説明

銀含有材料と接触する潤滑油組成物

【課題】銀含有材料と接触する潤滑油として、銀含有材料の腐食を抑制できる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】鉱油系基油及び/又は合成系基油からなる潤滑油基油に、組成物全量基準で(A)一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸の金属塩を、リン量として0.01〜0.2質量%、及び、(B)金属系清浄剤を、金属量として0.005〜5質量%含有する、銀含有材料と接触する潤滑油組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀含有材料と接触する潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンの高出力化、低燃費化などの性能向上の目的から、エンジンの筒内圧力が高くされる傾向にある。エンジン軸受は、高面圧下における軸受性能の向上が求められるため、滑り軸受としては鉛含有材料が広く使用されてきた。しかし、鉛は環境負荷物質としてその使用が制限されつつあり、鉛フリーの高性能軸受が求められている。
【0003】
高負荷エンジン用軸受においては、オーバーレイやライニングの部分に、アルミニウム材料など、様々な鉛非含有材料の使用が検討されている。銀含有材料もその1つであり、例えば、海外の鉄道用ディーゼルエンジンにおいては、ピストンピン軸受やターボチャージャー軸受に銀合金が用いられる場合がある。また、銀含有材料又は銀メッキ材料は、オーバーレイやライニングの他、固体潤滑皮膜として軸受以外の摺動面にも使用されることがある(例えば特許文献1〜6参照)。
【0004】
しかしながら、日本においては銀含有材料の使用は一般的ではなく、潤滑油との適合性に関する研究例は少ない。自動車用エンジン油には、過去数十年に渡りジチオリン酸亜鉛が必須添加剤として使用され続けてきたが、銀を腐食するため、銀含有材料を用いる高負荷ディーゼルエンジン用には、不向きであると考えられている。
【0005】
海外では、鉄道用ディーゼルエンジン用等として、銀含有材料に適合する潤滑油の検討が多くなされている(特許文献7〜25)。例えば、特許文献7には、銀含有材料を用いる高負荷ディーゼルエンジン用に好適な潤滑油として、ジアルキルジチオリン酸の炭化水素アミン塩と酸性リン酸アルキルの炭化水素アミン塩と、清浄剤を含む、亜鉛フリーの潤滑油が開示されており、清浄剤としては、特にフェネート系清浄剤が好適であるとされている。
【0006】
ところで、近年、ジチオリン酸亜鉛に代えて特定のリン化合物を含む潤滑油が、塩基価維持性や高温清浄性に大幅に優れるものとして検討が進められている(例えば特許文献26等参照)が、銀含有材料に対する影響については全く検討されていない。
【特許文献1】特開2002−195266号公報
【特許文献2】特開2000−240657号公報
【特許文献3】特開平10−61727号公報
【特許文献4】特開平9−257045号公報
【特許文献5】特開平7−151148号公報
【特許文献6】特開平6−264110号公報
【特許文献7】特開2007−23289号公報
【特許文献8】英国特許第1415964号明細書
【特許文献9】加国特許第810120号明細書
【特許文献10】米国特許第2959546号明細書
【特許文献11】米国特許第3267033号明細書
【特許文献12】米国特許第3649373号明細書
【特許文献13】米国特許第3775321号明細書
【特許文献14】米国特許第4169799号明細書
【特許文献15】米国特許第4244827号明細書
【特許文献16】米国特許第4278553号明細書
【特許文献17】米国特許第4285823号明細書
【特許文献18】米国特許第4575431号明細書
【特許文献19】米国特許第4717490号明細書
【特許文献20】米国特許第4764296号明細書
【特許文献21】米国特許第4820431号明細書
【特許文献22】米国特許第5244591号明細書
【特許文献23】米国特許第5302304号明細書
【特許文献24】米国特許出願公開第2004/0259743号明細書
【特許文献25】米国特許出願公開第2005/0026791号明細書
【特許文献26】特開2002−294271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、銀含有材料と接触する潤滑油として、銀含有材料の腐食を抑制できる潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特許文献7のように、銀含有材料に対し好適なフェネート系清浄剤と共に、リン化合物として従来から銀腐食の懸念のあったジチオリン酸亜鉛を用いると、著しい銀腐食の問題があることを再認識した。この場合、銅等の腐食防止に有効であるトリアゾール類のような腐食防止剤を用いても銀腐食を防止できないことが判明した。そして、銀腐食の抑制について鋭意検討した結果、特定のリン化合物を含有する潤滑油組成物が、銀腐食を大幅に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明の第1の態様は、鉱油系基油及び/又は合成系基油からなる潤滑油基油に、組成物全量基準で、(A)一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸の金属塩を、リン量として0.01〜0.2質量%、及び、(B)金属系清浄剤を、金属量として0.005質量%含有することを特徴とする、銀含有材料と接触する潤滑油組成物を提供して前記課題を解決するものである。
【0010】
【化1】


[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、pは0又は1を示す。]
【0011】
【化2】


[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、qは0又は1を示す。]
【0012】
この態様において、潤滑油組成物は、(B)成分の含有量が0.05〜0.6質量%であり、銀含有材料を有するディーゼルエンジンに使用されるものであることが好ましい。
【0013】
また、この態様において、潤滑油組成物は、(B)成分の含有量が0.3〜0.6質量%であり、銀含有材料を有する鉄道車両用ディーゼルエンジンに使用されるものであることが好ましい。
【0014】
また、この態様において、潤滑油組成物は、(B)成分の含有量が0.05〜0.3質量%であり、銀含有材料を有するガソリンエンジンに使用されるものであることが好ましい。
【0015】
また、この態様において、潤滑油基油は、100℃における動粘度が2mm/s以上9mm/s未満、粘度指数が110〜160のポリα−オレフィン系基油及び/又は100℃における動粘度が9〜50mm/s、粘度指数が120〜160のポリα−オレフィン系基油を含有することが好ましい。
【0016】
本発明の第2の態様は、第1の態様の潤滑油組成物を銀含有材料に接触させることを特徴とする、潤滑油と接触する銀含有材料の保護方法を提供して前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の潤滑油組成物は、それが接触する銀が腐食するのを抑制するため、銀含有材料と接触する潤滑油として使用した場合に、銀含有材料及び該銀含有材料を有する機械や装置を保護することができる。そのため、各種内燃機関用の潤滑油、特にディーゼルエンジン用、鉄道車両用ディーゼルエンジン用、自動車用ガソリンエンジン用、4サイクル二輪車エンジン用の潤滑油として有用である。
【0018】
本発明のこのような作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の潤滑油組成物について詳述する。
本発明の潤滑油組成物(以下、単に潤滑油組成物ともいう。)に用いられる潤滑油基油としては、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油及び/又は合成系基油であれば特に制限なく使用することができる。
【0020】
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTLWAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される潤滑油基油等が例示できる。
【0021】
鉱油系基油の全芳香族分は、特に制限はないが、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。基油の全芳香族分が40質量%を超える場合は、酸化安定性が劣るため好ましくない。
【0022】
なお、(A)成分を使用することで十分な銀腐食抑制効果を発揮できるため、添加剤の溶解性や経済性により優れる鉱油系基油として、全芳香族分が10質量%以上、好ましくは20質量%以上の鉱油系基油を使用してもよい。また、より過酷な条件においても酸化安定性に優れ、長期使用においても鉱油の劣化に起因する成分による銀の腐食を抑制しうる点で、全芳香族分が10質量%未満、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下の鉱油系基油を使用することが望ましい。
【0023】
なお、上記全芳香族分とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、これらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、及びピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
【0024】
また、鉱油系基油中の硫黄分は、特に制限はないが、1質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましい。なお、(A)成分を使用することで十分な銀腐食抑制効果を発揮できるため、添加剤の溶解性や経済性により優れる鉱油系基油として、硫黄分が0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上の鉱油系基油を使用してもよい。また、より過酷な条件においても酸化安定性に優れ、長期使用においても鉱油の劣化に起因する成分による銀の腐食を抑制しうる点で、硫黄分が0.1質量%未満、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以下の鉱油系基油を使用することが望ましい。
【0025】
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、1−ドデセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;マレイン酸ジブチル等のジカルボン酸類と炭素数2〜30のα−オレフィンとの共重合体;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0026】
なお、上記ポリα−オレフィン又はその水素化物は、より過酷な条件においても酸化安定性に優れ、長期使用においても基油の劣化に起因する成分による銀の腐食を抑制しうる点で、特に好ましく用いることができる。
【0027】
本発明では、潤滑油基油として、鉱油系基油、合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
【0028】
潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、100℃での動粘度は、4〜50mm/sであることが好ましく、より好ましくは、6〜40mm/s、特に好ましくは8〜35mm/sである。潤滑油基油の100℃での動粘度が50mm/sを超える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が4mm/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
【0029】
本発明の潤滑油組成物において、潤滑油基油としては、100℃での動粘度が2mm/s以上9mm/s未満及び/又は100℃での動粘度が9〜50mm/sの潤滑油基油を含有することが好ましい。
【0030】
100℃における動粘度が2mm/s以上9mm/s未満の潤滑油基油としては、例えば、SAE10〜20等の鉱油系基油や合成系基油が挙げられ、その動粘度は、3.5mm/s以上、より好ましくは4mm/s以上であり、好ましくは8.5mm/s以下である。また、その硫黄分は好ましくは0〜1質量%、より好ましくは0.2質量%以下であり、また、その全芳香族分は、好ましくは0〜40質量%、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。さらに、その粘度指数は、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、さらに好ましくは100以上であり、120以上である。
【0031】
また、100℃における動粘度が9〜50mm/sの潤滑油基油としては、例えば、SAE30〜50、ブライトストック等の鉱油系基油や合成系基油が挙げられ、その動粘度は、好ましくは10mm/s以上であり、好ましくは40mm/s以下である。また、その硫黄分は好ましくは0〜1質量%、より好ましくは0.9質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以下であり、また、その全芳香族分は、好ましくは0〜40質量%、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。さらにその粘度指数は、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、さらに好ましくは95以上であり、120以上である。
【0032】
本発明においては、100℃での動粘度が2mm/s以上9mm/s未満の潤滑油基油を主成分、例えば、基油全量基準で50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有させ、100℃での動粘度が9〜50mm/sの潤滑油基油を50質量%以下、好ましくは10〜30質量%配合したものが特に望ましい。
【0033】
潤滑油基油の粘度指数は特に制限はないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるようにその値は好ましくは80以上であり、より好ましくは90以上であり、さらに好ましくは95以上である。粘度指数の上限については特に制限はなく、水素化分解鉱油、ポリα−オレフィン系基油(例えば1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等のα−オレフィンのオリゴマー又はその水素化物)のような120〜160程度のもの、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油のような135〜180程度のものや、コンプレックスエステル系基油やHVI−PAO系基油のような150〜250程度のものも使用することができる。
【0034】
本発明においては、銀腐食に対して十分な効果を有するとともに、添加剤の溶解性や経済性に優れる潤滑油組成物を得ることができる点で、100℃における動粘度が2mm/s以上9mm/s未満、全芳香族分が20〜40質量%、硫黄分が0.1〜0.3質量%、粘度指数が90〜110の鉱油系基油及び/又は100℃における動粘度が9〜50mm/s、全芳香族分が20〜40質量%、硫黄分が0.3〜0.9質量%、粘度指数が90〜110の鉱油系基油を用いることができる。
【0035】
また、本発明においては、より過酷な条件においても酸化安定性に優れ、長期使用においても基油の劣化に起因する成分による銀の腐食を抑制しうる点で、100℃における動粘度が2mm/s以上9mm/s未満、全芳香族分が10質量%以下、硫黄分が0.1質量%以下、粘度指数が120〜160の水素化分解/異性化鉱油若しくはポリα−オレフィン系基油、及び/又は100℃における動粘度が9〜50mm/s、全芳香族分が10質量%以下、硫黄分が0.1質量%以下、粘度指数が120〜160の水素化分解/異性化鉱油若しくはポリα−オレフィン系基油を特に好ましく用いることができる。
【0036】
特に、100℃における動粘度が2mm/s以上9mm/s未満、好ましくは7mm/s以上9mm/s未満、粘度指数が110〜160、好ましくは130〜160のポリα−オレフィン系基油、及び/又は、100℃における動粘度が9〜50mm/s、好ましくは30〜50mm/s、粘度指数が120〜160、好ましくは140〜160のポリα−オレフィン系基油を含有する潤滑油基油、特に前者を基油全量基準で50〜95質量%、好ましくは70〜90質量%、後者を基油全量基準で5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%含有する潤滑油基油を用いると、酸化安定性に優れるだけでなく、高温粘度、高温せん断粘度をより高くすることができ、油膜を厚くすることができるため、銀含有材料や軸受けの摩耗又は腐食摩耗をより高いレベルで抑制できるとともに、潤滑油の劣化による銀含有材料や軸受けの摩耗又は腐食摩耗を長期間抑制できるため、特に好ましい。
【0037】
本発明の潤滑油組成物は、(A)成分として、一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸の金属塩を含有する。(A)成分としては、一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸と、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基との金属塩を例示することができる。
【0038】
【化3】


[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、pは0又は1を示す。]
【0039】
【化4】


[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、qは0又は1を示す。]
【0040】
上記一般式(a)、(b)中、R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素含有基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基等の炭化水素基を特に好ましい例として挙げることができる。なお、該炭化水素含有基としては、該炭化水素基を有するのであれば、硫黄、窒素、酸素から選ばれる1種又は2種以上を分子中に有するものであってもよい。
【0041】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、1級アルキル基でも、2級アルキル基でも、3級アルキル基であってもよい。)を挙げることができる。
【0042】
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である。)を挙げることができる。
【0043】
上記アルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である。)を挙げることができる。
【0044】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。また上記アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である。)を挙げることができる。
【0045】
上記アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい。)を挙げることができる。
【0046】
上記R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、さらに好ましくは炭素数3〜18、さらに好ましくは炭素数4〜12のアルキル基、特に好ましくは炭素数6〜10のアルキル基である。
【0047】
一般式(a)で表されるリン含有酸としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素含有基を1つ有する亜リン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素含有基を2つ有する亜リン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素含有基を3つ有する亜リン酸トリエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0048】
一般式(b)で表されるリン含有酸としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素含有基を1つ有するリン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素含有基を2つ有するリン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素含有基を3つ有するリン酸トリエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物などが挙げられる。なお、一般式(a)及び(b)の例示における「ヒドロカルビル」は、上記炭素数1〜30の炭化水素含有基置換を意味する。
【0049】
また、一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸の金属塩は、一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸に、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和することにより得ることができる。
【0050】
上記金属塩基における金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、モリブデン、マンガン等の重金属等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、モリブデン及び亜鉛が好ましく、亜鉛が特に好ましい。
【0051】
なお、上記リン化合物の金属塩は、金属の価数あるいはリン化合物のOH基の数に応じてその構造が異なり、したがって、リン化合物の金属塩の構造については何ら限定されない。例えば、酸化亜鉛1molとリン酸ジエステル(OH基が1つの化合物)2molを反応させた場合、下記式(c)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0052】
【化5】


[式中、Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示す。]
【0053】
また、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸モノエステル(OH基が2つの化合物)1molとを反応させた場合、下記式(d)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0054】
【化6】


[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示す。]
【0055】
本発明において、上記リン含有酸の金属塩は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
本発明にかかるリン含有酸の金属塩としては、より好ましい具体例としては、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する亜リン酸ジエステルの亜鉛塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を1個有するリン酸のモノエステルの亜鉛塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有するリン酸のジエステルの亜鉛塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を1個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸の亜鉛塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステルの亜鉛塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を1個有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸の亜鉛塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸モノエステルの亜鉛塩が挙げられ、炭素数3〜18のアルキル基、好ましくは炭素数4〜12のアルキル基を有するリン酸モノエステル及び/又はリン酸ジエステルの亜鉛塩がより好ましく、炭素数3〜18のアルキル基、好ましくは炭素数4〜12のアルキル基を有するリン酸ジエステルの亜鉛塩が特に好ましい。
【0057】
本発明の(A)成分の最も好ましいものとしては、本発明の効果に加え、潤滑油基油に対する溶解性と耐摩耗性とのバランスに優れる点で、炭素数6〜10のアルキル基を有するリン酸モノエステル及び/又はリン酸ジエステルの金属塩がよく、その金属量(M)とリン量(P)との質量比(M/P)が、好ましくは1〜3であるが、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステル混合物の金属塩がさらによく、その該M/P値が好ましくは1.2〜2.5、さらに好ましくは1.3〜1.8であることが望ましい。
【0058】
本発明の潤滑油組成物において、上記(A)成分の含有量は、組成物全量を基準として、リン元素換算で、通常0.01〜0.2質量%であるが、好ましくは0.02〜0.15質量%、より好ましくは0.04〜0.12質量%である。上記(A)成分のリン元素換算での含有量が0.01質量%未満の場合は、銀含有材料の腐食摩耗防止性が不十分となる傾向にあり、0.2質量%を超えても添加量に見合うだけの効果が得られず、また、溶解性が不十分となることがある。
【0059】
本発明の潤滑油組成物は、(B)成分として金属系清浄剤を含有する。金属系清浄剤としては、特に制限はなく、公知のアルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート系清浄剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネート系清浄剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート系清浄剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ナフテネート系清浄剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ホスホネート系清浄剤及びこれらの2種以上の混合物(コンプレックスタイプも含む。)等が挙げられる。
【0060】
ここでいうアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属であることが好ましく、カルシウム又はマグネシウムであることが特に好ましい。なお、これら金属系清浄剤の全塩基価及び添加量は要求される潤滑油の性能に応じて任意に選択することができる。
【0061】
なお、上記金属系清浄剤には、中性の金属系清浄剤だけでなく、(過)塩基性金属系清浄剤も含まれるが、本発明においては、炭酸カルシウム及び/又はホウ酸カルシウムを有する(過)塩基性金属系清浄剤であることが好ましい。
【0062】
金属系清浄剤の塩基価は、特に制限はないが、通常0〜500mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは150〜450mgKOH/g、特に好ましくは200〜400mgKOH/gである。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する(以下同じ)。
【0063】
本発明において、(B)金属系清浄剤の含有量は特に制限はないが、組成物全量基準で、通常0.1〜30質量%であるが、金属換算量として、好ましくは0.005〜5質量%、より好ましくは0.05〜0.6質量%である。
【0064】
本発明の潤滑油組成物が、銀含有材料を有するディーゼルエンジンにおける、銀含有材料と接触する潤滑油として使用される場合には、高温清浄性と酸中和性能、酸化安定性能を高める観点から、(B)成分の含有量は、金属量として、より好ましくは0.05〜0.6質量%であり、さらに好ましくは0.1〜0.3質量%、特に好ましくは0.15〜0.25質量%である。
【0065】
また、本発明の潤滑油組成物が、銀含有材料を有する鉄道車両用ディーゼルエンジンにおける、銀含有材料と接触する潤滑油として使用される場合には、高負荷運転に耐えうるだけの高温清浄性と酸中和性能、酸化安定性能を高める観点から、(B)成分の含有量は、金属量として、より好ましくは0.05〜0.6質量%であり、さらに好ましくは0.3〜0.6質量%、特に好ましくは0.35〜0.6質量%である。
【0066】
また、本発明の潤滑油組成物が、銀含有材料を有する自動車用ガソリンエンジン及び4サイクル二輪車エンジンにおける、銀含有材料と接触する潤滑油として使用される場合には、優れた高温清浄性能と酸中和性能、酸化安定性性能を高め、排ガス後処理装置への影響を緩和する観点から、(B)成分の含有量は、金属量として、より好ましくは0.05〜0.6質量%であり、さらに好ましくは0.1〜0.3質量%、特に好ましくは0.15〜0.25質量%である。
【0067】
本発明の潤滑油組成物は、上記構成とすることにより、銀含有材料の腐食防止性に優れるため、銀含有材料と接触する潤滑油として、銀含有材料を有する機械や装置、特に内燃機関に用いた場合に、銀含有材料の腐食や腐食摩耗、溶出等を防止することができるが、さらにその性能を向上させるために、又は、その他の目的に応じて、本発明の潤滑油組成物には、潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、無灰分散剤、酸化防止剤、上記以外の摩耗防止剤(又は極圧剤)、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び着色剤等の添加剤を挙げることができる。
【0068】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができるが、例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体が挙げられる。ここでいう含窒素化合物としては、例えば、コハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアミン、マンニッヒ塩基等が挙げられ、その誘導体としては、これら含窒素化合物にホウ酸、ホウ酸塩等のホウ素化合物、(チオ)リン酸、(チオ)リン酸塩等のリン化合物、有機酸、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等を作用させた誘導体等が挙げられる。本発明においては、これらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0069】
このアルキル基又はアルケニル基の炭素数は40〜400、好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を超える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するため、それぞれ好ましくない。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0070】
本発明において、無灰分散剤を配合する場合の含有量は、特に制限はないが、通常組成物全量基準で0.1〜10質量%、好ましくは1〜8質量%、さらに好ましくは3〜7質量%である。無灰分散剤の含有量が上記未満の場合硫酸中和速度が十分でない傾向にあり、また、上記範囲を超える場合、含有量に見合う効果が得られないばかりか、ピストンリング溝の清浄性が悪化する傾向にある。
【0071】
なお、本発明における無灰分散剤としては、高温清浄性の点からモノタイプ及び/又はビスタイプのコハク酸イミド系無灰分散剤、特にビスタイプのコハク酸イミド系無灰分散剤が好ましく、また、コハク酸イミド系無灰分散剤としては、ホウ素を含有していても、含有していなくてもよいが、耐焼付き性の点でホウ素を含有しているものであることが好ましく、スラッジ分散性、高温清浄性能の維持性及び経済性に優れる点で、ホウ素を含有しない無灰分散剤を使用することがより好ましい。
【0072】
また、本発明における無灰分散剤としては、重量平均分子量が3000〜20000のコハク酸イミド系無灰分散剤を使用することが好ましい。重量平均分子量が3000未満では、非極性基のポリブテニル基の分子量が小さくスラッジの分散性に劣り、また、酸化劣化の活性点となる恐れのある極性基のアミン部分が相対的に多くなって酸化安定性に劣るため、好ましくなく、一方、低温粘度特性の悪化を防止する観点から、その重量平均分子量は、20000以下であることが好ましい。このような観点から、本発明における無灰分散剤の重量平均分子量は、好ましくは4000以上、より好ましくは6500以上であり、好ましくは15000以下、さらに好ましくは12000以下である。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ウォーターズ社製の150−CALC/GPC装置に東ソー社製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてテトラヒドロフランを用いて、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μL、検出器示差屈折率計(RI)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0073】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤等あるいは金属系酸化防止剤が挙げられる。これらの中ではコーキング防止性に優れることからフェノール系酸化防止剤が好ましく、ビスフェノール系あるいはエステル結合を有するフェノール系酸化防止剤が好ましく、オクチル−3−(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートやオクチル−3−(3−メチル−5−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等の3,5−ジアルキル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類(アルキル基は、1つがターシャリーブチル基であり、残りがメチル基又はターシャリーブチル基)が特に好ましい。
【0074】
これら任意成分の含有量は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜2質量%である。
【0075】
上記以外の摩耗防止剤(又は極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。
【0076】
本発明の潤滑油組成物において、これらの摩耗防止剤(又は極圧剤)を使用する場合、その含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%である。
【0077】
摩擦調整剤としては、脂肪酸エステル系、脂肪族アミン系、脂肪酸アミド系等の無灰摩擦調整剤、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等の金属系摩擦調整剤等が挙げられる。これらの含有量は、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%である。
【0078】
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、オレフィン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−ジエン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤又はポリアルキルスチレン系粘度指数向上剤等が挙げられる。これらの中でも、コーキング防止性により優れることから、オレフィン共重合体系粘度指数向上剤あるいはスチレン−ジエン共重合体系粘度指数向上剤が好ましく、中でも、エチレン−αオレフィン共重合体系粘度指数向上剤が特に好ましい。これら粘度指数向上剤の重量平均分子量は、通常800〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000である。また、粘度指数向上剤のPSSIは、特に制限はないが、好ましくは1〜60、より好ましくは10〜40、さらに好ましくは20〜30である。ここで、PSSI(永久せん断安定性指数:Permanent Shear Stability Index)とは、せん断安定性試験(ASTM D6278)試験前後の100℃における動粘度、基油の100℃における動粘度を用い、以下の計算式により算出される指数を意味する。
PSSI(%)=
{1−(せん断後の動粘度−基油の動粘度)/(せん断前の動粘度−基油の動粘度)}×100
また、粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で通常0.1〜20質量%である。
【0079】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0080】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0081】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0082】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0083】
消泡剤としては、例えば、シリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリシレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール、アルミニウムステアレート、オレイン酸カリウム、N−ジアルキル−アリルアミンニトロアミノアルカノール、イソアミルオクチルホスフェートの芳香族アミン塩、アルキルアルキレンジホスフェート、チオエーテルの金属誘導体、ジスルフィドの金属誘導体、脂肪族炭化水素のフッ素化合物、トリエチルシラン、ジクロロシラン、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテルスルフィド、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0084】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ通常0.005〜5質量%、金属不活性化剤では通常0.005〜1質量%、消泡剤では通常0.0005〜1質量%の範囲から選ばれる。
【0085】
上記構成成分を含有する本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、5.6〜21.3mm/sであり、好ましくは5.6〜16.3mm/sである。ここでいう100℃における動粘度とは、JIS K2283に規定される100℃での動粘度を示す。
【0086】
本発明の潤滑油組成物は、銀の腐食を抑制することができるため、銀含有材料と接触する潤滑油として好適に使用することができる。銀含有材料としては、本発明の潤滑油組成物と接触する金属表面に銀が存在する限りにおいて何ら制限はなく、銀だけでなく、銀合金、あるいは、銀メッキ等、銀又は銀合金を各種金属基材表面に被覆した材料が挙げられる。また、銀含有材料には、その表面に非銀含有材料が被覆されていても、使用過程においてその被覆面が摩耗して当該銀含有材料が露出し、本発明の潤滑油組成物と接触する可能性がある場合も含まれる。また、銀含有材料には、摺動部に用いられる銀含有材料だけでなく、摺動部以外の、潤滑油組成物と接触する銀含有材料も含まれる。
【0087】
銀合金としては、例えば、銀−スズ合金、銀−銅合金、銀−スズ−銅合金、銀−アルミニウム合金、銀−アルミニウム−珪素合金、銀−アルミニウム−スズ合金、銀−アルミニウム−銅合金、銀−アルミニウム−珪素−スズ合金、銀−アルミニウム−珪素−銅合金、銀−アルミニウム−スズ−銅合金、銀−アルミニウム−珪素−スズ−銅合金等が挙げられ、これら銀含有材料としては、銀含有量が、好ましくは、1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上含まれる材料であることが好ましい。
【0088】
具体的な銀含有材料としては、銀を50〜95質量%、好ましくは60〜90質量%含有する銀−スズ含有合金、銀を5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%含有する銀−銅含有合金、銀を1〜10質量%、好ましくは2〜5質量%含有する銀−アルミニウム含有合金等が挙げられる。金属表面の銀含有量が多いほど、銀鉛腐食又は腐食摩耗が発生しやすいため、本発明の潤滑油組成物は有用である。
【0089】
また、本発明の潤滑油組成物は、銀含有材料あるいは銀メッキ材料だけでなく、鉛、銅などの材料に対する腐食又は腐食摩耗防止性にも優れているので、様々な銀含有材料に対して有用であるのみならず、銀含有材料と、鉛含有材料あるいは銅含有材料とが別々に潤滑油と接触する機械や装置に対しても有用である。
【0090】
本発明の潤滑油組成物は、それが接触する銀含有材料が腐食するのを抑制することから、潤滑油として使用した場合に、銀含有材料及び銀含有材料を有する機械や装置を保護することができる。そのため、各種内燃機関用の潤滑油、特にディーゼルエンジン用、鉄道車両用ディーゼルエンジン用、自動車用ガソリンエンジン用、4サイクル二輪車エンジン用の潤滑油として、好適に使用することができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明の内容を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0092】
表1の組成となるように、実施例1〜3及び比較例1の潤滑油組成物を、それぞれ100℃における動粘度が11mm/sとなるように調製した。同様に、表1の組成となるように、実施例4〜7及び比較例2の潤滑油組成物を、それぞれ100℃における動粘度が14.5mm/sとなるように調製した。基油の割合は基油全量基準、各添加剤の添加量は組成物全量基準である。
【0093】
得られた組成物について、以下に示す試験条件以外は、Federal Test Method Standard 791 5308 Methodに準拠して、各試験油について腐食酸化安定度試験を行い、銀の試験油中への溶出量を測定した。得られた結果も併せて表1に示す。
試験片:銀(0.8mm×25.4mm×25.4mm)
試験温度:150℃
試験時間:72時間
試験油量:100g
【0094】
【表1】

【0095】
表1の結果から明らかなとおり、アルキルリン酸亜鉛を用いた本発明にかかる潤滑油組成物(実施例1〜7)は、腐食酸化安定度試験後の試験油中への銀溶出量が1質量ppm未満であり、銀腐食防止性に極めて優れていることがわかる。一方、ジチオリン酸亜鉛とフェネート系清浄剤を用いた潤滑油組成物(比較例1、2)は、腐食酸化安定度試験後の試験油中への銀溶出量が100質量ppmを大幅に超えており、銀含有材料に対する腐食防止性が大幅に劣ることがわかる。
【0096】
なお、特定のポリα−オレフィン系基油を用いた潤滑油組成物(実施例7)は、溶剤精製鉱油を用いた実施例1と比べて格段に酸化安定性が高く、また、高温粘度、高温せん断粘度も高くなるため、油膜を厚くすることができるので、長期使用においてもオイル劣化による銀腐食も抑制できるだけでなく、軸受けの摩耗又は腐食摩耗を大幅に改善することが可能である。
【0097】
以上、現時点において、最も実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う潤滑油組成物もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油系基油及び/又は合成系基油からなる潤滑油基油に、組成物全量基準で、
(A)一般式(a)又は(b)で表されるリン含有酸の金属塩を、リン量として0.01〜0.2質量%、及び
(B)金属系清浄剤を、金属量として0.005〜5質量%含有することを特徴とする、銀含有材料と接触する潤滑油組成物。
【化1】

[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、pは0又は1を示す。]
【化2】

[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素含有基を示し、qは0又は1を示す。]
【請求項2】
前記(B)成分の含有量が0.05〜0.6質量%であり、銀含有材料を有するディーゼルエンジンに使用されることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記(B)成分の含有量が0.3〜0.6質量%であり、銀含有材料を有する鉄道車両用ディーゼルエンジンに使用されることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記(B)成分の含有量が0.05〜0.3質量%であり、銀含有材料を有するガソリンエンジンに使用されることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記潤滑油基油が、100℃における動粘度が2mm/s以上9mm/s未満、粘度指数が110〜160のポリα−オレフィン系基油及び/又は100℃における動粘度が9〜50mm/s、粘度指数が120〜160のポリα−オレフィン系基油を含有することを特徴とする請求項1〜4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
潤滑油として請求項1〜5に記載の潤滑油組成物を銀含有材料に接触させることを特徴とする、潤滑油と接触する銀含有材料の保護方法。

【公開番号】特開2008−239776(P2008−239776A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81724(P2007−81724)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】