説明

金属端子

【課題】表面粗さを調整させるメッキ構造の改善を図り、ボンディングワイヤとの結合力を向上させると供に製造工程の簡素化を実現し得る金属端子の提供を目的とする。
【解決手段】配線基板の表面に配設されると供に露出面がボンディングワイヤに溶着される金属端子115であって、銅元素を基として組成された銅母材Bmbと、銅元素を基として組成され前記銅母材に積層された銅メッキ層Lcとから成り、表面粗さが0.2μm以下とされるように表面状態が調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板の表面に配設される金属端子に関し、特に、ボンディングワイヤとの結合力を向上させる際に用いて好適のものである。
【背景技術】
【0002】
電気的作用によって駆動される多くの装置には、半導体等の電気的素子を集約的に実装させた配線基板が組み込まれる。かかる配線基板は、電位の供給に基づいて駆動されるため、外部との通信を実現させる何らかのインターフェイスが必要とされる。近時、製造工程の簡素化及び構成部品削減の要請の中、ボンディングワイヤによる溶接技術の実用化が進み、かかる技術に適応したインターフェイスの一形態として、ボンディングワイヤとの接合面を提供する金属端子を配設した配線基板が種々検討されている。
【0003】
配線基板の適用例として、特開平5−157037号公報(特許文献1)には、内燃機関用の点火装置に金属端子を具備する配線基板を組み込ませた技術が紹介されている。かかる技術では、外部接続用の端子と、混成薄膜基板(特許請求の範囲における配線基板)と、当該混成薄膜基板に実装された電子回路とから構成される。そして、かかる混成薄膜基板には溶接パッド(特許請求の範囲における金属端子)が半田接合され、当該溶接パッドはリードフレーム(特許請求の範囲におけるボンディングワイヤ)によって適宜配線される。
【0004】
図7には、特許文献1の技術で紹介された配線基板の構成が示されている。図7(a)に示す如く、配線基板10は、絶縁基板11とプリント配線12とソルダレジスト13と金属端子15とから構成され、この他、図示されない種々の電気的素子が実装されている。尚、絶縁基板11は、アルミナ等のセラミック基板が用いられる。プリント配線12は、銀及び白金の合金から組成される。また、銅又はアルミ等の金属から組成されるものであっても良い。ソルダレジスト12は、難燃性の感光性樹脂が用いられる。金属端子15は、特許文献1において、鉄ニッケル製の材質が選択されている。但し、かかる金属端子15は、これに限らず、銅合金等を用いても良い。図7(b)には、図7(a)に示される矢線Aの矢印方向に観察した配線基板10の断面図が示されている。図示の如く、配線基板10は、絶縁基板11の表面にプリント配線12がプリントされ、更に、プリント配線12を被覆する状態で、ソルダレジスト13が積層されている。また、プリント配線12を一部露出させる開口部が設けられ、かかる開口部では、金属端子15が半田層14を介してプリント配線12に接合される。尚、同図では、金属端子15の表面に溶着されたボンディングワイヤ20の状態が示されている。
【0005】
図8を参照して、金属端子15の製法について説明する。図8(a)〜(c)ではプレス加工処理の工程が示されている。先ず、図8(a)に示す如く、プレス加工機のテーブル31にメタルシートMSが適宜に搬送される。尚、かかるメタルシートMSは、銅合金であるとして以下説明する。図8(b)に示す如く、メタル打抜用のバイト32が矢印方向に駆動され、バイト32の先端がメタルシートMSに接触する。更に、時間が経過すると、バイト32の先端とテーブル31との間にメタルシートMSを挟持する状態で、バイト32がテーブル31に設けられた開孔部31aに貫入され、メタルシートMSの変形が進行する。その後、図8(c)に示す如く、バイト32が更に送られると、開口部31aの近傍に円筒状の剪断面が現れ、銅材BmaがメタルシートMSから分離される。このとき、かかる剪断面では、バイト32の押圧によってバリwが形成される。更に後、図8(d)に示すバリ取り加工処理では、被削材とされる銅材Bmaと研磨材と水とコンパウンドとをバレル研磨装置の研磨室へ投入し、かかる研磨室を所定時間について回転又は振動させ、これにより、銅材Bmaに形成されたバリwは除去される。但し、かかる状態では、バレル研磨加工の際に生じた研磨材による細傷が残っているため、金属端子15の表面粗さが図9(a)の表面Sf1に示されるようなRz=1.0μm以上の表面状態とされる。かかる表面状態ではボンディングワイヤ20との結合力が十分に得られないので、図8(e)に示す如く、金属端子15に対してバフ研磨加工技術を用いた表面研磨加工処理を施す。これにより、金属端子15の表面が研磨され、金属端子15の表面粗さRzが調整される。尚、バフ研磨加工処理によって調整される金属端子15の表面粗さは、図9(a)の表面Sf2に示すRz=0.5μm程度の表面状態とされる。また、バレル研磨加工及びバフ研磨加工は加工時間等の加工条件に基づいて加工後の表面粗さRzを低減させることが可能であるが、ここで述べられた表面粗さRzの値は、加工時間又は加工コスト等を検討した上で妥当とされる値を指すものとする。
【0006】
【特許文献1】特開平5−157037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、金属端子15にボンディングワイヤ20を溶着させる際、金属端子15の表面は、図9(a)のSf3で示されるように表面粗さがRz=0.2μm以下とされる表面状態が好ましい。ここで、図9(b)に示す如く、ボンディングワイヤ20と金属端子15とを摩擦溶接させる際、互いの金属表面に形成されていた酸化被膜が破壊され、かかる酸化被膜は、一方で接合面の外部に排除され、他方で接合面の内部に残存し酸化被膜の残塵Sdを形成する。このとき、図8で説明した技術では、金属端子15の表面粗さがRz=0.5μm程度とされるので、酸化被膜が効率的に接合面の外部へ排除されなくなり、酸化被膜の残塵Sdの分布領域が一定の範囲で維持される。即ち、金属端子15とボンディングワイヤ20との接合面では、酸化被膜の残塵Sdによって、活性層に形成された合金層Brの占有率が低下し、これにより、異種金属間の結合力を低下させるとの問題が生じる。
【0008】
また、図10(a)に示す如く、バレル研磨処理された表面Sf1の銅母材Bmbへニッケルメッキ層Lnを積層させ、表面粗さを調整させる技術が考えられる。しかし、ニッケルメッキ層Lnは、積層厚が偏った状態に積層される性質を有するため、銅母材Bmbの高頂部Xにおける積層厚が増加し、金属端子15の表面粗さRzを所望の値に調整させることが困難とされる。従って、図10(b)に示す如く、酸化被膜の残塵Sdに係る分布状態を低下させるに至らず、かかる技術を取り入れても、金属端子15とボンディングワイヤ20との結合力が改善されないとの問題が生じる。
【0009】
更に、図11(a)に示す如く、ニッケルメッキ層LnをLn1〜Ln4迄複数回積層させ、銅母材Bmbの高頂部における積層厚の低減を図り、表面粗さを調整させる技術が考えられる。従って、表面粗さがRz=0.2μm以下に抑えられるので、図11(b)に示す如く、合金層Brの接合面における占有面積が拡大する。しかしながら、図11(b)のB部を拡大図示させた図12を参照すると、かかる技術にあっては、メッキ層毎に湯洗処理を施すため、水分中に含有される不純物が凝集しコンタミedを形成させる危険度が高くなる。従って、ニッケルメッキ層Ln1〜Ln3及び銅母材Lcの表面にコンタミedが複数形成されると、コンタミedの周辺において、熱応力に起因する応力集中が発生し、ニッケルメッキ層Lnに亀裂crを生じさせる。そして、ニッケルメッキ層Lnに亀裂crが複数発生すると、ニッケルメッキ層の層間結合力が低下し、これによっても、金属端子15とボンディングワイヤ20との結合力を低下させるとの問題が生じる。
【0010】
本発明は上記課題に鑑み、表面粗さを調整させるメッキ構造の改善を図り、ボンディングワイヤとの結合力を向上させると供に製造工程の簡素化を実現し得る金属端子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明では次のような金属端子の構成とする。即ち、配線基板の表面に配設されると供に露出面がボンディングワイヤに溶着される金属端子であって、銅元素を基として組成された銅母材と、銅元素を基として組成され前記銅母材に積層された銅メッキ層とから成る。また、配線基板の表面に配設されると供に露出面がボンディングワイヤに溶着される金属端子であって、銅元素を基として組成された銅母材と、銅元素を基として組成され前記銅母材に積層された銅メッキ層と、ニッケル元素を基として組成され前記銅メッキ層に積層されたニッケルメッキ層とから成ることとしても良い。このとき、前記銅母材は、バリ取加工処理されており、特に、バレル研磨加工又はショットブラスト加工である場合に好適である。更に、前記銅メッキ層又は前記ニッケルメッキ層の表面は、十点平均高さの測定値が0.2μm以下とされるのが好ましい。加えて、前記銅母材は、無酸素銅から成るのが好ましい。具体的には、前記銅母材は、JIS規格で規定される金属材料において、合金番号がC1020とされ、且つ、質別がHとされるのが好ましい。更に、かかる金属端子は、内燃機関用点火装置を制御させるイグナイタの構成部品として用いられる場合に好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る金属端子では、バリ取り加工後の銅母材に銅メッキ層を積層させる製法が採用されるので、表面粗さを調整するための表面研磨工程が不要とされ、これにより、製造工程の簡素化及び製造コストの低減が図られる。
【0013】
また、金属端子は、銅メッキ層が表面の標高差を均等にさせる性質を備えるので、かかる性質に伴って、表面粗さが適宜に調整され、これにより、剥離された酸化膜が結合面の外部に効果的に排除され、酸化被膜の残塵の分布領域を低減させる。従って、金属端子は、ボンディングワイヤとの接合面積が拡大し、ボンディングワイヤとの結合力の向上が図られる。
【0014】
更に、銅メッキ層の表面にニッケルメッキ層を積層させた金属端子では、ボンディングワイヤとの結合力の強化が図られる。
【0015】
加えて、銅母材の質別を適宜に選定することのより、バリ取り加工処理における消費時間が削減され、これにより、製造コストの低減が図られる。
【0016】
併せて、上述した金属端子は、ボンディングワイヤ20との結合力が強化されているので、振動等が直接伝達される内燃機関用点火装置のイグナイタの構成部品として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施の形態につき図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、実施例1に係る金属端子のメッキ構造及び製法が示されている。先ず、金属端子115の製法について説明する。図1(a)では、プレス加工処理された直後の銅材Bmaが示されている。かかる銅材Bmaは、JIS C1020−1/2H又はJIS C1020−H等のシートメタルから製造され、薄型の円筒形または角柱形にプレス成形される。本実施例において、銅材Bmaは、合金番号をC1020とし質別を1/2Hとした材料が選択される。また、銅母材Bmaは、直径1.6mm且つ高さ0.3mm程度の円筒形に成形される。但し、図1(a)に示す如く、銅材Bmaは、プレス加工処理が施されているため、円筒の外縁部にバリwが発生している。かかるバリwを除去すべく、図1(b)では、銅材Bmaに対してバレル研磨加工を施し、銅母材Bmbを形成させる。ここで、バレル研磨加工とは、被削物とされる銅材Bmaと研磨材と水とコンパウンドとを研磨室内へ投入し、かかる研磨室を回転又は振動させ、これにより、バリwの除去及び表面研磨作用を与える加工をいう。この後、図1(c)に示す如く、銅母材Bmbの表面には、約1.0μmの銅メッキ層Lcが積層される。このときのメッキ法は、電解メッキ法を採用しても良い。また、溶融メッキ法若しくは真空メッキ法を採用しても良い。かかる如く、銅母材Bmb及び銅メッキ層Lcは、互いに近しい組成の材質とされるため、高い結合力を得ることが可能となる。併せて、銅メッキ層Lcは、ニッケルメッキ層Lbと比較して表面Sfxの標高差を均等にさせる性質を有するので、銅母材Bmbの高頂部Yにおける銅メッキの積層厚を抑制させ、これにより、表面粗さを低値に抑える効果が現れる。
【0019】
図2(a)は、実施例1に係る金属端子の表面の状態が模式的に示されている。尚、本実施例で論じられる表面粗さとは、十点平均高さRzを指し、具体的には、材料断面の基準長さにおける測定結果のうち、上位5点の標高と下位5点の標高との差分の平均値を指す。また、平均線CLとは、一定区間における測定結果のうち、上位5点の標高及び下位5点の標高の平均値を指す。図示の如く、図2(a)には、銅母材Bmbの断面形状を現す表面Sf1と、銅母材Bmbに積層されることによって形成された銅メッキ層Lcの表面Sfxとが示されている。また、銅母材Bmbに係る表面Sf1の中心線CL1と、銅メッキ層Lcに係る表面Sfxの中心線CLxとが併せて示されている。そして、同図では、左辺に標高軸が示され、かかる標高軸は、銅母材Bmbの平均線CL1が標高0μmとされるようにレイアウトされている。前述の如く、銅母材Bmbは、バレル研磨加工されているので、表面Sf1に係る表面粗さがRz=0.5μm程度とされる。また、図2(a)を参照すると、銅メッキ層Sfxの中心線CLxは、標高の高い方向へオフセットされている状態が観測できる。そして、銅メッキ層Lcの表面Sfxは標高0.5μm〜標高0.25μmの範囲を推移しており、表面粗さがRz=0.20μm程度とされているのが観測できる。即ち、銅母材Bmbに銅メッキ層Lcが積層されると、銅母材Bmbの表面Sf1の谷間部に銅メッキ層Lcが補充され、これに応じて、金属端子115とされる銅メッキ層Lcの中心線CLxは、銅母材Bmbの中心線CL1から上方にオフセットされる。従って、銅メッキ層Lcにおける高頂部Yと低頂部Zとの差が減少されるので、銅メッキ層Lcを表層部とする金属端子115の表面は、表面粗さがRz=0.2μm程度に抑えられる。
【0020】
図2(b)では、ボンディングワイヤ20との溶着状態が図2(a)の断面構造に対応させて示されている。前述の如く、ボンディング装置は、ボンディングヘッドから高周波をボンディングワイヤ20に伝達させ、これにより発生する摩擦作用によって互いの金属表面を塑性変形させると同時に合金層を形成させ、これにより、ボンディングワイヤ20と被着材との結合力を提供する。具体的には、銅から成る銅メッキ層Lcの表面Sfxでアルミ材から成るボンディングワイヤ20を摩擦させると、互いの金属表面は、酸化被膜が剥離されて活性化された状態となる。かかる状態で更にボンディングワイヤ20を摩擦させると、互いの金属表面の境界では、発熱に伴って抗張力が低下し、これにより、合金層Brが形成され異種金属間の結合力が発生する。また、図示の如く、銅メッキ層Lcの表面粗さがRz=0.2μm程度に抑えられているので、剥離された酸化被膜が効率良く溶着面の外部に吐き出され、酸化被膜の残塵Sdの分布量が低減し、これにより、ボンディングワイヤ20と金属端子115との結合力が向上する。
【0021】
以上の如く、本実施例に係る金属端子115では、バリ取り加工後の銅母材Bmbに銅メッキ層Lcを積層させる製法が採用されるので、表面粗さを調整するための表面研磨工程が不要とされ、これにより、製造工程の簡素化及び製造コストの低減が図られる。
【0022】
また、かかる金属端子115では、銅メッキ層Lcによって表面粗さRzが調整されるので、銅母材bmbと銅メッキ層Lcとの結合状態が良好とされ、これに伴って、ボンディングワイヤ20との結合力の向上が図られる。
【0023】
更に、金属端子115は、銅メッキ層Lcが表面Sfxの標高差を均等にさせる性質を備えるので、かかる性質に伴って、剥離された酸化膜が結合面の外部に効果的に排除され、酸化被膜の残塵Sdの分布量を抑制させる。従って、金属端子115は、当該金属端子115とボンディングワイヤ20との結合面積が拡大し、ボンディングワイヤ20との結合力の向上が図られる。
【実施例2】
【0024】
本実施例では、実施例1に係る金属端子の変更例が実施例2として示されている。以下、実施例1において既に説明された同一の構成部品については、同一の符号を付し、同一部分に係る説明を省略する。図3は、本実施例に係る金属端子のメッキ構造及び製法が示されている。先ず、金属端子215の製法について説明する。前述の如く、図3(a)では、プレス加工処理された銅材Bmaが示されている。本実施例にあっても、銅材Bmaは、JIS C1020−1/2Hを採用することとする。その後、図3(b)では、銅材Bmaに対し、バレル研磨加工によってバリ取り加工処理を施す。かかる後、図3(c)に示す如く、銅母材Bmbの表面に銅メッキ層Lcが積層される。これにより、金属端子215の表面粗さが所望の値に調整される。更に後、図3(d)に示す如く、銅メッキ層Lcの表面に所定厚のニッケルメッキ層Lnが積層される。これにより、金属端子215は、表面層の硬度が向上し、ボンディングワイヤ20との結合状態が向上する。尚、ニッケルメッキ層Lnには、リン元素を所定量含有させるのが好ましい。
【0025】
尚、本実施例では、銅メッキ層Lcに対してバインダー層を介さずにニッケルメッキ層Lnを積層させているが、これに限定することなく、金属端子は、銅メッキ層Lcの表面にクロム元素から組成されるバインダー層を数μm程度積層させ、当該バインダー層の表面にニッケルメッキ層Lnを積層させる構成としても良い。かかる構成により、銅メッキ層Lcとニッケルメッキ層Lnとの境界に生じる熱応力が緩和され、ニッケルメッキ層Lnの保護が図られる。
【0026】
図4(a)は、実施例2に係る金属端子の表面の状態が模式的に示されている。図示の如く、図4(a)には、銅母材Bmbの断面形状を現す表面Sf1と、銅メッキ層Lcの表面Sfxと、銅メッキ層Lcに積層されたニッケルメッキ層Lnの表面Sfyとが示されている。そして、同図では、左辺に標高軸が示され、標高0μmのレベルが銅母材Bmbの平均線CL1と一致する様にレイアウトされている。前述の如く、銅母材Bmbは、バレル研磨加工されているので、表面Sf1に係る表面粗さがRz=0.5μm程度とされる。また、図4(a)を参照すると、ニッケルメッキ層Lnが銅メッキ層Lcの表層面に積層されている状態が観察できる。前述の如く、ニッケルメッキ層Lnが積層される際、積層厚が偏った状態とされる性質があり、銅母材等の高頂部における積層厚が幾分厚くなる傾向に有る。しかし、本実施例の金属端子215では、銅メッキ層Lcによって表面粗さを予め調整させた上で、ニッケルメッキ層Lnを最小限の積層厚にて積層させているので、これに伴い、高頂部Vにおけるニッケルメッキ層Lnの積層厚が低く抑えられる。また、当然の如く、金属端子215は、表層面がニッケルメッキ層Lnによってコーティングされた状態となるため、ボンディングワイヤ20との結合力が強化される。尚、図4では、ニッケルメッキ層Lnが極めて薄い状態にて図示されているが、これに限定することなく、ニッケルメッキ層Lnの用語の意義は、数μm程度以上のメッキ厚を含む概念とされる。
【0027】
図4(b)では、ボンディングワイヤ20との溶着状態が図4(a)の断面構造に対応させて示されている。図を参照すると、金属端子215とボンディングワイヤ20との境界面では、ニッケルメッキ層Lnとボンディングワイヤ20の素材であるアルミ材との接触状態が観察できる。また、かかる境界面では、ニッケル−アルミ間で組成された合金層Brが形成されている。即ち、ニッケルは銅と比較して硬度が高いため、被着材とされる金属端子215の表面層はニッケルの機械的性質に準じて高硬度化され、これにより、ボンディングワイヤ20との溶着性の向上が図られる。
【0028】
以上の如く、本実施例に係る金属端子215では、表面層にニッケルメッキ層Lnがコーティングされた状態とされるので、ボンディングワイヤとの結合力の強化が図られる。
【0029】
また、かかる金属端子215では、ニッケルメッキ層Lcの積層厚が低く抑えられるので、銅母材Bmb若しくは銅メッキ層Lcの高頂部におけるニッケルメッキ層Lnの積層厚の増加を抑止させ、表面粗さの増大を回避し得る構成とされる。従って、金属端子215の表面層では、ボンディングワイヤ20との結合面積が確保され、これにより、結合力の維持が図られる。
【実施例3】
【0030】
本実施例では、銅母材Bmbの材質がJIS C1020−Hに変更された金属端子315について説明する。尚、合金番号の末尾に付されるHとは、硬質であるか軟質であるかを現す質別を指し、加工率が30%以上とされるものをいう。以下、実施例1又は実施例2において既に説明された同一の構成部品については、同一の符号を付し、説明を省略する。図5は、本実施例に係る銅母材Bmbの製法が示されている。図5(a)〜(c)ではプレス加工処理の工程が示されている。先ず、図5(a)に示す如く、プレス加工機のテーブル31にメタルシートMSが適宜に搬送される。その後、図5(b)に示す如く、メタル打抜用のバイト32が駆動され、バイト32の先端がメタルシートMSに接触する。更に、時間が経過すると、バイト32の先端とテーブル31との間にメタルシートMSを挟持する状態で、バイト32がテーブル31に設けられた開孔部31aに貫入され、メタルシートMSの変形が進行する。かかる後、図5(c)に示す如く、バイト32が更に送られると、開口部31aの近傍に円筒状の剪断面が現れ、銅材BmaがメタルシートMSから分離される。このとき、かかる剪断面では、バイト32の押圧によってバリwが形成される。図5(c)の銅材Bmaには、実線によってJIS C1020−Hを適用した場合のバリwの状態が示され、点線によってJIS C1020−1/2Hを適用した場合のバリwの状態が示されている。従って、本実施例に用いられる銅母材Bmbでは、JIS C1020−1/2Hを適用した銅材Bmaと比較して、バリwの高さを低くできることが確認できる。即ち、銅材Bmaの材質を選定するにあたり、同一組成の材質であっても、加工硬化等と密接に関連する質別の程度を適宜に選定することで、プレス加工によって発生するバリwは、一定の範囲で高さ調整されることが可能である。然る後、図5(d)に示すバリ取り加工処理では、被削物とされる銅材Bmaと被削物の硬度に調整された研磨材と水とコンパウンドとをバレル研磨装置の研磨室へ投入し、かかる研磨室を所定時間について回転又は振動させ、これにより、銅材Bmaに形成されたバリwは除去される。このとき、本実施例では、銅材Bmaのバリwの高さが低く調整されているため、バレル研磨加工(バリ取り加工)に要する時間の削減が可能とされる。
【実施例4】
【0031】
本実施例では、上述した電極端子の適用例が一例として示されている。図6を参照して、電極端子115乃至電極端子315が適用されたイグナイタについて説明する。図示の如く、イグナイタ200は、筐体210とスイッチング素子220と放熱板230と配線基板240とから構成される。筐体210は、コネクタ部210a及び格納部210bを具備し、耐熱性樹脂から成型される。また、端子211a〜211dが適宜に設けられる。スイッチング素子220は、例えば、IGBTが適用され、配線基板240から送られるゲート信号に応じて、コレクタ電流を断続制御させる。放熱板230は、配線基板240とスイッチング素子220とを搭載させ、筐体210の格納部210bへ格納される。配線基板240は、アルミナ等のセラミック基板上に半導体素子及び抵抗素子及びコンデンサ等が実装され、スイッチング素子220のドライブ回路及び保護回路を構成させる。このとき、配線基板240には電極端子115〜315が設けられている。そして、端子211a〜211cと電極端子115とが適宜にワイヤボンディングされ、これにより、配線基板115〜315は、図示されないECUとの通信が実現され、当該ECUから送信される駆動信号に基づいてスイッチング素子220を駆動させる。尚、筐体210の格納部210bは、配線基板240と供に絶縁性樹脂によって含浸される。
【0032】
上述したイグナイタ200は、自動車等に適用される内燃機関に用いられる場合、内燃機関のエンジンヘッド部に装着される。このとき、気筒毎に点火タイミングを制御させる点火システムの場合、イグナイタ200は、コイルアセンブリから成る点火コイルと一体的に構成される。かかる構成は、一般に、内燃機関用点火装置と呼ばれ、内燃機関に設けられたプラグホールにそれぞれ配置される。かかるロケーションでは、内燃機関で発生する振動が直接的にイグナイタ200へと伝達されるため、ワイヤボンディングといった結合力の弱い溶接技術では、振動に対する溶着部の強化が必要とされる。このとき、実施例1乃至実施例3の何れかに記す電極端子115〜315にあっては、前述の如く、ボンディングワイヤ20との結合力が強化されるので、振動等による使用環境が劣悪な場所であっても、イグナイタ200の機能は維持される。
【0033】
尚、以上の如く記された実施例は、あくまでも本発明の一つの実施形態であって、本発明を限定させるものではない。本実施例では、バリ取加工処理としてバレル研磨加工を適用させて説明しているが、これに限らず、バリ取り加工処理としてショットブラスト加工を適用させても良い。かかるショットブラスト加工とは、被削材に対してショット球を高速噴射させ、バリ取り(スケール除去)又は表面研磨を行う加工を指す。また、請求項4に記されるバリ取加工処理とは、バレル研磨加工またはショットブラスト加工に限定することなく、現時点で公に使用されている研磨技術を包含し、表面粗さがRz=0.2μmに至らない高粗度の状態とされた処理を指す。
【0034】
また、本発明ないし各構成要件の用語の意義は、前述した実施例に記載されたものに制限されるものではない。例えば、本実施例では、銅母材BmbとしてJIS C1020を採用しているが、これに限らず、銅母材BmbとしてJIS C1020以外の無酸素銅を採用することも可能である。また、本実施例では、ボンディングワイヤ20としてアルミ材を採用しているが、これに限らず、銅元素もしくは金元素を主成分とする金属材料を採用しても良い。更に、請求項1及び請求項2に記されるボンディングワイヤは、上述した実施例において細径の線材が図示説明されているが、これに限らず、幅数mm程度の短冊状に整形されたリボンワイヤ、この他、超音波溶接又は熱圧着溶接によって溶着される導電性材料の全てを指す。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1に係る金属端子のメッキ構造を示す図
【図2】実施例1に係る金属端子の表面部の断面構造を示す図
【図3】実施例2に係る金属端子のメッキ構造を示す
【図4】実施例2に係る金属端子の表面部の断面構造を示す図
【図5】実施例3に係る金属端子の母材の製法を示す図
【図6】実施例4に係るイグナイタの構成を示す図
【図7】従来例に係る配線基板の構成を示す図
【図8】従来例に係る金属端子の母材の製法を示す図
【図9】従来例に係る金属端子の表面部の断面構造を示す図
【図10】従来例に係る金属端子の表面部の断面構造を示す図
【図11】従来例に係る金属端子の表面部の断面構造を示す図
【図12】多層ニッケルメッキ層の一部拡大図
【符号の説明】
【0036】
10 配線基板
11 絶縁基板
12 プリント配線
13 ソルダレジスト
14 半田層
15 金属端子
20 ボンディングワイヤ
Bmb 母材
Lc 銅メッキ層
Ln ニッケルメッキ層
115 金属端子
215 金属端子
315 金属端子
200 イグナイタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線基板の表面に配設されると供に露出面がボンディングワイヤに溶着される金属端子であって、銅元素を基として組成された銅母材と、銅元素を基として組成され前記銅母材に積層された銅メッキ層とから成ることを特徴とする金属端子。
【請求項2】
配線基板の表面に配設されると供に露出面がボンディングワイヤに溶着される金属端子であって、銅元素を基として組成された銅母材と、銅元素を基として組成され前記銅母材に積層された銅メッキ層と、ニッケル元素を基として組成され前記銅メッキ層に積層されたニッケルメッキ層とから成ることを特徴とする金属端子。
【請求項3】
前記銅母材は、バリ取加工処理されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属端子。
【請求項4】
前記バリ取加工処理は、バレル研磨加工であることを特徴とする請求項3に記載の金属端子。
【請求項5】
前記バリ取加工処理は、ショットブラスト加工であることを特徴とする請求項3に記載の金属端子。
【請求項6】
前記銅メッキ層の表面は、十点平均高さの測定値が0.2μm以下とされることを特徴とする請求項1、又は、請求項3乃至請求項5に記載の金属端子。
【請求項7】
前記ニッケルメッキ層の表面は、十点平均高さの測定値が0.2μm以下とされることを特徴とする請求項2乃至請求項5に記載の金属端子。
【請求項8】
前記銅母材は、無酸素銅から成ることを特徴とする請求項1乃至7に記載の金属端子。
【請求項9】
前記銅母材は、JIS規格で規定される金属材料において、合金番号がC1020とされ、且つ、質別がHとされることを特徴とする請求項8に記載の金属端子。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の金属端子は、内燃機関用点火装置を制御させるイグナイタの構成部品として用いられることを特徴とする金属端子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−248317(P2008−248317A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90670(P2007−90670)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000109093)ダイヤモンド電機株式会社 (387)
【Fターム(参考)】