説明

鉄粉含有高比重プラスチック組成物およびその製造方法

【課題】 高湿度下においても錆が発生しにくい高比重なプラスチック組成物を鉄粉を用いて実現する。
【解決手段】
平均粒径が40μm以上150μm以下のシランカップリング処理済み鉄粉と、前記鉄粉とは別途で表面処理された平均粒径が2μm以上40μm未満のチタネートカップリング処理済み亜鉛粉と、熱溶融された熱可塑性樹脂と、が混練された比重が2〜4.6である高比重プラスチック組成物であって、前記組成物の総質量に対し前記カップリング処理済み鉄粉30〜88質量%、前記カップリング処理済み亜鉛粉が2〜60質量%、熱可塑性樹脂が10〜48質量%配合されてなる鉄粉含有高比重プラスチック組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄粉を含有させた高比重プラスチック組成物に関し、詳しくは鉄粉含有高比重プラスチック組成物の耐錆性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料は軽量で加工性に優れ、かつ比較的安価であるので広汎な用途で使用されている。しかし、プラスチックの軽さや柔らかさが障害になる場合もある。例えば慣性体用途や制振性、制音性が要求される用途では軽すぎることが欠点となる。
【0003】
そこで、このようなプラスチック材料の欠点を補う手段として、プラスチック材料に比重の大きい充填材を配合することが行われている。このような充填材としては、例えば銅粉、タングステン粉、鉄粉などの金属粉末や、タルク,シリカ,炭酸カルシウムなどの無機鉱物粉末がある。
【0004】
これらの充填材のうち、銅粉は有害イオンを溶出するという問題があり、タングステン粉は高価である等の問題がある。また、無機鉱物粉末は安全性に優れるが、金属に比べ比重が小さいため十分に高比重化できないという問題がある。これらに対して、鉄粉は比重が大きく、有害イオンを溶出せず、しかも安価であるので、プラスチックの高比重化を図る材料として好適である。
【0005】
しかし、鉄は錆易いという欠点を有している。このため、鉄粉を含有するプラスチック成型物を高湿度下におくと、鉄錆に起因する変色や斑点が生じるという問題があり、それゆえ鉄粉含有の高比重プラスチック材料はその用途が限定されている。
【0006】
ところで、鉄粉等の金属錆びを防止する従来技術としては、例えば下記特許文献1〜3がある。
【0007】
【特許文献1】特開昭47−42503号公報(特許請求の範囲)
【0008】
【特許文献2】特公昭62−53552号公報(特許請求の範囲)
【0009】
【特許文献3】特開2000−160204号公報(要約)
【0010】
特許文献1は、鉄粉と、鉄より腐食電位の高い金属又は合金粉末から選ばれた添加剤及び熱硬化性又は熱可塑性合成樹脂を圧縮成形した後、空気中で180℃・1.5時間焼成するなどして機械部品を作製する技術である(実施例1)。この技術によると錆びの生じにくい鉄系機械部品を提供できるとされるが、この技術は、圧縮成形物を焼成し焼成体となす技術であるので、プラスチック成型品の原材料としての耐錆性を備えた高比重プラスチック組成物を提供するための技術ではない。
【0011】
特許文献2は、比抵抗が1×10-2 Ωcm以下で亜鉛粉末より小さい粒径を有する導電性粒子で被覆した亜鉛末を防錆塗料組成物に配合する技術である。この技術では、亜鉛末の表面に、導電性粒子としてのマンガン、ニッケル、タングステン、珪素等を、ボールミル、乳鉢等を用いてメカノケミカル機構により被覆する(第3欄)。この技術によると、亜鉛末の高温酸化が著しく抑制されるとされる。
【0012】
特許文献3は、平均粒径が2〜20μmの還元鉄粉を、アミンキノンを構成成分とする化合物で被覆した鉄粉を、熱硬化性樹脂などの結合剤を用いて圧縮成型して圧粉磁芯を作製する技術に関する。この技術によると、耐腐食性も向上した圧粉磁芯用の鉄粉が提供できるとされる。この技術は高比重プラスチック組成物の耐腐食性を改善するための技術ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、鉄粉含有の高比重プラスチック組成物を提供することを目的とし、その課題は鉄錆に起因する変質、変色を防止し得た鉄粉含有高比重プラスチック組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための第1の態様にかかる本発明は、カップリング剤で表面処理されたカップリング処理済み鉄粉と、前記鉄粉とは別途でカップリング剤により表面処理されたカップリング処理済み亜鉛粉と、熱溶融された熱可塑性樹脂と、が混練された比重が2〜4.6である高比重プラスチック組成物であって、前記組成物の総質量に対し前記カップリング処理済み鉄粉30〜86質量%、前記カップリング処理済み亜鉛粉が2〜58質量%、熱可塑性樹脂が12〜48質量%配合されてなる鉄粉含有高比重プラスチック組成物であることを特徴とする。
【0015】
この構成では、カップリング処理済み鉄粉とカップリング処理済み亜鉛粉と、熱溶融された熱可塑性樹脂とが、それぞれ30〜86質量%、2〜58質量%、12〜48質量%の配合比率で配合されているが、この配合比率であると、主に鉄粉がプラスチック組成物の比重を2〜4.6に高めるように作用し、亜鉛粉が鉄粉の近傍にあって鉄の酸化を抑制するように作用する。また、熱可塑性樹脂が鉄粉や亜鉛粉とを固着するとともに、これらの金属が外気と接触するのを防止する成分としても機能する。
【0016】
特に上記構成では、それぞれ別個に表面処理されたカップリング処理済み鉄粉とカップリング処理済み亜鉛粉とが使用されているが、別個に表面処理された鉄粉および亜鉛粉を用いると、樹脂中において鉄粉と亜鉛粉との相互の位置関係(混合状態)が好適な状態となるので、亜鉛粉と樹脂の鉄粉に対する防錆作用が十分に発揮される。その結果として、錆びによる変質、変色(斑点の出現を含む)が生じにくい鉄粉含有高比重プラスチック組成物が実現する。
【0017】
なお、カップリング処理しない鉄粉および亜鉛粉を用いたものや、鉄粉と亜鉛粉とが混合された混合末に対してカップリング処理されたものを用いた鉄粉含有高比重プラスチック組成物は成型性が悪く、その成型品は、樹脂と鉄粉および亜鉛粉との親和性が十分でないために、強度の劣るものとなる。
【0018】
上記課題を解決するための第2の態様にかかる本発明は、上記第1の態様において、前記カップリング処理済み鉄粉の平均粒径が40μm以上150μm以下であり、前記カップリング処理済み亜鉛粉の平均粒径が2μm以上40μm未満であり、かつ、上記カップリング処理済み鉄粉がシランカップリング剤で表面処理されたものであり、前記カップリング処理済み亜鉛粉がチタネートカップリング剤で表面処理されたものであるとした点に更なる特徴を有する。
【0019】
この構成であると、鉄粉と亜鉛粉とがそれぞれ別個に表面処理された作用効果がさらに増大する。上記したように、鉄粉含有高比重プラスチック組成物の耐錆性や成型性を向上させるためには、鉄粉と亜鉛粉とをそれぞれ別個に表面処理する必要があるが、更に鉄粉と亜鉛粉との粒径の大小関係を鉄粉>亜鉛粉とし、鉄粉についてはシランカップリング処理し、亜鉛粉についてはチタネートカップリング処理するのが好ましい。すなわち、異なるカップリング剤で別個独立して表面処理した鉄粉と亜鉛粉とを用いると、一層確実に耐錆性、成型性、加工性、経済性に優れた高比重プラスチック組成物が実現することができる。なお、この理由としては、鉄粉>亜鉛粉であり、特に好ましくはシランカップリング処理済み鉄粉の平均粒径が40μm以上150μm以下であり、チタネートカップリング処理済み亜鉛粉の平均粒径が2μm以上40μm未満であると、鉄粉の近傍に亜鉛粉がより多く存在するプラスチック組成物構造が形成されるためと考えられる。
【0020】
上記課題を解決するための第3の態様にかかる本発明は、上記第1または第2の態様において、前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂であるとした点に特徴を有する。ポリアミド樹脂は、安価で成型性に優れ、強靱性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐薬品性にも優れるので特に好ましい。
【0021】
上記課題を解決するための第4の態様の製法にかかる本発明は、平均粒径40μm以上150μm以下の鉄粉と、0.005〜0.1モル/鉄粉1kg濃度のシランカップリング剤と、を攪拌混合することにより鉄粉の表面をシランカップリング処理する鉄粉カップリング処理工程と、平均粒径が2μm以上40μm未満の亜鉛粉と、0.005〜0.1モル/亜鉛粉1kg濃度のチタネートカップリング剤と、を攪拌混合することにより亜鉛粉の表面をチタネートカプリング処理する亜鉛粉カップリング処理工程と、前記カップリング処理済みの鉄粉を30〜86質量%と、前記カップリング処理済みの亜鉛粉を2〜58質量%と、ポリアミド樹脂を12〜48質量%と、を前記ポリアミド樹脂の溶融温度以上の温度で攪拌混合するプラスチック混練物作製工程と、前記プラスチック混練物を射出しプラスチック混練物を硬化させる射出工程と、を備える比重2〜4.6の鉄粉含有高比重プラスチック組成物の製造方法であることを特徴とする。
この製造方法によると、本発明にかかる鉄粉含有高比重プラスチック組成物を生産性よく製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、耐錆性、成型性、加工性、経済性に優れた鉄粉含有高比重プラスチック組成物を簡便な手段により実現することができ、このような本発明鉄粉含有高比重プラスチック組成物を用いると、変色し難い高品質の高比重プラスチック成型品を低コストでもって提供することができる。本発明鉄粉含有高比重プラスチック組成物の具体的用途としては、回転型慣性体(フライホイ−ル等),非回転型慣性体(シ−トベルトロック機構用等)の他,高比重に由来する制振性を利用した制音材用途(電磁リレ−用ケ−ス等)などが例示できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明する。
〔実施例1〕
平均粒径95μmの鉄粉(川崎製鉄株式会社製JIP300A)を高速回転ミキサ−(カワタ(株)社製スーパーミキサー)に入れ、攪拌しながらシランカップリング剤溶液を添加し、更に回転数約800rpmで攪拌混合し溶液分を揮発させることにより、シランカップリング処理済み鉄粉を作製した。シランカップリング剤溶液としては、変性アルコール90質量部と水10質量部とからなるアルコール液にチッソ株式会社製サイラエースを10倍濃度に希釈した溶液を用いた。
【0024】
他方、平均粒径7.5μmの亜鉛粉(本荘ケミカル社製F500)を同上の高速回転ミキサ−に入れ、攪拌しながらチタネートカップリング剤溶液を添加し、更に回転数約800rpmで攪拌混合し溶液分を揮発させて、チタネートカップリング処理済み亜鉛粉を作製した。チタネートカップリ剤溶液としては、変性アルコール90質量部と水10質量部とからなるアルコール液に味の素株式会社製KR44プレートアクトを10倍濃度に希釈した溶液を用いた。
【0025】
次いで、上記で作製したシランカップリング処理済み鉄粉と、チタネートカップリング処理済み亜鉛粉と、粉末状ナイロン6(宇部興産株式会社製1007FP)とを、質量比が86/2/12となるようにして同上の高速回転ミキサ−に入れ、回転数約800rpmで攪拌混合した。この混合物を図1に示す混練機構を備えた射出成形機に入れ、粉末状ナイロン6が溶融する温度(280℃)に加温し、混練し射出して鉄粉含有高比重プラスチック組成物を作製した。この射出成形に際しては、鉄粉含有高比重プラスチック組成物である射出成形物の物性を評価するため、その形状をASTM D638 4 型引っ張り試験片(厚さ3.2mm)、及びASTM D790 曲げ試験片の規格の形状とした。
【0026】
上記射出成形機について説明する。図1に示すように、この射出成形機は、加熱筒20と回転スクリュー30により、熱可塑性樹脂と鉄粉等を溶融混練し、射出成形することのできる射出成形機であって、上記スクリュー30の軸径を段階的に変えることにより、軸径の小さい原料供給ゾーン301と、徐徐に軸径が大きくなる圧縮ゾーン302と、他のゾーンよりも軸径を大きくして原料の通過を抑制した計量ゾーン303とで構成されている。この装置を用いることにより、鉄粉および亜鉛粉と熱可塑性樹脂との混練を十分に行うことができる。
【0027】
なお、図3における符号12は、原料を投入するためのホッパーであり、32はフライト、35は逆流防止弁、45は先端ノズルである。更に符号31は、ブリスターリングであり、この外周は平坦であり、近傍のフライトのある部分の軸よりも直径が大きくなるようにしてある。また、ブリスターリング31が設けられているので、溶融した樹脂と鉄粉等の混合物がブリスターリングと加熱筒内周との間に形成された狭い隙間を通過するとき急圧縮される。よって、各成分の混合、分散が更に促進される。
【0028】
次に、上記した鉄粉および亜鉛粉の平均粒径について説明する。本明細書でいう平均粒径は、空気透過式比表面積測定装置を用いて測定した比表面積に基づいて算出した値(リー・ナース法)をいう。具体的には、筒井理化学機器株製の空気透過式粉体比表面積測定装置を用いて比表面積を測定する。このとき、試料の重量は充填高さ(圧縮後の高さ)が5mm〜10mm程度になるように調整する。平均粒径は粉粒体の構成粒子が全て球形と仮定し、比表面積と粉粒体の密度とから算出した値である。なお、鉄粉および亜鉛粉の粒径は、シランカップリング処理やチタネートカップリング処理によっては実質的に変化しない。よって、本明細書では、鉄粉および亜鉛粉の平均粒径とカップリング処理後の鉄粉等の平均粒径とを同一として取り扱っている。
【0029】
上記実施例においては既知の平均粒径の鉄粉および亜鉛粉を用いているが、所望の平均粒径の鉄粉および亜鉛粉を得る方法については特段の制限はない。例えば目開きの異なる複数のJIS標準フルイを目開きの大きい順に重ね、一番上のフルイに鉄または亜鉛の粉砕粉を入れ、フルイを振動させて粉砕粉を分級することにより、所望の平均粒径の鉄粉等を得ることができる。
【0030】
〔実施例2〕
シランカップリング処理済み鉄粉と、チタネートカップリング処理済み亜鉛粉と、粉末状ナイロン6とを、質量比が30/58/12となるようにしたこと以外は、上記実施例1と同様して試験片を射出成形した。
【0031】
〔実施例3〕
シランカップリング処理済み鉄粉と、チタネートカップリング処理済み亜鉛粉と、粉末状ナイロン6とを、質量比が42/10/48となるようにしたこと以外は、上記実施例1と同様して試験片を射出成形した。
【0032】
〔実施例4〕
シランカップリング処理済み鉄粉と、チタネートカップリング処理済み亜鉛粉と、粉末状ナイロン6とを、質量比が67.4/16.8/15.8となるようにしたこと以外は、上記実施例1と同様して試験片を射出成形した。
【0033】
〔実施例5〕
鉄粉および亜鉛粉ともにシランカップリング処理したこと以外は、上記実施例4と同様して試験片を射出成形した。
【0034】
〔実施例6〕
平均粒径が40μmである亜鉛粉を使用したこと以外は、上記実施例4と同様して試験片を射出成形した。
【0035】
〔実施例7〕
平均粒径40μmの鉄粉をチタネートカップリング剤で表面処理したものと、平均粒径40μmの亜鉛粉をシランカップリング剤で表面処理したものと、粉末状ナイロン6と、を質量比が67.4/16.8/15.8となるようにしたこと以外は、上記実施例4と同様にして試験片を射出成形した。
【0036】
〔比較例1〕
亜鉛粉を添加せずに、シランカップリング処理済み鉄粉と粉末状ナイロン6とを質量比で84.2/15.8となるように混合したものを用いこと以外は、上記実施例1と同様して試験片を射出成形した。なお、この比較例1は、亜鉛粉が添加されていない。
【0037】
〔比較例2〕
カップリング処理を全く行わない鉄粉および亜鉛粉を用いたこと以外は、上記実施例4と同様にして試験片の射出成形を試みた。しかし、試験片の成形ができなかった。
【0038】
〔比較例3〕
予め鉄粉67.4質量部と亜鉛粉16.8質量部とを混合し、この混合末に対してシランカップリング剤を添加してシランカップリング処理済み金属粉を得た。このシランカップリング処理済み金属粉(鉄粉/亜鉛粉=67.4/16.8の混合粉)と、粉末状ナイロン6とを質量比84.2/15.8で混練したこと以外は、上記実施例4と同様にして試験片の射出成形を試みた。しかし、試験片の成形ができなかった。
【0039】
〔比較例4〕
シランカップリング処理済み鉄粉と、チタネートカップリング処理済み亜鉛粉と、粉末状ナイロン6とを、質量比が73.2/16.8/10となるようにしたこと以外は、上記実施例1と同様にして試験片の射出成形を試みた。しかし、試験片の成形ができなかった。
【0040】
以上の各実施例および各比較例において、鉄粉含有高比重プラスチック組成物(試験片)の製造状況を観察した。また、各試験片の比重を測定するとともに、各試験片を23℃の水道水、および10質量%濃度の食塩水に浸漬し、経時的に変色または斑点の発生の有無を調べた。上記実施例および比較例における製造条件の一覧を表1に示し、その試験結果を表2に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
上記表1、2から次のことが明らかになる。シランカップリング処理済みの鉄粉と亜鉛粉とを用いたが、可塑性樹脂(ナイロン6)の配合割合を10質量%とした比較例4は成形が悪かった。この理由は樹脂量が不足したためと考えられる。この結果と実施例1の結果とから、鉄粉含有高比重プラスチック組成物に対する樹脂量は、成形性の点から12質量%以上とする必要がある。
【0044】
また、実施例3の結果から、鉄粉含有高比重プラスチック組成物の比重を2以上とするためには、樹脂の配合量を鉄粉含有高比重プラスチック組成物に対して48質量%以下とする必要がある。また、実施例1と比較例1の結果から、鉄粉含有高比重プラスチック組成物に対して亜鉛粉が少なくとも2質量%含まれていれば、耐錆効果があることが判る。他方、亜鉛粉の上限は58質量%とする。この理由は、亜鉛粉は耐錆性を高めるために添加するものであり、鉄粉よりも高価であること、及び亜鉛粉が多くなると混合成形性が悪くなる傾向が認められること(実施例2参照)から、その上限を58質量%とし、鉄粉含有量が少なくとも30質量%以上とすることが望まれるからである。
【0045】
また、チタネートカップリング処理済み亜鉛粉を用いた実施例4とシランカップリング処理済み亜鉛粉を用いた実施例5との比較から、チタネートカップリング処理済み亜鉛粉を用いると混合成形性が高まることが判る。
【0046】
また、平均粒径7.5μmの亜鉛粉を用いた実施例4と平均粒径40μmの亜鉛粉を用いた実施例6との比較から、亜鉛粉の平均粒径が大きくなると鉄粉含有高比重プラスチック組成物の耐錆性が低下することが認められる。また、共に平均粒径が40μmのチタネートカップリング処理済み鉄粉とシランカップリング処理済み亜鉛粉を用いた実施例7と、実施例5との比較からも、亜鉛粉の粒径が大きくなると耐錆性が低下することが認められる。これらの結果から、亜鉛粉の平均粒径は40μm未満とするのが好ましい。ただし、平均粒径が2μm未満の亜鉛粉は作製し難いとともに、取扱い性が悪くなるので好ましくない。よって、亜鉛粉としては平均粒径が2μm以上、40μm未満のものを用いるのがよい。
【0047】
他方、鉄粉含有高比重プラスチック組成物中の亜鉛粉は常に鉄粉の近傍に存在する必要がある。亜鉛粉は鉄粉の酸化を抑制する役割を担っているからである。このことは、亜鉛粉の粒径が鉄粉よりも小さいことが望ましいことを意味する。すなわち、鉄粉の粒径>亜鉛粉の粒径の関係であることが望ましいが、上記したように亜鉛粉(平均粒径)の上限は40μm未満が好ましいので、鉄粉の下限を好ましくは40μm以上とする。ただし、鉄粉の平均粒径が150μmを超えるとプラスチック組成物に対する混合性が悪くなるとともに、成形した際、成形物表面にざらつきが生じるので好ましくない。よって、鉄粉の平均粒径は、好ましくは40μm以上150μm以下とする。
【0048】
また、比較例2の結果から、カップリング処理を行わないと組成物としての成形が困難になることが判る。更に、実施例4〜7と比較例3との結果から、成形性の点で鉄粉と亜鉛粉とを個別にカップリング処理する必要があることが判る。
【0049】
〔追加事項〕
上記実施例等では、熱可塑性樹脂としてナイロン6(ポリアミド6)を使用したが、本発明では低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,ポリプロピレン,耐衝撃性ポリスチレン,ABS樹脂などの種々の熱可塑性樹脂が使用できる。具体的には例えばナイロン6に代え、ナイロン66,ナイロン12,芳香族ナイロン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABSなどの樹脂が使用できる。
【0050】
また、本発明で使用するシランカップリング剤とは、X〜Si(OR)3で表される化合物意味し、チタネートカップリング剤とは、X〜Ti(OR)3で表される化合物を意味する。Xは有機基と反応する官能基(例えばアミノ基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、クロル基など)を有するものであり、ORはアルコキシ基(Rはメトキシ、エトキシ基など)である。
【0051】
シランカップリング剤としては、例えば、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、アミノシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルメチエルジメトキシシラン塩酸塩、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アミノシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル{3−トリメトキシシリル)、プロピルアンモニウムクロリド}、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプリピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランなどが例示できる。
【0052】
また、チタネートカップリング剤としては、上記各化合物中のシランをチタンに代えたものなどが例示できる。
【0053】
これらのカップリング剤は、通常0.005〜0.1モル/鉄粉又は亜鉛粉1kg濃度で使用し、好ましくは0.01〜0.04モル/鉄粉又は亜鉛粉1kg濃度で使用する。0.005モル濃度以下では、カップリング効果が不十分となり、0.1モル濃度を超えて入れても更なる効果の増加が少なくなり不経済だからである。
【0054】
また、本発明に係る鉄粉含有高比重組成物には、鉄粉、亜鉛粉以外の添加剤を添加することができることは勿論であり、例えば必要に応じて親和剤,顔料,色調安定剤,離型剤,強化用繊維等を添加するのがよい。
【0055】
また、本発明にかかる鉄粉含有高比重プラスチック組成物は、鉄粉含有高比重プラスチック成形品をも含む概念であるが、狭義には、高比重プラスチック成形品の原材料としての組成物を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上で説明したように、本発明によると、他の金属に比較し安価な鉄粉を用いて、鉄錆に起因する変質を防止し得た高比重プラスチック組成物を提供でき、この高比重プラスチック組成物は従来品に比較し経済性、成形性等にも優れる。よって、その産業上利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明実施例で用いた射出成形機の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップリング剤で表面処理されたカップリング処理済み鉄粉と、前記鉄粉とは別途でカップリング剤により表面処理されたカップリング処理済み亜鉛粉と、熱溶融された熱可塑性樹脂と、が混練された比重が2〜4.6である高比重プラスチック組成物であって、前記組成物の総質量に対し前記カップリング処理済み鉄粉30〜86質量%、前記カップリング処理済み亜鉛粉が2〜58質量%、熱可塑性樹脂が12〜48質量%配合されてなる鉄粉含有高比重プラスチック組成物。
【請求項2】
前記カップリング処理済み鉄粉の平均粒径が40μm以上150μm以下であり、前記カップリング処理済み亜鉛粉の平均粒径が2μm以上40μm未満であり、
かつ、上記カップリング処理済み鉄粉がシランカップリング剤で表面処理されたものであり、前記カップリング処理済み亜鉛粉がチタネートカップリング剤で表面処理されたものである
ことを特徴とする請求項1記載の鉄粉含有高比重プラスチック組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂である、請求項1または2に記載の鉄粉含有高比重プラスチック組成物。
【請求項4】
平均粒径40μm以上150μm以下の鉄粉と、0.005〜0.1モル/鉄粉1kg濃度のシランカップリング剤と、を攪拌混合することにより鉄粉の表面をシランカップリング処理する鉄粉カップリング処理工程と、
平均粒径が2μm以上40μm未満の亜鉛粉と、0.005〜0.1モル/亜鉛粉1kg濃度のチタネートカップリング剤と、を攪拌混合することにより亜鉛粉の表面をチタネートカプリング処理する亜鉛粉カップリング処理工程と、
前記カップリング処理済みの鉄粉を30〜86質量%と、前記カップリング処理済みの亜鉛粉を2〜58質量%と、ポリアミド樹脂を12〜48質量%と、を前記ポリアミド樹脂の溶融温度以上の温度で攪拌混合するプラスチック混練物作製工程と、
前記プラスチック混練物を射出しプラスチック混練物を硬化させる射出工程と、
を備える比重2〜4.6の鉄粉含有高比重プラスチック組成物の製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2006−249359(P2006−249359A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70956(P2005−70956)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000157887)岸本産業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】