説明

鋼の連続鋳造方法および鋼板の製造方法

【課題】気泡や非金属介在物、モールドフラックスの巻き込みによる欠陥が少なく、且つブリスター欠陥が少ない鋼板を製造する。
【解決手段】各々1対の上部磁極と下部磁極を備えるとともに、溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備えた連続鋳造機を用い、前記上部磁極と下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、極低炭素鋼を連続鋳造するに際し、極低炭素鋼の化学成分を、凝固シェル前面の濃度境界層中の界面張力勾配を考慮した特定の範囲に調整するとともに、鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を最適化し、さらに、このような連続鋳造法で鋳造されたスラブを圧延して得られた熱延鋼板を、特定の条件で酸洗および冷間圧延する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁力によって鋳型内の溶鋼流動を制御しながら溶鋼を鋳造する鋼の連続鋳造方法と、この連続鋳造方法で鋳造された鋳片を用いた鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、タンディッシュ内に入れられた溶鋼が、タンディッシュ底部に接続された浸漬ノズルを通じて連続鋳造用鋳型内に注入される。この場合、浸漬ノズルの吐出孔から鋳型内に吐出される溶鋼流に、アルミナクラスターなどの非金属介在物や、上ノズルの内壁面から吹き込まれた不活性ガス(アルミナなどの付着・堆積によるノズル閉塞を防止するために吹き込まれる不活性ガス)の気泡が随伴するが、これが凝固シェルに捕捉されると、製品欠陥(介在物性欠陥、気泡性欠陥)となる。また、メニスカスに達した溶鋼上昇流にモールドフラックス(モールドパウダー)が巻き込まれ、これも凝固シェルに捕捉されることにより製品欠陥となる。
【0003】
従来、溶鋼中の非金属介在物、モールドフラックス、気泡が凝固シェルに捕捉され、製品欠陥となることを防止するために、鋳型内で溶鋼流に磁界を印加し、磁界による電磁気力を利用して溶鋼の流動を制御することが行われており、この技術に関して数多くの提案がなされている。
例えば、特許文献1には、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動する方法が開示されている。この方法は、浸漬ノズルの吐出口から吐出された後、上昇流と下降流に分かれる溶鋼流のうち、下降流を下部の直流磁界で制動し、上昇流を上部の直流磁界で制動することで、溶鋼流に随伴する非金属介在物やモールドフラックスが凝固シェルに捕捉されないようするものである。
【0004】
また、特許文献2には、特許文献1と同じく鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動するとともに、上部磁極または下部磁極に交流磁界を重畳して印加する方法が開示されている。この方法は、特許文献1と同様の直流磁界による溶鋼流の制動を行うとともに、交流磁界による溶鋼の撹拌により、凝固シェル界面での非金属介在物などの洗浄効果を得ようとするものである。
さらに、特許文献3には、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動する方法において、直流磁界の強度、上部電極と下部電極の直流磁界の強度比を特定の数値範囲とする方法が開示されている。
また、特許文献4,5には、凝固シェル前面での溶鋼中のC、S、N、Oの濃度勾配による表面張力を制御することにより、すなわち、表面張力が所定値以下になるように溶鋼中のC、S、N、Oの濃度を調整することにより、気泡の凝固シェルへの捕捉を抑制する連続鋳造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−142049号公報
【特許文献2】特開平10−305353号公報
【特許文献3】特開2008−200732号公報
【特許文献4】特開2003−205349号公報
【特許文献5】特開2003−251438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近、自動車外板用鋼板の品質厳格化に伴い、これまで問題にならなかった微小な気泡や非金属介在物、モールドフラックスの巻き込みに起因する欠陥が問題視されるようになりつつあり、特許文献1〜3に示されるような連続鋳造方法では、そのような厳しい品質要求に十分に対応できない。特に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融めっき後、加熱して母材鋼板の鉄成分を亜鉛めっき層に拡散させるものであり、母材鋼板の表層性状が合金化溶融亜鉛めっき層の品質に大きく影響する。すなわち、母材鋼板の表層に気泡性欠陥や介在物性欠陥或いはモールドフラックス性欠陥があると、小さな欠陥であってもめっき層の厚みにむらが生じ、それが表面に筋状の欠陥として現れ、自動車外板などのような品質要求の厳しい用途には使用できなくなる。
【0007】
また、特許文献4及び特許文献5では、アルミナクラスターなどのような非金属介在物の凝固シェルへの捕捉に関しては、何ら検討されていない。また、溶鋼成分に応じて気泡の凝固シェルへの捕捉が左右されることは示唆されるものの、気泡の捕捉と溶鋼−凝固シェル界面での溶鋼流速との関係が明らかになっておらず、気泡の捕捉を定量的に把握することができない。これは、実際の鋳型内においては、C、S、N、Oの濃度分布による表面張力(=凝固シェルへの捕捉力)と同時に、溶鋼流速による抗力も働いており、凝固シェルへの気泡や非金属介在物の捕捉を検討する場合には、溶鋼−凝固シェル界面での溶鋼流速による抗力も考慮しなければならないからである。
したがって本発明の目的は、上記のような従来技術の課題を解決し、電磁力を利用して鋳型内の溶鋼流動を制御することにより、従来問題とされてきたような非金属介在物やモールドフラックスによる欠陥だけでなく、微小な気泡や非金属介在物、モールドフラックスの巻き込みによる欠陥が少ない高品質の鋳片を得ることができる極低炭素鋼の連続鋳造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、そのような連続鋳造方法で鋳造された鋳片を用い、気泡や非金属介在物、モールドフラックスの巻き込みによる欠陥が少ないだけでなく、ブリスター欠陥が非常に少ない高品質の鋼板を製造することができる鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、電磁力を利用して鋳型内の溶鋼流動を制御する際の諸々の鋳造条件を検討した結果、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、極低炭素鋼の連続鋳造を行う方法において、極低炭素鋼の化学成分を、凝固シェル前面の濃度境界層中の界面張力勾配を考慮した特定の範囲に調整するとともに、鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を最適化することにより、鋳型内の溶鋼を、非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されず且つモールドパウダー巻き込みを生じない適正な流動状態とすることができ、これにより、従来問題とされてきたような非金属介在物やモールドフラックスによる欠陥だけでなく、微小な気泡や非金属介在物、モールドフラックスによる欠陥が少ない高品質の鋳片が得られることを見出した。また、そのような連続鋳造においてより高品質な鋳片を得るために、浸漬ノズルのノズル浸漬深さやノズル内径、スラブ厚さなどに最適範囲があり、その範囲において発明の効果が最も発現しやすいことが判った。
【0009】
上部磁極と下部磁極に各々印加される直流磁界によって鋳型内の溶鋼流動を制御しながらスラブを連続鋳造することにより、モールドフラックスの巻き込みに起因するモールドフラックス性欠陥を防止できるとともに、比較的大きいサイズ(通常、1mmφ以上)の気泡や非金属介在物による欠陥を防止できる。しかし、この連続鋳造法では、より微小な気泡や非金属介在物が凝固シェルに捕捉されるのを確実に防止することは難しく、このような微小気泡や介在物の巻き込みに起因する表面欠陥が生じる恐れがある。これに対して、上記のように極低炭素鋼の化学成分を、凝固シェル前面の濃度境界層中の界面張力勾配を考慮した特定の範囲に調整するとともに、鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を最適化することにより、微小な気泡や非金属介在物が凝固シェルに捕捉されることを抑えることができる。以上により、モールドフラックスの巻き込みを防止するとともに、気泡や非金属介在物の大小を問わず凝固シェルへの捕捉を防止することができ、気泡および非金属介在物やモールドフラックスの巻き込みに起因した表面欠陥が非常に少ない高品質の鋼板を製造することができる。
さらに、以上のような連続鋳造法で鋳造されたスラブを圧延して得られた熱延鋼板を、特定の条件で酸洗および冷間圧延することにより、ブリスターが非常に少ない高品質の鋼板を製造できることが判った。
【0010】
本発明は、これらの知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]鋳型外側に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備えるとともに、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備え、前記上部磁極の磁場のピーク位置と前記下部磁極の磁場のピーク位置の間に前記溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、前記1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、Cを0.003質量%以下含有する極低炭素鋼を連続鋳造するに際し、
下記(1)式で定義されるX値がX≦5000を満足する化学成分を有する溶鋼を、
X=24989×[%Ti]+386147×[%S]+853354×[%O] …(1)
但し [%Ti]:溶鋼中のTi含有量(質量%)
[%S] :溶鋼中のS含有量(質量%)
[%O] :溶鋼中のO含有量(質量%)
鋳造速度0.75m/分以上で、下記条件(イ)、(ロ)に従って連続鋳造し、
・条件(イ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(a)〜(i)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
・条件(ロ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(j)〜(s)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
鋳造されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板とし、該熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するに際し、下記(a)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御することを特徴とする鋼板の製造方法。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(a)
但し Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)
Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)
t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)
T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度(K)(但し、この鋼板表面温度は、酸洗終了後、冷間圧延前に鋼板を加熱した場合の鋼板表面温度を含む。)
【0011】
[2]上記[1]の鋼板の製造方法において、酸洗後、冷間圧延前の熱延鋼板を、酸洗終了直後の鋼板温度よりも高い温度に加熱することを特徴とする鋼板の製造方法。
[3]上記[1]または[2]の鋼板の製造方法において、連続鋳造機の鋳型内の溶鋼は、表面乱流エネルギーが0.0010〜0.0015m/s、表面流速が0.30m/s以下、溶鋼−凝固シェル界面での流速が0.08〜0.15m/sであることを特徴とする鋼板の製造方法。
[4]上記[3]の鋼板の製造方法において、連続鋳造機の鋳型内の溶鋼は、表面流速が0.05〜0.30m/sであることを特徴とする鋼板の製造方法。
[5]上記[3]または[4]の鋼板の製造方法において、連続鋳造機の鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での流速Aと表面流速Bとの比A/Bが1.0〜2.0であることを特徴とする鋼板の製造方法。
[6]上記[3]〜[5]のいずれかの鋼板の製造方法において、連続鋳造機の鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度が0.008kg/m以下であることを特徴とする鋼板の製造方法。
[7]上記[6]の鋼板の製造方法において、連続鋳造機で鋳造されるスラブ厚さが220〜300mm、連続鋳造機の浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量が3〜25NL/分であることを特徴とする鋼板の製造方法。
[8]上記[1]〜[7]のいずれかの鋼板の製造方法において、連続鋳造機の浸漬ノズルのノズル浸漬深さを230〜290mmとすることを特徴とする鋼板の製造方法。
[9]上記[1]〜[8]のいずれかの鋼板の製造方法において、連続鋳造機の浸漬ノズルのノズル内径(但し、溶鋼吐出孔の形成位置でのノズル内径)を70〜90mmとすることを特徴とする鋼板の製造方法。
[10]上記[1]〜[9]のいずれかの鋼板の製造方法において、連続鋳造機の浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積を3600〜8100mmとすることを特徴とする鋼板の製造方法。
【0012】
[11]鋳型外側に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備えるとともに、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備え、前記上部磁極の磁場のピーク位置と前記下部磁極の磁場のピーク位置の間に前記溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、前記1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、Cを0.003質量%以下含有する極低炭素鋼を連続鋳造する方法であって、
下記(1)式で定義されるX値がX≦5000を満足する化学成分を有する溶鋼を、
X=24989×[%Ti]+386147×[%S]+853354×[%O] …(1)
但し [%Ti]:溶鋼中のTi含有量(質量%)
[%S] :溶鋼中のS含有量(質量%)
[%O] :溶鋼中のO含有量(質量%)
鋳造速度0.75m/分以上で、下記条件(イ)、(ロ)に従って連続鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
・条件(イ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(a)〜(i)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
・条件(ロ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(j)〜(s)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
【0013】
[12]上記[11]の連続鋳造方法において、鋳型内の溶鋼は、表面乱流エネルギーが0.0010〜0.0015m/s、表面流速が0.30m/s以下、溶鋼−凝固シェル界面での流速が0.08〜0.15m/sであることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
[13]上記[12]の連続鋳造方法において、鋳型内の溶鋼は、表面流速が0.05〜0.30m/sであることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
[14]上記[12]または[13]の連続鋳造方法において、鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での流速Aと表面流速Bとの比A/Bが1.0〜2.0であることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
[15]上記[12]〜[14]のいずれかの連続鋳造方法において、鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度が0.008kg/m以下であることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
[16]上記[15]の連続鋳造方法において、鋳造されるスラブ厚さが220〜300mm、浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量が3〜25NL/分であることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
[17]上記[11]〜[16]のいずれかの連続鋳造方法において、浸漬ノズルのノズル浸漬深さを230〜290mmとすることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
[18]上記[11]〜[17]のいずれかの連続鋳造方法において、浸漬ノズルのノズル内径(但し、溶鋼吐出孔の形成位置でのノズル内径)を70〜90mmとすることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
[19]上記[11]〜[18]のいずれかの連続鋳造方法において、浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積を3600〜8100mmとすることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鋼の連続鋳造方法によれば、極低炭素鋼の化学成分を、凝固シェル前面の濃度境界層中の界面張力勾配を考慮した特定の範囲に調整するとともに、鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を最適化することにより、従来問題とされてきたような非金属介在物やモールドフラックスによる欠陥だけでなく、微小な気泡や非金属介在物による欠陥が少ない高品質の鋳片を得ることができる。
また、特に、浸漬ノズルのノズル浸漬深さ、ノズル内径、溶鋼吐出孔の開口面積を最適化することにより、より高品質な鋳片を得ることができる。
また、本発明の鋼板の製造方法によれば、気泡や非金属介在物、モールドフラックスの巻き込みによる欠陥が少ないだけでなく、ブリスターが非常に少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施に供される連続鋳造機の鋳型および浸漬ノズルの一実施形態を示す縦断面図
【図2】図1の実施形態における鋳型および浸漬ノズルの水平断面図
【図3】浸漬ノズルの溶鋼吐出角度と表面欠陥の発生率(欠陥指数)との関係を示すグラフ
【図4】溶鋼のX値と、溶鋼−凝固シェル界面での溶鋼流速と、凝固シェルへの非金属介在物の捕捉率との関係を示すグラフ
【図5】本発明法において、浸漬ノズルのノズル浸漬深さの影響(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥に及ぼす影響)を示すグラフ
【図6】本発明法において、浸漬ノズルのノズル内径の影響(モールドフラックス性欠陥に及ぼす影響)を示すグラフ
【図7】本発明法において、浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積の影響(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥に及ぼす影響)を示すグラフ
【図8】鋳型内の溶鋼の表面乱流エネルギー、凝固界面流速(溶鋼−凝固シェル界面での流速)、表面流速および凝固界面気泡濃度(溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度)を説明するための概念図
【図9】鋳型内の溶鋼の表面乱流エネルギーと表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【図10】鋳型内の溶鋼の表面流速と表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【図11】鋳型内の溶鋼の凝固界面流速(溶鋼−凝固シェル界面での流速)と表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【図12】鋳型内の溶鋼の凝固界面流速Aと表面流速Bとの比A/Bと表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【図13】鋳型内の溶鋼の凝固界面気泡濃度(溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度)と表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【図14】熱延鋼板の酸洗減量と酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoとの関係を示すグラフ
【図15】Hoを酸洗終了直後における熱延鋼板中の水素濃度、Tを同じく鋼板表面温度とした場合、Ho・exp{−0.002×(T+t/100)}と酸洗終了から時間tを経過した時点での鋼板中の水素濃度Hとの関係を示すグラフ
【図16】冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hとブリスター欠陥発生個数との関係を、冷間圧延の仕上げ板厚で整理して示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の連続鋳造方法は、鋳型外側(鋳型側壁の背面)に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備えるとともに、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度αが10°以上30°未満の浸漬ノズルを備え、前記上部磁極の磁場のピーク位置と前記下部磁極の磁場のピーク位置の間に前記溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、前記1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、極低炭素鋼の連続鋳造を行うものである。
【0017】
上記のような連続鋳造方法において、本発明者が数値シミュレーション等により検討した結果、気泡性欠陥、介在物性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の発生に関与する因子(一次因子)としては、表面乱流エネルギー(表面近傍での渦流の発生に関与)、溶鋼−凝固シェル界面(以下、単に「凝固界面」という場合がある)の溶鋼流速(以下、単に「凝固界面流速」という場合がある)、表面流速があり、これらが欠陥発生に影響していることが判った。また特に、表面流速、表面乱流エネルギーは、モールドフラックスの巻き込みに影響を与え、凝固界面流速は気泡性欠陥や介在物性欠陥に影響を与えることが判った。そして、これらの知見に基づき、印加される上部直流磁界、下部直流磁界の各々作用について検討した結果、以下の点が明らかとなった。
【0018】
(1)上部電極に直流磁界を作用させると溶鋼の上昇流(溶鋼吐出孔からの噴流がモールド短辺と衝突して反転することで生じる上昇流)が制動され、表面流速および表面乱流エネルギーを低減することができる。但し、このような直流磁界だけでは、表面流速、表面乱流エネルギーおよび凝固界面流速を理想的状態にコントロールすることはできない。
(2)上記の点から、上部磁極において直流磁界を印加することは、気泡性欠陥・介在物性欠陥とモールドフラックス性欠陥の両方を防止するのに有効であると考えられるが、単に直流磁界を印加しただけでは十分な効果は得られず、鋳造条件(鋳造するスラブ幅、鋳造速度)、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の印加条件が相互に関連し、それらに最適範囲が存在する。
(3)特に、微細な非金属介在物などが凝固シェルに捕捉されることを防止するには、溶鋼の化学成分を、溶鋼−凝固シェル界面において非金属介在物などが凝固シェルに捕捉されにくい成分範囲(すなわち、凝固シェル前面の濃度境界層中の界面張力勾配を考慮した特定の範囲)に調整し、その上で、上記のような直流磁界強度の最適化によって凝固界面流速を適正化し、溶鋼流による洗浄効果を得ることが必要である。
【0019】
本発明はこのような知見に基づき、下記条件(A)、(B)により極低炭素鋼の連続鋳造を行うものであり、これにより、気泡性欠陥・介在物性欠陥とモールドフラックス性欠陥の発生をともに効果的に抑制することを可能としたものである。
・条件(A):溶鋼(極低炭素鋼)の化学成分を、凝固シェル前面の濃度境界層中の界面張力勾配を考慮した特定の範囲に調整する。
・条件(B):鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を最適化する。
【0020】
図1および図2は、本発明の実施に供される連続鋳造機の鋳型および浸漬ノズルの一実施形態を示すもので、図1は鋳型および浸漬ノズルの縦断面図、図2は同じく水平断面図(図1のII−II線に沿う断面図)である。
図において、1は鋳型であり、この鋳型1は鋳型長辺部10(鋳型側壁)と鋳型短辺部11(鋳型側壁)とにより水平断面矩形状に構成されている。
2は浸漬ノズルであり、この浸漬ノズル2を通じて鋳型1の上方に設置されたタンディッシュ(図示せず)内の溶鋼を鋳型1内に注入する。この浸漬ノズル2は、筒状のノズル本体の下端に底部21を有するとともに、この底部21の直上の側壁部に、両鋳型短辺部11と対向するように1対の溶鋼吐出孔20が貫設されている。
溶鋼中のアルミナなどの非金属介在物が浸漬ノズル2の内壁面に付着・堆積してノズル閉塞を生じることを防止するため、浸漬ノズル2のノズル本体内部や上ノズル(図示せず)の内部に設けられたガス流路にArガスなどの不活性ガスが導入され、この不活性ガスがノズル内壁面からノズル内に吹き込まれる。
【0021】
タンディッシュから浸漬ノズル2に流入した溶鋼は、浸漬ノズル2の1対の溶鋼吐出孔20から鋳型1内に吐出される。吐出された溶鋼は、鋳型1内で冷却されて凝固シェル5を形成し、鋳型1の下方に連続的に引き抜かれ鋳片となる。鋳型1内のメニスカス6には、溶鋼の保温剤および凝固シェル5と鋳型1との潤滑剤として、モールドフラックスが添加される。
また、浸漬ノズル2の内壁面や上ノズルの内部から吹き込まれた不活性ガスの気泡は、溶鋼吐出孔20から溶鋼とともに鋳型1内に吐出される。
【0022】
鋳型1の外側(鋳型側壁の背面)には、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極3a,3bと1対の下部磁極4a,4bが設けられ、これら上部磁極3a,3bと下部磁極4a,4bは、それぞれ鋳型長辺部10の幅方向において、その全幅に沿うように配置されている。
上部磁極3a,3bと下部磁極4a,4bは、鋳型1の上下方向において、上部磁極3a,3bの磁場のピーク位置(上下方向でのピーク位置:通常は上部磁極3a,3bの上下方向中心位置)と下部磁極4a,4bの磁場のピーク位置(上下方向でのピーク位置:通常は下部磁極4a,4bの上下方向中心位置)の間に溶鋼吐出孔20が位置するように、配置される。また、1対の上部磁極3a,3bは、通常、メニスカス6をカバーする位置に配置される。
【0023】
浸漬ノズル2の溶鋼吐出孔20から鋳型短辺部方向に吐出された溶鋼は、鋳型短辺部11の前面に生成した凝固シェル5に衝突して下降流と上昇流に分かれる。前記1対の上部磁極3a,3bと1対の下部磁極4a,4bには、各々直流磁界が印加されるが、これら磁極による基本的な作用は、直流磁界中を移動する溶鋼に作用する電磁気力を利用して、上部磁極3a,3bに印加される直流磁界で溶鋼上昇流を制動(減速させる)し、下部磁極4a,4bに印加される直流磁界で溶鋼下降流を制動(減速させる)するものである。
【0024】
本発明法では、溶鋼吐出孔20からの溶鋼吐出角度α、すなわち水平方向から下向きの溶鋼吐出角度αが10°以上30°未満の浸漬ノズルを用いる。溶鋼吐出角度αが10°未満では、上部磁極3a,3bの直流磁界で溶鋼上昇流を制動しても、溶鋼表面の乱れを適切に制御できず、モールドフラックスの巻き込みを生じてしまう。これに対して、溶鋼吐出角度αが大きくなると、非金属介在物や気泡が溶鋼下降流によって鋳型下方に運ばれて凝固シェルに捕捉されやすくなり、一方において、溶鋼吐出角度αが30°未満では、本発明法による直流磁場制御で溶鋼流を最適化できることが判ったので、本発明では溶鋼吐出角度αが30°未満の浸漬ノズル2を用いる。また、以上の観点から、溶鋼吐出角度αのより好ましい下限は15°であり、また、より好ましい上限は25°である。
【0025】
図3は、浸漬ノズルの溶鋼吐出角度αと表面欠陥の発生率(欠陥指数)との関係を示すもので、溶鋼成分と後述する条件(イ)、(ロ)での磁界強度、鋳造速度およびスラブ幅が本発明範囲を満足する種々の条件で連続鋳造試験を行い、この連続鋳造されたスラブを熱間圧延および冷間圧延して鋼板とし、この鋼板に合金化溶融亜鉛めっき処理を施し、溶鋼吐出角度αが表面欠陥の発生に及ぼす影響を調べたものである。この試験では、合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、オンライン表面欠陥計で表面欠陥を連続的に測定し、そのなかから欠陥外観およびSEM分析、ICP分析等により製鋼性欠陥(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥・介在物性欠陥)を判別し、コイル長さ100m当たりの欠陥個数を下記基準で評価し、表面欠陥指数とした。
3:欠陥個数が0.30個以下
2:欠陥個数が0.30個超、1.00個以下
1:欠陥個数が1.00個超
【0026】
以下、さきに挙げた条件(A)、(B)について順に説明する。
・条件(A)について
本発明では、C:0.003質量%以下、下記(1)式で定義されるX値がX≦5000を満足する化学成分の溶鋼を鋳造の対象とする。
X=24989×[%Ti]+386147×[%S]+853354×[%O] …(1)
但し [%Ti]:溶鋼中のTi含有量(質量%)
[%S] :溶鋼中のS含有量(質量%)
[%O] :溶鋼中のO含有量(質量%)
【0027】
C含有量が0.003質量%以下であるような極低炭素鋼は、転炉における大気下での脱炭精錬と、RH真空脱ガス装置などの真空脱ガス設備における減圧下での脱炭精錬(以下、「真空脱炭精錬」という)を経て溶製される。脱炭精錬は溶鋼中の溶存酸素濃度が或る程度高くならないと進行せず、したがって、脱炭精錬終了時には溶鋼中に多くの溶存酸素が残留する。このように多くの溶存酸素が残留したままでは鋼の清浄性が劣化するので、極低炭素鋼の溶製工程においては、真空脱炭精錬が終了した後に溶鋼中に金属Alが添加され、溶鋼は脱酸処理される。この脱酸処理により、溶鋼中の溶存酸素濃度は急激に低下し、脱酸生成物としてアルミナが形成される。
【0028】
このようにして生成したアルミナは、鋳造のために溶鋼が鋳型内に注入されるまでの間に、凝集してアルミナクラスターを形成する。溶鋼中に含まれる非金属介在物(以下、単に「介在物」という)の大半がアルミナクラスターである。このような介在物が溶鋼とともに鋳型内に注入されて鋳片の凝固シェルに捕捉されると、極低炭素鋼鋳片の表面欠陥となり、鋳片の品質が低下する。
本発明者らは、介在物の凝固シェルへの捕捉に及ぼす溶鋼の化学成分及び凝固シェル前面での溶鋼流速の影響について詳細な検討を行い、その結果、溶鋼(C:0.003質量%以下の極低炭素鋼)の化学成分をX値≦5000とし、後述する条件(B)によって溶鋼の流動状態を制御し、凝固界面流速を適正化することにより、介在物などの凝固シェルへの捕捉を効果的に抑制できることを見出した。
【0029】
上記X値は、鋳型内の凝固シェル前面に形成される溶質元素(Ti,S,O)の濃度境界層に侵入した介在物に働く、界面張力勾配による凝固シェル方向への引力の尺度を示している。
以下、このX値が導かれた理由を説明する。
刊行物「鉄と鋼 Vol.80(1994)」p.527に示されるように、凝固シェル前面の濃度境界層中の界面張力勾配K、すなわちdσ/dx(σ:界面張力、x:距離)によって介在物が凝固シェル方向に受ける力Fは、下記(2)式で表される。
F=−(8/3)×πRK …(2)
但し F:介在物の受ける力(N)
π:円周率
R:介在物の半径(m)
K:界面張力勾配(N/m
【0030】
界面張力勾配Kは、下記(3)式に示すように、界面張力の溶質元素濃度による変化と成分の濃度勾配との積である。
K=dσ/dx=(dσ/dc)×(dc/dx) …(3)
但し σ:溶鋼と介在物の界面張力(N/m)
x:凝固界面からの距離(m)
dσ/dc:界面張力の溶質元素濃度による変化(N/m/質量%)
dc/dx:成分の濃度勾配(質量%/m)
凝固理論から、鋳型内のような溶鋼流速が存在する条件下での成分の濃度勾配dc/dxは下記(4)式で表される。
dc/dx=−C×(1−K)×(V/D)×exp[−V×(x−δ)/D] …(4)
但し C:鋳造前の溶鋼中の溶質元素濃度(質量%)
:溶質元素の分配係数(−)
:凝固速度(m/s)
D:溶鋼中での溶質元素の拡散係数(m/s)
δ:濃度境界層の厚み(m)
【0031】
上記(4)式において、x=δを代入すると、x=δでの濃度勾配(dc/dx)は下記(5)式で求められる。
dc/dx=−C×(1−K)×(V/D) …(5)
この(5)式を上記(3)式に代入することにより、介在物が濃度境界層に侵入した直後に作用する力の尺度を示す界面張力勾配Kを下記(6)式により求めることができる。
K=(dσ/dc)×[−C×(1−K)×(V/D)] …(6)
【0032】
ここで、上記(6)式に示すdσ/dcは、刊行物「溶鉄と溶滓の物性値便覧」(日本鉄鋼協会編,1972年)などに示されており、極低炭素鋼の化学成分元素のなかで界面張力勾配Kの値に大きな影響を及ぼす元素は、Ti(チタン)、S(硫黄)、O(酸素=溶存酸素)であり、これらの活性元素だけで計算した界面張力勾配Kの値を用いても、介在物の凝固シェルへの捕捉を検討する上で問題ないことが判った。
また、溶質元素の分配係数Kは、例えば、刊行物「第3版
鉄鋼便覧I基礎」(日本鉄鋼協会編,1981年)p.194などに記載されているが、上記各溶質元素の分配係数Kは刊行物「鉄と鋼 Vol.80(1994)」p.534に記載の値を用いた。
拡散係数Dは、例えば、刊行物「溶鉄・溶滓の物性値便覧」(日本鉄鋼協会編,1992年)などに記載されているが、OとSについては刊行物「鉄と鋼 Vol.80(1994)」p.534に記載の値を用い、Tiについては刊行物「鉄と鋼 Vol.83(1997)」p.566に記載の値を用いた。
また、凝固速度Vは伝熱計算から求めることができる。Vは0.0002m/sを用いて計算した。
【0033】
Ti(チタン)、S(硫黄)、O(酸素=溶存酸素)のdσ/dc、K、D、Vsは、表1の値を使用した。
【表1】

したがって、上記それぞれの溶質元素の界面張力の溶質元素濃度による変化dσ/dc、分配係数K、拡散係数D、鋳型内における凝固速度Vを上記(6)式に代入することにより、濃度境界層においてアルミナクラスターに働く、Ti、S及びOによる界面張力勾配Kとして、24989×[%Ti]、386147×[%S]、853354×[%O]がそれぞれ得られ、これら界面張力勾配Kの総和がX値となる。
【0034】
種々の組成の溶鋼を使用した鋳造試験により、上記X値と介在物の凝固シェルへの捕捉率との関係を調べた。この試験では、鋳型内の凝固界面流速が0.01m/s、0.08m/s、0.10m/s、0.15m/sである場合について、それぞれの凝固界面流速におけるX値と介在物の捕捉率との関係を調べた。ここで、介在物の捕捉率とは、下記(7)式に示すように、凝固シェルでの介在物指数を溶鋼中での介在物指数で除算した値であり、単位介在物濃度あたりの捕捉の頻度を示す値である。
α=I/A …(7)
但し α:介在物の捕捉率(−)
I:凝固シェルでの介在物指数(−)
A:溶鋼中での介在物指数(−)
【0035】
なお、介在物指数とは、介在物の長軸及び短軸を光学顕微鏡で測定して、楕円体としての面積を算出し、観測された介在物の面積を総和した値を、測定面積で除算した値であり、単位測定面積中に介在物がどの程度含まれているかを示す指標である。溶鋼中での介在物指数は、溶鋼から採取した試料中の介在物を測定することで算出できる。
上記の試験結果を図4に示すが、X値≦5000であれば、或る程度の凝固界面流速を与えることにより、凝固シェルへの介在物の捕捉が抑えられることが判る。また、そのような効果はX値≦4000、特にX値≦3000で大きい。したがって、溶鋼の化学成分をX値≦5000(好ましくはX値≦4000、特に好ましくはX値≦3000)とし、後述する条件(B)によって凝固界面流速を与えることにより、介在物(特に、微小な介在物)などの凝固シェルへの捕捉を適切に防止することができる。なお、溶鋼(極低炭素鋼)の化学成分上の制約から、通常、X値は2000程度が実質的な下限となる。
【0036】
本発明が鋳造する溶鋼の化学成分は、C含有量が0.003質量%以下で且つX値≦5000であれば、含有元素に特別な制限はないが、本発明の効果を特に有効に得るという観点からは、C以外の化学成分として、Si:0.05質量%以下、Mn:1.0質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.015質量%以下、Al:0.010〜0.075質量%、Ti:0.005〜0.05質量%を含有し、さらに必要に応じて、Nb:0.005〜0.05質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学成分が好ましい。
【0037】
以下、上記化学成分の限定理由を説明する。
Cは、その含有量が高くなると薄鋼板の加工性を劣化させる。このため、TiやNbなどの炭化物形成元素を添加したときに、IF鋼(Interstitial-Free steel)として優れた伸びと深絞り性を得ることができる0.003質量%以下とした。
Siは固溶強化元素であり、含有量が多いと薄鋼板の加工性が劣化する。また、表面処理への影響も考慮し、0.05質量%を上限とすることが好ましい。
Mnは固溶強化元素であり、鋼の強度を増加させるが、一方において加工性を低下させるので、1.0質量%を上限とすることが好ましい。
【0038】
Pは固溶強化元素であり、鋼の強度を増加させるが、0.05質量%を超えると加工性や溶接性が劣化するため、0.05質量%を上限とすることが好ましい。
Sは熱間圧延時に割れの原因となり、また、薄鋼板の加工性を低下させるA系介在物を生成するので、その含有量は可能な限り低減することが好ましく、このため0.015質量%を上限とすることが好ましい。
Alは脱酸剤として機能し、脱酸効果を得るためには0.010質量%以上含有させることが好ましが、必要以上のAl添加はコストアップを招くので、その含有量は0.010〜0.075質量%とすることが好ましい。
Tiは、鋼中のC、N、Sを析出物として固定し、加工性や深絞り性を向上させるが、含有量が0.005質量%未満では、その効果が乏しい。一方、Tiは析出強化元素でもあるため、含有量が0.05質量%を超えると鋼板が硬くなり、加工性が劣化する。このためTi含有量は0.005〜0.05質量%とすることが好ましい。
【0039】
Nbは、Tiと同様に鋼中のC、N、Sを析出物として固定し、加工性や深絞り性を向上させるが、含有量が0.005質量%未満では、その効果が乏しい。一方、Nbは析出強化元素であるため、含有量が0.05質量%を超えると鋼板が硬くなり、加工性の劣化が生じる。このためNb含有量は0.005〜0.05質量%とすることが好ましい。
【0040】
・条件(B)について
上述した化学成分(X値≦5000)を有する溶鋼の鋳造では、鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を、基本的に次の(I),(II)のように最適化すればよいことが判った。
(I)各スラブ幅に対応して設定される鋳造速度が相対的に小さい「スラブ幅−鋳造速度」領域: スループット量が相対的に少ないので、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔からの噴流速度も相対的に小さい。このため上昇流(反転流)も小さくなるので、上昇流を制動するための上部磁極の直流磁界の強度を相対的に小さくする。一方、下降流に随伴する介在物や気泡が下方向に潜り込むことを抑制するとともに、下向きの溶鋼の流れを上向きに変え、下部磁界よりも上の領域での凝固界面流速を増加させることで、介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されないようにするため、下部磁極の直流磁界の強度を十分に大きくする。溶鋼の化学成分をX値≦5000とする条件下で、以上のような直流磁界を印加することにより、表面乱流エネルギー、凝固界面流速および表面流速を適正範囲に制御し、気泡性欠陥・介在物性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の発生を防止する。
【0041】
(II)各スラブ幅に対応して設定される鋳造速度が相対的に大きい「スラブ幅−鋳造速度」領域: スループット量が相対的に大きいので、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔からの噴流速度も相対的に大きい。このため上昇流(反転流)も大きくなるので、上昇流を制動するための上部磁極の直流磁界の強度を相対的に大きくする。一方、上記(I)と同様に、下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込むことを抑制するとともに、下向きの溶鋼の流れを上向きに変え、下部磁界よりも上の領域での凝固界面流速を増加させることで、非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されないようにするため、下部磁極の直流磁界の強度を十分に大きくする。溶鋼の化学成分をX値≦5000とする条件下で、以上のような直流磁界を印加することにより、表面乱流エネルギー、凝固界面流速および表面流速を適正範囲に制御し、気泡性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の発生を防止する。
【0042】
本発明法では、生産性の観点から鋳造速度を0.75m/分以上とするが、さらに、鋳造するスラブ幅と鋳造速度に応じて、上部磁極3a,3bと下部磁極4a,4bに各々印加する直流磁界の強度を、下記条件(イ)、(ロ)のように最適化することにより、モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥・介在物性欠陥の原因となる、凝固シェル5へのモールドフラックスの巻き込み捕捉と、同じく微小気泡(主に浸漬ノズル内壁面から吹き込まれた不活性ガスの気泡)や介在物の捕捉を抑制するものである。
【0043】
条件(イ): 鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(a)〜(i)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
【0044】
浸漬ノズル2から吐出した溶鋼流が鋳型短辺部側の凝固シェルに衝突し、上方側への反転流と下方側への下降流が生じるが、上記(a)〜(i)のように各スラブ幅に対応して設定される鋳造速度が相対的に小さい場合(条件(ロ)と比較して)には、スループット量が相対的に少ないので、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔からの噴流速度も相対的に小さい。このため上昇流(反転流)も小さくなるので、上昇流を制動するための上部磁極3a,3bの直流磁界の強度を相対的に小さくする。一方、下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込むことを抑制するとともに、下向きの溶鋼の流れを上向きに変え、下部磁界よりも上の領域での凝固界面流速を増加させることで、非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されないようにするため、下部磁極4a,4bの直流磁界の強度を十分に大きくする。特に、溶鋼の化学成分をX値≦5000とする条件下で、以上のような直流磁界を印加し、溶鋼に凝固界面流速を付与することにより、微細な介在物や気泡であっても凝固シェルへの捕捉を適切に防止できる。
【0045】
上記(a)〜(i)の場合、上部磁極3a、3bの直流磁界の強度が0.03T未満では、その直流磁界による溶鋼上昇流の制動効果が不十分で湯面変動が大きく、モールドフラックスの巻き込みが生じやすい。一方、強度が0.15Tを超えると、溶鋼上昇流による洗浄効果が低下するため非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されやすくなる。
また、下部磁極4a,4bの直流磁界の強度が0.24T未満では、その直流磁界による溶鋼下降流の制動効果が不十分であるため、溶鋼下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込み、凝固シェルに捕捉されやすくなる。一方、強度が0.45Tを超えると、溶鋼下降流による洗浄効果が低下するため非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されやすくなる。
【0046】
条件(ロ): 鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(j)〜(s)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
【0047】
上記(j)〜(s)のように各スラブ幅に対応して設定される鋳造速度が相対的に大きい場合(条件(イ)と比較して)には、必然的にスループット量が相対的に多くなるので、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔からの噴流速度も相対的に大きい。このため上昇流(反転流)も大きくなるので、したがって、上昇流を制動するための上部磁極3a,3bの直流磁界の強度を相対的に大きくする。一方、条件(イ)の場合と同様に、下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込むことを抑制するとともに、下向きの溶鋼の流れを上向きに変え、下部磁界よりも上の領域での凝固界面流速を増加させることで、非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されないようにするため、下部磁極4a,4bの直流磁界の強度を十分に大きくする。特に、溶鋼の化学成分をX値≦5000とする条件下で、以上のような直流磁界を印加し、溶鋼に凝固界面流速を付与することにより、微細な介在物や気泡であっても凝固シェルへの捕捉を適切に防止できる。
【0048】
上記(j)〜(s)の場合、上部磁極3a、3bの直流磁界の強度が0.15T以下では、その直流磁界による溶鋼上昇流の制動効果が不十分で湯面変動が大きく、モールドフラックスの巻き込みが生じやすい。一方、強度が0.30Tを超えると、溶鋼上昇流による洗浄効果が低下するため非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されやすくなる。
また、下部磁極4a,4bの直流磁界の強度が0.24T未満では、その直流磁界による溶鋼下降流の制動効果が不十分であるため、溶鋼下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込み、凝固シェルに捕捉されやすくなる。一方、強度が0.45Tを超えると、溶鋼下降流による洗浄効果が低下するため非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されやすくなる。
【0049】
なお、以上述べた本発明の連続鋳造方法は、スラブ幅と鋳造速度に応じて規定される、下記(i)、(ii)のような2つの連続鋳造方法として捉えることもできる。
(i) 鋳型外側に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備えるとともに、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備え、前記上部磁極の磁場のピーク位置と前記下部磁極の磁場のピーク位置の間に前記溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、前記1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、Cを0.003質量%以下含有する極低炭素鋼を連続鋳造する方法であって、
下記(1)式で定義されるX値がX≦5000を満足する化学成分を有する溶鋼を、
X=24989×[%Ti]+386147×[%S]+853354×[%O] …(1)
但し [%Ti]:溶鋼中のTi含有量(質量%)
[%S] :溶鋼中のS含有量(質量%)
[%O] :溶鋼中のO含有量(質量%)
鋳造速度0.75m/分以上で、スラブ幅と鋳造速度を下記(a)〜(i)のいずれかの条件とし、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとして連続鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
【0050】
(ii) 鋳型外側に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備えるとともに、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備え、前記上部磁極の磁場のピーク位置と前記下部磁極の磁場のピーク位置の間に前記溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、前記1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、Cを0.003質量%以下含有する極低炭素鋼を連続鋳造する方法であって、
下記(1)式で定義されるX値がX≦5000を満足する化学成分を有する溶鋼を、
X=24989×[%Ti]+386147×[%S]+853354×[%O] …(1)
但し [%Ti]:溶鋼中のTi含有量(質量%)
[%S] :溶鋼中のS含有量(質量%)
[%O] :溶鋼中のO含有量(質量%)
鋳造速度0.75m/分以上で、スラブ幅と鋳造速度を下記(j)〜(s)のいずれかの条件とし、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとして連続鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
【0051】
以下、本発明法において、発明の効果が最も発現しやすい、特に好ましい鋳造条件について説明する。
まず、浸漬ノズル2のノズル浸漬深さは230〜290mmとすることが好ましい。ここで、ノズル浸漬深さとは、メニスカス6から溶鋼吐出孔20上端までの距離をいう。
このノズル浸漬深さが、本発明の効果に影響を及ぼすのは、ノズル浸漬深さが大きすぎても、小さすぎても、浸漬ノズル2から吐出される溶鋼の流動量や流速が変化したときに、鋳型内での溶鋼の流動状態が大きく変化するため、溶鋼流の適切な制御が難しくなるためである。すなわち、ノズル浸漬深さが230mm未満では、浸漬ノズル2から吐出される溶鋼の流動量や流速が変化したときに、ダイレクトに溶鋼表面(メニスカス)が変動し、表面の乱れが大きくなってモールドフラックスの巻き込みが起こり易くなり、一方、290mmを超えると、溶鋼の流動量などが変動したときに、下方への流速が大きくなって非金属系介在物や気泡の潜り込みが大きくなる傾向がある。
【0052】
図5は、本発明法において、浸漬ノズル2のノズル浸漬深さの影響(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥に及ぼす影響)を調べた結果を示すものであり、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の溶鋼吐出角度α:15°、スラブ幅:1200mm、スラブ厚さ:260mm、鋳造速度:1.8m/分、上部磁極の直流磁界の強度:0.12T、下部磁極の直流磁界の強度:0.38Tの鋳造条件による試験結果を示している。その他の鋳造条件は、浸漬ノズル内径:80mm、浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積:4900mm(70mm*70mm)、浸漬ノズル内壁面からの不活性ガス吹き込み量:12L/min、使用したモールドフラックスの粘度(1300℃):0.6cpである。
鋳造されたスラブについて、超音波探傷装置を用い、スラブ表層2〜3mmの深さ位置に存在する粒径が概ね80μm以上の気泡性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の個数を測定し、欠陥発生の程度を指数化したものである。図5によれば、本発明法において、特に、浸漬ノズル2のノズル浸漬深さを230〜290mmとすることにより、気泡性欠陥、モールドフラックス性欠陥がより効果的に低減していることが判る。
【0053】
また、浸漬ノズル2のノズル内径、すなわち溶鋼吐出孔20の位置でのノズル内径は70〜90mmとすることが好ましい。浸漬ノズル2の内側にアルミナなどが部分的に付着した場合に、浸漬ノズル2から吐出する溶鋼に偏流(幅方向での流速の対称性が悪くなる)が生じることがあり、ノズル内径が70mm未満では、そのような場合に偏流が極端に大きくなる恐れがある。このような極端な偏流が生じると、鋳型内での溶鋼流の制御が適切に行えなくなる。一方、浸漬ノズル2に流れる溶鋼量の調整は、浸漬ノズル2の上方のスライディングノズルの開度調整により行われるが、ノズル内径が90mmを超えるとノズル内部に溶鋼が充填されない部分が生じる恐れがあり、この場合も上記と同じような極端な偏流が生じ、鋳型内での溶鋼流の制御が適切に行えなくなる恐れがある。
【0054】
図6は、本発明法において、浸漬ノズル2のノズル内径の影響(モールドフラックス性欠陥に及ぼす影響)を調べた結果を示すものであり、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の溶鋼吐出角度α:15°、スラブ幅:1300mm、スラブ厚さ:260mm、鋳造速度:2.5m/分、上部磁極の直流磁界の強度:0.16T、下部磁極の直流磁界の強度:0.38Tの鋳造条件による試験結果を示している。その他の鋳造条件は、浸漬ノズルのノズル浸漬深さ:260mm、浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積:4900mm(70mm*70mm)、浸漬ノズル内壁面からの不活性ガス吹き込み量:12L/min、使用したモールドフラックスの粘度(1300℃):0.6cpである。
鋳造されたスラブについて、超音波探傷装置を用い、スラブ表層2〜3mmの深さ位置に存在する粒径が概ね80μm以上のモールドフラックス性欠陥の個数を測定し、欠陥発生の程度を指数化したものである。図6によれば、本発明法において、特に、浸漬ノズル2のノズル内径を70〜90mmとすることにより、モールドフラックス性欠陥がより効果的に低減していることが判る。
【0055】
また、浸漬ノズル2の各溶鋼吐出孔20の開口面積は3600〜8200mmとすることが好ましい。この溶鋼吐出孔20の開口面積が、本発明の効果に影響を及ぼすのは、溶鋼吐出孔20の開口面積が小さすぎると溶鋼吐出孔20から吐出される溶鋼流速が大きくなりすぎ、逆に開口面積が大きすぎると溶鋼流速が小さすぎ、いずれの場合も鋳型内の溶鋼流の流速を適正化しにくくなるからである。
図7は、本発明法において、浸漬ノズル2の各溶鋼吐出孔の開口面積の影響(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥に及ぼす影響)を調べた結果を示すものであり、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の溶鋼吐出角度α:15°、スラブ幅:1300mm、スラブ厚さ:260mm、鋳造速度:2.0m/分、上部磁極の直流磁界の強度:0.14T、下部磁極の直流磁界の強度:0.38Tの鋳造条件による試験結果を示している。その他の鋳造条件は、浸漬ノズルのノズル浸漬深さ:260mm、浸漬ノズル内径:80mm、浸漬ノズル内壁面からの不活性ガス吹き込み量:12L/min、使用したモールドフラックスの粘度(1300℃):0.6cpである。
【0056】
鋳造されたスラブについて、超音波探傷装置を用い、スラブ表層2〜3mmの深さ位置に存在する粒径が概ね80μm以上の気泡性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の個数を測定し、欠陥発生の程度を指数化したものである。図7によれば、本発明法において、特に、浸漬ノズル2の各溶鋼吐出孔20の開口面積を3600〜8200mmとすることにより、気泡性欠陥、モールドフラックス性欠陥がより効果的に低減していることが判る。
【0057】
また、その他の好ましい鋳造条件は以下のとおりである。
使用するモールドフラックスは、1300℃での粘度が0.4〜10cpのものが好ましい。モールドフラックスの粘度が高すぎると、円滑な鋳造に支障をきたす恐れがあり、一方、モールドフラックスの粘度が低すぎるとモールドフラックスの巻き込みが生じやすくなる。
本発明を実施するには、制御用コンピュータを用い、鋳造するスラブ幅、鋳造速度、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度などに基づき、上部磁極及び下部磁極の各直流磁場用コイルに通電すべき直流電流値を、予め設定された対照表または数式により求め、その直流電流を通電することにより、上部磁極および下部磁極に各印加する直流磁界の強度を自動制御することが好ましい。また、上記電流値を求める基礎とする鋳造条件には、浸漬ノズルの浸漬深さ(但し、メニスカスから溶鋼吐出孔上端までの距離)、スラブ厚や浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量を加えてもよい。
【0058】
図8は、鋳型内溶鋼の表面乱流エネルギー、凝固界面流速(溶鋼−凝固シェル界面での流速)、表面流速、凝固界面気泡濃度(溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度)を示す概念図である。
溶鋼の表面乱流エネルギーは、下式で求められるk値の空間平均値であり、流体力学で定義される3次元k-εモデルによる数値解析の流動シミュレーションによって定義される。このとき、浸漬ノズルの溶鋼吐出角度、ノズル浸漬深さ、体積膨張を考慮した不活性ガス(例えば、Ar)吹き込み速度を考慮すべきである。例えば、不活性ガス吹き込み速度が15NL/分のときの体積膨張率は6倍となる。すなわち、数値解析モデルとは、運動量、連続の式、乱流k−εモデルと磁場ローレンツ力をカップリングし、ノズル吹き込みリフト効果を考慮したモデルである。(文献:「数値流体力学ハンドブック」(平成15年3月31日発行)のp.129〜の2方程式モデルの記載に基づく)
【0059】
【数1】

【0060】
凝固界面流速(溶鋼−凝固シェル界面での溶鋼流速)は、メニスカスの下方50mmで且つ固相率fs=0.5の位置での溶鋼流速の空間平均値とする。ここで、凝固界面流速については、凝固潜熱、伝熱を考慮し、さらに溶鋼粘度の温度依存性をも考慮すべきである。本発明者等による詳細な計算によると、固相率fs=0.5の凝固界面流速はデンドライト傾角測定(fs=0)の1/2の流速に相当することが判った。すなわち、計算上でfs=0.5で凝固界面流速0.1m/sであれば、鋳片のデンドライト傾角(fs=0)の凝固界面流速は0.2m/sとなる。なお、鋳片のデンドライト傾角(fs=0)の凝固界面流速は、凝固前面の固相率fs=0の位置の凝固界面流速を測定していることになる。ここで、デンドライト傾角とは、鋳片表面に対する法線方向に対し、表面から厚み方向に伸びているデンドライトの一次枝の傾角である。(文献:鉄と鋼,第61年(1975),第14号「連続鋳片の大型介在物と柱状晶成長方向との関係」,p.2982−2990)
【0061】
表面流速は、溶鋼表面(浴面)での溶鋼流速の空間平均値とする。これも前述の3次元数値解析モデルで定義される。ここで、表面流速は浸漬棒による抗力測定値と一致するが、本定義ではこれの面積平均位置となるので、数値計算より算出できる。
具体的には、表面乱流エネルギー、凝固界面流速及び表面流速の数値解析は、以下により実施できる。すなわち、数値解析モデルとして、磁場解析及びガス気泡分布に連成させた運動量、連続の式、乱流モデル(k−εモデル)を考慮したモデルを用い、例えば、汎用流体解析プログラムFluent等により計算を行って求めることができる。(文献:Fluent6.3のユーザーマニュアル(Fluent Inc.USA)の記載に基づく)
【0062】
表面乱流エネルギーは、モールドフラックスの巻き込みに大きな影響を与え、表面乱流エネルギーが増加するとモールドフラックスの巻き込みが生じやすくなり、モールドフラックス性欠陥が増加する。一方、表面乱流エネルギーが小さすぎると、モールドフラックスの滓化が不十分となる。図9は、表面乱流エネルギーと表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、凝固界面流速:0.08〜0.15m/s、表面流速:0.05〜0.30m/s、凝固界面気泡濃度:0.008kg/m以下とした。図9によれば、表面乱流エネルギーが0.0010〜0.0015m/sの範囲において、モールドフラックスの巻き込みが効果的に抑えられ、且つモールドフラックスの滓化も問題がない。
【0063】
表面流速もモールドフラックスの巻き込みに大きな影響を与え、表面流速が大きくなるとモールドフラックスの巻き込みが生じやすくなり、モールドフラックス性欠陥が増加する。図10は、表面流速と表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m/s、凝固界面流速:0.08〜0.15m/s、凝固界面気泡濃度:0.008kg/m以下とした。図10によれば、表面流速が0.30m/s以下において、モールドフラックスの巻き込みが効果的に抑えられている。したがって、表面流速は0.30m/s以下であることが好ましい。なお、表面流速が小さすぎると、溶鋼表面の温度が低下する領域が発生し、モールドフラックスの溶融不足によるノロカミや溶鋼の部分的凝固を助長するため操業が困難となる。このため、表面流速は0.05m/s以上であることが好ましい。
【0064】
凝固界面流速は、凝固シェルによる気泡や介在物の捕捉に大きな影響を与え、凝固界面流速が小さいと気泡や介在物が凝固シェルに捕捉されやすくなり、気泡性欠陥などが増加する。一方、凝固界面流速が大きすぎると、生成した凝固シェルの再溶解が起こり凝固シェルの成長を阻害する。最悪の場合はブレークアウトに繋がり操業の停止により生産性に致命的な問題を引き起こす。図11は、凝固界面流速と表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m/s、表面流速:0.05〜0.30m/s、凝固界面気泡濃度:0.008kg/m以下とした。図11によれば、凝固界面流速が0.08〜0.15m/sの範囲において、凝固シェルによる気泡の捕捉が効果的に抑えられ、且つ凝固シェルの成長阻害によるブレークアウト等の生産性の問題を生じない。
【0065】
凝固界面流速Aと表面流速Bとの比A/Bは、気泡の捕捉とモールドフラックスの巻き込み両方に影響を与え、比A/Bが小さいと気泡や介在物が凝固シェルに捕捉されやすくなり気泡性欠陥などが増加する。一方、比A/Bが大きすぎるとモールドパウダーの巻き込みが生じやすくなり、モールドフラックス性欠陥が増加する。図12は、比A/Bと表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m/s、表面流速:0.05〜0.30m/s、凝固界面流速:0.08〜0.15m/s、凝固界面気泡濃度:0.008kg/m以下とした。図12によれば、比A/Bが1.0〜2.0で表面品質欠陥が特に良好となる。したがって、凝固界面流速Aと表面流速Bとの比A/Bは1.0〜2.0であることが好ましい。
【0066】
以上述べた点から、鋳型内の溶鋼の流動状態は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m/s、表面流速:0.30m/s以下、溶鋼−凝固シェル界面での流速:0.08〜0.15m/sであることが好ましい。表面流速は0.05〜0.30m/sであることがより好ましく、また、凝固界面流速Aと表面流速Bとの比A/Bは1.0〜2.0であることが好ましい。
また、気泡性欠陥の発生に関与する他の因子としは、溶鋼−凝固シェル界面の気泡濃度(以下、単に「凝固界面気泡濃度」という)があり、この凝固界面気泡濃度が適正に制御されることにより、気泡の凝固界面での捕捉がより適切に抑えられる。
凝固界面気泡濃度は、メニスカスの下方50mmで且つ固相率fs=0.5の位置での直径1mmの気泡の濃度とし、前述の数値計算により定義される。ここで、計算上のノズルへの吹き込み気泡個数NはN=AD−5とし、Aは吹き込みガス速度、Dは気泡径で計算できる(文献:ISIJ Int. Vol.43(2003),No.10,p.1548−1555)。吹き込みガス速度は、一般には5〜20Nl/minである。
【0067】
凝固界面気泡濃度は、気泡の捕捉に大きな影響を与え、気泡濃度が高いと凝固シェルに捕捉される気泡量が増加する。図13は、凝固界面気泡濃度と表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m/s、表面流速:0.05〜0.30m/s、凝固界面流速:0.08〜0.15m/sとした。図13によれば、凝固界面気泡濃度が0.008kg/m以下において、凝固シェルに捕捉される気泡量が低レベルに抑えられている。したがって、凝固界面気泡濃度は0.008kg/m以下であることが好ましい。
凝固界面気泡濃度は、鋳造するスラブ厚さと浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量により制御でき、鋳造されるスラブ厚さを220mm以上、浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量を25NL/分以下とすることが好ましい。
【0068】
浸漬ノズル2の溶鋼吐出孔20から吐出される溶鋼は気泡を随伴しており、スラブ厚さが小さすぎると、溶鋼吐出孔20から吐出される溶鋼流が鋳型長辺部側の凝固シェル5に近づき、凝固界面気泡濃度が高くなり、凝固シェル界面に気泡が捕捉されやすくなる。特に、スラブ厚さが220mm未満では、本発明のような溶鋼流の電磁流動制御を実施しても、上記のような理由により気泡分布の制御が難しくなる。一方、スラブ厚さが300mmを超えると、熱延工程の生産性が低くなる難点がある。このため鋳造されるスラブ厚さは220〜300mmとすることが好ましい。
【0069】
浸漬ノズル2の内壁面からの不活性ガス吹き込み量が多くなると、凝固界面気泡濃度が高くなり、凝固シェル界面に気泡が捕捉されやすくなる。特に、不活性ガス吹き込み量が20NL/分を超えると、本発明のような溶鋼流の電磁流動制御を実施しても、上記のような理由により気泡分布の制御が難しくなる。一方、不活性ガス吹き込み量が少なすぎるとノズル閉塞を起こしやすく、却って偏流を大きくするために流速の制御が困難となる。このため、浸漬ノズル2の内壁面からの不活性ガス吹き込み量は3〜25NL/分とすることが好ましい。
【0070】
次に、以上述べた本発明の連続鋳造法で鋳造されたスラブを用いた鋼板の製造方法について説明する。
さきに述べたように、ブリスターと呼ばれる冷延鋼板の欠陥は、熱間圧延後の酸洗時に鋼板に侵入し、冷間圧延後に鋼板内の非金属介在物、気泡、偏析、内部割れなどの部位に滞留している水素が、焼鈍時の加熱とともに体積膨張して圧力を高め、加熱により軟化した鋼板を変形させたふくれ状の表面欠陥である。
本発明者らは、このようなブリスターの発生と熱延鋼板の酸洗条件および冷間圧延条件との関係について、さらには使用するスラブについて検討した結果、以下のような知見を得た。
【0071】
(1)酸洗終了直後の熱延鋼板中の水素濃度Hoは熱延鋼板の酸洗減量と良い相関があり、このため、酸洗減量に基づいて酸洗終了直後の熱延鋼板中の水素濃度Hoを求めることができる。
(2)酸洗終了後、時間t(秒)を経過した時点pでの熱延鋼板中の水素濃度H(質量ppm)は、酸洗終了直後の熱延鋼板中の水素濃度Ho(質量ppm)と、酸洗終了後、当該時点pまでの鋼板の最高表面温度T(K)との関係で、下記(i)式により表すことができる。したがって、下記(i)式の時間tを「酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間t」とし、最高表面温度Tを「酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度T」とすれば、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hを求めることができる。
=Ho・exp{−0.002×(T+t/100)} …(i)
【0072】
(3)ブリスターによる鋼板の表面品質不良が発生するか否かは、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hと冷間圧延条件(圧下条件)で決まり、冷間圧延条件に応じて、ブリスターによる表面品質不良(表面品質不合格)が発生する「冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hc」が決まる。
(4)以上のことから、上記(i)式で求められる冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hが臨界水素濃度Hcにならないように、酸洗終了後から冷間圧延開始までの時間t又/及び鋼板の最高表面温度Tを制御することにより、ブリスターの発生を抑制し、ブリスターによる表面品質欠陥不良(表面品質不合格)の発生を防止することができる。
【0073】
(5)上述した本発明の連続鋳造方法でスラブを鋳造することにより、非金属介在物やモールドフラックスの巻き込みによる欠陥(所謂スリバー欠陥)を少なくできるとともに、微小な気泡の巻き込みによる欠陥も少なくすることができるが、より微小な気泡(例えば、気泡径5mm以下のもの)や介在物の巻き込みを確実に防止することは難しく、このような微小気泡や介在物が内部まで潜り込んで、これを起点として水素(H)による膨れ状欠陥(ブリスター欠陥)を引き起こす。このような課題に対して、本発明の連続鋳造法と上記(4)の方法を組み合わせること、すなわち、上述した本発明の連続鋳造法で鋳造されたスラブを圧延して得られた熱延鋼板を、上記(4)の条件で酸洗および冷間圧延することにより、極めて微小な気泡や介在物の巻き込みに起因するブリスターを含む、気泡および介在物やモールドフラックスの巻き込みに起因した表面欠陥が非常に少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【0074】
このような知見に基づく本発明の鋼板の製造法は、上述した本発明の連続鋳造法で鋳造されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板とし、この熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するに際し、下記(a)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御するものである。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(a)
但し Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)
Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)
t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)
T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度T(K)(但し、この鋼板表面温度は、酸洗終了後、冷間圧延前に鋼板を加熱した場合の鋼板表面温度を含む。)
以上のような鋼板の製造方法は、特に、酸洗〜冷間圧延を連続して行う酸洗・冷間圧延連続ライン(PPCMライン,PPCM;Pickling and Profile-Control Cold Mill)で実施される場合に効果的である。これは、このようなPPCMラインにおいて製造される鋼板に、特にブリスターが生じやすいからである。
【0075】
以下の説明において、鋼板の水素濃度の実測値は、鋼板を800℃まで昇温し、鋼板から放出された水素を質量分析装置で分析した値である。
表2は、5つの酸洗槽が直列に配置された酸洗設備において、熱延鋼板を種々の条件で酸洗し、鋼板の酸洗減量と酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoを調べた結果を示している。図14は、その結果に基づき、酸洗減量と酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoとの関係を示したものである。酸洗条件には酸濃度、酸洗温度・時間があるが、表2に示すように、酸洗条件による酸洗減量の依存性は見られない。これは、酸洗前の鋼板の表面状態(スケール厚み等)によって酸洗減量が変わるためであると考えられる。一方、酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoは、図14に示すように、酸洗減量と良い相関が見られる。したがって、酸洗減量に基づいて酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoを求めることができる。
【0076】
酸洗終了直後における熱延鋼板中の水素濃度Hoと、同じく鋼板表面温度Tをそれぞれ測定するとともに、この熱延鋼板が酸洗終了から時間tを経過した時点での鋼板中の水素濃度Hを測定したところ、表3の結果が得られた。この表3の結果から、酸洗を終了した熱延鋼板からは経時的に水素が放出され、熱延鋼板中の水素濃度Ho(質量ppm)、同じく水素濃度H(質量ppm)、時間t(秒)及び鋼板表面温度T(K)には、近似的に下記(ii)式の関係があることが判った。図15に、Ho・exp{−0.002×(T+t/100)}と酸洗終了から時間tを経過した時点での鋼板中の水素濃度Hとの関係を示す。ここで、鋼板中の水素濃度Hが、時間tだけでなく、酸洗終了直後における鋼板表面温度Tにも影響を受ける理由は、水素の放出量は鋼板温度、特に到達最高温度に影響(支配)され、上記試験条件では、酸洗終了直後が最も高い鋼板温度(到達最高温度)であったことによる。
=Ho・exp{−0.002×(T+t/100)} …(ii)
したがって、酸洗終了後、冷間圧延開始前に、鋼板を酸洗終了直後の鋼板温度よりも高い温度に加熱した場合には、上記(ii)式の鋼板表面温度Tは、その加熱時の鋼板表面温度(到達最高温度)ということになる。上記のとおり、酸洗を終了した熱延鋼板からの水素の放出量は鋼板の到達最高温度に影響(支配)されるためである。
【0077】
以上のことから、酸洗終了後、時間t(秒)を経過した時点pでの熱延鋼板中の水素濃度H(質量ppm)は、酸洗終了直後の熱延鋼板中の水素濃度Ho(質量ppm)と、酸洗終了後〜当該時点p間における鋼板の最高表面温度T(K)との関係で、下記(i)式により表せることが判った。したがって、下記(i)式の時間tを「酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間t」とし、最高表面温度Tを「酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度T」とすれば、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hを求めることができる。
=Ho・exp{−0.002×(T+t/100)} …(i)
【0078】
一方、ブリスターによる表面品質不良が発生するか否かは、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hと冷間圧延条件(圧下条件)で決まり、冷間圧延条件に応じて、ブリスターによる表面品質不良(表面品質不合格)が発生する「冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hc」が決まることが判った。
板厚4mmの熱延鋼板を冷間圧延で種々の仕上げ板厚(冷間圧延の最終板厚)に圧延した場合について、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hと、冷間圧延での仕上げ板厚と、ブリスター欠陥発生個数を調査したところ、表4に示す結果が得られた。この結果に基づき、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hとブリスター欠陥発生個数との関係を、冷間圧延の仕上げ板厚で整理したものが図16である。
【0079】
これによれば、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hがある値を超えると、ブリスター欠陥は急激に増加することが判る。また、冷間圧延の仕上げ板厚が小さくなるほど(つまり、冷間圧延の圧下量が大きくなるほど)、ブリスター欠陥が急激に増加する上記水素濃度Hの値は小さくなることが判る。これは、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hが高いほど、また、冷間圧延での圧下量が大きいほど、鋼板内に滞留した水素の内部圧力の上昇が大きくなるためであると考えられる。ここで、一般に、ブリスター欠陥個数が0.0350×10−2個/m程度を超えるとブリスター欠陥による表面品質不良が顕在化するようになるので、「ブリスターによる表面品質不良の発生」(表面品質不合格)の指標を、例えば、ブリスター欠陥個数:0.0350×10−2個/m超とすることができる。
【0080】
以上の点から、ブリスターによる表面品質不良が発生する「冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hc」を、冷間圧延条件(圧下条件)に応じて決めることが可能であることが判った。具体的には、冷間圧延の圧下率で決まる仕上げ板厚に応じて、冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hcを決めることができる。例えば、熱延鋼板の板厚が4mmの場合には、図16の結果に基づいて、冷間圧延での各仕上げ板厚に応じて鋼板中の臨界水素濃度Hcを以下のように定めることができる。
冷間圧延での仕上げ板厚 鋼板中の臨界水素濃度Hc
1.8mm 0.030質量ppm
1.5mm 0.025質量ppm
1.2mm 0.020質量ppm
【0081】
以上のことから、冷間圧延条件に応じて、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度が臨界水素濃度Hcにならないように、酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間tや鋼板の最高表面温度Tを制御することにより、ブリスターによる表面品質不良の発生を防止できることになる。このため本発明では、熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するに際し、下記(a)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御するものである。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(a)
但し Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)
Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)
t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)
T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度T(K)(但し、この鋼板表面温度は、酸洗終了後、冷間圧延前に鋼板を加熱した場合の鋼板表面温度を含む。)
このような本発明法では、上述のようにして、冷間圧延条件(圧下条件)に応じた「冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hc」を予め定めておく必要がある。また、酸洗量と酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoとの関係についても、予め求めておくことが好ましい。
また、後述する実施例に示されるように、Hc値に対してHo・exp{−0.002×(T+t/100)}値が小さいほど、ブリスター欠陥発生の改善効果が大きく、とりわけ、両者の差(=Hc値−Ho・exp{−0.002×(T+t/100)}値)が0.005以上のものは、ブリスター欠陥の発生が特に顕著に抑えられるので、Hc値−Ho・exp{−0.002×(T+t/100)}値を0.005以上とすることが特に好ましい。
【0082】
熱延鋼板としては、上述した本発明の連続鋳造法で鋳造されたスラブを熱間圧延したものを用いるが、さきに(5)で述べたような理由により、極めて微小な気泡や介在物の巻き込みに起因するブリスターを含む、気泡および介在物やモールドフラックスの巻き込みに起因した表面欠陥が非常に少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【0083】
本発明法を実施するには、例えば、酸洗後の鋼板をコイルの状態で室温で放置し、上記(a)式を満足する時間t後に冷間圧延を行う。また、酸洗後の熱延鋼板を加熱して鋼板の最高表面温度Tを高めれば、上記(a)式を満足する時間tを短縮できるので、PPCMラインにも適用でき、生産性の向上を図ることができる。熱延鋼板の加熱には、ガスバーナー加熱、電気ヒーター加熱、高周波誘導加熱などを適用できるが、その後冷間圧延を行うので、加熱は酸素分圧が制御された不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。また、PPCMラインに適用する場合は、ロール間距離を変えられるルーパーを用いればラインスピードの調整は可能である。
【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【実施例】
【0087】
[実施例1]
図1および図2に示すような連続鋳造機、すなわち、鋳型外側(鋳型側壁の背面側)に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備え、上部磁極の磁場のピーク位置と下部磁極の磁場のピーク位置の間に浸漬ノズルの溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動する連続鋳造方法により、約300トンのアルミキルド極低炭素鋼を鋳造した。
【0088】
浸漬ノズルからの吹き込み不活性ガスにはArガスを使用し、このArガスの吹き込み量は、ノズル閉塞が起こらないようにスライディングノズルの開度に応じて、5〜12NL/minの範囲内で調整した。連続鋳造機の仕様および他の鋳造条件は以下のとおりである。
連続鋳造機の仕様および他の鋳造条件は以下のとおりである。
・浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の溶鋼吐出角度α:15°
・浸漬ノズルの浸漬深さ:230mm
・浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の形状:サイズ70mm×80mmの長方形状
・浸漬ノズル内径:80mm
・浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積:5600mm
・使用したモールドフラックスの粘度(1300℃):2.5cp
【0089】
表5に示す化学成分の溶鋼を、表6〜表15に示すような条件で連続鋳造した。
溶鋼の化学成分は、RH真空脱ガス装置での精錬終了時に溶鋼から採取した試料の分析値を用い、溶鋼のトータル酸素濃度は、鋳型への注入開始前にタンディッシュ内の溶鋼から試料を採取し、この試料の化学分析値を使用した。
連続鋳造されたスラブを熱間圧延および冷間圧延して鋼板とし、この鋼板に合金化溶融亜鉛めっき処理を施した。この合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、オンライン表面欠陥計で表面欠陥を連続的に測定し、そのなかから欠陥形態(外観)あるいはSEM分析、ICP分析等によりスリバー欠陥(モールドフラックス性欠陥、気泡性欠陥、介在物性欠陥)およびブリスター欠陥を判別し、コイル長さ1m当たりの欠陥個数に基づき、Znめっき後欠陥を下記基準で評価した。その結果を、表6〜表15に併せて示す。
○:欠陥個数0.01個以下
△:欠陥個数0.01個超、0.05個以下
×:欠陥個数0.05個超、0.10個以下
××:欠陥個数0.10個超
なお、スラブ幅が1700mmを超えるスラブを鋳造する実施例については、実機の結果に基づくシミュレーションによるデータを示した。
【0090】
【表5】

【0091】
【表6】

【0092】
【表7】

【0093】
【表8】

【0094】
【表9】

【0095】
【表10】

【0096】
【表11】

【0097】
【表12】

【0098】
【表13】

【0099】
【表14】

【0100】
【表15】

【0101】
[実施例2]
実施例1と同様の設備および方法(連続鋳造機、Arガス吹き込み条件、モールドフラックス条件など)で、表5のNo.2の化学成分の溶鋼を表16に示すような条件で連続鋳造した。
連続鋳造されたスラブを熱間圧延、酸洗および冷間圧延して鋼板とし、この鋼板に合金化溶融亜鉛めっき処理を施した。表16に示す実施例のうち、No.1〜No.3、No.9〜No.11の実施例では、酸洗終了後、同表に示す時間tの間そのまま室温で放置した後、冷間圧延を行った。一方、その他の実施例では、酸洗設備と冷間圧延設備との間に電気ヒーター式の加熱炉が設置されたPPCMラインを用い、酸洗終了後、Arガス雰囲気とした前記加熱炉で鋼板表面温度Tまで加熱し、その後、冷間圧延を行った。
【0102】
製造された合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、オンライン表面欠陥計で表面欠陥を連続的に測定し、そのなかから欠陥形態(外観)あるいはSEM分析、ICP分析等によりスリバー欠陥(モールドフラックス性欠陥、気泡性欠陥、介在物性欠陥)およびブリスター欠陥を判別し、コイル長さ1m当たりの欠陥個数に基づき、Znめっき後欠陥(トータルのZnめっき後欠陥)を[実施例1]と同じ基準で評価した。また、Znめっき後欠陥のうちブリスター欠陥を下記基準で評価した。それらの結果を表16に併せて示す。
◎:ブリスター欠陥個数が0.0200×10−2個以下
○:ブリスター欠陥個数が0.0200×10−2個超、0.0250×10−2個以下
△:ブリスター欠陥個数が0.0250×10−2個超、0.0350×10−2個以下
×:ブリスター欠陥個数が0.0350×10−2個超
【0103】
【表16】

【0104】
本実施例のNo.1〜No.16は、いずれも本発明の連続鋳造条件を満足している。一方、No.2、No.3、No.5、No.7、No.8、No.10、No.11、No.13、No.15、No.16は、本発明の鋼板の製造条件である(a)式を満足しているのに対し、No.1、No.4、No.6、No.9、No.12、No.14は(a)式を満足していない。本実施例によれば、本発明の鋼板の製造条件である(a)式を満足するものは、ブリスター欠陥の発生がより効果的に抑えられることが判る。
また、Hc値に対してHo・exp{−0.002×(T+t/100)}値が小さいほど、ブリスター欠陥発生の改善効果が大きく、とりわけ、Hc値とHo・exp{−0.002×(T+t/100)}値との差が0.005以上のものは、ブリスター欠陥の発生が特に顕著に抑えられていることが判る。
【符号の説明】
【0105】
1 鋳型
2 浸漬ノズル
3a,3b 上部磁極
4a,4b 下部磁極
5 凝固シェル
6 メニスカス
10 鋳型長辺部
11 鋳型短辺部
20 溶鋼吐出孔
21 底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型外側に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備えるとともに、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備え、前記上部磁極の磁場のピーク位置と前記下部磁極の磁場のピーク位置の間に前記溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、前記1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、Cを0.003質量%以下含有する極低炭素鋼を連続鋳造するに際し、
下記(1)式で定義されるX値がX≦5000を満足する化学成分を有する溶鋼を、
X=24989×[%Ti]+386147×[%S]+853354×[%O] …(1)
但し [%Ti]:溶鋼中のTi含有量(質量%)
[%S] :溶鋼中のS含有量(質量%)
[%O] :溶鋼中のO含有量(質量%)
鋳造速度0.75m/分以上で、下記条件(イ)、(ロ)に従って連続鋳造し、
・条件(イ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(a)〜(i)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
・条件(ロ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(j)〜(s)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
鋳造されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板とし、該熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するに際し、下記(a)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御することを特徴とする鋼板の製造方法。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(a)
但し Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)
Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)
t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)
T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度(K)(但し、この鋼板表面温度は、酸洗終了後、冷間圧延前に鋼板を加熱した場合の鋼板表面温度を含む。)
【請求項2】
酸洗後、冷間圧延前の熱延鋼板を、酸洗終了直後の鋼板温度よりも高い温度に加熱することを特徴とする請求項1に記載の鋼板の製造方法。
【請求項3】
連続鋳造機の鋳型内の溶鋼は、表面乱流エネルギーが0.0010〜0.0015m/s、表面流速が0.30m/s以下、溶鋼−凝固シェル界面での流速が0.08〜0.15m/sであることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼板の製造方法。
【請求項4】
連続鋳造機の鋳型内の溶鋼は、表面流速が0.05〜0.30m/sであることを特徴とする請求項3に記載の鋼板の製造方法。
【請求項5】
連続鋳造機の鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での流速Aと表面流速Bとの比A/Bが1.0〜2.0であることを特徴とする請求項3または4に記載の鋼板の製造方法。
【請求項6】
連続鋳造機の鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度が0.008kg/m以下であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項7】
連続鋳造機で鋳造されるスラブ厚さが220〜300mm、連続鋳造機の浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量が3〜25NL/分であることを特徴とする請求項6に記載の鋼板の製造方法。
【請求項8】
連続鋳造機の浸漬ノズルのノズル浸漬深さを230〜290mmとすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項9】
連続鋳造機の浸漬ノズルのノズル内径(但し、溶鋼吐出孔の形成位置でのノズル内径)を70〜90mmとすることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項10】
連続鋳造機の浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積を3600〜8100mmとすることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項11】
鋳型外側に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備えるとともに、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備え、前記上部磁極の磁場のピーク位置と前記下部磁極の磁場のピーク位置の間に前記溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、前記1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、Cを0.003質量%以下含有する極低炭素鋼を連続鋳造する方法であって、
下記(1)式で定義されるX値がX≦5000を満足する化学成分を有する溶鋼を、
X=24989×[%Ti]+386147×[%S]+853354×[%O] …(1)
但し [%Ti]:溶鋼中のTi含有量(質量%)
[%S] :溶鋼中のS含有量(質量%)
[%O] :溶鋼中のO含有量(質量%)
鋳造速度0.75m/分以上で、下記条件(イ)、(ロ)に従って連続鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
・条件(イ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(a)〜(i)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
・条件(ロ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(j)〜(s)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
【請求項12】
鋳型内の溶鋼は、表面乱流エネルギーが0.0010〜0.0015m/s、表面流速が0.30m/s以下、溶鋼−凝固シェル界面での流速が0.08〜0.15m/sであることを特徴とする請求項11に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項13】
鋳型内の溶鋼は、表面流速が0.05〜0.30m/sであることを特徴とする請求項12に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項14】
鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での流速Aと表面流速Bとの比A/Bが1.0〜2.0であることを特徴とする請求項12または13に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項15】
鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度が0.008kg/m以下であることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項16】
鋳造されるスラブ厚さが220〜300mm、浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量が3〜25NL/分であることを特徴とする請求項15に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項17】
浸漬ノズルのノズル浸漬深さを230〜290mmとすることを特徴とする請求項11〜16のいずれかに記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項18】
浸漬ノズルのノズル内径(但し、溶鋼吐出孔の形成位置でのノズル内径)を70〜90mmとすることを特徴とする請求項11〜17のいずれかに記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項19】
浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積を3600〜8100mmとすることを特徴とする請求項11〜18のいずれかに記載の鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−206845(P2011−206845A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50859(P2011−50859)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】