説明

銅または銅合金の表面処理剤及びその利用

【課題】無鉛半田を使用して電子部品等をプリント配線板に接合する際に、プリント配線板の回路部等を構成する銅または銅合金の表面に耐熱性に優れた化成皮膜を形成させ、且つ半田との濡れ性が向上し、半田付け性を良好なものとする表面処理剤および表面処理方法を提供する。また、前記の表面処理剤を銅回路部を構成する銅または銅合金の表面に接触させたプリント配線板および、銅または銅合金の表面を前記の表面処理剤で接触させた後に、無鉛半田を使用して半田付けを行う半田付け方法を提供する。
【解決手段】下記化学式で示されるイミダゾール化合物を含有することを特徴とする銅または銅合金の無鉛半田付け用の表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品などをプリント配線板の銅または銅合金に半田付けする際に使用し得る表面処理剤及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時プリント配線板の実装方法として、実装密度を向上させた表面実装が広く採用されている。このような表面実装方法は、チップ部品をクリーム半田で接合する両面表面実装、チップ部品のクリーム半田による表面実装とディスクリート部品のスルホール実装を組み合わせた混載実装等に分けられる。いずれの実装方法においても、プリント配線板は複数回の半田付けが行われるので、その度に高温に曝されて厳しい熱履歴を受ける。
その結果、プリント配線板の回路部を構成する銅または銅合金(以下、単に銅と云うことがある)の表面は、加熱されることにより酸化皮膜の形成が促進されるので、該回路部表面の半田付け性を良好に保つことができない。
【0003】
このようなプリント配線板の銅回路部を空気酸化から保護するために、表面処理剤を使用して該回路部表面に化成皮膜を形成させる処理が広く行われているが、銅回路部が複数回の熱履歴を受けた後も化成皮膜が変成(劣化)することなく銅回路部を保護し、これによって半田付け性を良好なものに保つことが要求されている。
【0004】
従来から電子部品をプリント配線板などに接合する際には、錫−鉛合金の共晶半田が広く使用されていたが、近年その半田合金中に含まれる鉛による人体への有害性が懸念され、鉛を含まない半田を使用することが求められている。
そのために種々の無鉛半田が検討されているが、例えば錫をベース金属として、銀、亜鉛、ビスマス、インジウム、アンチモンや銅などの金属を添加した無鉛半田が提案されている。
【0005】
ところで、従来の錫−鉛系共晶半田は、接合母材に使用される金属、特に銅の表面に対する濡れ性に優れ銅に対して強固に接合するので、銅部材間の接合性については高い信頼性が得られている。
これに対して、無鉛半田は従来の錫−鉛半田に比べると、銅の表面に対する濡れ性が劣っているので、半田付け性が悪く、ボイド発生などの接合不良が生じ、接合強度も低いものであった。
そのため無鉛半田を使用するに当たっては、より半田付け性の良好な半田合金および無鉛半田に適したフラックスの選定が求められているが、銅または銅合金表面の酸化防止のために使用される表面処理剤に対しても、無鉛半田の濡れ性を改善し半田付け性を良好なものとする機能が求められている。
また、無鉛半田の多くは融点が高く、半田付け温度が従来の錫−鉛系共晶半田に比べて20〜50℃程高くなるため、当該表面処理剤に対しては、優れた耐熱性を有する化成皮膜を形成させることも望まれている。
【0006】
このような表面処理剤の有効成分として、種々のイミダゾール化合物が提案されている。例えば、特許文献1には、2−ウンデシルイミダゾールの如き2−アルキルイミダゾール化合物が、特許文献2には、2−フェニルイミダゾールや2−フェニル−4−メチルイミダゾールの如き2−アリールイミダゾール化合物が、特許文献3には、2−ノニルベンズイミダゾールの如き2−アルキルベンズイミダゾール化合物が、特許文献4には、2−(4−クロロフェニルメチル)ベンズイミダゾールの如き2−アラルキルベンズイミダゾール化合物が、特許文献5には、2−(4−クロロフェニルメチル)イミダゾールや2−(2,4−ジクロロフェニルメチル)4,5−ジフェニルイミダゾールの如き2−アラルキルイミダゾール化合物が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらのイミダゾール化合物を含有する表面処理剤を使用した場合には、銅表面に形成される化成皮膜の耐熱性が未だ満足すべきものではなかった。また、半田付けを行う際にも、半田の濡れ性が不十分であり、良好な半田付け性を得ることができない。特に共晶半田に代えて、無鉛半田を使用して半田付けを行う場合には、前記の表面処理剤は実用に供し難いものであった。
【0008】
【特許文献1】特公昭46−17046号公報
【特許文献2】特開平4−206681号公報
【特許文献3】特開平5−25407号公報
【特許文献4】特開平5−186888号公報
【特許文献5】特開平7−243054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであって、無鉛半田を使用して電子部品等をプリント配線板に接合する際に、プリント配線板の回路部等を構成する銅または銅合金の表面に耐熱性に優れた化成皮膜を形成させ、且つ半田との濡れ性が向上し、半田付け性を良好なものとする表面処理剤および表面処理方法を提供することを目的とする。
また、前記の表面処理剤を回路部を構成する銅または銅合金の表面に接触させたプリント配線板および、銅または銅合金の表面を前記の表面処理剤で接触させた後に、無鉛半田を使用して半田付けを行う半田付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、化1の一般式(I)で示されるイミダゾール化合物を含有する表面処理剤によって、銅回路部を有するプリント配線板を処理することにより、銅回路部の表面に耐熱性に優れた、即ち無鉛半田の半田付け温度に耐え得る化成皮膜を形成させることができ、且つ無鉛半田を使用して半田付けを行うに際して、銅または銅合金の表面に対する半田の濡れ性を向上させることにより、良好な半田付け性が得られることを認め本発明を完成するに至ったものである。
即ち、第1の発明は、一般式(I)で示されるイミダゾール化合物を含有することを特徴とする銅または銅合金の表面処理剤である。第2の発明は、銅または銅合金の表面に、第1の発明の表面処理剤を接触させることを特徴とする銅または銅合金の表面処理方法である。第3の発明は、銅回路部の銅または銅合金の表面に、第1の発明の表面処理剤を接触させたことを特徴とするプリント配線板である。第4の発明は、銅または銅合金の表面を、第1の発明の表面処理剤で接触させた後に無鉛半田を使用して半田付けを行うことを特徴とする半田付け方法である。
【0011】
【化1】

【発明の効果】
【0012】
本発明の表面処理剤は、プリント配線板の回路部等を構成する銅または銅合金の表面に、耐熱性に優れた化成皮膜を形成させることができると共に、該表面に対する無鉛半田の濡れ性を飛躍的に向上させ、半田付け性を良好なものとすることができる。
また、本発明の半田付け方法は、有害金属である鉛を含まない半田の使用を可能とするので、環境保護の観点において有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の実施において使用するイミダゾール化合物は、化2の一般式(I)で示されるものであり、イミダゾール環の2位に塩素原子で置換されてもよいベンジル基が結合し、イミダゾール環の4位にナフチル基が結合したイミダゾール化合物、またはイミダゾール環の2位にナフチルメチル基が結合し、イミダゾール環の4位に塩素原子で置換されてもよいフェニル基が結合したイミダゾール化合物である。なお、前記のベンジル基またはフェニル基が塩素原子で置換されてもよい場合の塩素原子の数は、1つまたは2つであることが好ましい。
【0014】
【化2】

【0015】
前記一般式(I)におけるRは、水素原子またはアルキル基であるが、該アルキル基とは、炭素数が1〜8であって直鎖状または分岐状の飽和脂肪族基である。このようなアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。
【0016】
本願発明の実施において使用するイミダゾール化合物は、例えば、化3の反応スキームで示される合成法を採用することにより合成することができる。
【0017】
【化3】

(但し、式中のAr、ArおよびRは前記と同様であり、Xは塩素原子、臭素原子または沃素原子を表す。)
【0018】
本発明の実施において使用する一般式(I)で示されるイミダゾール化合物としては、Rが水素原子の場合を例示すると、
2−(1−ナフチルメチル)−4−フェニルイミダゾール、
4−(2−クロロフェニル)−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(3−クロロフェニル)−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(4−クロロフェニル)−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,3−ジクロロフェニル)−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,4−ジクロロフェニル)−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,5−ジクロロフェニル)−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,6−ジクロロフェニル)−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(3,4−ジクロロフェニル)−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(3,5−ジクロロフェニル)−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
2−(2−ナフチルメチル)−4−フェニルイミダゾール、
4−(2−クロロフェニル)−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(3−クロロフェニル)−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(4−クロロフェニル)−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,3−ジクロロフェニル)−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,4−ジクロロフェニル)−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,5−ジクロロフェニル)−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,6−ジクロロフェニル)−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(3,4−ジクロロフェニル)−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(3,5−ジクロロフェニル)−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
2−ベンジル−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(2−クロロベンジル)−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(3−クロロベンジル)−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(4−クロロベンジル)−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,3−ジクロロベンジル)−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,5−ジクロロベンジル)−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,6−ジクロロベンジル)−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(3,4−ジクロロベンジル)−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(3,5−ジクロロベンジル)−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−ベンジル−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(2−クロロベンジル)−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(3−クロロベンジル)−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(4−クロロベンジル)−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,3−ジクロロベンジル)−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,4−ジクロロベンジル)−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,5−ジクロロベンジル)−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,6−ジクロロベンジル)−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(3,4−ジクロロベンジル)−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(3,5−ジクロロベンジル)−4−(2−ナフチル)イミダゾール
が挙げられる。
【0019】
同様に、Rがメチル基の場合を例示すると、
5−メチル−2−(1−ナフチルメチル)−4−フェニルイミダゾール、
4−(2−クロロフェニル)−5−メチル−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(3−クロロフェニル)−5−メチル−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(4−クロロフェニル)−5−メチル−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,3−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,4−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,5−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,6−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(3,4−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(3,5−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール、
5−メチル−2−(2−ナフチルメチル)−4−フェニルイミダゾール、
4−(2−クロロフェニル)−5−メチル−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(3−クロロフェニル)−5−メチル−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(4−クロロフェニル)−5−メチル−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,3−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,4−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,5−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(2,6−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(3,4−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
4−(3,5−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(2−ナフチルメチル)イミダゾール、
2−ベンジル−5−メチル−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(2−クロロベンジル)−5−メチル−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(3−クロロベンジル)−5−メチル−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(4−クロロベンジル)−5−メチル−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,3−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,4−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,5−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,6−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(3,4−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−(3,5−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(1−ナフチル)イミダゾール、
2−ベンジル−5−メチル−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(2−クロロベンジル)−5−メチル−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(3−クロロベンジル)−5−メチル−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(4−クロロベンジル)−5−メチル−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,3−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,4−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,5−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(2,6−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(3,4−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(2−ナフチル)イミダゾール、
2−(3,5−ジクロロベンジル)−5−メチル−4−(2−ナフチル)イミダゾール
が挙げられる。
【0020】
これらのイミダゾール化合物は、水に溶解させて調製した表面処理剤の有効成分として使用される。これらのイミダゾール化合物は表面処理剤中に、0.01〜10重量%の割合、好ましくは0.1〜5重量%の割合で含有される。イミダゾール化合物の含有割合が0.01重量%より少ないと、銅表面に形成される化成皮膜の膜厚が薄くなり、銅表面の酸化を十分に防止することができない。また、10重量%より多い場合には表面処理剤中にイミダゾール化合物が溶け残ったり、あるいは完溶したとしても再析出する虞があり好ましくない。
なお、本願発明の実施においては、一般式(I)で示されるイミダゾール化合物のうち、適宜の1種類のみを使用する他、種類の異なるイミダゾール化合物を組み合わせて使用することも可能である。
【0021】
本発明の実施において、イミダゾール化合物を水に溶解(水溶液化)するに当たっては、一般的には、酸として有機酸または無機酸を使用するが、少量の有機溶媒を併用しても良い。この際に使用される代表的な有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、グリオキシル酸、ピルビン酸、アセト酢酸、レブリン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、グリコール酸、グリセリン酸、乳酸、アクリル酸、メトキシ酢酸、エトキシ酢酸、プロポキシ酢酸、ブトキシ酢酸、2−(2−メトキシエトキシ)酢酸、2−[2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ]酢酸、2−{2−[2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}酢酸、3−メトキシプロピオン酸、3−エトキシプロピオン酸、3−プロポキシプロピオン酸、3−ブトキシプロピオン酸、安息香酸、パラニトロ安息香酸、パラトルエンスルホン酸、サリチル酸、ピクリン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、酒石酸、アジピン酸等が挙げられ、無機酸としては、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。これらの酸は、表面処理剤中に0.1〜50重量%の割合、好ましくは1〜30重量%の割合で含有される。
【0022】
また、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコールあるいはアセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、エチレングリコール等の水と自由に混和するものが適している。
【0023】
本発明の表面処理剤には、銅または銅合金の表面における化成皮膜の形成速度を速めるために銅化合物を添加することができ、また形成された化成皮膜の耐熱性を更に向上させるために亜鉛化合物を添加しても良い。
前記銅化合物の代表的なものとしては、酢酸銅、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化銅、水酸化銅、リン酸銅、硫酸銅、硝酸銅等であり、また前記亜鉛化合物の代表的なものとしては、酸化亜鉛、蟻酸亜鉛、酢酸亜鉛、蓚酸亜鉛、乳酸亜鉛、クエン酸亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、リン酸亜鉛等が挙げられ、何れも表面処理剤中に0.01〜10重量%の割合、好ましくは0.02〜5重量%の割合で含有させれば良い。
【0024】
これらの銅化合物や亜鉛化合物を用いる場合には、有機酸または無機酸の他に、アンモニアあるいはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類等の緩衝作用を有する物質を添加して溶液のpHを安定にすることが好ましい。
【0025】
本発明の表面処理剤には、化成皮膜の形成速度および該皮膜の耐熱性を更に向上させるために、ハロゲン化合物を表面処理剤中に0.001〜1重量%、好ましくは0.01〜0.1重量%の含有割合となるように添加することができる。ハロゲン化合物としては、例えばフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、塩化ナトリム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム、ヨウ化ナトリム、ヨウ化カリウム、ヨウ化アンモニウム等が挙げられる。
【0026】
本発明の表面処理剤を用いて銅または銅合金の表面を処理する際の条件としては、表面処理剤の液温を10〜70℃、接触時間を1秒〜10分とすることが好ましい。接触方法としては、浸漬、噴霧、塗布等の方法が挙げられる。
【0027】
また本発明の表面処理を行った後、化成皮膜上に熱可塑性樹脂により二重構造を形成し、更に耐熱性を高めることも可能である。
即ち、銅または銅合金の表面上に化成皮膜を生成させた後、ロジン、ロジンエステル等のロジン誘導体、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂等のテルペン樹脂誘導体、芳香族炭化水素樹脂、脂肪族炭化水素樹脂等の炭化水素樹脂やこれらの混合物からなる耐熱性に優れた熱可塑性樹脂を、トルエン、酢酸エチル、イソプロピルアルコール等の溶媒に溶解し、ロールコーター等により化成皮膜上に膜厚1〜30μmの厚みになるように均一に塗布して、化成皮膜と熱可塑性樹脂の二重構造を形成させれば良い。
【0028】
本発明の実施に適する無鉛半田としては、Sn−Ag−Cu系、Sn−Ag−Bi系、Sn−Bi系、Sn−Ag−Bi−In系、Sn−Zn系、Sn−Cu系等の無鉛半田が挙げられる。
【0029】
また本発明の半田付け方法は、加熱溶融した液体状の半田が入っている半田槽の上を、プリント配線板を流し、電子部品とプリント配線板の接合部に半田付けを行なうフロー法または、予めプリント配線板にペースト状のクリーム半田を回路パターンに合わせて印刷し、そこに電子部品を実装し、プリント配線板を加熱して半田を溶融させ、半田付けを行うリフロー法等に適応し得るものである。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例および比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例および比較例で使用したイミダゾール化合物ならびに評価試験方法は次のとおりである。
【0031】
[イミダゾール化合物]
実施例に使用したイミダゾール化合物は以下のとおりであり、合成例を参考例1〜6に示す。
・2−(1−ナフチルメチル)−4−フェニルイミダゾール(「IMZ−A」と略記する)
・4−(3,4−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾール(「IMZ−B」と略記する)
・2−(2−ナフチルメチル)−4−フェニルイミダゾール(「IMZ−C」と略記する)
・2−(4−クロロベンジル)−4−(1−ナフチル)イミダゾール(「IMZ−D」と略記する)
・2−ベンジル−4−(2−ナフチル)イミダゾール(「IMZ−E」と略記する)
・2−ベンジル−5−メチル−4−(2−ナフチル)イミダゾール(「IMZ−F」と略記する)
【0032】
〔参考例1〕
<IMZ−Aの合成>
1−ナフチルアセトアミジン塩酸塩33.7g(0.15mol)、炭酸カリウム53g(0.38mol)及びN,N−ジメチルホルムアミド180mlからなる懸濁液を50℃にて30分撹拌後、同温度にて、2−ブロモアセトフェノン30.0g(0.15mol)を少しずつ加え、さらに同温度で3時間撹拌した。次いで、反応懸濁液を水600mlに注ぎ加え、トルエンで抽出(100ml×2回)し、トルエン層を水で洗浄した後、減圧下に濃縮し、析出した結晶をろ取、少量のトルエンで洗浄後乾燥して暗桃色粉末を得た。該結晶をアセトニトリルより再結晶して、微桃色粉末の2−(1−ナフチルメチル)−4−フェニルイミダゾール19.3g(0.068mol、収率45%)を得た。
【0033】
〔参考例2〕
<IMZ−Bの合成>
参考例1の2−ブロモアセトフェノンを2−ブロモ−3′,4′−ジクロロプロピオフェノンに代えて、参考例1の方法に準拠して4−(3,4−ジクロロフェニル)−5−メチル−2−(1−ナフチルメチル)イミダゾールを合成した。
【0034】
〔参考例3〕
<IMZ−Cの合成>
参考例1の1−ナフチルアセトアミジン塩酸塩を2−ナフチルアセトアミジン塩酸塩に代えて、参考例1の方法に準拠して2−(2−ナフチルメチル)−4−フェニルイミダゾールを合成した。
【0035】
〔参考例4〕
<IMZ−Dの合成>
参考例1の1−ナフチルアセトアミジン塩酸塩を(4−クロロフェニル)アセトアミジン塩酸塩に、2−ブロモアセトフェノンを2−ブロモ−1′−アセトナフトンに代えて、参考例1の方法に準拠して2−(4−クロロベンジル)−4−(1−ナフチル)イミダゾールを合成した。
【0036】
〔参考例5〕
<IMZ−Eの合成>
参考例1の1−ナフチルアセトアミジン塩酸塩をフェニルアセトアミジン塩酸塩に、2−ブロモアセトフェノンを2−ブロモ−2′−アセトナフトンに代えて、参考例1の方法に準拠して2−ベンジル−4−(2−ナフチル)イミダゾールを合成した。
【0037】
〔参考例6〕
<IMZ−Fの合成>
参考例1の1−ナフチルアセトアミジン塩酸塩をフェニルアセトアミジン塩酸塩に、2−ブロモアセトフェノンを2−ブロモ−2′−プロピオナフトンに代えて、参考例1の方法に準拠して2−ベンジル−5−メチル−4−(2−ナフチル)イミダゾールを合成した。
【0038】
比較例に使用したイミダゾール化合物は、以下のとおりである。
・2−ウンデシルイミダゾール(「IMZ−G」と略記する。四国化成工業社製、商品名「キュアゾール C11Z」)
・2−フェニルイミダゾール(「IMZ−H」と略記する。四国化成工業社製、商品名「キュアゾール 2PZ」)
・2−フェニル−4−メチルイミダゾール(「IMZ−I」と略記する。四国化成工業社製、商品名「キュアゾール 2P4MZ」
・2−ノニルベンズイミダゾール(「IMZ−J」と略記する。SIGMA-ALDRICH社製試薬)
・2−(4−クロロベンジル)ベンズイミダゾール(「IMZ−K」と略記する。和光純薬工業社製試薬)
【0039】
実施例に使用したイミダゾール化合物(IMZ−A〜IMZ−F)と、比較例に使用したイミダゾール化合物(IMZ−G〜IMZ−K)の化学式を、各々化4および化5に示す。
【0040】
【化4】

【0041】
【化5】

【0042】
実施例および比較例で採用した評価試験方法は、以下のとおりである。
【0043】
[半田上がり性の評価試験]
試験片として、内径0.80mmの銅スルホールを300穴有する120mm(縦)×150mm(横)×1.6mm(厚み)のガラスエポキシ樹脂製のプリント配線板を使用した。この試験片を脱脂、ソフトエッチング及び水洗を行った後、所定の液温に保持した表面処理剤に所定時間浸漬し、次いで水洗、乾燥して銅表面上に厚さ約0.10〜0.50μmの化成皮膜を形成させた。
この表面処理を行った試験片について、赤外線リフロー装置(製品名:MULTI−PRO−306、ヴィトロニクス社製)を用いて、ピーク温度が240℃であるリフロー加熱を2回行い、次いで、フロー半田付け装置(コンベア速度:1.0m/分)を用いて半田付けを行った。
なお、使用した半田は、63錫-37鉛(重量%)の組成を有する錫−鉛系共晶半田(商品名:H63A、千住金属工業製)であり、半田付けに際して使用したフラックスはJS−64MSS(弘輝製)である。また、半田温度は240℃とした。
また、前記の表面処理を行った試験片について、錫−鉛系共晶半田の場合と同様にして無鉛半田を使用して半田付けを行った。なお、使用した半田は、96.5錫-3.0銀-0.5銅(重量%)の組成を有する無鉛半田(商品名:H705「エコソルダー」、千住金属工業製)であり、半田付けに際して使用したフラックスはJS−E−09(弘輝製)である。また、リフロー加熱のピーク温度は245℃であり、半田温度も245℃とした。
半田付けを行った試験片について、銅スルーホールの上部ランド部分まで半田が上がった(半田付けされた)スルーホール数を計測し、全スルーホール数(300穴)に対する割合(%)を算出した。
銅の表面に対して半田の濡れ性が大きい程、溶融した半田が銅スルーホール内を浸透し該スルーホールの上部ランド部分まで上がり易くなる。即ち、全スルーホール数に対する上部ランド部分まで半田が上がったスルーホール数の割合が大きい程、銅に対する半田濡れ性が優れ、半田付け性が良好なものと判定される。
【0044】
[半田広がり性の評価試験]
試験片として、50mm(縦)×50mm(横)×1.2mm(厚み)のガラスエポキシ樹脂製のプリント配線板(回路パターンとして、銅箔からなる導体幅0.80mm、長さ20mmの回路部を、1.0mmの間隔にて幅方向に10本形成させたもの)を使用した。この試験片を脱脂、ソフトエッチング及び水洗を行った後、所定の液温に保持した表面処理剤に所定時間浸漬し、次いで水洗、乾燥して銅表面上に厚さ約0.10〜0.50μmの化成皮膜を形成させた。
この表面処理を行った試験片について、赤外線リフロー装置(製品名:MULTI−PRO−306、ヴィトロニクス社製)を用いて、ピーク温度が240℃であるリフロー加熱を1回行った。その後、開口径1.2mm、厚み150μmのメタルマスクを使用して銅回路部の中央に錫−鉛系クリーム半田を印刷し、前期条件でリフロー加熱を行い、半田付けを行った。なお、使用した錫−鉛系クリーム半田は63錫-37鉛(重量%)からなる組成の共晶半田(商品名:OZ−63−330F−40−10、千住金属工業製)である。
また、前記の表面処理を行った試験片について、錫−鉛系クリーム半田の場合と同様にして無鉛系クリーム半田を使用して半田付けを行った。なお、使用した無鉛系クリーム半田は、96.5錫-3.0銀-0.5銅(重量%)からなる組成の無鉛半田(商品名:M705−221BM5−42−11、千住金属工業製)である。また、クリーム半田の印刷前および印刷後に行うリフロー加熱は、ピーク温度が245℃になるように設定した。
得られた試験片について、銅回路部上に濡れ広がった半田の長さ(mm)を測定した。
この長さが大きい程、半田濡れ性が優れ、半田付け性が良好なものと判定される。
【0045】
〔実施例1〕
イミダゾール化合物として2−(1−ナフチルメチル)−4−フェニルイミダゾール、酸として酢酸、金属塩として酢酸銅およびハロゲン化合物としてヨウ化アンモニウムを、表1記載の組成になるようにイオン交換水に溶解させた後、アンモニア水でpH2.8に調整して表面処理剤を調製した。
次いで、プリント配線板の試験片を40℃に温調した表面処理剤に20秒間浸漬したのち、水洗、乾燥し、半田上がり性および半田広がり性を測定した。これらの試験結果は表1に示したとおりであった。
【0046】
〔実施例2〜6〕
実施例1と同様にして、表1記載のイミダゾール化合物、酸、金属塩およびハロゲン化合物を使用して、表1記載の組成を有する表面処理剤を調製し、表1に記載の処理条件にて表面処理を行った。得られた試験片について、半田上がり性および半田広がり性を測定した。これらの試験結果は表1に示したとおりであった。
【0047】
〔比較例1〜5〕
実施例1と同様にして、表1記載のイミダゾール化合物、酸、金属塩およびハロゲン化合物を使用して、表1記載の組成を有する表面処理剤を調製し、表1に記載の処理条件にて表面処理を行った。得られた試験片について、半田上がり性および半田広がり性を測定した。これらの試験結果は表1に示したとおりであった。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示した試験結果によれば、本願発明の表面処理剤をプリント配線板の銅表面に接触させて、銅表面に化成皮膜を形成させることにより、銅表面に対する共晶半田および無鉛半田の濡れ性が向上したものと認められ、銅表面に対する共晶半田および無鉛半田の半田付け性(半田上がり性、半田広がり性)が飛躍的に向上した。本願発明の表面処理剤は、共晶半田を用いた半田付け時に有用であることは云うまでもないが、銅や銅合金に対する半田の濡れ性の点において、共晶半田に比べて濡れ性が劣る無鉛半田を用いる半田付け時においても、十分に実用可能なものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1の一般式(I)で示されるイミダゾール化合物を含有することを特徴とする銅または銅合金の表面処理剤。
【化1】

【請求項2】
銅または銅合金の表面に、請求項1記載の表面処理剤を接触させることを特徴とする銅または銅合金の表面処理方法。
【請求項3】
銅回路部の銅または銅合金の表面に、請求項1記載の表面処理剤を接触させたことを特徴とするプリント配線板。
【請求項4】
銅または銅合金の表面を、請求項1記載の表面処理剤で接触させた後に無鉛半田を使用して半田付けを行うことを特徴とする半田付け方法。


【公開番号】特開2010−47824(P2010−47824A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215733(P2008−215733)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000180302)四国化成工業株式会社 (167)
【Fターム(参考)】