説明

金属パターン形成用インクジェットインクおよび金属パターン形成方法

【課題】銅イオン錯体の還元条件を選択することで、金属銅の生成が好ましい状態で進行し、緻密で抵抗値が良好な金属膜の形成が可能な金属パターン形成用インクジェットインクおよびそれを用いた金属パターン形成方法を提供する。
また、特に触媒(あるいは物理現像核)を使用することなく金属銅に還元可能な金属パターン形成用インクジェットインクおよびそれをもちいた金属パターン形成方法を提供する。
【解決手段】銅金属塩、錯化剤および還元剤を含有する金属パターン形成用インクジェットインクであって、還元剤がヒドラジン系化合物であり、かつ酸化還元電位に関する特定関係式(1)を満たすように前記銅金属塩、錯化剤および還元剤により調整されたことを特徴とする金属パターン形成用インクジェットインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属パターン形成用インクジェットインクおよびそれを用いた金属パターン形成方法に関する。さらに詳しくは、回路に用いる金属パターン形成用インクジェットインクおよびそれを用いた金属パターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回路に用いる金属パターンの形成は、従来レジスト材料を用いた形成方法により行われてきた。すなわち金属薄層上にレジスト材料を塗布し、必要なパターンを光露光した後現像により不要なレジストを除去し、むき出しとなった金属薄をエッチングにより除去し、さらに残存するレジスト部分を剥離することで金属パターンを記録した金属薄を形成していた。
【0003】
しかしながらこの方法では工程が多岐にわたり時間がかかること、また不要なレジスト、金属薄を除去することなど、生産時間、およびエネルギーや原材料使用効率の点から無駄が多く、改善が要求されていた。
【0004】
近年、粒径が100nm以下の、いわゆる金属ナノ粒子を含有するインクを用い、スクリーン印刷やインクジェット印刷などで金属パターンを直接描画する金属パターン形成方法に注目が集まっている(特許文献1参照)。
【0005】
これは粒径を極小にすることで融点が低下することを活用し、200〜300℃程度の比較的低温で焼成することにより回路を形成する方法である。本技術は確かに工数の低減、原材料の利用効率向上などの利点はあるものの、金属粒子同士を完全に融合させることが難しく、焼成後の金属パターンにおいて電気抵抗がバルク金属同等まで低下しない、という問題が未解決で残っていた。
【0006】
また、金属イオン溶液と還元剤を含有する溶液を別々に基板に付着させて反応させ導電性金属領域を形成させている(特許文献2参照)。基板上でこれらの溶液をほぼ同時に接触させる場合では、正確な着弾精度が求められ、基板上で各々の液滴がウェットonウェット(着弾のちに乾燥固化する前の濡れた状態で次の液滴がその上に着弾すること)による着弾の乱れなどの欠点があった。どちらかの溶液を着弾、乾燥のち次の溶液を着弾させる場合では、パターン形成に倍以上の時間を要し好ましくない。さらに金属イオンを還元させる技術では予め、基板に酢酸パラジウム等の触媒を付与することが前提のパターン形成方法であり、こうした触媒付与工程が必要となるのが欠点であった。
【0007】
こうした還元反応における触媒(あるいは物理現像核)を用いないものとして、金属塩と加熱下で還元性有する還元剤を含有する溶液から導電パターンを形成が開示されているが、金属イオンに配位して安定化させる錯化剤が使用されていない(特許文献3参照)。そのため、金属塩の還元反応が進行しやすくなり液保存性に乏しいものになっていた。
【特許文献1】特開2002−299833号公報
【特許文献2】特表2006−516818号公報
【特許文献3】特開2004−214236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その第1の解決課題は、銅イオン錯体の還元条件を選択することで、金属銅の生成が好ましい状態で進行し、緻密で抵抗値が良好な金属膜の形成が可能な金属パターン形成用インクジェットインクおよびそれを用いた金属パターン形成方法を提供することである。
【0009】
また、第2の解決課題は、特に触媒(あるいは物理現像核)を使用することなく金属銅に還元可能な金属パターン形成用インクジェットインクおよびそれをもちいた金属パターン形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0011】
1.銅金属塩、錯化剤および還元剤を含有する金属パターン形成用インクジェットインクであって、還元剤がヒドラジン系化合物であり、かつ酸化還元電位に関する下記関係式(1)を満たすように前記銅金属塩、錯化剤および還元剤により調整されたことを特徴とする金属パターン形成用インクジェットインク。
関係式(1):E1−E2=0.65〜0.95(V)
ここで、E1:錯化剤と銅イオンで形成される銅イオン錯体の酸化還元電位、E2:還元剤の酸化還元電位、ただし、当該酸化還元電位は、25℃かつ当該金属パターン形成用インクジェットインクと同一のpH値における測定値とする。
【0012】
2.前記金属パターン形成用インクジェットインクの25℃におけるpH値が11.0〜14.0であることを特徴とする前記1に記載の金属パターン形成用インクジェットインク。
【0013】
3.金属パターン形成用インクジェットインクを調製する際の前記錯化剤の添加量が、前記銅金属塩に対するモル比で0.8〜3.0であることを特徴とする前記1又は2に記載の金属パターン形成用インクジェットインク。
【0014】
4.前記錯化剤がアンモニア又はポリアミン系化合物であることを特徴とする前記1〜3のいずれか一項に記載の金属パターン形成用インクジェットインク。
【0015】
5.前記酸化還元電位に関する関係式が、下記関係式(2)で表現されることを特徴とする前記1〜4のいずれか一項に記載の金属パターン形成用インクジェットインク。
関係式(2):E1−E2=0.70〜0.85(V)
ここで、E1、E2の意義、および酸化還元電位の測定条件は、前記関係式(1)の場合と同じである。
【0016】
6.前記1〜5記載のいずれか一項に記載の金属パターン形成用インクジェットインクによって基板上に金属パターンを形成させることを特徴とする金属パターン形成方法。
【0017】
7.前記6に記載の金属パターン形成方法において、銅イオン錯体を還元反応により還元して金属銅を形成する際に、当該還元反応に対し触媒作用を有する化合物を用いないことを特徴とする金属パターン形成方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記手段により、銅イオン錯体の還元条件を選択することで、金属銅の生成が好ましい状態で進行し、緻密で抵抗値が良好な金属膜の形成が可能な金属パターン形成用インクジェットインクおよびそれを用いた金属パターン形成方法を提供することができる。また、特に触媒(あるいは物理現像核)を使用することなく金属銅に還元可能な金属パターン形成用インクジェットインクおよびそれをもちいた金属パターン形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の金属パターン形成用インクジェットインク(以下において単に「インクジェットインク」または「インク」ともいう。)は、銅金属塩、錯化剤および還元剤を含有する金属パターン形成用インクジェットインクであって、還元剤がヒドラジン系化合物であり、かつ酸化還元電位に関する前記関係式(1)を満たすように前記銅金属塩、錯化剤および還元剤により調整されたことを特徴とする。この特徴は、請求項1〜7に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0020】
なお、本願において、「酸化還元電位に関する前記関係式(1)を満たすように銅金属塩、錯化剤および還元剤により調整された」とは、銅金属塩、錯化剤および還元剤それぞれに属する化合物の選択およびそれらの使用量(添加量)、使用比率、濃度などの最適化実験等により、所定の酸化還元電位関係式を満たすように調整されたことをいう。
【0021】
本発明の好ましい実施態様としては、前記酸化還元電位に関する関係式が、下記関係式(2)で表現される態様である。
(関係式2):E1−E2=0.70〜0.85(V)
なお、E1、E2の意義、および酸化還元電位の測定条件は、前記関係式1の場合と同じである。
【0022】
また、本発明においては、前記金属パターン形成用インクジェットインクの25℃におけるpH値が11.0〜14.0であること、金属パターン形成用インクジェットインクを調製する際の前記錯化剤の添加量が、前記銅金属塩に対するモル比で0.8〜3.0であること、前記錯化剤がアンモニア又はポリアミン系化合物であることなどが好ましい実施である。
【0023】
本発明の金属パターン形成用インクジェットインクは、基板上に金属パターンを形成させる金属パターン形成方法において、好適に使用することができる。なお、当該金属パターン形成方法においては、銅イオン錯体を還元反応により還元して金属銅を形成する際に、当該還元反応に対し触媒作用を有する化合物を用いない実施態様とすることも好ましい。
【0024】
以下、本発明とその構成要素、および本発明を実施するための最良の形態・態様等について詳細な説明をする。
【0025】
〈金属イオンの還元反応による金属生成〉
還元剤が酸化されることによって放出される電子が、溶液中の金属イオン(本発明では銅イオン)に供給され(還元し)、金属として生成する。
【0026】
R(還元剤)+H2O→Ox(酸化物)+H++e-
n++ne-→M0(金属)
この反応は酸化還元反応なので、反応が進行するしないは還元剤と金属イオンの酸化還元電位に影響を受ける。またこの電位はpH値によっても変わるので、電位−pH図を利用して説明する(図1参照)。
【0027】
金属イオン(塩イオンと錯体イオン)と還元剤の電位−pH図の一例を示した。一般にpHがおおきくなると酸化還元電位が卑(小さく)となる。ここで金属イオンと還元剤と組合せを考えると、金属イオンの電位(E0)が、還元剤の電位(E2)と比較して貴(大きい)の場合に還元反応が進行する。さらに定量的に進行するには、E0とE2がある程度は離れている必要がある。しかし、あまり離れすぎても、還元反応が急激に進行し生成する金属粒子が粗大粒子となり、回路等の配線の用途としては、導電性や密着性に対して好ましく、ある一定範囲にあることが必要である。
【0028】
また金属塩と錯化剤で形成された錯体の電位(E1)は、金属イオンの電位(E0)に比べ、電位が卑(小さく)なり還元されにくい方向になる。しかしpH値変動に対して、酸化還元電位が一定しており還元が安定して進行する。また様々な条件下におけるインク保存安定性においても優れたものとなる。
【0029】
銅金属イオンを還元可能な還元剤は種々ものが知られており、種類を選択することが可能である。しかしながら、還元剤の酸化還元電位(E2)の大きさおよび還元速度や得られる金属膜質から還元剤として、ヒドラジン系化合物で本発明の効果が得られることを見出した。
【0030】
本発明のインクにおいては、銅金属塩と当該銅金属塩と錯体形成する錯化剤を含有することが特徴である。さらにこれらの酸化還元電位の差が一定範囲にあることが、還元反応を定量的に進行し、かつ生成した金属の粒子が微粒かつ緻密となり電導度および基板に対する接着性において良好となる。
【0031】
錯化剤と銅イオンで形成される銅イオン錯体の酸化還元電位をE1、還元剤の酸化還元電位をE2とすると、E1−E2が0.65〜0.95(V)であることが必要であり、0.70〜0.85(V)であることが好ましい。ただし、当該酸化還元電位は、25℃かつ当該金属パターン形成用インクジェットインクと同一のpH値における測定値とする。
【0032】
また、還元反応が進行していくと反応系のpH値も低下していき、初期状態と同等の反応にならず生成する銅膜の緻密に影響を与えことが多い。こうした欠点を解消する手段として、初期のインクの25℃におけるpH値が11.0〜14.0の範囲にあることが好ましい。
【0033】
<酸化還元電位の決定方法>
《錯化剤と銅イオンで形成される銅イオン錯体の酸化還元電位E1の測定方法》
0.1質量%の銅金属塩と当モルの錯化剤を含有した水溶液を水酸化ナトリウムあるいは塩酸を用いて、25℃において、pH値を所用な値に調整する(pH値としては、7〜14範囲のものを8種用意する。)。
【0034】
次に、酸化還元電位(ORP)計にて、25℃において、ORP値(V)を測定する。なお、錯化剤と銅イオンで形成される銅イオン錯体が、複数種ある場合においては、最大濃度の銅イオン錯体種の酸化還元電位をE1とする。
【0035】
《還元剤の酸化還元電位E2の測定方法》
0.1質量%の還元剤を含有した水溶液を水酸化ナトリウムあるいは塩酸を用いて、25℃において、pH値を所用な値に調整する(pH値としては、7〜14範囲のものを8種用意する)。
【0036】
次に、酸化還元電位(ORP)計にて、25℃において、ORP値(V)を測定する。
【0037】
上記測定値を横軸:pH値、縦軸:酸化還元電位のグラフにプロットし、E1およびE2同士を線でつなぐ。
【0038】
本発明のインクのpH値を測定し、グラフ上でそのpH値に対応したE1とE2を求め、前記関係式(E1−E2)を計算する。
【0039】
〈銅金属塩〉
本発明に係る銅金属塩としては、例えば塩化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(I)、臭化銅(II)、よう化銅(I)、塩化銅(II)カリウム、過塩素酸銅(II)、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)、硫酸銅(II)アンモニウム、炭酸銅(II)、ギ酸銅(II)、酢酸銅(II)、2−エチルヘキサン酸銅(II)、ステアリン酸銅(II)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)、シュウ酸銅(II)、酒石酸銅(II)、安息香酸銅(II)、ナフテン酸銅、クエン酸銅(II)、銅(II)アセチルアセトナート、銅(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナート、銅(II)ベンゾイルアセトナート、エチレンジアミン四酢酸二銅、酸化銅(II)、水酸化銅などが挙げられる。溶解性やコストの観点から、硫酸銅(II)、ギ酸銅(II)、酢酸銅(II)が好ましい。
【0040】
銅金属塩のインクへの添加量としては、1質量%〜30質量%の範囲が好ましい。
【0041】
〈錯化剤〉
本発明に係る錯化剤としては、アンモニア、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアミン系化合物、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンアルカノール系化合物、グリシン、アラニン等のアミノ酸系化合物、エチレンジアミン四酢酸およびその塩等のアミノカルボン酸系化合物、酒石酸およびその塩、クエン酸および塩、グルコール酸およびその塩等のオキシカルボン酸系化合物などが挙げられる。このなかでもアンモニアとポリアミン系化合物が好ましい。
【0042】
銅金属塩に錯化剤が配位する場合、銅金属塩溶液の吸収スペクトルが変化する。これは溶液の色変動が起こるため目視で確認できるが、UV吸収スペクトルを測定して確認することも可能である。
【0043】
錯化剤の添加量としては、銅金属塩への配位と安定化の必要性から、銅金属塩に対するモル比で0.8〜5.0であることが好ましい。
【0044】
〈還元剤〉
本発明に係る還元剤として用いられるヒドラジン系化合物としては、ヒドラジン、塩化ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、メチルヒドラジン、1,1−ジメチルヒドラジン、1,2−ジメチルヒドラジン、t−ブチルヒドラジン、ベンジルヒドラジン、2−ヒドラジノエタノール、1−n−ブチルー1−フェニルヒドラジン、フェニルヒドラジン、1−ナフチルヒドラジン、4−クロロフェニルヒドラジン、1,1−ジフェニルヒドラジン、p−ヒドラジノベンゼンスルホン酸、1,2−ジフェニルヒドラジン、アセチルヒドラジン、ベンゾイルヒドラジンなどが挙げられる。
【0045】
還元剤の添加量としては、銅金属塩に対するモル比で0.8〜10であることが好ましい。
【0046】
〈溶媒〉
本発明に係る溶媒としては、水性液媒体が好ましく用いられ、前記水性液媒体としては、水及び水溶性有機溶剤等の混合溶媒が更に好ましく用いられる。好ましく用いられる水溶性有機溶剤の例としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)等が挙げられる。
【0047】
〈界面活性剤〉
本発明のインクに好ましく使用される界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド等の活性剤、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は顔料の分散剤としても用いることが出来、特にアニオン性及びノニオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0048】
〈各種添加剤〉
本発明においては、その他に従来公知の添加剤を含有することができる。例えば蛍光増白剤、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、増粘剤、帯電防止剤、マット剤、水溶性多価金属塩、酸塩基、緩衝液等pH調整剤、酸化防止剤、表面張力調整剤、非抵抗調整剤、防錆剤、無機顔料等である。
【0049】
〈基板〉
本発明において用いられる基板としては、絶縁性のものであればどのようなものであっても良く、例えばガラスやセラミックス等の剛性の強いものから、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリイミドなどの樹脂から構成されるフィルム状のものが挙げられる。
【0050】
本発明において用いられる基板において、密着性の改良のため、いわゆるプライマー処理やプラズマ処理を行っていても良い。同様にして基板上に下引き層を設けてもよい。下引き層の材料としては、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂やシランカップリング剤などのカップリング剤、コロイダルシリカなどの無機顔料微粒子などが挙げられる。
【0051】
〈金属銅の生成方法〉
本発明での金属銅は、錯化剤が配位した銅イオン錯体が還元剤によって還元されることによって生成する。この場合、加熱することで還元が進行しやすくなる。加熱温度としては反応速度や基板へのダメージから50℃〜150℃の範囲が好ましい。加熱は、基板全体でもパターン形成した部分のみでもかまわない。
【0052】
金属塩を還元して金属を生成する場合、還元反応進行をしやすくさせる等の目的で金属銅を生成するプロセスにおいて、還元反応の触媒作用させる化合物を活用することが多い。例えば、ハロゲン化銀の場合は物理現像核(コロイド貴金属粒子やコロイド重金属硫化化合物)が、無電解金属めっきではパラジウム/スズ触媒などが用いられる。しかしながら、本発明の金属パターン形成においては、これらの還元触媒作用の化合物は用いないのが好ましい。これは触媒化合物を用いると、触媒化合物周辺に還元された金属が生成し、触媒作用が低下するため金属膜厚が小さくなる。一方、本発明のように触媒作用を利用しない場合は、金属膜厚を大きくでき、かつ膜均一性が良好となる。
【0053】
〈金属パターンの形成方法〉
本発明のインクをインクジェット用ヘッドから基板へ吐出させ基板上にパターン形成させ、基板上にて金属銅に還元させて、回路等の配線として活用する。吐出させる液滴の大きさとしては特に制限はないが、回路配線等の場合は微細線の形成が必要となるので50pl以下、好ましくは20pl以下の液滴量にする。
【0054】
インクジェットヘッドとしては特に制限はなく、ピエゾ型、サーマル型いずれのヘッドを用いることが可能である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、実施例中で「%」は、特に断りのない限り質量%を表す。
【0056】
(インクの調整)
酢酸銅(II)一水和物2.0質量%をグリセリン20質量%、水(残量%)に溶解させた。そこにエチレンジアミン1.5質量%を添加させると、溶液の色が鮮やかなブルー色から濃紺色へ変化し、錯化剤と酢酸銅で錯体を形成したことを確認した。これに、還元剤であるヒドラジン3.0質量%を添加した。最後に、25℃において、表1に記載のpH値になるように、水酸化ナトリウムあるいは塩酸を添加し、インク1を作製した。残りのインクについては表1および表2に記載の通りに作製した。またインク7以外は、銅金属塩の溶液に錯化剤を添加すると、溶液の色が変化したので錯化剤が配位したことを確認した。
【0057】
なお、pH測定は、pH複合電極GST−5711C(東亜DKK(株)製)を取り付けたpHメータHM−20(東亜DKK(株)製)を用いて液温25℃にて測定した。
【0058】
(酸化還元電位の測定)
〈錯化剤と銅イオンで形成される金属イオン錯体の酸化還元電位〉
表1および表2に記載のインクにおいて、還元剤のみ添加しない溶液を作製した。さらに水酸化ナトリウムあるいは塩酸にて、25℃において、表2に記載のpH値になるように溶液を調整した。この溶液についてORP複合電極PST−5721C(東亜DKK(株)製)を取り付けた酸化還元電位計HM−20(東亜DKK(株)製)を用いて測定した。
【0059】
〈還元剤の酸化還元電位〉
表1および表2に記載のインクにおいて、銅金属塩と錯化剤を除いた溶液を作製した。さらに水酸化ナトリウムあるいは塩酸にて、25℃において、表2に記載のpH値になるように溶液を調整した。この溶液についてORP複合電極PST−5721C(東亜DKK(株)製)を取り付けた酸化還元電位計HM−20(東亜DKK(株)製)を用いて測定した。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
(金属パターン形成方法)
ポリイミドフィルム(厚さ140μm)の表面にプラズマ処理を施した。搬送系オプションXY100に装着したインクジェットヘッド評価装置EB100(コニカミノルタIJ(株)製)にインクジェットヘッドKM256Aq水系ヘッドを取り付け、上記で作製したインクが吐出できるようにした。ステージに前記ポリイミドフィルムを取り付けさらにポリイミドフィルムの表面が100℃になるように加熱しながら、インクからポリイミドフィルム上にインクを吐出し金属パターンを形成した。
【0063】
なお、インク6およびインク7の場合は、Pd触媒を付与したポリイミドフィルム上に金属パターンを形成させた。Pd触媒の付与方法としては、アルカップアクチベータMAT(A液+B液:上村工業(株)製)の溶液にポリイミドフィルムを規定の温度、時間で浸漬させた。
【0064】
(評価)
〈膜厚〉
ポリイミドフィルム上に形成された金属パターンの膜厚は、非接触型3次元表面解析装置(WYKO社 RST/PLUS)を用いて、金属パターンと基板との高低差を求めて膜厚を測定した。
○:膜厚の平均値が、0.3μm以上
△:膜厚の平均値が、0.1μm以上0.3μm未満
×:膜厚の平均値が、0.1μm未満
〈抵抗率〉
抵抗率計ロレスタGP(ダイアインスツルメンツ(株)製)に四探針プローブPSPを接続し、金属パターン部の抵抗率を測定した。
○:抵抗率の平均値が、10μΩ・cm未満
△:抵抗値の平均値が、10μΩ・cm以上50μΩ・cm未満
×:抵抗率の平均値が、50μΩ・cm以上
〈密着性〉
JIS D0202−1988に準拠してサンプルのテープ剥離試験を行った。評価試料の描画パターンを1mmずつ、計10マス区切り、セロハンテープ(「CT24」,ニチバン(株)製)を用い、指の腹でフィルムに密着させた後剥離した。判定は10マスの内、剥離しないマス目の数から以下の規準により評価した。
【0065】
○:剥離したマス目が1マス以下
△:剥離したマス目が4〜2マス
×:5マス以上剥離した。
【0066】
上記評価結果を表3にまとめて示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表3に示した結果から明らかなように、本発明に係る実施例においては、平均膜厚が適度に大きく、抵抗値が良好で、かつ密着性(耐剥離性)が優れていることが分かる。
【0069】
すなわち、本発明の上記手段により、銅イオン錯体の還元条件を選択することで、金属銅の生成が好ましい状態で進行し、緻密で抵抗値が良好な金属膜の形成が可能な金属パターン形成用インクジェットインクおよびそれを用いた金属パターン形成方法を提供することができることが分かる。また、特に触媒(あるいは物理現像核)を使用することなく金属銅に還元可能な金属パターン形成用インクジェットインクおよびそれをもちいた金属パターン形成方法を提供することができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】25℃における酸化還元電位とインクのpH値との関係を示す図
【符号の説明】
【0071】
0 銅イオンの酸化還元電位
1 銅イオン錯体の酸化還元電位
2 還元剤の酸化還元電位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅金属塩、錯化剤および還元剤を含有する金属パターン形成用インクジェットインクであって、還元剤がヒドラジン系化合物であり、かつ酸化還元電位に関する下記関係式(1)を満たすように前記銅金属塩、錯化剤および還元剤により調整されたことを特徴とする金属パターン形成用インクジェットインク。
関係式(1):E1−E2=0.65〜0.95(V)
ここで、E1:錯化剤と銅イオンで形成される銅イオン錯体の酸化還元電位、E2:還元剤の酸化還元電位、ただし、当該酸化還元電位は、25℃かつ当該金属パターン形成用インクジェットインクと同一のpH値における測定値とする。
【請求項2】
前記金属パターン形成用インクジェットインクの25℃におけるpH値が11.0〜14.0であることを特徴とする請求項1に記載の金属パターン形成用インクジェットインク。
【請求項3】
金属パターン形成用インクジェットインクを調製する際の前記錯化剤の添加量が、前記銅金属塩に対するモル比で0.8〜3.0であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属パターン形成用インクジェットインク。
【請求項4】
前記錯化剤がアンモニア又はポリアミン系化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属パターン形成用インクジェットインク。
【請求項5】
前記酸化還元電位に関する関係式が、下記関係式(2)で表現されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属パターン形成用インクジェットインク。
関係式(2):E1−E2=0.70〜0.85(V)
ここで、E1、E2の意義、および酸化還元電位の測定条件は、前記関係式(1)の場合と同じである。
【請求項6】
請求項1〜5記載のいずれか一項に記載の金属パターン形成用インクジェットインクによって基板上に金属パターンを形成させることを特徴とする金属パターン形成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の金属パターン形成方法において、銅イオン錯体を還元反応により還元して金属銅を形成する際に、当該還元反応に対し触媒作用を有する化合物を用いないことを特徴とする金属パターン形成方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−114341(P2009−114341A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289423(P2007−289423)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】