金属製中空柱状部材
【課題】従来の衝撃吸収部材は、稜線部を増やし断面力を向上させ、全体的な衝撃吸収エネルギー量の改善を図るものであるため、部分的に適用した場合、全体の強度バランスがくずれ、部材単体の衝撃吸収エネルギー吸収量を低減させるおそれがあった。そこで、本発明は、強度バランスを損なわずに衝撃吸収エネルギー量を向上させることを目的とする。
【解決手段】衝撃による圧潰部材の変形モードは、折れ曲がり座屈 < 複雑座屈 < 凹凸混合蛇腹状座屈 < 凹凸独立蛇腹状座屈 の順にエネルギー吸収量が多い。本発明は、金属製中空部材の稜線に線分状の凹み部をつけることにより、凹凸独立蛇腹状座屈させ、強度バランスを損なわずに衝撃吸収エネルギー量を増加する構造を見出した。
【解決手段】衝撃による圧潰部材の変形モードは、折れ曲がり座屈 < 複雑座屈 < 凹凸混合蛇腹状座屈 < 凹凸独立蛇腹状座屈 の順にエネルギー吸収量が多い。本発明は、金属製中空部材の稜線に線分状の凹み部をつけることにより、凹凸独立蛇腹状座屈させ、強度バランスを損なわずに衝撃吸収エネルギー量を増加する構造を見出した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体を構成するフレーム部材として使用する、鋼、アルミニウム、ステンレス、チタン等の金属製の薄肉中空柱状部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製造業のグローバル化による競争が激しく、CO2排出量およびコスト削減要求が著しい。しかし、原料コスト削減により製品の性能が悪くなることは、メーカーの信用失墜につながる可能性がある。特に筐体を構成するフレーム部材の性能悪化は安全性の面で避けなければならない。自動車分野では衝突安全性の維持と環境負荷低減のため、車体に搭載されるフレーム部材に超ハイテンを適用する等材料置換による改善が多く行われている。しかし、新材料の開発は長い時間を要するため、開発競争の著しい自動車分野での他社との材料置換による差別化は一時的に飽和する可能性がある。他の改善方法として、部材形状を最適化することが考えられる。この手法は開発期間短縮の観点で非常に優れており、過去に様々な検討が行われている。
【0003】
本発明に関連する先行技術として特許文献1に、軸方向の少なくとも一部における横断面形状が複数の頂点を有する閉断面であって、内部へ向かって凹んだ溝部を形成する衝撃吸収部材が開示されている。
また、特許文献2に中空矩形断面を有するアルミニウム合金押出部材からなるエネルギー吸収部材において、壁面部の外側に矩形断面の凸部を有する部材が記載されている。
さらに、特許文献3には、略矩形断面形状をなす自動車のフロントサイドフレーム構造として、側面に軸線方向に延在する、内側に凸状となるビードや、外側に凸状となるビードが形成されている構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-207724号公報
【特許文献2】特開2002-12165号公報
【特許文献3】特開平8-108863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記衝撃吸収部材に関する先行技術は、いずれも稜線部を増やし圧縮変形による部材の単位長さ当たりの断面力を凹凸部形成により向上させ全体的な衝撃吸収エネルギー量の改善を図るものであるため、強度バランスの観点から全体的に上記構造を形成する必要がある。部分的に適用した場合、全体の強度バランスがくずれ、予期していない箇所から変形し逆に部材単体の衝撃吸収エネルギー量を低減させるおそれがある。なお、断面力とは、圧縮方向への変形付与で発生する圧縮方向の反力を指す。強度バランスとは、部材全体を複数の断面形状を有する部分部材の集合と捉え、各部分部材間の強度の差異のことであり、衝撃荷重の負荷状況により衝撃吸収エネルギー量を最大化する最適な強度の差異が存在する。強度とは各部分部材の有する曲げ剛性および耐座屈のための最大耐荷重を指す。
本発明の目的は、強度バランスを損なわずに衝撃吸収エネルギー量を向上させる技術とその適用部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的に従い、本発明者らは圧潰部材の変形モードと衝撃吸収エネルギー量の関係を調査した結果、座屈には折れ曲がり座屈モードと複雑座屈モードと蛇腹状座屈モードがあり、さらに蛇腹状座屈モードには、凹凸混合蛇腹状座屈と凹凸独立蛇腹状座屈の2つの変形モードがあることを見出した。中でも凹凸独立蛇腹状座屈モードは単位質量あたりの衝撃吸収エネルギー量が大きいことがわかった。それぞれの変形モードの衝撃吸収エネルギー量の順番は以下のとおりである。
折れ曲がり座屈 < 複雑座屈 < 凹凸混合蛇腹状座屈 < 凹凸独立蛇腹状座屈
【0007】
つまり、衝撃吸収部材が凹凸独立蛇腹状座屈をすれば、その吸収エネルギーが大きくなるため、強度バランスを損なわずに衝撃吸収エネルギー量を増加させることができる。そこで、本発明者らは、金属製中空柱状部材の衝突解析を繰り返し、金属製中空部材の稜線に線分状の凹み部をつけることにより、衝撃時の座屈を凹凸独立蛇腹状座屈モードに誘導できることを見出し、本発明を成すに至った。その要旨は以下のとおりである。
【0008】
(1)略多角形の閉断面からなる金属製中空柱状部材であって、少なくとも1つの稜線部に、少なくとも1つの線分状の凹み部を設置し、該凹み部が稜線方向または稜線に垂直な方向に形成されていないことを特徴とする金属製中空柱状部材。
【0009】
(2)前記線分状の凹み部が稜線方向となす角が20°〜70°の範囲で形成されていることを特徴とする(1)に記載の金属製中空柱状部材。
【0010】
(3)複数の前記線分状の凹み部が、平行に形成されていることを特徴とする(1)および(2)に記載の金属製中空柱状部材。
【0011】
(4)前記閉断面が略四角形であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の金属製中空柱状部材。
【0012】
(5)前記金属製中空柱状部材が、その稜線に平行なフランジ部を有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の金属製中空柱状部材。
【0013】
(6)前記金属製中空柱状部材が自動車用の衝撃吸収部材であることを特徴とする(1)〜(5)の何れか1項に記載の金属製中空柱状部材。
【0014】
なお、本発明で、略多角形とは、複数の線分で近似表現できる閉じた平面図形をいう。即ち、曲率を有する平面図形も、極短い線分で近似表現できるため、あらゆる平面図形を表現できる。また、近似表現には、同一表現(合同図形)も含むものとする。従って、例えば略四角形とは、4つの線分で近似表現される閉じた平面図形をさし、正方形や矩形も含むものである。
略多角形の閉断面からなる中空の金属製柱状部材とは、略多角形の断面形状を有する金属製の中空柱状部材をさす。
稜線とは、柱状部材の閉断面をなす略多角形の頂点が、柱状部材の長手方向に連続的になす柱状部材の辺をさし、稜線部とは、その稜線の周辺部をさす。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、強度バランスを損なわずに衝撃吸収エネルギー量を向上させる技術とその適用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一例である中空柱状部材を模式的に示す説明図である。
【図2】変形モードのひとつである折れ曲がり座屈の説明図である。
【図3】変形モードのひとつである複雑座屈の説明図である。
【図4】変形モードのひとつである凹凸混合蛇腹状座屈の説明図である。
【図5】変形モードのひとつである凹凸独立蛇腹状座屈の説明図である。
【図6】表1の寸法の部材の単位質量あたりの衝撃吸収エネルギー量の比較図である。
【図7】凹凸混合蛇腹状座屈モードおよび凹凸独立蛇腹状座屈モードの単位体積あたりの衝撃吸収エネルギー量の履歴である。
【図8】凹凸混合蛇腹状座屈モードおよび凹凸独立蛇腹状座屈モードの説明図である。
【図9】凹凸混合蛇腹状座屈モードの稜線部の変形についての断面模式図である。
【図10】凹凸独立蛇腹状座屈モードの稜線部の変形についての断面模式図である。
【図11】斜めビードの設置角度の説明図である。
【図12】実施例部材(部材I、II)の断面形状および寸法の説明図である。(四角形断面の部材)
【図13】四角形断面の薄肉中空柱状部材での斜めビードの衝撃吸収エネルギー量への影響を示す比較図である。
【図14】実施例の一つである部材(部材III 、V)の断面形状および寸法の説明図である。(2箇所の稜線部の外側にそれぞれフランジ部ありの四角形断面を有する部材)
【図15】実施例の一つである部材(部材IV、VI)の断面形状および寸法の説明図である。(対向する2辺の間の外側にそれぞれフランジ部ありの四角形断面を有する部材)
【図16】フランジを有する四角形断面の薄肉中空柱状部材での斜めビードの衝撃吸収エネルギー量への影響を示す比較図である。
【図17】実施例の一つである部材(部材VII 、VIII)の断面形状および寸法の説明図である。(六角形断面の部材)
【図18】六角形断面の薄肉中空柱状部材での斜めビードの衝撃吸収エネルギー量への影響を示す比較図である。
【図19】各多角形断面を有する薄肉中空柱状部材の単位質量あたりの衝撃吸収エネルギー量の比較図である。
【図20】ビードと稜線がなす角と単位質量あたりの衝撃吸収エネルギー量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明について、添付図面を参照しながら説明する。
まず、(1)〜(4)に係る本発明について説明する。
優れた衝撃吸収部材とは、単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー(対象部材を含む構造体の衝突時に対象部材の衝撃吸収エネルギーを対象部材の質量で除した値)が大きいことを利用した衝撃エネルギーを吸収するための部材のことである。単位質量当たりの衝撃吸収エネルギーを向上させるためには、衝突中の変形箇所を衝撃吸収部材に集中させ、かつ部材に発生するひずみの総量を増大させることが重要である。前者は構造体全体の強度バランスにより具体化され、後者は単位長さ当たりの断面力を向上させることに相当する。これらは、部材単体の材料および変形モードに大きく依存する。
【0018】
前述したように、変形モードには全部で4つあり、下記のような関係があることを本発明者らは衝突解析により見出した。
折れ曲がり座屈 < 複雑座屈 < 凹凸混合蛇腹状座屈 < 凹凸独立蛇腹状座屈
折れ曲がり座屈は、部材全体中の一部に変形が集中し他の部分は変形しないため、部材全体が変形せず、大きな衝撃吸収エネルギーは確保できない(図2)。
【0019】
複雑座屈は、略多角形の稜線間の長さに対し板厚が極めて小さい場合に見られる変形モードである。蛇腹状の規則的かつ変形量の大きい変形モードではないため、大きな衝撃吸収エネルギーは確保できない(図3)。
【0020】
凹凸混合蛇腹状座屈は、略多角形の稜線間の長さに対し板厚が比較的大きい場合に見られる変形モードである。蛇腹状の規則的かつ変形量の大きい変形モードであるため、大きな衝撃吸収エネルギーが確保できる(図4)。
【0021】
凹凸独立蛇腹状座屈は、凹凸混合蛇腹状座屈と同様、略多角形の稜線間の長さに対し板厚が比較的大きい場合に見られる変形モードである。蛇腹状の規則的かつ変形量が極めて大きい変形モードであるため、極めて大きい衝撃吸収エネルギーが確保できる(図5)。
【0022】
なお、凹凸混合蛇腹状座屈および凹凸独立蛇腹状座屈とは、蛇腹状に座屈する場合のある断面での変形モードを指し、前者は同一断面に山と谷が混在すること、後者は同一断面に山と谷が混在しないことをいう(図8)。
【0023】
本発明者らは、正N角形断面を有する柱状部材の、稜線間の長さと板厚の比を同一とした複数の金属製中空柱状部材を軸圧潰衝突解析し、頂角あたりの衝撃吸収エネルギー量を比較した。稜線間の長さと板厚の比を同一としているため、稜線間の長さが一定ならば総頂角数と質量は比例する。その結果、正方形が最も単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量に優れることを見出した(図19)。頂角数が多いほど、すなわち円に近づくほど頂角が負担する衝撃荷重が分散され座屈し易くなり変形が小さく分散する。その結果、衝撃吸収エネルギーが小さくなっていると考えられる。三角形は衝撃荷重を支えるべき頂角数が少なすぎるため折れ曲がり座屈を誘発し、その結果、衝撃吸収エネルギーが小さくなっていると考えられる。
【0024】
図6は、50mm角の断面正方形、長さ300mmで、板厚を部材Aは0.6mm、部材Bは1.0mm、部材Cは1.4mmである薄肉中空柱状部材の落重試験解析の結果である。150 mm 圧潰時の単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー吸収量E/M [J/kg] を比較している。解析条件として重量を350 kg とした剛体壁を軸方向かつ圧縮方向に初速5 m/sで衝突させている。蛇腹状座屈発生により部材Bと部材Cは部材Aに比べ大きな衝撃吸収エネルギー量を確保していることが確認できる。
【0025】
また、図7に部材Bおよび部材Cの衝撃吸収エネルギー量の履歴と変形図を示す。横軸は圧潰量、縦軸は単位質量あたりの衝撃吸収エネルギー量E/M [J/kg] である。部材Bはある圧潰量(図中の点線部)から、部材Cに比べ衝撃吸収エネルギーの増分量が減少していることが確認できる。また変形図より部材Cは凹凸独立モードの蛇腹状座屈を維持するのに対し、部材Bは最初凹凸独立モードの蛇腹状座屈であるが、途中から凹凸混合モードに変化していることが確認できる。図7中の点線部は部材Bの変形モードが凹凸独立から凹凸混合に変化した点であると考えられる。このことから凹凸独立蛇腹状座屈モードを継続することで極めて大きな衝撃吸収エネルギーが確保できることがわかる。
【0026】
本発明者らは変形モードの詳細分析を実施した結果、衝突直後の部材のある断面で凹み部が各稜線間で生じる場合の稜線の変形モードにより凹凸混合蛇腹状座屈または凹凸独立蛇腹状座屈に分岐することを見出した。すなわち、各稜線部が各断面の重心を含み線対称に倒れ込む場合凹凸混合蛇腹状座屈に(図9)、風車状に倒れ込む場合凹凸独立蛇腹状座屈に(図10)分岐する。すなわち、ねじりの力を継続して付与し、図10に示した稜線部の風車状の倒れ込みを誘発することで、極めて大きい単位質量当たりの衝突吸収エネルギーを確保できることを見出した。そこで、本発明者らはそのねじり力を発生させるメカニズムとして稜線部に線分状の凹み部(斜めビード)を設置することを考案した。
【0027】
線分状の凹み部は、中空柱状部材の複数ある稜線のうち、少なくとも1つ、望ましくは全ての稜線に、また、各稜線上には少なくとも1つ設置されることが望ましい。
【0028】
なお、本発明は稜線部の倒れ込みモード制御のための一仕組みであり、略四角形に限らず略多角形にも適用できる。斜めビードはねじり力発生のための仕組みであり、設置角度(図11中のθ)は0°または90°はねじり力が発生しない角度であるため避けなければならない。好ましくは20°〜70°、さらに好ましくは30°〜60°とすることが望ましい。また、斜めビードは衝撃吸収エネルギー部材の稜線部のうち少なくとも1つ、望ましくは複数(最も望ましいのは全数)の稜線部に設置することが望ましい。斜めビードの角度の方向はねじり方向を統一するため同じとし、複数の斜めビードは、互いに平行(概ね平行でよく、各斜めビード間の角度差は±20°程度は許容される)となるよう設置することが望ましい。図20はθを10°、20°‥、90°と変更した場合の略四角形の金属製中空柱状部材の軸圧潰衝突解析の結果であり、20°〜70°の範囲で発生したねじり力により150 mm 圧潰時の衝撃吸収エネルギーが向上していることが確認できる。
【0029】
斜めビードの幅、長さ、深さは、特に限定しない。作業性等の観点から、斜めビードの幅は、隣接する面の幅の半分以下が望ましい。また、長さ、深さは、中空柱状部材の形状から決定されるが、概ね隣接する面の幅の1/4以下の長さとなるよう、長さ、深さを決定すればよい。また、ほぼ真っ直ぐな凹みでよく、本発明では、これらの形状を以って線分状という。
【0030】
つぎに、(5)に係る本発明について説明する。
閉断面の中空柱状部材を製造するとき、フランジ部を有する2つの部材を接合して製造する場合がある(図14、図15にその断面の例を示す)。斜めビード設置による単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー向上はフランジ部を有する薄肉中空柱状部材においても適用可能と考えられる。斜めビード設置による凹凸独立蛇腹状座屈を誘発し、単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量の向上だけでなく、フランジ部を有すると衝突後ねじれながら座屈するのに必要なねじりモーメントを増加させることにより、変形に対する対抗力を高め、衝撃吸収能を向上させることができると考えられる。
【0031】
さらに通常の閉断面を有する部材では、部材が蛇腹状に座屈する際、フランジ部も同様に変形し、その変形形態は単純な曲げのみであるのに対し、斜めビード付与によりねじりを付加すると、フランジ部に曲げだけでなくせん断変形も生じるため、フランジ部のエネルギー吸収量を向上させることができる。通常、あまり衝撃吸収能に寄与しないフランジ部をねじりを付加することにより有効に活用できる。
【0032】
なお、フランジ部を付与することにより単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量の向上が期待できるが、フランジ部が大きすぎる場合は、小さな座屈を繰り返すような蛇腹状変形をせず折れ曲がりによる全体座屈を引き起こしやすくなる。また、フランジ部が小さすぎると接合が困難となり接合部が弱くなるおそれがある。上記の知見に従い、接合部の弱化を防ぐためフランジ部の長さは板厚をt[mm]としたとき4√t以上―、全体座屈を起こし難くするためフランジ部の長さは板厚の40√t以下とすることが望ましい。
【0033】
次に、(6)に係る本発明について説明する。
自動車分野では、衝突安全性能のいっそうの向上、燃費向上のためのいっそうの車体軽量化、グローバル展開に向けた多くの車種の開発期間短縮といった多く課題に対し、多くの設計者、研究者が取り組んでいる。
【0034】
衝突安全性能関係において、日本では国連統一基準(ECE規則)R94のオフセット衝突時の乗員保護と同等の基準が制定され、2007年の新型乗用車から適用になっている。また2.5t以下の商用車にも適用が拡大されている。米国では2009年からFMVSS214に32[km/h]ポール側突の追加が計画されている。FMVSS301が改正され80[km/h]オフセット後突が2006年から段階的に適用される。
【0035】
燃費関係において、日本ではエネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)の改正により、2015年度を目標達成年度とした「重量車燃費基準」が策定され、2006年4月から施行される。米国では、連邦は2008−2011年式の小型トラックのCAFEシステムに関する改正案を発表した。連邦・カリフォルニア州両方において、次期規制強化が議論されている。
グローバル展開に関しては、自動車の輸出量は近年増加の一途をたどっており、2001年と2005年を比較しても約22%と急激に増加している。日本のメーカーのロシア進出等、今後海外生産が国内生産を上回ることが予想される。
【0036】
以上のような背景から、急ピッチで進む設計期間の短縮、車体軽量化、衝突安全性の向上のために、本発明は斜めビード付与のみにより衝突安全性向上が見込まれるため、設計者の負担を削減、車体の軽量化にも寄与できると考えられる。自動車の衝突時に動的な荷重が負荷される部材は数多くあるが、特に前面衝突時の衝撃吸収エネルギー量に大きく寄与するフロントサイドメンバ、または後面衝突時の衝撃吸収エネルギー量に大きく寄与するリアサイドメンバの設計時に本発明は大きく貢献できると考えられる。
【実施例】
【0037】
実施例を参照しながら、本発明の効果を説明する。
本発明者らは、図12に示す断面形状を有する四角形断面の薄肉中空柱状部材Iと、部材Iの衝突側端部から15mmの位置に角度45°とした斜めビードを稜線部に設置した部材IIに対し衝撃吸収エネルギー吸収量を調査した。両部材とも鋼製(JSC590Y鋼)とし、長さは300 mm、厚さtは1.0 mm、および全角部に∞ mm−1の曲率が付与されている。重量を350 kgとした剛体壁を軸方向かつ圧縮方向に初速5 m/sで衝突させたときの単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー吸収量を求めた。斜めビード付与による単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量の向上が図13から確認できる。
【0038】
また本発明者らは、四角形断面の部材にフランジ部を付与した2種類の薄肉中空柱状部材III 、IVに対し衝撃吸収エネルギー吸収量を調査した。III 、IVの断面形状の寸法を、それぞれ図14、図15に示す。両部材とも鋼製(JSC590Y鋼)とし、長さは300 mm、厚さtは1.0 mm、および全角部に∞ mm−1の曲率が付与されている。重量を350 kgとした剛体壁を軸方向かつ圧縮方向に初速5 m/sで衝突させたときの単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー吸収量を求めた。さらに衝突側端部から15mmの位置に角度を45°とした斜めビードを、フランジを共有しない稜線部に設置した部材V、VIで同様の衝突解析を実施し比較した(図16)。図16よりフランジ部を有する部材で、斜めビード設置による単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量の向上が確認できる。
【0039】
また本発明者らは、六角形断面の薄肉中空柱状部材VIIに対し衝撃吸収エネルギー吸収量を調査した。その断面形状の寸法を、図17に示す。両部材とも鋼製(JSC590Y鋼)とし、長さは300 mm、厚さtは1.0 mm、および全角部に∞ mm−1の曲率が付与されている。重量を350 kgとした剛体壁を軸方向かつ圧縮方向に初速5 m/sで衝突させたときの単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー吸収量を求めた。さらに衝突側端部から15mmの位置に角度を45°とした斜めビードを稜線部に付与した部材VIIIで同様の衝突解析を実施し比較した(図18)。図18よりフランジ部を有する部材で、斜めビード付与により単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量の向上が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、中空柱状部材の衝撃による座屈モードから、吸収エネルギー量の大きい凹凸独立蛇腹座屈モードを見出し、簡便で、且つ確実な方法で、衝突による座屈時に当該モードに誘導することが可能となった。そのため、本発明は、自動車等の安全性を更に高めた衝撃吸収部材として利用可能であることはもちろんのこと、一般産業機械や建築物等の衝撃吸収部材として広く利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体を構成するフレーム部材として使用する、鋼、アルミニウム、ステンレス、チタン等の金属製の薄肉中空柱状部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製造業のグローバル化による競争が激しく、CO2排出量およびコスト削減要求が著しい。しかし、原料コスト削減により製品の性能が悪くなることは、メーカーの信用失墜につながる可能性がある。特に筐体を構成するフレーム部材の性能悪化は安全性の面で避けなければならない。自動車分野では衝突安全性の維持と環境負荷低減のため、車体に搭載されるフレーム部材に超ハイテンを適用する等材料置換による改善が多く行われている。しかし、新材料の開発は長い時間を要するため、開発競争の著しい自動車分野での他社との材料置換による差別化は一時的に飽和する可能性がある。他の改善方法として、部材形状を最適化することが考えられる。この手法は開発期間短縮の観点で非常に優れており、過去に様々な検討が行われている。
【0003】
本発明に関連する先行技術として特許文献1に、軸方向の少なくとも一部における横断面形状が複数の頂点を有する閉断面であって、内部へ向かって凹んだ溝部を形成する衝撃吸収部材が開示されている。
また、特許文献2に中空矩形断面を有するアルミニウム合金押出部材からなるエネルギー吸収部材において、壁面部の外側に矩形断面の凸部を有する部材が記載されている。
さらに、特許文献3には、略矩形断面形状をなす自動車のフロントサイドフレーム構造として、側面に軸線方向に延在する、内側に凸状となるビードや、外側に凸状となるビードが形成されている構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-207724号公報
【特許文献2】特開2002-12165号公報
【特許文献3】特開平8-108863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記衝撃吸収部材に関する先行技術は、いずれも稜線部を増やし圧縮変形による部材の単位長さ当たりの断面力を凹凸部形成により向上させ全体的な衝撃吸収エネルギー量の改善を図るものであるため、強度バランスの観点から全体的に上記構造を形成する必要がある。部分的に適用した場合、全体の強度バランスがくずれ、予期していない箇所から変形し逆に部材単体の衝撃吸収エネルギー量を低減させるおそれがある。なお、断面力とは、圧縮方向への変形付与で発生する圧縮方向の反力を指す。強度バランスとは、部材全体を複数の断面形状を有する部分部材の集合と捉え、各部分部材間の強度の差異のことであり、衝撃荷重の負荷状況により衝撃吸収エネルギー量を最大化する最適な強度の差異が存在する。強度とは各部分部材の有する曲げ剛性および耐座屈のための最大耐荷重を指す。
本発明の目的は、強度バランスを損なわずに衝撃吸収エネルギー量を向上させる技術とその適用部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的に従い、本発明者らは圧潰部材の変形モードと衝撃吸収エネルギー量の関係を調査した結果、座屈には折れ曲がり座屈モードと複雑座屈モードと蛇腹状座屈モードがあり、さらに蛇腹状座屈モードには、凹凸混合蛇腹状座屈と凹凸独立蛇腹状座屈の2つの変形モードがあることを見出した。中でも凹凸独立蛇腹状座屈モードは単位質量あたりの衝撃吸収エネルギー量が大きいことがわかった。それぞれの変形モードの衝撃吸収エネルギー量の順番は以下のとおりである。
折れ曲がり座屈 < 複雑座屈 < 凹凸混合蛇腹状座屈 < 凹凸独立蛇腹状座屈
【0007】
つまり、衝撃吸収部材が凹凸独立蛇腹状座屈をすれば、その吸収エネルギーが大きくなるため、強度バランスを損なわずに衝撃吸収エネルギー量を増加させることができる。そこで、本発明者らは、金属製中空柱状部材の衝突解析を繰り返し、金属製中空部材の稜線に線分状の凹み部をつけることにより、衝撃時の座屈を凹凸独立蛇腹状座屈モードに誘導できることを見出し、本発明を成すに至った。その要旨は以下のとおりである。
【0008】
(1)略多角形の閉断面からなる金属製中空柱状部材であって、少なくとも1つの稜線部に、少なくとも1つの線分状の凹み部を設置し、該凹み部が稜線方向または稜線に垂直な方向に形成されていないことを特徴とする金属製中空柱状部材。
【0009】
(2)前記線分状の凹み部が稜線方向となす角が20°〜70°の範囲で形成されていることを特徴とする(1)に記載の金属製中空柱状部材。
【0010】
(3)複数の前記線分状の凹み部が、平行に形成されていることを特徴とする(1)および(2)に記載の金属製中空柱状部材。
【0011】
(4)前記閉断面が略四角形であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の金属製中空柱状部材。
【0012】
(5)前記金属製中空柱状部材が、その稜線に平行なフランジ部を有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の金属製中空柱状部材。
【0013】
(6)前記金属製中空柱状部材が自動車用の衝撃吸収部材であることを特徴とする(1)〜(5)の何れか1項に記載の金属製中空柱状部材。
【0014】
なお、本発明で、略多角形とは、複数の線分で近似表現できる閉じた平面図形をいう。即ち、曲率を有する平面図形も、極短い線分で近似表現できるため、あらゆる平面図形を表現できる。また、近似表現には、同一表現(合同図形)も含むものとする。従って、例えば略四角形とは、4つの線分で近似表現される閉じた平面図形をさし、正方形や矩形も含むものである。
略多角形の閉断面からなる中空の金属製柱状部材とは、略多角形の断面形状を有する金属製の中空柱状部材をさす。
稜線とは、柱状部材の閉断面をなす略多角形の頂点が、柱状部材の長手方向に連続的になす柱状部材の辺をさし、稜線部とは、その稜線の周辺部をさす。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、強度バランスを損なわずに衝撃吸収エネルギー量を向上させる技術とその適用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一例である中空柱状部材を模式的に示す説明図である。
【図2】変形モードのひとつである折れ曲がり座屈の説明図である。
【図3】変形モードのひとつである複雑座屈の説明図である。
【図4】変形モードのひとつである凹凸混合蛇腹状座屈の説明図である。
【図5】変形モードのひとつである凹凸独立蛇腹状座屈の説明図である。
【図6】表1の寸法の部材の単位質量あたりの衝撃吸収エネルギー量の比較図である。
【図7】凹凸混合蛇腹状座屈モードおよび凹凸独立蛇腹状座屈モードの単位体積あたりの衝撃吸収エネルギー量の履歴である。
【図8】凹凸混合蛇腹状座屈モードおよび凹凸独立蛇腹状座屈モードの説明図である。
【図9】凹凸混合蛇腹状座屈モードの稜線部の変形についての断面模式図である。
【図10】凹凸独立蛇腹状座屈モードの稜線部の変形についての断面模式図である。
【図11】斜めビードの設置角度の説明図である。
【図12】実施例部材(部材I、II)の断面形状および寸法の説明図である。(四角形断面の部材)
【図13】四角形断面の薄肉中空柱状部材での斜めビードの衝撃吸収エネルギー量への影響を示す比較図である。
【図14】実施例の一つである部材(部材III 、V)の断面形状および寸法の説明図である。(2箇所の稜線部の外側にそれぞれフランジ部ありの四角形断面を有する部材)
【図15】実施例の一つである部材(部材IV、VI)の断面形状および寸法の説明図である。(対向する2辺の間の外側にそれぞれフランジ部ありの四角形断面を有する部材)
【図16】フランジを有する四角形断面の薄肉中空柱状部材での斜めビードの衝撃吸収エネルギー量への影響を示す比較図である。
【図17】実施例の一つである部材(部材VII 、VIII)の断面形状および寸法の説明図である。(六角形断面の部材)
【図18】六角形断面の薄肉中空柱状部材での斜めビードの衝撃吸収エネルギー量への影響を示す比較図である。
【図19】各多角形断面を有する薄肉中空柱状部材の単位質量あたりの衝撃吸収エネルギー量の比較図である。
【図20】ビードと稜線がなす角と単位質量あたりの衝撃吸収エネルギー量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明について、添付図面を参照しながら説明する。
まず、(1)〜(4)に係る本発明について説明する。
優れた衝撃吸収部材とは、単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー(対象部材を含む構造体の衝突時に対象部材の衝撃吸収エネルギーを対象部材の質量で除した値)が大きいことを利用した衝撃エネルギーを吸収するための部材のことである。単位質量当たりの衝撃吸収エネルギーを向上させるためには、衝突中の変形箇所を衝撃吸収部材に集中させ、かつ部材に発生するひずみの総量を増大させることが重要である。前者は構造体全体の強度バランスにより具体化され、後者は単位長さ当たりの断面力を向上させることに相当する。これらは、部材単体の材料および変形モードに大きく依存する。
【0018】
前述したように、変形モードには全部で4つあり、下記のような関係があることを本発明者らは衝突解析により見出した。
折れ曲がり座屈 < 複雑座屈 < 凹凸混合蛇腹状座屈 < 凹凸独立蛇腹状座屈
折れ曲がり座屈は、部材全体中の一部に変形が集中し他の部分は変形しないため、部材全体が変形せず、大きな衝撃吸収エネルギーは確保できない(図2)。
【0019】
複雑座屈は、略多角形の稜線間の長さに対し板厚が極めて小さい場合に見られる変形モードである。蛇腹状の規則的かつ変形量の大きい変形モードではないため、大きな衝撃吸収エネルギーは確保できない(図3)。
【0020】
凹凸混合蛇腹状座屈は、略多角形の稜線間の長さに対し板厚が比較的大きい場合に見られる変形モードである。蛇腹状の規則的かつ変形量の大きい変形モードであるため、大きな衝撃吸収エネルギーが確保できる(図4)。
【0021】
凹凸独立蛇腹状座屈は、凹凸混合蛇腹状座屈と同様、略多角形の稜線間の長さに対し板厚が比較的大きい場合に見られる変形モードである。蛇腹状の規則的かつ変形量が極めて大きい変形モードであるため、極めて大きい衝撃吸収エネルギーが確保できる(図5)。
【0022】
なお、凹凸混合蛇腹状座屈および凹凸独立蛇腹状座屈とは、蛇腹状に座屈する場合のある断面での変形モードを指し、前者は同一断面に山と谷が混在すること、後者は同一断面に山と谷が混在しないことをいう(図8)。
【0023】
本発明者らは、正N角形断面を有する柱状部材の、稜線間の長さと板厚の比を同一とした複数の金属製中空柱状部材を軸圧潰衝突解析し、頂角あたりの衝撃吸収エネルギー量を比較した。稜線間の長さと板厚の比を同一としているため、稜線間の長さが一定ならば総頂角数と質量は比例する。その結果、正方形が最も単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量に優れることを見出した(図19)。頂角数が多いほど、すなわち円に近づくほど頂角が負担する衝撃荷重が分散され座屈し易くなり変形が小さく分散する。その結果、衝撃吸収エネルギーが小さくなっていると考えられる。三角形は衝撃荷重を支えるべき頂角数が少なすぎるため折れ曲がり座屈を誘発し、その結果、衝撃吸収エネルギーが小さくなっていると考えられる。
【0024】
図6は、50mm角の断面正方形、長さ300mmで、板厚を部材Aは0.6mm、部材Bは1.0mm、部材Cは1.4mmである薄肉中空柱状部材の落重試験解析の結果である。150 mm 圧潰時の単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー吸収量E/M [J/kg] を比較している。解析条件として重量を350 kg とした剛体壁を軸方向かつ圧縮方向に初速5 m/sで衝突させている。蛇腹状座屈発生により部材Bと部材Cは部材Aに比べ大きな衝撃吸収エネルギー量を確保していることが確認できる。
【0025】
また、図7に部材Bおよび部材Cの衝撃吸収エネルギー量の履歴と変形図を示す。横軸は圧潰量、縦軸は単位質量あたりの衝撃吸収エネルギー量E/M [J/kg] である。部材Bはある圧潰量(図中の点線部)から、部材Cに比べ衝撃吸収エネルギーの増分量が減少していることが確認できる。また変形図より部材Cは凹凸独立モードの蛇腹状座屈を維持するのに対し、部材Bは最初凹凸独立モードの蛇腹状座屈であるが、途中から凹凸混合モードに変化していることが確認できる。図7中の点線部は部材Bの変形モードが凹凸独立から凹凸混合に変化した点であると考えられる。このことから凹凸独立蛇腹状座屈モードを継続することで極めて大きな衝撃吸収エネルギーが確保できることがわかる。
【0026】
本発明者らは変形モードの詳細分析を実施した結果、衝突直後の部材のある断面で凹み部が各稜線間で生じる場合の稜線の変形モードにより凹凸混合蛇腹状座屈または凹凸独立蛇腹状座屈に分岐することを見出した。すなわち、各稜線部が各断面の重心を含み線対称に倒れ込む場合凹凸混合蛇腹状座屈に(図9)、風車状に倒れ込む場合凹凸独立蛇腹状座屈に(図10)分岐する。すなわち、ねじりの力を継続して付与し、図10に示した稜線部の風車状の倒れ込みを誘発することで、極めて大きい単位質量当たりの衝突吸収エネルギーを確保できることを見出した。そこで、本発明者らはそのねじり力を発生させるメカニズムとして稜線部に線分状の凹み部(斜めビード)を設置することを考案した。
【0027】
線分状の凹み部は、中空柱状部材の複数ある稜線のうち、少なくとも1つ、望ましくは全ての稜線に、また、各稜線上には少なくとも1つ設置されることが望ましい。
【0028】
なお、本発明は稜線部の倒れ込みモード制御のための一仕組みであり、略四角形に限らず略多角形にも適用できる。斜めビードはねじり力発生のための仕組みであり、設置角度(図11中のθ)は0°または90°はねじり力が発生しない角度であるため避けなければならない。好ましくは20°〜70°、さらに好ましくは30°〜60°とすることが望ましい。また、斜めビードは衝撃吸収エネルギー部材の稜線部のうち少なくとも1つ、望ましくは複数(最も望ましいのは全数)の稜線部に設置することが望ましい。斜めビードの角度の方向はねじり方向を統一するため同じとし、複数の斜めビードは、互いに平行(概ね平行でよく、各斜めビード間の角度差は±20°程度は許容される)となるよう設置することが望ましい。図20はθを10°、20°‥、90°と変更した場合の略四角形の金属製中空柱状部材の軸圧潰衝突解析の結果であり、20°〜70°の範囲で発生したねじり力により150 mm 圧潰時の衝撃吸収エネルギーが向上していることが確認できる。
【0029】
斜めビードの幅、長さ、深さは、特に限定しない。作業性等の観点から、斜めビードの幅は、隣接する面の幅の半分以下が望ましい。また、長さ、深さは、中空柱状部材の形状から決定されるが、概ね隣接する面の幅の1/4以下の長さとなるよう、長さ、深さを決定すればよい。また、ほぼ真っ直ぐな凹みでよく、本発明では、これらの形状を以って線分状という。
【0030】
つぎに、(5)に係る本発明について説明する。
閉断面の中空柱状部材を製造するとき、フランジ部を有する2つの部材を接合して製造する場合がある(図14、図15にその断面の例を示す)。斜めビード設置による単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー向上はフランジ部を有する薄肉中空柱状部材においても適用可能と考えられる。斜めビード設置による凹凸独立蛇腹状座屈を誘発し、単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量の向上だけでなく、フランジ部を有すると衝突後ねじれながら座屈するのに必要なねじりモーメントを増加させることにより、変形に対する対抗力を高め、衝撃吸収能を向上させることができると考えられる。
【0031】
さらに通常の閉断面を有する部材では、部材が蛇腹状に座屈する際、フランジ部も同様に変形し、その変形形態は単純な曲げのみであるのに対し、斜めビード付与によりねじりを付加すると、フランジ部に曲げだけでなくせん断変形も生じるため、フランジ部のエネルギー吸収量を向上させることができる。通常、あまり衝撃吸収能に寄与しないフランジ部をねじりを付加することにより有効に活用できる。
【0032】
なお、フランジ部を付与することにより単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量の向上が期待できるが、フランジ部が大きすぎる場合は、小さな座屈を繰り返すような蛇腹状変形をせず折れ曲がりによる全体座屈を引き起こしやすくなる。また、フランジ部が小さすぎると接合が困難となり接合部が弱くなるおそれがある。上記の知見に従い、接合部の弱化を防ぐためフランジ部の長さは板厚をt[mm]としたとき4√t以上―、全体座屈を起こし難くするためフランジ部の長さは板厚の40√t以下とすることが望ましい。
【0033】
次に、(6)に係る本発明について説明する。
自動車分野では、衝突安全性能のいっそうの向上、燃費向上のためのいっそうの車体軽量化、グローバル展開に向けた多くの車種の開発期間短縮といった多く課題に対し、多くの設計者、研究者が取り組んでいる。
【0034】
衝突安全性能関係において、日本では国連統一基準(ECE規則)R94のオフセット衝突時の乗員保護と同等の基準が制定され、2007年の新型乗用車から適用になっている。また2.5t以下の商用車にも適用が拡大されている。米国では2009年からFMVSS214に32[km/h]ポール側突の追加が計画されている。FMVSS301が改正され80[km/h]オフセット後突が2006年から段階的に適用される。
【0035】
燃費関係において、日本ではエネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)の改正により、2015年度を目標達成年度とした「重量車燃費基準」が策定され、2006年4月から施行される。米国では、連邦は2008−2011年式の小型トラックのCAFEシステムに関する改正案を発表した。連邦・カリフォルニア州両方において、次期規制強化が議論されている。
グローバル展開に関しては、自動車の輸出量は近年増加の一途をたどっており、2001年と2005年を比較しても約22%と急激に増加している。日本のメーカーのロシア進出等、今後海外生産が国内生産を上回ることが予想される。
【0036】
以上のような背景から、急ピッチで進む設計期間の短縮、車体軽量化、衝突安全性の向上のために、本発明は斜めビード付与のみにより衝突安全性向上が見込まれるため、設計者の負担を削減、車体の軽量化にも寄与できると考えられる。自動車の衝突時に動的な荷重が負荷される部材は数多くあるが、特に前面衝突時の衝撃吸収エネルギー量に大きく寄与するフロントサイドメンバ、または後面衝突時の衝撃吸収エネルギー量に大きく寄与するリアサイドメンバの設計時に本発明は大きく貢献できると考えられる。
【実施例】
【0037】
実施例を参照しながら、本発明の効果を説明する。
本発明者らは、図12に示す断面形状を有する四角形断面の薄肉中空柱状部材Iと、部材Iの衝突側端部から15mmの位置に角度45°とした斜めビードを稜線部に設置した部材IIに対し衝撃吸収エネルギー吸収量を調査した。両部材とも鋼製(JSC590Y鋼)とし、長さは300 mm、厚さtは1.0 mm、および全角部に∞ mm−1の曲率が付与されている。重量を350 kgとした剛体壁を軸方向かつ圧縮方向に初速5 m/sで衝突させたときの単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー吸収量を求めた。斜めビード付与による単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量の向上が図13から確認できる。
【0038】
また本発明者らは、四角形断面の部材にフランジ部を付与した2種類の薄肉中空柱状部材III 、IVに対し衝撃吸収エネルギー吸収量を調査した。III 、IVの断面形状の寸法を、それぞれ図14、図15に示す。両部材とも鋼製(JSC590Y鋼)とし、長さは300 mm、厚さtは1.0 mm、および全角部に∞ mm−1の曲率が付与されている。重量を350 kgとした剛体壁を軸方向かつ圧縮方向に初速5 m/sで衝突させたときの単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー吸収量を求めた。さらに衝突側端部から15mmの位置に角度を45°とした斜めビードを、フランジを共有しない稜線部に設置した部材V、VIで同様の衝突解析を実施し比較した(図16)。図16よりフランジ部を有する部材で、斜めビード設置による単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量の向上が確認できる。
【0039】
また本発明者らは、六角形断面の薄肉中空柱状部材VIIに対し衝撃吸収エネルギー吸収量を調査した。その断面形状の寸法を、図17に示す。両部材とも鋼製(JSC590Y鋼)とし、長さは300 mm、厚さtは1.0 mm、および全角部に∞ mm−1の曲率が付与されている。重量を350 kgとした剛体壁を軸方向かつ圧縮方向に初速5 m/sで衝突させたときの単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー吸収量を求めた。さらに衝突側端部から15mmの位置に角度を45°とした斜めビードを稜線部に付与した部材VIIIで同様の衝突解析を実施し比較した(図18)。図18よりフランジ部を有する部材で、斜めビード付与により単位質量当たりの衝撃吸収エネルギー量の向上が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、中空柱状部材の衝撃による座屈モードから、吸収エネルギー量の大きい凹凸独立蛇腹座屈モードを見出し、簡便で、且つ確実な方法で、衝突による座屈時に当該モードに誘導することが可能となった。そのため、本発明は、自動車等の安全性を更に高めた衝撃吸収部材として利用可能であることはもちろんのこと、一般産業機械や建築物等の衝撃吸収部材として広く利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略多角形の閉断面からなる金属製中空柱状部材であって、少なくとも1つの稜線部に、少なくとも1つの線分状の凹み部を設置し、該凹み部が稜線方向または稜線に垂直な方向に形成されていないことを特徴とする金属製中空柱状部材。
【請求項2】
前記線分状の凹み部が稜線方向となす角が20°〜70°の範囲で形成されていることを特徴とする請求項1記載の金属製中空柱状部材。
【請求項3】
複数の前記線分状の凹み部が、平行に形成されていることを特徴とする請求項1および2に記載の金属製中空柱状部材。
【請求項4】
前記閉断面が略四角形であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属製中空柱状部材。
【請求項5】
前記金属製中空柱状部材が、その稜線に平行なフランジ部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれれか1項に記載の金属製中空柱状部材。
【請求項6】
前記金属製中空柱状部材が自動車用の衝撃吸収部材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属製中空柱状部材。
【請求項1】
略多角形の閉断面からなる金属製中空柱状部材であって、少なくとも1つの稜線部に、少なくとも1つの線分状の凹み部を設置し、該凹み部が稜線方向または稜線に垂直な方向に形成されていないことを特徴とする金属製中空柱状部材。
【請求項2】
前記線分状の凹み部が稜線方向となす角が20°〜70°の範囲で形成されていることを特徴とする請求項1記載の金属製中空柱状部材。
【請求項3】
複数の前記線分状の凹み部が、平行に形成されていることを特徴とする請求項1および2に記載の金属製中空柱状部材。
【請求項4】
前記閉断面が略四角形であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属製中空柱状部材。
【請求項5】
前記金属製中空柱状部材が、その稜線に平行なフランジ部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれれか1項に記載の金属製中空柱状部材。
【請求項6】
前記金属製中空柱状部材が自動車用の衝撃吸収部材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属製中空柱状部材。
【図1】
【図2】
【図6】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図19】
【図2】
【図6】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図19】
【公開番号】特開2011−56997(P2011−56997A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206253(P2009−206253)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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