説明

金属調樹脂組成物及び金属調樹脂成形品

【課題】アルミフレークの偏在による色ムラの発生のない、所望の外観を有する金属調樹脂成形品と、それを有利に成形可能な金属調樹脂組成物とを提供する。
【解決手段】ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5〜30μmのアルミフレークと粒度が5〜500μmのパール調顔料とを、それぞれ0.1〜5重量%の割合で配合して、金属調樹脂組成物を得た。そして、そのような金属調樹脂組成物を用いた射出成形品にて、金属調樹脂成形品10を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属調樹脂組成物及び金属調樹脂成形品に係り、特に、ABS系樹脂とポリカーボネートとが混合されたアロイ樹脂に光輝性材料が配合されてなる金属調樹脂組成物と、そのような金属調樹脂組成物を用いて成形される金属調樹脂成形品のそれぞれの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、加飾樹脂成形品の一種として、金属表面を擬似的に表現する金属調の加飾が施されてなる、所謂金属調樹脂成形品が、知られている。この金属調樹脂成形品は、本物の金属製品に比して、軽量で、成形性や加工性に優れ、しかも防錆加工も不要であるところから、例えば、自動車内装部品や家具、建築材、家電製品、携帯電子機器等の様々な製品や物品の表皮材や部品等として、多く利用されてきている。
【0003】
そのような金属調樹脂成形品は、これまで、一般的には、樹脂成形品の表面に、メタリック塗装による塗膜や金属メッキによるメッキ膜を形成することによって製造されている。しかしながら、メタリック塗膜が表面に形成された金属調樹脂成形品は、その製造に際して、塗装ブース等の特別な設備が必要となるだけでなく、熱や紫外線等を利用した塗膜の乾燥工程が必須であるために、それを実施する手間やコストが必要となるといった問題が内在していた。また、メッキ膜が表面に形成された金属調樹脂成形品を製造する際には、メタリック塗膜の形成時と同様な問題が生ずることに加えて、メッキ工程で不可避的に生ずる有害な廃液の処理を行う必要があった。
【0004】
一方、近年では、例えば、特開2009−220545号公報等(特許文献1)において、ABS樹脂やAES樹脂、ASA樹脂(AAS樹脂)等のABS系樹脂に、それとの相溶性に優れたアルミフレーク(アルミ粉)等の光輝性材料を配合してなる金属調樹脂組成物の射出成形品を、金属調樹脂成形品として使用することが、提案されている。このような金属調樹脂成形品にあっては、その製造に際して、表面にメタリック膜やメッキ膜が形成されてなる金属調樹脂成形品の製造時の問題が生ずることがなく、それによって、優れた製作性とコスト性とが発揮され得るのである。
【0005】
ところが、よく知られているように、ABS系樹脂を単独で用いて得られた樹脂成形品(射出成形品)は、耐衝撃性が不十分であるといった欠点を有している。そのため、単に、ABS系樹脂に光輝性材料を含有させただけの金属調樹脂組成物を用いて射出成形された金属調樹脂成形品は、高い耐衝撃性が要求される、例えば自動車内装部品等には不向きなものとなっていた。
【0006】
一方、ABS系樹脂とポリカーボネートとが混合されたアロイ樹脂(以下からは、PC/ABS系アロイ樹脂と言う)を用いて得られる樹脂成形品(射出成形品)は、ABS系樹脂のみで得られる樹脂成形品の欠点が解消されて、十分な耐衝撃性が発揮されることが、従来から知られている。従って、ABS系樹脂を用いた金属調樹脂成形品の耐衝撃性の向上には、PC/ABS系アロイ樹脂に対して、アルミフレーク等の光輝性材料が更に添加されてなる金属調樹脂組成物を用いるのが有効であると考えられる。
【0007】
ところが、本発明者の研究によれば、PC/ABS系アロイ樹脂にアルミフレークを配合してなる金属調樹脂組成物を用いて射出成形を行った場合、成形される金属調樹脂成形品の表面にアルミフレークの偏在箇所が発生し、それによって、そのようなアルミフレークの偏在箇所とそれ以外の箇所との間で、明度(輝度)の違いによるスジ状の色ムラが生じ、その結果、金属調樹脂成形品の外観不良が惹起される恐れがあることが判明したのである。そして、このアルミフレークの偏在による色ムラの発生は、特に、金属調樹脂成形品表面が高い鏡面性を有する場合や、金属調樹脂成形品表面において、あたかもアルミフレークの一つ一つの粒子が光って見えるような、見た目のつぶつぶ感がなく、かかる表面の色が均一で単調な単一色とされている場合等に、より目立つようになることも判った。
【0008】
なお、PC/ABS系アロイ樹脂へのアルミフレークの添加量を少なくしたり、或いは金属調樹脂成形品の成形に用いられる成形用金型のキャビティ面に凹凸模様を形成して、成形される樹脂成形品の鏡面性を低下させたりすれば、上記のようなアルミフレークの偏在による色ムラの発生を抑制乃至は解消することができる。しかしながら、アルミフレークの添加量を減らした場合、アルミフレークの添加量の減少によって、成形される樹脂成形品の表面全体の明度が低下してしまい、そのために、色調の暗い金属調樹脂成形品しか得られなくなる。また、キャビティ面に凹凸模様が形成された成形用金型を用いる場合には、表面の鏡面性の高い表面を有する金属調樹脂成形品の成形が不可能となる。即ち、何れの場合にしろ、目的とする金属調樹脂成形品の外観が制限されて、所望の外観を得ることが困難となるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−220545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、PC/ABS系アロイ樹脂に光輝性材料としてアルミフレークを配合してなる金属調樹脂組成物であって、アルミフレークの偏在による色ムラの発生のない、所望の外観を有する金属調樹脂成形品を有利に成形可能な金属調樹脂組成物を提供することにある。また、本発明は、光輝性材料として含有されるアルミフレークの偏在による色ムラの発生のない、所望の外観を有する金属調樹脂成形品を提供することをも、その解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明者は、上記した課題の解決のために、先ず、PC/ABS系アロイ樹脂にアルミフレークを配合してなる金属調樹脂組成物を用いて射出成形された金属調樹脂成形品の表面に、アルミフレークの偏在箇所が発生する原因を追及したところ、アルミフレークのABS系樹脂に対する相溶性が、アルミフレークのポリカーボネートに対する相溶性よりも良好であり、そのため、射出成形操作中に、アルミフレークがABS系樹脂相に偏ってしまう現象が生ずることが、判明した。
【0012】
そこで、本発明者は、そのような判明事実を基に、金属調樹脂成形品中でのアルミフレークの偏在による色ムラの発生を解消するための方策を、種々検討した。その結果、PC/ABS系アロイ樹脂に対して、アルミフレークと共にパール調顔料を配合し、更に、それらアルミフレークの平均粒径とパール調顔料の粒度、及びそれらの配合割合をそれぞれ特定の範囲内の値として、金属調樹脂組成物を調製し、この金属調樹脂組成物を用いて射出成形を行うことにより、成形される金属調樹脂成形品において、アルミフレークの偏在による色ムラの発生が解消され得ることを、見出したのである。これは、パール調顔料の添加による金属調樹脂成形品表面の明度の向上作用により、金属調樹脂成形品表面のアルミフレークの偏在箇所とそれ以外の箇所との間での明度の差異が可及的に抑えられることによるものと考えられる。
【0013】
すなわち、本発明は、そのような知見に基づいて完成されたものであって、その要旨とするところは、ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5〜30μmのアルミフレークと粒度が5〜500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1〜5重量%の割合で配合されてなることを特徴とする金属調樹脂組成物にある。なお、ここで言う平均粒径及び粒度とは、例えば、レーザー回析・錯乱法等によって求められるものである。
【0014】
また、本発明は、上記した金属調樹脂組成物を用いた射出成形品にて構成されていることを特徴とする金属調樹脂成形品をも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0015】
要するに、本発明に従う金属調樹脂組成物においては、それに含まれる光輝性材料として、アルミフレークとパール調顔料とが組み合わされて使用され、そして、それらが、それぞれ、特定の平均粒径及び粒度をもって、特定の割合で含有されているところから、かかる金属調樹脂組成物を用いた射出成形の実施によって得られる金属調樹脂成形品表面でのアルミフレークの偏在に起因した色ムラの発生が有利に解消され得る。このため、かかる金属調樹脂組成物を用いる場合には、成形されるべき金属調樹脂成形品表面でのアルミフレークの偏在の発生抑制のために、アルミフレークの添加量を減少させたり、或いはキャビティ面に凹凸模様が形成された成形用金型を用いて射出成形を行ったりする必要がない。それ故、そのような金属調樹脂組成物を用いた射出成形を行うことによって、金属調樹脂成形品が、アルミフレークの添加量の減少による表面全体の明度の低下や、キャビティ面に凹凸模様が形成された成形用金型の使用による表面の鏡面性の低下等を惹起させることなく、有利に得られることとなる。
【0016】
従って、かくの如き本発明に従う金属調樹脂組成物を用いれば、アルミフレークの偏在による色ムラの発生がなく、しかも、表面の明度や表面性状に対して何等の制限が加えられることのない、所望の外観を有する金属調樹脂成形品を極めて有利に成形することができるのである。
【0017】
そして、本発明に従う金属調樹脂成形品は、上記のような優れた特徴を有する金属調樹脂組成物を用いた射出成形品にて構成されている。従って、そのような金属調樹脂成形品にあっては、アルミフレークの偏在による色ムラがなく、且つ表面の明度や表面性状に対して何等の制限が加えられることのない、所望の外観が、効果的に確保され得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明手法に従う金属調樹脂成形品の一実施形態を示す斜視説明図である。
【図2】従来の金属調樹脂組成物を用いた射出成形を行って得られた金属調樹脂成形品の斜視説明図であって、かかる金属調樹脂成形品の表面に、アルミフレークの偏在による色ムラが発生している状態を示している。
【図3】本発明に従う金属調樹脂組成物を用いた射出成形を行って得られた金属調樹脂成形品の斜視説明図であって、かかる金属調樹脂成形品の表面に、アルミフレークの偏在による色ムラが何等発生していない状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0020】
先ず、図1には、本発明に従う構造を有する金属調樹脂成形品の一実施形態としての自動車用内装部品が、その斜視形態において示されている。本実施形態の自動車用内装部品10(以下、内装部品10と言う)は、所定厚さを有する長手矩形状の平板パネルからなっており、表面の全体が、十分な金属光沢を発する均一で且つ単調な銀色を呈すると共に、高い鏡面性を備えている。そして、このような内装部品10が、特別な金属調樹脂組成物を用いた射出成形品にて構成されている。
【0021】
内装部品10の成形材料として用いられる金属調樹脂組成物は、ABS系樹脂とポリカーボネートとが混合されたアロイ樹脂を主成分として含み、且つ光輝性材料としてのアルミフレークとパール調顔料とが添加されて、調製されたものである。なお、そのような金属調樹脂組成物中には、内装部品10に対して所望の物性を付与するために、光輝性材料以外の各種の添加物が、適宜の量において添加、含有されていても、何等差し支えない。
【0022】
金属調樹脂組成物に含まれるABS系樹脂の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、ABS樹脂やAES樹脂、ASA樹脂(AAS樹脂)等、機械的特性のバランスや表面の美観に優れるといった特徴を有し、自動車用内装部品の成形材料として一般に用いられるものが、好適に使用される。即ち、金属調樹脂組成物の主成分として用いられるPC/ABS系アロイ樹脂としては、PC/ABSアロイ樹脂の他、PC/AESアロイ樹脂やPC/ASAアロイ樹脂等が、例示されるのである。また、そのようなPC/ABS系アロイ樹脂をABS系樹脂と共に構成するポリカーボネートも、公知の各種の手法によって製造されるものが、適宜に用いられる。
【0023】
PC/ABS系アロイ樹脂中におけるABS系樹脂とポリカーボネートとの混合比率は、何等限定されるものではない。前記したように、PC/ABS系アロイ樹脂は、ABS系樹脂に対してポリカーボネートが添加、混合されていることによって、ABS系樹脂の特性に加えて、耐衝撃性の向上が図られるものである。それ故、PC/ABS系アロイ樹脂中におけるABS系樹脂とポリカーボネートとの混合比率は、内装部品10において所望の大きさの耐衝撃性、具体的には、例えば内装部品10が自動車用として適合可能な耐衝撃性を確保するのに必要なポリカーボネートのABS系樹脂への添加量に応じて、適宜に決定される。その点からして、PC/ABS系アロイ樹脂中におけるABS系樹脂とポリカーボネートとの混合比率乃至は含有率は、ABS系樹脂が30〜70重量部、ポリカーボネートが30〜70重量部(ABS系樹脂とポリカーボネートの合計は100重量部)とされていることが望ましい。
【0024】
金属調樹脂組成物中に含まれるアルミフレークとパール調顔料は、上記のように、金属調樹脂組成物、更にはそれを用いて得られる内装部品10において光輝性を発現させるための光輝性材料として用いられる。即ち、本実施形態の内装部品10には、アルミフレークと、それよりも明度の高いパール調顔料との組合せからなる光輝性材料が含まれている。このため、内装部品10にあっては、アルミフレークのみからなる光輝性材料を含む金属調樹脂組成物を用いて得られる金属調樹脂成形品とは異なって、内装部品10の表面でのアルミフレークの偏在箇所とそれ以外の箇所の明度の差異によって生ずる色ムラが、パール調顔料による内装部品10表面全体の明度の向上に基づいて発揮される隠蔽作用により、有利に目立たなくされているのである。
【0025】
なお、金属調樹脂組成物中に含まれるアルミフレークの形状は、特に限定されるものではなく、例えば、球状や正多面体形状、扁平形状等、何れの形状であっても良い。しかしながら、アルミフレークは、例えば、レーザー回析・錯乱法により測定される平均粒径が5〜30μmとされている必要がある。何故なら、内装部品10表面でのアルミフレークの偏在によって生ずる色ムラは、アルミフレークの平均粒径が小さい程、より目立つようになる傾向がある。そのため、金属調樹脂組成物中に含まれるアルミフレークが、5μm未満の平均粒径を有する微小なものであると、内装部品10表面でのアルミフレークの偏在による色ムラが、より顕著なものとなり、それ故、パール調顔料にて発揮される隠蔽作用によっても、そのような色ムラを目立たなくさせることが困難となってしまうからである。また、アルミフレークの平均粒径が30μmを超える場合には、アルミフレークが余りに大きいために、内装部品10の表面に、あたかもアルミフレークの一つ一つの粒子が光って見えるような、見た目でのつぶつぶ感が生じるようになって、内装部品10表面の色を、そのような見た目でのつぶつぶ感がない、均一で単調な単一色とすることが難しくなるからである。
【0026】
すなわち、ここでは、金属調樹脂組成物中のアルミフレークの平均粒径の上限値が、内装部品10表面の色を均一で単調な単一色と為し得る大きさとされている。何故なら、内装部品10表面に、見た目でのつぶつぶ感がアルミフレークによって表現されている場合には、アルミフレークの偏在による色ムラが目立つようなことがなく、そのような色ムラは、特に、内装部品10表面の色が均一で単調な単一色とされているときに目立つようになる。それ故、内装部品10表面の色が均一で単調な単一色とされている場合において、アルミフレークの偏在による色ムラの問題を解消するために、アルミフレークとパール調顔料との組合せからなる光輝性材料の使用が求められる。従って、本発明においては、パール調顔料との組合せ使用を必須とするアルミフレークの平均粒径の上限値が、内装部品10表面の見た目でのつぶつぶ感の発生を抑えるのに限度となる30μm以下とされているのである。
【0027】
また、アルミフレークの金属調樹脂組成物中の含有量(PC/ABS系アロイ樹脂に対するアルミフレークの配合割合)は、0.1〜5重量%の範囲内の値とされていなければならない。何故なら、かかる含有量が0.1重量%未満であると、金属調樹脂組成物中のアルミフレーク量が少な過ぎるため、アルミフレークによる光輝性の発現効果が十分に発揮されずに、内装部品10において所望の光輝性が得られなくなってしまうからである。また、アルミフレークの金属調樹脂組成物中の含有量が5重量%を超える場合には、金属調樹脂組成物中のアルミフレーク量が過多となって、内装部品10の耐衝撃性や引っ張り強度等の物性が著しく低下するだけでなく、金属調樹脂組成物を用いた射出成形時におけるキャビティ面の転写性が低下し、それによって、成形された内装部品10表面の鏡面性が低下するといった問題が生ずるからである。
【0028】
すなわち、ここでは、金属調樹脂組成物中のアルミフレークの含有量の上限値が、内装部品10表面の鏡面性を十分に確保し得る量とされている。何故なら、内装部品10表面の鏡面性が低い場合には、アルミフレークの偏在による色ムラが目立つようなことがなく、そのような色ムラは、特に、内装部品10表面が十分な鏡面性を有しているときに目立つようになる。それ故、内装部品10表面が十分な鏡面性を有している場合において、アルミフレークの偏在による色ムラの問題を解消するために、アルミフレークとパール調顔料との組合せからなる光輝性材料の使用が求められる。従って、本発明においては、パール調顔料との組合せ使用を必須とするアルミフレークの金属調樹脂組成物中の含有量の上限値が、内装部品10表面の鏡面性を十分に確保するのに限度となる5重量%以下とされているのである。なお、アルミフレークの金属調樹脂組成物中の含有量は、上記の不具合の発生をより確実に防止すると共に、アルミフレークの使用によるコスト負担を抑制する点から、0.1〜2重量%とされていることが、より好ましい。
【0029】
アルミフレークと共に金属調組成物に含有されるパール調顔料の種類は、特に限定されるものではない。このパール調顔料としては、例えば、天然雲母や合成雲母等からなる光沢材料、或いは酸化アルミニウム等の表面に、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄のうちの何れか1種以上を被覆してなる光沢材料等が、用いられる。パール調顔料の形状も、何等限定されるものではなく、例えば、球状や正多面体形状、扁平形状等を呈していても良い。
【0030】
そのようなパール調顔料は、例えば、レーザー回析・錯乱法により測定される粒度が5〜500μmとされていなければならない。何故なら、金属調樹脂組成物中に含まれるパール調顔料が、5μm未満の粒度を有する微小なものであると、金属調樹脂組成物を用いた射出成形時に、パール調顔料に配向が生じ、それによって、成形された内装部品10の表面に、配向したパール調顔料によるスジが発生するからである。また、パール調顔料の粒度が500μmを超える場合には、パール調顔料が余りに大きいため、アルミフレークが過大である場合と同様に、内装部品10の表面に、見た目でのつぶつぶ感が生じるようになって、内装部品10表面の色を、そのような見た目でのつぶつぶ感がない、均一で単調な単一色とすることが難しくなるからである。
【0031】
パール調顔料の金属調樹脂組成物中の含有量(PC/ABS系アロイ樹脂に対するパール調顔料の配合割合)は、0.1〜5重量%の範囲内の値とされている必要がある。何故なら、かかる含有量が0.1重量%未満であると、金属調樹脂組成物中のパール調顔料量が少な過ぎるため、アルミフレークの偏在によって生ずる色ムラに対するパール調顔料による隠蔽効果が不十分なものとなってしまうからである。また、パール調顔料の金属調樹脂組成物中の含有量が5重量%を超える場合には、金属調樹脂組成物中のパール調顔料量が過多となって、アルミフレークの金属調樹脂組成物中の含有量が過大である場合と同様に、内装部品10の耐衝撃性や引っ張り強度等の物性が著しく低下するだけでなく、金属調樹脂組成物を用いた射出成形時におけるキャビティ面の転写性が低下し、それによって、成形された内装部品10表面の鏡面性が低下するといった問題が生ずるからである。なお、パール調顔料の金属調樹脂組成物への含有量は、上記の不具合の発生をより確実に防止すると共に、パール調顔料の使用によるコスト負担を抑制する点から、0.1〜3重量%とされていることが、より好ましい。
【0032】
そして、上記のような金属調樹脂組成物を用いて、内装部品10を得る際には、例えば、先ず、PC/ABS系アロイ樹脂に対して、平均粒径が5〜30μmのアルミフレークを0.1〜5重量%の割合で添加すると共に、粒度が5〜500μmのパール調顔料を0.1〜5重量%の割合で添加して、混合物を調製する。次いで、この混合物を公知の手法によりペレット化して、金属調樹脂組成物のペレットを得た後、この金属調樹脂組成物のペレットを、公知の射出成形機のホッパに投入する。その後、成形されるべき内装部品10の外形形状に対応した成形キャビティを有すると共に、かかる成形キャビティのキャビティ面が鏡面研磨されてなる成形用金型を用いて、射出成形を従来法に従って実施する。これにより、図1に示されるような形状を有する、目的とする内装部品10を得るのである。なお、内装部品10の製造方法は、上記の特定の金属調樹脂組成物を用いた射出成形によって製造するものであれば、具体的な手順などが、特に限定されるものではない。
【0033】
このようにして得られた内装部品10は、PC/ABS系アロイ樹脂を主成分として含む金属調樹脂組成物を用いて成形されているところから、自動車用として適合可能な優れた耐衝撃性が確保され得る。また、かかる内装部品10においては、成形材料として用いられる金属調樹脂組成物中に、平均粒径及び粒度が特定の範囲内の値とされたアルミフレークとパール調顔料とが、それぞれ、内装部品10の銀色に輝く光輝性を十分に発現させ得る量において含有されており、それによって、内装部品10表面でのアルミフレークの偏在による色ムラが、パール調顔料による隠蔽作用に基づいて、有利に目立たなくされていると共に、内装部品10表面の色が均一で単調な単一色とされている。更に、内装部品10の表面に対して、成形用金型の鏡面研磨されたキャビティ面が良好に転写されて、内装部品10の表面が、有利に鏡面化されている。
【0034】
従って、かくの如き本実施形態の内装部品10にあっては、耐衝撃性等の物性が、高いレベルで安定的に確保され得る。しかも、かかる内装部品10の表面が高い鏡面性を有すると共に、均一で単調な単一色とされているにも拘わらず、アルミフレークの偏在による色ムラの発生がなく、且つ十分な光輝性を備えた所望の外観が、極めて有利に実現され得るのである。
【0035】
なお、本発明は、前記実施形態に係る自動車用の内装部品10の他にも、例えば、家具、建築材、家電製品、携帯電子機器等の様々な製品や物品の表皮材や部品等、金属調樹脂組成物を用いた射出成形によって得られる各種の金属調樹脂成形品の何れに対しても有利に適用され得る。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0037】
先ず、市販のABS樹脂と市販のポリカーボネートを準備した。次いで、それらを、自動車用内装部品に要求される耐衝撃性が得られる混合比率において混合して、ポリカーボネート:50重量部、ABS樹脂:50重量部である混合物を得た。
【0038】
また、その一方で、レーザー回析・錯乱法によって測定した平均粒径が20μmである、市販のアルミフレークを準備した。更に、レーザー回析・錯乱法によって測定した粒度が50〜25μmである、酸化チタンによってマイカ表面が38%被覆されたパール調顔料を準備した。そして、上記のようにして得られたポリカーボネートとABS樹脂の混合物の100重量部に対して、準備されたアルミフレークを2重量部、パール調顔料を3重量部、それぞれ添加して、混合することで、ポリカーボネートとABS樹脂とアルミフレークとパール調顔料とを含む組成物を得た。
【0039】
その後、得られた組成物を用いて、公知の手法により、かかる金属調樹脂組成物のペレットを作製した。そして、公知の射出成形装置と、目的とする金属調樹脂成形品の外形形状に対応した成形キャビティを形成可能な射出成形用金型とを用いて、射出成形装置のホッパ内に、作製された金属調樹脂組成物のペレットを投入した後、公知の手法により射出成形操作を実施して、矩形平板状の金属調樹脂成形品(実施例1)を得た。
【0040】
また、比較のために、上記のようにして得られたポリカーボネートとABS樹脂の混合物の100重量部に対して、上記のアルミフレークを2重量部添加して、混合した。これにより、ポリカーボネートとABS樹脂の混合物に、アルミフレークのみからなる光輝性材料が配合された組成物を得た。その後、得られた組成物を用いて、公知の手法により、かかる金属調樹脂組成物のペレットを作製した。そして、実施例1の金属調樹脂成形品を得る場合と同様にして、射出成形操作を行って、矩形平板状の金属調樹脂成形品(比較例1)を得た。
【0041】
次に、上記のようにして得られた実施例1の金属調樹脂成形品と比較例1の金属調樹脂成形品の表面の色や状態を目視により観察した。その結果、図2に示されるように、比較例1の金属調樹脂成形品の表面には、アルミフレークの偏在によるスジ状の色ムラが確認された。これに対して、図3に示されるように、実施例1の金属調樹脂成形品の表面は、均一な単一色となっており、スジ状の色ムラが何等確認されなかった。
【符号の説明】
【0042】
10 金属調樹脂成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5〜30μmのアルミフレークと粒度が5〜500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1〜5重量%の割合で配合されてなることを特徴とする金属調樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の金属調樹脂組成物を用いた射出成形品にて構成されていることを特徴とする金属調樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−218662(P2011−218662A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90102(P2010−90102)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】