説明

金属性ナノ粒子コーティングを有する水溶性ポリマー基材

金属性ナノ粒子コーティング水溶性ポリマー基材、並びにこれを調製及び使用する方法が、記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属性ナノ粒子コーティング水溶性ポリマー基材、並びにこれを調製及び使用する方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
直径約1〜100ナノメートル(nm)の金属性ナノ粒子は、半導体技術、磁気記憶、電子技術製造、及び触媒を包含する用途において重要な材料である。金属性ナノ粒子は、気体蒸発によって、流動気流中での蒸発によって、機械的粉砕によって、スパッタリングによって、電子ビーム蒸発によって、熱蒸発によって、二成分金属アジドの電子線誘導型噴霧によって、超音速自由噴流中での金属蒸気の拡張によって、逆ミセル技術によって、レーザーアブレーションによって、有機金属性化合物のレーザー誘導型分壊によって、有機金属性化合物の熱分解によって、有機金属性化合物のマイクロ波プラズマ分解によって、並びに他の方法によって製造されてきた。
【0003】
金属性ナノ粒子は独自の光学特性を有することが知られている。特に、金属性ナノ粒子は、顕著な光学共鳴を示す。この、いわゆるプラズモン共鳴は、金属球体内の伝導電子が入射電磁場と集合カップリングを生じることに起因する。この共鳴は、入射電磁放射線の波長に関しナノ粒子の半径に依存する吸収又は散乱によって支配され得る。このプラズモン共鳴と関係があるのは、金属ナノ粒子内部での強い局所電場増強である。これらの特定の光学特性を活用するために、様々な潜在的に有用な装置を製造することができる。例えば、表面増強ラマン散乱(SERS)に基づく光学フィルター又は化学センサーが製造されてきた。
【0004】
米国特許第6,344,272号(オルデンバーグ(Oldenburg)ら)は、電気伝導物質に囲まれる非伝導性内側層で構成されるナノ粒子を記載している。非伝導性層の厚さと外側伝導殻の厚さとの比は、最大吸光度の波長又は粒子の散乱の決定的要因である。該参考文献は、固体金属ナノ粒子の多くの用途を実現することへの重大な実際的制限は、プラズモン共鳴を所望の波長に位置付けられないことにあることを示している。例えば、直径10nmの固体金ナノ粒子は、520nmを中心にプラズモン共鳴を有する。このプラズモン共鳴は、粒子直径又は特定の埋め込み媒体を変えることによっては、およそ30ナノメートル超過に制御可能に移行できない。
【0005】
表面プラズモン共鳴(SPR)は、金属及び誘電体の中間面において振動する自由電荷の共鳴励起である。SPRスペクトルが発生及び収集されると、そのスペクトルを用いて、2つ以上の分子間での相互作用に関する特異性、反応速度論、親和力、及び濃度を求めることができ、この場合、前記分子の1つは、固体検出表面に付着している。反応速度論は、検体が結合した検出分子と相互作用する際の会合速度及び解離速度の両者に相当する。親和力とは、検体が検出分子と結合する強度を指す。特異性は、他の分子を除外して検出分子と結合する、分子の習性を指す。SPRスペクトルは、タンパク質、ペプチド、核酸、炭水化物、脂質、及び低分子量物質(例えば、ホルモン及び薬剤)を包含する多くの種類の分子に関する研究において使用されてきた。
【0006】
SPR系生物検出は、蛍光性マーカー及び放射性分子のタグのような間接的なラベルを使用せずに、配位子の受容体との結合の直接測定を可能にするために開発された。このラベルフリー直接検出技術は、分析を行なうために必要な時間及び作業量を低減し、間接的なラベルの使用によって誘発される分子の変化に起因する誤った結果を生む危険を最小限にする。生物検出技術の別の重要な態様は、SPR系生物検出が、生物分子の相互作用を連続的にリアルタイムで測定することを可能にし、伝統的な「エンドポイント」分析法と対比して結合と解離運動データの決定を可能にすることである。
【0007】
近年、これらのナノ粒子独自の光学特性を利用するために、センサー装置が、既知の技術で開発されてきた。リアルタイムで生体分子相互作用を検出するために、金ナノ粒子懸濁液を使用して、コロイド懸濁液の吸光度をモニター監視することによって、SPR測定が行なわれてきた。
【0008】
過去10年間、SPRスペクトルの検出を可能にする表面プラズモンを励起させる目的のために、金属性ナノ粒子独自の光学特性における興味が、これらのナノ粒子を組み込んだ懸濁液及びフィルムの使用に関連して、かなり増加してきた。加えて、赤外線吸光度スペクトル情報のための表面増強ラマン分光法(SERS)、及び増強された蛍光刺激のための表面増強蛍光もまた、検出されることができる。ナノ粒子は、直径が100ナノメートル未満の粒子である。金属性ナノ粒子は、可視波長スペクトルにおいて、大きな吸収バンドを示し、多彩なコロイド懸濁液を生む。光吸収の物理的原因は、金属性ナノ粒子上の伝導帯電子のコヒーレント振動にカップリングする入射光線エネルギーによる。この入射光線のカップリングは、個々のナノ粒子及びナノ粒子で形成されたフィルム(金属性アイランドフィルム(metallic island films)と呼ばれる)に特異的である。通常のバルク材料でSPRを達成するには、プリズム、回折格子、又は光ファイバーを使用し、入射光線波ベクトルの水平構成要素を増やすことを必要とする(すなわち、必要なカップリングを得るため)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、不連続な金属性ナノ粒子コーティングを有する水溶性ポリマー基材を提供することにより、先行技術の限界を克服する。「金属性」とは、元素金属、及び酸化物のような元素金属の化合物を意味する。「水溶性」とは、水との拡張された(extended)接触に際し、ポリマーが完全に溶解するであろうことを意味する。水溶性ポリマーの非限定的な種類は、必要な水溶性を有するフィルム形成ポリマーであり、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アルキレンオキシド)、複合糖質、及びコポリマー、ブレンド、混合物等のようなこれらの組み合わせが挙げられる。水溶性ポリマーのフィルムが好ましいが、シート、繊維、不織布、膜、及び微細多孔質の物品のような他の構造体もまた、水溶性ポリマー基材として使用されてもよい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の物品自体は、光学スイッチ装置、光通信システム、赤外線検出器、赤外線遮断装置、化学センサー、受動的太陽放射の収集装置又は偏光装置等のように様々な用途において使用されることができる。ナノ粒子コーティング水溶性ポリマーフィルム基材の2つ以上の層を含む多層の物品を備えると、吸光度スペクトルの強度も上昇する可能性がある。
【0011】
最も重大なことは、物品が、ナノ粒子の便利で安定な保存物品を提供することであり、物品は、懸濁液の光学特性に有害な影響を及ぼし得、最終の基材表面を汚染する可能性がある還元剤及び安定化剤を使用せずに、安定な水性ナノ粒子分散物を調製する際に使用されてもよい。安定な水性懸濁液は、物品を水に接触させることにより、調製されてもよい。その後、懸濁液は、ガラスのような好適な二次基材を分散物に接触させることにより、ナノ粒子コーティング物品を調製するために使用されてもよい。
【0012】
一実施形態では、本発明は、水溶性フィルムを提供する工程、及び物理的蒸着により、フィルム表面上に金属性ナノ粒子の不連続コーティングを蒸着する工程を含むナノ粒子コーティング水溶性ポリマー基材表面の調製方法を提供する。水溶性ポリマー基材は、蒸着前又は蒸着後に延伸されてもよく、延伸される場合、蒸着後に収縮されてもよい。有利なことに、該方法は、ナノ粒子コーティング物品を連続的に製造することができる。
【0013】
別の実施形態では、本発明は、金属性ナノ粒子コーティング水溶性ポリマー基材を含む表面プラズモン共鳴を示す光学的な物品を提供し、ここで、最大吸収ピークは、物品の延伸(例えば、配向)又は収縮により、調節されてもよい(すなわち、より長い又はより短い波長に移行する)。特定の波長及び特定の角度における光は、表面プラズモンとの共鳴に入り、光子は吸収されるであろう。これは、吸光度スペクトルにおける最高点によって観察される。吸収スペクトルは、延伸又は収縮の程度、金属の性質、ナノ粒子の寸法、平均コーティング厚さ、及び熱可塑性ポリマー基材層の誘電定数の関数である。
【0014】
別の実施形態では、本発明は、金属性ナノ粒子コーティング水溶性ポリマー基材を含むセンサーを提供し、ここで、結合剤は、前記金属性ナノ粒子の少なくとも一部分上に配置され、前記結合剤は、前記生物学的、生化学的、化学的、環境的試料に存在する所定の物質と相互作用する。
【0015】
本発明の様々な特徴、実施形態、及び利点は、以下の「発明を実施するための最良の形態」及び「特許請求の範囲」から明白であろう。前記の「課題を解決するための手段」は、本開示の例示された各実施形態又は全ての実施を記載するものではない。以下の「発明を実施するための最良の形態」には、本明細書に開示された原則を利用する特定の好ましい実施形態を、より具体的に例示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、水溶性ポリマー基材を含む物品、及び水溶性ポリマー基材上の不連続的な金属性ナノ粒子コーティングを対象とする。物理的蒸着法による、金属性ナノ粒子の不連続的な層の蒸着は、コーティングを形成する。金属ナノ粒子の大部分は、酸化物のような他の金属性ナノ粒子も考えられるが、通常は元素金属ナノ粒子である。水と接触すると、水溶性ポリマー基材は、溶解し、二次基材を使用する他のナノ粒子コーティング物品を調整するのに使用されてもよい金属性ナノ粒子の安定な分散物をもたらす。
【0017】
本発明は、一部には、水溶性ポリマー基材上にナノ粒子コーティングを形成する方法を対象とする。該方法は、水溶性ポリマーフィルムを提供し、この上に、物理的蒸着により、平均寸法100ナノメートル未満の金属性ナノ粒子の不連続コーティングを蒸着することを包含する。本明細書で使用する時、「不連続的な」とは、ナノ粒子コーティングが、コーティングしていない領域に囲まれたナノ粒子又はその粒塊の島(island)として配置され、コーティングが表面プラズモン共鳴を示すことを意味する。厚さに関係なく、連続的なコーティングは、表面プラズモン共鳴をもたらさない。
【0018】
本発明は、水溶性ポリマー基材上に金属性ナノ粒子コーティングを提供し、ナノ粒子は、1〜100ナノメートル、最も好ましくは1〜50ナノメートルの範囲の数平均粒子直径を有する。コーティングは、一般に100ナノメートル未満、好ましくは10ナノメートル未満の平均厚さを有する。ナノ粒子は、実質的に球体であってよいが、延伸され、アスペクト比(長さ対直径)が1.5:1を超える(すなわち、実質的には楕円形である)場合もある。所望により、ポリマー基材は、蒸着前に延伸され(配向され)、その後、最大吸光度ピークを所望の程度に移行するために、更に延伸又は収縮されてもよい。
【0019】
ナノ粒子コーティングの平均厚さは、市販の水晶振動子マイクロバランスを用いて、蒸着中に測定してもよい。蒸着後、多数の化学分析を用いて、いずれかの指定領域で金属の質を特徴付けることができる。粒径(ナノ粒子のアグロメレーションによって形成される)は、典型的に、当該技術分野において既知の光散乱技術を用いて測定される。一次粒径は、典型的には、透過電子顕微鏡法又は原子間力顕微鏡法を用いて測定される。
【0020】
コーティングされた物品においては、光学特性が、延伸又は収縮により変化する。物品が延伸され又は収縮すると、最大吸光度スペクトルは、それぞれより短い又はより長い波長に移行するので、光学特性が、要望通り変化する可能性がある。光学フィルター用途において、これは、吸光度を事前に選択された最大値に合わせることができ、紫外線又は赤外線波長のような望ましくない波長を最も能率的に取り除く。センサー用途において、これは、最大吸光度ピークを特定の分析物に合わせることができ、これによって応答信号を最大にすることができる。
【0021】
一般に水溶性ポリマーは、必要な水溶性を有するこれらのポリマーから選択され、金属性ナノ粒子と共に安定な分散物を形成し、フィルム形成剤である。用語「フィルム形成ポリマー」とは、分散物又は溶液中のポリマー粒子が、乾燥されるとき、融合して、連続的な、好ましくは透明な、本質的に無孔のポリマーフィルムを提供することを意味する。融合のための試験は、11%ポリマー分散物を使用して、透明な基材上にポリマーの薄いフィルムをコーティングして乾燥し、コーティングの透明性及び連続性を観察することである。フィルム形成ポリマーは、好ましくは透明又はほとんど透明なフィルムをもたらす。ナノ粒子蒸着のための基材として有用な水溶性ポリマーは、フィルムの形態である必要はなく、シート、繊維、多孔質及び微細多孔質フィルム、並びに不織布を包含する他の物理的形態が考慮されることが理解されるであろう。
【0022】
物品発明において有用な水溶性ポリマーは、基本的に2つの一般的な種類、天然又は合成である。天然起源の水溶性ポリマーは、長年既知であった。多くは、種、海草から、又は、木からの滲出物として得られ、化粧品、医薬品等における増粘剤として、広範囲に使用されてきた。通常、天然供給源から得られる水溶性ポリマーは、収集、等級付け、抽出、又は精製以外の処理をほとんど必要としないが、わずかな(minor)化学修飾が、これらの特性を改善するために時々行なわれる。天然水溶性ポリマーの例としては、グアーガム、アラビアゴム、トラガカントゴム、カラマツゴム、カラヤゴム、イナゴマメゴム、寒天、アルギネート、カラギーナン、ペクチン、及びゼラチンが挙げられる。
【0023】
合成水溶性ポリマーとしては、セルロース誘導体である変性(又は、半合成)ポリマー、及び完全に合成であるポリマーが挙げられる。セルロースは、変性なしでは水溶性ではない。しかし、様々な程度の水溶性を有する広範囲の製品は、セルロースの分子量、並びに置換の種類及び範囲を変えることによって合成されてもよい。典型的なセルロース誘導体としては、メチル、ヒドロキシエチル、カルボキシメチルナトリウム、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0024】
合成水溶性ポリマーは、好適なモノマーの直接重合により、調製されることができる。ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンイミン)、及びスルホン化ポリエステルは全て、直接重合により合成される水溶性ポリマーである。
【0025】
代表的な水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシメチルセルロース(メトセル(商標)、ダウ・ケミカル(Dow Chemical))、ヒドロキシプロピルセルロース(クルセル(Klucel)(商標)、アクアロン社(Aqualon、Inc.))、カルボキシル化ポリビニルアセテート(ダラテック(Daratek)(商標)PR−200、W.R.グレース社(W. R. Grace & Co.))、ポリ(メチルビニルエーテル−コ−無水マレイン酸)(ガンツレズ(Gantrez)(商標)、GAF社(GAF Inc.))、アルギン酸(alignic acid)誘導体(アルギン(Algin)(商標)、ケルコ社(Kelco、Inc.))、ポリ(N−ビニルピロリドン)、及びポリアクリル酸、又はこれらの混合物が挙げられる。有用なスルホン化ポリエステル系樹脂としては、例えば、本明細書に参考文献として組み込まれる米国特許第5,427,835号(モリソン(Morrison)ら)及び米国特許第5,203,884号に教示されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
好ましい水溶性ポリマーは、典型的にポリビニルアセテートの部分的な加水分解により形成されるポリビニルアルコールである。ポリビニルアルコールの溶解度は、加水分解パーセントにより調節でき、最も可溶性のポリマーは79〜95%の加水分解度、好ましくは85〜90%の加水分解度を有し、酢酸ビニルのモル含量が12〜80%で残りがビニルアルコール単位である。ポリビニルアルコールの分子量は、好ましくは10,000〜200,000、より好ましくは10,000〜50,000である。
【0027】
最も好ましくは、水溶性ポリマー基材は、ポリ(ビニルアルコール)を包含するビニルアルコールポリマーフィルムである。ビニルアルコールポリマーとしては、任意の直鎖1,3−ポリヒドロキシル化ポリマー又はコポリマーが挙げられる。必要な水溶性を有する。有用なビニルアルコールポリマーとしては、下式の単位のポリマー及びコポリマーが挙げられる:
【0028】
【化1】

【0029】
式中、RはH、C〜Cアルキル、又はアリール基であり;及びR’はH、又はC〜Cアシル基のような加水分解可能な官能基である。好ましくは、R及びR’はHである。ポリ(ビニルアルコール)ポリマー及びコポリマーに加えて、特に意図されるのは、ポリビニルアセタール及びケタール及びエステルである。ビニルアルコールモノマーと重合して、ビニルアルコールコポリマーを製造してもよい有用なコモノマーとしては、エチレン、プロピレン、及びブチレンのようなオレフィン、メチル(メタ)アクリレートのようなアクリレート及びメタクリレート、酢酸ビニル、並びにスチレンを包含するあらゆるフリーラジカル的に重合可能なモノマーを挙げてもよい。本発明において、使用が特に意図されるのは、エチレン及びビニルアルコールのコポリマーである。コモノマーの量として、水溶性に有害な影響を及ぼす量は不適当である。一般に、コモノマーの量は30モル%未満であり、好ましくは10モル%未満である。
【0030】
好ましいビニルアルコールポリマーは、ポリビニルアルコールのホモポリマー及びコポリマーである。最も好ましいのは、ポリビニルアルコールホモポリマーである。市販のポリビニルアルコールは、例えば、セラニーズ・ケミカル社(Celanese Chemicals、Inc.)(テキサス州、ダラス(Dallas))から商標名セルボル(CELVOL)(商標)として、及び三井プラスチック(Mitsui Plastics)(ニューヨーク州、ホワイトプレインズ(White Plains))からソルボロン(SOLUBLON)(商標)として入手可能なものである。低粘度のポリビニルアルコールは、コーティングの容易さのために好ましいと同時に、適切な耐湿性及び良好な機械的特性を提供するために十分に高い分子量を有する。
【0031】
溶融加工可能なポリビニルアルコールもまた、この発明において使用してもよい。
【0032】
溶融加工可能なビニルアルコールポリマーは、可塑化されて、これらの熱安定性が増強し、押出成形又は融解加工できるようになる。可塑剤を、外的に又は内的に、ビニルアルコールポリマー鎖に添加することができ、すなわち、可塑剤は、ビニルアルコールポリマー主鎖に重合される又はグラフトされる。
【0033】
外的に可塑化され得るビニルアルコールポリマーとしては、クラリアント社(Clariant Corp.)、(ノースカロライナ州、シャーロット(Charlotte))から入手可能なモウィオル(Mowiol)(商標)26−88及びモウィオル(商標)23−88ビニルアルコールポリマー樹脂のような市販の製品が挙げられる。これらのモウィオル(Mowiol)(商標)ビニルアルコールポリマー樹脂は、88%の加水分解度を有する。モウィオル(Mowiol)(商標)26−88ビニルアルコールポリマー樹脂は、2100の重合度、及び約103,000の分子量を有する。
【0034】
外的可塑化ビニルアルコールポリマーに有用な可塑剤は、ヒドロキシル基を有する高沸点の水溶性有機化合物である。こうした化合物の例としては、グリセロール、トリエチレングリコール及びジエチレングリコールのようなポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。水もまた、可塑剤として有用である。添加される可塑剤の量は、ビニルアルコールポリマーの分子量によって異なる。一般に、可塑剤は、約5%〜約30%、好ましくは約7%〜約25%の量で添加される。典型的に、より低い分子量のビニルアルコールポリマーは、より高い分子量のビニルアルコールポリマーよりも少ない可塑剤を必要とする。外的に可塑化されたビニルアルコールポリマーを調合するための他の添加剤としては、加工助剤(例えば、ホエクストA.G.(Hoechst A. G.)からのモウィリス(Mowilith)(商標)DS樹脂)、ブロッキング防止剤(例えば、ステアリン酸、疎水性シリカ)、着色剤等が挙げられる。
【0035】
外的に可塑化されたビニルアルコールポリマーは、有機可塑剤がビニルアルコールポリマーに組み込まれるまで(これは、バッチ温度が約82℃(180゜F)〜約121℃(250゜F)に達するときに起こる)、休みなく混合しながら、該可塑剤(及び、典型的に水)をビニルアルコールポリマー粉末又はペレットにゆっくり添加することにより、調合される。ビニルアルコールポリマー樹脂の分子量が低くなるほど、可塑剤に組み込むために必要な最大バッチ温度も低くなる。バッチは、この温度で約5〜6分維持される。その後、バッチは、約71℃(160゜F)〜93℃(200゜F)に冷却され、このときブロッキング防止剤を添加できる。バッチはさらに約66℃(150゜F)まで冷却され、このときビニルアルコールポリマー顆粒がミキサーから除去され、押出されることができる。
【0036】
着色剤等を加えることが望ましい場合を除き、内的に可塑化されたビニルアルコールポリマーを製造するとき、ビニルアルコールポリマーを外的に可塑するために使用される調合工程は省略することができる。有用な内的可塑化ビニルアルコールポリマーは、市販されている。こうした製品としては、ヴィネックス(Vinex)(商標)2034及びヴィネックス(商標)2025が挙げられ、共にエア・プロダクツ社(Air Products, Inc.)から入手可能である。
【0037】
セラニーズ(Celanese)からのヴィネックス(Vinex)商標は、独特な一群の熱可塑性、水溶性、ポリビニルアルコール樹脂を表す。特に、ヴィネックス(Vinex)(商標)2034及びヴィネックス(商標)2025を包含する「ヴィネックス(Vinex)」2000シリーズは、内的に可塑化された冷水及び温水可溶性ポリビニルアルコールコポリマー樹脂を表す。こうした内的可塑化ビニルアルコールコポリマーは、本明細書に参考文献として組み込まれる米国特許第4,948,857号に記載されている。こうしたコポリマーは、以下の一般式を有する:
【0038】
【化2】

【0039】
式中、Rは水素又はメチルであり;
はC〜C18アシル基であり、
yは0〜30モル%であり;
zは0.5〜8モル%であり;及び
xは70〜99.5モル%である。
【0040】
米国特許第4,948,857号に記載されているように、これらのコポリマーは、良好な熱可塑性及び熱安定性を有するポリマーを調製及び提供することが容易である。これらのコポリマーは、ポリ(ビニルアルコール)の強度特性を保持する一方、可撓性も増加する。上記の式で表されるアクリレートモノマーは、コポリマーにその内的可塑化効果を与える。コポリマーの重合度は、約100から2500までの範囲であることができるが、好ましくは約200〜800である。重合度は、ポリマー全体の分子量の、式Iに参照されるような単位の分子量に対する比として定義される。他の内的可塑化ポリ(ビニルアルコール)コポリマー樹脂、及びこれらの樹脂の調製は、米国特許第4,772,663号で議論されている。ヴィネックス(Vinex)(商標)2034樹脂は、典型的に約8.0g/10分のメルトインデックス、及び約30℃(86゜F)のガラス転移温度を有する。ヴィネックス(Vinex)(商標)2025樹脂は、典型的に24g/10分のメルトインデックス、及び約29℃(84゜F)のガラス転移温度を有する。
【0041】
ポリビニルアルコール及びそのコポリマーは、様々な加水分解度で、すなわち約50%〜99.5+%で市販されている。好ましいポリビニルアルコールは、約80〜99%の加水分解度を有する。一般に、加水分解度が高くなるほど、溶解度も高くなる。またより高い分子量のポリビニルアルコールは、より良好な耐湿性を有するが、粘度が増大する。本発明の実践においては、ポリビニルアルコールが、十分な溶解度を有し、ナノ粒子蒸着プロセスにおいて容易に取り扱うことができ、必要であればすぐに配向されることができる、という諸特性のバランスを見つけることが望ましい。ほとんどの市販銘柄のポリ(ビニルアルコール)は、数パーセントの残留水及び加水分解していないポリ(酢酸ビニル)を含有する。
【0042】
ナノ粒子は、蒸着が起こるまで金属が減圧下で加熱される物理的蒸着技術によって、調整されてもよい。所望により、金属は気流の存在下で気化し、ここで気体は、金属と反応しないいずれかの気体が使用され得るが、好ましくは不活性(非反応性)である。ナノ粒子は、水溶性ポリマーフィルムへ輸送されるか又は(所望により、気流によって)水溶性ポリマーフィルムの方へ誘導され、金属性蒸気をフィルム上に衝突させることによって蒸着され、そこで核形成及びナノ粒子成長を引き起こす。一般に、気流がない場合、物理的蒸着技術は、水溶性ポリマー基材表面上で直接核形成する金属性蒸気を生成する。気体の存在下では、金属性蒸気は、気流中である程度均質な核形成を行ってナノ粒子を生成し、これがポリマー基材表面に蒸着する。
【0043】
コーティングは、次の工程を含む方法によって調製されてもよい:
a)所望により非反応性気流の存在下で、金属を気化して、金属性蒸気を提供する工程、
b)所望により、前記金属性蒸気(又は、金属性蒸気内に形成される金属性ナノ粒子)と反応し得る第二の反応性気体を提供して、この反応性気体を金属性蒸気(又は、金属性ナノ粒子)と反応させて、これを金属酸化物ナノ粒子に転化する工程、及び
c)金属性蒸気をポリマー基材上に衝突させる工程。ここでは、ナノ粒子の核形成と成長が生じ、その上にナノ粒子コーティングを提供する。
【0044】
水溶性ポリマー基材上への金属性ナノ粒子の蒸着は、当業者に既知のいくつかの物理的蒸着技術の1つを使用して、達成されてもよい。こうしたプロセスとしては、蒸着、カソードスパッタリング、熱分解、イオンめっき、電子ビーム蒸着等が挙げられる。達成され得る構造の均一性及び厚さを考えると、多くの場合、蒸着とカソードスパッタリングが好ましい。金属蒸気及び蒸気コーティング技術を提供する多数の利用可能な手段に関しては、薄膜の真空蒸着(Vacuum Deposition of Thin Films)、L.ホーランド(L. Holland)、1970年、チャップマン・アンド・ホール(Chapman and Hall)、英国ロンドン(London)を参照する。所望により、ナノ粒子層は、マスク手段によりパターンコーティングされてよく、それによって金属性ナノ粒子表面にパターン化されてもよい。
【0045】
物理的蒸着(PVD)法は、典型的に真空中での蒸発又はスパッタリングによる原子の蒸着を包含する。PVD法は、次の工程を特徴とすることができる:(1)抵抗線加熱、誘導加熱、電子線加熱、レーザービームアブレーション、直流プラズマ発生、高周波プラズマ発生、分子線エピタキシャル成長法、又は同様の手段を用いて蒸発もしくはスパッタリングすることにより金属性蒸気を発生させる工程、(2)金属性蒸気をその供給源から、分子流、粘性流、プラズマガス輸送等によって基材に輸送する工程、並びに、(3)水溶性ポリマーフィルム上でのナノ粒子成長工程(ここでは、ナノ粒子の核形成及び成長が生じる)。PVDによれば、様々な基材温度を利用して、蒸着される材料の結晶化及び成長モードを制御することができるが、一般に、水溶性ポリマー基材の温度は当該ポリマーのひずみ温度未満である。
【0046】
蒸着中のフィルム基材の変形又は融解を回避するために、ポリマー基材は、一般に、ポリマーのひずみ温度以下の温度に維持される。ナノ粒子の温度又は蒸着時にナノ粒子から放出される熱(凝縮熱)がポリマー基材の熱変形を引き起こさないように、蒸着速度を制御することによって、ポリマー基材の一体性は維持される。一般に、ポリマー基材の温度は、蒸着槽の周囲条件に維持されており、特にポリマー基材を冷却する必要はない。
【0047】
好ましい実施形態においては、ナノ粒子コーティングは、電子ビーム蒸発によって水溶性ポリマーフィルムに適用される。この技術は、蒸着される金属上での高エネルギー電子線照射による衝突に基づいている。電子線は、白熱電球(カソード)によって産生される電子の熱電子放出を利用して、電子銃によって発生される。放出された電子は、高い電位差(キロボルト)によってアノードに向かって加速される。るつぼ自体(金属供給源を収容する)又はその近くにある穿孔ディスクが、アノードの役割を果たし得る。電子軌道を曲げるために磁界を印加することが多く、それによって電子銃の位置を蒸発ラインより下に定めることができる。電子を収束することができるので、高密度な蒸発能(数kW)によって金属性材料上に極めて局所的な加熱を達成して蒸発させることが可能である。これにより、蒸発速度を低い値から極めて高い値まで制御することができる。るつぼを冷却すると、加熱やガス抜きに起因する汚染問題が回避される。
【0048】
スパッタリングによる物理的蒸着は、標的(通常はカソード)を電界で推進されたガスイオンと衝突させる場合、不完全真空(ダイオードシステムの場合は13.3〜1.33Pa、マグネトロンシステムの場合は1.3〜0.13Pa)において達成されてもよい。スパッタリングガスは、典型的に、アルゴン等の希ガスであるが、スパッタリングガスは、窒化物、酸化物、及び炭化物の蒸着のように、蒸着したフィルム中に混入することができる反応性元素を包含することもできる。スパッタリングガスをイオン化すると、グロー放電又はプラズマが産生する。ガスイオンは、電界又は電界と磁界によって、標的に向かって加速される。標的からの原子は、運動量移動によって追い出され、真空槽を横切って移動して、基材(水溶性ポリマー基材)上に蒸着する。
【0049】
別の実施形態においては、スパッタ蒸着により、ナノ粒子コーティングを水溶性ポリマー基材に適用してもよい。スパッタリング装置は、一般に、直径38cm(15インチ)の回転ドラムを収容する円筒形槽の外周の周りに配置された3源マグネトロンスパッタリングシステムから成る。基材をドラムに取り付けて、スパッタリング源の正面の連続して通過する位置を0.1rad/秒(1rpm)〜0.8rad/秒(8rpm)の速度で回転させてもよい。供給源は、試料が任意の2つのフラックスから同時にコーティングされないように保護する。材料の蒸着速度と標的正面での基材の回転速度が、最終的な触媒粒子を含む個々の層の厚さを決定する。十分に真空引き可能ないかなる真空ポンプも使用してよい。こうした真空ポンプのうちの1つは、バリアンAV8(Varian AV8)クライオポンプ(バリアン・アソシエーツ(Varian Associates)、マサチューセッツ州レキシントン(Lexington))であり、これは、アルカテル2012Aロータリー羽根式粗引きポンプ(Alcatel 2012A rotary vane-roughing pump)(アルカテル・バキューム・プロダクツ(Alcatel Vacuum Products)、マサチューセッツ州ヒンガム(Hingham))と連動して使用することができる。クライオポンプは、バタフライ弁によって槽から部分的に孤立していてもよい。蒸着中、スパッタリングガス流量をMKS流量調節器(マサチューセッツ州アンドーバー(Andover)のMKSインストルメンツ社(MKS Instruments Inc.))で制御した場合、圧力は0.28Pa(2.1ミリトール)に維持されてよい。あらゆる不活性又は反応性のスパッタリングガスが使用されてよい。好ましくは、アルゴン、又はアルゴンと酸素の混合物のいずれかを使用する。酸素化学量論の制御は、アルゴン/酸素流量比を変えることによって達成することができる。あらゆる適切な標的及び電源が使用され得る。一実施形態では、アドバンスドエネルギーMDX500電力供給(Advanced Energy MDX500 power supply)(アドバンスド・エネルギー工業社(Advanced Energy Industries, Inc.)、コロラド州、フォートコリンズ(Fort Collins))が、電力供給の恒常的な電力の方式において使用される。
【0050】
物理的蒸着工程で使用してよい有用な金属には、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Y、La、Ac、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、In、Tl、Sn、Pb、これらの金属の混合物、酸化物、及び合金、並びに所望により、ランタニド及びアクチニドまでもが包含される。金属は、連続して又は同時に蒸着されてもよい。
【0051】
特に有用な金属は、金、アルミニウム、銅、鉄、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、チタン、コバルト、バナジウム、マグネシウム、銀、亜鉛、及びカドミウム、インジウムスズ酸化物(ITO)及びアンチモンスズ酸化物(ATO)、アンチモンインジウムスズ酸化物(AITO)、スズ、インジウム、ランタン、ホウ素、六ホウ化ランタン、希土類金属、及びこれらの混合物及び合金、並びにこれらの混合物及び合金である。最も好ましくは貴金属である。他の金属も当業者には明らかである。
【0052】
前記プロセスは、Au又はAgの場合と同様に、元素金属自体の蒸発を伴ってもよく、あるいはポリマーフィルムと接触する前に移動段階中に実在の元素金属の発生が起きる前駆体形態の蒸発を伴ってもよい。一例は、非反応性気体としてアルゴンを用いた銀金属の蒸発と、それに続く銀ナノ粒子の反応性酸素環境への曝露であり、それによって、ポリマーフィルムと接触する前に、超微細酸化銀コーティングされたナノ粒子(粒子のコアは銀である)が形成される。反応性気体は、ナノ粒子が形成された後で蒸発源から隔離された部位に導入されることから、最終的なナノ粒子は、中心コアと外側シェルとから成り、この場合、中心コアは金属であることができ、外側シェルは、反応性気体と金属ナノ粒子との反応によって形成される層から構成されることができる。
【0053】
使用される場合、不活性気体は、一般に、He、Ne、Ar、Xe、及びNから選択される。2つ以上の非反応性気体の混合物を使用することもできる。金属の変性が望ましい場合、反応性気体は、るつぼ内でのバルク材料との反応を最小限にし、及び反応性気体を気流中に入り込んだ粒子と完全に混合させることで、粒子との反応を生じさせるように配置された気体注入口から導入することができる。反応性及び非反応性の気体は、一般に室温であるが、この温度を要望通り上げる又は下げることができる。反応性という用語には、次のことが包含される。1)金属の場合と同様の粒子との直接反応であって、対応する酸化物又は他の化合物を形成するための、粒子と例えば、O、NO、NO、CO、CO、AsH、HS、HSe、NH、トリメチルクロロシラン、メチルアミン、エチレンオキシド、水、HF、HCl、又はSO、あるいはこれらの組み合わせとの直接反応、あるいは、2)吸着反応であって、この場合、分散媒体を接触させる前に揮発性物質を気体に導入するが、前記物質は標準状態(大気圧及び25℃)で液体でないか、前記物質は分散媒体と混和性でないか、あるいは前記物質は、ナノ粒子の表面を分散媒体又は分散媒体中の添加物から保護するように作用する、吸着反応。吸着可能である典型的な物質としては、ポリ(メチルメタクリレート)及びポリスチレン等のポリマーが挙げられる。
【0054】
ナノ粒子をコーティングするために有用な装置は、以下を含む:
a)収集容器に接続する炉;前記炉は加熱手段(例えば、抵抗性、誘導性、電子ビーム、赤外線、レーザー、プラズマジェット)を含有し、少なくとも第一気体入口管、所望により第二気体入口管を含有するのに適した炉であり、ここで前記第二管は前記第一管の下流に位置する;並びに炉及び収集容器を空にするための手段(例えば、ロータリーオイルポンプ、オイル拡散ポンプ、ピストンポンプ、ルーツ(Roots)(商標)ブロワー、及びターボ分子のようなポンプ)、ここで容器は拡散媒体を含有する;
b)金属を前記炉に導入し、それを排出するための手段(金属を事前充填できる、あるいは装置の作動の間、連続的に又はバッチ様に供給され得るセラミック又は金属るつぼ又は石板、あるいは電極が、手段であることができる);
c)所望により、第一入口管を通して、第一の非反応性気流を炉に導入するための手段(例えば、マイクロメーターバルブ、電子流コントローラ、又は気体拡散管);
d)第一気流に金属ナノ粒子を蒸発させるための手段(例えば、電子ビーム、赤外線、レーザー、誘導性、抵抗性、又はプラズマジェットとしてのエネルギー入力);
e)第一気流中にナノ粒子の分散物を生じるために、第一気流中で、蒸発した金属性ナノ粒子を凝縮するための手段(例えば、温度の低下、圧力の上昇、非反応性気体の化学的性質の変化、移動管の長さの制御、ガス流量の制御、又はこれらの組み合わせ);
f)所望により、金属性ナノ粒子と反応させるために、第二入口管を通して、第2の反応性気流を炉に導入するための手段(例えば、マイクロメーターバルブ、電子流制御装置、又は気体分散管);
g)熱可塑性ポリマーフィルム上にナノ粒子を衝突させるための手段。
【0055】
本発明の分散物を提供するための他の反応装置の設計は、「有機金属性化学における金属蒸気合成(Metal Vapour Synthesis in Organometallic Chemistry)」、(J.R.ブラックボロウ(J. R. Blackborow)とD.ヤング(D. Young)、スプリンガー出版社(Springer-Verlag)(ニューヨーク)、1979)に記載されるような回転金属原子反応装置、及び日本応用物理学誌(Jpn. J. Appl. Phys)、13、749(1974)に記載されるような回転盤組立て品を包含することが想定され得る。どちらの種類の反応装置を使用しても、有機顔料の分散物を生成することができる。抵抗加熱に加えて、顔料又は顔料前駆体に熱を加える他の手段も想定されてよい。これらとしては、レーザー加熱、誘導加熱、プラズマジェット、プラズマアーク放電、及び当業者に既知の他のものが挙げられる。
【0056】
本発明のプロセスにおいて、ミリング又は化学的還元プロセスは、最終コーティングで得られる微細粒径を達成するために必要でない。調整可能な又は制御可能な吸光度スペクトルによって示されるように、本発明のナノ粒子は、有用な光学特性を示す。
【0057】
ナノ粒子コーティング物品の望ましい光学特性及び電子特性を保持するためには、水溶性ポリマー基材が、顔料、充填剤、強化剤のような粒子状添加剤を実質的に含有しないことが好ましい。こうした添加剤は、存在するとき、吸光度に悪影響を与える可能性があり、水溶性フィルムの誘電体特性を変える可能性があり、及び光散乱を増加する可能性がある。一般に、こうした添加剤は、存在するならば、水溶性ポリマー基材の5重量%未満、好ましくは1重量%未満である。
【0058】
しかし、ある実施形態では、特定の波長の入射光線に金属性ナノ粒子を増感するために、染料又は顔料を更に含むことが、ナノ粒子コーティング物品にとって望ましい可能性がある。こうした感光剤は、ポリマーマトリックスに埋め込まれる又は分散するよりはむしろ、延伸前又は延伸後にナノ粒子コーティング物品上にコーティングされてもよい。こうした感光剤は、金属性ナノ粒子の重量に対して、通常1重量%未満で使用される。
【0059】
フィルム及び繊維のような水溶性ポリマー基材は、金属性ナノ粒子の蒸着前又は蒸着後に、延伸されてもよい。フィルムがナノ粒子蒸着前に延伸されても又は延伸されなくても、コーティングされたフィルムは、所望の吸収スペクトルを提供するために、その後延伸(又は、収縮)されてもよいことが理解されるであろう。従って、延伸されたフィルムは、ナノ粒子でコーティングされた後、さらに延伸されてもよく、又は延伸されないフィルムは、ナノ粒子でコーティングされた後、延伸されることが好ましい。一般に、寸法(長さ及び/又は幅)が増加するように、延伸は永久的な変形を水溶性基材に付与するが、永久的な変形は、所望の効果のために必要ではない。
【0060】
延伸は、粒子間距離を増加し、(又は、収縮は、粒子間距離を減少し)、最大吸光度ピークを(それぞれ、より短い波長又はより長い波長へ)移行する。光学フィルター用途において、これは、UV又はIR波長のような望ましくない波長を最も能率的に取り除くために、吸光度を事前に選択された最大値に合わせることを可能にする。センサー用途において、これは、最大吸光度ピークを特定の分析物に合わせることができ、これによって応答信号を最大にする。一般に、基材は、コーティングされた物品の最大吸光度ピークが、少なくとも10ナノメートル、好ましくは少なくとも20ナノメートル移行するのに十分な量で、延伸(又は、収縮)される。
【0061】
水溶性ポリマー基材は、1つの長軸に沿って延伸(単軸性)されてもよく、2つの長軸に沿ってさらに延伸(二軸性)されてもよい。延伸は、連続的に行われても、同時に行われてもよい。延伸の程度は、一般に、延伸比、すなわち最終的な面積と元の面積との比によって定義される。この延伸は、カレンダ処理工程と縦方向の延伸の工程とを包含する、本発明における技術の組み合わせによってもたらされることができる。一般に、総延伸比は、少なくとも1.1倍であり、好ましくは少なくとも5倍である。
【0062】
最大吸収ピークの所望のシフトが達成され、フィルムの一体性が維持されるように、延伸の条件が選択される。従って、機械方向及び/又は横断方向に延伸する場合、フィルムの実質的な引裂き、ひずみ、又は破断を回避し、一体性が維持されるように、温度を選択する。温度が低すぎる場合又は延伸比が極端に高い場合、フィルムは、引裂き又は更に突発的な損傷を生じ易くなる可能性がある。延伸温度は、前記ポリマーのガラス転移温度よりも高いことが好ましい。このような温度条件では、フィルムの一体性を損なわずにX方向及びY方向に延伸することができる。
【0063】
延伸するとき、ポリマー基材はまた、直交延伸時の自然減(これは延伸比の平方根に相当する)から直交延伸方向に寸法緩和されてもよく、又は拘束されてもよい(すなわち、直交延伸寸法の実質的な変化なし)。基材は、長さ方向配向器(length orienter)を用いるなどで機械方向に、テンターを用いて幅方向に、又は対角線角度で、延伸されてよい。
【0064】
こうした延伸及び配向プロセスに関して、事前延伸温度、延伸温度、延伸速度、延伸比、ヒートセット温度、ヒートセット時間、ヒートセット弛緩、及び直交延伸弛緩は、所望の屈折率関係を包含する所望の特性を有するフィルムをもたらすように選択されることが、理解されるであろう。
【0065】
ナノ粒子コーティング物品の延伸が、フィルムの横断方向及び長手方向で等しくないならば、物品は2つの長軸に沿って異なる光学特性を示すであろう。これは、単軸性延伸、又は1つの軸に沿った延伸が他の軸に沿った延伸より大きい等しくない二軸性延伸から生じる可能性がある。延伸は、二軸性であり、両方の軸上で実質的に等しい、すなわち1つの軸に沿った延伸が他の軸に沿った延伸の20%以内であることが好ましい。
【0066】
所望により、コーティングされた物品は、好ましくは、応力を緩和するのに十分な温度で延伸後にアニール処理されてよいが、それは、フィルムの劣化がもたらされるほど長くない、又はそれほど高い温度でもない。好適なアニーリング温度は、使用されるポリマーの種類によって異なる。アニーリング工程間に、熱のみで、圧力がフィルムに加えられないことが好ましいが、約68.9kPa(10psi)未満のわずかな圧力は有害でない。通常、アニール処理されるフィルムは非接着性支持体上に載せてあるだけであり、前記非接着性支持体の周りには、温風が循環されているか又はその上部に輻射ヒーターが配置されている。
【0067】
また、方法は、ナノ粒子コーティング水溶性ポリマー基材を収縮する工程を含んでもよい。収縮に際し、粒子間距離は低下し、最大吸光度ピークは、より長い波長へ移行する。光学フィルター用途において、これは、UV又はIR波長のような望ましくない波長を最も能率的に除去するために、吸光度を事前に選択された最大値に合わせることを可能にする。センサー用途において、これは、最大吸光度ピークを特定の分析物と合わせることができ、これによって応答信号を最大にさせる。
【0068】
本発明は、ポリマーフィルム上の一部分に不連続的な金属性ナノ粒子コーティングを有する収縮可能な水溶性ポリマーフィルムを提供する。ポリマーフィルムの投影表面積が、最大吸光度ピークが少なくとも10ナノメートル、好ましくは少なくとも20ナノメートル移行するのに十分な量で収縮するように、収縮可能なコーティングされたポリマーフィルムの温度を、上昇させる。収縮工程は、物品が、その初期の投影表面積の50%未満に収縮するように、時には、その初期の投影表面積の10%未満に収縮するように、特定の実施形態ではその初期の投影表面積の5%未満に収縮するのに十分な時間、収縮可能なコーティングされた物品を高温にさらすことを含んでもよい。収縮工程の間、不均一な収縮、ねじれ、又は他の望ましくない変形を避けるために、ナノ粒子コーティング収縮可能なフィルムを実質的に平らに保つことが有利である。熱収縮の間、収縮可能なフィルムを、テンター装置内、又は2つの平坦な表面間に保持してもよい。
【0069】
一般に、ナノ粒子コーティングフィルムは、吸収スペクトルにおける所望の移行を提供するために、収縮される。過度の収縮は、電気伝導度、反射の上昇、及び表面プラズモン共鳴の損失又は低減を伴う、これまでは不連続的であったナノ粒子(及び、粒塊)間に連続性を導く可能性があることが認識されるべきである。
【0070】
「収縮可能な(Shrinkable)」、「収縮する(shrinking)」、又は「収縮した(shrunk)」は、基材のような材料において、材料が、回復、弛緩、又は任意の他の手段のいずれかによって、少なくとも一次元においてその長さが低減し得る、低減する、又は低減したことを意味するものとする。基材の収縮%は、次の方程式を使用して計算される:収縮%=100%×[収縮前の投影表面積−収縮後の計画された表面積]/収縮前の投影表面積。ナノ粒子コーティングポリマー収縮フィルム基材は、熱源を使用して、例えば対流又は接触加熱により、典型的に収縮される。また、いくつかの実施において、加熱プロセスは、マイクロ波、高周波、又は赤外線によって実行されてもよい。
【0071】
所望により、物品は、更に、ナノ粒子を環境影響及び機械的応力から隔離するための保護層を含んでもよい。付加的な保護層は、金属性ナノ粒子層、及び水溶性フィルム層の露出表面(すなわち、コーティングされていない領域)と接触してもよい。この層は、高分子層及び全体の構造の両方の表面粗さを低減するように、物品の透明性及びかすみの低さを維持するように、ナノ粒子層を表皮剥離又は酸化から保護するように、機能することができる。また保護層は、引っかき抵抗性、化学薬品耐性及び/又は向上した耐候性を付与するために使用されてもよい。保護層は、水溶性フィルム層のコーティング面の表面上に共押出されることができる。或いは、保護層は、好適な感圧性又は非感圧性接着剤を使用して、水溶性フィルム層上にコーティング又は積層されることができる。好適な保護層としては、ハードコート、接着剤、帯電防止剤、接着促進プライマー、UV安定化コーティング、摩擦低減層等が挙げられるが、これらに限定されない。保護層は、透明ポリマー、例えば、ポリエステル(熱可塑性ポリマーフィルム層の構築に使用されるものと同一又は異なる)で作られることが好ましい。
【0072】
ナノ粒子コーティング物品は、その表面上にナノ粒子又はナノ粒子の粒塊の不連続コーティングを有する水溶性ポリマーフィルムとして特徴付けられてよく、物品は一般に表面プラズモン共鳴を示す。ナノ粒子又はその粒塊の領域、並びにコーティングしていない領域を持つコーティングの最大平均厚さは、100ナノメートル未満、好ましくは10ナノメートル未満である。およそ100ナノメートルを超えるコーティングは、連続的な金属化フィルムとして機能する傾向があり、これは表面プラズモン共鳴を示さない。粒子間距離は、蒸着の間に、又はその後の水溶性ポリマー基材の延伸又は収縮によって、制御されてよいことが理解されるであろう。
【0073】
必要であれば、複数個のナノ粒子コーティングフィルムを含む多層の物品を使用してもよい。フィルムは、隣接した層に結合される、ないしは別の方法で固定されてもよく、又はナノ粒子コーティングフィルムの積み重ね体を含んでもよい。多層物品は、表面プラズモン共鳴を維持する一方で、吸光度全体(吸光度の加算性)を向上し、これは一般にナノ粒子コーティング厚さを向上することでは不可能である。更に多層物品は、層間で内部反射を示し、これは干渉縞をもたらす。
【0074】
粒子は、水溶性フィルム表面上に部分的に固定され、その中に埋め込まれるよりもむしろ、露出される。コーティングされたフィルムの横断面の電子顕微鏡写真は、ナノ粒子がフィルムの平面よりも実質的に上にあることを示す。一般に、ナノ粒子の体積の50%超過、典型的に75%超過が、表面よりも上にある。粒子は、表面上に固定されたままで、簡単に除去されない。接着テープを表面に添付した後、180度で剥離するテープ試験により、典型的に、粒子の5%未満が除去される。
【0075】
水溶性ポリマー基材の他の物理的形態(例えば、繊維、不織布、微細多孔質又は多孔質フィルム)は、異なる横断面を示す可能性がある。微細多孔質、多孔質、又は不織布基材上への不連続的なナノ粒子コーティングの蒸着後、いくらかの金属性ナノ粒子は、基材の主要面に部分的に固定され、主要面に対して垂直に観察するとき露出している。物理的蒸着法は「視線(line of sight)」法であるため、少数(50%未満)のナノ粒子は、主要面よりも下の孔内に見出されるが、大気と直接連通していてよい。
【0076】
例えば、本発明の物品は、水溶性不織布基材を含んでもよい。有利なことに、高い表面積(フィルムと比較して)は、ポリマー基材の溶解を補助する。ポリビニルアルコール不織布基材は、本明細書に参考文献として組み込まれる米国特許第5,656,333号(トルオング(Truong)ら)及びこの中の参考文献に従って製造されてよい。
【0077】
本発明において使用されるナノ粒子コーティングは、ミリング媒体の存在及び機械的部品の消耗に起因する、分散した材料の混入を回避する。これらの問題は、微粒子の機械的粉砕を採用する従来の方法によって調製される分散物について、上に記載された。さらに、非化学的還元プロセスは、最終コーティングで得られる粒径を達成するために必要であり、採用される溶媒及び還元剤は、ナノ粒子を混入する可能性がある。
【0078】
コーティングされた物品の最大吸収ピークは、蒸着した金属又は金属性化合物、平均厚さ、平均粒径及び形状(粒塊を包含する)、基材として使用されるポリマー、並びに物品の延伸(又は収縮)の程度の関数である。より多くの金属性ナノ粒子がフィルム上に蒸着し、平均厚さが上昇すると、吸収スペクトルが広がり、最大値がより長い波長へ移行する。電子顕微鏡写真は、固体厚さが増加すると、アグロメレーションの結果として平均粒径が増加し、ナノ粒子間の空間(コーティングしていない領域)が減少することを露呈する。平均厚さは、蒸着速度、及び蒸着時間(フィルムが金属性蒸気にさらされる時間)によって制御されてよい。いくつかの方法は、コーティングを特徴付けるために利用できる。最も一般的なものとしては、ナノ粒子コーティングの平均厚さとして表される固体の厚さが挙げられる。
【0079】
表面プラズモン共鳴及び吸収スペクトルは、分光測光法により測定されてもよい。スペクトルの最大吸収ピークが、延伸又は収縮に対応して(又は、前述の因子を制御することにより)移行するので、金属性材料の表面プラズモン吸収スペクトルは、透過光の検出のためのいずれかの好適な手段により測定されてもよい。好適な手段としては、ベックマン・コールター(Beckman Coulter)(DUシリーズ500走査分光分析装置、及びDUシリーズ600高性能分光分析装置)、分光装置(Spectral Instruments)(400シリーズスペクトロメーター)、バリアン装置(Varian Instruments)(カリー(Cary)300バイオ分光分析装置)、サファス・モナコ(Safas Monaco)(UVmcシリーズ分光分析装置、及びD.E.S.分光分析装置)、日立装置(Hitachi Instruments)(U3010/3310分光分析装置)、並びにその他のような、会社から市販されているもののようなUV−vis分光分析装置が挙げられる。透過光の検出のための他の手段としては、好ましくは、サイオン・イメージ・ソフトウェア(Scion Image software)(サイオン社(Scion Corp))のような画像をグレースケールに変換する手段、及び/又は画像の密度を決定する手段と組み合わせて、UMAXスーパービスタ(super vista)S−12フラットベットスキャナー(UMAXテクノロジー社(UMAX Technologies, Inc.))のような同様に市販されているCCDカメラ及び平台光学的スキャナーが挙げられる。
【0080】
ナノ粒子コーティング水溶性ポリマー基材は、ナノ粒子の保存の便利な手段であり、安定な水性金属性ナノ粒子分散物の調製において特に有用である。驚くべきことに、水溶性ポリマーは、安定剤として機能し、ナノ粒子のアグロメレーション及び沈殿を防ぐ。こうした懸濁液は、沈降の形跡なく、1年間安定であることが観察された。分散物は、チオール安定剤を使用することにおける当該技術分野において固有の問題を克服する。
【0081】
ナノ粒子コーティング水溶性物品は、水溶性ポリマー基材が溶解して、安定な水性分散物をもたらすのに十分な温度及び時間で、水又は水性溶媒に接触してもよい。攪拌は使用されてよいが、通常、加熱は必要でない。攪拌手段は、振盪、かき混ぜ、及び超音波攪拌を包含してもよいが、これらに限定されない。水性分散物をもたらすために、有機溶媒を、水と組み合わせて使用してもよい。従って本発明は、二次基材をコーティングするために使用されてよい水溶性ポリマーを含有する金属性ナノ粒子の水性分散物を提供する。
【0082】
必要ではないが、ナノ粒子/水溶性ポリマー分散物の安定性を改善するために、分散助剤又は界面活性剤を使用してもよい。好適な分散助剤としては、オルガノシラン、カルボン酸のような有機酸、アルコール、ポリエチレングリコール、脂肪酸のモノ−又はジエステル、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、ポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシド、あるいはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0083】
水中のナノ粒子の事前に選択された濃度は、ナノ粒子コーティング基材の量及び水の量の賢明な選択によって得られてもよい。所望の濃度のナノ粒子をもたらすために、所望により、水は、添加又は蒸発されてもよい。分散物は、ガラス基材のような他の二次基材(すなわち、初期の水溶性ポリマー基材以外の基材)をコーティングするために、使用されてもよい。物品は、二次基材をナノ粒子の水性懸濁液(溶解した水溶性ポリマーを含有する)でコーティングした後、得られたコーティングを乾燥することにより調製されてもよい。得られる物品は、水溶性ポリマーマトリックス中にナノ粒子コーティングを持つ基材を含む。必要であれば、水溶性ポリマーは架橋されてもよい。
【0084】
二次基材は、任意の好適な材料から作製することができ、特定の最終用途への適用に応じて、多種多様のフィルム、シート、ウェファー、及び他の表面から選択することができる。有用な二次基材としては、金属、ガラス、セラミック、ケイ素、及びITO等の無機基材、並びにポリオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリレート(polyarylates)、ポリイミド、ポリマー多層膜等の熱可塑性ポリマー及び熱硬化性ポリマーを包含する有機基材、並びに有機/無機複合多層フィルムが挙げられる。可撓性ロール又はガラス製シートも使用することができる。多数の光学的用途の場合、基材材料は、望ましくは透明であるが、又は例えば、ステンレス鋼、結晶性ケイ素、ポリシリコン等のように可視光線に対して不透明でもあり得る。基材は、所望により、ナノ粒子の接着力を増強するために、プライマー(例えば、シランカップリング剤)で事前処理することができる。
【0085】
有利なことに、本物品及び方法では、所望の二次基材の性質又は形状に起因して、蒸着技術を通常受け入れられない他のナノ粒子コーティング基材を調製できる。
【0086】
ナノ粒子コーティング物品は、分析用途におけるセンサーとして使用されてもよい。一実施形態では、センサーは、ナノ粒子コーティング水溶性フィルム、及びナノ粒子コーティング上の少なくとも一部に配置される結合剤を含む。別の実施形態では、センサーは、ナノ粒子コーティング二次基材(例えば、ガラス基材)、及び本明細書に記載されたように調製されたナノ粒子コーティング上の少なくとも一部に配置される結合剤を含んでもよい。
【0087】
結合剤は、本発明のセンサーで試験される生物的、生化学的、化学的、環境的溶液に存在する所定の物質と相互作用する。金属性材料又は光学的に透明な基材のどちらにも有害な影響を及ぼさないという条件で、あらゆる好適な反応性物質が本発明において採用されてよい。
【0088】
本発明の特定の好ましい実施形態に従うと、結合剤は、試験される生物的、生化学的、化学的、又は環境的試料に存在する少なくとも1つの所定の物質との生物学的結合に関係する剤である。本明細書で使用する時、用語「生物学的結合」とは、相互親和性又は結合能力、典型的に、対のタンパク質、核酸、糖蛋白質、炭水化物、ホルモン等のような生化学的、生理学的及び/又は薬学的相互作用を包含する特定の又は非特定の結合又は相互作用を示す、対応する対の分子間の相互作用を意味することが意図される。こうした対応する対又は分子の実例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:抗体/抗原;抗体/ハプテン;酵素/基材;酵素/補助因子;酵素/阻害物質;結合タンパク質/基材;担体タンパク質/基材;レクチン/炭水化物;受容体/ホルモン;受容体/エフェクター;核酸ストランド/相補的核酸ストランド;タンパク質/核酸抑制物質又は誘導物質;配位子/細胞表面受容体;並びにウイルス/配位子。
【0089】
必要であれば、金属性ナノ粒子及び/又は熱可塑性フィルム層への結合剤の接着を改善するために、機能性材料を使用してもよい。それ故に、金属性材料及び/又は熱可塑性フィルム層、並びに結合剤の両方に接着し、どちらにも有害でないあらゆる材料は、第二の機能性材料として使用されてもよい。第二の機能性材料として使用するために好適な化合物は、当業者に既知であり、例えば、ホスホン酸、ベンゾトリアゾール、アズラクトン、−COOH、−CN、−NH、2−ピリジル、−P(C及び/又は−SHを包含する1以上の官能基を含有する有機化合物が挙げられる。第二の機能性材料の特に好ましい例は、3−メルカプトプロピオン酸のようなカルボキシル末端有機チオールである。
【0090】
したがって、本発明のこうした実施形態において採用される特定の機能性材料の選択は、少なくとも部分的に、採用される特定の金属性材料及び特定の反応性物質に依存する。それ故に、特定の機能性材料の選択は、使用される特定の金属性材料及び反応性物質を考慮して、当業者により経験的に決定されてよい。
【0091】
センサーとして使用されるとき、水溶性ポリマー基材(又は、所望により二次基材)は、実質的に透明であることが好ましい。本明細書で使用する時、用語「実質的に透明」とは、スペクトルの紫外線領域(約200〜約400ナノメートル)、可視領域(約400〜約750ナノメートル)、又は赤外線(約750ナノメートル超過)で、光の少なくとも50%を透過する物質を意味することが意図される。
【0092】
本発明のセンサー(単数又は複数)は、スペクトルの紫外線領域(約200〜約400ナノメートル)、可視領域(約400〜約750ナノメートル)、及び/又は赤外線領域(約750ナノメートル超過)における透過光を検出するための手段と組み合わせて採用されることが好ましい。透過光の検出のためのこうした手段の市販の例としては、UV−vis分光分析装置、赤外線スペクトロメータ、及び平台光学スキャナーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
本発明の好ましい実施形態の1つは、配列形式で並ぶ複数個のセンサーを対象とする。こうした実施形態に従うと、センサーの配列は、紫外線領域(約200〜約400ナノメートル)及び/又は可視領域(約400〜約750ナノメートル)において(例えば、平台光学スキャナー又はCCDカメラ)、あるいはスペクトルの赤外線領域(約750ナノメートル超過)において、透過光を検出するための手段と組み合わせて採用されることが好ましい。本発明のこうした実施形態は、エンドポイント分析に使用するために、又は組み合わせの化学物質、プロテオミクス、及び/又はゲノミクスのスクリーニングツールとして、特に有用である。
【0094】
本発明は、偏光を包含する入射光線の選択的な吸収及び透過のための光学的要素をさらに提供する。有利なことに、ナノ粒子コーティング物品の吸収スペクトルは、物品の適切な延伸又は収縮により、制御されてもよい。本発明の光学フィルムは、選択的な吸収、透過、及び反射を提供するために、いずれかの用途において使用されることができる。複数の光学的効果を組み合わせるために、光学フィルムを、他の光学本体又はフィルムに組み込む又は適用することができる。例えば、IRミラー、UV吸収構造、太陽制御構造、偏光子、又は装飾的構造を形成するために、光学本体を、1以上の追加の光学的に活性な物質層とともに組み込むことができる。物品がナノ粒子コーティングビニルアルコールポリマーのような水溶性ポリマーフィルム基材を含むとき、ビニルアルコールポリマー基材を、物品を窓ガラスのような二次基材に固定するための接着剤として使用してもよい。
【0095】
同様に、光学フィルターをガラス又はポリカーボネート製の窓ガラス及びレンズに提供するために、本発明の光学的な要素を使用することができる。また光学的要素は、穿刺又は引裂き耐性フィルム、安全及びセキュリティフィルムの構造における用途、並びに例えば、コンピュータモニター、テレビスクリーン等の光学的ディスプレイのためのコントラスト増強層としての用途を見出す可能性がある。
【実施例】
【0096】
これらの実施例は、単に例示を目的とするものであり、添付した特許請求の範囲を限定するものではない。本明細書の実施例及び他の部分におけるすべての部、百分率、比等は、特に注記がない限り、重量による。用いられた溶媒及び他の試薬は、特に注記がない限り、ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee)のシグマ−アルドリッチ・ケミカル社(Sigma-Aldrich Chemical Company)から入手した。
【0097】
【表1】

【0098】
(実施例1)
銀ナノ粒子は、40オングストロームの公称厚さでPVAフィルム上へ電子ビーム蒸発された。電子ビーム蒸着速度は、5オングストローム/秒であった。得られたコーティングされたフィルムは、黄色がかった/琥珀の色合いを有した。スペクトルは、サンプリング間隔2ナノメートル、及び積分時間0.5秒で、UV−vis HP8452A.Rev.A分光分析装置を使用してとられ、これは、図1に示されるように、412ナノメートルにおいてナノ粒子共鳴を示す。コーティングされたフィルムの0.9グラムの試料を、室温で蒸留水157グラムに溶解し、原液を作製した。追加の溶液は、原液の50%及び25%試料を蒸留水でさらに希釈することによって作製した。これらの溶液は、アグロメレーションの形跡がなく1年間安定であったことが認められた。
【0099】
これらの溶液のスペクトルは、経路長1センチメートルのセル内で測定された。結果を、図2に示す。原液の試料を蒸発させ、非常に粘稠な液体が生じた。これらの溶液のスペクトルは、経路長1ミリメートルの試料セル内で測定された。粘稠な液体は、スライドガラス上にコーティングされ、完全に乾燥されて、28マイクロメートルコーティングを生じた。ナノ粒子を持つこの乾燥されたキャストフィルムのスペクトルを測定した。結果を粘稠な前駆体溶液のスペクトルとともに図3に示す。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】実施例1からの吸光度スペクトル。
【図2】実施例1からの吸光度スペクトル。
【図3】実施例1からの吸光度スペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリマー基材及びその上の金属性ナノ粒子の不連続コーティングを含む物品。
【請求項2】
前記水溶性ポリマーが、ビニルアルコールポリマー、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アルキレンオキシド)、ポリ(ビニルメチルエーテル)、スルホン化ポリエステル、複合糖質、グアーガム、アラビアゴム、トラガカントゴム、カラマツゴム、カラヤゴム、イナゴマメゴム、寒天、アルギン酸塩、カラギーナン、ペクチン、セルロース誘導体、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
水溶性ポリマー基材が、フィルム、シート、繊維、織布又は不織布、あるいは多孔質又は微細多孔質フィルムの形態である、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記水溶性ポリマー基材が延伸される、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
金属性ナノ粒子が、100ナノメートル未満の平均主要寸法を有する個々の粒子又は粒子の粒塊を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記金属性ナノ粒子が、金、アルミニウム、銅、鉄、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、チタン、コバルト、バナジウム、マグネシウム、銀、亜鉛、及びカドミウム、インジウム、ランタン、インジウムスズ酸化物(ITO)及びアンチモンスズ酸化物(ATO)、アンチモンインジウムスズ酸化物(AITO)、スズ、ホウ素、六ホウ化ランタン、希土類金属、並びにこれらの混合物及び合金から選択される、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記ナノ粒子のアスペクト比が1.5:1を超える、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
水溶性ポリマーが、下式のビニルアルコールポリマーであり、
【化1】

式中、RはH、C〜Cアルキル、又はアリール基;及びR’はH、又は加水分解性官能基である、請求項1に記載の物品。
【請求項9】
表面プラズモン共鳴を有する、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
更に保護層を有する、請求項1に記載の物品。
【請求項11】
以下を含む、金属性ナノ粒子コーティングフィルムの調製方法:
a)水溶性ポリマー基材を提供する工程、及び
b)物理的蒸着により、基材表面上に金属性ナノ粒子の不連続コーティングを蒸着する工程。
【請求項12】
前記蒸着の工程後に、前記水溶性ポリマー基材を延伸する工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記蒸着の工程後に、前記水溶性ポリマー基材を収縮する工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
金属性ナノ粒子が、100ナノメートル未満の平均主要寸法を有する個々の粒子又は粒子の粒塊を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ粒子コーティングの最大平均厚さが100ナノメートル未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記金属性ナノ粒子が、金、アルミニウム、銅、鉄、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、チタン、コバルト、バナジウム、マグネシウム、銀、亜鉛、及びカドミウム、インジウム、ランタン、インジウムスズ酸化物(ITO)及びアンチモンスズ酸化物(ATO)、アンチモンインジウムスズ酸化物(AITO)、スズ、ホウ素、六ホウ化ランタン、希土類金属、並びにこれらの混合物及び合金から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
物理的蒸着プロセスが、蒸着、カソードスパッタリング、熱分解、イオンプレーティング、又は電子ビーム蒸着から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
2つ以上の金属が蒸着される、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記金属性ナノ粒子が金属酸化物ナノ粒子である、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記ナノ粒子コーティング微細多孔質膜をアニーリングする工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
前記金属性ナノ粒子が事前に選択されたパターンに蒸着される、請求項11に記載の方法。
【請求項22】
請求項1のナノ粒子コーティング物品を水性溶媒に接触させることを含む、ナノ粒子分散物の調製方法。
【請求項23】
攪拌工程を更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記攪拌が、振盪、かき混ぜ、及び超音波攪拌を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
金属性ナノ粒子及び水溶性ポリマーを含む水性ナノ粒子分散物。
【請求項26】
以下を含む、基材上にナノ粒子コーティングを提供する方法;
a)基材及び請求項25のナノ粒子分散物を提供する工程、
a.基材をナノ粒子分散物を有するナノ粒子に接触させる工程、
b.得られたコーティングされた基材を乾燥し、水性溶媒を除去する工程。
【請求項27】
前記基材が、金属、ガラス、ケイ素及びITO、織布及び不織布、並びに熱可塑性及び熱硬化性ポリマーから選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記基材が透明である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記基材が、蒸着後に表面プラズモン共鳴を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
請求項1の金属性ナノ粒子コーティング水溶性ポリマー基材を含む、表面プラズモン共鳴を示す光学物品であり、最大吸収ピークが、物品の延伸又は収縮により調節されてもよい、光学物品。
【請求項31】
延伸が、粒子間距離を増大させ、最大吸光度をより短い波長に移行させる、請求項30に記載の光学物品。
【請求項32】
収縮が、粒子間距離を縮小させ、最大吸光度ピークをより長い波長に移行させる、請求項30に記載の光学物品。
【請求項33】
請求項1の金属性ナノ粒子コーティング水溶性ポリマー基材を含む、生物学的、生化学的、化学的、又は環境的試料のセンサーであり、結合剤が、前記金属性ナノ粒子コーティングの少なくとも一部分に配置され、前記結合剤が、前記試料に存在する所定の物質と相互作用する、センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−501095(P2009−501095A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521366(P2008−521366)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/024976
【国際公開番号】WO2007/011331
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】