説明

長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚50mm以上の厚鋼板およびその製造方法ならびに長大脆性き裂伝播停止性能を評価する方法および試験装置

【課題】長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚50mm以上の厚鋼板およびその製造方法ならびに長大脆性き裂伝播停止性能を評価する方法および試験装置を提供する。
【解決手段】長大脆性き裂停止部の先端形状で、板厚中央部の特定の領域が、鋼板表面から板厚の特定領域に対し、少なくとも板厚分の長さだけ長大脆性き裂の進行方向に対し凹陥部を形成し、板厚中央部で特定領域が特定の集合組織を有する厚鋼板。特定成分の鋼を加熱後、鋼板表面温度1000〜850℃で累積圧下率10%以上で圧延後、特定の、表面温度と内部温度の状態で、1パス圧下率7%以上、累積圧下率50%以上で圧延終了時の鋼板表面温度800〜550℃で圧延する。試験片幅2m以上の試験片を用いて、き裂伝播長1m以上の長大脆性き裂に対する伝播停止性能を、試験片長さもしくは試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離を試験片幅の2.8倍以上として評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型コンテナ船やバルクキャリアーなどに用いて好適な脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚50mm以上の厚鋼板およびその製造方法に関する。また、実船相当の長大脆性き裂伝播停止性能を評価する方法ならびに試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンテナ船やバルクキャリアーは、積載能力の向上や荷役効率の向上等のため、上部開口部を大きくとった構造となっている。このため、これらの船では特に船体外板を厚肉化する必要がある。
【0003】
近年、コンテナ船は大型化し、6、000〜20、000TEUの大型船では船体外板の板厚は50mm以上となり、板厚効果により破壊靱性が低下することに加え、溶接入熱もより大きくなるため、溶接部の破壊靭性が一層低下する傾向にある。なお、TEU(Twenty feet Equivalent Unit)は、長さ20フィートのコンテナに換算した個数を表し、コンテナ船の積載能力の指標を示している。
【0004】
船舶やラインパイプに使用される鋼板の板厚が50mm未満の比較的薄手の鋼材に対しては、TMCP法により細粒化を図り、低温靭性を向上させて、優れた脆性き裂伝播停止特性を付与することができる。
【0005】
合金コストを上昇させることなく、鋼材の表層部の組織を超微細化する技術が、脆性き裂伝播停止特性を向上させる手段として提案されている。例えば、特許文献1では、脆性き裂が伝播する際に、鋼材表層部に発生するシアリップ(塑性変形領域)が脆性き裂伝播停止特性の向上に効果があることに着目し、シアリップ部分の結晶粒を微細化させて、伝播する脆性き裂が有する伝播エネルギーを吸収させる方法が開示されている。
【0006】
鋼板を熱間圧延後、制御冷却により表層部分をAr変態点以下に冷却し、その後制御冷却を停止して表層部分を変態点以上に復熱させる工程を1回以上繰り返して行い、この間に鋼材に圧下を加えることにより、繰り返し変態させ又は加工再結晶させて、表層部分に超微細なフェライト組織又はベイナイト組織を生成させるものである。
【0007】
特許文献2には、フェライト−パーライトを主体のミクロ組織とする鋼材において両表面部を円相当平均粒径:5μm以下、アスペクト比:2以上のフェライト粒を有するフェライト組織を50%以上有する層で構成し、更に仕上げ圧延中の1パス当りの最大圧下率を12%以下にすることで局所的な再結晶現象を抑制し、フェライト粒径のバラツキを抑えると優れた脆性き裂伝播停止特性向上の得られることが開示されている。
【0008】
特許文献3には、塑性変形を受けた後の耐脆性き裂伝播特性に優れた鋼材として、以下の(a)〜(d)に述べる方法によって製造される結晶粒内にサブグレインを形成させた微細フェライトを主組織とする鋼材が開示されている。
【0009】
(a)微細なフェライト結晶粒を確保する圧延条件、(b)鋼材板厚の5%以上の部分に微細フェライト組織を生成させる圧延条件、(c)微細フェライトに集合組織を発達させるとともに加工(圧延)により導入した転位を熱的エネルギーにより再配置しサブグレインを形成させる圧延条件、(d)形成した微細なフェライト結晶粒と微細なサブグレイン粒の粗大化を抑制する冷却条件、によって、鋼板表層の冷却および復熱などの複雑な温度制御を必要とせずに、塑性変形を受けた後の脆性き裂伝播停止特性を向上させる。
【0010】
また、特許文献1〜3と異なる技術思想として特許文献4には、集合組織を発達させることにより、鋼材の破壊面上にセパレーションを板厚方向と平行な方向に発生させ、脆性き裂先端の応力を緩和させることにより、耐脆性き裂伝播特性を高める方法において、制御圧延により(110)面X線強度比を2以上とし、かつ円相当径20μm以上の粗大粒を10%以下とすることが記載されている。
【0011】
特許文献5では溶接継手部の脆性き裂伝播停止性能の優れた溶接構造用鋼として、板厚内部においての圧延面での(100)面のX線面強度比が1.5以上を有することを特徴とする鋼板が開示され、集合組織発達により、応力負荷方向に垂直な方向に対して、き裂伝播方向を変化させて、脆性き裂を溶接継手部から母材側に誘導し、継手としての脆性き裂伝播停止性能を向上させることが記載されている。
【0012】
また、特許文献6には、板厚中央部における圧延面での(211)面のX線強度比が1.3以上、かつ板厚1/4部における圧延面での(100)面X線強度比が1.5以上、板表層部における圧延面での(100)面X線強度比が1.5以上を有することを特徴とする鋼板が開示され、集合組織発達により、T継手等を介し鋼板表面から突入する脆性き裂先端近傍にクラックが発生し、そのクラックがき裂伝播抵抗として作用し板厚方向に伝播する脆性き裂に対する脆性き裂伝播停止性能が向上することが記載されている。
【0013】
一方、船体構造においては、万一溶接部から脆性破壊が発生した場合にも、脆性き裂の伝播を停止させ船体分離を防止することが必要と考えられている。板厚50mm未満の造船用鋼板溶接部の脆性き裂伝播挙動については、日本造船研究協会第147委員会において、実験的に検討がなされている。
【0014】
第147委員会では、溶接部にて強制的に発生させた脆性き裂の伝播経路、伝播挙動を実験的に調査した結果、溶接部の破壊靱性がある程度確保されていれば、溶接残留応力の影響により脆性き裂は溶接部から母材側に逸れてしまうことが多いが、溶接部に沿って脆性き裂が伝播した例も複数確認された。このことは、脆性破壊が溶接部に沿って直進伝播する可能性が無いとは言い切れないことを示唆している。
【0015】
しかしながら、第147委員会で適用した溶接と同等の溶接を板厚50mm未満の鋼板に適用して建造された船舶が何ら問題なく就航しているという多くの実績があることに加え、靱性が良好な鋼板母材(造船E級鋼など)は脆性き裂を停止する能力が十分にあるとの認識から、造船用鋼材溶接部の脆性き裂伝播停止特性は船級規則等には要求されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平4−141517号公報
【特許文献2】特開2002−256375号公報
【特許文献3】特許第3467767号公報
【特許文献4】特許第3548349号公報
【特許文献5】特開平6−207241号公報
【特許文献6】特開2008−214652号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】山口ら:「超大型コンテナ船の開発―新しい高強度極厚鋼板の実用―」、日本船舶海洋工学会誌、3、(2005)、P70.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、最近の6、000TEUを超える大型コンテナ船では鋼板の板厚は50mmを超え、板厚効果により破壊靱性が低下することに加え、溶接入熱もより大きくなるため、溶接部の破壊靭性が一層低下する傾向にある。
【0019】
最近、このような厚肉大入熱溶接継手では、溶接部から発生した脆性き裂は母材側に逸れずに直進し長大化し、骨材等の鋼板母材部でも停止しないことが実験的に示され(非特許文献1)、50mm以上の板厚の鋼板を適用した船体構造の安全確保の上で大きな問題となっている。また、このような船体の安全性確保を評価する試験として、長大ESSO試験があるが、評価方法の相違や試験装置の制約などにより試験結果が変化し、必ずしも実船に相当する長大脆性き裂伝播停止性能が評価されていないという問題があった。
【0020】
上述した特許文献1〜6記載の鋼板は長大化した脆性き裂伝播停止特性について記載がなく、非特許文献1で明らかにされた課題を解決することができない。また、実船相当の長大脆性き裂伝播停止特性を評価する方法や試験装置については、特許文献1〜6記載の技術には記載がなく、実船相当の安全性評価という課題を解決することができない。
【0021】
そこで、本発明は、50mm以上の板厚の鋼板およびその溶接部において、脆性破壊が発生した場合でも、大規模破壊に至る前に長大化した脆性き裂を停止させる厚鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。加えて、実船相当の長大脆性き裂伝播停止性能を評価する方法ならびに試験装置を提供することを目的とする。なお、ここでいう長大脆性き裂とは、隣接する他の鋼板から突入する長さ1m以上の脆性き裂のことである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、化学組成および圧延条件を変化させた多くの鋼板について集合組織形態と脆性き裂伝播停止特性(アレスト性能という場合がある)の関係を調査するとともに、長大脆性き裂伝播停止現象に及ぼすアレスト性能(靭性や集合組織に影響される)の板厚方向の分布の影響を調査した。また、タブ板先端間距離もしくは荷重負荷点間距離を変化させた動的FEM解析により、実船相当の長大脆性き裂伝播特性を模擬できる長大ESSO試験の評価方法、試験装置について検討した。
【0023】
その結果、化学組成および圧延条件を制御し、アレスト性能に影響を与える靭性および集合組織の板厚方向の分布を規定した場合、長大脆性き裂伝播停止性能が飛躍的に向上し、これまで停止が困難と考えられてきた厚物鋼板もしくはその溶接部を伝播してきた長大脆性き裂を応力反射の無い実船相当条件下において、鋼板にて停止させうることを知見した。さらに、動的FEM解析の結果、タブ板先端間距離および荷重負荷点間距離を所定の値とすることで、応力反射の無い実船に相当する長大ESSO試験の評価方法、試験装置について知見した。なお、厚さ50mm未満の厚鋼板は、現行鋼板(例えば造船用E級鋼など)で長大脆性き裂を停止させることができるため、本発明は厚さ50mm以上の厚鋼板を対象とした。
【0024】
本発明は上記知見を基に更に検討を加えてなされたもので、すなわち本発明は、
(1)板厚(t)が50mm以上の厚鋼板であって、板厚方向断面における長大脆性き裂伝播停止部の先端形状において、板厚中央部の板厚(t)の20%の幅の領域における停止き裂長さが、鋼板表面から板厚(t)の1/4〜1/10または板厚(t)の3/4〜9/10となる領域の最大き裂長さに対し、少なくとも板厚(t)の長さだけ前記長大脆性き裂の進行方向に対し短く、凹んだ凹陥部を形成していることを特徴とする長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚(t)が50mm以上の厚鋼板。
(2)前記板厚中央部で板厚(t)の少なくとも20%の領域における部位の圧延面での(211)面もしくは(100)面のX線強度比が1.5以上、前記板厚(t)の1/4〜1/10となる領域または前記板厚(t)の3/4〜9/10となる領域の圧延面での(110)面のX線強度比が1.3以上であることを特徴とする、(1)記載の長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚(t)が50mm以上の厚鋼板。
(3)前記板厚中央部で板厚(t)の少なくとも20%の領域における部位の圧延面での(211)面X線強度比X(211)と(100)面X線強度比X(100)および同部位の2mmVノッチシャルピー衝撃試験により得られる破面遷移温度vTrs(℃)が式:vTrs−12X(100)−22X(211)≦(T−75)/0.64[Tは鋼板の供用温度(℃)]を満足し、且つ前記板厚(t)の1/4〜1/10となる領域または前記板厚(t)の3/4〜9/10となる領域の圧延面での(110)面のX線強度比が1.3以上であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚(t)が50mm以上の厚鋼板。
(4)鋼組成が、質量%で、C:0.15%以下、Si:0.60%以下、Mn:0.80〜1.80%、S:0.001〜0.05%を含み、Ti:0.005〜0.050%またはNb:0.001〜0.1%の内から選んだ少なくとも1種を含み、更に、Cu:2.0%以下、V:0.2%以下、Ni:2.0%以下、Cr:0.6%以下、Mo:0.6%以下、W:0.5%以下、B:0.0050%以下、Zr:0.5%以下の内から選んだ少なくとも1種を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか一つに記載の長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚(t)が50mm以上の厚鋼板。
(5)(4)に記載の成分組成を有する鋼素材を、900〜1350℃の温度に加熱し、次いで鋼板表面温度1000〜850℃の温度域において累積圧下率10%以上圧延した後、鋼板表面温度900〜600℃且つ鋼板内部温度が鋼板表面温度より50〜150℃高温となる状態とし、その後、1パス圧下率7%以上、累積圧下率50%以上で、圧延終了時の鋼板表面温度800〜550℃で熱間圧延することを特徴とする長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚(t)が50mm以上の厚鋼板の製造方法。
(6)更に、熱間圧延を終了した後、5℃/s以上の冷却速度で400℃まで冷却することを特徴とする(5)記載の長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚(t)が50mm以上の厚鋼板の製造方法。
(7)試験片幅2m以上の大型試験片を用いて、き裂伝播長1m以上の長大脆性き裂に対する伝播停止性能を評価・確認する試験において、試験片長さもしくは試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離が試験片幅の2.8倍以上であることを特徴とする、鋼材もしくは構造物の長大脆性き裂伝播停止性能の評価方法。
(8)(7)に記載の評価方法において、さらに、試験装置の荷重負荷点間距離が試験片幅の4.1倍以上であることを特徴とする鋼材もしくは構造物の長大脆性き裂伝播停止性能の評価方法。
(9)試験片幅2m以上の大型試験片を用いて、き裂伝播長1m以上の長大脆性き裂に対する伝播停止性能を評価・確認する試験装置において、試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離が試験片幅の2.8倍以上であることを特徴とする、長大脆性き裂伝播停止性能を評価する試験装置。
(10)(9)に記載の試験装置において、さらに、試験装置の荷重負荷点間距離が試験片幅の4.1倍以上であることを特徴とする長大脆性き裂伝播停止性能を評価する試験装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、板厚(t)が50mm以上の厚鋼板において優れた脆性き裂伝播停止性能を付与することが可能で、これまで困難であった板厚50mm以上の厚物材における長大脆性き裂を応力反射の無い実船相当条件下において停止させることができ産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る板厚(t)が50mm以上の鋼板の板厚方向断面における長大脆性き裂伝播停止部の先端形状を模式的に示す図。
【図2】長大ESSO試験片の寸法形状を示す図。
【図3】長大脆性き裂伝播停止特性の評価に及ぼす応力反射の影響を調査するための動的FEM解析モデルを示し、(a)はパラメトリックモデル、(b)は荷重負荷点間距離10mの場合、(c)は荷重負荷点間距離5mの場合の動的FEM解析モデルを示す。
【図4】図3の動的解析モデルによる解析結果として、動的応力拡大係数に及ぼす試験条件(試験片端部からの距離)の影響を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明では、板厚方向断面における長大脆性き裂伝播停止部の先端形状を規定する。以下に本発明の限定理由について説明する。
【0028】
図1に本発明に係る板厚(t)が50mm以上の鋼板1の板厚方向断面における長大脆性き裂2の伝播停止部の先端形状(長大脆性き裂停止位置3)を模式的に示す。
【0029】
本発明では、長大脆性き裂伝播停止部の先端形状を、板厚中央部の板厚(t)の20%の幅の領域における長大脆性き裂停止位置と、鋼板表面から板厚(t)の1/4〜1/10および板厚(t)の3/4〜9/10となる幅領域の長大脆性き裂停止位置の位置間のうち、最も短い間隔(以下、深さa)が少なくとも板厚(t)の長さの、深さaだけ長大脆性き裂の進行方向に対し短く、凹んだ略U字状の凹陥部を有する形状とする。
【0030】
鋼板全体のアレスト性能を向上させるため鋼板の板厚方向断面の板厚中央部において板厚(t)の少なくとも20%の幅の領域、t(板厚(t)の1/2位置を含んだ、その上下10%以上の幅の領域)のアレスト性能を向上させる。なお、アレスト性能を向上させる領域、tは、圧延負荷の制約から50%以下とすることが好ましい。
【0031】
アレスト性能を向上させた板厚中央付近の領域幅、tが板厚の20%未満となると、板厚(t)の1/4〜1/10部近傍(板厚(t)の1/4位置と1/10位置を含み、1/4位置と1/10位置の間の領域)および板厚(t)の3/4〜9/10部近傍(板厚(t)の3/4位置と9/10位置を含み、3/4位置と9/10位置の間の領域)の破壊駆動力が十分に下がらず、板厚(t)の1/4〜1/10部近傍および板厚(t)の3/4〜9/10部近傍において、き裂が停止せず伝播してしまうため、少なくとも20%とする。
【0032】
板厚方向断面において他の領域よりアレスト性能に優れる領域は長大脆性き裂の停止長さが短くその進行方向に対し、凹んだ凹陥部を形成するので、長大脆性き裂伝播停止部の先端形状を板厚中央部の板厚(t)の少なくとも20%の領域を長大脆性き裂の進行方向に対して凹んだ略U字状の凹陥部とする。
【0033】
また、略U字状の凹陥部の形状は、板厚(t)の1/4〜1/10近傍および板厚(t)の3/4〜9/10近傍の破壊駆動力の低下には、板厚中央部の板厚の20%の領域における脆性き裂停止長さが、板厚(t)の1/4〜1/10および板厚(t)の3/4〜9/10の領域における脆性き裂停止長さより、少なくとも板厚(t)の長さだけ短くなることが必要なため、長大脆性き裂の進行方向に対し、凹陥部の深さaが少なくとも板厚(t)の長さと等しい凹んだ形状とする。
【0034】
深さaは図1中の板厚(t)の1/4〜1/10および板厚(t)の3/4〜9/10となる領域での長大脆性き裂停止位置(最大き裂長さとも言う)を示す板厚方向に直角な線と、板厚中央部において板厚の20%の領域幅を示す板厚方向に平行な線と長大脆性き裂伝播停止位置との交点を通る板厚方向に直角な線との間隔の内、もっとも短い間隔の長さと規定する。
【0035】
厚さ50mm以上の厚鋼板の脆性破壊破面では板厚(t)の1/4〜1/10または板厚(t)の3/4〜9/10の領域内に最長き裂伝播部(図1のA点およびA’点付近)が観察されるため、板厚中央部近傍とこれら領域との比較において長大脆性き裂伝播停止位置が板厚方向に描く形状を本発明では規定する。なお、板厚(t)の1/2位置に対し、上下対称となる鋼板表面から板厚方向に板厚(t)の1/4〜1/10の領域と板厚(t)の3/4〜9/10の領域はアレスト性能、長大脆性き裂伝播停止部の先端形状が概略等しい。
【0036】
上述した長大脆性き裂伝播停止部の先端形状は、図2に示す長大ESSO試験片4の破面で確認することができる。長大ESSO試験片4は、試験板6と助走板5はCO溶接部8で接合され、助走板5にはCO溶接部8と直角方向にエレクトロガス溶接部7を設け、機械ノッチ9から発生した脆性き裂(図示しない)がエレクトロガス溶接部7に沿って伝播し、試験板6の荷重負荷方向と直角に試験板6に突入する。荷重負荷方向は図中矢印R.D.の圧延方向とする。本発明において長大脆性き裂伝播停止特性とは、試験板6へ突入するまでの脆性き裂の伝播距離が長い長大ESSO試験片4を用いて、実際の船舶と同様応力反射の影響の無いタブ板先端間距離や荷重負荷点間距離の十分長い試験機により評価されるものを指す。
【0037】
ここでいう応力反射とは、脆性き裂が発生・伝播することにより生じる圧縮応力波の試験機タブ板部等での反射のことである。この応力反射が発生すると、圧縮の応力波が脆性き裂伝播部に戻ってくるため、脆性き裂は停止しやすくなる。実際の船舶等の構造物においては、構造物の大きさが脆性き裂に対して十分に大きいため応力反射は発生しない(あるいはしにくい)。このため、長大脆性き裂の伝播停止特性は、タブ板先端間距離や荷重負荷点間距離の十分長い試験機により評価する必要がある。
【0038】
本発明に係る鋼板は以下に述べる集合組織を備えることが望ましい。
板厚中央部の板厚の少なくとも20%の領域における圧延面での(211)面もしくは(100)面のX線強度比が1.5以上、板厚1/4t〜1/10t部または板厚3/4t〜9/10t部の圧延面での(110)面のX線強度比が1.3以上
板厚中央付近における圧延面での(211)面もしくは(100)面のX線強度比が1.5以上になると、微細なサブクラックが発生し、脆性き裂伝播面の凹凸が大きくなり、き裂伝播抵抗が増し、脆性き裂伝播停止靭性が大きく向上する。X線強度比が1.5未満ではこの効果は認められない。以上より、板厚中央部の板厚の20%以上の領域における圧延面での(211)面もしくは(100)面のX線強度比を1.5以上に限定した。
【0039】
一方、板厚1/4t〜1/10t部の圧延面での(110)面のX線強度比が1.3未満となると、板厚中央部の板厚の20%以上の領域における脆性き裂停止長さが、板厚1/4t〜1/10tの領域における脆性き裂停止長さより、板厚分以上短くならず、板厚1/4t〜1/10t部近傍(図1のA点およびA’点付近の最長き裂伝播部)の破壊駆動力の低下が起こらなくなる。よって、板厚1/4t〜1/10t部の圧延面での(110)面のX線強度比を1.3以上に限定した。上記規定は板厚3/4t〜9/10t部も同様とする。
【0040】
更に、鋼板の供用温度における脆性き裂伝播停止靭性を向上させるため、下式を満足さすることが好ましい。
【0041】
vTrs−12X(100)−22X(211)≦(T−75)/0.64
(但し、式においてX(211)は板厚中央部で板厚(t)の少なくとも20%の領域における部位の圧延面での(211)面X線強度比、X(100)は同部位の(100)面X線強度比、vTrs(℃)は同部位の2mmVノッチシャルピー衝撃試験により得られる破面遷移温度、Tは鋼板の供用温度(℃)を示す)
本パラメータ式は、集合組織における対象部位の脆性き裂伝播停止靭性を供用温度にて確保するため、鋼板の靭性を集合組織に応じてvTrsで規定するもので、供用温度より当該対象部位のシャルピー破面遷移温度vTrsを低温とするため、vTrsを、上式を満足するように規定する。尚、上述したように脆性き裂伝播停止靭性向上のためには、(211)面または(100)面のX線強度比1.5以上を必要とするが、両者のうち、(211)面集合組織が脆性き裂伝播停止靭性向上への寄与が大きいため、式においてX(100)に対してX(211)の係数を大きくしている。
【0042】
上述した特性を有する鋼板の好ましい成分組成と製造条件は以下のようである。説明において%は質量%とする。
【0043】
[成分組成]
C:0.15%以下
Cは強度を確保するために必要である。強度確保の観点から望ましくは下限を0.02%とする。しかし、C量が0.15%を超えると溶接熱影響部(HAZ)靭性が低下するので、0.15%以下に限定した。なお、(211)面および(100)面の集合組織をより一層発達させるために好ましい範囲は0.03%以下である。
【0044】
Si:0.60%以下
Siは強度上昇に有効な元素である。その効果を得るためには0.01%以上含有するのが好ましい。Si量が、0.60%を超えると溶接熱影響部(HAZ)靭性を著しく劣化させるので、0.60%以下に限定した。
【0045】
Mn:0.80〜1.80%
Mnは高強度化に有効な元素であり、強度確保の観点から下限を0.80%とした。しかし、Mn量が1.80%を超えると、母材靭性の劣化が懸念される。このため、Mnは0.80〜1.80%の範囲とした。なお、好ましい範囲は1.00〜1.70%である。
【0046】
S:0.001〜0.05%以下
本発明においては、脆性き裂前縁にクラック(鋼板表面に平行な割れ)を発生させる必要があるため、Sの0.001%以上の含有が必要である。しかし、Sは非金属介在物を形成し延性・靭性を劣化させるため、0.05%以下に制限した。
【0047】
Ti:0.005〜0.050%、Nb:0.001〜0.1%の1種または2種
Tiは、炭化物や窒化物の析出物を形成することにより、鋼板製造時の加熱段階でのオーステナイト粒の成長を抑制して細粒化に寄与するとともに、溶接熱影響部(HAZ)の結晶粒粗大化も抑制しHAZ靱性を向上する効果がある。これらの効果を得るには、0.005%以上の含有が必要である。一方、過度の含有は、靱性を劣化するため、0.050%を上限とする。
【0048】
Nbは析出強化および靱性の向上にも有効である。また、オーステナイトの再結晶を抑制し、後述する圧延条件による効果を促進する。これらの効果を得るためには、0.001%以上の添加が必要であるが、0.1%を超えて添加すると、焼き入れ組織が針状化して靱性が劣化する傾向にあるため、0.1%を上限とする。
【0049】
Cu:2.0%以下、V:0.2%以下、Ni:2.0%以下、Cr:0.6%以下、
Mo:0.6%以下、W:0.5%以下、B:0.0050%以下、Zr:0.5%以下の内から選んだ少なくとも1種
Cu:2.0%以下
Cuは、主として析出強化のために用いることができる。その効果を得るには0.05%以上添加するのが好ましい。Cu量が、2.0%をこえて含有すると、析出強化が過多となり靱性が劣化するので、2.0%以下の範囲とすることが好ましい。
【0050】
V:0.2%以下
Vは固溶強化と析出強化が利用できる成分である。その効果を得るには0.001%以上の含有が好ましい。しかし、0.2%を超えて含有すると、母材靭性および溶接性を大きく損なうので、0.2%以下の範囲とすることが好ましい。
【0051】
Ni:2.0%以下
Niは、強度および靱性を向上し、またCuを添加した場合には圧延時のCu割れを防止するのに有効である。その効果を得るには、0.05%以上の添加が好ましい。しかし、高価である上、過剰に添加してもその効果が飽和するため、2.0%以下の範囲とすることが好ましい。
【0052】
Cr:0.6%以下
Crは、強度を上昇させる効果を有する。その効果を得るには、0.01%以上の含有が好ましい。しかし、0.6%を超えて含有すると溶接部靱性が劣化するため、Cr含有量は0.6%以下の範囲とすることが好ましい。
【0053】
Mo:0.6%以下
Moは、常温および高温での強度を上昇させる効果を有する。その効果を得るためには、0.01%以上添加するのが好ましい。しかし、0.6%を超えて含有すると、溶接性が劣化するため、含有量は0.6%以下の範囲とするのが好ましい。
【0054】
W:0.5%以下
Wは、高温強度を上昇させる効果を有している。その効果を得るには、0.05%以上の含有が好ましい。しかし、0.5%を超えると靱性を劣化させるだけでなく、高価であるので、0.5%以下の範囲で含有するのが好ましい。
【0055】
B:0.0050%以下
Bは圧延中にBNとして析出し、圧延後のフェライト粒を細かくする。その効果を得るには、0.0010%以上の含有が好ましい。しかし、0.0050%を超えると靱性が劣化するので0.0050%以下に限定した。
【0056】
Zr:0.5%以下
Zrは、強度を上昇させるほか、亜鉛めっき材の耐めっき割れ性を向上させる元素である。その効果を得るには、0.03%以上の含有が好ましい。しかし、0.5%を超えて含有すると溶接部靱性が劣化するので、Zr含有量は0.5%を上限とするのが好ましい。
本発明に係る鋼は上記成分組成の他は残部Feおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、P:0.035%以下、Al:0.08%以下、N:0.012%以下、O:0.05%以下、Mg:0.01%以下、などが容認できる。
【0057】
製造条件では、加熱温度、熱間圧延条件、冷却条件を規定することが好ましい。説明において規定がない場合、温度、冷却速度は板厚方向の平均値とする。
【0058】
[加熱温度]
鋼素材は、900〜1350℃の温度に加熱する。加熱温度を900℃以上とするのは、材質の均質化と後述する制御圧延を行うために必要な加熱であり1350℃以下とするのは、過度に高温になると表面酸化が顕著になるとともに、結晶粒の粗大化が避けられなくなるからである。なお、靱性の向上のためには、上限を1150℃とすることが好ましい。
【0059】
[熱間圧延条件]
鋼板表面温度1000〜850℃の温度域において累積圧下率10%以上圧延
当該温度域で圧延することによって、オーステナイト粒が部分的に再結晶するため、組織が微細かつ均一になる。
【0060】
なお、1000℃を超える温度での圧延は、オーステナイト粒の成長を助長するので、細粒化のためには好ましくない。一方、850℃未満では完全にオーステナイト未再結晶域に入るので、結晶粒の均一化のためには好ましくない。
【0061】
鋼板表面温度900〜600℃で且つ鋼板内部温度が鋼板表面温度より50〜150℃高温となる状態とした後に、1パス圧下率7%以上、累積圧下率50%以上で、圧延終了時の鋼板表面温度850〜550℃の条件にて熱間圧延する
鋼板表面温度900〜600℃で且つ鋼板内部温度が鋼板表面温度より50〜150℃高温となる状態とすることにより、表面近傍がほぼ2相域で且つ鋼板内部がほぼオーステナイト未再結晶域となる。
【0062】
この条件で1パス圧下率7%以上の圧延を施すと、相対的に強度の低くなっている鋼板内部に優先的に圧延歪が導入され、板厚中央部の少なくとも板厚の20%の領域に集合組織が導入される。この工程により、オーステナイト粒に集合組織が形成される。
【0063】
すなわち、脆性き裂先端におけるクラック生成に効果的な変態集合組織の一種である(211)面集合組織の基礎が形成される。なお、板厚中央部の少なくとも板厚の20%の領域に集合組織を導入するために、より好ましくは、1パス圧下率10%以上とするのがよい。
【0064】
その後、鋼板表面温度850〜550℃まで圧延することにより、鋼板内部が2相域で圧延され(100)面集合組織が形成される。
【0065】
上記集合組織の集積度を脆性き裂先端におけるクラック生成に効果的なレベル(集積度1.55以上)にするには、累積圧下率50%以上が必要となる。
【0066】
[冷却条件]
熱間圧延を終了した後、5℃/s以上の冷却速度で400℃まで冷却する。400℃までの温度域を5℃/s以上の冷却速度で冷却すると、(211)面が優勢な集合組織のオーステナイト集合組織からの受け継ぎが促進され、脆性き裂伝播停止靱性が向上する。
【0067】
上記条件で冷却すると、(211)面のX線面強度がより強くなり、サブクラックの発生がより一層促進され、き裂が停止し易くなる。尚、上記冷却方法においては、より好ましい冷却開始温度は700℃以上である。
【0068】
尚、本発明に係る厚鋼板を、鋼板厚さ50mm未満とした場合、優れた脆性き裂伝播特性を有することはいうまでもない。
[評価方法、試験装置]
応力反射の無い実船相当条件下にて、長大脆性き裂伝播停止特性を評価するため、動的FEM解析により応力反射の影響を評価し、試験機のタブ板先端間距離、荷重負荷点間距離を決定した。長大ESSO試験片サイズは図2に示したものとした。
【0069】
図3(a)、(b)、(c)に動的FEM解析モデルを、図4に結果を示す。図3(a)は応力反射の無い条件を見極めるためのパラメトリックモデルであり、応力反射に影響する試験機タブ板11(厚さ200mm)間の距離(図3(a)の2A)の影響を解析するためのモデルである。図3(b)は使用する試験機の荷重負荷点10の距離を10mに設定した場合のモデル、図3(c)は使用する試験機の荷重負荷点10の距離を5mに設定した場合のモデルである。
【0070】
図4にFEM解析結果を示す。図4は伝播中のき裂の動的応力拡大係数(脆性き裂伝播中の破壊駆動力)Kdの変化を破壊発生から試験板に突入するまでの間で求めたものである。×印で示した結果は、2A=10000mmの場合であり、脆性き裂が試験板突入まで応力反射が起こらない実船相当条件での結果である。
【0071】
2A=1800〜4300mmの条件では、応力反射が発生するため、試験板突入時の動的応力拡大係数Kdが、実船相当条件である2A=10000mmの場合に比較して、低くなっていることが確認できる。これは、2A=1800〜4300mmの条件では、実船条件よりも長大脆性き裂が停止しやすくなることを意味する。一方、2A=6800mmの条件では、若干の動的応力拡大係数Kdの低下が認められるものの、実船相当条件とそれほど変わらなくなることが確認できる。
【0072】
よって、2Aを6800mm以上確保すれば、実船相当条件の評価が可能であり、例えば図3(b)に示す荷重負荷点間距離10mの大型引張試験ジグ形状であれば、十分に実船相当条件の評価が可能となる。図4には使用する試験機の荷重負荷点間距離を5mと10mに設定した場合のモデルにより得られた解析結果を示しているが、図3(b)に示す荷重負荷点間距離10mモデルの大型引張試験ジグ形状にて長大ESSO試験を実施すれば、応力反射の無い実船相当条件下での評価となることが認められる。
【0073】
以上のFEM解析により、応力反射の無い実船相当条件下の長大脆性き裂伝播停止性能の評価方法は、試験片長さもしくは試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離が試験片幅の2.8倍以上(≒6800mm/2400mm)、さらに試験装置の荷重負荷点間距離が試験片幅の4.1倍以上(≒10000mm/2400mm)とした。
【0074】
同様に、応力反射の無い実船相当条件下の長大脆性き裂伝播停止性能を評価しうる試験装置として、試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離が試験片幅の2.8倍以上(≒6800mm/2400mm)、さらに試験装置の荷重負荷点間距離が試験片幅の4.1倍以上(≒10000mm/2400mm)とした。
【実施例】
【0075】
表1に示す種々の化学組成に調整した鋼スラブを用いて、表2に示す条件にしたがって厚鋼板を製造した。かくして得られた各厚鋼板について、板厚(t)の中央部(高アレスト性能域)の(211)面と(100)面のX線強度比の測定を行うとともに、シャルピー破面遷移温度vTrsを調査した。また、板厚(t)の1/8部(板厚(t)の1/4〜1/10の領域の代表部位)の(110)面のX線強度比の測定を行った。
【0076】
次に、長大脆性き裂伝播停止特性を評価するため、前記の厚鋼板(板厚(t)の元厚まま)を用いて、図2に示す寸法形状の長大ESSO試験片を作製し、試験に供した。試験は、応力257N/mm、温度−10℃の条件にて実施した。ここで、応力257N/mmは、船体に多用されている降伏強度40kgf/mm級鋼板の最大許容応力であり、温度−10℃は船舶の設計温度である。長大ESSO試験は図3(b)に示す大型引張試験ジグにて、タブ板先端間距離6800mm、荷重負荷点間距離10000mmのもと行った。
【0077】
長大ESSO試験を実施した結果を、表3に示す。本発明例(No2、3、6、8、9、12、14)では脆性き裂が隅肉溶接部で停止しており、比較例(No.1、4、5、7、10、11、13、15、16)では、脆性き裂が停止しなかった。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【符号の説明】
【0081】
1鋼板
2長大脆性き裂
3長大脆性き裂停止位置
4長大ESSO試験片
5助走板
6試験板
7エレクトロガス溶接部
8CO溶接部
9機械ノッチ
10荷重負荷点
11タブ板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚(t)が50mm以上の厚鋼板であって、板厚方向断面における長大脆性き裂伝播停止部の先端形状において、板厚中央部の板厚(t)の20%の幅の領域における停止き裂長さが、鋼板表面から板厚(t)の1/4〜1/10または板厚(t)の3/4〜9/10となる領域の最大き裂長さに対し、少なくとも板厚(t)の長さだけ前記長大脆性き裂の進行方向に対し短く、凹んだ凹陥部を形成していることを特徴とする長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚(t)が50mm以上の厚鋼板。
【請求項2】
前記板厚中央部で板厚(t)の少なくとも20%の領域における部位の圧延面での(211)面もしくは(100)面のX線強度比が1.5以上、前記板厚(t)の1/4〜1/10となる領域または前記板厚(t)の3/4〜9/10となる領域の圧延面での(110)面のX線強度比が1.3以上であることを特徴とする、請求項1記載の長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚(t)が50mm以上の厚鋼板。
【請求項3】
前記板厚中央部で板厚(t)の少なくとも20%の領域における部位の圧延面での(211)面X線強度比X(211)と(100)面X線強度比X(100)および同部位の2mmVノッチシャルピー衝撃試験により得られる破面遷移温度vTrs(℃)が式:vTrs−12X(100)−22X(211)≦(T−75)/0.64[Tは鋼板の供用温度(℃)]を満足し、且つ前記板厚(t)の1/4〜1/10となる領域または前記板厚(t)の3/4〜9/10となる領域の圧延面での(110)面のX線強度比が1.3以上であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚(t)が50mm以上の厚鋼板。
【請求項4】
鋼組成が、質量%で、C:0.15%以下、Si:0.60%以下、Mn:0.80〜1.80%、S:0.001〜0.05%を含み、Ti:0.005〜0.050%またはNb:0.001〜0.1%の内から選んだ少なくとも1種を含み、更に、Cu:2.0%以下、V:0.2%以下、Ni:2.0%以下、Cr:0.6%以下、Mo:0.6%以下、W:0.5%以下、B:0.0050%以下、Zr:0.5%以下の内から選んだ少なくとも1種を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚(t)が50mm以上の厚鋼板。
【請求項5】
請求項4に記載の成分組成を有する鋼素材を、900〜1350℃の温度に加熱し、次いで鋼板表面温度1000〜850℃の温度域において累積圧下率10%以上圧延した後、鋼板表面温度900〜600℃且つ鋼板内部温度が鋼板表面温度より50〜150℃高温となる状態とし、その後、1パス圧下率7%以上、累積圧下率50%以上で、圧延終了時の鋼板表面温度800〜550℃で熱間圧延することを特徴とする長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚(t)が50mm以上の厚鋼板の製造方法。
【請求項6】
更に、熱間圧延を終了した後、5℃/s以上の冷却速度で400℃まで冷却することを特徴とする請求項5記載の長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚(t)が50mm以上の厚鋼板の製造方法。
【請求項7】
試験片幅2m以上の大型試験片を用いて、き裂伝播長1m以上の長大脆性き裂に対する伝播停止性能を評価・確認する試験において、試験片長さもしくは試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離が試験片幅の2.8倍以上であることを特徴とする、鋼材もしくは構造物の長大脆性き裂伝播停止性能の評価方法。
【請求項8】
請求項7に記載の評価方法において、さらに、試験装置の荷重負荷点間距離が試験片幅の4.1倍以上であることを特徴とする鋼材もしくは構造物の長大脆性き裂伝播停止性能の評価方法。
【請求項9】
試験片幅2m以上の大型試験片を用いて、き裂伝播長1m以上の長大脆性き裂に対する伝播停止性能を評価・確認する試験装置において、試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離が試験片幅の2.8倍以上であることを特徴とする、長大脆性き裂伝播停止性能を評価する試験装置。
【請求項10】
請求項9に記載の試験装置において、さらに、試験装置の荷重負荷点間距離が試験片幅の4.1倍以上であることを特徴とする長大脆性き裂伝播停止性能を評価する試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−180590(P2012−180590A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−23955(P2012−23955)
【出願日】平成24年2月7日(2012.2.7)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】