説明

金属製品の浸漬洗浄方法

【課題】金属製品に付着した強固な熱変性油汚れに対して、より優れた洗浄力が簡易に得られる金属製品の洗浄方法を提供する。
【解決手段】過酸化水素(a)と、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチレンジアミン3酢酸(HEDTA)、およびこれらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上の化合物(b)と、アルカリ金属珪酸塩(c)とを含有し、(a)と(b)との重量比が(a)/(b)=0.5〜15であるpHが10〜11の液体洗浄剤組成物に、熱変性油汚れが付着した金属製品を浸漬して洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製調理器具、金属製食器等の金属製品の浸漬洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品に由来する油脂汚れは、熱、日光、空気中の酸素などの作用により変質している場合が多く、粘着性の樹脂状ないしは半乾固した状態になっている。こうした変質油汚れを十分に洗浄するために、従来種々の提案がされている。なかでも、酸素系漂白剤を用いた技術が知られており、特許文献1には、特定の結晶性アルカリ金属珪酸塩と特定の漂白活性化剤と過酸化水素放出体を含有する硬質表面用漂白剤組成物が、汚れの種類、程度を問わず高い洗浄力を有するとともに、対象面に対する損傷性が低いことが開示されている。また、特許文献2には、強固にこびり付いた油脂成分等を洗浄するために、過炭酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等を含有するグルコン酸系洗浄剤を用いることが開示されている。また、特許文献3には、ペルオキソ酸塩、界面活性剤及び軟水化剤をそれぞれ所定範囲で含有し、1重量%水溶液のpHが8〜12の漂白洗浄組成物が開示されている。
【0003】
一方、麺類を取り扱う装置に特有の炭水化物や蛋白質の汚れを落とすために、特許文献4では、酸素系漂白剤を含有する麺類調理装置用洗浄組成物を用いることが開示されている。
【特許文献1】特開平9−118898号公報
【特許文献2】特開2001−354997号公報
【特許文献3】特開2000−204395号公報
【特許文献4】特開2004−2734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、食品製造工場などで用いられる金属製の器具は、高温、長時間の作業に供されることが多く、油汚れは一般家庭における使用の際よりも更に強固な熱変性油汚れとして付着する。このような、より強固な熱変性油汚れに対しては、過炭酸ナトリウムや過酸化水素の配合量を多くして洗浄力を高めることが考えられるが、コストや基材への影響が懸念されるため、極力従来の量を維持した上で洗浄力を高める方法が望ましい。また、そのような優れた洗浄力を簡易な方法で得られる方法が好ましい。
【0005】
本発明は、金属製品に付着した強固な熱変性油汚れに対して、より優れた洗浄力が簡易に得られる金属製品の洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、過酸化水素(a)〔以下、(a)成分という〕と、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチレンジアミン3酢酸(HEDTA)、およびこれらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上の化合物(b)〔以下、(b)成分という〕と、アルカリ金属珪酸塩(c)〔以下、(c)成分という〕とを含有し、(a)と(b)との重量比が(a)/(b)=0.5〜15であるpHが10〜11の液体洗浄剤組成物に、熱変性油汚れが付着した金属を浸漬して洗浄する、金属製品の浸漬洗浄方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属製品に付着した強固な熱変性油汚れに対して、より優れた洗浄力が簡易に得られる金属製品の洗浄方法が提供される。本発明の洗浄方法は、過酸化水素濃度を増加させなくても、優れた洗浄力を得ることができる。また、浸漬という簡易な方法で優れた洗浄力が得られるため、例えば、業務用の金属製品の洗浄において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明では、上記(a)〜(c)成分を含有し、(a)と(b)との重量比が(a)/(b)=0.5〜15であるpHが10〜11の液体洗浄剤組成物に、熱変性油汚れが付着した金属製品を浸漬して洗浄する。本発明の浸漬洗浄方法では、過酸化水素濃度を増加させなくても、金属製品に付着した熱変性油汚れに対して、優れた洗浄力を得ることができ、また、pHが10〜11の液体洗浄剤組成物を使用することから、洗浄に従事する作業者の安全性にも優れる為、有用な技術である。
【0009】
過酸化水素濃度を増加させない、より安全性に優れる液体洗浄剤組成物を用いるにもかかわらず、優れた洗浄効果が発現する理由は定かではないが、液体洗浄剤組成物中に、過酸化水素と特定の化合物又はそのアルカリ金属塩〔(b)成分〕とを特定比率で併用し、浸漬洗浄方法を行う結果、(b)成分の存在下において過酸化水素が、金属製品と金属製品に付着した熱変性油汚れとの界面に対して、物理的又は化学的に効率よく作用して、汚れの剥離を行う結果、優れた洗浄効果が発現するものと考えられる。
【0010】
(a)成分は、過酸化水素である。液体洗浄剤組成物に(a)成分である過酸化水素を含有させる方法としては、例えば、液体中に、過炭酸塩、過ホウ酸塩、過燐酸塩、過珪酸塩等の粉状又は粉体状の物質を溶解することによって行うことができ、特に過炭酸塩、とりわけ過炭酸ナトリウムが有効である。
【0011】
(b)成分はエチレンジアミン4酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチレンジアミン3酢酸(HEDTA)、およびこれらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上の化合物であり、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)、およびこれらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上の化合物が好ましく、エチレンジアミン4酢酸およびこれらのアルカリ金属塩がより好ましい。アルカリ金属塩はナトリウム塩、カリウム塩が挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。(b)成分を配合することで、浸漬処理における(a)成分の洗浄力を向上させることができる。
【0012】
また、(c)成分はアルカリ金属珪酸酸塩であり、好ましくはオルソ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、1号珪酸ナトリウム、2号珪酸ナトリウム、3号珪酸ナトリウム、層状珪酸ナトリウム等の結晶性珪酸ナトリウムまたは非晶質珪酸ナトリウムが挙げられる。(c)成分を配合することで、金属製品がアルミニウムを含む場合に、基材損傷を低減できる。
【0013】
本発明に用いられる液体洗浄剤組成物は、上記(a)〜(c)成分を含有し、残部は主に水を用いることができる。
【0014】
本発明に用いられる液体洗浄剤組成物中における(a)成分の含有量は、好ましくは0.1〜1重量%であり、より好ましくは0.12〜0.8重量%であり、更に好ましくは0.15〜0.5重量%である。
【0015】
本発明に用いられる液体洗浄剤組成物中における(b)成分の含有量は、好ましくは0.01〜0.5重量%であり、より好ましくは0.02〜0.3重量%であり、更に好ましくは0.03〜0.2重量%である。
【0016】
本発明に用いられる液体洗浄剤組成物中における(c)成分の含有量は、好ましくは0.01〜0.3重量%であり、より好ましくは0.02〜0.2であり、更に好ましくは0.03〜0.2重量%である。
【0017】
該液体洗浄剤組成物においては、金属製品に付着した強固な熱変性油汚れを除去する観点から、(a)成分に対して(b)成分が多量に存在する方が好ましい。但し、(a)成分に対して(b)成分が多量に存在し過ぎても、当該効果は飽和してしまい、(b)成分を多量に使用する点で経済的ではない。従って、本発明では、金属製品に付着した強固な熱変性油汚れを除去する観点及び経済性の観点から、液体洗浄剤組成物における(a)成分と(b)成分の重量比は、(a)/(b)=0.5〜15であり、好ましくは1〜12であり、より好ましくは2〜10であり、更に好ましくは3〜8である。
【0018】
また、液体洗浄剤組成物は、より安全な作業環境性を確保する観点から、pHが10〜11であり、好ましくは10.0〜11.0、より好ましくは10.5〜11.0である。このpHは、浸漬洗浄を行う際の温度(液温)でのpHであるが、20℃においてこの範囲のpHを有するものであってもよい。
【0019】
液体洗浄剤組成物は、上記(a)〜(c)成分以外に界面活性剤、他のアルカリ金属塩、酵素、可溶化剤等を含有していてもよい。
【0020】
他のアルカリ金属塩は、例えば緩衝剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいはモノ、ジ、トリエタノールアミン等のアミン誘導体、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、炭酸アンモニウム等の炭酸塩等を本発明の液体洗浄剤組成物に含有することができる。液体洗浄剤組成物中におけるこれらの剤の含有量は、好ましくは0.01〜0.3重量%であり、より好ましくは0.01〜0.2重量%である。
【0021】
本発明では、上記特定の液体洗浄剤組成物に、熱変性油汚れが付着した金属製品を浸漬して当該金属製品を浸漬洗浄する。この金属製品は、金属以外の構成要素(例えば、プラスチック、陶器、木材等)を含むものであってもよい。液体洗浄剤組成物への浸漬は、金属製品の一部でもよいが、通常は、全部が浸漬されることが好ましい。
【0022】
浸漬する際の液体洗浄剤組成物の温度や浸漬時間は、対象とする金属製品や汚れの程度などを考慮して適宜決めることができるが、例えば液体洗浄剤組成物の温度は、20〜70℃、更に40〜60℃の範囲から選択することができ、また、浸漬時間は10分〜12時間、更に30分〜6時間の範囲から選択することができる。
【0023】
浸漬を終えた後の金属製品には、必要に応じてすすぎ、乾燥等が行われるが、浸漬洗浄の後にスポンジ等を用いた擦り洗いなどを行ってもよい。
【0024】
本発明に用いられる液体洗浄剤組成物は、過炭酸塩、(b)成分及び(c)を含有する粉末組成物を、水と混合して所定濃度に調整して得ることができる。従って、本発明は、過炭酸塩、(b)成分及び(c)を含有する粉末組成物を、水と混合して(a)成分と(b)成分との重量比が(a)/(b)=0.5〜15であり、pHが10〜11の液体洗浄剤組成物を調製する工程(I)、工程(I)で得られた液体洗浄剤組成物に、熱変性油汚れが付着した金属製品を浸漬して洗浄する工程(II)を含む金属製品の浸漬洗浄方法として実施することができる。工程(I)に用いられる粉末組成物は、保存安定性(耐ケーキング性)に優れる観点から、(b)成分はエチレンジアミン4酢酸ナトリウム・2水和物が好ましい。また、粉末組成物に用いられる(c)成分は2号珪酸ナトリウム好ましく、(a)成分と(c)成分の重量比は、(a)/(c)=1〜4であることが好ましい。
【0025】
本発明の洗浄方法の対象となる金属製品としては、ステンレス製、アルミニウム製等の金属製品が挙げられる。また、本発明の対象となる金属製品としては、金属製品に付着した強固な熱変性油汚れが発生し易い、フライヤー、金属トレイ、金属食器等の厨房用金属製品(金属製調理器具、金属製食器、金属製容器等を含む)が、本発明の効果を発現する観点から好ましい。
【実施例】
【0026】
表1に示す粉末組成物を1重量%濃度となるように水と混合して液体洗浄剤組成物を得た。液体洗浄剤組成物に、以下のようにして調製した熱変性油汚れが付着したステンレス板1枚を浸漬し、液温40℃で30分間放置した後の状態を観察し、以下の基準で洗浄力を評価した。結果を表1に示す。
【0027】
<熱変性油汚れが付着したステンレス板の調製>
菜種油を0.1g、3cm×7cmのステンレス板(SUS304)に塗布し、200℃で2時間、恒温槽で処理して熱変性油汚れが付着したステンレス板を調製した。
【0028】
<洗浄力の評価基準>
◎:汚れが剥離している。
×:汚れが剥離していない。
図1に実施例1と比較例3の洗浄結果を示す。図1から、実施例1では浸漬した部分について汚れが剥離(ステンレス板が露出)しており、洗浄力が高いことがわかる。一方、比較例3では、浸漬した部分について汚れが全く剥離しておらず、洗浄力が十分ではないことがわかる。
【0029】
【表1】

【0030】
表中、珪酸ナトリウム造粒物は、当該造粒物中に52.5重量%の珪酸ナトリウムを含有するので、粉体組成物中における珪酸ナトリウム含量は8重量%である。また、pHは浸漬洗浄時の液温でのpHである。
【0031】
表中、過酸化水素の濃度は、下記式により求められる。この式は、使用した濃度の過炭酸ナトリウムから得られる過酸化水素量に、過炭酸ナトリウムの使用濃度(1重量%濃度)を乗じて、過酸化水素濃度を算出するものである。
過酸化水素濃度(重量%)=過炭酸ナトリウム濃度(重量%)×51/157×0.01
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1と比較例3の浸漬洗浄結果を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素(a)と、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチレンジアミン3酢酸(HEDTA)、およびこれらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上の化合物(b)と、アルカリ金属珪酸塩(c)とを含有し、(a)と(b)との重量比が(a)/(b)=0.5〜15であるpHが10〜11の液体洗浄剤組成物に、熱変性油汚れが付着した金属製品を浸漬して洗浄する、金属製品の浸漬洗浄方法。
【請求項2】
液体洗浄剤組成物中の過酸化水素(a)の含有量が、0.1〜1重量%である請求項1記載の金属製品の浸漬洗浄方法。
【請求項3】
金属製品がステンレス及び/又はアルミニウム製の金属製品である請求項1又は2記載の金属製品の浸漬洗浄方法。
【請求項4】
金属製品が厨房用金属製品である請求項1〜3いずれかに記載の金属製品の浸漬洗浄方法。
【請求項5】
化合物(b)がエチレンジアミン4酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)、およびこれらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上の化合物である請求項1〜4いずれかに記載の金属製品の浸漬洗浄方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−263419(P2009−263419A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111474(P2008−111474)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】