説明

鉄道車両用の移動局通信システム

【課題】従来に比べて基地局側での高周波受信レベルを安定化させる。
【解決手段】架線からの供給電力で線路上を走行する列車から電磁輻射される誘導無線周波数信号を架線に誘導結合させ、さらに基地局接続された誘導線に誘導結合させる間接結合方式により列車と基地局との間の通信を行う鉄道車両用の誘導無線通信システムにおいて、先頭車両、最後尾車両及び少なくとも一つの中間車両を含む列車に搭載される移動局通信システムであって、先頭車両及び最後尾車両に夫々設置され、情報入力手段,入力情報を含む所定の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成する生成手段,及び誘導無線周波数信号を電磁輻射する送信アンテナとを夫々含む送信装置と、送信装置間を接続する接続線と、架線からの電力受電用のパンタグラフを有する中間車両に設けられ、誘導無線周波数信号が架線へ誘導結合することで架線を流れる高周波電流をパンタグラフから線路へ短絡させる短絡手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道等で使用される誘導無線通信システムに関し、特に、鉄道車両に搭載される移動局通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
誘導無線通信は、地上設備の誘導線路と移動局車上装置の車上アンテナとの間で電磁誘導を利用する通信手段であり、主に移動局車上アンテナと地上誘導線を直接に電磁結合する直接結合方式と、車上アンテナと地上誘導線との間に別の導線(例えば、架線)を介在させて高周波電流の2次結合(間接結合)で通信を行う間接結合方式とがあり、地上鉄道、地下鉄道等に広く利用されている。
【0003】
図5は従来技術における誘導無線通信システムの概略構成図であり、電車線(トロリー線)2を介在させた間接結合方式による通信システムが示されている。図5に示すように、誘導無線通信システムは、例えば、運転指令所の指令所装置10と、指令所装置10に通信回線9を介して接続される基地局装置(固定局装置とも言う)7と、サテライト受信局55と、電車線2に沿って敷設される誘導線4と、鉄道線路上を走行する鉄道列車(電車)1に搭載された移動局車上装置11及び移動局車上装置11に付随する車上アンテナ(送信アンテナ23及び受信アンテナ24)を備えている。
【0004】
今、電車1から指令所装置10に音声(通話音声)が伝達される場合、移動局車上装置11の送話器12で発せられた乗務員の音声は、通話送信器19で誘導無線周波数f1(例えば80〜250kHzの一波)の高周波信号(移動局通話送信波:以下、「信号S1」という)に変調され、送信アンテナ23から電磁輻射(電磁放射)される。これによって、信号S1は電車線2に誘導結合され(一次結合)、続いて誘導線4に誘導結合される(二次結合)。信号S1は、誘導線4に誘導結合されると、基地局側で受信された誘導無線波と言う意味で「基地局受信波」と呼ばれる。
【0005】
信号S1(二次結合波であるため図面はS1´として示す)は、線路結合器5から接続ケーブル8を通じて基地局装置7が備える整合器35からHYB(ハイブリッド)36及び36´を経て通話受信器37に入力され、通話の音声信号に復調される。復調された通話の音声信号は、音声信号比較選択回路58から制御装置59を介して、基地局装置7と指令所装置10とを接続する接続ケーブル(通信回線)9を経て指令所装置10に伝達される。但し、音声信号比較選択回路58には、誘導線4の終端結合器6に接続されたサテライト受信局55内の受信器56で受信された信号S1´の復調により得られた音声信号がケーブル57を通じて入力されており、基地局7の受信器37とサテライト受信局55の受信器56とで受信復調された各々の音声信号を音声信号比較選択回路58で比較選択し、通話品質の良い方が指令所装置10に接続されるように構成されている。
【0006】
ケーブル9で指令所装置10に伝達された音声信号は、整合器60,HYB61及び62を経て通話増幅器45で増幅された後、指令制御器47を経て、スピーカ48に到達し、スピーカ48から列車乗務員の音声通話が出力される。
【0007】
一方、運転指令員の通話音声が指令所装置10から電車1へ伝達される場合、指令所装置10の送受話器49に入力された通話音声は、指令制御器47より音声増幅器50に入力され、HYB61及び整合器60を経て接続ケーブル9に出力され、この接続ケーブル9を通じて基地局装置7に伝達される。基地局装置7に入力される指令所装置10からの音声信号は、制御回路59から通話送信器42に入力され、通話送信器42で誘導無線周
波数f1と異なる所定の誘導無線周波数f3(例えば80〜250kHzの一波)の高周波信号(基地局通話送信波:以下、「信号S3」という)に変調された後、HYB36から整合器35を経て接続ケーブル8から線路結合器5を通じて誘導線4に送出される。
【0008】
誘導線4に送出された信号S3は、一旦電車線2に電磁誘導(誘導結合)される(一次結合)。電車線2に誘導された信号S3は、受信アンテナ24に誘導結合され(二次結合)、通話受信器26で音声信号に復調されスピーカ30を動作させ、運転指令員の音声が出力される。以上の構成により列車乗務員と運転指令員との間で音声による相互通話(双方向通話)を行うことができる。
【0009】
また、電車1には通常、電車で何らかの非常事態が発生した場合、指令所装置10及び図示されてない対向列車(対向電車)への防護発報を含む、非常発報(非常警報)用として、誘導無線通話送信周波数f1(信号S1)とは別の1波の誘導無線周波数f2(例えば80〜250kHzの一波)の高周波信号(移動局非常送信波:以下、「信号S2」という)を送出するための装置が設備されている。
【0010】
今、電車1で非常事態が発生し、乗務員が電車1の発報押釦31を押すことにより非常発報信号(例えば200〜1000Hzの一波)が発せられると、非常発報送信器20で変調されることで誘導無線周波数f2の高周波信号に変換され、図示しない切り替えスイッチを通って、非常発報周波数(周波数f2)に同調された送信アンテナ23から、電車線2に電磁放射され、誘導線4に誘導結合する。
【0011】
誘導線4に電磁誘導された信号S2は、基地局装置7の非常受信器38で音声帯域の非常信号音(非常発報信号)に復調された後、ケーブル9から指令所装置10に伝達される。
【0012】
指令所装置10に入力された非常発報信号は、非常警報増幅器63で信号増幅された後、スピーカ48を動作させて非常信号音を出力させ、外部機器、例えば運行表示盤54に非常警報の各種情報表示を行うとともに、双方向ケーブル52,53を介して関連設備に非常警報発生の情報伝達を行う。
【0013】
指令所装置10で電車1からの非常警報音の受信が確認されると、送信器50を経て図示されない発信器から、自動で非常発報応答確認信号音(前記非常発報信号と異なる、例えば200〜1000Hzの一波)が基地局装置7の通話送信器42で変調され、基地局通話送信周波数f3の信号S3となり、誘導線4に出力される。
【0014】
誘導線4に出力された信号S3は、一旦電車線2を介して電車1の受信アンテナ24に電磁誘導される。受信アンテナ24で受信された非常発報応答確認信号音を含む誘導無線通話受信波の信号S3は、通話受信器26で復調され、非常発報応答確認信号音として、スピーカ30から出力される。乗務員は非常発報応答確認信号音を聞くことで、非常発報が正常に確立したことを確認することができる。
【0015】
本発明に関連する先行技術として、例えば、特許文献1や特許文献2に記載された技術がある。
【特許文献1】特開2005−318448号公報
【特許文献2】特開2004−266719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前述したそれぞれの機能を満足させるためには、電車1の送信アンテナ23から電車線2に電磁輻射され、電車線2から更に誘導線4に電磁誘導されて、基地局7に到達する高
周波受信レベルが常に安定していることが要求される。しかし、誘導無線の間接結合方式では、電車1の先頭の車両1Aの送信アンテナ23で誘導無線周波数信号を送信した場合、図5の如く、電車線2への誘導結合により生じる誘導無線高周波電流itは、矢印aの如く、電車1の進行方向(前方、図5の紙面の左方向)へ流れ易い。
【0017】
一方、電車1の後方に向けては、電車線2から電車1の後方のパンタグラフ34により電車線2寄りの接続線64を介して、誘導無線周波数に対しては極めて低インピーダンスとなる、例えばモータ65のような機器が、レール(アース)間に接続線で負荷された状態となる。このため、電車1の後方に向けては、誘導無線高周波電流itは流れ難く、点線で示した矢印bからの基地局装置7´に対する電磁誘導はほとんど期待できない。よって、電車1が変電所67に近づくにつれて、アンテナ面積(高周波が流れる電車線2の長
さ)が小さくなるので、高周波受信レベルの変動要因となっていた。
【0018】
さらに、電車線2は、電車1の進行方向及び後方において、誘導無線周波数(例えば10kHz〜250kHz)に対して低インピーダンスとなる変電所67,68間に接続されており、このような変電所が電車線2から誘導線4に対する二次輻射を更に複雑にし、ある特定区間(場所)では、基地局装置7の受信レベルが極端に落ち込み、通信に支障を来す場合があった。
【0019】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、従来に比べて基地局側での高周波受信レベルを安定化させることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0021】
すなわち、本発明は、架線から供給される電力を用いて線路上を走行する列車から電磁輻射される誘導無線周波数の信号を前記架線に誘導結合させ、さらに基地局に接続された誘導線に誘導結合させる間接結合方式により前記列車と前記基地局との間の通信を行う鉄道車両用の誘導無線通信システムにおいて、先頭車両、最後尾車両及びこれらの車両間を接続する少なくとも一つの中間車両を含む3以上の車両で編成された列車に搭載される移動局通信システムであって、
前記先頭車両及び前記最後尾車両に夫々設置される送信装置であって、情報の入力手段と、入力された情報を含む所定の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成する生成手段と、前記誘導無線周波数信号を電磁輻射する送信アンテナとを夫々含む送信装置と、
前記送信装置間を接続する接続線と、
前記架線から電力を受電するためのパンタグラフを有する少なくとも1つの中間車両に設けられ、誘導無線周波数信号が前記架線へ誘導結合することにより前記架線を流れる高周波電流を前記パンタグラフから前記線路へ短絡させる短絡手段とを備え、
前記送信装置の一方に情報が入力された場合に、前記送信装置の一方は、前記情報を含む前記所定の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成し、自装置に対応する送信アンテナからその誘導無線周波数信号を電磁輻射するとともに、前記入力された情報を前記接続線を介して前記送信装置の他方へ伝達し、前記送信装置の他方は、前記送信装置の一方から受信された前記情報を含む前記所定の送信周波数と同一の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成し、前記送信装置の一方と同期をとって、自装置に対応する送信アンテナから当該誘導無線周波数信号を同位相で並列に電磁輻射する
ことを特徴とする鉄道車両用の移動局通信システムである。
【0022】
本発明によれば、先頭車両と最後尾車両に設置された夫々の送信装置の送信アンテナから、同一の送信周波数の誘導無線周波数信号が並列に電磁輻射される。これによって、列車の走行位置に拘わらず、架線に対する電磁誘導の範囲を安定化させて、基地局側の高周
波受信レベルを安定化させることができる。一方で、短絡手段により、架線を流れる高周波電流は線路(アース)へ短絡されるので、先頭車両の送信アンテナからの誘導無線周波数信号と、最後尾車両の送信アンテナからの誘導無線周波数信号とが、架線上で干渉してビートが発生することを抑えることができる。
【0023】
本発明は、前記送信装置の一方は、非常信号の送信指示に応じて非常信号を含む前記所定の送信周波数と異なる非常信号用送信周波数の誘導無線周波数信号を生成する非常信号生成手段をさらに備え、
情報と非常信号とを並列に前記基地局へ送信する場合には、前記送信装置の一方が、非常信号の送信指示に応じて前記非常信号送信周波数の誘導無線周波数信号を生成して自装置に対応する送信アンテナから電磁輻射するとともに、入力された情報を前記接続線を介して前記送信装置の他方へ伝達し、前記送信装置の他方は、前記送信装置の一方から受信された前記情報を含む前記所定の送信周波数と同一の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成し、自装置に対応する送信アンテナから当該誘導無線周波数信号を電磁輻射するように、構成することができる。
【0024】
また、本発明は、前記各送信装置における生成手段は、前記入力された情報の信号を所定の搬送波で変調する変調器と、前記変調器によって変調された信号を逓倍して前記所定の送信周波数の誘導無線周波数信号にする逓倍器とを含み、
前記送信装置の一方に情報が入力された場合に、前記送信装置の一方は、前記情報の信号を前記変調器で変調し、前記逓倍器で逓倍することによって所定の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成し、自装置に対応する送信アンテナからその誘導無線周波数信号を電磁輻射するとともに、前記変調器で変調された変調信号を前記接続線を介して前記送信装置の他方へ伝達し、
前記送信装置の他方は、前記送信装置の一方から受信された前記変調信号を前記逓倍器で逓倍して前記所定の送信周波数と同一の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成し、前記送信装置の一方と同期をとって、自装置に対応する送信アンテナから当該誘導無線周波数信号を同位相で並列に電磁輻射するように、構成することができる。
【0025】
また、本発明は、前記非常信号生成手段は、非常信号の発生器と、この発生器から出力される非常信号を搬送波で変調する非常信号用変調器と、この非常用変調器で変調された非常信号を逓倍して前記情報の送信周波数と異なる非常信号用の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成する非常用逓倍器とを含むように、構成することができる。
【0026】
また、本発明は、前記接続線は、前記列車の先頭車両から最後尾車両までの間を引き通された、単独に引き通しされた引き通し線又は乗務員間連絡音声回線として使用される引き通し線である構成を適用することができる。
【0027】
また、本発明は、前記接続線は、前記列車の先頭車両から最後尾車両までの間を引き通された、客室と乗務員室との間の非常通話回線として使用される引き通し線である構成を適用することができる。
【0028】
また、本発明は、前記接続線は、前記列車の先頭車両から最後尾車両までの間を引き通された、各車両に対して電力を供給するための電力線であり、前記情報を含む信号が前記電力線を通じて前記送信装置の一方から前記送信装置の他方へ伝達されるように構成することができる。
【0029】
また、本発明は、前記送信装置の他方における前記生成手段の電源は、前記送信装置の一方から前記情報が受信された場合に投入されるように構成することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、従来に比べて基地局側での高周波受信レベルを安定化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の実施形態における構成は例示であり、本発明は実施形態の構成に限定されない。
【0032】
図1は、本発明の実施形態に係る誘導無線通信システムの全体構成を示す図である。図1において、誘導無線通信システムは、地上設備として、鉄道車両の運転指令所に設置される指令所装置10と、指令所装置10に通信回線(ケーブル9)を介して接続される複数の基地局装置7(図1では基地局装置7A及び7Bを例示)とを備える。
【0033】
また、誘導無線通信システムは、基地局装置7と誘導無線を用いて通信を行う移動局車上装置11を備える。この実施形態では、電車線(架線)2から電力を受電して線路3上を走行する鉄道車両(この例では、電車1)に、複数の移動局車上装置11A及び11Bが備えられている。電車1は、移動局車上装置11毎に用意された送信アンテナ23及び受信アンテナ24を有している。送信アンテナ23Aを含む移動局車上装置11A、送信アンテナ23Bを含む移動局車上装置11Bが、本発明における各送信装置に相当する。
【0034】
電車1は、少なくとも1つの中間車両を含む3台以上の車両(図1では、車両1−1,
1−2,・・・1−7を例示)から編成される。電車1の先頭車両と最後尾車両の夫々に
、移動局車上装置,送信アンテナ及び受信アンテナのセットが設置される。
【0035】
この実施形態では、電車1の進行方向に対して先頭となる車両1−1に移動局車上装置11A(第1の移動局車上装置に相当)が設置され、最後尾となる車両1−7に移動局車上装置11B(第2の移動局車上装置に相当)が設置されている。これらの移動局車上装置11Aと11Bとの間は、指令所へ向けて送信すべき音声信号を伝達するための接続線Aで接続されている。
【0036】
車両1−1の車上には、移動局車上装置11Aと対応する送信アンテナ23A及び受信アンテナ24Aが設置され、車両1−7の車上には、移動局車上装置11Bと対応する送信アンテナ23B及び受信アンテナ24Bが設置されている。
【0037】
また、電車1を構成する少なくとも1つの中間車両(図1では、車両1−3及び車両1
−6)の車上には、電車線2から電力を受電するパンタグラフ34A、34Bが夫々設置
されている。
【0038】
車両1−3及び車両1−6の夫々には、パンタグラフ34A、34Bで受電され、電力線64A、64Bを介して供給される電力を用いて電車1の駆動輪を夫々駆動させるモータ65A、65Bを含む動力回路が搭載されており、これらの動力回路は車輪を介して線路3(アース)に接続された接続線66A、66Bとして機能する。このように、パンタグラフを有する中間車両は、電車線2を流れる誘導無線周波数の高周波信号をパンタグラフから線路3(アース)へ接続する、高周波信号に対して低インピーダンスの短絡路(短絡手
段)を備えた構成となっている。
【0039】
電車1から指令所装置10に音声が伝達される場合、例えば、先頭の車両1−1に搭載された移動局車上装置11Aを用いて指令所へ通話連絡が行われる場合について説明する。移動局車上装置11Aの送受話器122のマイク221(図2)に入力された音声(例え
ば乗務員の音声)は、移動局車上装置11Aにて、所定の誘導無線周波数f1(例えば8
0〜250kHzの一波)の高周波信号(移動局通話送信波)に変換され、送信アンテナ23Aから電磁輻射される。これによって、高周波信号は一旦電車線2に誘導結合され(一次結合)、続いて、例えば誘導線4に誘導結合される(二次結合)。高周波信号は、誘導線4に誘導結合されると、基地局側で受信された誘導無線波と言う意味で「基地局受信波」と呼ばれる。
【0040】
誘導線4に二次結合した高周波信号は、線路結合器5から接続ケーブル8を通じて基地局装置7Aが備える整合器35からHYB(ハイブリッド)36及び36´を経て通話受信器37に入力され、通話の音声信号に復調される。復調された通話の音声信号は、音声信号比較選択回路58から制御装置59を介して、基地局装置7Aと指令所装置10との間の接続ケーブル9を経て指令所装置10に伝達される。
【0041】
但し、音声信号比較選択回路58には、誘導線4の終端結合器6に接続されたサテライト受信局55内の受信器56で受信された信号の復調により得られた音声信号がケーブル57を通じて入力されており、基地局7Aの受信器37とサテライト受信局55の受信器56とで受信復調された各々の音声信号を音声信号比較選択回路58で比較選択し、通話品質の良い方が指令所装置10に接続されるように構成されている。
【0042】
電力線2から誘導線4Aへ高周波信号が二次結合した場合には、基地局装置7Bで、基地局装置7Aとほぼ同様の動作が行われ、音声信号がケーブル9を通じて指令所装置10に接続される。
【0043】
ケーブル9で指令所装置10に伝達された音声信号は、整合器60,HYB61及び62を経て通話増幅器45で増幅された後、指令制御器47を経て、スピーカ48に到達し、スピーカ48から乗務員の音声が出力される。
【0044】
一方、運転指令所の運転指令員の通話音声が指令所装置10から電車1へ伝達される場合には、指令所装置10の送受話器49に運転指令員の通話音声が入力される。入力された通話音声は、指令制御器47より音声増幅器50に入力され、HYB61を経て、整合器60から接続ケーブル9を経て、基地局装置7A、7Bに伝達される。
【0045】
例えば、基地局装置7Aに入力される指令所装置10からの音声信号は、制御回路59から通話送信器42に入力され、通話送信器42で変調されることにより誘導無線周波数f3(例えば、誘導無線周波数f1と異なる80〜250kHzの一波)の高周波信号(基地局通話送信波:以下、「信号S3」という)に変換された後、HYB36及び整合器35を経て接続ケーブル8に出力され、線路結合器5を通じて誘導線4に送出される。
【0046】
誘導線4に送出された信号S3は、一旦電車線2に電磁誘導(誘導結合)される(一次結合)。電車線2に誘導結合された信号S3は、例えば、移動局車上装置11Aの受信アンテナ24Aに誘導結合される(信号S3´、二次結合)。移動局車上装置11Aでは、信号S3´の復調処理が行われ、最終的に、運転指令員の音声は、移動局車上装置11Aに具備されるスピーカ25及び送受話器122のスピーカ223(図2参照)から出力される。以上の構成により列車乗務員と運転指令員との間で音声による相互通話(双方向通話)を行うことができる。
【0047】
また、電車1に搭載される各移動局車上装置11には、電車1で何らかの非常事態が発生した場合、指令所装置10及び図示されてない対向電車への防護発報を含む、誘導無線周波数f1と異なる、非常発報(非常警報)及び防護発報用の誘導無線周波数f2(例え
ば、誘導無線周波数f1及びf3と異なる80〜250kHzの一波)の高周波信号(移動局非常送信波:以下、「信号S2」という。但し、図1において、信号S2及び信号S2
´の伝達経路は信号S1及びS1´と同じであるため図示せず)を送出する機能を有している。
【0048】
電車1で非常事態が発生し、乗務員が非常信号の送信指示を入力するために、電車1の移動局車上装置11(例えば移動局車上装置11A)が具備する非常発報スイッチ(発報押
釦)を押すと、移動局車上装置11A内で非常発報信号(例えば200〜1000Hzの
一波)が発せられ、非常発報送信器で、非常信号用送信周波数(f2)の誘導無線周波数の高周波信号が生成される。この高周波信号は、誘導無線周波数f2に同調された送信アンテナ23Aから、信号S2として電車線2に電磁輻射され、電車線2に誘導結合した後、さらに信号S2´として誘導線4に誘導結合する。
【0049】
誘導線4に結合された信号S2´(高周波信号)は、基地局装置7Aの非常受信器38で音声帯域の非常信号音(非常発報信号に復調された後、ケーブル9から指令所装置10に
伝達される。
【0050】
指令所装置10に入力された非常発報信号は、非常警報増幅器63で信号増幅された後、スピーカ48に到達し、このスピーカ48から非常信号音が出力される。このとき、外部機器、例えば運行表示盤54に非常警報の各種情報表示が行われるとともに、双方向ケーブル52,53を介して関連設備に非常警報発生の情報伝達が行われる。
【0051】
指令所装置10で電車1からの非常警報音の受信が確認されると、図示されない発信器から、自動で非常発報応答確認信号音(例えば、前記非常発報信号と異なる200〜10
00Hzの一波)が指令所装置10から基地局装置7(例えば基地局装置7A)へ伝達され
、基地局装置7Aの通話送信器42で基地局通話送信周波数f3の信号S3に変調され、誘導線4に出力される。
【0052】
誘導線4に出力された信号S3は、電車線2に一次結合され、さらに信号S3´として電車1の受信アンテナ24(例えば受信アンテナ24A)に二次結合される。受信アンテナ24Aで受信された信号S3´は、移動局車上装置11A内の非常受信器で非常発報応答確認信号音に復調され、例えばブザー26(図2)を鳴動させたり、非常受報灯を点灯させたりする。乗務員はブザー音を聞くことで、非常発報が正常に確立した(指令所に伝達さ
れた)ことを確認することができる。
【0053】
図2は、図1に示した移動局車上装置11A及び11Bの構成例を示す図である。移動局車上装置11A及び11Bは、同じ構成を有している。図2において、マイクとスピーカとを含む送受話器122の送受話器スイッチ(リレー)TSがオンにされると、この送受話器スイッチTSがオンにされた側の移動局車上装置11が親装置となり、オンにされていない側の移動局車上装置11が子装置として機能する。例えば、移動局車上装置11A及び11Bの双方の送受話スイッチTS及びTS´がオフの状態において、移動局車上装置11Aの送受話スイッチTSがオンにされると、移動局車上装置11Aが親装置となり、移動局車上装置11Bは子装置となる。図2には、移動局車上装置11が親装置となった状態が示されている。
【0054】
送受話器スイッチTSは、オンとオフとの間で切り替わるように構成されており、そのオン状態において、変調器(MOD)131が動作状態となるとともに、無接点スイッチ回路134内のゲート回路341がオン(開)状態になる。
【0055】
この状態において、送受話器122の送話マイクロホン221(入力手段)から音声が入力されると、入力された音声信号は、MOD131で所定の搬送周波数(例えば20〜1
00kHzの一波)により変調された信号(通話送信出力信号:変調信号に相当)にされ、
2分割して出力される。2分割された一方の信号は、周波数逓倍回路(逓倍器:TRIP)132に入力される。
【0056】
ここで、移動局車上装置11(11A)には、非常発報を送信するための非常発報スイッチ(リレー)ESが具備されている。非常発報スイッチESは、接点a,b及びcを有し、
そのオフ状態では、接点aと接点bとが閉じた状態となって、TRIP132を動作状態にする。
【0057】
TRIP132は、MOD131から入力される通話送信出力信号を数倍(3〜10倍)に逓倍し、所定の送信周波数の誘導無線周波数f1にして出力する。出力された信号は、電力増幅器(P−AMP)133で電力増幅された後、送信アンテナ23Aから誘導無線周波数f1の誘導無線周波数信号S1として電磁輻射され、電車線(架線)2(図1)に誘導結合される。なお、MOD131、TRIP132及びP−AMP133が通話送信器に相当する。また、MOD131及びTRIP132が本発明の生成手段に相当する。
【0058】
一方、MOD131から出力され2分割された他方の信号(通話送信出力信号)は、無接点スイッチ回路134のゲート回路341を通過し、増幅器342で増幅された後、接続線Aを介して子装置側の移動局車上装置11Bにおける無接点スイッチ回路134´に入力される。
【0059】
無接点スイッチ回路134´では、移動局車上装置11B(子装置)の送受話器スイッチTS´がオフ(開放)のため、無接点スイッチ回路134´のインバータ343´によりゲート回路344´が動作状態(開状態)となっている。したがって、接続線Aからの信号は、ゲート回路344´を通過して増幅器345´で増幅された後、TRIP132´で親装置と同じ誘導無線周波数f1に周波数逓倍される。TRIP132´からの出力信号は、P−AMP133´で電力増幅された後、送信アンテナ23Bから移動局車上装置11A(親装置)と同じ所定の送信周波数f1の誘導無線周波数信号S1として電磁輻射され、電車線2に誘導結合される。
【0060】
なお、移動局車上装置11Aと移動局車上装置11Bとは、両者のTRIP132及び132´で同期がとられ、これらの送信アンテナ23A及び23Bからほぼ同時に(並列
に)信号S1が送信されるように構成される。また、送信アンテナ23A及び23Bの夫
々から誘導無線周波数信号S1が位相を合わせて同位相(同相)で電磁放射されるように、送信アンテナ23A及び23Bが調整されている。但し、位相を合わせる箇所は、送信アンテナに限られず、信号伝送路上の適宜の箇所に位相調整用回路を設けることができる。
【0061】
ここで、送信アンテナ23Aから電車線2に信号S1が誘導結合(電磁誘導)されると、信号S1に基づく高周波電流itが、電車1の進行方向(前方)へ向かって流れ、変電所67で接地(アース)される(矢印a)、このようにして、変電所67と車両1−1との間を高周波電流が流れる第1のループ(閉回路:矢印a)を形成する状態になる。一方、信号S1の誘導結合により電車線2を電車1の後方へ向かって流れる高周波電流は、パンタグラフ34Aから線路3(アース)へ短絡されるので、パンタグラフ34Aより後方に殆ど流れない。
【0062】
一方、送信アンテナ23Bから電車線2に信号S1が誘導結合(電磁誘導)されると、高周波電流が電車1の先頭へ向かって流れる。但し、この高周波電流は、パンタグラフ34Bから線路3(アース)へ短絡され、電車1の後方の変電所68から電車線2へ回り込む(
矢印b)ようにして、車両1−7と変電所68との間を流れる第2のループ(閉回路:矢印b)を流れる状態になる。このように、送信アンテナ23Bからの信号S1の誘導結合に
基づく高周波信号は、パンタグラフ34Bで短絡されるので、これより前方には殆ど流れ
ない。
【0063】
よって、親装置の送信アンテナ23Aから送信された信号S1に基づく高周波信号と、子装置の送信アンテナ23Bから送信された信号S1に基づく高周波信号とは相互に干渉せず、ビート音の発生が抑えられる。
【0064】
従来では、1つの誘導無線周波数を送信周波数として通話音声を指令所装置へ送信する場合には、先頭側の移動局車上装置のみを用いて通話音声信号が送信されていた。このため、電車1が変電所68から変電所67に近づくにつれて、高周波電流itの電車線2を流れる距離が短くなり(第1のループが小さくなり)、電車線2から誘導線4へ二次結合される範囲(電車線2から誘導線4へ二次結合する信号S1´の受信範囲)が狭まっていた。例えば、図1に示す例では、電車1の先頭車両1−1の走行位置が誘導線4の終端結合器6を超えると、移動局車上装置11Aからの信号S1´は誘導線4Aに結合しない状態となり、高周波受信レベルの変動を招来するおそれがあった。
【0065】
これに対し、上述した構成によれば、一次結合用の導線(電車線2)を流れる高周波電流をパンタグラフからアース(線路3)に短絡させる、少なくとも1つの中間車両が備えられる。最後尾の車両1−7に搭載された移動局車上装置11Bからも、移動局車上装置11Aからの通話送信周波数(誘導無線周波数)f1と同じ誘導無線周波数f1を有する信号S1を送信することができる。
【0066】
電車1の進行に従って第1のループのアンテナ面積は小さくなる。しかし、電車1の進行に従って第2のループのアンテナ面積は大きくなる。ループが大きくなることは、アンテナの実行高が大きくなることを意味する。すなわち、送信アンテナ23Bからの信号S1が電力線2へ誘導結合し、これに基づく高周波電流が第2のループを流れることで、電車線2からの信号S1´が誘導線4及び4Aの夫々に対して二次結合することになる。これによって、指令所装置10では、基地局7A(サテライト受信局55)及び基地局7Bからの受信波(信号S1に基づく高周波信号)を得ることができる。
【0067】
このようにして、信号S1を従来よりも適正に基地局側で受信できることになり、基地局側での高周波受信レベルの安定した、電車1から指令所への通話連絡が可能となる。
【0068】
なお、指令所装置10からの通話音声は、例えば基地局装置7Aにて、誘導無線周波数f3の信号S3として電磁輻射され、誘導線4に一次結合した後、電車線2に二次結合し、さらに受信アンテナ24Aで受信される。受信アンテナ24Aには、受信バンドパスフィルタ(R−BP)137が接続されており、所定の周波数帯域の信号のみがR−BP137から出力される。R−BP137の後段には、通話受信器(R1−T)138と、非常受信器(R1−E)141とが接続されている。
【0069】
通話受信器138は、受信バンドパスフィルタ137から出力される誘導無線周波数f3の信号を抽出して復調処理を行い、この復調処理により得られた通話音声信号をチャネルセレクタ(CHSEL)139に出力する。チャネルセレクタ139は、スイッチ(切替
装置)等を有しており、通話受信器138から入力される通話音声信号の出力先として、
増幅器(AMP)140側と、移動局車上装置11Bのチャネルセレクタ139´に接続された接続線B側との少なくとも一方を選択して出力することができる。また、チャネルセレクタ139は、接続線Bから入力される通話音声信号を増幅器140に接続することもできる。
【0070】
増幅器140はチャネルセレクタ139から入力される通話音声信号を増幅し、スピーカ25や、送受話器122のスピーカ223に接続する。これによって、各スピーカ25
及び223は、指令所装置10からの音声や、移動局車上装置11Bからの音声を出力することができる。接続線Bは、電車1の車両1−1から車両1−7までに亘って設けられた引き通し線の一つであり、運転指令所からの音声を、移動局車上装置11Aと11Bとの一方で受信して他方に伝達するために使用される。
【0071】
また、受信バンドパスフィルタ137の出力は、非常受信器141にも接続され、非常受信器141は、受信バンドパスフィルタ137の出力から誘導無線周波数f2の信号を抽出して受信器(REC)142に接続する。受信器142は、非常受信器141の出力信号から、非常発報信号(防護発報信号)を復調する。非常発報信号は、非常受報灯及びブザー26に接続されて、非常受報灯及びブザー26を点灯及び鳴動させる。
【0072】
なお、車両1−7の移動局車上装置11Bの送受話器スイッチが移動局車上装置11Aよりも先にオンにされた場合には、移動局車上装置11Bが親装置となる一方で、移動局車上装置11Aが子装置となり、上述したような、移動局車上装置11Aが親装置の場合と同様の動作が移動局車上装置11A及び11Bで行われ、信号S1及びS2が送信アンテナ23A及び23Bから送信される。
【0073】
図3は、電車1の先頭車両(車両1−1)の移動局車上装置11Aで非常発報送信が行われ、且つ車両1−1の移動局車上装置11Aの送受話器22より指令所装置10と通話連絡を行う場合の動作説明図である。
【0074】
移動局車上装置11Aにおいて、非常発報押釦(非常発報スイッチ(リレー))ES)がオ
ンにされると、非常発報スイッチESの接点aと接点bとの接続状態が、接点aと接点cとの接続状態に切り替わる。
【0075】
すると、TRIP132が停止状態となる一方で、非常信号の発生器としてのトーン信号発振器(OSC:オシレータ)135,及び非常信号変調器(E−MOD)136が動作状態となる。 OSC135は、所定の周波数(例えば200〜1000Hzの一波)を有する非常発報信号(非常信号トーン)を発振して、E−MOD136に入力する。E−MOD136は、非常発報信号を変調する。変調された信号は、図示されない周波数逓倍器で周波数逓倍され、非常信号用送信周波数f2の誘導無線周波数信号に変換される。その後、P−AMP133で電力増幅された後、送信アンテナ23Aから誘導無線非常送信波f2の信号S2として電車線2に電磁輻射され、更に電車線2より誘導線4及び4Aの少なくとも一方に再誘導されて、基地局7A及び7Bの少なくとも一方を経て指令所装置10に非常発報信号が伝達される。
【0076】
送信アンテナ23Aから電磁輻射される信号S2は、電車1の対向車両、すなわち、電車1が走行する線路に沿って設けられた別の線路上を電車1に対向して走行する他の電車(対向電車:図示せず)に対する防護発報(電車1での非常を伝達する)として機能する。すなわち、信号S2は、対向電車の受信アンテナにて受信され、非常発報信号(非常信号)に復調されて、対向電車内の非常受報灯及びブザーを点灯及び鳴動させる。
【0077】
一方、電車1の移動局車上装置11Aで非常発報中に、電車1と指令所装置10とで通話連絡する場合には、移動局車上装置11Aの送受話器122の送受話器スイッチTSをオンにすると、MOD131が動作状態となるとともに、無接点スイッチ回路134のゲート回路341が開放状態になる。但し、この時点で、非常発報スイッチESはオンとなっているので、TPIP132は停止状態である。
【0078】
この状態では、送受話器122の送話マイクロホン221から発せられた音声はMOD131で所定の周波数に変調され、通話音声信号として出力される。MOD131の出力
は2分割され、2分割された一方は、無接点スイッチ回路134のゲート回路341から増幅器342を通って接続線(車両間引通線)Aに出力される。接続線Aに出力された通話音声信号は、先頭の車両1−1から、中間車両1−2〜1−6を経て、最後尾の車両1−7における無接点スイッチ回路134´に入力される。
【0079】
このとき、車両1−7における移動局車上装置11Bの送受話器122´の送受話器スイッチ(リレー)TS´はオフの状態にある。このため、MOD131´は停止状態である。また、無接点ゲート回路134´のインバータ343´はオフとなりゲート回路344´は動作状態となる。
【0080】
無接点ゲート回路134´に入力された、移動局車上装置11Aからの通話送信波(通話音声信号)は、ゲート回路344´から増幅器345´を経てTRIP132´で3逓倍された後、P−AMP133´で電力増幅され送信アンテナ23Bから電車線2に車両1−1の通話送信波と全く同じ周波数の、例えば80〜250kHzの誘導無線周波数f1を有する信号S1として電磁輻射される。
【0081】
このようにして、親装置としての移動局車上装置11Aの非常発報中に、電車1から指令所装置10に通話音声を伝達する場合には、子装置に通話音声信号を接続線Aを介して伝達し、子装置としての移動局車上装置11Bから、親装置に適用される通話音声送信用の誘導無線周波数f1の誘導無線信号(信号S1)が電磁輻射される。このようにして、非常発報時でも、子装置を用いて、親装置から送信すべき通話音声の誘導無線信号を指令所装置10へ向けて送信することができる。
【0082】
図2及び図3に示した例では、接続線Aは、電車1内に新たに設置するようにしている。これに対し、電車内に予め引き通された既存の引き通し線を用いて通話音声信号を親装置から子装置へ伝達する構成について説明する。
【0083】
図4は、そのような変形例を示す図である。図4において、移動局車上装置11Aの無接点スイッチ回路134には、周波数変換回路151が接続されている。この周波数変換回路151は、ハイパスフィルタ(HPF)152を介して接続線B(既存の引き通し線の
一つ)に接続されている。
【0084】
移動局車上装置11Bにおいても、無接点スイッチ回路134´には、周波数変換回路151´が接続されており、この周波数変換回路151は、ハイパスフィルタ(HPF)152を介して接続線Bに接続されている。
【0085】
また、各移動局車上装置11A及び11Bのチャネルセレクタ139及び139´の夫々は、ローパスフィルタ153,153´を介して接続線Bに接続されている。このようにして、接続線Aが省略された状態となっている。
【0086】
このような構成によれば、無接点スイッチ回路134の増幅器342を通って出力される通話音声信号(MOD131で変調された変調通話音声信号)は、周波数変換回路151にて数分の1の周波数に変換された後、HPF152を通過して接続線Bを流れる。このとき、接続線を流れる通話音声信号は、各LPF153,153´では遮断され、HPF
152´を通過して周波数変換回路151´に到達する。周波数変換回路151´は、通話音声信号の周波数を元の周波数に変換し、無接点スイッチ回路134´に入力する。
【0087】
また、各LPF153及び153´は、チャネルセレクタ139と139´間で送受信される非常信号トーン(非常発報信号:通話音声信号より低い周波数をもつ)を通過させる。一方、各HPF152及び152´は、接続線Bを流れる非常発報信号を遮断する。移
動局車上装置11Bが親装置となる場合には、上記と逆の動作が行われる。
【0088】
以上の構成によれば、接続線Aを先頭の車両1−1から最後尾の車両1−7に亘って新たに設ける必要がないので、移動局車上装置11A及び11Bの導入が容易となる。
【0089】
既存の引き通し線としては、複数の車両(例えば、先頭車両と最後尾車両)に夫々設けられた乗務員間連絡装置間を接続し、乗務員室間を結ぶ乗務員間通話音声回線として使用される引き通し線を適用することができる。或いは、各客室と乗務員室との間の非常通話回線(非常連絡回線)として使用される引き通し線を適用することができる。
【0090】
なお、周波数変換回路151及び151´は、接続線B上での減衰を考慮して、接続線B上を流れる周波数を低減させることにしたものである。よって、通話音声信号の減衰を考慮する必要がない場合には、周波数変換回路151及び151´は省略可能である。
【0091】
また、親装置と子装置との間の通話音声信号の伝達には、PLC(電力線通信)技術が用いられても良い。例えば、無接点スイッチ回路134から出力される通話音声信号がPLCモデムで変調された後、車両1−1から車両1−7まで引き通された電力線(図示せず)に送出され、電力線を伝わって車両1−7に到達した通話音声信号がPLCモデムで元の信号に復調され、無接点スイッチ回路134´に入力されるようにしても良い。
【0092】
また、子装置におけるTRIP132´やP−AMP133´等の誘導無線周波数f1の送信回路の電源は、無接点スイッチ回路134´での通話音声信号(変調信号)の受信(
検波又は検知)を契機に投入(電力供給開始)されるように構成することができる。このよ
うにすれば、子装置の消費電力低減を図ることができる。
【0093】
また、移動局車上装置から基地局装置(指令所装置)へ伝達される情報として、音声を例示したが、情報としてデータ(テキスト、画像)を送信することもできる。移動局車上装置に対し、所定のデータ入力手段(キーボード、ボタン等)を設け、入力されたデータを例えば音声帯域の信号に変換することで、データを音声と同様に扱うことができる。MOD131による変調方式は、アナログ変調方式、及びディジタル変調方式の中から適宜選択、適用することができる。
【0094】
〈その他〉
上記した実施形態は、以下の態様を開示する。
【0095】
(態様1) 地上運転指令所装置と通話及び非常発報の送受信機能を備えた基地局装置を通信回線で接続し、
更に基地局装置と線路結合器との間を鉄道線路に沿って敷設された誘導線で接続し、
列車前部先頭車両と後部先頭車両との間に1両若しくは数両のパンタグラフと動力回路がレールとの間に接続された車両が併結してなる編成車両の、
前記、前部先頭車両と後部先頭車両には、通話送信波と非常送信波の周波数が異なる2周波数の送信を行う機能と地上基地局通話送信波と列車非常発報波とを受信する機能を備えた送受信装置を設備して、
必要に応じて前記、列車車上送受信装置の何れかの1波を使用して、地上運転指令所装置と列車車上送受信装置との間を、列車送受信アンテナから電車線(トリー線)を介して前記、鉄道線路に沿って敷設された誘導線とを電磁誘導結合により、
例えば通話送受信波では車上乗務員と地上運転指令員との連絡通話、非常発報応答確認、列車乗客と運転指令員との非常通報連絡通話、運転指令員から列車車内放送装置を介して、列車乗客に緊急時の運転情報伝達等を行い、
非常送信波では列車からの非常発報、防護発報、デットマン情報、列車搭載機器の状態
情報・故障情報等の信号情報等の伝達を行う間接誘導結合の誘導無線式列車無線装置において、
前部又は後部先頭車両の送信装置の何れかを親装置に設定し、前記、親装置の反対側の前部又は後部先頭車両の送信装置を子装置として、
前記、親装置と前記、子装置との車両間引通線に、前記、通話送信周波数又は非常送信周波数の、1/3から1/10の周波数に設定された搬送周波数で親装置から子装置に送信波を伝送し、
子装置側で3逓倍から10逓倍して、前記、親装置側の送信周波数と同一の送信周波数で、
前記、前部先頭車両及び前記、後部先頭車両のそれぞれの送信アンテナから電車線に電磁誘導結合し、
更に電車線と前記、地上誘導線との間の2次電磁誘導結合により、
地上運転指令所と移動局車上装置間を、前記、親装置と前記、子装置の2台の車上送受信器から同一の送信周波数を同時送信して通信を行うことを特徴とした、鉄道用の列車誘導無線通信システム。
【0096】
(態様2) 列車前部先頭車両と後部先頭車両に設備される送信アンテナと受信アンテナの前方にはパンタグラフの設備がなく、
更に列車前部先頭車両と後部先頭車両との間に少なくとも1両若しくは数両のパンタグラフと動力回路がレールとの間に接続された車両が併結されていることを特徴とした、態様1記載の鉄道用の列車誘導無線通信システム。
【0097】
(態様3) 車両に設備された運転士と車掌間の所謂、乗務員間連絡音声回線に通話音声用のLPF(ローパスフィルタ)と搬送周波数用のHPF(ハイパスフィルタ)をそれぞれ接続して、
前記、前部先頭車両と後部先頭車両間の周波数搬送波の伝送と、運転士と車掌間の乗務員間連絡音声回線を兼用することを特徴とした、
態様1又は2記載の鉄道用の列車誘導無線通信システム。
【0098】
(態様4) 車両に設備された乗務員と乗客間の所謂、非常通報音声回線に通話音声用のLPF(ローパスフィルタ)と搬送周波数用のHPF(ハイパスフィルタ)をそれぞれ接続して、
前記、前部先頭車両と後部先頭車両間の周波数搬送波の伝送と、乗務員と乗客との非常通報音声回線を兼用することを特徴とした、
態様1又は2記載の鉄道用の列車誘導無線通信システム。
【0099】
(態様5) 前記、親装置と子装置の周波数同期には親装置の搬送周波数を逓倍して送信周波数とすることを特徴とした、
態様1〜4のいずれか一項に記載の鉄道用の列車誘導無線通信システム。
【0100】
(態様6) 前記、前部先頭車両と後部先頭車両との車両間引通線に、鉄道の各車両に敷設された電力線を使用し、
前記、両車上送受信装置と前記、各車両に敷設された電力線との間をPLC(電力線搬送通信)で接続することを特徴とした、
態様1〜5のいずれか一項に記載の鉄道用の列車誘導無線通信システム。
【0101】
(態様7) 前記、後部先頭車両又は前部先頭車両の子装置側送信装置の電源投入は、前記、前部先頭車両又は後部先頭車両の何れかが先に親装置になった側から送られる搬送周波数を受信する信号受信器により搬送周波数を検知して、
前記、子装置の送信装置の電源を制御することを特徴とした、態様1〜6のいずれか一
項に記載の鉄道用の列車誘導無線通信システム。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の実施形態における誘導無線通信システムの全体構成例を示す図である。
【図2】図1に示した移動局車上装置の構成例を示す図であり、親装置及び子装置となる二つの移動局車上装置が通話送信波の誘導無線周波数信号を夫々の送信アンテナから送信する場合の動作を示す。
【図3】図1に示した移動局車上装置の構成例を示す図であり、親装置から非常発報の誘導無線周波数信号を送信するとともに、子装置から通話送信波の誘導無線周波数信号を送信する場合の動作を示す。
【図4】図2に示した移動局車上装置の変形例を示す図である。
【図5】従来技術の説明図である。
【符号の説明】
【0103】
A,B・・・接続線
1・・・電車
1−1・・・先頭車両
1−7・・・最後尾車両
1−3,1−6・・・中間車両
2・・・電車線(架線)
3・・・線路(レール)(アース)
4,4A・・・誘導線
5・・・線路結合器
6・・・終端結合器
7A,7B・・・基地局装置(固定局)
8・・・基地局と線路結合器間接続ケーブル
9・・・接続ケーブル
10・・・指令所装置
11A,11B・・・移動局車上装置
122,122´・・・送受話器
23A,23B・・・送信アンテナ
24A,24B・・・受信アンテナ
25・・・受話(モニター)スピーカ
26・・・非常受報灯及びブザー
34A,34B・・・パンタグラフ
131,131´・・・変調器
132,132´・・・周波数逓倍回路(逓倍器)
133,133´・・・電力増幅器
134,134´・・・無接点スイッチ回路
135,135´・・・トーン信号発信器
136,136´・・・非常用変調器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架線から供給される電力を用いて線路上を走行する列車から電磁輻射される誘導無線周波数の信号を前記架線に誘導結合させ、さらに基地局に接続された誘導線に誘導結合させる間接結合方式により前記列車と前記基地局との間の通信を行う鉄道車両用の誘導無線通信システムにおいて、先頭車両、最後尾車両及びこれらの車両間を接続する少なくとも一つの中間車両を含む3以上の車両で編成された列車に搭載される移動局システムであって、
前記先頭車両及び前記最後尾車両に夫々設置される送信装置であって、情報の入力手段と、入力された情報を含む所定の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成する生成手段と、前記誘導無線周波数信号を電磁輻射する送信アンテナとを夫々含む送信装置と、
前記送信装置間を接続する接続線と、
前記架線から電力を受電するためのパンタグラフを有する少なくとも1つの中間車両に設けられ、誘導無線周波数信号が前記架線へ誘導結合することにより前記架線を流れる高周波電流を前記パンタグラフから前記線路へ短絡させる短絡手段とを備え、
前記送信装置の一方に情報が入力された場合に、前記送信装置の一方は、前記情報を含む前記所定の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成し、自装置に対応する送信アンテナからその誘導無線周波数信号を電磁輻射するとともに、前記入力された情報を前記接続線を介して前記送信装置の他方へ伝達し、前記送信装置の他方は、前記送信装置の一方から受信された前記情報を含む前記所定の送信周波数と同一の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成し、前記送信装置の一方と同期をとって、自装置に対応する送信アンテナから当該誘導無線周波数信号を同位相で並列に電磁輻射する
ことを特徴とする鉄道車両用の移動局通信システム。
【請求項2】
前記送信装置の一方は、非常信号の送信指示に応じて非常信号を含む前記所定の送信周波数と異なる非常信号用送信周波数の誘導無線周波数信号を生成する非常信号生成手段をさらに備え、
情報と非常信号とを並列に前記基地局へ送信する場合には、前記送信装置の一方が、非常信号の送信指示に応じて前記非常信号送信周波数の誘導無線周波数信号を生成して自装置に対応する送信アンテナから電磁輻射するとともに、入力された情報を前記接続線を介して前記送信装置の他方へ伝達し、前記送信装置の他方は、前記送信装置の一方から受信された前記情報を含む前記所定の送信周波数と同一の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成し、自装置に対応する送信アンテナから当該誘導無線周波数信号を電磁輻射する
請求項1に記載の鉄道車両用の移動局通信システム。
【請求項3】
前記各送信装置における生成手段は、前記入力された情報の信号を所定の搬送波で変調する変調器と、前記変調器によって変調された信号を逓倍して前記所定の送信周波数の誘導無線周波数信号にする逓倍器とを含み、
前記送信装置の一方に情報が入力された場合に、前記送信装置の一方は、前記情報の信号を前記変調器で変調し、前記逓倍器で逓倍することによって所定の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成し、自装置に対応する送信アンテナからその誘導無線周波数信号を電磁輻射するとともに、前記変調器で変調された変調信号を前記接続線を介して前記送信装置の他方へ伝達し、
前記送信装置の他方は、前記送信装置の一方から受信された前記変調信号を前記逓倍器で逓倍して前記所定の送信周波数と同一の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成し、前記送信装置の一方と同期をとって、自装置に対応する送信アンテナから当該誘導無線周波数信号を同位相で並列に電磁輻射する
請求項1又は2に記載の鉄道車両用の移動局通信システム。
【請求項4】
前記非常信号生成手段は、非常信号の発生器と、この発生器から出力される非常信号を
搬送波で変調する非常信号用変調器と、この非常用変調器で変調された非常信号を逓倍して前記情報の送信周波数と異なる非常信号用の送信周波数の誘導無線周波数信号を生成する非常用逓倍器とを含む
請求項2又は3に記載の鉄道車両用の移動局通信システム。
【請求項5】
前記接続線は、前記列車の先頭車両から最後尾車両までの間を引き通された、乗務員間連絡音声回線として使用される引き通し線である
請求項1〜4のいずれか一項に記載の鉄道車両用の移動局通信システム。
【請求項6】
前記接続線は、前記列車の先頭車両から最後尾車両までの間を引き通された、客室と乗務員室との間の非常通話回線として使用される引き通し線である
請求項1〜4のいずれか一項に記載の鉄道車両用の移動局通信システム。
【請求項7】
前記接続線は、前記列車の先頭車両から最後尾車両までの間を引き通された、各車両に対して電力を供給するための電力線であり、前記情報を含む信号が前記電力線を通じて前記送信装置の一方から前記送信装置の他方へ伝達される
請求項1〜4のいずれか一項に記載の鉄道車両用の移動局通信システム。
【請求項8】
前記送信装置の他方における前記生成手段の電源は、前記送信装置の一方から前記情報が受信された場合に投入される
請求項1〜7のいずれか一項に記載の鉄道車両用の移動局通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−124404(P2009−124404A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295720(P2007−295720)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(592066860)八幡電気産業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】