℃を超える温度にて焼結される際に適した炉又は加熱反応器に置かれる。
【0026】
ライニングについて、1000℃での誘導性の試験を行った。誘導コイル2への電気エネルギーの供給の開始において、炉は一度、75kWの最大電力を消費した。その後、固体シリコンを炉に供給し、そして溶融した。溶融及び炉からのシリコンの注ぎ出しの後、ライニングを200℃まで冷却させ、そして再度、75kWの最大電力での誘導性の試験を行った。ライニングはその後、65kWを消費した。ライニングにより消費された電力は従って、15%低下した。このことは、ライニングの硬化及び焼結の間にライニングの導電率が向上したためにライニングが誘導発熱したことを示している。
【0027】
シリコンの溶融
多量のシリコンを炉内に充填し、そして1550℃に加熱した。供給電力が45kWに到達したときに溶融を開始した。総量15kgのシリコンを55分間で溶融した。供給されたエネルギーの大部分が溶融シリコンに直接に移動したことを示す、溶融浴の良好な移動が観察された。
【符号の説明】
【0028】
1 絶縁耐熱層 2 誘導コイル 3 耐熱層 4 ライニング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状態で誘導発熱しない金属の溶融のための誘導炉であって、前記誘導炉は、グラファイトとシリコンカーバイドとの混合物を含有するとともに、溶融される金属が固体状態にあるときは該金属の導電率よりも高い導電率を有するが、溶融される金属が溶融状態にあるときは該金属の導電率よりも低い導電率を有するライニングを有していることを特徴とする、誘導炉。
【請求項2】
前記ライニングは、80ないし20質量%のグラファイト及び20ないし80質量%のシリコンカーバイドを含有することを特徴とする、請求項1に記載の誘導炉。
【請求項3】
前記ライニングは、70ないし30質量%のグラファイト及び30ないし70質量%のシリコンカーバイドを含有することを特徴とする、請求項2に記載の誘導炉。
【請求項4】
固体状態で誘導発熱しない金属の溶融のための誘導炉用のライニングであって、前記ライニングは、グラファイトとシリコンカーバイドとの混合物を含有するとともに、前記ライニングは、溶融される金属が固体状態にあるときは該金属よりも高い導電率を有するが、溶融される金属が溶融状態にあるときは該金属よりも低い導電率を有していることを特徴とする、ライニング。
【請求項5】
前記ライニングは、好ましくは、80ないし20質量%のグラファイト及び20ないし80質量%のシリコンカーバイドを含有することを特徴とする、請求項4に記載のライニング。
【請求項6】
前記ライニングは、30ないし70質量%のグラファイト及び70ないし30質量%のシリコンカーバイドを含有することを特徴とする、請求項5に記載のライニング。
【請求項7】
ライニングが、溶融される金属が固体状態にあるときは該金属よりも高い導電率を有するが、溶融される金属が固体状態にあるときは該金属よりも低い導電率を有するように、該ライニングの導電率を炉内で溶融される金属の導電率に対して調節し得る、誘導炉用のライニングの製造方法であって、グラファイト粒子、シリコンカーバイド粒子及びカーボンをベースとしたバインダーの混合物をライニングに形成し、その後形成したライニングを1100℃より高い温度で硬化及び焼結することを特徴とする、ライニングの製造方法。
【請求項8】
前記ライニングの導電率は、グラファイト粒子とシリコンカーバイド粒子の比率を調整することによって調節されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記混合物は、20ないし80質量%のグラファイト粒子、及び80ないし20質量%のシリコンカーバイド粒子、及びグラファイト粒子とシリコンカーバイド粒子との混合物の質量に基づき10ないし25%の量でカーボンをベースとしたバインダーを含有することを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記混合物は、30ないし70質量%のグラファイト粒子、及び70ないし30質量%のシリコンカーバイド粒子、及びグラファイト粒子とシリコンカーバイド粒子との混合物の質量に基づき11ないし18%の量でカーボンをベースとしたバインダーを含有することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記カーボンをベースとしたバインダーは、天然樹脂、合成樹脂及びタールをベースとしたバインダーの中から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記カーボンをベースとしたバインダーは、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂及びフルフリルアルコールの中から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
硬化剤が添加されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記硬化剤は、ヘキサミン及び無機酸の中から選択されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記バインダーは、石油コークスピッチ又はタールピッチであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
グラファイト粒子、シリコンカーバイド粒子、及びカーボンをベースとしたバインダーの混合物に対し、前記バインダーの炭化の間に形成するカーボンが反応してSiCとなるのに十分な量のシリコン粒子を添加することを特徴とする、請求項9ないし14のうちいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−505365(P2012−505365A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530975(P2011−530975)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【国際出願番号】PCT/NO2009/000364
【国際公開番号】WO2010/050819
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(511065369)
【Fターム(参考)】