説明

鉄分の吸収を促進するための方法及び組成物

ヒト又は動物において鉄分の吸収を促進するための方法及び組成物が提供される。本方法及び組成物は、鉄分及び酵素加水分解されるペプチドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄分吸収の促進に関する。また、本発明は、酵素加水分解によって得られる鉄分及びペプチドを含む組成物に関する。さらに、本発明は、酵素加水分解される海生脊椎動物又はオキアミといった甲殻類から得られるペプチドのヒト又は動物による摂取に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄分はヒト及び動物の生理機能に必須である。ヒト及び動物の鉄分が不十分であると、鉄欠乏性貧血及び発育不全といった多くの疾病及び疾患の原因となる。
【0003】
さらなる鉄分を動物に与えるための現状の試験は、注射を介して行われる。ヒトについては、鉄分の栄養補助食品は、錠剤形式で利用可能である。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、鉄分及びペプチドを含む、動物又はヒトにおける鉄分吸収を促進するための組成物を提供し、ペプチドは、酵素加水分解される魚から得られる。さらに、本発明は、動物による酵素加水分解される魚から得られる鉄分及びペプチドの摂取を含む、動物又はヒトにおける鉄分吸収を促進するための方法を提供する。
【0005】
さらに、本発明は、動物又はヒトにおける鉄分吸収を促進するための組成物及び方法を提供し、ペプチドは酵素加水分解される海生脊椎動物又は甲殻類から得られる。
【0006】
本発明は、さらに:
1.鉄分及びペプチドを含む組成物であって:
(a)前記ペプチドが、酵素加水分解される魚のタンパク由来であり;
(b)前記組成物が、ヒト又は動物による摂取に適しており;
(c)前記ペプチドが、前記組成物の50%よりも多く;
(d)前記ペプチドが、動物又はヒトによって摂取された場合に、前記鉄分の吸収を促進することを特徴とする組成物を提供する。
2.上記項目1において、前記ペプチドの分子量が、3500ダルトン以下である。
3.上記項目1又は2において、前記鉄分が、前記組成物の0.01%よりも多い。
4.上記1乃至3のいずれか1項目において、さらに、魚油を含む。
5.上記1乃至4のいずれか1項目において、前記魚がサケである。
6.上記1乃至5のいずれか1項目において、前記組成物が、飼料添加物の栄養補助食品である。
7.上記1乃至6のいずれか1項目において、前記鉄分の乾燥重量が、前記組成物の乾燥重量キログラム当たり100ミリグラムよりも高い。
8.上記1乃至7のいずれか1項目において、前記ペプチドの50%未満が、前記鉄分とキレート化される。
9.上記1乃至8のいずれか1項目において、前記ペプチドの乾燥重量が、前記組成物の乾燥重量キログラム当たり800グラムよりも多い。
10.上記1乃至9のいずれか1項目に記載の組成物を動物又はヒトが摂取するための方法。
11.動物又はヒトに、(a)酵素加水分解される魚タンパク由来のペプチドと、(b)鉄分とを、一緒に又は別々に摂取させるステップを具え、前記鉄分が栄養補助食品又は飼料添加物であり、摂取される前記ペプチドが、前記動物又はヒトにおける前記鉄分の吸収を促進し、前記鉄分が、前記ペプチドが摂取される前後の24時間未満に摂取されることを特徴とする方法。
12.上記項目10又は11において、前記動物が、哺乳類又は鳥類である。
13.上記10乃至12のいずれか1項目において、前記動物又はヒトが、鉄欠乏性貧血を患っており又は鉄欠乏性貧血を患う危険性を有する。
14.上記10乃至13のいずれか1項目において、前記動物又はヒトが、通常のタンパク食を与えられる。
15.上記10乃至14のいずれか1項目において、前記鉄分及びペプチドが、同時に摂取される。
16.上記1乃至9のいずれか1項目において、前記ペプチドが、カロリーベース又は乾燥重量ベースで前記組成物の50%よりも多い。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の一態様では、酵素加水分解される魚タンパクから得られるペプチドを含む、鉄分吸収を促進するための組成物及び方法が提供される。
【0008】
ここで使用されるように、「鉄分吸収を促進する」という用語は、当技術分野におけるその通常の意味を有する。したがって、「鉄分吸収を促進する」は、血流の中への鉄分の腸による吸収を含む。さらなる実施例では、この用語は、細胞内又は輸送タンパク質内への鉄分の取り込み又は貯蔵を含む。鉄分吸収の促進を、当業者に知られている様々な手段によって測定し得る。例えば、トランスフェリン又はフェリチンのレベルを検査することによって鉄分吸収を測定し得る。
【0009】
ここで使用するように、「鉄分」という用語は、ヒト又は動物によって摂取される鉄分に関して当技術分野におけるその通常の意味を有する。したがって、この用語は、ヘム鉄、非ヘム鉄、(還元鉄としても知られる)元素鉄、錯体鉄、鉄塩及びヒト又は動物の摂取に適した鉄分の他の形式を含んでいる。摂取される鉄分は、当業者に知られた多くの供給源から得られる。例えば、摂取される鉄分は、赤身肉、魚又は家禽といった動物の食料源から得られる。このような鉄分は、通常、ヘム鉄と称される。また、摂取される鉄分は、野菜及び果実といった植物の食料源から得られる。このような鉄分は、通常、非ヘム鉄と称される。また、摂取される鉄分は、例えば、緑藻類といった微生物起源で得られる。
【0010】
また、摂取するための鉄分は、非有機的な供給源とすることができる。例えば、硫酸第一鉄、フマル酸第一鉄、コハク酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、グルタミン酸第一鉄、グリシン酸第一鉄といった、第一鉄塩又は第二鉄塩が、摂取可能な鉄分の供給源である。また、摂取可能な鉄分として鉄元素の粉末を使用し得る。さらに、鉄分は、ここに記載されたペプチドと同じ供給源から得ることができる。例えば、鉄分及びペプチドは、いずれも、例えば、北大西洋サケ(例えば、サーモンサラール及びこれと同じ属に属する他の魚)といった魚から得ることができる。
【0011】
本発明の一態様では、組成物又は方法の鉄分は、組成物の0.01%よりも多い。例えば、1キログラムのトータルの乾燥重量を有する組成物のケースでは、鉄分の乾燥重量は、100ミリグラムよりも高い。本発明のさらなる態様では、鉄分のパーセンテージが、組成物のトータルの10%よりも多い。本発明のさらなる態様では、組成物の鉄分のパーセンテージが、組成物のトータルの0.01%と10%との間であり、さらなる態様では、鉄分のパーセンテージが、組成物のトータルの0.05%、0.1%、1、2、3、4、5、6、7、8又は9%よりも多い。
【0012】
ここで使用されるように、「ペプチド」という用語は、当技術分野におけるその通常の意味を有する。したがって、ペプチドは、二量体ペプチド、多量体ペプチド及びポリペプチドを含んでいる。本発明の一態様では、ペプチドの分子量は、60,000ダルトン未満である。本発明のさらなる態様では、100%又は少なくとも90%のペプチドが、10,000ダルトン未満の分子量を有する。本発明の別の態様では、ペプチドの少なくとも70%が、5,000ダルトン未満の分子量を有する。本発明の別の態様では、使用されるペプチドの少なくとも50%が、1,000ダルトン未満の分子量を有する。本発明の別の態様では、ペプチドの100%が、3,500ダルトン以下の分子量を有する。
【0013】
本発明の一態様では、組成物又は方法の中のペプチドの総量が、組成物の50%よりも多い。本発明の別の態様では、ペプチドの総量が、組成物の75%、90%又は99%よりも多い。代替的に、本発明の別の態様では、ペプチドの総量が、組成物の50乃至99%よりも多く、又は50乃至99%の整数パーセンテージよりも多い。したがって、非限定的な例として、本発明の一態様が、1キログラムのトータルの乾燥重量を有する組成物を含んでおり、組成物中のペプチドのトータルの乾燥重量は、500グラムよりも高く、すなわち、組成物のトータルの乾燥重量の50%よりも高い。本発明の別の態様では、パーセンテージは、カロリー量に基づいている。したがって、さらなる非限定的な例として、本発明の一態様が、1000カロリーのトータルのカロリー量を有する組成物を含んでおり、ペプチドのカロリー量は500カロリーよりも高く、すなわち、組成物のトータルのカロリー量の50%よりも高い。
【0014】
本発明の一態様では、ペプチドは、タンパク質を酵素加水分解することによって得られる。本発明のさらなる態様では、ペプチドが、海生脊椎動物又は甲殻類のタンパク質を酵素加水分解することによって得られる。例えば、海生脊椎動物は、エイ、鮫を含む魚のいくつかの形式を含んでおり、魚は、サバ、レイクトラウト、ニシン、イワシ、ビンナガマグロ、サケ、ブルーホワイティングといった遠海魚を含んでいる。本発明のさらなる態様では、北大西洋サケを使用する。本発明のさらなる態様では、使用する甲殻類は、オキアミである。ここで使用するように、タンパク質の酵素加水分解という用語は、当技術分野におけるその通常の意味を有する。したがって、本発明は、部分加水分解によって得られるペプチドを含んでいる。
【0015】
ここで使用するように、「魚タンパク質」、「海生脊椎動物のタンパク質」、及び「甲殻類のタンパク質」といった用語は、当技術分野におけるその通常の意味を有する。したがって、この文脈における「タンパク質」という用語は、加工していない動物の肉及び様々な度合いで加工され又はその自然な供給源から分離されたタンパク質の双方を含んでいる。
【0016】
本発明の酵素加水分解の態様に関して、(当技術分野でタンパク質分解酵素又はプロテアーゼとしても知られる)いくつかの加水分解酵素が、当業者に利用し得る。例えば、エンドペプチダーゼ及び/又はエクソペプチダーゼを使用し得る。さらに、以下の酵素又は以下の酵素の組み合わせを使用し得る:Alcalase(登録商標)、Neutrase(登録商標)、Protamex(登録商標)、Flavourzyme(登録商標)(各々Novozymesから市販されている)、Pescalase(登録商標)、(オランダのGist− brocadesから市販されている)及びPromo31(登録商標)(ウェールズのBiocatalysts Ltd.から市販されている)。使用し得る酵素の組み合わせの一例は、Alcalase(登録商標)及びNeutrase(登録商標)から成る2つの酵素を1:9乃至1:1の比で混ぜた混合物として使用し得る。
【0017】
酵素加水分解のさらなる方法が、当技術分野で知られている。さらに、酵素加水分解及び酵素加水分解によって得られる魚アミノ酸の説明が、例えば、Soerensenらの米国の特許公開2005/0037109A1に見られ、参照することにより明確に盛り込まれている。
【0018】
ペプチド及び鉄分に加えて、本発明の組成物及び方法は、ビタミン、ミネラル、非タンパク質成分の窒素、炭水化物又は酵素性の加水分解に関連する他の化合物といった化合物を含んでいる。
【0019】
本発明のさらなる態様では、組成物及び方法は、ペプチド及び鉄分に加えて脂質を含んでいる。例えば、ペプチドとともに魚油を使用して、ヒト及び動物による鉄分の吸収を促進し得る。本発明のさらなる態様では、魚ペプチドといった同じ供給源由来の魚油を使用し得る。しかしながら、本発明の別の態様では、脂肪酸の酸化は一般においしさを減らすため、高レベルの酸化脂肪酸を具えた油は避けられる。本発明のさらなる態様では、使用される脂質の中の不飽和レベルは、所定量未満である。
【0020】
本発明のさらなる態様では、鉄分及びペプチド、又はこれら2つの組み合わせは、栄養補助食品又は飼料添加物である。「栄養補助食品」又は「飼料添加物」といった用語は、当技術分野で使用される通常の意味に関する。したがって、栄養補助食品又は飼料添加物は、ペプチド又は鉄分が、動物又はヒトの食べ物とは別の供給源から得られることを意味する。さらに、栄養補助食品又は飼料添加物は、多くの場合、食べ物又は飼料とは別々に又は単独で加工され、多くの場合、食べ物又は飼料とは別々の容器に詰められる。例えば、栄養補助食品又は飼料添加物としての鉄分は、通常の食肉のヘム鉄の形式の食べ物又は飼料に見られる鉄分と比べると、通常、硫酸第二鉄の形態である。(コンパニオンアニマルのための)処方されたペットフードを本発明にしたがって作り得る。このような処方された食べ物は、通常、栄養の摂取に問題のある高齢のペットのためのものである。
【0021】
特に、(例えば、栄養上の問題が有る)状況性貧血を患っている又はその危険性があるヒトだけではなく、他の動物に本発明に係る組成物を与え得る。このような動物は、豚(及び他の豚類)、ニワトリ(及び家禽類)、牛及び畜牛(ウシ類)、及び他の動物といった家畜を含んでいる。離乳子豚及び成長又は成育中の上述のような他の動物(例えば、子牛)といった、進行性の状況性貧血を患っている又はこれの危険性が有る動物は、特に関心がある。本発明の処方を、(例えば、魚を自然に食べるミンクとは対照的に)魚がそれらの動物にとっての自然の食品の一部ではない場合でさえも、おいしくすることができる。
【0022】
本発明の組成物のさらなる態様では、50%未満の鉄分をペプチドに対してキレートすることができる。さらなる態様では、鉄ペプチドキレート化のパーセンテージは、50%未満乃至0%であり、別の態様では、50%及び1%の間の整数パーセントである。
【0023】
本発明の組成物及び方法に関して、例えば、重量/容量(W/V)、容量/重量(V/W)、容量/容量(V/V)、又は重量/重量(W/W)といったいくつかの代替的な方法で総量を計算し得る。さらに、カロリーパーセントに基づいて総量を計算し得る。ここで使用されるように、総量及びパーセンテージは、当業者によって合理的に適用される方法で測定される総量及びパーセンテージを含んでいる。例えば、50%よりも高いペプチドを有する組成物は、液体組成物の場合にトータルの組成物の容量に対するペプチドの重量(W/V)といった、当業者に既知の他の計算法に基づく場合に50%のペプチドを有する組成物だけではなく、ここで説明されるように、トータルの組成物の乾燥重量に対するペプチドの乾燥重量に基づく場合に50%よりも高いペプチド有する組成物を含んでいる。したがって、本発明の別の態様では、上述の計算方法によって測定されるペプチドの総量は、50%よりも高い。以上のことは、ペプチド、鉄分及びキレート化したペプチドの総量及びパーセンテージを含むここで説明される全ての総量及びパーセンテージに適用する。
【0024】
本発明の別の態様では、本発明の組成物は、鉄分の吸収を抑制する結晶性の不溶性の酸化鉄水和物の形成を誘発するトリメチルアミノ酸化物といった相当量の化合物を含んでいない。
【0025】
本発明の方法は、動物又はヒトにおける鉄分の吸収の促進に関するものである。本発明の一態様では、動物又はヒトにペプチドを摂取する。別の態様では、ペプチドの摂取の前後の妥当な時間内に鉄分を摂取する。さらなる態様では、ペプチドを摂取する前後の24時間未満に鉄分を摂取する。本発明のさらなる態様では、ペプチドを摂取する前後の24時間未満から1時間未満(及びその間の時間)に鉄分を摂取する。
【0026】
本発明の態様では、本発明の組成物及び方法は、ヒト又は動物における鉄分の不足による疾病及び疾患を改善する。おそらく、最もありふれた疾患は、鉄欠乏性貧血である。貧血は、赤血球の欠乏を特徴とする。鉄欠乏性貧血は、鉄分の不足によって引き起こされる貧血である。このような鉄分の不足は、摂取される鉄分の量が不十分であり、鉄分の吸収が不十分であり、失血又はこれらの要因の複合によるものである可能性がある。
【0027】
また、鉄欠乏性貧血は、幼年期又は離乳期といった成長期の動物又はヒトで一般的である。また、鉄欠乏性貧血は、高い成長飼育比を有して飼育される家畜に見られる。
【0028】
鉄分の不足による貧血を、多くの他の貧血から区別し得る。例えば、鉄欠乏性貧血は、関節炎又はガンといった慢性感染症、炎症、又は悪性疾患による貧血とは異なる。特に、低色素性貧血、小球性貧血、クロロシス、遺伝性鉄芽球性貧血、後天性突発性鉄芽球性貧血、赤血球無形成症、悪性貧血といった巨赤芽球性貧血、ビタミンB12欠乏及び葉酸欠乏貧血、再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、微小血管症性溶血性貧血といった溶血性貧血、及び発作性夜間ヘモグロビン血色素尿症といった貧血は、鉄欠乏性貧血とは区別される。
【0029】
さらに、本発明の別の態様では、鉄欠乏性貧血は、腎臓疾患、腎臓の機能低下又は透析による貧血を含んでいない。
【0030】
ここで述べるように、摂取されるペプチドは、動物又はヒトにおける鉄分の吸収を促進する。本発明のさらなる態様では、摂取されるペプチドは、動物又はヒトにおける鉄分の吸収を大幅に促進する。本発明のさらなる態様では、統計的に有意な量だけ鉄分の吸収が促進され、さらなる態様では、鉄分の吸収が50%乃至100%増加する。さらなる態様では、鉄分の吸収が、50%乃至100%の整数パーセンテージよりも高いパーセント増加する。上述のように、トランスフェリン又はフェリチン又は当業者に既知の他の方法によって、鉄分の吸収を評価し得る。
【0031】
本発明の方法の他の態様によれば、「摂取」という用語は、当技術分野におけるその通常の意味を有している。一般に、摂取は口を通して行われる。しかしながら、経鼻胃管といった他の摂取の意味も用いることができる。さらに、摂取に加えて、本発明のさらなる態様では、鉄補給食品を静脈内投与し得る。
【0032】
本発明のさらなる態様では、普通のタンパク食に関して摂取は動物又はヒトによる。ここでいう「普通の」という用語は、疾病又は疾患のために変えられた食物に対して普通のという関連において、当技術分野におけるその通常の意味を有する。例えば、腎臓の機能不全を患っている動物又はヒトは、適切にタンパク質を代謝し得ないために、普通のタンパク食を摂取しない。
【0033】
「ヒト又は動物にとって適切な摂取」という語句は、当技術分野におけるこの語句の通常の意味に関する。例えば、「ヒト又は動物にとって適切な摂取」という語句は、ヒト又は動物の安全に関して許容できる量の病原菌及び毒素(例えば、毒素のケースでは、水銀及び他の重金属)に関する。
【0034】
例えば、特定の病原菌のレベルは、ヒト又は動物の摂取に適切な組成物に関して所定量未満でなければならないことは、当業者に既知である。例えば、病原微生物に関して、本発明の一態様では、特定の病原菌の量は、(当業者に知られているように)最小感染量(MID)未満である必要がある。MIDは、疾病を引き起こし得る最小数の病原微生物に関する。例えば、魚由来の食物に見られる病原微生物であるコレラ菌のMIDは10である。したがって、本発明の一態様では、本発明の組成物は、このようなMID未満のコレラ菌を含んでいる。
【0035】
コレラ菌の他に、サルモネラ菌、ボツリヌス菌、黄色ブドウ球菌、腸炎エルシニア、仮性結核菌、リステリア菌、ビブリオ菌株、及び様々な大腸菌の菌株といった病原微生物が当業者に知られており、本発明の一態様では、本発明の組成物は、各病原菌のMID未満の量の病原菌を含んでいる。
【0036】
同様に、本発明の別の態様では、組成物がヒト又は動物の摂取に適しているものと見なされるように、組成物が、特定レベルの病原微生物、原虫及び虫を含んでいる。
【0037】
さらに、所望のレベルに病原微生物を低下させるための方法が、当業者に知られている。例えば、調理、冷却、(例えば、X線又はガンマ線による)放射線照射、加熱、加圧加熱、凍結又はそれらの組み合わせが、動物又はヒトによって摂取される組成物の病原菌のレベルを低下させるための安全且つ有効な処理であると、当業者に知られている。
【0038】
別の例として、組成物中のペプチドの大きさ(分子量)を減らすことが、プリオン感染の危険性を最小限にするための一般的な方法であると当業者に知られている。したがって、本発明の一態様では、ペプチドは上述の分子量を有している。
【0039】
上述の説明及び以下の実施例は、ここで説明される組成物及び方法を限定するものではなく、単に、様々な非限定的な実施例の具体例として提供される。
【0040】
さらに、単数形の使用は限定を意味するものではない。例えば、「組成物」又は「組成物」の記載は、本発明を1つの組成物に限定することを意味するものではない。すなわち、他の組成物と組み合わせた場合、本発明の組成物は、ここで明示的に説明しない限り、本発明の範囲内にあることを留意されたい。
【0041】
さらに、以下の用語は、別の意味が明示的に説明されていない限り以下のようにして読まなければならない。「含む」、「含む」又は「含んでいる」という用語は、非限定的に含んでいることを意味している。「具える」、「具える」又は「具えている」という用語は、非限定的に含んでいることを意味している。「又は」という用語は、及び/又はを意味する。
【0042】
[実施例]
実施例1及び2として、20%のサケのタンパク質加水分解物(SPH)を与えた6匹のイヌ、20%のサケのタンパク質加水分解物及び4.5%の重量/重量(W/W)のサケの油(SPHO)を与えた6匹のイヌ及び6匹の対照としてのイヌから血液が採取された。全てのイヌに、第1日から第14日まで、30%の副産物としてのタンパク質、及び25%の脂質から成るコントロール食を与えた。コントロール食を与えないイヌに、第15日から第26日までのみ、SPH及びSPHOを与えた。コントロール食を与える6匹のイヌに、上述の飼料添加物が無いコントロール食を与えた。
【0043】
実施例1及び2は、一連の体外試験に関する生理的な効果の研究に注目する。実施例は、血漿濃度の変化に基づいて酵素マーカーを見つける。2つの体外試験は共に、食物を与えられる対象体の中の貯蔵鉄の濃度に影響を与えるSPH及びSPHOの生物活性ペプチドの存在可能性を調査する。2つの体外試験は、トランスフェリン及びフェリチンを扱う。第1の試験(実施例1)は、トランスフェリンを扱い、第2の試験(実施例2)は、フェリチンを扱う。
【実施例1】
【0044】
イヌの血清トランスフェリンレベルを測定した。トランスフェリンレベルを測定するために使用した試験は、ELISA試験であった。この試験は、イヌの血清又は血漿のトランスフェリンを測定するための2箇所の酵素結合の免疫学的測定法である。トランスフェリン血清測定は、特に血漿のフェリチンレベルの同時測定と一体となった、鉄分吸収効果を特定する際の特別な値である。
【0045】
トランスフェリンは、鉄分に結合するタンパク質である。トランスフェリンは、骨髄及び肝臓といった組織貯蔵器官に鉄分を移送するよう作用する。また、トランスフェリンは、鉄分吸収を調整及びコントロールして鉄分中毒から保護する。
【0046】
トランスフェリン試験結果を表2及び3にまとめる。


【実施例2】
【0047】
フェリチンは、貯蔵鉄に含まれるタンパク質に結合する鉄分である。フェリチンは、例えば、肝臓、脾臓、骨髄及び腸の粘液といった様々な組織に有る。
【0048】
フェリチン試験結果を表4及び5にまとめる。



【0049】
使用するトランスフェリン及びフェリチンの濃度により、SPH及びSPHOの鉄分の吸収の影響を確実にする。結果は、SPHO及びSPHが、フェリチンの血漿濃度を増加させ、トランスフェリンの血漿濃度を減少させることを示す。フェリチンの増加は、鉄分の吸収及び/又はバイオアベイラビリティが増加することを示唆する。同様に、トランスフェリン濃度の減少は、鉄分の移送の低下を示す。また、トランスフェリン濃度の減少は、鉄分のバイオアベイラビリティが増加し及び/又はフェリチン結合鉄の濃度が増加する(と仮定される)ことにより、鉄分の吸収の必要性を減らす。トランスフェリン濃度の減少及びフェリチン濃度の増加は、対照としてのイヌと比較してSPHO及びSPHを与えたイヌにおいて、鉄分の吸収及びバイオアベイラビリティが増加するという結論を支持する。
【0050】
トランスフェリン濃度の減少は、統計的有意性を示した。フェリチン濃度の増加は傾向を示したが、3つのグループ全てのイヌを通して個々の濃度レベルがバラバラであるため、技術的に統計的有意性はなかった。
【実施例3】
【0051】
食肉、トリ、魚、及びカゼインタンパク質消化物を比較したSP Dry PP1を用いたCaco−2細胞鉄分取込試験
サケ全体を切り身にして分けた後、サケの背骨及び頭部を、Green Earth Industries(GEI)によって開発された加工工程を利用してタンパク質加水分解させた。例えば、US2005/0037109を参照されたい。このような処理は、水溶性のタンパク分屑(SP)、不溶性のタンパク分屑(NSP)、石油留分(FO)及び骨片(CA)を生成する。このような分屑、留分、小片を、全体の質及びタンパク分屑の分離に特に注意して互いに分離し得る。SPが、6乃至7%の溶液として、このような処理で初めに分離され、三重効用流下膜式蒸発器で55乃至60%の懸濁液に濃縮される。このようなハチ蜜状物質を、噴霧乾燥装置を用いて更に乾燥し、淡黄色のタンパク質粉末を生成する(SP Dry)。
【0052】
SP DryをGEIによる消化率及びおいしさの研究のために老齢犬に与え、血漿を採取して分析した。フェリチンに顕著な増加を示し、トランスフェリンに減少を示したが、SP Dry試験及びSP Dryとサケの石油留分を摂取する動物における鉄分の取込の増加を示すものである。
【0053】
(イヌ及びモルモットといった)動物のモデルによる鉄分の吸収は、直接的な及び生理的に関連のある鉄分のバイオアベイラビリティの評価を与える。また、Caco−2細胞体外鉄分取込法を用いて、「SP Dry」の鉄分の取込可能性を示した(食べ物のSP Dryの取込を介した鉄分の取込の増加可能性を素早く評価するために、Jean-Max Rouanet らによる、Iron availability from Iron-Fortified Sprulina by an in-vitro digestion/Caco-2 Cell Culture Model. Journal of Agric, Food Chem. 49(3), 1625, (2001) to rapidly estimate the potential increase in iron uptake via the incorporation of SP Dry in the diet.を参照されたい。
【0054】
このような試験を行って、擬似ペプシン及び腸内消化プロセスの後に、カゼイン、ダイズ、食肉、トリ肉及び魚タンパクと比較して、鉄分の取込を促進するためのSP Dryの性能の分析した。
【0055】
このようなCaco−2細胞試験を、Caco−2細胞単分子層によって、擬似ペプシン及び腸内消化及び鉄分取込測定と組み合わせる。
【0056】
Meatzyme B.V.及びGreen Earth LLCの管理の下で、水溶性タンパク質加水分解物のSP Dry PP1検体を作成した。水溶性タンパク分屑を噴霧乾燥し、化学的分析のために良好な状態でインドのムンバイに送った。SP Dry PP1検体は、淡い魚臭がする淡黄色のアモルファス粉末である。
【0057】
肉類(ビーフ)、トリ肉(もも肉)及び魚(マグロの切り身)タンパクの検体を購入し、以下のように処理した。見える全ての脂肪及び結合組織を除去して薄切りにした。30分間、純水で煮込んだ後、切り身を取り除き、0℃で冷蔵し、見えるさらなる脂肪を除去した。切り身を少量の水を入れた混合器の中で均一にし、凍結乾燥して40メッシュの篩に通してここで使用するタンパク質粉末を作製した。Parsi Dairy Farm Ltd.からカゼインを購入してそのまま使用した。
【0058】
上記の4つのタンパク源のインビトロ消化を、Sigma Aldrichから市販されて標準的な消化手順でそのまま使用される(胃による消化を刺激するための)豚ペプシン及び胆汁エキス及び(腸による消化を刺激するための)パンクレアチン及び胆汁エキスを用いて行った。59Fe標識の塩化第二鉄を使用して鉄分濃度をホモジネートで10μmol/Lに調整した。
【0059】
0.5mol/Lの水酸化ナトリウムに可溶化した後で、Bio−Rad(登録商標)DCタンパク質試験キットを用いて、初めのタンパク質含有量を測定した。
【0060】
消化されたタンパク質含有量を、同じキットを用いてTCA可溶化沈殿物として測定し、各20mlの消化物を純水で50mlに希釈し、0.6mol/Lのトリクロロ酢酸50mlに反応させた。試料を遠心分離し、沈殿物を0.5mol/Lで溶かし上記のようにして測定した。
【0061】
Celsis In−vitro Technologiesによって市販されている24XウェルのCaco−2試験キットの改良型を本試験で用いた。CelsisのキットをCorning Costar Transwell@フィルタを具えたCaco−2細胞で被覆した。IVT Caco−2培養物は、搬送調査に対応していると考えられ、1000オームの経上皮電気抵抗基準(TEER)に適合する。
【0062】
10μmol/Lの59Feを含む1.5mlの各消化前のタンパク質溶液を、それぞれが下側チャンバの通常のCaco−2細胞を含む12ウェルに加え、層を分離する前に2時間プレートを37℃で培養した。Celsisによって説明された手順を使って細胞を抽出し、自動ガンマカウンタを用いて59Feを計測し、遠心分離した後に上澄みに残っている留分を判定した。
【0063】
59Feを加える前の)初期含有パラメータ及びTCA沈殿性タンパク質測定によって測定された推定消化パーセントを以下の表4に示す。

※トータルの鉄分を595nmでFe−ferene錯体として分光計で測定した(D. D. Hennessy らのFerene - a new spectrophotometric reagent for iron. Can. J. Chem. 62, P721 , (1984))
【0064】
様々なタンパク源による鉄分取り込みの違いの結果を以下の表5に示す。筋肉のタンパク源(肉類、トリ肉及び魚)が、細胞膜の下でCaco−2細胞に取り込まれるのと同じような鉄分取り込みの結果を示す一方、カゼインはほとんど取り込みを示さず、陰性(浸透性)対照緩衝溶液と非常に近かった。SP Dry製品は、他の全てのタンパク源と比較した顕著に高い鉄分取り込みを示した。

【0065】
Caco−2モデルは、文字通り多くの実験で薬物の取り込みを調べるのにうまく利用される(Intestinal absorption of 59Fe from neutron activated commercial oral iron (III) citrate and iron (III) hydroxide polymaltose complexes in man. (H. C. Heinrich Arzneim-Forsch/Drug.Res. 37, 105, (1987).)。また、ここで使用される改良された試験は、鉄分だけではなく亜鉛及びビタミンDといった他の必須要素を具えた食料品の強化の研究に使用される。このような体外モデルは、小腸でのヒトによる吸収の優れた比較可能性を反復的に示すことで、このような研究で示される結果はFaheyの血漿摂取研究の肯定的な結果を支持する。また、動物モデルを、例えば、モルモットを用いて実施して、RBC(ヘモグロビン)のSP Dryの摂取効果のさらなる研究を行うことができる。
【0066】
海産物のタンパク質消化物−SP Dry−が、試験される他の消化タンパク源と比較して鉄分取り込みに関して好ましい効果を示すことが、このような研究から明らかである。SP Dryは、陰性対照カゼインに対して鉄分取り込みを540%改善し、肉類のタンパク質消化物である陽性対照よりも40%以上高かった。サケの油(SO)を本試験では全く使用しなかったため、これはタンパク分屑自身が鉄分取り込みの促進を高めることの決定的な証拠である。
【0067】
また、内因性の鉄分取り込みを判定するための正確な方法を使用できないため、外部から与えた鉄分(10mmol/L)のみを使用して、本試験では鉄分取り込みを測定したことに留意されたい。このため、図示する値は、Cook及びBjorn−Rasmussenによるヒトの研究でなされる同じような吸収の各消化物で生じる最小取り込み値を示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄分及びペプチドを含む組成物であって:
(a)前記ペプチドが、酵素加水分解される魚のタンパク由来であり;
(b)前記組成物が、ヒト又は動物による摂取に適しており;
(c)前記ペプチドが、前記組成物の50%よりも多く;
(d)前記ペプチドが、動物又はヒトによって摂取された場合に、前記鉄分の吸収を促進することを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記ペプチドの分子量が、3500ダルトン以下であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記鉄分が、前記組成物の0.01%よりも多いことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
さらに、魚油を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記魚がサケであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、飼料添加物の栄養補助食品であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記鉄分の乾燥重量が、前記組成物の乾燥重量キログラム当たり100ミリグラムよりも高いことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ペプチドの50%未満が、前記鉄分とキレート化されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記ペプチドの乾燥重量が、前記組成物の乾燥重量キログラム当たり800グラムよりも多いことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の組成物を動物又はヒトが摂取するための方法。
【請求項11】
動物又はヒトに、
(a)酵素加水分解される魚タンパク由来のペプチドと、
(b)鉄分とを、
一緒に又は別々に摂取させるステップを具え、
前記鉄分が栄養補助食品又は飼料添加物であり、
摂取される前記ペプチドが、前記動物又はヒトにおける前記鉄分の吸収を促進し、
前記鉄分が、前記ペプチドが摂取される前後の24時間未満に摂取されることを特徴とする方法。
【請求項12】
前記動物が、哺乳類又は鳥類であることを特徴とする請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記動物又はヒトが、鉄欠乏性貧血を患っており又は鉄欠乏性貧血を患う危険性を有することを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記動物又はヒトが、通常のタンパク食を与えられることを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記鉄分及びペプチドが、同時に摂取されることを特徴とする請求項10乃至14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記ペプチドが、カロリーベース又は乾燥重量ベースで前記組成物の50%よりも多いことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の組成物。



【公表番号】特表2011−506479(P2011−506479A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538203(P2010−538203)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/086668
【国際公開番号】WO2009/079401
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(510164094)
【氏名又は名称原語表記】HOFSETH BIOCARE AS
【Fターム(参考)】