説明

金属化フィルムコンデンサ

【課題】モールド樹脂体の厚みを厚くすることなく、防水性や耐湿性に優れた金属化フィルムコンデンサを提供する。
【解決手段】金属化フィルムを巻き回し、もしくは積層させてなる金属化フィルム柱体1の2つの電極取り出し面に金属溶射部2,2が形成され、金属化フィルム柱体1の該電極取り出し面以外の周面に親水性フィルム7が被膜され、金属溶射部2に外部引き出し端子3が接合され、これらがケース5内に収容されるとともにケース5内のモールド樹脂体6に埋設されて金属化フィルムコンデンサ10が構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻回し型もしくは積層型の金属化フィルム柱体がケース内に収容され、かつケース内のモールド樹脂体内に埋設されてなる金属化フィルムコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の金属化フィルムを巻き回してなる巻回し型、もしくは金属化フィルムを積層してなる積層型の金属化フィルムコンデンサは、図5で示すように、巻き回しもしくは積層してなる金属化フィルム柱体fの両端の2つの電極取り出し面に金属溶射部m,m(もしくはメタリコン、メタリコン電極)が形成され、これら2つの金属溶射部m,mに外部引き出し端子b,bがはんだ接合hされたものがケースc内に収容され、ケースc内に形成されたモールド樹脂体jにて封止された構造のものが一般的である。より詳細には、金属化フィルム柱体fの周面にポリエチレンテレフタレート(PET)などからなる防水性フィルムbfを数十回程度巻装して防水被膜を形成し、この外側にモールド樹脂体jが形成されている。なお、この一般構造の金属化フィルムコンデンサがたとえば特許文献1で開示されている。
【0003】
たとえば巻回し型の金属化フィルムコンデンサにおいては、防水性と防振性の観点から上記モールド樹脂体の素材にエポキシ樹脂が一般に適用されているが、このモールド樹脂材量の材質や量によっては水分がモールド樹脂体内に透湿し、金属化フィルム(より具体的には誘電体フィルム表面に蒸着されたアルミニウム膜等)の酸化や誘電体フィルムの絶縁破壊強さの低下を引き起こし、コンデンサ素子の静電容量低下や耐電圧低下を引き起こすといった課題がある。
【0004】
そこで、図5で示すように、金属化フィルム柱体fを封止するモールド樹脂体jの厚み(金属化フィルム柱体fの表面からのモールド樹脂体jの表面までの厚み:t1)を厚くすることで水分の浸入を阻止するようにしているが、モールド樹脂量が多くなることで材料コスト増とコンデンサ重量増の課題が生じてしまう。
【0005】
車載用コンデンサの場合には、容量が数百μFと大容量かつ大型のものとなり易いことから使用されるモールド樹脂材量も多くなるのが一般的である。モールド樹脂材量が多くなることで上記するコスト増と重量増という課題に加えて、樹脂材料が硬化した後の残留応力増を招いてクラックが生じ易くなり、本来の防水機能が十分に発揮できないという新たな課題にも繋がる。この対策としてモールド樹脂体表面をウレタン樹脂のような低弾性樹脂材で被覆するといった方策もあるが、製造工数の増加やコンデンサ構成部材数の増加に加え、さらなる重量増といった課題が生じてしまう。
【0006】
したがって、モールド樹脂体の厚みを厚くしたり、防水フィルムで金属化フィルム柱体の周囲を被覆してその防水性や耐湿性を向上させるというこれまでの技術思想とは全く異なる技術思想の下で、上記する種々の課題の全てを解消することのできる金属化フィルムコンデンサの開発が当該技術分野で切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−16161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、モールド樹脂体の厚みを厚くすることなく、防水性や耐湿性に優れた金属化フィルムコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による金属化フィルムコンデンサは、金属化フィルムを巻き回し、もしくは積層させてなる金属化フィルム柱体の2つの電極取り出し面に金属溶射部が形成され、金属化フィルム柱体の該電極取り出し面以外の周面に親水性フィルムが被膜され、金属溶射部に外部引き出し端子が接合され、これらがケース内に収容されるとともにケース内のモールド樹脂体に埋設されているものである。
【0010】
本発明の金属化フィルムコンデンサは、金属化フィルム柱体の周面を防水性(撥水性)フィルムで被覆したり、金属化フィルム柱体の周面に設けられるモールド樹脂体の厚みを厚くすることで浸透水を金属蒸着膜等に浸透させないという技術思想ではなく、金属化フィルム柱体の周面を親水性フィルムで被覆し、この親水性フィルムで浸透水をトラップすることにより、浸透水を金属化フィルム柱体に到達させないようにするという技術思想に基づくものである。
【0011】
このように、浸透水を遮断するのではなく、親水性フィルムでトラップするという技術思想に基づくものであることから、金属化フィルム柱体の周面に設けられるモールド樹脂体の厚みは可及的に薄くてかまわない。
【0012】
ここで、金属化フィルム柱体は、ポリプロピレン(PP)やポリフェニレンサルファイド(PPS)などからなる誘電体フィルムの表面にアルミニウムや亜鉛などからなる金属蒸着膜が形成されてなる金属化フィルムを2枚積層して一組とし、双方の金属化フィルムが異なる端部に絶縁マージンを有することでそれぞれが固有の金属溶射部(メタリコン電極)に接触するようになっている。さらに、金属蒸着膜のうち、絶縁マージンと反対側の端部であって金属溶射部と接触する端部は電極接触を保証するために他の部位よりも厚めのいわゆるヘビーエッジとなっており、たとえば、金属蒸着膜の一般部が30nm程度である場合に、ヘビーエッジは倍の60nm程度に調整されている。
【0013】
巻回し型もしくは積層型の金属化フィルム柱体の両端の電極取り出し面に、亜鉛などからなる金属溶射部が形成され、この金属溶射部に外部引き出し端子の一部がはんだ付けされる。この外部引き出し端子は、棒状や板状のバスバーなどからなり、その素材としては銅やアルミニウム、ニッケル、ステンレスなどが適用される。
【0014】
金属化フィルム柱体の該電極取り出し面以外の周面には親水性フィルムが巻装される。ここで、この親水性フィルムには、分子構造に極性基(水酸基やアミド基など)を有した素材が適用されるのが好ましく、ポリビニルアルコール(PVA)やポリアミドなどを形成素材として挙げることができる。なお、実際の親水性フィルムの巻き数等の設計に際しては、所望する吸水量を確定した上で、使用する親水性フィルムの素材(比重や吸水率)や厚み、一巻き当たりの面積などによってその巻き数が設計される。
【0015】
アルミニウムや樹脂などからなるケース内に金属化フィルム柱体が配設された姿勢で、このケース内にエポキシ樹脂やシリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの樹脂がモールドされてモールド樹脂体が形成される。このモールド樹脂体により、金属化フィルムコンデンサの防水性と防振性の双方の性能が向上する。
【0016】
上記する親水性フィルムは極性基を多く有していることから、モールド樹脂体との密着性も良好となり、双方の間での界面剥離の危険性はない。
【0017】
また、親水性フィルムは吸水によって膨張するが、たとえば吸水率30%のPVAを適用した場合でもせいぜいマイクロメートルオーダーの寸法増加に留まり、さらに、高弾性率のモールド樹脂体によって親水性フィルムはその外側から拘束されていることから、寸法安定性も良好であり、応力集中などの課題が生じることもない。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から理解できるように、本発明の金属化フィルムコンデンサによれば、金属化フィルム柱体の周囲を親水性フィルムで被覆し、浸透水をこの親水性フィルムでトラップすることで金属化フィルム柱体への浸透水の到達を解消できることから、防水性や耐湿性に優れ、しかも、金属化フィルム柱体の周囲に形成されるモールド樹脂体の厚みを可及的に薄くしてその材料コスト低減とコンデンサの重量低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は、本発明の金属化フィルムコンデンサの縦断面図であり、(b)は、(a)のb−b矢視図である。
【図2】所望の耐湿性を満足する親水性フィルムの設計に当たり、金属化フィルム柱体とその周囲に巻装された親水性フィルムからなる実施例のテストピースを模擬した図である。
【図3】所望の耐湿性を満足する親水性フィルムの設計に当たり、モールド樹脂体の透水量の経時変化を示すグラフである。
【図4】所望の耐湿性を満足する親水性フィルムの設計に当たり、PVAフィルムの使用量ごとの吸水量の経時変化を示すグラフである。
【図5】従来構造の金属化フィルムコンデンサを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1aは本発明の金属化フィルムコンデンサの縦断面図であり、図1bは図1aのb−b矢視図である。
【0021】
図示する金属化フィルムコンデンサ10は、金属化フィルムが巻装されてなる金属化フィルム柱体1と、その両端の2つの電極取り出し面に形成された金属溶射部2,2(メタリコン電極)と、この金属溶射部2,2のそれぞれにはんだ層4,4を介して繋がれた外部引き出し端子3(バスバー)と、これらを収容するケース5と、ケース5内に形成されて金属化フィルム柱体1が埋設されるモールド樹脂体6とから大略構成されている。
【0022】
金属化フィルム柱体1の具体的な構成は、金属蒸着膜が誘電体フィルムの一側面に形成されて金属化フィルムが形成され、この金属化フィルムを2枚積層して一組とし(2枚一対の金属化フィルム)、この2枚一対の金属化フィルムが巻き回されて構成されている。
【0023】
ここで、一組の金属化フィルムの一方の誘電体フィルムの一側面に形成された金属蒸着膜は、その長手方向に沿う一方端が一方の金属溶射部2に密着しており、その長手方向に沿う他方端には、他方の金属溶射部2から絶縁されるべく、たとえば2mm程度の隙間領域(絶縁マージン)が設けられている。また、金属蒸着膜のうちで上記金属溶射部2に密着している端部は、電極接触を保証するために他の部位よりも厚めのいわゆるヘビーエッジとなっており、たとえば、金属蒸着膜の一般部が30nm程度である場合に、ヘビーエッジは倍の60nm程度に調整される。
【0024】
ここで、誘電体フィルムは、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などから形成でき、金属蒸着膜は、アルミニウムや亜鉛、銅などを誘電体フィルム表面に蒸着することで形成される。さらに、金属溶射部2は、金属化フィルム柱体1の電極取り出し面にアルミニウムや亜鉛などを溶射することで形成される。
【0025】
金属化フィルム柱体1のうち、電極取り出し面以外の周囲にはポリビニルアルコール(PVA)からなる親水性フィルム7(PVAフィルム)が所望回数巻装される。
【0026】
ここで、親水性フィルム7の吸水率が低いと当該フィルム体格の大型化に繋がることから、設計段階でこの吸水率を少なくとも5%以上に設定し、望ましくは10%以上に設定するのがよく、PVAフィルムを使用する場合には吸水率10%以上を十分に満足することができる。
【0027】
また、親水性フィルム7は吸水によって膨張するが、たとえば吸水率30%のPVAフィルムを使用した場合でもマイクロメートルオーダーの寸法変化に留まり、さらに、高弾性率のモールド樹脂体6で外周から拘束されていることから、寸法安定性は良好であり、応力集中といった課題は生じない。
【0028】
この設計段階での親水性フィルムの必要吸水量(コンデンサの透水量)は、金属化フィルム柱体1の周面の面積とフィルムの厚みの積(親水性フィルム一巻き当たりの体積となる)に対し、比重を乗じて親水性フィルム一巻き当たりの重量を求め、さらに親水性フィルムの吸水率を乗じて親水性フィルム一巻き当たりの吸水可能重量が求められる。さらには、これに親水性フィルムの巻き数を乗じることにより、所望吸水量に応じた数量(面積、巻き数など)の親水性フィルムの設計をおこなうことができる。
【0029】
図1で示す金属化フィルムコンデンサ10によれば、金属化フィルム柱体の周面に設けられるモールド樹脂体の厚みを厚くすることでその耐湿性を向上させるものでなく、金属化フィルム柱体1の周面を親水性フィルム7で被覆し、この親水性フィルム7で浸透水をトラップして金属化フィルム柱体1を構成する金属蒸着膜等に到達させないようにするものであることから、所望する吸水量の親水性フィルムが配設されていれば、モールド樹脂体6の厚みt2は可及的に薄くてかまわない(図5の従来構造のモールド樹脂体jの厚みt1と比較すると厚みの違いが明りょうである)。
【0030】
したがって、優れた防水性や耐湿性を有しながら、従来構造の金属化フィルムコンデンサに比して、モールド樹脂体の使用量を格段に低減できることで金属化フィルムコンデンサ全体の体格の低減および重量の低減と、モールド樹脂材料コストの低減を図ることができる。
【0031】
[所望の耐湿性を満足する親水性フィルムの設計]
本発明者等は、図2で模擬する金属化フィルム柱体とその周囲のPVAフィルムからなる実施例のテストピースを試作し、可及的に薄層のモールド樹脂体の場合の透水量をトラップし得る親水性フィルムの設計をおこなった。
【0032】
ここで、図3には、本発明者等によって特定されたモールド樹脂体の透水量の経時変化を示している。この透水量に関しては、85℃で85%RHの室内条件下、金属化フィルム柱体とモールド樹脂体表面までの厚み(図1中の厚みt2)が、0.5mm、1mm、3mm、6mmの4つのテストピースで透水量の経時変化を測定した。
【0033】
図3より、1000時間後の各テストピースの透水量は、厚み0.5mmのものが400mg、厚み1mmのものが200mg、厚み3mmのものが50mg、厚み6mmのものが20mgの透水量であることが特定されている。
【0034】
たとえば、厚み6mmのテストピースに関して言えば、85℃、85%RH、1000時間の試験条件において、20mgが金属化フィルム柱体を構成する金属蒸着膜へ浸入する可能性があることになる。
【0035】
一方、図4には、本発明者等によって特定されたPVAフィルムの使用量ごとの吸水量の経時変化を示している。
【0036】
上記する各種データを使用したPVAフィルムの一設計例を以下に記載する。
図2で示す実施例の寸法より、外周長さは、20mm×2+2π×10mm=102.8mmとなり、PVAフィルム一巻き当たりの必要面積は、102.8mm×100mm≒10000mmとなる。
【0037】
ここで、膜厚20μmのPVAフィルムを使用する場合は、PVAフィルム一巻き当たりの必要体積が10000mm×0.02mm=200mm、PVAフィルム一巻き当たりの必要重量が200mm×1.2mg/mm(PVA比重)=240mg、PVAフィルム一巻き当たりが吸収できる水の重量が240mg×0.3(PVA吸水率)=72mgとなる。
【0038】
よって、このPVAフィルムの吸水可能量は、72(mg/一巻き)×巻き数で算出することができる。
【0039】
図3より、モールド樹脂体の厚みが最小の0.5mmの場合の1000時間後の透水量が400mgであることから、400mg÷72(mg/一巻き)=5.56(巻き)となり、PVAフィルムを6巻きすることで、0.5mmの厚みのモールド樹脂体でも十分な耐湿性を満足できることになる。
【0040】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0041】
1…金属化フィルム柱体、2…金属溶射部(メタリコン電極)、3…外部引き出し端子(バスバー)、4…はんだ層、5…ケース、6…モールド樹脂体、7…親水性フィルム(PVAフィルム)、10…金属化フィルムコンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化フィルムを巻き回し、もしくは積層させてなる金属化フィルム柱体の2つの電極取り出し面に金属溶射部が形成され、金属化フィルム柱体の該電極取り出し面以外の周面に親水性フィルムが被膜され、金属溶射部に外部引き出し端子が接合され、これらがケース内に収容されるとともにケース内のモールド樹脂体に埋設されている金属化フィルムコンデンサ。
【請求項2】
親水性フィルムがポリビニルアルコールからなる請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−99552(P2012−99552A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243894(P2010−243894)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】