説明

長尺の延伸フィルムの製造方法

【課題】フィルム単体で、平均Nz係数が0より大きく1より小さく、皺の無い、幅広で長尺の延伸フィルムを、効率的に得る方法を提供する。
【解決手段】長尺のフィルムを幅方向に対して斜交する角度の方向に延伸して延伸フィルムを得る工程において、フィルムの両端の走行速度を略等しく且つ工程中を通して一定にすることによって、平均Nz係数〔=(n−n)/(n−n);ただし、nはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値、nはフィルム面内の進相軸方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値、nはフィルム厚み方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値〕が0より大きく1より小さい、長尺の延伸フィルムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は長尺の延伸フィルムの製造方法に関する。さらに詳細には、長尺のフィルム単体を斜め延伸することによって、平均Nz係数が0より大きく1より小さい、長尺の延伸フィルムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、2枚の偏光板と、それに挟まれた液晶セルとを必須構成要素とするものである。2枚の偏光板はそれぞれ偏光軸が交差角90度で交わっており、正面から観察すると光が透過せずに黒く見える。ところが、斜めから観察すると偏光軸の見かけの交差角が90度よりも大きくなるため光漏れを生じる。この光漏れは大画面の液晶ディスプレイにおいては特に解決しなければならない課題となっている。このような視野角依存性を低減するための光学補償フィルムとして様々な位相差フィルムが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、クリップの移動速度を延伸ゾーンにおいて徐々に加速してクリップ移動方向に大きく延伸し且つ斜めにも延伸を行うことによって得られる、Nz’係数〔=(n−n)/(n−n);ただし、nはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nはフィルム厚み方向の屈折率〕が1.15以下であり、分子配光軸がフィルム長手方向に対して傾斜している光学フィルムを開示している。
また、非特許文献1には、Nz係数〔=(n−n)/(n−n);ただし、nはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nはフィルム厚み方向の屈折率〕が0以下のN−置換マレイミド共重合体からなる延伸フィルムと、Nz係数が1以上のポリカーボネートからなる延伸フィルムとを組み合わせ積層することによって得られる、Nz係数が約0.5の位相差積層フィルムが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−321543号公報
【非特許文献1】東ソー研究・技術報告、第23−29頁、第48巻(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者の検討によると、非特許文献1にも開示されるとおり、フィルム単体で平均Nz係数が0より大きく1より小さい、実用的な位相差フィルムを得ることは容易でなく、例えば、特許文献1に記載の方法では幅400mm程度の位相差フィルムを製造できるにとどまり、約1000mmを超えるような幅広の位相差フィルムを得ることは困難であることがわかった。
【0006】
本発明の目的は、フィルム単体で、平均Nz係数が0より大きく1より小さく、皺の無い、幅広で長尺の延伸フィルム(以下、「位相差フィルム」ということもある。)を、効率的に得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために検討した結果、長尺のフィルムを幅方向に対して斜交する角度の方向に延伸して延伸フィルムを得る工程において、フィルムの両端の走行速度を略等しく且つ工程中を通して一定にすることによって、平均Nz係数〔=(n−n)/(n−n);ただし、nはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値、nはフィルム面内の進相軸方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値、nはフィルム厚み方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値〕が0より大きく1より小さい、長尺の延伸フィルムを、皺を寄らせずに製造できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
かくして本発明によれば、
(1) 長尺のフィルムを幅方向に対して斜交する角度の方向に延伸して延伸フィルムを得る工程において、フィルムの両端の走行速度を略等しく且つ工程中を通して一定にすることを含む、平均Nz係数〔=(n−n)/(n−n);ただし、nはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値、nはフィルム面内の進相軸方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値、nはフィルム厚み方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値〕が0より大きく1より小さい、長尺の延伸フィルムの製造方法。
(2) 延伸終了点を結んだ線と延伸終了点通過後のフィルム幅方向とが成す劣角θ〔deg〕、及び幅方向の変形倍率R〔=W/W;ただし、Wは前記延伸フィルムの幅方向の長さ、Wは前記長尺のフィルムの幅方向の長さ〕が、
a)0<R<1のとき、θ>0°
b)R≧1のとき、
θ>tan−1(2×(R−1−R−1+R−21/2)×(180/π)
上記a)及びb)の関係を満たす、前記(1)に記載の長尺の延伸フィルムの製造方法。
(3) 長尺のフィルムを幅方向に対して斜交する角度の方向に延伸して延伸フィルムを得る工程において、さらに、長尺のフィルムを該工程に送り込む方向と該工程から送り出される方向とが角度θを成し、幅方向の変形倍率Rをcosθより大きく且つ0より大きくする、前記(1)又は(2)に記載の長尺の延伸フィルムの製造方法。
【0009】
(4) 長尺フィルムを巻回体から引き出す工程;該フィルムの幅方向の両端を把持手段により把持する工程;予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび固定ゾーンを通過させて該フィルムを幅方向に対して斜交する角度の方向に延伸して延伸フィルムを得る工程;該延伸フィルムの両端を把持手段から解放する工程;および該延伸フィルムを巻芯に巻き取る工程を含み、
両端の把持手段の走行速度を略等しく且つ各工程中を通して一定にし、
延伸終了点を結んだ線と延伸終了点通過後のフィルム幅方向とが成す劣角θ[deg]、及び幅方向の変形倍率R〔=W/W;ただし、Wは延伸フィルムの幅方向の長さ、Wは長尺フィルムの幅方向の長さ〕が、
a)0<R<1のとき、θ>0°
b)R≧1のとき、
θ>tan−1(2×(R−1−R−1+R−21/2)×(180/π)
上記a)及びb)の関係を満たし、
且つ、長尺のフィルムを延伸フィルムを得る工程に送り込む方向と延伸フィルムを得る工程から送り出される方向とが角度θを成し、幅方向の変形倍率Rをcosθより大きく且つ0より大きくする、
平均Nz係数〔=(n−n)/(n−n);ただし、nはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値、nはフィルム面内の進相軸方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値、nはフィルム厚み方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値〕が0より大きく1より小さい、長尺の延伸フィルムの製造方法。
(5) 前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法で得られる長尺の延伸フィルム。
(6) 前記(5)に記載の長尺の延伸フィルムと長尺の偏光フィルムとを、それらの長手方向を揃えて積層させてなる長尺の積層フィルム。
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フィルム単体で、平均Nz係数が0より大きく1より小さく、皺の無い、幅広で長尺の位相差フィルムを、効率的に得ることができる。このように、二枚以上のフィルムを積層することなく、平均Nz係数が0より大きく1より小さい位相差フィルムを得ることができるので、液晶表示装置の軽量化や薄型化に貢献できる。また、フィルム単体で幅広の位相差フィルムを得ることができるので、視野角特性に優れた、大画面の液晶表示装置を製造できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の平均Nz係数が0より大きく1より小さい、長尺の延伸フィルムの製造方法は、長尺のフィルムを幅方向に対して斜交する角度の方向に延伸して延伸フィルムを得る工程において、フィルムの両端の走行速度を略等しく且つ工程中を通して一定にすることを含む方法である。フィルムの両端の走行速度を略等しく且つ工程中を通して一定にする(つまり、フィルムの長手方向には延伸しない)ことにより、延伸フィルムを皺なく製造することができる。フィルムの両端の走行速度が略等しいとは、フィルムの両端の走行速度差が2%以下のことを指す。フィルムの両端の走行速度が一定とは、フィルムの両端の走行速度のばらつきが、0.5%以下のことを指す。
【0012】
より具体的には、長尺フィルムを巻回体から引き出す工程;該フィルムの幅方向の両端を把持手段により把持する工程;予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび固定ゾーンを通過させて該フィルムを幅方向に対して斜交する角度の方向に延伸して延伸フィルムを得る工程;該延伸フィルムの両端を把持手段から解放する工程;および該延伸フィルムを巻芯に巻き取る工程を含み、延伸フィルムを得る工程において、両端の把持手段の走行速度を略等しく且つ各工程中を通して一定にすることを含む方法である。
【0013】
本発明の製造方法を図面をもってより詳細に説明する。図1は、本発明の製造方法の一例を説明するための図である。図1右側の巻回体(図示せず)からフィルムが引き出され、フィルムの両端をクリップなどの一対の把持手段(図示せず)で把持し、矢印48の方向にフィルムが送り込まれる。このフィルムの送り込み方向は巻回体からフィルムを引き出す方向と同じである。
フィルムは先ず予熱ゾーンに入る。予熱ゾーンではフィルムの幅Wを変えずに、フィルムの温度を上げる。予熱ゾーンにおける加熱温度はフィルムの材質によって適宜選択することができ、通常、フィルムを構成する樹脂材料のガラス転移温度をTgとしたときに、Tg−30〜Tg+20℃の範囲の温度である。
【0014】
次に延伸ゾーンにフィルムが入る。延伸ゾーンではフィルムが延伸される。延伸は一対の把持手段間の距離が変化し始めることによって開始される。図1ではS1及びS2において一対の把持手段間の距離が広がり始めている。この拡がり始めた点における一対の把持手段が、図1中左側に走行し、この一対の把持手段間の距離が変わらなくなる点E1及びE2で延伸が終了する。この点が延伸終了点である。両端の把持手段は走行速度が略等しく一定であるので、S1からE1までの走行距離と、S2からE2までの走行距離は等しい。両端の把持手段の走行速度差は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、とくに好ましくは0.1%以下にする。両端の把持手段の走行速度差が上記範囲を超えると、得られる延伸フィルムに皺が発生するおそれがある。把持手段の走行速度は適宜選択できるが、通常、1〜100m/分である。把持手段の走行パターンは特に制限されない。図1では直線を基調にし予熱ゾーンと延伸ゾーンの境目及び延伸ゾーンと固定ゾーンの境目の2箇所で屈曲した走行パターンとなっているが、曲線を基調にした走行パターンであってもよい。延伸ゾーンの温度は、通常Tg−20〜Tg+20℃の温度である。本発明においては巾方向の厚みムラの制御のために延伸ゾーンにおいて巾方向に温度差を付けてもよい。特に本発明においては把持手段付近の温度をフィルム中央部よりも高めにすることが好ましい。延伸ゾーンにおいて巾方向に温度差をつけるには、温風を送り込むノズルの開度を巾方向で差を付けるように調整する方法や、ヒーターを巾方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。
【0015】
次いでフィルムは固定ゾーンに入る。固定ゾーンでは、延伸された状態を保ちつつ、フィルムの温度を下げる。固定ゾーンの温度は、通常Tg−40〜Tg+20℃の温度である。
【0016】
固定ゾーンを通過したフィルムは、矢印49の方向に送り出され、巻芯(図示せず)に巻き取られ、巻回体となる。フィルムが送り出される方向は巻芯に巻き取る方向と同じである。フィルムを送り込む方向48と送り出される方向49とは角度θを成しており、そして、予熱ゾーン、延伸ゾーン及び固定ゾーンを通過する間に、角度θだけフィルムが曲げられる。この曲げ角度θ、延伸ゾーンでの拡がり角度等の値を変更することによって、フィルムの幅方向に対して斜交する方向への延伸方向が調整される。送り出されたフィルムの幅はWとなっており、幅方向にR(=W/W)倍に変形される。本発明の製造方法によれば、得られる延伸フィルムの遅相軸(配向方向または配向方向に直交する方向)を、フィルム幅方向、フィルム長さ方向、斜め方向のいずれの方向にも向かせることができる。
【0017】
本発明では、延伸終了点を結んだ線E1−E2と延伸終了点通過後のフィルム幅方向とが成す劣角θ〔deg〕(以下、延伸角度と言うことがある。)、及び幅方向の変形倍率R〔=W/W〕が、下記a)及びb)の関係を満たすことが好ましい。
a)0<R<1のとき、θ>0°
b)R≧1のとき、
θ>tan−1(2×(R−1−R−1+R−21/2)×(180/π)
【0018】
この関係は以下のようにして求めた。
Nz係数は、(n−n)/(n−n)で定義される値である。屈折率n、n及びnは樹脂フィルムのひずみε、ε及びεにそれぞれ比例する値であり、その比例係数は等しいので、本発明者らは、Nz係数は(ε−ε)/(ε−ε)に近似することができることに思い至った。
【0019】
図1のようにフィルムを角度θ曲げながら延伸を行うと、図2に示すように、長さM、幅Wの長方形フィルム(a)が、長さMはそのままで、幅W=R・W、角度θの平行四辺形フィルム(b)に変形されたことになる(図1においてドットハッチングした部分(a)及び(b)が、図2の(a)及び(b)に対応する)。このとき、長さM方向を22軸、幅W方向を11軸とすると、11方向のひずみ量ε11、22方向のひずみ量ε22、及びせん断ひずみ量γ12は、それぞれ、次式で表される。
ε11=(R・W−W)/W=R−1
ε22=(M−M)/M=0
γ12=h/W=W・tanθ/W=tanθ
【0020】
延伸後の、面内の遅相軸方向のひずみ量ε、及びそれに面内で直交する方向のひずみ量εは、材料力学の主ひずみの式から、次のように求められる。また、厚み方向のひずみ量εは、次のようになる。
ε=(ε11+ε22)/2
+[((ε11−ε22)/2)+(γ12/2)1/2
ε=(ε11+ε22)/2
−[((ε11−ε22)/2)+(γ12/2)1/2
ε=(d−d)/d=1/R−1
なお、dは延伸前のフィルムの厚みであり、dは延伸後のフィルムの厚みであり、d=d/Rである。
【0021】
上記の式(ε−ε)/(ε−ε)と、ε、ε、及びεを表す式に、上記ε11、ε22、及びγ12を表す式を適用することで、平均Nz係数を、次式で近似することに思い至った。
平均Nz係数
=[R+R−2+R{(R−1)+(tanθ1/2
/[2R{(R−1)+(tanθ1/2
【0022】
この式から、平均Nz係数が0より大きくなり1より小さくなるときの幅方向の変形倍率R及び角度θの関係を求めると、
a)0<R<1のとき、θ>0°
b)R≧1のとき、
θ>tan−1(2×(R−1−R−1+R−21/2)×(180/π)
が、導き出される。
そして、上記延伸角度、及び上記幅方向の変形倍率Rが、上記a)及びb)の関係を満たすことにより、延伸フィルムを皺なく製造することができることがわかった。
【0023】
また、この幅方向の変形倍率Rを、cosθよりも大きくし且つ0より大きくすることが好ましく、さらに1以上にすることが好ましい。Rの好ましい下限cosθは、延伸フィルムに皺が発生するおそれがある限界を示すものである。図1において、幅Wのフィルムが、曲げ角度θで曲げられると、送り出されたフィルムは幅Wになるが、幅Wと同じ向きでの長さLは、Wをcosθで除した値になる。この長さLの値が送り込んだフィルムの幅W以下になるとフィルムにたるみが生じ、皺の発生原因となるのである。
【0024】
本発明の製造方法に用いられる長尺のフィルム(以下、原料フィルムということがある。)は、透明樹脂からなる長尺フィルムである。透明樹脂とは、所望の波長に対して透明な樹脂である。透明樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、透明樹脂は、固有複屈折値が正である樹脂であることが好ましい。透明樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル樹脂、脂環構造を有するオレフィンポリマーなどが挙げられる。これらのうち脂環構造を有するオレフィンポリマーが好適である。
【0025】
脂環構造を有するオレフィンポリマーとしては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、および、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
ノルボルネン系樹脂としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体またはそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体またはそれらの水素化物等を挙げることができる。
【0026】
本発明に用いる透明樹脂は、ガラス転移温度が、好ましくは80℃以上、より好ましくは100〜250℃である。また、透明樹脂の光弾性係数Cの絶対値は、10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、C=Δn/σ で表される値である。光弾性係数がこのような範囲にある透明樹脂を用いると、本発明方法により得られる斜め延伸フィルムを液晶表示装置に適用した場合に、液晶表示装置の表示画面の端部の色相が変化する現象を抑えることができる。
【0027】
本発明に用いる透明樹脂は、顔料や染料のごとき着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、溶剤などの配合剤が適宜配合されたものであってもよい。
なお、本発明に用いられる原料フィルムは、単層フィルムであっても、多層フィルムであってもよい。また、原料フィルムは巻芯に巻き取られた巻回体で供給することが好ましい。また本発明に用いられる原料フィルムは、光学的等方性のフィルムである必要は無く、光学的異方性(複屈折性)のフィルムであってもよいが、光学的等方性のフィルムまたは幅方向に対して斜交する方向に遅相軸を有する光学的異方性フィルムであることが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法において、原料フィルムが固有複屈折が正の樹脂で形成されている場合で幅方向の変形倍率R≧1のときには平均Nz係数が0.5以上1未満の延伸フィルムが得られる。一方、原料フィルムが固有複屈折が負の樹脂で形成されている場合でR≧1のときには平均Nz係数が0より大きく0.5以下の延伸フィルムが得られる。平均Nz係数0.5のフィルムを得るためには幅方向の変形倍率Rを1.0にすることが最も好ましい。なお、本発明における平均Nz係数は、フィルムの幅方向に渡って測定したNz係数の算術平均値を指す。
【0029】
本発明の製法により得られる長尺の延伸フィルムは、その幅が、好ましくは900mm以上、より好ましくは1000mm以上、特に好ましくは1200mm以上である。
【0030】
本発明の製法により得られる延伸フィルムの平均厚みは、機械的強度などの観点から、好ましくは30〜200μm、さらに好ましくは30〜160μm、特に好ましくは30〜150μmである。
また、本発明の製法により得られる延伸フィルムの巾方向の厚みムラは最大値と最小値の差で、通常3μm以下、好ましくは2μm以下である。厚みムラがこのような範囲にあると、長尺で巻き取ることができる。
【0031】
本発明の製法により得られる延伸フィルムは、面内レターデーションReのムラが通常10nm以内、好ましくは5nm以内、さらに好ましくは2nm以内である。Reのムラを、上記範囲にすることにより、液晶表示装置用に用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。ここで、Reのムラは、光入射角0°(入射光線と本発明の延伸フィルム表面が直交する状態)の時のReを本発明の延伸フィルムの幅方向に測定したときの、そのReの最大値と最小値との差である。
【0032】
本発明の製法により得られる延伸フィルム中の残留揮発性成分の含有量は特に制約されないが、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。残留揮発性成分の含有量が上記範囲を超えると、経時的に光学特性が変化するおそれがある。揮発性成分の含有量を上記範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、平均Reや厚み方向の平均レターデーション(Rth)の経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の製法により得られる延伸フィルムを有する偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。残留揮発性成分は、フィルム中に微量含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。残留揮発性成分の含有量は、フィルム中に含まれる分子量200以下の物質の合計として、フィルムをガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0033】
本発明の製法により得られる延伸フィルムの飽和吸水率は好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、平均Reや厚さ方向の平均レターデーション(Rth)の経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の製法により得られる延伸フィルムを有する偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。
飽和吸水率は、フィルムの試験片を一定温度の水中に一定時間、浸漬し、増加した質量の浸漬前の試験片質量に対する百分率で表される値である。通常は、23℃の水中に24時間、浸漬して測定される。本発明の延伸フィルムにおける飽和吸水率は、例えば熱可塑性樹脂中の極性基の量を減少させることにより、前記値に調節することができるが、好ましくは、極性基を持たない樹脂であることが望まれる。
【0034】
本発明の製法により得られる長尺の延伸フィルムと、長尺の偏光フィルムとを積層することによって長尺の積層フィルムを得ることができる。
本発明に用いられる偏光フィルムは、直角に交わる二つの直線偏光の一方を透過するものである。例えば、ポリビニルアルコールフィルムやエチレン酢酸ビニル部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムにヨウ素や二色性染料などの二色性物質を吸着させて一軸延伸させたもの、前記親水性高分子フィルムを一軸延伸して二色性物質を吸着させたもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルムなどが挙げられる。その他に、グリッド偏光フィルムや異方性多層フィルムなどの反射性偏光フィルムが挙げられる。偏光フィルムの厚さは、通常5〜80μmである。
【0035】
本発明の製法により得られる延伸フィルムを偏光フィルムの両面に積層させても片面に積層させてもよく、また積層する数にも特に限定はなく、2枚以上積層させてもよい。
偏光フィルムの片面のみに、該延伸フィルムを積層した場合は、残りの片面に偏光フィルムの保護を目的として、適宜の接着層を介して保護フィルムを積層してもよい。
【0036】
保護フィルムとしては、適宜な透明フィルムを用いることができる。中でも、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れる樹脂を有するフィルム等が好ましく用いられる。その樹脂の例としては、トリアセチルセルロースの如きアセテート重合体、脂環式オレフィンポリマー、ポリオレフィン重合体、ポリカーボネート重合体、ポリエチレンテレフタレートの如きポリエステル重合体、ポリ塩化ビニル重合体、ポリスチレン重合体、ポリアクリロニトリル重合体、ポリスルホン重合体、ポリエーテルスルホン重合体、ポリアミド重合体、ポリイミド重合体、アクリル重合体等が挙げられる。
【0037】
長尺の積層フィルムを得るための好適な製造方法は、本発明の製法により得られる延伸フィルムの巻回体および偏光フィルムの巻回体からそれぞれ同時にフィルムを引き出しながら、該延伸フィルムと該偏光フィルムとを密着させることを含む方法である。延伸フィルムと偏光フィルムとの密着面には接着剤を介在させることができる。延伸フィルムと偏光フィルムとを密着させる方法としては、二本の平行に並べられたロールのニップに延伸フィルムと偏光フィルムを一緒に通し圧し挟む方法が挙げられる。
【0038】
本発明の製法により得られる長尺の延伸フィルムまたは長尺の積層フィルムは、その使用形態に応じて所望の大きさに切り出して、位相差板または偏光板として用いられる。この場合、長尺のフィルムの長手方向に対して、垂直または平行な方向に沿って切り出すことが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下に、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。また本発明がこれらによって限定されるものではない。
【0040】
本実施例では以下の方法で評価を行った。
(平均厚み、厚みムラ)
スナップゲージ(ミツトヨ社製、ID−C112BS)を用いてフィルムの幅方向5cm間隔で厚みを測定し平均値を求めた。厚みムラは、厚みの最大値と最小値の差とした。
(平均Re、平均Nz係数)
位相差計(王子計測社製、KOBRA21−ADH)を用いてフィルム幅方向5cm間隔で式(1)及び(2)に従ってRe及びNz係数を測定し平均値を求めた。
Re=(n−n)・d ・・ (1)
Nz=(n−n)/(n−n) ・・ (2)
〔dはフィルムの厚み、nはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nはフィルム厚み方向の屈折率〕
【0041】
実施例1
ノルボルネン系樹脂のペレット(日本ゼオン社製、ZEONOR1420)をTダイ式フィルム押出成形機で成形して、幅1000mm、厚み100μmの長尺の未延伸フィルム(A)を得た。未延伸フィルム(A)はロールに巻き取った。
次いで、未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表1に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(D)を得、ロールに巻き取って延伸フィルム巻回体を得た。フィルム(D)の平均Nz係数は0.53であった。フィルム(D)の特性を表2に示した。
【0042】
実施例2
実施例1で得られた長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表1に示す延伸条件に延伸し、延伸フィルム(E)を得、ロールに巻き取って延伸フィルム巻回体を得た。フィルム(E)の平均Nz係数は0.53であり、且つ表2に示す特性を有していた。
【0043】
実施例3
実施例1で得られた長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表1に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(F)を得、ロールに巻き取って延伸フィルム巻回体を得た。フィルム(F)の平均Nz係数は0.65であり、且つ表2に示す特性を有していた。
【0044】
実施例4
実施例1で得られた長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表1に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(G)を得、ロールに巻き取って延伸フィルム巻回体を得た。フィルム(G)の平均Nz係数は0.70であり、且つ表2に示す特性を有していた。
【0045】
実施例5
実施例1で得られた長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表1に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(H)を得、ロールに巻き取って延伸フィルム巻回体を得た。フィルム(H)の平均Nz係数は0.66であり、且つ表2に示す特性を有していた。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
実施例6
実施例1で得られた長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表1に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(I)を得、ロールに巻き取って延伸フィルム巻回体を得た。フィルム(I)の平均Nz係数は0.81であり、且つ表2に示す特性を有していた。
【0049】
実施例7
ノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製、ZEONOR1020)からなる[1]層、スチレン−無水マレイン酸共重合体からなる[2]層及び変形エチレン−酢酸ビニル共重合体からなる[3]層を有し、[1]層−[3]層−[2]層−[3]層−[1]層の構成の未延伸積層体を共押出成形して、幅1000mm、厚み150μmの長尺の未延伸フィルム(C)を得た。未延伸フィルム(C)はロールに巻き取った。
次いで、長尺の未延伸フィルム(C)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表3に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(J)を得、さらにロールに巻き取って延伸フィルム巻回体を得た。フィルム(J)の平均Nz係数は0.35であり、且つ表4に示す特性を有していた。
【0050】
比較例1
実施例1で得られた長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表3に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(K)を得た。延伸フィルム(K)は、厚みムラが大きく、一面にシワが残ったため、ロールに巻き取ることができなかった。延伸フィルム(K)の特性を表4に示す。
【0051】
比較例2
実施例1で得られた長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表3に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(L)を得た。延伸フィルム(L)は、厚みムラが大きく、一面にシワが残ったため、ロールに巻き取ることができなかった。延伸フィルム(L)の特性を表4に示す。
【0052】
比較例3
実施例1で得られた長尺の未延伸フィルム(A)をロールから引き出し、幅が400mmになるようにスリット機を用いてスリットし、未延伸フィルム(B)を得た。未延伸フィルム(B)はロールに巻き取った。
次に、未延伸フィルム(B)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表3に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(M)を得、さらにロールに巻き取って延伸フィルム巻回体を得た。フィルム(M)の特性を表4に示す。
【0053】
比較例4
比較例3で得られた長尺の未延伸フィルム(B)をロールから引き出し、テンター延伸機に供給し、表3に示す延伸条件で延伸し、延伸フィルム(N)を得、さらにロールに巻き取って延伸フィルム巻回体を得た。フィルム(N)の特性を表4に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
比較例1〜2の結果から、従来の方法では、平均Nz係数を0.5に近づけることができず、更に、シワや厚みムラが発生してしまうため光学フィルムとして使用できないことがわかる。また、比較例3〜4の結果では、適切な条件で延伸しなければ平均Nz係数を0より大きく1より小さくすることができないことが分かる。
一方、本発明の製造方法によれば、平均Nz係数が0より大きく1より小さいフィルム(実施例1〜7)をシワ、厚みムラを生じさせずに製造できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の製造方法の一例を説明するための図。
【図2】延伸によって生じるひずみを示すための図。
【符号の説明】
【0058】
48:フィルムの送り込み方向
49:フィルムの送り出し方向
R:幅方向変形倍率
:延伸前の幅
:延伸後の幅
θ:曲げ角度
θ:延伸終了点間の直線と幅方向とが成す角度
S1、S2:延伸開始点
E1、E2:延伸終了点
L:距離差
A:予熱ゾーン
B:延伸ゾーン
C:固定ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺のフィルムを幅方向に対して斜交する角度の方向に延伸して延伸フィルムを得る工程において、
フィルムの両端の走行速度を略等しく且つ工程中を通して一定にすることを含む、
平均Nz係数〔=(n−n)/(n−n);ただし、nはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値、nはフィルム面内の進相軸方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値、nはフィルム厚み方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値〕が0より大きく1より小さい、長尺の延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
延伸終了点を結んだ線と延伸終了点通過後のフィルム幅方向とが成す劣角θ〔deg〕、及び幅方向の変形倍率R〔=W/W;ただし、Wは前記延伸フィルムの幅方向の長さ、Wは前記長尺のフィルムの幅方向の長さ〕が、下記a)及びb)の関係を満たす、請求項1に記載の長尺の延伸フィルムの製造方法。
a)0<R<1のとき、θ>0°
b)R≧1のとき、
θ>tan−1(2×(R−1−R−1+R−21/2)×(180/π)
【請求項3】
長尺のフィルムを幅方向に対して斜交する角度の方向に延伸して延伸フィルムを得る工程において、
さらに、長尺のフィルムを該工程に送り込む方向と該工程から送り出される方向とが角度θを成し、幅方向の変形倍率Rをcosθより大きく且つ0より大きくする、請求項1又は2に記載の長尺の延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
長尺フィルムを巻回体から引き出す工程;該フィルムの幅方向の両端を把持手段により把持する工程;予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび固定ゾーンを通過させて該フィルムを幅方向に対して斜交する角度の方向に延伸して延伸フィルムを得る工程;該延伸フィルムの両端を把持手段から解放する工程;および該延伸フィルムを巻芯に巻き取る工程を含み、
延伸フィルムを得る工程において、
両端の把持手段の走行速度を略等しく且つ各工程中を通して一定にし、
延伸終了点を結んだ線と延伸終了点通過後のフィルム幅方向とが成す劣角θ〔deg〕、及び幅方向の変形倍率R〔=W/W;ただし、Wは延伸フィルムの幅方向の長さ、Wは長尺フィルムの幅方向の長さ〕が、下記a)及びb)の関係を満たし、
a)0<R<1のとき、θ>0°
b)R≧1のとき、
θ>tan−1(2×(R−1−R−1+R−21/2)×(180/π)
且つ、長尺のフィルムを延伸フィルムを得る工程に送り込む方向と延伸フィルムを得る工程から送り出される方向とが角度θを成し、幅方向の変形倍率Rをcosθより大きく且つ0より大きくする、
平均Nz係数〔=(n−n)/(n−n);ただし、nはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値、nはフィルム面内の進相軸方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値、nはフィルム厚み方向の屈折率のフィルム幅方向の平均値〕が0より大きく1より小さい、長尺の延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法で得られる長尺の延伸フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の長尺の延伸フィルムと長尺の偏光フィルムとを、それらの長手方向を揃えて積層させてなる長尺の積層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−210281(P2007−210281A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34954(P2006−34954)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】