説明

鉄−炭素−マンガンの鋼帯に亜鉛浴にて溶融めっきを施すための方法

本発明は、連続しているオーステナイト系の鉄/炭素/マンガン鋼の帯にアルミニウムを含む亜鉛の液体浴で溶融めっきを施す方法であって、酸化マンガンの薄い層で覆われた帯をもたらすため、鉄に対して還元性である雰囲気が内部に存在しているオーブンにて上記帯に熱処理が加えられ、次いで酸化マンガンの薄い層で覆われた上記帯が上記浴に通され、上記浴のアルミニウムの含有量が、鉄/マンガン/亜鉛合金の層と亜鉛の外側層とを含む被膜を帯の表面に形成するため、アルミニウムによって酸化マンガン層を完全に還元するために必要な含有量に少なくとも等しい値をもたらすように調節されている方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄−炭素−マンガン系オーステナイト鋼の連続帯に、アルミニウム含有の亜鉛系の液体浴にて溶融めっきを施すための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、二相の鋼帯など、自動車の分野において従来から使用されている鋼帯は、腐食からの保護のため、成形前または納品前に、亜鉛系の被膜によって被覆される。この亜鉛の層は、亜鉛の塩を含む電解浴における電気めっきによって、真空蒸着によって、あるいは溶融亜鉛浴を通過して高速で走行する帯の溶融めっきによって、通常は連続的に加えられる。
【0003】
亜鉛浴での溶融めっきによる亜鉛層での被覆に先立って、鋼帯に、鋼に均質な微細構造を与え、その機械的特性を向上させるために、還元性の雰囲気において再結晶焼きなましが加えられる。産業としての条件の下では、この再結晶焼きなましが、還元性の雰囲気が広がる炉において実行される。この目的のため、帯が、外部の環境から完全に隔離された部屋で構成されて、3つの領域、すなわち加熱の第1の領域、温度を均熱する第2の領域、および冷却の第3の領域を有する炉を通って走行させられ、これらの領域においては、鉄に対して還元性である気体で構成された雰囲気が広がっている。この気体は、例えば水素および窒素/水素混合物から選択することができ、−40℃〜−15℃の間の露点を有する。したがって、還元性の雰囲気における鋼帯の再結晶焼きなましは、鋼の機械的特性の改善に加えて、帯の表面に存在する酸化鉄が還元性の気体によって還元されるため、亜鉛層を鋼へと良好に結合させることができる。
【0004】
金属構造に軽量化およびより高い耐衝撃性を要求する特定の自動車用の用途においては、従来からの鋼種が、優れた機械的特性を有し、特には機械的強度と破断点伸びのきわめて好都合な組み合わせ、優秀な成形性、および欠陥または応力集中の存在下での高い引っ張り強度を有する鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼で置き換えられ始めている。そのような用途は、例えば、自動車の安全性および耐久性に貢献する部品、または外装部品に関係する。
【0005】
これらの鋼も、再結晶焼きなましの後に、亜鉛層によって腐食から保護することが可能である。しかしながら、本発明者らは、高速(40m/s超)で走行している鉄−炭素−マンガン系の鋼帯を、亜鉛浴にて溶融めっき法を使用して亜鉛層で被覆することが、標準的な条件の下では不可能であることを実際に確認した。これは、被覆に先立って帯へと加えられる熱処理の際に形成されるMnOおよび(Mn,Fe)Oという種類の酸化物が、帯の表面を液体亜鉛に対してノンウェッティングにするためである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、液体亜鉛系の浴にて、連続している鉄−炭素−マンガン系の鋼帯を亜鉛系の被膜にて溶融めっきするための方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため、本発明の主題は、温度T2であるアルミニウム含有の亜鉛系の液体浴において、0.30%≦C≦1.05%、16%≦Mn≦26%。Si≦1%、およびAl≦0.050%(これら含有量は、重量%にて表現されている)を含む鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼の帯に溶融めっきを施すための方法であって、
・非晶質の鉄マンガン混合酸化物(Fe,Mn)Oからなる連続的な下層および結晶性MnO酸化マンガンからなる連続的または非連続的な外側層で両面が覆われてなる帯を得るため、鉄に対して還元性である雰囲気が広がっている炉において、加熱速度V1での加熱段階と、均熱時間Mにわたる温度T1での均熱段階と、その後の冷却速度V2での冷却段階とを含む熱処理を、上記帯に加えるステップ、および
・帯を亜鉛系の被膜で被覆するため、酸化物層で覆われた上記帯を、上記浴を通って走行させるステップ
を含み、
上記浴のアルミニウム含有量が、帯の表面に3つの鉄−マンガン−亜鉛合金層および1つの表面亜鉛層を含む上記被膜を形成するため、アルミニウムによって結晶性MnO酸化マンガン層を完全に還元し、かつ非晶質(Fe,Mn)O酸化物層を少なくとも部分的に還元するために必要とされる含有量に少なくとも等しい値へと調節されている方法である。
【0008】
さらに、本発明の主題は、本方法によって得ることができる亜鉛系の被膜を有する鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼帯である。
【0009】
本発明の特徴および利点は、あくまで非限定的な例として提示される以下の説明を通じて、より明確に理解されるであろう。
【0010】
すなわち、本発明者らは、鉄−炭素−マンガン系の鋼帯の表面に形成された(Fe,Mn)O混合酸化物/酸化マンガンの二重層が亜鉛系の液体浴に含まれたアルミニウムによって還元されるように好ましい条件を生成することによって、帯の表面が亜鉛に対してウェッティングとなり、亜鉛系の被膜による被覆が可能になることを実証した。
【0011】
この鋼帯の厚さは、典型的には0.2mm〜6mmの間であり、熱間連続圧延装置または冷間連続圧延装置からもたらされるものであってよい。
【0012】
本発明に従って使用される鉄−炭素−マンガン系オーステナイト鋼は、重量%にて、0.30%≦C≦1.05%、16%≦Mn≦26%、Si≦1%、Al≦0.050%、S≦0.030%、P≦0.080%、およびN≦0.1%を含み、さらに随意によりCr≦1%、Mo≦0.40%、Ni≦1%、Cu≦5%、Ti≦0.50%、Nb≦0.50%、V≦0.50%などの1つ以上の元素を含み、組成の残りが、鉄および精錬からもたらされる不可避の不純物で構成されている。
【0013】
炭素が、微細構造の形成においてきわめて重要な役割を果たしている。炭素が、積層欠陥エネルギーを大きくし、オーステナイト相の安定を促進する。16重量%〜26重量%の範囲のマンガン含有量との組み合わせにおいて、この安定性は、0.30%以上の炭素含有量について得られる。しかしながら、炭素の含有量が1.05%を超えると、産業的製造において或る特定の熱サイクル(特には、巻き取り後の冷却)の際に生じて延性および靱性を低下させる炭化物の析出を、防止することが困難になる。
【0014】
好ましくは、炭素の含有量は、0.40重量%〜0.70重量%の間である。これは、炭素含有量が0.40%〜0.70%の間である場合に、オーステナイトの安定性がより大きく、強度が向上するためである。
【0015】
マンガンも、強度を高め、積層欠陥エネルギーを大きくし、オーステナイト相を安定にするうえで、重要な元素である。マンガンの含有量が16%未満である場合、変形性を顕著に低下させるマルテンサイト相の形成の恐れが存在する。また、マンガンの含有量が26%を超えると、室温における延性が低下する。さらには、コストの理由ゆえ、高すぎるマンガン含有量は望ましくない。
【0016】
好ましくは、本発明による鋼のマンガン含有量は、20重量%〜25重量%の間である。
【0017】
ケイ素は、鋼の脱酸および固相硬化に有効な元素である。しかしながら、含有量が1%を超えると、MnSiOおよびSiOの層が鋼の表面に形成され、これらの層は、(Fe,Mn)O混合酸化物およびMnO酸化マンガンの層に比べ、亜鉛系の浴に含まれているアルミニウムによる還元を、きわめて受けにくい。
【0018】
好ましくは、鋼中のケイ素含有量は、0.5重量%未満である。
【0019】
アルミニウムも、鋼の脱酸にきわめて有効な元素である。炭素と同様、積層欠陥エネルギーを大きくする。しかしながら、マンガン含有量の多い鋼中に過剰な量で存在すると、不都合が存在する。これは、マンガンによって液体の鉄への窒素の溶解度が高められ、鋼に過剰に大量のアルミニウムが存在する場合には、窒素がアルミニウムと結び付いてチッ化アルミニウムの形態で析出し、高温変態の際の粒界の移動を妨げ、割れの発生の恐れを顕著に高めるためである。0.050%以下のAl含有量であれば、AlNの析出を防止することが可能である。これに対応し、窒素の含有量は、この析出および凝固の際の体積欠陥(気泡)の形成を防止するため、0.1%以下である。
【0020】
さらに、アルミニウムが0.050重量%を超えると、MnAlおよびMnOAlなどの酸化物が鋼の再結晶焼きなましの際に形成され始め、これらの酸化物は、(Fe,Mn)OおよびMnO酸化物に比べ、亜鉛系の被覆浴に含まれているアルミニウムによる還元が、より困難である。これは、アルミニウムを含むこれらの酸化物が、(Fe,Mn)OおよびMnO酸化物よりもはるかに安定であるためである。したがって、たとえ亜鉛系の被膜を鋼の表面に形成できたとしても、アルミナの存在ゆえ、いかなる場合も付着に乏しいものになると考えられる。したがって、亜鉛系の被膜の良好な付着を達成するために、鋼中のアルミニウムの含有量が0.050重量%未満であることが不可欠である。
【0021】
硫黄およびリンは、粒界を脆くする不純物である。これらの含有量は、充分な熱間延性を均熱するために、それぞれ0.030%および0.080%を超えてはならなない。
【0022】
クロムおよびニッケルを、固溶体硬化によって鋼の強度を向上させるために、随意により使用することができる。しかしながら、クロムは積層欠陥エネルギーを小さくするため、含有量が1%を超えてはならない。ニッケルは、大きな破断点伸びの達成に貢献し、特には靱性を向上させる。しかしながら、コストの理由ゆえ、ニッケルの含有量を、1%を超えない最大含有量に抑えることが望ましい。同様の理由で、モリブデンを、0.40%を超えない量で添加することができる。
【0023】
同様に、随意により銅を5%を超えない含有量まで加えることが、金属銅の析出によって鋼を硬くする1つの手段である。しかしながら、この含有量を超えると、銅が熱間圧延シートの表面欠陥の発生の原因となる。
【0024】
チタニウム、ニオブ、およびバナジウムも、炭窒化物の析出によって鋼を硬くするために、随意により使用することができる元素である。しかしながら、NbまたはVまたはTiの含有量が0.50%を超えると、炭窒化物の過剰な析出が、靱性の低下を引き起こす可能性があり、これを回避しなければならない。
【0025】
冷間圧延の後、鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼帯に、鋼の再結晶のための熱処理が加えられる。再結晶焼きなましにより、鋼に一様な微細構造をもたらして、鋼の機械的特性を向上させ、特には鋼に引き抜きによる使用を可能にすべく再び延性を与えることが可能になる。
【0026】
この熱処理は、帯の表面の過剰な酸化を避けるため、鉄に対して還元性である気体で構成された雰囲気が広がっている炉にて実行され、亜鉛の良好な結合を可能にする。この気体は、水素および窒素/水素混合物から選択される。好ましくは20体積%〜97体積%の間の窒素および3体積%〜80体積%の間の水素を含む気体混合物、さらに好ましくは85〜95体積%の間の窒素および5体積%〜15体積%の間の水素を含む気体混合物が、選択される。これは、水素が鉄を還元するための優れた物質であるにもかかわらず、窒素に比べてコストが高いため、水素の濃度を押さえることが好ましいためである。このように、鉄に対して還元性である雰囲気を炉の部屋内に有することで、厚いスケールの層、すなわち100nmよりも実質的に大きな厚さの層が形成されないようにすることができる。鉄−炭素−マンガン系の鋼の場合には、スケールは、マンガンの割合が少ない酸化鉄の層である。しかしながら、このスケール層は、亜鉛の鋼への付着を妨げるだけでなく、さらに不都合なことに、容易に割れる傾向を有する層でもある。
【0027】
産業の条件の下では、炉内の雰囲気は、鉄に対しては明らかに還元性であるが、マンガンなどの元素については還元性でない。これは、炉内の雰囲気を構成している気体が、避けることができない痕跡程度の微量の水分および/または酸素を含むためであるが、これらは上記気体の露点を利用することによって管理可能である。
【0028】
すなわち、本発明者らは、本発明によれば、炉内の露点が低いほど、すなわち酸素の分圧が低いほど、再結晶焼きなまし後に鉄−炭素−マンガン系の鋼帯の表面に形成される酸化マンガンの層が、薄くなることを確認した。これは、露点が低いほど炭素鋼帯の表面に形成される酸化物の密度が高くなるというワグナー(Wagner)の説に、一致しないように見受けられる。これは、炭素鋼の表面において酸素の量が減少した場合、鋼に含まれている酸化可能な元素の表面に向かう移動が増して、表面の酸化を助けるためである。特定の理論に縛られることを意図するものではないが、本発明者らは、本発明の場合には、非晶質の(Fe,Mn)O酸化物層がすみやかに連続的になると考えている。その結果、これが炉内の雰囲気の酸素に対するバリアを構成し、炉内の雰囲気の酸素が、もはや鋼に直接接触することがない。したがって、炉内の酸素の分圧が増すと、酸化マンガンの厚さが大きくなり、内部の酸化が生じることがなく、すなわち鉄−炭素−マンガン系オーステナイト鋼の表面と(Fe,Mn)O非晶質酸化物層との間に、追加の酸化物層が観察されることがない。
【0029】
このように、本発明の条件の下で行われる再結晶焼きなましは、帯の両面について、厚さが好ましくは5nm〜10nmの間である連続的な非晶質の(Fe,Mn)O鉄マンガン混合酸化物の下層、および厚さが好ましくは5nm〜90nmの間であり、好都合には5nm〜50nmの間であり、さらに好ましくは10nm〜40nmの間である連続的または非連続的な外側結晶質MnO酸化マンガン層の形成を可能にする。外側のMnO層は、粒状の外観を有し、MnO結晶のサイズは、露点が高くなる場合に大きく増加する。これは、それらの平均径が、−80℃の露点における約50nm(このとき、MnO層は不連続である)から、+10℃の露点における最大約300nm(この場合には、MnO層は連続的である)まで、変化するためである。
【0030】
本発明者らは、液体亜鉛系の浴のアルミニウム含有量が0.18重量%未満であって、MnO酸化マンガン層の厚さが100nmよりも大きい場合に、後者が浴に含まれているアルミニウムでは還元されず、亜鉛に対するMnOのノンウェッティングゆえに、亜鉛系の被膜が得られないことを実際に確認した。
【0031】
この目的のため、本発明による露点は、少なくとも炉の温度維持領域、さらに好ましくは炉の部屋の全体において、好ましくは−80℃〜20℃の間であり、好都合には−80℃〜−40℃の間であり、さらに好ましくは−60℃〜−40℃の間である。
【0032】
これは、標準的な産業の条件の下では、特定の条件の下で再結晶焼きなまし炉の露点を−60℃を下回る値へと下げることができるが、−80℃を下回る値まで下げることはできないためである。
【0033】
20℃を超えると、酸化マンガン層の厚さが、液体亜鉛系の浴に含まれているアルミニウムによって産業の条件の下で、すなわち10秒未満の時間で還元するためには、大きくなりすぎてしまう。
【0034】
−60℃〜−40℃の範囲は、亜鉛系の浴に含まれているアルミニウムによって容易に還元される比較的小さな厚さの酸化物二重層の形成を可能にするため、好都合である。
【0035】
熱処理は、加熱速度V1での加熱段階と、均熱時間Mにわたる温度T1での均熱段階と、その後の冷却速度V2での冷却段階とを含む。
【0036】
熱処理は、好ましくは、少なくとも6℃/秒の加熱速度V1で実行される。この値を下回ると、炉における帯の均熱時間Mが長くなりすぎ、産業上の生産性の要件に合致しなくなるためである。
【0037】
温度T1は、好ましくは600℃〜900℃の間である。これは、600℃を下回ると、鋼の再結晶が不完全になり、鋼の機械的特性が不充分なものになるためである。900℃を超えると、鋼の結晶粒径が大きくなり、良好な機械的特性を得る上で有害なばかりか、MnO酸化マンガン層の厚さがきわめて大きくなり、浴に含まれているアルミニウムによってMnOを完全に還元することができなくなるため、その後の亜鉛系の被膜の堆積が、不可能でないにせよ困難になる。温度T1が低いほど、形成されるMnOの量が少なくなってアルミニウムによる還元が容易になり、これがT1が好ましくは600℃〜820℃の間であり、好都合には750℃以下であり、好ましくは650℃〜750℃の間である理由である。
【0038】
均熱時間Mは、好ましくは20秒〜60秒の間であり、好都合には20秒〜40秒の間である。再結晶焼きなましは、一般的には、放射管に基づく加熱装置によって実行される。
【0039】
好ましくは、帯は、(T2−10℃)と(T2+30℃)との間の帯浸漬温度T3へと冷却され、T2は、液体亜鉛系の浴の温度として定められる。この帯を浴の温度T2に近い温度T3へと冷却することで、浴を通って走行する帯の付近の液体亜鉛を冷却または再加熱する必要がなくなる。これにより、帯の全長にわたって一様な構造を有する亜鉛系の被覆を帯上に形成できるようになる。
【0040】
帯は、結晶粒の粗大化を防止し、良好な機械的特性を有する鋼帯を得るため、好ましくは3℃/秒以上であって、好都合には10℃/秒を超える冷却速度V2で冷却される。したがって、帯は、通常は、両面へと空気の流れを吹き付けることによって冷却される。
【0041】
再結晶焼きなましが加えられた後に、鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼帯の両面が酸化物の二重層で覆われたとき、これがアルミニウム含有の亜鉛系の液体浴を通って走行させられる。
【0042】
亜鉛浴に含まれているアルミニウムは、酸化物の二重層の少なくとも部分的な還元に寄与するだけでなく、一様な表面外観を有する被膜の実現にも寄与する。
【0043】
一様な表面外観が、均一な厚さによって特徴付けられる一方で、不均一な外観は、大きな厚さの不均一によって特徴付けられる。炭素鋼の場合に生じる現象と異なり、鉄−炭素−マンガン系の鋼の表面には、FeAlおよび/またはFeAlという種類の界面層が形成されず、あるいは形成される場合でも、(Fe,Mn)Zn相の形成によって直ぐに破壊されてしまう。しかしながら、FeAlおよび/またはFeAlという種類の浮きかすは、浴内において発見される。
【0044】
浴内のアルミニウム含有量は、アルミニウムによって結晶性MnO酸化マンガン層を完全に還元し、かつ非晶質(Fe,Mn)O酸化物層を少なくとも部分的に還元するために必要とされる含有量に少なくとも等しい値へと調節される。
【0045】
この目的のため、浴内のアルミニウム含有量は、0.15重量%〜5重量%の間である。0.15%を下回ると、アルミニウム含有量が、MnO酸化マンガン層の完全な還元および(Fe,Mn)O層の少なくとも部分的な還元のためには不充分となり、鋼帯の表面が、亜鉛に対する充分なウェッティング状態を有することができない。浴内のアルミニウムが5%を超えると、本発明によって得られるものとは異なる種類の被膜が、鋼帯の表面に形成される。この被膜においては、浴内のアルミニウム含有量が多くなっているため、アルミニウムの割合が高くなっている。
【0046】
アルミニウムの他にも、亜鉛系の浴は、鉄を、好ましくはFeAlおよび/またはFeAlに対して過飽和であるような含有量で含むことができる。
【0047】
浴を液体の状態に保つため、浴を430℃以上の温度T2へと加熱することが好ましいが、亜鉛の過剰な蒸発を避けるため、T2は480℃を超えていない。
【0048】
好ましくは、帯が、2秒〜10秒の間であり、より好ましくは3秒〜5秒の間である接触時間Cにわたって、浴へと接触させられる。
【0049】
2秒未満であると、アルミニウムが、MnO酸化マンガン層を完全に還元し、(Fe,Mn)O混合酸化物層を少なくとも部分的に還元して、鋼の表面を亜鉛に対してウェッティングにするために、充分な時間を持つことができない。10秒を超えると、当然ながら酸化物の二重層が完全に還元されるが、ラインの速度が産業的な観点から見て遅くなりすぎる恐れがあり、被膜が過剰に合金化して厚さに関する調節が難しくなる恐れがある。
【0050】
このような条件により、帯の両面を、鋼/被膜の界面から出発して順に、2つの相(すなわち、立方相Γおよび面心立方相Γ1)から構成される鉄−マンガン−亜鉛合金の層と、六面構造の鉄−マンガン−亜鉛合金δ1の層と、単斜構造の鉄−マンガン−亜鉛合金ζの層と、亜鉛の表面層とを含む亜鉛系の被膜によって被覆することが可能になる。
【0051】
このように、本発明者らは、本発明によれば、アルミニウム含有の亜鉛系の浴において炭素鋼帯を被覆する場合に見られる現象と対照的に、鋼/被膜の界面にFeAl層が形成されないことを確認した。本発明によれば、浴内のアルミニウムが、酸化物の二重層を還元する。しかしながら、MnO層は、ケイ素系の酸化物層に比べ、浴のアルミニウムによってより容易に還元される。これが、局所的なアルミニウムの枯渇につながり、炭素鋼の場合に形成されると予想されるFeAl(Zn)被膜ではなく、FeZn相を含む被膜の形成につながる。
【0052】
本発明によって3つの鉄−マンガン−亜鉛合金層と1つの亜鉛表面層とを含む亜鉛系の被膜で被覆された帯のウェッティング状態を向上させるために、この被膜を完全に合金化させるべく合金化の熱処理が加えられる。結果として、鋼/被膜の界面から出発して順に、2つの相(すなわち、立方相Γおよび面心立方相Γ1)から構成される鉄−マンガン−亜鉛合金の層と、六面構造の鉄−マンガン−亜鉛合金δ1の層と、随意による単斜構造の鉄−マンガン−亜鉛合金ζの層とを含む亜鉛系の被膜によって両面が被覆された帯が得られる。
【0053】
さらに、本発明者らは、これらの(Fe,Mn)Zn化合物が、塗装の付着に有利であることを実際に確認した。
【0054】
合金化の熱処理は、好ましくは、鋼が亜鉛浴から出た直後に、490℃〜540℃の間の温度で、2秒〜10秒の間の時間にわたって実行される。
【0055】
次に、本発明を、あくまでこれに限られるものではない目安として提示されるいくつかの実施例によって、添付の図面を参照しつつ説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
1)被膜形成性への露点の影響
熱間圧延および冷間圧延の後に0.7mmの厚さを有していた鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼の帯から試料を切り出し、試験を実行した。この鋼の化学的組成を表1に示す。含有量は、重量%で表現されている。
【表1】

【0057】
試料に、以下の条件の下で、−80℃〜+10℃までの様々な露点(DP)の赤外炉にて、再結晶焼きなましを加えた。
・気体の雰囲気:窒素+15体積%の水素
・加熱速度V1:6℃/秒
・加熱温度T1:810℃
・均熱時間M:42秒
・冷却速度V2:3℃/秒
・浸漬温度T3:480℃
【0058】
これらの条件の下で、鋼は完全に再結晶化された。表2が、焼きなまし後の試料に形成され、下側の(Fe,Mn)O非晶質連続層と上側のMnO層とを含む酸化物二重層の特徴を、露点の関数として示している。
【表2】

【0059】
再結晶の後、試料を480℃の温度T3へと冷却し、0.18重量%のアルミニウムおよび0.02重量%の鉄を含み、温度T2が460℃である亜鉛浴に浸漬した。試料を、3秒の接触時間Cにわたって浴に接触させた状態に保った。浸漬の後に、試料表面に亜鉛系の被膜が存在しているか否かを確認するため、試料を調べた。表3が、得られた結果を露点の関数として示している。
【表3】

【0060】
本発明者らは、再結晶焼きなましの後の鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼帯に形成された酸化物二重層が、110nmよりも厚い場合、浴内に存在する0.18重量%のアルミニウムでは、酸化物二重層を還元して、亜鉛系の被膜を形成すべく鋼に対する亜鉛の充分なウェッティング状態を帯に与えるためには不充分であることを、実際に確認した。
【0061】
2)鋼のアルミニウム含有量の影響
熱間圧延および冷間圧延の後に0.7mmの厚さを有していた鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼帯から試料を切り出し、試験を実行した。使用した鋼の化学的組成が、表4に示されている。含有量は、重量%で表現されている。
【表4】

【0062】
試料に、以下の条件の下で、−80℃の露点(DP)の赤外炉にて、再結晶焼きなましを加えた。
・気体の雰囲気:窒素+15体積%の水素
・加熱速度V1:6℃/秒
・加熱温度T1:810℃
・均熱時間M:42秒
・冷却速度V2:3℃/秒
・浸漬温度T3:480℃
【0063】
これらの条件の下で、鋼は完全に再結晶化された。表5が、焼きなまし後の鋼の表面に形成された種々の酸化物膜の構造を、鋼の組成の関数として示している。
【表5】

【0064】
再結晶の後、試料を480℃の温度T3へと冷却し、0.18重量%のアルミニウムおよび0.02重量%の鉄を含み、温度T2が460℃である亜鉛浴に浸漬した。試料を、3秒の接触時間Cにわたって浴に接触させた状態に保った。浸漬の後に、試料は亜鉛系の被膜で被覆されていた。
【0065】
この鋼Aおよび鋼Bの試料に形成された亜鉛系の被膜の付着を明らかにするため、被膜付きの鋼へと粘着テープを適用し、次いで引き剥がした。表6が、この付着テストにおいて粘着片を引き剥がした後の結果を示している。付着を、0(引き剥がし後もテープが綺麗なままである)から始まってレベル3(グレイレベルが最も強い)まで、粘着テープ上のグレイレベルの格付けによって評価した。
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】先述の条件の下でそれぞれ−80℃、−45℃、および+10℃の露点で焼きなましを加えた鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼帯の表面の写真である。
【図2】先述の条件の下でそれぞれ−80℃、−45℃、および+10℃の露点で焼きなましを加えた鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼帯の表面の写真である。
【図3】先述の条件の下でそれぞれ−80℃、−45℃、および+10℃の露点で焼きなましを加えた鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼帯の表面の写真である。
【図4】先述の条件の下で+10℃の露点で再結晶焼きなましを行った後に鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼に形成された酸化物二重層の断面を示すSEM顕微鏡写真である。
【図5】先述の条件の下で−80℃の露点で焼きなましを行った鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼について、0.18重量%のアルミニウムを含有する亜鉛浴に浸漬した後に形成された亜鉛系の被膜の断面を示すSEM顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度T2であるアルミニウム含有の亜鉛系の液体浴において、含有量を重量%によって表現すると0.30%≦C≦1.05%、16%≦Mn≦26%、Si≦1%、およびAl≦0.050%である、鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼の帯に溶融めっきを施すための方法であって、
・非晶質の鉄マンガン混合酸化物(Fe,Mn)Oからなる連続的な下層および結晶性MnO酸化マンガンからなる連続的または非連続的な外側層で両面が覆われてなる帯を得るため、鉄に対して還元性である雰囲気が広がっている炉において、加熱速度V1での加熱段階と、均熱時間Mにわたる温度T1での均熱段階と、その後の冷却速度V2での冷却段階とを含む熱処理を、前記帯に加えるステップ、および
・帯を亜鉛系の被膜で被覆するため、前記酸化物層で覆われた前記帯を、前記浴を通って走行させるステップ
を含み、
前記浴のアルミニウム含有量が、帯の表面に3つの鉄−マンガン−亜鉛合金層および1つの表面亜鉛層を含む前記被膜を形成するため、アルミニウムによって結晶性MnO酸化マンガン層を完全に還元し、かつ非晶質(Fe,Mn)O酸化物層を少なくとも部分的に還元するために必要とされる含有量に少なくとも等しい値へと調節されている方法。
【請求項2】
前記鉄に対して還元性である雰囲気が、水素および窒素−水素混合物から選択される気体で構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記気体が、20体積%〜97体積%の間の窒素および3体積%〜80体積%の間の水素を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記気体が、85体積%〜95体積%の間の窒素および5体積%〜15体積%の間の水素を含むことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記気体が、−80℃〜20℃の間の露点を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記気体が、−80℃〜−40℃の間の露点を有することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記気体が、−60℃〜−40℃の間の露点を有することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
帯の熱処理が、6℃/秒以上の加熱速度V1、20秒〜60秒の間の均熱時間Mにわたる600℃〜900℃の間の温度T1、および(T2−10℃)〜(T2+30℃)の間の帯浸漬温度T3へと向かう3℃/秒以上の冷却速度V2で実行されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
温度T1が、650℃〜820℃の間であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
温度T1が、750℃を超えないことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
均熱時間Mが、20秒〜40秒の間であることを特徴とする、請求項8から10の一項に記載の方法。
【請求項12】
熱処理が、非晶質の(Fe,Mn)O混合酸化物層が5nm〜10nmの間の厚さにて、5nm〜90nmの間の厚さを有する結晶性MnO酸化マンガン層とともに、MnO層が浴のアルミニウムによって完全に還元される前に形成されるようなやり方で、還元性の雰囲気で実行されることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
結晶性MnO酸化マンガン層が、5nm〜50nmの間の厚さを有することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
結晶性MnO酸化マンガン層が、10nm〜40nmの間の厚さを有することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
亜鉛系の液体浴が、0.15重量%〜5重量%のアルミニウムを含むことを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
亜鉛系の液体浴の温度T2が、430℃〜480℃の間であることを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
帯が、2秒〜10秒の間の接触時間Cにわたって亜鉛系の液体浴に接触させられることを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
接触時間Cが、3秒〜5秒の間であることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
鋼の炭素含有量が、0.40重量%〜0.70重量%の間であることを特徴とする、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
鋼のマンガン含有量が、20重量%〜25重量%の間であることを特徴とする、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
オーステナイト鋼帯が3つの鉄−マンガン−亜鉛合金層と表面亜鉛層とを含む被膜で被覆された後に、前記被膜付きの帯に、前記被膜を完全に合金化するための熱処理が加えられることを特徴とする、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
請求項1から20のいずれか一項に記載のようにして得ることができ、含有量を重量%によって表現した化学的組成が、
0.30%≦C≦1.05%、
16%≦Mn≦26%、
Si≦1%、
Al≦0.050%、
S≦0.030%、
P≦0.080%、および
N≦0.1%
であり、
さらに随意により
Cr≦1%、
Mo≦0.40%、
Ni≦1%、
Cu≦5%、
Ti≦0.50%、
Nb≦0.50%、
V≦0.50%
などの1つ以上の元素を含み、
組成の残りが、鉄および精錬からもたらされる不可避の不純物で構成されており、
両面が、鋼/被膜の界面から出発して順に、2つの相すなわち立方相Γおよび面心立方相Γ1から構成される鉄−マンガン−亜鉛合金の層と、六面構造の鉄−マンガン−亜鉛合金δ1の層と、単斜構造の鉄−マンガン−亜鉛合金ζの層と、亜鉛の表面層とを含む亜鉛系の被膜によって被覆されている、鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼帯。
【請求項23】
請求項21に記載のようにして得ることができ、含有量を重量%によって表現した化学的組成が、
0.30%≦C≦1.05%、
16%≦Mn≦26%、
Si≦1%、
Al≦0.050%、
S≦0.030%、
P≦0.080%、および
N≦0.1%
であり、
さらに随意により
Cr≦1%、
Mo≦0.40%、
Ni≦1%、
Cu≦5%、
Ti≦0.50%、
Nb≦0.50%、
V≦0.50%
などの1つ以上の元素を含み、
組成の残りが、鉄および精錬からもたらされる不可避の不純物で構成されており、
少なくとも1つの面が、鋼/被膜の界面から出発して順に、2つの相すなわち立方相Γおよび面心立方相Γ1から構成される鉄−マンガン−亜鉛合金の層と、六面構造の鉄−マンガン−亜鉛合金δ1の層と、随意による単斜構造の鉄−マンガン−亜鉛合金ζの表面層とを含む亜鉛系の被膜によって被覆されている、鉄−炭素−マンガン系のオーステナイト鋼帯。
【請求項24】
ケイ素含有量が、0.5重量%未満であることを特徴とする、請求項22または23に記載の鋼帯。
【請求項25】
炭素含有量が、0.40重量%〜0.70重量%の間であることを特徴とする、請求項22〜24のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項26】
マンガン含有量が、20重量%〜25重量%の間であることを特徴とする、請求項22〜25のいずれか一項に記載の鋼帯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−517157(P2008−517157A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537321(P2007−537321)
【出願日】平成17年10月10日(2005.10.10)
【国際出願番号】PCT/FR2005/002491
【国際公開番号】WO2006/042930
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(506166491)アルセロールミタル・フランス (43)
【Fターム(参考)】