説明

金属超微粒子含有成形体

【課題】金属超微粒子が有する優れた吸着性や微小蛋白質不活性化をより効果的に発現可能な金属超微粒子を含有する樹脂成形体を提供することである。
【解決手段】少なくとも、有機酸成分と金属間で結合を有する金属超微粒子を含有する熱可塑性樹脂から成る層を有し、且つ前記金属超微粒子が熱可塑性樹脂層の表面に露出していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属超微粒子含有成形体に関するものであり、より詳細には、有機酸と金属の間に結合を有する金属超微粒子が有する吸着性或いは微小蛋白質不活性化をより効果的に発現可能な成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属超微粒子、特に粒子径が100nm以下の金属超微粒子は、その特性が一般の金属粒子と大きく異なり、特にその表面活性及び表面積が大きいことから、触媒、吸着剤等、種々の分野でその利用が提案されている。
例えば、金属超微粒子を利用した消臭剤として、下記特許文献1には金属イオン含有液を還元して得られた金属超微粒子コロイド液を有効成分とする消臭剤が提案されている。
また、金属超微粒子を樹脂中に分散させてなる成形物も提案されており(特許文献2)、この成形物は、金属超微粒子によって樹脂が分解されることなく成形できることが記載されている。
【0003】
本発明者等は、有機酸成分と金属間で結合を有する金属超微粒子(以下、単に「金属超微粒子」ということがある)が、メチルメルカプタン等の悪臭成分、或いはホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds 以下「VOC」という)を吸着可能であると共に、アレルゲン物質やウィルス、細菌等の除去困難な微小蛋白質を免疫的に不活性化し得ることを見出し、吸着性金属超微粒子(特願2006−237898)及び微小蛋白質不活性化金属超微粒子(特願2006−332077)を提案した。
【0004】
【特許文献1】特開2006−109902号公報
【特許文献2】特開2006−348213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような有機酸成分と金属との間に結合を有する金属超微粒子が分散した成形体は、金属超微粒子は樹脂中で分散しているため、その表面が樹脂で覆われた状態で存在するため、金属超微粒子が本来有する顕著な表面活性を有効に利用することができず、金属超微粒子が有する優れた吸着性や微小蛋白質不活性化を効率よく発揮することができないという問題がある。
また金属超微粒子が有する優れた吸着性や微小蛋白質不活性化を、所望の時期から意図的に発現できることができれば上記効果に即効性や持続性を付与することが可能となる。
【0006】
従って本発明の目的は、金属超微粒子が有する優れた吸着性や微小蛋白質不活性化をより効果的に発現可能な金属超微粒子を含有する樹脂成形体を提供することである。
本発明の他の目的は、金属超微粒子が有する優れた吸着性や微小蛋白質不活性化の発現を使用時に意図的に開始させることができ、金属超微粒子が有する上記効果を即効性、且つ持続可能な金属超微粒子を含有する樹脂成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、少なくとも、有機酸成分と金属間で結合を有する金属超微粒子を含有する熱可塑性樹脂から成る層を有し、且つ前記金属超微粒子が熱可塑性樹脂層の表面に露出していることを特徴とする成形体が提供される。
本発明の成形体においては、
1.金属超微粒子含有熱可塑性樹脂層を表面層とし、他の熱可塑性樹脂から成る層を組み合わせて成る積層構造を有すること、
2.金属超微粒子が、金属超微粒子含有熱可塑性樹脂層の表面を粗面化処理することにより表面に露出していること、
3.金属超微粒子含有熱可塑性樹脂層を中間層とする少なくとも3層から成る積層体を、該中間層を剥離させることにより金属超微粒子含有熱可塑性樹脂層を露出させることにより得られること、
4.金属超微粒子が、吸着性、微小蛋白質不活性化を有すること、
5.熱可塑性樹脂層が300乃至700nmにプラズモン吸収を有すること、
が好適である。
【0008】
本発明によればまた、有機酸成分と金属間で結合を有する金属超微粒子を含有する熱可塑性樹脂から成る層を中間層とする少なくとも3層から成る積層体であって、使用時に中間層を剥離させて、金属超微粒子を表面に露出させることを特徴とする成形体が提供される。
上記金属超微粒子含有樹脂層を中間層とする成形体においても
1.金属超微粒子が、吸着性、微小蛋白質不活性化を有すること、
2.熱可塑性樹脂層が300乃至700nmにプラズモン吸収を有すること、
が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成形体においては、金属超微粒子が表面に露出しているため、金属超微粒子が有する優れた吸着性(消臭性を含む)や微小蛋白質不活性化をより効率的に発揮させることができる。すなわち、本発明の成形体は、臭気成分、VOCを効果的に吸着することができると共に、スギ花粉等の植物性蛋白質アレルゲン物質や酵素、あるいはウィルス等の微小蛋白質を有効に不活性化することができる。
また本発明の金属超微粒子含有層を中間層とする積層体においては、使用する際に中間層を剥離させることにより、中間層に存在していた金属超微粒子を成形体表面に露出させることにより初めて金属超微粒子が有する優れた効果を発現することが可能となるため、中間層の剥離前は金属超微粒子が有する効果が発揮されないため、使用前に効果が低減することがなく、金属超微粒子が有する効果の即効性と持続性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
前述した通り、有機酸成分と金属間で結合を有する金属超微粒子は優れた吸着性と微小蛋白質不活性化を有するが、かかる効果は金属超微粒子の表面活性を利用したものであるため、金属超微粒子表面が樹脂で覆われた場合にはその表面活性を有効に利用できない。
本発明の成形体においては、有機酸成分と金属間で結合を有する金属超微粒子を含有する熱可塑性樹脂から成る層を有し、且つ前記金属超微粒子が熱可塑性樹脂層の表面に露出させることにより、金属超微粒子が有する優れた吸着性或いは微小蛋白質不活性化を有効に発現させることを可能にしている。
【0011】
また本発明の金属超微粒子含有成形体の他の態様においては、有機酸成分と金属間で結合を有する金属超微粒子を含有する熱可塑性樹脂から成る層を中間層とする少なくとも3層から成る積層体から成るため、使用前は、金属超微粒子含有樹脂層は内外層で完全に被覆された状態であるので、臭気成分等をほとんど吸着することなく、またアレルゲン等の微小蛋白質と直接接触しないため微小蛋白質を不活性化することがない。
一方、使用に際して中間層を層間剥離、或いは凝集剥離することにより、層間剥離、或いは凝集破壊された中間層の剥離面に金属超微粒子が露出し、吸着性或いは微小蛋白質不活性化を、上述した第一の態様の積層体と同様に効果的に発現することが可能となるのである。
従って、金属超微粒子含有樹脂層を中間層とする成形体においては、金属超微粒子含有中間層を層間剥離、或いは凝集剥離させることにより、初めて金属超微粒子が表面に露出して優れた吸着性及び微小蛋白質不活性化を発揮し始めるため、使用前に効果が発揮されて、実際の使用時には既に効果が低減してしまっているということがなく、効果の即効性と持続性を向上することが可能となる。
【0012】
本発明の成形体における金属超微粒子の表面への露出方法としては、金属超微粒子が表面に露出する限り如何なる手法によるものであってもよいが、具体的には、金属超微粒子含有樹脂層の表面を粗面化することにより容易に金属超微粒子を露出させることができる。
粗面化の方法としては、ショットブラスト、サンドブラスト加工や金属超微粒子含有層表面をサンドペーパーやワイヤーブラシを用いて削ったり、或いは研磨剤を用いて研磨する等の方法を採用できるが、好適にはショットブラスト加工により粗面化することが好ましい。
粗面化は、成形体の形態、用途等によって一概に規定できないが、表面粗さRaが0.01乃至0.3となるように行うことが、金属超微粒子が有する効果の即効性を得る上で望ましい。
また金属超微粒子を露出させる他の方法としては、本発明の金属超微粒子含有樹脂層を中間層とする成形体を金属超微粒子含有中間層で層間剥離、或いは凝集剥離することによって、上述した2層構成の成形体として金属超微粒子を露出させることもできる。
【0013】
(金属超微粒子)
本発明の成形体に含有される金属超微粒子の金属成分は、Cu,Ag,Au,In,Pd,Pt,Fe,Ni,Co,Nb,Ru,Rh、Sn等を挙げることができ、中でもAu,Ag,Cuが好適である。これらの金属成分は、単体、混合物、合金等であってもよい。
前述したとおり、本発明においては、かかる金属が有機酸と結合を有していることが重要な特徴であり、1518cm−1付近に有機酸と金属間の結合に由来する赤外吸収ピークを有している。
【0014】
有機酸としては、ミリスチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,パルミチン酸,n−デカン酸,パラトイル酸,コハク酸,マロン酸,酒石酸,リンゴ酸,グルタル酸,アジピン酸、酢酸等の脂肪族カルボン酸、フタル酸,マレイン酸,イソフタル酸,テレフタル酸,安息香酸、ナフテン酸等の芳香族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式カルボン酸等を挙げることができる。
本発明においては、用いる有機酸が、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等の高級脂肪酸であるものが好ましく、炭素数の多いものあることが特に好ましい。
金属超微粒子の好適な出発物質である有機酸金属塩としては、特にミリスチン酸銀、ステアリン酸銀等を挙げることができ、また平均粒子径が1乃至500μm、特に10乃至200μmの範囲にあることが好ましい。
【0015】
本発明の有機酸と金属の間に結合を有する金属超微粒子は、金属超微粒子の出発物質である有機酸金属塩を不活性ガス雰囲気で熱処理することにより、金属超微粒子単体を生成することができるが、好適には、有機酸金属塩を熱可塑性樹脂と混合し、有機酸金属塩が樹脂中で熱分解する温度以上、且つ熱可塑性樹脂の劣化温度未満の温度の熱処理を経ることによって、樹脂中で金属超微粒子を形成し、均一分散させることができる。
本発明に用いる金属超微粒子を得るために必要な加熱条件は、用いる有機酸金属塩によっても相違するので、一概には規定できないが、一般的には120乃至350℃、特に170乃至300℃の温度で、30乃至1800秒、特に120乃至600秒加熱されることが望ましい。
本発明の成形体中に含有される金属超微粒子は、その最大径が1μm以下で、その平均粒子径は特に1乃至100nmの範囲にあることが望ましい。
【0016】
(一層構成の金属超微粒子含有成形体)
上述した金属超微粒子含有積層体のうち一層構成のものは、金属超微粒子を含有する樹脂組成物をフィルム、シート、繊維、或いは用途に応じた形状に成形した成形体とし、その表面を粗面化することにより成形することができる。
金属超微粒子を含有して成る樹脂組成物は、金属超微粒子を含有する樹脂成形体を成形可能な樹脂組成物であり、上述したように、不活性雰囲気下で有機酸金属塩を熱処理して得られた金属超微粒子を樹脂中に配合したものでもよいが、特に、上述した金属超微粒子の出発物質である有機酸金属塩を含有する樹脂組成物であることが好ましい。
すなわち前述した通り、有機酸と金属との間に結合を有する金属超微粒子の出発物質である有機酸金属塩が、樹脂組成物の成形加工の際の熱処理によって、樹脂成形品中で金属超微粒子を形成し、均一分散させることで樹脂成形品中に金属超微粒子を存在させることが可能になる。
尚、有機酸と金属との間に結合を有する金属超微粒子が樹脂中で均一分散されていることは、ナノ粒子のプラズモン吸収の存在により確認することができる。
【0017】
金属超微粒子を含有する樹脂としては、溶融成形が可能な熱可塑性樹脂であれば従来公知のものをすべて使用でき、例えば、低−,中−,高−密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタエート等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。
好適には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルを用いることが好適であるが、特に吸着性を目的とする場合には、特に酸素透過係数が1.0×10−4cc・m/m・day・atm以上の樹脂であることが好ましい。これにより、臭気成分或いはVOCの樹脂中への透過が大きくなり、樹脂中の吸着性金属超微粒子への臭気成分或いはVOCの吸着を容易にすることができ、吸着性をより向上することができ、特にポリエチレンを好適に使用できる。
また本発明の金属超微粒子含有成形体においては、その用途に応じて、それ自体公知の各種配合剤、例えば、充填剤、可塑剤、レベリング剤、増粘剤、減粘剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を公知の処方に従って配合することができる。
【0018】
本発明の樹脂成形体においては、樹脂100重量部当り有機酸金属塩を0.001乃至5重量部の量で配合することが好ましく、上記範囲よりも少ないと十分な効果を得ることができず、一方上記範囲よりも多いと金属超微粒子が凝集し、均一分散が困難になるおそれがあるので好ましくない。
【0019】
(多層構成の金属超微粒子含有成形体)
本発明の金属超微粒子含有成形体においては、上述した金属超微粒子含有樹脂層の粗面化処理されていない面に他の層が積層された多層構造を有するものであってもよい。
かかる多層構成の金属超微粒子含有成形体における他の層は、上述した熱可塑性樹脂から用途に応じて選択された樹脂、或いは金属超微粒子含有樹脂層と積層し得る限り、金属箔等の金属基体、紙等であってもよい。
多層構成の金属超微粒子含有成形体は、従来公知の方法により成形することができ、例えば、予め形成されたキャストフィルムを接着剤を用いて或いは熱接着により積層してもよいし、共押出、共射出等によって積層体としてもよい。このように成形された積層体の金属超微粒子含有樹脂層を粗面化処理を行うことによって成形することができる。
また、上述した金属超微粒子が熱可塑性樹脂層の表面に露出している一層構成の金属超微粒子含有成形体に、予め形成されたキャストフィルムを接着剤を用いて或いは熱接着により積層してもよいし、共押出、共射出等によって3層の積層体を成形した後、金属超微粒子含有樹脂層と層間剥離することにより、金属超微粒子を熱可塑性樹脂層の表面に露出させることができる。
さらに、後述する金属超微粒子を含有する樹脂層を中間層とする少なくとも3層の成形体を成形した後、金属超微粒子含有樹脂層を凝集破壊することにより、金属超微粒子を熱可塑性樹脂層の表面に露出させることができる。
【0020】
また本発明の多層構成の金属超微粒子含有成形体においては、予め成形された成形体表面に有機酸金属塩を含有するコーティング剤を塗布し、焼き付けることによって金属超微粒子含有塗膜を形成し、この金属超微粒子含有塗膜の表面に粗面化処理を行うこともできる。
かかる有機酸金属塩含有コーティング剤は、塗膜の焼付けの際の熱処理によって、塗料成分中で金属超微粒子が形成し、均一分散されることで、塗膜中に有機酸と金属の間に結合を有する金属超微粒子が存在することが可能になる。
有機酸金属塩は、塗料成分100重量部に対して0.01乃至5重量部の量で配合させることが好ましく、上記範囲よりも少ないと十分な効果を得ることができず、一方上記範囲よりも多いと金属超微粒子が凝集するおそれがあるので好ましくない。
【0021】
有機酸金属塩を配合する塗料成分としては、加熱により塗膜形成が可能なものであれば種々のものを使用することができる。例えば、これに限定されないが、アクリル系塗料、エポキシ系塗料、フェノール系塗料、ウレタン系塗料、ポリエステル系塗料、アルキド樹脂塗料等の従来公知の塗料組成物を用いることができる。
コーティング材の熱処理条件は、用いる塗料成分及び有機酸金属塩の種類によって一概に規定できないが、用いる塗料成分の熱劣化を生じない温度、且つ有機酸金属塩がナノ粒子化及びナノ分散し得る上述した温度範囲内で、60乃至600秒間加熱処理を行うことが必要である。
【0022】
(金属超微粒子含有樹脂層を中間層とする成形体)
金属超微粒子含有樹脂層を中間層とする少なくとも3層の成形体において、中間層を構成する樹脂としては、上述した熱可塑性樹脂から選択することができるが、中間層は容易に層間剥離或いは凝集破壊して中間層で剥離できることが必要である。
凝集破壊を容易にするためには、上述した熱可塑性樹脂の凝集力を低下させるために、無機系粒子或いは中間層を構成する樹脂と非相溶の樹脂を配合することが好ましい。
無機系粒子としては、これに限定されないが、カーボンブラック、ホワイトカーボン、タルク、クレー、マイカ、珪酸カルシウム、ゼオライト、珪藻土、ケイ砂、合成シリカ、アルミナ水和物、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、金属粉末、ガラス粉末等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
また、凝集力の低下という観点から。これらの無機系粒子の平均粒径は0.1〜100μmの範囲内にあることが望ましい。
【0023】
また、中間層を構成する樹脂と非相溶の樹脂としては、例えば中間層にポリエチレン系樹脂を用いた場合、好ましい非相溶樹脂として、例えば、ポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびポリメタクリル酸メチル樹脂等を挙げることができる。
これらの無機系粒子および非相溶樹脂は、中間層を構成する樹脂100重量部当たり1乃至100重量部の範囲内の値とすることが好ましい。上記範囲よりも配合量が少ないと、凝集力低下効果が十分発揮されないおそれがあり、一方上記範囲よりも多い場合には、中間層が内外層との接着性に劣るようになり、中間層における凝集破壊力よりも内外層と中間層との接着力が低くなり、金属超微粒子含有中間層を容易に凝集破壊させることが困難になる。
【0024】
また金属超微粒子含有中間層と隣接する層の界面の接着強度を強めることによっても、金属超微粒子含有中間層が容易に凝集破壊することが可能となるので、内外層と中間層の間に従来接着性樹脂として使用されていた、酸変性オレフィン樹脂、ウレタン系樹脂等を用いて積層してもよい。
また最内層及び最外層を構成する樹脂は、特に金属超微粒子の吸着性を目的とする場合には、中間層への吸着成分の透過を防止する上で、ガスバリア性を有していることが望ましく、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ガスバリア性ポリエステル、金属箔等を好適に用いることができる。
【0025】
層構成としてはこれに限定されないが、ガスバリア層/金属超微粒子含有易凝集破壊性樹脂層/ガスバリア層、ガスバリア層/接着剤樹脂層/金属超微粒子含有中間層/接着剤樹脂層/ガスバリア層等を挙げることができる。
また金属超微粒子含有中間層における凝集破壊による剥離を容易にするために成形体の端部において、中間層が存在せず内外層が接着されていない剥離開始位置を設けておくことが好ましい。
金属超微粒子を中間層とする成形体における中間層の厚みは、これに限定されるものではないが、5μm以上、特に5乃至1000μmの厚みを有することが望ましい。
この態様においても、中間層を構成する樹脂100重量部当り有機酸金属塩を0.001乃至5重量部の量で配合することが好ましく、また中間層の厚みは、これに限定されるものではないが、5μm以上、特に5乃至1000μmの厚みを有することが望ましい。
この態様においては、成形体は、シート、フィルム等の他、中間層を凝集破壊し得る形状である限り、種々の形状を採用することができる。
【実施例】
【0026】
(消臭評価)
1.未消臭時メチルメルカプタン濃度の測定
口部をゴム栓で密封した窒素ガス置換した500mLガラス製瓶内に、前記瓶内の濃度が10ppmになるように調整された悪臭物質メチルメルカプタン5μLをマイクロシリンジにて注入し、室温(25℃)で1日放置した。1日放置後、瓶中へガステック製検知管を挿入し残存メチルメルカプタン濃度を測定し未消臭時メチルメルカプタン濃度(A)とした。
【0027】
2.消臭後メチルメルカプタン濃度の測定
実施例及び比較例から得られた成形体を50mm四方に切り出し、窒素ガス置換した500mLガラス製瓶内に入れてゴム栓で密封した後、前記瓶内の濃度が10ppmになるように調整された悪臭物質メチルメルカプタン5μLをマイクロシリンジにて注入し、室温(25℃)で5分、1時間、1日放置したものをそれぞれ準備した。5分、1時間、1日放置後、それぞれの瓶中へガステック製検知管を挿入し残存メチルメルカプタン濃度を測定し、消臭後メチルメルカプタン濃度(B)とした。
【0028】
3.メチルメルカプタン消臭率の算出
前記未消臭時メチルメルカプタン濃度(A)から消臭後メチルメルカプタン濃度(B)を引いた値を未消臭時メチルメルカプタン濃度(A)で割り百分率で表した値を消臭率とし、5分後、1時間後、1日後の消臭率を算出した。
【0029】
(抗菌評価)
実施例及び比較例により得られた成形体を、JIS Z 2801により抗菌効果の確認を行った。菌種は大腸菌(escherichia coli)を用いた。無抗菌加工フィルムの培養後菌数を得られた成形体についての培養後菌数を除した数の対数値を抗菌活性値とし算出した。なお、抗菌効果の確認について黄色ブドウ球菌(S.aureus)には行っていないが、大腸菌(escherichia coli)と同様の抗菌効果があるものと推測される。
【0030】
(ダニアレルゲン不活性化評価)
1.ダニアレルゲン不活性化効果の確認方法(ダニスキャン)
ダニスキャン(アサヒフードアンドヘルスケア社製)を用いて、Der f I(アサヒフードアンドヘルスケア社製)(ダニ虫体に含まれるアレルゲン)に対する不活性化効果の確認を行った。前記不活性化効果の確認は、ダニ抗原の存在の確認、それぞれの成形体と抗原との接触・浸漬をそれぞれ行ない、下記に記載のダニスキャンの判定基準に従い、ダニアレルゲンの不活性化効果を確認した。
【0031】
2.ダニアレルゲンの存在の確認
(1)ダニ抗原溶液:PPチューブ(BIO−BIK社製)にDer f I溶液20μL(ダニ抗原量2μg)を添加し、37℃3時間インキュベートした。
(2)ダニ抗原の存在の確認:インキュベート後、溶液をダニスキャン測定部に滴下し、下記記載のCラインとTラインの着色量により前記ダニ抗原の存在を確認した。
【0032】
3.ダニアレルゲン不活性化効果の確認
(1)成形体サンプル:実施例及び比較例により成形体を長さ100mmの短冊状に採取し成形体サンプルとした。
(2)接触・浸漬:PPチューブ(BIO−BIK社製)にDer f I溶液20μL(抗原量2μg)を添加し、成形体サンプルを挿入して接触・浸漬させて、37℃3時間インキュベートした。
(3)判定:インキュベート後、成形体サンプルを除去し、溶液をダニスキャン測定部に滴下し、下記記載のCラインとTラインの着色量により不活性化効果を確認した。
【0033】
4.ダニスキャンの判定基準
1:ダニアレルゲンの汚染はない(Cライン着色、Tライン着色全くなし)
2:ややダニアレルゲンで汚染されている(Cライン着色>Tライン着色)
3:ダニアレルゲンで汚染されている(Cライン着色=Tライン着色)
4:非常にダニアレルゲンで汚染されている(Cライン着色<Tライン着色)
【0034】
(酵素不活性化評価)
1.酵素不活性化効果の確認方法
β-ガラクトシダーゼを用いて酵素の不活性化効果の確認を行った。前記不活性化効果の確認は、酵素の存在を確認してイニシャル値とし、一方、実施例及び比較例から得られた成形体との接触・浸漬させてサンプル値とし、下記に記載する酵素不活性化率の算出を行って効果を確認した。尚、酵素の活性測定にはβ−Galactosidase Enzyme Assay System with Reporter Lysis Buffer (Promega 社製)を用い、β−ガラクトシダーゼは添付品を用いた。
【0035】
2.イニシャルの酵素の存在の確認
(1)酵素溶液調整:β−ガラクトシダーゼの濃度が0.1μL/1mLになるように1×ReporterLysisBufferで希釈する。
(2)前処理:β−ガラクトシダーゼ溶液(0.1μL/1mL)50μLをPPチューブ(BIO−BIK社製)に添加し、37℃2時間インキュベートした。その後、1×ReporterLysisBufferを100μL混合した。
(3)発色反応:AssayBufferを150μL滴下し、混合後37℃湯浴中で30分間反応させた。
(4)反応停止:1M炭酸ナトリウム500μL混合し、反応を停止させた。
(5)吸光度測定:溶液の420nmの吸光度を測定し、イニシャル値とした。
【0036】
3.サンプルの酵素不活性効果の確認
(1)酵素溶液調整:β−ガラクトシダーゼの濃度が0.1μL/1mLになるように1×ReporterLysisBufferで希釈する。
(2)接触・浸漬:β−ガラクトシダーゼ溶液(0.1μL/1mL)100μLをPPチューブに添加し、成形体(幅3mm長さ20mm)をPPチューブ内へ挿入し溶液に接触・浸漬させ、37℃2時間インキュベートした。成形体を除去後溶液50μL採取し、1×ReporterLysisBuffer100μLと混合した。
(3)発色反応:AssayBufferを150μL滴下し、混合後37℃湯浴中で30分間反応させた。
(4)反応停止:30分後1M炭酸ナトリウム500μL混合し、反応を停止させた。
(5)吸光度測定:溶液の420nmの吸光度を測定し、サンプル値とした。
【0037】
3.酵素不活性化率の算出
測定したイニシャル値とサンプル値を用いて下記式より、サンプルの酵素不活性化率を求めた。
(酵素不活性化率)=(1−サンプル値/イニシャル値)×100(%)
【0038】
[実施例1]
低密度ポリエチレン樹脂に、ステアリン酸銀を0.5wt%の含有率になるように配合し、押出成形温度200℃で押出して単層フィルムを作製した。得られたフィルムの片側の表面粗さRaが0.15になるように炭化水素パウダーを用いてショットブラスト加工を行い、前述した消臭評価、抗菌評価、ダニアレルゲン不活性化評価、酵素不活性化評価を行った。
【0039】
[実施例2]
第2層としてエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)を用い、共押出して2層構成フィルムとした以外は、実施例1と同様に評価を行った。
【0040】
[実施例3]
第1層(表面層)が高密度ポリエチレン樹脂、第2層(中間層)が低密度ポリエチレン樹脂に、ステアリン酸銀を0.5wt%の含有率になるように配合し、第3層(下層)が高密度ポリエチレン樹脂になるように押出成形温度200℃で共押出して3層構成フィルムを作製した。得られた多層フィルムの第2層(中間層)を凝集剥離して金属超微粒子を第2層(中間層)表面に露出させ、剥離後の中間層と下層から成る多層フィルムを実施例1と同様に評価を行った。
【0041】
[実施例4]
第1層(表面層)をポリプロピレン樹脂、第2層(中間層)を低密度ポリエチレン樹脂とポリプロピレン樹脂をそれぞれ50wt%ブレンドしたブレンド樹脂、第3層(下層)を低密度ポリエチレン樹脂の3層構成フィルムを作製した以外は、実施例3と同様に評価を行った。
【0042】
[比較例1]
ショットブラスト処理を行わなかった以外は、実施例2と同様に2層構成フィルムを作製し、評価を行った。
【0043】
[比較例2]
実施例3と同様に多層フィルムを作製し、得られた多層フィルムの第1層と第2層(中間層)の間を層間剥離し、金属超微粒子を第2層(中間層)表面に露出させなかった以外は、実施例3と同様に評価を行った。
【0044】
前記実施例および比較例から金属超微粒子が熱可塑性樹脂の表面に露出していることにより、前記金属超微粒子による消臭等の吸着性、抗菌及びダニアレルゲン不活性化、酵素不活性化等の微少蛋白質不活性化を向上させることが可能であることがわかる。
【0045】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、有機酸成分と金属間で結合を有する金属超微粒子を含有する熱可塑性樹脂から成る層を有し、且つ前記金属超微粒子が熱可塑性樹脂層の表面に露出していることを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記金属超微粒子含有熱可塑性樹脂層を表面層とし、他の熱可塑性樹脂から成る層を組み合わせて成る積層構造を有する請求項1記載の成形体。
【請求項3】
前記金属超微粒子が、金属超微粒子含有熱可塑性樹脂層の表面を粗面化処理することにより表面に露出している請求項1又は2記載の成形体。
【請求項4】
前記金属超微粒子含有熱可塑性樹脂層を中間層とする少なくとも3層から成る積層体を、該中間層を剥離させることにより、金属超微粒子含有熱可塑性樹脂層を露出させることにより得られる請求項1乃至3の何れかに記載の成形体。
【請求項5】
有機酸成分と金属間で結合を有する金属超微粒子を含有する熱可塑性樹脂から成る層を中間層とする少なくとも3層から成る積層体であって、使用時に中間層を剥離させて、金属超微粒子を表面に露出させることを特徴とする成形体。
【請求項6】
前記金属超微粒子が、吸着性、微小蛋白質不活性化を有する請求項1乃至5の何れかに記載の成形体。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂層が300乃至700nmにプラズモン吸収を有する請求項1乃至6の何れかに記載の成形体。

【公開番号】特開2009−209201(P2009−209201A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50987(P2008−50987)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】