説明

鋼材用化成下地処理剤、化成下地処理方法及び防食被覆鋼材

【課題】 鋼材表面に6価のクロム酸を有しない鋼材の化成処理において、水洗等の複雑な工程を必要とせずに塗布乾燥のみで処理を行うことが可能で、かつ、クロメート処理と同等の塗膜の耐水密着性と耐剥離性を持った鋼材の塗装下地処理を提供する。これにより、環境および製造時の作業性に優れた重防食被覆を提供するものである。
【解決手段】 下地処理としてにマグネシウムを代表とするリン酸金属化合物にシリカ微粒子を加えた処理液をリン酸金属化合物が0.3〜5g/m2 の付着量となるような条件で塗布、乾燥して処理層を形成した後に、樹脂プライマー層0.3mm以上の厚みを有する防食被覆層を順次積層して使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材用の下地処理について、ノンクロム系で、且つ、下地処理を施した後に水洗などの洗浄が不要で、疵部や端部からの剥離が少なく長期の防食性に優れる鋼材用の塗布型下地処理剤、下地処理方法及びそれを使用した防食被服鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海洋構造物やラインパイプ等で長期防食性が要求される場合、長期のバリヤー防食性能を高めるために300μmを超える厚膜の被覆を形成する方法が採用されている。しかし、厚膜の被覆の場合、塗膜の応力が大きいので、鋼材表面に下地処理を施し、鋼材と塗膜との密着性を確保する必要がある。鋼材下地処理としては、従来、まず、ブラスト処理あるいは酸洗によってスケール除去し、その後、特許第2949681号公報(特許文献1)に示されるようにクロム酸を含有するクロメート化成処理を施していた。このクロメート処理は塗布しその後乾燥するのみでも、密着性が良く耐剥離性を大幅に向上させることが出来る。
【0003】
しかしながら、クロメート処理は6価クロムを含むために管理された環境でしか処理を行うことができないので、工場でしか処理を行えず、例えば、施工現場での塗布などが出来ないという問題があった。一方、6価クロムを含まない代表的な化成処理としてリン酸亜鉛処理がある。リン酸亜鉛処理は加温した処理液中に鋼材を浸漬して、鋼材表面にリン酸亜鉛の結晶を析出させて下地処理層を形成する方法である。
【0004】
しかし、浸漬後はリン酸の水溶性成分が鋼材表面に残存しないように水洗を行う。更に自動車の組み立て溶接後の下地処理にも使用されているが、特許第1299463号公報(特許文献2)に示される様に、更にクロメート処理を行わないと十分な密着性が得られなかった。そして大型鋼構造物等でクロメート処理もリン酸亜鉛処理も困難な場合、性能は劣るが下地処理としては亜鉛粉末の犠牲防食効果を利用した無機および有機ジンクリッチペイントにより疵部の剥離防止を行っていた。
【0005】
【特許文献1】特許第2949681号公報
【特許文献2】特許第1299463号公報
【特許文献3】特開2003−34881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リン酸亜鉛処理はクロメートのように環境の制約はないが、浸漬方式なので、処理槽が必要であるのと、浸漬後に水洗が必要であり、大規模な設備と長期の工程が必要であると同時に浸漬タイプなので、大型の鋼構造物には適さないとの問題があった。また、海外ではラインパイプにクロメート以外の化成処理方法として使用される場合もあが、耐水密着性、耐水剥離性、耐陰極剥離性等の防食性能ではクロメート処理に大きく及ばない。
【0007】
一方、重防食被覆用として特開2003−34881号公報(特許文献3)に開示されているように、モリブデン酸アンモニウム、シランカップリング剤を含有する化成処理が提案されているが、やはり水洗工程が必要な上に性能も十分なものでは無かった。また、一般塗装の下地処理に用いられるジンクリッチペイントも、密着性が低下しやすく性能が十分では無い。このため、6価クロムを含有せず、かつ水洗等の行程上の制約が無い防食性能に優れた鋼材表面の化成処理が要求されている。
【0008】
本発明の目的は、重防食被覆あるいは塗装鋼材においてのクロメートの代替となる化成処理として、方法が塗布・乾燥工程のみで水洗などの洗浄を必要とせず、且つ、クロメート処理に匹敵する性能を有する処理作業性に優れた下地処理剤、下地処理方法及びそれを使用した被覆鋼材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の問題を解決する手段として、下地処理用の処理剤としてマグネシウム、カルシウムに代表されるリン酸の金属化合物を主成分とし、且つ、微粒子シリカを含んだ処理液により鋼材表面に化成被膜を形成することで、塗膜の耐剥離性や密着性に優れた防食被覆鋼材の提供が可能であることを見いだした。すなわち、本発明による重防食被覆鋼材は、リン酸金属化合物と微粒子シリカ成分を主とする化成処理被膜層を形成した後、樹脂プライマー層、0.3mm以上の厚みを有する防食樹脂被覆層を順次積層する。防食樹脂被覆層としては、変性ポリオレフィン単独、あるいは変性ポリオレフィン接着剤層とポリオレフィンの2層被覆、あるいはポリウレタン系の樹脂被覆が使用されるものである。
【0010】
その発明の要旨とするところは、
(1)リン酸金属化合物に、水分散シリカの微粒子を質量比で0.3〜4.0の割合で添加した水溶液である鋼材用化成下地処理剤。
(2)前記リン酸金属化合物がリン酸マグネシウム、あるいはリン酸カルシウムの単体またはそれらの混合体であることを特徴とする(1)記載の鋼材用化成下地処理剤。
(3)前記リン酸マグネシウムが重リン酸マグネシウムであることを特徴とする(2)記載の鋼材用化成下地処理方法。
【0011】
(4)酸洗あるいはブラスト処理を施した鋼材表面に、(1)乃至(3)記載の下地処理剤を前記リン酸金属化合物の付着量が0.5〜5g/m2となるように塗布し、その後洗浄なしに乾燥することを特徴とする密着性と耐剥離性に優れた化成下地処理方法。
(5)鋼材表面に前記(4)記載の下地処理方法を施した下地処理層、プライマー樹脂層、防食樹脂層を順次積層したことを特徴とする密着性と耐剥離性に優れた防食被覆鋼材にある。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、本発明による、防食塗装被覆を行う鋼材の化成下地処理剤として、クロム酸を用いる必要が無く、また、処理が水洗を必要としない塗布・乾燥のみで処理が可能である。これによって、水洗が難しい鋼矢板、鋼管矢板、鋼管杭、鋼管等の大型鋼構造物に対しても特別な環境対策設備を必要とせずに塗膜の下地化成処理を可能とした。また、その処理によってクロム酸化成処理と同等の優れた塗膜の耐水密着性や耐剥離性を有する防食被覆鋼材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明につき詳細に説明を行なう。
図1は、本発明の一例を示す重防食被覆鋼材の被覆構成断面図である。本発明に使用する鋼材1としては普通鋼、あるいは高合金鋼などどのような鋼種でも適用可能である。従来、重防食被覆が適用されていた鋼管、また、海洋構造物等で使用される鋼管杭、鋼管矢板、鋼矢板、H形鋼、線材等にも適用可能である。それ以外の鋼材でも、特別な設備を必要としないことから一般塗装の下地処理として本発明を適用可能である。
【0014】
本発明のクロメート代替化成下地処理皮膜2の化成下地処理を行う場合、その前に、まず上記鋼材1表面のスケール、汚染物等を除去する必要がある。そのため、アルカリ脱脂〜酸洗、サンドブラスト処理、グリッドブラスト処理、あるいはショットブラスト処理等のいずれかの前処理を行なう。その後、プライマー樹脂3を塗布した後、防食被覆層4を形成させるものである。
【0015】
クロメート代替化成下地処理皮膜の形成にあたっては、まず、化成下地処理剤を塗布し、乾燥する。その場合に、本発明では下地処理剤塗布後の水洗は必要ない。以下に本発明の化成処理剤について詳細に説明する。
重防食の塗膜塗装下地処理では不溶性被膜を金属表面に形成することが望ましい。化成処理被膜中に多量の水溶性成分が残存していると、水環境で使用すると密着性が低下しやすいからである。また、鋼材表面の場合、亜鉛めっき表面などに比べて反応性が劣るため、鋼材表面と処理液の反応性を確保するためには、処理液のpHは少なくとも4以下の酸性である必要がある。
【0016】
そして酸としては鉄と化合物を形成し、更にある程度の厚みを形成するためにはリン酸金属化合物が適することからリン酸が最も好ましい。ところがリン酸金属化合物はほとんどが水に不溶であるために、例えば金属亜鉛のように溶液にするためには過剰なリン酸成分が必要となる。過剰なリン酸成分を残存させず、かつ水溶液として安定な金属でありリン酸と化合する金属としてはマグネシウムが適しており、中でも重リン酸マグネシウム(リン酸2水素マグネシウム)Mg(H2 PO4 2 を溶解した水溶液が最も適している。
【0017】
一方、酸が過剰にならなければ良いので、その他のリン酸金属化合物を一部添加して使用することも出来る。例えばリン酸カルシウム等を用いると良い。カルシウムはリン酸カルシウムの強固な皮膜を形成する。このように、特定のリン酸金属化合物を溶解した酸性水溶液を用いることで、鋼材との反応性を確保するとともに、不溶性の皮膜を形成して防食性を向上させることで耐水密着性や腐食による塗膜剥離性が大幅に向上する。しかしながら、これのみでは従来のクロメート処理と比べると塗布の分散性や塗膜の密着性が十分では無いために、リン酸金属化合物に更に微粒子シリカ成分を添加する。
【0018】
微粒子シリカとしては、乾式法により合成した5〜50nm径の1次粒子が2次凝集したものを用いる。そうすることにより微粒子が凝集合体しブドウ状になりポーラスな被覆層を形成し、その上の塗料層との密着性を向上させる。微粒子シリカとしては、例えば日本アエロジル社製のAEROSIL 130、AEROSIL 200、AEROSIL 200V、AEROSIL 200CF、AEROSIL 200FAD、AEROSIL 300、AEROSIL 300CF、AEROSIL 380、AEROSIL OX50、AEROSIL TT600、AEROSIL MOX等がある。
【0019】
微粒子シリカの添加量は、前記のリン酸金属化合物の総量に対して質量比で0.3〜4.0の範囲で添加する。0.3未満では耐水密着性や耐陰極剥離性が低下し、4.0超ではシリカ成分が過剰となり皮膜の凝集力が低下するからである。微粒子シリカによって鋼材表面の被覆率が向上するとともにリン酸金属化合物の分散性が向上する効果がある。
【0020】
図2〜5は本発明に係る効果の実例で示したものである。図2または図3は、微粒子シリカを含まない場合のSEM写真とEPMAによるMg分布を示す顕微鏡写真である。この図からも分かるように、処理液が不均一に分散しているのがわかる。それに対して、図4および図5は、微粒子シリカを含んだ処理液を施した場合のSEM写真とEPMAによるMgの分布を示す顕微鏡写真である。この図4および図5から分かるように、鋼材の表面に均一に分散しているのがわかる。
【0021】
本発明の下地処理は、上記のリン酸金属化合物を1〜15%含有するように調整した下地処理剤をリン酸金属化合物が0.3〜5g/m2 の付着量となるように鋼材に塗布する。塗布量が0.3g/m2 未満では、鋼材面を皮膜が十分に覆うことが出来ず、5g/m2 超では、皮膜自体がかさ高くもろくなるために密着力が低下するからである。
【0022】
上記本発明による下地処理剤を塗布した後に施す重防食被覆について以下に説明する。被覆する樹脂としては、耐久性と水、酸素に対するバリアー性に優れるものでああれば、例えば塩化ビニル、ポリエステル、アクリル、エポキシ、フッ素系樹脂等、何でも良い。安価で数10年の長期寿命が期待される防食にはポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂が使用される場合が多い。
【0023】
このような長期防食被覆においては、防食被覆と鋼材の接着性、耐陰極剥離性、防食性を向上させるプライマー処理を実施する。重防食被覆鋼材に使用するプライマーには熱硬化性の樹脂を用い、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂に硬化剤と無機顔料を添加したものを主成分として用いる。ポリウレタン樹脂としてはプレポリマーを使用した湿気硬化型の1液タイプのもの、あるいはイソシアネートとポリオールとの反応を利用した2液硬化タイプのものが代表的である。
【0024】
特に高い耐熱性の要求に対してはプライマーにはエポキシ樹脂を用いると良く、一般にその主成分としてはビスフェノールA型、ビスフェノールF型樹脂を単独、もしくは混合して使用する。更に高温特性が要求される場合、多官能性のフェノールノボラックやハロゲン化樹脂を上記のビスフェノールA型あるいは、ビスフェノールF型の樹脂と組み合わせて用いる。
【0025】
硬化剤には、2液硬化型のアミン系硬化剤、あるい潜在性硬化剤であるイミダゾール化合物にジシアンジアミド、またはフェノール系硬化剤を単独又は混合して用いると密着性、耐食性に優れる。また、プライマーに添加する無機顔料は全体積に対して3〜30vol%の範囲で添加することで収縮歪みを低下し、密着特性が大きく改善される。無機顔料には、シリカ、酸化チタン、ウォラストナイト、マイカ、タルク、カオリン、酸化クロム、硼酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、燐酸亜鉛等の顔料、もしくは亜鉛、Al等の金属粉、あるいはセラミック粉等、その他にバナジウムリン系化合物等の防錆顔料を適宜用いる。これらの顔料は樹脂との濡れ性を良くするために、その表面にシランカップリング処理を施してもよい。
【0026】
以上の熱硬化型の樹脂プライマーを用い、前述の下地処理と組み合わせることにより耐剥離性において優れた性能を持つ重防食被覆鋼材の下地処理を提供することが出来る。樹脂プライマーは液体で供給される場合、ロール又は刷毛塗装、しごき塗り、エアースプレー塗装等の方法を用いる。粉体で供給される場合には、静電粉体塗装等の方法を用い、20〜1000μmの範囲で塗装する。膜厚が20μmより薄い場合にはピンホールが多数発生する。一方、膜厚の上限は樹脂の種類によって異なるが、1000μmを超える厚膜塗装では低温での耐衝撃性等の特性が低下しやすい。
【0027】
重防食被覆に使用するポリオレフィン樹脂は、その主成分としては低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどの従来公知のポリオレフィン、及びエチレン−プロピレンブロックまたはランダム共重合体、ポリアミド−プロピレンブロック叉はランダム共重合体等公知のポリオレフィン共重合体を含む樹脂である。
【0028】
他成分としては、耐熱性、耐候性対策としてカーボンブラック又はその他の着色顔料、充填強化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の耐候剤等を任意の組み合わせて添加する。ポリオレフィン樹脂を被覆に用いる場合、下地のプライマーと接触する下層部分にはポリオレフィンを変性した接着剤を用いる。この接着剤は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロンなどの公知のポリオレフィン、及び公知のポリオレフィン共重合体樹脂を、マレイン酸、アクリル酸、メタアクリル酸などの不飽和カルボン酸または、その酸無水物で変性したもの、あるいは、その変性物をポリオレフィン樹脂で適宜希釈したもの等、従来公知の変性ポリオレフィンである。50〜700μmの薄い変性ポリオレフィン接着剤層に0.3〜5mmのポリオレフィン樹脂層を組み合わせて用いる方法が価格、性能のバランスからは好ましいが、ポリオレフィン被覆層を省略し、変性ポリオレフィン樹脂層を0.3mm以上被覆して防食層として用いても良い。
【0029】
ポリオレフィン被覆の方法としては、例えばダイスを用いて加熱溶融した樹脂を直接鋼材に被覆する押出被覆方法を用いる。あるいは、加熱した鋼材に予め成形したポリオレフィンシートを貼り付ける方法、粉砕したポリオレフィンを粉体塗装して溶融して皮膜を形成する方法がある。これらの方法によりは0.3mm以上の膜厚を有するポリオレフィン防食被覆層を形成する。
【0030】
重防食被覆にはポリウレタン樹脂を塗装する方法もある。ポリウレタン樹脂は、ポリオールと充填無機顔料、着色顔料の混合物からなる主剤と、イソシアネート化合物からなる硬化剤を2液混合塗装する。ポリオールとしてはポリエステルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、ひまし油誘導体、その他含水酸基化合物を用いる。イソシアネートとしてはメチレンジフェニルジイソシアネートなどの一般市販のイソシアネートを使用する。
【0031】
充填無機顔料としては、シリカ、酸化チタン、カオリンクレーなどの一般市販の無機顔料を用いる、また着色顔料には、樹脂に耐候性を付与するため、一般的にはカーボンブラックを用いる。意匠性から他の着色顔料を用いる場合には、紫外線吸収剤を併せて添加する。被覆厚みとしては重防食層としての機能と経済性を考慮し、0.5〜6mmまでの間が望ましい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
本発明の下地処理液として、重リン酸マグネシウム溶液を1〜15%濃度になるように調整し、気相法で製造されたシリカ微粒子で日本アエロジル社製のAEROSIL 200を重リン酸マグネシウムに対して重量比で0.3〜4.0の範囲で混合添加して下地処理液を作成した。この時のpHは2〜3であった。また、重リン酸マグネシウムを重リン酸カルシウムで置き換えたもの、更にリン酸水素マグネシウム、リン酸水素カルシウム、クエン酸カルシウム等を添加したものを調整した。
【0033】
重防食被覆サンプルとして9mm×100mm×150mmの熱延鋼板に、グリッドブラスト処理を施した。本発明の実施例としては、上記で調整した下地処理液を塗布・常温乾燥した。一方、比較として本発明の下地処理の代わりに比較例No.29として何も化成処理をしない場合、比較例No.30として特許文献1に示される微粒子シリカを含む部分還元クロメートを塗布、乾燥した処理、比較例No.31として特許文献3の実施例5に従い0.05mol/lのモリブデン酸アンモニウム、0.02mol/lのγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、0.02mol/lのγ−メルカプトプロピルトリメトキシランを含有する処理液に浸漬後、水洗を施した化成処理、比較例No.32として浸漬と水洗を必要とするリン酸亜鉛処理を施した。
【0034】
鋼板を60℃に加温した後、顔料を含むエポキシ樹脂プライマーを50μm狙いでスプレー塗装を実施した。1日常温で養生硬化後、再度50℃に鋼板を加温し、その表面に顔料を添加したポリオールとイソシアネートをスプレーガン先端で混合しながら吹きつけ塗装を行って2.5mm厚みのポリウレタン防食層を形成した。更に、3日間の常温養生によりポリウレタン被覆を硬化させて本発明の実施例及び比較例の重防食被覆鋼材を製造した。
【0035】
作製した重防食鋼材は長期使用における剥離を模擬する目的で、鋼板端面から10mm幅で被覆を除去して鋼材面を露出させた。一方で裏面にはエポキシ樹脂でシール塗装を施して50℃の人工海水中に180日間浸漬した。人工海水にはエアーを吹き込むことにより攪拌と酸素の供給を行った。試験後、被覆を除去して被覆端部からの接着力低下の進展距離を鋼材面が露出する部分の距離として測定した。ただし、露出する鋼材面の殆どは、全面剥離にならない限りは接着力は低下しても腐蝕は発生しておらず防食上の問題は見られなかった。同試験片の接着力を鋼板中央部に20mmφの垂直引張用の接着治具をエポキシ接着剤を介して接着し、同円に沿って被覆を鉄面まで切削した後に引張試験機により、1mm/分の速度で垂直密着力を評価した。密着力の評価はいずれも初期の密着強度に対する保持率とした。
【0036】
比較例及び本発明の成分を用いた実施例の結果を表1に示す。比較例の結果から、従来のクロメート以外の化成処理では要求される性能を満足することは出来ない。比較例No.32のリン酸亜鉛系の処理は水洗を行えば比較的良い性能を示す。比較例No.36〜No.41の重リン酸マグネシウム単独処理は、水洗が不要でありながらも比較例No.32と同等の性能を得ることが出来る。しかしながら、従来のシリカを含まないリン酸系の処理ではクロメート処理には全く性能面では及ばなかった。
【0037】
これに対し、リン酸金属化合物とシリカ微粒子を混合添加した場合の本発明例と比較例の結果を本発明例No.1〜28に示す。2つの成分の組み合わせ、かつ本発明の請求範囲にある本発明例No.1、2、7〜10、14〜17、20〜23、25〜28が特に耐水密着性や耐剥離性に優れることがわかる。これらの請求項記載のリン酸金属化合物成分に対して微粒子の水分散シリカを0.3〜4.0、リン酸金属化合物の換算付着量が0.5〜5g/m2である処理条件範囲ではクロメート処理に相当する高い耐水密着性と耐剥離性が得られた。
【0038】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一例を示す重防食被覆鋼材の被覆構成断面図である。
【図2】微粒子シリカを含まない場合のSEM写真とEPMAによるMg分布を示す顕微鏡写真である。
【図3】微粒子シリカを含まない場合のSEM写真とEPMAによるMg分布を示す顕微鏡写真である。
【図4】微粒子シリカを含んだ処理液を施した場合のSEM写真とEPMAによるMgの分布を示す顕微鏡写真である。
【図5】微粒子シリカを含んだ処理液を施した場合のSEM写真とEPMAによるMgの分布を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0040】
1 鋼材
2 クロメート代替化成下地処理被膜
3 プライマー樹脂
4 防食被覆層


特許出願人 新日本製鐵株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊 他1



【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸金属化合物に、水分散シリカの微粒子を質量比で0.3〜4.0の割合で添加した水溶液である鋼材用化成下地処理剤。
【請求項2】
前記リン酸金属化合物がリン酸マグネシウム、あるいはリン酸カルシウムの単体またはそれらの混合体であることを特徴とする請求項1記載の鋼材用化成下地処理剤。
【請求項3】
前記リン酸マグネシウムが重リン酸マグネシウムであることを特徴とする請求項2記載の鋼材用化成下地処理方法。
【請求項4】
酸洗あるいはブラスト処理を施した鋼材表面に、請求項1乃至3記載の下地処理剤を前記リン酸金属化合物の付着量が0.5〜5g/m2となるように塗布し、その後洗浄なしに乾燥することを特徴とする密着性と耐剥離性に優れた化成下地処理方法。
【請求項5】
鋼材表面に請求項4記載の下地処理方法を施した下地処理層、プライマー樹脂層、防食樹脂層を順次積層したことを特徴とする密着性と耐剥離性に優れた防食被覆鋼材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−249459(P2006−249459A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64382(P2005−64382)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】