鋳塊の製造方法
【課題】鋳造欠陥の発生を抑制でき、健全な大型の鋳塊を製造することができる鋳塊の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】CCIM法で、溶解原料3を供給しつつ、るつぼ底1を下方に引き抜いて鋳塊6を製造する方法において、水冷銅製るつぼ2を構成する銅製セグメント7間に形成されているスリット8の下端位置を、高周波コイル4の下端位置より下方に配置すると共に、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置が、高周波コイル4の下端位置と高周波コイル4の高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして鋳塊6を製造する。
【解決手段】CCIM法で、溶解原料3を供給しつつ、るつぼ底1を下方に引き抜いて鋳塊6を製造する方法において、水冷銅製るつぼ2を構成する銅製セグメント7間に形成されているスリット8の下端位置を、高周波コイル4の下端位置より下方に配置すると共に、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置が、高周波コイル4の下端位置と高周波コイル4の高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして鋳塊6を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドクルーシブル誘導溶解(CCIM)法で、Ti、Ti合金、TiAl基合金、Zr、Zr合金、Fe基合金、Ni基合金、Co基合金などで成る大型の鋳塊を製造する鋳塊の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Ti合金、ジルカロイなどの活性金属を含有する合金や、超高清浄性が要求されるFe基合金、Ni基合金、Co基合金等で成る鋳塊は、現在、工業的には、真空アーク溶解法、プラズマアーク溶解法、電子ビーム溶解法などにより製造されている。これらの溶解法は、いずれも水冷された銅材をるつぼ溶解容器として用いる溶解法である。これらの溶解法は、合金原料の全量を一括して溶解せずに、少量ずつ供給して溶解を行い、形成される溶融金属浴を下側から順次凝固させて鋳塊を製造することを特徴としている。現在、1〜10ton程度の鋳塊がこれらの溶解法を用いて製造されている。但し、これらの溶解方法は、溶湯の攪拌力が小さく、合金成分の不均一が起こりやすいという課題も併せ持っている。
【0003】
これに対し、コールドクルーシブル誘導溶解(CCIM)法は、合金原料を一括で全量溶解して合金化した後に、凝固させて鋳塊を製造する方法である。この溶解方法であれば、合金成分の不均一を発生することなく均質な鋳塊を製造することができると考えられるが、CCIM法によって大型の鋳塊を製造する技術自体は、現状ではまだ開発途上の段階である。
【0004】
CCIM法により比較的大型で長尺の鋳塊を製造する方法として、非特許文献1に記載の製造方法が知られている。この製造方法は、水冷銅るつぼを用いて、その外周部に設置した高周波コイルに高周波電流を通電して、水冷銅るつぼ内に供給した合金原料を誘導溶解し、水冷銅るつぼの底部を下方に引き抜き、大型で長尺の鋳塊を製造する方法である。この製造方法は、水冷銅るつぼと溶湯プールの間にフッ化カルシウム(CaF2)などのフッ化物系スラグを、精錬効果、電気的絶縁効果、或いは引き抜き時の潤滑効果などを狙って添加することを特徴としている。この方法により、溶解原料としてスポンジTiを用いて、直径5インチの長尺鋳塊が製造できることが示されているが、Ti溶湯に溶融フッ化カルシウム(CaF2)が接触することとなるため、鋳塊中にフッ素(F)が数十ppmほど混入する結果となっており、高清浄な鋳塊を製造するには問題がある。
【0005】
また、CCIM法によって大型で長尺の鋳塊を製造する方法として、フッ化カルシウム(CaF2)などの精錬材を添加せずに、コイルからの電磁気力により溶融金属浴を保持して、水冷銅るつぼの底部を引き抜くことにより、長尺鋳塊を製造する方法も考えることはできる。しかしながら、たとえこの製造方法で長尺鋳塊を製造したとしても、不適切な操業条件を用いると、鋳塊内部に溶け残り原料が残留したり、鋳塊表面に大きな表面欠陥が発生したりして、歩留まりが大幅に悪化するなどの問題が発生し、健全な鋳塊を製造することは困難である。
【0006】
発明者らは、CCIM法で塊状の合金原料を供給しつつ、水冷銅製るつぼのるつぼ底を下方に引き抜くことで、溶解鋳造の操業条件を最適化することにより、合金原料などの溶け残りのない健全な大型の鋳塊を製造する方法について特許出願している(特許文献1,2)。しかしながら、これらの製造方法においても、少しでも不適切な操業条件を用いると、鋳塊の表面に著しく大きな凹凸が形成されてしまうという課題が残されていた。これに対して、鋳塊引き抜き操業時の溶湯プール量、投入電力などの適正化を図ることで、鋳塊表面欠陥を改善する方法を開発した結果、相当な改善を図ることができたが、鋳塊表面欠陥を皆無とすることは、まだできていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−122920号公報
【特許文献2】特開2006−281291号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】P.G.Clites,「Inductslag Melting Process」,US,Bureau of Mines Bulletin 673,1982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたもので、鋳塊に表面欠陥等の鋳造欠陥が発生することを、更に確実に抑制することができ、健全な大型の鋳塊を安定して製造することができる鋳塊の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の鋳塊の製造方法は、複数本の銅製セグメントが円筒状に組み合わせて形成されていると共に、その底部には上下方向に移動自在のるつぼ底が配置されて構成された水冷銅製るつぼの内部に、溶解原料を供給し、その水冷銅製るつぼの周囲を取り巻く高周波コイルによる誘導加熱で前記溶解原料を溶解して溶湯プールとし、前記るつぼ底を下方に移動させることにより、そのるつぼ底上の前記溶湯プールを前記高周波コイルによる誘導加熱領域外に引き抜いて凝固させることで鋳塊を製造する鋳塊の製造方法であって、前記銅製セグメント間に形成されているスリットの下端位置を、前記高周波コイルの下端位置より下方に配置すると共に、前記溶湯プールと前記鋳塊との凝固界面が前記水冷銅製るつぼの内面に接する位置が、前記高周波コイルの下端位置と前記高周波コイルの高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして、前記鋳塊を製造することを特徴とする鋳塊の製造方法である。
【0011】
尚、本発明で説明する溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置とは、基本的には、凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置のことを示すが、凝固シェルが形成されて凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に直接接することがない場合は、凝固界面が最も水冷銅製るつぼの内面に近接する位置のことを示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鋳塊の製造方法によると、鋳塊に表面欠陥等の鋳造欠陥が発生することをより確実に抑制することができ、健全な大型の鋳塊を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】コールドクルーシブル誘導溶解法で、鋳塊を製造する方法の概要を示す縦断面図である。
【図2】コールドクルーシブル誘導溶解装置を示す縦断面斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態を示す縦断面図である。
【図4】凝固シェルが形成される仕組みを説明するためのコールドクルーシブル誘導溶解装置の縦断面図である。
【図5】くびれ状欠陥や二重肌欠陥が生成された状態を示す縦断面図である。
【図6】溶湯プールと鋳塊との凝固界面が、水冷銅製るつぼの内面に接する高さ位置(3重点位置)を夫々変えて鋳塊を製造する状態を示す縦断面図であって、(A)は3重点位置を高周波コイルの下端より下の位置として操業した比較例を、(B)(C)(D)は3重点位置を高周波コイルの下端位置と高周波コイルの高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして操業した発明例を、(E)は3重点位置を高周波コイルの高さの半分の高さ位置より上の位置として操業した比較例を、夫々示す。
【図7】溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する高さ位置の違いが、発熱分布に及ぼす影響を評価するための磁場解析検討に用いたコールドクルーシブル誘導溶解装置の右半分を示す縦断面図である。
【図8】磁場解析検討での誘導発熱の密度分布を示すもので、(A)は水冷銅製るつぼのスリットを含む部位の縦断面図、(B)は水冷銅製るつぼの銅製セグメント7の中央部を含む縦断面図である。
【図9】溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する高さ位置を図6(B)に示す位置とした場合の、誘導発熱の密度分布を高さごとに示したグラフ図である。
【図10】溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する高さ位置を図6(D)に示す位置とした場合の、誘導発熱の密度分布を高さごとに示したグラフ図である。
【図11】くびれ状欠陥や二重肌欠陥の発生メカニズムを示すEPDA(電子線マイクロアナライザ)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
【0015】
本発明によって製造される鋳塊は、図1及び図2に示すような、るつぼ底1が上下方向に移動自在に形成された水冷銅製るつぼ2と、その水冷銅製るつぼ2の周囲を取り巻くように配置された高周波コイル4で成るコールドクルーシブル誘導溶解(CCIM)装置Aを用いて製造することができる。
【0016】
このコールドクルーシブル誘導溶解装置Aを構成する水冷銅製るつぼ2は、複数本の銅製セグメント7を円筒状に組み合わせて構成されており、底部には円形で銅製のるつぼ底1が配置されている。複数本の銅製セグメント7、7、…の間には、0.05〜2mmのスリット8、8、…が設けられており、それらスリット8には、電気的絶縁のため、イットリア(Y2O3)系セメント、或いはアルミナ(Al2O3)系セメント等の絶縁材が埋め込まれている。高周波コイル4は、水冷銅製るつぼ2の周囲をその上下端をある程度残し、螺旋状に取り巻くように水冷銅製るつぼ2の表面より僅かに離れて設けられており、大出力の高周波電源14に接続されている。
【0017】
また、図3に示すように、前記したスリット8の下端位置は、高周波コイル4の下端位置より下方になるようにして設けられている。そのスリット8を設けた理由は、スリット8を通して、高周波コイル4からの電磁気力が、水冷銅製るつぼ2内部に形成された溶湯プール5や溶解原料3などに浸透しやすくさせるためであり、溶解原料3の溶解時の発熱効率を出来る限り最大限にすることを狙ったことによる。尚、スリット8は、図3のSで示す範囲に形成されている。また、H/2は高周波コイル4の高さの半分の高さを示し、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置の本発明による制御範囲を示す。
【0018】
これら銅製セグメント7、るつぼ底1、高周波コイル4は夫々中空状であり、中空内部には冷却水が注入されている。るつぼ底1は、下方のシリンダ等の引き抜き機構9に連結されて上下方向に移動自在に構成されており、水冷銅製るつぼ2の銅製セグメント7で成る円筒状の本体から下方に引き抜くように移動させることができる。
【0019】
このコールドクルーシブル誘導溶解装置Aを用いて、Ti、Ti合金、TiAl基合金、Zr、Zr合金、Fe基合金、Ni基合金、Co基合金などで成る鋳塊6の製造が行われるが、このコールドクルーシブル誘導溶解装置Aは、真空チャンバーB内に設けられている。また、るつぼ底1の上面には、溶解開始時のスタート材となる底盤10が取り付けられている。この底盤10は、純チタン材やチタン合金材、炭素鋼、ステンレス鋼等、製造される鋳塊6の材質を考慮した金属材料で形成されている。
【0020】
尚、本発明が対象とする大型の鋳塊6については、特にその大きさを限定しないが、例えば、その寸法は、直径200mm以上、その直径に対する高さ寸法が1.5倍以上、即ち300mm以上とすることが好ましい。前記した寸法に達しない小型の鋳塊6であれば、特にコールドクルーシブル誘導溶解装置Aを用いなくても比較的容易に製造することができると共に、比重の重い金属材料で製造した鋳塊6であっても50kg以下の小型であって、特に実用性もないからである。また、鋳塊6の直径は1000mm以下、直径に対する高さ寸法の倍率は5倍以下とすることが好ましい。
【0021】
次に、コールドクルーシブル誘導溶解装置Aを用いて、るつぼ底1を下方に移動させることにより大型の鋳塊6を製造する方法について説明する。
【0022】
コールドクルーシブル誘導溶解装置A等を用いて鋳塊6を製造する作業を始める前に、溶解原料3を準備する。溶解原料3には、水冷銅製るつぼ2内に初期に供給される塊状の溶解原料3(図示しない)と、初期の溶解が終了した後、水冷銅製るつぼ2内に供給する複数本の棒状の溶解原料3がある。尚、溶解原料3は、必ずしも初期に供給する塊状の溶解原料3と追加供給する複数本の棒状の溶解原料3に分ける必要はなく、棒状の溶解原料3だけであっても良いし、初期に供給する原料と、追加供給する原料に分ける場合であっても、その形状、数量は問わない。
【0023】
まず、溶解開始時のスタート材となる底盤10を上面に取り付けたるつぼ底1を所定の高さ位置に配置した状態で、水冷銅製るつぼ2の内部に、初期の溶解原料3を供給する。この状態で、高周波コイル4に高周波電流を通電することにより、高周波コイル4による誘導発熱領域にある底盤10の上部と初期の溶解原料3を同時に溶解する。溶解された底盤10の上部と初期の溶解原料3は、初期の溶湯プール5を形成する。
【0024】
次に、るつぼ底1を徐々に下方に引き下げれば、るつぼ底1上の溶湯プール5は、高周波コイル4による誘導発熱領域から徐々に下方に抜き出されることとなり、その下方から凝固を開始する。尚、溶湯プール5のうち水冷銅製るつぼ2の内壁面に接触した外表面から、冷却されて、溶湯プール5の外表面にリング状に、鋳塊6の凝固層が形成されるため、溶湯プール5は下方に抜き出しても流れ出すことはない。
【0025】
溶湯プール5を徐々に下方に引き抜くにつれて、水冷銅製るつぼ2内の溶湯プール5の量が減少するため、その引き抜き量と見合う量の棒状の溶解原料3を上方より徐々に追加供給して溶解することにより、溶湯プール5の量を常に一定に保つことが可能である。この引き抜きによって凝固した部位が目的の鋳塊6となる。尚、上方より供給する棒状の溶解原料3は、複数本を束にして、真空チャンバーBの上部に設けた吊り下げ機構11に吊り下げた状態で、その下端部から溶湯プール5の減少量に見合った量だけ徐々に供給される。
【0026】
この引き抜き鋳造法によって作製される鋳塊6には、一般に行われている重力鋳造法で作製する鋳塊6のように中心部に引け巣欠陥が発生することはなく、健全な鋳塊6を製造することができる。特に、TiAl基合金のように割れやすい合金材料の鋳塊6の製造方法としては、引け巣欠陥を起因とする割れが発生しないので、この引き抜き鋳造法は適したものということができる。
【0027】
単に、以上の製造方法で、大型の鋳塊6を製造した場合、製造条件によれば、鋳塊6の表面に、図5に示すような、深さが20mm以上に及ぶくびれ状欠陥aや、その深いくびれ状欠陥に溶湯が流入して二重の凝固組織となった二重肌欠陥bといった表面欠陥が生成される可能性がある。このような深いくびれ状欠陥aや二重肌欠陥bのような表面欠陥が鋳塊6の表面に生成されてしまうと、鋳塊6の表面の切削(皮削り)が必要となり、鋳塊6の歩留まりが著しく低下してしまい、条件によれば、使用が不可能なものとなってしまう。
【0028】
また、比較的表面欠陥が発生し難いFe基合金材料においても、不適切な操業条件下では、鋳塊6の表面に水平方向の割れ状欠陥(幅1〜5mm、長さ20〜100mm、深さ1〜15mm程度)が多数発生する場合がある。
【0029】
一方、本発明による適正な製造方法で、鋳塊6を製造した場合、たとえ、くびれ状欠陥aが生成されたとしても、比較的軽微(深さ15mm以内)で、使用上問題のないくびれ状欠陥aしか生成されず、製造される鋳塊6は、鋳塊6として使用可能なものとなる。また、条件によれば、深さが20mm以上に及ぶくびれ状欠陥aが発生する可能性は全くないとはいえないが、その発生確率は、従来と比較すると1/10以下にまで抑制することができる。
【0030】
発明者らは、これら深いくびれ状欠陥aや二重肌欠陥b、或いは割れ状欠陥といった表面欠陥の発生状況を確認するための観察を、実際のコールドクルーシブル誘導溶解装置Aで鋳塊6を製造する操業現場で実施した。溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面において溶湯は凝固を開始するが、溶湯が水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で凝固シェル12が形成されると、その凝固シェル12がスリット8に固着された状態になる。その状態で鋳塊6の引き抜きを行うと、その凝固シェル12や鋳塊6の凝固層の表面において割れが発生し、その割れが、更なる鋳塊6の引き抜きによって拡大することで、深いくびれ状欠陥aになることが確認できた。
【0031】
また、二重肌欠陥bは、形成されたくびれ状欠陥aの割れ先端が、溶湯プール5の固液相共存領域(固体と液体が共存する領域)に達することにより、その割れ先端から液体(溶湯)が流入して、くびれ状欠陥aを溶湯が充填することで形成されることが確認できた。
【0032】
念のため、この発生メカニズムを、小型のコールドクルーシブル誘導溶解装置Aにおいて、観察、確認した結果を図11のEPDA(電子線マイクロアナライザ)写真によって示す。ここでは、溶湯プール5にマーカとしてFeを投入しており、くびれ状欠陥aの割れ先端が、溶湯プール5の固液相共存領域に達することにより、Feを含んだ溶湯プール5からくびれ状欠陥aに溶湯が流入、充填することで、Fe濃度が高い二重肌欠陥bが形成されている状況が確認できる。尚、図11のEPDA写真のうち、上の写真は溶湯プール5並びに鋳塊6の右半分を、下の写真は溶湯プール5並びに鋳塊6の右半分を夫々示す。
【0033】
以上の観察結果から、くびれ状欠陥aが先に発生し、そのくびれ状欠陥aに溶湯プール5から溶湯が流入、充填されることで、二重肌欠陥bが形成されることが確認できた。即ち、これらの表面欠陥が発生することを抑制するためには、くびれ状欠陥aの発生を抑制することが最も重要であることを確認することができた。
【0034】
そこで発明者らは、くびれ状欠陥aの発生原因となる、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成される凝固シェル12の発生原因を調べることとした。その結果、溶湯プール5表面の湯流れが不均衡になり、局所的に湯流れ量が多くなって、水冷銅製るつぼ2の内面に当るような状況で凝固シェル12が形成される場合や、上方から装入している溶解原料3に流動する溶湯5が激しく当たり、微小な溶滴(スプラッシュ)となって飛散し、そのスプラッシュが水冷銅製るつぼ2のスリット8に凝集されて固化することで凝固シェル12が形成される場合等に、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で凝固シェル12が形成されることが分かった。
【0035】
従って、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成される凝固シェル12の発生を抑制するためには、溶湯プール5の湯流れの状態を安定させ、更に、スプラッシュの発生を抑制することが重要であると考えられる。
【0036】
発明者らは、以上の観察、検討を鋭意、繰返して実施し、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成される凝固シェル12の発生を抑制することができる操業条件を探求した結果、その適正な溶解鋳造の操業条件を見出すことに成功し、本発明を完成するに至った。
【0037】
以下、本発明が完成するまでの経緯について詳細に説明する。
【0038】
コールドクルーシブル誘導溶解法で、大型の鋳塊6を製造する際の原料となる溶解原料3を溶解する場合、まず、高周波コイル4に高周波電流を通電し、その溶解原料3に発生する誘導電流の抵抗発熱によって、その溶解原料3を加熱し、その加熱温度を溶解原料3の融点(液相線)以上まで上昇させて、溶解原料3を溶解することにより溶湯プール5とする。その際、図4に示すように、その溶湯プール5内では、誘導磁場による中心方向への磁気力(横向き矢印で示す)が作用して、溶湯静圧(下向き矢印で示す)と釣り合うようになると想定される。原理的には、磁気力と溶湯静圧が釣り合う位置で、溶湯プール5の溶湯が、水冷銅製るつぼ2の内壁面に接触して凝固シェル12が形成され始めることになるが、溶湯プール5は電磁気力によりその中央部で盛り上がり、表面を溶湯が流れ落ちるような激しい流動をする。
【0039】
その際、激しい流動する溶湯プール5の溶湯の一部は、上方から装入される溶解原料3に激しく当たって、微小な溶滴(スプラッシュ)となって飛散する。そのスプラッシュが、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込み凝集されて固化した凝固シェル12は、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成されることとなり、且つ、その凝固シェル12が溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面において、鋳塊6の表面に形成されている凝固層と溶着することとなる。
【0040】
また、溶湯プール5表層の湯流れが不均一となり、局所的に多量の溶湯が流動する領域が発生すると、その領域では水冷銅製るつぼ2の内面に多量の溶湯が突き当たるような状況となり、この場合に形成された凝固シェル12は他の位置と比べて上下に長い凝固シェル12となり、更には、その凝固シェル12が水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成されることになり、且つ、その凝固シェル12が溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面において、鋳塊6と溶着することとなる。
【0041】
このような状態で、水冷銅製るつぼ2のるつぼ底1を下方に移動させると、表層に形成された凝固シェル12と共に、溶湯プール5が下方に引き抜かれることになるが、表層の凝固シェル12の一部は、図5に示すように、水冷銅製るつぼ2を構成する銅製セグメント7、7間に形成されたスリット8に食い込んだような状態となり強固に固着しているので(図4、図5に○で示す)、固着した部位は容易には引き下げられないことになる。その結果、凝固シェル12の下部に引っ張り応力が作用することとなり、特にスリット8に深く食い込む等で凝固シェル12の固着が強固な場合は、凝固シェル12の下部に亀裂が発生し、その亀裂が成長して大きく深いくびれ状欠陥aとなってしまう。また、凝固シェル12が上下に長いほど、スリット8に食い込んだ固着部等、強固な固着部が形成される可能性が高くなり、深いくびれ状欠陥aが生成される可能性も高くなる。従って、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成される凝固シェル12を形成させないように操業することが、深いくびれ状欠陥aが生成される可能性を低くすることにつながると考えた。
【0042】
また、溶湯プール5の直下で大きく深いくびれ状欠陥aが生成された場合、図5に示すように、溶湯プール5とくびれ状欠陥aとの間の鋳塊6の凝固層の比較的薄い部分が破壊されることがある。その場合、溶湯プール5の溶湯が、くびれ状欠陥a内に流入することとなり、そのくびれ状欠陥a内に充填された溶湯が凝固し、二重肌欠陥bとなる。尚、この二重肌欠陥bを形成する溶湯は、元のくびれ状欠陥aの内面には完全には溶着しないため、浸透探傷試験を行うと欠陥部として検出される。
【0043】
従って、前記したような大きく深いくびれ状欠陥aや二重肌欠陥bのような表面欠陥を、発生させないようにするためには、まず、くびれ状欠陥aを発生させないことが重要と考え、その発生条件を探求した。
【0044】
前記したように、くびれ状欠陥aは、溶湯プール5の表層に形成された凝固シェル12が水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成される結果、その凝固シェル12の下方が引っ張り応力を受けることで亀裂が発生し、その亀裂が成長することにより形成される。
【0045】
従って、このようなくびれ状欠陥aの発生を防止するためには、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成される凝固シェル12の形成を抑止することが有効と考えられる。この凝固シェル12は、磁気力と溶湯静圧が釣り合う位置より上側にも形成され、その領域が上方に長くなるほど、亀裂が発生する頻度が増加する。
【0046】
このようなくびれ状欠陥aの生成を抑止するためには、溶湯プール5の流動状況を安定させることが有効である。そのための具体的手段として見出した鋳塊6の製造方法が、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置(3重点位置13)を、高周波コイル4の下端位置と高周波コイル4の高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして鋳塊6を製造することである。次に、その位置関係を求めた理由を図6に基づいて説明する。
【0047】
図6(A)は、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置(3重点位置13)を、高周波コイル4の下端より下の位置として操業した事例である。このような方法で鋳塊6を製造すると、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置での発熱が不足するようになり、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成された凝固シェル12を再溶解して除去することが著しく困難となる。
【0048】
また、上方より装入する溶解燃料3の誘導発熱が大きくなり過ぎて、溶解原料3の溶解が促進され、場合によっては、熱が蓄積される溶解原料3の内部の溶解が進み過ぎ、内部(下端)に大きな空洞3aが形成されてしまうこともある。このような状況になると、操業時の溶湯プール5の量が大きく変動することになり、溶湯プール5の湯流れが激しく乱れることになる。更には、電磁気力によって中央部で盛り上がるようにして流動する溶湯の一部が、空洞3a内で溶解原料3の薄い部位に当たって、溶湯プール5と溶解原料3の間に隙間が形成されると、微小な溶滴(スプラッシュ)となって周囲に激しく飛散する。そのスプラッシュが、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で凝固シェル12が形成されるので、大きく深いくびれ状欠陥aが発生しやすくなる。
【0049】
これに対し、図6(B)〜(D)に示すように、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置(3重点位置13)が、高周波コイル4の下端位置とその高周波コイル4の高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして操業すると、大きく深いくびれ状欠陥aが発生することが殆どない。従って、この方法で鋳塊6を製造すると、健全な大型の鋳塊6を安定して製造することができるといえる。
【0050】
このように、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置が、高周波コイル4の下端位置とその高周波コイル4の高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして操業した場合でも、スプラッシュが飛散することはある。そのスプラッシュの飛散量は、凝固界面位置が高くなるほど、即ち、図6の(B)→(C)→(D)という順序で減少する傾向がある。スプラッシュの飛散量が少なくなると、凝固シェル12の発生量が減少し、くびれ状欠陥aが発生しにくくなる。尚、図6の(B)→(C)→(D)の順序で、溶解原料3に形成される空洞3aが小さくなり、図6(D)においては、空洞3aの形成は殆ど認められない。
【0051】
しかしながら、図6(E)に示すように、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置(3重点位置13)を、高周波コイル4の高さの半分の高さ位置より上の位置として操業を行うと、溶解原料3への誘導加熱が不十分となることで、溶解原料3が溶解されにくくなり、安定した溶解速度を得ることができにくくなり、結果として、鋳塊6の引き抜き操業が困難となる。
【0052】
ここで、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置の違いが、発熱分布に及ぼす影響を評価するため、磁場解析検討を行った。磁場解析は、図7に模式的に示すような、内径φ250mmの水冷銅製るつぼ2において実施した。水冷銅製るつぼ2の内径以外の各寸法は図示しているが、因みに、スリット8の長さは300mmである。尚、以下の説明では、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置は、3重点位置13と称して説明する。
【0053】
まず、3重点位置13を図6(B)に示す位置に設けた場合の磁場解析検討を実施した。図8(A)に示すのが、スリット8を含む縦断面での誘導発熱(ジュール熱)の密度分布であり、図8(B)に示すのが、銅製セグメント7の中央部を含む縦断面での誘導発熱(ジュール熱)の密度分布である。図8によると、3重点位置13の周辺は、点模様で表されており、発熱密度が大きくなっていることが分かる。また、スリット8を含む縦断面では、棒状の溶解原料3でも発熱があることが分かる。
【0054】
この誘導発熱(ジュール熱)の密度分布を高さごとに示したグラフを、図9として示す。このグラフによると、3重点位置13で発熱密度が最も大きくなり、3重点位置13から上下に離れるほど、発熱密度が減少することが分かる。
【0055】
また、3重点位置13を図6(D)に示す位置に設けた場合の磁場解析検討も実施した。その誘導発熱(ジュール熱)の密度分布を高さごとに示したグラフを、図10として示す。3重点位置13は、高周波コイル4の中心により近い位置に設けられているため、スリット8を含む縦断面での発熱密度は大きくなっているが、溶解原料3側(横軸でプラスの側)で発熱密度が急激に低下していることが分かる。
【0056】
この結果は、実際の鋳塊3の製造において、3重点位置13が高くなるに伴い、溶解原料3の溶解が進行しにくくなることと対応しており、また本発明で、高周波コイル4の高さの半分の高さ位置が、3重点位置13、即ち、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置の上限としたことにも対応している。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0058】
コールドクルーシブル誘導溶解装置を用いて、鋳塊を下方に引き抜く方法で鋳塊を製造する試験を実施した。製造される鋳塊の材質は、TiAl合金(Ti−30Al−3Cr−3V−4Mn合金(質量%))である。試験では、高周波コイルのコイル電圧を一定値に保持した条件下で、投入電力の変動に応じて、棒状の溶解原料の降下速度(供給速度)を変化させたり、或いは、鋳塊の引き抜きを一次停止させたりして調整を行い、鋳塊を製造した。
【0059】
コールドクルーシブル誘導溶解装置は、周波数:3000Hz、出力:500kW(Max)の高周波電源を有しており、整合盤を介して、水冷ケーブルにより高周波コイルと接続されている。高周波コイルは水冷銅製るつぼの外周を7周に亘り取り巻いており、その高さは229mmである。水冷銅製るつぼの内径はφ250mmであり、円筒状に組まれた24本の銅製セグメントと、引き抜き機構に取り付けられたるつぼ底より構成されている。銅製セグメント、るつぼ底等の内部には冷却水が流されており、その冷却水の流量は400L/minである。また、コールドクルーシブル誘導溶解装置が収容された真空チャンバーの内容量は10m3である。
【0060】
念のため繰返し説明するが、高周波コイルの高さは229mmであり、本発明で要件としている高周波コイルの半分の高さ位置は114.5mmである。
【0061】
試験体(鋳塊)の製造は、るつぼ底の上面に、溶解開始時のスタート材となる底盤を取り付け、所定のスタート位置に配置した状態で、水冷銅製るつぼの内部に、Ti−30Al−3Cr−3V−4Mn合金(質量%)で成る初期の溶解原料を装入して開始した。
【0062】
追加供給用の溶解原料も初期の溶解原料と同一のTi−30Al−3Cr−3V−4Mn合金(質量%)で成るが、その追加供給用の溶解原料は、複数本の棒状溶解原料を円柱状に束ねたものである。また、その総直径は180mm、長さは1000mmである。この追加供給用の溶解原料は、真空チャンバーの上部に設けられた吊り下げ機構に吊り下げた状態で、その下端部から水冷銅製るつぼの内部に順次供給される。
【0063】
まず、底盤を溶解開始時の所定の高さ位置に配置し、水冷銅製るつぼの内部に塊状の溶解原料を供給した。その後、真空チャンバーの内部の空気を拡散ポンプで6.7×10−2Paになるまで真空排気した後、高純度Arを最高78KPaになるまで充填して不活性ガス雰囲気とした。次に、高周波電源の出力を入れて、100kW(10分間)→200kW(10分間)→260kW(10分間)で保持して、塊状の溶解原料と底盤の上部を溶解し、初期の溶湯プールを形成させた。
【0064】
その後、棒状の溶解原料を下方に押し下げて、その下端部を前記溶湯プール内に浸漬して溶解すると同時に、その溶解量に見合った分だけ鋳塊を下方に引き抜くことで、常時、溶湯プールの量が略一定となるようにして鋳塊の製造を実施した。
【0065】
また、鋳塊を下方に引き抜く際の投入電力は、溶湯プールの量が維持できる下限値よりやや高い電力とし、溶湯プールができるだけ少ない量(目安では15kg程度)で一定となるようにして試験を実施した。具体的な投入電力は表1に示す通りで、溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置が、高周波コイルの下端に近い場合は200〜220kW程度、高周波コイルの中心(半分の高さ位置)に近い場合は140〜180kW程度であった。3重点位置がコイルの中心に近い場合は発熱密度が高くなることから投入電力を低下させる必要があった。
【0066】
以上の条件で、コールドクルーシブル誘導溶解装置を用いて鋳塊を製造する試験を実施し、製造された鋳塊の表面に形成されたくびれ状欠陥の最大深さを測定することで評価を実施した。くびれ状欠陥の最大深さが15mm以内の鋳塊を、使用上問題がないとして合格(○)と評価し、くびれ状欠陥の最大深さが15mmを超える鋳塊を不合格(×)として評価した。
【0067】
また、併せて、くびれ状欠陥発生の原因となるスプラッシュの発生回数と、棒状の溶解原料の内部(下端)に形成される空洞の体積についても測定した。
【0068】
【表1】
【0069】
溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置が、高周波コイルの下端より下の場合(比較例1)は、鋳塊の表面に形成されたくびれ状欠陥の最大深さが、使用上問題がないとした15mmを超えてしまった。
【0070】
また、溶湯プール量を維持するための投入電力は、220kWを超えて240kW程度は必要であり、その結果、溶解時に激しい溶湯飛散(スプラッシュ)が発生することとなり、このスプラッシュが水冷銅製るつぼのスリットに入り込んだ状態で大きな凝固シェルが形成されることが観察された。この凝固シェルが鋳塊と溶着し、鋳塊の引き抜き時に引っ張り応力が作用し、大きなくびれ状欠陥が発生したと考えられる。また、試験終了後の溶解原料を観察したところ、その下端内部に巨大な空洞が形成されていた。
【0071】
溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置を、高周波コイルの下端から0〜60mm未満上方の位置とした場合(実施例1,2)は、鋳塊の表面に形成されたくびれ状欠陥の最大深さは12〜15mmであり、これは使用上問題がないとした15mm以内に収まっている。
【0072】
また、溶湯プール量を維持するための投入電力は、200〜220kW程度で良く、比較例1と比較してスプラッシュの発生量が大幅に減少し、またその発生回数も減少し、水冷銅製るつぼのスリットに入り込んだ状態で形成された凝固シェルも減少していることが観察された。また、溶解原料の下端内部に形成された空洞の大きさも小さくなっていた。
【0073】
溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置を、高周波コイルの下端から60〜114.5mm上方の位置とした場合、(実施例3,4)は、鋳塊の表面に形成されたくびれ状欠陥の最大深さは5〜10mmであり、問題となるくびれ状欠陥は発生していない。
【0074】
また、溶湯プール量を維持するための投入電力は、更に低く140〜200kW程度で良く、スプラッシュの発生量は更に大幅に減少し、またその発生回数も大幅に減少し、水冷銅製るつぼのスリットに入り込んだ状態で形成された凝固シェルも大幅に減少していた。また、溶解原料の下端内部に形成された空洞の大きさも更に小さくなるか、全く形成されていなかった。しかしながら、溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置を、高周波コイルの半分の高さ位置に近づければ近づけるほど、溶湯プール付近での発熱密度が増加するため、溶湯プールが深くなり、鋳塊の凝固層の肉厚が薄くなって、鋳塊の表面にリング状の模様が発生するようになる。
【0075】
一方、溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置を、高周波コイルの半分の高さ位置を超える高さ位置、即ち、高周波コイルの下端から114.5mm超上方の位置とした場合(比較例2)は、鋳塊の表面に形成されたくびれ状欠陥の最大深さが、使用上問題がないとした15mmを超えてしまった。
【0076】
このようにして、溶解原料を溶解した場合、溶解原料の発熱が少なくなって溶解しにくくなるため、投入電力を220kW超とする必要がある。この方法で、鋳塊を製造した場合、スプラッシュの発生は殆どなくなるものの、溶湯プールの流動が激しくなって水冷銅製るつぼのスリットに入り込んだ状態で形成される凝固シェルが増加する。また、投入電力が高くなるので、溶湯プール量も必然的に増加し、鋳塊の凝固層の肉厚が薄くなる。以上のことから、くびれ状欠陥が発生しやすくなる。尚、表1には空洞の体積を−120cm3と示しているが、これは溶解原料に空洞が形成されているのではなく、溶解原料の下端が断面U字状に突出していることを示す。
【0077】
以上の結果、溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置を、高周波コイルの下端位置と高周波コイルの高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして鋳塊を製造することで、表面欠陥の発生が殆どない鋳塊を製造することができることが確認できた。
【符号の説明】
【0078】
1…るつぼ底
2…水冷銅製るつぼ
3…溶解原料
3a…空洞
4…高周波コイル
5…溶湯プール
6…鋳塊
7…銅製セグメント
8…スリット
9…引き抜き機構
10…底盤
11…吊り下げ機構
12…凝固シェル
13…3重点位置
14…高周波電源
a…くびれ状欠陥
b…二重肌欠陥
A…コールドクルーシブル誘導溶解装置
B…真空チャンバー
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドクルーシブル誘導溶解(CCIM)法で、Ti、Ti合金、TiAl基合金、Zr、Zr合金、Fe基合金、Ni基合金、Co基合金などで成る大型の鋳塊を製造する鋳塊の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Ti合金、ジルカロイなどの活性金属を含有する合金や、超高清浄性が要求されるFe基合金、Ni基合金、Co基合金等で成る鋳塊は、現在、工業的には、真空アーク溶解法、プラズマアーク溶解法、電子ビーム溶解法などにより製造されている。これらの溶解法は、いずれも水冷された銅材をるつぼ溶解容器として用いる溶解法である。これらの溶解法は、合金原料の全量を一括して溶解せずに、少量ずつ供給して溶解を行い、形成される溶融金属浴を下側から順次凝固させて鋳塊を製造することを特徴としている。現在、1〜10ton程度の鋳塊がこれらの溶解法を用いて製造されている。但し、これらの溶解方法は、溶湯の攪拌力が小さく、合金成分の不均一が起こりやすいという課題も併せ持っている。
【0003】
これに対し、コールドクルーシブル誘導溶解(CCIM)法は、合金原料を一括で全量溶解して合金化した後に、凝固させて鋳塊を製造する方法である。この溶解方法であれば、合金成分の不均一を発生することなく均質な鋳塊を製造することができると考えられるが、CCIM法によって大型の鋳塊を製造する技術自体は、現状ではまだ開発途上の段階である。
【0004】
CCIM法により比較的大型で長尺の鋳塊を製造する方法として、非特許文献1に記載の製造方法が知られている。この製造方法は、水冷銅るつぼを用いて、その外周部に設置した高周波コイルに高周波電流を通電して、水冷銅るつぼ内に供給した合金原料を誘導溶解し、水冷銅るつぼの底部を下方に引き抜き、大型で長尺の鋳塊を製造する方法である。この製造方法は、水冷銅るつぼと溶湯プールの間にフッ化カルシウム(CaF2)などのフッ化物系スラグを、精錬効果、電気的絶縁効果、或いは引き抜き時の潤滑効果などを狙って添加することを特徴としている。この方法により、溶解原料としてスポンジTiを用いて、直径5インチの長尺鋳塊が製造できることが示されているが、Ti溶湯に溶融フッ化カルシウム(CaF2)が接触することとなるため、鋳塊中にフッ素(F)が数十ppmほど混入する結果となっており、高清浄な鋳塊を製造するには問題がある。
【0005】
また、CCIM法によって大型で長尺の鋳塊を製造する方法として、フッ化カルシウム(CaF2)などの精錬材を添加せずに、コイルからの電磁気力により溶融金属浴を保持して、水冷銅るつぼの底部を引き抜くことにより、長尺鋳塊を製造する方法も考えることはできる。しかしながら、たとえこの製造方法で長尺鋳塊を製造したとしても、不適切な操業条件を用いると、鋳塊内部に溶け残り原料が残留したり、鋳塊表面に大きな表面欠陥が発生したりして、歩留まりが大幅に悪化するなどの問題が発生し、健全な鋳塊を製造することは困難である。
【0006】
発明者らは、CCIM法で塊状の合金原料を供給しつつ、水冷銅製るつぼのるつぼ底を下方に引き抜くことで、溶解鋳造の操業条件を最適化することにより、合金原料などの溶け残りのない健全な大型の鋳塊を製造する方法について特許出願している(特許文献1,2)。しかしながら、これらの製造方法においても、少しでも不適切な操業条件を用いると、鋳塊の表面に著しく大きな凹凸が形成されてしまうという課題が残されていた。これに対して、鋳塊引き抜き操業時の溶湯プール量、投入電力などの適正化を図ることで、鋳塊表面欠陥を改善する方法を開発した結果、相当な改善を図ることができたが、鋳塊表面欠陥を皆無とすることは、まだできていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−122920号公報
【特許文献2】特開2006−281291号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】P.G.Clites,「Inductslag Melting Process」,US,Bureau of Mines Bulletin 673,1982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたもので、鋳塊に表面欠陥等の鋳造欠陥が発生することを、更に確実に抑制することができ、健全な大型の鋳塊を安定して製造することができる鋳塊の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の鋳塊の製造方法は、複数本の銅製セグメントが円筒状に組み合わせて形成されていると共に、その底部には上下方向に移動自在のるつぼ底が配置されて構成された水冷銅製るつぼの内部に、溶解原料を供給し、その水冷銅製るつぼの周囲を取り巻く高周波コイルによる誘導加熱で前記溶解原料を溶解して溶湯プールとし、前記るつぼ底を下方に移動させることにより、そのるつぼ底上の前記溶湯プールを前記高周波コイルによる誘導加熱領域外に引き抜いて凝固させることで鋳塊を製造する鋳塊の製造方法であって、前記銅製セグメント間に形成されているスリットの下端位置を、前記高周波コイルの下端位置より下方に配置すると共に、前記溶湯プールと前記鋳塊との凝固界面が前記水冷銅製るつぼの内面に接する位置が、前記高周波コイルの下端位置と前記高周波コイルの高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして、前記鋳塊を製造することを特徴とする鋳塊の製造方法である。
【0011】
尚、本発明で説明する溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置とは、基本的には、凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置のことを示すが、凝固シェルが形成されて凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に直接接することがない場合は、凝固界面が最も水冷銅製るつぼの内面に近接する位置のことを示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鋳塊の製造方法によると、鋳塊に表面欠陥等の鋳造欠陥が発生することをより確実に抑制することができ、健全な大型の鋳塊を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】コールドクルーシブル誘導溶解法で、鋳塊を製造する方法の概要を示す縦断面図である。
【図2】コールドクルーシブル誘導溶解装置を示す縦断面斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態を示す縦断面図である。
【図4】凝固シェルが形成される仕組みを説明するためのコールドクルーシブル誘導溶解装置の縦断面図である。
【図5】くびれ状欠陥や二重肌欠陥が生成された状態を示す縦断面図である。
【図6】溶湯プールと鋳塊との凝固界面が、水冷銅製るつぼの内面に接する高さ位置(3重点位置)を夫々変えて鋳塊を製造する状態を示す縦断面図であって、(A)は3重点位置を高周波コイルの下端より下の位置として操業した比較例を、(B)(C)(D)は3重点位置を高周波コイルの下端位置と高周波コイルの高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして操業した発明例を、(E)は3重点位置を高周波コイルの高さの半分の高さ位置より上の位置として操業した比較例を、夫々示す。
【図7】溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する高さ位置の違いが、発熱分布に及ぼす影響を評価するための磁場解析検討に用いたコールドクルーシブル誘導溶解装置の右半分を示す縦断面図である。
【図8】磁場解析検討での誘導発熱の密度分布を示すもので、(A)は水冷銅製るつぼのスリットを含む部位の縦断面図、(B)は水冷銅製るつぼの銅製セグメント7の中央部を含む縦断面図である。
【図9】溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する高さ位置を図6(B)に示す位置とした場合の、誘導発熱の密度分布を高さごとに示したグラフ図である。
【図10】溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する高さ位置を図6(D)に示す位置とした場合の、誘導発熱の密度分布を高さごとに示したグラフ図である。
【図11】くびれ状欠陥や二重肌欠陥の発生メカニズムを示すEPDA(電子線マイクロアナライザ)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
【0015】
本発明によって製造される鋳塊は、図1及び図2に示すような、るつぼ底1が上下方向に移動自在に形成された水冷銅製るつぼ2と、その水冷銅製るつぼ2の周囲を取り巻くように配置された高周波コイル4で成るコールドクルーシブル誘導溶解(CCIM)装置Aを用いて製造することができる。
【0016】
このコールドクルーシブル誘導溶解装置Aを構成する水冷銅製るつぼ2は、複数本の銅製セグメント7を円筒状に組み合わせて構成されており、底部には円形で銅製のるつぼ底1が配置されている。複数本の銅製セグメント7、7、…の間には、0.05〜2mmのスリット8、8、…が設けられており、それらスリット8には、電気的絶縁のため、イットリア(Y2O3)系セメント、或いはアルミナ(Al2O3)系セメント等の絶縁材が埋め込まれている。高周波コイル4は、水冷銅製るつぼ2の周囲をその上下端をある程度残し、螺旋状に取り巻くように水冷銅製るつぼ2の表面より僅かに離れて設けられており、大出力の高周波電源14に接続されている。
【0017】
また、図3に示すように、前記したスリット8の下端位置は、高周波コイル4の下端位置より下方になるようにして設けられている。そのスリット8を設けた理由は、スリット8を通して、高周波コイル4からの電磁気力が、水冷銅製るつぼ2内部に形成された溶湯プール5や溶解原料3などに浸透しやすくさせるためであり、溶解原料3の溶解時の発熱効率を出来る限り最大限にすることを狙ったことによる。尚、スリット8は、図3のSで示す範囲に形成されている。また、H/2は高周波コイル4の高さの半分の高さを示し、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置の本発明による制御範囲を示す。
【0018】
これら銅製セグメント7、るつぼ底1、高周波コイル4は夫々中空状であり、中空内部には冷却水が注入されている。るつぼ底1は、下方のシリンダ等の引き抜き機構9に連結されて上下方向に移動自在に構成されており、水冷銅製るつぼ2の銅製セグメント7で成る円筒状の本体から下方に引き抜くように移動させることができる。
【0019】
このコールドクルーシブル誘導溶解装置Aを用いて、Ti、Ti合金、TiAl基合金、Zr、Zr合金、Fe基合金、Ni基合金、Co基合金などで成る鋳塊6の製造が行われるが、このコールドクルーシブル誘導溶解装置Aは、真空チャンバーB内に設けられている。また、るつぼ底1の上面には、溶解開始時のスタート材となる底盤10が取り付けられている。この底盤10は、純チタン材やチタン合金材、炭素鋼、ステンレス鋼等、製造される鋳塊6の材質を考慮した金属材料で形成されている。
【0020】
尚、本発明が対象とする大型の鋳塊6については、特にその大きさを限定しないが、例えば、その寸法は、直径200mm以上、その直径に対する高さ寸法が1.5倍以上、即ち300mm以上とすることが好ましい。前記した寸法に達しない小型の鋳塊6であれば、特にコールドクルーシブル誘導溶解装置Aを用いなくても比較的容易に製造することができると共に、比重の重い金属材料で製造した鋳塊6であっても50kg以下の小型であって、特に実用性もないからである。また、鋳塊6の直径は1000mm以下、直径に対する高さ寸法の倍率は5倍以下とすることが好ましい。
【0021】
次に、コールドクルーシブル誘導溶解装置Aを用いて、るつぼ底1を下方に移動させることにより大型の鋳塊6を製造する方法について説明する。
【0022】
コールドクルーシブル誘導溶解装置A等を用いて鋳塊6を製造する作業を始める前に、溶解原料3を準備する。溶解原料3には、水冷銅製るつぼ2内に初期に供給される塊状の溶解原料3(図示しない)と、初期の溶解が終了した後、水冷銅製るつぼ2内に供給する複数本の棒状の溶解原料3がある。尚、溶解原料3は、必ずしも初期に供給する塊状の溶解原料3と追加供給する複数本の棒状の溶解原料3に分ける必要はなく、棒状の溶解原料3だけであっても良いし、初期に供給する原料と、追加供給する原料に分ける場合であっても、その形状、数量は問わない。
【0023】
まず、溶解開始時のスタート材となる底盤10を上面に取り付けたるつぼ底1を所定の高さ位置に配置した状態で、水冷銅製るつぼ2の内部に、初期の溶解原料3を供給する。この状態で、高周波コイル4に高周波電流を通電することにより、高周波コイル4による誘導発熱領域にある底盤10の上部と初期の溶解原料3を同時に溶解する。溶解された底盤10の上部と初期の溶解原料3は、初期の溶湯プール5を形成する。
【0024】
次に、るつぼ底1を徐々に下方に引き下げれば、るつぼ底1上の溶湯プール5は、高周波コイル4による誘導発熱領域から徐々に下方に抜き出されることとなり、その下方から凝固を開始する。尚、溶湯プール5のうち水冷銅製るつぼ2の内壁面に接触した外表面から、冷却されて、溶湯プール5の外表面にリング状に、鋳塊6の凝固層が形成されるため、溶湯プール5は下方に抜き出しても流れ出すことはない。
【0025】
溶湯プール5を徐々に下方に引き抜くにつれて、水冷銅製るつぼ2内の溶湯プール5の量が減少するため、その引き抜き量と見合う量の棒状の溶解原料3を上方より徐々に追加供給して溶解することにより、溶湯プール5の量を常に一定に保つことが可能である。この引き抜きによって凝固した部位が目的の鋳塊6となる。尚、上方より供給する棒状の溶解原料3は、複数本を束にして、真空チャンバーBの上部に設けた吊り下げ機構11に吊り下げた状態で、その下端部から溶湯プール5の減少量に見合った量だけ徐々に供給される。
【0026】
この引き抜き鋳造法によって作製される鋳塊6には、一般に行われている重力鋳造法で作製する鋳塊6のように中心部に引け巣欠陥が発生することはなく、健全な鋳塊6を製造することができる。特に、TiAl基合金のように割れやすい合金材料の鋳塊6の製造方法としては、引け巣欠陥を起因とする割れが発生しないので、この引き抜き鋳造法は適したものということができる。
【0027】
単に、以上の製造方法で、大型の鋳塊6を製造した場合、製造条件によれば、鋳塊6の表面に、図5に示すような、深さが20mm以上に及ぶくびれ状欠陥aや、その深いくびれ状欠陥に溶湯が流入して二重の凝固組織となった二重肌欠陥bといった表面欠陥が生成される可能性がある。このような深いくびれ状欠陥aや二重肌欠陥bのような表面欠陥が鋳塊6の表面に生成されてしまうと、鋳塊6の表面の切削(皮削り)が必要となり、鋳塊6の歩留まりが著しく低下してしまい、条件によれば、使用が不可能なものとなってしまう。
【0028】
また、比較的表面欠陥が発生し難いFe基合金材料においても、不適切な操業条件下では、鋳塊6の表面に水平方向の割れ状欠陥(幅1〜5mm、長さ20〜100mm、深さ1〜15mm程度)が多数発生する場合がある。
【0029】
一方、本発明による適正な製造方法で、鋳塊6を製造した場合、たとえ、くびれ状欠陥aが生成されたとしても、比較的軽微(深さ15mm以内)で、使用上問題のないくびれ状欠陥aしか生成されず、製造される鋳塊6は、鋳塊6として使用可能なものとなる。また、条件によれば、深さが20mm以上に及ぶくびれ状欠陥aが発生する可能性は全くないとはいえないが、その発生確率は、従来と比較すると1/10以下にまで抑制することができる。
【0030】
発明者らは、これら深いくびれ状欠陥aや二重肌欠陥b、或いは割れ状欠陥といった表面欠陥の発生状況を確認するための観察を、実際のコールドクルーシブル誘導溶解装置Aで鋳塊6を製造する操業現場で実施した。溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面において溶湯は凝固を開始するが、溶湯が水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で凝固シェル12が形成されると、その凝固シェル12がスリット8に固着された状態になる。その状態で鋳塊6の引き抜きを行うと、その凝固シェル12や鋳塊6の凝固層の表面において割れが発生し、その割れが、更なる鋳塊6の引き抜きによって拡大することで、深いくびれ状欠陥aになることが確認できた。
【0031】
また、二重肌欠陥bは、形成されたくびれ状欠陥aの割れ先端が、溶湯プール5の固液相共存領域(固体と液体が共存する領域)に達することにより、その割れ先端から液体(溶湯)が流入して、くびれ状欠陥aを溶湯が充填することで形成されることが確認できた。
【0032】
念のため、この発生メカニズムを、小型のコールドクルーシブル誘導溶解装置Aにおいて、観察、確認した結果を図11のEPDA(電子線マイクロアナライザ)写真によって示す。ここでは、溶湯プール5にマーカとしてFeを投入しており、くびれ状欠陥aの割れ先端が、溶湯プール5の固液相共存領域に達することにより、Feを含んだ溶湯プール5からくびれ状欠陥aに溶湯が流入、充填することで、Fe濃度が高い二重肌欠陥bが形成されている状況が確認できる。尚、図11のEPDA写真のうち、上の写真は溶湯プール5並びに鋳塊6の右半分を、下の写真は溶湯プール5並びに鋳塊6の右半分を夫々示す。
【0033】
以上の観察結果から、くびれ状欠陥aが先に発生し、そのくびれ状欠陥aに溶湯プール5から溶湯が流入、充填されることで、二重肌欠陥bが形成されることが確認できた。即ち、これらの表面欠陥が発生することを抑制するためには、くびれ状欠陥aの発生を抑制することが最も重要であることを確認することができた。
【0034】
そこで発明者らは、くびれ状欠陥aの発生原因となる、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成される凝固シェル12の発生原因を調べることとした。その結果、溶湯プール5表面の湯流れが不均衡になり、局所的に湯流れ量が多くなって、水冷銅製るつぼ2の内面に当るような状況で凝固シェル12が形成される場合や、上方から装入している溶解原料3に流動する溶湯5が激しく当たり、微小な溶滴(スプラッシュ)となって飛散し、そのスプラッシュが水冷銅製るつぼ2のスリット8に凝集されて固化することで凝固シェル12が形成される場合等に、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で凝固シェル12が形成されることが分かった。
【0035】
従って、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成される凝固シェル12の発生を抑制するためには、溶湯プール5の湯流れの状態を安定させ、更に、スプラッシュの発生を抑制することが重要であると考えられる。
【0036】
発明者らは、以上の観察、検討を鋭意、繰返して実施し、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成される凝固シェル12の発生を抑制することができる操業条件を探求した結果、その適正な溶解鋳造の操業条件を見出すことに成功し、本発明を完成するに至った。
【0037】
以下、本発明が完成するまでの経緯について詳細に説明する。
【0038】
コールドクルーシブル誘導溶解法で、大型の鋳塊6を製造する際の原料となる溶解原料3を溶解する場合、まず、高周波コイル4に高周波電流を通電し、その溶解原料3に発生する誘導電流の抵抗発熱によって、その溶解原料3を加熱し、その加熱温度を溶解原料3の融点(液相線)以上まで上昇させて、溶解原料3を溶解することにより溶湯プール5とする。その際、図4に示すように、その溶湯プール5内では、誘導磁場による中心方向への磁気力(横向き矢印で示す)が作用して、溶湯静圧(下向き矢印で示す)と釣り合うようになると想定される。原理的には、磁気力と溶湯静圧が釣り合う位置で、溶湯プール5の溶湯が、水冷銅製るつぼ2の内壁面に接触して凝固シェル12が形成され始めることになるが、溶湯プール5は電磁気力によりその中央部で盛り上がり、表面を溶湯が流れ落ちるような激しい流動をする。
【0039】
その際、激しい流動する溶湯プール5の溶湯の一部は、上方から装入される溶解原料3に激しく当たって、微小な溶滴(スプラッシュ)となって飛散する。そのスプラッシュが、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込み凝集されて固化した凝固シェル12は、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成されることとなり、且つ、その凝固シェル12が溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面において、鋳塊6の表面に形成されている凝固層と溶着することとなる。
【0040】
また、溶湯プール5表層の湯流れが不均一となり、局所的に多量の溶湯が流動する領域が発生すると、その領域では水冷銅製るつぼ2の内面に多量の溶湯が突き当たるような状況となり、この場合に形成された凝固シェル12は他の位置と比べて上下に長い凝固シェル12となり、更には、その凝固シェル12が水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成されることになり、且つ、その凝固シェル12が溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面において、鋳塊6と溶着することとなる。
【0041】
このような状態で、水冷銅製るつぼ2のるつぼ底1を下方に移動させると、表層に形成された凝固シェル12と共に、溶湯プール5が下方に引き抜かれることになるが、表層の凝固シェル12の一部は、図5に示すように、水冷銅製るつぼ2を構成する銅製セグメント7、7間に形成されたスリット8に食い込んだような状態となり強固に固着しているので(図4、図5に○で示す)、固着した部位は容易には引き下げられないことになる。その結果、凝固シェル12の下部に引っ張り応力が作用することとなり、特にスリット8に深く食い込む等で凝固シェル12の固着が強固な場合は、凝固シェル12の下部に亀裂が発生し、その亀裂が成長して大きく深いくびれ状欠陥aとなってしまう。また、凝固シェル12が上下に長いほど、スリット8に食い込んだ固着部等、強固な固着部が形成される可能性が高くなり、深いくびれ状欠陥aが生成される可能性も高くなる。従って、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成される凝固シェル12を形成させないように操業することが、深いくびれ状欠陥aが生成される可能性を低くすることにつながると考えた。
【0042】
また、溶湯プール5の直下で大きく深いくびれ状欠陥aが生成された場合、図5に示すように、溶湯プール5とくびれ状欠陥aとの間の鋳塊6の凝固層の比較的薄い部分が破壊されることがある。その場合、溶湯プール5の溶湯が、くびれ状欠陥a内に流入することとなり、そのくびれ状欠陥a内に充填された溶湯が凝固し、二重肌欠陥bとなる。尚、この二重肌欠陥bを形成する溶湯は、元のくびれ状欠陥aの内面には完全には溶着しないため、浸透探傷試験を行うと欠陥部として検出される。
【0043】
従って、前記したような大きく深いくびれ状欠陥aや二重肌欠陥bのような表面欠陥を、発生させないようにするためには、まず、くびれ状欠陥aを発生させないことが重要と考え、その発生条件を探求した。
【0044】
前記したように、くびれ状欠陥aは、溶湯プール5の表層に形成された凝固シェル12が水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成される結果、その凝固シェル12の下方が引っ張り応力を受けることで亀裂が発生し、その亀裂が成長することにより形成される。
【0045】
従って、このようなくびれ状欠陥aの発生を防止するためには、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成される凝固シェル12の形成を抑止することが有効と考えられる。この凝固シェル12は、磁気力と溶湯静圧が釣り合う位置より上側にも形成され、その領域が上方に長くなるほど、亀裂が発生する頻度が増加する。
【0046】
このようなくびれ状欠陥aの生成を抑止するためには、溶湯プール5の流動状況を安定させることが有効である。そのための具体的手段として見出した鋳塊6の製造方法が、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置(3重点位置13)を、高周波コイル4の下端位置と高周波コイル4の高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして鋳塊6を製造することである。次に、その位置関係を求めた理由を図6に基づいて説明する。
【0047】
図6(A)は、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置(3重点位置13)を、高周波コイル4の下端より下の位置として操業した事例である。このような方法で鋳塊6を製造すると、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置での発熱が不足するようになり、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で形成された凝固シェル12を再溶解して除去することが著しく困難となる。
【0048】
また、上方より装入する溶解燃料3の誘導発熱が大きくなり過ぎて、溶解原料3の溶解が促進され、場合によっては、熱が蓄積される溶解原料3の内部の溶解が進み過ぎ、内部(下端)に大きな空洞3aが形成されてしまうこともある。このような状況になると、操業時の溶湯プール5の量が大きく変動することになり、溶湯プール5の湯流れが激しく乱れることになる。更には、電磁気力によって中央部で盛り上がるようにして流動する溶湯の一部が、空洞3a内で溶解原料3の薄い部位に当たって、溶湯プール5と溶解原料3の間に隙間が形成されると、微小な溶滴(スプラッシュ)となって周囲に激しく飛散する。そのスプラッシュが、水冷銅製るつぼ2のスリット8に入り込んだ状態で凝固シェル12が形成されるので、大きく深いくびれ状欠陥aが発生しやすくなる。
【0049】
これに対し、図6(B)〜(D)に示すように、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置(3重点位置13)が、高周波コイル4の下端位置とその高周波コイル4の高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして操業すると、大きく深いくびれ状欠陥aが発生することが殆どない。従って、この方法で鋳塊6を製造すると、健全な大型の鋳塊6を安定して製造することができるといえる。
【0050】
このように、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置が、高周波コイル4の下端位置とその高周波コイル4の高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして操業した場合でも、スプラッシュが飛散することはある。そのスプラッシュの飛散量は、凝固界面位置が高くなるほど、即ち、図6の(B)→(C)→(D)という順序で減少する傾向がある。スプラッシュの飛散量が少なくなると、凝固シェル12の発生量が減少し、くびれ状欠陥aが発生しにくくなる。尚、図6の(B)→(C)→(D)の順序で、溶解原料3に形成される空洞3aが小さくなり、図6(D)においては、空洞3aの形成は殆ど認められない。
【0051】
しかしながら、図6(E)に示すように、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置(3重点位置13)を、高周波コイル4の高さの半分の高さ位置より上の位置として操業を行うと、溶解原料3への誘導加熱が不十分となることで、溶解原料3が溶解されにくくなり、安定した溶解速度を得ることができにくくなり、結果として、鋳塊6の引き抜き操業が困難となる。
【0052】
ここで、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置の違いが、発熱分布に及ぼす影響を評価するため、磁場解析検討を行った。磁場解析は、図7に模式的に示すような、内径φ250mmの水冷銅製るつぼ2において実施した。水冷銅製るつぼ2の内径以外の各寸法は図示しているが、因みに、スリット8の長さは300mmである。尚、以下の説明では、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置は、3重点位置13と称して説明する。
【0053】
まず、3重点位置13を図6(B)に示す位置に設けた場合の磁場解析検討を実施した。図8(A)に示すのが、スリット8を含む縦断面での誘導発熱(ジュール熱)の密度分布であり、図8(B)に示すのが、銅製セグメント7の中央部を含む縦断面での誘導発熱(ジュール熱)の密度分布である。図8によると、3重点位置13の周辺は、点模様で表されており、発熱密度が大きくなっていることが分かる。また、スリット8を含む縦断面では、棒状の溶解原料3でも発熱があることが分かる。
【0054】
この誘導発熱(ジュール熱)の密度分布を高さごとに示したグラフを、図9として示す。このグラフによると、3重点位置13で発熱密度が最も大きくなり、3重点位置13から上下に離れるほど、発熱密度が減少することが分かる。
【0055】
また、3重点位置13を図6(D)に示す位置に設けた場合の磁場解析検討も実施した。その誘導発熱(ジュール熱)の密度分布を高さごとに示したグラフを、図10として示す。3重点位置13は、高周波コイル4の中心により近い位置に設けられているため、スリット8を含む縦断面での発熱密度は大きくなっているが、溶解原料3側(横軸でプラスの側)で発熱密度が急激に低下していることが分かる。
【0056】
この結果は、実際の鋳塊3の製造において、3重点位置13が高くなるに伴い、溶解原料3の溶解が進行しにくくなることと対応しており、また本発明で、高周波コイル4の高さの半分の高さ位置が、3重点位置13、即ち、溶湯プール5と鋳塊6との凝固界面が水冷銅製るつぼ2の内面に接する位置の上限としたことにも対応している。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0058】
コールドクルーシブル誘導溶解装置を用いて、鋳塊を下方に引き抜く方法で鋳塊を製造する試験を実施した。製造される鋳塊の材質は、TiAl合金(Ti−30Al−3Cr−3V−4Mn合金(質量%))である。試験では、高周波コイルのコイル電圧を一定値に保持した条件下で、投入電力の変動に応じて、棒状の溶解原料の降下速度(供給速度)を変化させたり、或いは、鋳塊の引き抜きを一次停止させたりして調整を行い、鋳塊を製造した。
【0059】
コールドクルーシブル誘導溶解装置は、周波数:3000Hz、出力:500kW(Max)の高周波電源を有しており、整合盤を介して、水冷ケーブルにより高周波コイルと接続されている。高周波コイルは水冷銅製るつぼの外周を7周に亘り取り巻いており、その高さは229mmである。水冷銅製るつぼの内径はφ250mmであり、円筒状に組まれた24本の銅製セグメントと、引き抜き機構に取り付けられたるつぼ底より構成されている。銅製セグメント、るつぼ底等の内部には冷却水が流されており、その冷却水の流量は400L/minである。また、コールドクルーシブル誘導溶解装置が収容された真空チャンバーの内容量は10m3である。
【0060】
念のため繰返し説明するが、高周波コイルの高さは229mmであり、本発明で要件としている高周波コイルの半分の高さ位置は114.5mmである。
【0061】
試験体(鋳塊)の製造は、るつぼ底の上面に、溶解開始時のスタート材となる底盤を取り付け、所定のスタート位置に配置した状態で、水冷銅製るつぼの内部に、Ti−30Al−3Cr−3V−4Mn合金(質量%)で成る初期の溶解原料を装入して開始した。
【0062】
追加供給用の溶解原料も初期の溶解原料と同一のTi−30Al−3Cr−3V−4Mn合金(質量%)で成るが、その追加供給用の溶解原料は、複数本の棒状溶解原料を円柱状に束ねたものである。また、その総直径は180mm、長さは1000mmである。この追加供給用の溶解原料は、真空チャンバーの上部に設けられた吊り下げ機構に吊り下げた状態で、その下端部から水冷銅製るつぼの内部に順次供給される。
【0063】
まず、底盤を溶解開始時の所定の高さ位置に配置し、水冷銅製るつぼの内部に塊状の溶解原料を供給した。その後、真空チャンバーの内部の空気を拡散ポンプで6.7×10−2Paになるまで真空排気した後、高純度Arを最高78KPaになるまで充填して不活性ガス雰囲気とした。次に、高周波電源の出力を入れて、100kW(10分間)→200kW(10分間)→260kW(10分間)で保持して、塊状の溶解原料と底盤の上部を溶解し、初期の溶湯プールを形成させた。
【0064】
その後、棒状の溶解原料を下方に押し下げて、その下端部を前記溶湯プール内に浸漬して溶解すると同時に、その溶解量に見合った分だけ鋳塊を下方に引き抜くことで、常時、溶湯プールの量が略一定となるようにして鋳塊の製造を実施した。
【0065】
また、鋳塊を下方に引き抜く際の投入電力は、溶湯プールの量が維持できる下限値よりやや高い電力とし、溶湯プールができるだけ少ない量(目安では15kg程度)で一定となるようにして試験を実施した。具体的な投入電力は表1に示す通りで、溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置が、高周波コイルの下端に近い場合は200〜220kW程度、高周波コイルの中心(半分の高さ位置)に近い場合は140〜180kW程度であった。3重点位置がコイルの中心に近い場合は発熱密度が高くなることから投入電力を低下させる必要があった。
【0066】
以上の条件で、コールドクルーシブル誘導溶解装置を用いて鋳塊を製造する試験を実施し、製造された鋳塊の表面に形成されたくびれ状欠陥の最大深さを測定することで評価を実施した。くびれ状欠陥の最大深さが15mm以内の鋳塊を、使用上問題がないとして合格(○)と評価し、くびれ状欠陥の最大深さが15mmを超える鋳塊を不合格(×)として評価した。
【0067】
また、併せて、くびれ状欠陥発生の原因となるスプラッシュの発生回数と、棒状の溶解原料の内部(下端)に形成される空洞の体積についても測定した。
【0068】
【表1】
【0069】
溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置が、高周波コイルの下端より下の場合(比較例1)は、鋳塊の表面に形成されたくびれ状欠陥の最大深さが、使用上問題がないとした15mmを超えてしまった。
【0070】
また、溶湯プール量を維持するための投入電力は、220kWを超えて240kW程度は必要であり、その結果、溶解時に激しい溶湯飛散(スプラッシュ)が発生することとなり、このスプラッシュが水冷銅製るつぼのスリットに入り込んだ状態で大きな凝固シェルが形成されることが観察された。この凝固シェルが鋳塊と溶着し、鋳塊の引き抜き時に引っ張り応力が作用し、大きなくびれ状欠陥が発生したと考えられる。また、試験終了後の溶解原料を観察したところ、その下端内部に巨大な空洞が形成されていた。
【0071】
溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置を、高周波コイルの下端から0〜60mm未満上方の位置とした場合(実施例1,2)は、鋳塊の表面に形成されたくびれ状欠陥の最大深さは12〜15mmであり、これは使用上問題がないとした15mm以内に収まっている。
【0072】
また、溶湯プール量を維持するための投入電力は、200〜220kW程度で良く、比較例1と比較してスプラッシュの発生量が大幅に減少し、またその発生回数も減少し、水冷銅製るつぼのスリットに入り込んだ状態で形成された凝固シェルも減少していることが観察された。また、溶解原料の下端内部に形成された空洞の大きさも小さくなっていた。
【0073】
溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置を、高周波コイルの下端から60〜114.5mm上方の位置とした場合、(実施例3,4)は、鋳塊の表面に形成されたくびれ状欠陥の最大深さは5〜10mmであり、問題となるくびれ状欠陥は発生していない。
【0074】
また、溶湯プール量を維持するための投入電力は、更に低く140〜200kW程度で良く、スプラッシュの発生量は更に大幅に減少し、またその発生回数も大幅に減少し、水冷銅製るつぼのスリットに入り込んだ状態で形成された凝固シェルも大幅に減少していた。また、溶解原料の下端内部に形成された空洞の大きさも更に小さくなるか、全く形成されていなかった。しかしながら、溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置を、高周波コイルの半分の高さ位置に近づければ近づけるほど、溶湯プール付近での発熱密度が増加するため、溶湯プールが深くなり、鋳塊の凝固層の肉厚が薄くなって、鋳塊の表面にリング状の模様が発生するようになる。
【0075】
一方、溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置を、高周波コイルの半分の高さ位置を超える高さ位置、即ち、高周波コイルの下端から114.5mm超上方の位置とした場合(比較例2)は、鋳塊の表面に形成されたくびれ状欠陥の最大深さが、使用上問題がないとした15mmを超えてしまった。
【0076】
このようにして、溶解原料を溶解した場合、溶解原料の発熱が少なくなって溶解しにくくなるため、投入電力を220kW超とする必要がある。この方法で、鋳塊を製造した場合、スプラッシュの発生は殆どなくなるものの、溶湯プールの流動が激しくなって水冷銅製るつぼのスリットに入り込んだ状態で形成される凝固シェルが増加する。また、投入電力が高くなるので、溶湯プール量も必然的に増加し、鋳塊の凝固層の肉厚が薄くなる。以上のことから、くびれ状欠陥が発生しやすくなる。尚、表1には空洞の体積を−120cm3と示しているが、これは溶解原料に空洞が形成されているのではなく、溶解原料の下端が断面U字状に突出していることを示す。
【0077】
以上の結果、溶湯プールと鋳塊との凝固界面が水冷銅製るつぼの内面に接する位置を、高周波コイルの下端位置と高周波コイルの高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして鋳塊を製造することで、表面欠陥の発生が殆どない鋳塊を製造することができることが確認できた。
【符号の説明】
【0078】
1…るつぼ底
2…水冷銅製るつぼ
3…溶解原料
3a…空洞
4…高周波コイル
5…溶湯プール
6…鋳塊
7…銅製セグメント
8…スリット
9…引き抜き機構
10…底盤
11…吊り下げ機構
12…凝固シェル
13…3重点位置
14…高周波電源
a…くびれ状欠陥
b…二重肌欠陥
A…コールドクルーシブル誘導溶解装置
B…真空チャンバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の銅製セグメントが円筒状に組み合わせて形成されていると共に、その底部には上下方向に移動自在のるつぼ底が配置されて構成された水冷銅製るつぼの内部に、溶解原料を供給し、その水冷銅製るつぼの周囲を取り巻く高周波コイルによる誘導加熱で前記溶解原料を溶解して溶湯プールとし、前記るつぼ底を下方に移動させることにより、そのるつぼ底上の前記溶湯プールを前記高周波コイルによる誘導加熱領域外に引き抜いて凝固させることで鋳塊を製造する鋳塊の製造方法であって、
前記銅製セグメント間に形成されているスリットの下端位置を、前記高周波コイルの下端位置より下方に配置すると共に、
前記溶湯プールと前記鋳塊との凝固界面が前記水冷銅製るつぼの内面に接する位置が、前記高周波コイルの下端位置と前記高周波コイルの高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして、前記鋳塊を製造することを特徴とする鋳塊の製造方法。
【請求項1】
複数本の銅製セグメントが円筒状に組み合わせて形成されていると共に、その底部には上下方向に移動自在のるつぼ底が配置されて構成された水冷銅製るつぼの内部に、溶解原料を供給し、その水冷銅製るつぼの周囲を取り巻く高周波コイルによる誘導加熱で前記溶解原料を溶解して溶湯プールとし、前記るつぼ底を下方に移動させることにより、そのるつぼ底上の前記溶湯プールを前記高周波コイルによる誘導加熱領域外に引き抜いて凝固させることで鋳塊を製造する鋳塊の製造方法であって、
前記銅製セグメント間に形成されているスリットの下端位置を、前記高周波コイルの下端位置より下方に配置すると共に、
前記溶湯プールと前記鋳塊との凝固界面が前記水冷銅製るつぼの内面に接する位置が、前記高周波コイルの下端位置と前記高周波コイルの高さの半分の高さ位置の間に収まるようにして、前記鋳塊を製造することを特徴とする鋳塊の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−269333(P2010−269333A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122341(P2009−122341)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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