説明

銀含有溶液、これを含む抗菌樹脂組成物及び樹脂組成物が被覆された鋼板

【課題】ナノサイズの銀を含む水系銀含有溶液、これを含み鋼板に優れた抗菌性、耐食性、伝導性及び密着性を与える抗菌樹脂組成物及び抗菌樹脂組成物が薄膜で被覆された鋼板に関する。
【解決手段】粒径が1−20nmの銀が200−100,000ppmの濃度で濃縮されており、pHが6〜8.5に保たれ、不純物である安定剤は0.5〜1.5重量%、他の不純物である銀塩中陰イオンの量は銀含有溶液の重量を基準に1.0重量%以下で、安定剤と銀塩中陰イオン量の和は2.0重量%以下であることを特徴とする水系銀含有溶液と、アクリル、ウレタン、エポキシまたはエステル系樹脂100重量部、硬化剤0.05−5重量部及び樹脂組成物に対して銀濃度が5−100ppmになるよう銀含有溶液を含む抗菌樹脂組成物と、抗菌樹脂組成物が5μm以下の乾燥塗膜の厚さで被覆された抗菌樹脂鋼板とが提供される。本発明の水系銀含有溶液を含む抗菌樹脂組成物が被覆された鋼板は優れた抗菌性、耐食性、伝導性及び密着性を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銀含有溶液、これを含み鋼板に優れた抗菌性及び耐食性を与える抗菌樹脂組成物及び樹脂組成物が被覆された鋼板に関する。さらに詳しく、本発明はナノサイズの銀を含む水系銀含有溶液、これを含み鋼板に優れた抗菌性、耐食性、伝導性及び密着性を与える抗菌樹脂組成物及び抗菌樹脂組成物が薄膜で被覆された鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来には薄膜樹脂処理鋼板の耐食性を確保するため、鋼板或いは亜鉛メッキ処理された鋼板にクロム或いはクロメート処理をしてきた。しかし、クロムは有害環境物質であって現在は使用されず、樹脂を被覆して鋼板に耐食性を与えている。
【0003】
一般的に使用される周辺機器には人に有害な菌が多く生息している。特に水分と酸素が存在する環境であれば如何なる所にも各種の菌が生息して疾病を誘発する。
【0004】
また、樹脂処理される周辺機器は樹脂の非伝導性により、溶接性が低下する。従って、樹脂層による溶接性の低下を防ぐため可能な限り薄膜の樹脂層で形成される。しかし、樹脂層が薄膜化する場合、鋼板の耐食性が減少するという問題がある。
【0005】
上記のような問題を解決するための従来の技術として特許文献1には樹脂と金属の混合物が適用された塗装鋼板が開示されている。しかし、上記出願の場合、酸性抗菌剤が使われるためクロムやステンレス処理されない場合には耐食性が弱く、従って、メッキ処理後、耐食性の向上のために別途のクロム処理を必要とし、これは環境に悪影響を及ぼす。
【0006】
特許文献2にはステンレス鋼板上に亜鉛メッキ層または亜鉛合金メッキ層を形成した後、抗菌剤を含む熱硬化性塗装処理された抗菌塗装鋼板が開示されているが素地金属としてステンレス鋼板が使用され、白錆が発生する問題がある。
【0007】
特許文献3には難燃性リン酸塩に抗菌性能を有する金属または有機系の抗菌物質をイオン交換して製造された抗菌剤を含む塗料用樹脂組成物が開示されているが、難燃性リン酸塩が必須として使用されリン酸塩により伝導性が劣る。
【0008】
特許文献4には塩化銀錯塩を含む熱可塑性抗菌樹脂組成物が開示されているが、塩素イオンの存在により耐食性の確保が問題となる。
【0009】
特許文献5にはシリコン塗料を基材とする抗菌性光触媒塗料が開示されているが加工性の不良により家電用には適用できない。
【0010】
特許文献6にはAg、Zn粉末が置換された抗菌ゼオライトを含む抗菌樹脂組成物が開示されているが、上記特許は塗膜の厚さが20μmを超える厚膜型の塗装鋼板に適用される。
【0011】
特許文献7の亜鉛メッキ鋼板は、抗菌樹脂層に銀が含まれエステル樹脂が基材として使用されるが、2層の抗菌層で形成され素地鋼板としてクロム酸処理されたものが使用される。
【0012】
また、亜鉛メッキ鋼板に抗菌性を与えたPCM鋼板或いはパイプ等に樹脂処理された製品などがあるが、殆ど厚膜の樹脂被覆層として形成されるため抗菌物質による耐食性は問題にならないが、伝導性及び/または密着性は考慮していないものである。
【0013】
【特許文献1】日本特開平10−34814
【特許文献2】日本特開平8−156175
【特許文献3】日本特許公開1998−251557
【特許文献4】日本特許公開2003−192915
【特許文献5】日本特許公開2003−171604
【特許文献6】大韓民国特許公開1996−10736
【特許文献7】韓国特許登録210287
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ここで、本発明の目的は抗菌性を有する水系銀含有溶液を提供することである。本発明による銀含有溶液は不純物の含量を特定して制御されたもので、これを含む組成物で鋼板を被覆処理することにより鋼板に優れた抗菌性、耐食性、伝導性及び密着性を与えることが出来る。
【0015】
本発明の他の目的は上記銀含有溶液を含み、鋼板に被覆され優れた抗菌性、耐食性、伝導性及び密着性を与える抗菌樹脂組成物を提供することである。
【0016】
本発明の他の目的は上記抗菌樹脂組成物が薄膜で被覆された優れた抗菌性、耐食性、伝導性及び密着性を示す樹脂被覆鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一見地によると、
粒径が1.0−20nmの銀(Ag)が200−100,000ppmの濃度で濃縮されており、pHが6〜8.5に保たれ、銀含有溶液の重量を基準に不純物である安定剤は0.5〜1.5重量%、他の不純物である銀塩中陰イオン部分は1.0重量%以下で、不純物である安定剤と銀塩中陰イオン部分の和が2.0重量%以下であることを特徴とする水系銀含有溶液が提供される。
【0018】
本発明の他の見地によると、
アクリル、ウレタン、エポキシ及びエステル系樹脂で構成されるグループから選択された少なくとも一種の樹脂100重量部、硬化剤0.05−5重量部及び銀濃度が5−100ppmになるよう本発明の水系銀含有溶液を含む水系抗菌樹脂組成物が提供される。
【0019】
本発明の他の見地によると、
本発明の水系抗菌樹脂組成物が5μm以下の乾燥被膜の厚さで被覆された抗菌樹脂鋼板が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の水系銀含有溶液を含む抗菌樹脂組成物が被覆された鋼板は優れた抗菌性、耐食性、伝導性及び密着性を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明は不純物の含量が特定量以下に制御された銀含有溶液を特定の樹脂などと配合した水系抗菌樹脂組成物を鋼板に被覆することにより鋼板の抗菌性、耐食性、伝導性及び密着性が改善される。
【0022】
一般に銀、銅、亜鉛などが抗菌性を示す金属として知られている。このうち特に銀(Ag)は優れた殺菌活性を表す。一方、銀をナノサイズに微細化する方法として銀塩から吸着界面活性剤を用いて銀を微細化する方法(以下、‘吸着法’とする。)と銀塩とその他の高分子を用いて高分子−銀ナノ複合体に製造する方法(以下、‘複合体法’とする。)が一般に使用される。
【0023】
上記吸着法において微細な銀粒子は、吸着界面活性剤を用いて銀塩から微細な銀粒子に製造される。即ち、吸着法では銀塩中銀イオンが銀粒子に還元されるとき、界面活性剤により金属粒子のサイズ及び分布が調整される。銀塩を用いた銀粒子の製造時に界面活性剤水溶液が添加され、吸着される界面活性剤固有の性質により金属粒子が形成される溶液中で界面活性剤が形成される銀粒子核の表面に吸着され銀(Ag)粒子の核同士の融合が防止される。
【0024】
従って、還元された金属粒子が他の金属粒子の核の表面に結合することが遅延或いは遮断されてサイズの分布が均一かつ微細な金属粒子が製造される。上記吸着法ではAgNOなどの銀塩及び界面活性剤が使用され、ヒドラジン、リチウムアルミニウムボロヒドライド、ソジウムボロヒドライド及びエチレンオキシドのような金属イオン還元剤なども添加される。このような吸着法による微細銀粒子の製造方法は大韓民国特許登録375525に詳しく記述されている。
【0025】
一方、複合体法により銀粒子を微細化する方法では銀塩と高分子物質を用いて高分子−銀ナノ複合体を形成することにより銀粒子が微細化される。具体的に、上記複合体法において銀粒子は、先に銀塩または銀酸化物塩、イソプロピルアルコール、エタノール及び/またはエチレングリコール溶媒と水そして高分子安定剤を混合してこれを浄化し、沈殿物を形成し、溶媒を除去することにより製造される。
【0026】
銀塩としては硝酸銀(AgNO)、過塩素酸銀(AgClO)、硫酸銀(AgSO)及びアセト酸銀(CHCOOAg)で構成されるグループから選択された少なくとも1種の銀塩が使用されることが出来る。そして高分子安定剤としてはポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール及びポリオキシエチレンステアレートで構成されるグループから選択された少なくとも1種の高分子安定剤が使用されることが出来る。上記高分子安定剤は分散性及び安定性という2つの物性を充足するため、分子量3万5千−12万であるものを使用することが好ましい。
【0027】
さらに、上記銀塩などの配合時にポリオキシエチレンソルビタンモノオレートなどの界面活性剤を使用してエマルジョンを得ることが出来る。上記複合体法による銀ナノ複合体の製造方法は大韓民国特許出願2002−20593に詳しく記述されている。
【0028】
上記吸着法では銀塩、界面活性剤及び金属イオン還元剤などが、そして複合体法では銀塩、高分子安定剤、界面活性剤、溶媒などが使用される。使用された銀塩中陰イオン部分、即ち硝酸銀の場合NO、塩化銀の場合Cl、硫酸銀の場合SO2−、アセト酸銀の場合CHCOOなどの銀塩中陰イオン部分、高分子安定剤、界面活性剤、金属イオン還元剤、非水溶性溶媒などは微細化銀粒子形成の反応後、生成物である銀含有溶液中に残留する。
【0029】
しかし、製造される銀含有溶液から銀(Ag)と水を除いたその他の成分は銀含有溶液を樹脂組成物と配合して鋼板に適用する場合、樹脂薄膜が被覆された鋼板の耐食性、伝導性及び密着性などの鋼板の物性に悪影響を及ぼす不純物として作用し、従って除去されなければならない。
【0030】
従って、本発明では鋼板に樹脂薄膜で適用時に鋼板の耐食性、伝導性及び密着性などの物性が損傷されないよう銀塩中陰イオン部分、界面活性剤、金属イオン還元剤及び高分子安定剤などの不純物含量が制御された銀含有溶液が提供される。
【0031】
本発明の銀含有溶液中には粒径が1.0−20nmの銀(Ag)が200−100,000ppm、好ましくは1,000−100,000ppmの濃度で含まれる。銀含有溶液のうち銀の直径が1.0nm未満であるとナノ銀製造によるコストが上昇して好ましくなく、20nmを超えると樹脂に添加する時ナノ銀が均一に分散されないため十分な抗菌効果を示せず、樹脂との低調な混合性により不良な密着性及び耐食性を示し、コスト上昇の原因となる。
【0032】
また、銀含有溶液中の銀濃度が200ppm未満であると樹脂組成物を製造する時、樹脂に対する銀の濃度を保つため多量の銀含有溶液が使用されなければならず、これにより樹脂の物性が損傷して耐食性及び伝導性が減少する。銀濃度が100,000ppmを超えるとナノ化された銀が反応や塊なしで安定するようにするため多量の安定剤を必要とし、これにより鋼板に適用する際に耐食性が減少して好ましくない。
【0033】
上記銀含有溶液の酸度(pH)は6.0〜8.5に保たれなければならない。pHが6.0−8.5の範囲を外れると水系樹脂の物性が変わり塊が発生し、これにより樹脂の広がりが悪くなって密着性が低下する。
【0034】
また、銀含有溶液の重量を基準に銀含有溶液において不純物である安定剤は0.5〜1.5重量%、他の不純物である銀塩中陰イオン部分の量は1.0重量%以下、そして不純物である安定剤と銀塩中陰イオン部分の和は2.0重量%以下でなければならない。
【0035】
銀含有溶液のうち不純物である安定剤が0.5重量%未満であるとナノ銀の塊現象により十分な抗菌効果を示すことが出来ず、1.5重量%を超えると樹脂の結合性が悪く、耐食性が劣る。また銀塩中陰イオン部分の量が1.0重量%を超えるか、不純物である安定剤と銀塩中陰イオン部分の量の和が2.0重量%を超えると、水系樹脂組成物と鋼板との密着性が減少し樹脂の輪の結合が切れて薄膜樹脂の耐食効果及び伝導性が低下する。
【0036】
本発明において上記‘不純物である安定剤’とは、銀含有溶液中の銀、水及び銀塩中陰イオン部分を除いた銀含有溶液中に存在し得るある物質を言う。即ち、これに限るものではないが、例えば、上記吸着法及び複合体法による微細銀粒子の製造時に使用された界面活性剤、金属イオン還元剤、高分子安定剤及び非水系溶媒など銀(Ag)、水及び銀塩中陰イオン部分を除いた銀含有溶液中ある物質を示すものと理解できる。
【0037】
銀含有溶液中、安定剤及び銀塩中陰イオン部分などの不純物はイオン交換樹脂を用いた方法或いはその他の様々な方法により除去することが出来る。
【0038】
本発明の上記銀含有溶液及び抗菌樹脂組成物は水系組成物であるため、鋼板に適用した後水の除去時に別途の工程を必要とせず、ただ高温を適用して水を除去することが出来る。
【0039】
本発明の水系抗菌樹脂組成物は、アクリル、ウレタン、エポキシ及びエステル系樹脂で構成されるグループから選択された少なくとも一種の樹脂100重量部、硬化剤0.05−5重量部及び銀濃度が5−100ppmになるよう上記本発明の銀含有溶液を含んで成ることが出来る。
【0040】
上記組成物は銀含有溶液を銀(Ag)含量が5〜100ppm、好ましくは20−100ppmになるよう含む。銀含量が5ppm未満であると十分な抗菌性を示さず、100ppmを超えると銀成分と樹脂組成物との付着性の不良により密着性が低下しコストが増加する。
【0041】
上記抗菌樹脂組成物に樹脂としてアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂またはエステル樹脂から選択された少なくとも一種の樹脂が単独或いは混合物で使用されることが出来る。上記樹脂は耐指紋樹脂として知られている。
【0042】
また、上記樹脂100重量部当たり硬化剤0.05〜5重量部が添加される。硬化剤の含量が0.05重量部未満であると塗膜が良好に硬化されないため好ましくなく、5重量部を超えると硬化剤が過量添加され塗膜が壊れやすくて(brittle)加工性が弱くなり、硬化剤が高価であるため非経済的である。硬化剤としてはアジリジンまたはメラミンが使用され得る。
【0043】
鋼板に適用する時に塗膜の耐食性及び密着性を向上させるため上記樹脂組成物にコロイダルシリカがさらに添加されることがある。コロイダルシリカは被膜に凹凸を与えアンカー効果により被膜の密着性及び耐食性を向上させる。コロイダルシリカは本発明の水系抗菌樹脂組成物から銀含有溶液を除いた組成物100重量部当たり0.5乃至100重量部に添加されることが好ましい。0.5重量部未満では十分な耐食性及び密着性の増大効果を示さず、100重量部を超えると加工時に摩擦係数が増加し塗膜が壊れやすくなって加工性が良くないためである。このため、コロイダルシリカは0.5乃至100重量部の上記特定の範囲で添加されるのが良い。
【0044】
また、上記樹脂組成物には必要に応じて伝導性を改善するためさらに金属成分が添加されることが出来る。金属成分は伝導性をさらに増大させるために使用されるもので、添加されないこともあるが、必要に応じて本発明の水系抗菌樹脂組成物から銀含有溶液を除いた組成物100重量部当たり最大3重量部以下の量で添加されることが出来る。金属成分の含量が3重量部を超えると、鋼板に樹脂層として適用する時金属粒子によりクラック性(crack)の表面が形成され、従って耐食性及び表面外観が低下する。金属成分としてはTi、Zr及びMnで構成されるグループから選択された少なくとも一種の金属成分が使用されることが出来る。
【0045】
また、必要に応じて潤滑性を改善するためさらにワックスが水系抗菌樹脂組成物に添加されることが出来る。ワックスは潤滑性がさらに増大するよう使用されるもので、添加されないこともあるが、必要に応じて本発明の水系抗菌樹脂組成物から銀含有溶液を除いた組成物100重量部当たり7重量部以下の量で添加されることが出来る。7重量部を超えると樹脂層の付着性が低下するため好ましくない。
【0046】
上記水系抗菌樹脂組成物は水をベースとした水系樹脂組成物であって、固形分の含量が5〜30重量%であることが好ましい。固形分の含量が5重量%未満の場合には塗膜の厚さを調整することが困難で耐食性の低下の恐れがあり、30重量%を超える場合も塗膜の厚さを調節することが困難で、作業が厄介である。
【0047】
上記抗菌樹脂組成物には鋼板コーティング組成物の製造時に一般に添加されるものとしてこの分野で知られている分散剤、レベリング剤または増粘剤などのその他の添加剤及び着色顔料などが必要に応じて添加されることが出来る。
【0048】
上記抗菌樹脂組成物は鋼板に薄膜の樹脂層で被覆されて鋼板に抗菌性、耐食性、密着性及び伝導性を与える。
【0049】
鋼板としては一般的な鋼板が使用されることができ、好ましくは亜鉛メッキ鋼板などが使用されることが出来る。亜鉛メッキ後、プライムコーティング(prime coating)された鋼板も使用されることが出来る。プライムコーティング処理は一般的なもので、例えば、上記のアクリル、ウレタン、エポキシ及びエステル系樹脂で構成されるグループから選択された少なくとも一種の樹脂を使用して行うことが出来る。
【0050】
上記鋼板の一面に本発明の抗菌樹脂組成物は乾燥被膜の厚さが5μm以下、好ましくは1−2μmの薄膜で被覆されて樹脂被覆層を形成する。樹脂被覆層は可能な限り薄く形成することが好ましいが、鋼板の粗度などを考えて薄くは約1μmの乾燥被膜の厚さで形成されることができ、銀の含量をさらに厳しく制御してさらに薄い薄膜で適用することも出来る。しかし、乾燥樹脂被膜の厚さが5μmを超えると伝導性及び密着性の低下などの従来の厚膜型鋼板の問題が引き起こされる恐れがあり非経済的である。
【0051】
また、本発明の樹脂組成物は優れた耐食性を示すことにより耐食性が問題となる5μm以下の乾燥被膜の厚さに樹脂層を形成する場合にも優れた耐食性を示すため特に好ましい。
【0052】
ナノ銀は抗菌作用をする銀金属イオン(Ag)による抗菌殺菌作用により銀金属イオン(Ag)が直接細菌の−SH基、−COOH基、−OH基などと強く結合して細菌の細胞膜を破壊或いは撹乱させたり、銀による触媒作用により酸素が殺菌作用をする活性酸素に転換し活性酸素による殺菌作用のメカニズムにより抗菌機能を奏する。
【0053】
本発明の銀含有溶液を含む抗菌樹脂組成物で被膜が形成された鋼板は、耐指紋性鋼板として99.9%以上の抗菌率を示し、従来の耐指紋性鋼板と同等以上の耐食性、伝導性及び密着性を表す。
【0054】
上記のように、本発明では銀含有溶液中の銀粒子のサイズ、銀の含量、酸度(pH)、不純物の量、抗菌樹脂組成物中の銀含量及び硬化剤の量などを上記特定の範囲に調整することにより鋼板に優れた抗菌性、耐食性、伝導性及び密着性が与えられる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を通して本発明を詳しく説明する。下記の実施例は本発明をより理解しやすくするため提供するもので、本発明が下記の実施例により限定されるものではない。
【0056】
銀塩中陰イオン部分の濃度、不純物である安定剤の濃度、銀塩中陰イオン部分と不純物安定剤の濃度、酸度(pH)及び銀粒子のサイズをそれぞれ下記の表1に示した量になるよう調整して配合し、水系銀含有溶液1乃至27を製造した。銀含有溶液中の銀の含量は10,000ppmにした。実施例において銀含有溶液の製造時の銀塩としては硝酸銀を、そして安定剤としては分子量が50,000のポリエチレンと分子量が100,000のポリメチルメタクリレートを9:1の重量比に混合して使用した。
【0057】
下記の表1に示した銀含有溶液1乃至27を製造した後、これを樹脂組成物に銀の含量が下記の表1の量になるよう添加し、樹脂100重量部当たり硬化剤としてアジリジン1重量部を、そして銀含有溶液を除いた組成物100重量部当たりコロイダルシリカ20重量部を配合して水系抗菌樹脂組成物1乃至27を製造した。水系抗菌樹脂組成物1乃至27の固形分の含量は15重量%で、樹脂としてはエポキシ樹脂が使用された。
【0058】
上記それぞれ製造された抗菌樹脂組成物を厚さ0.8mmの電気亜鉛メッキ鋼板に、ロールコート(roll coat)法により乾燥被膜の厚さが1μm、そしてメッキ量が片面当たり20g/mになるよう一面に塗布し、150℃の乾燥炉で充分乾燥させた後、水冷して樹脂被膜を形成した後、抗菌性、耐食性、伝導性及び密着性を測定して下記の表1に表した。
【0059】
(1)抗菌性評価(大腸菌、葡萄状球菌)
35℃の一般培養器で大腸菌(Escherichia coli ATCC 25922)及び葡萄状球菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538)を16〜20時間培養し、培養液を滅菌リン酸緩衝液で20,000倍に希釈した後、上記樹脂処理された試片に1ml滴下し25℃で24時間保存した後取り出す。その後、これを滅菌された寒天培地で再度48時間培養し平板培養法(35℃、2日間培養)により調査して生菌数を測定する。その後、下記の数学式1に従って滅菌率(%)を計算した。99.9%以上を◎、99%以上を○、80%以上を△、80%未満を□に表した。
【0060】
[数学式1]
滅菌率(%)=[(希釈液の生菌数−24時間保存後の生菌数)/希釈液の生菌数]×100
【0061】
(2)耐食性評価
耐食性は塩水噴霧実験(JIS K5400)を100時間行い、白色の錆が全く発生しないものを記号◎、5%以下の場合○、5%超過を□にして評価した。
【0062】
(3)伝導性評価
伝導性は樹脂処理後の表面の抵抗を測定して評価した。距離1cmの間で示される抵抗値が0.04mΩ以下であると◎、0.04〜0.06mΩであると○、そして0.06mΩを超えると□に表した。
【0063】
(4)密着性評価
密着性は試験片を180度曲げて加工した後、加工部にセロハンテープを付着して剥離するテーピング試験を行い、塗膜が剥離されない場合を◎、5%以下の場合○、5%を超えると□に表した。
【0064】
【表1】

【0065】
上記の表1から分かるように、本発明による制限を満たす銀含有溶液及び抗菌樹脂組成物がコーティングされた場合には優れた抗菌性、耐食性、伝導性及び密着性を示すことに対して、本発明の制限を外れる抗菌樹脂組成物3、4、7、10、13、14、18、22、23及び27の場合は抗菌性、耐食性、伝導性及び密着性の特性を同時に満たしていないことが示された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が1.0−20nmの銀(Ag)が200−100,000ppmの濃度で濃縮されており、pHが6〜8.5に保たれ、銀含有溶液の重量を基準に不純物である安定剤は0.5〜1.5重量%、他の不純物である銀塩中陰イオン部分は1.0重量%以下で、不純物安定剤と銀塩中陰イオン部分の和が2.0重量%以下であることを特徴とする水系銀含有溶液。
【請求項2】
アクリル、ウレタン、エポキシ及びエステル系樹脂で構成されるグループから選択された少なくとも一種の樹脂100重量部、硬化剤0.05−5重量部及び銀の濃度が5−100ppmになるよう請求項1の銀含有溶液を含む水系抗菌樹脂組成物。
【請求項3】
銀含有溶液を除いた前記樹脂組成物100重量部当たりコロイダルシリカ0.5−100重量部をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の水系抗菌樹脂組成物。
【請求項4】
銀含有溶液を除いた前記樹脂組成物100重量部当たりTi、Zr及びMnで構成されるグループから選択された少なくとも一種の金属元素を3重量部以下にさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の水系抗菌樹脂組成物。
【請求項5】
銀含有溶液を除いた前記樹脂組成物100重量部当たりワックスを7重量部以下にさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の水系抗菌樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物は、固形分の含量が5〜30重量%であることを特徴とする請求項2に記載の水系抗菌樹脂組成物。
【請求項7】
前記硬化剤は、アジリジンまたはメラミンであることを特徴とする請求項2に記載の水系抗菌樹脂組成物。
【請求項8】
請求項2乃至7のいずれか1項の水系抗菌樹脂組成物が5μm以下の乾燥被膜の厚さで被覆された鋼板。
【請求項9】
前記鋼板は、亜鉛メッキ鋼板或いは亜鉛メッキ及びプライムコーティングされた鋼板であることを特徴とする請求項8に記載の鋼板。

【公表番号】特表2009−501697(P2009−501697A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513364(P2008−513364)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【国際出願番号】PCT/KR2006/001932
【国際公開番号】WO2006/126823
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(502258417)ポスコ (73)
【Fターム(参考)】