説明

銀粒子の製造方法及び得られた該銀粒子を含有する銀粒子含有組成物並びにその用途

【課題】銀イオン、銅イオン、低分子系分散剤及び還元剤を用いてプレート状銀粒子を簡便に製造する。
【解決手段】水に銀塩、銅塩及び低分子系分散剤を加えて銀塩、銅塩及び低分子系分散剤の水溶液を調製し、水溶液に所定の割合で還元剤を添加して混合液を調製し、混合液を20〜40℃で静置して混合液中の銀イオンを還元反応させることにより、主として形状がプレート状の銀粒子を製造する方法であり、銀塩と低分子系分散剤と銅塩と還元剤の添加割合がモル比率で銀塩:低分子系分散剤:銅塩:還元剤=1:(0.1〜100):(0.01〜100):(0.001〜100)であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光や近赤外光の特定波長に対する選択的吸収機能を有する粒子径がナノオーダのプレート状銀粒子を簡易的に製造する方法及び得られた該銀粒子を含有する銀粒子含有組成物並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属のコロイドは化学的に変化し難く、粒径が数nm〜数十nm程度の、いわゆるナノ粒子を構成する。また各コロイド特有の色を発色し、塗料や樹脂組成物の着色剤への用途を含む各種用途への適用が期待されている。
このような発色金属粒子の製造方法として、例えば、非結晶銀粒子の懸濁液に700nm未満の波長を有する光源を晒すことで銀結晶を形成するナノプリズムの形成方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法によりプレート状の銀の単結晶が形成される。また、クエン酸三ナトリウムと硝酸銀が溶解している水溶液中で、水素化ホウ素ナトリウムにより銀イオンを還元して合成した球状銀コロイド中にBSPP(Bis(p-sulfonatophenyl) phenylphosphine dehydrate dipotassium salt)を滴下した水溶液に、蛍光灯を照射することで銀ナノプリズムを合成する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。また、クエン酸三ナトリウムとBSPPが溶解している水溶液中で、水素化ホウ素ナトリウムにより銀イオンを還元して合成した銀コロイドに、フィルターで選択した2種類の波長の可視光線を照射することで、銀ナノプリズムの吸収波長を制御する方法がある。また、銀ナノプリズムの辺の長さが長くなるにつれ、プラズモン吸収が長波長側にシフトすることが知られている(例えば、非特許文献2参照。)。また、クエン酸三ナトリウムとBSPPあるいはPVPが溶解している水溶液中で、水素化ホウ素ナトリウムにより銀イオンを還元して合成した銀コロイドに、蛍光灯→フィルターで選択した1種類の波長の可視光線を照射することで、銀ナノプレートの吸収波長を制御する方法がある(例えば、非特許文献3参照。)。
【0003】
また、金属微粒子に光を照射したときに生じるプラズモン吸収と呼ばれる共鳴吸収現象を利用して塗料としての着色性や溶液の安定性を高めた塗料が開発されている(例えば、特許文献2及び3参照。)。特許文献2では、貴金属又は銅の化合物を、溶媒に溶解し、高分子量顔料分散剤を加えた後、貴金属又は銅に還元することで彩度が高く、十分な着色性を有し、塗料や樹脂に添加しても凝集しない貴金属又は銅のコロイド溶液の製造方法が開示されている。この特許文献2によると、貴金属コロイドによる発色は、電子のプラズマ振動に起因し、プラズモン吸収と呼ばれる発色機構によるものであり、プラズモン吸収による発色は、金属中の自由電子が光電場により揺さぶられ、粒子表面に電荷が現れ、非線形分極が生じるためとある。特許文献3では、水相の貴金属又は銅のイオンを還元することにより、貴金属又は銅の生成と、水相から、水と非混和性の有機溶媒相への貴金属又は銅の相間移動とを生ぜしめ、有機溶媒相内に安定な貴金属又は銅のコロイド粒子を得る製造方法が開示されている。特許文献3に示される方法により得られた貴金属又は銅のコロイドは安定でかつ高濃度で存在するようになり、濃色で彩度が高く、着色剤として好適であると記載されている。
【0004】
また、銀塩のアンミン錯体及び還元反応の際に媒晶剤として機能する重金属塩のアンミン錯体を含むスラリーと、還元剤である亜硫酸カリ及び保護コロイドとしてのゼラチンを含有する溶液とを一時に混合して該銀塩のアンミン錯体を還元し、生成した銀粒子を回収することで1次粒子の粒径が5〜10μmの六角板状結晶銀微粒子を製造する方法が知られている(例えば、特許文献4参照。)。また、2つの主面を有する略板状の粒子であり、該粒子の厚さが50nm以下、長径が5000nm以下であることを特徴とする銀微粒子が知られている(例えば、特許文献5参照。)。この特許文献5に示される方法では少なくとも高分子化合物、還元剤、及び銀塩を溶解してなる溶液を、25℃以上、60℃以下の温度にて攪拌することで銀微粒子を製造している。更に、厚みが50nm以下かつ長径が5000nm以下の板状金属微粒子を含有してなることを特徴とする金属薄膜形成用塗料が知られている(例えば、特許文献6参照。)。この特許文献6によると、この板状金属微粒子は例えば、硝酸銀や塩化白金酸を含む水溶液にクエン酸を加え、この水溶液中の金属イオンとクエン酸との比或いは金属イオン濃度等を調整することにより、金属微粒子の厚み及び長径を制御し、その後、加熱還元することにより製造することができるとある。
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0136223号明細書(claim 1、Fig. 7)
【特許文献2】特開平11−80647号公報(請求項7、段落[0004]、段落[0012])
【特許文献3】特開平11−319538号公報(請求項1、段落[0081])
【特許文献4】特開平11−106806号公報(請求項2、段落[0004])
【特許文献5】特開2005−105376号公報(請求項1、請求項5)
【特許文献6】特開2005−15647号公報(請求項1、段落[0019])
【非特許文献1】R.Jin et al, SCIENCE, Vol.294, 30 november 2001, p.1901-1903
【非特許文献2】R.Jin et al, Letter to Nature, Vol.425, 2 october 2003, p.487-490
【非特許文献3】A.Callegari et al, NANO LETTERS, Vol.3, No.11, 2003, p.1565-1568
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1や非特許文献1〜3に記載されている銀プリズムや銀プレートの製造においては、銀イオンを球状銀コロイドに還元する第一工程と、第一工程で還元した銀コロイドに光照射して銀プリズムや銀プレートへと形状変化させる第二工程といった、多段階の製造工程が必要とされていた。また形状変化させる際に特定波長光を長時間照射することから、大量生産には不向きであった。また、特定波長の光を照射するためには、バンドパスフィルターなど用意する必要があり、大量生産のために高価な設備投資が必要であった。更に、得られる銀微粒子表面には高分子量の分散剤が吸着しており、別な化学物質を銀表面に修飾しにくいという問題もあった。
【0006】
また、特許文献2や特許文献3に示される方法では、球状の貴金属コロイドを着色剤として使用しており、プレート状の微粒子を着色剤として用いたものではないため、着色のバリエーションが得られない。また、特許文献2に示される貴金属又は銅のコロイドは、高分子量顔料分散剤が保護コロイドとして機能するため、別の化学物質を銀表面に修飾しにくいという問題があった。特許文献4及び特許文献5に示される銀微粒子の製造方法では、分散剤として高分子化合物を使用しているため、得られる銀微粒子には高分子化合物が吸着しており、別の化学物質を銀表面に修飾し難いという問題があった。また、特許文献6に示される板状金属微粒子の製造方法では、金属微粒子の厚み及び長径を制御した後に加熱還元を行う必要があり、製造工程が煩雑となっていた。
【0007】
本発明の目的は、銀イオン、銅塩、低分子系分散剤及び還元剤を用いてプレート状銀粒子を簡便に製造する方法及び得られた該銀粒子を含有する銀粒子含有組成物並びにその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、水に銀塩、銅塩及び低分子系分散剤を加えて銀塩、銅塩及び低分子系分散剤の水溶液を調製し、水溶液に所定の割合で還元剤を添加して混合液を調製し、混合液を20〜40℃で静置して混合液中の銀イオンを還元反応させることにより、主として形状がプレート状の銀粒子を製造する方法であって、銀塩と低分子系分散剤と銅塩と還元剤の添加割合がモル比率で銀塩:低分子系分散剤:銅塩:還元剤=1:(0.1〜100):(0.01〜100):(0.001〜100)であることを特徴とする銀粒子の製造方法である。
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、低分子系分散剤がクエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びコハク酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機酸又はその塩である製造方法である。
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明であって、還元剤がジメチルアミンボラン、ヒドラジン及び水素化ホウ素塩からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物である製造方法である。
請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明であって、得られるプレート状銀粒子の粒子径が10〜1000nmである製造方法である。
【0009】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4いずれか1項に記載の製造方法により得られた銀粒子を含有することを特徴とする銀粒子含有組成物である。
請求項6に係る発明は、請求項5記載の銀粒子含有組成物を用いて形成されたコーティング組成物、塗膜又はフィルムである。
請求項7に係る発明は、請求項1ないし4いずれか1項に記載の製造方法により得られた銀粒子を含有する光学フィルタ、配線材料、電極材料、触媒、着色剤、化粧品、近赤外線吸収剤、偽造防止インク、電磁波シールド材、表面増強蛍光センサ、生体マーカ、記録素子、薬物送達システム(Drug Delivery System;以下DDSという。)用薬物保持体、バイオセンサ、DNAチップ、検査薬又はラマン増強用試薬である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の銀粒子の製造方法は、水に銀塩、銅塩及び低分子系分散剤を加えて銀塩、銅塩及び低分子系分散剤の水溶液を調製し、水溶液に所定の割合で還元剤を添加して混合液を調製し、混合液を20〜40℃で静置して混合液中の銀イオンを還元反応させることにより、主として形状がプレート状の銀粒子を製造する方法であって、銀塩と低分子系分散剤と銅塩と還元剤の添加割合がモル比率で銀塩:低分子系分散剤:銅塩:還元剤=1:(0.1〜100):(0.01〜100):(0.001〜100)であることを特徴とする。モル比率が上記範囲内となるように銀塩、銅塩、低分子系分散剤及び還元剤を添加して混合液を調製し、この混合液を20〜40℃で静置して混合液中の銀イオンを還元反応させることにより、所定の粒子径を有するプレート状銀粒子を簡便に製造することができる。特に、銅塩の添加量を調整することによってプレート状銀粒子の粒子径を制御することが可能であり、任意の波長にプラズモン吸収を有するプレート状銀粒子を製造することができる。また低分子系分散剤としてクエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びコハク酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機酸又はその塩を用いることで、プレート状銀粒子が安定に分散した水溶液を得ることができ、プレート状銀粒子を効率よく製造することができる。還元剤としてジメチルアミンボラン、ヒドラジン及び水素化ホウ素塩からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を用いることで、プレート状銀粒子を再現良く得ることができる。
【0011】
また、本発明の製造方法により得られた銀粒子は、銀粒子含有組成物として利用することができる。また、銀粒子とともに染料、顔料、蛍光体、金属酸化物、球状金属粒子及びロッド状金属粒子(金属ナノロッド)からなる群より選ばれた1種又は2種以上を含有することで銀粒子含有組成物として利用することができる。この銀粒子含有組成物は、コーティング組成物、塗膜又はフィルムなどの各種形態で利用することができる。
更に、本発明の製造方法により得られた銀粒子は光学フィルタ、配線材料、電極材料、触媒、着色剤、化粧品、近赤外線吸収剤、偽造防止インク、電磁波シールド材、表面増強蛍光センサ、生体マーカ、記録素子、薬物送達システム用薬物保持体、バイオセンサ、DNAチップ、検査薬又はラマン増強用試薬などに広く利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明で「プレート状銀粒子」とは、2つの主面を有する略板状の銀粒子である。略板状の銀粒子の主面は、略三角形状、略五角形状、略六角形状等の形状が選択される。この粒子形状において、角や辺が一部欠けた不定形状の粒子を一部含有していても構わない。銀粒子の2つの主面の幅は40nm以下であり、粒子の主面の最大長さとなる粒子径は10〜1000nmである。プレート状銀粒子のアスペクト比(プレート状銀粒子の主面の最大長さ/主面の幅)は3以上である。
【0013】
本発明の銀粒子の製造方法は、水に銀塩、銅塩及び低分子系分散剤を加えて銀塩、銅塩及び低分子系分散剤の水溶液を調製し、水溶液に所定の割合で還元剤を添加して混合液を調製し、混合液を20〜40℃で静置して混合液中の銀イオンを還元反応させることにより、主として形状がプレート状の銀粒子を製造する方法である。その特徴ある構成は、銀塩と低分子系分散剤と銅塩と還元剤の添加割合がモル比率で銀塩:低分子系分散剤:銅塩:還元剤=1:(0.1〜100):(0.01〜100):(0.001〜100)であるところにある。モル比率が上記範囲内となるように銀塩、銅塩、低分子系分散剤及び還元剤を添加して混合液を調製し、この混合液を20〜40℃で静置して混合液中の銀イオンを還元反応させることにより、所定の粒子径を有するプレート状銀粒子を簡便に製造することができる。特に、銅塩の添加量を調整することによってプレート状銀粒子の粒子径を制御することが可能であり、任意の波長にプラズモン吸収を有するプレート状銀粒子を製造することができる。
【0014】
使用する銀塩としては、硝酸銀、硫酸銀、酢酸銀、ハロゲン化銀等が挙げられる。このうち、硝酸銀が水への溶解性が高いため特に好適である。混合液を調製する際には、銀塩は水に溶解して水溶液として添加混合することが好適である。銀塩は水溶液中で銀イオン及び陰イオンとして存在する。製造する際の銀濃度は10〜100000μmol/Lの範囲が適当であり、100〜10000μmol/Lの濃度範囲が特に好ましい。銀濃度が下限値未満ではプレート状銀粒子の製造効率が低下してしまい、上限値を越えると銀粒子の均一な成長が妨げられ、プレート状銀粒子の形状再現性が低下する。
【0015】
使用する銅塩としては、硝酸銅、硫酸銅等が挙げられる。銅塩は水に混合して銅塩を溶解した水溶液とした後に、この銅塩を溶解した水溶液と銀塩を溶解した水溶液、後述する低分子系分散剤を溶解した水溶液とを混合して銀塩、銅塩及び低分子系分散剤の水溶液を調製するのが好ましい。混合液を調製する際には、銅塩は水に溶解して水溶液として添加混合することが好適である。銅塩は水溶液中で銅イオン及び陰イオンとして存在する。銅塩は、銀塩とのモル比率が銀塩:銅塩=1:(0.1〜100)の範囲内となるように添加する。例えば、銀1μmolに対して0.1〜100μmolのモル割合となるように添加する。製造する際の銅塩の濃度は0.1〜10000000μmol/Lの範囲が適当であり、1〜1000000μmol/Lの濃度範囲がより好ましい。銅塩の濃度が下限値未満では、銅イオンを添加したことによる銀粒子の粒子径調整効果が得られ難い。銅塩の濃度が上限値を越えると、銀イオンの還元反応が進行し難くなり、プレート状銀粒子の生成量が減少する。そのためプレート状銀粒子を製造するコストが上昇してしまう不具合を生じる。なお、銅イオンを添加したことによる効果のメカニズムの詳細は判明していないものの、還元剤と銅イオンが錯体を形成することで、銀イオンの急激な還元を抑制するため、球状粒子が成長するのではなくプレート状粒子が成長するものと推察される。また銅イオン自体は、還元途中工程では銅に還元される可能性があるが、銀イオンよりもイオン化傾向が大きいため、銀イオン還元後の最終的な形態はイオンの状態であると推察される。
【0016】
使用する低分子系分散剤としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びコハク酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機酸又はその塩が挙げられる。上記種類の低分子系分散剤を用いることによって、凝集することなく銀粒子が安定に分散した水溶液を得ることができ、効率よく銀粒子を製造することができる。低分子系分散剤は水に混合して低分子系分散剤を溶解した水溶液とした後に、この低分子系分散剤を溶解した水溶液と銀塩を溶解した水溶液とを混合して銀塩及び低分子系分散剤の水溶液を調製するのが好ましい。低分子系分散剤は、銀塩とのモル比率が銀塩:低分子系分散剤=1:(0.1〜100)の範囲内となるように添加する。例えば、銀1μmolに対して0.1〜100μmolのモル割合となるように添加する。製造する際の低分子系分散剤の濃度は1〜10000000μmol/Lの範囲が適当であり、10〜1000000μmol/Lの濃度範囲がより好ましい。低分子系分散剤の濃度が下限値未満では、銀イオンの還元反応が急激に進行してしまうためプレート状銀粒子が製造し難くなるだけでなく、銀粒子の分散安定性が悪くなって凝集し易くなる。低分子系分散剤の濃度が上限値を越えると、球状銀粒子の生成割合が増加し、プレート状銀粒子の生成量が減少する。そのためプレート状銀粒子を製造するコストが上昇してしまう不具合を生じる。
【0017】
使用する還元剤としては、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、水素化ホウ素塩からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物が挙げられる。還元剤を添加する際には、局所的に還元剤の濃度が偏らないよう、調製した銀塩及び低分子系分散剤の水溶液を攪拌しながら還元剤を添加することが好ましい。還元剤は、銀塩とのモル比率が銀塩:還元剤=1:(0.001〜100)の範囲内となるように添加する。還元剤は使用する種類によって、以下のような適切な割合で添加することが好ましい。
【0018】
ジメチルアミンボランは水に混合して任意の濃度の水溶液とした後に、このジメチルアミンボランを溶解した水溶液と銀塩、銅塩及び低分子系分散剤の水溶液とを混合して混合液を調製する。還元剤にジメチルアミンボランを使用した場合の添加量は、モル比で銀塩:還元剤=1:(0.1〜100)が好ましい。銀塩に対する還元剤の添加量が上記割合よりも少ないと、混合液中の銀イオンの還元反応が不十分となり、プレート状銀粒子の収率が悪くなる。また、還元剤の添加量が上記割合よりも多いと、還元反応が急激に進行してしまい、球状銀粒子が多く発生し、プレート状銀粒子の生成量が少なくなる。
ヒドラジンは原液若しくは水に混合して任意の濃度の水溶液とした後に、ヒドラジン原液若しくはヒドラジンを溶解した水溶液と銀塩、銅塩及び低分子系分散剤の水溶液とを混合して混合液を調製する。還元剤にヒドラジンを使用した場合の添加量は、モル比で銀塩:ヒドラジン=1:(0.1〜10)が好ましい。銀塩に対するヒドラジンの添加量が上記割合よりも少ないと、混合液中の銀イオンの還元が不十分となり、プレート状銀粒子の収率が悪くなる。また、ヒドラジンの添加量が上記割合よりも多いと、還元反応が急激に進行してしまい、球状銀粒子が多く発生し、プレート状銀粒子の生成量が少なくなる。
水素化ホウ素塩は水に混合して任意の濃度の水溶液とした後に、この水素化ホウ素塩を溶解した水溶液と銀塩、銅塩及び低分子系分散剤の水溶液とを混合して混合液を調製する。水素化ホウ素塩としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウムなどが使用可能である。還元剤に水素化ホウ素塩を使用した場合の添加量は、モル比で銀塩:水素化ホウ素塩=1:(0.01〜100)が好ましい。銀塩に対する水素化ホウ素塩の添加量が上記割合よりも少ないと、混合液中の銀イオンの還元が不十分となり、プレート状銀粒子の収率が悪くなる。また、水素化ホウ素塩の添加量が上記割合よりも多いと、還元反応が急激に進行してしまい、球状銀粒子が多く発生し、プレート状銀粒子の生成量が少なくなる。
【0019】
銀塩、銅塩及び低分子系分散剤の水溶液に還元剤を添加して混合液を調製した後は、この混合液を20〜40℃で1〜120時間静置して混合液中の銀イオンを還元反応させることにより、主として形状がプレート状の銀粒子が得られる。混合液の静置は遮光条件下が好ましい。
更に、本発明の製造方法では、上記銀塩、銅塩、低分子系分散剤及び還元剤の他に、必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。具体的にはレベリング剤、消泡剤、スリップ剤、防腐剤等が挙げられる。
【0020】
本発明の製造方法によれば、粒子径10〜1000nmのプレート状銀粒子を水溶液中に分散した状態で得ることができる。得られるプレート状銀粒子の粒子径は、使用する低分子系分散剤の種類や添加量、還元剤の種類や添加量によってもその大きさを調整することができるが、特に銅塩の添加量を調整することで粒子径の制御を容易に行える。例えば、低分子系分散剤や還元剤を少量に添加することにより、得られる銀粒子の粒子径は大きくなる傾向があり、低分子系分散剤や還元剤を多量に添加することにより、得られる銀粒子の粒子径は小さくなる傾向がある。また、銅塩を少量に添加することにより、得られる銀粒子の粒子径は小さくなる傾向があり、銅塩を多量に添加することにより、得られる銀粒子の粒子径は大きくなる傾向がある。なお、本発明の銀粒子の製造方法によれば、プレート状銀粒子とともに球状銀粒子や多面体の銀粒子のような様々な形状の銀粒子が副生成粒子として得られる。この副生成粒子の生成量は、使用する還元剤の種類や添加量を調整することにより増減が可能である。例えば、還元剤の添加量を少量にすることにより、副生成粒子の生成量は減少する傾向があり、還元剤の添加量を多量にすることにより、副生成粒子の生成量は増加する傾向がある。
【0021】
本発明の銀粒子含有組成物は、上記製造方法により得られた銀粒子を含有することを特徴とする。上記製造方法により得られた銀粒子は水溶液中に分散した状態で得られるが、この銀粒子を表面処理することで、水以外の非水系溶媒中にも安定して分散させることができる。非水系溶媒に対して親和性を有する側鎖を備えた非水系分散剤で銀粒子を表面処理することにより、非水系溶媒中に銀粒子が良好に分散した分散液を得ることができる。非水系分散剤としては銀粒子に対して高い吸着性を有する窒素原子や硫黄原子を含有するものが好ましい。窒素原子を含有する分散剤としては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン等が挙げられる。また硫黄原子を含有する分散剤としては、例えばブタンチオール、ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール等が挙げられる。このような銀粒子の非水系溶媒分散液は、銀粒子含有組成物の原料として用いることができる。例えば、銀粒子とともに樹脂等のバインダと分散媒とを含有した塗料組成物などを得ることができる。
【0022】
本発明の製造方法により得られる銀粒子の水分散液には、製造の際に使用された低分子系分散剤が含まれており、低分子系分散剤を含んだ状態で銀粒子を回収して導電性材料などの用途に使用すると、低分子系分散剤が絶縁作用を示すため、高い導電性が得られない傾向がある。そのため、銀粒子を製造した後は、水分散液中に含まれる低分子系分散剤を低減ないし除去することが好ましい。銀粒子100重量部に対して低分子系分散剤50重量部以下、好ましくは15重量部以下まで低減させたものが導電性材料として好適であり、低分子系分散剤の割合がそれ以上であると高い導電率が得られず、実用的ではない。製造した銀粒子の水分散液から低分子系分散剤を低減ないし除去する方法としては、凝集による沈降法や遠心分離法などが挙げられる。凝集による沈降法は、例えばpH調整剤や電解質を銀粒子水分散液に所定の割合で添加して銀粒子の分散安定性を減少させ、銀粒子同士を軽く凝集・沈降させて、上澄み液に残存する低分子系分散剤を除去する方法である。この方法では銀粒子水分散液から低分子系分散剤を完全に除去しないため、再分散することが可能である。遠心分離法は、銀粒子水分散液に遠心力をかけて銀粒子を沈降させ、上澄み液に残存する低分子系分散剤を除去する方法である。これらの方法を組合せることによって低分子系分散剤を効率的に低減ないし除去することができる。例えば、低分子系分散剤としてクエン酸三ナトリウムを使用して製造された銀粒子水分散液にpH調整剤として水酸化ナトリウムを添加することで、銀粒子の分散安定性を減少させて銀粒子同士を軽く凝集させ、続いてこの凝集物の沈降スピードを加速するために遠心分離を行い、銀粒子を短時間で沈降させることで、上澄み液に析出・残存するクエン酸三ナトリウムを除去すると同時に、銀粒子の濃縮が可能となる。
【0023】
本発明の製造方法により得られる銀粒子には、プレート状銀粒子だけでなく球状銀粒子等の副生成粒子が混在しているため、この銀粒子を含有する銀粒子含有組成物を用いて塗膜(配線)を形成したとき、形状が球状のみの銀粒子や、プレート状のみの銀粒子よりも粒子間の接触確率が高まり、導電用途などの場合は比抵抗値が低くなるといった利点がある。
【0024】
本発明の製造方法により得られた銀粒子は、低分子系分散剤を使用して製造しているため、銀粒子水分散液に用途に応じて選定した適切な分散剤を更に添加することで銀粒子への表面修飾が容易に可能となる。例えば、導電性用途の場合、加熱すると揮発するような分散剤を添加すると低温焼結が可能となり、かつ分散安定性が向上した導電性ペーストが得られる。このような分散剤としては、アミノ基やチオール基、カルボキシル基を有する低分子化合物を使用することが好適である。
【0025】
本発明の製造方法により得られた銀粒子は、適当な分散剤によって表面処理し、これに分散媒、バインダを加えた銀粒子含有組成物として利用することができる。バインダとしては、通常塗料用や成形用に利用されている可視光線から近赤外光領域の光に対して透過性がある各種樹脂が特に制限無く使用できる。例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール等の有機樹脂や、ラジカル重合性のオリゴマーやモノマー(必要に応じて硬化剤やラジカル重合剤開始剤を併用してもよい。)、アルコキシシランを樹脂骨格に用いたゾルゲル溶液などが代表的なものとして挙げられる。
【0026】
上記銀粒子含有組成物において、必要に応じて配合する溶媒としては、バインダが溶解若しくは安定に分散するようなものを適宜選択すればよい。具体的には、水の他に、メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキサノール、エチレングリコール、α−テルピネオール等のアルコール、エチレングリコール等のグリコール、デカン、テレピン油等の炭化水素、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類、あるいはこれらの混合物が代表的なものとして挙げられる。なお、溶媒は上記列挙したものには限定されず、バインダが溶解若しくは安定に分散するようなものであれば、従来より知られている溶媒を使用することが可能である。
【0027】
上記銀粒子含有組成物において、銀粒子の含有量はバインダ100重量部に対して0.1〜10000重量部が適当であり、好ましくは、導電性用途であればバインダ100重量部に対して550〜9900重量部がよい。銀粒子の添加量が下限値未満では、バインダによる絶縁効果の影響が大きくなり、高い導電特性が得られ難い。一方、銀粒子の添加量が上限値を越えると、銀粒子同士の凝集が起こり易くなるため保存安定性が低下する。
【0028】
本発明の銀粒子含有組成物は、目的に応じて、染料、顔料、蛍光体、金属酸化物、球状金属粒子及びロッド状金属粒子(金属ナノロッド)からなる群より選ばれた1種又は2種以上を更に添加してもよい。また必要に応じてレべリング剤、消泡剤その他の各種添加剤を添加してもよい。
【0029】
本発明の銀粒子含有組成物は、塗料組成物、塗膜、フィルム又は板材など多様な形態で用いることができ、この組成物によって形成された塗膜を有する基材を得ることができる。例えば、電磁波を遮蔽したい基材に直接に塗布若しくは印刷し、電磁波遮蔽フィルタを形成することができる。また、本発明の組成物をフィルム状や板状等に形成して、形成した組成物を電磁波遮蔽したい基材に積層したり、基材を包囲してもよい。また、本発明の組成物によって形成した上記塗膜やフィルムなどの形成物を基材に積層させて積層体を形成し、積層体を電磁波遮蔽フィルタとして電磁波を遮蔽したい基材に更に積層若しくは包囲して用いてもよい。上記各使用形態において、フィルタの厚さは、概ね0.01μm〜1mmが適当であり、コストや光透過性等を考慮すると0.1μm〜200μmが好ましい。本発明の銀粒子含有組成物によって形成した塗膜やフィルム、板材などをフィルタ層として有するものは、例えば、配線、電磁波遮蔽フィルタなどの導電率に優れた基材、フィルタとして用いることができる。
【0030】
本発明の製造方法により得られた銀粒子は、高い耐熱性、耐候性、耐薬品性、特定波長吸収能を有するので、光学フィルタ、着色剤、化粧品、近赤外線吸収剤、偽造防止インク、表面増強蛍光センサ用増感剤、生体マーカ、DDS用薬物保持体、バイオセンサ、DNAチップ、検査薬、ラマン増強用試薬などの材料として好適である。また、銀は高い導電性を示すことから配線材料、電極材料、電磁波シールド材として使用可能である。この他に、形状異方性に基づいて記録素子として使用可能である。更に、粒子で表面積が大きいので、触媒反応の場を提供する材料として好適である。なお、触媒やラマン増強用試薬など、銀粒子表面に目的物質が吸着するような用途では、製造で使用した低分子系分散剤を極力低減させてから使用することが好ましい。
【実施例】
【0031】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
先ず、銀塩を溶解した水溶液として10mM濃度の硝酸銀水溶液6000μl(60μmol)を、銅塩を溶解した水溶液として24mM濃度の硝酸銅水溶液2500μl(60μmol)、低分子系分散剤を溶解した水溶液として100mM濃度のクエン酸三ナトリウム水溶液1000μl(100μmol)を、還元剤を溶解した水溶液として40mM濃度のジメチルアミンボラン水溶液2500μl(100μmol)をそれぞれ用意した。次いで、低分子系分散剤を溶解した水溶液を水50mlに添加して希釈し、更に銀塩が溶解した水溶液と銅塩が溶解した水溶液を添加して銀塩、銅塩及び低分子系分散剤の水溶液を調製した。次に、銀塩、銅塩及び低分子系分散剤の水溶液に還元剤を溶解した水溶液を攪拌しながら添加して混合液を調製し、10分間攪拌し続けた後、この混合液を遮光条件下、30℃で静置した状態で48時間保管することにより銀粒子を製造した。得られた銀粒子には粒子径が10〜100nmのプレート状の銀粒子が含まれていた。またプレート状銀粒子以外には球状銀粒子や多面体の銀粒子のような様々な形状の銀粒子が副生成粒子として形成されていた。
【0032】
<実施例2>
還元剤を溶解した水溶液として40mM濃度の水素化ホウ素ナトリウム水溶液2500μl(100μmol)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で銀粒子を製造した。得られた銀粒子には粒子径が10〜50nmのプレート状の銀粒子が含まれていた。またプレート状銀粒子以外には球状銀粒子や多面体の銀粒子のような様々な形状の銀粒子が副生成粒子として形成されていた。
<実施例3>
還元剤を溶解した水溶液として10重量%濃度のヒドラジン水溶液10μl(20μmol)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で銀粒子を製造した。得られた銀粒子には粒子径が100〜400nmのプレート状の銀粒子が含まれていた。またプレート状銀粒子以外には球状銀粒子や多面体の銀粒子のような様々な形状の銀粒子が副生成粒子として形成されていた。
<実施例4>
還元剤を溶解した水溶液として10重量%濃度のヒドラジン水溶液50μl(100μmol)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で銀粒子を製造した。得られた銀粒子には粒子径が10〜100nmのプレート状の銀粒子が含まれていた。またプレート状銀粒子以外には球状銀粒子や多面体の銀粒子のような様々な形状の銀粒子が副生成粒子として形成されていた。
【0033】
<実施例5>
銅塩を溶解した水溶液として24mM濃度の硝酸銅水溶液5000μl(120μmol)を用いた以外は、実施例4と同様の条件で銀粒子を製造した。得られた銀粒子には粒子径が50〜200nmのプレート状の銀粒子が含まれていた。またプレート状銀粒子以外には球状銀粒子や多面体の銀粒子のような様々な形状の銀粒子が副生成粒子として形成されていた。
<実施例6>
銅塩を溶解した水溶液として24mM濃度の硝酸銅水溶液7500μl(180μmol)を用いた以外は、実施例4と同様の条件で銀粒子を製造した。得られた銀粒子には粒子径が100〜300nmのプレート状の銀粒子が含まれていた。またプレート状銀粒子以外には球状銀粒子や多面体の銀粒子のような様々な形状の銀粒子が副生成粒子として形成されていた。
【0034】
<実施例7>
低分子系分散剤を溶解した水溶液として100mM濃度のクエン酸1000μl(100μmol)を用いた以外は、実施例4と同様の条件で銀粒子を製造した。得られた銀粒子には粒子径が10〜100nmのプレート状の銀粒子が含まれていた。またプレート状銀粒子以外には球状銀粒子や多面体の銀粒子のような様々な形状の銀粒子が副生成粒子として形成されていた。
<実施例8>
低分子系分散剤を溶解した水溶液として100mM濃度のリンゴ酸1000μl(100μmol)を用いた以外は、実施例4と同様の条件で銀粒子を製造した。得られた銀粒子には粒子径が10〜100nmのプレート状の銀粒子が含まれていた。またプレート状銀粒子以外には球状銀粒子や多面体の銀粒子のような様々な形状の銀粒子が副生成粒子として形成されていた。
<実施例9>
低分子系分散剤を溶解した水溶液として100mM濃度の酒石酸1000μl(100μmol)を用いた以外は、実施例4と同様の条件で銀粒子を製造した。得られた銀粒子には粒子径が10〜100nmのプレート状の銀粒子が含まれていた。またプレート状銀粒子以外には球状銀粒子や多面体の銀粒子のような様々な形状の銀粒子が副生成粒子として形成されていた。
<実施例10>
低分子系分散剤を溶解した水溶液として100mM濃度のコハク酸1000μl(100μmol)を用いた以外は、実施例4と同様の条件で銀粒子を製造した。得られた銀粒子には粒子径が10〜100nmのプレート状の銀粒子が含まれていた。またプレート状銀粒子以外には球状銀粒子や多面体の銀粒子のような様々な形状の銀粒子が副生成粒子として形成されていた。
【0035】
<比較例1>
低分子系分散剤を溶解した水溶液として1000mM濃度のクエン酸三ナトリウム5000μl(5000μmol)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で銀粒子を製造した。得られた銀粒子には粒子径が10〜30nmの球状銀粒子が形成されており、プレート状銀粒子は存在していなかった。
<比較例2>
低分子系分散剤であるクエン酸三ナトリウムを添加しない以外は、実施例1と同様の条件で銀粒子を製造した。得られた銀粒子は低分子系分散剤が入っていないため凝集し、塊状沈降物が観察された。
【0036】
<比較試験1>
実施例1〜10及び比較例1,2における銀粒子の製造条件を次の表1に示す。また、透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影した実施例3で得られた銀粒子の写真を図1(a)及び図1(b)に、TEMにより撮影した実施例4で得られた銀粒子の写真を図2(a)、図2(b)にそれぞれ示す。なお、図1(b)、図2(b)は図1(a)、図2(a)の部分拡大図である。
【0037】
また、実施例1、3〜6及び比較例1で得られた銀粒子水分散液を所定の割合で水で希釈して希釈液を調製し、この希釈液に対して分光光度計(V−570;日本分光社製)を用いて300〜1300nmにおける波長吸収特性を測定した。実施例1、3及び4の波長吸収特性結果を図3に、実施例4〜6の波長吸収特性結果を図4に、比較例1の波長吸収特性結果を図5に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
図1(a)、図1(b)及び図2(a)、図2(b)より明らかなように、水分散液中にはプレート状の銀粒子と球状の銀粒子の双方が分散した状態で存在していた。
図5から明らかなように、比較例1の銀粒子では、400nm付近の波長でシャープな吸収が観察されていた。400nm付近での吸収は球状銀粒子による吸収を示している。一方図3や図4から明らかなように、実施例1、実施例3〜6の銀粒子では、400nm付近の波長だけでなく、400nm付近より長波長側にも吸収が観察されていた。400nm付近より長波長側でのプラズモン吸収はプレートの辺の長さに応じた吸収が得られていることを示している。これは実施例1、実施例3〜6で得られた銀粒子には、球状銀粒子とプレート状銀粒子の双方が含まれていることを裏付けるものである。また実施例1、実施例3〜6では、400nm付近より長波長側でのプラズモン吸収波長に違いがあることから、製造条件の違いによって異なる大きさのプレート状銀粒子が製造されることが判った。なお、実施例2、実施例7〜10の銀微粒子についても、実施例1、実施例3〜6の銀粒子と同様に、400nm付近の波長だけでなく、400nm付近より長波長側にも吸収が観察されていた。
【0040】
<実施例11>
先ず、実施例1で製造した銀粒子水分散液を12000rpmで遠心分離し、分散液中の上澄み液を除去して2重量%の銀粒子濃縮水分散液とした。次いで、6重量%ポリビニルアルコール水溶液1.0g中に濃縮した分散液を0.5g添加して塗料化した。次に、この塗料をバーコーターを用いてガラス板表面に塗布し、塗布したガラス板を60℃で30分間乾燥しガラス板表面に塗膜を形成した。得られた塗膜は緑色を呈し、分光光度計(V−570;日本分光社製)を用いて300〜1300nmにおける波長吸収特性を測定したところ、図6に示すように、約800nmの波長を吸収した。
<実施例12>
先ず、実施例3で製造した銀粒子水分散液を12000rpmで遠心分離し、分散液中の上澄み液を除去して2重量%の銀粒子濃縮水分散液とした。次いで、濃縮した分散液1.0g中にエチレングリコール0.5gを添加しペースト化した。次に、このペーストをバーコーターを用いてガラス板表面に塗布し、塗布したガラス板を250℃で30分間乾燥しガラス板表面に塗膜を形成した。得られた塗膜の比抵抗値を4端針法の抵抗率計(ロレスタGP;三菱化学社製)によって測定したところ、6×10-6Ω・cmと高い導電性が得られた。これは塗膜を形成する銀粒子がプレート状銀粒子だけでなく、球状銀粒子等の副生成粒子が混在して、各粒子間の接触確率が高まっているためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例3で得られた銀粒子の透過型電子顕微鏡写真図。
【図2】実施例4で得られた銀粒子の透過型電子顕微鏡写真図。
【図3】実施例1、3及び4における銀粒子の特定波長吸収特性図。
【図4】実施例4〜6における銀粒子の特定波長吸収特性図。
【図5】比較例1における銀粒子の特定波長吸収特性図。
【図6】実施例11で得られた塗膜の特定波長吸収特性図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に銀塩、銅塩及び低分子系分散剤を加えて銀塩、銅塩及び低分子系分散剤の水溶液を調製し、前記水溶液に所定の割合で還元剤を添加して混合液を調製し、前記混合液を20〜40℃で静置して前記混合液中の銀イオンを還元反応させることにより、主として形状がプレート状の銀粒子を製造する方法であって、
前記銀塩と低分子系分散剤と銅塩と還元剤の添加割合がモル比率で銀塩:低分子系分散剤:銅塩:還元剤=1:(0.1〜100):(0.01〜100):(0.001〜100)であることを特徴とする銀粒子の製造方法。
【請求項2】
低分子系分散剤がクエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びコハク酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機酸又はその塩である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
還元剤がジメチルアミンボラン、ヒドラジン及び水素化ホウ素塩からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
得られるプレート状銀粒子の粒子径が10〜1000nmである請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の製造方法により得られた銀粒子を含有することを特徴とする銀粒子含有組成物。
【請求項6】
請求項5記載の銀粒子含有組成物を用いて形成されたコーティング組成物、塗膜又はフィルム。
【請求項7】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の製造方法により得られた銀粒子を含有する光学フィルタ、配線材料、電極材料、触媒、着色剤、化粧品、近赤外線吸収剤、偽造防止インク、電磁波シールド材、表面増強蛍光センサ、生体マーカ、記録素子、薬物送達システム用薬物保持体、バイオセンサ、DNAチップ、検査薬又はラマン増強用試薬。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−138250(P2007−138250A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333534(P2005−333534)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】