説明

金属間化合物分散型Al系材料及びその製造方法

【課題】Al−Mn−Ni系金属間化合物の粒子が均一に分散してなる高強度なAl系材料を提供する。
【解決手段】Al:82.5〜96.85質量%、Mn:2〜10質量%及びNi:1〜5.5質量%を含む材料であって、前記材料中にAl−Mn−Ni系金属間化合物の粒子が分散してなる金属間化合物分散型Al系材料に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属間化合物分散Al系材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度のAl系材料を得るには、鋳造法(I/M法)による材料は過飽和組成の場合、粗大粒子の析出や組織不均一が生じるため、高い引張強度を得ることは困難であることが一般に知られている。
【0003】
これに対し、粉末冶金法(P/M法)による材料は合金成分の均一固溶、過飽和固溶が容易であり、析出する金属間化合物による繊維強化により高強度化が可能になり、さらには析出する金属間化合物が熱的に安定なものであれば高い高温強度が得られる可能性がある。
【0004】
しかしながら、その金属間化合物も均一・微細なものになるように適切な組成及び製造工程を選択しなければ、充分な強度が得られない。
【0005】
アルミニウムの高温強度を上げるために析出させる金属間化合物として、通常は二元系金属間化合物(例えば、AlMn、AlCo、AlCr、AlFe、AlNi、AlTi等)がある。また、複数の元素を添加することもあるが、基本的にはこれらの二元系化合物を組み合わせて強化するといったコンセプトで合金設計が行われている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3など)。
【0006】
さらには、アルミニウム合金の強度を向上させる方法として、アルミニウム合金粉末とSiCのウィスカーによるP/M材料やI/M法によるSiCウィスカーとの複合材等も知られている。ところが、この複合材は製造工程が複雑であるほか、SiCウィスカーの均一分散が困難で、期待された強度を得ることが難しいという問題がある(特許文献4)。
【0007】
特開平7−316601には、高強度Al合金であるAl−Zn−Mg−Cu系合金(いわゆるA7000系アルミニウム合金)組成に特定量のAgを配合するとともに、アトマイズ法により急冷凝固合金粉末を調整し、この合金粉末を使用して粉末冶金法により固化成形体を得た後、この成形体を適切な条件下に時効処理する場合には、T6処理後の成形材の引張強度が飛躍的に増大することが知られている(特許文献5)。ここでは、この特定組成のAl合金にさらにMnを含有することで高強度を有するAl合金が得られることも開示されている。この高強度Al合金については、本発明者らにより種々の解析がなされている。その一つにおいて、この高強度Al合金の主な強化機構としては、準安定相による析出強化と棒状Mn金属間化合物による繊維強化の2つが挙げられ、棒状Mn金属間化合物の組成がAl,Zn,Cu,Mnの4元素を含む析出相であることが発表されている(非特許文献1)。
【0008】
また、特開平3−257133(特許文献6)において、アルミニウムマトリックス中に、主としてAlの金属間化合物を微細に分散させてなる高力、耐熱性アルミニウム基合金が開示されているが、さらなる高強度化が求められている。
【0009】
本発明者は、さきにAl−Mn−Cu−Zn系合金の微細組織と機械的性質について発表しているが(非特許文献2)、この発表はAl、Mn、Cu、Zn、Mgを構成要素とする合金に関するものであり、それ以外の系の合金については一切言及していない。
【特許文献1】特開2002−194460
【特許文献2】特開2000−328164
【特許文献3】特開平06−145921
【特許文献4】特開平07−157802
【特許文献5】特開平7−316601
【特許文献6】特開平3−257133
【非特許文献1】軽金属 第54巻 第1号(2004),2−8
【非特許文献2】軽金属学会第110回春期大会講演概要(2006)117−118
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、粉末冶金法(P/M法)による材料は合金成分の均一固溶、過飽和固溶が容易であり、7000系アルミニウム合金では粉末冶金法による高強度なAl合金が得られる組成が公知となっているが、7000系アルミニウム以外の異なるアルミニウム合金マトリックス中にAl−Mn−Ni系金属間化合物といった特定の組成を有する多元系金属間化合物を析出させる組成は知られていない。
【0011】
また、特開平3−257133で開示されているアルミニウム合金で得られる金属間化合物は、多元系金属間化合物を示唆してはいるが、析出した金属間化合物の具体的な組成比や形状等は何ら開示していない。
【0012】
すなわち、7000系アルミニウム合金以外での特定の多元系金属間化合物による高強度なアルミニウム合金は得られておらず、さらに高温強度に優れるものも得られていない。
【0013】
従って、本発明の主な目的は、特定の多元系金属間化合物の粒子が均一に分散してなる高強度なAl系材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の元素及び組成を採用することにより多元系金属間化合物の粒子を析出させることにより、7000系アルミニウム合金以外のアルミニウム合金系においても上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、下記の金属間化合物分散型Al系材料及びその製造方法に係る。
1. Al:82.5〜96.85質量%、Mn:2〜10質量%及びNi:1〜5.5質量%を含む材料であって、前記材料中にAl−Mn−Ni系金属間化合物の粒子が分散してなる金属間化合物分散型Al系材料。
2. 前記材料中に、さらにZrを0.15〜1.5質量%含む、前記項1に記載の金属間化合物分散型Al系材料。
3. 前記金属間化合物の組成がAl:70〜91原子%、Mn:7〜18原子%及びNi:2〜12原子%である、前記項1に記載の金属間化合物分散型Al系材料。
4. 前記金属間化合物の結晶系が斜方晶である、前記項1〜3のいずれかに記載の金属間化合物分散型Al系材料。
5. 前記粒子の粒径が30〜10,000nmである、前記項1〜4のいずれかに記載の金属間化合物分散型Al系材料。
6. 前記粒子がアスペクト比1.1〜50の棒状粒子である、前記項1〜5のいずれかに記載の金属間化合物分散型Al系材料。
7. 棒状粒子が一定方向に配向している、前記項6に記載の金属間化合物分散型Al系材料。
8. 前記項1に記載のAl系材料を製造する方法であって、
(1)Al:82.5〜96.85質量%、Mn:2〜10質量%及びNi:1〜5.5質量%を含む溶湯からアトマイズ法により急冷凝固粉末を調製する第1工程、
(2)前記粉末を成形することにより成形体を作製する第2工程、
(3)前記成形体を熱間押出することにより押出材を得る第3工程、
を含むことを特徴とする金属間化合物分散型Al系材料の製造方法。
9. 第2工程後において、第3工程に先立ち、予め前記成形体を400〜550℃で熱処理する工程をさらに含む、前記項8に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明材料は特定の合金組成を選定し、P/M法と押出工程を経ることにより、必要とされる特性が得られる。過飽和組成の場合、I/M法にて成形物を作製すると粗大粒子の析出や組織不均一が生じ、高い引張強度を得ることは困難である。しかし、P/M法によると、合金成分の均一固溶、過飽和固溶及び均一微細分散が可能となる。結晶粒径もI/M材と比較しても細かく、均一であるため、結晶粒微細化効果により高い引張強度が得られる。また、本開発合金は、ビレットの加熱時に棒状の金属間化合物が析出し、押出工程により、押出方向に配向し、その方向での引張強度向上に寄与することもできる。
【0017】
本発明材料の製造時に生成する棒状の金属間化合物は、Al−Mn−Niの三元系金属間化合物である。これは、三元系金属間化合物をターゲットとして合金設計を行っている点で従来の合金設計と大きく異なる。三元系化合物を用いる利点としては、金属間化合物粒子が微細になることが挙げられる。塊状のAlMnは1μm程度の大きさであるが、棒状のAl−Mn−Ni系の三元系金属間化合物は幅数100nm程度と微細である。成形工程でアトマイズ粉を加熱した場合、急冷凝固により強制固溶されていたMn等がMn金属間化合物として析出する。そのサイズや分散は析出の駆動力により決定するので、脱ガス温度と融点の差が大きい方が析出の駆動力が大きくなり、粒子が微細になる。例えば、二元系化合物の融点はAlMn:658℃、AlNi:854℃、AlCr:791℃(AlFeは準安定相のため不明)であるのに対し、Al−Mn−Ni三元系化合物の融点は状態図から854℃から923℃の間にあると予想され、それらに対して高温である。
【0018】
本発明のような微細な金属間化合物粒子は、粗大な金属間化合物粒子に比べて延性の低下が少なく、体積分率を大きくすることができる。
【0019】
また、融点が高い二元系金属間化合物としてはAlTi:1350℃、AlZr:1580℃といったトリアルミナイド等があるが、Tiと特にZrは過飽和に強制固溶させられる量がMnよりも小さく、また、Tiは脱ガス処理温度である500℃での固溶度が0.5質量%以上あり、分散相の体積分率が大きくならないことから、メインの強化相としては十分ではないという欠点がある。
【0020】
その結果、融点がある程度高く、かつ脱ガス処理温度である500℃での固溶限が小さく、かつ強制固溶させられる量が多い元素を用いること、という条件を従来よりも十分に満たすためには二元系金属間化合物では実現できない。
【0021】
これに対し、本発明では、分散相(分散粒子)として三元系金属間化合物であるAl−Mn−Ni三元系金属間化合物が形成される合金組成を採用することによって、上記金属間化合物の微細な粒子をマトリックス中に分散させ、それにより高い高温強度等を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
・ 金属間化合物分散型Al系材
本発明の金属間化合物分散型Al系材料は、Al:82.5〜96.85質量%、Mn:2〜10質量%及びNi:1〜5.5質量%を含む材料であって、前記材料中にAl−Mn−Ni系金属間化合物の粒子が分散してなる。
【0023】
Alは、通常82.5〜96.85質量%、さらには86〜94質量%であることが好ましい。Alが82.5質量%未満の場合はAl‐Mn‐Ni系金属間化合物が粗大になり、脆性になる。また、Alが96.85質量%を超える場合はAl‐Mn‐Ni系金属間化合物が微細になりすぎ、複合強化の役割を十分に果たさないという問題が起こる。
【0024】
Mnは、通常2〜10質量%であり、特に4〜9質量%であることが好ましい。Mnが2質量%未満の場合はAlNiをはじめとする強度の高くない二元系金属間化合物が析出するので、伸びが大きく低下する。また、Mnが10質量%を超える場合は粗大なAlMnが析出し、伸びが大きく低下する。本発明合金においては、Mnは2〜10質量%の範囲に設定することにより、従来7000系アルミニウム合金以外では析出することが無い多元系金属間化合物が7000系アルミニウム合金以外のアルミニウム合金系においても析出するようになる。
【0025】
Niは、通常1〜5.5質量%であり、特に2〜5質量%であることが好ましい。Niが1質量%未満の場合はAlMnが析出し、強度が低下する。また、Niが5.5質量%を超える場合はAlNiが析出し、強度が低下する。
【0026】
また、本発明合金においては、さらにZrを0.15〜1.5質量%含ませることがより好ましい。Zrは、多元系金属間化合物の形成には寄与しないが、結晶粒の粗大化を抑制する効果がある。
【0027】
本発明材料中には、Al−Mn−Ni系金属間化合物の粒子が分散している。すなわち、本発明材料は、Al系マトリックスに分散材としてAl−Mn−Ni系金属間化合物の粒子が分散している。
【0028】
前記Al−Mn−Ni系金属間化合物の組成は、Al、Mn、Niを含む金属間化合物であれば限定的ではない。本発明では、前記金属間化合物の組成がAl:70〜91原子%、Mn:7〜18原子%、Ni:2〜12原子%であることが望ましい。より好ましくはAl:74〜87.5原子%、Mn:9〜17原子%、Ni:3.5〜9原子%である。かかる組成の金属間化合物を用いることにより、高い高温強度等をより確実に得ることができる。
【0029】
前記金属間化合物は、実質的に結晶性であることが好ましい。この場合の結晶系としては、斜方晶であることが好ましい。
【0030】
Al−Mn−Ni系金属間化合物の粒子の粒径(長径方向の平均粒径)は、所望の高温強度等が得られる限り制限されることはないが、通常は30〜10000nm(特に50〜2000nm)であることが好ましい。この粒径の測定方法は、断面の電子顕微鏡観察(例えばSEM)による画像解析により任意の粒子を100個程度選択して平均値を算出するという方法により実施する。
【0031】
Al−Mn−Ni系金属間化合物の粒子の形状は特に制限されないが、分散材による強化等の見地より、棒状粒子(繊維状粒子)であることが好ましい。特に、アスペクト比1.1〜50(特に2〜20)の棒状粒子であることが好ましい。なお、ここでのアスペクト比の測定方法は、断面の電子顕微鏡観察(例えばSEM)による画像解析により任意の粒子を100個程度選択し、それぞれの棒状粒子の長径と短径の比を求め、その比の平均値を算出することにより行われる。
【0032】
上記粒子が棒状粒子である場合、配向性を有していても良いし、無配向性であっても良い。本発明材料の形態、用途等に応じて適宜設定することができる。特に、一定方向の強度を高める場合等には、棒状粒子が配向していることが好ましい。例えば、本発明材料が板状体である場合は、その板状体の厚み方向に対して垂直方向に棒状粒子が配向していることが好ましい。配向性の付与は、押出形成等の公知の方法によって実施することができる。
【0033】
なお、本発明では、確認的には、Al:76〜95質量%、Mn:2〜7質量%、Cu:2〜9質量%、Zn:1〜4質量%及びMg:0〜2質量%を含む材料であって、前記材料中にAl−Mn−Cu−Zn系金属間化合物の粒子が分散してなる金属間化合物分散型Al系材料に係る発明を除く。
【0034】
2.金属間化合物分散型Al系材料の製造方法
本発明の金属間化合物分散型Al系材料の製造方法は限定されるものではないが、特に下記の製造方法によることが好ましい。すなわち、(1)Al:82.5〜96.85質量%、Mn:2〜10質量%及びNi:1〜5.5質量%を含む溶湯からアトマイズ法により急冷凝固粉末を調製する第1工程、(2)前記粉末を成形することにより成形体を作製する第2工程、(3)前記成形体を熱間押出することにより押出材を得る第3工程、を含むことを特徴とする金属間化合物分散型Al系材料の製造方法を好適に採用することができる。
(1)第1工程
第1工程では、Al:82.5〜96.85質量%、Mn:2〜10質量%及びNi:1〜5.5質量%を含む溶湯からアトマイズ法により急冷凝固粉末を調製する。
【0035】
溶湯の調製は、例えば上記組成を有するAl合金原料を高周波溶解炉において融解させ、約900℃の温度で保持すれば良い。
【0036】
アトマイズ法は、例えばガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法等のいずれであっても良いが、本発明ではガスアトマイズ法を好適に用いることができる。ガスアトマイズ法で用いるガス(流体)としては、例えば空気のほか、不活ガス(アルゴン、ヘリウム、窒素等)を用いることができる。
【0037】
アトマイズは、公知の装置(ガスアトマイズ機)を用いて実施することができる。例えば、Al合金溶湯をアトマイズ機に付属した坩堝に流し込む。この坩堝の底には、穴が開けられており、溶湯の温度を低下させることなく、ここからアトマイズノズルの溶湯噴出口まで導けるようにしておく。Al合金溶湯がアトマイズノズル溶湯噴出口に達する直前に、ノズル穴から高圧の空気の噴霧(アトマイズ)ガスが噴出し、このガスの圧力により溶湯噴出口から出てきたAl合金溶湯は細かく粉砕される。このように細かく粉砕された溶湯は、高圧のガス及び/又は雰囲気により直ちに冷却され、凝固することにより、Al合金急冷凝固粉末が得られる。アトマイズに際しては、Al基合金溶湯を10K/秒以上の冷却速度で凝固させる。
【0038】
アトマイズ法で得られるAl合金急冷凝固粉末は用途に応じて、所定の粒径(例えば、100メッシュのふるいにより、150μm以下)にふるい分けることができる。また、Al合金急冷凝固粉末の粒子形状も制限されず、球状、フレーク状、不定形状等のいずれであっても良い。
(2)第2工程
第2工程では、前記粉末を成形することにより成形体を作製する。成形方法は、特に制限されず、例えば冷間静水圧プレス(CIP)、熱間静水圧(HIP)等の公知の方法を採用することができる。成形時における成形圧は、所望の相対密度、用いる前記粉末の組成等に応じて適宜決定できるが、通常は500〜5000kg/cm程度とすれば良い。或いは、上記のようにして得たAl合金粉末急冷凝固粉末を固化成形した後に、必要ならば脱ガス処理を施しても構わない。
【0039】
本発明では、第2工程後において、第3工程に先立ち、予め前記成形体を400〜550℃(好ましくは450〜500℃)で熱処理する工程を実施しても良い。この場合の熱処理雰囲気は、一般には、空気中雰囲気で行うが、不活性雰囲気で予備加熱しても構わない。上記熱処理によって押出圧力を下げることが可能となる。
(3)第3工程
第3工程では、前記成形体を熱間押出することにより押出材を得る。熱間押出する場合の温度条件は通常は350〜550℃程度とすれば良い。熱間押出の条件は限定されない。押出比は、5〜100程度で押出すことにより、成形材とすることができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0041】
実施例1〜4
下記に示す各組成のAl合金原料を用いてAl系材料を作製した。
【0042】
組成No.1:Al−5.7Mn−2.3Ni−0.4Zr (mass%)
組成No.2:Al−6.8Mn−2.7Ni−0.4Zr (mass%)
組成No.3:Al−6.8Mn−3.5Ni−0.4Zr (mass%)
組成No.4:Al−8.54Mn−4.3Ni−0.4Zr (mass%)
上記の組成No.1からNo.4の組成を有するAl合金原料を高周波溶解炉において融解させ、900℃の温度で保持した後、Al合金溶湯をアトマイズ機に付属した坩堝に流し込み、ガスアトマイズ法によりAl合金急冷凝固粉末(100メッシュアンダー品、平均粒子径は表1に示す。)を得た。粒度測定は、レーザー回折式粒度分布測定法により行った。得られた粉末をゴム型に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)により、1500kg/cmの成形面圧で直径95mm×長さ200mmの寸法の粉末圧粉体を作成し、熱間押出用のビレットとした。次いで、このビレットを500℃で加熱し、押出比40で熱間押出しを行い、直径15mmの棒状の成形材を作製した。この押出材からJISG0567の試験に準じた試験片を作製した。
【0043】
試験例1
実施例及び比較例で得られた材料の引張試験を行い、引張強度及び伸びを測定した。高温引張り試験はJISG0567に準じて行った。すなわち、10℃/分で目標温度まで昇温し、目標温度で10分間保持した後、7.5%/分の歪み速度で、破断まで引っ張った。
【0044】
なお、組成No.1〜4は室温(RT)、250℃及び300℃の試験温度で引張試験をそれぞれ行った。その結果を表1に示す。同様に、表1には、比較例1として2000系アルミニウム合金である「2024−T4、」比較例2として1000系アルミニウムである「1100−0」の高温引張り試験結果も併せて示す。
【0045】
【表1】

【0046】
次に、組成No.1で得られた材料(実施例1)の合金組織を観察した写真(SEM)を代表例として図1に示す。図1によれば、長径100〜500nm程度の微細な棒状のQ相が高密度に分散しており、これらは押出し方向に並んでいる(図1の押出し方向は右側から左側方向に向かってである。)。
【0047】
さらに、組成No.4で得られた材料(実施例4)についてTEM/EDXでQ相の組成分析を複数箇所(1試料あたり最低6箇所程度)行い、得られた各元素の組成範囲を代表例として表2に示す。なお、TEM/EDXでの材料の組成分析により、TEM薄膜の厚さ約200nm間の平均組成が検出される。
【0048】
【表2】

【0049】
また、組成No.2で得られた材料(実施例2)のXRDパターンを代表例として図2に示す。これらのピークは概ねAlとQ相のピークと考えられ、Q相以外の金属間化合物は形成されていないと考えられる。そして、1)Q相の空間群、2)点群及び3)格子定数は、実施例2は1)斜方晶、2)Cmcm及び3)a=0.76、b=0.89、C=0.65nmであると決定できた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】組成No.1(実施例1)のAl系材料の合金組織を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を示す図(イメージ図)である。
【図2】組成No.2(実施例2)のAl系材料のX線回折分析(XRD)によるパターンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al:82.5〜96.85質量%、Mn:2〜10質量%及びNi:1〜5.5質量%を含む材料であって、前記材料中にAl−Mn−Ni系金属間化合物の粒子が分散してなる金属間化合物分散型Al系材料。
【請求項2】
前記材料中に、さらにZrを0.15〜1.5質量%含む、請求項1に記載の金属間化合物分散型Al系材料。
【請求項3】
前記金属間化合物の組成がAl:70〜91原子%、Mn:7〜18原子%及びNi:2〜12原子%である、請求項1に記載の金属間化合物分散型Al系材料。
【請求項4】
前記金属間化合物の結晶系が斜方晶である、請求項1〜3のいずれかに記載の金属間化合物分散型Al系材料。
【請求項5】
前記粒子の粒径が30〜10,000nmである、請求項1〜4のいずれかに記載の金属間化合物分散型Al系材料。
【請求項6】
前記粒子がアスペクト比1.1〜50の棒状粒子である、請求項1〜5のいずれかに記載の金属間化合物分散型Al系材料。
【請求項7】
棒状粒子が一定方向に配向している、請求項6に記載の金属間化合物分散型Al系材料。
【請求項8】
請求項1に記載のAl系材料を製造する方法であって、
(1)Al:82.5〜96.85質量%、Mn:2〜10質量%及びNi:1〜5.5質量%を含む溶湯からアトマイズ法により急冷凝固粉末を調製する第1工程、
(2)前記粉末を成形することにより成形体を作製する第2工程、
(3)前記成形体を熱間押出することにより押出材を得る第3工程、
を含むことを特徴とする金属間化合物分散型Al系材料の製造方法。
【請求項9】
第2工程後において、第3工程に先立ち、予め前記成形体を400〜550℃で熱処理する工程をさらに含む、請求項8に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−255461(P2008−255461A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102036(P2007−102036)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】