説明

長期アルカリ性安定被膜、および長期アルカリ性安定被膜を用いた動物を飼育する建築物の防疫方法

【課題】雨、風、乾燥によって飛散散逸することなく、高アルカリ性を長期間持続することができる被膜を提供する。
【解決手段】長期アルカリ性安定被膜11は、全体100重量部に対し、非アルカリ増粘型樹脂12を25〜67重量部、消石灰粒子13を30〜72重量部含み、基材21の表面を被覆するアルカリ性の被膜であって、消石灰粒子13と連通するクラック15を備える。水分17が付着することにより、長期アルカリ性安定被膜11は表面においてpH11.0以上を発現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期にわたってアルカリ性を安定して発現する被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産業、特に鶏などの家禽を飼育する分野では、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が猛威をふるい、深刻かつ多大な損害を与えている実情がある。鳥インフルエンザは家畜伝染病予防法の届出伝染病に指定されており、適切な対策を講じなければならない。またインフルエンザは豚にも感染することから、インフルエンザウイルスが畜舎および鳥舎に侵入することを効果的に防止する必要がある。
【0003】
病原性ウイルスの侵入を防止し、かかるインフルエンザの被害から家畜および家禽を守るための方法として、消石灰を系鶏舎または豚舎に散布する対策が一般的に行われている。かかる対策は、地方自治体の家畜保健衛生所の行政指導に基づくものであり、鳥インフルエンザウイルスの防疫・消毒に効果がある。具体的には、消石灰の粉末を温水で混合してペーストを作成し、このペーストを鶏舎の屋根や、壁や、床などに配置する。あるいは、粉末状態の消石灰を鶏舎の屋根や、壁や、床などに直接散布する。あるいは、鶏舎の外部周囲に散布する。消石灰は水に溶けることにより強アルカリ性を呈し、鳥インフルエンザウイルスを不活化させる。消石灰を散布する消毒方法の一例が、家畜伝染病予防法施行規則の別表第二 三−消毒の基準(非特許文献1)に規定されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】家畜伝染病予防法施行規則の別表第二 三−消毒の基準
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のような対策にあっては、以下に説明するような問題を生ずる。第1に抗ウイルス効果が長続きしないという問題がある。つまり、消石灰は雨、風、乾燥によって飛散散逸してしまい、その抗ウイルス効果を持続することができない。このため、消石灰を定期的に繰り返し散布しなければならず、甚だしい場合には毎週1回散布しなければならなかった。
【0006】
第2に、大量の消石灰を消費するという問題がある。つまり消石灰の粉末を、スコップや箒等を用いて人力で散布するため、大型の鶏舎または豚舎においては大量の消石灰が消費される。一般的には40mにつき20kgの消石灰を用い(0.5kg/m)、鶏舎の入口、通路、廊下、周囲に1m幅で散布し箒で均一に広げる。しかしながら水に溶ける消石灰は僅かであり、散布された消石灰の大部分は強アルカリ性を発揮することなく、固形成分のまま鶏舎または豚舎から散逸流出する。このため、消石灰を無駄に消耗していた。したがって従来の防疫・消毒対策にあっては、大量の消石灰を消費するばかりでなく、散布に係る工数および人件費が多大なものとなっていた。また、作業者の皮膚、口に消石灰が付着しないよう、保護マスク、ゴーグル、ゴム手袋を着用しなければならず煩雑であった。
【0007】
本発明は、上述の実情に鑑み、雨、風、乾燥によって飛散散逸することなく、高アルカリ性を長期間持続することができる被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のため本発明による長期アルカリ性安定被膜は、基材の表面を被覆するアルカリ性の被膜であって、全体100重量部に対し、非アルカリ増粘型樹脂25〜67重量部と、消石灰30〜72重量部とを含み、消石灰と連通するしみ出し通路を備える。そして被膜の表面においてpH11.0以上を発現する。
【0009】
かかる本発明によれば、消石灰を含むことから、降雨時または散水時などに水が被膜に付着することにより、被膜の表面においてpH11.0以上の強いアルカリ性を発現する。したがって被膜の表面に付着した鳥インフルエンザウイルスや豚インフルエンザウイルスなどの病原性ウイルスは不活化して、抗ウイルス効果を得ることができる。
【0010】
しかも、本発明の被膜は消石灰と連通するしみ出し通路を備えることから、消石灰がしみ出し通路を経由して被膜表面に徐々にしみ出す。さらに、本発明の被膜は耐候性に優れ、強風および強雨に晒されても、消石灰が被膜から剥がれ落ちることがない。しかして、長期間にわたって抗ウイルス効果を発揮する。なお消石灰は微粒子であっても、微粒子が凝集した二次粒子であってもよい。
【0011】
液状の樹脂は一般的に、強アルカリと接触すると凝集固化して増粘する性質を有する。このため、消石灰粉末と混合すると団子状になって流動性を失い被膜を施工することができないという問題がある。これに対し、本発明の被膜を形成するための樹脂は、非アルカリ増粘型樹脂である。これにより消石灰粒子を加えて攪拌しても増粘せず、基材の表面を好適に被覆することができる。
【0012】
本発明は一実施形態に限定されるものではなく、非アルカリ増粘型樹脂および消石灰粒子の他、酸化鉄、酸化銀、酸化銅、青色や黄色等の着色顔料など若干の添加剤を含んでいてもよい。一実施形態として、酸化チタン1〜8重量部をさらに含んでもよい。かかる実施形態によれば、被膜に付着する水滴の接触角を低くして、被膜を水に濡れ易くすることができる。また酸化チタンは白色の着色顔料としても利用されることから、被膜を白色にすることができ、太陽光の反射、遮光および遮熱効果を得ることができる。さらに、汚れの防止効果も得ることができる。
【0013】
なお被膜表面の塗れ性の改善効果と、太陽光の反射、遮光および遮熱効果を得るため、酸化チタンの含有量を1重量部以上とすることが好ましい。また8重量部の酸化チタンを含んでいれば、濡れ性の改善効果等を充分に得ることができ、酸化チタンの含有量が8重量部を超える場合には濡れ性の改善効果がほぼ飽和する。このことから、酸化チタンの含有量を1〜8重量部とする。
【0014】
非アルカリ増粘型樹脂は、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、あるいはポリエステル系樹脂であってもよいが、好ましくは、非アルカリ増粘型樹脂はアクリル樹脂である。かかる実施形態によれば、他の樹脂と比較してコスト上有利である。さらに、アクリル樹脂は耐候性がよく、消石灰との相溶性がよい。なおアクリル樹脂とは、アクリル酸エステルあるいは主としてアクリル酸エステルとその他少量のウレタン樹脂、シリコン樹脂、および/またはエチレン酢酸ビニル樹脂(EVA)を含むものと理解されたい。
【0015】
また本発明による混合物スラリーは、原料として液状の非アルカリ増粘型樹脂25〜67重量部と、消石灰30〜72重量部とを含み、これら原料を混合攪拌して全体100重量部に調製される混合物スラリーであって、非アルカリ増粘型樹脂は乾燥固化して消石灰と連通するしみ出し通路を形成する。
【0016】
かかる本発明によれば、抗ウイルス効果を発揮したい箇所に、混合物スラリーを施工現場に搬入して塗工することが可能になる。したがって施工性に優れる。なお混合スラリーは、非アルカリ増粘型樹脂および消石灰粒子の他、酸化鉄、酸化銀、酸化銅、青色や黄色等の着色顔料など若干の添加剤を含んでいてもよい。
【0017】
好ましい実施形態として、混合物スラリーは原料として酸化チタン1〜8重量部をさらに含む。かかる実施形態によれば、混合スラリーを施工対象領域に塗工し、混合スラリーが硬化して完成する被膜にさらなる効果を付与することができる。第1に、被膜に付着する水滴の接触角を低くして、被膜を水に濡れ易くする効果を付与することができる。第2に、酸化チタンは白色の着色顔料としても利用されることから、被膜を白色にすることができ、太陽光の反射、遮光および遮熱効果を付与することができる。さらに、汚れの防止効果も付与することができる。
【0018】
また、本発明による長期アルカリ性安定被膜の製造方法は、原料として液状の非アルカリ増粘型樹脂25〜67重量部と、粉体状の消石灰30〜72重量部とを含み、これら原料を混合攪拌して全体100重量部のスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーを基材の表面に塗工する塗工工程と、基材の表面上で、スラリーが硬化して微小なしみ出し通路を形成する養生工程とを備える。かかる実施形態によれば、施工対象領域に塗工されたスラリーが養生工程により硬化して耐候性に優れた被膜を形成することから、被膜中の消石灰が風雨によって飛散散逸することがない。そして硬化する際に微小なしみ出し通路を形成することから、被膜中の消石灰が長期間にわたってしみ出すことが可能となる。したがって被膜は、高アルカリ性を長期安定的に持続することができ、抗ウイルス効果を長期安定的に持続することができる。なお、スラリー調製工程では、液状の非アルカリ増粘型樹脂および粉体状の消石灰の他、分散剤、消泡剤等の添加剤を加えてもよい。また酸化鉄、酸化銀、酸化銅、青色や黄色等の着色顔料など若干の添加剤を加えてもよい。
【0019】
好ましい実施形態として、スラリー調製工程は、前記原料として酸化チタン1〜8重量部をさらに含む。かかる実施形態によれば、被膜に付着する水滴の接触角を低くして、被膜を水に濡れ易くする効果を付与することができる。また酸化チタンは白色の着色顔料としても利用されることから、被膜を白色にすることができ、太陽光の反射、遮光および遮熱効果を付与することができる。さらに、汚れの防止効果も付与することができる。
【0020】
野外から飛来する野鳥が鳥舎または畜舎の屋根材、梁材、雨樋等に止まり糞をすることにより、鳥インフルエンザウイルスは鳥舎または畜舎に侵入する。また野鼠などの小動物が外壁材または床材等を走り回り、糞をすることにより、病原性ウイルスが鳥舎または畜舎に侵入する。そこで、本発明による長期アルカリ性安定被膜を用いることにより、病原性ウイルスの防疫・消毒効果を享受することができる。すなわち本発明による長期アルカリ性安定被膜の利用方法は、畜舎内の家畜または鳥舎内に病原性ウイルスが侵入することを防止する方法であって、基材は、畜舎または鳥舎の屋根材、梁材、柱材、雨樋、壁材、または床材である、あるいは基材は、畜舎または鳥舎を囲繞する舗装された周辺領域、柵、または構造物である。なお畜舎または鳥舎とは、肉や卵などを得ることを目的して哺乳類や鳥類を飼育する場所をいい、鶏舎または豚舎に限られない。
【0021】
なお上述の屋根材は屋根材の上面の他、屋根材の裏面や庇の表面も含む。これにより、野鼠が走り回り糞をしても、病原性ウイルスの侵入を防止することができる。
【0022】
また、本発明の長期アルカリ性安定被膜は環境対策にも好適に利用可能であり、酸性雨対策や、農場・工場からの排水の酸性を弱めることができる。すなわち本発明による長期アルカリ性安定被膜の利用方法は、河川水または排水施設の排水の酸性を弱める方法であって、基材は、河川堤防、河川護岸、河川沿いの道路の路面、排水路、または排水槽である。
【0023】
なお上述の排水施設は農場であってもよいし、牧場であってもよいし、工場であってもよい。排水は雨水を含み、上述の排水施設は雨水管渠、雨水浸透施設、または雨水貯留施設であってもよい。排水路は排水樋など類似の施設を含み、排水槽は排水ピットなど類似の施設を含むと理解されたい。
【発明の効果】
【0024】
このように本発明は、耐候性に優れた被膜がしみ出し通路を備えることから、被膜内の消石灰が徐々にしみ出して溶解し、長期間にわたって高アルカリ性を安定的に発揮する。したがって抗ウイルス性を長期間にわたって安定的に発揮する。本発明は、畜舎または鳥舎に病原性ウイルスが侵入することを好適に防止し得て、防疫・消毒効果を長期間にわたって安定的に発揮する。また本発明は、河川または排水を中和する効果を長期間にわたって安定的に発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例になる長期アルカリ性安定被膜を模式的に示す断面図である。
【図2】対比例の被膜を模式的に示す断面図である。
【図3】対比例の被膜を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施例になる長期アルカリ性安定被膜を模式的に示す断面図である。長期アルカリ性安定被膜11は、基材21の表面を被覆する被膜である。長期アルカリ性安定被膜11は全体100重量部に対し、非アルカリ増粘型樹脂12を25〜67重量部、消石灰粒子13を30〜72重量部含む。消石灰粒子13は微粒子14が凝集した2次粒子である。そして消石灰粒子13の大きさは、5〜100μm、主として10〜50μmである。
【0028】
非アルカリ増粘型樹脂12はアクリル樹脂である。本実施例のアクリル樹脂は、アルカリ酸エステルを主成分とする透湿性樹脂である。あるいは、主としてアクリル酸エステルとその他少量のウレタン樹脂および/またはシリコン樹脂を含んでいてもよい。
【0029】
長期アルカリ性安定被膜11は肉眼では容易に識別できないクラック15を備える。クラック15は、消石灰粒子13同士を接続するとともに、長期アルカリ性安定被膜11の表面に達する。クラック15は後述のようにしみ出し通路の役目を果たす。クラック15の幅は0.01μm〜100μm、主として1μm〜10μmと考えられる。
【0030】
長期アルカリ性安定被膜11は、微細な酸化チタン粒子16を1〜8重量部をさらに含む。酸化チタン粒子16を含むことにより、長期アルカリ性安定被膜11は、白色になり、隠蔽性が向上する。したがって基材21は長期アルカリ性安定被膜11によって隠蔽される。この結果、長期アルカリ性安定被膜11で屋根材を被覆することにより、太陽光線の遮光・遮熱効果を得ることができる。
【0031】
また酸化チタン粒子16を含むことにより、長期アルカリ性安定被膜11の濡れ性が改善する。これにより水滴の接触角が低くなって、水分17が長期アルカリ性安定被膜11の表面に薄く広く付着する。雨水や結露によって生じた水は、クラック15を浸透して消石灰粒子13を溶解させる。
【0032】
水分17が長期アルカリ性安定被膜11の表面に付着すると、水分がクラック15を経由して消石灰粒子13に到達し、水分17はpH12以上の強アルカリ性を発現する。強アルカリ性は数ヶ月間にわたり安定して持続する。
【0033】
透湿性樹脂は液体の水を遮断して水蒸気の通過を許容する。非アルカリ増粘型樹脂12はクラック15を有する他、それ自身が透湿性樹脂であるため、長期アルカリ性安定被膜11は湿潤状態にされて消石灰粒子13が外部の水蒸気を取り込む。この結果、消石灰粒子13は湿潤環境の中で遅滞なく溶解する。かくしてアルカリ分が、クラック15を通過して、長期アルカリ性安定被膜11の表面に容易にしみ出すという相乗効果を得ることができる。したがって水分17が結露水のような僅かな量であっても、長期アルカリ性安定被膜11はpH12以上の強アルカリ性を発現することができる。そして水分17が雨水または散布水の場合には、長期アルカリ性安定被膜11はpH12以上の強アルカリ性を発現すること勿論である。
【0034】
図2は、消石灰粒子を30重量部未満含む対比例の被膜を模式的に示す断面図である。対比例の被膜101では、消石灰粒子13が少ない。このため消石灰粒子13を30〜72重量部含む図1の実施例と比較して、クラック15の発達が少なく、クラック15の幅が小さく、消石灰のしみ出しが少ない。したがって水分17は強アルカリ性を発現することが困難であり、所望の抗ウイルス性を十分発揮できない虞がある。
【0035】
また対比例の被膜101では、酸化チタンを1重量部未満含むため、水分17の接触角が高くなり、水滴が大きくなって、被膜101の表面に広がって付着しない。このため、所望の抗ウイルス性を十分発揮できない虞がある。
【0036】
図3は、消石灰粒子を72重量部を超えて含む対比例の被膜を模式的に示す断面図である。対比例の被膜201では、消石灰粒子13が多い。このため消石灰粒子13を30〜72重量部含む図1の実施例と比較して、クラック15が多数発達し、クラック15の幅が大きく、消石灰のしみ出しが過多となる。したがって耐候性および耐摩耗性の点で不十分である。さらに、消石灰粒子13が短期間のうちに完全に溶け出してしまうため、長期にわたって強アルカリ性を安定して発揮できない。
【0037】
次に本実施例の長期アルカリ性安定被膜11の利用方法につき説明する。
【0038】
基材21は鳥舎、特に鶏舎、の屋根材、例えば波型スレートなどのスレート材、である。あるいは畜舎、特に豚舎、の屋根材に使用されるスレート材である。スレート材の上面を長期アルカリ性安定被膜11で被覆することにより、野鳥がスレート材の上面に止まり糞をしても、糞に含まれる鳥インフルエンザウイルスが不活化される。この結果、鶏舎または豚舎内を防疫・消毒することができる。また例えば鳥舎または豚舎の屋根材が、亜鉛めっき鋼板や、ポリカーボネート板であっても、屋根材の上面を長期アルカリ性安定被膜11で被覆することにより鳥舎または豚舎内を防疫・消毒することができる。
【0039】
好ましくは、基材21はスレート材を支持する梁材の上面である。スレート材は波型であり、スレート材の下面と梁材の上面との間に隙間が形成されることから、かかる隙間から鳥インフルエンザウイルスが鶏舎に侵入する虞がある。梁材の上面を長期アルカリ性安定被膜11で被覆することにより、野鳥が梁材の上面に止まり糞をしても、糞に含まれる鳥インフルエンザウイルスが不活化される。この結果、鶏舎または豚舎内を防疫・消毒することができる。また野鼠が梁材および柱材の表面を走ることから、好ましくは、基材21は畜舎または鳥舎の屋根材、梁材、柱材である。
【0040】
好ましくは、基材21はスレート材の外周縁に設けられる雨樋の上面である。野鳥は雨樋に止まり易いことから、雨樋から雨水に混じって鳥インフルエンザウイルスが鶏舎に侵入する虞がある。雨樋の上面を長期アルカリ性安定被膜11で被覆することにより、野鳥が雨樋の上面に止まり糞をしても、糞に含まれる鳥インフルエンザウイルスが不活化される。この結果、鶏舎または豚舎内を防疫・消毒することができる。また野鼠が雨樋の表面を走ることから、好ましくは、基材21は畜舎または鳥舎の雨樋である。
【0041】
同様の理由により、外壁材または床材を、長期アルカリ性安定被膜11で被覆するとよい。また野鼠が壁材および床材の表面を走ることから、好ましくは、基材21は畜舎または鳥舎の壁材または床材である。床材とは、畜舎または鳥舎の外周通路の表面を形成する部材を含む。これにより、野鳥または野鼠が糞をしても、糞に含まれるインフルエンザウイルスが不活化される。この結果、鶏舎または豚舎内を防疫・消毒することができる。
【0042】
好ましくは、基材21は畜舎または鳥舎を囲繞する舗装された周辺領域、柵、または構造物である。家畜・家禽、その他の動物を飼育する建築物の全周や、建築物の周辺道路の舗装路面を長期アルカリ性安定被膜11で被覆することにより、雨水や結露水がクラック15に進入し、消石灰粒子13を溶解させる。そして、強アルカリ性である消石灰水溶液がクラック15から外部へ長期間にわたりしみ出す。この作用は、当該建築物の周辺環境を消毒する。基材21はコンクリート材、モルタル材、樹脂材、アスファルト材であってもよい。
【0043】
消石灰は安価であり、コスト上有利である。また消石灰は、最終的には無毒の炭酸カルシウムになる。そして長期アルカリ性安定被膜11は強アルカリ性を発現することから、病原性細菌に対しても殺菌力を発揮する。また防カビ効果も期待でき、特に外壁において黒カビの繁茂を防止する。
【0044】
次に本実施例の長期アルカリ性安定被膜11の他の利用方法につき説明する。
【0045】
本実施例の長期アルカリ性安定被膜11は、強アルカリ性を長期にわたって発揮することから、河川または排水施設の排水が酸性のまま流出することを防止することができる。この場合、基材21は、河川堤防、河川護岸、河川沿いの道路の路面、排水路、または排水槽である。この結果、河川水または排水を中和させることができる。したがって、環境保全に効果があり、生態系を再生、維持し、アオコや藻類の異常発生を防止する。
【0046】
河川堤防、河川護岸、河川沿いの道路の路面において、クラック15から外部へ長期間にわたりしみ出す消石灰水溶液は、海へ注ぎ込み、河口付近でカルシウムを含むミネラルを豊富にする。これにより、河口付近の赤潮を予防し、海産物の生育が増進する。
【0047】
次に本実施例の長期アルカリ性安定被膜11の製造方法につき説明する。
【0048】
まず、液状の非アルカリ増粘型樹脂であるアクリル樹脂25〜67重量部と、50μm以下の粒子である粉体状の消石灰30〜72重量部と、10μm以下の粒子である粉体状の酸化チタン1〜8重量部とを用意し、これらを混合攪拌して、全体として100重量部のスラリーを調製する。スラリー内には図1に示す消石灰の二次粒子が分散する。
【0049】
次に、このスラリーを施工対象物の表面に塗工し、スラリーが硬化するまで静置する。硬化の際、図1に沿って前述したクラック15が消石灰の二次粒子13から延び、樹脂12内に形成されると考えられる。クラック15の生成原因は、樹脂12と消石灰粒子13との収縮率の差と考えられる。あるいは、樹脂12と消石灰粒子13との化学反応に因ると考えられる。クラック15は肉眼では容易に識別されず、クラック15の幅は0.01μm〜100μmと考えられる。
【0050】
ここで付言すると、樹脂は一般的にアルカリ増粘型樹脂であるため、消石灰粉末を混ぜ合わせることにより急激に流動性を失って団子状になってしまい、基材の表面に塗布できない。しかしながら本実施例では、非アルカリ増粘型樹脂を用いることから、好適な流動性を発揮し、施工性に優れる。塗工は、刷毛、ローラあるいはスプレーによって行う。かかる方法によって製造された長期アルカリ性安定被膜11は、耐候性および耐摩耗性に優れ、風雨に晒されても剥落することはない。
【0051】
塗工から数ヶ月経過し、長期アルカリ性安定被膜11の強アルカリ性が減退すると、古い長期アルカリ性安定被膜11の表面を新しい長期アルカリ性安定被膜11で被覆するとよい。これにより基材21の表面を厚く保護することができる。またスレート材の表面に長期アルカリ性安定被膜11を重ね塗りする場合、スレート材の耐久性が向上する。さらに、劣化したスレート材の補修効果も期待でき、雨漏りの補修および未然の防止等に効果を発揮する。かかる重ね塗りの効果は、繰り返すことによりさらに増強できる。
【0052】
本実施例の長期アルカリ性安定被膜の効果確認試験を行った。まず波形スレートの表面に、表1に示すように、非アルカリ増粘型樹脂および消石灰の含有量がそれぞれ異なる15種類の被膜を作成し、長期にわたってアルカリ性を安定して発現するか否か試験した。
【0053】
【表1】

【0054】
樹脂として、消石灰のような強アルカリ粉末と混合しても凝集せず、水溶液として相溶性があるアクリル酸エステル共重合体水性エマルジョン(新中村化学工業株式会社製 K−6200HN)を使用した。消石灰として肥料用消石灰の粉末を使用した。酸化チタンとして、アナターゼ型チタンを使用した。これらを混合攪拌して調製したスラリーは、消石灰粒子および酸化チタン粒子が液体のアクリル酸エステルに分散し、スプレーによる塗工が可能な低粘度であった。
【0055】
波形スレートの表面に各試験体のスラリーを2回塗工して1日室温で乾燥硬化後、20℃の水道水に浸漬する。そして、毎日定刻に水道水から取り出し、pH紙を貼り付けて測定した。そして、1日目から20日目まですべてpH12.0以上であった試験体を○と評価し、1日目から20日目まですべてpH11.0以上の測定日があった試験体を△と評価し、pH11.0未満の測定日があったり問題があった試験体を×と評価した。
【0056】
比較例1および比較例2は評価×であり、初期においてpH12.0以上を発現したが20日目を待つことなく消石灰が完全に溶出してしまった。つまり消石灰を保持できなかった。また、被膜の剥離が発生した。
【0057】
実施例1および実施例2は評価△であるが、比較例1,2よりもしみ出し期間が長く、被膜としての使用が可能である。また、被膜の剥離が発生した。
【0058】
評価○の実施例3〜実施例9は長期にわたり安定してp12.0以上の強アルカリ性を維持し、被膜として適正である。
【0059】
実施例10および実施例11は評価△であるが、pH11.0以上を発現し、被膜として長期の使用が可能である。
【0060】
比較例3および比較例4は評価×であり、消石灰のしみ出しが少なかった。
【0061】
本実施例の長期アルカリ性安定被膜の耐摩耗性試験を行った。液状の非アルカリ増粘型樹脂65重量部、消石灰粉末30重量部、酸化チタン粉末5重量部を混合攪拌してスラリーを調製し、このスラリーを塗布量150g/mで波板スレートの表面に塗工して、乾燥硬化させて長期アルカリ性安定被膜で被覆した。かかる長期アルカリ性安定被膜を金属タワシで100回こすったところ、長期アルカリ性安定被膜は波板スレートの表面に残存していた。本実施例の長期アルカリ性安定被膜は優れた耐摩耗性を有することがわかった。
【0062】
なお実施例1〜11では肥料用消石灰の粉末を用いて混合物スラリーを調製したが、スラリー中の消石灰はこれに限られず工業用消石灰の粉末でもよい。また実施例1〜11ではアナターゼ型酸化チタンを用いて混合物スラリーを調製したが、スラリー中の酸化チタンはこれに限られずルチル型チタンでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
この発明になる長期アルカリ性安定被膜は、畜舎、鳥舎、農場、河川、および排水施設において有利に利用される。
【符号の説明】
【0064】
11、長期アルカリ性安定被膜、12 非アルカリ増粘型樹脂、13 消石灰粒子、14 消石灰の微粒子、15 クラック(しみ出し通路)、16 酸化チタン粒子、17 水分、21 基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面を被覆するアルカリ性の被膜であって、
全体100重量部に対し、非アルカリ増粘型樹脂25〜67重量部と、消石灰30〜72重量部とを含み、
前記消石灰と連通するしみ出し通路を備え、
被膜の表面においてpH11.0以上を発現する長期アルカリ性安定被膜。
【請求項2】
酸化チタン1〜8重量部をさらに含む、請求項1に記載の長期アルカリ性安定被膜。
【請求項3】
前記非アルカリ増粘型樹脂はアクリル樹脂である、請求項1または2に記載の長期アルカリ性安定被膜。
【請求項4】
原料として液状の非アルカリ増粘型樹脂25〜67重量部と、消石灰30〜72重量部とを含み、これら原料を混合攪拌して全体100重量部に調製される混合物スラリーであって、
前記非アルカリ増粘型樹脂は乾燥固化して前記消石灰と連通するしみ出し通路を形成する、混合物スラリー。
【請求項5】
前記原料として酸化チタン1〜8重量部をさらに含む、請求項4に記載の混合物スラリー。
【請求項6】
原料として液状の非アルカリ増粘型樹脂25〜67重量部と、粉体状の消石灰30〜72重量部とを含み、これら原料を混合攪拌して全体100重量部のスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリーを基材の表面に塗工する塗工工程と、
前記基材の表面上で、前記スラリーが硬化して微小なしみ出し通路を形成する養生工程とを備える、長期アルカリ性安定被膜の製造方法。
【請求項7】
前記スラリー調製工程は、前記原料として酸化チタン1〜8重量部をさらに含む、請求項6に記載の長期アルカリ性安定被膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の長期アルカリ性安定被膜を用いて、畜舎内の家畜または鳥舎内に病原性ウイルスが侵入することを防止する方法であって、
前記基材は、畜舎または鳥舎の屋根材、梁材、柱材、雨樋、壁材、または床材である、あるいは前記基材は、畜舎または鳥舎を囲繞する舗装された周辺領域、柵、または構造物である、長期アルカリ性安定被膜の利用方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の長期アルカリ性安定被膜を用いて、河川水または排水施設の排水の酸性を弱める方法であって、
前記基材は、河川堤防、河川護岸、河川沿いの道路の路面、排水路、または排水槽である、長期アルカリ性安定被膜の利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−152102(P2011−152102A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16798(P2010−16798)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【特許番号】特許第4647033号(P4647033)
【特許公報発行日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(509008053)サンライズ産業株式会社 (5)
【出願人】(308015186)株式会社福元技研 (4)
【出願人】(803000089)株式会社 鹿児島TLO (8)
【Fターム(参考)】