説明

金属被覆発泡プラスチック及びその金属発泡プラスチックの製造方法

【課題】実用温度が100℃を超える金属被覆発泡プラスチックと、その製造方法を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、ニッケル、コバルト、パラジウム、銅、銀、金、白金、スズから選択される1種の金属成分又は2種以上の金属成分等で硬質発泡プラスチックを被覆した金属被覆発泡プラスチックを採用する。この硬質発泡プラスチックは、型内発泡成型法で製造可能であり、ポリオレフィン系の樹脂を用いれば、融点を120℃以上とすることもできる。そして、硬質発泡プラスチックの表面が備える金属被覆は、無電解めっき法を用いて形成する。また、必要に応じて、硬質発泡プラスチックの表面に薄膜樹脂層を設け、フォトマスクを介して紫外線照射処理して、部分的に金属被覆を備える金属被覆発泡プラスチックとできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、金属被覆発泡プラスチック及びその金属発泡プラスチックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球温暖化への危機意識の高まりにより、あらゆる産業分野に対する要求が大きく変化している。中でも、二酸化炭素の発生量が大きな自動車関連産業では、燃料消費効率の改善が最優先課題となっている。そして、燃料消費効率の改善効果の大きな対策として、軽量化と電子制御化とが推進されている。軽量化に対しては、車体を軽合金化したり、繊維強化プラスチック製にする方策が採られてきている他、断熱、防音の目的など、大きな機械強度が要求されない部分には発泡プラスチックの採用が活発化している。
【0003】
また、電子制御の信頼性を高めるためには、周囲及び自身が発する電磁波に起因して発生するノイズへの対策が欠かせない。即ち、ノイズ対策として、個々の電子機器や電子部品は電磁波シールド性能を備える必要がある。一方、ICチップ等を収納する容器に対しても、静電気による破損を防止するために、帯電防止処置として導電性の付与が要求されている。これらの要求に応えるため、電磁波シールド性能や静電気の帯電防止性能が要求される部品等は、金属製の容器に収納するのが一般的であった。加えて最近では、成型プラスチックに金属めっきを施したり、導電塗料等を用いて皮膜を形成する等の手法を用いて電磁波シールド性能や帯電防止性能を付与する技術も開発されている。
【0004】
一方、車載用の電子機器や電子部品に対しては、上述のように、低燃費を実現するために軽量化に対する要求が強い。また、ICチップ等の収納容器に対しても、航空輸送運賃を低減させるために軽量化の要求がある。そこで、金型を用いて成型した発泡プラスチックに導電性を付与する手法として、カーボンブラックや金属粉等の導電性フィラーを含有させたり、更に電気めっきを施して金属皮膜を形成する方法が提案されている。ところが、導電性フィラーを含有させて要求される電導度を達成するには、導電性フィラーの含有量を多くせざるを得ず、コスト上昇も著しく、導電性フィラーの脱落も起きやすくなってしまう。
【0005】
また、発泡プラスチックに金属めっきを施して導電性皮膜を形成する方式では、良好な密着性を得ることが困難であった。その結果、僅かな衝撃や硬質の物体との接触でも当該めっき層が剥離しやすく、安定した電磁波シールド性能や帯電防止性能を得ることが困難となる。更に、脱落しためっき層等を構成する導電物質等が、他の電子部品の回路ショートの原因になる等の不具合も発生する可能性が高くなる。そして、発泡プラスチックの表面に導電層を形成する際に、導電性塗料を用いることも考えられる。ところが、導電性塗料の使用はコスト的に高価となり、且つ、均一な厚さの膜を三次元構造物の全体に形成することも困難である。
【0006】
そこで、発泡プラスチックに密着性が良好な状態で金属をめっきする方法として、特許文献1には、連続気泡性弾性樹脂体、導電性多孔質体及びその製造方法並びに電磁波シールド材が開示されている。実施例によれば、有機系アニオン界面活性剤を整泡剤として含むポリオール成分液(A液)とイソシアネート成分液(B液)とを、低圧注入機で注入発泡させた連続気泡性弾性樹脂体(セル膜を除去した発泡ポリウレタン等)に、めっきの表面調整剤としてのカチオン系表面活性剤を用いて該弾性樹脂体の外表面及び内表面に厚さ0.06μmの無電解ニッケルめっき層を形成している。そして、有機系アニオン界面活性剤を整泡剤として用いて発泡された連続気泡性弾性樹脂体に、カチオン系表面活性剤をめっきの表面調整剤として用いることにより、金属めっき層の密着性が良好になるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−293017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1が開示する技術は、反応性の2液を注入発泡させる、例えば発泡ポリウレタン等に対して用いるめっき技術である。この発泡ポリウレタンは軟質であり、オーディオ機器、カーナビゲーション機器、エンジン廻りに配置する制御機器等を対象として利用できるものではない。
【0009】
以上のことから分かるように、市場では、実用温度が100℃を超える耐熱性を備え、成型性に優れた樹脂の発泡成型体に金属皮膜を形成して導電性を付与した、種々の技術分野で使用可能な金属被覆発泡プラスチックに対する要求が存在していた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本件発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、融点が100℃を超える硬質発泡プラスチックに着目し、硬質発泡プラスチック成型体を金属で被覆した金属被覆発泡プラスチック及びその金属被覆発泡プラスチックの製造方法に想到したのである。
【0011】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチック: 本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックは、プラスチック成型体の表面に金属被覆層を備える金属被覆プラスチックにおいて、当該プラスチック成型体は、硬質発泡プラスチック成型体であることを特徴としている。
【0012】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記硬質発泡プラスチック成型体は、発泡ポリオレフィン系樹脂を用いて得られるものであることも好ましい。
【0013】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記発泡ポリオレフィン系樹脂は、融点が120℃以上のポリオレフィン系樹脂を、嵩密度30kg/m〜110kg/mとなるように予備発泡させた粒子を用いて、型内発泡成型法により成型したものであることも好ましい。
【0014】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記発泡ポリオレフィン系樹脂は、難燃性を備えるものであることも好ましい。
【0015】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記金属被覆発泡プラスチックの金属被覆層は、ニッケル、コバルト、パラジウム、銅、銀、金、白金、スズから選択される1種の金属成分又は2種以上の金属成分からなる合金であることも好ましい。
【0016】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記金属被覆発泡プラスチックの金属被覆層は、ホウ素、リン、チタニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タングステン、レニウム、タリウムから選択される1種又は2種以上の合金成分を含有することも好ましい。
【0017】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記金属被覆発泡プラスチックの硬質発泡プラスチック成型体と金属被覆層との間に、薄膜樹脂層を備えることも好ましい。
【0018】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記薄膜樹脂層は、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ビニル系樹脂から選択される1種又は2種以上を混合した樹脂成分を用いて構成したものであることも好ましい。
【0019】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックの製造方法1: 本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックの製造方法1は、以下の工程A及び工程Bを備えることを特徴としている。
【0020】
工程A:硬質発泡プラスチック成型体を得るためのプラスチック成型工程。
工程B:無電解めっき法により、当該硬質発泡プラスチック成型体の表面に金属被覆層を形成する金属めっき工程。
【0021】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックの製造方法2: 本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックの製造方法2は、以下の工程a〜工程dを備えることを特徴としている。
【0022】
工程a: 硬質発泡プラスチック成型体を得るためのプラスチック成型工程。
工程b: 硬質発泡プラスチック成型体の表面に薄膜樹脂層を形成する樹脂層形成工程。
工程c: フォトマスクを介して、金属成分の析出を行わせる薄膜樹脂層の箇所にのみ紫外線を照射するUV照射工程。
工程d: 無電解めっき法により、当該硬質発泡プラスチック成型体の表面に金属被覆層を形成する金属めっき工程。
【発明の効果】
【0023】
本件発明に係る金属被覆硬質発泡プラスチックは、硬質発泡プラスチック成型体に1種の金属成分又は2種以上の金属成分からなる合金皮膜を被覆したものであり、軽量でありながら導電性を備え、金属被覆層の種類によっては、装飾性を兼ね備えることもできる。そして、硬質発泡プラスチック成型体を発泡ポリオレフィン系樹脂で構成すれば、融点は120℃以上となる。また、難燃性を備えるものともできる。この金属被覆硬質発泡プラスチックは、硬質発泡プラスチック成型体に無電解めっきを施して金属被覆する製造方法を用いており、金属被覆層は硬質発泡プラスチックとの密着性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックの形態>
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックは、プラスチック成型体の表面に金属被覆層を備える金属被覆プラスチックにおいて、当該プラスチック成型体は、硬質発泡プラスチック成型体を用いることを特徴としている。背景技術で述べたように、絶縁体である樹脂に導電性や装飾性を付与するために、表面に金属層を形成することは、従来から実施されてきた。しかしながら、軽量化を達成することを目的として、発泡プラスチックを採用することが検討されてきたが、実用化は限定的であった。特に、硬質発泡プラスチック成型体の表面に金属被覆層を備えるものとすることは困難であり、後述する製造方法により、初めて工業的レベルでの生産が可能になるものである。
【0025】
硬質発泡プラスチック: ここで採用する硬質発泡プラスチックの樹脂組成には、特に制約はなく、オレフィン系樹脂やウレタン系樹脂等、予備発泡粒子を形成し、金型内に予備発泡粒子を充填して加熱融着させる型内発泡成型法を採用できる樹脂系のほとんどを対象とできる。しかし、本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記硬質発泡プラスチック成型体には、発泡ポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、オレフィン単量体を含有する樹脂であり、単量体の選択によって化学的な安定性や耐熱性等を調整できる。そして、エチレン含有量が1%〜10%のエチレン−プロピレンランダム重合体を用いれば、融点が125℃〜160℃程度で、成型性やその他の物性も好ましいものとなる。更に、ポリプロピレンの予備発泡粒子にポリエチレンの予備発泡粒子を5%〜20%混合して型内発泡成型したり、粒子径分布の異なる予備発泡粒子を用いれば、表面が平滑な硬質発泡ポリオレフィン系樹脂を得ることもできるなど、異なる要求特性への対応も容易である。
【0026】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記硬質発泡プラスチック成型体は、融点が120℃以上のポリオレフィン系樹脂を、嵩密度30kg/m〜110kg/mとなるように予備発泡させた粒子を用いて、型内発泡成型法により成型したものである。前述のように、発泡ポリオレフィン系樹脂は、特性範囲を広く設定できることを特徴としている。しかし、車載用途を念頭に置いた場合、砂漠等の炎天下では室内温度が100℃を超えることもあり、また、エンジン廻りへの設置も考慮すると、発泡ポリオレフィン系樹脂は融点が120℃以上のものを用いるのが好ましい。
【0027】
しかし、予備発泡粒子の嵩密度が30kg/mを下回ると、如何に加圧を大きくして型内発泡成型を実施したとしても、硬質発泡ポリオレフィン系樹脂に要求される機械強度を満足できない傾向が現れるため好ましくない。また、硬質発泡ポリオレフィン系樹脂の表面がよりポーラスになるため、めっき液等のしみ込みが多くなる一方洗浄が困難になり、残留しためっき液による金属被覆の腐食が発生する場合も見られるようになる。一方、嵩密度が110kg/mを超えてくると、発泡材と硬質材との差が小さくなり、硬質材の形状設計で満足できる特性が得られるなど、発泡剤を使用する意義が薄れてしまう。上記観点からは、嵩密度が40kg/m〜60kg/m程度の予備発泡粒子を使用するのが、より好ましい。
【0028】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記発泡ポリオレフィン系樹脂は、難燃性を備えるものである。本来ポリオレフィン系樹脂は、難燃性を備えていないものである。ところが、車載用の電子部品等を収納する筐体として用いたり、引掛装飾等に用いられる場合を考えると、安全性の観点から、難燃性は必須の要件になる。よって、難燃性樹脂を用いることで、樹脂の難燃性を向上させることも好ましい。しかし難燃性樹脂は、環境問題上の制約、価格の制約から、その使用は避けたい材料である。そこで、本件発明に係る硬質発泡ポリオレフィン系樹脂の難燃性の確保は、難燃性フィラーを混在させることによって達成するのが好ましい。この時の難燃性フィラーは、要求される難燃グレードによって適宜選択すればよく、カーボンパウダー、金属粉、金属酸化物粉、金属水酸化物粉等を用いることができる。
【0029】
金属被覆層: 本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記金属被覆発泡プラスチックの金属被覆層は、ニッケル、コバルト、パラジウム、銅、銀、金、白金、スズから選択される1種の金属成分又は2種以上の金属成分からなる合金で構成する。後述するように、本件発明では、無電解めっき法を用いて金属被覆層を形成することを基本としている。そして、金属被覆層を厚くするために電気めっき法を併用する場合であっても、硬質発泡プラスチックの表面を均一に、安定して金属被覆するには、めっきのつき廻り性が良好な金属種を選択するのが好ましい。そこで、硬質発泡プラスチックとの相性を考慮して、ニッケル、コバルト、パラジウム、銅、銀、金、白金、スズから選択される1種の金属成分又は2種以上の金属成分を採用した。
【0030】
これらの中からいずれを選択するかは、用途に沿って要求される特性を考慮して決定すればよい。電磁波シールド性能を重視するのであれば銅が最適であり、長期の信頼性を保証するのであれば、更にニッケル層を設けた構成とする。この時の金属被覆の厚さは、金属被覆の形成目的によって異なり、電磁波シールドを目的とする場合でも、0.1μm以上とすれば十分である。装飾が目的であれば、もっと薄くても構わない場合もある。一方、下地の硬質発泡プラスチック成型体の表面形状が目立たないものとするためには、必要最小厚さの金属被覆を備えるものとする。
【0031】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記金属被覆発泡プラスチックの金属被覆層は、ホウ素、リン、チタニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タングステン、レニウム、タリウムから選択される1種又は2種以上の合金成分を含有するものである。金属被覆発泡プラスチックの金属被覆層には、前述した電気特性や装飾性の他に、耐摩耗性や磁化特性等を考慮しなければならない場合も考えられる。そして、耐摩耗性に対する要求が強い場合には、ニッケルを選択してリンを合金成分として添加すれば、硬質の金属被覆層が得られる。しかし、バナジウムやタリウム等、人体に対して有害であるとされる合金成分の採用は控えるのが好ましい。なお、ここで断っておくが、無電解めっき法を用いれば、めっき液中に溶解している合金成分だけではなく、めっき液中に分散しているフィラーを共析させることも可能であるため、シリコンカーバイド、アルミナ、PTFE等の微粒子を用いて金属皮膜層の皮膜特性を調整することもできる。
【0032】
なお、以上に述べた金属被覆層は、前記構成成分の内から選択した異なる成分の層を複数層設けたものでもよい。かかる場合には、前記構成成分から選択した材質の第1層目の金属層を形成し、その後電気めっき、無電解めっきにより、第2層目以降の異なる材質の金属層の形成を行えばよい。
【0033】
薄膜樹脂層: 本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記金属被覆発泡プラスチックの硬質発泡プラスチック成型体と金属被覆層との間に、薄膜樹脂層を備えることも好ましい。前述したように、硬質発泡ポリオレフィン系樹脂の表面はポーラスであるため、めっき液等のしみ込みがあることを前提としなければならない。したがって、金属被覆層の腐食など、長期信頼性の阻害要因を排除するためには、硬質発泡プラスチック成型体と金属被覆層との間に、薄膜樹脂層を備える構成として、めっき液等のしみ込みを防止するのが好ましい。
【0034】
この薄膜樹脂層を形成する樹脂の種類は、硬質発泡ポリオレフィン系樹脂の表面に存在する微細な穴を塞げさえすれば、どのような樹脂を用いても構わない。ところが、本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記薄膜樹脂層は、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ビニル系樹脂から選択される1種又は2種以上を混合した樹脂成分を用いて構成したものを採用する。硬質発泡ポリオレフィン系樹脂の表面に存在する微細な穴を塞ぐために形成する薄膜樹脂層は、その用途を考えると、硬質発泡プラスチック成型体から容易に剥離するものであってはならない。したがって、良好な密着性を発揮する、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ビニル系樹脂から選択される1種又は2種以上を混合した樹脂成分を用いるのが好ましい。
【0035】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックにおいては、前記金属被覆層を必要部分にのみ形成したものとできる。即ち、硬質発泡プラスチック成型体が備える金属被覆層に対し、装飾用として模様を付与する場合、金属製ボルト等を用いた固定箇所で絶縁性が必要とされる場合等には、被覆金属層が不要な箇所が存在する。そこで、必要部分にのみ金属被覆層を備える形態とする。このように、必要部分にのみ金属被覆層を設ける方法は、後の製造方法で詳述する。
【0036】
<本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックの製造形態>
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックの製造方法1: 本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックの製造方法1は、以下の工程A及び工程Bを備える。この金属被覆発泡プラスチックの製造方法1は、硬質発泡プラスチックに直接金属被覆を施す方法である。以下、工程別に説明する。
【0037】
工程Aは、硬質発泡プラスチック成型体を得るためのプラスチック成型工程である。このプラスチック成型工程では、前述した硬質発泡プラスチック成型体に要求される特性に沿って、予備発泡粒子の材質や嵩密度、粒子径等を選択し、型内発泡成型法を用いれば硬質発泡プラスチックを作成できる。しかし、この硬質発泡プラスチックの製造方法は、型内発泡成型法に限定されるものではなく、公知のいずれの方法を用いても構わない。
【0038】
工程Bは、無電解めっき法により、当該硬質発泡プラスチック成型体の表面に金属被覆層を形成する金属めっき工程である。この金属めっき工程では、無電解めっき法で用いられる一般的なプロセスを用い、所望の金属を析出させる。例えば、電磁波シールド性能を発揮させることが目的であれば、無電解めっき法だけで所望の厚みとするのが、工程も単純で製造コストも低く好ましい。ところが、より厚い金属被覆層が要求される場合がある。この場合の金属被覆層は、無電解めっき法のみで形成する必要はない。一定の厚み以上の金属層で被覆する場合には、無電解法で導電性を付与できる金属(合金)層を形成した後に電気めっきを施すことも好ましい。係る場合、硬質発泡プラスチック内部へのめっき液の残留を少なくするためには、無電解めっきは導電性を得るために必要な最低限の厚さのポーラスな金属皮膜とし、十分水洗をした後に電気めっきを施すことが好ましい。
【0039】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックの製造方法2: 本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックの製造方法2は、以下の工程a〜工程dを備える。この金属被覆発泡プラスチックの製造方法2は、前記金属被覆発泡プラスチックの硬質発泡プラスチック成型体と金属被覆層との間に薄膜樹脂層を備える金属被覆発泡プラスチックを製造する方法である。以下、工程別に説明する。
【0040】
工程aは、硬質発泡プラスチック成型体を得るためのプラスチック成型工程であり、前述の金属被覆発泡プラスチックの製造方法1の工程Aに相当する。したがって、詳細な説明は重複するため省略する。
【0041】
工程bは、硬質発泡プラスチック成型体の表面に薄膜樹脂層を形成する樹脂層形成工程である。樹脂層形成工程では、前述したアクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ビニル系樹脂から選択される1種又は2種以上を混合した樹脂成分を有機溶剤等を用いてワニス化し、当該ワニスを硬質発泡プラスチック成型体の表面に塗布後、乾燥硬化させる。この時の塗布方法には特に制限はなく、刷子塗り、スプレー、印刷などの各種手法を採用できる。しかし、薄膜樹脂層で硬質発泡プラスチック成型体表面の微細な穴を確実に塞ぎ、塗膜厚さを均一にするためには、スプレー法、エッジコーター、バーコーター等を用いるのが好ましい。
【0042】
工程cは、フォトマスクを介して、金属成分の析出を行わせる薄膜樹脂層の箇所にのみ紫外線を照射するUV照射工程である。UV照射工程では、金属被覆層を形成する箇所にのみ透光が可能なフォトマスクを作成し、このフォトマスクを介して薄膜樹脂層に紫外線を照射する。このときに用いる紫外線源としては、短時間で紫外線処理をすませるためには高出力水銀灯を用いることが好ましい。例えば、実施例で用いた江東電気(株)製KOGLQ−600GS等である。そして、照射時間は、薄膜樹脂層の組成によって異なるため、予め実験を行って最適時間を求めておくことが好ましい。例えば、実施例で用いたウレタン系塗料の場合には、照射時間1分程度で効果が得られる。また、シクロオレフィンポリマーであっても、照射時間10分程度で効果が得られる。
【0043】
工程dは、無電解めっき法により、当該硬質発泡プラスチック成型体の表面に金属被覆層を形成する金属めっき工程であり、前述の金属被覆発泡プラスチックの製造方法1の工程Bに相当する。しかし、紫外線照射が行われた選択箇所にのみ金属を析出させる点で、工程Bとは異なる。そして、選択箇所のみに金属を析出させるために、工程Bの無電解めっき前の触媒付与処理とは異なる手法を採用している。具体的には、紫外線照射処理した硬質発泡プラスチック成型体をコンディショナーで処理した後、パラジウム触媒を付与し、還元性水溶液に浸漬する。その結果、紫外線を照射した箇所のパラジウム存在量が紫外線を照射していない箇所のパラジウム存在量よりも多くなり、紫外線照射された箇所にのみ金属が析出する。
【実施例1】
【0044】
この実施例1では、前述の「金属被覆発泡プラスチックの製造方法1」を用いて銅被覆発泡ポリプロピレンを製造した。以下、工程に沿って述べる。
【0045】
工程A: ここでは硬質発泡プラスチック成型材の作成を行った。具体的には、ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレンを選択し、嵩密度50±6kg/mで平均粒子径3mmの予備発泡粒子を金型に圧縮率160%で充填した。その後、金型を加熱して、内部温度が140℃になったところで冷却し、予備発泡粒子が融着した115mm×165mm×25mmサイズの硬質発泡ポリプロピレン成型材(以下、「試験板材」と称する。)を作成した。
【0046】
工程B: 実施例1では、試験板材に直接無電解銅めっきを施した。試験板材をコンディショナー(CLEANER−CONDITIONER 231:ローム・アンド・ハース社製)の50ml/l水溶液(25℃)で1分間浸漬処理した後に水洗し、その後Sn−Pd混合触媒(CATAPOSIT CATARYST 44:ローム・アンド・ハース社製)の30ml/l水溶液(40℃)に1分間浸漬処理した。浸漬処理後の試験板材は5%硫酸(40℃)に1分間浸漬処理した後、下記表1に示す組成に調整した無電解銅めっき浴に10分間浸漬して銅を析出させ、全面を銅で被覆した銅被覆発泡ポリプロピレンを得た。
【0047】
【表1】

【0048】
評価結果: 上記銅被覆発泡ポリプロピレンに対して、JIS K 5400に準拠して碁盤目試験を行ったところ、銅被覆層の被覆剥がれは5%であり、銅被覆の密着性は良好と判断できた。また、VCCI規格に準拠してシールド効果を測定したところ、20MHz〜1000MHzの周波数範囲において、良好なシールド効果を備えていることが分かった。図1に、「遮蔽材(素材)がない場合」を基準として、「金属めっきを施していない発泡ポリプロピレンで遮蔽した場合」と「実施例1の銅被覆発泡ポリポロピレンで遮蔽した場合」との比較を示す。
【実施例2】
【0049】
この実施例では、前述の「金属被覆発泡プラスチックの製造方法2」を用いてニッケル/銅の多層金属被覆発泡ポリプロピレンを製造した。以下、工程に沿って述べる。
【0050】
工程a: 実施例1の工程Aと同様である。
【0051】
工程b: 当該試験板材の表面に薄膜樹脂層を形成した。この薄膜樹脂層は、ウレタン塗料(SUウレタンプレサフA:関西ペイント株式会社製)を吹きつけ塗装し、乾燥、硬化させて形成した。
【0052】
工程c: 前記硬化後の薄膜樹脂層に対し紫外線照射を行った。この時の紫外線処理は、高出力低圧水銀灯(KOGLQ−600GS:江東電気(株)製、主波長253.7nm)を用い、水銀灯と試験板材との距離を30mmとして、試験板材の片面のみに1分間紫外線を照射した。
【0053】
工程d: この紫外線照射後の試験板材を、コンディショナー(CLEANER−CONDITIONER 231:ローム・アンド・ハース社製)の50ml/l水溶液(25℃)で1分間浸漬処理した。浸漬処理後の試験板材は塩化パラジウム濃度を0.05g/lとした水溶液(25℃)に1分間浸漬処理した後、次亜リン酸濃度を5g/lとした水溶液(25℃)に1分間浸漬し、その後は実施例1と同様にして無電解銅めっきを施し、一旦、銅被覆発泡ポリプロピレンとした。そして、この銅被覆発泡ポリプロピレンを、以下の表2に示す組成の無電解ニッケルめっき浴に5分間浸漬して銅層の上にニッケルを析出させ、ニッケル/銅の多層金属被覆発泡ポリプロピレンを得た。
【0054】
【表2】

【0055】
上記ニッケル/銅の多層金属被覆発泡ポリプロピレンでは、紫外線を照射した面にのみニッケル/銅の2層構造の多層金属層が形成されており、紫外線照射の有無による部分めっきが可能であった。そして、形成されたニッケル層の表面は光沢を備え、目視外観は良好であった。そして、このニッケル/銅の多層金属被覆発泡ポリプロピレンに対し、JIS K 5400に準拠して碁盤目試験を行ったところ、ニッケル/銅の多層金属被覆の被覆剥がれは0%であり、ニッケル/銅の多層金属被覆の硬質発泡ポリプロピレンに対する密着性は良好と判断できた。
【比較例】
【0056】
比較例では、実施例1で用いた予備発泡粒子に、導電性を持たせるためにカーボンパウダーを1.0%添加した他は、同一条件で成型した比較板材を用い、電気銅めっきを施した。具体的には、比較板材を以下の表3に示す組成の電気銅めっき浴に浸漬し、寸法安定性陽極(DSA)を対極として、直流10Aを5分間通電して銅を電解析出させ、銅被覆発泡ポリプロピレンを得た。
【0057】
【表3】

【0058】
上記銅被覆発泡ポリプロピレンに対して、JIS K 5400に準拠して碁盤目試験を行ったところ、銅被覆の被覆剥がれが30%あり、銅被覆の密着性は良好とは言えないものであった。
【0059】
[実施例と比較例との対比]
実施例で得られた金属被覆発泡ポリプロピレンは、金属被覆層である銅と硬質発泡ポリプロピレンとの密着性が良好であり、良好な電磁波シールド性能を備え、ニッケルめっきを施したものは光沢外観を備え、十分な装飾効果を発揮している。これに対し、比較例で得られた金属被覆発泡ポリプロピレンは、下地の硬質発泡ポリプロピレンと金属被覆である銅との密着性に難があり、高温雰囲気にさらされたり、機械的な外力が加わると金属被覆が剥離する危険性が高く、高信頼性が要求される用途に用いることは困難であると判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本件発明に係る金属被覆発泡プラスチックは、形成可能な金属被覆層のバリエーションも多く、所望のパターンを形成した金属被覆層とすることもできる。したがって、用途は、電磁波シールド性能、静電気の帯電防止性能等の電気特性と軽量化とを要求される用途に限らず、装飾性を要求される用途として、例えば、軽量化が要求される物品の収容ケース、カバン等にも好適である。更に、硬質発泡プラスチック成型体に難燃性を付与すれば、照明器具に用いられる反射板や装飾用建材等、更に広範囲な用途に展開が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1で作成した金属被覆発泡プラスチックのシールド効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック成型体の表面に金属被覆層を備える金属被覆プラスチックにおいて、
当該プラスチック成型体は、硬質発泡プラスチック成型体であることを特徴とする金属被覆発泡プラスチック。
【請求項2】
前記硬質発泡プラスチック成型体は、発泡ポリオレフィン系樹脂を用いて得られるものである請求項1に記載の金属被覆発泡プラスチック。
【請求項3】
前記硬質発泡プラスチック成型体は、融点が120℃以上のポリオレフィン系樹脂を、嵩密度30kg/m〜110kg/mとなるように予備発泡させた粒子を用いて、型内発泡成型法により成型したものである請求項2に記載の金属被覆発泡プラスチック。
【請求項4】
前記発泡ポリオレフィン系樹脂は、難燃性を備えるものである請求項2又は請求項3に記載の金属被覆発泡プラスチック。
【請求項5】
前記金属被覆発泡プラスチックの金属被覆層は、ニッケル、コバルト、パラジウム、銅、銀、金、白金、スズから選択される1種の金属成分又は2種以上の金属成分からなる合金である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の金属被覆発泡プラスチック。
【請求項6】
前記金属被覆発泡プラスチックの金属被覆層は、ホウ素、リン、チタニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タングステン、レニウム、タリウムから選択される1種又は2種以上の合金成分を含有する請求項5に記載の金属被覆発泡プラスチック。
【請求項7】
前記金属被覆発泡プラスチックの硬質発泡プラスチック成型体と金属被覆層との間に、薄膜樹脂層を備える請求項1〜請求項6のいずれかに記載の金属被覆発泡プラスチック。
【請求項8】
前記薄膜樹脂層は、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ビニル系樹脂から選択される1種又は2種以上を混合した樹脂成分を用いて構成したものである請求項7に記載の金属被覆発泡プラスチック。
【請求項9】
請求項1〜請求項6に記載の金属被覆発泡プラスチックの製造方法であって、以下の工程A及び工程Bを備えることを特徴とする金属被覆発泡プラスチック製造方法。
工程A:硬質発泡プラスチック成型体を得るためのプラスチック成型工程。
工程B:無電解めっき法により、当該硬質発泡プラスチック成型体の表面に金属被覆層を形成する金属めっき工程。
【請求項10】
請求項7又は請求項8に記載の金属被覆発泡プラスチックの製造方法であって、
以下の工程a〜工程dを備えることを特徴とする金属被覆発泡プラスチック製造方法。
工程a: 硬質発泡プラスチック成型体を得るためのプラスチック成型工程。
工程b: 硬質発泡プラスチック成型体の表面に薄膜樹脂層を形成する樹脂層形成工程。
工程c: フォトマスクを介して、金属成分の析出を行わせる薄膜樹脂層の箇所にのみ紫外線を照射するUV照射工程。
工程d: 無電解めっき法により、当該硬質発泡プラスチック成型体の表面に金属被覆層を形成する金属めっき工程。

【図1】
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【公開番号】特開2010−209222(P2010−209222A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57062(P2009−57062)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(502273096)株式会社関東学院大学表面工学研究所 (52)
【出願人】(000157049)関東化成工業株式会社 (12)
【出願人】(500480355)株式会社フォーム化成 (5)
【Fターム(参考)】