金属ナノ粒子ペースト及び当該金属ナノ粒子ペーストの製造方法
【課題】インクジェット印刷法等を用いて基板上に配線パターンを形成した場合であっても、配線パターンの乱れや断線の発生を防止することができ、低インピーダンスでかつ微細な配線パターンを形成することができる金属ナノ粒子ペースト及び当該金属ナノ粒子ペーストの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の金属ナノ粒子ペーストは、平均粒径が概ね1〜100nmである金属ナノ粒子を導電性媒体とするとともに、基板との濡れ性を調整するためのフッ素原子等や、金属ナノ粒子のマトリックスとなるケイ素のアルコキシドを必須成分として含有し、インクジェット印刷法で回路パターンを形成した場合には、金属ナノ粒子同士を低温で融着・焼結させ、印刷されたパターンの線幅を均一にして、配線パターンの乱れや断線の発生を防止することができる金属ナノ粒子ペーストとなる。
【解決手段】本発明の金属ナノ粒子ペーストは、平均粒径が概ね1〜100nmである金属ナノ粒子を導電性媒体とするとともに、基板との濡れ性を調整するためのフッ素原子等や、金属ナノ粒子のマトリックスとなるケイ素のアルコキシドを必須成分として含有し、インクジェット印刷法で回路パターンを形成した場合には、金属ナノ粒子同士を低温で融着・焼結させ、印刷されたパターンの線幅を均一にして、配線パターンの乱れや断線の発生を防止することができる金属ナノ粒子ペーストとなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子ペースト及び当該金属ナノ粒子ペーストの製造方法に関する。さらに詳しくは、インクジェット印刷法等を用いて、ガラス基板、セラミック基板等の耐熱性基板上に、低インピーダンスでかつ微細な配線パターンの形成に適する金属ナノ粒子ペースト及び当該金属ナノ粒子ペーストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイの大型化に伴い、液晶パネルの配線パターンをインクジェット印刷法で調製しようという研究が盛んになっている。従来適用されていたリソグラフィー法では、工程が多数あることやディスプレイの大型化により設備面積が大きくなるという問題がある。また、メタルスクリーンマスクを型として印刷するスクリーン印刷法では、情報末端の急速な小型化に伴い、配線の微細化や隣り合う配線の幅にも限界がある。
【0003】
そこで、導電性ペーストインクを直接基板上に噴射し、目的とする配線パターンを描画することができるインクジェット印刷法が注目されている。この方法では、従来適用されていた方法と比べ、直接形成するためマスキングが必要ない、大きいサイズの基板にも容易に応用できる、工程時間を短くすることができる、パソコンレベルでパターンを描画させることができるので機械の小型化が可能である、といった利点がある。
【0004】
一方、インクジェット印刷法には、機器システム(プリンタ)の他に導電性インク(導電性ペースト)が必要である。また、液晶パネル製造工程では、低温(250℃以下)で焼結可能な導電性の高いインクジェット用導電性ペーストが望まれており、当該導電性ペーストの研究において、溶融金属、導電性高分子と金属ナノ粒子を含む研究がなされている。金属ナノ粒子は、均一性及び分散性に優れていることや、金属の粒子サイズがナノレベルまで小さくなると、金属本来の融点よりも格段に低い温度で焼結するという低温焼結性(例えば、銀の融点は960℃であるが、ナノ粒子にすることで200℃まで低温化可能)を備えるため、これを利用して導電性ペーストの合成に使われている。かかる現象は、金属の微粒子においては、その粒子径を十分に小さくすると、全体に対する粒子表面に存在するエネルギー状態の高い原子の割合が大きくなり、金属原子の表面拡散が無視し得ないほど大きくなるために、粒子相互の界面の延伸がなされ焼結が行われるためであり、かかる金属微粒子を使用することによって、低温焼付条件でも十分に導電性を有する金属ナノ粒子ペーストを得られることが期待される。よって、このような金属ナノ粒子を含んだ導電性ペーストの検討が各方面でなされている(例えば、特許文献1〜特許文献6を参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−324966号公報([請求項1]、[実施例1])
【特許文献2】特開2004−247572号公報([実施例1])
【特許文献3】特開2004−273205号公報([請求項1]、[実施例2])
【特許文献4】特開2005−26081号公報([請求項1]、[実施例1])
【特許文献5】特表2005−537386号公報([請求項38]、[0027]、[0051]、[0102]、[0318]〜[0333])
【特許文献6】特開2006−253262号公報([請求項3]、[請求項4])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術で得られた、金属ナノ粒子を含む導電性ペーストを用いて大面積の基板に対してインクジェット印刷法で印刷を実施した場合にあっては、配線パターンの乱れや断線が生じる場合があり、改善が求められていた。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、金属ナノ粒子を含む導電性ペーストであって、インクジェット印刷法等を用いて基板上に配線パターンを形成した場合であっても、配線パターンの乱れや断線の発生を防止することができ、低インピーダンスでかつ微細な配線パターンを形成することができる金属ナノ粒子ペースト及び当該金属ナノ粒子ペーストの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る金属ナノ粒子ペーストは、下記(a)〜(c)の成分を含むことを特徴とする。
(a)金属ナノ粒子
(b)フッ素原子及び/またはフッ素化合物
(c)ケイ素のアルコキシド
【0009】
本発明の請求項2に係る金属ナノ粒子ペーストは、前記した請求項1において、前記金属ナノ粒子の含有量が、金属ナノ粒子ペースト全体に対して2.0〜30.0質量%であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る金属ナノ粒子ペーストは、前記した請求項1または請求項2において、前記金属ナノ粒子が銀ナノ粒子であることを特徴とする。
を特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、対象となる金属ナノ粒子を含む金属塩を、水溶性高分子からなる保護剤の存在下に含アルコール溶媒中で加熱還流し、保護金属ナノ粒子を得る第1工程と、前記第1工程で得られた保護金属ナノ粒子と、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物及びケイ素のアルコキシドをゾル・ゲル法によりペースト化させる第2工程を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、前記した請求項4において、前記第1工程における金属塩と保護剤のモル量の比(保護剤のモル量/金属塩のモル量=R)が、R=0.5〜5.0であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、前記した請求項4または請求項5において、前記保護剤の分子量(重量平均分子量:MW)が20000〜400000であることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項7に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、前記した請求項4ないし請求項6のいずれかにおいて、前記保護剤がポリビニルピロリドン(PVP)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に係る金属ナノ粒子ペーストは、平均粒径が概ね1〜100nmである金属ナノ粒子を導電性媒体とするとともに、基板との濡れ性を調整するためのフッ素原子等や、金属ナノ粒子のマトリックスとなるケイ素のアルコキシドを必須成分として含有するので、インクジェット印刷法で回路パターンを形成した場合には、金属ナノ粒子同士を低温で融着・焼結させることができるとともに、印刷されたパターンの線幅を均一にして、配線パターンの乱れや断線の発生を防止することができ、低インピーダンスでかつ微細な配線パターンの形成を実現可能な金属ナノ粒子ペースト(いわゆる導電性インク)となる。
【0016】
本発明の請求項2に係る金属ナノ粒子ペーストは、当該ペーストを構成する金属ナノ粒子の含有量が、金属ナノ粒子ペースト全体に対して特定範囲としているので、粘度も適度となり、加熱焼成後も連続した配線を問題なく形成することができる金属ナノ粒子ペーストを提供可能とする。
【0017】
本発明の請求項3に係る金属ナノ粒子ペーストは、当該ペーストを構成する金属ナノ粒子を銀ナノ粒子としているので、良好な導電性を備えた金属ナノ粒子ペーストを提供する。
【0018】
本発明の請求項4に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、対象となる金属ナノ粒子を含む金属塩を、水溶性高分子からなる保護剤の存在下にアルコール還元法を用いて、保護金属ナノ粒子を得る第1工程と、当該保護金属ナノ粒子と、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物及びケイ素のアルコキシドをゾル・ゲル法によりペースト化させる第2工程を採用する。第1工程において、アルコール還元法を用いて水溶性高分子からなる保護剤により金属ナノ粒子の表面を被覆保護することにより、金属ナノ粒子を容易に分散できるようにするとともに、当該保護金属ナノ粒子を、ゾル・ゲル法を用いて、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物及びケイ素のアルコキシドとペースト化することにより、ペースト中にフッ素原子等及びケイ素のアルコキシドを存在させた金属ナノ粒子ペーストを簡便に調製することが可能となる。
【0019】
本発明の請求項5に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、第1工程における金属塩と保護剤のモル量の比Rを特定範囲としているので、保護剤と金属塩の量が適度であり、金属ナノ粒子を保護剤で確実に保護することができ、保護金属ナノ粒子の分散性等も良好となる。また、得られる保護金属ナノ粒子の平均粒径を小さく、かつ、粒度分布も狭くすることができるとともに、硝酸銀の副生も防止することができる。
【0020】
本発明の請求項6に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、第1工程で使用する保護剤の分子量(重量平均分子量:MW)を特定範囲としているので、平均粒径を小さく、かつ粒度分布を狭くすることができるため、5〜50nm程度の小さい平均粒径の揃った保護ナノ粒子を得ることができる。
【0021】
本発明の請求項7に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、第1工程で使用する保護剤としてポリビニルピロリドン(PVP)を採用しているので、比較的弱い吸着力により、金属ナノ粒子を被覆保護することにより金属ナノ粒子を安定化させ、容易に分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を説明する。本発明の金属ナノ粒子ペーストは、下記(a)〜(c)の成分を含むことにより構成される。
(a)金属ナノ粒子
(b)フッ素原子及び/またはフッ素化合物
(c)ケイ素のアルコキシド
【0023】
(a)金属ナノ粒子:
本発明の金属ナノ粒子ペーストは、例えば、超ファイン回路印刷等、低インピーダンスでかつ極めて微細な回路形成として適用可能であり、よって、導電性媒体として適用される金属ナノ粒子の平均粒径としては、目標とする超ファイン印刷の線幅や加熱焼成処理後の膜厚に応じて、その平均粒径は1〜100nmの範囲の中から選択するようにすることが好ましい。含有される金属ナノ粒子の平均粒径をかかる範囲に選択することで、インクジェット印刷法やスクリーン印刷法等の従来公知の方法により、極めて微細な線幅のパターンへの塗布を可能とする。金属ナノ粒子の平均粒径としては、平均粒径を2〜50nmの範囲とすることが特に好ましい。
【0024】
本発明の金属ナノ粒子ペーストを構成する金属ナノ粒子となる金属としては、特には限定されないが、導電性被膜を得るという点から、例えば、金、銀、白金、パラジウム等の貴金属や、銅、ニッケル、アルミニウム等の金属とすることができる。本発明にあっては、良好な導電性を付与するという点から、金属ナノ粒子として銀を選択することが特に好ましい。
【0025】
本発明の金属ナノ粒子ペーストにおける金属ナノ粒子の含有量は、金属ナノ粒子ペースト全体に対して2.0〜30.0質量%以上であることが好ましい。金属ナノ粒子の含有量をかかる範囲とすることにより、粘度も適度となり、加熱焼成後も連続した配線を良好に形成することができる。一方、含有量が2.0質量%より小さいと、金属ナノ粒子の量が少なすぎ、印刷後に加熱焼成した際に金属ナノ粒子相互が分断され、配線が繋がらない場合がある。また、金属ナノ粒子の含有量が30.0質量%より大きいと、金属ナノ粒子ペーストの粘度が高くなり過ぎて、配線の印刷が困難となる場合がある。金属ナノ粒子の含有量は、金属ナノ粒子ペースト全体に対して、2.0〜20.0質量%であることがさらに好ましく、2.0〜15.0質量%であることが特に好ましい。
【0026】
金属ナノ粒子は、その表面を水溶性高分子からなる保護剤で被覆保護されたものを適用するようにしてもよく、金属ナノ粒子を保護剤で保護することにより、金属ナノ粒子を安定化させ、分散性を向上させることができる。保護剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone:PVP)(C6H9NO)n、ポリビニルアルコール(Polyvinyl Alcohol:PVA)(CH2CH(OH))n、ポリアクリル酸、シクロデキストリン、メチルセルロース等を使用することができる。
【0027】
金属ナノ粒子ペースト中には、保護剤で被覆保護された金属ナノ粒子(保護金属ナノ粒子)と保護されない金属ナノ粒子を混在させるようにしてもよい。保護金属ナノ粒子と金属ナノ粒子との比は、保護金属ナノ粒子/金属ナノ粒子=1/10〜3/1程度としておけばよい。
【0028】
(b)フッ素原子及び/またはフッ素化合物:
本発明において、金属ナノ粒子ペースト中にフッ素原子やフッ素酸化物といったフッ素成分(以下「フッ素原子等」とする場合がある。)が存在することにより、印刷対象となる基板との濡れ性が悪くなり、ペーストと基板の接触角度を大きくさせることができるため、印刷されたパターンの線幅を均一にすることができ、また、低抵抗率の印刷パターンを簡便に得ることができる。フッ素化合物としては、例えば、フッ化物、トリフルオロ酢酸塩、トリフルオロメタスルホン酸塩、テトラフルオロ酸塩、ヘキサフルオロ酸塩等を使用することができる。本発明の金属ナノ粒子ペーストにおけるフッ素原子等の含有量は、金属ナノ粒子ペースト全体に対して5.0〜20.0質量%であることが好ましい。
【0029】
(c)ケイ素のアルコキシド:
本発明において、ケイ素のアルコキシド(Si(OR)4:Rはアルキル基)は、ペースト中で金属ナノ粒子を閉じこめるマトリックス的な役割を果たし、本発明にあっては、ケイ酸メチル(テトラメトキシシラン)、ケイ酸エチル(テトラエトキシシラン)、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−n−ナトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン等を使用することができる。本発明の金属ナノ粒子ペーストにおけるケイ素のアルコキシドの含有量は、金属ナノ粒子ペースト全体に対して1.0〜10.0質量%以上であることが好ましい。
【0030】
本発明の金属ナノ粒子ペーストを構成する分散溶媒としては、特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価のアルコール化合物やエチレングリコール等の多価アルコール化合物等の種々の化合物を用いることができる。また、これらのアルコールは、その1種を単独で使用してもよく、あるいはその2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
分散溶媒は、金属ナノ粒子ペーストの粘度を決定するものの一つであるが、本発明の金属ナノ粒子ペーストは、基板の回路パターンの形成において、例えば、インクジェット印刷法等を適用して、基板に対して微細なパターンの描画に実施するのに適用される。従って、本発明の金属ナノ粒子ペーストは、採用する描画方法に応じて、それぞれ適合する液粘度を有するように、分散溶媒の量を適宜決定することが好ましい。例えば、インクジェット印刷法を適用する場合には、金属ナノ粒子ペーストの粘度を、概ね5.0mPa・s〜30.0mPa・s(25℃)の範囲に選択することが好ましい。また、この場合には、金属ナノ粒子ペーストにおける分散溶媒の含有量は、金属ナノ粒子ペースト全体に対して概ね5.0〜65.0質量%の範囲に選択されていることが好ましい。金属ナノ粒子を含有するペーストの粘度は、用いるナノ粒子の平均粒径、分散濃度、用いている分散溶媒の種類に依存して決まり、これら3種を適宜選択して、目的とする粘度に調整すればよい。なお、本発明の金属ナノ粒子ペーストにあっては、抵抗率の値が特性を図る一つの指標となり、焼成後の値で概ね500μΩ・cm以下であれば問題はない。
【0032】
なお、本発明の導電性銀ナノ粒子ペーストには、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、樹脂成分等を適宜添加することができる。
【0033】
本発明の金属ナノ粒子ペーストは、対象となる金属ナノ粒子を含む金属塩を、水溶性高分子からなる保護剤の存在下に含アルコール溶媒中で加熱還流し、保護金属ナノ粒子を得る第1工程と、かかる第1工程で得られた保護金属ナノ粒子と、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物及びケイ素のアルコキシドをゾル・ゲル法によりペースト化させる第2工程からなる製造方法を採用することにより効率よく得ることができる。
【0034】
(1)アルコール還元法による金属ナノ粒子の調製(第1工程):
アルコール還元法とは、一般に、金属の塩を保護コロイド存在下で、アルコールと混合させた後加熱還流し、貴金属の微粒子分散液を得ることである。この方法は、操作が簡単で、微粒子分散液が容易に得られる、生成微粒子が小さく、粒度分布が狭い、調整条件により粒径を制御できる、分散液から溶媒を減圧で留去して乾燥後、別の溶媒を加えることにより、保護コロイドの可溶な種々の溶媒中に分散させることができるといった利点がある。また、得られる微粒子分散液は触媒として高活性かつ高選択性であることも特徴の1つである。
【0035】
本発明の第1工程にあっては、所望の金属ナノ粒子を含む金属塩、及び水溶性高分子からなる保護剤をそれぞれ水溶液として、得られた金属塩水溶液と保護剤水溶液を撹拌混合して混合溶液を得る。そして、得られた混合溶液にアルコールを加え、加熱した後に還流して(アルコール還元して)、目的物である保護金属ナノ粒子を得るようにすればよい。
【0036】
対象となる金属ナノ粒子を含む金属塩としては、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化塩、炭酸塩、過塩素酸塩ピロリン酸塩等が挙げられ、例えば、対象となるナノ金属粒子が銀であれば、硝酸銀、酢酸銀、過塩素酸銀、塩化銀等を使用することができる。
【0037】
金属ナノ粒子は、粒子径が小さいため、表面活性が極めて高く凝集し、粒子間で焼結し、再分散が困難となる。このために金属ナノ粒子の表面を保護剤で皮膜し、凝集を防ぐ方法が実用化されている。保護剤で覆われた金属ナノ粒子は、溶媒に分散させると、表面が皮膜されるので長期にわたり凝集することがない。本発明において、保護剤として用いることができる水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone:PVP)(C6H9NO)n、ポリビニルアルコール(Polyvinyl Alcohol:PVA)(CH2CH(OH))n、ポリアクリル酸、シクロデキストリン、メチルセルロース等を使用することができる。これらの水溶性高分子は、比較的弱い吸着力により、金属ナノ粒子を安定化させ、容易に分散させることができる。
【0038】
保護剤の分子量(重量平均分子量:MW)は、生成される保護金属ナノ粒子の平均粒径及び粒度分布を制御することができ、保護剤の分子量を、20000〜400000とすることが好ましい。保護剤の分子量をかかる範囲とすれば、平均粒径を小さく(例えば、5〜50nm)、かつ粒度分布を狭くすることができるため、5〜50nm程度の小さい平均粒径の揃った保護ナノ粒子を得ることができる。保護剤の分子量は、40000〜360000とすることが特に好ましい。
【0039】
また、保護剤のモル数と金属塩のモル量との関係として、金属塩と保護剤のモル量の比(R)が、保護剤のモル量/金属塩のモル量=0.5〜5.0とすることが好ましい。Rをかかる範囲とすれば、保護剤と金属塩の量が適度であり、金属ナノ粒子を保護剤で確実に保護することができ、保護金属ナノ粒子の分散性等も良好となる。また、得られる保護金属ナノ粒子の平均粒径を小さく、粒度分布も狭くすることができる。さらには、硝酸銀の副生も防止することができる。これに対して、Rが0.5より小さいと、金属塩の量が多すぎるため、金属を保護剤で確実に保護することができずに、分散性が悪くなる場合があり、一方、Rが5.0を超えると、金属塩の量が少なすぎ、溶液中に含まれる銀の濃度が低下し、粘性も高くなる等といった点で問題となる場合がある。R(保護剤のモル量/金属塩のモル量)=2.0〜5.0とすることが特に好ましい。
【0040】
金属塩及び保護剤は、それぞれ水、アルコール等を溶媒として金属塩水溶液及び保護剤水溶液とし、この金属塩水溶液と保護剤水溶液を撹拌混合して、混合溶液とすればよい。なお、本発明にあっては、金属塩水溶液と保護剤水溶液の撹拌混合については、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス中で実施することが好ましい。
【0041】
混合溶液に加えられるアルコールは、還元剤としてのはたらきとともに、それ自体が分散剤として作用する。使用できるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価のアルコール化合物やエチレングリコール等の多価アルコール化合物等の種々の化合物を用いることができる。また、これらのアルコールは、その1種を単独で使用してもよく、あるいはその2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本発明にあっては、混合溶液とアルコールの撹拌混合についても、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス中で実施することが好ましい。
【0042】
本発明の第1工程にあっては、金属塩水溶液と保護剤水溶液を撹拌混合して得られた混合溶液にアルコールを加えるのであるが、混合溶液とアルコールの容量比は、混合溶液/アルコール=1/9〜1/1とすることが好ましい。容量比をかかる範囲とすることにより、アルコール還元を効率よく実施することができる。
【0043】
混合溶液とアルコールを混合して還流を行う場合にあっては、両者を混合して、例えば
60〜95℃程度に加熱した後、あるいは加熱しながら行うようにすればよい。なお、還流の具体的な手段については特に制限はなく、従来公知の方法を用いて行えばよい。
【0044】
なお、還流終了後は、得られた保護金属ナノ粒子を乾燥することにより、粉末状の保護金属ナノ粒子を得ることができる。保護金属ナノ粒子における水分等を除去するためには、例えば、エバポレータ等で溶剤を除去して、減圧乾燥等の乾燥を施すことが好ましい。
【0045】
(2)ゾル・ゲル法による金属ナノ粒子ペーストの製造(第2工程):
本発明の製造方法を構成する第2工程は、前記した第1工程で得られた保護金属ナノ粒子と、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物及びケイ素のアルコキシドをゾル・ゲル法によりペースト化する工程である。
【0046】
ここで、ゾル・ゲル法とは、一般に、金属の有機または無機化合物を溶液とし、溶液中で化合物の加水分解・重合反応を進ませてゾルをゲルとして固化し、ゲルの加熱によって酸化物固体を調製する方法である。目的とする酸化物に対応する金属アルコキシドを溶媒のアルコール類に溶かし、溶液とする。その溶液に加水分解に必要な水、触媒としての酸(またはアンモニア)を添加し出発原料とし、室温〜80℃で攪拌してアルコキシドの加水分解と重合を行わせると、金属酸化物の粒子が生成して溶液はゾルとなり、反応が進むと全体で固まったゲルとなる。
【0047】
本発明の第2工程にあっては、ゾル・ゲル法として、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物とアルコールを混合撹拌して混合し、この混合水溶液にケイ素のアルコキシドを加えてさらに混合して第1の混合溶液を調製し、この第1の混合溶液に、第1工程で得られた保護金属ナノ粒子とアルコールの混合溶液(第2の混合溶液)を加えてペースト化する。
【0048】
使用できるフッ素化合物としては、フルオロ酸系のフッ素化合物を使用することが好ましく、具体的には、例えば、フルオロ酢酸塩、フルオロスルホン酸塩等を使用することができる。対象となる金属ナノ粒子が銀であれば、例えば、フッ化銀(I)、フッ化銀(II)、トリフルオロ酢酸銀、トリフルオロメタスルホン酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀、ヘキサフルオロアンチモン酸銀、ペンタフルオロ酪酸銀等を使用することができる。かかるフッ素化合物を適用することにより、得られる金属ナノ粒子ペースト中にフッ素原子ないしはフッ素化合物が存在することになり、印刷対象となる基板との濡れ性を悪くさせ、ペーストと基板の接触角度を大きくさせることができる。これにより、印刷されたパターンの線幅を均一にすることができ、また、低抵抗率の印刷パターンを簡便に得ることができる。
【0049】
また、ペースト中で金属ナノ粒子を閉じこめるマトリックス的な役割を果たすケイ素のアルコキシドとしては、例えば、ケイ酸メチル、ケイ酸エチル、ケイ酸メチル(テトラメトキシシラン)、ケイ酸エチル(テトラエトキシシラン)、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−n−ナトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン等を使用することができる。
【0050】
使用されるアルコールは、得られる金属ナノ粒子ペーストの分散溶媒となるものであり、前記した本発明の金属ナノ粒子ペーストを構成するアルコールと同様、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価のアルコール化合物やエチレングリコール等の多価アルコール化合物等の種々の化合物を用いることができる。また、これらのアルコールは、その1種を単独で使用してもよく、あるいはその2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、これらのアルコールの適用量は、目的物である金属ナノ粒子ペーストの必要とされる粘度に応じて、適宜決定すればよい。
【0051】
なお、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物とアルコールを混合撹拌して混合し、この混合水溶液にケイ素のアルコキシドを加えてさらに混合して第1の混合溶液を調製する場合にあっては、攪拌しても2層に分離してしまう場合があり、この場合には分散助剤として少量のアルコール(エタノール、プロパノール等)を加えてもよい。
【0052】
本発明の金属ナノ粒子ペーストの製造方法の適用例として、第1工程及び第2工程において使用する物質を下記のようにして、金属ナノ粒子ペーストとして銀ナノ粒子ペーストを製造する方法を、図1及び図2を用いて説明する。ここで、図1は、第1工程の一態様のフローチャートであり、図2は、第2工程の一態様のフローチャートである。
【0053】
(第1工程における使用物質)
金属塩:過塩素酸銀
保護剤(水溶性高分子):ポリビニルピロリドン(PVP)
アルコール:エタノール
調製される保護金属ナノ粒子:保護銀ナノ粒子
【0054】
(第2工程における使用物質)
フッ素化合物:トリフルオロ酢酸銀
ケイ素のアルコキシド:ケイ酸エチル
アルコール:エチレングリコール
【0055】
(第1工程)
まず、図1に示すように、過塩素酸銀とイオン交換水を混合することにより、イオン交換水に過塩素酸銀を溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製する。また、これとは別に、ポリビニルピロリドン(PVP)とイオン交換水を混合することにより、イオン交換水にPVPを溶解させてPVP水溶液を調製する。
【0056】
PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で攪拌混合し、混合溶液を得る。この混合溶液にエタノールを加え、アルゴン雰囲気下で攪拌して混合させる。混合させたら、昇温してから還流を実施する。還流が終わったら、常温になるまで放置し、エバポレータ等で溶媒を飛ばした後、減圧乾燥等で乾燥させることにより、PVP保護銀ナノ粒子を得ることができる。
【0057】
(第2工程)
次に、図2に示すように、第1工程で得られたPVP保護銀ナノ粒子にエチレングリコールを加え、攪拌してエチレングリコール中にPVP保護銀ナノ粒子を分散させる。また、これとは別に、トリフルオロ酢酸銀にエチレングリコールを加え、攪拌してエチレングリコール中にトリフルオロ酢酸銀を溶解させておく。
【0058】
トリフルオロ酢酸銀を溶解したエチレングリコールにケイ酸エチルを加えて、さらに少量のエタノールを加えて、攪拌して混合させた(第1の混合溶液)。そして、この混合溶液に対して、エチレングリコールに分散させておいたPVP保護銀ナノ粒子(第2の混合溶液)を加えてさらに攪拌することにより、銀ナノ粒子ペーストを得ることができる。
【0059】
かかる本発明の金属ナノ粒子ペーストは、平均粒径が概ね2〜100nmである金属ナノ粒子を導電性媒体とするとともに、基板との濡れ性を調整するためのフッ素原子等や、金属ナノ粒子のマトリックスとなるケイ素のアルコキシドを必須成分として含有するので、インクジェット印刷法で回路パターンを形成した場合には、金属ナノ粒子同士を低温で融着・焼結させることができるとともに、印刷されたパターンの線幅を均一にすることにより、配線パターンの乱れや断線の発生を防止することができ、低インピーダンスでかつ微細な配線パターンの形成を実現可能な金属ナノ粒子ペーストとなる。
【0060】
本発明の金属銀ナノ粒子ペーストは、インクジェット印刷法やスクリーン印刷法等を用いて、ガラス基板、セラミック基板等の耐熱性基板上に、低インピーダンスでかつ微細な配線パターンの形成に適するものであるが、微細配線パターン等を形成させるための具体的な形成方法としては、従来公知の塗布方法に従って、液粘度を適正化した本発明の金属ナノ粒子ペーストを利用して、目的とする微細なパターンの塗布層を形成するようにすればよい。高い再現性と、描画精度で、微細なパターン描画を行う上では、インクジェット印刷法を適用することが多く、本発明の金属ナノ粒子ペーストは当該印刷法に最適である。なお、導電膜の加熱焼成方法としては特に制限はなく、例えば、50〜300℃、1秒〜60分程度の条件で行うことができる。
【0061】
インクジェット印刷法やスクリーン印刷法を利用する場合であっても、描画される微細パターンの最小配線幅に対して、描画される分散液塗布層の平均厚さは、最小配線幅に対して4/100〜1/1の範囲に選択する必要がある。従って、最終的に得られる緻密な金属焼結体層の平均膜厚は、塗布層中に含有される分散溶媒の蒸散、焼結に伴う凝集・収縮を考慮すると、最小配線幅の10/100〜1/100の範囲に選択することがより合理的である。かかる要件と対応させて、インクジェット印刷法等に適合する金属ナノ粒子ペーストでは、ペースト中における分散溶媒の容積比率範囲を適宜選択することが好ましい。
【0062】
また、塗布対象の基板、基材も特に制限はなく、例えば、セラミック、ガラス、ガラスエポキシ基板、BT基板、及び、半導体を接着するための42アロイ、銅等のリードフレーム等を挙げることができる。また、例えば、コンデンサ、チップ抵抗器、導体回路、リードフレームと半導体の接着部分等に適用するようにしてもよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0064】
[参考例1〜参考例8]
下記の方法を用いて、PVP保護銀ナノ粒子を製造した。なお、使用した試薬及び実験装置は以下のとおりである。
【0065】
(試薬)
(1)過塩素酸銀一水和物(AgClO4=225.5g/mol)
(2)ポリビニルピロリドン(PVP)(C6H9NO)n
MW=10000(PVP10−500G:Sigma−Aldrich)
MW=40000(ポリビニルピロリドンK300:和光純薬工業(株)製)
MW=360000(ポリビニルピロリドンK90:和光純薬工業(株)製)
【0066】
(実験装置)
(1)真空乾燥機(減圧乾燥で使用)
品名 : VOS−200SD(東京理科機械(株)製)
条件 :40℃×20時間
(2)超音波洗浄機(溶液の混合撹拌やアセトン洗浄等で使用)
品名 : US−1R(アズワン社製)
【0067】
[参考例1]
過塩素酸銀1.9836g(8.7965×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)1.9686g(0.01770mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=2.0)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0068】
[参考例2]
過塩素酸銀1.6402g(7.2736×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.8523g(7.6646×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=1.0)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0069】
[参考例3]
過塩素酸銀2.2044g(9.7756×10−3mol)とイオン交換水25mLmLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.6573g(5.9110×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.6)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0070】
参考例1で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図3、参考例2で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図4、参考例3で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図5にそれぞれ示す。なお、UV吸収スペクトルは還流において1時間ごとにサンプルを採取し、還流が終了する9時間後まで(後記する参考例6は4時間後まで)測定したものであり、例えば、図中の「1h」は、還流1時間後の結果を示す(後記のUV吸収スペクトルも同様である。)。銀は、特有の表面プラズモンを持ち、溶液中に銀が存在すれば、通常400nm付近で吸収スペクトルを観察することができる。粒子表面が大きくなれば表面プラズモンをより吸収するので、銀ナノ粒子は、参考例1〜参考例3においても、長時間還流について粒子成長して、ピークを確認することができる。なお、還元前は、溶液は透明で吸収スペクトルは見られない。還流後、溶液は黄色になり吸収スペクトルを確認することができる。
【0071】
参考例1で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを図6、参考例2で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを図7、参考例3で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを図8に示す。図6〜図8に示すように、R=0.6(参考例3)及びR=1.0(参考例2)の結果は、硝酸銀のピークと一致しており、一部に硝酸銀が生成されていることが確認できた。一方、R=2.0(参考例1)では、PVPと同じアモロファス(アモルファス)状態を示した。R=0.6やR=1.0では、PVPが保護剤の役割を果たせていないようである。一部に硝酸銀が生成されるということは、PVPにあるN(窒素原子)が反応に関与していると考えられ、PVPが分解されてしまっていることになる。これは、PVPのNを含む5員環以外の発生源は考えられないからである。一方、R=2.0の場合には、銀がPVPに完全に保護されているので、アモロファス状態となっているものと考えられる。
【0072】
参考例1〜参考例3で得られたPVP保護銀ナノ粒子の粒度分布を図9に示す。図9に示すように、R=2.0(参考例1)では,分布幅が狭く、粒径が約17.8nmという小さな粒子が合成できた。一方、R=1.0(参考例2)やR=0.6(参考例3)では、分布幅が広く、粒径は平均するとそれぞれ、20nm、25〜35nm程度の粒子が生成していることが確認できた。この結果より、PVPが多いほど(Rが大きいほど)分布の幅が狭く、粒子径の均一な粒子が調製できることが分かった。
【0073】
[参考例4]
過塩素酸銀1.7213g(7.6333×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が10000のポリビニルピロリドン(PVP)0.8594g(7.72843×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=1.01)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0074】
[参考例5]
過塩素酸銀3.4681g(0.01538mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が360000のポリビニルピロリドン(PVP)1.7238g(0.01550mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=1.00)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450
mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0075】
参考例4で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図10、参考例5で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図11にそれぞれ示す。図10、図11及び前記した図4に示すように、PVPの分子量が360000(参考例5:図11)及び40000(参考例2:図4)の場合は、銀が溶液中に安定して存在していることが確認できる。一方、PVPの分子量が10000(参考例4:図10)の場合は、少量の光で変色してしまい、UV吸収スペクトルが確認しにくかった。
【0076】
参考例4で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを図12、参考例5で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを図13に示す。図12及び図13に示すように、いずれも硝酸銀のピークが確認でき、PVPの分子量を変化させても、R=1.0の条件では一部に硝酸銀が生成されるということが確認できた。
【0077】
参考例2、参考例4及び参考例5で得られたPVP保護銀ナノ粒子の粒度分布を図14に示す。図14に示すように、粒度分布については、PVPの分子量が360000(参考例5)では、分布幅が狭く、粒径が7.9nmという小さな粒子が合成できた。一方、PVPの分子量が40000(参考例2)及び10000(参考例4)では、分布幅が広く、粒径は平均するとそれぞれ20nm、21.1nmの粒子ができた。この結果より、PVPの分子量が大きいほど分布の幅が狭く、粒子径の均一な粒子を得ることができることが確認できた。
【0078】
[参考例6]
過塩素酸銀1.9355g(8.5831×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.9555g(8.5926×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=1.00)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから4時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0079】
参考例6で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図15に、参考例6で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトル図16にそれぞれ示す。図15及び図16に示すように、還流時間を9時間から4時間に短縮しても銀イオンのスペクトルが確認できる一方、未だ一部には硝酸銀が生成されていることが確認できた。
【0080】
[参考例7]
過塩素酸銀1.5950g(7.0732×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させた。また、分子量が360000のポリビニルピロリドン(PVP)0.7997g(7.1275×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=1.01)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで1時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0081】
参考例7で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図17に、参考例7で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトル図18にそれぞれ示す。図17及び図18に示すように、常温になるまでの放置時間を13時間から1時間に短縮しても銀イオンのスペクトルが確認できる一方、未だ一部に硝酸銀が生成されていることが確認できた。参考例6及び参考例7に関する結果より、生成物の一部が硝酸銀になる反応は、エバポレータで溶剤を除去している間に起こっていると考えられる。
【0082】
[参考例8]
過塩素酸銀1.9596g(8.6900×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.5829g(5.2420×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させた。得られた銀ナノ粒子1.9128gにアセトンを加え、超音波洗浄機で1時間洗浄し、ろ過後乾燥させた。このアセトンで洗浄する操作を2回繰り返して、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0083】
参考例8で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを図19(アセトン洗浄前とアセトン洗浄後の比較)に示す。アセトン洗浄することで、硝酸銀を作るPVPを取り除くことにより硝酸銀はなくなり、銀となると考えたが、図19に示すように、アセトン洗浄後は、洗浄前に比べて硝酸銀の強度が低くなるものの、依然として硝酸銀も存在し、アセトン洗浄によって完全に硝酸銀を取り除くことはできなかった。
【0084】
[実施例1〜実施例14]
下記の方法を用いて、本発明の銀ナノ粒子ペーストを製造した。なお、使用した試薬及び実験装置(試験例2及び試験例3で使用)は以下のとおりである。
【0085】
(1)トリフルオロ酢酸銀(CF3COOAg)=220.88g/mol
(純度97.0%、和光純薬工業(株)製)
(2)ケイ酸エチルSi(OC2H5)4=208g/mol
(純度99.0%、キシダ化学(株)製)
(3)エチレングリコール特級(純度99.5%以上、キシダ化学(株)製)
【0086】
(実験装置)
(1)マッフル炉:FO410(ヤマト科学(株)製)
(試験例2、試験例3の焼成に使用)
昇温速度:100℃/時間
【0087】
[実施例1]
トリフルオロ酢酸銀4.5193g(0.02046mol)にエチレングリコール10mLを加え、3.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル1.242mL(5.5712×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを3mL加えた。一方、参考例1で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.2085gにエチレングリコール30mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0088】
[実施例2]
トリフルオロ酢酸銀3.6298g(0.01643mol)にエチレングリコール10mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.916mL(4.1087×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを4mL加えた。一方、参考例2で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.1186gにエチレングリコール30mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0089】
[実施例3]
トリフルオロ酢酸銀3.1710g(0.01436mol)にエチレングリコール10mLを加え、2時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル1.051mL(4.7144×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを4mL加えた。一方、参考例4で調製したPVP保護銀ナノ粒子1.8028gにエチレングリコール30mLを加え、3.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0090】
[実施例4]
トリフルオロ酢酸銀3.1745g(0.01437mol)にエチレングリコール10mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル1.044mL(4.6832×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを5mL加えた。一方、参考例5で調製したPVP保護銀ナノ粒子1.8177gにエチレングリコール30mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0091】
[実施例5]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀2.7978g(0.01241mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)1.3984g(0.01258mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=1.01)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0092】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀3.5957 g(0.01628mol)にエチレングリコール5mLを加え、3時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル1.065mL(4.7769×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを4mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.1105gにエチレングリコール15mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0093】
[実施例6]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀1.9511g(8.6523×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.5770g(5.1888×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0094】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀1.2073g(5.4659×10−3mol)にエチレングリコール10mLを加え、3.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.983mL(4.4107×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを5mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.3847gにエチレングリコール30mLを加え、5.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0095】
[実施例7]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀1.7875g(7.9268×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.5288g(4.7553×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0096】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀1.8879g(8.5472×10−3mol)にエチレングリコール10mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.976mL(4.3779×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを6mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子1.9374gにエチレングリコール30mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0097】
[実施例8]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀2.0518g(9.0988×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.6034g(5.4262×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0098】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀2.1194g(9.5953×10−3mol)にエチレングリコール10mLを加え、4時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.729mL(3.2700×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを6mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.0826gにエチレングリコール30mLを加え、5.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0099】
[実施例9]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀2.0755g(9.2039×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.6160g(5.5395×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0100】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀2.5134g(0.01138mol)にエチレングリコール10mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.985mL(4.4183×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを6mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.2555gにエチレングリコール30mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0101】
[実施例10]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀1.8649g(8.2700×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.5525g(4.9685×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0102】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀2.7253g(0.01234mol)にエチレングリコール10mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.982mL(4.4048×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを5mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子1.8077gにエチレングリコール30mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0103】
[実施例11]
トリフルオロ酢酸銀1.9682g(8.9107×10−3mol)にエチレングリコール5mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.988mL(4.4317×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを6mL加えた。一方、参考例3で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.0241gにエチレングリコール15mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0104】
[実施例12]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀1.9654g(8.7157×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.5835g(5.2473×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0105】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀2.3423g(0.01060mol)にエチレングリコール5mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.993mL(4.4543×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを6mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.0195gにエチレングリコール15mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0106】
[実施例13]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀2.2665g(0.01005mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.6727g(6.0494×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0107】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀2.9435 g(0.01333mol)にエチレングリコール5mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.991mL(4.4452×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを6mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.0119gにエチレングリコール15mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0108】
[実施例14]
トリフルオロ酢酸銀1.1219g(5.0792×10−3mol)にエチレングリコール3mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.399mL(1.7899×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを3mL加えた。一方、参考例8で調製したPVP保護銀ナノ粒子1.0464gにエチレングリコール7mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0109】
[試験例1]
粘度の測定:
実施例2、実施例5、実施例7、実施例9〜実施例14で得られた銀ナノ粒子ペーストについて、下記の測定条件を用いて粘度を測定した。測定結果を表1に示すが、いずれも良好な値であった。
【0110】
(測定条件)
装置名 : 音叉型振動式粘度計 SV−10((株)エーアンドデイ製)
測定温度: 27.5〜55.0℃において2.5℃毎に測定
【0111】
(粘度)
【表1】
【0112】
[試験例2]
抵抗率の測定:
実施例2、実施例5〜実施例7、実施例9〜実施例14で得られた銀ナノ粒子ペーストについて、下記の測定条件を用いて抵抗率を測定した。測定結果を表2に示す。なお、本試験は、下記の温度で焼成したものを測定した。表2に示すように、抵抗率の値は500μm・cm以下であり、良好な値であった。
【0113】
(測定条件)
装置名 : 抵抗率計 ロレスタGP((株)ダイヤインスツルメンツ製)
(JIS K7194準拠)
電圧 : 10V
焼成温度: 180℃、200℃、230℃、250℃
【0114】
(抵抗率)
【表2】
【0115】
[試験例3]
インクジェット印刷試験:
実施例2、実施例5、実施例7及び実施例10で得られた銀ナノ粒子ペーストを用いて、下記の方法でインクジェット印刷試験を行った。なお、全ての試験は、粘度が10mPa・s〜15mP・sの状態で行った。
【0116】
(試験条件)
5分間UV照射したスライドガラスを基板として、この基板上に印刷速度10mm/秒の条件で、目標線幅150μmで長さ50mmの線を10本印刷した。次に、この基板を100℃で10分間乾燥後、180℃で1時間焼成して、線幅の状態を評価した。実施例2の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板の写真を図20A、図20B(印刷直後)及び図21A、図21B(焼成後)、実施例5の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板の写真を図22A、図22B(印刷直後)及び図23A、図23B(焼成後)、実施例7の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板の写真を図24A、図24B(印刷直後)及び図25A、図25B(焼成後)、実施例10の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板の写真を図26A、図26B(印刷直後)及び図27A、図27B(焼成後)にそれぞれ示す。なお、図20〜図27において、(A)は基板の全体写真、(B)は線の拡大写真である。
【0117】
実施例2(図20及び図21)、実施例7(図24及び図25)及び実施例10(図26及び図27)はエチレングリコールの量が40mLで、粘度は実施例5と比較すると低い。印刷直後は、バルジ(出っ張り)はあるものの繋がった線が引けているように見えるが、少し時間を置いておくとバルジの部分にインクが集まってしまい、線は切れてしまった。
【0118】
一方、実施例5(図22及び図23)は、印刷直後もバルジはほとんどなく、時間を置いても連続して繋がった線を形成することができた。これは、実施例2、実施例7及び実施例10においては、10〜15mPa・sになる温度も低く、印刷前と印刷後の粘度の差があまりないことが関係するのではないかと考えられる。実施例5はこれらより粘度が高いため、印刷前と印刷後のエンド変化が大きかったため、印刷後にもバルジができず、良好な線を引くことができたものと考えられる。線は焼成後も切れることなく繋がっていた。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、例えば、デジタル高密度配線に対応した低インピーダンスでかつ極めて微細な回路パターンを、インクジェット印刷法等を利用して形成するための金属ナノ粒子ペースト及び当該金属ナノ粒子ペーストの製造方法として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】第1工程の一態様のフローチャートを示した図である。
【図2】第2工程の一態様のフローチャートを示した図である。
【図3】参考例1で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図4】参考例2で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図5】参考例3で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図6】参考例1で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図7】参考例2で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図8】参考例3で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図9】参考例1〜参考例3で得られたPVP保護銀ナノ粒子の粒度分布を示した図である。
【図10】参考例4で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図11】参考例5で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図12】参考例4で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図13】参考例5で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図14】参考例2、参考例4及び参考例5で得られたPVP保護銀ナノ粒子の粒度分布を示した図である。
【図15】参考例6で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図16】参考例6で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図17】参考例7で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図18】参考例7で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図19】参考例8で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図20A】実施例2の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図20B】実施例2の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図21A】実施例2の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図21B】実施例2の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図22A】実施例5の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図22B】実施例5の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図23A】実施例5の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図23B】実施例5の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図24A】実施例7の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図24B】実施例7の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図25A】実施例7の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図25B】実施例7の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図26A】実施例10の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図26B】実施例10の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図27A】実施例10の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図27B】実施例10の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子ペースト及び当該金属ナノ粒子ペーストの製造方法に関する。さらに詳しくは、インクジェット印刷法等を用いて、ガラス基板、セラミック基板等の耐熱性基板上に、低インピーダンスでかつ微細な配線パターンの形成に適する金属ナノ粒子ペースト及び当該金属ナノ粒子ペーストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイの大型化に伴い、液晶パネルの配線パターンをインクジェット印刷法で調製しようという研究が盛んになっている。従来適用されていたリソグラフィー法では、工程が多数あることやディスプレイの大型化により設備面積が大きくなるという問題がある。また、メタルスクリーンマスクを型として印刷するスクリーン印刷法では、情報末端の急速な小型化に伴い、配線の微細化や隣り合う配線の幅にも限界がある。
【0003】
そこで、導電性ペーストインクを直接基板上に噴射し、目的とする配線パターンを描画することができるインクジェット印刷法が注目されている。この方法では、従来適用されていた方法と比べ、直接形成するためマスキングが必要ない、大きいサイズの基板にも容易に応用できる、工程時間を短くすることができる、パソコンレベルでパターンを描画させることができるので機械の小型化が可能である、といった利点がある。
【0004】
一方、インクジェット印刷法には、機器システム(プリンタ)の他に導電性インク(導電性ペースト)が必要である。また、液晶パネル製造工程では、低温(250℃以下)で焼結可能な導電性の高いインクジェット用導電性ペーストが望まれており、当該導電性ペーストの研究において、溶融金属、導電性高分子と金属ナノ粒子を含む研究がなされている。金属ナノ粒子は、均一性及び分散性に優れていることや、金属の粒子サイズがナノレベルまで小さくなると、金属本来の融点よりも格段に低い温度で焼結するという低温焼結性(例えば、銀の融点は960℃であるが、ナノ粒子にすることで200℃まで低温化可能)を備えるため、これを利用して導電性ペーストの合成に使われている。かかる現象は、金属の微粒子においては、その粒子径を十分に小さくすると、全体に対する粒子表面に存在するエネルギー状態の高い原子の割合が大きくなり、金属原子の表面拡散が無視し得ないほど大きくなるために、粒子相互の界面の延伸がなされ焼結が行われるためであり、かかる金属微粒子を使用することによって、低温焼付条件でも十分に導電性を有する金属ナノ粒子ペーストを得られることが期待される。よって、このような金属ナノ粒子を含んだ導電性ペーストの検討が各方面でなされている(例えば、特許文献1〜特許文献6を参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−324966号公報([請求項1]、[実施例1])
【特許文献2】特開2004−247572号公報([実施例1])
【特許文献3】特開2004−273205号公報([請求項1]、[実施例2])
【特許文献4】特開2005−26081号公報([請求項1]、[実施例1])
【特許文献5】特表2005−537386号公報([請求項38]、[0027]、[0051]、[0102]、[0318]〜[0333])
【特許文献6】特開2006−253262号公報([請求項3]、[請求項4])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術で得られた、金属ナノ粒子を含む導電性ペーストを用いて大面積の基板に対してインクジェット印刷法で印刷を実施した場合にあっては、配線パターンの乱れや断線が生じる場合があり、改善が求められていた。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、金属ナノ粒子を含む導電性ペーストであって、インクジェット印刷法等を用いて基板上に配線パターンを形成した場合であっても、配線パターンの乱れや断線の発生を防止することができ、低インピーダンスでかつ微細な配線パターンを形成することができる金属ナノ粒子ペースト及び当該金属ナノ粒子ペーストの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る金属ナノ粒子ペーストは、下記(a)〜(c)の成分を含むことを特徴とする。
(a)金属ナノ粒子
(b)フッ素原子及び/またはフッ素化合物
(c)ケイ素のアルコキシド
【0009】
本発明の請求項2に係る金属ナノ粒子ペーストは、前記した請求項1において、前記金属ナノ粒子の含有量が、金属ナノ粒子ペースト全体に対して2.0〜30.0質量%であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る金属ナノ粒子ペーストは、前記した請求項1または請求項2において、前記金属ナノ粒子が銀ナノ粒子であることを特徴とする。
を特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、対象となる金属ナノ粒子を含む金属塩を、水溶性高分子からなる保護剤の存在下に含アルコール溶媒中で加熱還流し、保護金属ナノ粒子を得る第1工程と、前記第1工程で得られた保護金属ナノ粒子と、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物及びケイ素のアルコキシドをゾル・ゲル法によりペースト化させる第2工程を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、前記した請求項4において、前記第1工程における金属塩と保護剤のモル量の比(保護剤のモル量/金属塩のモル量=R)が、R=0.5〜5.0であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、前記した請求項4または請求項5において、前記保護剤の分子量(重量平均分子量:MW)が20000〜400000であることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項7に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、前記した請求項4ないし請求項6のいずれかにおいて、前記保護剤がポリビニルピロリドン(PVP)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に係る金属ナノ粒子ペーストは、平均粒径が概ね1〜100nmである金属ナノ粒子を導電性媒体とするとともに、基板との濡れ性を調整するためのフッ素原子等や、金属ナノ粒子のマトリックスとなるケイ素のアルコキシドを必須成分として含有するので、インクジェット印刷法で回路パターンを形成した場合には、金属ナノ粒子同士を低温で融着・焼結させることができるとともに、印刷されたパターンの線幅を均一にして、配線パターンの乱れや断線の発生を防止することができ、低インピーダンスでかつ微細な配線パターンの形成を実現可能な金属ナノ粒子ペースト(いわゆる導電性インク)となる。
【0016】
本発明の請求項2に係る金属ナノ粒子ペーストは、当該ペーストを構成する金属ナノ粒子の含有量が、金属ナノ粒子ペースト全体に対して特定範囲としているので、粘度も適度となり、加熱焼成後も連続した配線を問題なく形成することができる金属ナノ粒子ペーストを提供可能とする。
【0017】
本発明の請求項3に係る金属ナノ粒子ペーストは、当該ペーストを構成する金属ナノ粒子を銀ナノ粒子としているので、良好な導電性を備えた金属ナノ粒子ペーストを提供する。
【0018】
本発明の請求項4に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、対象となる金属ナノ粒子を含む金属塩を、水溶性高分子からなる保護剤の存在下にアルコール還元法を用いて、保護金属ナノ粒子を得る第1工程と、当該保護金属ナノ粒子と、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物及びケイ素のアルコキシドをゾル・ゲル法によりペースト化させる第2工程を採用する。第1工程において、アルコール還元法を用いて水溶性高分子からなる保護剤により金属ナノ粒子の表面を被覆保護することにより、金属ナノ粒子を容易に分散できるようにするとともに、当該保護金属ナノ粒子を、ゾル・ゲル法を用いて、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物及びケイ素のアルコキシドとペースト化することにより、ペースト中にフッ素原子等及びケイ素のアルコキシドを存在させた金属ナノ粒子ペーストを簡便に調製することが可能となる。
【0019】
本発明の請求項5に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、第1工程における金属塩と保護剤のモル量の比Rを特定範囲としているので、保護剤と金属塩の量が適度であり、金属ナノ粒子を保護剤で確実に保護することができ、保護金属ナノ粒子の分散性等も良好となる。また、得られる保護金属ナノ粒子の平均粒径を小さく、かつ、粒度分布も狭くすることができるとともに、硝酸銀の副生も防止することができる。
【0020】
本発明の請求項6に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、第1工程で使用する保護剤の分子量(重量平均分子量:MW)を特定範囲としているので、平均粒径を小さく、かつ粒度分布を狭くすることができるため、5〜50nm程度の小さい平均粒径の揃った保護ナノ粒子を得ることができる。
【0021】
本発明の請求項7に係る金属ナノ粒子ペーストの製造方法は、第1工程で使用する保護剤としてポリビニルピロリドン(PVP)を採用しているので、比較的弱い吸着力により、金属ナノ粒子を被覆保護することにより金属ナノ粒子を安定化させ、容易に分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を説明する。本発明の金属ナノ粒子ペーストは、下記(a)〜(c)の成分を含むことにより構成される。
(a)金属ナノ粒子
(b)フッ素原子及び/またはフッ素化合物
(c)ケイ素のアルコキシド
【0023】
(a)金属ナノ粒子:
本発明の金属ナノ粒子ペーストは、例えば、超ファイン回路印刷等、低インピーダンスでかつ極めて微細な回路形成として適用可能であり、よって、導電性媒体として適用される金属ナノ粒子の平均粒径としては、目標とする超ファイン印刷の線幅や加熱焼成処理後の膜厚に応じて、その平均粒径は1〜100nmの範囲の中から選択するようにすることが好ましい。含有される金属ナノ粒子の平均粒径をかかる範囲に選択することで、インクジェット印刷法やスクリーン印刷法等の従来公知の方法により、極めて微細な線幅のパターンへの塗布を可能とする。金属ナノ粒子の平均粒径としては、平均粒径を2〜50nmの範囲とすることが特に好ましい。
【0024】
本発明の金属ナノ粒子ペーストを構成する金属ナノ粒子となる金属としては、特には限定されないが、導電性被膜を得るという点から、例えば、金、銀、白金、パラジウム等の貴金属や、銅、ニッケル、アルミニウム等の金属とすることができる。本発明にあっては、良好な導電性を付与するという点から、金属ナノ粒子として銀を選択することが特に好ましい。
【0025】
本発明の金属ナノ粒子ペーストにおける金属ナノ粒子の含有量は、金属ナノ粒子ペースト全体に対して2.0〜30.0質量%以上であることが好ましい。金属ナノ粒子の含有量をかかる範囲とすることにより、粘度も適度となり、加熱焼成後も連続した配線を良好に形成することができる。一方、含有量が2.0質量%より小さいと、金属ナノ粒子の量が少なすぎ、印刷後に加熱焼成した際に金属ナノ粒子相互が分断され、配線が繋がらない場合がある。また、金属ナノ粒子の含有量が30.0質量%より大きいと、金属ナノ粒子ペーストの粘度が高くなり過ぎて、配線の印刷が困難となる場合がある。金属ナノ粒子の含有量は、金属ナノ粒子ペースト全体に対して、2.0〜20.0質量%であることがさらに好ましく、2.0〜15.0質量%であることが特に好ましい。
【0026】
金属ナノ粒子は、その表面を水溶性高分子からなる保護剤で被覆保護されたものを適用するようにしてもよく、金属ナノ粒子を保護剤で保護することにより、金属ナノ粒子を安定化させ、分散性を向上させることができる。保護剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone:PVP)(C6H9NO)n、ポリビニルアルコール(Polyvinyl Alcohol:PVA)(CH2CH(OH))n、ポリアクリル酸、シクロデキストリン、メチルセルロース等を使用することができる。
【0027】
金属ナノ粒子ペースト中には、保護剤で被覆保護された金属ナノ粒子(保護金属ナノ粒子)と保護されない金属ナノ粒子を混在させるようにしてもよい。保護金属ナノ粒子と金属ナノ粒子との比は、保護金属ナノ粒子/金属ナノ粒子=1/10〜3/1程度としておけばよい。
【0028】
(b)フッ素原子及び/またはフッ素化合物:
本発明において、金属ナノ粒子ペースト中にフッ素原子やフッ素酸化物といったフッ素成分(以下「フッ素原子等」とする場合がある。)が存在することにより、印刷対象となる基板との濡れ性が悪くなり、ペーストと基板の接触角度を大きくさせることができるため、印刷されたパターンの線幅を均一にすることができ、また、低抵抗率の印刷パターンを簡便に得ることができる。フッ素化合物としては、例えば、フッ化物、トリフルオロ酢酸塩、トリフルオロメタスルホン酸塩、テトラフルオロ酸塩、ヘキサフルオロ酸塩等を使用することができる。本発明の金属ナノ粒子ペーストにおけるフッ素原子等の含有量は、金属ナノ粒子ペースト全体に対して5.0〜20.0質量%であることが好ましい。
【0029】
(c)ケイ素のアルコキシド:
本発明において、ケイ素のアルコキシド(Si(OR)4:Rはアルキル基)は、ペースト中で金属ナノ粒子を閉じこめるマトリックス的な役割を果たし、本発明にあっては、ケイ酸メチル(テトラメトキシシラン)、ケイ酸エチル(テトラエトキシシラン)、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−n−ナトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン等を使用することができる。本発明の金属ナノ粒子ペーストにおけるケイ素のアルコキシドの含有量は、金属ナノ粒子ペースト全体に対して1.0〜10.0質量%以上であることが好ましい。
【0030】
本発明の金属ナノ粒子ペーストを構成する分散溶媒としては、特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価のアルコール化合物やエチレングリコール等の多価アルコール化合物等の種々の化合物を用いることができる。また、これらのアルコールは、その1種を単独で使用してもよく、あるいはその2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
分散溶媒は、金属ナノ粒子ペーストの粘度を決定するものの一つであるが、本発明の金属ナノ粒子ペーストは、基板の回路パターンの形成において、例えば、インクジェット印刷法等を適用して、基板に対して微細なパターンの描画に実施するのに適用される。従って、本発明の金属ナノ粒子ペーストは、採用する描画方法に応じて、それぞれ適合する液粘度を有するように、分散溶媒の量を適宜決定することが好ましい。例えば、インクジェット印刷法を適用する場合には、金属ナノ粒子ペーストの粘度を、概ね5.0mPa・s〜30.0mPa・s(25℃)の範囲に選択することが好ましい。また、この場合には、金属ナノ粒子ペーストにおける分散溶媒の含有量は、金属ナノ粒子ペースト全体に対して概ね5.0〜65.0質量%の範囲に選択されていることが好ましい。金属ナノ粒子を含有するペーストの粘度は、用いるナノ粒子の平均粒径、分散濃度、用いている分散溶媒の種類に依存して決まり、これら3種を適宜選択して、目的とする粘度に調整すればよい。なお、本発明の金属ナノ粒子ペーストにあっては、抵抗率の値が特性を図る一つの指標となり、焼成後の値で概ね500μΩ・cm以下であれば問題はない。
【0032】
なお、本発明の導電性銀ナノ粒子ペーストには、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、樹脂成分等を適宜添加することができる。
【0033】
本発明の金属ナノ粒子ペーストは、対象となる金属ナノ粒子を含む金属塩を、水溶性高分子からなる保護剤の存在下に含アルコール溶媒中で加熱還流し、保護金属ナノ粒子を得る第1工程と、かかる第1工程で得られた保護金属ナノ粒子と、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物及びケイ素のアルコキシドをゾル・ゲル法によりペースト化させる第2工程からなる製造方法を採用することにより効率よく得ることができる。
【0034】
(1)アルコール還元法による金属ナノ粒子の調製(第1工程):
アルコール還元法とは、一般に、金属の塩を保護コロイド存在下で、アルコールと混合させた後加熱還流し、貴金属の微粒子分散液を得ることである。この方法は、操作が簡単で、微粒子分散液が容易に得られる、生成微粒子が小さく、粒度分布が狭い、調整条件により粒径を制御できる、分散液から溶媒を減圧で留去して乾燥後、別の溶媒を加えることにより、保護コロイドの可溶な種々の溶媒中に分散させることができるといった利点がある。また、得られる微粒子分散液は触媒として高活性かつ高選択性であることも特徴の1つである。
【0035】
本発明の第1工程にあっては、所望の金属ナノ粒子を含む金属塩、及び水溶性高分子からなる保護剤をそれぞれ水溶液として、得られた金属塩水溶液と保護剤水溶液を撹拌混合して混合溶液を得る。そして、得られた混合溶液にアルコールを加え、加熱した後に還流して(アルコール還元して)、目的物である保護金属ナノ粒子を得るようにすればよい。
【0036】
対象となる金属ナノ粒子を含む金属塩としては、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化塩、炭酸塩、過塩素酸塩ピロリン酸塩等が挙げられ、例えば、対象となるナノ金属粒子が銀であれば、硝酸銀、酢酸銀、過塩素酸銀、塩化銀等を使用することができる。
【0037】
金属ナノ粒子は、粒子径が小さいため、表面活性が極めて高く凝集し、粒子間で焼結し、再分散が困難となる。このために金属ナノ粒子の表面を保護剤で皮膜し、凝集を防ぐ方法が実用化されている。保護剤で覆われた金属ナノ粒子は、溶媒に分散させると、表面が皮膜されるので長期にわたり凝集することがない。本発明において、保護剤として用いることができる水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone:PVP)(C6H9NO)n、ポリビニルアルコール(Polyvinyl Alcohol:PVA)(CH2CH(OH))n、ポリアクリル酸、シクロデキストリン、メチルセルロース等を使用することができる。これらの水溶性高分子は、比較的弱い吸着力により、金属ナノ粒子を安定化させ、容易に分散させることができる。
【0038】
保護剤の分子量(重量平均分子量:MW)は、生成される保護金属ナノ粒子の平均粒径及び粒度分布を制御することができ、保護剤の分子量を、20000〜400000とすることが好ましい。保護剤の分子量をかかる範囲とすれば、平均粒径を小さく(例えば、5〜50nm)、かつ粒度分布を狭くすることができるため、5〜50nm程度の小さい平均粒径の揃った保護ナノ粒子を得ることができる。保護剤の分子量は、40000〜360000とすることが特に好ましい。
【0039】
また、保護剤のモル数と金属塩のモル量との関係として、金属塩と保護剤のモル量の比(R)が、保護剤のモル量/金属塩のモル量=0.5〜5.0とすることが好ましい。Rをかかる範囲とすれば、保護剤と金属塩の量が適度であり、金属ナノ粒子を保護剤で確実に保護することができ、保護金属ナノ粒子の分散性等も良好となる。また、得られる保護金属ナノ粒子の平均粒径を小さく、粒度分布も狭くすることができる。さらには、硝酸銀の副生も防止することができる。これに対して、Rが0.5より小さいと、金属塩の量が多すぎるため、金属を保護剤で確実に保護することができずに、分散性が悪くなる場合があり、一方、Rが5.0を超えると、金属塩の量が少なすぎ、溶液中に含まれる銀の濃度が低下し、粘性も高くなる等といった点で問題となる場合がある。R(保護剤のモル量/金属塩のモル量)=2.0〜5.0とすることが特に好ましい。
【0040】
金属塩及び保護剤は、それぞれ水、アルコール等を溶媒として金属塩水溶液及び保護剤水溶液とし、この金属塩水溶液と保護剤水溶液を撹拌混合して、混合溶液とすればよい。なお、本発明にあっては、金属塩水溶液と保護剤水溶液の撹拌混合については、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス中で実施することが好ましい。
【0041】
混合溶液に加えられるアルコールは、還元剤としてのはたらきとともに、それ自体が分散剤として作用する。使用できるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価のアルコール化合物やエチレングリコール等の多価アルコール化合物等の種々の化合物を用いることができる。また、これらのアルコールは、その1種を単独で使用してもよく、あるいはその2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本発明にあっては、混合溶液とアルコールの撹拌混合についても、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス中で実施することが好ましい。
【0042】
本発明の第1工程にあっては、金属塩水溶液と保護剤水溶液を撹拌混合して得られた混合溶液にアルコールを加えるのであるが、混合溶液とアルコールの容量比は、混合溶液/アルコール=1/9〜1/1とすることが好ましい。容量比をかかる範囲とすることにより、アルコール還元を効率よく実施することができる。
【0043】
混合溶液とアルコールを混合して還流を行う場合にあっては、両者を混合して、例えば
60〜95℃程度に加熱した後、あるいは加熱しながら行うようにすればよい。なお、還流の具体的な手段については特に制限はなく、従来公知の方法を用いて行えばよい。
【0044】
なお、還流終了後は、得られた保護金属ナノ粒子を乾燥することにより、粉末状の保護金属ナノ粒子を得ることができる。保護金属ナノ粒子における水分等を除去するためには、例えば、エバポレータ等で溶剤を除去して、減圧乾燥等の乾燥を施すことが好ましい。
【0045】
(2)ゾル・ゲル法による金属ナノ粒子ペーストの製造(第2工程):
本発明の製造方法を構成する第2工程は、前記した第1工程で得られた保護金属ナノ粒子と、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物及びケイ素のアルコキシドをゾル・ゲル法によりペースト化する工程である。
【0046】
ここで、ゾル・ゲル法とは、一般に、金属の有機または無機化合物を溶液とし、溶液中で化合物の加水分解・重合反応を進ませてゾルをゲルとして固化し、ゲルの加熱によって酸化物固体を調製する方法である。目的とする酸化物に対応する金属アルコキシドを溶媒のアルコール類に溶かし、溶液とする。その溶液に加水分解に必要な水、触媒としての酸(またはアンモニア)を添加し出発原料とし、室温〜80℃で攪拌してアルコキシドの加水分解と重合を行わせると、金属酸化物の粒子が生成して溶液はゾルとなり、反応が進むと全体で固まったゲルとなる。
【0047】
本発明の第2工程にあっては、ゾル・ゲル法として、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物とアルコールを混合撹拌して混合し、この混合水溶液にケイ素のアルコキシドを加えてさらに混合して第1の混合溶液を調製し、この第1の混合溶液に、第1工程で得られた保護金属ナノ粒子とアルコールの混合溶液(第2の混合溶液)を加えてペースト化する。
【0048】
使用できるフッ素化合物としては、フルオロ酸系のフッ素化合物を使用することが好ましく、具体的には、例えば、フルオロ酢酸塩、フルオロスルホン酸塩等を使用することができる。対象となる金属ナノ粒子が銀であれば、例えば、フッ化銀(I)、フッ化銀(II)、トリフルオロ酢酸銀、トリフルオロメタスルホン酸銀、テトラフルオロホウ酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀、ヘキサフルオロアンチモン酸銀、ペンタフルオロ酪酸銀等を使用することができる。かかるフッ素化合物を適用することにより、得られる金属ナノ粒子ペースト中にフッ素原子ないしはフッ素化合物が存在することになり、印刷対象となる基板との濡れ性を悪くさせ、ペーストと基板の接触角度を大きくさせることができる。これにより、印刷されたパターンの線幅を均一にすることができ、また、低抵抗率の印刷パターンを簡便に得ることができる。
【0049】
また、ペースト中で金属ナノ粒子を閉じこめるマトリックス的な役割を果たすケイ素のアルコキシドとしては、例えば、ケイ酸メチル、ケイ酸エチル、ケイ酸メチル(テトラメトキシシラン)、ケイ酸エチル(テトラエトキシシラン)、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−n−ナトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン等を使用することができる。
【0050】
使用されるアルコールは、得られる金属ナノ粒子ペーストの分散溶媒となるものであり、前記した本発明の金属ナノ粒子ペーストを構成するアルコールと同様、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価のアルコール化合物やエチレングリコール等の多価アルコール化合物等の種々の化合物を用いることができる。また、これらのアルコールは、その1種を単独で使用してもよく、あるいはその2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、これらのアルコールの適用量は、目的物である金属ナノ粒子ペーストの必要とされる粘度に応じて、適宜決定すればよい。
【0051】
なお、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物とアルコールを混合撹拌して混合し、この混合水溶液にケイ素のアルコキシドを加えてさらに混合して第1の混合溶液を調製する場合にあっては、攪拌しても2層に分離してしまう場合があり、この場合には分散助剤として少量のアルコール(エタノール、プロパノール等)を加えてもよい。
【0052】
本発明の金属ナノ粒子ペーストの製造方法の適用例として、第1工程及び第2工程において使用する物質を下記のようにして、金属ナノ粒子ペーストとして銀ナノ粒子ペーストを製造する方法を、図1及び図2を用いて説明する。ここで、図1は、第1工程の一態様のフローチャートであり、図2は、第2工程の一態様のフローチャートである。
【0053】
(第1工程における使用物質)
金属塩:過塩素酸銀
保護剤(水溶性高分子):ポリビニルピロリドン(PVP)
アルコール:エタノール
調製される保護金属ナノ粒子:保護銀ナノ粒子
【0054】
(第2工程における使用物質)
フッ素化合物:トリフルオロ酢酸銀
ケイ素のアルコキシド:ケイ酸エチル
アルコール:エチレングリコール
【0055】
(第1工程)
まず、図1に示すように、過塩素酸銀とイオン交換水を混合することにより、イオン交換水に過塩素酸銀を溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製する。また、これとは別に、ポリビニルピロリドン(PVP)とイオン交換水を混合することにより、イオン交換水にPVPを溶解させてPVP水溶液を調製する。
【0056】
PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で攪拌混合し、混合溶液を得る。この混合溶液にエタノールを加え、アルゴン雰囲気下で攪拌して混合させる。混合させたら、昇温してから還流を実施する。還流が終わったら、常温になるまで放置し、エバポレータ等で溶媒を飛ばした後、減圧乾燥等で乾燥させることにより、PVP保護銀ナノ粒子を得ることができる。
【0057】
(第2工程)
次に、図2に示すように、第1工程で得られたPVP保護銀ナノ粒子にエチレングリコールを加え、攪拌してエチレングリコール中にPVP保護銀ナノ粒子を分散させる。また、これとは別に、トリフルオロ酢酸銀にエチレングリコールを加え、攪拌してエチレングリコール中にトリフルオロ酢酸銀を溶解させておく。
【0058】
トリフルオロ酢酸銀を溶解したエチレングリコールにケイ酸エチルを加えて、さらに少量のエタノールを加えて、攪拌して混合させた(第1の混合溶液)。そして、この混合溶液に対して、エチレングリコールに分散させておいたPVP保護銀ナノ粒子(第2の混合溶液)を加えてさらに攪拌することにより、銀ナノ粒子ペーストを得ることができる。
【0059】
かかる本発明の金属ナノ粒子ペーストは、平均粒径が概ね2〜100nmである金属ナノ粒子を導電性媒体とするとともに、基板との濡れ性を調整するためのフッ素原子等や、金属ナノ粒子のマトリックスとなるケイ素のアルコキシドを必須成分として含有するので、インクジェット印刷法で回路パターンを形成した場合には、金属ナノ粒子同士を低温で融着・焼結させることができるとともに、印刷されたパターンの線幅を均一にすることにより、配線パターンの乱れや断線の発生を防止することができ、低インピーダンスでかつ微細な配線パターンの形成を実現可能な金属ナノ粒子ペーストとなる。
【0060】
本発明の金属銀ナノ粒子ペーストは、インクジェット印刷法やスクリーン印刷法等を用いて、ガラス基板、セラミック基板等の耐熱性基板上に、低インピーダンスでかつ微細な配線パターンの形成に適するものであるが、微細配線パターン等を形成させるための具体的な形成方法としては、従来公知の塗布方法に従って、液粘度を適正化した本発明の金属ナノ粒子ペーストを利用して、目的とする微細なパターンの塗布層を形成するようにすればよい。高い再現性と、描画精度で、微細なパターン描画を行う上では、インクジェット印刷法を適用することが多く、本発明の金属ナノ粒子ペーストは当該印刷法に最適である。なお、導電膜の加熱焼成方法としては特に制限はなく、例えば、50〜300℃、1秒〜60分程度の条件で行うことができる。
【0061】
インクジェット印刷法やスクリーン印刷法を利用する場合であっても、描画される微細パターンの最小配線幅に対して、描画される分散液塗布層の平均厚さは、最小配線幅に対して4/100〜1/1の範囲に選択する必要がある。従って、最終的に得られる緻密な金属焼結体層の平均膜厚は、塗布層中に含有される分散溶媒の蒸散、焼結に伴う凝集・収縮を考慮すると、最小配線幅の10/100〜1/100の範囲に選択することがより合理的である。かかる要件と対応させて、インクジェット印刷法等に適合する金属ナノ粒子ペーストでは、ペースト中における分散溶媒の容積比率範囲を適宜選択することが好ましい。
【0062】
また、塗布対象の基板、基材も特に制限はなく、例えば、セラミック、ガラス、ガラスエポキシ基板、BT基板、及び、半導体を接着するための42アロイ、銅等のリードフレーム等を挙げることができる。また、例えば、コンデンサ、チップ抵抗器、導体回路、リードフレームと半導体の接着部分等に適用するようにしてもよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0064】
[参考例1〜参考例8]
下記の方法を用いて、PVP保護銀ナノ粒子を製造した。なお、使用した試薬及び実験装置は以下のとおりである。
【0065】
(試薬)
(1)過塩素酸銀一水和物(AgClO4=225.5g/mol)
(2)ポリビニルピロリドン(PVP)(C6H9NO)n
MW=10000(PVP10−500G:Sigma−Aldrich)
MW=40000(ポリビニルピロリドンK300:和光純薬工業(株)製)
MW=360000(ポリビニルピロリドンK90:和光純薬工業(株)製)
【0066】
(実験装置)
(1)真空乾燥機(減圧乾燥で使用)
品名 : VOS−200SD(東京理科機械(株)製)
条件 :40℃×20時間
(2)超音波洗浄機(溶液の混合撹拌やアセトン洗浄等で使用)
品名 : US−1R(アズワン社製)
【0067】
[参考例1]
過塩素酸銀1.9836g(8.7965×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)1.9686g(0.01770mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=2.0)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0068】
[参考例2]
過塩素酸銀1.6402g(7.2736×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.8523g(7.6646×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=1.0)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0069】
[参考例3]
過塩素酸銀2.2044g(9.7756×10−3mol)とイオン交換水25mLmLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.6573g(5.9110×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.6)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0070】
参考例1で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図3、参考例2で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図4、参考例3で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図5にそれぞれ示す。なお、UV吸収スペクトルは還流において1時間ごとにサンプルを採取し、還流が終了する9時間後まで(後記する参考例6は4時間後まで)測定したものであり、例えば、図中の「1h」は、還流1時間後の結果を示す(後記のUV吸収スペクトルも同様である。)。銀は、特有の表面プラズモンを持ち、溶液中に銀が存在すれば、通常400nm付近で吸収スペクトルを観察することができる。粒子表面が大きくなれば表面プラズモンをより吸収するので、銀ナノ粒子は、参考例1〜参考例3においても、長時間還流について粒子成長して、ピークを確認することができる。なお、還元前は、溶液は透明で吸収スペクトルは見られない。還流後、溶液は黄色になり吸収スペクトルを確認することができる。
【0071】
参考例1で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを図6、参考例2で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを図7、参考例3で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを図8に示す。図6〜図8に示すように、R=0.6(参考例3)及びR=1.0(参考例2)の結果は、硝酸銀のピークと一致しており、一部に硝酸銀が生成されていることが確認できた。一方、R=2.0(参考例1)では、PVPと同じアモロファス(アモルファス)状態を示した。R=0.6やR=1.0では、PVPが保護剤の役割を果たせていないようである。一部に硝酸銀が生成されるということは、PVPにあるN(窒素原子)が反応に関与していると考えられ、PVPが分解されてしまっていることになる。これは、PVPのNを含む5員環以外の発生源は考えられないからである。一方、R=2.0の場合には、銀がPVPに完全に保護されているので、アモロファス状態となっているものと考えられる。
【0072】
参考例1〜参考例3で得られたPVP保護銀ナノ粒子の粒度分布を図9に示す。図9に示すように、R=2.0(参考例1)では,分布幅が狭く、粒径が約17.8nmという小さな粒子が合成できた。一方、R=1.0(参考例2)やR=0.6(参考例3)では、分布幅が広く、粒径は平均するとそれぞれ、20nm、25〜35nm程度の粒子が生成していることが確認できた。この結果より、PVPが多いほど(Rが大きいほど)分布の幅が狭く、粒子径の均一な粒子が調製できることが分かった。
【0073】
[参考例4]
過塩素酸銀1.7213g(7.6333×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が10000のポリビニルピロリドン(PVP)0.8594g(7.72843×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=1.01)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0074】
[参考例5]
過塩素酸銀3.4681g(0.01538mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が360000のポリビニルピロリドン(PVP)1.7238g(0.01550mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=1.00)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450
mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0075】
参考例4で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図10、参考例5で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図11にそれぞれ示す。図10、図11及び前記した図4に示すように、PVPの分子量が360000(参考例5:図11)及び40000(参考例2:図4)の場合は、銀が溶液中に安定して存在していることが確認できる。一方、PVPの分子量が10000(参考例4:図10)の場合は、少量の光で変色してしまい、UV吸収スペクトルが確認しにくかった。
【0076】
参考例4で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを図12、参考例5で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを図13に示す。図12及び図13に示すように、いずれも硝酸銀のピークが確認でき、PVPの分子量を変化させても、R=1.0の条件では一部に硝酸銀が生成されるということが確認できた。
【0077】
参考例2、参考例4及び参考例5で得られたPVP保護銀ナノ粒子の粒度分布を図14に示す。図14に示すように、粒度分布については、PVPの分子量が360000(参考例5)では、分布幅が狭く、粒径が7.9nmという小さな粒子が合成できた。一方、PVPの分子量が40000(参考例2)及び10000(参考例4)では、分布幅が広く、粒径は平均するとそれぞれ20nm、21.1nmの粒子ができた。この結果より、PVPの分子量が大きいほど分布の幅が狭く、粒子径の均一な粒子を得ることができることが確認できた。
【0078】
[参考例6]
過塩素酸銀1.9355g(8.5831×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.9555g(8.5926×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=1.00)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから4時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0079】
参考例6で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図15に、参考例6で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトル図16にそれぞれ示す。図15及び図16に示すように、還流時間を9時間から4時間に短縮しても銀イオンのスペクトルが確認できる一方、未だ一部には硝酸銀が生成されていることが確認できた。
【0080】
[参考例7]
過塩素酸銀1.5950g(7.0732×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させた。また、分子量が360000のポリビニルピロリドン(PVP)0.7997g(7.1275×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=1.01)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで1時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0081】
参考例7で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを図17に、参考例7で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトル図18にそれぞれ示す。図17及び図18に示すように、常温になるまでの放置時間を13時間から1時間に短縮しても銀イオンのスペクトルが確認できる一方、未だ一部に硝酸銀が生成されていることが確認できた。参考例6及び参考例7に関する結果より、生成物の一部が硝酸銀になる反応は、エバポレータで溶剤を除去している間に起こっていると考えられる。
【0082】
[参考例8]
過塩素酸銀1.9596g(8.6900×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.5829g(5.2420×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させた。得られた銀ナノ粒子1.9128gにアセトンを加え、超音波洗浄機で1時間洗浄し、ろ過後乾燥させた。このアセトンで洗浄する操作を2回繰り返して、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0083】
参考例8で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを図19(アセトン洗浄前とアセトン洗浄後の比較)に示す。アセトン洗浄することで、硝酸銀を作るPVPを取り除くことにより硝酸銀はなくなり、銀となると考えたが、図19に示すように、アセトン洗浄後は、洗浄前に比べて硝酸銀の強度が低くなるものの、依然として硝酸銀も存在し、アセトン洗浄によって完全に硝酸銀を取り除くことはできなかった。
【0084】
[実施例1〜実施例14]
下記の方法を用いて、本発明の銀ナノ粒子ペーストを製造した。なお、使用した試薬及び実験装置(試験例2及び試験例3で使用)は以下のとおりである。
【0085】
(1)トリフルオロ酢酸銀(CF3COOAg)=220.88g/mol
(純度97.0%、和光純薬工業(株)製)
(2)ケイ酸エチルSi(OC2H5)4=208g/mol
(純度99.0%、キシダ化学(株)製)
(3)エチレングリコール特級(純度99.5%以上、キシダ化学(株)製)
【0086】
(実験装置)
(1)マッフル炉:FO410(ヤマト科学(株)製)
(試験例2、試験例3の焼成に使用)
昇温速度:100℃/時間
【0087】
[実施例1]
トリフルオロ酢酸銀4.5193g(0.02046mol)にエチレングリコール10mLを加え、3.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル1.242mL(5.5712×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを3mL加えた。一方、参考例1で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.2085gにエチレングリコール30mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0088】
[実施例2]
トリフルオロ酢酸銀3.6298g(0.01643mol)にエチレングリコール10mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.916mL(4.1087×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを4mL加えた。一方、参考例2で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.1186gにエチレングリコール30mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0089】
[実施例3]
トリフルオロ酢酸銀3.1710g(0.01436mol)にエチレングリコール10mLを加え、2時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル1.051mL(4.7144×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを4mL加えた。一方、参考例4で調製したPVP保護銀ナノ粒子1.8028gにエチレングリコール30mLを加え、3.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0090】
[実施例4]
トリフルオロ酢酸銀3.1745g(0.01437mol)にエチレングリコール10mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル1.044mL(4.6832×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを5mL加えた。一方、参考例5で調製したPVP保護銀ナノ粒子1.8177gにエチレングリコール30mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0091】
[実施例5]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀2.7978g(0.01241mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)1.3984g(0.01258mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=1.01)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0092】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀3.5957 g(0.01628mol)にエチレングリコール5mLを加え、3時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル1.065mL(4.7769×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを4mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.1105gにエチレングリコール15mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0093】
[実施例6]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀1.9511g(8.6523×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.5770g(5.1888×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0094】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀1.2073g(5.4659×10−3mol)にエチレングリコール10mLを加え、3.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.983mL(4.4107×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを5mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.3847gにエチレングリコール30mLを加え、5.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0095】
[実施例7]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀1.7875g(7.9268×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.5288g(4.7553×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0096】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀1.8879g(8.5472×10−3mol)にエチレングリコール10mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.976mL(4.3779×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを6mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子1.9374gにエチレングリコール30mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0097】
[実施例8]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀2.0518g(9.0988×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.6034g(5.4262×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0098】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀2.1194g(9.5953×10−3mol)にエチレングリコール10mLを加え、4時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.729mL(3.2700×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを6mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.0826gにエチレングリコール30mLを加え、5.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0099】
[実施例9]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀2.0755g(9.2039×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.6160g(5.5395×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0100】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀2.5134g(0.01138mol)にエチレングリコール10mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.985mL(4.4183×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを6mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.2555gにエチレングリコール30mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0101】
[実施例10]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀1.8649g(8.2700×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.5525g(4.9685×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0102】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀2.7253g(0.01234mol)にエチレングリコール10mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.982mL(4.4048×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを5mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子1.8077gにエチレングリコール30mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0103】
[実施例11]
トリフルオロ酢酸銀1.9682g(8.9107×10−3mol)にエチレングリコール5mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.988mL(4.4317×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを6mL加えた。一方、参考例3で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.0241gにエチレングリコール15mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0104】
[実施例12]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀1.9654g(8.7157×10−3mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.5835g(5.2473×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0105】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀2.3423g(0.01060mol)にエチレングリコール5mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.993mL(4.4543×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを6mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.0195gにエチレングリコール15mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0106】
[実施例13]
(1)PVP保護銀ナノ粒子の調製:
過塩素酸銀2.2665g(0.01005mol)とイオン交換水25mLを30分攪拌して溶解させて過塩素酸銀水溶液を調製した。また、分子量が40000のポリビニルピロリドン(PVP)0.6727g(6.0494×10−3mol)とイオン交換水25mLを20分攪拌して溶解させてPVP水溶液を調製した(R=0.60)。PVP水溶液に過塩素酸銀水溶液を加えて、アルゴンガス雰囲気下で30分攪拌し、450mLのエタノールを加えさらにアルゴン雰囲気下で30分攪拌した。その後、90℃近くに昇温してから9時間還流した。還流が終わったら、常温になるまで13時間放置し、エバポレータで溶媒を飛ばしてから、減圧乾燥で40℃、20時間乾燥させて、PVP保護銀ナノ粒子を得た。
【0107】
(2)銀ナノ粒子ペーストの調製:
トリフルオロ酢酸銀2.9435 g(0.01333mol)にエチレングリコール5mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.991mL(4.4452×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを6mL加えた。一方、(1)で調製したPVP保護銀ナノ粒子2.0119gにエチレングリコール15mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0108】
[実施例14]
トリフルオロ酢酸銀1.1219g(5.0792×10−3mol)にエチレングリコール3mLを加え、2.5時間攪拌し溶解させた。ここにケイ酸エチル0.399mL(1.7899×10−3mol)を加えて1時間攪拌した。これは、攪拌しても2層に分離するので、分散を良好にさせるためにエタノールを3mL加えた。一方、参考例8で調製したPVP保護銀ナノ粒子1.0464gにエチレングリコール7mLを加え、4.5時間攪拌し分散させた。そして、この両者を混合してさらに1時間攪拌して、本発明の銀ナノ粒子ペーストを得た。
【0109】
[試験例1]
粘度の測定:
実施例2、実施例5、実施例7、実施例9〜実施例14で得られた銀ナノ粒子ペーストについて、下記の測定条件を用いて粘度を測定した。測定結果を表1に示すが、いずれも良好な値であった。
【0110】
(測定条件)
装置名 : 音叉型振動式粘度計 SV−10((株)エーアンドデイ製)
測定温度: 27.5〜55.0℃において2.5℃毎に測定
【0111】
(粘度)
【表1】
【0112】
[試験例2]
抵抗率の測定:
実施例2、実施例5〜実施例7、実施例9〜実施例14で得られた銀ナノ粒子ペーストについて、下記の測定条件を用いて抵抗率を測定した。測定結果を表2に示す。なお、本試験は、下記の温度で焼成したものを測定した。表2に示すように、抵抗率の値は500μm・cm以下であり、良好な値であった。
【0113】
(測定条件)
装置名 : 抵抗率計 ロレスタGP((株)ダイヤインスツルメンツ製)
(JIS K7194準拠)
電圧 : 10V
焼成温度: 180℃、200℃、230℃、250℃
【0114】
(抵抗率)
【表2】
【0115】
[試験例3]
インクジェット印刷試験:
実施例2、実施例5、実施例7及び実施例10で得られた銀ナノ粒子ペーストを用いて、下記の方法でインクジェット印刷試験を行った。なお、全ての試験は、粘度が10mPa・s〜15mP・sの状態で行った。
【0116】
(試験条件)
5分間UV照射したスライドガラスを基板として、この基板上に印刷速度10mm/秒の条件で、目標線幅150μmで長さ50mmの線を10本印刷した。次に、この基板を100℃で10分間乾燥後、180℃で1時間焼成して、線幅の状態を評価した。実施例2の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板の写真を図20A、図20B(印刷直後)及び図21A、図21B(焼成後)、実施例5の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板の写真を図22A、図22B(印刷直後)及び図23A、図23B(焼成後)、実施例7の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板の写真を図24A、図24B(印刷直後)及び図25A、図25B(焼成後)、実施例10の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板の写真を図26A、図26B(印刷直後)及び図27A、図27B(焼成後)にそれぞれ示す。なお、図20〜図27において、(A)は基板の全体写真、(B)は線の拡大写真である。
【0117】
実施例2(図20及び図21)、実施例7(図24及び図25)及び実施例10(図26及び図27)はエチレングリコールの量が40mLで、粘度は実施例5と比較すると低い。印刷直後は、バルジ(出っ張り)はあるものの繋がった線が引けているように見えるが、少し時間を置いておくとバルジの部分にインクが集まってしまい、線は切れてしまった。
【0118】
一方、実施例5(図22及び図23)は、印刷直後もバルジはほとんどなく、時間を置いても連続して繋がった線を形成することができた。これは、実施例2、実施例7及び実施例10においては、10〜15mPa・sになる温度も低く、印刷前と印刷後の粘度の差があまりないことが関係するのではないかと考えられる。実施例5はこれらより粘度が高いため、印刷前と印刷後のエンド変化が大きかったため、印刷後にもバルジができず、良好な線を引くことができたものと考えられる。線は焼成後も切れることなく繋がっていた。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、例えば、デジタル高密度配線に対応した低インピーダンスでかつ極めて微細な回路パターンを、インクジェット印刷法等を利用して形成するための金属ナノ粒子ペースト及び当該金属ナノ粒子ペーストの製造方法として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】第1工程の一態様のフローチャートを示した図である。
【図2】第2工程の一態様のフローチャートを示した図である。
【図3】参考例1で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図4】参考例2で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図5】参考例3で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図6】参考例1で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図7】参考例2で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図8】参考例3で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図9】参考例1〜参考例3で得られたPVP保護銀ナノ粒子の粒度分布を示した図である。
【図10】参考例4で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図11】参考例5で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図12】参考例4で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図13】参考例5で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図14】参考例2、参考例4及び参考例5で得られたPVP保護銀ナノ粒子の粒度分布を示した図である。
【図15】参考例6で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図16】参考例6で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図17】参考例7で得られたPVP保護銀ナノ粒子のUV吸収スペクトルを示した図である。
【図18】参考例7で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図19】参考例8で得られたPVP保護銀ナノ粒子のX線回折スペクトルを示した図である。
【図20A】実施例2の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図20B】実施例2の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図21A】実施例2の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図21B】実施例2の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図22A】実施例5の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図22B】実施例5の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図23A】実施例5の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図23B】実施例5の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図24A】実施例7の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図24B】実施例7の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図25A】実施例7の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図25B】実施例7の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図26A】実施例10の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図26B】実施例10の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(印刷直後)の写真を示す図である。
【図27A】実施例10の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【図27B】実施例10の銀ナノ粒子ペーストを印刷した基板(焼成後)の写真を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)の成分を含むことを特徴とする金属ナノ粒子ペースト。
(a)金属ナノ粒子
(b)フッ素原子及び/またはフッ素化合物
(c)ケイ素のアルコキシド
【請求項2】
前記金属ナノ粒子の含有量が、金属ナノ粒子ペースト全体に対して2.0〜30.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子が銀ナノ粒子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項4】
対象となる金属ナノ粒子を含む金属塩を、水溶性高分子からなる保護剤の存在下に含アルコール溶媒中で加熱還流し、保護金属ナノ粒子を得る第1工程と、
前記第1工程で得られた保護金属ナノ粒子と、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物及びケイ素のアルコキシドをゾル・ゲル法によりペースト化させる第2工程を含むことを特徴とする金属ナノ粒子ペーストの製造方法。
【請求項5】
前記第1工程における金属塩と保護剤のモル量の比(保護剤のモル量/金属塩のモル量=R)が、R=0.5〜5.0であることを特徴とする請求項4に記載の金属ナノ粒子ペーストの製造方法。
【請求項6】
前記保護剤の分子量(重量平均分子量:MW)が20000〜400000であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の金属ナノ粒子ペーストの製造方法。
【請求項7】
前記保護剤がポリビニルピロリドン(PVP)であることを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれかに記載の金属ナノ粒子ペーストの製造方法。
【請求項1】
下記(a)〜(c)の成分を含むことを特徴とする金属ナノ粒子ペースト。
(a)金属ナノ粒子
(b)フッ素原子及び/またはフッ素化合物
(c)ケイ素のアルコキシド
【請求項2】
前記金属ナノ粒子の含有量が、金属ナノ粒子ペースト全体に対して2.0〜30.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子が銀ナノ粒子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項4】
対象となる金属ナノ粒子を含む金属塩を、水溶性高分子からなる保護剤の存在下に含アルコール溶媒中で加熱還流し、保護金属ナノ粒子を得る第1工程と、
前記第1工程で得られた保護金属ナノ粒子と、対象となる金属ナノ粒子を含むフッ素化合物及びケイ素のアルコキシドをゾル・ゲル法によりペースト化させる第2工程を含むことを特徴とする金属ナノ粒子ペーストの製造方法。
【請求項5】
前記第1工程における金属塩と保護剤のモル量の比(保護剤のモル量/金属塩のモル量=R)が、R=0.5〜5.0であることを特徴とする請求項4に記載の金属ナノ粒子ペーストの製造方法。
【請求項6】
前記保護剤の分子量(重量平均分子量:MW)が20000〜400000であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の金属ナノ粒子ペーストの製造方法。
【請求項7】
前記保護剤がポリビニルピロリドン(PVP)であることを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれかに記載の金属ナノ粒子ペーストの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図21A】
【図21B】
【図22A】
【図22B】
【図23A】
【図23B】
【図24A】
【図24B】
【図25A】
【図25B】
【図26A】
【図26B】
【図27A】
【図27B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図21A】
【図21B】
【図22A】
【図22B】
【図23A】
【図23B】
【図24A】
【図24B】
【図25A】
【図25B】
【図26A】
【図26B】
【図27A】
【図27B】
【公開番号】特開2008−235035(P2008−235035A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73708(P2007−73708)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
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