説明

鍛造ギヤ

【課題】ギヤを外周部と内周部とに分割し、外周部を鍛造装置により形成して内周部に嵌合させることにより、内周部が複雑な形状のギヤであっても生産性が高く、かつ耐久性のある鍛造ギヤを得る。
【解決手段】
鍛造装置(10)により外周に歯(3)を有するリング状の周ギヤ(2)を形成し、該周ギヤ(2)を内周部材(5)の外周部に形成した環状の結合面(8)に嵌合させて両者を一体的に結合する。前記鍛造装置(10)は、内周にギヤ成形歯(12a)を有する環状のダイ(12)と、該ダイ(12)を挟んで互いに対向する第1パンチ(21)及び第2パンチ(18)とを有し、前記ダイ(12)に環状のワーク(2’)を嵌合させ、該ワーク(2’)を前記第1パンチ(21)と第2パンチ(18)とにより軸方向に圧縮して外周に歯(3)を有するリング状の周ギヤ(2)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造装置により形成される鍛造ギヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、内周にギヤ成形歯が形成された環状のダイをベース側の内周部材に取り付け、外周に粗歯が形成されたワークを前記ダイの上部に配置し、該ワークをパンチにより下方に押圧して前記ダイに押し込むことにより、ワークの粗歯をダイのギヤ成形歯で仕上げるようにしたものがあった。
【0003】
前記従来のものは、肉厚の等しい内外径を有するギヤにおいては、鍛造により高精度に成形することができる。しかしながら、図6に示すようなギヤ、即ち、ボス部36の側部にクラッチ歯38を有するクラッチ歯付きギヤ35を鍛造により形成すると、リム部37a(ギヤ歯37−内周側の肉部)の肉厚が左右非対称になっているため、素材の流れおよび素材内の圧力が不均一になってギヤ歯37が高精度に形成できず、該ギヤ歯37は機械切削により形成するようにしていた。これは、加工時間が延引して生産性が乏しくなるものであった。また、歯部の素材が切断されるとともに歯の表面が粗くなるため、耐久性が乏しくなるものであった。さらに、切り屑が発生するため、材料の歩留りが低下したり、切り屑の処理に手数を要したりするものであった。
【特許文献1】特開2005−7468号公報
【特許文献2】特許第3372668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ギヤを外周部と内周部とに分割し、外周部を鍛造装置により形成して内周部に嵌合させることにより、内周部が複雑な形状のギヤであっても生産性が高く、かつ耐久性のある鍛造ギヤを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために以下の如く構成したものである。即ち、鍛造装置により外周に歯を有するリング状の周ギヤを形成し、該周ギヤを内周部材の外周部に形成した環状の結合面に嵌合させて両者を一体的に結合する構成にしたものである。この場合、前記周ギヤは、肉厚の等しい内外径を有する環状のワークを鍛造装置により形成するとよい。
また、前記周ギヤは、内周にギヤ成形歯を有する環状のダイと、該ダイを挟んで互いに対向する第1パンチ及び第2パンチとを有する鍛造装置を設け、前記ダイに環状のワークを嵌合させ、該ワークを前記第1パンチと第2パンチとにより軸方向に圧縮して形成するとよい。
さらに、前記周ギヤは、肉厚の等しい内外径を有する環状のワークを鍛造装置により形成し、該周ギヤの内周の一端部または両端部を機械切削して肉取りするようにしてもよい。また、前記内周部材は、主体部を鍛造装置により形成し、少なくとも外周部の結合面を機械切削により形成するとよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、ギヤを周ギヤと内周部材とに分割し、周ギヤを鍛造装置により形成するようにしたので、内周部材の形状が複雑であっても、周ギヤのワークは簡素な環状にすることができ、鍛造装置により高精度に形成することができる。さらに、歯部を鍛造装置により形成するようにしたので、内周部材の形状が複雑になるギヤを迅速に得ることができ、生産性が高くなる。
また、周ギヤを、肉厚の等しい内外径を有する環状のワークを鍛造装置により形成するようにしたので、鍛造成形時の素材の流れおよび素材内の圧力が安定し、高精度の周ギヤを得ることができる。また、環状のワークを軸方向両端側から圧縮して周ギヤを形成するようにしたので、鍛造成形時の素材の流れおよび素材内の圧力がより安定し、品質の安定した周ギヤを得ることができる。
また、周ギヤを鍛造成形した後、該周ギヤの内周の一端部または両端部を機械切削して肉取りするようにしたので、軽量になるとともに、内周部に配置される他部品との緩衝がなくなり、小型化、軽量化に供する。
また、内周部材は、主体部を鍛造装置により形成し、外周部の結合面を機械切削により形成したので、周ギヤと内周部材との結合精度が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下本発明の実施例を図面に基いて説明する。図面において、図1は本発明によるギヤの断面図、図2は本発明による周ギヤの鍛造装置を示す説明用断面図、図3は鍛造装置により形成された周ギヤの断面図、図4は周ギヤの内周の一端部を肉取りした断面図、図5は内周部材の断面図である。
【0008】
図1において、1はクラッチ歯付きギヤであり、周ギヤ2と内周部材5とを一体的に結合して形成される。内周部材5は図1、図5に示すように、その主体部6が鍛造装置により形成され、外周部の一側(図5において右側)に歯切り盤で切削加工されたクラッチ歯7が、その他側(図5において左側)に旋盤で仕上げ(切削)加工された環状の結合面8が形成されている。また、軸心部の軸孔9は旋盤で仕上げ(切削)加工されている。
【0009】
前記周ギヤ2は、外周に歯3を有するリング状となっており、図2に示す鍛造装置10によって形成される。該鍛造装置10は、外周に粗歯が形成されたリング状のワーク2’を仕上げ成形する仕上げギヤ成形用の鍛造装置であり、ベース(図示省略)側に取り付けたダイユニット11、該ダイユニット11の上方にラムによって上下動されるパンチユニット20、及び加圧力伝達装置30を主要部として構成される。
【0010】
前記ダイユニット11は、その上部軸心部にワーク2’を成形するダイ12が配置されている。該ダイ12は、内周部に外歯成形用のギヤ成形歯12aが形成され、外周は下方に向かって小径となるテーパー面に形成され、該テーパー面を介してダイホルダ13にテーパー嵌合されている。
【0011】
前記ダイホルダ13は円筒状の締金14の上下中間部に圧入固定され、該締金14の上部側に止めリング(符号省略)が、下部側に受けリング15が嵌合されている。前記締金14の上部内周面は、上方に向かって拡開するテーパー面にしてこの部を雌ガイド14aとする。前記締金14及び受けリング15は保持体16を介してベース側に支持され、該保持体16の軸心部に芯金17及び筒状のカウンタパンチ、即ち第2パンチ18を同軸に嵌合させ、芯金17の上部はダイ12よりも上方に突出させ、この部でワーク2’をガイドする。また、第2パンチ18の上部は受けリング15の軸心部に嵌合させ、ダイ12に嵌合されたワーク2’を受け止めるようにする。
【0012】
前記ダイユニット11の上方にラムによって上下動されるパンチユニット20を設ける。該パンチユニット20は、軸心部にワーク2’を押し下げる筒状の第1パンチ21、該第1パンチ21の外周側にダイ12を押し下げるダイパンチ22、及びダイパンチ22を保持するダイパンチホルダ23を有する。ダイパンチホルダ23は、前記第1パンチ21を保持するホルダ21aに取付板24を一体的に固定し、該取付板24の下面側に保持板25を配置し、該保持板25の軸心部に前記ダイパンチ22を下方に向けて突出固定する。前記保持板25は、取付板24の中周部に垂下固定した保持ピン26及び該保持ピン26の下部に連結した段付きの加圧体(加圧ピン)27によつて取付板24に固定する。
【0013】
前記ダイパンチ22の下端部に、前述した締金14の雌ガイド14aに圧入するテーパー状の雄ガイド22aを形成する。前記雌ガイド14a及び雄ガイド22aの嵌合部のテーパー角度は前述したダイ12とダイホルダ13とのテーパー角度と略同じにする。また、雄ガイド22aの雌ガイド14aに対する圧入率は1%以下、好ましくは約0.4%とする。なお、前記テーパー角度及び圧入率はワーク2’の大きさ、材質等によって設定される。
【0014】
前述した取付板24と保持体16とに加圧力伝達装置30を設ける。即ち、ピン状の加圧体27を第1パンチ21と平行に配置し、その上端部を保持ピン26を介して取付板24に一体的に連結する。また、ベース側の保持体16内に、押圧体32、受圧体33、及び中継体34を嵌合させる。押圧体32は第2パンチ18の直下にて上下動可能に嵌合させ、受圧体33は前記加圧体27の下方にて上下動可能に嵌合させ、中継体34は水平方向に移動可能に嵌合させるとともに、その一端は前記押圧体32の下部に約45度の斜面カム35aを介して当接させ、その他端は前記受圧体33の下端に約45度の斜面カム35bを介して当接させる。
【0015】
そして、ラム(図示省略)によってパンチユニット20が下降された際に、第1パンチ21がワーク2’をダイ12内に押込み完了する時期と、加圧体27が前記受圧体33の上面に当接する時期とが略同じになるようにする。また、前記雄ガイド22aが雌ガイド14aに圧入する時期は、パンチユニット20が下降して第1パンチ21がワーク2’をダイ12内に押込む時期にパンチユニット20側の雄ガイド22aがダイユニット11側の雌ガイド14aに圧入し始めるようにする。前記ダイパンチ22は、パンチユニット20の下降に伴って第1パンチ21がワーク2’をダイ12内に押込み完了する前段にダイ12の上面に当接してダイ12をダイホルダ4に対して下方に相対移動させ、ダイ12を小径方向に弾性変形させながら、受けリング15に当接させるものである。
【0016】
前記鍛造装置10は、第1パンチ21がダイ12に嵌合させたワーク2’の上端を加圧する時点で加圧体27が受圧体33に衝突し、該受圧体33、中継体34、押圧体32を介して前記ワーク2’の下端を上方に加圧することになる。これにより、前記ワーク2’が軸方両端側から圧縮されて塑性変形し、該ワーク2’の材料が軸方向両端から軸方向中心方向に向かって流れつつ、ダイ12のギヤ成形歯12aに圧接し、該ギヤ成形歯12aがワーク2’に転写されることになる。これにより、成形される際に歯部に作用する圧力を全域に亘って略均一な圧力とし、該歯部の転写精度、つまり寸法精度を高くする。
【0017】
また、前記第1パンチ21がワーク2’を成形する際に、図2の右半部で示すように、雄ガイド22aが雌ガイド14aにテーパー嵌合して圧入し、該圧入するテーパー面により前記第1パンチ21がダイ12と同軸、つまりダイ12に対して直角に保持され、これにより、図3に示すように、同心度の高い歯3及び内周面2aを有する周ギヤ2が形成されることになる。また、ダイパンチ22に、成形内圧に対向する圧縮ひずみを与えることにより、ダイパンチ22の破損を防止することになる。なお、前記ワーク2’は、外周部の歯を省略し、外周面及び内周面が平滑となるリング状のワークとしてもよい。
【0018】
前記鍛造装置10によって形成された周ギヤ2は、その内周2aの一端部を機械切削により肉とりし、図4に示すような逃げ部2bを形成する。次いで、周ギヤ2を、前記内周面2aを介して前述した内周部材5の結合面8に嵌合させ、両者の合い面部を溶接4して周ギヤ2と内周部材5とを一体的に結合し、図1に示すようなクラッチ歯付きギヤ1を得る。なお、前記周ギヤ2と内周部材5との結合は、焼きばめにより結合してもよく、また、周ギヤ2の内周部と内周部材5の結合面8部にスプラインあるいはセレーションを形成して両者を圧入することにより一体的に結合するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明によるギヤの断面図である。
【図2】本発明による周ギヤの鍛造装置を示す説明用断面図である。
【図3】鍛造装置により形成された周ギヤの断面図である。
【図4】周ギヤの内周の一端部を肉取りした断面図である。
【図5】内周部材の断面図である。
【図6】従来例によるギヤの断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 クラッチ歯付きギヤ
2 周ギヤ
2a 内周面
2b 逃げ部
2’ ワーク
3 歯
4 溶接
5 内周部材
6 主体部
7 クラッチ歯
8 結合面
9 軸孔
10 鍛造装置
11 ダイユニット
12 ダイ
12a ギヤ成形歯
13 ダイホルダ
14 締金
14a 雌ガイド
15 受けリング
16 保持体
17 芯金
18 第2パンチ(カウンターパンチ)
20 パンチユニット
21 第1パンチ
22 ダイパンチ
22a 雄ガイド
23 ダイパンチホルダ
24 取付板
25 保持板
26 保持ピン
27 加圧体
32 押圧体
33 受圧体
34 中継体
35a,35b 斜面カム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造装置(10)により外周に歯(3)を有するリング状の周ギヤ(2)を形成し、該周ギヤ(2)を内周部材(5)の外周部に形成した環状の結合面(8)に嵌合させて両者を一体的に結合したことを特徴とする鍛造ギヤ。
【請求項2】
周ギヤ(2)は、肉厚の等しい内外径を有する環状のワーク(2’)を鍛造装置(10)により形成したことを特徴とする請求項1記載の鍛造ギヤ。
【請求項3】
内周にギヤ成形歯(12a)を有する環状のダイ(12)と、該ダイ(12)を挟んで互いに対向する第1パンチ(21)及び第2パンチ(18)とを有する鍛造装置(10)を設け、前記ダイ(12)に環状のワーク(2’)を嵌合させ、該ワーク(2’)を前記第1パンチ(21)と第2パンチ(18)とにより軸方向に圧縮して外周に歯(3)を有するリング状の周ギヤ(2)を形成したことを特徴とする請求項1または2記載の鍛造ギヤ。
【請求項4】
肉厚の等しい内外径を有する環状のワーク(2’)を鍛造成形して外周に歯(3)を有するリング状の周ギヤ(2)を形成し、該周ギヤ(2)の内周の一端部または両端部を機械切削して肉取りしたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の鍛造ギヤ。
【請求項5】
内周部材(5)は、主体部(6)を鍛造装置により形成し、少なくとも外周部の結合面(8)を機械切削により形成したことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の鍛造ギヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−305690(P2006−305690A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132780(P2005−132780)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(591178997)株式会社クリアテック (5)
【出願人】(000165376)兼松株式会社 (5)
【Fターム(参考)】