説明

金属水銀の測定方法及び測定装置

【課題】排ガス中の金属水銀の測定精度を向上させること。
【解決手段】水銀及びSOを含むガスを採取して該採取したガス中の金属水銀の濃度を測定する金属水銀の測定方法において、採取管10内に採取されたガスを、過酸化水素を含む吸収溶液11に接触させて該ガス中のSOを捕集する第1の前処理工程と、該第1の前処理工程でSOが除去されたガスを、塩化カリウムを含む吸収溶液13に接触させて該ガス中の酸化態水銀を捕集する第2の前処理工程と、該第2の前処理工程で酸化態水銀が除去されたガスを原子吸光分析計8の吸収セルに導いて該ガス中の金属水銀の濃度を測定する計測工程とを含むこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス中の金属水銀の測定方法及びその測定装置に係り、特に、石炭焚き火力発電所や廃棄物焼却施設、化学プラント等から排出されるガス中に含まれる金属水銀の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、欧米を中心として、NOxやSOx、重金属類等の有害大気汚染物質の排出に関する法規制の強化が進められている。その中で、排ガス中の水銀は最も注目されており、特に石炭火力発電所の排出ガス中に含まれる水銀の監視は、今後の重要な課題になると考えられている。排ガス中に含まれる水銀は、金属水銀と酸化態水銀とに大別されるが、このうち、金属水銀は蒸気圧が高く、石炭火力発電所に設置される脱硝装置や電気集塵機、脱硫装置といった現在の排煙処理設備では除去されないため、大気に放出され易い。このため、排ガス中の水銀濃度を監視する上では、ガス中の金属水銀を精度よく安定して分析する技術が不可欠となっている。
【0003】
排ガス中の金属水銀の分析方法としては、従来、日本工業規格(JIS K−0222)に規定される金アマルガムを用いた標準法や、例えば特許文献1に記載された分析方法が知られている。
【0004】
特許文献1に記載された金属水銀の分析方法では、まず、水銀を含む被測定ガスを、水溶性の酸化態水銀(水溶性水銀)を吸収する溶液(例えば水や塩化カリウム溶液等の塩類、水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ、硝酸溶液等の酸)に接触させて、被測定ガス中の酸化態水銀を該溶液に吸収させる。続いて、この被測定ガスを、水銀計測の干渉ガスとなる酸性ガスのSO等を吸収するアルカリ溶液(例えば水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等)に接触させて、被測定ガス中の酸性ガスを該溶液に吸収させた後、この被測定ガスを原子吸光分析用の吸光セルに導入することにより、ガス中に残存するガス状の金属水銀の濃度を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3540995号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法によれば、SOを含む被測定ガスを酸化態水銀の吸収溶液に接触させているために、酸化態水銀とともにSOの一部が該溶液に吸収される。ここで吸収されたSOは、溶液中で亜硫酸イオンになるため、この亜硫酸イオンによって同溶液中の酸化態水銀が金属水銀に還元されてしまい、吸光セルにおける金属水銀の測定値が実際よりも高くなるという問題が生じる。
【0007】
また、被測定ガス中にSOが含まれている場合、サンプリングライン中で生成したSOミストと酸化態水銀とが接触することにより、酸化態水銀の一部がミスト状水銀を形成する場合がある。このミスト状水銀は、ガス吸収方式では捕集できないため、上記の吸収溶液を通過して原子吸光セルにまで達してしまい、計測値に誤差をもたらす要因となる。
【0008】
本発明は、このような金属水銀の測定精度を低下させる現象を排除して、排ガス中の金属水銀の測定精度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここで、本発明の原理を分かりやすくするため、はじめに従来の測定装置の原理について説明する。図3は従来から一般に使用されている石炭焚きボイラの排ガス中の金属水銀を測定するための測定装置の一例をブロック図で示したものである。
【0010】
この装置では、先ず、吸引ポンプ9で吸引された排ガスが脱塵フィルタ1に導かれ、フィルタを通過することにより、排ガス中のダストが除去される。続いて、ダストが除去された排ガスは、加熱された加熱導管2に導かれて所定温度に加熱された後、吸収溶液3が貯留された吸収瓶4に導入される。吸収瓶4に導入された排ガスは、吸収溶液3と接触することにより、排ガス中の酸化態水銀が吸収溶液3に吸収される。この吸収溶液3は、水や塩化カリウム溶液等の塩類、水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ、硝酸溶液等の酸が一般に用いられる。続いて、吸収瓶4を出た排ガスは、水酸化カリウム等の吸収溶液5が貯留された吸収瓶6に導入され、吸収溶液5と接触することにより、前段の吸収溶液3で除去しきれなかったSO等の酸性ガスが吸収溶液5に吸収される。そして、吸収瓶6を出た排ガスは、除湿器7を経て、原子吸光分析計8の吸光セル内に導かれ、排ガス中の金属水銀が測定される。
【0011】
しかし、このような方法は、排ガス中に含まれる酸性ガス濃度が低い場合にはガス中の金属水銀を高い精度で継続的に分析可能であるが、排ガス中の酸性ガス濃度が高く、特に排ガス中に含まれるSO及びSOの濃度が高い場合には、金属水銀の測定精度が低下する現象が見られた。
【0012】
本発明者らはこのような現象の原因について詳細な検討を進めた結果、以下のような結論に達した。
(1)吸収溶液3では高濃度のSOを継続的に除去することができず、吸収溶液3で吸収しきれなかったSOが原子吸光分析計8内の吸光セルに侵入してSOが吸光してしまうため、金属水銀の測定精度が大きく低下する。
(2)吸収溶液3に吸収されたSOの一部が亜硫酸イオンとなり、酸化態水銀の吸収溶液3の中で、亜硫酸イオンと酸化態水銀とが反応して酸化態水銀が金属水銀に還元される(反応式(1)、(2))。このため、金属水銀の測定値が実際よりも高くなる。
SO+HO(l) → SO2−+2H (1)
Hg2++SO2−+HO(l) → Hg↑+SO2−+2H (2)
(3)排ガス中にSOが存在すると、排ガスが加熱導管2を通過して吸収溶液3と接触するまでの間に冷却されてSOミストが生成し、このSOミストと酸化態水銀とが接触することで、酸化態水銀の一部が難溶性のミスト状水銀を形成する場合がある。このミスト状水銀は、吸収溶液3、吸収溶液5のような液には吸収されずに、原子吸光分析計8内の吸光セルに達するため、金属水銀の測定値に誤差をもたらす。
【0013】
このことから、吸収溶液における亜硫酸イオンの生成を防止、つまり吸収溶液中での亜硫酸イオンによる酸化態水銀の還元反応を防止するとともにSOの原子吸光分析計への侵入を防止し、なお且つ、ミスト状水銀が発生した場合でも原子吸光分析計に影響を与えずに除去することができれば、排ガス中のSOx濃度が高い場合でも、金属水銀を精度よく測定することが可能になると思われる。
【0014】
そこで、本発明は、このような課題を解決するため、水銀及びSOを含むガスを採取して該採取したガス中の金属水銀の濃度を測定する金属水銀の測定方法において、導管内に採取されたガスを、過酸化水素を含む第1の吸収溶液に接触させて該ガス中のSOを捕集する第1の前処理工程と、該第1の前処理工程でSOが除去されたガスを、塩化カリウムを含む第2の吸収溶液に接触させて該ガス中の酸化態水銀を捕集する第2の前処理工程と、該第2の前処理工程で酸化態水銀が除去されたガスを原子吸光分析用の吸収セルに導いて該ガス中の金属水銀の濃度を測定する計測工程とを含むことを特徴としている。
【0015】
すなわち、第1の吸収溶液中に含まれる過酸化水素は強力な酸化剤として働くため、この過酸化水素とガスを接触させることにより、ガス中のSOは下記(3)式のように反応し、SOは硫酸イオンとしてほぼ全量が第1の吸収溶液中に吸収され、亜硫酸イオンは殆ど生成しない。このとき、排ガス中に存在する水溶性の酸化態水銀の一部も第1の吸収溶液に吸収されるが、第1の吸収溶液中には亜硫酸イオンが存在しないため、酸化態水銀の還元反応は防止される。このように溶液中での亜硫酸イオンによる酸化態水銀の還元を防止するためには、排ガス中のSOを予め確実に硫酸イオンの形態で溶液中に安定保持しておくことが重要である。
SO+H → 2H+SO2− (3)
【0016】
続いて、第1の吸収溶液中を通過した排ガスを、塩化カリウムを含む第2の吸収溶液と接触させることにより、第1の吸収溶液で吸収しきれなかった酸化態水銀を塩化カリウムの溶液で確実に捕集することができる。ここでは、第1の吸収溶液で排ガス中のSOがほぼ全量吸収されているため、第2の吸収溶液中で亜硫酸イオンによる酸化態水銀の還元が起きることはない。したがって、本方法によれば、亜硫酸イオンによる酸化態水銀の還元反応を防止するとともに、SOの原子吸光分析計への侵入を防止することができるため、金属水銀を精度よく測定することが可能になる。
【0017】
また、排ガス中に数十ppmオーダー以上のSOが共存する場合には、第2の前処理工程を経た後に計測工程へ向けて流れるガスを、ミスト状の難溶性水銀を捕集可能なフィルタに通過させる第3の前処理工程をさらに含めるのが好ましい。これによれば、ガス中でミスト状水銀が形成された場合でも、これを吸収セルの上流側においてフィルタで捕集できるため、原子吸光分析計への干渉や吸収セルの汚染を防止することができ、金属水銀をより精度よく測定することが可能になる。さらに、フィルタによってガス中のSOミストや吸収溶液の飛沫等も同時に除去することができるため、原子吸光分析計内のガス流路を保護する面でも効果的である。
【0018】
また、上記方法を実施するための本発明の測定装置は、水銀及びSOを含むガスを採取して該採取したガス中の金属水銀の濃度を測定する金属水銀の測定装置において、ガスを採取する採取管と、この採取管を通じて採取されたガスと過酸化水素を含む第1の吸収溶液とを接触させて該ガス中のSOを捕集する第1の反応部と、この第1の反応部でSOが除去されたガスと塩化カリウムを含む第2の吸収溶液とを接触させて該ガス中の酸化態水銀を捕集する第2の反応部と、この第2の反応部で酸化態水銀が除去されたガスを原子吸光分析用の吸収セルに導いて該ガス中の金属水銀の濃度を測定する水銀分析手段とを含んでなることを特徴とする。
【0019】
この場合において、第2の反応部と水銀分析手段とを連通させるガス流路の途中に、第2の反応部から出たガスが通流するとともにミスト状の難燃性水銀を捕集可能なフィルタが設けられてなるものとする。
【0020】
以上のような方法、装置により排ガスの前処理を行うことにより、原子吸光分析計におけるガス状の金属水銀の分析精度を低下させる現象を確実に排除することができ、排ガス中の金属水銀を精度よく測定することが可能となる。特に、石炭焚きボイラの排ガス中の金属水銀分析において、硫黄(S)分を多量に含む高S炭の燃焼ガスを分析する場合や、排ガス循環型酸素燃焼方式を採用したボイラ排ガスを分析する場合には、排ガス中のSO濃度が数千〜一万ppm、SO濃度が数十〜百ppmとなるため、本発明を採用することにより、より顕著な効果が期待できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、原子吸光分析計におけるガス状の金属水銀の分析精度を低下させる現象を確実に排することができ、排ガス中の金属水銀の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例の金属水銀測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の他の実施例の金属水銀測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】従来の金属水銀測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】吸光セル出口の信号強度と経過時間との関係について、実施例1と比較例1を対比して示す線図である。
【図5】吸光セル出口の信号強度とガス中の水銀濃度との関係について、実施例2と比較例2を対比して示す線図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の金属水銀測定方法を実施するための測定装置の実施形態について、図1と図2を参照して説明する。なお、これらの図では、必要最小限の器具及び機器のみを表し、図3と同一の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0024】
図1の測定装置は、被測定ガスを採取するための採取管10と、脱塵フィルタ1と、加熱導管2と、被測定ガスと吸収溶液11とを接触させてSOを吸収溶液11に捕集する吸収瓶12と、吸収瓶12から抜き出された被測定ガスを導入して吸収溶液11に吸収されなかった酸化態水銀を吸収溶液13に捕集する吸収瓶14と、吸収瓶14から抜き出された被測定ガスの金属水銀を測定する原子吸光分析計8と、吸引ポンプ9とを順次導管で接続することにより、ガスサンプリングラインを構成している。
【0025】
吸収瓶12は、吸収溶液11と被測定ガスとを接触させる密閉された反応管となっている。吸収瓶12には、導管の一端側が挿入されており、その先端部分が吸収溶液11の液中に位置するようになっている。また吸収瓶12の上部には別の導管の一端側がその先端を吸収溶液11と接触させないようにして接続されている。吸収瓶14は、吸収溶液13と被測定ガスとを接触させる密閉された反応管となっており、吸収瓶12と同様、導管の一端側が挿入されるとともに別の導管が接続されている。脱塵フィルタ1は、例えば筒状容器の内部に除塵用のフィルタが充填されている。加熱導管2は、例えば導管の長手方向に沿って、複数のフレキシブルヒータが巻き付けられている。
【0026】
本実施形態では、吸収溶液11として過酸化水素を含む溶液を用い、吸収溶液13として塩化カリウムを含む溶液を用いることを特徴としており、加熱導管2を経た被測定ガスを、吸収溶液11、吸収溶液13の順に接触させるようにしている。すなわち、本実施形態では、二つの吸収瓶12、14に貯留する吸収溶液の種類が従来の構成(図3)と異なっている。
【0027】
吸収溶液11の過酸化水素を含む溶液は、過酸化水素のみからなる溶液のほか、例えば、硝酸を添加した硝酸酸性の過酸化水素溶液を用いてもよい。過酸化水素溶液の濃度は特に限定されるものではなく、被測定ガス中のSO濃度に応じて適宜決定すればよいが、通常5〜10%程度の濃度で使用する。吸収溶液13の塩化カリウムを含む溶液は、塩化カリウムのみからなる溶液のほか、必要に応じて所定の添加物を添加した溶液を用いてもよい。
【0028】
また、図1の測定装置に代えて、図2に示すように、吸収瓶14と原子吸光分析計8との間のガス流路に、ガラス繊維フィルタユニット15を配置してもよい。ガラス繊維フィルタユニット15は、ガス入口とガス出口が対向して配置されたケースの内部にガラス繊維が充填されて構成される。ガラス繊維には、例えば、SOミストの粒径を考慮して、サブミクロンオーダーの微粒子を捕集できるものを選定し、その材質は、硼珪酸塩ガラス繊維やシリカ繊維が好適である。またガラス繊維フィルタユニット15は、少なくとも水の露点以上、具体的には、50℃〜70℃程度にその内部を保温しておくことが好ましい。これは、ガラス繊維に捕集されたSOミストが水の凝縮によって亜硫酸となり、SOミストと同じく捕集された酸化態水銀を還元してしまうことを防止するためである。
【0029】
ここで、図2の測定装置の動作について説明する。吸引ポンプ9の吸引力により採取管10から採取された被測定ガスは、脱塵フィルタ1に導かれて被測定ガス中のダストが除去される。脱塵フィルタ1を出た被測定ガスは、加熱導管2に導かれ、ここを通過する際に所定温度に加熱される。加熱導管2を通過した被測定ガスは、吸収瓶12に導入され、ここで被測定ガスに含まれるSOが吸収溶液11の過酸化水素と反応してSOのほぼ全量が吸収溶液11に捕集される。このとき、被測定ガスに含まれる酸化態水銀の一部も吸収溶液11に捕集される。続いて、吸収瓶12を出た被測定ガスは、吸収瓶14に導入され、ここで被測定ガス中に残存する水溶性水銀、つまり酸化態水銀が吸収溶液13に捕集される。吸収瓶14を出た被測定ガスは、ガラス繊維フィルタユニット15に導かれ、ここで被測定ガス中のミスト状水銀、SOミストその他吸収溶液の飛沫等が除去される。このようにしてSO、酸化態水銀、その他のミスト状水銀等が除去された被測定ガスは、原子吸光分析計8の吸光セル内に導かれ、ガス中の金属水銀の濃度が計測される。
【0030】
このように、被測定ガス中のSOを予め過酸化水素を含む吸収溶液11で完全に除去した後、被測定ガスに残存する酸化態水銀を塩化カリウムを含む吸収溶液13で除去することにより、原子吸光分析計8の吸収セルへのSOの侵入を防止して金属水銀の吸光度への干渉を回避できるとともに、亜硫酸イオンによる酸化態水銀の還元を防止することが可能となる。加えて、吸収瓶14を出た被測定ガスをガラス繊維フィルタユニット15に通すことで、被測定ガス中に残存したミスト状水銀やSOミストその他原子吸光分析計の吸光セル内の汚染原因となる飛沫等を原子吸光分析計に至る前に除去できるため、原子吸光分析計への干渉や吸光セルの汚染等を防止することが可能となる。
【0031】
以下、実施例を用いて本発明の効果を示す。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
表1に示す石炭燃焼排ガスの模擬ガス(水銀濃度45ng/L,SO=0ppm)を作り、図1に示す測定装置を用いてガスの前処理を行った。ここで、加熱導管2は120℃となるように調整し、吸収溶液11は過酸化水素濃度が10%、吸収溶液13は塩化カリウム溶液の濃度が1Nとなるようにそれぞれ調整した。このようにして前処理を行った模擬ガスを254nmの紫外光が照射される吸光セル(φ20×光路長100mm)内に導いてガス中の金属水銀を紫外吸収させた。このときに吸光セルを通過した紫外光を光電管(検出器)で電気信号として検出し、その信号強度を通ガスしてから1時間モニタリングして測定値の安定性を評価した。
【表1】

【0033】
(比較例1)
実施例1において、吸収瓶12を設けない構成に対して、同様の試験を行った。
【0034】
(実施例2)
実施例1において、模擬ガス中の水銀濃度を変化させ、各条件に対して同様の試験を行った。
【0035】
(比較例2)
比較例1において、模擬ガス中の水銀濃度を変化させ、各条件に対して同様の試験を行った。
【0036】
実施例1及び比較例1において、経時時間に対する吸光セル出口の検出器で検出した信号強度の変化を図4に示す。吸収瓶12を設けない比較例1では、経時的に信号強度が低下している。これは、吸収瓶14の吸収溶液13では吸収しきれないSOが吸光セル内に侵入し、金属水銀の紫外吸収に干渉しているためである。一方、吸収瓶12を設けている実施例1では、比較例1のような信号強度の低下はなく安定している。
【0037】
次に、実施例2及び比較例2において、水銀濃度に対する吸光セルの入口と出口の信号強度差について、信号強度の応答性と経時的な安定性を図5に示す。図の各点に示されているバーは、各測定条件における測定時間(1h)内のバラツキを示したものである。実施例2では、各水銀濃度に対して、電気信号の測定値(信号強度差)はほぼ直線的に応答していることが分かる。さらに各点での経時的な変化はほとんどなく、安定した測定ができている。一方、比較例2では、水銀濃度に対する応答はあるものの、信号強度差の経時変化が大きい。
【0038】
以上の結果より、過酸化水素溶液を含む吸収溶液11を貯留する吸収瓶12を設置することにより、ガス中にSOが存在していても経時的に安定した測定が可能であることは明らかとなった。
【0039】
(実施例3)
図2に示す測定装置を用いて、模擬ガス中のSO濃度を0ppm/15ppm/60ppmの条件で変化させ、その他の条件を実施例1と同様にして試験を行った。このとき、ガラス繊維フィルタとして、ADVANTEC製のシリカ濾紙(QR−100)を用いた。その結果、吸光セル出口の電気信号は、SO濃度の影響をほとんど受けることなく、試験時間中安定であった。このことから、SO濃度が高い場合でも、安定に金属水銀を測定できることが分かる。
【0040】
以上の結果より、本発明によれば、排ガス中のSOx濃度が高い条件下においても、吸収溶液中での亜硫酸による酸化態水銀の還元反応を防止し、なお且つ、ミスト状水銀が発生した場合でも原子吸光分析計に影響を与えずに除去することができるため、精度よく排ガス中の金属水銀を測定することができる。特に本発明では、高S炭の燃焼排ガスや、排ガス循環型酸素燃焼方式を採用したボイラ排ガスを分析する場合に大きな効力を期待できる。
【符号の説明】
【0041】
1 脱塵フィルタ
2 加熱導管
8 原子吸光分析計
9 吸引ポンプ
10 採取管
11,13 吸収溶液
12,14 吸収瓶
15 ガラス繊維フィルタユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀及びSOを含むガスを採取して該採取したガス中の金属水銀の濃度を測定する金属水銀の測定方法において、
導管内に採取された前記ガスを、過酸化水素を含む第1の吸収溶液に接触させて該ガス中のSOを捕集する第1の前処理工程と、該第1の前処理工程でSOが除去されたガスを、塩化カリウムを含む第2の吸収溶液に接触させて該ガス中の酸化態水銀を捕集する第2の前処理工程と、該第2の前処理工程で酸化態水銀が除去されたガスを原子吸光分析用の吸収セルに導いて該ガス中の金属水銀の濃度を測定する計測工程とを含むことを特徴とする金属水銀の測定方法。
【請求項2】
前記第2の前処理工程を経た後に前記計測工程へ向けて流れるガスを、ミスト状の難溶性水銀を捕集可能なフィルタに通過させる第3の前処理工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属水銀の測定方法。
【請求項3】
水銀及びSOを含むガスを採取して該採取したガス中の金属水銀の濃度を測定する金属水銀の測定装置において、
前記ガスを採取する採取管と、該採取管を通じて採取された前記ガスと過酸化水素を含む第1の吸収溶液とを接触させて該ガス中のSOを捕集する第1の反応部と、該第1の反応部でSOが除去されたガスと塩化カリウムを含む第2の吸収溶液とを接触させて該ガス中の酸化態水銀を捕集する第2の反応部と、該第2の反応部で酸化態水銀が除去されたガスを原子吸光分析用の吸収セルに導いて該ガス中の金属水銀の濃度を測定する水銀分析手段とを含んでなることを特徴とする金属水銀の測定装置。
【請求項4】
前記第2の反応部と前記水銀分析手段とを連通させるガス流路の途中に、前記第2の反応部から出たガスが通流するとともにミスト状の難燃性水銀を捕集可能なフィルタが設けられてなる請求項3に記載の金属水銀の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−149727(P2011−149727A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9142(P2010−9142)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】