説明

金属膜とリードのはんだ接合構体およびその熱処理方法

【課題】はんだフィレットの経時劣化を防止しはんだ接合構造の信頼性を向上させる。
【解決手段】はんだ材付きリード部材10は、リード線11の表面に、Cuめっき下地層12を施し、この上にさらに所定濃度以上のSnを含有するSn系はんだ層13を積層した複層構造を有する。Sn系はんだ層13を用いてリード線11に半導体や圧電振動子などの電子素子20を接合し、はんだ付け後のはんだフィレットに所定の熱処理を施すことで拡散反応を平衡状態にして経時変化を抑制するとともに、はんだフィレットの金属組成をより耐熱性の高温はんだに変化させることを特徴とする。このときリード線11に施したCuめっき下地層12は、予め充分な厚みを設けてCuとSnとの相互拡散を平衡状態まで進行させてもCuめっき下地層12が消失しないようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の端子リードを絶縁基板上の金属膜にはんだ付けする接合構造、特にCuめっきリード線にSn合金はんだ材を形成した端子リードを絶縁基板に形成した電極用金属膜に接続する金属膜とリードのはんだ接合構体およびその熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や水晶振動子などの電子素子をパッケージ配置する電子部品の組み立て構造では、通常、パッケージ端子用のリードを絶縁基板に設けた電子素子用電極に接合することが行われる。たとえば、絶縁基板上の電極金属膜に設けた電子素子を導出用のCuめっきリードにSn系高温はんだ材を使用してリフロー対応する場合がある。その際、高温はんだ材により、CuとSn合金の接触による相互拡散が生じ、Cu層とSn系はんだ層との層間に金属間化合物のCuSn層(Cu側)とCuSn層(Sn合金側)とが生成され、Cu層とCuSn層との界面に層間剥離が生じることが知られている。この現象はカーケンダルボイドの蓄積によるものとされ、はんだ接合界面の上層から順に、はんだ材のSnとリード上のめっきCuとの相互拡散で生成された金属間化合物(CuSnおよびCuSn)に依存して剥離の起因となる。特にリフロー時にCuSn層(η相)がほとんど成長せずCuSn層(ε相)が生成、成長する場合にSnに比べCuが速く大量に拡散するためCuSn層とCu層との界面に両原子の拡散速度の差異によってカーケンダルボイドが成長し、クラックに発展してはんだ接合が破壊され故障の原因となる。ここで、カーケンダルボイドの生成に関し、CuとSnの相互拡散では、Cu原子はSn原子に比べて拡散速度が速く、生成された金属間化合物のCuSn層中ではCu原子とSn原子の拡散速度の差が大きく、Cu原子が優先して拡散するのでCuSn層と下地Cu層との界面にカーケンダルボイドが生成する一方で、金属間化合物のCuSn層中の拡散過程ではCu原子とSn原子の拡散速度に大差がないので界面にカーケンダルボイドの生成は見られない。
【0003】
このため、下地Cu材とSn系はんだ層の接合信頼性を確保する目的で様々な対策が提案され、下地Cu材とSn系はんだ層の中間にCuに比べSnとの反応が緩慢なNi材からなる拡散バリア層を設けるなどの対策がとられている。例えば、特許文献1は導電部材に関し、Ni系下地層に対するCuSn層の面積被覆率を60%以上とし、Cu−Sn金属間化合物層の凹部に対する凸部の比率を1.2〜5として、さらにCuSn層の平均厚みを0.01〜0.5μmとすることでカーケンダルボイドを防止し、かつSn系めっき層の上にAgSn層を設けてめっき材の耐熱性を向上させている。また、特許文献2の水晶振動子では、下地金属との密着性とSnとの金属間化合物形成のためのCuめっき層と、圧入時の塑性変形により気密封止を主として担うSnめっき層と、Snとの金属間化合物形成及びSnとAuの反応抑制及びワイヤボンディングのための金属めっき層を設け、さらにSnめっき層を熱処理により金属間化合物化することにより高融点化を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−026677号公報
【特許文献2】特開2010−010940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように下地Cu材にSn系はんだ層を直に施した場合には、はんだ接合の信頼性を確保するため様々な対策がとられている。しかし、CuとSnの相互拡散は、常温程度の温度環境でも容易に進行するため、最終消費者に供給された後ではんだ接合が経時劣化し問題となっていた。また、これまでにCu下地めっき層の上にSn−Pb合金はんだ層を施し、可及的に相互拡散を生じない熱処理条件によりリード端子と搭載素子の電極を接合させた後、70℃の環境に曝した場合、3μmの純Cuめっき層では320日程度で完全に消失し、その時点で接合強度が著しく低下してしまうことも経験した。従って、下地Cu材の上にSn系はんだ層を直に施した場合には、製造工程で拡散反応を進行させないように熱処理を行ったとしても早晩接合強度の劣化を来たし信頼性の低下が避けられなかった。本発明が解決しようとする課題は、相互拡散の不均衡によって発生する原子の空孔が金属層の界面に蓄積し合体成長して生じた層間成長ボイドとして知られるカーケンダルボイドの生成を防ぎ、めっき層の剥離を防止し、製品完成後の経時変化が少なく、かつ作業温度の低いSn濃度の高いはんだ材を高温はんだ材として使用可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、種々のリード部材の相互拡散による界面反応に着目し鋭意検討を進めた結果、Cu製リード部材またはリード部材に施したCuめっき層の上に所定濃度のSnを含有するSn系はんだ層を予めコーティングしておき、より低温側の第1の溶融温度で前記Sn系はんだ層を溶融させてはんだ付けを行った後、はんだ付け工程で形成したはんだフィレットを固相状態のままさらに熱処理を加えて、該はんだフィレットの合金組成をより高温側の第2の溶融温度を有する高温はんだフィレットに変化させることができ、これを半導体や水晶振動子など電子素子パッケージ内部の高温はんだ接合に応用できることを見出した。すなわち、下地Cu材上に所定濃度のSnを含有するSn系はんだ層を用いて溶融はんだ付けを実施する際、はんだ付け作業温度で液相となったSn系はんだ層と下地Cu材との固−液拡散では、溶融Sn系はんだと固体の下地Cu材との固−液界面に、金属間化合物のCuSn層(ε相)とCuSn層(η相)が生成されるが、CuSn層(ε相)の生成は少なく、優先的にCuSn層(η相)が生成され固−液界面に生成するCu−Sn金属間化合物層と下地Cu材の界面に有害なカーケンダルボイドの発生が無いはんだフィレットとなることを見出した。このはんだフィレットは、コーティング膜のみから形成され含有するSn化学量が限られているので、はんだフィレットに熱処理を加えて平衡状態に達するまで固相拡散させると、はんだに含有されるSnは急速に拡散消費されて下地Cu側へのSnの拡散供給が減少し、CuSn層が全てCuSn層に相変化するが、この時点で熱平衡に達しているため、見かけ上、それ以上下地Cu材からのCu拡散が無くなりカーケンダルボイドの発生は抑制される。また、Cu材をめっき等の皮膜層で構成した場合は、はんだ付け工程およびはんだ付け後の熱処理においてCu下地層が食われ現象で消失してしまわないよう、Cuめっき下地層とSn系はんだ層の量を予め調整しておくことで、Cu−Sn金属間化合物層の機械的強度の劣化も防止できる。
【0007】
本発明によると、前述のCu材はリード線材にCuめっき下地層を施したCuめっき下地層であっても良く、このCuめっき下地層の上に所定濃度範囲のSnを含むSn系はんだ層を積層したリード部材と、電子素子を有する絶縁基板上の電極用金属膜とのはんだ接合構体であって、Sn系はんだ層は所定の温度で溶融されてリード部材と電極用金属膜とをはんだフィレットを介して接合し、このはんだフィレットを熱処理によりCu−Snの固相拡散を進行させ、純金属Sn成分を所定濃度以下にした平衡状態の金属間化合物としたことを特徴とする金属膜とリードのはんだ接合構体が提供される。Sn系はんだ層がSn−Pb合金はんだ材の場合は、その組成においてSnが10〜30質量%の範囲内で含むことが望ましく、また、SnまたはSn−Cu合金はんだ材の場合は、その組成においてSnが85〜100質量%の範囲内で含むことが望ましい。すなわち、所定の熱処理を施すことで、拡散反応を平衡状態にして経時変化を抑制するとともに、初期のはんだフィレットの金属組成をより高温の溶融温度を有する高温はんだフィレットに変化させることを特徴とする新規かつ改良されたはんだ接合構体およびその熱処理方法が提供される。
【0008】
ここで、Cuめっき下地層は、そのCu相がSn系はんだ層のSn相と相互拡散し平衡状態に達した後においても、前記Cuめっき下地層のCu相が消失しない程度に、前記Sn系はんだ層が含む全Sn量に対して、予め過剰量のCuを下地層として施したことを特徴とする。すなわち、電子部品のリード線などのリード部材に施したCuめっき下地層と、このCuめっき下地層上に所定濃度範囲のSnを含むSn系はんだ層を積層したリード部材において、予め充分な厚みを有するCuめっき下地層を設けてCuとSnとの相互拡散を平衡状態まで進行させ、純金属Sn成分を所定濃度以下にしてもCuめっき下地層が消失しないようにしたことを特徴とする新規かつ改良されたはんだ接合構体が提供される。具体的に、高温はんだフィレットは、金属間化合物のSn合金を除いた純金属としてのSn含有量が1質量%以下である金属膜とリードのはんだ接合構体が開示される。
【0009】
本発明の別の観点によれば、リード線にCuめっき下地層を施し、その上に所定濃度範囲のSnを含むSn系はんだ層を積層するリード部材を調達する工程と、電子素子を有する絶縁基板上の電極用金属膜を形成する工程と、Sn系はんだ層を溶融してリード部材と電極用金属膜とをはんだフィレットを介して接合するはんだ付け工程と、はんだフィレットを熱処理によりCu−Snの固相拡散を進行させて平衡状態の金属間化合物にする熱処理工程とを含む金属膜とリードのはんだ接合構体の熱処理方法が提案される。すなわち、はんだ材付きリード部材に半導体や圧電素子などの電子素子の電極用金属膜を接合する工程において、リード部材の下地Cu材上に、より低い温度で溶融できるようにSnを所定量含有させたSn系はんだ層を予めコーティングしておき、より低温側の第1の溶融温度でSn系はんだ層を溶融させてはんだ付けを行った後、初期はんだフィレットを固相状態で熱処理し、該はんだフィレットの金属組成を、より高温側の第2の溶融温度を有する高温はんだフィレットに変化させることを特徴とするはんだ材付きリード部材のはんだ付け熱処理方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のはんだ材付きリード部材を適用した電子部品は、はんだ付け後の熱処理においてSnとCuの相互拡散が平衡状態になるので、製品完成後の高温はんだフィレットが経時劣化する心配が無く接合部の信頼性が向上する。しかも、作業温度の低いより高Sn濃度のSn系はんだ層で電子素子の接合を行った後、このリード部材と電子素子とを接合した初期はんだフィレットに所定の熱処理を施し、はんだフィレット中の純金属Sn成分を所定濃度以下の低い平衡濃度とすることによって、はんだフィレットの溶融温度を高温側にシフトさせ耐熱性の高温はんだフィレットとして利用できる。さらに、本発明のはんだ材付きリード部材は、従来Sn−Cu合金はんだ材のように固相線、液相線に開きがありはんだフィレットの耐熱性を両立させることが困難とされていた非共晶のSn合金も、はんだ付け後に所定の熱処理を施しはんだフィレットを相変化させることで耐熱性の高温はんだとして利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るはんだ接合構体のはんだ処理におけるリード部材10と電子素子20の配置状態を示す部分断面図である。
【図2】図1のはんだ処理における各工程別の部分断面図である。
【図3】本発明に係る実施例である円筒型水晶振動子用気密端子の分解斜図である。
【図4】本発明に係るはんだ接合構体の製造工程におけるCuめっき下地層とSn−Pbはんだ層を有するリード部材の接合部分断面図である。
【図5】本発明に係るはんだ接合構体に関し、はんだ付時および拡散処理時におけるSn−Pb合金の状態変化を説明する平衡状態図である。
【図6】本発明に係るはんだ接合構体の製造工程におけるCuめっき下地層とSnはんだ層を有するリード部材の接合部の部分拡大断面図である。
【図7】Snはんだ材に関するCu−Sn合金の平衡状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るはんだ接合構体は、図1に示すように、リード部材10と電子素子20とを配置し、両者をそれぞれはんだ接合して構成される。リード部材10は基材となるリード線11の表面に、Cuめっき下地層12を施し、このCuめっき下地層12の上に所定濃度範囲のSnを含むSn系はんだ層13を積層した複層構造を有する。このはんだ材付きリード部材10は、絶縁基板等に実装される半導体や圧電振動子などの電子素子20を接続するために金属膜の平面電極25とはんだ接合されるが、図2に示すように、3工程を経て接合・熱処理される。すなわち、リード部材のはんだ層23と電子素子の平面電極25とを図2(a)に示すように配置し、はんだ付け工程で図2(b)に示すように電子素子用電極とはんだ材付きリード部材とが溶融したはんだ層によって接合された初期はんだフィレット26を形成し、その後、図2(c)に示すように熱処理工程による固相拡散を経て高温はんだフィレット27によるはんだ接合構体を得る。ここで、はんだ付け直後の初期はんだフィレット26に所定の熱処理を施すことで拡散反応を進行させ、含有する純金属Sn成分の濃度を1質量%以下の平衡状態にして経時変化を抑制するとともに、はんだフィレットの金属組成をより耐熱性の高温はんだフィレット27に変化させることを特徴とする。また、このときリード線11に施したCuめっき下地層12は、予め充分な厚みを設けてCuとSnとの相互拡散を前記平衡状態まで進行させてもCuめっき下地層12が消失しないようにしている。Sn系はんだ層13のトータルSn量に対して過剰量のCuめっき下地層12を予め設けておき、両元素の相互拡散が平衡状態まで達したとしてもCuめっき下地層12が消失しないように設定される。特に前記リード線11がコバール合金やNi−Fe合金などのFe基合金材からなる場合には、Fe基合金材リード線とSn系はんだ材とは相互拡散し難いためCuめっき下地層12が消失してしまうと接合代が無くなりめっき膜が界面剥離してしまうことがあるが、Cuめっき下地層12を保持することにより前記界面剥離を防止できる。
【0013】
本発明に係るはんだ接合構体のはんだ処理方法は、上述するように、接合部材の所定配置後、図2(b)に示すはんだ材が低い温度で溶融できるようにSn含有量を調整したSn系はんだ層23をCuめっき下地層22上にコーティングし、低温側の第1の溶融温度でSn系はんだ層23を溶融させる。この初期はんだフィレット26は、さらに図2(c)に示すように、固相状態で熱処理してフィレットの合金組成をより高温側の溶融温度を有する高温はんだフィレット27に変化させる。すなわち、はんだ材付きリード部材のSn系はんだ層23と電子素子24の平面電極25を当接させて加熱し、最表面層のSn系はんだ層23のみ溶融して初期はんだフィレット26を形成させる。その後、初期はんだフィレット26に拡散反応が平衡状態になるまで固相のまま熱処理を施し、はんだフィレット26を耐熱性の高温はんだフィレット27に相変化させることを特徴とする。
【0014】
本発明による実施例では、はんだ接合構体およびその熱処理方法について、円筒型水晶振動子の気密端子が適用される。円筒型水晶振動子は、図3に示すように、金属キャップ30と、水晶振動子32と、気密端子33とからなり、気密端子33のリード線31と水晶振動子32の平面電極35は、はんだ接合されて金属キャップ30を圧入し気密封止される。また、図4の部分拡大断面図に示すように、コバール合金や42Ni−Fe合金などからなる気密端子33の金属製リード線41の上にCuめっき下地層42を施し、さらにこの上にSn含有率が10〜30質量%、残部PbのSn−Pb合金はんだ層43を施したSn−Pb合金はんだ材付きリード部材が提供される。ここで、前記Sn−Pb合金はんだ層43の組成に関して、Snの含有量が10質量%未満であった場合は、はんだ材中のSnのCuめっき材への総拡散量が少なすぎるため、溶融はんだ付け工程においてCuSn層(ε相)が優先して生成してしまいCuとSnの拡散速度の大きな差に因ってカーケンダルボイドの発生が顕著となる。一方、Snの含有量が30質量%を超えると、形成したはんだフィレットのSn含有量が多すぎてはんだ付け後の初期はんだフィレットに熱処理を施しても所望する高温はんだフィレットに変化させることができない。
【0015】
このSn−Pb合金はんだ材付きリード部材は、図4(a)に示すように水晶振動子に施されたAuなどの平面電極45に当接してリフローはんだ付けされる。Cuめっき下地層42の膜厚は、Sn−Pb合金はんだ層43の膜厚比1に対してCu層の厚みを少なくとも膜厚比0.5以上施し、はんだ付け後の熱処理において相互拡散を平衡状態まで進行させてもCuめっき下地層42が消失しないように充分なCu膜厚を確保している。Sn−Pb合金はんだ材付きリード部材は、比較的低温の230〜280℃でリフローはんだ付けを行う。この作業温度で固体のCuめっき下地層42と、溶融したSn−Pb合金はんだ70の固−液界面には、図4(b)に示すはんだフィレットようにCuめっき下地層42側にCuSn層(ε相)48、溶融はんだ側にCuSn層(η相)49が生成される。このときSn−Pb合金はんだ材中のSn濃度が10〜30質量%の範囲内にあるとき、リフローはんだ付けでは、CuSn層(η相)49が優先的に生成され、CuSn層(ε相)48の生成は少なくかつ厚みも極薄いので、Cu−Sn金属間化合物とCuめっき下地層42の界面にカーケンダルボイドを有しない初期はんだフィレット70が形成される。はんだ付け後、固体となった初期はんだフィレット70は、図5(b)の状態図に示すように、150℃以上183℃未満の温度で熱処理を行い、はんだフィレット70中に残存する純金属Sn相を平衡状態まで固相拡散させCuSn層(η相)49を成長させる。はんだフィレット70のSn濃度が1質量%以下になると拡散反応が平衡状態に達し、はんだフィレット70からのSnの拡散が飽和しCuめっき下地層42からのCuの拡散も無くなるので、CuSn層49は、図4(c)に示すCuSn層48に相変化し、カーケンダルボイドを有しない高温はんだフィレット71となる。この高温はんだフィレット71の断面構造は、図4(c)に示すようにCuめっき下地層42と、金属間化合物のCuSn層(ε相)48と、Sn濃度が当初の10〜30質量%から固相拡散により1質量%以下に変化したSn−Pb合金はんだ層とからなり320℃以上の耐熱性を有する高温はんだとなる。
【0016】
本発明の別の観点によると、はんだ付け前のリード部材と電子素子を当接させた状態である図6(a)の拡大断面図に示すように、コバール合金や42Ni−Fe合金などからなる気密端子の金属製リード線61の上にCuめっき下地層62を施し、さらにこの上にSnを85質量%以上含有するSnまたはSn−Cu合金からなるはんだ層63が施される。ここで、Sn−Cu合金はんだ層63に関し、Sn組成の含有量が85質量%未満であった場合は、溶融はんだ付け工程においてはんだ材中の固相成分が多すぎてはんだ材の溶融が不充分となり、作業温度ではんだ材に流動性が悪くなり電子素子のはんだ付けを行うことができない。
【0017】
このSnまたはSn−Cu合金はんだ材付きリード部材は、水晶振動子64に施されたAuなどの平面電極65に当接してリフローはんだ付けされる。Cuめっき下地層62の膜厚は、SnまたはSn−Cu合金はんだ層63の膜厚比1に対してCu層の厚みを少なくとも膜厚比1.3以上施し、はんだ付け後の熱処理において相互拡散を平衡状態まで進行させてもCuめっき下地層62が消失しないように充分なCu膜厚を確保している。Snはんだ材付きリード部材は232℃でリフローはんだ付けを行う。この作業温度で固体のCuめっき下地層62と、溶融したSnはんだ70の固液界面には、図6(b)に示すようにCuめっき下地層62側にCuSn層(ε相)68、溶融はんだ70側にCuSn層(η相)69が生成されるが、SnまたはSn−Cu合金はんだ材中のSn濃度が85質量%以上含有するとき、リフローはんだ付けでは、CuSn層(η相)69が優先的に生成され、CuSn層(ε相)68の生成が少なくかつ厚みも極薄いので、Cuめっき下地層62とCuSn層(ε相)68の界面にカーケンダルボイドが無い初期はんだフィレット70が形成される(図6(b)参照)。はんだ付け後、固体となった初期はんだフィレット70は、図7の状態図に示すように150℃以上227℃未満の温度で熱処理を行い、Snはんだフィレット70とCuめっき下地層を平衡状態まで固相拡散させ、金属間化合物層68および69を成長させる。拡散反応が前記平衡状態に達した時点で、Snはんだフィレット70中に含有する純金属Sn成分の濃度は1質量%以下となり、Cuめっき下地層62からのCuの拡散も無くなるので、CuSn層69は、図6(c)に示すCuSn層68に相変化しカーケンダルボイドの無い高温はんだフィレット68となる。この高温はんだフィレット68の断面構造は、図6(c)に示すようにCuめっき下地層62と、金属間化合物のCuSn層(ε相)68となり、640℃以上の耐熱性を有する高温はんだに変化する。
【実施例】
【0018】
実施例1は、Sn−Pb合金はんだ材付きリード部材を円筒型水晶振動子に適用したものであり、図4(a)の拡大断面図に示すように、直径0.15mmのコバール製リード線41に電気めっきによりCuめっき下地層42を施し、さらにこの上に電気めっきによりSn含有率が20質量%、残部PbからなるSn−Pb合金はんだ層43を施した水晶振動子用気密端子である。Cuめっき下地層42は、相互拡散を平衡状態になるまで進行させても下地層が消失しないよう予め充分な膜厚とする。すなわち、Sn−Pb合金はんだ層43の場合は、Sn−Pb合金はんだ層43の膜厚比1に対してCu層は少なくとも膜厚比0.5以上施す。従って、Cuめっき下地層42のめっき厚を5μmとし、さらにこの上にめっき厚10μmのSn−Pb合金はんだ層43を施す。実施例1のSn−Pb合金はんだ材付き電極端子は、水晶振動子44の上に施されたAu電極45に当接してリフローはんだ付けされる。
【0019】
次に、実施例1のSn−Pb合金はんだ材付きリード部材のリフローはんだ付けおよび熱処理について、図4を参照しながら説明する。先ず図4(a)に示すように、はんだ材付き電極端子は水晶振動子44のAu電極45と互いに当接した状態で加熱され、Sn−Pb合金はんだ層43のみを溶融させてリフローはんだ付けを行う。実施例1のSn−Pb合金はんだ材付き電極端子は、Cuめっき下地層42の上にSn含有率が20質量%、残部PbのSn−Pb合金めっき層43からなるはんだ材を有し、比較的低温の230〜280℃でリフローはんだ付けが可能である。リフローはんだ付け工程では、図4(b)に示すように、溶融したSn−Pb合金はんだ70と固体のCuめっき下地層の固−液界面に金属間化合物のCuSn層(η相)49が優先的に生成され、CuSn層(ε相)48の生成が少なくかつ厚みも極薄いので、CuSn層(ε相)48とCuめっき下地層42の界面にカーケンダルボイドが無い初期はんだフィレット70が形成される。次いで、固相となった初期はんだフィレット70を、150℃以上183℃未満の温度条件下で、初期はんだフィレット70中に残存する純金属Sn成分を、図4(c)の平衡状態の高温はんだフィレット71となるまで固相拡散させると、先行してCuSn層(η相)49が成長し、次いで高温はんだフィレット71中のSn濃度が1質量%以下の熱平衡となると、高温はんだフィレット71からのSnの拡散が飽和しCuSn層49はCuSn層48に相変化する。初期はんだフィレット70は、膜厚が薄いめっき材のSn−Pb合金はんだ層43からなり総量的に限られるため極短時間で固相拡散は平衡状態に達するが、この時点で熱平衡に達しているので、見かけ上、Cuめっき下地層42からのCuの拡散も無くなりカーケンダルボイドの発生は抑制されボイド蓄積の無い高温はんだフィレット71が形成される。熱処理後形成された高温はんだフィレット71の断面構造は、図4(c)の拡大断面図に示すように、1.0μmの下地Cuめっき層42と、5.1μmの金属間化合物のCuSn層(ε相)48と、Sn濃度が当初の10〜20質量%から固相拡散により1質量%以下に減少したSn−Pb合金層とからなり、図5のSn−Pb合金状態図に示すように320℃以上の耐熱性を有する高温はんだフィレット71となり気密封止される。
【0020】
実施例2は、Snはんだ材付きリード部材を円筒型水晶振動子に適用したものであり、図6を参照しながら説明する。実施例2は、図6(a)の拡大断面図に示すように、直径0.15mmのコバール製リード線61に電気めっきによりCuめっき下地層62を施し、さらにこの上に電気めっきによりSnはんだ層63を施した水晶振動子用気密端子である。Cuめっき下地層62は、相互拡散を平衡状態になるまで進行させても下地層が消失しないよう予め充分な膜厚とする。すなわち、Snはんだ層63の場合は、Snはんだ層63の膜厚比1に対してCu層は少なくとも膜厚比1.3以上施す。従って、Cuめっき下地層42のめっき厚を16μmとし、さらにこの上にめっき厚10μmのSnはんだ層63を施す。
【0021】
実施例2のSnはんだ材付き電極端子は、図6(a)に示すように水晶振動子64の上に施されたAu電極65に当接してリフローはんだ付けされる。Snはんだ層63は232℃の溶融温度を有するので比較的低温でリフローはんだ付けができる。Snはんだ層63をはんだ材としてリフローはんだ付けを行った場合も、前記の実施例1の電子部品用電極端子と同様に、溶融過程では、図6(b)に示すように溶融したSnはんだ70と固体のCuめっき下地層62の固液界面に金属間化合物のCuSn層(η相)69が優先的に生成され、CuSn層(ε相)68の生成は少なくかつ厚みも極薄い。従って、カーケンダルボイドの発生が無い初期はんだフィレット70となる。図6(c)に示す熱処理過程では、初期はんだフィレット70を、150℃以上227℃未満の温度でSn層が完全に消失するまで熱処理を施しCuSn層(η相)69を成長させる。初期はんだフィレット70は、膜厚が薄いめっき材のSnはんだ層63からなり総量が限られるため極短時間で固相拡散は平衡状態に達する。この熱処理によって、初期はんだフィレット70が完全にCuSn層(η相)69に変化してしまうと、該はんだフィレットから拡散するSnの供給がなくなるので、CuSn層(η相)69はCuSn層(ε相)68に相変化するが、この時点で熱平衡に達しているので、新たなカーケンダルボイド生成が抑制され、ボイドの無い高温はんだフィレット71を形成することができる。図6(c)に示すように高温はんだフィレット71は、0.8μmのCuめっき下地層62と、はんだフィレット70が完全に金属間化合物に変化した18.9μmのCuSn層(ε相)のみからなり、図7のCu−Sn合金状態図に示すように640℃以上の耐熱性を有する高温はんだフィレット71に変化して気密封止される。
【0022】
実施例3は、実施例2の変形例でSnはんだ層をSn−Cu合金はんだ層に変えたSn−Cu合金はんだ材付リード部材であり、これを円筒型水晶振動子に適用したものである。実施例3について実施例2と同様に図6の拡大断面図を用いて説明する。直径0.15mmのコバール製リード線61に電気めっきによりCuめっき下地層62を13μm施し、さらにこの上に電気めっきによりSn85質量%、残部CuのSn−Cu合金はんだ層63を10μm施して水晶振動子用気密端子とする。
【0023】
実施例3のSn−Cu合金はんだ材付き電極端子は、図6(a)に示すように水晶振動子64の上に施されたAu電極65に当接してリフローはんだ付けされる。Sn85質量%、残部CuのSn−Cu合金はんだ層63は227℃以上でSn−Cu共晶相による溶融が開始するため比較的低温でリフローはんだ付けができる。Sn−Cu合金はんだ層63をはんだ材としてリフローはんだ付けを行った場合も、図6(b)に示す溶融過程では、Sn−Cu合金はんだ70と固体のCuめっき下地層62の固液界面に金属間化合物のCuSn層(η相)69が優先的に生成され、CuSn層(ε相)68の生成は少なくかつ厚みも極薄いので、カーケンダルボイドの発生が無い初期はんだフィレット70となる。次いで、150℃以上227℃未満の温度でSn−Cu合金はんだ70中のSn相が完全に拡散するまで熱処理を施し、図6(b)のCuSn層(η相)69と初期はんだフィレット70をCuSn層(ε相)68に相変化させて、図6(c)に示す高温はんだフィレット71に変異させる。高温はんだフィレット71は、1.2μmのCuめっき下地層62と、金属間化合物に変化した16.5μmのCuSn層(ε相)71のみからなり、640℃以上の耐熱性を有する高温はんだフィレット71となって気密封止される。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、電子部品パッケージのリード部材に用いられ、特にパッケージ内部に用いられる耐熱高温はんだ継ぎ手用部材に有効である。
【符号の説明】
【0025】
10・・・はんだ材付きリード部材、 20,24,34・・・電子素子、
30・・・金属キャップ、 32,44,64・・・水晶振動子、
33・・・気密端子、 11,31,41,61・・・リード線、
12,22,42,62・・・Cuめっき下地層、
13,23,43,63・・・はんだ層、 25,35,45,65・・・平面電極、
48,68・・・CuSn層(ε相)、 49,69・・・CuSn層(η相)、
26,70・・・初期はんだフィレット、 27,71・・・高温はんだフィレット。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リード線にCuめっき下地層を施し、その上に所定濃度のSnを含むSn系はんだ層を積層したリード部材と、電子素子を有する絶縁基板上の電極用金属膜とのはんだ接合構体であって、前記Sn系はんだ層は所定の温度で溶融されて前記リード部材と電極用金属膜とをはんだフィレットを介して接合し、このはんだフィレットを熱処理によりCu−Snの固相拡散を進行させ高温はんだフィレットの平衡状態金属間化合物とすることを特徴とする金属膜とリードのはんだ接合構体。
【請求項2】
前記Cuめっき下地層は、そのCu相が前記Sn系はんだ材のSn相と相互拡散し平衡状態に達した後、前記Sn系はんだ層が含む全Sn量に対し、前記Cuめっき下地層のCu相が消失しない程度に、予め過剰量のCuを施すことを特徴とする請求項1に記載の金属膜とリードのはんだ接合構体。
【請求項3】
前記Sn系はんだ層は、その組成においてSnが10〜30質量%の範囲内で含むSn−Pb合金であることを特徴とする請求項1に記載の金属膜とリードのはんだ接合構体。
【請求項4】
前記Sn系はんだ層は、その組成においてSnが85〜100質量%の範囲内で含むSnまたはSn−Cu合金であることを特徴とする請求項1に記載の金属膜とリードのはんだ接合構体。
【請求項5】
前記高温はんだフィレットは、金属間化合物を除いた純金属Sn成分の含有量が1質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4に記載の金属膜とリードのはんだ接合構体。
【請求項6】
リード線にCuめっき下地層を施し、その上に所定濃度以上のSnを含むSn系はんだ材を積層するリード部材を調達する工程と、電子素子を有する絶縁基板上の電極用金属膜を形成する工程と、前記Sn系はんだ層を溶融して前記リード部材と前記電極用金属膜とをはんだフィレットを介して接合する工程と、前記はんだフィレットを熱処理によりCu−Snの固相拡散を進行させて平衡状態の金属間化合物にする熱処理工程とを含む金属膜とリードのはんだ接合構体の熱処理方法。
【請求項7】
前記Sn系はんだ層は、その組成においてSnが10〜30質量%の範囲内で含むSn−Pb合金であり、前記Cuめっき下地層は、その膜厚を、前記Sn−Pb合金の膜厚比1に対して前記Cuめっき下地層の厚みを少なくとも膜厚比0.5以上施したことを特徴とする請求項6に記載の金属膜とリードのはんだ接合構体の熱処理方法。
【請求項8】
前記熱処理工程は、固相となった前記はんだフィレットを150℃以上183℃未満の温度条件下で前記はんだフィレット中に残存する純金属Sn相を平衡状態となるまで固相拡散させたことを特徴とする請求項7に記載の金属膜とリードのはんだ接合構体の熱処理方法。
【請求項9】
前記Sn系はんだ層は、その組成においてSnを85〜100質量%の範囲内で含むSnまたはSn−Cu合金であり、前記Cuめっき下地層は、その膜厚を、前記SnまたはSn−Cu合金の膜厚比1に対して前記Cuめっき下地層の厚みを少なくとも膜厚比 1.3以上施したことを特徴とする請求項6に記載の金属膜とリードのはんだ接合構体の熱処理方法。
【請求項10】
前記熱処理工程は、固相となった前記はんだフィレットを150℃以上227℃未満の温度条件下で前記はんだフィレット中に残存する純金属Sn相を平衡状態となるまで固相拡散させたことを特徴とする請求項9に記載の金属膜とリードのはんだ接合構体の熱処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−35046(P2013−35046A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174449(P2011−174449)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(300078431)エヌイーシー ショット コンポーネンツ株式会社 (75)
【Fターム(参考)】