説明

鉄道車両用ブレーキ装置

【課題】本発明は、劣化により制振能力が低下することなく、制輪子頭の振動を抑制し「鳴き」の発生を防止することが可能な鉄道車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】鉄道車両用ブレーキ装置には、鉄道車両の車輪の踏面に押し当てる制輪子11を支持する制輪子頭12の下端にダンパ機構15が設けられている。ダンパ機構15は、円筒形状の流体室15aと、流体室15a内で変位可能に収容される円柱形状の錘部材15bと、流体室15a内壁と錘部材15bとの間の隙間に収容される粘性流体15c流体とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制輪子を押し当てることにより鉄道車両の車輪の回転を制動するトレッドブレーキ型やディスクブレーキ型の鉄道車両用ブレーキ装置の自励振動を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用ブレーキ装置としては、回転している車輪の踏面に制輪子頭に支持される制輪子を押し当てることにより制動力を発揮するものが知られている。このようなブレーキ装置においては、従来、制輪子が車輪に押し当てられる際、制輪子と車輪の摩擦によって負の減衰が生じて自励振動が発生し、不快な振動音であるいわゆる「鳴き」を発生させていた。
特許文献1に記載のブレーキ装置は、制輪子頭の一部にマグネタイトを主成分とするフェライト粉末を樹脂中に混入して固形化したフェライト複合材層を設けることにより、ブレーキ時に生じる振動をフェライト複合材層中に吸収することで制輪子頭の振動を低減し、「鳴き」を抑制している。
【0003】
【特許文献1】特開昭61−027321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたブレーキ装置は、制輪子頭の一部に固形化された樹脂を用いるため、当該樹脂部分が振動による変形を繰り返すことにより劣化しやすく、劣化した場合に十分な振動の抑制効果を発揮できない虞がある。また、劣化した場合に制輪子だけでなく制輪子頭も交換する必要があり、コストも増加するし、複合材を含むため、リサイクルもしにくい。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、劣化により制振能力が低下することなく制輪子頭(制輪子保持部材)の振動を抑制し「鳴き」の発生を防止することが可能な鉄道車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明は、制輪子を押し当てることにより鉄道車両の車輪の回転を制動する鉄道車両用ブレーキ装置に関する。
そして、本発明に係る鉄道車両用ブレーキ装置は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明の鉄道車両用ブレーキ装置は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る鉄道車両用ブレーキ装置における第1の特徴は、鉄道車両の車輪、または、当該車輪の回転に連動して回転する回転体に制輪子を押し当てることにより当該車輪の回転を制動する鉄道車両用ブレーキ装置において、前記制輪子を支持する制輪子保持部材と、前記制輪子保持部材に設けられたダンパ機構と、を備え、前記ダンパ機構は、円筒形状の流体室と、前記流体室内で変位可能に収容される円柱形状の錘部材と、前記流体室内壁と前記錘部材との間の隙間に収容される粘性流体と、を有することである。
【0008】
この構成によると、制輪子の振動が伝達され制輪子保持部材が振動するとき、制輪子保持部材と独立した部材である錘部材はその慣性により制輪子保持部材に対して相対的に逆方向に振動するとともに、流体室内の粘性流体は、流体室内壁と錘部材との隙間を移動する。この隙間を粘性流体が急速に流れることにより、粘性流体と流体室内壁の壁面との粘性摩擦によって振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて散逸することによって減衰力が発生する(スクィーズフィルムダンピング)。したがって、特定の使用条件に限らずに制輪子保持部材に減衰を与えることができ、それに伴ってブレーキ装置全体の振動安定性が上昇する結果、「鳴き」の発生を有効に抑制することができる。また、粘性流体を用いたダンパ機構であるため、部材の変形による劣化も少なく、制振能力が低下することを抑制できる。
また、制輪子から伝達される振動の周期によらず、ダンパ機構により減衰力を制輪子保持部材に作用させることが可能であるため、鉄道車両への乗車人数、積載量、車輪の表面状態等によって変化する様々な使用条件において振動抑制効果を発揮できる。したがって、例えば制輪子保持部材に錘をつけて共振点をずらして振動を抑制する方法等、特定の条件に対してのみ効果を発揮する振動抑制方法に比べてより有効である。
【0009】
また、本発明に係る鉄道車両用ブレーキ装置における第2の特徴は、前記車輪の踏面に前記制輪子を押し当てることにより、前記車輪の回転を制動することである。
【0010】
この構成によると、制輪子を車輪の踏面に押し当てることにより制動するため、車輪の回転軸方向においてブレーキ装置をより小型に形成することができるとともに、踏面の表面状態が変化して振動の周期等が変化するような場合であってもダンパ機構によって効果的に振動を減衰することができる。
【0011】
また、本発明に係る鉄道車両用ブレーキ装置における第3の特徴は、前記回転体は当該回転体の回転軸に直交するように配置される直交面を有する円板状に形成されており、前記制輪子が当該直交面に押し当てられることにより、前記車輪の回転が制動されることである。
【0012】
この構成によると、鉄道車両の車輪と制輪子が押し当てられる回転体とが別部材で形成されているため、回転体の材質、形状等の選定の幅が広がり走行条件に適した構成とすることができる。また、円板状の回転体を用いることで、回転体と制輪子との接触面積を大きくすることが可能となり、回転体の回転の制動を安定させることができるとともに、回転軸と略平行な方向から制輪子を押し当てる際に発生する振動をダンパ機構によって効果的に減衰させることができる。
【0013】
また、本発明に係る鉄道車両用ブレーキ装置における第4の特徴は、前記ダンパ機構は、前記錘部材の外周に沿って配置され前記流体室内壁と前記錘部材との間の隙間を確保するスペーサ部材を更に有することである。
【0014】
この構成によると、流体室内壁と錘部材との間の隙間を常に確保することができ、錘部材の周囲全体に粘性流体を充填することができる。したがって、粘性流体が当該隙間を通過して流動可能となるため、制輪子保持部材の振動開始時における粘性流体の流動が促進され、振動エネルギーを有効に吸収することが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る鉄道車両用ブレーキ装置における第5の特徴は、前記流体室は、前記制輪子保持部材と一体に形成されていることである。
【0016】
この構成によると、取付部材等を用いることなく流体室を制輪子保持部材に設けることができる。したがって、鉄道車両の走行時の振動等による取付部材の緩み等が発生することはなく、制輪子保持部材から流体室部分が外れる虞がなくなる。また、当該流体室を別途制輪子保持部材に取り付ける工程を削減することができ、ダンパ機構の形成が容易に可能となる。
【0017】
また、本発明に係る鉄道車両用ブレーキ装置における第6の特徴は、前記ダンパ機構は、前記制輪子保持部材の側面から突出して設けられていることである。
【0018】
この構成によると、ダンパ機構が突出することにより、突出方向を半径方向として制輪子保持部材を回転させるため要するモーメントは大きくなる。そのため、当該突出方向を半径方向とする制輪子保持部材の回転振動に対してより大きな振動抑制効果を発揮することが可能である。
【0019】
また、本発明に係る鉄道車両用ブレーキ装置における第7の特徴は、前記粘性流体は、加圧状態で収容されていることである。
【0020】
この構成によると、粘性流体のキャビテーションの発生が防止され、制輪子保持部材の振動に対して、より確実な振動抑制効果を発揮することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るトレッドブレーキ型の鉄道車両用ブレーキ装置を備える鉄道車両の側面図である。図2は、第1実施形態に係る鉄道車両用ブレーキ装置を台車に装着した状態を示す側面図である。図3は、第1実施形態に係る鉄道車両用ブレーキ装置の断面図である。
図1に示す軌道1は、車両2が走行する通路(線路)であり、車両2を支持し案内するレール1aなどから構成されている。レール1aは、図2に示すように、車輪4aを直接支持する頭頂面(頭部上面)1bを備えている。車両2は、電車や気動車などの鉄道車両であり、車体3と、台車4と、ブレーキ装置5などを備えている。車体3は、乗客を積載し輸送するための構造物であり、台車4は車体3を支持して走行する装置である。台車4は、レール1aと転がり接触する車輪4aと、この車輪4aを支持する台車枠4bなどから構成されている。車輪4aは、図2に示すように、レール1aの頭頂面1bと接触して摩擦抵抗を受ける踏面4cと、この踏面4cの外側に連続して形成されたフランジ4dとを備えている。
【0022】
図2及び図3に示すブレーキ装置5は、走行する車両2を制動させるトレッドブレーキ型の基礎ブレーキ装置である。ブレーキ装置5は、図3に示すように、制輪子11と、制輪子頭12(制輪子保持部材)と、制輪子頭吊り14と、駆動力発生部20と、駆動力伝達機構部6とを備えている。ブレーキ装置5は、駆動力発生部20が発生する駆動力をてこの原理によって制輪子11に伝達して踏面4cに制輪子11を押し当てることにより、踏面4cと制輪子11との間に発生する摩擦力によって車輪4aの回転を抑える。ブレーキ装置5は、図3に示すように、各構成要素がユニット化されたユニットブレーキであり、図1に示すように車輪4a毎に設置されており(1台車当たり合計4個で1両当たり合計8個)、図示しないボルトなどの固定部材によって台車枠4bに固定されている。ブレーキ装置5は、踏面4cに対して片側から押し当てる踏面片押式のユニットブレーキ装置であり、保守性の向上と小型化が図られている。
【0023】
駆動力発生部20は、制輪子頭12を駆動する駆動力を発生するブレーキシリンダ装置である。駆動力発生部20は、図3に示すように、圧縮空気が供給口20dから供給されるシリンダ20cと、圧縮空気の空気圧により付勢されてシリンダ20c内をA1方向(図中矢印で示す)に前進するピストン20aと、ピストン20aを後退する方向(A2方向)に付勢するバネ20bなどを備えている。
【0024】
駆動力伝達機構6は、制輪子頭12に駆動力を伝達する梃子装置などである。駆動力伝達機構6は、梃子レバー18と、連結ピン21と、支点ピン19と、押棒13と、隙間調整部17などを備えている。梃子レバー18は、ピストン20aの直線運動を回転運動に変換するリンク部材であり、梃子レバー18には支点ピン19に近い側に凹状の球面貫通孔18aが形成されている。連結ピン21は、ピストン20aの先端部と梃子レバー18の一端部とを回転自在に連結する軸部材であり、支点ピン19は梃子レバー18を支持する部分である。押棒13は、梃子レバー18の回転運動を直線運動に変換する軸部材であり、ピストン20aが前進すると制輪子11を踏面4cに押し当て、ピストン20aが後退すると制輪子11を踏面4cから離間させる。押棒13の先端部は、略L字状に屈曲して形成されており、押棒13の他端部には雄ねじ部13aが形成されている。隙間調整部17は、制輪子11と踏面4cとの間の間隔を調整する筒状部材であり、隙間調整部17の内周部には、押棒13の雄ねじ部13aと噛み合う雌ねじ部17aが形成されており、隙間調整部17の外周部には梃子レバー18の球面貫通孔18aと嵌合する凸状の球面軸受部17bが形成されている。制輪子11の磨耗により押棒13のストロークが足りなくなった場合は、隙間調整部17によって雄ねじ部13aと雌ねじ部17aとのねじ込み量が調整され、押棒13のストロークが変化して制輪子11と踏面4cとの間の間隔を近づけることができる。尚、本実施形態においては、押棒13のストロークが足りなくなると、梃子レバー18の突起部18bが回転機構25を押込むことにより隙間調整部17が回転し、自動的に制輪子11と踏面4cとの間の間隔が調整される。
【0025】
制輪子頭吊り14は、制輪子11及び制輪子頭12を車輪4aの回転軸を法線とする面内において回動自在に保持する部材(ハンガ)である。駆動力伝達機構6を収容するケーシング7は、制輪子頭吊り14を回動自在に支持する支持部7aを備えている。また、ケーシング7には駆動力発生部20が取り付けられている。連結ピン16は、制輪子頭吊り14の一端部を支持部7aに回動自在に連結する軸部材である。連結ピン24は、制輪子頭吊り14の他端部を回動自在に連結するとともに、押棒13と制輪子頭12とが一体となって進退可能なように押棒13の屈曲部を制輪子頭12に固定する軸部材(制輪子頭ピン)である。
押棒13に形成された貫通孔である傾き調整孔13bは、ブレーキ緩解時などに制輪子頭12の過度の傾きを防止する部分であり、一定角度の傾きを許容できるように長穴状に形成されている。制輪子頭12の取付孔12d(図4参照)に固定されたピン23が制輪子頭12の傾きに対応して変位し、傾き調整孔13bの内壁に当接することで制輪子頭12の傾きが規制される。
【0026】
制輪子11は、車輪4aの踏面4cに押し当てられて制動力を発生するブレーキ摩擦材である。制輪子11は、一般鋳鉄で製造された鋳鉄制輪子、りんやマンガンなどを一定量以上含有する鋳鉄で製造された合金鋳鉄制輪子、合成樹脂を主体とする合成制輪子、金属粉末を基材にして所定の制輪子特性を有する粉末成分を添加して焼結成形した焼結合金制輪子などである。制輪子11は、図3に示すように、外観形状が略円弧状の板状部材であり、踏面4cと摩擦接触する摩擦面(ライニング面)11aと、制輪子頭12と接触する背板11bとを備えている。制輪子11は、図示しない制輪子キー(制輪子コッタ)によって制輪子頭12に固定されており、ブレーキ作用時には車輪4a側に向かって前進して踏面4cに押し当てられ、ブレーキ緩解時には後退して踏面4cから離間する。
【0027】
制輪子頭12は、制輪子11と同様に外観形状が略円弧状に鋳造や板金などによって成形された金属であり、車輪4a側の端面において制輪子11を支持している。制輪子頭12の下端にはダンパ機構15が設けられている。
【0028】
図4は、制輪子頭12の外観の側面図であり、図5は、図4に示す制輪子頭12の正面図(押棒13側から見た図)である。図6は、制輪子頭12の下端に設けられたダンパ機構15の拡大斜視図である。ダンパ機構15は、円筒形状の流体室15aと、鉄などの金属からなる円柱形状の錘部材15bと、油などの粘性流体15cとを有している。流体室15aは、制輪子頭12に形成された貫通孔12bと、溶接等により接合されて貫通孔12bの両端を閉塞する蓋部12cとによって形成され、連結ピン24が貫通する貫通孔である連結孔12aの軸と平行な方向を軸とする円筒形状に形成されている。錘部材15bは、外径が流体室15aの径よりも小さく、全長は流体室15aの長手方向の長さよりも短くなるように形成されており、流体室15a内で径方向又は長手方向に変位可能となるように収容されている。粘性流体15cは流体室15aの内壁と錘部材15bとの間の隙間に収容されている。
なお、図4から図6は重力が下方向に作用しており、停車時など静止しているときを表した図である。このとき錘部材15bは、図示しているように流体室15aの下方に位置しているが、ほとんどの場合、錘部材15bと流体室15aの内壁の間に、粘性流体15cが膜状に介在しており直接接触しないようになっている。
【0029】
次に、ブレーキ装置5の動作について説明する。
ブレーキ作用時には、図3に示す駆動力発生部20のシリンダ20c内に圧縮空気が供給されると、バネ20bの付勢力に抗してピストン20aがA1方向に前進し、支点ピン19を回転中心として梃子レバー18がB1方向に回転する。梃子レバー18の球面貫通孔18aには球面軸受部17bが嵌合しているため、梃子レバー18がB1方向に回転すると、連結ピン16を回転中心として制輪子頭吊り14がC1方向に回転するとともに押棒13がD1方向に前進する。その結果、制輪子11及び制輪子頭12が押棒13とともにD1方向に前進して、制輪子11の摩擦面11aが踏面4cに押し当てられて車輪4aの回転が制動される。
【0030】
ブレーキ緩解時には、図3に示す駆動力発生部20のシリンダ20c内の圧縮空気が排出されるとバネ20bの付勢力によってピストン20aがA2方向に後退し、支点ピン19を回転中心として梃子レバー18がB2方向に回転するとともに、押棒13がD2方向に後退して、制輪子11の摩擦面11aが踏面4cから離れて車輪4aの回転の制動が解除される。
【0031】
次に、ブレーキ作用時におけるダンパ機構5の動作について説明する。
図7はブレーキ作用前のダンパ機構5における流体室15aを示す概念図である。図8は、ブレーキ作用による制輪子頭12の振動を減衰させているときのダンパ機構5における流体室15aを示す概念図である。図7、図8はダンパ機構5の振動時の状態を説明するため、大きさを誇張して描いた図である。ブレーキ作用時において制輪子頭12が制輪子ともに振動しようとすると(制輪子頭12の移動方向は図8中矢印Aで示す)、流体室15a内において制輪子頭12に形成された流体室15aとは独立した部材である錘部材15bは慣性により元の位置(図7に示す位置)に留まろうとする。例えば制輪子頭12が下方に移動するときは、錘部材15bの周囲に充填されている粘性流体15cが、流体室15a内において流体室15a内壁と錘部材15bとの間に形成された上方の隙間を急速に流れる(図8に矢印で粘性流体15cの流動方向を示す)。また逆に制輪子頭12が上方に移動するときは、流体室15a内において流体室15a内壁と錘部材15bとの間に形成された下方の隙間を粘性流体15cが急速に流れる。このように流体室15a内において流体室15a内壁と錘部材15bとの間に形成された隙間を粘性流体15cが急速に流れることにより、粘性流体15cと流体室15a内壁の壁面との粘性摩擦によって振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて散逸することによって減衰力が発生する(スクィーズフィルムダンピング)。この減衰力は、実使用条件下において制輪子頭12の振動周波数が高いほど大きくなる。
【0032】
また、ダンパ機構15が制輪子頭12の連結孔12aから離れた下端に設置されることで、連結孔12aの軸を回転軸とする回転を抑制するように働く力のモーメントは大きくなり、当該回転方向における制輪子頭12の振動を抑制する効果を大きくすることが可能となる。
【0033】
また、ダンパ機構15を制輪子頭12の下端における幅方向(図5の左右方向)の中央に設けることで、ダンパ機構15を有する制輪子頭12をコンパクトに構成することができ、幅方向の外側に十分な取り付けスペースがない場合においても取り付けることができる。
【0034】
したがって、このようなダンパ機構15により吸収可能な振動エネルギーが、制輪子11から発生する振動エネルギーよりも大きい場合は、車両への乗車人数、積載量、車輪の表面状態等の使用条件によらず制輪子頭12の振動を抑制できる。更に、制輪子頭12の振動を抑えることによりブレーキ装置5全体の振動も抑えられ、「鳴き」の発生を有効に抑制することができる。また、ダンパ機構15を設けることで振動抑制が可能であるため、制輪子頭12の材料として振動を吸収可能な低剛性材料を用いる必要はなく、剛性の高い高強度材料を用いて劣化を抑制することも可能である。また、繰り返し変形による劣化の影響を受けにくい粘性流体15cを用いた構成であり、経年劣化による制振能力の低下も抑制できる。
【0035】
また、車輪4aの踏面4cに制輪子11を押し当てることにより、車輪4aの回転を制動する構成とすることで、車輪4aの回転軸方向においてブレーキ装置をより小型に形成することができるとともに、踏面4cの表面状態が変化して摩擦による振動の周期等が変化するような場合であってもダンパ機構15によって効果的に振動を減衰することができる。
【0036】
また、流体室15aが制輪子頭12と一体に形成されているため、鉄道車両の走行時の振動等により制輪子頭12から流体室15a部分が外れる虞がなくなる。また、流体室15aを別途制輪子頭に取り付ける工程を削減することができ、ダンパ機構15の形成が容易に可能となる。
【0037】
本実施形態の変形例として、図9に示すように錘部材15bの外周に沿ってOリングなど弾性部材であって、ダンパ機構の共振点が減衰させたい振動の周波数帯よりも低い周波数帯になるようなスペーサ部材15dを取り付けることができる。スペーサ部材15dにより、ブレーキ緩解時において流体室15aの内径の略中心に錘部材15bを配置させることができる。従って車両2が長時間停止していても、重力により錘部材15bが降下して流体室15aの内壁に接触することが無く、錘部材15bの全周囲に粘性流体15cを充填することができる。スペーサ部材15dが弾性変形することにより、粘性流体15cは当該隙間を通過して流動することが可能であり、制輪子頭12の振動開始時における粘性流体15cの流動が促進され、振動エネルギーを有効に吸収することが可能となる。
【0038】
更に図10に示すようにスペーサ部材15dを錘部材15bの長手方向端部に設けることにより、スペーサ部材15dは粘性流体15cを流体室15aに密封するためのシールとしても利用することができ、部品点数や組立工数を低減することができる。更に長手方向端部に確実に隙間を形成することができる。
【0039】
(第2実施形態)
図11は、第2実施形態に係るブレーキ装置における制輪子頭22の外観の側面図であり、図12は、図11に示す制輪子頭22の正面図(押棒13側から見た図)である。図13は、制輪子頭22の下端に設けられたダンパ機構15の拡大斜視図である。第2実施形態に係るブレーキ装置は制輪子頭22に設けられたダンパ機構15の位置が第1実施形態と異なるものである。第1実施形態で示した部分と同一部分には、同一符号を付し説明を省略する。当該ダンパ機構15は第1実施形態と同形状の流体室15a、錘部材15b、粘性流体15cを備える。ダンパ機構15は、制輪子頭22の側面にボルトなどの固定部材(図示せず)を用いて制輪子頭22の側面から突出した状態で装着されている。尚、第1実施形態と同様に流体室15aを制輪子頭22と一体に形成して落下等を確実に防止することも可能である。
【0040】
このように、ダンパ機構15を側面から突出した状態とすることにより、ダンパ機構15の突出方向を半径方向として制輪子頭22を回転させるため要するモーメントは大きくなる。そのため、当該突出方向を半径方向とする制輪子頭22の回転振動に対してより大きな振動抑制効果を発揮することが可能である。すなわち、ダンパ機構15の位置は、ダンパ機構15を除く制輪子頭22本体の幅方向(図12の左右方向)の中心から離れた位置となるため、例えば制輪子頭22の幅方向の中心を通り流体室15aの中心軸Xと交わる鉛直軸Y(図13参照)を回転軸とした制輪子頭22の回転振動を抑制するように働く力のモーメントは大きくなり、当該振動に対してより大きな振動抑制効果を発揮することが可能である。
【0041】
(第3実施形態)
図14は、第3実施形態に係るブレーキ装置35の側面図であり、図15は当該ブレーキ装置35の平面図である。また、図16は、図15に示すバックプレート109b(制輪子保持部材)の側面概略図(図15中のZ軸方向にブレーキディスク111側から見た図)であり、図17は、当該バックプレート109bの正面概略図である。
第3実施形態に係るブレーキ装置35はディスクブレーキ型のブレーキ装置であり、鉄道車両の車輪(図示せず)の回転に連動して回転する円板状のブレーキディスク111(回転体)に制輪子31a、31bを押し当てることによりブレーキディスク111を制動し、鉄道車両の車輪の回転を制動するブレーキ装置である。ブレーキディスク111は回転軸と直交するように配置される面111a、111b(直交面)を有する円板状に形成されており、制輪子31a、31bは直交面に対して、ブレーキディスク111の回転軸方向(図14中のZ軸方向)と略平行な方向から押し当てられる。なお、第1実施形態及び第2実施形態に示した部分と同一部分には、同一符号を付し説明を省略する。
【0042】
図14に示すように、ブレーキ装置を支持する支持部材103は、鉄道車両の進行方向(図14中のX軸方向)と平行に伸びるように鉄道車両の車体101に固定された支軸102を中心として揺動可能に鉄道車両に取り付けられている。支持部材103は、鉄道車両の進行方向からみた左右の両端部においてそれぞれ、鉛直方向に伸びる支点軸104a、104bを備えている(図15参照)。
【0043】
梃子106aは、支点軸104aを支点として揺動可能に取り付けられている。梃子106aのブレーキディスク111側の端部には、バックプレート109a(制輪子保持部材)が、支点軸104aと平行に配置される作用点軸107aを中心に揺動可能に取り付けられている。バックプレート109aにおけるブレーキディスク111に対向する面には、制輪子31aが図示しない取付部材により取り付けられている。制輪子31aは、第1実施形態で示した制輪子11と同様の材質で形成したものを用いることができる。また梃子106aにおける作用点軸107aと反対側の端部は、支軸108aを介して駆動力発生部30が設けられている。
【0044】
また、図15に示すように、ブレーキディスク111を挟んで対称に、梃子106aと同形状の梃子106bが設けられている。梃子106bは、支点軸104bを支点として揺動可能に取り付けられており、一端には作用点軸107bを介してバックプレート109b(制輪子保持部材)と制輪子31bとが設置され、他端は支軸108bを介して駆動力発生部30に連結されている。バックプレート109b(制輪子保持部材)及び制輪子31bはバックプレート109a及び制輪子31aとブレーキディスク111を挟んで対称な形状である。
【0045】
駆動力発生部30は、供給経路113を介して供給口112から圧縮空気が供給されることによりブレーキディスク111の回転軸方向(図15中のZ軸方向)において支軸108aと支軸108bとを離間させるように駆動するブレーキシリンダ装置である。駆動力発生部30が発生するブレーキディスク111の法線方向の駆動力が、支軸108aを介して梃子106aに作用し、支点軸104aを支点として、てこの原理によってバックプレート109aに設けられた制輪子31aは、ブレーキディスクの表面111aにブレーキディスク111の回転軸方向から押し当てられる。一方、制輪子31aがブレーキディスクの表面111aから受ける反力を利用して、駆動力発生部30から支軸108bを介して梃子106bの端部に駆動力が作用することにより、支点軸104bを支点としてバックプレート109bに設けられた制輪子31bは、ブレーキディスクの表面111bにブレーキディスク111の回転軸方向から押し当てられる。これにより、ブレーキディスク111を制輪子31aと制輪子31bとで挟み込んで、直交面111aと制輪子31a、直交面111bと制輪子31bとの間に発生する摩擦力によってブレーキディスク111の回転が制動され、ブレーキディスク111と同軸に設けられている鉄道車両の車輪の回転が制動される。
【0046】
ダンパ機構15は、バックプレート109の下端付近に設けられており、第1実施形態で示したダンパ機構と同形状の流体室15a、錘部材15b、粘性流体15cを備える(図14、図16参照)。ダンパ機構15は、バックプレート109の側面にボルトなどの固定部材(図示せず)を用いて、バックプレート109の側面から、制輪子31が設けられていない側に突出した状態で装着されている(図15、図17参照)。言い換えれば、ダンパ機構15は、当該ダンパ機構15が装着されていない状態のバックプレート109における鉛直方向に伸びる重心軸から水平方向に離れた位置に設置されている。尚、図14、図16に示すように、ダンパ機構15は、円筒形状の流体室15aの円筒軸方向および円柱形上の錘部材15bの円柱軸方向を進行方向に向けて設置する場合に限らず、設置する向きを走行条件に合わせて変更することも可能である。
【0047】
ブレーキ作用時においてバックプレート109a、109bが制輪子31a、31bともに自励振動し始めると、第1実施形態で説明したのと同様に、流体室15a内において制輪子頭12に形成された流体室15aとは独立した部材である錘部材15bは慣性により元の位置に留まろうとする。そのため、流体室15a内において流体室15a内壁と錘部材15bとの間に形成された隙間を粘性流体15cが急速に流れることにより、粘性流体15cと流体室15a内壁の壁面との粘性摩擦によって振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて散逸することによって減衰力が発生する(スクィーズフィルムダンピング)。この減衰力は、実使用条件下において制輪子頭12の振動周波数が高いほど大きくなる。
【0048】
このように、制輪子31a、31bが鉄道車両の車輪に接触して制動させる構成ではなく、当該車輪と別部材であるブレーキディスク111に制輪子31a、31bを押し当てて制動する構成となっているため、制輪子31a、31bが押し当てられるブレーキディスク111の材質、形状等の選定の幅が広がり走行条件に適したものを用いることができる。例えば、熱伝導性の高い材料を用いて放熱性を高めることもでき、また、放熱しやすい形状にすることも可能である。
【0049】
また、ブレーキディスク111に、当該ブレーキディスク111の回転軸方向から制輪子31a、31bを押し当てることで、ブレーキディスク111と制輪子31a、31bとの接触面積を大きくすることができるため、ブレーキディスク111の回転の制動を安定させることができるとともに、ディスクブレーキ型のブレーキ装置による車輪の回転制動時において発生しやすい振動をバックプレート109の下端付近に設けられたダンパ機構15により効果的に減衰させることができる。
【0050】
更に上記の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態のダンパ機構15において、粘性流体15cを加圧して流体室15aに封入することもできる。無加圧の場合は、自励振動の周波数や粘性流体15cの粘度などによっては、粘性流体15c内にキャビテーションが発生し、減衰特性に影響を与えるが、加圧することによりキャビテーションの発生を抑制することができる。なお加圧する圧力は、粘性流体15cの粘度や対象とする振動の周波数帯によって定めることができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鉄道車両用ブレーキ装置を備える鉄道車両の側面図である。
【図2】図1における台車部分の拡大図である。
【図3】第1実施形態に係る鉄道車両用ブレーキ装置の側面図である。
【図4】図3に示す制輪子頭の側面図である。
【図5】図3に示す制輪子頭の正面図である。
【図6】図3に示す制輪子頭におけるダンパ機構部分の拡大斜視図である。
【図7】ブレーキ作用前のダンパ機構における流体室を示す概念図である。
【図8】ブレーキ作用により振動時のダンパ機構における流体室を示す概念図である。
【図9】第1実施形態の第1の変形例を示す図である。
【図10】第1実施形態の第2の変形例を示す図である。
【図11】第2実施形態に係る鉄道車両用ブレーキ装置の制輪子頭の側面図である。
【図12】図11に示す制輪子頭の正面図である。
【図13】図11に示す制輪子頭におけるダンパ機構部分の拡大斜視図である。
【図14】第3実施形態に係る鉄道車両用ブレーキ装置の側面図である。
【図15】第3実施形態に係る鉄道車両用ブレーキ装置の平面図である。
【図16】図14に示す制輪子頭の側面図である。
【図17】図14に示す制輪子頭の正面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 軌道
2 車両
3 車体
4 台車
4a 車輪
4c 踏面
5、35 ブレーキ装置
6 駆動力伝達機構
11 制輪子
12、22 制輪子頭(制輪子保持部材)
13 押棒
14 制輪子頭吊り
15 ダンパ機構
15a 流体室
15b 錘部材
15c 粘性流体
15d スペーサ部材
16、24 連結ピン
20、30 駆動力発生部
103 支持部材
106a、106b 梃子
109 バックプレート(制輪子保持部材)
111 ブレーキディスク(回転体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪、または、当該車輪の回転に連動して回転する回転体に制輪子を押し当てることにより当該車輪の回転を制動する鉄道車両用ブレーキ装置において、
前記制輪子を支持する制輪子保持部材と、
前記制輪子保持部材に設けられたダンパ機構と、
を備え、
前記ダンパ機構は、円筒形状の流体室と、前記流体室内で変位可能に収容される円柱形状の錘部材と、前記流体室内壁と前記錘部材との間の隙間に収容される粘性流体と、を有することを特徴とする鉄道車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記車輪の踏面に前記制輪子を押し当てることにより、前記車輪の回転を制動することを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記回転体は当該回転体の回転軸に直交するように配置される直交面を有する円板状に形成されており、前記制輪子が当該直交面に押し当てられることにより、前記車輪の回転が制動されることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記ダンパ機構は、前記錘部材の外周に沿って配置され前記流体室内壁と前記錘部材との間の隙間を確保するスペーサ部材を更に有することを特徴とする請求項1乃至請求項3の少なくともいずれか1項に記載の鉄道車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記流体室は、前記制輪子保持部材と一体に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の少なくともいずれか1項に記載の鉄道車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
前記ダンパ機構は、前記制輪子保持部材の側面から突出して設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項5の少なくともいずれか1項に記載の鉄道車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
前記粘性流体は、加圧状態で収容されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6の少なくともいずれか1項に記載の鉄道車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−285458(P2007−285458A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114850(P2006−114850)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】