説明

金属洗浄剤

【課題】アルカリ洗浄剤を用い、スケールの発生を抑えながら銅系金属等の各種の金属を腐食させずに高温で洗浄できるようにする。
【解決手段】浸漬された金属を70℃以上の高温で洗浄可能な洗浄剤は、アルカリ金属ケイ酸塩、カルシウム塩およびスケール分散剤を含む水溶液からなる。この水溶液は、カルシウム塩の濃度が20mg/kg以上に設定されており、また、スケール分散剤の濃度が下記の式(a)で規定される濃度以上でありかつ下記の式(b)で規定される濃度以下になるよう設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属洗浄剤、特に、浸漬された金属を洗浄可能な洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
銅系金属材料を用いた医療器具、調理器具、熱交換器および電子部品、並びに、車両、航空機および船舶等において用いられるアルミニウム等の軽量金属材料を用いた部品等、蛋白質、多糖類、脂質、油脂類または溶剤による汚れを受けやすい金属製品の洗浄においては、塩素系やフロン系の有機溶剤に替えて、環境への負荷が少ないアルカリ洗浄剤の利用が一般化している。また、医療器具、特に、手術器具については、洗浄効果を高める観点からアルカリ洗浄剤を用いた70℃以上での洗浄が好ましいとされている他、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の発病因子となる感染型プリオン蛋白による汚染を防止する観点からアルカリ洗浄剤を用いた90℃以上での洗浄が好ましいとされている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
アルカリ洗浄剤として、特許文献1には、非イオン性界面活性剤と、アルカリ金属のケイ酸塩、水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩と、アクリル系共重合体とを含む洗浄剤が記載されている。また、特許文献2には、水酸化アルカリ金属化合物、カルシウム化合物およびポリカルボン酸またはその塩を所定割合で含む洗浄剤が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の洗浄剤は、銅や錫などの腐食されやすい金属製品を腐食させずに洗浄可能なものとされているが、使用のために想定されている温度がせいぜい40℃程度であり、70℃以上の高温での洗浄時、特に、90℃以上の高温での洗浄時には金属製品を腐食させることがある。一方、特許文献2に記載の洗浄剤は、アルミニウムのような軽金属を用いた金属製品については、スケールの発生を抑え、同時に腐食を抑制しながら効果的な洗浄をすることができるが、銅系金属を用いた金属製品については、スケールの発生を抑えて洗浄することができるものの、腐食を抑制するのが困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】岩城武年、ウォッシヤーディスインフェクターの洗浄効果とプリオンに対する効果、医器学、Vol.76、No.11(2006)、784−791頁
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−43897号公報 特許請求の範囲、[0005]、[0025]、[0034]、[0037]等
【特許文献2】特開2004−51761号公報 特許請求の範囲、[0001]、[0004]、[0024]等
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、アルカリ洗浄剤を用い、スケールの発生を抑えながら各種の金属を腐食させずに高温で洗浄できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、浸漬された金属を洗浄可能な洗浄剤に関するものであり、この洗浄剤は、アルカリ金属ケイ酸塩、カルシウム塩およびスケール分散剤を含む水溶液からなる。この水溶液は、カルシウム塩の濃度が炭酸カルシウム換算で少なくとも20mg/kgに設定されており、また、スケール分散剤の濃度が下記の式(a)で規定される濃度以上でありかつ下記の式(b)で規定される濃度以下になるよう設定されている。
【0009】
【数1】

【0010】
この金属洗浄剤は、通常、金属を70℃以上の高温で洗浄可能なものである。この金属洗浄剤の一形態において、水溶液は、アルカリ金属水酸化物、ケイ素化合物、カルシウム塩およびスケール分散剤を水に溶解して調製されたものである。また、この金属洗浄剤の他の形態において、水溶液は、アルカリ金属ケイ酸塩を含む第一水溶液と、カルシウム塩とスケール分散剤とを含む第二水溶液とを混合したものである。この場合、第一水溶液は、例えば、アルカリ金属水酸化物とケイ素化合物とを水に溶解して調製されたものである。
【0011】
本発明の洗浄剤により洗浄可能な金属は、例えば、銅系金属である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る金属洗浄剤は、アルカリ金属ケイ酸塩、カルシウム塩およびスケール分散剤の三成分を含む水溶液からなるため、スケールの発生を抑えながら各種の金属を腐食させずに、高温、特に70℃以上の高温で洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実験例1の結果を示すグラフ。
【図2】実験例2の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の洗浄剤は、アルカリ金属ケイ酸塩、カルシウム塩およびスケール分散剤を含む水溶液からなる。
【0015】
アルカリ金属ケイ酸塩は、MO・nSiOの一般式で示される化合物であり、金属に対する洗浄作用を有するものである。一般式において、Mはナトリウム(Na)またはカリウム(K)を示し、nは1〜4の実数である。アルカリ金属ケイ酸塩は、水和物であってもよい。また、アルカリ金属ケイ酸塩は、二種類以上のものが併用されてもよい。
【0016】
カルシウム塩としては、例えば、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウムおよび硝酸カルシウムなどを用いることができる。このうち、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウムおよび硝酸カルシウムなどの水溶性のものが好ましい。また、カルシウム塩は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0017】
スケール分散剤は、被洗浄物にスケールが発生するのを抑制するためのものであり、通常、アクリル酸重合体、アクリル酸塩重合体、アクリル酸共重合体、アクリル酸塩共重合体、マレイン酸重合体、マレイン酸塩重合体、マレイン酸共重合体、マレイン酸塩共重合体、ホスフィノカルボン酸重合体、ホスフィノカルボン酸塩重合体、ホスフィノカルボン酸共重合体およびホスフィノカルボン酸塩共重合体等の、スケールの結晶核を溶液中に分散させることで被洗浄物への付着や堆積を抑制可能な重合体、特に水溶性の重合体が用いられる。スケール分散剤は、二種類以上のものが併用されてもよい。
【0018】
スケール分散剤として利用可能な上述の各種共重合体を構成する単量体としては、例えば、アクリル酸およびその塩、アクリル酸エステル、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、アクリルアミド、マレイン酸およびその塩、無水マレイン酸、イタコン酸、スチレン、スチレンスルホン酸およびその塩、ビニルピロリドン、酢酸ビニル、イソブテン、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタリルスルホン酸およびその塩、ビニルスルホン酸およびその塩、アリルスルホン酸およびその塩並びに一酸化炭素などであって、共重合体の種類に応じて選択可能なものを挙げることができる。
【0019】
上述の重合体を構成する単量体の塩としては、例えば、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩並びにトリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩およびジイソプロピルアミン塩等のアミン塩が挙げられるが、アルカリ金属塩が好ましい。
【0020】
スケール分散剤として用いられる上述の重合体の重量平均分子量は、通常、100〜100,000のものが好ましく、1,000〜10,000のものがより好ましい。この分子量が100未満の場合または100,000を超える場合は、十分なスケール分散効果が得られない可能性がある。
【0021】
本発明の洗浄剤は、アルカリ金属ケイ酸塩、カルシウム塩およびスケール分散剤を水に溶解することで調製することができる。ここで用いられる水は、通常、イオン交換水、蒸留水、逆浸透水および純水などの精製水である。
【0022】
洗浄剤において、アルカリ金属ケイ酸塩の濃度は、通常、シリカ(SiO)換算で100〜600,000mg/kgに設定するのが好ましく、500〜300,000mg/kgに設定するのがより好ましい。この濃度が100mg/kg未満の場合は、洗浄剤が被洗浄物に対して十分な防食効果を発揮しない可能性がある。逆に、600,000mg/kgを超える場合は、アルカリ金属ケイ酸塩の一部がゲル化して洗浄剤が流動性を失う可能性がある。
【0023】
洗浄剤において、カルシウム塩およびスケール分散剤の濃度は、次の条件を満たすように設定する。各条件において、カルシウム塩濃度は、キレート剤等により封鎖されていないイオン状および非イオン状(例えば、分散コロイド状)のカルシウム塩の濃度を意味する。また、このカルシウム塩濃度は、炭酸カルシウム換算の濃度を意味する。例えば、洗浄剤において塩化カルシウム(式量:111)を用いた場合、炭酸カルシウムの式量は100であるので、塩化カルシウムの濃度を0.9倍すると、炭酸カルシウム換算の濃度として表すことができる。
【0024】
<条件1>
カルシウム塩濃度が20mg/kg以上になるようカルシウム塩を含むこと。
<条件2>
スケール分散剤の濃度が下記の式(a)で規定される濃度以上でありかつ下記の式(b)で規定される濃度以下になるようスケール分散剤を含むこと。
【0025】
【数2】

【0026】
洗浄剤において、カルシウム塩濃度およびスケール分散剤濃度が条件1、2の両方を満たさない場合は、被洗浄物の腐食およびスケール発生を同時に抑えながらの洗浄、特に、被洗浄物の腐食およびスケール発生を同時に抑えながら70℃以上の高温で洗浄するのが困難になる可能性がある。
【0027】
本発明の洗浄剤は、水溶液における所要成分の濃度を高く設定しておき、使用時に水で希釈することで各成分の濃度が所定範囲になるよう調節することもできる。なお、洗浄剤の希釈水としては、上述の精製水のほか、水道水を用いることもできる。
【0028】
本発明の洗浄剤は、アルカリ金属水酸化物、ケイ素化合物、スケール分散剤およびカルシウム塩を水に溶解することで調製することもできる。この場合、水に溶解したアルカリ金属水酸化物とケイ素化合物とが反応して所要のアルカリ金属ケイ酸塩を生成し、目的の洗浄剤が得られる。
【0029】
ここで用いられるアルカリ金属水酸化物は、通常、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムである。また、ケイ素化合物としては、二酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、メタ二ケイ酸ナトリウム、メタ二ケイ酸カリウム、オルソケイ酸ナトリウムおよびオルソケイ酸カリウムなどを用いることができる。アルカリ金属水酸化物およびケイ素化合物の使用量は、水溶液において生成するアルカリ金属ケイ酸塩の濃度が上述の濃度になるよう設定する。
【0030】
本発明の洗浄剤は、調製後に長時間放置すると、アルカリ金属ケイ酸塩の影響によりスケール分散剤の機能が損なわれる可能性がある。そこで、本発明の洗浄剤は、通常、アルカリ金属ケイ酸塩を含む第一水溶液と、スケール分散剤とカルシウム塩とを含む第二水溶液とを別々に調製し、使用時に両水溶液を混合することで調製するのが好ましい。この場合、第一水溶液は、アルカリ金属水酸化物とケイ素化合物とを水に溶解することでアルカリ金属ケイ酸塩を調製したものであってもよい。
【0031】
本発明の洗浄剤は、金属製品を洗浄するために用いられる。金属製品の材質は特に限定されるものではなく、例えば、銅、錫、鉄、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム並びにこれらの合金などである。本発明の洗浄剤は、特に、銅や銅合金(例えば真鍮)のような銅系金属を用いた医療器具(例えば、脳ベラやクスコ等の手術器具)、調理器具、熱交換器(例えば、ヒートポンプや冷却塔等の熱交換器)および電子部品、並びに、アルミニウムやマグネシウム等の軽量金属を用いた、車両、航空機および船舶等の各種部品等、蛋白質、多糖類、脂質、油脂類または溶剤による汚れを受けやすい金属製品の洗浄のために適している。
【0032】
金属製品の洗浄においては、本発明の洗浄剤に金属製品を浸漬し、必要に応じて洗浄剤を攪拌しながら所定時間放置する。この際、洗浄剤を加熱することもできる。加熱温度は、例えば、金属製品の洗浄効果を高めやすい70℃以上で洗浄剤の沸騰温度未満の高温に設定することができる。また、浸漬後の金属製品は、通常、蒸留水や軟化水等、硬度分が除去された精製水で濯いだ後に乾燥するのが好ましい。
【0033】
本発明の洗浄剤を用いた金属製品の洗浄では、金属製品の腐食を抑えて金属製品に付着した蛋白質、多糖類、脂質、油脂類、溶剤およびその他の汚れを効果的に除去することができ、また、洗浄および乾燥後の金属製品にスケールが発生するのを抑制することができる。さらに、金属製品が手術器具等の医療器具の場合、本発明の洗浄剤を用いて90℃以上の高温で洗浄することができるため、医療器具に付着している可能性がある感染型プリオン蛋白を同時に除去することができる。したがって、本発明の洗浄剤は、銅系金属からなる医療器具用の洗浄剤として特に有効である。
【実施例】
【0034】
以下の実施例および実験例で用いた洗浄剤の成分材料および試験片等は次のものである。
【0035】
(成分材料)
アルカリ金属水酸化物:水酸化カリウム
ケイ素化合物:ケイ酸ナトリウム
カルシウム塩:塩化カルシウム
スケール分散剤:マレイン酸共重合体(BioLab Water Additive社製の商品名「Belclene 283」:固形分50重量%)
水:蒸留水
【0036】
(試験片)
銅試験片:
#400番の研布紙で研磨した銅試験片(C1220)を水洗した後にアセトンで脱脂し、その後に乾燥して重量測定をしたもの。
銅合金試験片:
#400番の研布紙で研磨した銅合金試験片(C2801)を水洗した後にアセトンで脱脂し、その後に乾燥して重量測定をしたもの。
アルミ試験片:
硝酸(4+1)に室温で約10分間浸漬処理したアルミ試験片(A1050)を水洗した後にアセトンで脱脂し、その後に乾燥して重量測定をしたもの。
アルミ合金試験片:
硝酸(4+1)に室温で約10分間浸漬処理したアルミ合金試験片(A2024)を水洗した後にアセトンで脱脂し、その後に乾燥して重量測定をしたもの。
【0037】
実施例1
アルカリ金属水酸化物、ケイ素化合物、カルシウム塩およびスケール分散剤を水に溶解し、アルカリ金属水酸化物濃度が260mg/kg、ケイ素化合物濃度(シリカ換算濃度)が720mg/kg、カルシウム塩濃度(炭酸カルシウム換算濃度)が26mg/kgおよびスケール分散剤濃度(固形分濃度)が20mg/kgの水溶液からなる洗浄剤を調製した。ケイ素化合物濃度(シリカ換算濃度)は、ケイ酸ナトリウム(NaSiO)の式量が122であるのに対して、シリカ(SiO)の式量が60であるので、ケイ酸ナトリウムの濃度を0.49倍することにより求めたものである。
【0038】
比較例1
アルカリ金属水酸化物、ケイ素化合物およびスケール分散剤を水に溶解し、アルカリ金属水酸化物濃度が260mg/kg、ケイ素化合物濃度(シリカ換算濃度:実施例1と同じ方法で求めたもの)が720mg/kgおよびスケール分散剤濃度(固形分濃度)が20mg/kgの水溶液からなる洗浄剤を調製した。
【0039】
比較例2
アルカリ金属水酸化物、カルシウム塩およびスケール分散剤を水に溶解し、アルカリ金属水酸化物濃度が260mg/kg、カルシウム塩濃度(炭酸カルシウム換算濃度)が26mg/kgおよびスケール分散剤濃度(固形分濃度)が20mg/kgの水溶液からなる洗浄剤を調製した。
【0040】
実施例および比較例の評価
(洗浄状況)
実施例1の洗浄剤について、PEREG GmbH社製のTOSI洗浄評価インジケータを用いて洗浄状況を評価した。具体的には、インジケータを洗浄剤に浸漬し、洗浄剤を攪拌しながら80℃まで加熱した後、インジケータを蒸留水で濯いだ。そして、インジケータの残留蛋白質を目視で確認し、次の基準で評価した。結果を表3に示す。
【0041】
レベル0:完全に洗浄され、汚れ部分も完全に分解、除去されている。
レベル1:ごくわずかに白色残留物がある。
レベル2:白色残留物がある。
レベル3:赤色残留物がある。
【0042】
(腐食状況)
実施例および比較例の洗浄剤について、上述の各試験片を用いて腐食状況を評価した。具体的には、洗浄剤を加熱して78〜80℃に温度調整し、配管内において流速が0.9〜1.1m/sになるように流した。そして、配管内を流れる洗浄剤中へ固定金具に留めた各試験片を浸漬し、6時間洗浄した。その後、洗浄前後の試験片の重量差から腐食度(mdd)を求め、表1に示す基準で格付けをした。結果を表3に示す。
【0043】
腐食度に対する格付けは、工業材料便覧(日刊工業新聞社、昭和56年10月30日初版第1刷発行)3頁に記載の格付けA、B、Cをベースとして、BをさらにB1、B2、B3の三段階に細分化したものである。洗浄後の試験片の重量は、次のようにして測定した。銅試験片および銅合金試験片については、洗浄後の試験片をガーゼで払拭してから約10%の硫酸に室温で5分間浸漬し、水洗後にアセトンでさらに脱脂処理して乾燥させ、重量を測定した。また、アルミ試験片およびアルミ合金試験片については、洗浄後の試験片をガーゼで払拭してから硝酸(4+1)に室温で10分間浸漬し、水洗後にアセトンでさらに脱脂処理して乾燥させ、重量を測定した。
【0044】
【表1】

【0045】
(スケール発生の有無)
実施例および比較例の洗浄剤について、洗浄剤を調製した後の浮遊物質量によりスケール発生の有無を判定した。具体的には、調製された洗浄剤のうちの一定容量を2時間静置した後、メンブレンフィルタでろ過し、当該フィルタに捕捉された浮遊物質量を測定した。ここで、浮遊物質量と、腐食状況評価における試験片へのスケール発生の目視判定結果とは、表2のような関係となる。このため、浮遊物質量が4mg/L未満の場合は、スケール発生なし、4mg/L以上の場合は、スケール発生ありと判定した。結果を表3に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
実験例1
アルカリ金属水酸化物、ケイ素化合物、カルシウム塩およびスケール分散剤を水に溶解し、洗浄剤を調製した。ここでは、アルカリ金属水酸化物濃度が260mg/kg、ケイ素化合物濃度(シリカ換算濃度:実施例1と同じ方法で求めたもの)が720mg/kgになるよう設定され、また、カルシウム塩およびスケール分散剤の使用量を変更することでカルシウム塩濃度(炭酸カルシウム換算濃度)およびスケール分散剤濃度(固形分濃度)が表4に示すように設定された13種類の洗浄剤を調製した。
【0049】
各洗浄剤について、実施例および比較例の評価と同様の方法で腐食状況を調べた。結果を表4および図1に示す。図1は、表4の結果をグラフ化したものである。
【0050】
【表4】

【0051】
表4および図1によると、洗浄剤は、カルシウム塩濃度が20mg/kg以上であり、かつ、スケール分散剤の濃度が式(b)で規定される濃度以下になるようカルシウム塩およびスケール分散剤を含む場合において、試験片に腐食を生じさせにくい。
【0052】
実験例2
アルカリ金属水酸化物、ケイ素化合物、カルシウム塩およびスケール分散剤を水に溶解し、洗浄剤を調製した。ここでは、アルカリ金属水酸化物が260mg/kg、ケイ素化合物濃度(シリカ換算濃度:実施例1と同じ方法で求めたもの)が720mg/kgになるよう設定され、また、カルシウム塩およびスケール分散剤の使用量を変更することでカルシウム塩濃度(炭酸カルシウム換算濃度)およびスケール分散剤濃度(固形分濃度)が表5に示すように設定された12種類の洗浄剤を調製した。
【0053】
各洗浄剤について、実施例および比較例の評価と同様にしてスケール発生の有無を調べた。結果を表5および図2に示す。図2は、表5の結果をグラフ化したものである。
【0054】
【表5】

【0055】
表5および図2によると、洗浄剤は、カルシウム塩濃度が20mg/kg以上であり、かつ、スケール分散剤の濃度が式(a)で規定される濃度以上になるようスケール分散剤を含む場合において、試験片にスケールを付着させにくい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸漬された金属を洗浄可能な洗浄剤であって、
アルカリ金属ケイ酸塩、カルシウム塩およびスケール分散剤を含む水溶液からなり、
前記水溶液における前記カルシウム塩の濃度が炭酸カルシウム換算で少なくとも20mg/kgに設定されており、かつ、前記スケール分散剤の濃度が下記の式(a)で規定される濃度以上でありかつ下記の式(b)で規定される濃度以下になるよう設定されている、
金属洗浄剤。
【数1】

【請求項2】
前記金属を70℃以上の高温で洗浄可能な洗浄剤である、請求項1に記載の金属洗浄剤。
【請求項3】
前記水溶液は、アルカリ金属水酸化物、ケイ素化合物、前記カルシウム塩および前記スケール分散剤を水に溶解して調製されたものである、請求項1または2に記載の金属洗浄剤。
【請求項4】
前記水溶液は、前記アルカリ金属ケイ酸塩を含む第一水溶液と、前記カルシウム塩と前記スケール分散剤とを含む第二水溶液とを混合したものである、請求項1または2に記載の金属洗浄剤。
【請求項5】
第一水溶液は、アルカリ金属水酸化物とケイ素化合物とを水に溶解して調製されたものである、請求項4に記載の金属洗浄剤。
【請求項6】
前記金属が銅系金属である、請求項1から5のいずれかに記載の金属洗浄剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236359(P2011−236359A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110223(P2010−110223)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】